説明

レーザ加工用安全保護システム

【課題】オペレータの視認性が向上し、またケーブルレスによるオペレータの操作性と安全性が向上したレーザ加工用安全保護システムを提供することを目的とする。
【解決手段】液晶式遮光マスク3aと導線が印刷されたレーザ遮光板3bとからなる遮光マスク3と、遮光マスクが具備された防護ヘルメット6が装着されたか否かを検知するための人体検出センサ3と、遮光マスク及び人体検出センサに接続された無線装置1の送信部1aと、該送信部に電力を供給するためのバッテリー4と、送信部からの電波を受信するための受信部1bと、該受信部に接続された主制御装置7とからなり、前記レーザ遮光板の導線の破損情報と前記人体検知センサの検知結果が、前記送信部と受信部を介して前記主制御装置に伝達され、かつ該主制御装置がレーザ発振信号を発生した場合には、前記液晶式遮光マスクを瞬時に暗転させることを特徴とするレーザ加工用安全保護システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工機に使用するレーザ加工用安全保護システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、レーザ加工用安全保護具として市販防護ヘルメットに光電センサを複数配置し、人体の反射率によりその装着を検出する技術が、例えば特許文献1に開示されている。また、市販防護ヘルメットの視認窓にレーザ遮光板を配置し、高強度レーザ光を遮断する技術が、例えば特許文献2に示されている。
【0003】
更に、例えば特許文献3の発明では、市販防護ヘルメットの遮光板に導電性細線を平面パターン配置し、遮光板破損(焼損)を検知する発明が開示されている。
【特許文献1】特開平10−225478号公報
【特許文献2】実開平4−113176号公報
【特許文献3】特開2001−113386号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1の発明では、人体の状態(肌色・毛髪など)や、装着状態により感度が変化する。また、特許文献2の発明では、レーザ光の減衰率を高くすると通常時の明度が低く、視認性が悪くなる。また、加工中はスペクトルでの可視光が発生するため極度の輝度となってしまう。そして、特許文献3の発明では、パターン断線検出をノーマルクローズ接点とし、有線回線とする必要があり、制御装置から作業位置までのケーブルが操作性を妨げてしまうという問題があった。そのため上記いずれのセンサも、導通遮断時にレーザ発振を停止させる回路を構成する。いずれも作業性を著しく損なったり、オペレータの負荷が大きい。
【0005】
本願発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、オペレータの視認性が向上し、またケーブルレスによるオペレータの操作性と安全性が向上したレーザ加工用安全保護システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の目的を達成するため、以下(1)〜(4)の構成を備えるものである。
【0007】
(1)液晶式遮光マスクと導線が印刷されたレーザ遮光板とからなる遮光マスクと、前記遮光マスクが具備された防護ヘルメットが装着されたか否かを検知するための人体検出センサと、前記遮光マスク及び人体検出センサに接続された無線装置の送信部と、前記送信部に電力を供給するためのバッテリーと、前記送信部から送信される電波を受信するための受信部と、該受信部に接続された主制御装置とからなり、前記レーザ遮光板の導線の破損情報と前記人体検知センサの検知結果が、前記送信部と受信部を介して前記主制御装置に無線により伝達され、かつ、該主制御装置がレーザ発振信号を発生した場合には、前記液晶式遮光マスクを瞬時に暗転させることを特徴とするレーザ加工用安全保護システム。
【0008】
(2)前記無線装置の無線方式が2.4GHz帯スペクトル拡散方式であり、該無線装置が、通信プロトコルでのフェイルセーフを標準的に持つモデムを有することを特徴とする前記(1)記載のレーザ加工用安全保護システム。
【0009】
(3)前記人体検出センサは、検出プローブ、電位調整プローブ及びセンサから構成され、前記バッテリーのマイナス電極が電位調整プローブを介して人体に接触されていることを特徴とする前記(1)記載のレーザ加工用安全保護システム。
【0010】
(4)前記主制御装置は、前記人体検知センサが所定時間以上OFFの場合には、該人体検知センサへの電源供給を停止すると共に、前記無線装置を間欠通信で復帰トリガの監視通信のみを行う省電力モードとする制御を行うことを特徴とする前記(1)記載のレーザ加工用安全保護システム。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、上記構成を有することで、オペレータの操作性と視認性が共に向上し、安全面において優れたレーザ加工用安全保護システムを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明を実施するための最良の形態を、実施例により詳しく説明する。
【実施例】
【0013】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】
[構成]
本実施例のレーザ加工用安全保護システムは、図1に示すように液晶式遮光マスク3a、人体検出センサ2、レーザ遮光板3b、無線装置1、バッテリー4及び主制御装置7から構成される。
【0015】
液晶式遮光マスクは、高感度かつ高速な明暗切り替えができるソーラーバッテリー式液晶溶接マスクである。その裏側にはレーザ遮光板が貼り付けられている。レーザ遮光板は、導電性細線が印刷され遮光板の破損を保障する。以下、液晶遮光マスクと遮光板を合わせて遮光マスクユニット3という。
【0016】
人体検出センサ2は、ゴム製シートを検出プローブとして人体の接触を検出する。すなわち、人体特有の静電容量を規定範囲内で検出する。この人体検出センサは、検出プローグ2a(ゴムシート)、電位調整プローグ2b(ゴム)及びセンサ2cより構成され、上記遮光マスクの装着バンド5の内側に幅広く巻きつけられている。
【0017】
無線装置1は、人体検知センサやレーザ遮光板等のセンサ信号を特定のロジックにて無線伝送する。なお、遮光マスク側に送信部1a、主制御装置側に受信部1bを基本的に配置する。
【0018】
バッテリー4は、上記送信部、人体検出センサ、レーザ遮光板及び液晶遮光マスクに信号電源を供給する。
【0019】
主制御装置7は、工場電源が供給される加工機本体に組み込まれている。
[動作]
図2を用いて本実施例のレーザ加工用安全保護システムの動作について説明する。
【0020】
<S101>
レーザ加工用安全保護システムを含むレーザ加工装置を準備状態とし、各種安全確認を行う。
【0021】
<S102>
主制御装置7から、無線装置1を介してバッテリー4を駆動させ、当該遮光マスクユニット3及び人体検出センサ2の全体回路をアクティブにする。
【0022】
<S103>
無線装置を介して、レーザ遮光板3bの導通を確認し、断線時はインターロックとする(S105)。なお、レーザ遮光板の導通信号は当該システム専用のウォッチドグとして機能する(図5参照)。
【0023】
<S104>
主制御装置が通信確立を認識する。ここで通信非確立の時は同様にインターロックとする。
【0024】
<S106>
当該遮光マスクユニット3を装着することにより、人体検出センサ2が信号出力を行い無線装置1を介して主制御装置7が、遮光面装着を認識し操作を許可する。
【0025】
<S107>
レーザ加工他が行われる。この際、高感度液晶遮光マスク3aにより、レーザ加工時に液晶が暗転し、適度な視認性とプラズマ環境での注視ストレスを著しく低減する(図3を参照)。
図3(a)はレーザ加工が行われる前の状態であり、液晶式遮光マスクは暗転していない状態を示す。図3(b)はレーザ加工が行われている状態であり、液晶式遮光マスクは暗転している状態を示す。この暗転は、主制御装置の制御によりレーザ加工開始時から瞬時(1/12000秒)に暗くなる。また、図3(c)は従来のレーザ遮光板のみのレーザ加工時の状態を示している。
当該システムでは、ケーブルがないことにより装着負担、作業中や付随作業のための移動の妨げ、ケーブルに足を取られるなどの危険が著しく軽減される。
【0026】
<S108>
作業終了時、当該遮光マスクを人体から離脱させると人体検出センサが信号出力を停止する。無線装置を介して主制御装置は操作を禁止状態とする。
【0027】
[システム構成]
本実施例のレーザ加工用安全保護システムのシステム構成について以下に述べる。
【0028】
人体検出センサの出力が一定時間以上停止(OFF状態)で無線装置はバッテリーを省電力状態とするため、復帰トリガ待ちとなる(図4参照)。
【0029】
すなわち、ある一定時間以上人体検出センサがONしない場合、人体検出センサへの電源供給をOFFし、無線装置は常時通信から間欠通信(一定間隔でのON、OFF)で復帰トリガの監視通信のみを行う省電力モードになる。省電力トリガ(主制御装置内のボタン操作等)により、省電力モードから復帰する。
【0030】
また、複数のレーザ加工用保護安全システムが独自に稼動する場合は、各システム(無線装置)に別々の無線周波数を割付け、方向選択が可能なため混信などはない。
【0031】
無線方式には、電波法関連の認可等が不要な2.4GHz帯スペクトル拡散方式を用い、耐ノイズ性も高く、通信プロコトルでのフェイルセーフ(fail&safe)を標準的に持つモデムを使用し、加えて通信不能時には受信処理側の出力接点をすべてOFFすることでB接点の断線状態を構築するようにする。
【0032】
本システムは、2重化安全処理による無線安全装置、すなわち無線プロトコル自体のフェイルセーフとレーザ遮光板断線によるフェイルセーフの双方を有しているものとする。
【0033】
無線にはバッテリー電源が不可欠だが、省電力ソフトウェアも組み込むことで使用時のみ通信を復旧し、バッテリー消費を抑制する。加えて無線特有の混信にも周波数ch切替を設け、複数システムに対応可能とする。
【0034】
[人体検出センサ]
人体検出センサ2は電位の浮いた閉回路内で、検出プローブ2aと電位プローブ2bが共に人体に接触することで、安定した容量検出を可能にすることができる検出プローブである。バッテリー電位はGNDに対しフロートしているため、バッテリー(−)側を検出回路のGNDである人体(検出物)に接触させ静電容量検出を安定させる。静電容量型人体検出センサ採用による安定化及び省電力化が可能となる(図6参照)。
【0035】
[高感度液晶遮光マスク]
この液晶遮光マスクは、液晶の透明時には可視光透過率を高め、暗転時にはトリガ閾照度を低く設定することで、レーザ加工の低プラズマ波長領域でも適度な暗さが得られるソーラーバッテリー式液晶溶接マスクである。高感度液晶式遮光面によるレーザ光からの保護を基本として加工プラズマ光からの保護を操作状態に応じて両立させている。
【0036】
本実施例のレーザ加工用安全保護システムは、上記したようにレーザ加工機のオペレータの操作性が著しく改善されると共にその視認性が向上し、かつ安全性の向上した保護システムを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施例のレーザ加工用保護具の全体構成を示す図
【図2】実施例のレーザ加工用保護具の動作を説明するためのフローチャート
【図3】高感度液晶遮光マスクの動作状態を示す図
【図4】省電力ソフトタイムチャートを示す図
【図5】フェイルセーフ構成を示す概念図
【図6】人体検知センサの構成を示す図
【符号の説明】
【0038】
1 無線装置
1a 送信部
1b 受信部
2 人体検出センサ
2a 検出プローブ
2b 電位調整プローブ
2c センサ
3 遮光マスクユニット
3a 液晶式遮光マスク
3b レーザ遮光板
4 バッテリー
5 装着バンド
6 防護ヘルメット
7 主制御装置
8 レーザ発振器
9 レーザトーチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶式遮光マスクと導線が印刷されたレーザ遮光板とからなる遮光マスクと、
前記遮光マスクが具備された防護ヘルメットが装着されたか否かを検知するための人体検出センサと、
前記遮光マスク及び人体検出センサに接続された無線装置の送信部と、
前記送信部に電力を供給するためのバッテリーと、
前記送信部から送信される電波を受信するための受信部と、
該受信部に接続された主制御装置とからなり、
前記レーザ遮光板の導線の破損情報と前記人体検知センサの検知結果が、前記送信部と受信部を介して前記主制御装置に無線により伝達され、かつ、該主制御装置がレーザ発振信号を発生した場合には、前記液晶式遮光マスクを瞬時に暗転させることを特徴とするレーザ加工用安全保護システム。
【請求項2】
前記無線装置の無線方式が2.4GHz帯スペクトル拡散方式であり、該無線装置が、通信プロトコルでのフェイルセーフを標準的に持つモデムを有することを特徴とする請求項1記載のレーザ加工用安全保護システム。
【請求項3】
前記人体検出センサは、検出プローブ、電位調整プローブ及びセンサから構成され、前記バッテリーのマイナス電極が電位調整プローブを介して人体に接触されていることを特徴とする請求項1記載のレーザ加工用安全保護システム。
【請求項4】
前記主制御装置は、前記人体検知センサが所定時間以上OFFの場合には、該人体検知センサへの電源供給を停止すると共に、前記無線装置を間欠通信で復帰トリガの監視通信のみを行う省電力モードとする制御を行うことを特徴とする請求項1記載のレーザ加工用安全保護システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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