説明

レーザー彫刻用樹脂組成物、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、レリーフ印刷版の製版方法及びレリーフ印刷版

【課題】硬度、膜弾性、耐刷性及び水性インキ転移性に優れるレリーフ印刷版を得ることができ、印刷版のレーザー彫刻時に発生する彫刻カスのリンス性及びレーザー彫刻における彫刻感度に優れるレーザー彫刻用樹脂組成物、レリーフ印刷版原版、それを用いたレリーフ印刷版の製版方法、並びに、レリーフ印刷版を提供すること。
【解決手段】(成分A)加水分解性シリル基及び/又はシラノール基を有する化合物と、(成分B)熱可塑性エラストマーと、(成分C)重合性化合物と、を含有することを特徴とするレーザー彫刻用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー彫刻用樹脂組成物、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、レリーフ印刷版の製版方法及びレリーフ印刷版に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、天然ゴム、合成ゴム、熱可塑性エラストマー等を使用した疎水性のレーザー彫刻型印刷版が用いられている(特許文献1)。レーザー彫刻により発生する彫刻カスのリンス性を向上させる技術としては、レリーフ形成層に多孔質無機微粒子を含有させ、該粒子に液状カスを吸着させ、除去性を向上させる技術が提案されている(特許文献2)。また、レーザー彫刻可能な感光性樹脂組成物中に、有機ケイ素化合物を含有させることで彫刻後のカス残率が減り(カスが付きにくくなり)、有機溶剤を含浸させた布で彫刻カスを拭き取りやすくなることが示されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−338139号公報
【特許文献2】特開2004−174758号公報
【特許文献3】国際公開第2005/070691号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2に記載された方法では、粒子を含有しているため彫刻形状(エッジ形状)が良くないという問題点があり、画質低下を引き起こす。また、特許文献3に記載された方法では、有機溶剤を使用して粘着性カスを除去しており、環境適性に優れた水系で粘着性カスを除去することは困難である。
【0005】
本発明の目的は、硬度、膜弾性、耐刷性及び水性インキ転移性に優れるレリーフ印刷版を得ることができ、印刷版のレーザー彫刻時に発生する彫刻カスのリンス性及びレーザー彫刻における彫刻感度に優れるレーザー彫刻用樹脂組成物、レリーフ印刷版原版、それを用いたレリーフ印刷版の製版方法、並びに、レリーフ印刷版を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記課題は以下の<1>〜<18>に記載の手段によって解決された。
<1>(成分A)加水分解性シリル基及び/又はシラノール基を有する化合物と、(成分B)熱可塑性エラストマーと、(成分C)重合性化合物と、を含有することを特徴とするレーザー彫刻用樹脂組成物、
<2>前記成分Aが、加水分解性シリル基とシラノール基とをあわせて2つ以上有する化合物である上記<1>に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物、
<3>前記成分Aにおける加水分解性シリル基が、Si原子にアルコキシ基又はハロゲン原子が少なくとも1つ直接結合した残基である上記<1>又は<2>に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物、
<4>前記成分Aが、重合性基として加水分解性シリル基及び/又はシラノール基のみを有する化合物である上記<1>から<3>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用樹脂組成物、
<5>前記成分Bが、スチレン系熱可塑性エラストマー、エステル系熱可塑性エラストマー、アミド系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、及び、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル系熱可塑性エラストマーよりなる群から選ばれた熱可塑性エラストマーである上記<1>から<4>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用樹脂組成物、
<6>前記成分Bが、スチレン系熱可塑性エラストマー、又は、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル系熱可塑性エラストマーである上記<1>から<5>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用樹脂組成物、
<7>更に(成分D)アルコール交換反応触媒を含有する上記<1>から<6>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用樹脂組成物、
<8>更に(成分E)重合開始剤を含有する上記<1>から<7>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用樹脂組成物、
<9>更に(成分F)700〜1,300nmの波長の光を吸収可能な光熱変換剤を含有する上記<1>から<8>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用樹脂組成物、
<10>支持体上に、上記<1>から<9>のいずれか1つに記載のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を有することを特徴とするレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、
<11>前記レリーフ形成層が熱及び/又は光により架橋されている上記<10>に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、
<12>前記レリーフ形成層が熱により架橋されている上記<10>又は<11>に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版、
<13>(1)上記<10>に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版におけるレリーフ形成層を熱及び/又は光により架橋する工程、及び、(2)架橋されたレリーフ形成層をレーザー彫刻してレリーフ層を形成する工程、を含むことを特徴とするレリーフ印刷版の製版方法、
<14>前記(1)工程が、前記レリーフ形成層を熱により架橋する工程である上記<13>に記載のレリーフ印刷版の製版方法、
<15>更に(3)彫刻後のレリーフ層表面を水系リンス液によりリンスするリンス工程を含む、上記<13>又は<14>に記載のレリーフ印刷版の製版方法、
<16>上記<13>から<15>のいずれか1つに記載のレリーフ印刷版の製版方法により製造されたレリーフ層を有するレリーフ印刷版、
<17>前記レリーフ層の厚みが、0.05mm以上10mm以下である上記<16>に記載のレリーフ印刷版、
<18>前記レリーフ層のショアA硬度が、50°以上90°以下である上記<16>又は<17>に記載のレリーフ印刷版。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、硬度、膜弾性、耐刷性及び水性インキ転移性に優れるレリーフ印刷版を得ることができ、印刷版のレーザー彫刻時に発生する彫刻カスのリンス性及びレーザー彫刻における彫刻感度に優れるレーザー彫刻用樹脂組成物、レリーフ印刷版原版、それを用いたレリーフ印刷版の製版方法、並びに、レリーフ印刷版を提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(レーザー彫刻用樹脂組成物)
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物(以下、「樹脂組成物」とも称する。)は、(成分A)加水分解性シリル基及び/又はシラノール基を有する化合物と、(成分B)熱可塑性エラストマーと、(成分C)重合性化合物と、を含有することを特徴とする。なお、本明細書中、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上B以下」と同義である。
【0009】
本発明の樹脂組成物は、レーザー彫刻に供した際の彫刻感度が高く、彫刻カスのリンス性に優れるため、レリーフ層を形成し製版する時間を短縮できる。このような特徴を有する本発明の樹脂組成物は、レーザー彫刻が施されるレリーフ印刷版原版のレリーフ形成層用途以外にも、特に限定なく、他の用途にも広範囲に適用することができる。表面に凹凸や開口部を形成する他の材料、例えば、凹版、孔版、スタンプ等、レーザー彫刻により画像形成される各種印刷版や各種成形体の形成に適用できる。中でも、適切な支持体上に備えられるレリーフ形成層の形成に適用することが好ましい態様である。
【0010】
なお、本明細書では、レリーフ印刷版原版の説明に関し、バインダーポリマーとして成分Bを含有し、レーザー彫刻に供する画像形成層としての表面が平坦な層であり、かつ未架橋の層をレリーフ形成層と称し、前記レリーフ形成層を架橋した層を架橋レリーフ形成層と称し、これをレーザー彫刻して表面に凹凸を形成した層をレリーフ層と称する。
以下、レーザー彫刻用樹脂組成物の構成成分について説明する。
【0011】
<(成分A)加水分解性シリル基及び/又はシラノール基を有する化合物>
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物に用いられる成分Aにおける「加水分解性シリル基」とは、加水分解性を有するシリル基のことであり、加水分解性基としては、アルコキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子、アミド基、アセトキシ基、アミノ基、イソプロペノキシ基等を挙げることができる。シリル基は加水分解してシラノール基となり、シラノール基は脱水縮合してシロキサン結合が生成する。このような加水分解性シリル基又はシラノール基は式(1)で表されるものが好ましい。
【0012】
【化1】

【0013】
式(1)中、R1〜R3の少なくとも1つは、アルコキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子、アミド基、アセトキシ基、アミノ基、及び、イソプロペノキシ基よりなる群から選択される加水分解性基、又は、ヒドロキシ基を表す。残りのR1〜R3はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、又は、1価の有機置換基(例えば、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、アラルキル基を挙げることができる。)を表す。
式(1)中、ケイ素原子に結合する加水分解性基としては、特にアルコキシ基、ハロゲン原子が好ましく、アルコキシ基がより好ましい。アルコキシ基としては、リンス性と耐刷性の観点から、炭素数1〜30のアルコキシ基が好ましい。より好ましくは炭素数1〜15のアルコキシ基、更に好ましくは炭素数1〜5、特に好ましくは炭素数1〜3のアルコキシ基、最も好ましくはメトキシ基又はエトキシ基である。
また、ハロゲン原子として、F原子、Cl原子、Br原子、I原子が挙げられ、合成のしやすさ及び安定性の観点で、好ましくはCl原子及びBr原子が挙げられ、より好ましくはCl原子が挙げられる。
【0014】
成分Aは、式(1)で表される基を1つ以上有する化合物であることが好ましく、2つ以上有する化合物であることがより好ましい。特に加水分解性シリル基を2つ以上有する化合物が好ましく用いられる。すなわち、分子内に加水分解性基が結合したケイ素原子を2つ以上有する化合物が好ましく用いられる。成分A中に含まれる加水分解性基が結合したケイ素原子の数は、2〜6が好ましく、2又は3がより好ましい。
前記加水分解性基は1個のケイ素原子に1〜4個の範囲で結合することができ、式(1)中における加水分解性基の総個数は2又は3の範囲であることが好ましい。特に3つの加水分解性基がケイ素原子に結合していることが好ましい。加水分解性基がケイ素原子に2個以上結合するときは、それらは互いに同一であっても、異なっていてもよい。
【0015】
前記加水分解性基として好ましいアルコキシ基として、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基、フェノキシ基、ベンジルオキシ基などを挙げることができる。これらの各アルコキシ基を複数個組み合わせて用いてもよいし、異なるアルコキシ基を複数個組み合わせて用いてもよい。
アルコキシ基の結合したアルコキシシリル基としては、例えば、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリイソプロポキシシリル基、トリフェノキシシリル基などのトリアルコキシシリル基;ジメトキシメチルシリル基、ジエトキシメチルシリル基などのジアルコキシモノアルキルシリル基;メトキシジメチルシリル基、エトキシジメチルシリル基などのモノアルコキシジアルキルシリル基を挙げることができる。
【0016】
成分Aは、硫黄原子、エステル結合、ウレタン結合、エーテル結合、ウレア結合、又は、イミノ基を少なくとも有することが好ましい。中でも、成分Aは、架橋性の観点から、硫黄原子を含有することが好ましく、また、彫刻カスの除去性(リンス性)の観点から、アルカリ水で分解しやすいエステル結合、ウレタン結合又はエーテル結合(特にオキシアルキレン基に含まれるエーテル結合)を含有することが好ましい。硫黄原子を含有する成分Aは、加硫処理時に、加硫剤や加硫促進剤として機能し、成分Bの反応(架橋)を促進する場合があり、その結果、架橋レリーフ形成層及びレリーフ層の強度を向上させる。
また、本発明における成分Aは、エチレン性不飽和結合を有していない化合物であることが好ましい。成分Aは、重合性基として加水分解性シリル基及び/又はシラノール基のみを有するのが好ましい。
【0017】
本発明における成分Aは、複数の前記式(1)で表される基が二価の連結基を介して結合している化合物が挙げられ、このような二価の連結基としては、効果の観点からスルフィド基(−S−)、イミノ基(−N(R)−)、又は、ウレタン結合(−OCON(R)−又は−N(R)COO−)を有する連結基が好ましい。なお、Rは水素原子又は置換基を表す。Rにおける置換基としては、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、又は、アラルキル基が例示できる。
成分Aの合成方法としては、特に制限はなく、公知の方法により合成することができる。一例として、上記特定構造を有する連結基を含む成分Aの代表的な合成方法を示す。
【0018】
<連結基としてスルフィド基を有し、かつ加水分解性シリル基及び/又はシラノール基を有する化合物の合成法>
連結基としてスルフィド基を有する成分A(以下、適宜、「スルフィド連結基含有成分A」と称する。)の合成法は特には限定されないが、具体的には、例えば、ハロゲン化炭化水素基を有する成分Aと硫化アルカリの反応、メルカプト基を有する成分Aとハロゲン化炭化水素の反応、メルカプト基を有する成分Aとハロゲン化炭化水素基を有する成分Aの反応、ハロゲン化炭化水素基を有する成分Aとメルカプタン類の反応、エチレン性不飽和結合を有する成分Aとメルカプタン類の反応、エチレン性不飽和結合を有する成分Aとメルカプト基を有する成分Aの反応、エチレン性不飽和結合を有する化合物とメルカプト基を有する成分Aの反応、ケトン類とメルカプト基を有する成分Aの反応、ジアゾニウム塩とメルカプト基を有する成分Aの反応、メルカプト基を有する成分Aとオキシラン類との反応、メルカプト基を有する成分Aとオキシラン基を有する成分Aの反応、及び、メルカプタン類とオキシラン基を有する成分Aの反応、メルカプト基を有する成分Aとアジリジン類との反応等の合成方法が例示できる。
【0019】
<連結基としてイミノ基を有し、かつ加水分解性シリル基及び/又はシラノール基を有する化合物の合成法>
連結基としてイミノ基を有する成分A(以下、適宜、「イミノ連結基含有成分A」と称する。)の合成法は特には限定されないが、例えば、アミノ基を有する成分Aとハロゲン化炭化水素の反応、アミノ基を有する成分Aとハロゲン化炭化水素基を有する成分Aの反応、ハロゲン化炭化水素基を有する成分Aとアミン類の反応、アミノ基を有する成分Aとオキシラン類との反応、アミノ基を有する成分Aとオキシラン基を有する成分Aの反応、アミン類とオキシラン基を有する成分Aの反応、アミノ基を有する成分Aとアジリジン類との反応、エチレン性不飽和結合を有する成分Aとアミン類の反応、エチレン性不飽和結合を有する成分Aとアミノ基を有する成分Aの反応、エチレン性不飽和結合を有する化合物とアミノ基を有する成分Aの反応、アセチレン性不飽和結合を有する化合物とアミノ基を有する成分Aの反応、イミン性不飽和結合を有する成分Aと有機アルカリ金属化合物の反応、イミン性不飽和結合を有する成分Aと有機アルカリ土類金属化合物の反応、及び、カルボニル化合物とアミノ基を有する成分Aの反応等の合成方法が例示できる。
【0020】
<連結基としてウレタン結合(ウレイレン基)を有し、かつ加水分解性シリル基及び/又はシラノール基を有する化合物の合成法>
連結基としてウレイレン基を有する成分A(以下、適宜、「ウレイレン連結基含有成分A」と称する。)の合成法は特には限定されないが、具体的には、例えば、アミノ基を有する成分Aとイソシアン酸エステル類の反応、アミノ基を有する成分Aとイソシアン酸エステルを有する成分Aの反応、及び、アミン類とイソシアン酸エステルを有する成分Aの反応等の合成方法が例示できる。
【0021】
成分Aとしては、下記式(A−1)又は式(A−2)で表される化合物であることが好ましい。
【0022】
【化2】

(式(A−1)及び式(A−2)中、RBはエステル結合、アミド結合、ウレタン結合、ウレア結合、又は、イミノ基を表し、L1はn価の連結基を表し、L2は二価の連結基を表し、Ls1はm価の連結基を表し、L3は二価の連結基を表し、n及びmはそれぞれ独立に1以上の整数を表し、R1〜R3はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、又は、一価の有機置換基を表す。ただし、R1〜R3の少なくともいずれか1つは、アルコキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子、アミド基、アセトキシ基、アミノ基、及び、イソプロペノキシ基よりなる群から選択される加水分解性基、又は、ヒドロキシ基を表す。)
【0023】
前記式(A−1)及び式(A−2)におけるR1〜R3は、前記式(1)におけるR1〜R3と同義であり、好ましい範囲も同様である。
前記RBは、リンス性及び膜強度の観点から、エステル結合又はウレタン結合であることが好ましく、エステル結合であることがより好ましい。
前記L1〜L3における二価又はn価の連結基は、炭素原子、水素原子、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子よりなる群から選ばれた少なくとも1種の原子から構成された基であることが好ましく、炭素原子、水素原子、酸素原子及び硫黄原子よりなる群から選ばれた少なくとも1種の原子から構成された基であることがより好ましい。前記L1〜L3の炭素数は、2〜60であることが好ましく、2〜30であることがより好ましい。
前記Ls1におけるm価の連結基は、硫黄原子と、炭素原子、水素原子、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子よりなる群から選ばれた少なくとも1種の原子とから構成された基であることが好ましく、アルキレン基、又は、アルキレン基、スルフィド基及びイミノ基を2以上組み合わせた基であることがより好ましい。前記Ls1の炭素数は、2〜60であることが好ましく、6〜30であることがより好ましい。
前記n及びmはそれぞれ独立に、1〜10の整数であることが好ましく、2〜10の整数であることがより好ましく、2〜6の整数であることが更に好ましく、2であることが特に好ましい。
1のn価の連結基及び/若しくはL2の二価の連結基、又は、L3の二価の連結基は、彫刻カスの除去性(リンス性)の観点から、エーテル結合を有することが好ましく、オキシアルキレン基に含まれるエーテル結合を有することがより好ましい。
式(A−1)又は式(A−2)で表される化合物の中でも、架橋性等の観点から、式(A−1)において、L1のn価の連結基及び/又はL2の二価の連結基が硫黄原子を有する基であることが好ましい。
【0024】
本発明に適用しうる成分Aの具体例を以下に示す。例えば、ビニルトリクロロシラン、1,3−ビス(トリクロロシラン)プロパン、1,3−ビス(トリブロモシラン)プロパン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、メルカプトメチルトリメトキシシラン、ジメトキシ−3−メルカプトプロピルメチルシラン、2−(2−アミノエチルチオエチル)ジエトキシメチルシラン、3−(2−アセトキシエチルチオプロピル)ジメトキシメチルシラン、2−(2−アミノエチルチオエチル)トリエトキシシラン、ジメトキシメチル−3−(3−フェノキシプロピルチオプロピル)シラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、1,4−ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン、ビス(トリエトキシシリル)エタン、1,6−ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、1,8−ビス(トリエトキシシリル)オクタン、1,2−ビス(トリメトキシシリル)デカン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)アミン、ビス(トリメトキシシリルプロピル)ウレア、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−トリエトキシシリルプロピル(メタ)アクリレート、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、トリメチルシラノール、ジフェニルシランジオール、トリフェニルシラノール等を挙げることができる。その他にも、以下に示す化合物が好ましいものとして挙げられるが、本発明はこれらの化合物に制限されるものではない。
【0025】
【化3】

【0026】
【化4】

【0027】
【化5】

【0028】
【化6】

【0029】
前記各式中、Rは以下の構造から選択される部分構造を表す。分子内に複数のR及びR1が存在する場合、これらは互いに同じでも異なっていてもよく、合成適性上は、同一であることが好ましい。
【0030】
【化7】

【0031】
【化8】

【0032】
前記各式中、Rは以下に示す部分構造を表す。R1は前記したものと同義である。分子内に複数のR及びR1が存在する場合、これらは互いに同じでも異なっていてもよく、合成適性上は、同一であることが好ましい。
【0033】
【化9】

【0034】
成分Aは、適宜合成して得ることも可能であるが、市販品を用いることがコストの面から好ましい。成分Aとしては、例えば、信越化学工業(株)、東レ・ダウコーニング(株)、モメンティブパフォーマンスマテリアルズ(株)、チッソ(株)等から市販されているシラン製品、シランカップリング剤などの市販品がこれに相当するため、本発明の樹脂組成物に、これら市販品を、目的に応じて適宜選択して使用してもよい。
【0035】
本発明における成分Aとして、加水分解性シリル基及び/又はシラノール基を有する化合物を1種用いて得られた部分加水分解縮合物、又は、2種以上用いて得られた部分共加水分解縮合物を用いることができる。以下、これらの化合物を「部分(共)加水分解縮合物」と称することがある。
部分(共)加水分解縮合物前駆体としてのシラン化合物の中でも、汎用性、コスト面、膜の相溶性の観点から、ケイ素上の置換基としてメチル基及びフェニル基から選択される置換基を有するシラン化合物であることが好ましく、具体的には、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシランが好ましい前駆体として例示される。
この場合、部分(共)加水分解縮合物としては、上記したようなシラン化合物の2量体(シラン化合物2モルに水1モルを作用させてアルコール2モルを脱離させ、ジシロキサン単位としたもの)〜100量体、好ましくは2〜50量体、更に好ましくは2〜30量体としたものが好適に使用できるし、2種以上のシラン化合物を原料とする部分共加水分解縮合物を使用することも可能である。
【0036】
なお、このような部分(共)加水分解縮合物は、シリコーンアルコキシオリゴマーとして市販されているものを使用してもよく(例えば、信越化学工業(株)などから市販されている。)、また、常法に基づき、加水分解性シラン化合物に対し当量未満の加水分解水を反応させた後に、アルコール、塩酸等の副生物を除去することによって製造したものを使用してもよい。製造に際しては、前駆体となる原料の加水分解性シラン化合物として、例えば、上記したようなアルコキシシラン類やアシロキシシラン類を使用する場合は、塩酸、硫酸等の酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、トリエチルアミン等のアルカリ性有機物質等を反応触媒として部分加水分解縮合すればよく、クロロシラン類から直接製造する場合には、副生する塩酸を触媒として水及びアルコールを反応させればよい。
【0037】
本発明の樹脂組成物における成分Aは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。本発明の樹脂組成物中に含まれる成分Aの含有量は、固形分換算で、0.1〜80質量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは1〜40質量%の範囲であり、最も好ましくは5〜30質量%の範囲である。
【0038】
<(成分B)熱可塑性エラストマー>
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、(成分B)熱可塑性エラストマーを含有する。 熱可塑性エラストマーは、高温時では可塑化、流動し、常温ではゴム弾性を示す材料である。熱可塑性エラストマーは常温において、微細に分散した多相構造を形成する。大部分の熱可塑性エラストマーでは、各相はブロック共重合又はグラフト共重合で化学的に結合している。化学的結合がない場合には十分に微細な分散状態を形成している。成分Bとしては、各相が化学的に結合した熱可塑性エラストマーが好ましく、ブロック共重合体がより好ましい。ブロック共重合体の分子構造は、ポリエーテル又はゴム分子のようなソフトセグメントと、常温付近では加硫ゴムと同じく塑性変形を示さないハードセグメントからなる。そして、該ハードセグメントの相とソフトセグメントの相とが微細に分散した多相構造を形成する。ハードセグメントが形成する相としては凍結相、結晶相、水素結合、イオン架橋など種々のタイプが存在する。
【0039】
このような熱可塑性エラストマーは、常温でゴム弾性を示す。そのため、印刷時に被印刷物の凹凸に応じて変形可能なためインキ着肉性に優れ、且つ被印刷物から離れた後は元の形状が復元されるため耐刷性に優れる。更に、熱可塑性エラストマーは、加熱によって流動性が発現することから、素材の混合など取扱いが容易である。以上の理由から、熱可塑性エラストマーは、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物を、例えば、フレキソ版などの可撓性を必要とするレリーフ印刷版の製造に適用する場合に好適である。
【0040】
レリーフ印刷版の耐刷性及び硬度の観点から、熱可塑性エラストマー中におけるハードセグメントの割合は、10〜70質量%が好ましく、15〜60質量%が好ましい。
熱可塑性エラストマーは、柔軟性とゴム弾性発現の観点から、ガラス転移温度(Tg)が20℃以下のポリマーであることが好ましく、0℃以下のポリマーであることがより好ましい。熱可塑性エラストマーは、耐刷性の観点から、融点(Tm)が70℃以上のポリマーであることが好ましく、100℃以上のポリマーであることがより好ましい。
【0041】
熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系熱可塑性エラストマー、エステル系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、アミド系熱可塑性エラストマー、シリコーン系熱可塑性エラストマー、塩ビ系熱可塑性エラストマー、ニトリル系熱可塑性エラストマー、フッ素系熱可塑性エラストマー、塩素化ポリエチレン架橋体等を挙げることができ、中でも、スチレン系熱可塑性エラストマー、エステル系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマーが好ましく、スチレン系熱可塑性エラストマーがより好ましい。なお、本発明における熱可塑性エラストマーには、天然ゴムは含まれない。これらの熱可塑性エラストマーのレーザー彫刻感度を向上させる目的で、エラストマーの主鎖に、カルバモイル基、カーボネート基等の易分解性官能基を導入したものを用いることもできる。また、熱可塑性ポリマーと前記熱分解性ポリマーと混合して用いてもよい。
【0042】
(スチレン系熱可塑性エラストマー)
スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系モノマーに由来するモノマー単位を主体とする重合体ブロック(ハードセグメント)と、共役ジエン化合物に由来するモノマー単位を主体とするブロック(ソフトセグメント)とのブロック共重合体、及び、該ブロック共重合体の共役ジエン化合物に由来するモノマー単位を水素添加したものを例示することができる。
スチレン系モノマーとしては、スチレン及び少なくとも1つの置換基(ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基)により任意の位置で置換されたスチレン誘導体が挙げられる。具体的には、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン又はt−ブチルスチレンが挙げられ、中でもスチレンが好ましい。
共役ジエン化合物としては、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、2,3−ジメチルブタジエンが挙げられ、中でもブタジエン、イソプレンが好ましい。
これらは1種類のみを使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
スチレン系熱可塑性エラストマーとして、具体的には、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SIS)、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン/プロピレン−スチレン共重合体(SEPS)又はスチレン−エチレン−エチレン/プロピレン−スチレン共重合体(SEEPS)等が挙げられ、中でも、SIS、SBS、SEBSが好ましい。
【0043】
(ポリエステル系熱可塑性エラストマー)
ポリエステル系熱可塑性エラストマーとしては、式(I)で表される構成単位よりなるハードセグメントと、式(II)で表される構成単位よりなるソフトセグメントとがブロック共重合したブロックコポリマーが好ましく例示される。
【0044】
【化10】

【0045】
式(I)及び式(II)中、Dは分子量250以下の脂肪族の2価の残基を表し、炭素数1〜20の直鎖又は分岐を有するアルキレン基が好ましく、炭素数2〜6の直鎖のアルキレン基がより好ましい。
1は分子量が300以下の芳香環を含む2価の残基を表し、置換基を有していてもよいフェニレン基が好ましい。該置換基としては、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数1〜10のアルコキシ基、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、アミノ基、炭素数1〜10のアルキル基を有するアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基が挙げられる。
Gは平均分子量が400〜3,500のポリ(アルキレンオキサイド)グリコールから両末端のヒドロキシ基を除いた2価の残基を表す。
2は分子量が300以下の2価の残基を表し、炭素数1〜30のアルキレン基、炭素数6〜30のアリーレン基を表す。R2はR1における前記置換基を有していてもよい。
【0046】
更に本発明においては、式(I’)で表される構成単位よりなるハードセグメントと式(II’)で表される構成単位よりなるソフトセグメントとがブロック共重合したブロックコポリマーがより好ましい。
【0047】
【化11】

【0048】
式(I’)中、pは1〜4の整数を表し、素材入手性の観点から、2又は4であることが好ましい。
式(II’)中、qは1〜10の整数を表し、素材入手性の観点から、2〜4であることが好ましい。
rは1〜500の整数を表し、柔軟性とゴム弾性発現の観点から、5〜100であることが好ましい。
【0049】
本発明において、特に前記式(I’)で表される構成単位よりなる芳香族ポリエステルがテトラメチレンテレフタレートであり、前記式(II’)で表される構成単位よりなる脂肪族ポリエーテルがアルキレンエーテルテレフタレートであることが好ましい。具体的にはポリブチレンテレフタレート/ポリテトラメチレンエーテルグリコールテレフタレートブロック共重合体などが挙げられる。
【0050】
(オレフィン系熱可塑性エラストマー)
オレフィン系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントであるポリオレフィン樹脂と、ソフトセグメントであるオレフィン系エラストマーとが多相を形成したものである。
ハードセグメントであるポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンが好ましい。
ソフトセグメントであるオレフィン系エラストマーとしては、エチレンに由来するモノマー単位と、炭素数が3以上のα−オレフィン単位に由来する構成単位、からなる共重合体がより好ましい。
炭素数が3以上のα−オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−オクタデセンなどのα−オレフィンから誘導される構成単位が挙げられる。
オレフィン系エラストマーの具体例として、エチレン−プロピレンランダム共重合体、エチレン−ブテンランダム共重合体、エチレン−ヘキセンランダム共重合体、エチレン−オクテンランダム共重合体、エチレン−デセンランダム共重合体、エチレン−4−メチルペンテンランダム共重合体等が挙げられ、中でもエチレン−プロピレンランダム共重合体、エチレン−ブテンランダム共重合体が好ましい。
【0051】
(エチレン−(メタ)アクリル酸エステル系熱可塑性エラストマー)
エチレン−(メタ)アクリル酸エステル系熱可塑性エラストマーは、エチレンを主体とする重合体ブロック(ハードセグメント)と、(メタ)アクリル酸エステルに由来する重合体ブロック(ソフトセグメント)とのブロック共重合体を例示することができる。
(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸n−デシル、(メタ)アクリル酸イソデシルなどが挙げられる。これらの構成単位は、単独で含有されていてもよく、少なくとも2種が含有されていてもよい。
また、前記エチレン及び(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位の他に、一酸化炭素に由来する構成単位を含むターポリマーもエチレン−(メタ)アクリル酸エステル系熱可塑性エラストマーとして好ましい。
エチレン−(メタ)アクリル酸エステル系熱可塑性エラストマーの具体例として、エチレン/アクリル酸n−ブチル/一酸化炭素共重合体、エチレン/アクリル酸デシル/一酸化炭素共重合体等が挙げられ、中でもエチレン/アクリル酸n−ブチル/一酸化炭素共重合体が好ましい。
【0052】
(ポリアミド系熱可塑性エラストマー)
ポリアミド系熱可塑性エラストマーとしては、ポリアミドをハードセグメントに、ガラス転移温度の低いポリエステルジオール又はポリエーテルジオールをソフトセグメントに用いたマルチブロックコポリマーが例示される。
ここで、ポリアミド成分としては、ナイロン−6、−66、−610、−11、−12などが挙げられ、中でもナイロン−6、ナイロン−12が好ましい。
ポリエーテルジオールとしては、ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール、ポリ(オキシプロピレン)グリコールなどが挙げられる。
ポリエステルジオールとしては、ポリ(エチレン−1,4−アジペート)グリコール、ポリ(ブチレン−1,4−アジペート)グリコール、ポリテトラメチレングリコールなどが挙げられる。ポリアミド系エラストマーの具体例として、ナイロン12/ポリテトラメチレングリコールブロック共重合体などが挙げられる。
【0053】
本発明において、熱可塑性エラストマーは、1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。熱可塑性エラストマーの好ましい含有量は、塗膜の形態保持性と彫刻感度のバランスから、全固形分中、2〜95質量%であることが好ましく、より好ましくは50〜80質量%である。
【0054】
形態保持性、レリーフ形成層を調製する際の溶媒への溶解性の観点から、熱可塑性エラストマーの重量平均分子量は、5,000〜500,000が好ましく、10,000〜400,000がより好ましく、15,000〜300,000が更に好ましい。
【0055】
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物を調製する際に用いる溶媒は、成分Aとの反応性の観点から、主として非プロトン性の有機溶媒が好ましい。プロトン性有機溶媒と併用する場合には、非プロトン性の有機溶媒/プロトン性有機溶媒=100/0〜50/50(質量比)が好ましく、100/0〜70/30がより好ましく、100/0〜90/10が更に好ましい。
非プロトン性有機溶媒としては、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、トルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシドが挙げられる。
プロトン性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオールが挙げられる。
【0056】
<(成分C)重合性化合物>
レリーフ形成層中に架橋構造を形成する観点から、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、(成分C)重合性化合物を含有する。成分Cは、加水分解性シリル基及び/又はシラノール基を有していない化合物が好ましい。
重合性化合物は、エチレン性不飽和基を少なくとも1個、好ましくは2個以上、より好ましくは2〜6個、更に好ましくは2個有する化合物の中から任意に選択することができる。重合性化合物としては、特開2009−255510号公報、特開2009−204962号公報の段落0098〜0124に記載の重合性化合物を例示できる。
【0057】
以下、エチレン性不飽和基を分子内に1つ有する単官能モノマー、及び、エチレン性不飽和基をを分子内に2個以上有する多官能モノマーについて説明する。
本発明におけるレリーフ形成層中には、架橋構造を形成することが必要であることから、多官能モノマーが好ましく使用される。これらの多官能モノマーの分子量は、120〜3,000であることが好ましく、200〜2,000であることがより好ましい。
単官能モノマー及び多官能モノマーとしては、不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸等)と多価アルコール化合物とのエステル、不飽和カルボン酸と多価アミン化合物とのアミド等が挙げられる。
本発明においては、炭素数1〜20のアルキレン基を有するジ(メタ)アクリレートが好ましく、直鎖又は分岐を有する炭素数2〜10のアルキレン基を有するジ(メタ)アクリレートがより好ましく、直鎖の炭素数3〜6のアルキレン基を有するジ(メタ)アクリレートが更に好ましい。前記アルキレン基は置換基を有していてもよく、該置換基としては、ヒドロキシ基が挙げられる。
【0058】
本発明においては、重合性化合物として、彫刻感度向上の観点から、分子内に硫黄原子を有する化合物を用いてもよい。
このように分子内に硫黄原子を有する重合性化合物としては、彫刻感度向上の観点から、特に、2つ以上のエチレン性不飽和結合を有し、そのうち2つのエチレン性不飽和結合間を連結する部位に炭素−硫黄結合を有する重合性化合物(以下、適宜、「含硫黄多官能モノマー」と称する。)を用いることが好ましい。
本発明における含硫黄多官能モノマー中の炭素−硫黄結合を含んだ官能基としては、スルフィド、ジスルフィド、スルホキシド、スルホニル、スルホンアミド、チオカルボニル、チオカルボン酸、ジチオカルボン酸、スルファミン酸、チオアミド、チオカルバメート、ジチオカルバメート、又はチオ尿素を含む官能基が挙げられる。
また、含硫黄多官能モノマーにおける2つのエチレン性不飽和結合間を連結する炭素−硫黄結合を含有する連結基としては、−C−S−、−C−SS−、−NH(C=S)O−、−NH(C=O)S−、−NH(C=S)S−、及び−C−SO2−から選択される少なくとも1つのユニットであることが好ましい。
また、含硫黄多官能モノマーの分子内に含まれる硫黄原子の数は1つ以上であれば特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、彫刻感度と塗布溶剤に対する溶解性のバランスの観点から、1〜10個が好ましく、1〜5個がより好ましく、1〜2個が更に好ましい。
含硫黄多官能モノマーの分子量としては、形成される膜の柔軟性の観点から、好ましくは120〜3,000であり、より好ましくは120〜1,500である。
【0059】
本発明の樹脂組成物に、重合性化合物を用いることにより、レリーフ形成層における膜物性、例えば、脆性、柔軟性などを調整することもできる。
また、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物中の重合性化合物の含有量は、架橋膜の柔軟性や脆性の観点から、固形分換算で、5〜60質量%が好ましく、8〜30質量%の範囲がより好ましい。
【0060】
<(成分D)アルコール交換反応触媒>
本発明の樹脂組成物は、成分Aの架橋構造形成を促進するため、(成分D)アルコール交換反応触媒を含有することが好ましい。アルコール交換反応触媒は、シランカップリング反応において一般に用いられる反応触媒であれば、限定なく適用できる。以下、代表的なアルコール交換反応触媒である(成分D−1)酸又は塩基性触媒、及び、(成分D−2)金属錯体触媒について順次説明する。
【0061】
(成分D−1)酸又は塩基性触媒
触媒としては、酸又は塩基性化合物をそのまま用いるか、又は水若しくは有機溶剤などの溶媒に溶解させた状態のもの(以下、それぞれ酸性触媒、塩基性触媒とも称する。)を用いる。溶媒に溶解させる際の濃度については特に限定はなく、用いる酸又は塩基性化合物の特性、触媒の所望の含有量などに応じて適宜選択すればよい。
酸性触媒としては、塩酸などのハロゲン化水素、硝酸、硫酸、亜硫酸、硫化水素、過塩素酸、過酸化水素、炭酸、蟻酸や酢酸などのカルボン酸、そのRCOOHで表される構造式のRを他元素又は置換基によって置換した置換カルボン酸、ベンゼンスルホン酸などのスルホン酸、リン酸、ヘテロポリ酸、無機固体酸などが挙げられる。
塩基性触媒としては、アンモニア水などのアンモニア性塩基、アミン類、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属アルコキシド、アルカリ土類酸化物、四級アンモニウム塩化合物、四級ホスホニウム塩化合物などが挙げられる。
【0062】
アミン類としては、(a)ヒドラジン等の水素化窒素化合物;(b)脂肪族アミン、脂環式アミン又は芳香族アミン;(c)縮合環を含む環状アミン;(d)アミノ酸類、アミド類、アルコールアミン類、エーテルアミン類、イミド類又はラクタム類等の含酸素アミン;(e)S、Se等のヘテロ原子を有する含ヘテロ元素アミン;が挙げられる。
【0063】
(b)の脂肪族アミンとしては、式(D−1)で表されるアミン化合物が好ましい。
N(Rd1)(Rd2)(Rd3) (D−1)
式(D−1)中、Rd1〜Rd3はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10の直鎖又は分岐を有するアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、環員数3〜10の硫黄原子又は酸素原子を含む複素環(チオフェン)を表し、前記アルキル基、シクロアルキル基は少なくとも1つの不飽和結合を有していてもよい。
式(D−1)で表されるアミン化合物は置換基を有していてもよく、該置換基としては、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、アミノ基、炭素数1〜6のアルキル基を有する(ジ)アルキルアミノ基、ヒドロキシ基が挙げられる。
前記Rd1〜Rd3のうちの2以上の基が結合してC=N結合を形成してもよい。C=N結合を有するアミン化合物として、グアニジン、1,1,3,3−テトラメチルグアニジンが挙げられる。
(b)の脂環式アミンとしては、前記式(D−1)で表される化合物中のRd1〜Rd3のうちの2以上の基が結合した環骨格に窒素原子を含む脂環式アミンが挙げられる。脂環式アミンとしては、例えば、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、キヌクリジンが挙げられる。
(b)の芳香族アミンとしては、イミダゾール、ピロール、ピリジン、ピリダジン、ピラジン、プリン、キノリン、キナゾリンが挙げられる。芳香族アミンは置換基を有していてもよく、該置換基としては、式(D−1)における置換基が挙げられる。
また、同一又は異なる2個以上の脂肪族アミン、脂環式アミン、芳香族アミンが結合して、ジアミン、トリアミン等のポリアミンを形成してもよい。ポリアミンとしては、脂肪族アミン同士が結合したポリアミンが好ましく、例えば、ヘキサメチレンテトラミン、ポリエチレンイミン(エポミン、日本触媒(株)製)が挙げられる。本発明において、D成分として、ポリアミンが好ましく、ポリエチレンイミンがより好ましい。
【0064】
前記(c)縮合環を含む環状アミンとは、少なくとも1つの窒素原子が縮合環を形成する環骨格に含まれる環状アミンであり、例えば、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンが挙げられ、中でも、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンが好ましい。
前記(d)アミノ酸類、アミド類、アルコールアミン類、エーテルアミン類、イミド類又はラクタム類等の含酸素アミンとしては、フタルイミド、2,5−ピペラジンジオン、マレイミド、カプロラクタム、ピロリドン、モルホリン、グリシン、アラニン、フェニルアラニンが挙げられる。
なお、(c)及び(d)は式(D−1)で表される化合物における前記置換基を有していてもよく、中でも炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。
本発明において、アミン化合物は、(b)、(c)が好ましい。(b)としては、脂肪族アミンが好ましく、脂肪族アミンのポリアミンがより好ましく、ポリエチレンイミンが更に好ましい。(c)としては、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンが好ましい。
【0065】
熱架橋後の膜強度の観点から、アミンとして好ましいpKaH(共役酸の酸解離定数)の範囲としては7以上が好ましく、より好ましくは10以上である。
【0066】
前記酸又は塩基性触媒の中でも、膜中でのアルコール交換反応を速やかに進行させる観点で、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ピリジニウムp−トルエンスルホネート、ドデシルベンゼンスルホン酸、リン酸、ホスホン酸、酢酸、ポリエチレンイミン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン、1,1,3,3−テトラメチルグアニジンが好ましく、特に好ましくは、リン酸、ポリエチレンイミン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンである。
【0067】
(D−2)金属錯体触媒
本発明においてアルコール交換反応触媒として用いられる(D−2)金属錯体触媒は、好ましくは、周期律表の2A、3B、4A及び5A族から選ばれる金属元素とβ−ジケトン、ケトエステル、ヒドロキシカルボン酸又はそのエステル、アミノアルコール、エノール性活性水素化合物の中から選ばれるオキソ又はヒドロキシ酸素化合物から構成されるものである。
更に、構成金属元素の中では、Mg、Ca、St、Baなどの2A族元素、Al、Gaなどの3B族元素、Ti、Zrなどの4A族元素及びV、Nb及びTaなどの5A族元素が好ましく、それぞれ触媒効果の優れた錯体を形成する。その中でもZr、Al及びTiから得られる錯体が優れており、好ましい(オルトチタン酸エチルなど)。
上記金属錯体の配位子を構成するオキソ又はヒドロキシ酸素含有化合物は、本発明においては、アセチルアセトン、アセチルアセトン(2,4−ペンタンジオン)、2,4−ヘプタンジオンなどのβジケトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸ブチルなどのケトエステル類、乳酸、乳酸メチル、サリチル酸、サリチル酸エチル、サリチル酸フェニル、リンゴ酸、酒石酸、酒石酸メチルなどのヒドロキシカルボン酸及びそのエステル、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン、4−ヒドロキシ−2−ペンタノン、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン、4−ヒドロキシ−2−ヘプタノンなどのケトアルコール類、モノエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N−メチル−モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアミノアルコール類、メチロールメラミン、メチロール尿素、メチロールアクリルアミド、マロン酸ジエチルエステルなどのエノール性活性化合物、アセチルアセトン(2,4−ペンタンジオン)のメチル基、メチレン基又はカルボニル炭素に置換基を有する化合物が挙げられる。
【0068】
好ましい配位子はアセチルアセトン誘導体であり、アセチルアセトン誘導体は、本発明においては、アセチルアセトンのメチル基、メチレン基又はカルボニル炭素に置換基を有する化合物を指す。アセチルアセトンのメチル基に置換する置換基としては、いずれも炭素数が1〜3の直鎖又は分岐のアルキル基、アシル基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基であり、アセチルアセトンのメチレン基に置換する置換基としてはカルボキシル基、いずれも炭素数が1〜3の直鎖又は分岐のカルボキシアルキル基及びヒドロキシアルキル基であり、アセチルアセトンのカルボニル炭素に置換する置換基としては炭素数が1〜3のアルキル基であってこの場合はカルボニル酸素には水素原子が付加して水酸基となる。
【0069】
好ましいアセチルアセトン誘導体の具体例としては、アセチルアセトン、エチルカルボニルアセトン、n−プロピルカルボニルアセトン、i−プロピルカルボニルアセトン、ジアセチルアセトン、1―アセチル−1−プロピオニル−アセチルアセトン、ヒドロキシエチルカルボニルアセトン、ヒドロキシプロピルカルボニルアセトン、アセト酢酸、アセトプロピオン酸、ジアセト酢酸、3,3−ジアセトプロピオン酸、4,4−ジアセト酪酸、カルボキシエチルカルボニルアセトン、カルボキシプロピルカルボニルアセトン、ジアセトンアルコールが挙げられ、中でも、アセチルアセトン及びジアセチルアセトンが好ましい。該アセチルアセトン誘導体と上記金属元素の錯体は、金属元素1個当たりにアセチルアセトン誘導体が1〜4分子配位する単核錯体であり、金属元素の配位可能の手がアセチルアセトン誘導体の配位可能結合手の数の総和よりも多い場合には、水分子、ハロゲンイオン、ニトロ基、アンモニオ基など通常の錯体に汎用される配位子が配位してもよい。
【0070】
好ましい金属錯体の例としては、トリス(アセチルアセトナト)アルミニウム錯塩、ジ(アセチルアセトナト)アルミニウム・アコ錯塩、モノ(アセチルアセトナト)アルミニウム・クロロ錯塩、ジ(ジアセチルアセトナト)アルミニウム錯塩、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、環状アルミニウムオキサイドイソプロピレート、トリス(アセチルアセトナト)バリウム錯塩、ジ(アセチルアセトナト)チタニウム錯塩、トリス(アセチルアセトナト)チタニウム錯塩、ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナト)チタニウム錯塩、ジルコニウムトリス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムトリス(安息香酸)錯塩、等が挙げられる。これらは水系塗布液での安定性及び、加熱乾燥時のゾルゲル反応でのゲル化促進効果に優れているが、中でも、特にエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、ジ(アセチルアセトナト)チタニウム錯塩、ジルコニウムトリス(エチルアセトアセテート)が好ましい。
【0071】
本発明の樹脂組成物には、(D)アルコール交換反応触媒を1種のみ用いてもよく、2種以上併用してもよい。樹脂組成物における(D)アルコール交換反応触媒の含有量は、レリーフ形成層の全固形分中、0.01〜20質量%であることが好ましく、0.1〜10質量%であることがより好ましい。
【0072】
<(成分E)重合開始剤>
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物をレリーフ形成層作製に用いる場合には、更に(成分E)重合開始剤を含有することが好ましい。成分Eは、成分Cの付加重合を促進するラジカル重合開始剤が好ましく、特開2008−63554号公報の段落0074〜0118に記載されている化合物を好ましく例示できる。
ラジカル重合開始剤としては、芳香族ケトン類、オニウム塩化合物、有機過酸化物、チオ化合物、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、ケトオキシムエステル化合物、ボレート化合物、アジニウム化合物、メタロセン化合物、活性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する化合物、アゾ系化合物等が挙げられる。中でも彫刻感度と、レリーフ印刷版原版のレリーフ形成層に適用した際にはレリーフエッジ形状を良好とするといった観点から、有機過酸化物又はアゾ系化合物がより好ましく、有機過酸化物が特に好ましい。
有機過酸化物としては、特開2008−63554号公報、特開2008−233244号公報に記載のものが好ましく、t−ブチルペルオキシベンゾエートがより好ましい。
【0073】
また、好ましい併用成分として、有機過酸化物と光熱変換剤とを組み合わせて用いることで、彫刻感度が極めて高くなるのでより好ましく、有機過酸化物と光熱変換剤であるカーボンブラックとを組み合わせて用いた態様が最も好ましい。
これは、有機過酸化物を用いてレリーフ形成層を熱架橋により硬化させる際、ラジカル発生に関与しない未反応の有機過酸化物が残存するが、残存した有機過酸化物は、自己反応性の添加剤として働き、レーザー彫刻時に発熱的に分解する。その結果、照射されたレーザーエネルギーに発熱分が加算されるので彫刻感度が高くなると推定される。
なお、光熱変換剤の説明において記述したが、この効果は、光熱変換剤としてカーボンブラックを用いる場合に著しい。これは、カーボンブラックから発生した熱が有機過酸化物にも伝達される結果、カーボンブラックだけでなく有機過酸化物からも発熱し、成分B等の分解に使用されるべき熱エネルギーの発生が相乗的に生じるためと考えている。
【0074】
重合開始剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用することも可能である。本発明の樹脂組成物中の重合開始剤の含有量は、耐刷性の観点から、レリーフ形成層の固形分全質量に対し0.01〜10質量%が好ましく、0.1〜3質量%がより好ましい。
【0075】
<(成分F)光熱変換剤>
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物は、更に、光熱変換剤を含有することが好ましい。光熱変換剤は、レーザーの光を吸収し発熱することで、レーザー彫刻時の硬化物の熱分解を促進すると考えられる。このため、彫刻に用いるレーザー波長の光を吸収する光熱変換剤を選択することが好ましい。
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物を用いて製造したレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版を、700〜1,300nmの赤外線を発するレーザー(YAGレーザー、半導体レーザー、ファイバーレーザー、面発光レーザー等)を光源としてレーザー彫刻に用いる場合に、光熱変換剤として、700〜1,300nmに極大吸収波長を有する化合物を用いることが好ましい。光熱変換剤としては、種々の染料又は顔料が用いられる。
【0076】
光熱変換剤のうち、染料としては、市販の染料及び例えば「染料便覧」(有機合成化学協会編集、昭和45年刊)等の文献に記載されている公知のものが利用できる。具体的には、700〜1,300nmに極大吸収波長を有するものが挙げられ、アゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、ナフトキノン染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、カルボニウム染料、ジインモニウム化合物、キノンイミン染料、メチン染料、シアニン染料、スクワリリウム色素、ピリリウム塩、金属チオレート錯体等の染料が好ましく挙げられる。本発明において好ましく用いられる染料としては、ヘプタメチンシアニン色素等のシアニン系色素、ペンタメチンオキソノール色素等のオキソノール系色素、フタロシアニン系色素及び特開2008−63554号公報の段落0124〜0137に記載の染料を挙げることができる。
【0077】
本発明において使用される光熱変換剤のうち、顔料としては、市販の顔料及びカラーインデックス(C.I.)便覧、「最新顔料便覧」(日本顔料技術協会編、1977年刊)、「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)、「印刷インキ技術」CMC出版、1984年刊)に記載されている顔料が利用できる。また、顔料としては、特開2009−178869号公報の段落0122〜0125に記載の顔料が例示できる。
これらの顔料のうち、好ましいものはカーボンブラックである。カーボンブラックは、組成物中における分散性などが安定である限り、ASTMによる分類のほか、用途の如何に拘らずいずれも使用可能である。カーボンブラックには、例えば、ファーネスブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、アセチレンブラックなどが含まれる。なお、カーボンブラックなどの黒色着色剤は、分散を容易にするため、必要に応じて分散剤を用い、予めニトロセルロースやバインダーなどに分散させたカラーチップやカラーペーストとして使用することができ、このようなチップやペーストは市販品として容易に入手できる。また、カーボンブラックとしては、特開2009−178869号公報の段落0130〜0134に記載されたものが例示できる。
【0078】
レーザー彫刻用樹脂組成物中における光熱変換剤の含有量は、その分子固有の分子吸光係数の大きさにより大きく異なるが、該樹脂組成物の固形分全質量の0.01〜30質量%の範囲が好ましく、0.05〜20質量%がより好ましく、0.1〜10質量%が特に好ましい。
【0079】
<その他の成分>
本発明の樹脂組成物は、成分A〜成分Fの他に、本発明の効果を損なわない限りにおいて目的に応じて種々の化合物を併用することができる。本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物には、上記成分Bに加え、成分Bに包含されない公知のバインダーポリマーを併用することができる。例えば、レーザー彫刻感度の観点からは、露光又は加熱により熱分解する部分構造を含むポリマーが好ましい。また、例えば、柔軟で可撓性を有する膜形成が目的とされる場合には、軟質樹脂が選択される。更に、レリーフ形成層用組成物の調製の容易性、得られたレリーフ印刷版における油性インクに対する耐性向上の観点から、親水性又は親アルコール性ポリマーを使用することが好ましい。これらの成分は、特開2008−163081号公報に記載されている。
【0080】
また、ポリ乳酸などのヒドロキシカルボン酸ユニットからなるポリエステルを好ましく用いることができる。このようなポリエステルとしては、具体的には、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、乳酸系ポリマー、ポリグリコール酸(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(ブチレンコハク酸)、これらの誘導体又は混合物よりなる群から選択されるものが好ましい。
【0081】
側鎖に炭素−炭素不飽和結合をもつポリマーとしては、前記の本発明で適用可能なバインダーポリマーの骨格に、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、スチリル基、ビニルエーテル基のような炭素−炭素不飽和結合を側鎖に導入することで得られる。
このように、レリーフ印刷版の適用用途に応じた物性を考慮し、目的に応じたバインダーポリマーを選択し、当該バインダーポリマーの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0082】
本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物には、ゴムの分野で通常用いられている各種添加剤を、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜配合することができる。例えば、加硫剤、充填剤、可塑剤、ワックス、プロセス油、有機酸、金属酸化物、オゾン分解防止剤、老化防止剤、熱重合防止剤、着色剤等が挙げられ、これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0083】
プロセス油を使用する場合、例えば芳香族系プロセス油、ナフテン系プロセス油、パラフィン系プロセス油を挙げることができる。その添加量は、成分B100質量部あたり1〜70質量部が好ましい。
有機酸は金属塩として、常套の加硫剤と組み合わせて、加硫促進のための助剤として使用することができる。有機酸としては例えば、ステアリン酸、オレイン酸、ムラスチン酸を挙げることができる。併用される金属源としては酸化亜鉛(亜鉛華)、酸化マグネシウム等の金属酸化物を挙げることができる。これらは加硫工程において、ゴム中で有機酸と金属酸化物が金属塩を形成し、硫黄等の加硫剤の活性化を促すとされている。このような金属塩を系中で形成させるための金属酸化物の添加量は、ゴム成分(成分B)100質量部あたり0.1〜10質量部が好ましく、2〜10質量部がより好ましい。
有機酸の添加量は、ゴム成分(成分B)100質量部あたり0.1〜5質量部が好ましく、0.1〜3質量部がより好ましい。
【0084】
(レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版)
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の第1の実施態様は、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を有する。
また、本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の第2の実施態様は、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を架橋した架橋レリーフ形成層を有する。 本発明において「レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版」とは、レーザー彫刻用樹脂組成物からなる架橋性を有するレリーフ形成層が、架橋される前の状態、及び、光又は熱により硬化された状態の両方又はいずれか一方のものをいう。本発明において「レリーフ形成層」とは、架橋される前の状態の層をいい、すなわち、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物からなる層であり、必要に応じ、乾燥が行われていてもよい。
本発明において「架橋レリーフ形成層」とは、前記レリーフ形成層を架橋した層をいう。前記架橋は、熱及び/又は光により行われることが好ましい。また、前記架橋は樹脂組成物が硬化される反応であれば特に限定されず、成分A同士や成分C同士の反応による架橋構造を含む概念であるが、成分A及び/又は成分Cと成分Bとが反応して架橋構造を形成することが好ましい。
架橋レリーフ形成層を有する印刷版原版をレーザー彫刻することにより「レリーフ印刷版」が作製される。
また、本発明において「レリーフ層」とは、レリーフ印刷版におけるレーザーにより彫刻された層、すなわち、レーザー彫刻後の前記架橋レリーフ形成層をいう。
【0085】
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版は、前記のような成分を含有するレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を有する。(架橋)レリーフ形成層は、支持体上に設けられることが好ましい。
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版は、必要により更に、支持体と(架橋)レリーフ形成層との間に接着層を、また、(架橋)レリーフ形成層上にスリップコート層、保護フィルムを有していてもよい。
【0086】
<レリーフ形成層>
レリーフ形成層は、前記本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物からなる層である。本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版としては、成分A又は成分Cにより架橋性の機能を付与したレリーフ形成層を有するものが好ましい。
【0087】
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版によるレリーフ印刷版の作製態様としては、レリーフ形成層を架橋させて架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版とした後、架橋レリーフ形成層(硬質のレリーフ形成層)をレーザー彫刻することによりレリーフ層を形成してレリーフ印刷版を作製する態様であることが好ましい。レリーフ形成層を架橋することにより、印刷時におけるレリーフ層の摩耗を防ぐことができ、また、レーザー彫刻後にシャープな形状のレリーフ層を有するレリーフ印刷版を得ることができる。
【0088】
レリーフ形成層は、レリーフ形成層用の前記の如き成分を有するレーザー彫刻用樹脂組成物を、シート状又はスリーブ状に成形することで形成することができる。レリーフ形成層は、通常、後述する支持体上に設けられるが、製版、印刷用の装置に備えられたシリンダーなどの部材表面に直接形成したり、そこに配置して固定化したりすることもでき、必ずしも支持体を必要としない。
以下、主としてレリーフ形成層をシート状にした場合を例に挙げて説明する。
【0089】
<支持体>
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の支持体に使用する素材は特に限定されないが、寸法安定性の高いものが好ましく使用され、例えば、スチール、ステンレス、アルミニウムなどの金属、ポリエステル(例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PAN(ポリアクリロニトリル))やポリ塩化ビニルなどのプラスチック樹脂、スチレン−ブタジエンゴムなどの合成ゴム、ガラスファイバーで補強されたプラスチック樹脂(エポキシ樹脂やフェノール樹脂など)が挙げられる。支持体としては、PETフィルムやスチール基板が好ましく用いられる。支持体の形態は、レリーフ形成層がシート状であるかスリーブ状であるかによって決定される。
【0090】
<接着層>
レリーフ形成層を支持体上に形成する場合、両者の間には、層間の接着力を強化する目的で接着層を設けてもよい。
接着層に使用しうる材料(接着剤)としては、例えば、I.Skeist編、「Handbook of Adhesives」、第2版(1977)に記載のものを用いることができる。
【0091】
<保護フィルム、スリップコート層>
レリーフ形成層表面又は架橋レリーフ形成層表面への傷や凹み防止の目的で、レリーフ形成層表面又は架橋レリーフ形成層表面に保護フィルムを設けてもよい。保護フィルムの厚さは、25〜500μmが好ましく、50〜200μmがより好ましい。保護フィルムは、例えば、PETのようなポリエステル系フィルム、PE(ポリエチレン)やPP(ポリプロピレン)のようなポリオレフィン系フィルムを用いることができる。またフィルムの表面はマット化されていてもよい。保護フィルムは、剥離可能であることが好ましい。 保護フィルムが剥離不可能な場合や、逆にレリーフ形成層に接着しにくい場合には、両層間にスリップコート層を設けてもよい。スリップコート層に使用される材料は、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、部分鹸化ポリビニルアルコール、ヒドロシキアルキルセルロース、アルキルセルロース、ポリアミド樹脂など、水に溶解又は分散可能で、粘着性の少ない樹脂を主成分とすることが好ましい。
【0092】
(レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製版方法)
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版におけるレリーフ形成層の形成は、特に限定されるものではないが、例えば、レーザー彫刻用樹脂組成物を調製し、このレーザー彫刻用塗布液組成物から溶剤を除去した後に、支持体上に溶融押し出しする方法が挙げられる。又は、レーザー彫刻用樹脂組成物を、支持体上に流延し、これをオーブン中で乾燥して樹脂組成物から溶媒を除去する方法でもよい。
中でも、本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版の製版方法は、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を形成する層形成工程、並びに、前記レリーフ形成層を熱架橋し架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版を得る架橋工程、を含む製版方法であることが好ましい。
【0093】
その後、必要に応じてレリーフ形成層の上に保護フィルムをラミネートしてもよい。ラミネートは、加熱したカレンダーロールなどで保護フィルムとレリーフ形成層を圧着することや、表面に少量の溶媒を含浸させたレリーフ形成層に保護フィルムを密着させることによって行うことができる。
保護フィルムを用いる場合には、先ず保護フィルム上にレリーフ形成層を積層し、次いで支持体をラミネートする方法を採ってもよい。
接着層を設ける場合は、接着層を塗布した支持体を用いることで対応できる。スリップコート層を設ける場合は、スリップコート層を塗布した保護フィルムを用いることで対応できる。
【0094】
<層形成工程>
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版の製版方法は、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を形成する層形成工程を含むことが好ましい。
レリーフ形成層の形成方法としては、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物を調製し、必要に応じて、このレーザー彫刻用樹脂組成物から溶剤を除去した後に、支持体上に溶融押し出しする方法や、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物を調製し、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物を支持体上に流延し、これをオーブン中で乾燥して溶媒を除去する方法が好ましく例示できる。
レーザー彫刻用樹脂組成物は、例えば、成分A〜成分C、及び、任意成分として、成分D〜成分F、加硫促進剤、香料、可塑剤を適当な溶媒に溶解させ、次いで、重合性化合物及び重合開始剤を溶解させることによって製造できる。溶媒成分のほとんどは、レリーフ印刷版原版を製造する段階で除去する必要がある。溶媒は、揮発しやすいものを用い、かつ温度を調整するなどして溶媒の全添加量をできるだけ少なく抑えることが好ましい。
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版における(架橋)レリーフ形成層の厚さは、架橋の前後において、0.05〜10mmが好ましく、0.05〜7mmがより好ましく、0.05〜3mmが更に好ましい。
【0095】
<架橋工程>
本発明のレーザー彫刻用レリーフ印刷版の製版方法は、前記レリーフ形成層を熱架橋し架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版を得る架橋工程を含む製版方法であることが好ましい。
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版を加熱することで、レリーフ形成層を架橋することができる(熱により架橋する工程)。熱により架橋を行うための加熱手段としては、印刷版原版を熱風オーブンや遠赤外オーブン内で所定時間加熱する方法や、加熱したロールに所定時間接する方法が挙げられる。
レリーフ形成層を熱架橋することで、第1にレーザー彫刻後形成されるレリーフがシャープになり、第2にレーザー彫刻の際に発生する彫刻カスの粘着性が抑制されるという利点がある。
【0096】
(レリーフ印刷版及びその製版方法)
本発明のレリーフ印刷版の製版方法は、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を形成する層形成工程、前記レリーフ形成層を熱及び/又は光で架橋し架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版を得る架橋工程、並びに、前記架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版をレーザー彫刻する彫刻工程、を含む。
本発明のレリーフ印刷版は、本発明のレーザー彫刻用樹脂組成物からなる層を架橋及びレーザー彫刻して得られたレリーフ層を有するレリーフ印刷版であり、本発明のレリーフ印刷版の製版方法により製版されたレリーフ印刷版であることが好ましい。
本発明のレリーフ印刷版は、水性インキを印刷時に好適に使用することができる。
本発明のレリーフ印刷版の製版方法における層形成工程及び架橋工程は、前記レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の製版方法における層形成工程及び架橋工程と同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0097】
<彫刻工程>
本発明のレリーフ印刷版の製版方法は、前記架橋レリーフ形成層を有するレリーフ印刷版原版をレーザー彫刻する彫刻工程を含むことが好ましい。
彫刻工程は、前記架橋工程で架橋された架橋レリーフ形成層をレーザー彫刻してレリーフ層を形成する工程である。具体的には、架橋された架橋レリーフ形成層に対して、所望の画像に対応したレーザー光を照射して彫刻を行うことによりレリーフ層を形成することが好ましい。また、所望の画像のデジタルデータを元にコンピューターでレーザーヘッドを制御し、架橋レリーフ形成層に対して走査照射する工程が好ましく挙げられる。
この彫刻工程には、赤外線レーザーが好ましく用いられる。赤外線レーザーが照射されると、架橋レリーフ形成層中の分子が分子振動し、熱が発生する。赤外線レーザーとして炭酸ガスレーザーやYAGレーザーのような高出力のレーザーを用いると、レーザー照射部分に大量の熱が発生し、架橋レリーフ形成層中の分子は分子切断又はイオン化されて選択的な除去、すなわち、彫刻がなされる。レーザー彫刻の利点は、彫刻深さを任意に設定できるため、構造を3次元的に制御することができる点である。例えば、微細な網点を印刷する部分は、浅く又はショルダーをつけて彫刻することで、印圧でレリーフが転倒しないようにすることができ、細かい抜き文字を印刷する溝の部分は深く彫刻することで、溝にインキが埋まりにくくなり、抜き文字つぶれを抑制することが可能となる。
中でも、光熱変換剤の吸収波長に対応した赤外線レーザーで彫刻する場合には、より高感度で架橋レリーフ形成層の選択的な除去が可能となり、シャープな画像を有するレリーフ層が得られる。
【0098】
彫刻工程に用いられる赤外レーザーとしては、生産性、コスト等の面から、炭酸ガスレーザー(CO2レーザー)又は半導体レーザーが好ましい。特に、ファイバー付き半導体赤外線レーザー(FC−LD)が好ましく用いられる。一般に、半導体レーザーは、CO2レーザーに比べレーザー発振が高効率且つ安価で小型化が可能である。また、小型であるためアレイ化が容易である。更に、ファイバーの処理によりビーム形状を制御できる。 半導体レーザーとしては、波長が700〜1,300nmのものが好ましく、800〜1,200nmのものがより好ましく、860〜1,200nmのものが更に好ましく、900〜1,100nmのものが特に好ましい。
【0099】
又はファイバー付き半導体レーザーは、更に光ファイバーを取り付けることで効率よくレーザー光を出力できるため、本発明における彫刻工程には有効である。更に、ファイバーの処理によりビーム形状を制御できる。例えば、ビームプロファイルはトップハット形状とすることができ、安定に版面にエネルギーを与えることができる。半導体レーザーの詳細は、「レーザーハンドブック第2版」レーザー学会編、実用レーザー技術 電子通信学会等に記載されている。
また、本発明のレリーフ印刷版原版を用いたレリーフ印刷版の製版方法に好適に使用しうるファイバー付き半導体レーザーを備えた製版装置は、特開2009−172658号公報及び特開2009−214334号公報に詳細に記載され、これを本発明に係るレリーフ印刷版の製版に使用することができる。
【0100】
本発明のレリーフ印刷版の製版方法では、彫刻工程に次いで、更に、必要に応じて下記リンス工程、乾燥工程、及び/又は、後架橋工程を含んでもよい。
リンス工程:彫刻後のレリーフ層表面を、水又は水を主成分とする液体で彫刻表面をリンスする工程。
乾燥工程:彫刻されたレリーフ層を乾燥する工程。
後架橋工程:彫刻後のレリーフ層にエネルギーを付与し、レリーフ層を更に架橋する工程。
前記工程を経た後、彫刻表面に彫刻カスが付着しているため、水又は水を主成分とする液体で彫刻表面をリンスして、彫刻カスを洗い流すリンス工程を追加してもよい。リンスの手段として、水道水で水洗する方法、高圧水をスプレー噴射する方法、感光性樹脂凸版の現像機として公知のバッチ式又は搬送式のブラシ式洗い出し機で、彫刻表面を主に水の存在下でブラシ擦りする方法などが挙げられ、彫刻カスのヌメリがとれない場合は、石鹸や界面活性剤を添加したリンス液を用いてもよい。
彫刻表面をリンスするリンス工程を行った場合、彫刻されたレリーフ形成層を乾燥してリンス液を揮発させる乾燥工程を追加することが好ましい。
更に、必要に応じてレリーフ形成層を更に架橋させる後架橋工程を追加してもよい。追加の架橋工程である後架橋工程を行うことにより、彫刻によって形成されたレリーフをより強固にすることができる。
【0101】
本発明に用いることができるリンス液のpHは9以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましく、11以上であることが更に好ましい。また、リンス液のpHは14以下であることが好ましく、13以下であることがより好ましく、12.5以下であることが更に好ましい。上記範囲であると、取り扱いが容易である。
リンス液を上記のpH範囲とするために、適宜酸及び/又は塩基を用いてpHを調整すればよく、使用する酸及び塩基は特に限定されない。
本発明に用いることができるリンス液は、主成分として水を含有することが好ましい。 また、リンス液は、水以外の溶媒として、アルコール類、アセトン、テトラヒドロフラン等などの水混和性溶媒を含有していてもよい。
【0102】
リンス液は、界面活性剤を含有することが好ましい。
本発明に用いることができる界面活性剤としては、彫刻カスの除去性、及び、レリーフ印刷版への影響を少なくする観点から、カルボキシベタイン化合物、スルホベタイン化合物、ホスホベタイン化合物、アミンオキシド化合物、又は、ホスフィンオキシド化合物等のベタイン化合物(両性界面活性剤)が好ましく挙げられる。
前記ベタイン化合物としては、下記式(1)で表される化合物及び/又は下記式(2)で表される化合物であることが好ましい。
【0103】
【化12】

(式(1)中、R1〜R3はそれぞれ独立に、一価の有機基を表し、R4は単結合、又は、二価の連結基を表し、AはPO(OR5)O-、OPO(OR5)O-、O-、COO-、又は、SO3-を表し、R5は、水素原子、又は、一価の有機基を表し、R1〜R3のうち2つ以上の基が互いに結合し環を形成してもよい。)
【0104】
【化13】

(式(2)中、R6〜R8はそれぞれ独立に、一価の有機基を表し、R9は単結合、又は、二価の連結基を表し、BはPO(OR10)O-、OPO(OR10)O-、O-、COO-、又は、SO3-を表し、R10は、水素原子、又は、一価の有機基を表し、R6〜R8のうち2つ以上の基が互いに結合し環を形成してもよい。)
【0105】
前記式(1)で表される化合物又は前記式(2)で表される化合物は、カルボキシベタイン化合物、スルホベタイン化合物、ホスホベタイン化合物、アミンオキシド化合物、又は、ホスフィンオキシド化合物であることが好ましい。なお、本発明において、アミンオキシド化合物のN=O、及び、ホスフィンオキシド化合物のP=Oの構造はそれぞれ、N+−O-、P+−O-と見なすものとする。
前記式(1)におけるR1〜R3はそれぞれ独立に、一価の有機基を表す。また、R1〜R3のうち2つ以上の基が互いに結合し環を形成してもよいが、環を形成していないことが好ましい。
1〜R3における一価の有機基としては、特に制限はないが、アルキル基、ヒドロキシ基を有するアルキル基、アルキル鎖中にアミド結合を有するアルキル基、又は、アルキル鎖中にエーテル結合を有するアルキル基であることが好ましく、アルキル基、ヒドロキシ基を有するアルキル基、又は、アルキル鎖中にアミド結合を有するアルキル基であることがより好ましい。
また、前記一価の有機基におけるアルキル基は、直鎖状であっても、分岐を有していても、環構造を有していてもよい。
また、R1〜R3のうちの2つがメチル基である、すなわち、式(1)で表される化合物がN,N−ジメチル構造を有することが特に好ましい。上記構造であると、特に良好なリンス性を示す。
【0106】
前記式(1)におけるR4は、単結合、又は、二価の連結基を表し、式(1)で表される化合物がアミンオキシド化合物である場合は単結合である。
4における二価の連結基としては、特に制限はないが、アルキレン基、又は、ヒドロキシ基を有するアルキレン基であることが好ましく、炭素数1〜8のアルキレン基、又は、ヒドロキシ基を有する炭素数1〜8のアルキレン基であることがより好ましく、炭素数1〜3のアルキレン基、又は、ヒドロキシ基を有する炭素数1〜3のアルキレン基であることが更に好ましい。
前記式(1)におけるAは、PO(OR5)O-、OPO(OR5)O-、O-、COO-、又は、SO3-を表し、O-、COO-、又は、SO3-であることが好ましく、COO-であることがより好ましい。
-がO-である場合、R4は単結合であることが好ましい。
PO(OR5)O-及びOPO(OR5)O-におけるR5は、水素原子、又は、一価の有機基を表し、水素原子、又は、1以上の不飽和脂肪酸エステル構造を有するアルキル基であることが好ましい。
また、R4は、PO(OR5)O-、OPO(OR5)O-、O-、COO-、及び、SO3-を有していない基であることが好ましい。
【0107】
前記式(2)におけるR6〜R8はそれぞれ独立に、一価の有機基を表す。また、R6〜R8のうち2つ以上の基が互いに結合し環を形成してもよいが、環を形成していないことが好ましい。
6〜R8における一価の有機基としては、特に制限はないが、アルキル基、アルケニル基、アリール基、又は、ヒドロキシ基であることが好ましく、アルケニル基、アリール基、又は、ヒドロキシ基であることがより好ましい。
また、前記一価の有機基におけるアルキル基は、直鎖状であっても、分岐を有していても、環構造を有していてもよい。
また、R6〜R8のうちの2つがアリール基であることが特に好ましい。
【0108】
前記式(2)におけるR9は、単結合、又は、二価の連結基を表し、式(2)で表される化合物がホスフィンオキシド化合物である場合は単結合である。
9における二価の連結基としては、特に制限はないが、アルキレン基、又は、ヒドロキシ基を有するアルキレン基であることが好ましく、炭素数1〜8のアルキレン基、又は、ヒドロキシ基を有する炭素数1〜8のアルキレン基であることがより好ましく、炭素数1〜3のアルキレン基、又は、ヒドロキシ基を有する炭素数1〜3のアルキレン基であることが更に好ましい。
前記式(2)におけるBは、PO(OR10)O-、OPO(OR10)O-、O-、COO-、又は、SO3-を表し、O-であることが好ましい。
-がO-である場合、R9は単結合であることが好ましい。
PO(OR10)O-及びOPO(OR10)O-おけるR10は、水素原子、又は、一価の有機基を表し、水素原子、又は、1以上の不飽和脂肪酸エステル構造を有するアルキル基であることが好ましい。
また、R9は、PO(OR10)O-、OPO(OR10)O-、O-、COO-、及び、SO3-を有していない基であることが好ましい。
式(1)で表される化合物としては、下記式(3)で表される化合物であることが好ましい。
【0109】
【化14】

(式(3)中、R1は一価の有機基を表し、R4は単結合、又は、二価の連結基を表し、AはPO(OR5)O-、OPO(OR5)O-、O-、COO-、又は、SO3-を表し、R5は、水素原子、又は、一価の有機基を表す。)
【0110】
式(3)におけるR1、A、及び、R5は、前記式(1)におけるR1、A、及び、R5と同義であり、好ましい範囲も同様である。
式(2)で表される化合物としては、下記式(4)で表される化合物であることが好ましい。
【0111】
【化15】

(式(4)中、R6〜R8はそれぞれ独立に、アルキル基、アルケニル基、アリール基、又は、ヒドロキシ基を表す。ただし、R6〜R8の全てが同じ基となることはない。)
【0112】
前記式(4)におけるR6〜R8はそれぞれ独立に、アルキル基、アルケニル基、アリール基、又は、ヒドロキシ基を表し、アルケニル基、アリール基、又は、ヒドロキシ基であることが好ましい。
式(1)で表される化合物又は式(2)で表される化合物として具体的には、下記の化合物が好ましく例示できる。
【0113】
【化16】

【0114】
【化17】

【0115】
【化18】

【0116】
また、界面活性剤としては、公知のアニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン界面活性剤等も挙げられる。更に、フッ素系、シリコーン系のノニオン界面活性剤も同様に使用することができる。
界面活性剤は、1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。界面活性剤の使用量は、特に限定する必要はないが、リンス液の全質量に対し、0.01〜20質量%であることが好ましく、0.05〜10質量%であることがより好ましい。
【0117】
以上のようにして、支持体等の任意の基材表面にレリーフ層を有するレリーフ印刷版が得られる。レリーフ印刷版が有するレリーフ層の厚さは、耐磨耗性やインキ転移性のような種々の印刷適性を満たす観点からは、0.05〜10mmが好ましく、より好ましくは0.05〜7mm、特に好ましくは0.05〜3mmである。
【0118】
また、レリーフ印刷版が有するレリーフ層のショアA硬度は、50〜90°であることが好ましい。レリーフ層のショアA硬度が50°以上であると、彫刻により形成された微細な網点が凸版印刷機の強い印圧を受けても倒れてつぶれることがなく、正常な印刷ができる。また、レリーフ層のショアA硬度が90°以下であると、印圧がキスタッチのフレキソ印刷でもベタ部での印刷かすれを防止することができる。
なお、本明細書におけるショアA硬度は、測定対象の表面に圧子(押針又はインデンタと呼ばれる。)を押し込み変形させ、その変形量(押込み深さ)を測定して、数値化するデュロメータ(スプリング式ゴム硬度計)により測定した値である。
【0119】
本発明のレリーフ印刷版は、フレキソ印刷機による水性インキでの印刷に特に好適であるが、凸版用印刷機による水性インキ、油性インキ及びUVインキ、いずれのインキを用いた場合でも、印刷が可能であり、また、フレキソ印刷機によるUVインキでの印刷も可能である。本発明のレリーフ印刷版は、リンス性に優れており彫刻カスの残存がなく、かつ、得られたレリーフ層が弾性に優れるため、水性インク転移性及び耐刷性に優れ、長期間にわたりレリーフ層の塑性変形や耐刷性低下の懸念がなく、印刷が実施できる。
【実施例】
【0120】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。なお、実施例におけるポリマーの重量平均分子量(Mw)は、特に断りのない限り、GPC法で測定した値を表示している。また、特に断りのない限り「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味する。
【0121】
以下に、実施例及び比較例に用いた成分A〜成分Fの構造式又は化合物名を示す。
<(成分A)加水分解性シリル基及び/又はシラノール基を有する化合物>
【0122】
【化19】

【0123】
【化20】

【0124】
【化21】

【0125】
【化22】

【0126】
【化23】

【0127】
【化24】

【0128】
<(成分B)熱可塑性エラストマー>
B−1:スチレン−イソプレン−スチレンブロックコポリマー(Kraton D1107J、Kraton Polymers社製)
B−2:スチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー(Kraton D1102B、Kraton Polymers社製)
B−3:スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロックコポリマー(Kraton A1535、Kraton Polymers社製)
B−4:エチレン/n−ブチルアクリレート/一酸化炭素の共重合体(Elvaloy HP441、du Pont社製)
B−5:ポリエステル(ハイトレル3046、東レ・デュポン社製)
B−6:オレフィン系熱可塑性エラストマー(サーモランZ101N、三菱化学(株)製)
B−7:ポリイミドエラストマー(UBESTA XPA 9044X2、宇部興産(株)製)
【0129】
<(成分C)重合性化合物>
【0130】
【化25】

【0131】
<(成分D)アルコール交換反応触媒>
D−1:1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)(和光純薬工業(株)製)
D−2:エポミンSP−006(エチレンイミンを重合したポリマー、日本触媒(株)製)
D−3:リン酸(和光純薬工業(株)製)
【0132】
<(成分E)重合開始剤、(成分F)光熱変換剤>
E−1:t−ブチルペロキシベンゾエート(パーブチルZ、日本油脂(株)製)
F−1:カーボンブラック(ケッチェンブラックEC600JD、ライオン(株)製)
【0133】
(実施例1)
1.レーザー彫刻用樹脂組成物の調製
撹拌羽根及び冷却管をつけた3つ口フラスコ中に、(成分B)熱可塑性エラストマーとしてB−1(Kraton Polymers製、スチレン−イソプレン−スチレンブロックコポリマー、Kraton D1107D)50部、溶媒としてトルエン47部を入れ、撹拌しながら70℃で120分間加熱しポリマーを溶解させた。その後、溶液を40℃にし、更に(成分C)重合性化合物としてモノマー(C−1)を15部、(成分E)重合開始剤としてパーブチルZ(日油(株)製)(E−1)を1.6部、(成分F)光熱変換剤としてケッチェンブラックEC600JD(カーボンブラック、ライオン(株)製)(F−1)を1部、を添加して30分間撹拌した。その後、(成分A)KBE−846(信越化学工業(株)製)(A−1)を15部及びアルコール交換反応触媒としてDBU(和光純薬工業(株)製)(D−1)0.4部、を添加し、40℃で10分間撹拌した。この操作により、流動性のあるレーザー彫刻用樹脂組成物1を得た。
【0134】
2.レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版の作製
PET基板上に所定厚のスペーサー(枠)を設置し、レーザー彫刻用樹脂組成物1をスペーサー(枠)から流出しない程度に静かに流延し、70℃のオーブン中で3時間乾燥させて、厚さがおよそ1mmのレリーフ形成層を設け、レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版1を作製した。
【0135】
3.レリーフ印刷版の作製
得られた原版のレリーフ形成層を80℃で3時間、更に100℃で3時間加熱してレリーフ形成層を熱架橋した。
【0136】
架橋後のレリーフ形成層に対し、以下の2種のレーザーにより彫刻した。
(CO2レーザーによる彫刻)
炭酸ガスレーザー(CO2レーザー)彫刻機として、高品位CO2レーザーマーカML−9100シリーズ((株)キーエンス製)を用いた。レーザー彫刻用印刷版原版1から保護フィルムを剥離後、炭酸ガスレーザー彫刻機で、出力:12W、ヘッド速度:200mm/秒、ピッチ設定:2,400DPIの条件で、1cm四方のベタ部分をラスター彫刻した。
(FC−LDによる彫刻)
半導体レーザー彫刻機として、最大出力8.0Wのファイバー付き半導体レーザー(FC−LD)SDL−6390(JDSU社製、波長 915nm)を装備したレーザー記録装置を用いた。半導体レーザー彫刻機でレーザー出力:7.5W、ヘッド速度:409mm/秒、ピッチ設定:2,400DPIの条件で、1cm四方のベタ部分をラスター彫刻した。
【0137】
レリーフ印刷版が有するレリーフ層の厚さは1.1mmであった。
また、レリーフ層のショアA硬度を、前述の測定方法により測定したところ、75°であった。なお、ショア硬度Aの測定は、後述する各実施例及び比較例においても同様に行った。
【0138】
4.レリーフ印刷版の評価
以下の項目でレリーフ印刷版の性能評価を行い、結果を表1に示した。
(彫刻深さ)
レーザー彫刻して得られたレリーフ層の「彫刻深さ」を、以下のように測定した。ここで、「彫刻深さ」とは、レリーフ層の断面を観察した場合の、彫刻された位置(高さ)と彫刻されていない位置(高さ)との差をいう。本実施例における「彫刻深さ」は、レリーフ層の断面を、超深度カラー3D形状測定顕微鏡VK9510((株)キーエンス製)にて観察することにより測定した。彫刻深さが大きいことは、彫刻感度が高いことを意味する。結果は、彫刻に用いたレーザーの種類(炭酸ガスレーザー(CO2レーザー)、ファイバー付き半導体レーザー(FC−LD))毎に表1に示す。
【0139】
(リンス性)
リンス液は、水、水酸化ナトリウム10重量%水溶液、及び、下記ベタイン化合物(1−B)を混合し、pHが12、かつ、ベタイン化合物(1−B)の含有量がリンス液全体の1質量%になるように調製した。
前記方法にて彫刻した各版材上に作製した上記リンス液を版表面が均一に濡れる様にスポイトで滴下(約100ml/m2)し、1分静置後、ハブラシ(ライオン(株)クリニカハブラシ フラット)を用い、荷重200gfで版と並行に20回(30秒)こすった。その後、流水にて版面を洗浄、版面の水分を除去し、1時間ほど自然乾燥した。
【0140】
【化26】

【0141】
リンス済み版の表面を倍率100倍のマイクロスコープ(キーエンス(株)製)で観察し、版上の取れ残りカスを評価した。評価基準は以下の通りである。
1:版全面にカスが付着している。
2:版画像凸部に僅かにカスが残っており、また、画像底部(凹部)にカスが残っている。
3:版画像凸部に僅かにカスが残っており、また、画像底部(凹部)に僅かにカスが残っている。
4:画像底部(凹部)に僅かにカスが残っているのみである。
5:まったく版上にカスが残っていない。
【0142】
(膜弾性)
微小硬度計(GS−706、(株)テクロック製)にて測定。押し込み荷重300mN、10秒後緩和し押し込み前後の塑性変形率を測定した。
【0143】
(耐刷性)
得られたレリーフ印刷版を印刷機(ITM−4型、(株)伊予機械製作所製)にセットし、インクとして、水性インキ アクアSPZ16紅(東洋インキ製造(株)製)を希釈せずに用いて、印刷紙として、フルカラーフォームM 70(日本製紙(株)製、厚さ100μm)を用いて印刷を継続し、ハイライト1〜10%を印刷物で確認した。印刷されない網点が生じたところを刷了とし、刷了時までに印刷した紙の長さ(メートル)を指標とした。数値が大きいほど耐刷性に優れると評価する。
【0144】
(インキ転移性)
上記耐刷性の評価において、印刷開始から500m及び1,000mにおける印刷物上のベタ部のインキの付着度合いを目視で比較した。
濃度ムラなく均一なものを○、ムラがあるものを×、○と×の中間の程度を△とした。
【0145】
(ショアA硬度)
ショアA硬度は、測定対象の表面に圧子を押し込み変形させ、その変形量(押込み深さ)を測定して、数値化するデュロメータ(スプリング式ゴム硬度計)により測定した。
【0146】
(実施例2〜49、比較例1〜3)
実施例1で用いた成分A〜成分Fを表1に示すものに変更した以外は、実施例1と同様にして、架橋性レリーフ形成層用塗布液(レーザー彫刻用架橋性樹脂組成物)を調製し、実施例1と同様にして評価した。なお、実施例48は、成分Aの添加量を5部とした。また、実施例49においては、ベタイン化合物(1−B)を添加せずに、リンス性の評価を行った。
【0147】
表1に示す、成分A〜成分Cを含有するレーザー彫刻用樹脂組成物を用いて作製した実施例のレリーフ印刷版は、比較例のレリーフ印刷版よりも、リンス性に優れ、製版時の生産性が高い。また、レリーフ層の弾性、インク転移性及び耐刷性が良好であり、長期間にわたり優れた印刷性能を発揮することができ、更に、彫刻深さが大きいことから、彫刻感度が良好である。
なお、成分Aとして分子内にエステル結合、ウレタン結合、及び/又は、エーテル結合を有するものはリンス性が良好であり、オキシアルキレン基を有するものは特に良好である。
また、同じレリーフ印刷版原版を用いた場合、光源としてFC−LDを用いた製版装置を用いることで、彫刻深さを更に改良しうることがわかる。
【0148】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(成分A)加水分解性シリル基及び/又はシラノール基を有する化合物と、
(成分B)熱可塑性エラストマーと、
(成分C)重合性化合物と、を含有することを特徴とする
レーザー彫刻用樹脂組成物。
【請求項2】
前記成分Aが、加水分解性シリル基とシラノール基とをあわせて2つ以上有する化合物である請求項1に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物。
【請求項3】
前記成分Aにおける加水分解性シリル基が、Si原子にアルコキシ基又はハロゲン原子が少なくとも1つ直接結合した残基である請求項1又は2に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物。
【請求項4】
前記成分Aが、重合性基として加水分解性シリル基及び/又はシラノール基のみを有する化合物である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物。
【請求項5】
前記成分Bが、スチレン系熱可塑性エラストマー、エステル系熱可塑性エラストマー、アミド系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、及び、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル系熱可塑性エラストマーよりなる群から選ばれた熱可塑性エラストマーである請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物。
【請求項6】
前記成分Bが、スチレン系熱可塑性エラストマー、又は、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル系熱可塑性エラストマーである請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物。
【請求項7】
更に(成分D)アルコール交換反応触媒を含有する請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物。
【請求項8】
更に(成分E)重合開始剤を含有する請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物。
【請求項9】
更に(成分F)700〜1,300nmの波長の光を吸収可能な光熱変換剤を含有する請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物。
【請求項10】
支持体上に、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載のレーザー彫刻用樹脂組成物からなるレリーフ形成層を有することを特徴とする
レーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
【請求項11】
前記レリーフ形成層が熱及び/又は光により架橋されている請求項10に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
【請求項12】
前記レリーフ形成層が熱により架橋されている請求項10又は11に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版。
【請求項13】
(1)請求項10に記載のレーザー彫刻用レリーフ印刷版原版におけるレリーフ形成層を熱及び/又は光により架橋する工程、及び、
(2)架橋されたレリーフ形成層をレーザー彫刻してレリーフ層を形成する工程、を含むことを特徴とする
レリーフ印刷版の製版方法。
【請求項14】
前記(1)工程が、前記レリーフ形成層を熱により架橋する工程である請求項13に記載のレリーフ印刷版の製版方法。
【請求項15】
更に(3)彫刻後のレリーフ層表面を水系リンス液によりリンスするリンス工程を含む、請求項13又は14に記載のレリーフ印刷版の製版方法。
【請求項16】
請求項13から請求項15のいずれか1項に記載のレリーフ印刷版の製版方法により製造されたレリーフ層を有するレリーフ印刷版。
【請求項17】
前記レリーフ層の厚みが、0.05mm以上10mm以下である請求項16に記載のレリーフ印刷版。
【請求項18】
前記レリーフ層のショアA硬度が、50°以上90°以下である請求項16又は17に記載のレリーフ印刷版。

【公開番号】特開2011−148299(P2011−148299A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269151(P2010−269151)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】