説明

レーザーマーキング可能な繊維又は繊維製品

本発明は、レーザー光線を照射することにより変色する充填剤又はレーザー光線を照射することにより全体が変色したように見える充填剤混合物を人造繊維に含有してなる繊維又は繊維製品を提供する。レーザー光線を照射することにより変色する充填剤は、好ましくは硫酸バリウム又は三酸化二アンチモンである。上記充填剤の形状は、通常粒子であり、その平均粒径は15μm程度以下である。本発明の繊維又は繊維製品にレーザー光線を照射すると、レーザー光線を照射した部分の繊維の色が変色するため、繊維又は繊維製品の一本の紡績糸又はフィラメント糸に微細な標識をマーキングすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザーマーキング可能な繊維又は繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維又は繊維製品に文字、記号等の標識、図柄等をマーキング方法としては、例えば、染料、顔料等を用いて繊維又は繊維製品を捺染する方法、インクジェットプリンター等を用いて繊維又は繊維製品に印刷する方法等が一般的である(例えば、特許文献1、特許文献2等)。
【0003】
しかしながら、これらの方法では、繊維又は繊維製品に微細な文字、記号等の標識をマーキングすることができない。従って、一本の糸に上記標識をマーキングすることが不可能である。
【特許文献1】特開平2−41480号公報
【特許文献2】特開平7−336466号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、一本の糸に微細な標識をマーキングすることのできる繊維又は繊維製品を提供することである。本明細書において、一本の糸には、紡績糸、モノフィラメント糸、マルチフィラメント糸又はこれらの複合糸が含まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、一本の糸に微細な文字、記号等の標識をマーキングすることのできる繊維又は繊維製品を開発すべく鋭意研究を重ねて来た。その結果、レーザー光線を照射することにより変色する充填剤又はレーザー光線を照射することにより全体が変色したように見える充填剤混合物を人造繊維に練り込むことにより上記目的を達成できる繊維又は繊維製品が得られることを見い出した。本発明は、斯かる知見に基づき完成されたものである。
【0006】
本発明は、下記に示す繊維、繊維製品及び方法を提供する。
1.レーザー光線を照射することにより変色する充填剤又はレーザー光線を照射することにより全体が変色したように見える充填剤混合物を人造繊維に含有させてなる繊維又は繊維製品。
2.レーザー光線を照射することにより変色する充填剤が、雲母、硫酸バリウム、硫化亜鉛、三酸化二アンチモン、燐酸銅及びトコフェロールからなる群より選ばれた少なくとも1種である上記1に記載の繊維又は繊維製品。
3.レーザー光線を照射することにより全体が変色したように見える充填剤混合物が、レーザー光線により変色する充填剤と白色顔料との混合物又は白色充填剤と黒色顔料との混合物である上記1に記載の繊維又は繊維製品。
4.白色顔料が酸化チタンである上記3に記載の繊維又は繊維製品。
5.黒色顔料がカーボンブラックである上記3に記載の繊維又は繊維製品。
6.白色充填剤が、硫酸バリウムである上記3に記載の繊維又は繊維製品。
7.人造繊維及び充填剤の合計重量に対して、充填剤が0.01〜10重量%程度含有されている上記1に記載の繊維又は繊維製品。
8.充填剤が粒子形状であり、その平均粒径が15μm程度以下である上記1に記載の繊維又は繊維製品。
9.人造繊維がポリエステルである上記1に記載の繊維又は繊維製品。
10.人造繊維原料の溶融液又は溶液に、レーザー光線を照射することにより変色する充填剤又はレーザー光線を照射することにより全体が変色したように見える充填剤混合物を混合し、分散する工程、及び
分散液を紡糸する工程
を備えている、上記充填剤を含む人造繊維を製造する方法。
11.上記1〜9のいずれかに記載の繊維又は繊維製品にレーザー光線を照射する工程を含む、
繊維又は繊維製品に標識又は図柄をマーキングする方法。
12.上記1〜9のいずれかに記載の繊維又は繊維製品にマーキングされた標識又は図柄の存在をチェックする工程を備えている、
繊維又は繊維製品が、マーキングされた繊維又は繊維製品であるのか、それともマーキングされていない繊維又は繊維製品であるのかを判別する方法。
【0007】
本発明の繊維又は繊維製品
本発明の繊維又は繊維製品は、人造繊維及びそれに練り込まれている充填剤から構成されている。ここで充填剤は、レーザー光線を照射することにより自らが変色する充填剤又はレーザー光線を照射することにより全体が変色したように見える充填剤混合物である。
【0008】
本発明において、人造繊維としては、レーザー光線を照射することにより変色する充填剤又はレーザー光線を照射することにより全体が変色したように見える充填剤混合物を練り込むことのできる人造繊維である限り、公知の人造繊維を広く使用できる。このような人造繊維としては、例えば、合成繊維、半合成繊維、再生繊維、無機繊維等が挙げられる。
【0009】
合成繊維としては、具体的には、ポリエステル、脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ビニロン、アクリル、ポリビニルアルコール、ポリウレタン等が挙げられる。
【0010】
半合成繊維としては、具体的には、アセテート、トリアセテート、プロミックス等を例示できる。
【0011】
再生繊維としては、具体的には、レーヨン、キュプラ等を例示できる。
【0012】
無機繊維としては、具体的には、炭素繊維、セラミック繊維等を例示できる。
【0013】
上記人造繊維の中でも、合成繊維が好ましく、ポリエステルがより好ましい。ポリエステルの例としては、より具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート等が挙げられる。
【0014】
人造繊維には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン等のプラスチックフィルムをスリットして得られるスリットヤーンが含まれる。スリットヤーンの幅は、通常0.1〜0.8mm程度、好ましくは0.15〜0.37mm程度であり、スリットヤーンの厚さは、通常20μm程度以下、好ましくは2〜12μm程度である。
【0015】
本発明の人造繊維は、これら繊維の単独、これら繊維の混紡、交撚及び合撚のいずれであってもよい。
【0016】
人造繊維は、芯鞘構造を有していてもよい。芯鞘構造の人造繊維としては、例えば、芯にスリットヤーンを用い、その周りを他の繊維(紡績糸又はフィラメント糸)で巻き付けたもの、芯に紡績糸又はフィラメント糸を用い、その周りをスリットヤーンで巻き付けたもの、内部が芯鞘構造であるモノフィラメント糸等を挙げることができる。
【0017】
人造繊維の太さは、均一であっても、不均一であってもよい。また、人造繊維の断面は、例えば、円形、楕円形、Y形、十字形、W形、L形、T形、中空形、三角形、扁平形、星形、繭形、八葉形、ドックボーン形(又はダンベル)等のいずれであってもよい。
【0018】
本発明の繊維には、これら繊維の他、これら繊維の一次加工品、例えば糸、ニット、織物、編物、不織布等が包含される。
【0019】
また、本発明の人造繊維は、天然繊維、例えばセルロース繊維、獣毛繊維、絹等が混紡されていてもよい。
【0020】
本発明において、繊維製品とは、上記繊維を更に加工して得られる製品をいう。このような製品には、例えば、外衣、中衣、内衣等の衣料、ベッド及びベッドルームアクセサリー、インテリアアクセサリー等が含まれる。本発明の繊維製品としては、具体的にはコート、ジャケット、ズボン、スカート、ワイシャツ、ニットシャツ、ブラウス、セーター、カーディガン、ナイトウエア、肌着、サポーター、靴下、タイツ、帽子、スカーフ、マフラー、襟巻き、手袋、服の裏地、服の芯地、服の中綿、作業着、白衣、ユニフォーム、囚人服、学童用制服等の衣料;布団地、布団綿、枕カバー、シーツ等のベッド及びベッドルームアクセサリー;カーテン、マット、カーペット、クッション、ぬいぐるみ等のインテリアアクセサリー;タオル、ハンカチ等のファンシーグッズ;ミシン糸、刺繍糸、組み紐、ストラップ、モール、釣り糸、疑似餌等の糸製品;商品に付けるタグ等の製品;紙製品又は不織布;カバン;電子製品に使用する資材;建築用資材等を例示できる。
【0021】
紙製品の具体例としては、例えば、株式、国債、地方債、商品券、手形、小切手、郵便切手、収入印紙、証紙、入場券等の証券;クーポン券、宝くじ等の証票;紙幣;各種の証明用紙等を挙げることができる。
【0022】
レーザー光線を照射することにより変色する充填剤としては、例えば、雲母、硫酸バリウム(BaSO4)、硫化亜鉛(ZnS)、三酸化二アンチモン(Sb23)、燐酸銅(Cu3(PO42)、トコフェロール、リトポン等が挙げられる。これらの充填剤は、1種単独で又は2種以上混合して使用される。これらの中では、硫酸バリウム及び三酸化二アンチモンが好ましい。
【0023】
トコフェロール(ビタミンE)には、α−トコフェロール及びβ−トコフェロールが包含される。
【0024】
雲母としては、雲母を含むグリマー(glimmer)顔料を好ましく使用することができる。このようなグリマー顔料は、例えば、Merck 社から Iriodin LS の商品名で販売されている。
【0025】
充填剤は粒子の形態であるのが好ましい。その平均粒径は、通常15μm程度以下、好ましくは1μm程度以下である。ここで、粒径は、例えば、レーザー回折法により測定される。
【0026】
レーザー光線を照射することにより全体が変色したように見える充填剤混合物の例は、レーザー光線を照射することにより変色する充填剤と白色顔料との混合物、白色充填剤と黒色顔料との混合物等である。
【0027】
これらの充填剤のうち、白色から黒色に変色する充填剤として、雲母、硫化亜鉛、三酸化二アンチモン及びトコフェロールが好ましい。
【0028】
これらの充填剤は、繊維中で白色ベースとして働く白色顔料とのコンビネーションの形態で使用することができる。これら充填剤と白色顔料との混合物は、全体が白色から黒色に変色する。
【0029】
白色顔料としては、例えば、炭酸カルシウム、二酸化チタン(チタン白)、酸化亜鉛等を挙げることができる。好ましい白色顔料は、二酸化チタンである。白色顔料は、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0030】
白色顔料の平均粒径は、通常10nm〜3μm程度、好ましくは10nm〜1μm程度の広い範囲から選択できる。
【0031】
白色顔料の使用量は、レーザー光線を照射することにより変色する充填剤に対して、通常5〜90重量%程度、好ましくは10〜70重量%程度である。
【0032】
レーザー光線を照射することにより変色する充填剤が白色充填剤である場合、該白色充填剤は、繊維中で黒色ベースとして働く黒色顔料とのコンビネーションの形態で使用することができる。白色充填剤と黒色顔料との混合物は、黒色顔料の相分離、バブル形成等により、全体が黒色から白色に変色する。
【0033】
白色充填剤には、雲母、硫酸バリウム等が含まれる。好ましい白色充填剤は、硫酸バリウムである。白色充填剤は、1種単独で又は2種以上混合して使用される。
【0034】
黒色顔料としては、例えば、カーボンブラック(アセチレンブラック、ランプブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラック等)、グラファイト、チタンブラック、黒色酸化鉄等が挙げられる。これらのうち、分散性、コスト等の面からカーボンブラックが好ましい。黒色顔料は、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。なお、カーボンブラックは、原料の相違により、アセチレンブラック、オイルブラック、ガスブラック等に分類されるが、いずれのカーボンブラックも使用できる。
【0035】
黒色顔料の平均粒径は、通常10nm〜3μm程度、好ましくは10nm〜1μm程度の広い範囲から選択できる。黒色顔料がカーボンブラックの場合には、平均粒径が10〜30nm程度であるのが好ましい。
【0036】
黒色顔料の使用量は、白色充填剤に対して、通常0.1〜80重量%程度、好ましくは10〜50重量%程度である。
【0037】
本発明の繊維又は繊維製品に含まれている充填剤(レーザー光線を照射することにより変色する充填剤又はレーザー光線を照射することにより全体が変色したように見える充填剤混合物)の量は、人造繊維及び充填剤の合計重量に対して、通常0.01〜10重量%程度、好ましくは0.3〜3重量%程度、より好ましくは0.6〜1.2重量%程度である。
【0038】
本発明の繊維又は繊維製品には、更に必要に応じて、公知の抗菌剤、紫外線吸収剤、紫外線反射剤、白色及び黒色以外の着色顔料等の成分が含有されていてもよい。
【0039】
本発明の繊維又は繊維製品の製造方法
レーザー光線を照射することにより変色する充填剤又はレーザー光線を照射することにより全体が変色したように見える充填剤混合物を含有する本発明の繊維は、繊維原料から繊維を紡糸する際に、繊維に充填剤を練り込むことにより製造される。芯鞘構造の人造繊維である場合、繊維の芯及び鞘の一方又は双方に充填剤を練り込むことができる。
【0040】
本発明の繊維は、例えば、人造繊維原料の溶融液又は溶液に、レーザー光線を照射することにより変色する充填剤又はレーザー光線を照射することにより全体が変色したように見える充填剤混合物を混合及び分散し、次いで得られる分散液を紡糸することにより製造される。その際、充填剤は、好ましくはマスターバッチの形で繊維原料に混合し、分散される。
【0041】
紡糸方法としては、例えば、溶融紡糸法、乾式紡糸法、湿式紡糸法等の公知の紡糸法を広く適用できる。これらの紡糸法のいずれを採用するかは、使用される繊維原料の種類により異なる。
【0042】
繊維原料が熱的及び化学的に安定な方法で溶融可能な場合、溶融紡糸法を採用するのが好ましい。この場合、繊維原料の溶融液に所定量の充填剤を混合及び分散しておけばよい。充填剤を混合し、分散した繊維原料の溶融液を細孔ノズルより空気中に吐出し、吐出された溶融糸条を細化させながら空気で冷却、固化し、その後一定の速度で引き取ることにより、本発明繊維を製造できる。この溶融紡糸法に適した繊維は、例えば、ポリエステル、脂肪族ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン等である。
【0043】
繊維原料が高温で安定であり且つ揮発性溶媒に溶解可能な場合、乾式紡糸法を採用するのが好ましい。この場合、繊維原料の揮発性溶媒溶液に所定量の充填剤を混合し、分散しておけばよい。充填剤を混合し、分散した繊維原料の溶液を細孔ノズルから加熱された気体中に吐出し、揮発性溶媒を蒸発させながら固化させることにより、本発明繊維を製造できる。この乾式紡糸法に適した繊維は、例えば、アクリル、アセテート等である。
【0044】
繊維原料が揮発し難い溶媒又は高温で不安定な溶媒にのみ溶解可能な場合、湿式紡糸法を採用するのが好ましい。この場合、繊維原料を溶解した溶液に所定量の充填剤を混合し、分散しておけばよい。充填剤を混合し、分散した繊維原料の溶液を細孔ノズルから非溶媒を含む凝固液中に吐出し、脱溶媒しながら固化させることにより、本発明繊維を製造できる。この湿式紡糸法に適した繊維は、例えば、ポリビニルアルコール、レーヨン等である。
【0045】
本発明繊維がスリットヤーンの形態である場合、レーザー光線を照射することにより変色する充填剤又はレーザー光線を照射することにより全体が変色したように見える充填剤混合物を練り込んだプラスチックフィルム(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン等)、レーザー光線を照射することにより変色する充填剤又はレーザー光線を照射することにより全体が変色したように見える充填剤混合物を含む組成物をコーティングしたプラスチックフィルム(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン等)、又はこれらのフィルムに他のフィルム(例えば、ポリエチレンテレフタレート等)を積層した多層フィルムを、マイクロスリッター、テープスリッター等の切断機を用いてスリットすることにより製造される。
【0046】
本発明の繊維製品は、上記の方法により製造された本発明繊維を用い、縫製等の公知の方法により製造することができる。
【0047】
本発明の繊維製品が紙製品の場合、上記方法により製造した繊維を、細かいメッシュのスクリーンを用いて漉き込むことにより製造することができる。
【0048】
本発明の繊維又は繊維製品は、繊維原料に適した染料又は顔料を用いて染色されていてもよい。
【0049】
本発明の繊維又は繊維製品の使用方法
本発明の繊維又は繊維製品に含浸又は付着している充填剤がレーザー光線を照射することによりそれ自身が変色する充填剤の場合、レーザー光線の照射により充填剤が変色するので、レーザー光線を照射した部分だけ、繊維又は繊維製品を変色させることができる。
【0050】
本発明の繊維又は繊維製品に含浸又は付着している充填剤が白色充填剤と黒色顔料との混合物である場合、黒色顔料が相分離等の現象を起こして、白色充填剤が繊維又は繊維製品表面に顕在化する。その結果、レーザー光線を照射した部分だけ、繊維又は繊維製品を黒色から白色に変色させることができる。
【0051】
本発明で使用されるレーザー光線としては、例えば、YAGレーザー、エキシマレーザー、CO2レーザー等を挙げることができる。これらの中でも、YAGレーザーが好ましく、Nd−YAGレーザーがより好ましい。
【0052】
レーザー波長は、充填剤が変色する波長であれば、どのような波長であってもよい。Nd−YAGレーザーの場合には、波長が約354nm、約532nm又は約1064nmであるのが好ましい。
【0053】
本発明の繊維及び繊維製品は、例えば、スキャン式レーザーマーキング装置を用いることにより、照射される。レーザー光線の照射は、コンピュータ制御により行うことができるので、繊維及び繊維製品の所定の位置に、微細な所望する識別(例えば、ロゴマーク、コード番号、製造番号等)を付与することができる。
【0054】
標識又は図柄がマーキングされたスリットヤーンは、偽造防止のために上記紙製品のスレッドとして使用される。ここでスレッドには、紙製品に含ませるためのフィルム又は箔のリボン、ワイヤー、その他細長いエレメントが含まれる。
【0055】
従って、繊維又は繊維製品にマーキングされた標識又は図柄の存在をチェックすることにより、該繊維又は繊維製品がマーキングされた繊維又は繊維製品であるのかマーキングされていない繊維又は繊維製品であるのかを判別することができる。
【0056】
より具体的には、本発明の繊維又は繊維製品にレーザー光線を照射して、標識又は図柄をマーキングした繊維又は繊維製品を製造する。市場に流通している繊維又は繊維製品についてマーキングされた標識又は図柄の存在をチェック(検査)し、該繊維又は繊維製品が正当な商品であるか偽造商品であるかを判別できる。
【0057】
上記検査は、肉眼、ルーペ、顕微鏡等により行うことができる。
【発明の効果】
【0058】
本発明は、一本の糸に微細な標識をマーキングすることのできる繊維又は繊維製品を提供する。
【0059】
本発明は、また、一本の糸に微細な標識をマーキングすることのできる繊維及び繊維製品の製造方法を提供する。
【0060】
本発明の繊維及び繊維製品にレーザー光線を照射すると、レーザー光線が照射された部分が変色するため、その結果繊維及び繊維製品に文字、記号等の標識、図柄等をマーキングすることができる。レーザー光線照射部位だけ本発明繊維が変色するので、一本の糸に文字、記号等の標識をマーキングすることが可能になる。
【0061】
本発明の繊維を部分的又は全体に使用したブランド商品に、肉眼では識別不可能であるがルーペ又は顕微鏡で拡大すると識別可能なブランド標識やブランド図柄をマーキングしておくことにより、ブランド商品と製造、販売されている商品が正当な商品であるか偽造商品であるかを容易に判別することができるようになり、その結果、ブランド商品の偽造を有効に防止することができる。
【0062】
本発明の繊維製品は、該繊維製品の販売時に、店頭ですばやく、購買者の名前、好みの図柄、記号等をマーキングすることができる利点を有している。
【0063】
本発明の繊維又は繊維製品は、刺繍の代替え等、様々な用途への応用が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0064】
以下に実施例を掲げて、本発明をより一層明らかにする。
【0065】
実施例1
硫酸バリウム(平均粒径:1μm)を10重量%及びカーボンブラックを10重量%含むポリエステルマスターバッチ(商品名:CESAf LASER NB94120503、クラリアント インターナショナル社製)を、295℃に加熱することにより調製した溶融ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)に対して5重量%の量で添加し、硫酸バリウム及びカーボンブラックをポリエステル中に分散させて、ポリエステルの溶融液を調製した。
【0066】
次に、この溶融液をノズルより空気中に吐出し、吐出された溶融糸条を115℃で3倍に延伸し、硫酸バリウム及びカーボンブラックが混入された本発明のポリエステル繊維(モノフィラメント糸、直径100μm)を製造した。
【0067】
実施例2
レーザー光線を照射すると白色から黒色に変色する三酸化二アンチモン(平均粒径:1μm)を20重量%含むポリエステルマスターバッチ(商品名:CESAf LASER NB03120509、クラリアント インターナショナル社製)を、295℃に加熱することにより調製した溶融ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)に対して5重量%の量で添加し、三酸化二アンチモンをポリエステル中に分散させて、ポリエステルの溶融液を調製した。
【0068】
次に、この溶融液をノズルより空気中に吐出し、吐出された溶融糸条を115℃で3倍に延伸し、三酸化二アンチモンが混入された本発明のポリエステル繊維(モノフィラメント糸、直径100μm)を製造した。
【0069】
実施例3
厚さ6μmの透明な二軸延伸ポリアミドフィルムを0.2mm幅にマイクロスリットして、スリットヤーンを得た。
【0070】
上記実施例1で得られた硫酸バリウム含有ポリエステル繊維(フィラメント糸)を芯に用い、その周囲を上記スリットヤーンで巻き付けて、芯鞘構造の本発明繊維を製造した。
【0071】
実施例4
厚さ6μmの透明な二軸延伸ポリアミドフィルムを0.2mm幅にマイクロスリットして、スリットヤーンを得た。
【0072】
上記実施例2で得られた三酸化二アンチモン含有ポリエステル繊維(フィラメント糸)を芯に用い、その周囲を上記スリットヤーンで巻き付けて、芯鞘構造の本発明繊維を製造した。
【0073】
実施例5
実施例1で得られたモノフィラメント糸の一部にNd−YAGレーザー光線(波長532nm)を照射した。フィラメント糸のレーザー光線を照射した部分は、カーボンブラックが相分離を起こし、硫酸バリウムがフィラメント糸の表面に顕在化した。その結果、レーザー光線照射した部分が黒色から白色に変色し、レーザー光線未照射部分のフィラメント糸の色相との違いが肉眼ではっきりと認識できた。
【0074】
実施例6
実施例2で得られたモノフィラメント糸の一部にNd−YAGレーザー光線(波長532nm)を照射した。フィラメント糸のレーザー光線照射した部分は、三酸化二アンチモンが白色から黒色に変色し、レーザー光線未照射部分のフィラメント糸の色相との違いが肉眼ではっきりと認識できた。
【0075】
実施例7
スキャン式レーザーマーキング装置(TAMPOPRINT AG 製、モデル番号:WS+SK−86)を用い、実施例1で得られたモノフィラメント糸にNd−YAGレーザー光線(波長1064nm)を照射して、アルファベットのマーク(文字の大きさ:80μm×80μm)をマーキングした。
【0076】
200倍の光学顕微鏡を用いてモノフィラメント糸を観察した。アルファベットのマークがはっきりと認識された。
【0077】
実施例8
スキャン式レーザーマーキング装置(TAMPOPRINT AG 製、モデル番号:WS+SK−86)を用い、実施例2で得られたモノフィラメント糸にNd−YAGレーザー光線(波長1064nm)を照射して、アルファベットのマーク(文字の大きさ:80μm×80μm)をマーキングした。
【0078】
200倍の光学顕微鏡を用いてモノフィラメント糸を観察した。アルファベットのマークがはっきりと認識された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光線を照射することにより変色する充填剤又は全体が変色したように見える充填剤混合物を人造繊維に含有させてなる繊維又は繊維製品。
【請求項2】
レーザー光線を照射することにより変色する充填剤が、雲母、硫酸バリウム、硫化亜鉛、三酸化二アンチモン、燐酸銅及びトコフェロールからなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項1に記載の繊維又は繊維製品。
【請求項3】
レーザー光線を照射することにより全体が変色したように見える充填剤混合物が、レーザー光線を照射することにより変色する充填剤と白色顔料との混合物又は白色充填剤と黒色顔料との混合物である請求項1に記載の繊維又は繊維製品。
【請求項4】
白色顔料が酸化チタンである請求項3に記載の繊維又は繊維製品。
【請求項5】
黒色顔料がカーボンブラックである請求項3に記載の繊維又は繊維製品。
【請求項6】
白色充填剤が、硫酸バリウムである請求項3に記載の繊維又は繊維製品。
【請求項7】
人造繊維及び充填剤の合計重量に対して、充填剤が0.01〜10重量%程度含有されている請求項1に記載の繊維又は繊維製品。
【請求項8】
充填剤が粒子形状であり、その平均粒径が15μm程度以下である請求項1に記載の繊維又は繊維製品。
【請求項9】
人造繊維がポリエステルである請求項1に記載の繊維又は繊維製品。
【請求項10】
人造繊維原料の溶融液又は溶液に、レーザー光線を照射することにより変色する充填剤又はレーザー光線を照射することにより全体が変色したように見える充填剤混合物を混合し、分散する工程、及び
分散液を紡糸する工程
を備えている、上記充填剤を含む人造繊維を製造する方法。
【請求項11】
請求項1〜請求項9のいずれかに記載の繊維又は繊維製品にレーザー光線を照射する工程を含む、
繊維又は繊維製品に標識又は図柄をマーキングする方法。
【請求項12】
請求項1〜請求項9のいずれかに記載の繊維又は繊維製品にマーキングされた標識又は図柄の存在をチェックする工程を備えている、
繊維又は繊維製品が、マーキングされた繊維又は繊維製品であるのか、それともマーキングされていない繊維又は繊維製品であるのかを判別する方法。

【公表番号】特表2006−526086(P2006−526086A)
【公表日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−519162(P2006−519162)
【出願日】平成16年5月14日(2004.5.14)
【国際出願番号】PCT/JP2004/006864
【国際公開番号】WO2004/101870
【国際公開日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(000238234)シキボウ株式会社 (33)
【出願人】(597164194)クラリアント インターナショナル リミテッド (5)
【Fターム(参考)】