説明

ロツクアツプ機構付トルクコンバータ

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はロックアップ機構付きのトルクコンバータに関するものである。
【0002】
【従来の技術】本発明に係わるロックアップ機構付トルクコンバータの従来技術として、特開平1−266362号公報に開示されたものがある。
【0003】図2は従来技術のロツクアツプ機構付きのトルクコンバータの断面図を示すものであり、ここで、ロックアップ機構付トルクコンバータの基本構成を従来技術のトルクコンバータの図面に基づいて略述する。
【0004】図示しない駆動源の駆動軸53に連結されるフロントカバー50は駆動軸53と同一回転をして、ポンプシエル58bは内部空間を形成するようにフロントカバー50に連結されている。また、タービンランナ62はタービンブレード62aとタービンシエル62bとにより形成されるものでポンプシエル58bと一体的に回転するように固定されたポンプブレード58aに対向するように内部空間に回転自在に設けられている。タービンシエル62bは内周にてタービンハブ64を介して図示しないミツシヨン側のインプツトシヤフト59に連結される。タービンランナ62とポンプインペラ58との間にはトルクを増大させるためのステータ57が介設される。タービンシエル62aとフロントカバー50との間にはロツクアツプピストン55が配置され、インプツトシヤフト59の軸方向に摺動可能にタービンハブ64を介してインプツトシヤフト59に取り付けられている。
【0005】そして、このようなトルクコンバータはフロントカバー50とロツクアツプピストン55との間の流体がドレンされ、ロツクアツプピストン55の背面側へ流体圧が生じた時は、ロツクアツプピストン55は流体圧を受けてフロントカバー50側へ移動する。そのため、ロツクアツプピストン55の外周縁部に設けられた摩擦材61はロツクアツプピストン55の移動に伴いフロントカバー50の内周面50aに圧接される。このことより、フロントカバー50とロツクアツプピストン55とは一体的に結合され、駆動軸53からの回転トルクは流体を介すことなく直接インプツトシヤフト59に伝達される。この状態がロツクアツプ状態である。
【0006】ここで、トルクコンバータ内における流体の流れは、図示しない駆動源の回転トルクが出力された時、即ち、ポンプインペラ58が回転し流体を介してタービンランナ62が回転される時には、流体はポンプインペラ58,タービンランナ62,ステータ57の順に流れる。この流体の流れにより駆動軸53からの回転トルクは流体を介してインプツトシヤフト59に伝達されることになる。
【0007】一般には、燃費向上を図るためにロツクアツプピストンを作動させロツクアツプ状態にして、駆動軸とインプツトシヤフトとを直結にすることでトルクコンバータのロス(流体を介すことによる損失)を防止するようにしている。即ち、トルクコンバータ状態からロックアップ状態に切り換えることで燃費向上を図る。
【0008】また、ロックアップ状態になるまでのロツクアツプピストンの作動の遅れは車両等における乗り心地の悪化を招き、更には、ロツクアツプピストンの摩擦材の引きずりにおける摩擦材の焼き付きの発生につながる。
【0009】そこで、ロツクアツプ状態への切り換えの際、即ち、ロツクアツプピストンの両側にて圧力差を生じさせ、流体圧をロツクアツプピストンへ瞬時に掛けるための従来の技術は次のような構成を設けた。
【0010】54は仕切板であり、ロックアップピストン55とタービンシェル62bとの間に配置されポンプシェル58bとポンプカバー50との連結部の内周側に固定され、タービンランナ62に近接している。63はスプリングであり、ハブ64とロックアップピストン55との間にバネ受け部材65を介して周方向に複数個配置されており、ストッパ66によりバネ受け部材65を係止することでスプリング63の付勢力を制限する。
【0011】仕切板54はロツクアツプ状態に成る過程において、ロツクアツプピストン55の前面側へ流体が流入しにくくして、流体圧がロツクアツプピストン55に生じるようにするものである。また、スプリング63の付勢力によつてロツクアツプピストン55はフロントカバー50側へ付勢されているため、ロツクアツプピストン55の背面側の流体圧が減少してもその減少分を補うことができる。この結果、ロツクアツプピストン55の摩擦材61をフロントカバー50へ素早く当接させることができる。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上記従来技術のものにおいては、次のような欠点を有する。
【0013】スプリング63および仕切板54を設けることはコストアツプにつながり、またスプリング63を組付けることにより組付け性を困難とするものである。さらには、仕切板54により応答性を向上させるためには極力仕切板をタービンシエル62b側へ近づける必要があるがその場合タービンシエル62bと仕切板54との干渉の危険性がある。
【0014】そして、ロツクアツプピストン55の背面側に導入された流体は、タービンブレード62aとタービンシェル62bとを固着するためのタービンシェル62bのスリツト(細穴部)62cとタービンブレード62aのタブ62dの隙間、特に最内周側のスリット62cとタブ62dの隙間からタービンブレード62a側へと流出してしまい、ロツクアツプピストン55の背面側52の流体圧の上昇が遅れ、ロツクアツプピストン55の両側における圧力差が生じるまでの時間が長くなる。即ち、ロツクアツプピストン55の応答が遅れることとなる。
【0015】そこで、本発明はより低コストで且つ組付け性を向上させると共に、ロツクアツプピストンの応答性を向上させるロツクアツプクラッチ付流体式トルクコンバータを提供することをその技術的課題とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】前述した技術的課題を解決するために講じた本発明の技術的手段は、請求項1に記載したように、駆動源の駆動軸に連結され且つポンプシェルを連結することで内部空間を形成するフロントカバーと、ポンプシェルおよびポンプシェルに一体的回転可能に固定されてなるポンプブレードとを有するポンプインペラと、ポンプブレードの回転に伴い流体を介して回転しポンプブレードに対向するように配設されたタービンブレードおよびタービンブレードが固着されたタービンシェルとで形成されたタービンランナと、タービンランナを連結し且つインプットシャフトの端部に嵌着されたタービンハブと、フロントカバーに対して離接可能にタービンハブの外周面に嵌挿されたロックアップピストンと、ロックアップピストンに連結されロックアップピストンとタービンシェルとの間においてタービンハブに固着したロックアップクラッチと、を備えたロックアップ機構付トルクコンバータにおいて、タービンブレードのタービンシェルへの固着には、タービンブレードに設けられた複数個のタブとこれらタブをそれぞれ嵌め込むようにタービンシェルに設けられた複数個の細穴部用いられており、タービンシェルの最外周側の細穴部はスリット構造とされており、タービンブレードの最外周側のタブが細穴部を貫通してかしめられることにより固着され、タービンシェルの少なくとも最内周側の細穴部はエンボス構造とされており、タービンブレードの最内周側のタブが細穴部に嵌め込まれることでタブが細穴部を貫通することなく固着されていることを特徴とするロックアップ機構付トルクコンバータとしたことである。
【0017】
【作用】前述した技術的手段によれば、ロックアップピストンの背面側に流体を流入してロックアップピストンの両側に圧力差を生じさせると、この圧力差でロックアップピストンを軸方向に移動させてロックアップ状態なる。ここで、タービンランナの少なくとも最内周側の細穴部はエンボス構造であるので、ロックアップピストンの背面側の流体がタービンランナの最内周細穴部を通ってタービンブレード側へ流出することがなく、ロックアップピストンの背面側の圧力が素早く上昇する。これにより、ロックアップピストンは速やかに作動する。更に、タービンランナの外周側のフロントカバーとタービンシェルとの間には隙間が形成され、この隙間を介して流体がタービンランナの軸方向両側に流通するため、ロックアップピストンを押圧するための流体の圧力はタービンランナの内周側より小さくなる。したがって、タービンランナの外周側の流体はロックアップピストンの作動の応答性にあまり影響しない。そこで、タービンランナの最外周側の細穴部をスリット構造としてタブを細穴部に貫通してかしめるようにしても、ロックアップピストンの作動の応答性にはほとんど影響がなく、タービンシェルとタービンブレードとを強固に固着させることができる。
【0018】
【実施例】以下、本発明の技術的手段を具体化した実施例について、添付した図面に基づいて説明する。また、従来技術のトルクコンバータと詳細な構成は異なるものの基本構成は略同一のものであるため、一部簡略化した説明とする。。
【0019】図1は本発明のロツクアツプ機構付トルクコンバータの断面図を示す。
【0020】1はポンプブレードであり、図示しない駆動源の駆動軸14に連結され一体回転するフロントカバー6と内部空間17を形成するように連結されたポンプシェル5に固定されたものである。2はタ0ビンブレードで、ポンプブレード1の回転に伴い流動する流体を介して回転せしめられるものである。流体は矢印に示す如く、ポンプブレード1、タービンブレード2、ステータ3の順に流れる。
【0021】タービンハブ15を介して図示しないトランスミツシヨンのインプツトシヤフト16に連結されるロツクアツプピストン10には同一回転するロツクアツプクラツチ4が配設されている。
【0022】このようなトルクコンバータにおいて、ロツクアツプ状態にするにはロツクアツプピストン10とフロントカバー6とで形成される空間(ロツクアツプピストン10の前面側)17aをドレンし、且つロツクアツプクラツチ4とステータシエル7とで形成される空間(ロツクアツプクラツチ4の背面側)17bに流体を圧送しロツクアツプピストン10をフロントカバー6側へ移動させ、ロツクアツプピストン10に接着された摩擦材11をフロントカバー6の内壁に当接させ、フロントカバー6とインプツトシヤフト16の回転を直結させ、図示しない駆動源の回転トルクを直接インプツトシヤフト16に伝達させる。ロツクアツプクラツチ4はその直結時において急激なトルクの伝達を緩和するためのものである。
【0023】そこで、素早くロツクアツプピストン10に流体圧を生じさせるために次のような構成が取られた。
【0024】タービンシエル7には同心状に細穴部が複数個設けられている。タービンシェル7の最内周側(即ち、タービン出口12に一番近い所)の細穴部はエンボス構造13とされており、タービンブレード2の最内周側のタブ8がタービンシェル7を貫通することなくエンボス構造13に嵌め込まれることで、最内周側が固着されている。これによって、ロックアップピストン10の背面側の流体がタービンランナ20の最内周側の細穴部を通ってタービンブレード2側へ流出することがなく、ロックアップピストン10の背面側の圧力を素早く上昇させることができる。また、タービンシェル7の最外周側を含む残りの細穴部はスリット構造9とされており、タービンブレード2の最外周側のタブ8がスリット構造9を貫通してかしめられることにより固着されている。なお、タービンランナ20の最内周側から外周側へ向かうにつれて流体の圧力が低くなるため、タービンランナ20の最内周側以外の固着箇所からタービンランナ20への流体の流入は殆どない。
【0025】流体がタービンブレード2側へ流出しないようにするため、スリット9とタービンブレードのタブ8との隙間をなくす他の方法として、タービンランナ20をブレージングすることが挙げられるが、この方法はコストアップを招く。また、スリットの幅を狭く形成することが挙げられるが、タービンブレード2とタービンシェル7との組付け性の悪化を招く。従って、図1に示すように、最内周側のタブ8はエンボス構造13に嵌め込み、その他のタブ8はスリット9に嵌め込むこととするのが望ましい。
【0026】
【発明の効果】本発明によれば、タービンブレードの複数個のタブをそれぞれ嵌め込むタービンシェルの複数個の細穴部のうち、少なくとも最内周側の細穴部をエンボス構造としたことで、ロックアップピストンの背面側の流体がタービンシェルとタービンブレードの固着部を通ってタービンブレード側へ流出するのを抑制してロックアップピストンの背面側の圧力を素早く上昇させることができ、ロックアップ状態にするときのロックアップピストンの応答性が向上する。また、タービンシェルの細穴部のうち、ロックアップピストンの作動の応答性にあまり影響しない最外周側の細穴部をスリット構造とし、タービンブレードのタブを細穴部に貫通してかしめるようにしたことで、タービンシェルとタービンブレードとを強固に固着させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のロツクアツプ機構付トルクコンバータの断面図を示す。
【図2】 従来技術のロツクアツプ機構付トルクコンバータの断面図を示す。
【符号の説明】
1 ポンプブレード
2 タービンブレード
3 ステータ
4 ロツクアツプクラツチ
5 ポンプシエル
6 フロントカバー
7 タービンシエル
10 ロツクアツプピストン
13 エンボス構造
15 タービンハブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 駆動源の駆動軸に連結され且つポンプシェルを連結することで内部空間を形成するフロントカバーと、前記ポンプシェルおよび前記ポンプシェルに一体的回転可能に固定されてなるポンプブレードとを有するポンプインペラと、該ポンプブレードの回転に伴い流体を介して回転し前記ポンプブレードに対向するように配設されたタービンブレードと該タービンブレードが固着されたタービンシェルとで形成されたタービンランナと、該タービンランナを連結し且つインプットシャフトの端部に嵌着されたタービンハブと、前記フロントカバーに対して離接可能に前記タービンハブの外周面に嵌挿されたロックアップピストンと、該ロックアップピストンに連結され前記ロックアップピストンと前記タービンシェルとの間において前記タービンハブに固着したロックアップクラッチと、を備えたロックアップ機構付トルクコンバータにおいて、前記タービンブレードの前記タービンシェルへの固着には、該タービンブレードに設けられた複数個のタブとこれらタブをそれぞれ嵌め込むように前記タービンシェルに設けられた複数個の細穴部とが用いられており前記タービンシェルの最外周側の細穴部はスリット構造とされており、前記タービンブレードの最外周側のタブが前記細穴部を貫通してかしめられることにより固着され、前記タービンシェルの少なくとも最内周側の細穴部はエンボス構造とされており、前記タービンブレードの最内周側のタブが前記細穴部に嵌め込まれることで前記タブが前記細穴部を貫通することなく固着されていることを特徴とするロックアップ機構付トルクコンバータ。

【図2】
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【図1】
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【特許番号】特許第3211316号(P3211316)
【登録日】平成13年7月19日(2001.7.19)
【発行日】平成13年9月25日(2001.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−347022
【出願日】平成3年12月27日(1991.12.27)
【公開番号】特開平5−180303
【公開日】平成5年7月20日(1993.7.20)
【審査請求日】平成10年11月10日(1998.11.10)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【参考文献】
【文献】実開 平2−122261(JP,U)
【文献】実開 平2−125247(JP,U)