説明

レーザ加工装置

【課題】焦点距離の異なる加工レンズを使用した場合でも、加工ヘッドの大型化を抑制しつつ、簡潔な機構で加工状態の監視を実施できるレーザ加工装置を提供する。
【解決手段】レーザ加工装置は、レーザ光1を被加工材11に向けて照射するための加工ヘッド4と、被加工材11を加工ヘッド4に対して相対移動させるための加工ステージ10と、レーザ加工時に、被加工材11より発生する放射光4を検出するための複数の光センサ5,6などを備える。加工ヘッド4の内部には、異なる焦点位置を有する加工レンズ8,9が装着可能であり、光センサ5,6は、使用する加工レンズ8,9の焦点距離に応じて異なる位置に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置に関し、特に、加工状態のモニタ機能を有するレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、YAGレーザ溶接部の品質モニタリング方法が開示されている。YAGレーザ発振器で発生したレーザ光は、伝送光学系により加工レンズに伝送され、被加工材に集光照射される。被加工材からのレーザ反射光および加工点からの放射光を観測する2つの光センサが、被加工材表面からの仰角が50°以上となる第の1位置、および被加工材表面からの仰角が15°以下となる第2の位置にそれぞれ設置されている。そして、2つの光センサで観測された溶接時の発光、被加工材からのレーザ反射光をそれぞれ高周波、低周波に分解し、計8種類の信号を解析することにより、溶接品質の良否判定および品質不良発生時の不良原因を特定している。
【0003】
特許文献2には、加工不良判別機構を備えた加工用レーザー出射装置が開示されている。レーザ発振器により発生したレーザ光は、加工ヘッド内部に配置された分離光学系により、加工レンズに伝送され、被加工材に集光照射される。また、加工ヘッドの上部には加工点からの放射光を観測するための複数の光センサが設置されており、加工点より発生した放射光は分離光学系および集光レンズを通過して光センサに集光される。そして、レーザ加工時には、各光センサで観測された発光の時間・空間分布を測定し、加工状態良好時における上記時間・空間分布との比較により、加工状態の良否判定を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−271768号公報(図1)
【特許文献2】特開平11−138278号公報(図2)
【特許文献3】特開2003−53568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
加工点からの放射光をモニタリングして加工状態を判定する場合、加工点と光センサの距離を一定に保つ必要性や、加工時に発生するガスやミスト等の汚れがセンサに付着することを防ぐため、実用的には光センサを加工ヘッド内部に配置する必要がある。
【0006】
特許文献1の構成において加工ヘッド内部に光センサを配置する場合、被加工材表面に対する仰角を一定以下に保つ必要があるため、加工ヘッドの大型化を招くことになる。
【0007】
一方、レーザ加工の際、通常、加工対象の材料や板厚に応じて加工レンズの焦点距離を適切に選択する必要がある。そのため通常の作業者は、2種類以上の焦点距離の加工レンズを使い分けて加工を実施している。
【0008】
しかしながら、加工レンズの焦点距離が異なると、被加工材より発生した放射光が加工レンズを通過する際、加工ヘッド内壁に到達する位置が異なることになる。即ち、焦点距離F1の加工レンズについて最適化した位置に光センサを配置した状態で、焦点距離F2(≠F1)の加工レンズを使用した場合、光センサに到達する放射光の強度が低下してしまい、加工状態のモニタリングが困難になることがある。
【0009】
従って、焦点距離の異なる加工レンズに交換する場合、光センサの位置を変更する機構が必要になったり、あるいは加工ヘッド全体を交換することが必要になる。その結果、機構の複雑化、コストの増加をもたらすことになる。
【0010】
また、焦点距離F1の加工レンズおよび焦点距離F2の加工レンズの両方について受光可能な位置に光センサを配置することも考えられる。しかし、個々の加工レンズについて最適化されていないため、受光量が小さくなり、加工状態のモニタリング精度が低下してしまう。
【0011】
特許文献2の構成では、加工レンズの焦点距離が異なる場合でも光センサに到達する放射光の強度はあまり変化しない。しかしながら、加工ヘッド内部に分離光学系を有するため、振動に弱くなり、加工の不安定化や高コスト化、加工ヘッドの大型化をもたらすことになる。
【0012】
本発明の目的は、焦点距離の異なる加工レンズを使用した場合でも、加工ヘッドの大型化を抑制しつつ、簡潔な機構で加工状態の監視を実施できるレーザ加工装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明に係るレーザ加工装置は、
レーザ光を被加工材に向けて照射するための加工ヘッドと、
被加工材を加工ヘッドに対して相対移動させるための移動機構と、
レーザ加工時に、被加工材より発生する放射光を検出するための複数の光センサとを備え、
加工ヘッドの内部には、異なる焦点位置を有する加工レンズが装着可能であり、
光センサは、使用する加工レンズの焦点距離に応じて異なる位置に配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、使用する加工レンズの焦点距離に応じて異なる位置に光センサを配置することによって、個々の加工レンズについて最適な位置にある光センサを用いて被加工材からの放射光を検出することが可能になる。その結果、焦点距離の異なる加工レンズを使用した場合でも、加工ヘッドの大型化を抑制でき、簡潔な機構で加工状態を精度良く監視できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態1を示す構成図であり、長焦点の加工レンズを使用した場合を示す。
【図2】本発明の実施の形態1を示す構成図であり、短焦点の加工レンズを使用した場合を示す。
【図3】光センサの他の配置例を示す。
【図4】本発明の実施の形態2を示す構成図である。
【図5】光センサの信号強度と、被加工材表面から各光センサまでの距離との関係を示すグラフである。
【図6】本発明の実施の形態3を示す構成図である。
【図7】本発明の実施の形態4を示す構成図である。
【図8】ラインセンサで得られた信号強度分布の一例を示すグラフである。
【図9】本発明の実施の形態5を示す構成図である。
【図10】光検出部で得られた信号強度分布の一例を示すグラフである。
【図11】レーザ光の光軸が加工ヘッドの中心軸に対して傾斜している状態を示す。
【図12】レーザ光の光軸が傾斜した場合の光検出部の信号強度分布の一例を示すグラフである。
【図13】本発明の実施の形態6を示す構成図である。
【図14】本発明の実施の形態7を示す構成図である。
【図15】図15(a)はYZ面における光検出部の配置例を示し、図15(b)はZX面における光検出部の配置例を示す。
【図16】良好切断時における光検出部の信号強度分布の一例を示すグラフである。
【図17】被加工材の下部で加工不良が発生した場合の光検出部の信号強度分布の一例を示すグラフである。
【図18】被加工材の中間部で加工不良が発生した場合の光検出部の信号強度分布の一例を示すグラフである。
【図19】被加工材の上部で加工不良が発生した場合の光検出部の信号強度分布の一例を示すグラフである。
【図20】本発明の実施の形態8を示す構成図である。
【図21】本発明の実施の形態8を示す構成図である。
【図22】本発明の実施の形態9を示す構成図である。
【図23】本発明の実施の形態10を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
実施の形態1.
図1と図2は、本発明の実施の形態1を示す構成図であり、図1は長焦点の加工レンズを使用した場合を示し、図2は短焦点の加工レンズを使用した場合を示す。レーザ加工装置は、レーザ発振器(不図示)から伝送光学系を経由して供給されるレーザ光1を被加工材11に向けて照射するための加工ヘッド7と、被加工材11を所望の方向に移動したり、所望の位置に位置決めするための加工ステージ10などで構成される。ここで、理解容易のため、加工ステージ10の戴置面の法線方向をZ方向とし、Z方向の直交方向をX方向およびY方向とする。
【0017】
加工ヘッド7は、中空筒状の部材であり、内部にはレーザ光1を集光するための加工レンズ8,9が選択的に装着される。加工レンズ8は焦点距離F1を有し、加工レンズ9は焦点距離F2(<F1)を有する。加工ヘッド7は、加工レンズ8,9を相互に交換した場合、加工レンズ8,9をレーザ光1の光軸2に沿って移動可能なフォーカス機構(不図示)を備える。レーザ光1が加工レンズ8,9を通過すると、被加工材1の加工点3において所望の光スポットが形成される。
【0018】
加工ヘッド7の先端は、ノズル状に形成され、加工レンズ8,9によって集光されたレーザ光2が通過するとともに、被加工材11に向けてアシストガスを供給する機能を有する。アシストガスとして、一般に酸素、空気、窒素、アルゴン等が使用され、蒸発気体の排除、ドロス付着防止、被加工材の酸化防止などの役割を果たす。
【0019】
レーザ光1は、加工レンズ8,9により被加工材の加工点3に集光照射され、このとき加工点3近傍からは、熱輻射やプラズマ形成に起因した放射光4が発生する。この放射光4は、加工ヘッド7の内部にレーザ光1を妨害することなく配置された光センサ5,6によって検知される。光センサ5,6は、例えば、フォトトランジスタ、フォトダイオード、CCDなどで構成される。
【0020】
光センサ5は、図1に示すように、長焦点の加工レンズ8を使用した際に放射光4を効率的に観測できるように最適化された位置に配置している。一方、光センサ6は、図2に示すように、短焦点の加工レンズ9を使用した際に放射光4を効率的に観測できるように最適化された位置に配置している。従って、焦点位置の異なる加工レンズ8,9のいずれを使用した場合でも、加工点3からの放射光4が光センサ5,6のいずれかに効率よく到達するようになる。その結果、光センサの角度や配置を変更する機構が不要になり、加工ヘッドの大型化を抑制しつつ、簡潔な機構で加工状態を監視することができる。
【0021】
なお、図1、図2では2つの光センサ5,6を加工ヘッド内壁に配置した場合を例示しているが、光センサは、使用する加工レンズの焦点距離に応じて、放射光4を効率的に観測できる各位置に配置すればよい。例えば、レーザ光の光軸2に対して垂直な平面(XY面)内において、光軸2からの距離が相互に異なる位置に光センサを複数配置した構成、あるいは、光軸2を含む面(例えば、YZ面)内において、光軸2と成す角が相互に異なる方向に進行する放射光4を受光するための光ファイバを複数配置し、各光ファイバで伝送される光を個々の光センサで検出する構成も可能である。
【0022】
また、光センサ5,6を、被加工材11を照射するレーザ光1の光軸2に対して垂直で、加工点3を含む平面からの距離が異なる位置に配置する構成も可能である。これにより各光センサからレーザ光の光軸2までの距離を短くできるため、加工ヘッドの小型化が図られる。
【0023】
さらに、図3に示すように、光センサ5,6をレーザ光の光軸2に対して平行な同一直線上に配置した構成も可能である。こうした構成により、加工ヘッドをさらに小型化できる。
【0024】
実施の形態2.
図4は、本発明の実施の形態2を示す構成図であり、長焦点の加工レンズ8を使用した場合と短焦点の加工レンズ9を使用した場合を重ねて表示している。
【0025】
本実施形態は、図3に示した構成と同様であるが、光検出部34として、3つの光センサ31〜33をレーザ光の光軸2に対して平行な同一直線上に配置している。光センサ31は、長焦点の加工レンズ8を使用した際に放射光4を効率的に観測できるように最適化された位置に配置している。光センサ32は、短焦点の加工レンズ9を使用した際に放射光4を効率的に観測できるように最適化された位置に配置している。光センサ33は、レーザ光の光軸2に対して垂直で、かつ加工点3を含む平面からの距離が光センサ31,32よりも遠い位置となるように配置している。
【0026】
図5は、光センサ31〜33の信号強度と、被加工材表面から各光センサまでの距離との関係を示すグラフである。実線は長焦点の加工レンズ8を使用した場合、点線は短焦点の加工レンズ9を使用した場合、破線は熱レンズ効果が発生した場合をそれぞれ示している。
【0027】
一般的なレーザ加工装置において、レーザ光路上に配置された光学部品の劣化に伴う熱レンズ効果の影響により、レーザ光の焦点距離が短くなる方向へ変化すると、加工不良が発生することが知られている。そのため、熱レンズ効果による焦点位置の変化量に応じて、最大の信号強度を示す受光位置は被加工材表面から遠くへシフトするようになる。従って、光センサ31,32よりも遠い位置に光センサ33を配置することによって、センサの信号強度の変化量から焦点位置の変化量が判定できる。
【0028】
光センサ31〜33の信号強度をS31〜S33とすると、図5に示すように、長焦点の加工レンズ8を使用した場合は、S31>S32>S33となる。短焦点の加工レンズ9を使用した場合は、S31<S32で、S32>S33となる。熱レンズ効果が発生した場合は、S31<S32<S33となる。こうした関係をデータベースとして予め記憶しておいて、実際のレーザ加工の際に各光センサの信号強度を取得することによって、長焦点の加工レンズ8を使用中にレーザ光1の焦点距離が変化する場合だけでなく、短焦点の加工レンズ9を使用中にレーザ光1の焦点距離が変化する場合にも、光検出部34から得られた光強度分布のピーク位置変化量を検出することができ、レーザ光路上に配置された光学部品の熱レンズ効果によるレーザ光1の焦点距離の変化量が判定できる。
【0029】
実施の形態3.
図6は、本発明の実施の形態3を示す構成図である。レーザ加工装置は、実施の形態1,2の構成において、信号処理部21と、記憶部22と、判定部23などをさらに備える。ここでは、3つの光センサ31〜33を設けた場合を例示する。
【0030】
信号処理部21は、各光センサ31〜33から被加工材11までの距離と信号強度の関係に基づいて、実際のレーザ加工時に被加工材11より発生した放射光4の加工ヘッド内の強度分布を検出する機能を有する。
【0031】
記憶部22は、レーザ加工を行う際に各種パラメータ(例えば、ビームモード、ビーム出力、パルス条件、加工ガス種、加工ガス圧、ノズル径、焦点位置、ノズルワーク間距離など)と、実際の加工状態と、放射光4の強度分布との対応関係をデータベース化して記憶する機能を有する。
【0032】
判定部23は、記憶部22に登録した基準となる最大信号強度と、実際のレーザ加工時に取得した最大信号強度とを比較して、加工状態の良否判定を行う機能を有する。また判定部23は、記憶部22に登録した基準となる放射光4の強度分布と、実際のレーザ加工時に取得した放射光4の強度分布とを比較して、レーザ光1の光路上にある光学部品の劣化を判定する機能を有する。基準となる最大信号強度、放射光4の強度分布として、一般に良好に切断加工が行われた場合の最大信号強度、放射光4の強度分布が設定される。
【0033】
なお、信号処理部21、記憶部22および判定部23は、個別のハードウエアで構成してもよく、あるいは単一のハードウエア上で個別のソフトウエアとして実現してもよい。
【0034】
こうした構成により、レーザ加工を実施する際、加工状態の良否をリアルタイムで判定できる。
【0035】
実施の形態4.
図7は、本発明の実施の形態4を示す構成図である。レーザ加工装置は、実施の形態1,2の構成と同様な構成を有するが、多数の光センサをレーザ光の光軸2に対して平行な同一直線上に配置してラインセンサ41を構成している。こうしたラインセンサ41を使用することによって、放射光4の強度分布をより高い空間分解能で検出することが可能になる。
【0036】
図8は、ラインセンサ41で得られた信号強度分布の一例を示すグラフである。このグラフを見ると、被加工材表面に近い位置で信号強度は低く、そこから徐々に増加して最大値に到達し、そこから徐々に減少して、被加工材表面からより遠くなるほど信号強度は低くなる。最大値を示す位置は、使用する加工レンズの焦点距離に応じて変化するが、長焦点の加工レンズ8または短焦点の加工レンズ9のいずれを使用した場合でも、加工点3からの放射光4を効率よく検出できる。その結果、光センサの角度や配置を変更する機構が不要になり、加工ヘッドの大型化を抑制しつつ、簡潔な機構で加工状態を監視することができる。さらに、ラインセンサ自体が安価でありかつ処理系も簡便なため、低コストで高精度な加工状態判定が可能になる。
【0037】
実施の形態5.
図9は、本発明の実施の形態5を示す構成図である。レーザ加工装置は、実施の形態1,2と同様な構成を有するが、同一直線上に配置された複数の光センサを有する光検出部53,54が、加工レンズの光軸55を中心とした同一円周上に複数配置されている。
【0038】
レーザ光1は、光軸2に沿って加工点3に照射されるが、その一部は被加工材11の表面により図中の光軸51に沿って反射される。なお、図9では、レーザ光1の光軸2は被加工材11に垂直に入射した場合について示したものであり、加工レンズの光軸55、レーザ光1の光軸2、および反射光の光軸51は一致している。
【0039】
図10は、光検出部53,54で得られた信号強度分布の一例を示すグラフである。グラフaは、光検出部53の信号強度分布を示しており、図8のグラフと同様に、被加工材表面に近い位置で信号強度は低く、そこから徐々に増加して最大値に到達し、そこから徐々に減少して、被加工材表面からより遠くなるほど信号強度は低くなる。グラフbは、光検出部54の信号強度分布を示しており、グラフaの形状とほぼ一致する。
【0040】
図11は、図9の構成においてレーザ光の光軸2が加工ヘッドの中心軸52に対して傾斜している状態を示し、図12は、レーザ光の光軸2が傾斜した場合の光検出部53,54の信号強度分布の一例を示すグラフである。
【0041】
レーザ加工プロセスの一つである穴あけ加工に際して、被加工材11より発生した放射光4は、反射光の光軸51を中心に拡散する。従って、図9に示すように加工ヘッドの中心軸52がレーザ光の光軸2と一致している場合、反射光の光軸51と加工ヘッドの中心軸52が一致するため、図10に示すように、加工ヘッドの中心軸52周りに配置された各光検出部より得られる信号強度分布のピーク位置は一致する。
【0042】
これに対して、図11に示すように、反射光の光軸51が加工ヘッドの中心軸52対して傾斜している場合、反射光の光軸51は光検出部54に接近する方向に傾くため、光検出部54より得られる信号強度分布は全体的に増加する。さらに、光検出部54の上部は、レーザ光の光軸2に接近するため、信号強度がさらに増加し、光検出部54より得られる信号強度分布のピーク位置が上方にシフトする。
【0043】
一方、光検出部53においては、反射光の光軸51が離れる方向に傾くため、光検出部53より得られる信号強度は全体的に減少する。さらに、光検出部54の下部は、放射光4が到達し難くなるため、光検出部53より得られる信号強度分布のピーク位置は上方にシフトする。このとき光検出部53,54より得られる信号強度の変化の割合が、光検出部54の上部と光検出部53の下部において、レーザ光の光軸2と加工ヘッドの中心軸52とが成す角度に対する信号強度変化の割合が異なるため、結果として、図12に示すように信号強度のピーク位置に差が生じる。
【0044】
従って、光検出部53,54より得られる信号強度分布のピーク位置の差から、レーザ光の光軸2と加工ヘッドの中心軸52のズレ量を検出することができる。なお本実施形態では、光検出部53,54を加工ヘッドの中心軸52に対して対称に配置した場合を例示しているが、レーザ光の光軸2を中心とした同一円周上に少なくとも2つ以上設置されていれば、光軸2と中心軸52のズレ量を検出することが可能である。
【0045】
実施の形態6.
図13は、本発明の実施の形態6を示す構成図である。レーザ加工装置は、実施の形態1,2と同様な構成を有するが、同一直線上に配置された複数の光センサを有する光検出部61が、光スポットが相対移動する加工方向(例えば、−Y方向)に対して後方から加工点3を望む方向に配置されている。
【0046】
切断フロント64は、被加工材11の内部に位置しているため、図13に示すように、後方から加工点3を臨む方向に配置された光検出部61は、切断フロント64からの放射光4を精度良く観測することができる。そのため、切断条件による切断フロント64の変化による放射光4の変化を高感度に検出することができる。
【0047】
実施の形態7.
図14は、本発明の実施の形態7を示す構成図である。レーザ加工装置は、実施の形態1,2と同様な構成を有するが、同一直線上に配置された複数の光センサを有する光検出部61〜63が、加工レンズの光軸55を中心とした同一円周上に複数配置されており、複数の光検出部61〜63の少なくとも1つは、光スポットが相対移動する加工方向に対して後方から加工点3を望む方向に配置されている。
【0048】
例えば、光軸55に関して垂直なXY面において、加工方向を−Y方向とすると、光検出部61は光軸55から+Y方向に位置し、2つの光検出部62は光軸55から−X方向および+X方向にそれぞれ位置し、光検出部63は光軸55から−Y方向に位置している。
【0049】
図15(a)は、YZ面における光検出部61,63の配置例を示し、図15(b)は、ZX面における光検出部62の配置例を示す。光検出部61は、切断フロント64から後方斜め上方に位置し、光検出部61は、切断フロント64から前方斜め上方に位置し、光検出部62は、切断フロント64から側方斜め上方に位置している。
【0050】
被加工材11の切断面の品質を保つためには、熟練者が加工面の目視によって加工パラメータを調整することが必要である。調整すべき加工パラメータの判断に際しては、被加工材の厚み方向に関して加工不良が発生している位置が重要な基準の一つとなる。例えば、被加工材の上部で加工不良がみられる場合は、入熱過多と判断し、被加工材への入熱量が減少するように加工パラメータを調整する。また、被加工材の下部で加工不良が見られる場合は、入熱量不足と判断し、逆に入熱量を増加させる方向に加工パラメータを調整する。
【0051】
本実施形態では、図14に示すように、加工点3を後方から望む方向に配置された光検出部61は、切断フロント64の上部から下部に至る領域からの放射光4を観測することができる。
【0052】
一方、光検出部62,63は、方向に応じて放射光4を観測できる切断フロント64の領域が異なる。例えば、図15に示すように、加工点3を側方から望む方向に配置された光検出部62は、切断フロント64の上部から中間部に至る領域からの放射光4を観測できる。また、加工点3を前方から望む方向に配置された光検出部63は、切断フロント64の上部付近の領域からの光放射4を観測できる。従って、良好加工時には、図15で示すように、信号強度は、光検出部61、光検出部62、光検出部63の順に小さくなる。
【0053】
図16は、良好切断時における光検出部61〜63の信号強度分布の一例を示すグラフである。図17は、被加工材の下部で加工不良が発生した場合の光検出部61〜63の信号強度分布の一例を示すグラフである。図18は、被加工材の中間部で加工不良が発生した場合の光検出部61〜63の信号強度分布の一例を示すグラフである。図19は、被加工材の上部で加工不良が発生した場合の光検出部61〜63の信号強度分布の一例を示すグラフである。
【0054】
放射光の強度分布は、良好加工時と比較すると、加工不良が発生した部位に応じて変化する。被加工材の下部で加工不良が発生すると、図17に示すように、光検出部61の信号強度分布のピーク位置が上方にシフトするが、光検出部62,63の信号強度分布はあまり変化しない。被加工材の中間部で加工不良が発生すると、図18に示すように、光検出部61,62の信号強度分布のピーク位置が上方にシフトするが、光検出部63の信号強度分布はあまり変化しない。被加工材の上部で加工不良が発生すると、図19に示すように、光検出部61〜63の信号強度分布のピーク位置が上方にシフトする。従って、光検出部61〜63の信号強度分布を良好加工時のものと比較することによって、切断フロント64の加工不良が発生している位置が特定でき、調節すべき加工パラメータを特定することができる。
【0055】
なお、本実施形態では、光検出部61〜63を光軸周りに90°間隔で4つ配置した場合を例示したが、加工レンズの光軸55を中心とした同一円周上に少なくとも2つ以上配置すれば、切断フロント64の加工不良が発生している位置を特定することができる。
【0056】
実施の形態8.
図20と図21は、本発明の実施の形態8を示す構成図である。レーザ加工装置は、実施の形態1,2と同様な構成を有するが、同一直線上に配置された複数の光センサを有する光検出部71,72が、レーザ光1の光軸2に対して加工点3を望む方向に傾斜して配置されている。
【0057】
図20の構成では、光検出部71が切断フロント64からの放射光4を受光できる立体角が同じである場合、光検出部71が加工点3を望む方向に傾斜することによって、光センサの配列方向の寸法を短縮できるため、コスト削減が図られる。
【0058】
図21の構成では、光センサの配列方向の寸法が同じである場合、光検出部72が加工点3を望む方向に傾斜することによって、光検出部72が切断フロント64からの放射光4を受光できる立体角が大きくなるため、切断フロント64のより下部まで観測することができる。
【0059】
実施の形態9.
図22は、本発明の実施の形態9を示す構成図である。レーザ加工装置は、実施の形態1,2と同様な構成を有するが、同一直線上に配置された複数の光センサを有する光検出部71が、レーザ光1の光軸2に対して加工点3を望む方向に傾斜して配置されているとともに、加工ヘッド7は中空のハウジングを有し、ハウジングの内壁にはレーザ光1の光軸2に対して傾斜した溝7aが形成され、溝7aの中に光検出部71が埋め込まれている。
【0060】
レーザ光1を被加工材11に対して垂直に入射する場合、被加工材11からの反射光は光軸2を中心とする強度分布を示す。そのため光センサ71を光軸2に接近させ過ぎると、被加工材11からの反射光によって光検出部71の受光面が損傷する可能性がある。
【0061】
この対策として、ハウジングの内壁に傾斜溝7aを形成し、その中に光検出部71を設置することが好ましく、これによって光軸2からできるだけ遠くに光検出部71を配置することが可能になり、被加工材11からの反射光による受光面の損傷を防止できる。
【0062】
実施の形態10.
図23は、本発明の実施の形態10を示す構成図である。レーザ加工装置は、実施の形態9と同様な構成を有するが、光検出部71の受光面前方に窓部材81を設けている。窓部材81は、被加工材からの放射光4の波長に対して高い透過率を有する材料で形成されており、加工ヘッド7のハウジング内壁に沿うように設置される。
【0063】
こうした窓部材81を設けることによって、光検出部71の受光面への汚れ付着を防止し、センサ感度の劣化を防ぐことができる。
【0064】
また、被加工材11がアルミニウム等の高反射材である場合、窓部材81としてガラス、レーザコーティングミラー、回折格子などを使用することが好ましい。特に、窓部材81は、被加工材11で反射して光検出部71に入射する反射光を減衰させる機能を有することが好ましく、これによって高反射材の加工においても被加工材11からの反射光による受光面の損傷を防止できる。
【符号の説明】
【0065】
1 レーザ光、 2 光軸、 3 加工点、 4 放射光、 5,6 光センサ、
7 加工ヘッド、 7a 溝、 8,9 加工レンズ、 10 加工ステージ、
11被加工材、 21 信号処理部、 22 記憶部、 23 判定部、
31,32,33 光センサ、 34 光検出部、 41 ラインセンサ、
51 反射光の光軸、 52 加工ヘッドの中心軸、 53,54 光検出部、
55 加工レンズの光軸、 61,62,63 光検出部、 64 切断フロント、
71,72 光検出部、 81 窓部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を被加工材に向けて照射するための加工ヘッドと、
被加工材を加工ヘッドに対して相対移動させるための移動機構と、
レーザ加工時に、被加工材より発生する放射光を検出するための複数の光センサとを備え、
加工ヘッドの内部には、異なる焦点位置を有する加工レンズが装着可能であり、
光センサは、使用する加工レンズの焦点距離に応じて異なる位置に配置されていることを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項2】
光センサは、被加工材を照射するレーザ光の光軸に対して垂直で、加工点を含む平面からの距離が異なる位置に配置されていることを特徴とする請求項1記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
光センサは、レーザ光の光軸に対して平行な同一直線上に配置されていることを特徴とする請求項2記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
各光センサからの信号を処理して、放射光の強度分布を検出するための信号処理部と、
実際の加工状態と、放射光の強度分布との対応関係を記憶するための記憶部と、
記憶部に予め登録した良好切断時の基準値と、実際のレーザ加工時に取得した放射光の強度分布とを比較して、加工状態の良否判定を行う判定部とをさらに備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
光センサは、同一直線上に複数配置されてラインセンサを構成していることを特徴とする請求項3記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
同一直線上に配置された複数の光センサを有する光検出部が、加工レンズの光軸を中心とした同一円周上に複数配置されていることを特徴とする請求項1記載のレーザ加工装置。
【請求項7】
同一直線上に配置された複数の光センサを有する光検出部が、加工方向に対して後方から加工点を望む方向に配置されていることを特徴とする請求項1記載のレーザ加工装置。
【請求項8】
複数の光検出部の少なくとも1つは、加工方向に対して後方から加工点を望む方向に配置されていることを特徴とする請求項6記載のレーザ加工装置。
【請求項9】
同一直線上に配置された複数の光センサを有する光検出部が、レーザ光の光軸に対して加工点を望む方向に傾斜して配置されていることを特徴とする請求項1記載のレーザ加工装置。
【請求項10】
加工ヘッドは、中空のハウジングを有し、
ハウジングの内壁には、レーザ光の光軸に対して傾斜した溝が形成され、
溝の中に、光検出部が埋め込まれていることを特徴とする請求項9記載のレーザ加工装置。
【請求項11】
光検出部の前方には、窓部材が設けられることを特徴とする請求項10記載のレーザ加工装置。
【請求項12】
窓部材は、被加工材で反射して光検出部に入射する反射光を減衰させる機能を有する請求項11記載のレーザ加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2012−71340(P2012−71340A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−219299(P2010−219299)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】