説明

ロケットの機体分離機構

【課題】 火薬を用いることなく、機体の分離が可能で、かつ、構造が簡素なロケットの機体分離機構を提供すること。
【解決手段】 機体1が複数に分離可能なロケットRの機体分離機構Aは、少なくとも機体1が分離される分離部分の一方の分離機体3側に配設された第1分離面形成体11と他方の分離機体2側に配設された第2分離面形成体12とを結合するための固定具Bと、分割した分割片を結合させた状態で被着させる被着具4と、被着具4を覆うことで分割片を結合させ、かつ、被着具4の覆を解放させることで分割片の結合を解除する着脱部材5と、着脱部材5を被着具4を覆う位置および解放させる位置に移動させる移動手段6と、第1分離面形成体12を押圧する押圧手段8と、押圧手段8と離脱手段6とを支持する支持部材13,14と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機体が複数に分離可能なロケットの機体分離機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から観測用等のロケットでは、打ち上げた際に、適度な高度まで飛翔した時点で機体を二つ以上に分離して、機体内から機体回収用のパラシュートを出し、その機体をゆっくりと地上に落下させて回収する方式が採られることがある。
ロケットの機体は、一般に、エンジン等が搭載されるロケットモータ部と、観測用計器や磁力計や加速度センサやカメラ等が搭載されるペイロード部との二つからなり、飛翔中に機体分離機構によってロケットモータ部とペイロード部とに分離されるようになっている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
【0003】
機体分離機構には、一般に、ロケットモータ部とペイロード部との結合・分離部分に、特許文献1に開示されているようなセパレーションナットや、特許文献2に開示されているようなマルマンバンド(クランプバンド)や、ワイヤカッタ等を主に用いた部材が使用されている。
【0004】
特許文献1のロケットの機体分離機構は、飛翔中に、ロケットモータ部とペイロード部とに分離される部分を、ボルトと分割ナット(割りナット)とからなるいわゆるセパレーションナットによって結合して保持すると共に、分離時に分割ナットを火薬の圧力によってボルトから分離させている。
【0005】
特許文献2のロケットの機体分離機構は、飛翔中に、ロケットモータ部とペイロード部とに分離されるフランジ部分を、マルマンバンド(クランプバンド)によって結合して保持すると共に、分離時に火薬の点火によってボルトカッタがボルトを切断して、分離用ばねのばね力によってマルマンバンドをフランジから分離させている。
【特許文献1】特開平10−310100号公報(段落0019〜0022、図1)
【特許文献2】特開2000−153800号公報(段落0008および0009、図1および図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献1,2に記載されたロケットの機体分離機構は、ロケットモータ部とペイロード部とを結合しているセパレーションナットやマルマンバンドからなる結合部材を円滑に切断・分離させるために、火薬を爆発させて結合部材を切断し、ばねのばね力でロケットモータ部とペイロード部とを分離させている。
【0007】
このように特許文献1,2では、火薬を使用していることにより、火薬が爆発した際に、ペイロード部に搭載されている観測機器等の搭載機器に強い衝撃力が負荷されたり、爆発時の衝撃力によって機体が損傷したり、また、その衝撃力によってペイロード部の軌道が変化したりするという問題点があった。
【0008】
なお、ロケットの機体は、火薬の爆発時の衝撃力に耐えるようにするために、機体の構造物に補強手段や制振構造や強靭材料を使用することが不可欠となり、しかも使い捨てとなるので、コストが上昇するという問題点があった。
【0009】
また、ロケットの機体分離機構には、機体内に火薬を搭載するため、ロケットの組立時に、火薬に対して注意を払いながら組付けなければならないという問題点があった。
このため、ロケットの機体分離機構には、再利用を可能にする無火薬式分離機構が望まれていた。
【0010】
本発明の課題は、火薬を用いることなく、機体の分離が可能で、かつ、構造が簡素なロケットの機体分離機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、請求項1に記載のロケットの機体分離機構は、機体が複数に分離可能なロケットの機体分離機構において、少なくとも前記機体が分離される分離部分の一方の分離機体側に配設された第1分離面形成体と他方の分離機体側に配設された第2分離面形成体とを結合するための固定具と、この固定具を固定するためにその周囲に分割した分割片を結合させた状態で被着させる被着具と、この被着具を覆うことで前記分割片を結合させ、かつ、当該被着具の覆を解放させることで前記分割片の結合を解除する着脱部材と、この着脱部材を前記被着具を覆う位置および解放させる位置に移動させる移動手段と、この移動手段により着脱部材を解放させる位置に移動させることに伴って前記第1分離面形成体を前記第2分離面形成体側から押圧して両者を突き離す押圧手段と、この押圧手段と前記移動手段とを支持すると共に、前記一方の分離機体または前記他方の分離機体のどちらか一方に内設された支持部材と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項1に記載の本発明によれば、ロケットの機体は、分離可能な各分離機体が一体となっている結合時に、移動手段によって着脱部材が被着具を覆う位置にあって、この着脱部材が固定具の周囲に分割した分割片を結合させた状態の被着具を覆い、被着具と固定具との被着状態を保持していることによって、分離される一方の分離機体と他方の分離機体とが結合した状態に保持されている。
そして、機体の分離時には、移動手段が着脱部材を被着具から解放させる位置に移動させ、着脱部材を固定具に被着している被着具から離脱させることによって、被着具の分割片の結合が解除され、被着具と固定具との被着状態が解かれる。そうすると、第1分離面形成体と第2分離面形成体、および固定具と被着具とが、押圧手段によって切り離される。
このとき、押圧部材は、支持部材にガイドされて、一方の分離機体または他方の分離機体を所定方向に押圧して両者をスムーズに分離させ、かつ、両者を比較的遠い位置に切り離すことができる。
【0013】
請求項2に記載のロケットの機体分離機構は、請求項1に記載のロケットの機体分離機構であって、前記移動手段は、前記支持部材に保持された前記シリンダと、一端が前記着脱部材に連結されて、他端が前記シリンダに進退自在に内設されたピストンと、前記シリンダ内の流体圧を制御して前記ピストンを移動させるための流体圧回路と、を備えたピストンシリンダ機構からなることを特徴とする。
【0014】
請求項2に記載の本発明によれば、移動手段は、分離可能な各分離機体が一体となっている結合時に、流体圧で押圧されたピストンが、着脱部材を押圧して結合した分割片を覆う位置に移動させ、固定具と被着具との被着状態を保持し、分離される一方の分離機体と他方の分離機体との結合状態を保持することができる。
そして、機体との分離時には、流体圧の変圧によってピストンに連結された着脱部材を固定具に被着している被着具から解放する位置に移動させて、分割片の結合を解除し、固定具を被着具から分離させると共に、押圧手段の弾発力で機体の分離部分を一方の分離機体と他方の分離機体とに切り離すことができる。
【0015】
請求項3に記載のロケットの機体分離機構は、請求項1または請求項2に記載のロケットの機体分離機構であって、前記押圧手段は、前記支持部材から前記第1および第2分離面形成体に向けて設けたガイドと、このガイド内に設けた圧縮ばねと、この圧縮ばねにより押圧され前記第1および第2分離面形成体の一方を押圧するロッドとを備え、前記ロッドは、その一端に前記支持部材に着脱自在に係合するように形成した仮止め部と、その他端に前記第1および第2分離面形成体の一方に形成した貫通孔を介して当該他方に当接する当接部と、その中央に前記圧縮ばねの一端が係合して押圧される付勢部とを有することを特徴とする。
【0016】
請求項3に記載の本発明によれば、機体分離機構は、組立てるときに、前記移動手段を用いて固定具に結合する被着具を着脱部材により覆う位置に移動させる。その後、圧縮ばねに付勢された押圧部材の当接部を、例えば、第2分離面形成体に形成した貫通孔を介して第1分離面形成体に当接する状態にし、仮止め部を支持部材に仮止めさせて、圧縮ばねを圧縮状態に保持させる。その後、仮止め部を支持部材に対してフリーにする。
その結果、押圧手段は、機体の分離部分に配設された第1分離面形成体と、第2分離面形成体とが、被着具が固定具に被着して結合しているときに、ロッドの当接部により第2分離面形成体側から第1分離面形成体を押圧する。
そして、移動手段によって着脱部材が被着具から離脱したときには、被着具と固定具との被着力が解消されることにより、圧縮ばねのばね力によって弾発的に付勢されたロッドの当接部が第1分離面形成体を押圧して、固定具を被着具からさらに分離させる方向に付勢して、機体の分離部分が一方の分離機体と他方の分離機体とに瞬時に切り離される。
【0017】
請求項4に記載のロケットの機体分離機構は、請求項2または請求項3のいずれか一項に記載のロケットの機体分離機構であって、前記流体圧回路は、前記シリンダ内の流体を制御して前記ピストンシリンダ機構を作動させる電磁バルブを備えていることを特徴とする。
【0018】
請求項4に記載の本発明によれば、流体圧回路は、シリンダ内の流体を制御してピストンシリンダ機構を作動させる電磁バルブを備えていることにより、分離可能な各分離機体が一体となっている機体の結合時に、電磁バルブに制御された流体圧回路の流体圧によってピストンシリンダ機構が着脱部材を押圧して、この着脱部材で被着具が固定具に被着している状態を保持して、一方の分離機体と他方の分離機体とを結合させている。
そして、機体の分離時には、電磁バルブが作動してピストンシリンダ機構のシリンダ内の流体圧が変化してピストンが移動し、着脱部材を固定具に被着している被着具から離脱させて、押圧部材によって第1分離面形成体が押圧されて固定具が被着具から分離し、機体の分離部分が一方の分離機体と他方の分離機体とに切り離される。
【0019】
請求項5に記載のロケットの機体分離機構は、請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のロケットの機体分離機構であって、前記支持部材は、第1および第2円環部材で形成され、前記第1円環部材と前記第2円環部材とを所定間隔離して前記一方の分離機体または前記他方の分離機体のどちらか一方における外壁の内側に固定して設け、前記第1および第2円環部材の内側にパラシュートを折り畳んで収納する収納空間を備えることを特徴とする。
【0020】
請求項5に記載の本発明によれば、移動手段および押圧手段が、第1および第2円環部材に沿って円周方向に配設されているため、第1および第2円環部材の中央に収納空間を形成することができ、折り畳んだパラシュートを良好に収納することができる。
そして、移動手段および押圧手段によって機体の分離部分が飛翔中に分離した際には、収納空間に収納されていたパラシュートが一方の分離機体と他方の分離機体との結合面からスムーズに放出されて展開される。
【発明の効果】
【0021】
本発明の請求項1のロケットの機体分離機構によれば、機体の分離時には、移動手段により、着脱部材を固定具に被着している被着具から離脱させるように移動させ、押圧手段によって固定具を被着具から分離させるように押圧することで、機体の分離部分を一方の分離機体と他方の分離機体とに切り離すことができる。このため、ロケットの機体分離機構は、火薬の爆発のような強い衝撃力を発生することなく、機体の分離部分を瞬時に確実に切り離すことができる。また、火薬を使用しないので、機体を組立てる際に火薬による危険性が解消されると共に、火薬の爆発時の衝撃力に対する補強手段等が不要になるため、機体の構造を簡素化し、ロケット全体を軽量化することができる。
【0022】
本発明の請求項2のロケットの機体分離機構によれば、移動手段は、分離可能な各分離機体が一体となっている結合時に、ピストンに押圧された着脱部材が被着具と固定具との被着状態を保持し、分離される一方の分離機体と他方の分離機体との結合状態を維持することができる。また、機体の分離時には、ピストンが移動して着脱部材を固定具に被着している被着具から離脱させて、被着具と固定具との被着状態を解放させるため、火薬を使わずに、機体の分離部分を一方の分離機体と他方の分離機体とに分離させることを可能にする。その結果、機体の分離時に、機体や搭載された機器が強い衝撃力を受けないようにすることができる。
【0023】
本発明の請求項3のロケットの機体分離機構によれば、被着具が固定具から分離したときには、圧縮ばねのばね力がロッドに瞬時的に加えられて、第1分離面形成体を押圧して、機体の分離部分を瞬時に分離させることができる。
【0024】
本発明の請求項4のロケットの機体分離機構によれば、流体圧回路は、分離機体の結合時に、電磁バルブに制御された流体圧回路の流体圧によってピストンシリンダ機構が着脱部材を押圧することによって、固定具と被着具との被着状態が保持されるため、機体が一方の分離機体と他方の分離機体とに分離される分離部分をしっかりと結合させることができる。また、機体の分離時には、流体圧回路の電磁バルブによってシリンダ内の流体圧が制御されて、ピストンシリンダ機構のピストンが移動することにより、着脱部材を固定具に被着している被着具から離脱できるため、被着具と固定具との被着状態を解放して、機体の分離部分を分離させることができる。このように、流体圧回路を制御してピストンシリンダ機構と押圧手段とによって機体を分離させることにより、分離時に、機体や機体に搭載した機器に強い衝撃力が加わらないようにできる。
【0025】
本発明の請求項5のロケットの機体分離機構によれば、機体分離機構内には、中央部の収納空間にパラシュートを収納し、収納空間の周囲に移動手段および押圧手段が配設されているので、機体が各分離機体に分離した際に、パラシュートを、一方の分離機体と他方の分離機体との結合面からスムーズに放出されて展開するように収納できると共に、機体内を簡素な構造にできる。機体分離機構の中央空間部に円筒体を設置すると、本体内壁との間に飛散物を閉じ込めることができるので、デブリ化を防止することができる。機体に搭載した機器は、機体の分離時に強い衝撃を受けないので、衝撃力によって損傷することが防止されるため、正確な検出データを収集することができると共に、再利用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
次に、本発明の実施形態に係るロケットの機体分離機構を図1〜図6を参照して、詳細に説明する。なお、本発明の実施形態に係るロケットの機体分離機構は、設置した状態によって上下などの方向が変化するが、上下方向は、図1および図2の図面に示すとおり図面上側を上方向、図面下側を下方向として説明する。なお、図3〜図6は、上下反転した状態を示す。
また、本発明の実施形態に係るロケットの機体分離機構は、ロケットの機体が複数に分離可能なものであれば適用可能であり、以下、本発明の実施形態の一例として、機体がロケットモータ部とペイロード部との2つに分離されるロケットの場合を例に挙げて説明する。
図1は、ロケットの機体分離機構を示す正面図である。図2は、ロケットの機体分離機構を示す要部拡大図である。
【0027】
≪ロケットの構成≫
図1に示すロケットRは、例えば、オーロラや気象等の観測用に使用されるものである。このロケットRは、打ち上げられた後、適度な高度まで飛翔した時点で、断面筒状の機体1をロケットモータ部2とペイロード部3の二つに分離して(図2参照)、機体1内から搭載されたパラシュートP(図4参照)を展開させて減速しながら、その機体1をゆっくりと落下するように構成されている。なお、ロケットRには、いろいろな種類や大きさのものがあり、それらについては特に限定されない。このロケットRは、例えば、全長が約2m、直径が100mm程度の大きさであり、打ち上げ高度として約400mまで到達するものである。
【0028】
≪機体の構成≫
機体1は、エンジンやエンジン部品等が搭載されるロケットモータ部2と、観測用計器、磁力計、加速度センサ、カメラ等が搭載されるペイロード部3と、から主に構成され、図2に示すように機体分離機構Aによって結合し、また二つに分離できるようになっている。
なお、機体1には、ロケットモータ部2、またはペイロード部3のどちらか一方に機体分離機構Aが搭載される。以下、ロケットモータ部2に機体分離機構Aを搭載した場合を例に挙げて説明する。
前記ペイロード部3は、「一方の分離機体」に相当する。ロケットモータ部2は、「他方の分離機体」に相当する。
【0029】
図3は、ロケットの機体分離機構を示す図であり、パラシュートや内部円筒体等を取り外したロケットモータ部とペイロード部とが結合しているときの状態を示す要部拡大斜視図である。図4は、ロケットの機体分離機構を示す図であり、パラシュートや内部円筒体等を取り外したロケットモータ部とペイロード部とが結合しているときの状態を示す要部拡大部分断面図である。
【0030】
≪構造物の構成≫
図3および図4に示すように、構造物10は、機体1を形成するための骨格やこの骨格に固定された板部材等からなる。この構造物10は、ペイロード部3の下端側を形成する構造物10Aと、ロケットモータ部2の上端側を構成する構造物10Bを備えている。前記構造物10は、ロケットモータ部2とペイロード部3とに分離する分離面(結合面)11a,12aにそれぞれ対向して設置された円環部材からなる第1および第2分離面形成体11,12と、この第1および第2分離面形成体11,12に平行に配設され、ピストンシリンダ機構6を支持する支持部材13,14と、を備えている。
【0031】
図4に示すように、ペイロード部3側の構造物10Aは、ペイロード部3の下端面に設置された第1分離面形成体11の外周面に側壁15を設置して略円筒状に形成されている。
ロケットモータ部2側の構造物10Bは、ロケットモータ部2の上端面に設置された円環状の第2分離面形成体12と、この第2分離面形成体12に平行に設置された円環部材からなる支持部材13,14との外周面に、側壁16を設置して略円筒状に形成されている。
側壁16内には、中央部に、収納空間Sを有すると共に、この内部円筒体17の周囲にピストンシリンダ機構6と押圧手段8とが配設されている。ここで、収納空間Sは、内部円筒体17(図6参照)によって形成された円柱状の空間であって、その中にパラシュートPが折り畳んで収納されている。なお、側壁16は、機体分離機構Aの支持部材13,14を保持するための部材であって、ロケットモータ部2側の構造物10Bに対して固定された状態であればよく、構造物10Bと一体でも別体でもどちらであってもよい。
【0032】
≪機体分離機構の構成≫
図4に示すように、機体分離機構Aは、ロケットRの機体1のロケットモータ部2とペイロード部3とを飛翔中は結合した状態に保持すると共に、所定の打ち上げ高度に到達した時点で、そのロケットモータ部2とペイロード部3とを分離させるための装置である。この機体分離機構Aには、ペイロード部3の第1分離面形成体11とロケットモータ部2の第2分離面形成体12とを結合するためのボルト(固定具)Bと、第2分離面形成体12に設けられボルトBと螺合する分割ナット(被着具)4と、この分割ナット4に着脱自在に嵌合されたナットカバー(着脱部材)5と、このナットカバー5に連結され当該ナットカバー5を分割ナット4から離脱させるためのピストンシリンダ機構(移動手段)6と、このピストンシリンダ機構6のシリンダ61内の流体を制御する流体圧回路7と、第2分離面形成体12に弾装され第1分離面形成体11を押圧する押圧手段8と、この押圧手段8とピストンシリンダ機構6とを支持する支持部材13,14と、が備えられている。
【0033】
なお、機体分離機構Aは、ロケットモータ部2とペイロード部3とが係合しているときには、押圧手段8によって分離方向に押圧されている第1分離面形成体11と第2分離面形成体12とをボルトBを分割ナット4に螺合させることによって両者を結合状態にし、この結合状態をピストンシリンダ機構6に連動するナットカバー5を分割ナット4に嵌合させる(覆う)位置に移動させることで保持して、ロケットモータ部2とペイロード部3と結合させている。
そして、機体分離機構Aは、ロケットモータ部2とペイロード部3とを切り離すときには、流体圧回路7の電磁バルブVを作動させて、ナットカバー5をボルトBに螺合している分割ナット4から解放させる位置に移動させることで離脱させて締結状態を解消させ、押圧手段8でペイロード部3の第1分離面形成体11を押圧してロケットモータ部2とペイロード部3とを切り離すように構成されている。
【0034】
≪ボルト(固定具)の構成≫
ボルトBは、ペイロード部3の下端側に配設された第1分離面形成体11とロケットモータ部2の上端側に配設された第2分離面形成体12とを結合するための部材である。このボルトBは、第1分離面形成体11に4箇所等の複数箇所に穿設された各ボルト挿通孔11bの上側から第2分離面形成体12に穿設された各ボルト挿通孔12bを挿通して、各分割ナット4に螺合される。このボルトBは、第1分離面形成体11の上側から第1および第2分離面形成体11,12に穿設されたボルト挿通孔11b,12bに、ねじ部を下側にして挿設される。
なお、ボルトBは、「固定具」に相当する。固定具は、雄ねじ部を有するボルトBに限定されるものではなく、被着具に被着・離脱可能なものであればよい。例えば、固定具は、被着具に形成した凹部に係合する凸部等の係合手段を有するピン等であってもよい。
【0035】
≪分割ナット(被着具)の構成≫
各分割ナット4は、ボルトBを固定するためにその周囲に分割した分割片4aを結合させた状態で被着させる部材である。この分割ナット4は、前記ボルトBの雄ねじ部に螺合することによって、ペイロード部3の第1分離面形成体11とロケットモータ部2の第2分離面形成体12とを結合するためのナットからなり、例えば、軸方向に3つに分割された分割片4aから構成されている。この分割ナット4は、平面視して円弧形状(略C字形状)の3つの分割片4aを1つに合致したときに、ボルトBに螺合する円筒状のナットを形成するように構成されている。分割ナット4は、ロケットモータ部2とペイロード部3とが結合しているときに、図4に示すように3つの分割片4aが1つに合致された結合状態で各ナットカバー5内に収納されてナットとしての機能を果し、各ボルトBとの螺合状態が保持される。
【0036】
図5は、ロケットの機体分離機構を示す図であり、パラシュートや内部円筒体等を取り外したロケットモータ部とペイロード部とが分離したときの状態を示す要部拡大部分断面図である。
そして、分割ナット4は、ロケットモータ部2とペイロード部3とが分離しているときに、図5に示すようにナットカバー5が分割ナット4から離脱して、3つの分割片4aがバラバラになった分離状態になり、ボルトBとの螺合状態が解消されてナットとしての機能を果さなくなるようになっている。
なお、分割ナット4は、「被着具」に相当する。被着具は、雌ねじ部を有する分割ナット4に限定されるものではなく、固定具の周囲に分割した分割片4aを結合させた状態で被着・離脱可能なものであればよい。例えば、被着具は、固定具に形成した凸部に係合する凹部等の係合手段を有し、分割可能な片であってもよい。
【0037】
≪ナットカバー(着脱部材)の構成≫
各ナットカバー5は、分割ナット4を覆うことで分割片4aを結合させ、かつ、この分割ナット4の覆を解放させることで分割片4aの結合を解除する部材である。このナットカバー5は、3つの分割片4aが合致した分割ナット4に着脱自在に嵌合されて、分割ナット4の合致した状態を保持して、分割ナット4をナットとしての機能を果させるための底付き円筒形状の部材である。このナットカバー5は、ピストン62と一体のピストンロッド62aの上端部に一体に固定されて、ピストン62と共に流体圧回路7の空気圧(流体圧)によって上昇し、復帰ばね64によって下降するように設置されている。
なお、ナットカバー5は、「着脱部材」に相当する。着脱部材は、分割ナット4に着脱自在な底付き円筒形状の部材に限定されるものではなく、被着具に着脱自在で被着具と固定具の被着状態を保持することが可能なものであればよい。例えば、着脱部材は、移動して被着具の外周部に係合・離脱する係合手段等であってもよい。
【0038】
≪ピストンシリンダ機構(移動手段)≫
ピストンシリンダ機構6は、ナットカバー5を、分割ナット4を覆う位置および解放させる位置に移動させるためのものである。すなわち、このピストンシリンダ機構6は、ピストン62と一体のナットカバー5を、分割ナット4を覆う位置および解放させる位置まで上昇・下降させて、ボルトBに螺合した分割ナット4を保持したり、ナットカバー5を分割ナット4から離脱させて分割ナット4の分割片4aを3つに分離させたりするための装置である。このピストンシリンダ機構6は、上側の支持部材13に保持されたシリンダ61と、上端がナットカバー5に連結され、下端がシリンダ61に進退自在に内設されたピストン62と、シリンダ61内の圧縮空気(流体圧)を制御してピストン62を移動させるための流体圧回路7と、ピストン62を付勢して下降させるための復帰ばね64と、を主に備えて構成されている。
なお、ピストンシリンダ機構6は、「移動手段」に相当する。移動手段は、ピストンシリンダ機構6に限定されるものではなく、着脱部材を被着具に対して進退して着脱可能なものであればよい。例えば、移動手段は、電磁石の磁力によって着脱部材を吸引・反発させるようにしたソレノイド等であってもよいが、ピストンシリンダ機構6を採用すると操作性がよく、また、省電力化でき、かつ、小型化することができる。なお、前記復帰ばね64は、圧縮空気を作用させて、ピストン62を上方向に押圧させたり、ピストン62を下方向に吸引するように作用させたりすれば、省略することもできる。
【0039】
≪流体圧回路の構成≫
流体圧回路7は、ピストンシリンダ機構6のシリンダ61内に充填された、例えば、圧縮空気からなる流体を制御してピストン62を上昇および下降させるための回路である。すなわち、流体圧回路7は、各ピストン62と一体に移動するナットカバー5を上下動させるためのものである。この流体圧回路7は、前記シリンダ61と、ピストン62(ピストンシリンダ機構6)を作動させる電磁バルブVと、各シリンダ61と電磁バルブVとを繋ぐ配管63とを備えて構成されている。
なお、流体圧回路7は、流体として空気以外のオイル等を使用した油圧回路等であってもよい。
【0040】
図6は、図4のX−X断面図である。
図4にシリンダ61は、ピストン62および復帰ばね64が進退自在に内設された金属製の略円筒体であり、上側の支持部材13の下面の4箇所にそれぞれ等間隔に固定されている(図6参照)。
ピストン62は、その支持部材13に上下動自在に挿通されて支持されたピストンロッド62aによって支持部材13の上方に配置された各ナットカバー5を各分割ナット4に着脱するために、流体圧回路7の圧縮空気に押圧されて上昇し、この圧縮空気を抜いて復帰ばね64のばね力で下降するように構成されている。
復帰ばね64は、圧縮コイルばねからなり、ピストンロッド62aを遊嵌して、下端がピストン62の上面を押圧し、上端がシリンダ61の内側上面を押圧するようにシリンダ61に内設されている。
【0041】
電磁バルブVは、図示しない制御回路に電気的に接続され、この制御回路からロケットモータ部2とペイロード部3とを切り離す分離信号が入力されたときに、弁体(図示せず)を開放して各シリンダ61内の圧縮空気(流体)を抜き、各ナットカバー5が各分割ナット4から同時に抜け出るようにそれぞれのピストン62を移動させるためのバルブである。この電磁バルブVは、例えば、図4に示すように、下側の支持部材14の下側に配置されている。
【0042】
≪支持部材の構成≫
図4に示すように、前記支持部材13,14は、例えば、機体分離機構Aの押圧手段8とピストンシリンダ機構6と、内部円筒体17(図6参照)とを支持するために円環状の第1および第2円環板に形成され、円筒形状の側壁16(ロケットモータ部2)に水平に内設されている。この支持部材13,14には、分割ナット4がボルトBから分離したときに、ペイロード部3の第1分離面形成体11を弾発的に瞬時に押圧して分離させる押圧手段8が備えられている。
支持部材13,14は、所定間隔離してロケットモータ部2の側壁(外壁)16の内側に固定して設け、内側に、内部円筒体17(図6参照)が固定されている。その内部円筒体17には、ロープ(図示せず)によってロケットモータ部2とペイロード部3とに連結したパラシュートPを収納する収納空間Sを備えている。
なお、内部円筒体17は、パラシュートPを設置するために、必要に応じて適宜に設置すればよく、なくてもよい。
【0043】
上側の支持部材13には、4本のピストンロッド62aと、押圧手段8の4本のロッド81と、がそれぞれ上下動自在に等間隔に挿通されて支持される。また、この支持部材13の下面には、4つのシリンダ61が垂直に載設されている。上側の支持部材13は、第2分離面形成体12からナットカバー5が上昇・下降するストローク分の長さ以上の距離(所定間隔)を介して配設されている。
なお、支持部材13は、「第1円環部材」に相当する。
【0044】
下側の支持部材14には、挿通して固定された4本の配管63と、貫通孔14aに挿通し仮止め用のナットN2が一時的に螺合されるねじ部を有する前記4本のロッド81と、がそれぞれ等間隔に配設されている。また、この支持部材14の上面には、ガイド84が垂直に固定されている。下側の支持部材14は、上側の支持部材13から支持部材13,14間に押圧手段8を介在することが可能な距離以上の間隔を介して配設されている。
なお、支持部材14は、「第2円環部材」に相当する。
【0045】
≪押圧手段の構成≫
図4に示すように、押圧手段8は、ピストンシリンダ機構6によりナットカバー5を解放させる位置に移動させることに伴って第1分離面形成体11を第2分離面形成体12の上面側(他方側)から上方向へ押圧して両者を突き離す装置である。押圧手段8は、例えば、ロケットモータ部2の第2分離面形成体12の下側の4箇所に弾装されて、上下の支持部材13,14で支持し、上端部(当接部81a)がペイロード部3の第1分離面形成体11の分離面11aを押圧するように設置されている。この押圧手段8は、支持部材13,14から第1および第2分離面形成体11,12に向けて設けたガイド84と、このガイド84内に設けた圧縮ばね83と、この圧縮ばね83で付勢されて第1分離面形成体11を押圧するロッド81とを備えている。この押圧手段8は、ピストンシリンダ機構6によりナットカバー5が分割ナット4から離脱したときに、圧縮ばね83のばね力によって付勢されたロッド81で第1分離面形成体11を押圧することによって、ボルトBから分割ナット4を脱落させ、機体1をペイロード部3とロケットモータ部2とに分離させるように構成されている。
【0046】
ロッド81は、第1分離面形成体11を押圧するための金属製の丸棒状部材であり、外周部にナットN1,N2が螺合するねじ部が形成されている。このロッド81は、その一端に支持部材14に着脱自在に係合するように形成したナットN2(仮止め部)と、その他端に第2分離面形成体12に形成した貫通孔12cを介して第1分離面形成体11に当接する当接部81aと、その中央に圧縮ばね83の一端が係合して押圧されるナットN1(付勢部)とを有する。このロッド81は、第2分離面形成体12および支持部材13,14に穿設された貫通孔12c,13a,14aにそれぞれ進退自在に遊挿され、ナットカバー5が分割ナット4から分離したときに、上端の当接部81aがペイロード部3の第1分離面形成体11の分離面11aを押圧するように設置されている。
【0047】
図4に示すように、組付け時のロッド81には、支持部材13,14間において、略中央部に2個のナットN1が螺合され、下端側がばね受け82および圧縮ばね83を介在して支持部材14の貫通孔14aを貫通して仮止め用のナットN2をねじ部に螺合することによって、圧縮ばね83が圧縮した状態に配置されている。
【0048】
そして、ナットN2は、組み付け終了時にロッド81から外されて、圧縮ばね83によって付勢されたロッド81がペイロード部3の第1分離面形成体11を弾発できるように組み付けられる。
なお、ナットN2は、「仮止め部」に相当する。ナットN2は、ロッド81に設けた圧縮ばね83を圧縮状態に維持して支持部材14に係止できるものであればよく、ロッド81にねじ部に螺合するナットN2に限定されるものではない。例えば、ナットN2は、支持部材14に係止し、ロッド81に着脱自在なピン等の係止手段であってもよい。
【0049】
圧縮ばね83、ばね受け82およびナットN1は、下端部が支持部材14の上面に垂直に固定されたガイド84に内挿された状態に組付けられている。
ばね受け82は、ロッド81に遊嵌される孔を有する平座金形状の金属製リング部材からなり、圧縮ばね83のばね力に付勢されてナットN1に押し付けられた状態に組付けられる。
ナットN1は、圧縮ばね83のばね力をロッド81に伝達させて付勢させるための部材である。このナットN1は、「付勢部」に相当する。付勢部は、圧縮ばね83のばね力をロッド81に伝達して付勢する部材であればよく、ナットN1に限定されるもではない。例えば、ナットN1は、ロッド81に固定したばね受け部材であってもよい。
圧縮ばね83は、ロッド81を第1分離面形成体11側に付勢するためのものであり、ガイド84内に遊挿されると共にロッド81を遊嵌した状態に配置され、下端が支持部材14に圧接し、上端がばね受け82に圧接して配設されている。この圧縮ばね83は、比較的弾発力の強い円筒形圧縮コイルばねからなる。
【0050】
ガイド84は、圧縮ばね83およびロッド81がペイロード部3の方向に向かって真っ直ぐに移動するように案内するための円筒形の部材である。すなわち、このガイド84は、図5に示すように、ナットカバー5が分割ナット4から離脱して、分割ナット4がナットの機能を果さなくなったときに、圧縮ばね83がばね受け82を押圧することによって、上方向に移動する圧縮ばね83、ばね受け82、およびナットN1を支持することによって、第2分離面形成体12の貫通孔12cから弾出したロッド81を支持部材13の貫通孔13aとで真上方向に移動する案内するように設けられている。
【0051】
≪機体分離機構の組付け手順≫
次に、図4および図5を主に各図を参照しながら本発明に係るロケットRの機体分離機構Aの組付け手順を説明する。
まず、図4に示すように、ロッド81にナットN1を螺合し、ばね受け82を介して圧縮ばね83を挿通した状態で、ガイド84に挿入する。このロッド81の当接部81a側を、支持部材13の貫通孔13aを挿通し第2分離面形成体12の貫通孔12c内に挿入する。そして、ロッド81の下端を、支持部材14の貫通孔14aに挿通して、仮止め用のナットN2をその下端のねじ部に螺合させて、圧縮ばね83を圧縮状態にする。このようにして、支持部材13,14に4つの押圧手段8を設置する。
【0052】
次に、ピストン62および復帰ばね64を内設したシリンダ61を支持部材13の下に設け、この支持部材13の上側に突出したピストンロッド62aとナットカバー5とを連結する。シリンダ61には、電磁バルブVに接続された配管63を接続する。そして、収納空間Sに折り畳んだ状態のパラシュートPを収納する。
【0053】
続いて、分割ナット4の3つの分割片4aを円筒状に合致させた状態で、流体圧回路7をONし、電磁バルブVの弁体を開放させて、コンプレッサ(図示せず)から高圧の圧縮空気をシリンダ61内に送り込む。
シリンダ61内に流れ込んだ圧縮空気が、ピストン62を押圧して復帰ばね64を圧縮させながらピストンロッド62aおよびナットカバー5を上昇させ、ナットカバー5を3つの分割片4aが合致した分割ナット4に嵌合させる。その結果、分割ナット4とボルトBとの螺合状態が保持され、分割ナット4は、第2分離面形成体12の下面に当接した状態に配置される。この状態で、ボルトBをペイロード部3側から第1分離面形成体11のボルト挿通孔11b、およびロケットモータ部2の第2分離面形成体12のボルト挿通孔12bに挿通して、分割ナット4に螺合させる。このようにして、支持部材13,14に4つのピストンシリンダ機構6を設置する。
このようにして、機体分離機構Aは、図3および図4に示すように組立てられる。
【0054】
次に、図4に示すように、仮止め用のナットN2をロッド81のねじ部から外す。支持部材14およびばね受け82を介してナットN1とナットN2との締結力で受けていた圧縮ばね83の弾発力が解放されて、この圧縮ばね83によって付勢されたロッド81の当接部81aがペイロード部3の分離面11aに圧接して押圧した状態になる。このときの圧縮ばね83のばね力は、第1分離面形成体11と第2分離面形成体12とを挿通したボルトBに、支持部材13,14に固定されたピストンシリンダ機構6のナットカバー5が嵌合している分割ナット4を螺合させることによって受け止められている。
【0055】
機体分離機構Aは、このようにして組立てられて機体1に設置される。機体1は、ピストンシリンダ機構6によって上昇しているナットカバー5が分割ナット4とボルトBとの螺合状態を保持していることによって、ロケットモータ部2とペイロード部3との結合状態もしっかりと保持されている。
なお、このような組立作業は、機体分離機構A内に機体分離用の火薬が設置されないため、安全に機体分離機構Aの組立てることができる。
【0056】
≪機体分離機構の作動≫
ロケットRは、図3および図4に示すように、ロケットモータ部2とペイロード部3とが結合した状態で空に向けて打ち上げられ、所定の高度まで飛翔したときに、流体圧回路7の制御装置(図示せず)が電磁バルブVに開放信号を送り弁体が開放される。そうすると、シリンダ61内の圧縮空気が電磁バルブV側に流れて抜き取られ、図5に示すように、ピストン62、ピストンロッド62a、およびナットカバー5が下降して、ナットカバー5が分割ナット4から離脱する。分割ナット4は、ナットカバー5が離れてフリーの状態になることにより、ボルトBに対して螺合するナットの機能を果さなくなるため、分割片4aが3つに分解してボルトBから脱落可能になる。
【0057】
ナットカバー5が分割ナット4から分離すると、圧縮ばね83に付勢されたロッド81の当接部81aが、ペイロード部3の第1分離面形成体11の分離面11aを押圧して、第1分離面形成体11に設けたボルトBが、第2分離面形成体12および分割ナット4から分離されて、ロケットモータ部2からペイロード部3が瞬時に切り離される。
ロケットモータ部2からペイロード部3が離れることによって、両者に連結していたパラシュートPのロープがペイロード部3に引っ張られて、収納空間Sに収納されていたパラシュートPが外部に放出されて展開する。パラシュートPは、ロケットモータ部2の上端部に収納空間Sが配設されていることにより、スムーズに展開してロケットRを減速させてゆっくりと地上に落下させる。
落下したペイロード部3は、回収して再利用されると共に、内設した機器のデータを収集して分析される。それらの機器は、ロケットモータ部2とペイロード部3とが分離したときに、大きな衝撃力を受けることがないため、損傷することがない。
【0058】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、その技術思想の範囲内で種々の改造および変更が可能であり、本発明はこれら改造および変更された発明にも及ぶことは勿論である。
【0059】
例えば、前記した実施形態では、ロケットモータ部2に機体分離機構Aを設けた場合を説明したが、機体分離機構Aは、これに限定されず、ペイロード部3に設置してもよい。このようにしても、ロケットモータ部2とペイロード部3とを結合・分離させることができる。
また、機体分離機構Aは、ピストンシリンダ機構6の大きさや強度、または圧縮ばね83の強度を調整することにより、さらに、機体1が大型で、3つ以上の分離機体に分離する多段式ロケットの分離機構としても使用することが可能であるし、また、分離機体に収納していた衛星を放出する衛星放出用機体分離機構としても使用できる。
【0060】
前記した実施形態では、押圧手段8として圧縮ばね83のばね力による場合を説明したが、押圧手段8は、これに限定されず、流体圧回路7の流体圧(圧縮空気)を利用してロッド81を移動させて、第1分離面形成体11を押圧するようにしてもよい。この場合は、流体圧回路7に、電磁バルブVの弁体をロッド81が押圧される側に切り替える流路を形成する。このようにしても、ロケットモータ部2とペイロード部3とを結合・分離させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明に係るロケットの機体分離機構を示す正面図である。
【図2】ロケットの機体分離機構を示す要部拡大図である。
【図3】本発明に係るロケットの機体分離機構を示す図であり、パラシュートや内部円筒体等を取り外したロケットモータ部とペイロード部とが結合しているときの状態を示す要部拡大斜視図である。
【図4】本発明に係るロケットの機体分離機構を示す図であり、パラシュートや内部円筒体等を取り外したロケットモータ部とペイロード部とが結合しているときの状態を示す要部拡大部分断面図である。
【図5】本発明に係るロケットの機体分離機構を示す図であり、パラシュートや内部円筒体等を取り外したロケットモータ部とペイロード部とが分離したときの状態を示す要部拡大部分断面図である。
【図6】図4のX−X断面図である。
【符号の説明】
【0062】
1 機体
2 ロケットモータ部(分離機体)
3 ペイロード部(分離機体)
4 分割ナット(被着具)
4a 分割片
5 ナットカバー(着脱部材)
6 ピストンシリンダ機構(移動手段)
7 流体圧回路
8 押圧手段
10,10A,10B 構造物
11 第1分離面形成体
11a,12a 分離面
12 第2分離面形成体
13 支持部材(第1円環部材)
14 支持部材(第2円環部材)
15,16 側壁
61 シリンダ
62 ピストン
81 ロッド
81a 当接部
82 ばね受け
83 圧縮ばね
84 ガイド
A 機体分離機構
B ボルト(固定具)
N1 ナット(付勢部)
N2 ナット(仮止め部)
P パラシュート
R ロケット
S 収納空間
V 電磁バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体が複数に分離可能なロケットの機体分離機構において、
少なくとも前記機体が分離される分離部分の一方の分離機体側に配設された第1分離面形成体と他方の分離機体側に配設された第2分離面形成体とを結合するための固定具と、
この固定具を固定するためにその周囲に分割した分割片を結合させた状態で被着させる被着具と、
この被着具を覆うことで前記分割片を結合させ、かつ、当該被着具の覆を解放させることで前記分割片の結合を解除する着脱部材と、
この着脱部材を前記被着具を覆う位置および解放させる位置に移動させる移動手段と、
この移動手段により着脱部材を解放させる位置に移動させることに伴って前記第1分離面形成体を前記第2分離面形成体側から押圧して両者を突き離す押圧手段と、
この押圧手段と前記移動手段とを支持すると共に、前記一方の分離機体または前記他方の分離機体のどちらか一方に内設された支持部材と、を備えたことを特徴とするロケットの機体分離機構。
【請求項2】
前記移動手段は、前記支持部材に保持された前記シリンダと、
一端が前記着脱部材に連結されて、他端が前記シリンダに進退自在に内設されたピストンと、
前記シリンダ内の流体圧を制御して前記ピストンを移動させるための流体圧回路と、を備えたピストンシリンダ機構からなることを特徴とする請求項1に記載のロケットの機体分離機構。
【請求項3】
前記押圧手段は、前記支持部材から前記第1および第2分離面形成体に向けて設けたガイドと、
このガイド内に設けた圧縮ばねと、
この圧縮ばねにより押圧され前記第1および第2分離面形成体の一方を押圧するロッドとを備え、
前記ロッドは、その一端に前記支持部材に着脱自在に係合するように形成した仮止め部と、その他端に前記第1および第2分離面形成体の一方に形成した貫通孔を介して当該他方に当接する当接部と、その中央に前記圧縮ばねの一端が係合して押圧される付勢部とを有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のロケットの機体分離機構。
【請求項4】
前記流体圧回路は、前記シリンダ内の流体を制御して前記ピストンシリンダ機構を作動させる電磁バルブを備えていることを特徴とする請求項2または請求項3に記載のロケットの機体分離機構。
【請求項5】
前記支持部材は、第1および第2円環部材で形成され、前記第1円環部材と前記第2円環部材とを所定間隔離して前記一方の分離機体または前記他方の分離機体のどちらか一方における外壁の内側に固定して設け、前記第1および第2円環部材の内側にパラシュートを折り畳んで収納する収納空間を備えることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のロケットの機体分離機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−83801(P2007−83801A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−273203(P2005−273203)
【出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)