説明

レーダ装置

【課題】目標が高速に移動しても、目標の探知確率や測角精度が劣化せず、誤警報が非常に少ないレーダ装置を提供する。
【解決手段】アンテナ3から得られるアナログ信号をディジタル信号に変換するAD変換部5と、AD変換部からの出力信号のリサンプルを行うリサンプリング処理部8と、リサンプリング処理部からの出力信号の周波数分析を行う周波数分析部6と、リサンプリング処理部からの出力信号の時間−周波数分析を行う時間−周波数分析部9と、周波数分析部からの出力信号と時間−周波数分析部からの出力信号とに基づき目標を検出する目標検出部7とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型高速目標を捕捉、捜索、追尾するレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のレーダ装置の詳細を、図面を参照しながら説明する。図10は、従来のレーダ装置の構成を示すブロック図である。このレーダ装置は、送信機1、サーキュレータ2、アンテナ3、受信機4、AD変換部5、周波数分析部6および目標検出部7から構成される。
【0003】
アンテナ3は、送信機1からサーキュレータ2を経由して送られてくる送信信号を電波に変換し、送信波として指定方向の空間に送信するとともに、送信波が目標で反射することにより発生された反射波を受信して電気信号に変換し、受信信号としてサーキュレータ2を経由して受信機4に送る。
【0004】
受信機4は、アンテナ3からサーキュレータ2を経由して送られてくる受信信号を周波数変換し、AD変換部5に送る。AD変換部5は、受信機4から送られてくるアナログの受信信号をディジタルの受信信号に変換し、周波数分析部6に送る。周波数分析部6は、AD変換部5から送られてくるディジタルの受信信号の周波数分析を行い、分析結果を表す信号を目標検出部7に送る。目標検出部7は、周波数分析部6から送られてくる分析結果を表す信号に基づき目標を検出する。
【0005】
一般に、レーダ装置において小型目標を探知するためには、パルスヒット数を多くし、周波数分析処理による積分効果によって信号対雑音比(SN比)を改善する方法が有効であることが知られている。しかしながら、上述した従来のレーダ装置は、目標が高速で移動している場合、パルスヒット数を多くしても、目標の位置が徐々に移動していくため、周波数分析処理による積分効果が得られない。
【0006】
すなわち、観測時間内における目標の移動が小さい場合、周波数分析部6における処理によって所望の積分効果が得られるが、観測時間内における目標の移動量が大きくなるにつれて、積分効果が低くなり、所望の積分効果が得られない。図11は、目標の移動量に対する積分損失を示す。
【0007】
なお、関連する技術として、特許文献1は、目標が小型高速目標である場合でも目標追尾を確実に行うことができる目標追尾レーダ装置を開示している。この目標追尾レーダ装置は、送信パルスの送信開始時から所定時間後に所定サンプリング周波数のサンプリングを開始し、アナログの受信信号を一連のディジタルデータに変換するA/D変換器と、目標速度データおよびPRFデータに基づく目標の移動距離がサンプリング周波数に基づく距離分解能を超える場合に、目標の移動距離に相当するサンプリング間隔分、サンプリングの開始時期をシフトさせ、受信パルスのディジタルデータの順序位置が一致した一連のディジタルデータを生成させる制御を行うA/D変換制御部と、各送信パルスの送信時から計時して同一時間帯の各ディジタルデータを順次積分する積分器とを備えている。
【0008】
また、特許文献2は、目標の移動によるドップラ偏移があり、パルスヒット間でレンジビンをまたがっても、安定した圧縮特性およびコヒーレント積分性能を有するレーダ装置を開示している。このレーダ装置は、ドップラ補正量の異なった複数個のドップラ補正回路を用意し、ディジタルI,Q信号を、時間領域でドップラ補正した後、各々パルス圧縮を行う。さらに、パルスヒット間で振幅最大値のレンジビンが異なる場合、同一レンジビンとなるよう各々レンジ補正する。そして、コヒーレント積分の結果、最大積分値のものを選択し、出力する。
【特許文献1】特開2001−166034号公報
【特許文献2】特開2000−275332号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、従来のレーダ装置は、目標が高速で移動する場合、周波数分析処理によって所望の積分効果を得ることができず、目標の探知確率や測角精度が劣化するという問題がある。
【0010】
また、特許文献1に示されている目標追尾レーダ装置では、目標の移動量に合わせてサンプリングの開始時期をシフトさせて同一時間帯のデータを積分するので、目標が高速で移動する場合であっても、ほぼ所望の積分効果を得ることができるが、目標以外に振幅が大きな信号が入力されると、誤警報が発生するという問題がある。また、目標の運動状態が途中で変化した場合は、積分効果が得られなくなるという問題がある。
【0011】
さらに、特許文献2に示されるレーダ装置では、パルス圧縮処理のドップラ補正とコヒーレント積分のレンジ補正を実施しているが、ドップラ周波数によるパルス圧縮処理のSN比の低下は、目標の移動量による積分利得の低下に比べて極めて小さく、処理負荷が高い割には、大きな効果が得られない。また、レンジ補正を総当り的に実施するので、演算量の観点から実用的ではない。
【0012】
本発明は、上述した問題を解消するためになされたものであり、目標が高速に移動しても、目標の探知確率や測角精度が劣化せず、誤警報が非常に少ないレーダ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、第1の発明に係るレーダ装置は、アンテナから得られるアナログ信号をディジタル信号に変換するAD変換部と、前記AD変換部により変換された前記ディジタル信号の周波数分析を行う周波数分析部と、前記AD変換部により変換された前記ディジタル信号の時間−周波数分析を行う時間−周波数分析部と、前記周波数分析部により前記周波数分析が行われた信号と前記時間−周波数分析部により前記時間−周波数分析が行われた信号とに基づき目標を検出する目標検出部とを備えることを特徴とする。
【0014】
また、第2の発明に係るレーダ装置は、第1の発明に係るレーダ装置において、前記AD変換部により変換された前記ディジタル信号のリサンプルを行うリサンプリング処理部をさらに備え、前記周波数分析部は、前記リサンプリング処理部により前記リサンプルが行われた信号の周波数分析を行い、前記時間−周波数分析部は、前記リサンプリング処理部により前記リサンプルが行われた前記信号の前記時間−周波数分析を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
第1の発明に係るレーダ装置によれば、時間−周波数分析処理の出力信号を用いて、目標の移動の有無または移動速度を基に検出を行うように構成したので、所望の移動速度以外の目標が存在しても、誤警報が非常に少ないレーダ装置を提供できる。
【0016】
また、第2の発明に係るレーダ装置によれば、目標の移動量を補正するリサンプリング処理を行い、リサンプリング処理された受信信号を用いて、周波数分析処理と時間−周波数分析処理を行うので、所望の積分効果が得られるとともに、時間−周波数分析処理の出力信号を用いて、移動量を補正した信号における、目標の移動の有無または移動速度を基に検出を行うので、目標が高速に移動しても、目標の探知確率や測角精度が劣化せず、誤警報が非常に少ないレーダ装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態の図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下においては、背景技術の欄で説明した構成部分に相当する部分には、背景技術の欄で使用した符号と同じ符号を用いて説明する。
【実施例1】
【0018】
図1は、本発明の実施例1に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。このレーダ装置は、送信機1、サーキュレータ2、アンテナ3、受信機4、AD変換部5、リサンプリング処理部8、周波数分析部6、時間−周波数分析部9および目標検出部7から構成されている。
【0019】
アンテナ3は、送信機1からサーキュレータ2を経由して送られてくる送信信号を電波に変換し、送信波として指定方向の空間に送信するとともに、送信波が目標で反射することにより発生された反射波を受信して電気信号に変換し、受信信号としてサーキュレータ2を経由して受信機4に送る。
【0020】
受信機4は、アンテナ3からサーキュレータ2を経由して送られてくる受信信号を周波数変換し、AD変換部5に送る。AD変換部5は、受信機4から送られてくるアナログの受信信号をディジタルの受信信号に変換し、リサンプリング処理部8に送る。
【0021】
リサンプリング処理部8は、AD変換部5から送られてくるディジタルの受信信号のリサンプルを行う。このリサンプリング処理部8における処理によって、目標の移動量が補正されると、受信信号に含まれる各パルスの最大値が積分されるので、所望の積分効果を得ることができる。このリサンプリング処理部8からの出力信号は、周波数分析部6および時間−周波数分析部9に送られる。
【0022】
周波数分析部6は、リサンプリング処理部8から送られてくる信号の周波数分析を行う。この周波数分析部6における周波数分析は、例えば、DFT(離散フーリエ変換)またはFFT(高速フーリエ変換)によって実現することができる。周波数分析部6における周波数分析の結果を表す信号は、目標検出部7に送られる。
【0023】
時間−周波数分析部9は、リサンプリング処理部8から送られてくる信号の時間−周波数分析を行う。今、例えば、リサンプリング処理部8から送られてくる信号が40個のパルスから成るパルス列であり、3つの時間帯に分けて周波数分析を行うものとすると、1〜20番目の20個のパルスに対する周波数分析、11〜30番目の20個のパルスに対する周波数分析および21〜40番目の20個のパルスに対する周波数分析が行われる。
【0024】
この時間−周波数分析部9における時間−周波数分析は、短時間フーリエ変換によって実現することができる。時間−周波数分析部9において得られた時間−周波数分析の結果を表す信号は、目標検出部7に送られる。
【0025】
目標検出部7は、周波数分析部6から送られてくる信号と時間−周波数分析部9から送られてくる信号とに基づき目標を検出する。
【0026】
図2(a)は、リサンプリング処理後に相対的に移動していない目標に対する周波数分析の結果を示し、観測時間内において受信信号として得られるk個のパルス列に基づき作成されたものである。図2(b)〜図2(d)は、リサンプリング処理後に相対的に移動していない目標に対する時間−周波数分析の結果を示している。
【0027】
図2(b)は、観測時間内において受信信号として得られるk個のパルス列の前半のk/2個に基づき作成され、図2(c)は、k個のパルス列の中央のk/2個に基づき作成され、図2(d)は、k個のパルス列の後半のk/2個に基づき作成されたものである。
【0028】
図3(a)は、リサンプリング処理後に相対的に移動している目標に対する周波数分析の結果を示し、観測時間内において受信信号として得られるk個のパルス列に基づき作成されたものである。図3(b)〜図3(d)は、リサンプリング処理後に相対的に移動している目標に対する時間−周波数分析の結果を示し、図3(b)は、観測時間内において受信信号として得られるk個のパルス列の前半のk/2個に基づき作成され、図3(c)は、k個のパルス列の中央のk/2個に基づき作成され、図3(d)は、k個のパルス列の後半のk/2個に基づき作成されたものである。
【0029】
図3(b)〜図3(d)において、目標は時間の経過に連れて距離が遠くなる位置に出現することがわかる。図2及び図3において、横軸は距離であり、この距離はパルス繰り返し間隔(PRI)に対応する。
【0030】
なお、この実施例1における時間−周波数分析では、観測時間内に得られる受信信号を3つの時間帯に分割して目標の位置を検出する例を示したが、時間帯の分割数は3つに限らず任意に決定できる。
【0031】
図2(a)および図3(a)に示した周波数分析の結果を見ると、相対的に移動していない目標と移動している目標の差異は僅かである。これに対し、図2(b)〜図2(d)および図3(b)〜図3(d)に示した時間−周波数分析の結果を見ると、相対的に移動していない目標は、分割された3つの時間帯で略等しい位置に出現するが、相対的に移動している目標は、分割された3つの時間帯で異なる位置に出現する。従って、リサンプリング処理後に、目標が相対的に移動しているか否かを判断することができる。
【0032】
即ち、本発明では、受信信号を距離、時間及び周波数で同時表現し、距離と周波数面における信号の時間的な変化に基づいて検出を行なう。
【0033】
一般的に、時間−周波数分析は、周波数が時間と共に変化するような非定常信号の分析に用いられるが、時間と共に距離(位置)が変化し、周波数が変化しない場合でも、距離毎に時間−周波数分析を行い、距離と周波数面における信号の時間的な変化に着目することにより、目標の移動の有無や移動速度を算出することができる。
【0034】
なお、上述した本発明の実施例1に係るレーダ装置では、目標の移動速度が大きい場合に適用するために、目標の移動量を補正するリサンプリング処理部8を設けているが、信号強度が大きな目標を捕捉、捜索、追尾するレーダ装置の場合は、目標の移動量を補正する必要がないので、リサンプリング処理部8を省略し、AD変換部5からの出力信号を周波数分析部6および時間−周波数分析部9に直接に送るように構成することができる。
【0035】
また、上述した本発明の実施例1に係るレーダ装置から周波数分析部6を除去し、時間−周波数分析部9からの出力信号のみを用いて目標検出処理を実施するように構成できる。この構成によれば、周波数分析部6の除去によりSN比が低下するが、装置を簡素化することができる。
【0036】
また、本発明の実施例1に係るレーダ装置では、目標で反射された長パルス信号を受信して信号処理を行うことによりパルス圧縮し、所望の短パルス信号を得るパルス圧縮処理を行うように構成することができる。この場合、パルス圧縮処理を行うためのパルス圧縮処理部は、処理負荷を軽減するという観点から、AD変換部5とリサンプリング処理部8の間に設けるのが望ましい。
【実施例2】
【0037】
本発明の実施例2に係るレーダ装置は、目標の状態ベクトルに基づいて決定されたリサンプリング・パラメータに従ってリサンプリング処理を行うようにしたことを特徴とするものである。この実施例2に係るレーダ装置の構成は、実施例1に係るレーダ装置の構成と同じである。
【0038】
今、目標の状態ベクトルXが以下のように表されるとする。
【数1】

【0039】
ここで、xは位置、x’は速度である。
【0040】
また、送信信号のnパルス目の送信時間T(n)が以下のように表されるとする。
【数2】

【0041】
ここで、T0は前回の観測からの経過時間、ΔTは、送信パルスの時間間隔である。
【0042】
目標の運動モデルが等速運動するものとすると、送信信号のnパルス目の目標位置y(n)は、以下の式で表される。
【数3】

【0043】
ここで、送信信号の1パルス目を基準とした目標移動量y’(n)は、以下のように表される。
【数4】

【0044】
リサンプリング処理部8では、送信信号の1パルス目を基準とした目標移動量y’(n)からリサンプリング・パラメータを決定し、この目標移動量y’(n)の符号を反転したリサンプリングを行うことにより、目標の移動量を補正することができる。
【0045】
なお、上記では、目標の運動モデルが等速運動する場合について説明したが、目標の運動モデルは等速運動する場合に限らず任意に設定できる。
【0046】
この実施例2に係るレーダ装置は、目標の状態ベクトルが予め得られている、または外部から得られる小型高速目標の捕捉用レーダ装置、または、多機能レーダ装置において小型高速目標を捕捉する時の構成として最適である。
【実施例3】
【0047】
本発明の実施例3に係るレーダ装置は、実施例1に係るレーダ装置におけるAD変換部5からの出力信号を並列処理することを特徴とするものである。
【0048】
図4は、本発明の実施例3に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。このレーダ装置は、実施例1に係るレーダ装置のリサンプリング処理部8がm個(mは2以上の整数)のリサンプリング処理部81〜8mに置き換えられ、周波数分析部6がm個の周波数分析部61〜6mに置き換えられ、時間−周波数分析部9がm個の時間−周波数分析部91〜9mに置き換えられ、目標検出部7がm個の目標検出部71〜7mに置き換えられて構成されている。このレーダ装置では、同一のサフィックスを有する構成要素によって1系統が形成されている。従って、このレーダ装置は、m系統のレーダ装置を有することになる。
【0049】
AD変換部5は、受信機4から送られてくるアナログの受信信号をディジタルの受信信号に変換し、リサンプリング処理部81〜8mに送る。リサンプリング処理部81〜8mの各々は、異なる目標の状態ベクトルに対応したリサンプリング・パラメータに従ってリサンプリング処理を行う。リサンプリング処理部8i(i=1、2、・・・、mであり、以下においても同じ)は、AD変換部5から送られてくるディジタルの受信信号をリサンプルし、その結果を表す信号を周波数分析部6iおよび時間−周波数分析部9iに送る。
【0050】
周波数分析部6iは、リサンプリング処理部8iから送られてくる信号の周波数分析を行う。この周波数分析部6iにおける周波数分析の結果を表す信号は、目標検出部7iに送られる。時間−周波数分析部9iは、リサンプリング処理部8iから送られてくる信号の時間−周波数分析を行う。この時間−周波数分析部9iにおける時間−周波数分析の結果を表す信号は、目標検出部7iに送られる。
【0051】
目標検出部7iは、周波数分析部6iから送られてくる信号と時間−周波数分析部9iから送られてくる信号とに基づき目標を検出する。
【0052】
この実施例3に係るレーダ装置は、目標の状態ベクトルを予め得ることができない小型高速目標の捜索用レーダ装置、または、多機能レーダ装置において小型高速目標を捜索する時の構成として最適である。
【実施例4】
【0053】
本発明の実施例4に係るレーダ装置は、実施例1に係るレーダ装置におけるAD変換部5からの出力信号を時分割処理することを特徴とするものである。
【0054】
図5は、本発明の実施例4に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。このレーダ装置は、実施例1に係るレーダ装置に記録部10が追加されて構成されている。また、リサンプリング処理部8、周波数分析部6、時間−周波数分析部9および目標検出部7は、複数の状態ベクトルにそれぞれ対応する複数のリサンプリング・パラメータに従って時分割に処理を実施する。
【0055】
このレーダ装置では、AD変換部5は、受信機4から送られてくるアナログの受信信号をディジタルの受信信号に変換し、記録部10に送る。記録部10は、AD変換部5から送られてくる受信信号を一旦記憶し、リサンプリング・パラメータが変更される毎に、所定の受信信号を読み出してリサンプリング処理部8に送る。これにより、リサンプリング・パラメータが変更される毎に、上述した実施例1に係るレーダ装置と同様の処理が行われる。
【0056】
この実施例4に係るレーダ装置は、目標の状態ベクトルを予め得ることができない小型高速目標の捜索用レーダ装置、または、多機能レーダ装置において小型高速目標を捜索する時の構成として最適である。
【実施例5】
【0057】
本発明の実施例5に係るレーダ装置は、追尾制御に係る情報から目標の状態ベクトルを得ることを特徴とするものである。
【0058】
図6は、本発明の実施例5に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。このレーダ装置は、実施例1に係るレーダ装置に追尾制御部11が追加されて構成されている。
【0059】
追尾制御部11は、目標検出部7からの出力信号を用いて目標の追尾処理を実行することにより目標の状態ベクトルを得る。また、追尾制御部11は、目標の状態ベクトルをリサンプリング処理部8に送る。リサンプリング処理部8は、追尾制御部11からの目標の状態ベクトルに基づいてリサンプリング・パラメータを決定し、決定したリサンプリング・パラメータに従って、AD変換部5からの出力信号のリサンプルを行う。このリサンプリング処理部8からの出力信号は、周波数分析部6および時間−周波数分析部9に送られる。周波数分析部6、時間−周波数分析部9および目標検出部7の動作は、上述した実施例1に係るレーダ装置の動作と同じである。
【0060】
この実施例5に係るレーダ装置は、追尾制御部11からの目標の状態ベクトルを出力できる小型高速目標の追尾用レーダ装置、または、多機能レーダ装置において小型高速目標を追尾する時の構成として最適である。
【実施例6】
【0061】
本発明の実施例6に係るレーダ装置は、実施例1に係るレーダ装置のリサンプリング処理部8において実行されるリサンプリング処理を、リサンプリング処理をレンジセル内リサンプリング処理とレンジセル単位リサンプリング処理に分割して行うようにしたことを特徴とするものである。
【0062】
図7は、本発明の実施例6に係るレーダ装置のリサンプリング処理部8の構成を示すブロック図である。このリサンプリング処理部8は、レンジセル内リサンプリング処理部12とレンジセル単位リサンプリング処理部13とから構成されている。
【0063】
レンジセル内リサンプリング処理部12は、AD変換部から送られてくる信号のリサンプルを、レンジ方向(距離方向)のセルであるレンジセル内で行う。より具体的には、サンプルによって得られたセルに対してサンプリング定理に従って補間処理を行うことにより、サンプルされていないレンジ方向の位置の信号を復元する処理を行う。このレンジセル内リサンプリング処理部12からの出力信号は、レンジセル単位リサンプリング処理部13に送られる。
【0064】
レンジセル単位リサンプリング処理部13は、レンジセル内リサンプリング処理部12からの出力信号のリサンプルをレンジセル単位で行う。このレンジセル単位リサンプリング処理部13からの出力信号は、周波数分析部6および時間−周波数分析部9に送られる。
【0065】
以上説明した実施例6に係るレーダ装置によれば、リサンプリング処理をレンジセル内リサンプリング処理とレンジセル単位リサンプリング処理に分割して実施するように構成したので、リサンプリング量によらず、サンプリング数を一定、即ち処理負荷を一定とすることができる。
【実施例7】
【0066】
本発明の実施例7に係るレーダ装置は、目標検出部7が、時間−周波数分析部9からの出力信号を用いて、目標の状態ベクトルの推定を行うようにしたことを特徴とするものである。この実施例7に係るレーダ装置の構成は、目標検出部7およびリサンプリング処理部8で行われる処理の内容を除けば、実施例1に係るレーダ装置の構成と同じである。
【0067】
目標検出部7は、時間−周波数分析部9から送られてくる時間−周波数分析の結果から、分割された時間帯毎に目標位置を算出し、算出した目標位置を用いて、等速運動モデルや等加速度運動モデルに対して、例えば最小自乗法を用いてフィッティング処理を行い、観測時間内の目標の状態ベクトルを推定する。この目標検出部7で推定された目標の状態ベクトルは、リサンプリング処理部8に送られる。
【0068】
リサンプリング処理部8は、目標検出部7から送られてくる目標の状態ベクトルに基づいてリサンプリング・パラメータを決定し、決定したリサンプリング・パラメータに従って、AD変換部5からの出力信号のリサンプルを行う。このリサンプリング処理部8からの出力信号は、周波数分析部6および時間−周波数分析部9に送られる。周波数分析部6、時間−周波数分析部9および目標検出部7の動作は、上述した実施例1に係るレーダ装置の動作と同じである。
【0069】
なお、フィッティング処理に用いる運動モデルは、任意に設定でき、複数の運動モデルに対してフィッティング処理を行い、フィッティング誤差の最も少ない運動モデルおよび推定した状態ベクトルを用いるように構成できる。
【0070】
また、観測時間内の目標の状態ベクトルは、分割された時間帯毎の目標位置のみならず周波数情報を併用して推定するように構成することもできる。
【0071】
さらに、動画像処理で用いられる勾配法やマッチング法を用いて、分割された時間帯間の距離・周波数の移動量を算出し、算出した移動量を用いて、等速運動モデルや等加速度運動モデルにフィッティング処理を行うように構成することもできる。
【0072】
目標の状態ベクトルは、一般に、観測毎の目標に関する情報を用いて算出されるが、この実施例7に係るレーダ装置では、観測時間内の目標に関する情報を用いて算出される。従って、より細かなレンジ補正が可能となり、積分損失を低減することができる。
【実施例8】
【0073】
本発明の実施例8に係るレーダ装置は、実施例7に係るレーダ装置において、推定された目標の状態ベクトルに基づいて、目標に対する処理を再帰的に行うようにしたものである。
【0074】
図8は、本発明の実施例8に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。このレーダ装置において、目標検出部7は、実施例7と同様に、時間−周波数分析部9から送られてくる時間−周波数分析の結果に基づき、観測時間内の目標の状態ベクトルを推定する。この目標検出部7で推定された目標の状態ベクトルがリサンプリング処理部8に送られる。
【0075】
リサンプリング処理部8は、目標検出部7からの推定された目標の状態ベクトルに基づいてリサンプリング・パラメータを決定し、決定したリサンプリング・パラメータに従って、AD変換部5からの出力信号のリサンプルを行う。このリサンプリング処理部8からの出力信号は、周波数分析部6および時間−周波数分析部9に送られる。周波数分析部6、時間−周波数分析部9および目標検出部7の動作は、上述した実施例1に係るレーダ装置の動作と同じである。以上の動作が再帰的に行われる。
【0076】
目標の状態ベクトルは、一般に、観測毎の目標に関する情報を用いて算出されるが、実施例8に係るレーダ装置では、観測時間内の目標に関する情報を用いて算出され、再帰的に処理を実施するため、目標の運動状態が前回までと大きく異なる場合にも、積分損失を低減することができる。
【実施例9】
【0077】
本発明の実施例9に係るレーダ装置は、目標検出部7における目標の検出を次のようにして行う。すなわち、目標検出部7は、周波数分析部6からの出力信号に対して低いしきい値を用いて目標の仮検出を行い、その後、仮検出されたセルに対応する、時間−周波数分析部9からの出力信号を用いて、目標の最終的な検出を行う。この構成により、処理負荷を軽減させることができる。
【実施例10】
【0078】
本発明の実施例10に係るレーダ装置は、前記レーダ装置を搭載する装置と目標との相対的な状態ベクトルに基づいて決定されたリサンプリング・パラメータに従ってリサンプリング処理を行うようにしたことを特徴とするものである。
【0079】
図9は、本発明の実施例10に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。本発明の実施例10に係るレーダ装置の構成を示すブロック図では、実施例1に係るレーダ装置の構成に対し、搭載装置の状態ベクトル推定部14が付加されている。
【0080】
今、目標の状態ベクトルX1が以下のように表されるとする。
【数5】

【0081】
ここで、x1は目標の位置、x1’は目標の速度である。
【0082】
また、前記搭載装置の状態ベクトル推定部14から出力される搭載装置の状態ベクトルX2が以下のように表されるとする。
【数6】

【0083】
ここで、x2は搭載装置の位置、x2’は搭載装置の速度である。
【0084】
上記の場合、前記レーダ装置を搭載する装置と目標の相対的な状態ベクトルΔXは、以下のように表される。
【数7】

【0085】
また、送信信号のnパルス目の送信時間T(n)が以下のように表されるとする。
【数8】

【0086】
ここで、T0は前回の観測からの経過時間、ΔTは、送信パルスの時間間隔である。
【0087】
目標および搭載装置の運動モデルが等速運動するものとすると、送信信号のnパルス目の目標位置y(n)は、以下の式で表される。
【数9】

【0088】
ここで、送信信号の1パルス目を基準とした目標移動量y’(n)は、以下のように表される。
【数10】

【0089】
リサンプリング処理部8では、送信信号の1パルス目を基準とした目標移動量y’(n)からリサンプリング・パラメータを決定し、この目標移動量y’(n)の符号を反転したリサンプリングを行うことにより、目標の移動量を補正することができる。
【0090】
なお、上記では、目標および搭載装置の運動モデルが等速運動する場合について説明したが、目標および搭載装置の運動モデルは等速運動する場合に限らず任意に設定できる。
【0091】
実施例10に係るレーダ装置は、航空機または自動車等の車両のように、前記レーダ装置を搭載する装置が移動している時の構成として最適である。
【0092】
なお、目標が移動していない場合は、前記レーダ装置を搭載する装置の状態ベクトルに基づいて決定されたリサンプリング・パラメータに従ってリサンプリング処理を行うようにしてもよい。
【0093】
また、当該レーダ装置が通常の分解能のレーダ装置の場合、高速に移動する目標に対して、積分効果が期待できなくなるのと同様に、当該レーダ装置が高分解能レーダ装置の場合、前記レーダ装置を搭載する装置又は目標が低速に移動する際にも、搭載装置又は目標の移動により、積分効果が期待できなくなる。
【0094】
例えば、高分解能で近距離を捜索する自動車等の車両に搭載される高分解能レーダ装置の場合、搭載装置の移動速度は、それほど高速ではないが、高分解能であるため、積分効果が期待できなくなる。
【0095】
このため、実施例10に係るレーダ装置は、レーダ装置が高分解能レーダ装置であり、当該レーダ装置を搭載する装置又は目標が低速に移動する際の構成としても最適である。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の実施例1に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施例1に係るレーダ装置における時間−周波数分析の結果を示す図(相対的に移動していない目標)である。
【図3】本発明の実施例1に係るレーダ装置における時間−周波数分析の結果を示す図(相対的に移動している目標)である。
【図4】本発明の実施例3に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の実施例4に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の実施例5に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図7】本発明の実施例6に係るレーダ装置におけるリサンプリング処理部の構成を示すブロック図である。
【図8】本発明の実施例8に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図9】本発明の実施例10に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図10】従来のレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図11】従来のレーダ装置の目標の移動量に対する積分損失を示す図である。
【符号の説明】
【0097】
1 送信機
2 サーキュレータ
3 アンテナ
4 受信機
5 AD変換部
6 周波数分析部
7 目標検出部
8 リサンプリング処理部
9 時間−周波数分析部
10 記録部
11 追尾制御部
12 レンジセル内リサンプリング処理部
13 レンジセル単位リサンプリング処理部
14 搭載装置の状態ベクトル推定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナから得られるアナログ信号をディジタル信号に変換するAD変換部と、
前記AD変換部により変換された前記ディジタル信号の周波数分析を行う周波数分析部と、
前記AD変換部により変換された前記ディジタル信号の時間−周波数分析を行う時間−周波数分析部と、
前記周波数分析部により前記周波数分析が行われた信号と前記時間−周波数分析部により前記時間−周波数分析が行われた信号とに基づき目標を検出する目標検出部と、
を備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記AD変換部により変換された前記ディジタル信号のリサンプルを行うリサンプリング処理部をさらに備え、
前記周波数分析部は、前記リサンプリング処理部により前記リサンプルが行われた信号の周波数分析を行い、
前記時間−周波数分析部は、前記リサンプリング処理部により前記リサンプルが行われた前記信号の前記時間−周波数分析を行うことを特徴とする請求項1記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記リサンプリング処理部は、前記目標の状態ベクトルに基づいて決定されたリサンプリング・パラメータに従って前記AD変換部により変換された前記ディジタル信号の前記リサンプルを行うことを特徴とする請求項2記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記リサンプリング処理部、前記周波数分析部、前記時間−周波数分析部および前記目標検出部を1系統とした場合に複数系統を備え、
前記複数の系統は、複数の状態ベクトルの前記目標に対する処理を並列に行うことを特徴とする請求項2記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記リサンプリング処理部、前記周波数分析部、前記時間−周波数分析部および前記目標検出部は、複数の状態ベクトルの前記目標に対する処理を時分割で行うことを特徴とする請求項2記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記目標検出部により検出された信号を用いて前記目標を追尾する追尾制御部をさらに備え、
前記リサンプリング処理部は、前記追尾制御部により追尾された前記目標の状態ベクトルに基づいて決定されたリサンプリング・パラメータに従って前記AD変換部により変換された前記ディジタル信号の前記リサンプルを行うことを特徴とする請求項2記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記リサンプリング処理部は、
前記AD変換部により変換された前記ディジタル信号の前記リサンプルをレンジセル内で行うレンジセル内リサンプリング処理部と、
前記レンジセル内リサンプリング処理部からの出力信号の前記リサンプルをレンジセル単位で行うレンジセル単位リサンプリング処理部と、
を備えることを特徴とする請求項2乃至請求項6の何れか1項記載のレーダ装置。
【請求項8】
前記目標検出部は、前記時間−周波数分析部により前記時間−周波数分析が行われた前記信号を用いて、前記目標の状態ベクトルを推定し、
前記リサンプリング処理部は、前記目標検出部により推定された前記目標の前記状態ベクトルに基づいて決定されたリサンプリング・パラメータに従って前記AD変換部により変換された前記ディジタル信号の前記リサンプルを行うことを特徴とする請求項2記載のレーダ装置。
【請求項9】
前記リサンプリング処理部、前記周波数分析部、前記時間−周波数分析部および前記目標検出部は、前記目標検出部により推定された前記目標の前記状態ベクトルに基づいて、前記目標に対する処理を再帰的に行うことを特徴とする請求項8記載のレーダ装置。
【請求項10】
前記目標検出部は、前記周波数分析部により前記周波数分析が行われた前記信号に対して低いしきい値を適用して前記目標の仮検出を行い、仮検出された前記目標のセルに対応する、前記時間−周波数分析部からの前記信号を用いて前記目標の最終的な検出を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項9の何れか1項記載のレーダ装置。
【請求項11】
前記周波数分析部は、前記周波数分析をフーリエ変換によって行い、
前記時間−周波数分析部は、前記時間−周波数分析を短時間フーリエ変換によって行うことを特徴とする請求項1乃至請求項10の何れか1項記載のレーダ装置。
【請求項12】
アンテナから得られるアナログ信号をディジタル信号に変換するAD変換部と、
前記AD変換部により変換された前記ディジタル信号の時間−周波数分析を行う時間−周波数分析部と、
前記時間−周波数分析部により前記時間−周波数分析が行われた信号に基づき目標を検出する目標検出部と、
を備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項13】
前記AD変換部により変換された前記ディジタル信号のリサンプルを行うリサンプリング処理部をさらに備え、
前記時間−周波数分析部は、前記リサンプリング処理部により前記リサンプルが行われた信号の時間−周波数分析を行うことを特徴とする請求項12記載のレーダ装置。
【請求項14】
前記リサンプリング処理部は、当該レーダ装置を搭載する搭載装置の状態ベクトル又は当該レーダ装置を搭載する搭載装置と前記目標との相対的な状態ベクトルに基づいて決定されたリサンプリング・パラメータに従って前記AD変換部により変換された前記ディジタル信号の前記リサンプルを行うことを特徴とする請求項2記載のレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−349669(P2006−349669A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−122178(P2006−122178)
【出願日】平成18年4月26日(2006.4.26)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】