説明

レーヨン繊維及びその製造方法

【課題】脂肪酸又はその塩に抗酸化性を付与し、脂肪酸又はその塩の酸化による繊維強度の低下を防止できるレーヨン繊維及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のレーヨン繊維は、レーヨン繊維内に脂肪酸又はその塩が混合され、前記レーヨン繊維内のセルロースと脂肪酸又はその塩とは非相溶状態で、かつ前記脂肪酸又はその塩は微分散されてセル状領域を形成しており、前記脂肪酸又はその塩に脂溶性の抗酸化剤が含まれている。本発明のレーヨン繊維の製造方法は、予め、脂肪酸又はその塩を含む溶液と、脂溶性の抗酸化剤とを混合し、脂肪酸又はその塩、及び脂溶性の抗酸化剤を含有する平均粒子径が0.3〜10μmの乳化液を調整し、セルロースを含むビスコース原液に、前記乳化液を混合して添加ビスコース液を調整し、前記添加ビスコース液をノズルより押し出して紡糸し、凝固再生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生セルロースを用いたレーヨン繊維及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
再生セルロースを用いたレーヨン繊維は、ビスコースレーヨンとして知られている。中空レーヨンについても従来から提案されており、引用文献1〜4は、脂肪酸含有繊維を開示しており、とくに引用文献1では添加するγ−リノレン酸(以下GLA)残存率の向上及び着色低減を目的として、3,5−ジ−t−ブチルヒドロキシルトルエン、イオウ系抗酸化剤、トコフェロール類の抗酸化剤3種を併用した乳化液の粒径を2000nm以下としてビスコースに添加・混合している。
【特許文献1】特開2002−161428号公報
【特許文献2】特開平09−296321号公報
【特許文献3】特開平09−296322号公報
【特許文献4】特開平08−337918号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、引用文献1〜4では、脂肪酸の粒径が2000nmを超えると、乳化液の安定性に劣るため、脂肪酸の粒径を2000nm以下となるように乳化しなければならなかった。2000nmまで微粒子化するためには、強力な乳化設備が必要となり、生産性に劣る問題がある。また、脂肪酸の粒径が微細であり、添加量が少量であるため、繊維断面に確認できないくらいの微小孔が形成されるか、あるいは脂肪酸が非晶部分に存在し微小孔を形成しないため、繊維中に内在できる脂肪酸は少量であった。また、脂肪酸に混合した抗酸化剤も同様に多量に繊維に内在させることができない。また、引用文献1では、3種類の抗酸化剤を併用しているが、使用目的は脂肪酸の変質防止であり、製品に用いても抗酸化作用を奏しないという問題があった。
【0004】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、脂肪酸又はその塩に抗酸化性を付与し、脂肪酸又はその塩の酸化による繊維強度の低下を防止できるレーヨン繊維及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のレーヨン繊維は、レーヨン繊維内に脂肪酸又はその塩が混合され、前記レーヨン繊維内のセルロースと脂肪酸又はその塩とは非相溶状態で、かつ前記脂肪酸又はその塩は微分散されてセル状領域を形成しているレーヨン繊維であって、前記脂肪酸又はその塩に脂溶性の抗酸化剤が含まれることを特徴とする。
【0006】
また本発明のレーヨン繊維の製造方法は、前記のレーヨン繊維の製造方法であって、予め、脂肪酸又はその塩を含む溶液と、脂溶性の抗酸化剤とを混合し、脂肪酸又はその塩、及び脂溶性の抗酸化剤を含有する平均粒子径が0.3〜10μmの乳化液を調整し、
セルロースを含むビスコース原液に、前記乳化液を混合して添加ビスコース液を調整し、
前記添加ビスコース液をノズルより押し出して紡糸し、凝固再生することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のレーヨン繊維は、脂肪酸又はその塩が繊維内のセルロースとは非相溶状態で(相分離して)混合され、かつ前記脂肪酸又はその塩は微分散されてセル状領域を形成しているレーヨン繊維であって、前記脂肪酸又はその塩には脂溶性の抗酸化剤が混合されていることにより、耐洗濯性の高い抗酸化性を有する繊維となるとともに、脂肪酸又はその塩の酸化による繊維強度の低下を防止できる。加えて繊維断面方向において従来の中空繊維のように潰れることなく、ふくらんでおり、嵩高で、剛性が高くコシのある繊維となる。また、本発明のレーヨン繊維は、繊維内のセルロースとの界面において脂肪酸又はその塩と空間とからなるセル状領域を形成しており、その共存状態により、特に抗酸化性が高く、消臭性が高く、軽量な繊維が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明者等は、鋭意検討した結果、脂肪酸又はその塩(以下、単に脂肪酸ともいう)を所定の条件でビスコースに添加・紡糸し、繊維化することにより、脂肪酸又はその塩を含有する微細な小孔が多数存在する繊維の製造が可能であること、脂溶性の抗酸化剤を脂肪酸又はその塩に混合した乳化液をビスコースに添加・紡糸することにより、微細な小孔に脂肪酸又はその塩に含まれる脂溶性の抗酸化剤を存在させることができ、抗酸化性を付与できること、及び脂肪酸又はその塩の酸化による繊維強度の低下を防止できることを見いだし本発明に至った。
【0009】
ここでいう脂溶性とは、脂肪酸に溶解する性質を有することをいう。抗酸化性を有する物質が脂溶性であるとよい理由は、以下のとおりである。ビスコースがセルロースの溶媒に水を使用しているため、水溶性ではビスコースに分散し、繊維化時に繊維に歩留りが低くなる傾向にある。そこで、脂肪酸に一度溶解・分散しそれをビスコースに添加することにより、水分散液中でエマルジョン状態を形成し、繊維中では脂肪酸に抗酸化剤が含まれたセル状領域として存在させることができる。これにより抗酸化剤の繊維中の残存度も向上すると推定される。
【0010】
本発明は、抗酸化剤と脂肪酸又はその塩の乳化液を混合することによって、脂肪酸又はその塩による保護効果によって、製造工程での抗酸化剤の変性が抑制され、抗酸化性の付与が効率よくできる。繊維中の微小孔に脂肪酸又はその塩に含まれる抗酸化剤が存在するので、多孔性の繊維形状によってより多くの抗酸化剤を繊維中に含ませることができる。
【0011】
本発明に用いられる脂肪酸は、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸のいずれであってもよい。また前記脂肪酸は、脂溶性の抗酸化剤が変質しない温度範囲で液状であると、乳化液が固形化することなく紡糸時に容易に添加することができ好ましい。
【0012】
脂肪酸の炭素数としては、特に限定されないが、例えば、炭素数10〜22であることが好ましい。不飽和脂肪酸の二重結合または三重結合の数としては、例えば、1〜6であることが好ましい。
【0013】
上記を満たす脂肪酸としては、デセン酸、パルミトオレイン酸、オレイン酸、リノール酸、α−リノレン酸、γ−リノレン酸(GLA)、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)等から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。上記脂肪酸によれば、デセン酸は肌荒れ改善、パルミトオレイン酸は皮膚の乾燥,老化防止、オレイン酸は角質層保護,乾燥肌改善、リノール酸は新陳代謝促進、α−リノレン酸はアレルギー抑制、γ−リノレン酸(GLA)は皮膚の細胞機能正常化、エイコサペンタエン酸(EPA)又はドコサヘキサエン酸(DHA)はアレルギー抑制など、それぞれの脂肪酸自体の持つ効果を付与することが期待できる。
【0014】
本発明においては、脂溶性の抗酸化剤は、トコフェロール、β−カロチン、及びユビキノール(CoQ10)等の天然の抗酸化剤、及びBHT、BHA等の合成抗酸化剤が挙げられる。なかでも、天然抗酸化剤であることが好ましい。
【0015】
トコフェロール類としては、天然および合成トコフェロールのいずれを使用してもよい。天然トコフェロールは、一般に植物油等から抽出、濃縮、精製されるもので、光学異性体を含まない(D体のみ)。合成トコフェロールは、一般に工業的に合成されたもので、光学異性体はD体とL体が混合した状態のものであり、例えば酢酸トコフェロール等が挙げられる。特に抗酸化性の観点では、天然トコフェロールであることが好ましい。
【0016】
また、トコフェロール類には、α型、β型、γ型、δ型があり、特に抗酸化性の観点では、δ型トコフェロールを含むことが好ましい。β−カロチン、ユビキノール(CoQ10)、BHT(ジブチルヒドロキシルトルエン)、及びBHA(ブチルヒドロキシアニソール)は、トコフェロール類と同等の作用・効果がある。
【0017】
本発明では、脂肪酸又はその塩と抗酸化剤を混合した乳化液を紡糸時に添加し、セル状領域を形成させる。特開昭53−143722号公報に記載されたオレイン酸を添加する方法で行おうとすると、ビスコース粘度の上昇により、セル状領域を製造することができなかった。しかし、本発明の製造方法によれば、繊維が脂肪酸又はその塩の添加量が1〜3質量%未満まではそのままで、3質量%以上は苛性ソーダと界面活性剤を併用することにより、脂肪酸又はその塩を含有する多数のセル状領域(微小孔)が存在するレーヨン繊維を得ることができる。
【0018】
本発明は、脂肪酸又はその塩をセルロースに対し1〜15質量%添加し、紡糸することにより微細な小孔を有する繊維が生産できる。しかし、単に脂肪酸又はその塩のみをビスコースに添加する場合、脂肪酸又はその塩のビスコース中のセルロースに対する添加率が3質量%程度までは可能であることは確認できたが、そのときのビスコースの粘度は非常に高く、実生産に不適な性状であった。それ以上の脂肪酸又はその塩添加では、ビスコースの粘度が紡糸不可能な粘度に上昇し実際の紡糸は不可能であった。脂肪酸単独でビスコースへ添加すると、脂肪酸が脂肪酸ナトリウムに変化しビスコース中のナトリウムあるいは一部セルロースと結合したナトリウムまで消費し、そのため粘度の上昇が起こる、ものと推定される。
【0019】
そこで、脂肪酸の中和価+αのアルカリ金属の水酸化物で事前に反応部位を閉鎖し、その後ノニオン系界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレン−ヤシアミンエーテル)を添加、攪拌してビスコースに添加することで、粘度上昇の改善された紡糸可能な添加ビスコース液とすることができる。アルカリ金属の水酸化物としては、ナトリウム、カリウム、リチウム、ルビジウム等のアルカリ金属の水酸化物が挙げられ、水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)、水酸化カリウム(苛性カリ)を用いることが好ましい。この方法によれば、脂肪酸の粒径を2000nmといった微細化せずとも紡糸性のよい乳化液を用いればよい。そして、上記脂肪酸に予め抗酸化剤を混合しておくことにより、抗酸化剤を含有する乳化液を得ることができる。この乳化液をビスコースに添加・紡糸することで、抗酸化性が付与されたレーヨン繊維を得ることができる。さらに、抗酸化剤の抗酸化性により、脂肪酸の酸化影響による繊維強度の低下を抑制することができる。
【0020】
本発明と特開昭53−143722号公報の製造方法の相違は、ビスコースの凝固再生機構が変わり、繊維形状に差を与えたものと考えられる。
【0021】
本発明では、紡糸時のビスコース粘度を30〜200secとしてその範囲にコントロールしたビスコース原液を作製した。次いで、ノズルの孔数を3000〜12000ホールとし、凝固再生浴の硫酸濃度を95〜125g/Lとし、硫酸亜鉛濃度を10〜17g/Lとしてそのビスコース原液を紡糸して凝固再生をコントロールすることにより、繊維内部に脂肪酸又はその塩を含むセル状領域を多数形成したレーヨン繊維の製造が可能である。また、繊度については、ステープル繊維では汎用的な0.9〜3.3dtexとすることにより、上記レーヨン繊維を得ることができる。
【0022】
また、本発明はビスコースの粘度も重要であり、ビスコースの落下球での粘度を調整することによって、脂肪酸の添加率を高くしても安定して生産することができる。ビスコースの粘度は、30〜200secであることが好ましく、特に脂肪酸の添加率が3質量%以上の場合は、40〜90secであることがより好ましい。本発明の高添加率3〜15質量%/cellでの安定生産するためには、アルカリ金属の水酸化物の脂肪酸との配合比と、界面活性剤の添加条件を確立することで上記形状を有するレーヨン繊維を製造できる。特徴的な部分は、添加比率を高めることができ、それにより脂肪酸又はその塩を含むセル状領域内に小空間の部位が多くなった。本発明のレーヨン繊維は、特開昭53−143722号公報のような竹節状中空ではなく、繊維側面から見た繊維幅もレギュラーレーヨンと同程度である。なお、粘度の測定方法は、落球式で測定した。落球式は、粘度管にビスコースを入れ1/8"鋼球(直径3.17mm、重さ0.15g)が200m
m落下する時間で測定した。この値はハーゲンポアズイユの式に代入し、粘度に換算することもできる。この添加ビスコース液を紡糸することで、脂肪酸又はその塩及び抗酸化剤を含むセル状領域(以下、単に「セル状領域」ともいう)、すなわち脂肪酸又はその塩及び抗酸化剤が充満したセル状領域、及び脂肪酸又はその塩及び抗酸化剤と空間とからなるセル状領域から選ばれる少なくとも一つの領域を形成している繊維が生産できる。
【0023】
この領域に形成される空間は、繊維断面から見ると小さな空隙の様に見える。繊維側面から見ると非連続であり、粒子状のものが点在して見える。この事実から、脂肪酸又はその塩及び抗酸化剤はレーヨン繊維の断面方向及び長さ方向から見て、相分離してセル状に微分散していることが理解できる。
【0024】
以下は、本発明のレーヨン繊維を測定した結果である。
(1)脂肪酸が有するカルボキシル基をカチオン染料で染色して側面を観察したが、レギュラー品もカチオン染料で汚染され明確な違いは確認できなかった。
(2)財団法人日本化学繊維検査協会にて販売している繊維用鑑別染色液(NDS−323)で染色を実施してみると、レギュラーレーヨンはピンク色に、脂肪酸は緑色に(アセテートの染着を示す)、本発明のレーヨン繊維は紫色に染色された。この色は鑑別染色ではどの分類にも入らない。
(3)この状態で繊維側面を見ると、全体的に紫色であるが、濃色の部分が点在していた。
(4)本発明のレーヨン繊維をメタノール浴で打撃を与えて抽出する付着油脂の迅速法で処理した綿は、ピンク色であり、一部処理が不十分だったせいか紫色がやや抜けた色になっていた。
(5)この繊維の断面を反射光により顕微鏡観察すると、微小な空間が形成されていることがわかった。
(6)本発明のレーヨン繊維におけるノネナールおよびイソ吉草酸に対する消臭性能を確認すると、レーヨン繊維のみ、あるいはオレイン酸単独では認められないノネナールおよびイソ吉草酸に対する吸着性能が確認された。たとえ脂肪酸に消臭性能があったとしても、測定に供した試料は繊維3gであり、その繊維中の脂肪酸成分は極微量であるため、これほどの吸着性能は考えられない。
【0025】
以上のことから、本発明のレーヨン繊維は、以下のa〜cのいずれかの構造を有する。
a.レーヨン繊維の繊維断面を見たとき、繊維内部においてレーヨン繊維内のセルロースと脂肪酸又はその塩及び抗酸化剤とは非相溶状態で、かつ前記脂肪酸又はその塩及び抗酸化剤は微分散されてそれを含むセル状領域のうち少なくとも一つは、脂肪酸又はその塩及び抗酸化剤が充満したセル状領域を多数形成している。
b.前記セル状領域のうち少なくとも一つのセル状領域が、その界面において脂肪酸又はその塩及び抗酸化剤と空間とからなるセル状領域を多数形成している。
【0026】
このような繊維構造を採ることにより、上記セル状領域に形成される空間は乾燥した環境でも繊維の水素結合による空間の閉塞はない。特に、本発明のレーヨン繊維は、上記aのセル状領域と上記bのセル状領域が混在して形成されていることが好ましい(以下、このような構造は「脂肪酸−空間内在型レーヨン」ともいう)。
【0027】
本発明のレーヨン繊維は、特開昭53−143722号公報記載の竹節状中空レーヨンの製造方法とは異なり、下記の理由から、上記構造になると推定される。
i.脂肪酸又はその塩及び抗酸化剤は、繊維内部に内包される。すなわち、微小な空間とはならず非晶部分に脂肪酸又はその塩が存在している。
ii.内包されると共に、繊維内部に脂肪酸又はその塩及び抗酸化剤が、ビスコース中で形成したエマルジョン状態のそのままで凝固・再生して繊維が形成され、それ以後も脂肪酸又はその塩及び抗酸化剤を含むセル状領域を有している。
【0028】
本発明におけるセル状領域とは、その断面積が0.01〜0.8μm2の範囲内にあるものを指す。より好ましくは、0.02〜0.5μm2である。この範囲未満では、断面観察しても前記セル状領域は確認しにくい。一方この範囲を超えると、大きすぎてつぶれやすい傾向となる。なお、前記セル状領域よりも断面積の大きい空隙は繊維が潰れない範囲で含んでいてもよい。
【0029】
前記セル状領域の平均断面積は0.05〜0.5μm2であることが好ましい。より好ましくは、0.1〜0.4μm2である。平均断面積が0.05μm2未満であると、繊維中のセル状領域が顕微鏡でも観察しにくい。一方、0.5μm2を超えると、大きすぎて潰れやすい傾向にある。
【0030】
繊維断面積に対する前記領域の断面積の合計の割合は、2〜20%であることが好ましい。より好ましくは、4〜15%である。2%未満ではそのセル状領域は単なる鬆(す)であり、20%を超えると、繊維の強度が低下する傾向になる。
【0031】
前記レーヨン繊維は、繊維1本あたりに5〜70個の前記セル状領域を有することが好ましい。より好ましくは、10〜50個である。5個未満では鬆との違いはなく、70個を超えるとその領域が繋がってしまい、大きなセル状領域になったり、空間が裂ける傾向になる。
【0032】
本発明では、脂肪酸とアルカリ金属の水酸化物の配合比および界面活性剤の添加条件を確立することによって、紡糸ビスコースの落下球での粘度が調整可能となり、脂肪酸の添加率を3〜15質量%/cellと高くしても安定生産ができる。脂肪酸の添加比率を高めることにより、より多くのセル状領域(微小孔)を内包するレーヨン繊維が得ることができる。
【0033】
本発明のレーヨン繊維は、例えば以下の方法で製造することができる。本発明のレーヨン繊維は、セルロースを含むビスコース原液を調製し、前記ビスコース原液に、脂肪酸又はその塩と、抗酸化剤と、苛性ソーダと、ノニオン系又はアニオン系界面活性剤を含む乳化液を添加して、ビスコース粘度が30〜200secの範囲にある添加ビスコース液に調整し、ノズルの孔数を3000〜12000ホールとし、凝固再生浴の硫酸濃度を95〜125g/Lとし、硫酸亜鉛濃度を10〜17g/Lとして、前記添加ビスコース液をノズルより押し出して紡糸し、凝固再生することにより製造することができる。
【0034】
脂肪酸又はその塩の添加量は、ビスコース中のセルロースに対して1〜15質量%であることが好ましい。より好ましくは1〜10質量%である。1質量%未満では前記セル状領域が形成されにくい傾向でレギュラーレーヨン繊維の物性に近くなり、15質量%を超えると脂肪酸又はその塩が工程外へ溶出されやすくなり、精練の発泡等工程内で扱いにくい傾向となる。
【0035】
前記レーヨン繊維は、脂肪酸又はその塩を0.2〜10質量%含むことが好ましい。より好ましくは0.4〜5質量%である。0.2質量%未満ではレギュラーレーヨン繊維の物性に近くなり、10質量%を超えると製造工程での溶出が多くなり、精練の発泡等工程内で扱いにくい傾向となる。なお、脂肪酸又はその塩の含有量がビスコース原液での添加量に比べ、得られるレーヨン繊維の含有量が低下する傾向にある。これは、レーヨン繊維製造中に一部の脂肪酸又はその塩がレーヨンの系外へ溶出するためである。
【0036】
なお、本発明では、脂肪酸又はその塩以外にも、本発明の効果を阻害しない範囲で他の添加剤を添加してもよい。ただし、炭酸カルシウム等の気泡形成剤は、繊維内部に大孔を形成するため、添加量を抑える方がよい。
【0037】
脂溶性の抗酸化剤の添加量は、ビスコース中のセルロースに対して0.1〜1.5質量%であることが好ましい。より好ましくは0.3〜1質量%である。また、脂溶性の抗酸化剤が脂肪酸に対して1〜50質量%であることがより好ましい。より好ましくは、5〜35質量%である。上記範囲内にあると、抗酸化剤による繊維の着色もほとんどなく、抗酸化剤に由来する抗酸化性が得られる。
【0038】
アルカリ金属の水酸化物の添加量は、脂肪酸の中和価に相当するモル数の15〜30mol%多い量であることが好ましい。この範囲未満では添加液は扱いやすい粘度であるが、ビスコースの粘性が上昇し、一部にゲル化が見られる。前記の範囲を超えると添加液に粘性が出て、添加液調整時に出来た気泡が消えずにトラブルが生じる傾向になる。
【0039】
界面活性剤の添加量は、脂肪酸に対して又はその塩に対して20〜40質量%であることが好ましい。この範囲未満では添加液の粘度が上昇し、添加液調整時の気泡が抜けずに紡糸工程でのトラブルが生じやすくなる。前記範囲を超えると精練工程で泡が多く発生し、精練異常の原因となりやすい。
【0040】
添加する界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤が好ましい。ノニオン系界面活性剤としては、例えば、アルコール型、アルキルフェノール型、ポリオキシエチレンブロックポリマー型、ポリオキシプロピレンブロックポリマー型、アルキルアミン型等のアルカリ耐性の高い界面活性剤が挙げられる。なお、脂肪酸エステル型は、アルカリ耐性が低いため、好ましくない。
【0041】
また、アニオン系でも可能であり、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム等が挙げられる。特に、ノニオン系のポリオキシエチレンブロックポリマー型はビスコース添加剤としても一般的であり、特にポリオキシエチレンアミンエーテル型の界面活性剤は特にビスコースとの相溶性の点で好ましい。
【0042】
前記乳化液における脂肪酸及び抗酸化剤を含有する平均粒子径は、0.3〜10μmであることが好ましい。より好ましい平均粒子径は0.5〜8μmであり、さらにより好ましくは3〜6μmである。平均粒子径が上記範囲内にあると、所定のセル状領域(微小孔)を多数含むレーヨン繊維が得られ、好ましい。上記平均粒子径は、オイル成分と水の比率、及び投入時の攪拌強度をコントロールして調整することができる。平均粒子径を上記範囲内とするには、乳化液の作製において、脂肪酸の乳化液含有濃度を5〜15質量%、より好ましくは9〜14質量%となるように調整し、抗酸化剤・アルカリ金属の水酸化物および界面活性剤を前記の範囲となるように調整し、シェアが強くかからない攪拌条件で乳化することにより得ることができる。例えば、サタケ式攪拌機(ペラ式攪拌機)や投げ込み式攪拌機での攪拌を行うことで可能である。なお、ホモジナイザーや超高圧乳化分散機のようなシェアがかかる乳化では平均粒子径が小さくなり過ぎる傾向にある。
なお、平均粒子径は、以下のようにして測定する。
[平均粒子径]
乳化液をガラス板上に薄く塗布して光学顕微鏡(320倍、(株)ニコン、エクリプスE600)で拡大観察した画像において、100μm角の範囲内にある粒子のうち、粒径の大きい10点を抽出して粒径を測定し、平均した値を平均粒子径とした。
【0043】
前記ビスコース粘度は、30〜200secの範囲にある添加ビスコース液に調整することが好ましい。ビスコース粘度が30sec未満であると、ビスコース溶液の粘性が落ち、紡糸時にトラブルが多く、安定生産が困難になることがある。ビスコース粘度が200secを超えると、ビスコースの流動性が悪く、紡糸が困難となる。
【0044】
前記ノズルの孔数が3000ホール未満であると、生産性が悪く、ノズルの孔数が12000ホールを超えると、ビスコースの酸との接触が、ノズルの内と外で変わるため、均一な繊維が得られにくいことがある。
【0045】
前記硫酸濃度が95g/L未満であると、再生が遅くなりすぎるので生産性が悪く、硫酸濃度が125g/Lを超えると、再生が速くなりすぎて糸切れなど紡糸性が悪くなる傾向にある。
【0046】
前記硫酸亜鉛濃度が10g/L未満であると、ビスコースの表面での再生が速くなるために、セル状領域と大きい空隙ができる場合がある。硫酸亜鉛濃度が17g/Lを超えると、ビスコースの凝固が進み再生が遅くなるため、セル状領域が大きくなって繊維の膨らみが維持できないことがある。
【0047】
脂肪酸と抗酸化剤を混合した乳化液を紡糸時に添加することにより、セル状領域(微小孔)を形成することができ、抗酸化性が高いレーヨン繊維を得ることができる。脂肪酸と抗酸化剤を混合した乳化液を用いると、抗酸化剤が脂肪酸に保護された状態となり、製造工程においてアルカリとの接触による抗酸化剤の変性を抑制することができ、抗酸化性を維持したまま繊維化することができるものと推定される。また、脂肪酸に含まれた状態の抗酸化剤が、繊維の非晶部分に加えて微小孔部分にも同様に存在する状態となり、繊維中により多くの抗酸化剤を含有させることができると推定される。
【0048】
また、繊維内部での脂肪酸および抗酸化剤の存在状態について詳細は不明であるが、以下の形態で存在していると推定される。
(1)脂肪酸および抗酸化剤の混合物を繊維内部に内包して存在している(微小孔とはならず非晶部分に脂肪酸および抗酸化剤の混合物が存在している)。
(2)内包すると共に、脂肪酸および抗酸化剤の混合物がビスコース中で形成したエマルジョン状態をそのままに繊維が形成されて繊維内部に微小孔を有している。
【0049】
本発明は、脂肪酸又はその塩及び抗酸化剤が微分散されてセル状領域を形成することにより、抗酸化性を有する。また、洗濯耐久性を有する。
【実施例】
【0050】
以下実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0051】
本発明における各種試験の測定法は次のとおりである。
[測定方法]
(1)紡糸ビスコースの粘度は落球式により測定した。粘度管にビスコースを入れ1/8"鋼球(直径3.17mm、重さ0.15g)が200mm落下する時間を測定する。これをハーゲンポアズイユの式
に代入し、粘度に換算することが可能となる。
(2)孔数・単孔平均面積・全孔面積・面積比率については、任意の断面を10個サンプリングし、その断面を5500倍に拡大して画像処理により孔を抽出し、各孔それぞれの断面積を測定した。
(3)付着油脂分は、試料綿をメタノールに含浸させてプレス式抽出機にて油脂分を抽出し、その抽出分を測定した。
(4)抗酸化性
20℃,65%RHで24時間放置した試料綿1.5gに、N/50(0.01M)−ヨウ素溶液5mlおよびデンプン指示薬を注加後、N/50−チオ硫酸ナトリウムで滴定する。
その滴定値から綿1gで還元されるヨウ素量の換算を行い、ヨウ素還元量(mg−I2/g−綿)として、抗酸化性の評価指標とした。
ヨウ素還元量の算出は次式による。(空試験は、試料綿なしによる測定)
・ N/50−ヨウ素溶液ファクター=空試験滴定量(ml)/5(ml)
・ N/50−ヨウ素溶液濃度(g/L)=0.01×253.81
・ ヨウ素還元量(mg−I2/g−綿)=((空試験滴定量−測定滴定量)/ファクター)×(0.01×253.81)/1.5
(5)洗濯処理
JIS L 0217 103法 吊り干し10回,負荷布なし,中性洗剤使用の条件による処理。(財)日本化学繊維検査協会で実施。
(6)促進試験
試料綿を促進試験1では70℃(定温乾燥機、アズワン(株)、DO300−FA)、促進試験2では70℃,70%RH(恒温恒湿器、ヤマト科学(株)、IG420)の各環境下で30日間放置した後に繊維強度を測定、処理前後の比較により繊維物性の劣化状態の評価を行った。繊維強度測定はJIS L 1015により実施した。
(7)消臭性(ノネナール,イソ吉草酸)
繊維評価技術評議会の方法での2時間後のガス除去率による評価。(財)日本化学繊維検査協会で実施した。
【0052】
次に製造条件を説明する。
1.繊維A
[ビスコース原液条件]
オレイン酸に対して16.7%のトコフェロール成分(エーザイフード・ケミカル(株)製、商品名「イーミックス−50L」、トコフェロール成分50%含有、トコフェロール組成はα型5〜10%、γ型40〜50%、δ型40〜50%、β型はほとんど含まない)を混合した後、オレイン酸 9質量%、トコフェロール成分1.5質量%、水酸化ナトリウム1.47質量%、ノニオン系界面活性剤(例えばベロール社製商品名“ビスコ32”)2.7重量%からなる乳化液をサタケ式攪拌機(阪和化工機(株)製KP-4001B-3を使用し、300rpmの回転速度で混合し添加液を調整した。)で簡易に混合し添加液を調製した。その添加液を原料ビスコースへオレイン酸がセルロースに対して3質量%、トコフェロール成分がセルロースに対して0.5質量%となるように添加し、混合機にて攪拌混合を行った。原料ビスコースはセルロース含有量8.5質量%、水酸化ナトリウム含有量5.7質量%、二硫化炭素2.7質量%を含むものを用いた。
[紡糸条件]
得られたビスコースを、2浴緊張紡糸法により、紡糸速度60m/分、延伸率50%で紡糸して、繊度1.4dtexの繊維を得た。第1浴(紡糸浴)の組成は、硫酸100g/L、硫酸亜鉛15g/L、硫酸ナトリウム350g/L含むミューラー浴(50℃)を用いた。また、ビスコースを吐出する紡糸口金には、孔径0.06mmのホールを4000個有するノズルを用いた。紡糸中、単糸切れ等の不都合は生じず、混合ビスコースの紡糸性は良好であった。
[精練条件]
このようにして得られたビスコースレーヨンの糸条を、51mmにカットし、精練処理を行った。精練工程は、熱水処理後に水洗を行い、その後圧縮ローラーで余分な水分を繊維から落とした後、乾燥処理(60℃、7時間)を施して、繊維Aを得た。
2.繊維B
精練工程として熱水処理後に、過酸化水素晒による漂白処理を実施して水洗した以外は繊維Aと同様にして繊維Bを得た。
3.繊維C
オレイン酸に対して10%のトコフェロール成分を混合した後、オレイン酸9質量%、トコフェロール成分0.9質量%、水酸化ナトリウム1.47質量%、ノニオン系界面活性剤2.7重量%からなる乳化液を作製し、オレイン酸がセルロースに対して3質量%、トコフェロール成分がセルロースに対して0.3質量%となるように添加した以外は、繊維Aと同様にして繊維Cを得た。
4.繊維D
オレイン酸に対して23.3%のトコフェロール成分を混合した後、オレイン酸9質量%、トコフェロール成分2.1質量%、水酸化ナトリウム1.47質量%、ノニオン系界面活性剤2.7重量%からなる乳化液を作製し、オレイン酸がセルロースに対して3質量%、トコフェロール成分がセルロースに対して0.7質量%となるように添加した以外は、繊維Aと同様にして繊維Dを得た。
5.繊維E
添加液として、リノール酸9質量%、水酸化ナトリウム1.47質量%、ノニオン系界面活性剤2.7重量%となる水溶液を使用し、リノール酸がビスコース中のセルロースに対して10質量%となるように添加したこと、精練工程を熱水処理、水硫化処理、漂白、酸洗いの順で実施したこと以外は繊維Aと同様にして繊維Dを得た。漂白は、次亜塩素酸ソーダ水溶液(0.03質量%)を用いて実施した。
6.繊維F
何も添加せずに繊維Dと同様の処理を行い、繊維Fを得た。
【0053】
[結果]
1.繊維形状
得られたレーヨン繊維は、表1に示すような形状を有する繊維であった。図1は本発明の実施例における繊維Aの断面をマイクロスコープ(3000倍、(株)キーエンス、VHX-100)で観察した写真、図2は本発明の実施例における繊維Aの側面を光学顕微鏡(320倍、(株)ニコン、エクリプスE600)で観察した写真である。
【0054】
【表1】

【0055】
表1により、以下の結果が確認された。
(1)A,B,C,D,Eの結果から、脂肪酸とトコフェロールの混合物あるいは脂肪酸の添加によって、微細な小孔を内在する繊維が生産可能であることが確認できた。
(2)A〜Dのヨウ素還元量の結果から、脂肪酸にトコフェロールを混合して添加することで抗酸化性能を有する繊維が得られることが確認できた。
(3)また、Bの結果から、その性能が過酸化水素漂白および洗濯に対する耐久性を有することが確認できた。洗濯耐久性が高くなった理由は、親油性であるトコフェロールが、同じく親油性の脂肪酸に含有された状態で繊維内部に存在しているため脂肪酸に保護された状態となり、洗濯時に脱落しにくいものと推定される。
(4)AおよびEの比較から、トコフェロールの併用によって促進試験による繊維強度の低下が抑制されることが確認できた。
(5)BおよびFの結果から、ノネナールおよびイソ吉草酸に対する消臭性能を有することが確認できた。消臭性が高くなった理由は、脂肪酸を含有するため、脂肪酸の酸化分解によって生じる不飽和アルデヒドであるノネナール、低級脂肪酸であるイソ吉草酸を吸着しやすくなったものと推定される。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】図1は本発明の実施例における繊維Aの断面をマイクロスコープ(3000倍、(株)キーエンス、VHX-100)で観察した写真である。
【図2】図2は本発明の実施例における繊維Aの側面を光学顕微鏡(320倍、(株)ニコン、エクリプスE600)で観察した写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーヨン繊維内に脂肪酸又はその塩が混合され、
前記レーヨン繊維内のセルロースと脂肪酸又はその塩とは非相溶状態で、かつ前記脂肪酸又はその塩は微分散されてセル状領域を形成しているレーヨン繊維であって、
前記脂肪酸又はその塩に脂溶性の抗酸化剤が含まれることを特徴とするレーヨン繊維。
【請求項2】
前記脂溶性の抗酸化剤は、トコフェロール、β−カロチン、及びユビキノール(CoQ10)から選ばれる少なくとも1つである請求項1に記載のレーヨン繊維。
【請求項3】
前記脂溶性の抗酸化剤は、脂肪酸又はその塩に対して1〜50質量%含む請求項1又は2に記載のレーヨン繊維。
【請求項4】
前記レーヨン繊維は、炭素数10〜22の脂肪酸又はその塩を0.2〜10質量%含む請求項1〜3のいずれかに記載のレーヨン繊維。
【請求項5】
前記脂肪酸又はその塩を含むセル状領域の平均断面積は0.05〜0.5μm2であり、繊維断面積に対する前記セル状領域の断面積の合計の割合は2〜20%である請求項1〜4のいずれかに記載のレーヨン繊維。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のレーヨン繊維の製造方法であって、
予め、脂肪酸又はその塩を含む溶液と、脂溶性の抗酸化剤とを混合し、脂肪酸又はその塩、及び脂溶性の抗酸化剤を含有する平均粒子径が0.3〜10μmの乳化液を調整し、
セルロースを含むビスコース原液に、前記乳化液を混合して添加ビスコース液を調整し、
前記添加ビスコース液をノズルより押し出して紡糸し、凝固再生することを特徴とするレーヨン繊維の製造方法。
【請求項7】
前記セルロースに対して、脂肪酸又はその塩の添加量が3〜15質量%であり、
前記乳化液は、脂肪酸又はその塩を含む溶液に脂溶性の抗酸化剤を添加した後、アルカリ金属の水酸化物を添加し、混合して調整する請求項6に記載のレーヨン繊維の製造方法。
【請求項8】
前記乳化液に、さらにノニオン系又はアニオン系界面活性剤を含む溶液を添加する請求項7に記載のレーヨン繊維の製造方法。

【図1】
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【図2】
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