説明

レーザ測定装置

【課題】熱膨張による測定誤差の発生を効果的に抑制する。
【解決手段】位置関係が変動すると測定精度に対して比較的大きな悪影響を与えることになる光学部品を、インバーやスーパーインバーなどの低熱膨張合金を用いて製作した定盤100に搭載し、光学部品を搭載した定盤100を、他の各部を収容、搭載した基体200に組み付ける。ここで、定盤100は、基体200の上面に設けられた窪み201に収めた形態で、-y方向の端部の二カ所を二つの定盤固定ネジ101で基体200にネジ止めし、y方向の端部を、二つの押さえ板固定ネジ103で基体200に取り付けた基体押さえ板102で、当該押さえ板102と基体200の間に上下から挟み込むことにより基体200に組み付ける。窪み201は、定盤100の大きさよりも少し大きく形成し、定盤100の端部側面が基体200と接しないようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザドップラ振動計などの、レーザ光を用いて測定を行うレーザ測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザ光を用いて測定を行うレーザ測定装置としては、測定対象物の振動や変位を、測定対象物で反射したレーザ光にドップラ効果によって生じるドップラシフトを利用して測定するレーザドップラ振動計などが知られている(たとえば、特許文献1)。
【特許文献1】特開平7-120304号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
レーザ光を用いて測定を行うレーザ測定装置は、通常、基体上に複数の光学部品を搭載して構成されるため、温度変化に従った基体の熱膨張に伴う光路変化による測定誤差の発生が避けられない。
そこで、本発明は、温度変化に伴う測定誤差の発生を、合理的な構成において効果的に抑制することのできるレーザ測定装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題達成のために、本発明は、レーザ光を用いて測定を行うレーザ測定装置を、当該レーザ測定装置の各構成部材が組み付けられた基体と、前記レーザ光の光路を形成する光学部品を搭載した、前記基体に固定された、低熱膨張合金で形成された基盤とを含めて構成したものである。ここで、この基盤に用いる低熱膨張合金としては、インバーまたはスーパーインバーなどを用いることができる。
【0005】
このようなレーザ測定装置によれば、測定精度に影響を与える光学部品のみを、低熱膨張合金を用いた基盤に搭載して実装するので、熱膨張合金を用いることによる機械的特性や加工特性やコスト面における不利益を抑制しつつ、温度変化に伴う測定誤差の発生を効果的に抑制することができるようになる。
【0006】
ここで、このようなレーザ測定装置は、前記基盤を、前記基体の熱膨張による変形が発生した際に、当該基体の変形に追従して変形せずに、前記基体に対して摺動するように前記基体に固定することが好ましい。
このようにすることにより、基体を低熱膨張合金で構成しない場合において、当該基体の熱膨張の影響が低熱膨張合金で構成した基盤に及ぶことを抑制することができる。
ここで、以上のレーザ測定装置は、レーザ光源と、レーザ光源で生成されたレーザ光を第1のビーム光と第2のビーム光に分岐する第1ビームスプリッタと、光結合器と、測定対象物で反射された前記第1のビーム光の反射光を前記光結合器に導く観測光光学系と、前記第2のビーム光を所定の参照信号で変調し、参照光として前記光結合器に導く参照光光学系と、前記光結合器で結合された前記反射光と参照光の干渉を計測する計測系とを備えたレーザドップラ振動計であって良く、この場合には、前記基盤に搭載される光学部品は、前記ビームスプリッタと、光結合器と、前記観測光光学系を構成する光学部品と、前記参照光光学系を構成する光学部品とすることが好ましい。
【0007】
このようにすることにより、反射光の系統と参照光の系統とのレーザドップラ振動計内部の光路長の差の温度変動を効果的に抑制することができるようになる。
【発明の効果】
【0008】
以上のように、本発明によれば、温度変化に伴う測定誤差の発生を、合理的な構成において効果的に抑制することのできるレーザ測定装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態をレーザドップラ振動計への適用を例にとり説明する。
まず、図1に、本実施形態に係るレーザドップラ振動計の基本構成を示す。
図示するように、レーザドップラ振動計は、レーザ光源1、第1ビームスプリッタ2、第2ビームスプリッタ3、参照信号生成部4、音響光学素子5、ミラー6、第3ビームスプリッタ7、光電変換器8、信号処理部9とを備えている。
ここで、このようなレーザドップラ振動計は、たとえば、測定対象物100の表面の振動や変移の測定を、測定対象物100を回転させながら行うものである。
さて、このような構成において、レーザ光源1から射出された周波数f0のレーザービームは、第1ビームスプリッタ2で二分され、二分された一方のビームは、音響光学素子5で、参照信号生成部4が生成する周波数fMの参照信号を用いて周波数fM分周波数がシフトされ、周波数f0+fMの参照ビームとして、ミラー6を介して第3ビームスプリッタ7に入射する。
【0010】
一方、第1ビームスプリッタ2で二分された他方のビームは、第2ビームスプリッタ3を介して、測定対象物100に照射され、測定対象物100の表面で反射された反射光が第2ビームスプリッタ3を介して第3ビームスプリッタ7に入射する。
第3ビームスプリッタ7は、このようにして入射する参照ビームと反射光を結合し光電変換器8に出力する。
ここで、測定対象物100による反射光の周波数には、測定対象物100の表面の振動速度に応じたドップラシフトfDが生じており、反射光の周波数はf0+fDとなる。したがって、光電変換器8において、第3ビームスプリッタ7からの入射光を光電変換した電気信号中には、参照ビームと反射光との干渉によるfM±fDのビート信号が観測される。そこで、信号処理部9において、入力するビート信号を参照信号の周波数fMでFM復調することにより、測定対象物100の振動に応じた速度信号Vが得られ、この速度信号Vを解析することにより測定対象物100の表面の変位が求められる。または、信号処理装置において、反射光と参照ビームの光路長の差によって生じる参照信号とビート信号との位相差より測定対象物100の表面の変位を求めるようにすることもできる。
【0011】
さて、このようなレーザドップラ振動計の構成において、図1中に点線で囲んだ、第1ビームスプリッタ2、第2ビームスプリッタ3、音響光学素子5、ミラー6、第3ビームスプリッタ7は、その位置関係が変動すると、第3ビームスプリッタ7で結合される二つの系統の光線のレーザドップラ振動計内部の光路長の差が変化し、信号処理部9の測定精度に対して比較的大きな悪影響を与えることになる。なお、第3ビームスプリッタ7で結合される二つの系統の光線とは、第1ビームスプリッタ2、音響光学素子5、ミラー6、第3ビームスプリッタ7と辿る参照ビームの系統の光線と、第1ビームスプリッタ2、第2ビームスプリッタ3、第3ビームスプリッタ7と辿る反射光の系統の光線とを指している。
【0012】
さて、次に、図2に、本実施形態に係るレーザドップラ振動計の実装構造を示す。
図2aに外観図を、図2bに分解図を示すように、本実施形態では、第1ビームスプリッタ2、第2ビームスプリッタ3、音響光学素子5、ミラー6、第3ビームスプリッタ7の5つの光学部品を、インバーやスーパーインバーなどの低熱膨張合金を用いて製作した定盤100に搭載する。そして、これら5つの光学部品を搭載した定盤100を、他の各部を収容、搭載した基体200に、二つの定盤固定ネジ101と、押さえ板102と、二つの押さえ板固定ネジ103を用いて組み付ける。なお、定盤100を組み付けた基体200は、図示を省略した筐体中に収容されることになる。
【0013】
さて、このような定盤100の基体200への組み付けの構造は以下の通りである。
すなわち、図2a、b中に示したxyzの各方向を用いて説明すると、定盤100は、基体200の上面に設けた窪み201に収めた形態で、-y方向の端部の二カ所を二つの定盤固定ネジ101で基体200にネジ止めすると共に、y方向の端部を、二つの押さえ板固定ネジ103で基体200に取り付けた押さえ板102で当該押さえ板102と基体200の間に上下から挟み込むことにより基体200に組み付けられる。
【0014】
ここで、図3aに図2aの切断面YZによる断面を、図3bに図2aの切断面XZによる断面を模式的に示すように、基体200の上面に設けられた窪み201は、二段底となっており、定盤100の下面は、窪み201の一段目の底で支持されている。すなわち、定盤100の下面は、-y方向の端部とy方向の端部においてのみ基体200に接している。また、窪み201は、x方向、y方向について定盤100の大きさよりも少し大きく形成されており、定盤100の-x方向端及びx方向端の側面とy方向端の側面は基体200と接しないように、定盤100は二つの定盤固定ネジ101で基体200に組み付けられる。また、図2bに示すように、二つの定盤固定ネジ101の貫通用に定盤100に設けられた二つの孔のうちの一方の孔はx方向に長い長孔105として形成されている。
【0015】
そして、これらのような構成によって、基体200の熱膨張による変形に追従して、定盤100が変形してしまうことが抑制されるようになっている。すなわち、基体200がy方向に膨張した場合でも、定盤100のy方向端部が基体200と押さえ板102の間で摺動するだけで、定盤100が基体200に追従して変形することはない。また、同様に、基体200がx方向に膨張した場合でも、定盤100のy方向端部が基体200と押さえ板102の間で摺動し、定盤100に設けた長穴の周辺部分が長孔105に挿入された定盤固定ネジ101の頭部と基体200の間で摺動するだけで、定盤100が基体200に追従して変形することはない。
【0016】
以上、本発明の実施形態について説明した。
さて、インバー、スーパーインバーなどの低熱膨張合金は温度変化に伴う変形の度合いが小さいという利点があるが、その他の機械的特性や加工特性やコスト面において、鉄、銅、ステンレス、アルミニウム合金などの、より機械材料として一般的な金属や合金に比べ不利な点もあり、低熱膨張合金を用いて装置全体を構成することは不利益も大きい。
【0017】
一方、本実施形態のように、測定精度に大きな影響を与える光学部品のみを、低熱膨張合金を用いた定盤100に搭載して、他部の熱変形の影響を極力受けないように実装すれば、以上のような低熱膨張合金を用いることにより不利益を最小に押さえつつ、温度変化に伴う測定誤差の発生を効果的に抑制することができることになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係るレーザドップラ振動計の基本構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係るレーザドップラ振動計の実装構造を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係るレーザドップラ振動計の定盤の基体への組み付けの構造を模式的に示した断面図である。
【符号の説明】
【0019】
1…レーザ光源、2…第1ビームスプリッタ、3…第2ビームスプリッタ、4…参照信号生成部、5…音響光学素子、6…ミラー、7…第3ビームスプリッタ、8…光電変換器、9…信号処理部、100…測定対象物、100…定盤、101…定盤固定ネジ、102…板、103…板固定ネジ、105…長孔、200…基体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を用いて測定を行うレーザ測定装置であって、
当該レーザ測定装置の各構成部材が組み付けられた基体と、
前記レーザ光の光路を形成する光学部品を搭載した、前記基体に固定された、低熱膨張合金で形成された基盤とを有することを特徴とするレーザ測定装置。
【請求項2】
請求項1記載のレーザ測定装置であって、
前記低熱膨張合金は、インバーまたはスーパーインバーであることを特徴とするレーザ測定装置。
【請求項3】
請求項1または2記載のレーザ測定装置であって、
前記基盤は、前記基体の熱膨張による変形が発生した際に、当該基体の変形に追従して変形せずに、前記基体に対して摺動するように前記基体に固定されていることを特徴とするレーザ測定装置。
【請求項4】
請求項1、2または3記載のレーザ測定装置であって、
当該レーザ測定装置は、レーザ光源と、レーザ光源で生成されたレーザ光を第1のビーム光と第2のビーム光に分岐する第1ビームスプリッタと、光結合器と、測定対象物で反射された前記第1のビーム光の反射光を前記光結合器に導く観測光光学系と、前記第2のビーム光を所定の参照信号で変調し、参照光として前記光結合器に導く参照光光学系と、前記光結合器で結合された前記反射光と参照光の干渉を計測する計測系とを備えたレーザドップラ振動計であって、
前記基盤に搭載される光学部品は、前記ビームスプリッタと、光結合器と、前記観測光光学系を構成する光学部品と、前記参照光光学系を構成する光学部品であり、前記レーザ光源と前記計測系は前記基盤に搭載されていない形態で、前記基体に固定されていることを特徴とするレーザ測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−96277(P2008−96277A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−278280(P2006−278280)
【出願日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(000145806)株式会社小野測器 (230)
【Fターム(参考)】