説明

レーザ着火式点火具

【課題】取り扱いが容易で、より小型化することが可能なレーザ着火式点火具を提供する。
【解決手段】点火エネルギーとなるレーザ光LBを発生するレーザ発振装置20と、レーザ発振装置20が発生したレーザ光LBを平行光に変換するレンズであるコリメートレンズ31と、平行光に変換されたレーザ光LBを集光するレンズである集光レンズ32と、集光されたレーザ光LBの焦点Fgの近傍に配置された点火薬42と、が収容されているレーザ着火式点火具1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光を用いて点火薬に着火するレーザ着火式点火具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ロケットモータやガスジェネレータ用イグナイタ等、爆発性火工品の点火用として、白金線や抵抗体に電流を流して発熱させて点火薬を発火させる点火具が利用されている。
そして近年では、より確実に点火するために、レーザ光を用いた、種々のレーザ着火式点火具が提案されている。
例えば特許文献1に記載された従来技術では、火薬室を備えた発光部構体に、レーザ光が導光された光ファイバを保持した第1フェルールを嵌合可能なスリーブが設けられ、当該スリーブには、第1フェルールの光ファイバからのレーザ光を火薬室に導光する光ファイバを備えた第2フェルールが嵌合されており、第2フェルールが発光部構体に接着剤で気密保持接着されたレーザ着火式火工品発火部が開示されている。
また特許文献2に記載された従来技術では、レーザ光源としてのレーザダイオードと、レーザダイオードのケーシングに設けられた透過性部分に爆薬が設けられた、レーザ光源を有する点火部材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3801230号公報
【特許文献2】特表2002−537534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された従来技術では、光ファイバを用いてレーザ光を点火具に供給しており、光ファイバや、点火具に光ファイバを接続する部品が必要で高価であるとともに、光ファイバと点火具の接続部におけるレーザ光の減衰を考慮して出力が比較的大きなレーザ光を必要としている。このため、点火装置はレーザ光源を含めて比較的大型であるとともに光ファイバの接続部には減衰の小さな部品が必要であり、非常に高価である。また、安全等を考慮して柔軟性が低く曲げにくい光ファイバを使用しており、取り扱いも難しい。
また特許文献2に記載された従来技術では、点火具にレーザダイオードを内蔵しているので特許文献1に記載の点火具に対して、レーザ光の減衰が無く、取り扱いも容易である。しかし、レーザダイオードから出射されて円錐状に拡散するレーザ光を、集光することなく点火薬に照射している。このため、比較的大きな出力のレーザダイオードを必要としており、点火具のサイズが大型化するとともに、出力の大きな高価なレーザダイオードが必要である。
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、取り扱いが容易で、より小型化することが可能なレーザ着火式点火具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明に係るレーザ着火式点火具は次の手段をとる。
まず、本発明の第1の発明は、点火エネルギーとなるレーザ光を発生するレーザ発振装置と、前記レーザ発振装置が発生したレーザ光を平行光に変換するレンズであるコリメートレンズと、平行光に変換された前記レーザ光を集光するレンズである集光レンズと、集光された前記レーザ光の焦点近傍に配置された点火薬と、が収容されているレーザ着火式点火具である。
【0006】
この第1の発明では、レーザ発振装置から出射されるレーザ光をコリメートレンズと集光レンズを用いて焦点位置にレーザ光を集光してエネルギー密度を高め、当該集光位置に点火薬を配置する。
これにより、例えば比較的低出力のレーザダイオードを用いた、より小型で安価、且つ一体型のレーザ着火式点火具を構成することができる。
また、取り扱いが難しい光ファイバを引き回す必要が無く、取り扱いが容易である。
【0007】
次に、本発明の第2の発明は、上記第1の発明に係るレーザ着火式点火具であって、前記コリメートレンズと前記集光レンズは、いずれも略球体のボールレンズである。
【0008】
この第2の発明によれば、焦点距離が比較的短く、且つ安価な球状のボールレンズを使用することで、より小型化することが可能な、比較的安価なレーザ着火式点火具を実現することができる。
また、ボールレンズは、レンズ中心をレーザ光の光軸上に配置するだけで良く、特にレンズの光軸の傾きを意識する必要がないので、組み付け性が良い。
【0009】
次に、本発明の第3の発明は、上記第1の発明に係るレーザ着火式点火具であって、前記コリメートレンズは略球体のボールレンズであり、前記集光レンズにおいて、前記コリメートレンズの側は球面に形成されており、前記コリメートレンズと反対の側は前記レーザ光の光軸に直交する平面である点火薬側平面が形成されている。
【0010】
この第3の発明によれば、より大きな屈折率を有する集光レンズを用いて、光軸方向における集光レンズの厚さをより薄くすることができるので、レーザ着火式点火具をより小型にすることができる。
【0011】
次に、本発明の第4の発明は、上記第3の発明に係るレーザ着火式点火具であって、前記点火薬側平面と前記点火薬との間には、前記レーザ光が透過可能であるとともに略平板状である平板状透過部材が配置されている。
【0012】
この第4の発明によれば、平板状透過部材を用いることで、集光レンズの焦点距離の長さ等を調節することができるので、便利である。
【0013】
次に、本発明の第5の発明は、上記第1の発明〜第4の発明のいずれか1つに係るレーザ着火式点火具であって、前記平板状透過部材を有している場合、前記点火薬は、前記レーザ光の光軸上であって前記点火薬に対向している前記平板状透過部材の表面に接する位置に配置され、前記レーザ光の光軸上であって前記点火薬における前記平板状透過部材の側の表面の近傍が前記レーザ光の焦点位置となるように前記集光レンズと前記平板状透過部材が構成されている。
また、前記平板状透過部材を有していない場合、前記点火薬は、前記レーザ光の光軸上であって前記点火薬に対向している前記集光レンズの表面に接する位置に配置され、前記レーザ光の光軸上であって前記点火薬における前記集光レンズの側の表面の近傍が前記レーザ光の焦点位置となるように前記集光レンズが構成されている。
【0014】
この第5の発明によれば、点火薬を集光レンズまたは平板状透過部材に接触する位置に配置するので、点火薬の装填位置の位置決めが容易である。
また、点火薬を球面に装填するのでなく平面に装填することができるので、点火薬の装填が容易である。更に、点火薬を圧縮しながら装填する場合、球面でなく平面に装填するので、容易に点火薬の圧力を均一にすることができる。
【0015】
次に、本発明の第6の発明は、上記第1の発明〜第4の発明のいずれか1つに係るレーザ着火式点火具であって、前記平板状透過部材を有している場合、前記点火薬は、前記レーザ光の光軸上であって前記点火薬に対向している前記平板状透過部材の表面から前記光軸に沿って所定距離だけ離れた位置に配置され、前記レーザ光の光軸上であって前記点火薬における前記平板状透過部材の側の表面の近傍が前記レーザ光の焦点位置となるように前記集光レンズと前記平板状透過部材が構成されており、前記平板状透過部材と前記点火薬との間には空間が形成されている。
また、前記平板状透過部材を有していない場合、前記点火薬は、前記レーザ光の光軸上であって前記点火薬に対向している前記集光レンズの表面から前記光軸に沿って所定距離だけ離れた位置に配置され、前記レーザ光の光軸上であって前記点火薬における前記集光レンズの側の表面の近傍が前記レーザ光の焦点位置となるように前記集光レンズが構成されており、前記集光レンズと前記点火薬との間には空間が形成されている。
【0016】
この第6の発明によれば、集光レンズの焦点位置を、集光レンズ(あるいは平板状透過部材)から離れた位置に設定するので、集光されたレーザ光のエネルギーが集光レンズまたは平板状透過部材に伝導されて低下することを防止することができる。
【0017】
次に、本発明の第7の発明は、上記第1の発明〜第4の発明のいずれか1つに係るレーザ着火式点火具であって、前記平板状透過部材を有している場合、前記点火薬は、前記レーザ光の光軸上であって前記点火薬に対向している前記平板状透過部材の表面から前記光軸に沿って所定距離だけ離れた位置に配置され、前記レーザ光の光軸上であって前記点火薬における前記平板状透過部材の側の表面の近傍が焦点位置となるように前記集光レンズと前記平板状透過部材が構成されており、前記平板状透過部材と前記点火薬との間は前記レーザ光が透過可能であるとともに断熱性を有する断熱透過部材にて埋められている。
また、前記平板状透過部材を有していない場合、前記点火薬は、前記レーザ光の光軸上であって前記点火薬に対向している前記集光レンズの表面から前記光軸に沿って所定距離だけ離れた位置に配置され、前記レーザ光の光軸上であって前記点火薬における前記集光レンズの側の表面の近傍が前記レーザ光の焦点位置となるように前記集光レンズが構成されており、前記集光レンズと前記点火薬との間は前記レーザ光が透過可能であるとともに断熱性を有する断熱透過部材にて埋められている。
【0018】
この第7の発明によれば、集光レンズの焦点位置を、集光レンズ(あるいは平板状透過部材)から離れた位置に設定するので、集光されたレーザ光のエネルギーが集光レンズまたは平板状透過部材に伝導されて低下することを防止することができる。また、集光レンズと点火薬との間を、レーザ光を透過するとともに断熱性を有する断熱透過部材で埋めることで、レーザ光のエネルギーロスを抑制するとともに点火薬の位置決めも容易なレーザ着火式点火具を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(A)は、レーザ着火式点火具1を構成する各部材を説明する斜視図であり、(B)は、各部材を組み付けたレーザ着火式点火具1をレーザ光LBの光軸ZLに沿って切断した断面図である。
【図2】レーザダイオード20から出射されたレーザ光LBを点火薬42に集光するコリメートレンズ31、集光レンズ32の構造の例を説明する図であり、点火薬42と集光レンズ32(または平板状透過部材33)とが接触するように点火薬42を配置した例を説明する図である。
【図3】レーザダイオード20から出射されたレーザ光LBを点火薬42に集光するコリメートレンズ31、集光レンズ32の構造の例を説明する図であり、点火薬42と集光レンズ32(または平板状透過部材33)との間に所定距離D2の空間が形成されている例を説明する図である。
【図4】レーザダイオード20から出射されたレーザ光LBを点火薬42に集光するコリメートレンズ31、集光レンズ32の構造の例を説明する図であり、点火薬42と集光レンズ32(または平板状透過部材33)との間の所定距離D2が断熱透過部材41にて埋められている(充填されている)例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明を実施するための形態を、図面を用いて説明する。
●[レーザ着火式点火具1の全体構成(図1)]
まず図1(A)及び(B)を用いて、レーザ着火式点火具1の一実施の形態の全体構成について説明する。
レーザ着火式点火具1は、ダイオードホルダ61、レーザダイオード20(レーザ発振装置に相当)、コリメートレンズ31、集光レンズ32、スペーサ11、断熱透過部材41、点火薬42、点火薬ホルダ62、主装薬50、キャップ63等がケース10内に収容されて構成されている。ケース10内の一方端(図1では左側端部)にレーザダイオード20が収容され、レーザダイオード20のレーザ光出力窓の軸線である光軸ZL上に、コリメートレンズ31と集光レンズ32と点火薬42が収容されている。
なお、後述する図2、図3の例に示すように、断熱透過部材41は省略しても良い。
【0021】
レーザダイオード20は、電源が供給されると発光部Fsからレーザ光LBを出射する。なお出射されたレーザ光LBの光軸を光軸ZLにて示す。また図示省略するが、レーザダイオード20には、電源が接続される。またレーザダイオード20は、ダイオードホルダ61にてケース10に保持されている。
出射されたレーザ光LBは、所定の拡がり角を有して円錐状に拡がるため、コリメートレンズ31と集光レンズ32にて構成されたレンズ群30を用いて、点火薬42の表面近傍に集光される。
コリメートレンズ31は、レーザダイオード20から出射されたレーザ光LBを平行光に変換する。図1(A)及び(B)に示す例では、コリメートレンズ31は略球体のボールレンズであり、レーザダイオード20の発光部Fsまでの距離が焦点距離f1とほぼ一致するように設定されている。
集光レンズ32は、平行光に変換されたレーザ光LBを、点火薬42の表面近傍と光軸ZLとの交点となる集光位置Fgに向けて集光する。図1(A)及び(B)に示す例では、集光レンズ32は略球体のボールレンズであり、集光位置Fgまでの距離が焦点距離f2とほぼ一致するように設定されている。
なお、図1の例ではコリメートレンズ31と集光レンズ32とを接するように配置しているが、コリメートレンズ31と集光レンズ32との間ではレーザ光LBが平行光となっているので、コリメートレンズ31と集光レンズ32との間隔は、任意の距離に設定することができる。ただし、レーザ着火式点火具1をより小型にするためには、コリメートレンズ31と集光レンズ32との間隔をゼロ(すなわち、接するように配置)に設定することが好ましい。
【0022】
断熱透過部材41は、レーザ光LBを透過するとともに断熱性を有する部材であり、点火薬42と集光レンズ32との間を埋めるスペーサの役割を果たす。
点火薬42は、レーザ光LBにて直接的に着火される火薬である。
また、断熱透過部材41と点火薬42は、点火薬ホルダ62にてケース10内に保持されている。
主装薬50は、点火薬42の燃焼によって着火燃焼し、イグナイタとして必要な熱量や多量の熱粒子や破片を発生する火薬成分であり、必要な熱量等に応じて適宜分量が調整される。
ケース10は、例えば耐圧性の金属ケースであり、キャップ63は、例えば樹脂製もしくは金属製である。また、ケース10内には、コリメートレンズ31の径、及び集光レンズ32の径の内径を有するスペーサ11が収容されている。
そして点火薬42と主装薬50の燃焼生成物は、ケース10の他方端(図1では右側端部)のキャップ63を破って噴出する構造を有している。
【0023】
レーザ着火式点火具1は、上記に記載したケース10を除く全ての構成部品がケース10内に収容され、レーザダイオード20に電源を接続するだけで良いので、取り扱いが容易である。
なお、レーザダイオード20は、入手が容易で安価な、近赤外から可視光の波長を有するものが好ましい。そしてレーザ光の出力は、短時間で点火薬を着火するエネルギーが必要であるので、例えば0.2[W]以上、好ましくは0.5[W]以上の出力を有するものが必要である。なお、0.5[W]出力のレーザダイオードであっても、5〜6[mm]程度の大きさであり、充分小型である。また、高出力のレーザダイオードほど、レーザ照射の開始から着火までの時間が短く、例えば0.5[W]以上であれば、1[ms]以下の短い着火遅れ時間を実現することができる。
【0024】
また点火薬42は、例えば過塩素酸カリウム・ジルコニウム混合物や、硝酸カリウム・ボロン混合物等、一般的な点火具に使用されている点火薬を使用できる。なお、点火薬にカーボンブラックのような黒色の成分を1[%]〜5[%]程度、含有させると、レーザ光LBの吸収率が向上し、比較的低出力のレーザダイオードであっても、着火遅れ時間をより短くすることができるので、好ましい。
また主装薬50としては、例えば硝酸カリウム・ボロン混合物や、過塩素酸カリウム・アルミニウム混合物等、一般的な点火薬成分のものを使用できる。
またレーザ着火式点火具1をデトネータ(起爆装置、雷管等)として使用する場合は、点火薬42として、例えばアジ化鉛やDDNP(ジアゾジニトロフェノール)のような起爆薬を使用し、主装薬としてペンスリットやHMX(オクトーゲン)のような爆薬成分を使用できる。
また断熱透過部材41は、レーザ光LBの透過に伴う減衰の少ない部材であるとともに断熱性を有する部材である。集光レンズ32と点火薬42との間に所定距離D2を設け、その所定距離D2を、この断熱透過部材41にて埋めることで、集光レンズ32の半径、焦点距離、屈折率の設計自由度を向上(後述の(式1)参照)させることができるとともに、点火薬42の位置決めを容易にすることができる。
また断熱透過部材41の材質としては、例えば透明アクリル樹脂のほか、LEDの封止剤に使用されている透明エポキシ樹脂や透明シリコン樹脂等が使用可能である。
【0025】
図1(A)及び(B)に示す例では、コリメートレンズ31と集光レンズ32の双方をボールレンズとしている。ボールレンズは、球体でない一般的な凸レンズと比較して、曲率が大きいため焦点距離が短く、製造も比較的容易で安価である。また、球体であるため、2個使用してもレンズ中心O1、O2を光軸ZLに合致させるだけでレンズ光軸の傾きを意識する必要が無く、光軸調整が容易である。従って、ボールレンズを用いることで、レーザ着火式点火具1の光軸ZL方向の長さをより短くしてより小型化できるとともに、組み付けも容易とすることができる。また、2個のレンズでレーザ光を集光してエネルギー密度を高くするので、小型のレーザダイオードで良く、さらにレーザ着火式点火具1を小型化することができる。
【0026】
次に図1(B)を用いて、コリメートレンズ31と集光レンズ32の焦点距離、屈折率等について説明する。
一般的なレーザダイオード20は、発光部Fsから透過窓面(レーザダイオード表面)までの距離である発光部距離D1は、約1[mm]である。従って、レーザダイオード20の透過窓にコリメートレンズ31を接触させて配置する場合、レンズ表面から焦点までの距離が1[mm]のレンズが好ましいことになる。
ここで、球状のコリメートレンズ31の屈折率をN1、焦点距離をf1、レンズ半径をR1とすると、以下の式が成立する。
焦点距離f1=屈折率N1*レンズ半径R1/[2*(屈折率N1−1)] (式1)
なおこの場合、焦点距離f1=レンズ半径R1+発光部距離D1=2+1=3[mm]である。
上記の(式1)に、焦点距離f1=3[mm]、レンズ半径R1=2[mm]を代入すると、屈折率N1=1.5が算出され、この屈折率1.5程度の材質でコリメートレンズ31を形成する必要があることがわかる。
なお、屈折率N1<1.5の場合は、焦点距離f1が伸びるが、レンズ半径R1を小さくすれば同等の焦点距離にすることができる。例えばレンズ半径R1=1.75[mm]に設定した場合、焦点距離f1=レンズ半径R1+発光部距離D1=1.75+1=2.75[mm]であり、(式1)から屈折率N1≒1.469となる。この場合、コリメートレンズ31のレンズ半径R1をより小さくできるので、レーザ着火式点火具1を、より小型にすることができる。
【0027】
また、集光レンズ32の屈折率をN2、レンズ半径をR2、焦点距離をf2として、レンズ表面から所定距離D2だけ離れた集光位置Fgが焦点となるように集光レンズ32を設計する。例えば所定距離D2=1[mm]、レンズ半径R2=2[mm]、焦点距離f2=レンズ半径R2+所定距離D2=2+1=3[mm]であり、これらを(式1)に代入して、屈折率N2=1.5を得ることができる。この場合、コリメートレンズ31と集光レンズ32を、同一のボールレンズとすることができるので、組み付け時に混同することもなく、容易に組み付けることができる(径は同じだが屈折率が異なる場合は混同しやすく、誤組み付けが発生しやすい)。
なお、レーザ着火式点火具1を、より小型化するためには、集光位置Fgを集光レンズ32の表面により近い位置にすることが好ましい。例えばレンズ半径R2=2[mm]、集光位置Fgがレンズ表面に接する位置となるように焦点距離f2=2[mm]とした場合(所定距離D2=ゼロ)、(式1)より屈折率N2=2を得ることができる。
また例えば、集光位置Fgを集光レンズ32より0.2[mm]離した位置に設定し、レンズ半径R2=1.75[mm]とした場合、(式1)より、屈折率N2≒1.815を得ることができる。
【0028】
以下、図2〜図4は、図1(B)に示すレーザ着火式点火具1から、レーザダイオード20、コリメートレンズ31、集光レンズ32、点火薬42、断熱透過部材41を抽出しており、レーザダイオード20から出射されたレーザ光LBを点火薬42に集光するコリメートレンズ31、集光レンズ32の種々の構成の例を説明する図である。なお、図1〜図4において、レーザダイオード20は、全て同じものを用いている。
【0029】
●[レーザダイオード20から出射されたレーザ光LBを点火薬42に集光するコリメートレンズ31、集光レンズ32の構成の例1(図2)]
図2(A)〜(E)に示す例は、断熱透過部材41が省略され、点火薬42を、集光レンズ32(または平板状透過部材33)に接触する位置に配置した例を示している。点火薬42を集光レンズ32(または平板状透過部材33)の表面に接するように充填すれば良いので、点火薬42の装填位置の微調整が不要であり、点火薬42の位置決めが容易である。
【0030】
図2(A)の例は、コリメートレンズ31と集光レンズ32は、球状のボールレンズでなく、一般的な凸レンズを用いている。一般的な凸レンズは、ボールレンズよりも曲率が小さいので、同じ屈折率であれば、焦点距離f11は図1の焦点距離f1よりも長くなり、焦点距離f21は図1の焦点距離f2よりも長くなる。しかし、より大きな屈折率の部材を選定し、より適切なレンズ半径に選定することで、焦点距離f11、f21を短くすることが可能である。レンズが球状でないため(式1)を適用できないが、屈折率、レンズ半径、レンズ面の曲率等を適切に選定することで、集光レンズ32のレンズ表面に集光位置Fgを設定することができる。
【0031】
以下図2(B)〜(E)の例において、コリメートレンズ31はボールレンズであり、図1の例に示したものと同じである。従って、図2(B)〜(E)の例の説明では、集光レンズ32について説明する。
図2(B)の例は、集光レンズ32がボールレンズであり、点火薬42を、集光レンズ32に接触する位置に配置した例を示している。図2(B)の例では、集光レンズ32の焦点距離f22=集光レンズ32の半径R2であり、半径R2=2[mm]とした場合、(式1)より、集光レンズ32の屈折率N2=2が得られる。
【0032】
図2(C)の例では、集光レンズ32は、コリメートレンズ31の側は球面であり、コリメートレンズ31と反対の側(点火薬42と対向する側)は、光軸ZLに直交する平面である点火薬側平面M1が形成されている。図2(C)の例では、焦点距離f23=1.75[mm]、半径R2=2[mm]とした場合、入射面が球面で焦点位置がレンズ表面であるので(式1)を適用可能であり、集光レンズ32の屈折率N2=2.3が得られる。この場合、点火薬42の装填個所が、球面でなく平面になるので、点火薬42の装填作業が容易となる。
この場合、点火薬側平面M1は集光レンズ32の半径R2よりも内側に位置するため、点火薬42の表面に焦点を合わせるためには、屈折率N2>2(好ましくは2.1〜2.2程度)の材質にて集光レンズ32を形成する必要がある。なお、より大きな屈折率を有する集光レンズ32を用いて、光軸方向における集光レンズ32の厚さをより薄くすることができるので、レーザ着火式点火具1をより小型にすることができる。
【0033】
図2(D)の例では、集光レンズ32は、コリメートレンズ31の側は球面であり、コリメートレンズ31と反対の側(点火薬42と対向する側)は、光軸ZLに直交する平面である点火薬側平面M1が形成されており、集光レンズ32と点火薬42との間は、レーザ光LBを透過するとともに平板状である平板状透過部材33にて埋められている。例えば集光レンズ32の屈折率N2と、平板状透過部材33の屈折率N3と、を同じ屈折率に設定することで、焦点距離f24を平板状透過部材33の厚さL3だけ延長させることができる。図2(D)の例では、焦点距離f24=2[mm]、半径R2=2[mm]とした場合、(式1)等を参考にして、集光レンズ32の屈折率N2=2が得られる。また、点火薬42の装填個所が平面(平板状透過部材33の点火薬側平面M2)になるので、装填作業が容易である。また、円柱状の平板状透過部材33の底面の半径を集光レンズ32の球面部分の半径R2と同じにすると、ケース10内に収容した集光レンズ32の光軸の傾き(及び平板状透過部材33の光軸の傾き)を抑制することができる。
【0034】
図2(E)の例では、図2(D)の例に対して、集光レンズ32における点火薬側平面M1が集光レンズ32のレンズ中心O2を通る面であり、円柱状の平板状透過部材33の底面の半径が集光レンズ32の球面部分の半径R2と同じである。図2(E)の例では、集光レンズ32の屈折率N2=平板状透過部材33の屈折率N3、焦点距離f25=2[mm]、半径R2=2[mm]とした場合、(式1)等を参考にして、集光レンズ32の屈折率N2=2が得られる。また、点火薬42の装填個所が平面になるので、装填作業が容易である。また、図2(D)の例に対して、平板状透過部材33の厚さD3が、より厚くなるので、ケース10内における集光レンズ32の収まりが良く、光軸の傾きをさらに抑制することができる。
この場合、ハーフボール状の集光レンズ32と平板状透過部材33の屈折率N2、N3をどちらも屈折率=2に設定すると、平板状透過部材33の厚さD3=レンズ半径R2=2[mm]に設定すれば良い。
【0035】
●[レーザダイオード20から出射されたレーザ光LBを点火薬42に集光するコリメートレンズ31、集光レンズ32の構成の例2(図3)]
図3(A)〜(E)に示す例は、断熱透過部材41が省略され、点火薬42と、集光レンズ32(または平板状透過部材33)との間に所定距離D2の空間を有するように点火薬42を配置した例を示している。レンズの材質はガラスのような熱伝導率が比較的高い物質であるので、レンズ表面にレーザ光LBの焦点位置があると、レーザ光LBで点火薬が加熱されてもレンズを通して一部の熱が失われ、着火までの時間が増大する可能性が考えられる。図3(A)〜(E)の例では、点火薬42と集光レンズ32(または平板状透過部材33)との間に所定距離D2の空間があるので、レーザ光のエネルギーが集光レンズ(または平板状透過部材33)に伝導するエネルギーロスを低減することができる。この所定距離D2の空間は、図1に示す点火薬ホルダ62にて形成することができる。また、この所定距離D2は、適宜設定される。
なお、エネルギーロスの低減とレーザ着火式点火具1の小型化を両立する所定距離D2の好ましい距離は、例えば0.2〜0.3[mm]程度である。
【0036】
図3(A)の例は、図2(A)の例に対して、点火薬42の表面の集光位置Fgと集光レンズ32との間に所定距離D2の空間を有するように構成した例を示している。(式1)に基づいて、所定距離D2を含む焦点距離f26、集光レンズ32の半径、集光レンズ32の屈折率N2が適切に設定されている。
【0037】
図3(B)の例は、図2(B)の例に対して、点火薬42の表面の集光位置Fgと集光レンズ32との間に所定距離D2の空間を有するように構成した例を示している。(式1)に基づいて、所定距離D2を含む焦点距離f27、集光レンズ32の半径R2、集光レンズ32の屈折率N2が適切に設定されている。
【0038】
図3(C)の例は、図2(C)の例に対して、点火薬42の表面の集光位置Fgと集光レンズ32との間に所定距離D2の空間を有するように構成した例を示している。集光レンズ32が球体でないので(式1)等を参考にして、所定距離D2を含む焦点距離f28、集光レンズ32の半径R2、集光レンズ32の屈折率N2が適切に設定されている。
【0039】
図3(D)の例は、図2(D)の例に対して、点火薬42の表面の集光位置Fgと集光レンズ32との間に所定距離D2の空間を有するように構成した例を示している。集光レンズ32が球体でないので(式1)等を参考にして、所定距離D2を含む焦点距離f29、集光レンズ32の半径R2、集光レンズ32の屈折率N2が適切に設定されている。なお、平板状透過部材33の屈折率N3と厚さD3を調整することで、焦点距離f29を調整することも可能である。
【0040】
図3(E)の例は、図2(E)の例に対して、点火薬42の表面の集光位置Fgと集光レンズ32との間に所定距離D2の空間を有するように構成した例を示している。集光レンズ32が球体でないので(式1)等を参考にして、所定距離D2を含む焦点距離f2α、集光レンズ32の半径R2、集光レンズ32の屈折率N2が適切に設定されている。なお、平板状透過部材33の屈折率N3と厚さD3を調整することで、焦点距離f2αを調整することも可能である。
例えば図3(E)の例において、集光レンズ32の屈折率N2=平板状透過部材33の屈折率N3=2に設定した場合、平板状透過部材33の厚さD3を、集光レンズ32のレンズ半径R2よりも小さくすれば、所定距離D2を形成することができる。また、平板状透過部材33の厚さD3=レンズ半径R2の場合、集光レンズ32の屈折率N2<2に設定すれば良い。
【0041】
●[レーザダイオード20から出射されたレーザ光LBを点火薬42に集光するコリメートレンズ31、集光レンズ32の構成の例3(図4)]
図4(A)〜(E)に示す例は、図3(A)〜(E)に対して、集光レンズ32と点火薬42との間に設けた所定距離D2の空間を、断熱透過部材41にて埋めた例を示している。断熱透過部材41は、レーザ光LBの透過に伴う減衰の少ない部材であるとともに、断熱性を有する部材である。これにより、図3(A)〜(E)の例と同様、エネルギーロスを低減することができるとともに、点火薬42を装填する際の位置決めが容易である。なお、この所定距離D2は、図1に示す点火薬ホルダ62にて形成しても良いし、断熱透過部材41にて形成しても良い。また、この所定距離D2は、適宜設定される。
【0042】
図4(A)〜(E)に示す例のそれぞれは、図3(A)〜(E)に示す例のそれぞれに対して、所定距離D2を、断熱透過部材41にて埋めたものである。なお、断熱透過部材41には、レーザ光LBの透過性を有する結晶性の透明な火薬や、透明なアクリル樹脂等を用いることも可能であり、透明な火薬を用いた場合、着火時のエネルギーをより大きくすることができる。
なお、断熱透過部材41の屈折率N4は、焦点距離f2A〜f2Eに影響する。
また、図4(B)に示す例は、図1(A)及び(B)に示すレーザ着火式点火具1の構成と同じである。
【0043】
以上に説明したように、レーザダイオード20と点火薬42との間に、コリメートレンズ31と集光レンズ32、あるいはコリメートレンズ31と集光レンズ32と平板状透過部材33、あるいはコリメートレンズ31と集光レンズ32と断熱透過部材41、あるいはコリメートレンズ31と集光レンズ32と平板状透過部材33と断熱透過部材41、の構成とする。これにより、レーザ光LBを点火薬42に集光してエネルギー密度を高めて着火可能であるので、比較的低出力のレーザダイオード20を使用してより低価格に構成することができる。また、レンズ半径、屈折率、レンズ形状を適切に設定することで、より小型化することが可能であるとともに、点火薬42の装填をより容易にすることができる。
【0044】
本発明のレーザ着火式点火具1は、本実施の形態にて説明した外観、構造、構成、形状等に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。
また本実施の形態にて説明したレーザ着火式点火具1は、ロケットモータやガスジェネレータ用イグナイタの他にも、種々の用途に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 レーザ着火式点火具
10 ケース
11 スペーサ
20 レーザダイオード
30 レンズ群
31 コリメートレンズ
32 集光レンズ
33 平板状透過部材
41 断熱透過部材
42 点火薬
50 主装薬
61 ダイオードホルダ
62 点火薬ホルダ
63 キャップ
D1 発光部距離
D2 所定距離
Fs 発光部
Fg 集光位置
LB レーザ光
O1、O2 レンズ中心
R1、R2 レンズ半径
f1、f2 焦点距離
ZL 光軸



【特許請求の範囲】
【請求項1】
点火エネルギーとなるレーザ光を発生するレーザ発振装置と、
前記レーザ発振装置が発生したレーザ光を平行光に変換するレンズであるコリメートレンズと、
平行光に変換された前記レーザ光を集光するレンズである集光レンズと、
集光された前記レーザ光の焦点近傍に配置された点火薬と、
が収容されている、
レーザ着火式点火具。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ着火式点火具であって、
前記コリメートレンズと前記集光レンズは、いずれも略球体のボールレンズである、
レーザ着火式点火具。
【請求項3】
請求項1に記載のレーザ着火式点火具であって、
前記コリメートレンズは略球体のボールレンズであり、
前記集光レンズにおいて、前記コリメートレンズの側は球面に形成されており、前記コリメートレンズと反対の側は前記レーザ光の光軸に直交する平面である点火薬側平面が形成されている、
レーザ着火式点火具。
【請求項4】
請求項3に記載のレーザ着火式点火具であって、
前記点火薬側平面と前記点火薬との間には、前記レーザ光が透過可能であるとともに略平板状である平板状透過部材が配置されている、
レーザ着火式点火具。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のレーザ着火式点火具であって、
前記平板状透過部材を有している場合、前記点火薬は、前記レーザ光の光軸上であって前記点火薬に対向している前記平板状透過部材の表面に接する位置に配置され、前記レーザ光の光軸上であって前記点火薬における前記平板状透過部材の側の表面の近傍が前記レーザ光の焦点位置となるように前記集光レンズと前記平板状透過部材が構成されており、
前記平板状透過部材を有していない場合、前記点火薬は、前記レーザ光の光軸上であって前記点火薬に対向している前記集光レンズの表面に接する位置に配置され、前記レーザ光の光軸上であって前記点火薬における前記集光レンズの側の表面の近傍が前記レーザ光の焦点位置となるように前記集光レンズが構成されている、
レーザ着火式点火具。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のレーザ着火式点火具であって、
前記平板状透過部材を有している場合、前記点火薬は、前記レーザ光の光軸上であって前記点火薬に対向している前記平板状透過部材の表面から前記光軸に沿って所定距離だけ離れた位置に配置され、前記レーザ光の光軸上であって前記点火薬における前記平板状透過部材の側の表面の近傍が前記レーザ光の焦点位置となるように前記集光レンズと前記平板状透過部材が構成されており、前記平板状透過部材と前記点火薬との間には空間が形成されており、
前記平板状透過部材を有していない場合、前記点火薬は、前記レーザ光の光軸上であって前記点火薬に対向している前記集光レンズの表面から前記光軸に沿って所定距離だけ離れた位置に配置され、前記レーザ光の光軸上であって前記点火薬における前記集光レンズの側の表面の近傍が前記レーザ光の焦点位置となるように前記集光レンズが構成されており、前記集光レンズと前記点火薬との間には空間が形成されている、
レーザ着火式点火具。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のレーザ着火式点火具であって、
前記平板状透過部材を有している場合、前記点火薬は、前記レーザ光の光軸上であって前記点火薬に対向している前記平板状透過部材の表面から前記光軸に沿って所定距離だけ離れた位置に配置され、前記レーザ光の光軸上であって前記点火薬における前記平板状透過部材の側の表面の近傍が焦点位置となるように前記集光レンズと前記平板状透過部材が構成されており、前記平板状透過部材と前記点火薬との間は前記レーザ光が透過可能であるとともに断熱性を有する断熱透過部材にて埋められており、
前記平板状透過部材を有していない場合、前記点火薬は、前記レーザ光の光軸上であって前記点火薬に対向している前記集光レンズの表面から前記光軸に沿って所定距離だけ離れた位置に配置され、前記レーザ光の光軸上であって前記点火薬における前記集光レンズの側の表面の近傍が前記レーザ光の焦点位置となるように前記集光レンズが構成されており、前記集光レンズと前記点火薬との間は前記レーザ光が透過可能であるとともに断熱性を有する断熱透過部材にて埋められている、
レーザ着火式点火具。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−57446(P2013−57446A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195983(P2011−195983)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)