説明

レーザ駆動のミクロな加速器プラットフォーム

相対論的なもしくは準相対論的な電子および選択的にX線を生成することができる共振型のレーザ駆動ミクロ加速器プラットフォームである。その装置は、好適には先細とされた狭い真空ギャップによって隔てられた一対の平行スラブ対称誘電体スラブを有する。ある実施の形態では、スラブの上面には多くの周期的なスロットを有する反射性層が設けられる。この多くの周期的なスロットは、レーザ光が反射器上に向けられる際、構造電場に縦方向の周期性を作り出す。ギャップに導入された電子はスラブの長さ方向に沿って加速される。スラブの反射性表面は、高い屈折率を有する材料の層と低い屈折率を有する材料の層とが交互に積層されてなる積層構造であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願へのクロスリファレンス]
本願は、2007年4月4日に出願された米国仮出願(番号60/910090)を基礎とする優先権の利益を享受する。この仮出願は本明細書において参照によりその全てが開示される。
【0002】
[連邦によって後援された研究または開発に関する声明文]
本発明は、米国エネルギ省によって付与されたグラント(番号DE-FG03-92ER40693)による政府の支援の下になされた。米国政府はこの特許における特定の権利を有する。
【0003】
[コンパクトディスクで提出されるものの参照による援用]
適用なし。
【0004】
本発明は主に電離性放射線源に関し、特に相対論的なおよび準相対論的な電子または制動輻射によるX線を生成するための、自給式ミクロスケールレーザ駆動電子加速器プラットフォームに関する。本発明の装置は、そのデバイスによって電離性放射線が生成されかつそのサイズが小さいため、侵襲性を最小限としたレーザ内視鏡医療において特に有用である。
【背景技術】
【0005】
電離性放射線を使用して腫瘍や哺乳類の細胞増殖異常を治療する方法が成果をあげている。現在の方法によってある種の癌は十分に治療されうるとはいえ、癌はいまだ重い病であり、死亡原因の主なものとなっている。
【0006】
放射線療法によって治療される大抵の癌患者は、外部の大きな線形加速器からの外部高エネルギ放射線、典型的には電子やX線、にさらされる。そのような方法を用いた場合に得られる精度は、ソースとして特に正確に方向付けられた放射線をコンピュータ制御によって生成する、PETもしくはCATに補助されたソースを使用すると、非常に高いものとなりうる(「定位放射線手術」)。このような放射線治療は大抵癌の治療に用いられるが、放射線手術は脳のなかの動静脈奇形(AVS)のような他のまれな状態の治療のための選択肢のひとつでもある。このような医療用途で用いられる放射線のエネルギは使用される方法毎に異なるが、典型的には6MeVから12MeVの範囲にある。
【0007】
しかしながら外部電離性放射線源は周囲の健康な組織に望ましくない放射線量を与える。ビームを目標の組織に到達させるためにはそのビームを健康な器官や組織の大きな領域を通して導かなければならないからである。皮膚や骨や内臓や他の健康な組織が二次的に損傷されることは、放射線治療の望まれない大きな副作用である。したがって外部放射線治療の課題は、健康な周辺組織への被爆量を最小化しつつ目標となる腫瘍組織への治療用放射線量の伝達を最大化することにある。
【0008】
術中照射(IORT)として知られる関連する手法では、手術中に短いバースト状の放射線が腫瘍サイトに当てられる。この放射線は(大きな線形加速器によって生成された)外部X線や電子ビームからのものであってもよく、また小さな放射線源からのものであってもよい。IORTが適用される典型的な事例は、安全性の問題から完全には除去できない腫瘍に関する。そのような場合は、乳癌(乳腺腫瘍摘出術)、直腸/大腸癌、再発性の婦人科系および泌尿器科系の癌、頭部および頸部腫瘍、および軟部肉腫を含む。
【0009】
放射線治療において体内に放射線源を置く手法が開発され、体外からの放射線治療による介在する健康な組織への負の影響が低減されている。例えば、患者はカテーテルを通じて移植もしくは導入された放射性物質による体内放射によって治療される。内用療法(IRT)としても知られる密封小線源治療(Brachytherapy)は、ある種の癌を治療するための特殊な選択肢である。典型的には、放射性物質(例えば、イリジウム192もしくはストロンチウム90)の「種(seeds)」もしくはペレットの形で放射源物質が直接体内に導入される。ある前立腺癌の治療の場合では、腫瘍に挿入された数百もの種から数週間もしくは数ヶ月に亘って低エネルギの放射線が生成される。通常の密封小線源治療では大抵、50keV程度の低エネルギ光子もしくはベータ粒子が生成される。したがってこれらの粒子が周囲の組織へ侵入する度合いは非常に限られており、患者の健康な組織にとっては有利となりうる。
【0010】
別のタイプの密封小線源治療は高線量率(HDR)密封小線源治療であり、そこではより高い線量が短い期間(数十分間を数日に亘って繰り返す)の間に得られる。これは通常、カテーテルによって放射性同位元素を患部に導入し、照射を完了したら再びその放射性同位元素を引き上げることによって実現される。HDR密封小線源治療の別のバージョンは乳ガンの手術後の治療に見られる。あるシステムでは、腫瘍摘出後に残されたスペースに液体充填型のバルーンカテーテルを膨らませる。そして放射性同位体を使用して、腫瘍位置の周囲の組織へ高いが局所的な放射線量を与える。これらの方法によって治療される癌は、通常人体の表面に近いか開口部に近い癌である。
【0011】
密封小線源治療は、心血管疾患の治療において冠動脈ステント(angioplasty)の後にも使用される。経皮的冠動脈インターベンション(PCI)によって冠動脈からプラークが除去されると、通常動脈の形を維持するためにチューブ状のワイヤメッシュステントがその動脈に挿入される。ステント内に異常細胞が成長することによって動脈が再度閉じてしまうステント再狭窄を防ぐため、そのサイトは放射線で処置されてもよい(「冠動脈内放射線治療(vascular brachytherapy)」)。その放射線は通常動脈内にカテーテルによって導入される放射性同位元素によって生成される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
電離性放射線源として放射性同位元素を使用することは、幾つかのリスクおよび不利な点を伴う。第1に、埋め込まれた放射線源は電離性放射線を大抵の場合患者の寿命を越えて出し続け、したがって時が経つにつれて健康な組織を損傷するリスクを生み出す。放射性物質を取り扱う医者や他の医療従事者は長期間電離性放射線に曝され得る。さらに放射性物質を取得し維持し廃棄することに伴う事務的負担がある。つまりオンオフできない点、使用が複雑である点、および安全な取り扱いのためには十分に遮蔽され制御されなければならない点において、埋め込まれた放射性物質は望ましくない。
【0013】
放射性物質を患者の体内に置くのを避けるため、そして外部の放射線源からの健康な器官や組織への放射線の蓄積を低減するために、いくつかのデバイスが開発された。例えば、ある商用デバイスは、小型のX線管を使用し体内に50kVのX線バーストを運ぶ。小型X線管は放射性物質を取り巻く問題を回避できるが、そのエネルギの範囲は非常に限られており(10−50kV)、また生成するビームを選択したりコリメートしたりすることはできない。生成されるスペクトルは広がっておりまた低いエネルギにピークを有し、ビームも同様に広い角度に亘って広がっている。
【0014】
X線技術の使用はまた、X線管に電源を供給するために患者の体内に直接高電圧(50kV)を導入することを必要とし得る。これらのデバイスは小型化されてはいるものの、X線管は各方向に数ミリメートルの寸法を有し、(絶縁の必要性のため)狭いカテーテルではなく堅牢で厚いサポートに取り付けられなければならないので、その有用性は限られている。
【0015】
小型X線管ジェネレータで観察される別の問題は、その管のアノードで発生する過度の熱である。この過度の熱は、周囲の健康な組織や血管を傷つけうる。他の小型X線管のデザインとしては、膨らませることができるバルーンの中にX線管を入れたものがある。このデザインは、ある程度の断熱効果を提供でき、また熱を除去するために液体を循環させることができる。しかしながらこれらのデザインにおいてもデバイスを動作させるために体内で高い電圧を生成する必要があり、またかさばる。
【0016】
さらに別の内部的デザインは、フレキシブルなX線伝送ニードルを提供し、ここではX線もしくは電子が中空のグラスファイバもしくは他の反射性ビーム伝送管を通して伝送される。ニードルの先端が腫瘍もしくは他の組織に導入され、放射線がそのニードルを通じてそのサイトに運ばれる。しかしながら、反射のために放射線強度に大きなロスが生じるので、治療に必要な最小の放射線被爆量を得るためにより長い照射時間が必要となる。
【0017】
したがって、ソースからの電離性放射線で体内の癌を治療できるミクロサイズのデバイスを、目標となる腫瘍サイトにもしくはその近くに配置し隣接する器官や組織の被爆を最小化するように開発する必要がある。また、高電圧や過度の熱や放射性物質を体内に導入する必要なしに目標となる組織サイトへ電離性放射線を提供する、カテーテルによって位置決めされるデバイスが必要である。さらに、目標となる組織の電離性放射線への被爆を制御するミクロなデバイスが必要であり、その被爆は、医療従事者や患者を有害物質に曝したりせずまた放射線安全要綱の必要なしに、選択された強度および期間で行われることが必要である。さらに、アクセスできない器官や冠状動脈へのステントの移植や脳動静脈奇形の撲滅やその他の用途における多種多様な腫瘍学的治療に適用可能で、使用が容易で、比較的製造コストがかからないデバイスが必要である。本発明は他のものに加えてこれらの必要性も充足し、その技術分野におけるデバイスや処方を広く改良したものを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、電子を生成して加速することができる、もしくはX線を生成できる、ミクロスケールの共振レーザ駆動の構成である。本発明は、体内の器官や腫瘍や血管へ直接治療用線量の電離性放射線を運ぶことのできる医療用デバイスに適用できる。生成される放射線は、約1MeVから約5MeVのエネルギを有する相対論的電子(ベータ粒子)のパルスからなる。この放射線はミリメートル以下のサイズの電子加速器によって生成される。この電子加速器は、光ファイバカテーテルに取り付けられて腹腔鏡的に組織または器官に挿入されうる。このデバイスは密封小線源治療に特に適している。そこでは、体内に導入された局所的な小線源によって治療用の放射線が所望の箇所に直接運ばれる。しかしながら、その装置は加速電子やX線が必要とされるいかなる状況においても使用されうる。
【0019】
密封小線源治療はいかなる単一の医療目的や医療行為に限られるものではない。前立腺や子宮頸部や胸部や頭部や頸部や肺などのアクセス可能な器官の表面の腫瘍や癌の治療にも、この治療の種々異なる形態が使用されうる。関連アプリケーションでは、腫瘍を手術により除去した直後に腫瘍床に放射線が照射されうる(術中放射線療法、IORT)。密封小線源治療は冠状動脈疾患の治療において動脈ステントを取り付ける際にも使用される。これにより薬を使用することなしに、ステントの周りで血管が再狭窄することを防ぐことができる。
【0020】
本発明では放射性同位元素は使用されない。生成される放射線は短いパルスの間だけオンされる細いビームである。それがアクティブでない場合は、そのデバイスのいかなる箇所にも放射線は発生せず、シールドは必要ない。生成される電子ビームは、製造過程で選択されうる比較的狭いエネルギピークを有する。
【0021】
本発明のある態様によると、放射線源が提供される。この放射線源は、真空引きされたハウジングを有する。このハウジングは、ミクロな加速器プラットフォームアセンブリを含む。このプラットフォームアセンブリは、真空ギャップによって隔てられた一対の誘電体スラブを含み、各スラブは前記ギャップと反対側に反射層を有し、少なくともひとつの反射層は複数の周期的なスロットと活性表面とを含む。誘電体スラブの反射層に光線を向ける光源および前記真空ギャップの中に電子を射出する電子源および電子は加速される。
【0022】
本発明の別の態様によると、ミクロな加速器プラットフォームが提供される。このミクロな加速器プラットフォームは、電子源と、複数のスロットを有する反射表面と活性表面とを含む第1の誘電体スラブと、複数のスロットを有する反射表面と活性表面とを含む第2の誘電体スラブと、を備え、第2の誘電体スラブの活性表面は、第1の誘電体スラブの前記活性表面と対向して設けられ、それにより前記両活性表面間にはギャップが形成される。光源は第1および第2の誘電体スラブの反射表面に光線を向け、電子源から射出された電子は、2つの誘電体スラブの活性表面間の前記ギャップのなかで加速される。
【0023】
本発明の別の態様は、ミクロな加速器プラットフォームを提供することである。このミクロな加速器プラットフォームは、複数のスロットを有する反射表面と活性表面とを含む第1の誘電体スラブと、反射表面と活性表面とを含む第2の誘電体スラブと、を備え、両活性表面は互いに対向して設けられ、それにより両活性表面間にはギャップが形成される。第2のスラブの反射表面は金属の反射器であってもよい。光源は、第1の誘電体スラブのスロットが設けられた反射表面に光線を向ける。電子源はギャップの中に電子を射出し、次いで電子は加速される。
【0024】
本発明のさらに別の態様では、放射線源が提供される。この放射線源は電子源を有し、この電子源は、強誘電性結晶ベースと、強誘電性結晶ベースと結合された射出アレイと、加熱要素と、を含む。射出アレイはグラファイトのニードルから形成され、強誘電性結晶ベースはニオブ酸リチウムから形成されることが好ましい。
【0025】
本発明のさらなる態様が本明細書の以下の部分によって明らかになるであろう。そこでの詳細な説明は、本発明の好ましい実施の形態を十分に開示するためのものであり、本発明を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
例示のみを目的とする以下の図を参照することによって本発明はより十分に理解されるであろう。
【0027】
【図1】対称的に対とされた誘電体ウエハ/スラブを有する、本発明の実施の形態に係るミクロな加速器プラットフォームの模式的側面図である。
【0028】
【図2】対とされた誘電体ウエハ/スラブを有する、本発明の別の実施の形態に係るミクロな加速器プラットフォームの模式的側面図である。一方の反射性スラブ表面は周期的なカップリングスロットを含み、他方の誘電体スラブは単純な反射表面上に設けられる。
【0029】
【図3】図1に示される実施の形態の周期的スラブ対構造の模式図である。
【0030】
【図4A】高い屈折率を有する材料の層と低い屈折率を有する材料の層とが交互に積層されてなる層およびスロットの詳細を示す、ある実施の形態に係るスラブ構造の模式的な側面図である。
【0031】
【図4B】周期的なスロットの詳細を示す、本発明のある実施の形態に係るスラブ構造の模式的な上面図である。
【0032】
【図5】別の実施の形態に係るカップリングスロットを含むスラブ構造の模式的な上面図である。カップリングスロットは直交方向から少し回転され、数構造周期毎にその符号を変える。
【0033】
【図6】本発明の実施の形態に係る一体化された粒子射出器の模式図である。
【0034】
【図7A】シミュレートされた加速器の構造に沿った粒子エネルギのグラフである。
【0035】
【図7B】斜切されたスロットの配置を使用した集束のグラフであり、最初の20個の構造周期におけるx値およびy値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
図をより詳細に参照すると、説明を目的として本発明は一般に図1から図7Bに示される装置に例示されている。本明細書に開示される基本的な概念から外れることなしに、装置には部品の配置や詳細について変形例が存在し方法には特定のステップやシーケンスについて変形例が存在することは理解される。
【0037】
図1および図2を参照すると、ミクロな加速器プラットフォーム(Micro- Accelerator Platform (MAP))の2つの実施例が模式的に示される。これらのミクロな加速器プラットフォームは、高い強度の相対論的もしくは準相対論的電子および選択的に制動輻射によるX線のビームを生成するよう設計される。装置10およびシステムは大抵ハウジング12内に閉じ込められたMAPを含む。ハウジング12は、動物や人間の患者の体内で使用されるための標準的な内視鏡システムに取り付けられるようなサイズを有する。全体としては通常1立方ミリメートルより小さなサイズを有し、カテーテルに取り付けられる小さな使い捨て型の先端部のなかに収まりうる。本発明は体内に設置する場合に特に役に立つが、本発明は電離性放射線のビームが有益に使用されうる場合はいつでも体外でも使用されうることは理解される。
【0038】
図1および図2に示される実施の形態では、レーザ光源が設けられ、このレーザ光は光ファイバケーブル14を通じてハウジング12に伝達されることが好ましい。選択された波長もしくは選択された範囲の波長のレーザ光が処置室で生成され、光ファイバケーブル14を通ってカテーテル線に沿って加速器へ伝送されうる。したがって、完全に患者の体内で電子が生成され、加速され、射出され、またその電子は既存の密封小線源治療源では現在利用可能でないエネルギ範囲に到達しうる。したがって、医者は腫瘍サイトのすぐ隣に放射線源を設置することができ、腫瘍に制御された高い線量の電離性放射線を運ぶことができる。必要な線量が運ばれた後は、レーザ光源を停止することで放射線を止めることができる。これにより引き抜く間に健康な組織が被爆することはない。
【0039】
図1に示される実施の形態に係る加速器は、一対のシリコンウエハまたはスラブ16、18を有する。一対のシリコンウエハまたはスラブ16、18は、それら2つのウエハの間に狭い真空ギャップ20を伴って並置される。電子源22はギャップ20の狭い側の端部に設けられ、ギャップ20の広い側の端部は開いている。ウエハ16、18はそれらの間の離隔距離20よりもかなり幅広く、「サンドイッチ」もしくは「スラブ対称」配置を形成することが好ましい。
【0040】
図4Aおよび図4Bに示されるように、2つのウエハ16、18の外面24、26は、少なくともひとつの反射性材料層によって覆われ、誘電体によって満たされるスロットの周期的なアレイを有する。あるいはまた、スロットは真空に開放されていてもよい。レーザ光が上からその構成に当てられ、スロットを通じて真空ギャップ20内に導かれる。
【0041】
図4Aに示される本発明の実施の形態では、反射性材料の代わりに異なる誘電体の層が交互に積層されてなる層がブラッグ型の構成で使用される。構造の寸法や他のパラメータは、構造の中にレーザ放射をトラップし、それによりギャップ20領域のなかで電場の共振的ビルドアップを生じせしめるように選択される。
【0042】
光路14からのレーザ光は加速器の中で配送され、ウエハ16、18の外面24、26に向けられる。そのようなレーザ光は図1および図2において複数の微小な鏡28からウエハ面へ反射する光線として概念的に示されている。ウエハ16、18は一連のフライス加工された反射表面で照射されうるが、機能的な光ファイバ面を直接ウエハ16、18の表面24、26に向けるなど、レーザ光は多くの異なる方法で提供されうることは理解される。
【0043】
デバイス10内の真空ギャップ20は一端に電子源22を有する。電子源22は、光速の約0.3倍の初速度を有する電子を生成する。その電子はギャップ20を通じて加速され、最終的には腫瘍組織32を治療するためのビーム30として射出される。電子はレーザ電場からエネルギを得るので、ウエハ構造およびギャップ20は先細とされることが好ましい。この場合、加速電場の位相速度は電子速度にマッチするように上昇する。ある実施の形態では、約500構造周期を横切った後、電子はハウジング構成12の近い端部34から1〜2MeV近くのエネルギで射出される。
【0044】
ウエハ16、18の幾何構成は従来の標準的な線形加速器における多くの制限を回避していることが理解されるであろう。図2に示される実施の形態では、高い電磁場が真空/誘電体領域20に閉じ込められる、もしくは金属の境界から離されており、横方向ウェーク場は抑制される。加えて、誘電材料は短い期間絶縁破壊せずに非常に高い電場に耐えることができる。また、誘電体により構成されるので、非常に高い精度で小さな構造を形成できる微細加工および積層方法が可能となる。
【0045】
図2は、MAP構成の別の実施の形態を模式的に示す。この実施の形態では、電子加速器の誘電体ウエハは図1に示されるものとは異なる構成を有する。図2を参照すると、光路36はユニットハウジング38およびレーザ光源(不図示)に接続される。このレーザ光の波長や強度や他の特性は外部から制御されうる。光路36は、カテーテルによってハウジング38と一緒に挿入するのに適したサイズを有するフレキシブルな光ファイバケーブルであることが好ましい。
【0046】
図2に機能的に示されるように、レーザ光は光路36および一連の反射表面44を通じてスラブまたはウエハ42の外表面40へ伝達される。一方のスラブ42は準周期的であり、反射表面(ブラッグ型スタック)40を有する。この反射表面40は長さρごとに幅wのスロットで切断される。ρは、ゆっくり変化する軸方向位置の関数である。スロットの深さdは反射表面の厚さと同一である。図4Aおよび図4Bに見られるとおり、反射表面の内側は一様な誘電材料の層であり、厚さtと誘電率εを有する。
【0047】
他方のスラブ44は、反射器46上に設けられた誘電体であり、スラブ42に見られるようなカップリングスロットを有さない。スラブ構造42、44は平行型であって幅gの真空ギャップ48で隔てられてもよい。
【0048】
電子源50は真空ギャップ48の一端に配置される。ある実施の形態では、電子源50は析出される電子射出グリッドによって覆われた強誘電性結晶(FEC)を含む。ニオブ酸リチウムなどの強誘電性結晶は熱せられると自発的に電荷分極し、1センチメートル当たりメガボルトのオーダーの垂直方向の表面電場を生じる。この焦電効果は、比較的長寿命(数秒の緩和時間)の電場を生成する。
【0049】
電子は、被覆グリッドから電場駆動射出を通じて射出されうる。もしくは他の実施の形態では光電子放出を通じて射出されうる。長寿命の焦電表面電場は一定電場の加速領域として機能し、その結果電子はカソード領域から28keVのオーダーの運動エネルギで放出される。
【0050】
別の実施の形態では、エンドパネル52はギャップ48からの加速電子の衝突によりX線を放出する材料で形成される。そのような材料は、タングステン、鉛、金などを含む。
【0051】
図3を参照すると、加速器のうち本発明のスロットが設けられた誘電体ペア型ウエハ/スラブ構造およびカソード電子源が模式的に示される。本実施の形態では加速器は一対のウエハを有する。一対のウエハのそれぞれは、好ましくは周期的なアレイ状のスロット62によって切断される少なくとも1層の反射表面58、60と、誘電体ベース54、56とを有する。スロット62は誘電体によって満たされてもよいし、ハウジングの真空に開放されてもよい。レーザ光68は、ペア型ウエハ構造の外側の表面に向けられる。
【0052】
図3に示される対称スラブ構造はギャップ66により隔てられている。誘電体層54、56の間のギャップ66は一様でありまた可変でありうる。しかしながら、大抵の場合スロット62間隔および誘電体層54、56の幅を考慮することにより決定されるテーパをギャップ66に設けることが好ましい。
【0053】
ギャップ間隔gには固定値は存在せず、ベースの誘電体スラブ54、56の誘電厚さtおよび誘電率ε(後述する)に関連付けられる。gの値を大きくすると、電子ビームのアパーチャを大きくすることができ、ビームの注入および加速を境界による影響なしにより容易に行うことができる。しかしながらgの値がλ値程度よりも大きい場合、誘電体層の中に高い電場が生成され、β<0.5に対して大きな電場の非一様性が生じうる。したがって、gの値としてg=λとすることが最も効果的な妥協点である。この場合、耐えうる程度の電場を生成しつつ現実的な電子アパーチャを得ることができる。実際のところ、ギャップを調整することも構造をチューンするための最も簡単な方法である。
【0054】
電子源64は、2つのスラブの間のギャップ66の中に加速されるべき電子を射出することができる。加速器10のある実施の形態では、一体化された粒子放出銃が使用される。銃64の機能は、構成の残りの部分で電場によってトラップされ加速されるのに十分な強度とエネルギを有する電子の流れを生成することである。2つの動作ステージがある:(1)電子射出、および(2)しきい値β0までの加速である。
【0055】
銃64の射出時間が構造サイクル時間(充填時間およびレーザパルス長のオーダー)と良くマッチしていることが理想的である。しかしながら実際のところ間違った時間(位相)に射出された電子はトラップも加速もされないであろうし、またはすぐに非トラップ状態となるであろう。基本的に銃は電界放出もしくは光電子放出(つまり光電効果)、熱イオン放出によって動作できる。
【0056】
DC銃でよくなされるように、外部から印加される電場によって、カソード64表面からの電子の、必要とされるβ0(例えば25keV)までの加速が達成されうる。しかしながら実際には外部の高電圧源を排除することが望ましい。焦電性結晶に見られる内部電場を使用することでそのような銃を作成できる。そのような結晶では、例えばLiNbOやLiTaOなどの結晶の表面で、数十KVの電場を生成することが可能である。銃は、電場生成結晶の温度をサイクルさせるために使用される通常のヒータを備える。また銃は電子を生成する第2の結晶もしくは電界放出器を備える。これらは図6により詳細に示される。
【0057】
あるタイプのスラブの一般的な構成を説明するために、図4Aおよび図4Bはスラブまたはウエハ構造54、56のある実施の形態の詳細を模式的に示す。図4に示される構成はある考えられる複数層を有する実施の形態を示すことを意図しており、実際のスケール通りには描かれていない。加速器は一辺当たり約1mm以下のミクロスケールを有することが好ましく、この場合、カテーテルによって体内の場所へ導入可能でありつつ、電離性放射線流は治療に使用可能な強度を有しかつ基点に局在しかつ分散も局在化されうる。スラブ構造の寸法は、製造効率や材料の制限を考慮しつつ所望の特性を有する電子ビームを生成するように選択されうる。
【0058】
スラブの全体的な寸法(長さLや幅W)は重要なパラメータではなく、エッジ効果が加速を妨げない程度に十分大きければよい。悪い選択は加速器のパフォーマンスを悪化させうるが、動作を妨げたりはしないと考えられる。
【0059】
全長L:nρが最適値である。nは周期の数であり、典型的には1000のオーダーである。周期の数nは通常電場勾配および所望の出力エネルギによって設定される。また、ρはスロット間隔である。
【0060】
全幅W:これは電場に影響を与える他のいかなる寸法よりもかなり大きく、かつ電子射出領域(つまり、電子銃)よりも大きくすべきである。W>>gであればこの条件が満たされる。したがってWは約10マイクロメートルから約1000マイクロメートルの範囲にありうる。
【0061】
図4Aは、実施の形態に係るスラブ構造の側面図を提供する。そこではスロットが誘電材料によって満たされている。この誘電材料は、ベーススラブ誘電体と同じ材料で構成されてもよい。あるいはまた、スロット誘電体はスラブ誘電体とは異なる誘電体であってもよい。さらに、ある実施の形態では、スロット誘電体構成が除去され筐体の真空に開放されてもよい。
【0062】
各スラブは厚さtのベース誘電体74を有する。このデバイスでは、スラブに多くの異なるタイプの誘電材料が使用されうる。材料選択の際には、動作波長における材料の透過性や、そのような波長での複素屈折率(誘電率、いわゆる損失正接(loss tangent)を含む)や、絶縁破壊電圧や、その材料の薄膜の析出特性や結晶化特性が考慮される。理想的な材料は動作波長において、高い透過性(>0.9)および高い屈折率(>1.5)および低い損失正接および高い絶縁破壊電圧(>100MV)を有し、エピタキシャル結晶膜または単結晶膜の形で形成されうる。
【0063】
好ましい製造プロセスおよび適切な材料選択に関しては、マイクロチップおよびマイクロストラクチャ(MEMS)製造において使用されるものと同様である。シリコンはスラブとして数々の好ましい性質を有するが、約1.2μmより短い波長に対しては不透明となる。炭化ケイ素(SiC)は望ましい800−1064nmバンドに透過性を有し、優れた絶縁破壊電圧、優れた熱特性(高い平均電力を取り扱うために必要である)を有する。しかしながら一般的に製造の容易性や質の高いバルク材料の利用可能性の点でシリコンに劣る。溶融石英や水晶やサファイアなどのガラスは素晴らしいバルクおよび表面特性を有し、許容範囲内の絶縁破壊電圧を有する。しかしながら屈折率は低く、したがって効率の低い構造を作り出しうる。最後に、ダイヤモンドはおそらく理想的なスラブ材料であるが、高価で大量生産が難しい。
【0064】
誘電率ε:ベース74の誘電率は、ギャップを形成するスラブの内側を形作るために選択され使用される材料によって定められる。εの値がより高いほど、より効率的な構造が実現される。そのような構造では誘電体の中に閉じ込められる電場は少ないからである。しかしながら実際は利用可能な微細加工用材料のε値の範囲は大きくなく、大抵の材料は2から4の値を有する。炭化ケイ素(ε=6.8)が最も高いεを実現する現実的な選択肢である。
【0065】
誘電体厚さt:ベース誘電体74の厚さtは、ギャップ間隔gおよび材料の誘電率εが決められると以下の式で固定されることが好ましい。
【数1】

ここでωはレーザの角周波数であり、γは電子の相対論的因子
【数2】

である。しかしながらこの式はカップリングスロット摂動がなく無限に広い構造の場合にのみ厳密に成り立つ。したがって物理的なカップリングを有する構造についてのシミュレーションを基にtを補正する必要がありうる。さらに、βが増えるとtも変化する。
【0066】
スロット幅w:図4Aおよび図4Bに示されるスロット72の幅は解析的に計算されなくてもよい。しかしながら構造のなかに適切な大きさの電場を閉じ込めるためにはw<<ρであることが通常必要である。スロット62はレーザ電力68を構造にカップリングさせ、また図3に示されるようにスラブ構造の間のギャップ66のなかで、その近くの電子加速場(および共振周波数)を摂動する。
【0067】
スロット72を広くするとより良好なカップリング(レーザエネルギをより効率的に使用できる)を得ることができるが、より大きな摂動(モード純度が低い)も発生する。したがって、スロット72の最適な幅の選択は妥協による。スロットの寸法は製造の容易性によっても制限される。シミュレーションによると、最適範囲はλ/10を中心とした広い範囲であった。例えば800nmデザインでは、妥協値として約50nmが選択されうるが、10nmから100nmのw値でも機能することが示された。
【0068】
スロット深さd:スロット72の深さdの理論的な最適値は、理想的なインピーダンス整合を実現する値である。例えば、任意の導波管カプラにおいては、長さが厳密に波長の四分の一であれば空洞電場(cavity field)を摂動しない。この意味で理想的なスロット深さdは以下の式で評価できる。
【数3】

ここでλgは適切な自由空間中でのレーザ波長である。(スロットは真空で満たされているかまたは誘電体で満たされており、後者の場合スロット中では電場の振幅が低減される。どちらの場合でも、λgは物質中のレーザ波長である。)dが理想的な値であれば構造の電場に摂動は生じない。しかしながらある種のアプリケーションでは、大きなアスペクト比のような製造上の困難性から理想的なスロットは使用されにくい。シミュレーションによると、計算上の理想値よりもかなり小さなdの値を使用しても、それにより生じる小さな調整のずれを補償するように真空ギャップgが少し調整されればうまくいくことが示された。例えば800nmデザインでは、シミュレーションによるとスロット深さが80nmであれば電場の非一様性は許容範囲内(5%より少ない)であり、一方でスロットのアスペクト比は1:4(つまり50nm:200nm)から1:2以下に低減され製造上の制約が大いに緩和される。
【0069】
図4Aに示されるベース誘電体74は、高い屈折率を有する材料の層76と低い屈折率を有する材料の層78とが交互に積層されてなる層を有する。その交互に積層されてなる層はスロット72によって仕切られ、全体としてスロット深さdと等しい厚さを有する。交互に積層された層76、78は約50nmから約300nmの範囲の厚さを有することが好ましい。層の数は可変であり、所望の特性を提供するために主に加工品質によって決められる。典型的には高い屈折率材料の層76および低い屈折率材料の層78合わせて9層以上が使用され、それらの層はスラブのベース誘電体74の上に設けられる。ブラッグ構造の質は主にデバイスの効率に影響を与えるので、中心的な関心事ではない。さらに、構造の加熱が行き過ぎない程度までレーザ電力を加えていくこともできる。
【0070】
基板上に交互に積層された薄膜もしくは層を生成する加工方法は従来技術のなかで既に確立されている。例えば、ブラッグ型の反射器スタック(本実施の形態に係る全て誘電体によるデバイスに必要である)は、高い屈折率を有する材料から低い屈折率を有する材料までの広範囲に亘る材料から商業的に製造されている。ナノレーザにおいてよく用いられる「サンドイッチ(sandwich)」は、InGaAsPスタックである。バルクの光学系では、酸化物およびフッ化物(例えば、MgF)の膜がよく使用される。材料を薄層化し機械加工した層を使用する垂直共振器面発光レーザ(VCSEL)や他の光子バンドギャップ(PBG)構造を製造するために開発された技術もまた本発明のスラブ構造を製造するために使用できる。
【0071】
図4Bの上面図に示されるように、反射表面70のスロット72間隔ρは自由空間内のレーザ波長λに規格化された電子速度βを掛け合わせた値に固定されるのが好ましい。つまりρ=βλである。したがってレーザの選択および構造中での期待される電子速度がρの値を決める。この値は電子の加速に伴い最初は速く上昇し、構造の終端に近づくにつれてゆっくりと上昇する。
【0072】
したがって、基本的にはいかなるレーザ周波数が選択されてもよく、そのような選択は主に通常レーザの商業的な利用可能性を考慮してなされる。波長λが800nm、1064nm、1550nmおよび10μmのレーザがよく選択される。選択されるレーザは必要なパルス繰り返しレートを維持可能でなければならない。また、スラブ材料および基板の光学特性(ロスなど)はその周波数で良好でなければならない。
【0073】
電子の入射エネルギおよび軸上の電場強度が与えられると、スラブ構造の任意の箇所におけるβの値は決められうる。軸上の電場強度は一般的に、電子の単位長さ当たりのエネルギ利得(おおよそ一定)を設定する。数学的には理想的な共振軌跡は
【数4】

を有する。ここでβ0は入射速度であり、Aは単位長さ当たりの加速度であり、両者とも適切な単位で表される。安定的な入射のためには、
【数5】

であることが好ましい。したがって、周期の数は所望の出力エネルギおよびAの値によって決められる。勾配Aは入来するレーザの電場強度に比例し、主に反射器および誘電体基板の電気的な絶縁破壊しきい値による限界を有する。この限界は一般によくその特性が理解されるが、理想的にはこの幾何構成で短いパルス(1ピコ秒より短い)を用いて実験により定められる。とはいえ少なくとも1GV/mであると信じられている。
【0074】
図5は、図3に示されるスラブ構造54、56の別の実施の形態を示す上面図である。図5に示されるスラブ構造は、周期的なスロット84を有する上面80を備える。下部の誘電体層に沿って加速される電子の軌跡82が参照のため示される。この実施の形態では斜切構造を使用することにより、電子を数百周期にわたって安定的に加速することを実現している。この斜切構造は、図3に示される方向付けに従うと、小さな(y)方向における集束を維持しつつ、(x)方向において横方向のキックを交互に加える。カップリングスロット84は直交方向から小さな角度、好ましくはぼかし(defocusing)キックFが対抗するゼロでない横方向速度を使用してb依存の角度だけ回転される。スロット84はスラブ構造の長さ方向に沿って繰り返し現れる。図7Bに示されるように、数構造周期を経て電子が中央線を交差すると、スロットの角度はそのプラスマイナスを変える。
【0075】
図6は、図3の一体化された電子源64のある実施の形態を示す。電子は電界放出によって生成され、次に準DC的な電場のなかで約25keV以上まで加速される。図6に概念的に示されるカソードのデザインは、グラファイトのニードルのアレイなどの小さな電界放出領域86を含み、その電界放出領域86はニオブ酸リチウム(LiNbO)やLiTaOなどの強誘電性結晶ベース88上に設けられる。強誘電性結晶(FEC)は大抵焦電特性を有し、それにより、熱せられまたは冷却されると結晶表面に一時的な分極が生成される。生成される一時的な分極電荷は上昇温度および材料の焦電係数に比例することが示された。分極電荷は最終的には材料中のバルク伝導により中和される。しかしながらそのようなプロセスは通常数秒続く中和時間を有する。
【0076】
86から射出され表面電場により加速された電子から得られる全エネルギは、強誘電性結晶88のサイズと性質に依存する。例えば、円形のニオブ酸リチウムFECは約0.5mmの半径を有することが好ましい。
【0077】
そこで、図6に示される実施の形態では、カソード動作は2段階プロセスを踏む。第1に、カソードはヒータ90によって熱せられ、準静的なDC電場を生成する。そしてカソードは射出器86の先端から電界放射によって電子を生成する。電子はスラブ間のギャップ66の中に注入され加速される。通常カソード64と加速構造との間のギャップが1ミリメートルより小さければ、トラップおよび加速のために十分なほどの高いエネルギで電子をギャップのなかに注入できる。
【0078】
本発明は添付の例示を参照するとより良く理解されうる。この例示は説明のみを目的としており、いかなる意味においても添付の請求項により定められる本発明の技術的範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0079】
(例示1)
ミクロスケールの粒子加速器の機能を説明するために、1−2MeVのエネルギの電子ビームを生成、加速できる、全ての寸法が1mm以下であるレーザ駆動の共振構造が評価された。加速器の構造は、狭い真空ギャップによって隔てられ、上下を反射性の層もしくは複数の層によって囲まれた一対の平行誘電体スラブを有していた。スラブは全長1mmであり、約1600個の構造周期を有していた。反射器の周期的なスロットは、ギャップのなかに放射をカップリングさせる手段を提供すると共に、構造の電場に縦方向の周期性を作り出すために使用された。電場パターンが位相速度(c)を有する縦方向定在波によって支配されるように、構造がレーザ周波数で共振するように構造の寸法(真空ギャップおよび誘電体厚さ)が選択された。加速電場は入力レーザ電場よりも典型的には4から10倍大きいことが示された。
【0080】
構造の寸法はビーム速度の変数なので、ビームのエネルギが増大するにつれてギャップは先細(taper)とされた。ギャップはテーパの頂部でa=0.05μmから0.1μmの範囲に設定され、また図3に示される頂部でb=0.27μmから0.31μmの範囲に設定された。構造は2π/kの周期性を有するカップリングスロットによってz方向に変調され、またスロット間隔は先細とされ特にβλに等しくされた。ここでλは自由空間内のレーザ波長である。
【0081】
(x)方向に交互に横方向キックを加えつつ(y)方向には集束を維持する斜切されたカップリングスロット構造を使用して数百周期にわたって安定的な加速を実現するアプローチが評価された。
【0082】
分析的な電場を通じた単一粒子のトラッキングを使用して構造が評価された。図7Aは、GWクラスレーザによるギャップ内電場強度として3.5GV/mを仮定した場合の、構造に沿った粒子エネルギを示す。粒子の軸方向に沿ったエネルギ利得は滑らかであり、ただ1mm移動しただけで出力エネルギが1MeVに達することが分かる。
【0083】
図7Bは、斜切スロット構造を使用した集束を示し、構造の最初の20周期におけるxとyの値を示す。構造はy方向においては集束させており(破線)、x方向においてはぼかしキックを交互に加える(実線)。
【0084】
以上より、ミクロスケールの相対論的なスラブ対称的な誘電体ベースの電子加速器が提供され、これは電子ビームもしくはX線を生成することができる。装置のスケールは、他の方法ではアクセスできない体内への設置のためのカテーテルシステムへの適用を可能とする。また、そのシンプルなデザインは、一般的な微細加工技術を使用して製造することを可能とする。
【0085】
上述の説明は多くの詳細を含むが、これらは本発明の技術的範囲を限定するものとみなされるべきではなく、本発明の現段階における好適な実施の形態のいくつかについての説明を単に提供するに過ぎないのである。したがって、本発明の技術的範囲は当業者には明白でありうる他の実施の形態もまた当然に包含すること、本発明の技術的範囲は添付の請求の範囲によってのみ限定されること、その請求の範囲では要素の単数形は明示されている場合を除き「ひとつかつひとつのみ」を意味することを意図しておらずむしろ「ひとつ以上」を意味することを意図していることは理解されるべきである。上述の好適な実施の形態の要素に対する、当業者に知られている全ての構造的、化学的、機能的等価物は明白に本明細書に参照により援用され、本請求の範囲によって包含されることを意図されている。さらに、本請求の範囲によって包含されるためには、デバイスまたは方法が本発明によって解決されるべき個々全ての課題を指向する必要はない。さらに、この開示中のいかなる要素、部品、方法ステップも、その要素、部品または方法ステップが請求の範囲において明確に使われていようといないとに係わらず、公衆に捧げることを意図されていない。本願の請求項のいずれの要素も、その要素が「means for」の句を用いて明確に引用されていない限り、合衆国法典第35巻第12章第6段落の条項の下で解釈されるべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子源と、
活性表面と複数のスロットを有する反射表面とを含む第1の誘電体スラブと、
活性表面と複数のスロットを有する反射表面とを含む第2の誘電体スラブと、
前記第1および第2の誘電体スラブの前記反射表面に光線を向ける光源と、を備え、
前記第2の誘電体スラブの活性表面は、前記第1の誘電体スラブの活性表面と対向して設けられ、それにより前記両活性表面間にはギャップが形成され、
前記電子源から射出された電子は、前記第1および第2の誘電体スラブの活性表面間の前記ギャップのなかで加速されることを特徴とするミクロな加速器プラットフォーム。
【請求項2】
前記第1および第2の誘電体スラブの前記スロットが設けられた反射表面は、高い屈折率を有する誘電材料の層と低い屈折率を有する誘電材料の層とが交互に積層されてなる層を含むことを特徴とする請求項1に記載のプラットフォーム。
【請求項3】
前記第1および第2の誘電体スラブの前記スロットが設けられた反射表面は、金属製の反射器を含むことを特徴とする請求項1に記載のプラットフォーム。
【請求項4】
加速された電子の流れを集束する手段をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のプラットフォーム。
【請求項5】
前記加速された電子の流れを集束する手段は、前記第1および第2の誘電体スラブの反射表面において交互に現れる斜切されたスロットの複数の組を含むことを特徴とする請求項3に記載のプラットフォーム。
【請求項6】
前記第1および第2の誘電体スラブの活性表面は、それらのスラブ間のギャップが先細となるように配向されることを特徴とする請求項1に記載のプラットフォーム。
【請求項7】
電子の流れをX線に変換する手段をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のプラットフォーム。
【請求項8】
電子源と、
活性表面と複数のスロットを有する反射表面とを含む第1の誘電体スラブと、
反射表面と活性表面とを含む第2の誘電体スラブと、
前記第1の誘電体スラブの前記反射表面に光線を向ける光源と、を備え、
前記第2の誘電体スラブの活性表面は、前記第1の誘電体スラブの活性表面と対向して設けられ、それにより前記両活性表面間にはギャップが形成され、
前記電子源から射出された電子は、前記第1および第2の誘電体スラブの活性表面間の前記ギャップのなかで加速されることを特徴とするミクロな加速器プラットフォーム。
【請求項9】
前記第1の誘電体スラブの前記スロットが設けられた反射表面は、高い屈折率を有する誘電材料の層と低い屈折率を有する誘電材料の層とが交互に積層されてなる層を含むことを特徴とする請求項8に記載のプラットフォーム。
【請求項10】
前記第1および第2の誘電体スラブの前記スロットが設けられた反射表面は、金属製の反射器を含むことを特徴とする請求項8に記載のプラットフォーム。
【請求項11】
加速された電子の流れを集束する手段をさらに備えることを特徴とする請求項8に記載のプラットフォーム。
【請求項12】
前記加速された電子の流れを集束する手段は、前記第1の誘電体スラブの反射表面において交互に現れる斜切されたスロットの複数の組を含むことを特徴とする請求項11に記載のプラットフォーム。
【請求項13】
前記第1および第2の誘電体スラブの活性表面は、それらのスラブ間のギャップが先細となるように配向されることを特徴とする請求項8に記載のプラットフォーム。
【請求項14】
電子の流れをX線に変換する手段をさらに備えることを特徴とする請求項8に記載のプラットフォーム。
【請求項15】
真空引きされたハウジングと、
前記真空引きされたハウジングの中に配置されるミクロな加速器プラットフォームアセンブリと、を備え、
前記プラットフォームアセンブリは、
真空ギャップによって隔てられた一対の誘電体スラブであって、各スラブは前記ギャップと反対側に反射層を有し、少なくともひとつの反射層は複数の周期的なスロットを有する一対の誘電体スラブと、
前記真空ギャップの中に電子を射出する電子源と、
前記誘電体スラブの前記反射層に光線を向ける光源と、を含み、
前記電子源からの電子が加速されることを特徴とする放射線源。
【請求項16】
前記ミクロな加速器プラットフォームアセンブリを体内に入れて、体内の位置まで運ぶ血管アクセスシステムをさらに備えることを特徴とする請求項15に記載の放射線源。
【請求項17】
前記血管アクセスシステムは、フレキシブルな光ファイバカテーテルを含むことを特徴とする請求項16に記載の放射線源。
【請求項18】
前記第1および第2の誘電体スラブの前記スロットが設けられた反射表面は、高い屈折率を有する誘電材料の層と低い屈折率を有する誘電材料の層とが交互に積層されてなる層を含むことを特徴とする請求項15に記載の放射線源。
【請求項19】
前記光線は鏡によって前記誘電体スラブの前記スロットが設けられた反射表面に垂直に向けられることを特徴とする請求項15に記載の放射線源。
【請求項20】
前記光線は光ファイバケーブルによって前記誘電体スラブの前記スロットが設けられた反射表面に垂直に向けられることを特徴とする請求項15に記載の放射線源。
【請求項21】
電子の流れをX線に変換する手段をさらに備えることを特徴とする請求項15に記載の放射線源。
【請求項22】
前記電子の流れを変換する手段は鉛の板を含むことを特徴とする請求項21に記載の放射線源。
【請求項23】
前記電子源はさらに、
強誘電性結晶ベースと、
前記強誘電性結晶ベースと結合された射出アレイと、
加熱要素と、を含むことを特徴とする請求項15に記載の放射線源。
【請求項24】
前記射出アレイは、グラファイトのニードルを含むことを特徴とする請求項23に記載の放射線源。
【請求項25】
前記強誘電性結晶ベースは、ニオブ酸リチウムを含むことを特徴とする請求項23に記載の放射線源。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【公表番号】特表2010−523228(P2010−523228A)
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−502333(P2010−502333)
【出願日】平成20年4月4日(2008.4.4)
【国際出願番号】PCT/US2008/059478
【国際公開番号】WO2008/156896
【国際公開日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(504438118)ザ リージェンツ オブ ザ ユニヴァーシティー オブ カリフォルニア (4)
【氏名又は名称原語表記】THE REGENTS OF THE UNIVERSITY OF CALIFORNIA
【Fターム(参考)】