説明

レーザーマーキング用顔料

本発明は、調製物の形態における被還元性金属化合物の形態をした固有にマーキング可能なレーザー顔料と、無機系における、ならびに有機ポリマー、特にプラスチック、表面被覆剤、自動車用塗料、粉体塗料、印刷インク、製紙用塗布剤および製紙紙料におけるその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被還元性(reducible)金属化合物の調製物の形態をした固有にマーキング可能なレーザー顔料(intrinsically markable laser pigment)、その調製方法、ならびに例えば水ガラスまたは水ガラスに基づく被覆剤(coatings)などの無機系における、および有機ポリマー、特にプラスチック、表面被覆剤(surface coatings)、自動車用塗料、粉体塗料(powder coatings)、印刷インク、製紙用塗布剤(paper coatings)および製紙紙料(papermaking stocks)におけるその使用に関する。
【0002】
レーザー放射線(laser radiation)による市販製品のラベル付けは、現在、実質的に産業の全部門において標準的な技術となっている。したがって、例えば、生産データ、バッチ番号、使用期限、バーコード、企業ロゴ、通し番号などを、プラスチックまたはプラスチックフィルムに頻繁に施さなければならない。
【0003】
ラベル付けに必要なコントラストは、好ましくは、以下の方法により生じる:
1.異なる色の層の除去
これが、限定された程度にしか使用することができない非常に複雑な方法であることは、不利である。
【0004】
2.有機マトリックスの炭化
これは、現在、最も頻繁に用いられている方法である。ここで炭化は、有機マトリックス自体によるレーザー放射線の吸収または添加された吸収剤による吸収のいずれかによって実施される。両方の場合において、ポリマー物質の炭化は、周囲のマトリックスを燃焼する短時間の熱ショックにより起こる。ここで、燃焼の際適切な程度に炭素を形成するマトリックスの能力は、マーキングの結果にとって極めて重要である。したがって、用いられるポリマーまたはマトリックス配合物は、マーキングの結果に対して相当な影響を有する。この依存性は、一般に、特定の用途に適切なマーキングの結果を決定するために、結果的に大々的な予備実験をもたらす。組成が変化する場合に、および多くの場合、原材料の品質が変わる場合にすら、適切な刻印(inscription)パラメーターを常に再決定しなければならない。
【0005】
3.添加顔料の色変化
上記の依存性を回避するために、レーザー衝撃の際それ自体が色変化を行う(固有にマーキングする)顔料または添加剤を開発することが、既にしばらくの間試みられてきた。そのような添加剤は、周囲のマトリックスとは実質的に無関係にマークを生じる。したがって、これらは全てのプラスチックに用いることができる。被覆剤、塗料および印刷物(prints)などの薄層においても、層を有意に損傷することなくマークが可能である。しかし、この特性を有する製品は、今までのところ重金属化合物に基づいて構成されている、または工業的実施に入ることなく単に文献に記載されている、のいずれかである。
【0006】
したがって本発明の目的は、レーザー光線の作用下で非常に良好なマーキング結果、特に高いコントラストおよび鮮明なマークを与え、同時に重金属を含まず、工業規模で調製することができる、レーザーマーキング用の固有マーキング添加剤を見出すことである。
【0007】
同じく本発明の目的は、レーザー固有マーキング添加剤の調製方法を提供することである。
【0008】
本発明の更なる目的は、この種類のレーザー添加剤の使用を示すことにある。
【0009】
驚くべきことに、レーザー放射線により低酸化状態の着色金属化合物または金属に還元される微細(finely divided)金属化合物は、レーザーマーキング用の固有マーキング添加剤として極めて適していることが見出された。可能な限り中間色(neutral in colour)である金属の酸化物が特に適しており、この酸化物は、汎用的有用性のために非毒性であるべきであり、また還元に際して毒性反応生成物を形成すべきでない。
【0010】
本発明は、0.01〜200μmの粒径を有する顔料が1種または複数の被還元性金属化合物と還元剤とを含む調製物の形態であるという事実によって特徴付けられる、固有にレーザーマーキング可能な顔料に関する。
【0011】
同じく本発明は、本発明による固有にレーザーマーキング可能な顔料の調製方法に関し、ここで、1種または複数の被還元性金属化合物は、還元剤により部分的にもしくは完全に被覆されるか、または還元剤は、1種または複数の被還元性金属化合物により部分的もしくは完全に被覆される。
【0012】
本発明は、また、有機ポリマー、特にプラスチック、プラスチックフィルム、表面被覆剤、自動車用塗料、粉体塗料、印刷インク、製紙用塗布剤および製紙紙料における、ならびに例えば水ガラスまたは水ガラスに基づく被覆剤などの無機系における、本発明によるレーザー顔料の使用に関する。
【0013】
本発明は、更に、本発明によるレーザー顔料を含む無機系および有機ポリマー系にも関する。
【0014】
レーザー光線の作用下で、本発明によるレーザー顔料でドープされた(doped)ポリマーは、淡色または着色背景において高いコントラストおよび顕著なエッジのシャープさを有する暗色マークを示す。
【0015】
金属酸化物または金属酸化物混合物は、被還元性金属化合物として、還元の際に形成される副産物に関して有利であることが明らかとなった。
【0016】
ここで金属酸化物は、ドープされた形態でもよく、または非ドープ形態でもよい。
【0017】
着色金属亜酸化物(suboxides)または金属に非常に良好に還元できる重金属非含有金属酸化物は、例えば二酸化チタンであり、これは同様にドープまたは非ドープ形態でもよい。
【0018】
二酸化チタンは、高温での水素の作用下、式TiO(ここでxは2未満1超である)の安定な帯青黒色の亜酸化物に還元できることが知られている。
【0019】
しかし、レーザー顔料またはレーザー添加剤を、ポリマーマトリックス内、例えばプラスチック内で意図するように使用する場合、上記の水素還元の場合のような移動性反応パートナー(mobile reaction partner)は、これに一般に利用可能ではない。代わりに、反応は固体の間である。したがって、反応パートナーは、レーザー衝撃の短い作用時間において、高コントラストマーキングに必要な十分量の反応生成物の形成が可能なためには、互いに密に接触していなければならない。このことは、本発明によれば、被還元性金属化合物、好ましくは金属酸化物もしくは金属酸化物混合物を、還元剤で包むこと(sheathing)、または還元剤を、被還元性金属化合物、好ましくは金属酸化物もしくは金属酸化物混合物で被覆することによって達成される。ここで適切な還元剤は、容易に酸化し、金属化合物、好ましくは金属酸化物もしくは金属酸化物混合物の表面に析出しうる全ての物質または被還元性金属化合物、好ましくは金属酸化物もしくは金属酸化物混合物で粒子として包まれうる全ての物質のいずれかである。
【0020】
本発明によるレーザー顔料は、本質的に2つの構成成分からなる:
1.容易に還元されうる、少なくとも1つの金属化合物、好ましくは金属酸化物または金属酸化物混合物、
および
2.少なくとも1つの還元剤。
【0021】
ここで金属化合物は、例えば、金属化合物を還元剤で被覆することにより、または還元剤を金属化合物で被覆することにより、還元剤と直接または密接(intimate)に接触していることが重要である。
【0022】
被覆される物質は、それぞれの場合において、粒状である。
【0023】
被還元性金属化合物が還元剤で被覆される場合、被還元性金属化合物は、無支持(support-free)粒子の形態または支持体上の被膜の形態である。ここで、本発明によるレーザー顔料が、単一被覆粒子、または共通の被膜と共に、顔料を形成する一群の粒子のどちらでも構成できるように、それぞれの場合に、個別の粒子のみならず複数の粒子を含む群も還元剤で同時に被覆できることは言うまでもない。被還元性金属化合物が支持体上(例えば、下記のような雲母フレーク上)に存在する場合にも、同じことが当てはまる。
【0024】
還元剤が被還元性金属化合物で被覆される場合、還元剤は、粒子の形態、すなわち粒状である。
【0025】
被還元性金属化合物が金属酸化物である場合、二酸化チタン、また更にはB、FeまたはSnOの使用が選好される。更なる適切な被還元性金属化合物は、特に、オキシ塩化ビスマス、酸化ビスマス、例えばAgClなどのハロゲン化銀であるが、硫化亜鉛またはシュウ酸スズでもある。
【0026】
用いられるドープ金属酸化物は、好ましくは、Al、Si、Zr、MnまたはSbでドープされた二酸化チタンである。
【0027】
好ましい金属酸化物混合物は、SnO/SbO、(Sn,Sb)Oまたはバナジウム酸ビスマスである。
【0028】
無支持粒子の形態の被還元性金属化合物が還元剤で被覆される場合、金属化合物の粒子形状は、マーキングの結果に単に第二義的な役割を果たすだけである。金属化合物は、原則的に、全ての既知の粒子形状で、例えばフレーク、ビーズ、繊維、立方体、ロッド、立方形として、または不規則形状のほぼ等方性の顆粒としても存在することができる。ビーズおよび立方体などの等方性の形状または不規則形状の顆粒が選好される。
【0029】
この種類の無支持粒子は、本発明によれば、1nmから1000nmの範囲の粒径(最長軸の長さに相当)を有する。
【0030】
粒径の増加と共に入射光を散乱させる程度が増加するので、粒径が増加すると、(コア)粒子の隠蔽力は増加する。したがって、本発明によるレーザー添加剤の意図される使用に応じて、すなわち、特に、レーザーによりマーキングされる材料の種類およびレーザー添加剤を含む層の層厚に応じて、上記の粒径範囲と異なる粒径の範囲がそれぞれの場合において好ましい。
【0031】
被還元性金属化合物のほんの僅かな光散乱、したがって低い隠蔽力が望ましい場合、10nmから<100nm(from 10 nm to <100 nm)の範囲の粒径が特に好ましい。
【0032】
対照的に、より高い隠蔽力が可能であるまたは望ましい場合、100nm〜700nmの範囲の粒径が特に好ましい。
【0033】
更に、還元対象の金属化合物(metal compound to be reduced)を、支持体または異なる支持体の混合物に付けることもできる。適切な支持材は、当業者に公知の全ての支持材であり、特に透明または半透明な、好ましくはフレーク状の基材である。好ましい支持体はフィロケイ酸塩である。特に適しているものは、天然および/もしくは合成雲母、タルク、カオリン、フレーク状の酸化鉄もしくは酸化アルミニウム、ガラスフレーク、SiOフレーク、TiOフレーク、例えばFeTiO、FeTiOなどのフレーク状混合酸化物、グラファイトフレークまたは他の同等材料である。雲母フレーク、ガラスフレークまたはグラファイトフレークの使用が選好される。全く同一の金属化合物、または代わりに異なる金属化合物(複数)で被覆された、異なる支持材の混合物を使用することも可能である。
【0034】
支持材は、好ましくは、一般に0.005〜10μm、特に0.05〜5μmの厚さを有するフレーク状の基材である。他の2つの寸法のサイズは、通常0.01〜100μm、好ましくは0.1〜50μm、特に0.1〜20μmである。
【0035】
支持材料が被還元性金属化合物の層、特に金属酸化物層で覆われている場合、層の厚さは、好ましくは1〜500nm、特に5〜400nm、とりわけ好ましくは5〜200nmである。
【0036】
特に好ましい実施形態において、本発明によるレーザー顔料は、被還元性金属酸化物、好ましくは二酸化チタン、および還元剤により被覆されている雲母フレークの調製物からなる。ここで二酸化チタン層の厚さは、好ましくは10〜200nm、特に20〜100nm、とりわけ好ましくは40〜60nmである。
【0037】
更に好ましい実施形態において、本発明によるレーザー顔料は、ガラスフレークに基づき、かつ被還元性金属酸化物で覆われたフレーク状の顔料を含む。二酸化チタンで覆われているガラスフレークが特に選好される。
【0038】
上記の被還元性金属酸化物が支持体に付けられる場合、金属酸化物の割合は、支持材に基づいて5〜80重量%、特に20〜70重量%、とりわけ好ましくは40〜60重量%である。
【0039】
適切な還元剤は、特に、還元対象の金属化合物、特に金属酸化物または金属酸化物混合物の表面上に部分的または完全に容易に堆積(deposit)しうるものである。
【0040】
特に適切な還元剤は、特に、好ましくはメラミン樹脂、尿素樹脂、尿素/メラミン樹脂混合物の群から選択されるアミノ樹脂であるが、ポリアミド、炭素、ポリオキシメチレン、ポリアクリレート、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリエステル、カゼイン誘導体などでもある。
【0041】
金属化合物、特に金属酸化物または金属酸化物混合物の還元剤に対する比は、一般に1〜10:1、特に2〜8:1、とりわけ好ましくは3〜6:1である。
【0042】
好ましい実施形態において、無支持粒子の形態または支持材上の被膜の形態である、還元対象の金属化合物、好ましくは金属酸化物または金属酸化物混合物は、還元剤で部分的または完全にその表面が被覆されている。
【0043】
この実施形態は、二酸化チタン粒子、または二酸化チタンで被覆された支持材を例にして下記に説明されており、これらは両方とも、還元対象の金属化合物として特に好ましく用いられる。
【0044】
二酸化チタン粒子または二酸化チタンで被覆された支持材が、例えばアミノ樹脂、好ましくはメラミン樹脂、尿素樹脂、尿素−ホルムアルデヒド樹脂、尿素/メラミン樹脂混合物またはポリアミドで包まれる場合、驚くべきことに、焼成炉において水素を使用する二酸化チタンの還元の場合と類似の反応条件が、このように形成された顔料を含む有機または無機ポリマー系がレーザー光線で照射されるときに生じる。その結果、二酸化チタンは、安定な濃藍色亜酸化物に変換される。二酸化チタンが存在する結晶変態(アナターゼまたはルチル)は、ここでは重要ではない。例えばAl、Si、Zr、Mn、Sbなどで安定化(ドープ)されたTiOなどの安定化TiO変種、および既に上記した支持体のうちの1つの上に被覆された二酸化チタンも、同様に反応する。
【0045】
二酸化チタンのこの還元プロセスは、周囲のポリマーマトリックスがまだ損傷していない、例えば炭化していない条件下で起こりうる。したがって、例えば表面被覆剤および印刷物、ならびに製紙紙料および製紙用塗布剤などの薄層におけるマークも、本発明により調製されるレーザー顔料によって可能である。マーキングされるポリマーマトリックス、例えばプラスチックは、それ自体原理的に、レーザーマーキングのために炭化可能な含有物を必要としない。したがって、本発明による顔料を含む非有機系、例えば水ガラスまたは水ガラスに基づく被覆剤などの無機系もマーキングすることができる。
【0046】
還元剤で二酸化チタン粒子を包むことは、例えば、分散した二酸化チタン粒子、または支持材上に二酸化チタンを含む分散顔料の存在下で、アミノ樹脂の水溶液の湿式化学法により酸触媒した重縮合により実施することができる。ここでアミノ樹脂の縮合物は水に不溶性であり、純粋な二酸化チタンの表面上または二酸化チタンで被覆された支持材の表面上に薄層として析出する。
【0047】
上記した他の被還元性金属化合物の還元剤による被覆、およびこのように調製した本発明によるレーザー顔料のレーザー光線下での反応も、二酸化チタン粒子または二酸化チタンで被覆された支持材の還元剤による記載済み被覆と同様に進行する。
【0048】
レーザーを使用する金属化合物、特に金属酸化物または金属酸化物混合物の還元では、顔料全体に基づいて5〜80重量%、特に10〜50重量%、とりわけ好ましくは10〜30重量%の量の還元剤が必要であり、ここで還元剤は好ましくはアミノ樹脂である。
【0049】
原則として、レーザー感受性顔料としての機能のために更なる添加剤を必要としない。
【0050】
しかし、還元剤がレーザーの適当な吸収性を有していない場合、レーザー顔料に吸収剤を添加するまたは組み込むことが多くの場合に望ましい。吸収剤は、還元剤と、また還元対象の金属化合物、好ましくは金属酸化物もしくは金属酸化物混合物(例えば、二酸化チタン)の両方に添加でき、あるいはまた本発明によるレーザー顔料において、還元剤および還元対象の金属化合物の中に均一に分散される。
【0051】
適切な吸収剤は、特に、プラスチックのレーザーマーキングについて当業者に公知の全ての吸収剤であり、好ましくは、カーボンブラック、例えばアンチモンなどの導電性顔料、Sb/Sn混合酸化物、例えばSb、(Sn,Sb)O、(Sn,Sb)O被覆雲母フレーク、鉄化合物、例えば磁鉄鉱、硫化モリブデン、酸化モリブデン、BiOCl、フレーク状の特に透明または半透明基材、例えばフィロケイ酸塩、例えばスズ、鉄またはアルミニウムを含む微細金属粒子、染料、例えばMillikenのNirsorb、水酸化銅リン酸塩またはリン酸銅、例えば Cu(PO・2Cu(OH)(CHP=リン銅鉱)、塩基性二リン酸銅Cu(PO・Cu(OH)、ピロリン酸銅Cu・HO、4CuO・P・HO、5CuO・P・3HO、6CuO・P・3HO、4CuO・P・3HO、4CuO・P・1.2HO、4CuO・P、4CuO・P・1.5HOである。前記水酸化銅リン酸塩またはリン酸銅の混合物を用いることも可能である。リン酸銅のうち、リン銅鉱が特に好ましい。
【0052】
特に好ましい吸収剤は、カーボンブラック、アンチモン、Sb/Sn混合酸化物、(Sn,Sb)O被覆雲母フレーク、磁鉄鉱、硫化モリブデン、酸化モリブデン、BiOCl、フィロケイ酸塩および染料の群から選択される。
【0053】
これらのうち幾つかは、上記の還元対象の好ましい金属化合物と同一である。そのような場合、還元対象の金属化合物は、同時に吸収剤としても作用する。レーザー光線を吸収する金属化合物と他の上記の吸収剤との混合物を用いることも可能である。しかし、好ましくは上記の吸収剤の1種または複数が、それと異なる還元対象の金属化合物、特にドープまたは非ドープTiOであるが、B、SnO、Bi、ハロゲン化銀、硫化亜鉛、シュウ酸亜鉛またはバナジウム酸ビスマスでもあって、それぞれの場合において、粒状もしくは支持体上の被膜の形態である金属化合物、またはこれらの金属化合物を包んでいる還元剤に添加される。
【0054】
次に、レーザー顔料への適切な光吸収剤の組込みが、レーザー衝撃に対する反応をサポートし、より大きな色変化をもたらす。この目的のために、非常に少ない添加量の吸収剤だけで十分であり、またこれはポリマーの色に影響を及ぼさないか、または些細な程度でのみ影響を及ぼす。
【0055】
吸収剤または吸収剤混合物の濃度は、用いられる還元剤によって左右される。本発明によるレーザー顔料中に追加として用いられる吸収剤の割合は、存在する場合、還元対象の金属化合物、特に金属酸化物または金属酸化物混合物に基づいて、一般に0.0001〜5重量%、好ましくは0.001〜2重量%、特に0.01〜1重量%である。
【0056】
特に、本発明によるレーザー顔料が、還元剤により包まれ、かつ1000nmまでの粒径を有するナノ粒子の形態、特に10から<100nmの粒径を有する上記の無支持粒子の形態である、還元対象の金属化合物を含む場合、本発明による顔料を形成する調製物にとって、1種または複数の保護コロイドを更なる成分として追加的に含むことも有利である。
【0057】
保護コロイドは、還元対象の金属化合物を含むこれらの特に微細な粒子が、還元剤で包まれるときに凝集するのを防ぐ。ここで、それぞれの場合において還元剤で包まれているのは単一のナノ粒子ではなく、一緒になった複数のナノ粒子であり、このようにして、本発明によるレーザー顔料を表すクラスターが生成されるので、保護コロイドの仕事は、還元対象の金属化合物を含むナノ粒子のクラスターにおける均一な分布を確実にすることである。ここでクラスターは、0.01〜20μm、好ましくは0.05〜10μm、特に好ましくは0.05から<10μmの粒径を有する。このようにして、顔料中に分布したナノ粒状金属化合物が入射可視光をほとんど散乱しないので、特に低い隠蔽力を有する本発明によるレーザー顔料が得られる。しかし同時に、この種類のレーザー顔料は、塗布媒体(application medium)に容易に分散可能である。したがってこの種類のレーザー顔料を、ほぼ透明の塗布系(application systems)または特に薄い被膜をマーキングするのに使用することもできる。
【0058】
適切な保護コロイドは、そのような目的のための当業者に公知の化合物の部類であり、特に、部分的に加水分解されたポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどの水溶性ポリマー、例えばメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのセルロースエーテル(Tylose)、ポリアクリレート、デンプン、タンパク質、アルギン酸塩、ペクチンまたはゼラチンである。セルロースエーテル、特にヒドロキシエチルセルロースが特に選好される。
【0059】
保護コロイドは、調製物の重量に基づいて、0.01〜5%、好ましくは0.1〜2%の少量で添加される。クラスターのサイズは、ここでは、用いられる保護コロイドの量および追加的に存在する任意の界面活性剤によって狙ったように設定することができる。保護コロイドの量が多いほどクラスターのサイズの低減をもたらすという原則が、基本的にここに当てはまる。
【0060】
本発明によるレーザー顔料が、上記のクラスター形態の、還元剤被膜を有する還元対象のナノ粒状金属化合物からなる場合、レーザー顔料は、塗布媒体、すなわちレーザーマーキング対象物質に、レーザーマーキング対象物質の重量に基づいて約0.1〜20重量%、好ましくは0.1〜5重量%、特に好ましくは0.5〜2重量%の量で添加される。
【0061】
更に好ましい実施形態において、還元剤は、被還元性金属化合物、特に例えば二酸化チタンなどの金属酸化物または金属酸化物混合物で完全に被覆され(包まれ)または部分的に被覆されている。
【0062】
例えばカーボンブラック、亜硫酸塩、セルロース粉末、プラスチック粉末、植物種子などの有機、無機、金属または有機金属由来のいずれでもよい微細な被酸化性(oxidisable)物質が、被還元性金属化合物、例えば金属酸化物で包まれる場合、この包まれた生成物は、レーザー衝撃下で、包まれた金属酸化物と同様に反応して、亜酸化物または金属を与える。パートナーとしての二酸化チタンの場合、レーザー衝撃の反応生成物は、濃藍色亜酸化物であり、これは非常に高いコントラストのレーザーマーキングを可能にする。
【0063】
好ましい実施形態において、真珠光沢顔料で既知の方法と同様にして水に分散されたカーボンブラックは、TiOにより被覆される。水酸化物を酸化物に変換するための得られた顔料の焼成は、含まれたカーボンブラックが燃焼しないために、酸素を排除して有利に実施される。これは、炉を窒素でフラッディング(flooding)することにより比較的簡単に達成することができる。この例において、カーボンブラックは、吸収剤、また還元剤の両方として作用する。例えば、極微小プラスチック粒子、粉砕有機材料、例えば穀粉(flour)、無色の無機還元剤などの還元剤がレーザーの吸収を示さない場合、上記に示された吸収剤の添加または組込みが望ましい。
【0064】
上記の微細粒状の還元剤が、還元対象の金属化合物で被覆される場合、還元剤は、有利には、0.01〜50μm、特に0.1〜20μmの粒径を有する。
【0065】
本発明によるレーザー顔料は、有機ポリマーおよび無機系のレーザーマーキングに汎用的に用いることができるために、0.01〜200μm、好ましくは0.01〜100μm、特に0.1〜20 μmの粒径を有する。ここで比較的小さい粒径は、薄い層および被膜において有利に用いることができ、一方、比較的大きな粒径は、プラスチック組成物において用いることもできる。
【0066】
それぞれの場合に必要な粒径を確立するために、本発明によるレーザー顔料を、必要であれば粉砕に付すことができる。
【0067】
本発明のために、粒径は、顔料の最長軸の長さと見なされる。粒径は、原則として、当業者に周知の任意の粒径決定法を使用して決定することができる。粒径決定は、レーザー顔料のサイズに応じて簡単に、例えば、高解像度光学顕微鏡、より良好には走査電子顕微鏡(SEM)または高解像度電子顕微鏡(HRTEM)などの電子顕微鏡、それだけでなく原子間力顕微鏡(AFM)において、多数の個別粒子の直接的観察および測定によって実施することができ、後者には、それぞれの場合において適切な画像分析ソフトウエアが備わる。粒径の決定は、レーザー回折の原理に基づいて稼働する測定機器(例えば、Malvern Mastersizer 2000、APA200、Malvern Instruments Ltd.英国)を使用して有利に実施することもできる。これらの測定機器を使用して、粒径と、体積における粒径分布との両方を、標準的な方法(SOP)により顔料懸濁液から決定することができる。最後に述べられた測定方法は、本発明によれば好ましい。
【0068】
還元対象の金属化合物または還元剤の粒径の決定も、金属化合物および還元剤が上記のように粒状である場合、本発明によるレーザー顔料の粒径の決定と同様に実施することができる。
【0069】
本発明によるレーザー顔料は多様な形状を有することができる。還元対象の粒状金属化合物もしくは支持体上の還元対象の金属化合物が、還元剤で被覆されているかどうか、または粒状還元剤が、還元対象の金属化合物で被覆されているかどうかに応じて、また被覆されるそれぞれの化合物の元の形状に応じて、本発明によるレーザー顔料は、一般に、球状、卵形、レンズ形状、ソーセージ形などである。調製方法に関して、これらの形状が規則的である必要はなく、変形していてもよいことは、言うまでもないことである。
【0070】
本発明による特に好ましい固有にマーキング可能なレーザー顔料は、下記のとおりである:
【0071】
【表1】

【0072】
本発明は、また、上記の本発明による固有にレーザーマーキング可能な顔料の調製方法に関し、ここで、1種または複数の被還元性金属化合物は、還元剤により部分的にもしくは完全に被覆されるか、または還元剤は、1種または複数の被還元性金属化合物により部分的もしくは完全に被覆される。
【0073】
ここで被還元性金属化合物は、無支持粒子の形態または支持体上の被膜の形態でもよい。還元剤が、還元対象の金属化合物で被覆される場合、還元剤は微細粒状でもある。
【0074】
本方法の詳細は、本発明による顔料の構造に関して、特に還元対象の金属化合物としての二酸化チタンの例に関して既に上記に説明した。この点で、その上記の説明が参照される。
【0075】
本発明は、また、無機系および有機ポリマーのレーザーマーキングのための上記の本発明による顔料の使用に関する。これに関する詳細も同様に既に上記において説明された。
【0076】
特に、本発明は、本発明による固有にレーザーマーキング可能な顔料を含む有機ポリマー系または無機系にも関する。
【0077】
好ましくは、マーキングされる有機のポリマーまたはポリマー系に基づいて、特に0.1〜30重量%、好ましくは0.5〜20重量%、とりわけ好ましくは1〜10重量%の濃度で添加剤として本発明によるレーザー顔料を添加することにより、ポリマーのレーザーマーキングにおいて、匹敵する濃度の市販の吸収剤より有意に高いコントラストが達成される。前記濃度は、所望のコントラストだけでなく、使用媒体の層厚によっても左右される。したがって、十分な数の顔料粒子をレーザービームに提供するために、印刷物および被膜用途では、プラスチックより有意に高い濃度が必要である。
【0078】
しかし、ポリマーまたはポリマー系、好ましくは熱可塑性プラスチック、熱硬化性プラスチックまたはエラストマーにおける本発明によるレーザー顔料の濃度も、用いられるポリマー物質によって左右される。低い割合のレーザー顔料は、ポリマー系をさほど変化させず、加工性に影響を与えない。
【0079】
更に、着色剤をポリマーに添加して、あらゆる種類の色変化を可能にし、同時にレーザーマーキングの保持を確実にすることができる。適切な着色剤は、特に、レーザーマーキングの際に分解せず、レーザー光線下で反応しない着色金属酸化物顔料、ならびに有機顔料および染料である。
【0080】
レーザーマーキング用の適切なポリマー物質は、特に、全ての既知のプラスチックであり、特に、例えばUllmann、15巻、457頁以降、Verlag VCHに記載されている熱可塑性プラスチック、更には熱硬化性プラスチックおよびエラストマーである。適切なポリマーは、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリエステル−エステル、ポリエーテル−エステル、ポリフェニレンエーテル、ポリアセタール、ポリウレタン、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルアセタール、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジンエン−スチレン(ABS)、アクリロニトリル−スチレン−アクリレート(ASA)、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホンおよびポリエーテルケトン、ならびに例えばPC/ABS、MABSなどのこれらのコポリマー、混合物および/またはポリマーブレンドである。
【0081】
本発明によるレーザー顔料は、ポリマー顆粒、表面被覆剤または印刷インクをレーザー顔料と混合し、場合により熱の作用下で混合物を変形させることによって、マーキングされるポリマー、好ましくはプラスチックもしくはプラスチックフィルムまたは被覆剤、例えば塗料、製紙用塗布剤もしくは粉体塗料、自動車用塗料または印刷インクに組み込まれる。レーザー顔料を同時にまたは連続してポリマーに添加することができる。処理条件下で温度安定性がある接着剤、有機ポリマー相溶性溶媒、安定剤および/または界面活性剤を、レーザー顔料の組込みの際にポリマーに、好ましくはプラスチック顆粒に場合により添加することができる。
【0082】
レーザー顔料でドープされたプラスチック顆粒は、一般に、最初にプラスチック顆粒を適切なミキサーに導入し、任意の添加剤でそれらを湿らし、次にレーザー顔料を添加し、組み込むことによって調製される。ポリマーは、一般に着色濃縮物(マスターバッチ)または成形材料(compound)により顔料着色される。次に得られた混合物を、押出機または射出成形機により直接加工することができる。加工の際に形成された成形体は、レーザー顔料の非常に均質な分布を示す。続いてレーザーマーキングを適切なレーザーの使用によって実施する。
【0083】
本発明は、また、本発明による顔料でドープされたポリマーの調製方法であって、ポリマー物質を本発明によるレーザー顔料と混合し、顔料を押出機によりポリマーまたはポリマーマトリックスに組み込む方法に関する。次に、このようにして得られたポリマー組成物を、場合により熱の作用下で変形させる。
【0084】
レーザー刻印は、パルスレーザー、好ましくはNd:YAGレーザーの光線経路に試料を導入することによって実施される。更に、例えばマスク技術を介してエキシマーレーザーを使用する刻印が可能である。しかし、所望の結果は、使用される顔料による高い吸収の領域の波長を有する他の従来型のレーザーの使用により達成することもできる。得られるマークは、照射時間(またはパルスレーザーの場合ではパルスの数)ならびにレーザーの照射出力および使用されるプラスチック系により決定される。使用されるレーザーの出力は、それぞれの用途によって左右され、それぞれ個別の場合において当業者によって容易に決定することができる。
【0085】
使用されるレーザーは、一般に157nm〜10.6μmの範囲、好ましくは532nm〜10.6μmの範囲の波長を有する。例えば、COレーザー(10.6μm)およびNd:YAGレーザー(1064または532nm)またはパルスUVレーザーをここで挙げることができる。エキシマーレーザーは以下の波長:Fエキシマーレーザー(157nm)、ArFエキシマーレーザー(193nm)、KrClエキシマーレーザー(222nm)、KrFエキシマーレーザー(248nm)、XeClエキシマーレーザー(308nm)、XeFエキシマーレーザー(351nm)を有し、周波数逓倍Nd:YAGレーザーは、355nm(周波数三倍)または265nm(周波数四倍)の波長を有する。Nd:YAGレーザー(1064または532nm)およびCOレーザーの使用が特に選好される。用いられるレーザーのエネルギー密度は、一般に0.3mJ/cm〜50J/cm、好ましくは0.3mJ/cm〜10J/cmの範囲である。パルスレーザーが使用されるとき、パルス周波数は、一般に1〜60kHzの範囲である。本発明による方法に用いることができる対応するレーザーは、市販されている。
【0086】
本発明によるレーザー顔料でドープされたポリマーは、従来の印刷プロセスがプラスチックおよびプラスチックフィルムの刻印に今まで用いられた全ての領域において使用することができる。例えば、本発明によるポリマーから作製される成形組成物、半製品および完成部品を、電気、電子および自動車産業において使用することができる。例えば、加熱、排気および冷却部門におけるケーブル、ライン、装飾ストリップもしくは機能性部品、またはスイッチ、プラグ、レバーおよびハンドル(これらは本発明に従ってドープされたポリマーからなる)のラベル付けおよび刻印は、アクセスしにくい領域でさえも、レーザー光線の補助でマーキングすることができる。更に、本発明によるポリマー系を、食品部門または玩具部門における包装に用いることができる。包装におけるマークは、ふき取りおよび引掻き抵抗性があり、後続の滅菌工程において安定しており、マーキング工程において衛生的に適用できるという事実によって特徴付けられる。更に、例えばワインボトル用のプラスチックコルクを刻印することができる。
【0087】
完全なラベル像を、再利用可能な系の包装に耐久性をもつように付けることができる。更に、本発明によるポリマー系は、医療技術において、例えばペトリ皿、マイクロタイタープレート、使い捨てシリンジ、アンプル、試料容器、供給チューブおよび医療用収集バッグまたは保存バッグのマーキングにおいて使用される。
【0088】
レーザー刻印の更なる重要な適用領域は、動物の個別ラベル付け用プラスチックマーク、いわゆるウシタグ(cattle tags)または耳標である。当該動物に特異的に属する情報が、バーコードシステムにより保存される。この情報は、スキャナーの補助で必要なときに再度呼び出すことができる。刻印は、マークが幾つかの事例では動物上に何年もの間とどまるので、非常に耐久性がなければならない。
【0089】
このように、本発明によるレーザー顔料でドープされたポリマーからなる成形組成物、半製品および完成部品のレーザーマーキングが可能である。
【0090】
以下の例は、本発明を説明することを意図するが、限定することを意図しない。示されるパーセントのデータは重量パーセントである。
【0091】

還元剤で包まれた金属酸化物
例1:
100gの、100〜500nmの範囲の粒径を有するルチル二酸化チタン顔料(KronosのRN2900)を、150gの水でスラリー化する。25gのメラミン樹脂(IneosのMadurit粉末)および0.1gの、25%のカーボンブラック含有量を有するカーボンブラック水性分散体(EvonikのDerussol N25/L)を撹拌して、この二酸化チタン懸濁液に投入し、バッチ全体をビードミル(Getzmannの「Dispermat」溶解機のビードミルアタッチメント)で分散させる。続いて、完全に分散されたバッチを70℃に温め、およそ30mlのp−トルエンスルホン酸の25%溶液を使用してpH=4に調整する。30分間の反応時間の後、バッチを冷まし、次に吸引フィルターを通して濾過する。乾燥を180℃で一晩実施する。
【0092】
このようにして得た物質は、Malvern Instruments Ltd.のMastersizer 2000を標準的条件下で使用して決定したD95=20μmの粒径を有し、それを1%の程度まで押出機によりポリプロピレンに組み込む。次にこの成形材料を射出成形機により成形して、9cm×6cm×0.15cmの寸法の試験プレートを得る。Nd:YAGレーザーを使用して試験格子をこれらのプレートにマーキングし、これによって、レーザーエネルギー、レーザービーム速度およびレーザーパルス周波数に関して広範囲の異なるレーザー設定を示すことができる。
【0093】
以下のレーザー設定を試験する:
Trumpfのダイオード励起12W Nd:YAGレーザー。
試験格子は、4および2mmの辺の長さを有する中実四角形からなる。エネルギーは、それぞれ10%ずつ最大出力の30%から100%まで変化させる。書込速度は、200mm/秒と2000mm/秒の間で変化させ、周波数は、1KHzと60KHzの間で変化させる。
例1の添加剤は、異なるレーザーパラメーターの全ての範囲にわたって優れたコントラストを有する均一の黒色マークを示す。
【0094】
例2:
50%の樹脂含有量を有する尿素−ホルムアルデヒド樹脂水溶液80g(BASFのKaurit 210液)を、100gの水で希釈する。0.02gのEvonikのフレームブラック(flame black)FW1を撹拌してこの溶液に投入する。100〜500nmの粒径を有するアナターゼ二酸化チタン顔料100g(Kronos 1171)を溶解機で撹拌し、次に増加した速度(2500rpm = 60mmの溶解機ディスク直径に対して約8m/秒の周速度)で分散させる。続いて、完全に分散されたバッチを70℃に温め、約4mlの25%クエン酸溶液を使用してpH=4に調整する。30分間の反応時間の後、バッチを冷まし、次に吸引フィルターを通して濾過する。乾燥を180℃で一晩実施する。
【0095】
このようにして得た物質は、例1と同様に決定したD95=30μmの粒径を有し、これを撹拌してポリビニルアルコールの10%水溶液に投入する。これから、乾燥した後に、50μmの層厚を有するフィルムを、手動塗布機を使用して延伸する。このフィルムに、例1と同様にNd:YAGレーザーを使用して試験格子をマーキングする。結果は、同様に、多様なレーザーパラメーターの広範囲にわたってほぼ一定した黒色化(blackening)を示す高コントラストの黒色マークを示す。
【0096】
例3:
20gの硝酸銀(AgNO)を100gの水に溶解する。50gの、D95=30μmの粒径を有するカオリンを撹拌してこの溶液に投入し、80gの10%NaCl溶液を撹拌しながら滴加することによって、塩化銀(AgCl)として銀をカオリン上に満たす。30gのMadurit MW116(Ineosの75%メラミン−ホルムアルデヒド樹脂溶液)を添加する前、懸濁液を、NaOHを使用してpH8に調整する。次にバッチ全体を70℃の温め、この温度に達したとき、1モル濃度HClのゆっくりとした滴加によりpH3〜4に酸性化する。約30分間の反応時間の後、混合物全体を冷まし、次に吸引フィルターを通して濾過する。乾燥を180℃で一晩実施する。
【0097】
このようにして得た物質は、例1と同様に決定したD95=100μmの粒径を有し、それを押出機により0.5%の程度までポリプロピレンに組み込む。次にこの成形材料を射出成形機により成形して、9.0cm×6.0cm×0.15cmの寸法の試験プレートを得る。波長10.6μmのCOレーザーを使用し、例1と同様のレーザー出力およびレーザー速度に関する変化を伴って、試験格子をこれらのプレートにマーキングする。レーザー衝撃は、塩化銀を微細元素銀に還元し、マークは、レーザーパラメーターのバンド幅のほぼ全体にわたって高コントラストの黒色を示す。
【0098】
金属酸化物で包まれた還元剤
例4:
25nmの一次粒径を有するカーボンブラック水性分散体0.2g(EvonikのDerussol A)を、1.5リットルの水で希釈し、HClを使用してpH2.2に調整する。この懸濁液を撹拌しながら75℃に温める。続いて、400gのTiCl溶液を滴加し、その間、pHを、NaOHを使用して2.2で一定に保持する。冷却した後、バッチを吸引して濾過し、濾過ケーキを180℃で乾燥して恒量にした。乾燥した後、その物質を窒素下、600℃で焼成する。
【0099】
このようにして得た顔料は、例1と同様に決定したD95=10μmの粒径を有し、それを押出機によりポリプロピレンに組み込む。次にこの成形材料を射出成形機により成形して、9cm×6cm×0.15cmの寸法の試験プレートを得る。レーザーエネルギー、レーザービーム速度およびレーザーパルス周波数に関して大きなバンド幅の多様なレーザー設定を示すことができる試験格子を、Nd:YAGレーザーを使用して例1と同様にこれらのプレートにマーキングする。
【0100】
高コントラストの暗色マークが、試験格子に存在するほぼ全てのレーザー設定において得られる。
【0101】
例5:
50=11μmの粒径を有するEvonikの微細Vestosint 2159ポリアミド粉末100gを、92.5%のTiO含有量および100〜500nmの粒径分布を有し、AlおよびSiを使用して野外用途のために安定化させたルチル二酸化チタン顔料100g(Kronos TitanのKronos 2230)ならびに0.05%の割合のカーボンブラック粉末(EvonikのFW 200)と物理的に均質に混合し、次に、例えばNaraメカノフュージョン(mechanofusion)法などの適切な機械的方法により、大きな機械力の作用を介して互いに強力および緊密に接着する。ここで比較的大きなプラスチック粒子が一次粒子として保持され、一方、有意により小さな顔料粒子が、この方法の機械的エネルギーの補助でプラスチックの表面に組み込まれる。得られたレーザー顔料は、例1と同様に決定したD95=30μmの粒径を有する。
【0102】
このように調製された物質のレーザーマーキングは、1%の濃度でプラスチックに組み込まれた後、プラスチックの炭化、また同時の二酸化チタンの黒色亜酸化物への還元の両方によって引き起こされる、暗色で高コントラストのマークを示す。
【0103】
例6:
50%の樹脂含有量を有する尿素−ホルムアルデヒド樹脂水溶液50g(BASFのKaurit 210液)を、5gのカーボンブラック(1%カーボンブラック水性分散体、EvonikのDerusol N25/Lから調製)、50gのナノ粒状二酸化チタン顔料(EvonikのP25、平均一次粒径21nm)および50gのチロースH20(tylose H20)の0.4%溶液と混合し、溶解機で分散させる。続いて、完全に分散されたバッチを70℃に温め、更に100gの0.4%チロース溶液と混合し、約4mlの10%シュウ酸溶液を使用してpH3〜4に調整する。約30分間の反応時間の後、バッチを冷まし、次に吸引フィルターを通して濾過する。濾過ケーキを好ましくは脱イオン水で洗浄する。乾燥を180℃で一晩実施する。
【0104】
このようにして得た淡灰色の粉末は、例1と同様に決定したD95=1μmの粒径を有し、これを、1.5%の分散液が得られるように、撹拌してポリビニルアルコールの10%水溶液に投入する。これから、乾燥した後に、50μmの層厚を有するフィルムを、手動塗布機を使用して延伸する。本発明によるレーザー顔料の他に更なる顔料または染料を含まないこのフィルムは、僅かな曇りしか示さない。フィルムに、例1と同様にNd:YAGレーザーを使用して試験格子をマーキングする。結果は、同様に、多様なレーザーパラメーターの広範囲にわたってほぼ一定した黒色化を示す高コントラストの黒色マークを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種または複数の被還元性金属化合物および還元剤を含む調製物の形態であり、0.01〜200μmの粒径を有することを特徴とする、固有にレーザーマーキング可能な顔料。
【請求項2】
被還元性金属化合物が、還元剤と直接密接に接触していることを特徴とする、請求項1に記載の顔料。
【請求項3】
被還元性金属化合物が、無支持粒子の形態であることを特徴とする、請求項1または2に記載の顔料。
【請求項4】
被還元性金属化合物が、支持体上の被膜の形態であることを特徴とする、請求項1または2に記載の顔料。
【請求項5】
被還元性金属化合物が、還元剤により部分的または完全に被覆されていることを特徴とする、請求項1から4の一項または複数項に記載の顔料。
【請求項6】
還元剤が、被還元性金属化合物により部分的または完全に被覆されていることを特徴とする、請求項1から4の一項または複数項に記載の顔料。
【請求項7】
被還元性金属化合物が、化学還元によって色変化を示すという基準に従って選択されることを特徴とする、請求項1から6の一項または複数項に記載の顔料。
【請求項8】
被還元性金属化合物が、ドープされたまたは非ドープの金属酸化物であることを特徴とする、請求項1から7の一項または複数項に記載の顔料。
【請求項9】
被還元性金属化合物が、TiO(ルチルまたはアナターゼ)、B、Fe、SnO、BiOCl、Bi、ハロゲン化銀の群から選択されることを特徴とする、請求項1から8の一項または複数項に記載の顔料。
【請求項10】
金属酸化物が、ドープされたまたは非ドープの二酸化チタンであることを特徴とする、請求項8または9に記載の顔料。
【請求項11】
還元剤が、アミノ樹脂であることを特徴とする、請求項1から10の一項または複数項に記載の顔料。
【請求項12】
還元剤が、メラミン樹脂、尿素樹脂、尿素−ホルムアルデヒド樹脂、尿素/メラミン樹脂混合物またはポリアミドの群から選択されることを特徴とする、請求項1から11の一項または複数項に記載の顔料。
【請求項13】
支持体が、雲母フレーク、二酸化ケイ素フレーク、ガラスフレーク、セラミックフレーク、酸化アルミニウムフレーク、酸化鉄フレークまたはグラファイトフレークの群から選択されることを特徴とする、請求項4から12の一項または複数項に記載の顔料。
【請求項14】
支持体が、雲母フレークまたはガラスフレークであることを特徴とする、請求項13に記載の顔料。
【請求項15】
更なる成分として1種または複数の吸収剤を追加で含むことを特徴とする、請求項1から14の一項または複数項に記載の顔料。
【請求項16】
吸収剤が、カーボンブラック、アンチモン、Sb/Sn混合酸化物、(Sb,Sn)O被覆雲母フレーク、水酸化銅リン酸塩、リン酸銅、磁鉄鉱、二硫化モリブデン、酸化モリブデン、BiOCl、チオケイ酸塩、染料の群から選択されることを特徴とする、請求項15に記載の顔料。
【請求項17】
更なる成分として1種または複数の保護コロイドを追加で含むことを特徴とする、請求項1から16の一項または複数項に記載の顔料。
【請求項18】
無支持粒子が、1nmから1000nmの範囲の粒径を有することを特徴とする、請求項3、5から12および15から17の一項または複数項に記載の顔料。
【請求項19】
粒径が10nmから<100nmの範囲であることを特徴とする、請求項18に記載の顔料。
【請求項20】
1種または複数の被還元性金属化合物を、還元剤により部分的もしくは完全に被覆すること、または還元剤を、1種または複数の被還元性金属化合物により部分的もしくは完全に被覆することを特徴とする、請求項1から19の一項または複数項に記載の顔料の調製方法。
【請求項21】
被還元性金属化合物が、無支持粒子の形態または支持体上の被膜の形態であり、還元剤により部分的または完全に被覆されることを特徴とする、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
無機系および有機ポリマーのレーザーマーキングのための、請求項1から19の一項または複数項に記載の顔料の使用。
【請求項23】
請求項1から19の一項または複数項に記載の固有にレーザーマーキング可能な顔料を含む有機ポリマー。
【請求項24】
ポリマーにおける請求項1から18の一項または複数項に記載の顔料の割合が、ポリマーに基づいて0.1〜30重量%であることを特徴とする、請求項23に記載のポリマー。
【請求項25】
プラスチック、プラスチックフィルム、表面被覆剤、自動車用塗料、粉体塗料、印刷インクまたは製紙用塗布剤であることを特徴とする、請求項23または24に記載のポリマー。
【請求項26】
請求項1から19の一項または複数項に記載の顔料を、押出機を使用してポリマーまたはポリマーマトリックスに組み込むことを特徴とする、請求項23から25の一項または複数項に記載のレーザーマーキング可能なポリマーの調製方法。

【公表番号】特表2012−520905(P2012−520905A)
【公表日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−500103(P2012−500103)
【出願日】平成22年2月27日(2010.2.27)
【国際出願番号】PCT/EP2010/001232
【国際公開番号】WO2010/105735
【国際公開日】平成22年9月23日(2010.9.23)
【出願人】(591032596)メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1,043)
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D−64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
【Fターム(参考)】