説明

レーザロッド冷却保持構造及びその製造方法

【課題】 小型で高出力のレーザ発振装置において、レーザロッドで発生する熱を効率的に放熱可能なレーザロッド冷却保持構造及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 レーザロッド2の周囲に配置され、半導体レーザ素子からの励起光を入射させるための励起光入射窓4と、レーザロッド2を保持し、レーザロッド2との熱結合を得るための充填物3が充填される凹部8とを備える冷却保持スリーブ1と、スリーブ1の凹部8に充填される充填物3とを備える冷却保持構造。常温、大気圧の下で溶融前充填物7を凹部8の内部の空気が大気に放出されるように充填物貯留部9に充填し、充填物貯留部9を含む冷却保持構造全体を真空状態にて溶融前充填物7が溶融する温度に加熱し、溶融前充填物7を加熱したまま、冷却保持構造全体を常圧に戻すことで、レーザロッド2とスリーブ1との隙間に充填物3を確実かつ均一に充填する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体レーザ発振装置用のレーザロッドの冷却保持構造に関し、特に、小型で高出力、かつ耐環境性を要する宇宙機器搭載装置等に使用可能な、半導体レーザ素子を用いたレーザ発振装置のレーザロッドの冷却保持構造及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体レーザ発振装置用のレーザロッドは、レーザロッドの周囲から励起光が入射すると、この励起光を吸収して内部に熱を生じる。レーザロッドは、内部の温度上昇により熱膨張する結果、屈折率が大きく変化して出力が低下したり、熱ストレスによりレーザロッドが破損することさえある。そのため、レーザロッドを冷却する必要があり、従来、種々のレーザロッド冷却保持構造が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1〜3は、いずれもレーザロッドの冷却保持構造に関するものであり、レーザロッドと冷却用保持スリーブとの隙間に、熱伝導性の高い流体又は接着剤等を充填することにより、効率的な放熱を目指している。
【0004】
【特許文献1】特開平8−125250号公報
【特許文献2】特開平7−335954号公報
【特許文献3】特開平6−283783号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、小型で高出力の小径レーザロッドを使用する場合には、レーザロッドの保持及び冷却を目的とするスリーブに設ける励起光の入射窓同士が繋がってしまい、レーザロッドを保持する面積が非常に小さくなる。そのため、上記従来の冷却保持構造を実現することが困難であったり、上記従来の冷却保持構造が適用できたとしても、保持面積の減少に伴って放熱量が低下する。
【0006】
また、熱伝導性の高い接着剤といえども、金属に比べて約3桁熱伝導率が低下する。このため、接着剤の代わりに溶融した金属を流し込むなどの案が考えられる。しかし、レーザロッドと冷却用スリーブとの間には、ほとんど隙間が存在せず、熱伝導が良好な状態で前記隙間に金属を完全に充填することは困難であった。
【0007】
そこで、本発明は、上記従来の技術に鑑みてなされたものであって、半導体固体レーザ発振器のレーザ発振部等の小型・軽量化に伴う放熱効率の低下を防ぐため、レーザロッドと冷却用スリーブとの間の小さな接触面積を活用し、効率的に放熱することが可能なレーザロッド冷却保持構造及び製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、レーザロッド冷却保持構造であって、レーザロッドの周囲に配置され、半導体レーザ素子からの励起光を入射させるための励起光入射窓と、前記レーザロッドを保持するとともに、前記レーザロッドと熱結合を得るための充填物が充填される凹部とを備える冷却保持スリーブと、該冷却保持スリーブの前記凹部に充填される充填物とを備えることを特徴とする。
【0009】
そして、本発明によれば、冷却保持スリーブと、レーザロッドとの間に凹部を介して熱結合を得るための充填物を充填したため、レーザロッドと冷却用スリーブとの間の小さな接触面積を活用し、効率的に放熱することが可能となり、レーザロッドの発熱時の温度分布を一様とし、安定したレーザ光の出力を得ることができる。
【0010】
前記レーザロッド冷却保持構造において、前記冷却保持スリーブに、前記充填物を前記凹部に注入するため、前記凹部に連通する充填物貯留部を設けることができる。また、前記充填物を金属又は接着剤とすることができる。さらに、前記充填物をインジウムとすることができる。融点が低く熱伝導率の良いインジウムを使用することにより、レーザロッドを効率的に冷却保持することができるとともに、この冷却保持構造を容易に実現することができる。
【0011】
また、本発明は、レーザロッドの周囲に配置され、半導体レーザ素子からの励起光を入射させるための励起光入射窓と、前記レーザロッドを保持するとともに、前記レーザロッドとの熱結合を得るための充填物が充填される凹部とを備える冷却保持スリーブと、該冷却保持スリーブの前記凹部に充填される充填物とを備えるレーザロッド冷却保持構造の製造方法において、常温、大気圧の下で、前記充填物を前記凹部の内部の空気が大気に放出されるように、前記凹部に連通する充填物貯留部に充填する工程と、該充填物貯留部を含む該レーザロッド冷却保持構造全体を真空状態にて前記充填物が溶融する温度に加熱する工程と、前記充填物を加熱したまま、前記充填物貯留部を含む前記レーザロッド冷却保持構造全体を常圧に戻す工程とを備えることを特徴とする。
【0012】
この製造方法によれば、レーザロッドと保持冷却スリーブとの隙間に充填物を確実かつ均一に満たすことができるため、レーザロッドを効率的に冷却保持することが可能な冷却保持構造を実現することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、半導体固体レーザ発振器のレーザ発振部等の小型・軽量化に伴う放熱効率の低下を防ぐため、レーザロッドと冷却用スリーブとの間の小さな接触面積を活用し、効率的に放熱することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は、本発明にかかるレーザロッド冷却保持構造の一実施の形態を示し、この冷却保持構造は、熱伝導率の高い材料で作られた冷却保持スリーブ(以下、「スリーブ」と略称する)1と、このスリーブ1に挿入されたレーザロッド2と、それらの隙間を埋める熱伝導率が高く融点の低い金属である充填物3とで構成される。
【0015】
スリーブ1は、励起光入射窓4と、充填物注入口5と、取付フランジ10とを備える。また、スリーブ1には、製造時にレーザロッド2を軸方向に差し込むことのできる孔11が穿設され、この孔11よりレーザ光が出射する。また、この孔11は、レーザロッド2を保持する部分において、レーザロッド2との隙間が最小限となる穴径を有する。
【0016】
励起光入射窓4は、図1(d)に示すように、レーザロッド2の円周方向の周囲に複数配置され、励起光が入射できるよう、図1(b)に示すように、レーザロッド2が一部露出している。これにより、スリーブ1がレーザロッド2と接することができるのは、励起光入射窓4以外の領域となる。この残された領域でレーザロッド2の発熱をスリーブ1に熱伝導によって放熱できるようにする。
【0017】
先に述べたように、スリーブ1とレーザロッド2との間にはわずかな隙間が存在し、熱的な結合を有していない。そこで、この領域で最も効率的な熱結合が得られるように、隙間を充填物3で埋める。充填物3を確実に充填できるように、スリーブ1には、充填物注入口5と、凹部8と、充填物貯留部9とを設ける。また、充填物貯留部9は、後述する製造方法において、確実に充填物3で充満させることができるように凹部8よりも大きな容積を有するものとする。
【0018】
レーザロッド2とスリーブ1との隙間を熱伝導率の高い充填物で完全に満たすことにより、レーザロッド2からの熱は、スリーブ1に伝導し、さらに取付フランジ10に伝導し、取付フランジ10から効率よく放熱することができる。尚、融点が低く熱伝導率の良い充填物3として、インジウムを使用することが好適である。
【0019】
次に、上記構成を有するレーザロッド冷却保持構造の製造方法について説明する。
【0020】
スリーブ1にレーザロッド2を固定した後、溶融前充填物7を溶かして充填物注入口5より流し込む。しかし、充填物注入口5より溶融前充填物7を溶かして流し込むだけでは、表面張力の影響で、図2に示すように、必要とする部位(凹部8)に充填物3を流し込むことができない。そこで、真空状態で溶融前充填物7を溶融させた後、常圧に戻して外気圧を利用して凹部8に充填物3を注入する。その手順について、図3を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
(1)凹部8に充填物注入口5以外から空気の出入りがないように、接着剤6等で塞ぐ(図4(a)参照)
(2)大気圧・常温下にて充填物注入口5に溶融前充填物7を詰め込む。この時、凹部8の空気が抜けるように、溶融前充填物7を細く糸状又は粒子状にして詰め込む。
(3)内部を真空にすることのできるオーブンに入れ、常温にて真空状態にする。
(4)オーブン内を真空にした後、溶融前充填物7の融点以上の温度にする。溶融した溶融前充填物7は、充填物貯留部9に貯まる(図4(b)参照)。
(5)温度を上げたまま、オーブン内を常圧に戻す。これにより、溶融した溶融前充填物7は充填物注入口5及び充填物貯留部9を介して加えられる外部圧力により、凹部8に流れ込む(図4(c)参照)。
【0022】
尚、上記実施の形態において、充填物3を、インジウム等の金属に代えて、熱伝導率が高い接着剤等で構成することができる。接着剤を充填することは従来技術に挙げられているが、上記の製法を利用することで、確実に凹部3に接着剤を充填することが可能となる。また、充填物貯留部9は、直接スリーブ1に設けずに他の部品で構成し、製造後に取り除くようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明にかかるレーザロッド冷却保持構造の一実施の形態を示す図であって、(a)は斜視図、(b)は縦断面図、(c)は横断面図、(d)は(b)のA−A線断面図である。
【図2】本発明にかかるレーザロッド冷却保持構造の製造方法によらない場合の充填物貯留部近傍を示す断面図である。
【図3】本発明にかかるレーザロッド冷却保持構造の製造方法を説明するための断面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 スリーブ
2 レーザロッド
3 充填物
4 励起光入射窓
5 充填物注入口
6 封入用接着剤
7 溶融前充填物
8 凹部
9 充填物貯留部
10 取付フランジ
11 孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザロッドの周囲に配置され、半導体レーザ素子からの励起光を入射させるための励起光入射窓と、前記レーザロッドを保持するとともに、前記レーザロッドと熱結合を得るための充填物が充填される凹部とを備える冷却保持スリーブと、
該冷却保持スリーブの前記凹部に充填される充填物とを備えることを特徴とするレーザロッド冷却保持構造。
【請求項2】
前記冷却保持スリーブは、前記充填物を前記凹部に注入するため、前記凹部に連通する充填物貯留部を備えることを特徴とする請求項1に記載のレーザロッド冷却保持構造。
【請求項3】
前記充填物は、金属又は接着剤であることを特徴とする請求項1又は2に記載のレーザロッド冷却保持構造。
【請求項4】
前記充填物は、インジウムであることを特徴とする請求項3に記載のレーザロッド冷却保持構造。
【請求項5】
レーザロッドの周囲に配置され、半導体レーザ素子からの励起光を入射させるための励起光入射窓と、前記レーザロッドを保持するとともに、前記レーザロッドとの熱結合を得るための充填物が充填される凹部とを備える冷却保持スリーブと、該冷却保持スリーブの前記凹部に充填される充填物とを備えるレーザロッド冷却保持構造の製造方法において、
常温、大気圧の下で、前記充填物を前記凹部の内部の空気が大気に放出されるように、前記凹部に連通する充填物貯留部に充填する工程と、
該充填物貯留部を含む該レーザロッド冷却保持構造全体を真空状態にて前記充填物が溶融する温度に加熱する工程と、
前記充填物を加熱したまま、前記充填物貯留部を含む前記レーザロッド冷却保持構造全体を常圧に戻す工程とを備えることを特徴とするレーザロッド冷却保持構造の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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