説明

ロケットエンジン

【課題】複数の燃料噴射口27の中で噴射圧のバラツキを低減したり、噴射器全体としての噴射圧を高めたりして、ロケットエンジン1のエンジン性能を十分を向上させること。
【解決手段】燃料マニホールド37における燃料導入配管41の近傍(燃料導入配管41側)に燃料の流れを2方向に分流する分流板43が配設され、燃料マニホールド37内における分流板43に対向した領域に燃料マニホールド37内の流路を仕切る仕切板45が配設されていること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推進剤(液化酸素等の酸化剤及び液化天然ガス等の燃料を含む)を燃焼させることにより、高温高圧の燃焼ガスを噴出して推進力を得るロケットエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ロケットエンジンについては種々の開発がなされており、一般的なロケットエンジンの構成等について説明すると、次のようになる。
【0003】
即ち、一般的なロケットエンジンは、筒状の燃焼器を具備しており、この燃焼器は、内側に、推進剤を燃焼させる燃焼室を有している。また、燃焼器には、噴射器が設けられており、この噴射器は、燃焼室に向かって推進剤を噴射する複数の噴射口を有した噴射器本体を備えている。そして、噴射器本体には、複数の噴射口に推進剤を供給するための環状のマニホールドが設けられており、このマニホールドには、マニホールド内に推進剤を導入する導入配管が接続されている。更に、噴射器本体の中心部(中央部)には、燃焼室に噴射された推進剤を点火する点火器が設けられている。
【0004】
従って、導入配管から推進剤をマニホールド内に導入すると、推進剤はマニホールド内に沿って流れつつ、複数の噴射口に供給されて、燃焼室に向かって噴射される。そして、点火器によって推進剤を点火して、燃焼室において推進剤を燃焼させる。これにより、燃焼器から高温高圧の燃焼ガスを噴出して、推進力を得ることができる。
【0005】
なお、本発明に関連する先行技術として特許文献1、特許文献2、及び特許文献3に示すものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−64097号公報
【特許文献2】特開平6−330816号公報
【特許文献3】特許第2685114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、導入配管から導入される推進剤が流量のバラツキ等の外乱を含んでいる場合には、仮に、マニホールド内における導入配管の近傍に推進剤の流れを2方向に分流(分配)する分流板を配設しても、マニホールド内において不適切な旋回流が発生してしまう。そのため、マニホールド内におおける圧力損失(エネルギー損失)が大きくなって、複数の噴射口の中で噴射圧にバラツキが生じたり、噴射器全体としての噴射圧が低下したりして、ロケットエンジンのエンジン性能の低下を引き起こすという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、前述の問題を解決することができる、新規な構成のロケットエンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の特徴は、推進剤を燃焼させることにより、高温高圧の燃焼ガスを噴出して、推進力を得るロケットエンジンにおいて、内側に推進剤を燃焼させる燃焼室を有した筒状の燃焼器と、前記燃焼器に設けられ、前記燃焼室に向かって推進剤を噴射する複数の噴射口を有した噴射器本体、複数の前記噴射口に推進剤を供給するための環状のマニホールド、及び前記マニホールドに接続されかつ推進剤を前記マニホールド内に導入する導入配管を備えた噴射器と、を具備し、前記マニホールド内における前記導入配管の開口側に離隔した領域に、前記マニホールド内の流路を仕切る仕切部材が配設されていることを要旨とする。
【0010】
なお、本願の明細書及び特許請求の範囲において、「設けられ」とは、直接的に設けられたことの他に、ブラケット等の介在部材を介して間接的に設けられたこと、及び一体に形成されたことを含む意である。また、「配設され」とは、直接的に配設されていることの他に、ブラケット等の介在部材を介して間接的に配設されていることを含む意である。
【0011】
本発明の特徴によると、前記導入配管から推進剤を前記マニホールド内に導入すると、推進剤は前記マニホールド内に沿って流れつつ、複数の前記噴射口に供給されて、前記燃焼室に向かって噴射される。そして、前記燃焼室に噴射された推進剤を点火して、前記燃焼室において燃焼させる。これにより、前記燃焼器から高温高圧の燃焼ガスを噴出して、推進力を得ることができる。
【0012】
ここで、前記マニホールド内における前記導入配管の開口側に離隔した領域に前記仕切部材が配設されているため、前記導入配管から導入される推進剤が外乱を含んでいる場合であっても、前記マニホールド内における不適切な旋回流の発生を回避することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、前記導入配管から導入される推進剤が外乱を含んでいる場合であっても、前記マニホールド内における不適切な旋回流の発生を回避できるため、前記マニホールド内における圧力分布を均一な状態に近づけて、前記マニホールド内の圧力損失を低減することができる。よって、前記ロケットエンジンの外乱に対するロバスト性を高めつつ、複数の前記噴射口の中で噴射圧のバラツキを低減したり、前記噴射器全体としての噴射圧を高めたりして、前記ロケットエンジンのエンジン性能を十分を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係るロケットエンジンの側断面図である。
【図2】図1におけるII-II線に沿った断面図である。
【図3】実施例に係る噴射器内における燃料の速度ベクトルを示す図である。
【図4】比較例に係る噴射器内における燃料の速度ベクトルを示す図である。
【図5】実施例に係る噴射器内における燃料の圧力分布を示すコンタ図である。
【図6】比較例に係る噴射器内における燃料の圧力分布を示すコンタ図である。
【図7】実施例及び比較例に係る噴射器内における4つのポイント(Pa,Pb,Pc,Pd)の燃料の圧力を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態について図1及び図2を参照して説明する。なお、図面中、「F」は、前方向を指し、「R」は、後方向を指してある。
【0016】
図1及び図2に示すように、本発明の実施形態に係るロケットエンジン1は、ロケット(図示省略)に装備され、液化酸素等の酸化剤(推進剤の一例)及び液化天然ガス等の燃料(推進剤の一例)を燃焼させることにより、高温高圧の燃焼ガスを噴出して推進力を得るものである。そして、本発明の実施形態に係るロケットエンジン1の具体的な構成等は、以下のようになる。
【0017】
ロケットエンジン1は、筒状の燃焼器3を具備しており、この燃焼器3は、内側に、酸化剤と燃料を燃焼させる燃焼室5を有している。なお、燃焼器3は、二重壁構造であっても、一重壁構造であっても構わない。
【0018】
燃焼器3の前側(一端側)には、噴射器7が設けられており、この噴射器7は、噴射器本体9を備えており、この噴射器本体9は、燃焼器3の前側に設けられたリアフレーム11と、このリアフレーム11の前側に設けられたフロントフレーム13と、リアフレーム11と燃焼器3の間に挟持された状態で設けられたフェイスプレート15とからなっている。また、フロントフレーム13とリアフレーム11の間には、酸化剤を収容可能(取入可能)な環状の酸化剤チャンバー17(推進剤チャンバーの一例)が区画形成されており、リアフレーム11とフェイスプレート15の間には、燃料を収容可能な環状の燃料チャンバー19(推進剤チャンバーの一例)が区画形成されている。換言すれば、噴射器本体9の内部には、酸化剤チャンバー17及び燃料チャンバー19が前後に形成されている。
【0019】
噴射器本体9には、前後方向へ延びた複数の噴射ロッド21が設けられており、複数の噴射ロッド21は、噴射器本体9の軸心方向から見たときに等間隔に配置してある(図2参照)。また、各噴射ロッド21の先端面(後端面)には、燃焼室5に向かって酸化剤を噴出する酸化剤噴射口23が形成されており、各酸化剤噴射口23は、連絡穴25を介して酸化剤チャンバー17に連通してある。更に、各噴射ロッド21の先端面には、燃焼室5に向かって燃料を噴出する環状の燃料噴射口27が酸化剤噴射口23を囲むように形成されており、各燃料噴射口27は、環状の連絡穴29を介して燃料チャンバー19に連通してある。換言すれば、噴射器本体9は、複数の噴射ロッド21を介して前側(燃焼室5側)に複数の酸化剤噴射口23及び複数の燃料噴射口27を有している。
【0020】
フロントフレーム13には、複数の酸化剤噴射口23に酸化剤を供給するための円環状の酸化剤マニホールド31が酸化剤チャンバー17を囲むように設けられており、フロントフレーム13における酸化剤チャンバー17の壁面には、酸化剤マニホールド31内と酸化剤チャンバー17を連通(連絡)する複数の連絡穴33(連絡通路の一例)が周方向に間隔を置いて形成されている。また、酸化剤マニホールド31の適宜位置には、酸化剤を酸化剤マニホールド31内に導入する酸化剤導入配管35の一端部が接続されており、この酸化剤導入配管35の他端部は、酸化剤タンク等の酸化剤供給源(図示省略)に接続されている。
【0021】
リアフレーム11には、複数の燃料噴射口27に燃料を供給するための円環状の燃料マニホールド37が燃料チャンバー19を囲むように設けられており、リアフレーム11における燃料チャンバー19の壁面には、燃料マニホールド37内と燃料チャンバー19を連通(連絡)する複数の連絡穴39(連絡通路の一例)が周方向に間隔を置いて形成されている。また、燃料マニホールド37の適宜位置には、燃料を燃料マニホールド37内に導入する燃料導入配管41の一端部が接続されており、この燃料導入配管41の他端部は、燃料タンク等の燃料供給源(図示省略)に接続されている。ここで、燃料導入配管41から遠ざかるに従って燃料マニホールド37内の流路が漸次小さくなるように、燃料マニホールド37の軸心(中心)は、噴射器本体9の軸心に対して偏心してある。これは、燃料導入配管41から遠ざかるに従って燃料の流量が減少しても、燃料の流速及び静圧の低下を抑えるためである。
【0022】
燃料マニホールド37における燃料導入配管41の開口側の近傍(燃料導入配管41側)には、燃料の流れを2方向に分流する分流板43(分流部材の一例)が配設されている。また、燃料マニホールド37内における燃料導入配管41の開口側に対向した領域(換言すれば、分流板43に対向した領域)には、燃料マニホールド37内の流路を仕切る仕切板45(仕切部材の一例)が配設されている。なお、仕切板45の配設箇所は、燃料導入配管41の開口側に対向した領域でなくても、燃料導入配管41に離隔した領域であれば構わなく、仕切板45は、燃料マニホールド37内の燃料の流れをせき止めるようであれば、燃料マニホールド37内の流路を完全に仕切るものでなくても構わない。
【0023】
噴射器本体9の中心部には、前後方向へ延びた点火器47が設けられており、この点火器47は、燃焼室5に向かって噴射された酸化剤及び燃料を点火するものである。
【0024】
続いて、本発明の実施形態の作用及び効果について説明する。
【0025】
酸化剤導入配管35から酸化剤を酸化剤マニホールド31内に導入すると、酸化剤は酸化剤マニホールド31内に沿って流れつつ、複数の酸化剤噴射口23に供給されて、燃焼室5に向かって噴射される。また、燃料導入配管41から燃料を燃料マニホールド37内に導入すると、分流板43によって燃料の流れが2方向に分流され、燃料は燃料マニホールド37内に沿って流れつつ、複数の燃料噴射口27に供給されて、燃焼室5に向かって噴射される。そして、点火器47によって酸化剤及び燃料を点火して、燃焼室5において燃焼させる。これにより、燃焼器3から高温高圧の燃焼ガスを噴出して、推進力を得ることができる。
【0026】
ここで、燃料マニホールド37内における分流板43に対向した領域に仕切板45が配設されているため、燃料導入配管41から導入される燃料が外乱を含んでいる場合であっても、分流板43の分流性(分配性)を十分に発揮させつつ、燃料マニホールド37内における不適切な旋回流の発生を回避することができる(後述の[実施例]参照)。
【0027】
従って、本発明の実施形態によれば、燃料導入配管41から導入される燃料が外乱を含んでいる場合であっても、燃料マニホールド37内における不適切な旋回流の発生を回避できるため、燃料マニホールド37内における圧力分布を均一な状態に近づけて、燃料マニホールド37内の圧力損失(エネルギー損失)を低減することができる(後述の[実施例]参照)。よって、ロケットエンジン1の外乱に対するロバスト性を高めつつ、複数の燃料噴射口27の中で噴射圧のバラツキを低減したり、噴射器全体としての噴射圧を高めたりして、ロケットエンジン1のエンジン性能を十分を向上させることができる。
【0028】
本発明は、前述の発明の実施形態の説明に限るものでなく、例えば、次のように、種々の態様で実施可能である。即ち、噴射器7における複数の構成要素から分流板43を省略しても構わない。また、燃料マニホールド37内に分流板43及び仕切板45が配設される他に、酸化剤マニホールド31内に分流板及び仕切板が配設されるようにしたり、燃焼器3の後部に別のマニホールドが設けられた場合に、この別のマニホールド内に分流板及び仕切板が配設されるようにしたりしても構わない。なお、本発明に包含される権利範囲は、これらの実施形態に限定されないものである。
【実施例】
【0029】
本発明の実施例について図3から図7を参照して説明する。
【0030】
まず、燃料マニホールド内に分流板及び仕切板が配設された噴射器を実施例に係る噴射器とし、燃料マニホールド内に分流板のみをが配設された噴射器を比較例に係る噴射器とする。そして、実施例及び比較例に係る噴射器内における燃料の速度ベクトルについてCFD(Computational Fluid Dynamics)解析すると、図3及び図4に示すように、燃料導入配管から導入される燃料が外乱を含んでいる場合に、比較例に係る噴射器の燃料マニホールド内においては不適切な旋回流が発生し、供給される燃料の流れが減少するのに対して、実施例に係る噴射器の燃料マニホールド内において不適切な旋回流の発生を回避できることが知見として判明した。
【0031】
また、実施例及び比較例に係る噴射器内における燃料の圧力分布についてCFD解析すると、図5及び図6に示すように、燃料導入配管から導入される燃料が外乱を含んでいる場合に、実施例に係る噴射器の燃料マニホールド内の圧力分布は、比較例に係る噴射器の燃料マニホールド内における圧力分布に比べて、均一な状態に近づくことが知見として判明した。なお、図5及び図6において、噴射器内における燃料の圧力分布は、最大値を1.0とした比率で示してある。
【0032】
更に、実施例及び比較例に係る噴射器内における4つのポイントPa,Pb,Pc,Pd(図5及び図6参照)の燃料の圧力について示すと、図7に示すように、比較例に係る噴射器の燃料マニホールド内の圧力損失に比べて、実施例に係る噴射器の燃料マニホールド内の圧力損失が十分に低減されたことが知見として判明した。なお、図7において、噴射器内における4つのポイントPa,Pb,Pc,Pdの燃料の圧力は、最大値を1.0とした比率で示してある。
【符号の説明】
【0033】
1 ロケットエンジン
3 燃焼器
5 燃焼室
7 噴射器
9 噴射器本体
11 リアフレーム
13 フロントフレーム
15 フェイスプレート
17 酸化剤チャンバー
19 燃料チャンバー
21 噴射ロッド
23 酸化剤噴射口
25 連絡穴
27 燃料噴射口
29 連絡穴
31 酸化剤マニホールド
33 連絡穴
35 酸化剤導入配管
37 燃料マニホールド
39 連絡穴
41 燃料導入配管
43 分流板
45 仕切板
47 点火器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
推進剤を燃焼させることにより、高温高圧の燃焼ガスを噴出して、推進力を得るロケットエンジンにおいて、
その内側に推進剤を燃焼させる燃焼室を有した筒状の燃焼器と、
前記燃焼器に設けられ、前記燃焼室に向かって推進剤を噴射する複数の噴射口を有した噴射器本体、複数の前記噴射口に推進剤を供給するための環状のマニホールド、及び前記マニホールドに接続されかつ推進剤を前記マニホールド内に導入する導入配管を備えた噴射器と、を具備し、
前記マニホールド内における前記導入配管の開口側に離隔した領域に、前記マニホールド内の流路を仕切る仕切部材が配設されていることを特徴とするロケットエンジン。
【請求項2】
前記マニホールド内における前記導入配管の開口側の近傍に、推進剤の流れを2方向に分流する分流部材が配設されていることを特徴とする請求項1に記載のロケットエンジン。
【請求項3】
前記導入配管に離隔した領域は、前記導入配管の開口側に対向した領域であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のロケットエンジン。
【請求項4】
前記噴射器本体の内部に推進剤を収容可能な環状の推進剤チャンバーが形成され、各噴射口が前記推進剤チャンバーに連通してあって、前記マニホールドが前記噴射器本体に前記推進剤チャンバーを囲むように設けられ、前記噴射器本体における前記推進剤チャンバーの壁面に前記マニホールド内と前記推進剤チャンバーを連通する連絡通路が周方向に沿って形成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のうちのいずれかの請求項に記載のロケットエンジン。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−17322(P2011−17322A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−163812(P2009−163812)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)