説明

ロフェンタニルおよびカルフェンタニルの経皮的電気輸送送達の方法および装置

ロフェンタニルまたはカルフェンタニルの送達のための電気輸送薬剤送達装置、システムおよび方法が開示されている。ロフェンタニルまたはカルフェンタニルはヒドロゲル調合物中のような水溶性塩(例えば、ロフェンタニルまたはカルフェンタニル塩酸)として提供することができる。慢性、急性および/または押さえ切れない疼痛に苦しむヒト(例えば、成人)の患者において鎮痛を誘発するために十分なロフェンタニルまたはカルフェンタニルの経皮的電気輸送送達用量が提供される。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、参照により本明細書に引用されていることとする、2006年、6月28日に出願された米国仮特許出願第60/806,048号および2007年、6月26日に出願された米国仮特許出願第11/768,569号の利益を主張するものである。
【技術分野】
【0002】
本発明は全般的に電気輸送薬剤送達に関する。本発明は特に、ロフェンタニルおよびカルフェンタニルの電気輸送送達の装置、システムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0003】
表皮を通る拡散による薬剤の経皮的送達は、皮下注射および経口送達のような、比較的伝統的な送達方法に対して改良点を提供する。経皮的な薬剤送達は経口薬剤送達に遭遇される肝臓の一次通過効果を回避する。経皮的薬剤送達はまた、皮下注射に伴う患者の不快をも回避する。更に、経皮的送達は、特定のタイプの経皮的送達装置の、長時間の制御送達プロファイルのために、長期間にわたり患者の血流中の薬剤の、より均一な濃度を提供することができる。用語「経皮的」送達は広範に、動物の皮膚、粘膜または爪のような体表を通る物質の送達を包含する。
【0004】
皮膚は体内への物質の経皮的浸透に対する主要なバリヤーとして働き、薬剤のような治療物質の経皮的送達に対する身体の主要な抵抗物を表す。今日まで、受動的拡散による薬剤の送達のために物理的抵抗を減少させ、皮膚の透過性を高めることに努力が集中されてきた。もっとも注目すべきは化学的束密度促進剤を使用して、経皮的薬剤の束密度速度を増加するための種々の方法が試みられてきた。
【0005】
経皮的薬剤送達速度を増加する他のアプローチは、電気エネルギーおよび超音波エネルギーのような代替エネルギー源の使用を含む。電気的に補助される経皮的送達もまた、電気輸送と呼ばれる。本明細書で使用される用語「電気輸送」は全般的に、皮膚、粘膜または爪のような患者の膜を通る物質(例えば、薬剤)の送達を表す。送達は電圧の適用により誘発または補助される。例えば、皮膚を通る電気輸送送達により、有益な治療物質をヒトの身体の全身循環中に導入することができる。広範に使用される電気輸送法の電気泳動(イオン泳動とも呼ばれる)は帯電イオンの電気的誘動輸送を伴う。他のタイプの電気輸送法の電気浸透は、電界の影響下で、送達されるべき物質を含む液体の流れを伴う。更に別のタイプの電気輸送法の電気穿孔法は、電界の適用により、生物学的膜に一過性に存在する孔の形成を伴う。物質は受動的に(すなわち、電気の補助なしで)または能動的に(すなわち、電圧の影響下で)のいずれかで孔を通って送達され得る。しかし、いずれの与えられる電気輸送法においても、少なくとも何か「受動的」拡散を含むこれらの方法のうちで1種以上が、ある程度は、同時に起っているかも知れない。従って、本明細書で使用される用語「電気輸送」は、そのもっとも広範な可能な解釈を与えられるべきであるので、その物質が実際に輸送される、1種又は複数の特定の機序が何であろうとも、それが、帯電されても、非帯電されてもまたはそれらの混合物であってもよい、少なくとも1種の物質の、電気的に誘発または促進される輸送を含む。
【0006】
電気輸送装置は、身体の皮膚、爪、粘膜または他の表面のある部分と電気接触している少なくとも2つの電極を使用する。「供与」電極と一般に呼ばれる片方の電極は、物質がそこから体内に送達される電極である。典型的には「対」電極と呼ばれる他方の電極は、身体を通る電気回路を閉じる働きをする。例えば、送達されるべき物質が正に帯電されて
いる、すなわち、カチオンである場合は、陽極が供与電極であり、他方、陰極は回路を完結する働きをする対極である。その代りに、ある物質が負に帯電されている、すなわちアニオンである場合は、陰極が供与電極であり、陽極が対極である。更に、アニオンおよびカチオン物質双方のイオンまたは非帯電溶解物質が送達される場合は、陽極および陰極双方を供与電極と考えることができる。
【0007】
更に、電気輸送送達システムは一般に、身体に送達されるべき物質の少なくとも1種のレザボアまたは源を必要とする。このような供与体レザボアの例は、ポーチまたは空洞、多孔質スポンジまたはパッド、および親水性ポリマーまたはゲルマトリックスを含む。このような供与体レザボアは、陽極または陰極および体表に電気接続され、それらの間に配置されて、1種又は複数の物質または薬剤の固定されたまたは更新可能な原料を提供する。電気輸送装置はまた、1種又は複数の電池のような電源を有する。典型的には、いずれの1時点においても、電源の片方の電極は供与電極に電気接続され、他方、反対の電極は対極に電気接続されている。電気輸送薬剤送達の速度は本質的に、装置により適用される電流に比例することが示されているので、多数の電気輸送装置は典型的には、電極を通して適用される電圧および/または電流を制御する電気制御装置を有し、それにより薬剤送達速度を制御する。これらの制御回路は、電源により供給される電流および/または電圧の振幅、極性、タイミング、波形、等を制御するための種々の電気部品を使用する。例えば、特許文献1を参照されたい(特許文献1参照)。
【0008】
今日まで、市販の経皮的電気輸送薬剤送達装置(例えば、Salt Lake City,UtahのIomed,Inc.により販売されるPhoresor、St.Paul,Minn.のEmpi.Inc.により販売されるDupel Iontophoresis System、Logan,UtahのWescor,Inc.により販売されるWebster Sweat Inducer,モデル 3600)は一般に、卓上の電力供給ユニットおよび一対の皮膚接触電極を使用してきた。供与電極は薬剤溶液を含み、他方、対極は生物学的適合性電解質塩の溶液を含む。電力供給ユニットは、電極を通って供給される電流量を調整するための電気制御装置を有する。「サテライト」電極は、長い(例えば、1〜2メーター)電気伝導性ワイヤまたはケーブルにより電力供給ユニットに接続されている。結線は断線を受け易く、患者の運動性および可動性を制約する。電極および制御装置間のワイヤはまた、患者に煩わしくまたは不快であるかも知れない。「サテライト」電極アセンブリーを使用する卓上電力供給ユニットの他の例は、特許文献2(図3および4参照)、3(図9参照)および4に開示されている(特許文献2、3および4参照)。
【0009】
より最近、小型の内蔵型電気輸送送達装置が、長期間、時々は衣類の下で目立たずに、皮膚に適用されることが提唱された。このような小型の内蔵型電気輸送送達装置は例えば、特許文献5、6および7に開示されている(特許文献5、6および7参照)。
【0010】
最近、複数の薬剤含有ユニットとともに使用するようになっている再利用可能な制御装置を有する電気輸送装置を使用することが示唆された。薬剤が枯渇すると、薬剤含有ユニットを単に制御装置から外し、その後、新鮮な薬剤含有ユニットを制御装置に接続する。この方法で、装置の比較的高価なハードウェアの部品(例えば、電池、LED、回路のハードウェア、等)を再利用可能な制御装置内に含むことができ、そして比較的安価な供与体レザボアおよび対レザボアマトリックスを単一の利用可能/廃棄可能な薬剤含有ユニット中に含むことができ、それにより電気輸送薬剤送達の全体的経費を節減することができる。薬剤含有ユニットに取り外し可能に接続された、再利用可能な制御装置からなる電気輸送装置の例は、特許文献8、9、10(図12)および11に開示されている(特許文献8、9、10および11参照)。
【0011】
電気輸送装置の他の開発において、一部は、アルコールおよびグリコールのような他の液体溶媒に比較してその優れた生物学的適合性のために、電気輸送薬剤送達における使用に、水が好適な液体溶媒であるという事実のために、薬剤および電解質のレザボアマトリックスとしての使用に、ヒドロゲルが特に好まれるようになってきた。ヒドロゲルは高い平衡水分含量を有し、急速に水を吸収することができる。更に、ヒドロゲルは皮膚および粘膜と良好な生物学的適合性をもつ傾向がある。
【0012】
経皮的送達に特に興味深いものは、軽度から重篤な疼痛の管理のための鎮痛薬の送達である。薬剤送達の速度および期間の制御は、過剰投与および不十分な用量投与の、不快の可能な危険性を回避するために、鎮痛薬の経皮的送達に対して特に重要である。
【0013】
経皮的送達経路に適用を見いだした鎮痛剤の1群は、4−アニリンピペリジンの1群の合成アヘン剤である。合成アヘン剤、例えば、フェンタニルおよび、スフェンタニルのようなその特定の誘導体は経皮的投与に特に適している。これらの合成アヘン剤はそれらの早急な鎮痛の開始、高い効力および短い作用時間を特徴として示す。それらはそれぞれ、モルフィネの80倍および800倍の効力をもつと推定される。これらの薬剤は弱い塩基、すなわち、その主要な部分が酸性媒質中でカチオンであるアミンである。
【0014】
血漿濃度を測定するインビボの研究において、ThysmanおよびPreat(非特許文献1)はpH5のクエン酸バッファー中の電気輸送送達に対し、フェンタニルおよびスフェンタニルの単純な拡散を比較した(非特許文献1参照)。単純な拡散は検出可能な血漿濃度を何ももたらさなかった。到達可能な血漿レベルは、皮膚を透過することができる薬剤の最大束密度、並びに分配のクリアランスおよび容量のような薬剤の薬物動態学的特性に左右される。電気輸送送達は受動的経皮パッチに比較して有意に減少したラグタイム(すなわち、ピーク血漿レベルを達成するために必要な時間)をもつことが報告された(14時間に対して1.5時間)。研修者等の結論は、これらの鎮痛薬の電気輸送は、古典的パッチより疼痛のより早急な制御をもたらすことができ、そして薬剤の拍動放出(電流を制御することによる)は古典的パッチの一定な送達に匹敵するというものであった。更に、例えば、非特許文献2、3(スフェンタニル)、4(フェンタニル)、5(フェンタニルおよびスフェンタニル)を参照されたい(非特許文献2、3、4および5参照)。
【0015】
鎮痛を誘発するための、フェンタニルおよびスフェンタニルのような麻薬性鎮痛薬の受動的な、すなわち拡散によるおよび電気補助経皮的送達はまた、双方とも、特許文献に記載されている。例えば、特許文献12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25を参照されたい(特許文献12〜25参照)。
【0016】
他のフェンタニル誘導体、ロフェンタニルはフェンタニルの20〜30倍強力であると報告されている(例えば、非特許文献6、7を参照)。カルフェンタニルはロフェンタニルと同様な効力範囲内にある。従って、ロフェンタニルおよびカルフェンタニルは疼痛の処置においてフェンタニルより利点を有する。同様な鎮痛効果を得るために、より少量の薬剤が必要であり、それは、より少ない副作用をもたらす。しかし、ロフェンタニルおよびカルフェンタニルは双方ともフェンタニルの20〜30倍強力である事実のために、呼吸抑制および他の不都合な副作用をもたらし得る、事故による過剰投与の機会がより大きい。更に、薬剤送達装置中のロフェンタニルまたはカルフェンタニルまたは何か他のアヘン剤の置き換えは必ずしも問題のない方法ではなく、包装された系、特に水性系中のアヘン剤の安定度および保存寿命のような問題を考慮しなければならない。
【0017】
ロフェンタニルおよびカルフェンタニルの受動的な経皮的送達は記載されている(例えば特許文献14、17、23、24)が、小型の、内蔵された、患者に制御される装置における電気輸送送達の便利性を利用するのに適した電気輸送装置中の、ロフェンタニルお
よびカルフェンタニル調合物が必要である。更に、過剰投与の危険をもたずに、ロフェンタニルおよびカルフェンタニルの必要量を正確に送達することができるシステムおよび装置を提供する必要がある。更に、安定した、許容され得る保存寿命もつ電気輸送装置およびシステムを提供することが望ましいと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】McNichols et al.,米国特許第5,047,007号
【特許文献2】Jacobsen et al.,米国特許第4,141,359号
【特許文献3】LaPrade,米国特許第5,006,108号
【特許文献4】Maurer et al.,米国特許第5,254,081号
【特許文献5】Tapper,米国特許第5,224,927号
【特許文献6】Sibalis et al.,米国特許第5,224,928号
【特許文献7】Haynes et al.,米国特許第5,246,418号
【特許文献8】Sage,Jr.et al.,米国特許第5,320,597号
【特許文献9】Sibalis,米国特許第5,358,483号
【特許文献10】Sibalis et al.,米国特許第5,135,479号
【特許文献11】Devane et al.,英国特許出願第2 239 803号
【特許文献12】Gale et al.,米国特許第4,588,580号
【特許文献13】Aungst et al.,米国特許第4,626,539号
【特許文献14】Levy et al.,米国特許第4,822,802号
【特許文献15】Cleary et al.,米国特許第4,906,463号
【特許文献16】Theeuwes et al.,米国特許第5,232,438号
【特許文献17】Gevirtz et al.,米国特許第5,635,204号
【特許文献18】Southam et al.,米国特許第6,171,294号
【特許文献19】Southam et al.,米国特許第6,216,033号
【特許文献20】Southam et al.,米国特許第6,425,892号
【特許文献21】Phipps et al.,米国特許第6,881,208号
【特許文献22】Southam et al.,米国特許出願公開US2003/0083609号
【特許文献23】Venkatraman et al.,米国特許出願公開US2003/0026829号
【特許文献24】Venkatraman et al.,米国特許出願公開US2004/01213832号
【特許文献25】Phipps et al.,米国特許出願公開US2005/0131337号
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Anesth.Analg.77(1993)pp.61−66
【非特許文献2】Thysman et al.Int.J.Pharm.101(1994)pp.105−113
【非特許文献3】V.Preat et al.Int.J.Pharm.,96(1993)pp.189−196
【非特許文献4】Gourlav et al.Pain,37(1989)pp.193−202
【非特許文献5】Sebel et al.Eur.J.Clin.Pharmacol.32(1987)pp.529−531
【非特許文献6】Mather,Clin.Pharmacokinet.,8(1983)pp.422−446
【非特許文献7】Dosen−Micovic.J.Serb.Chem.Soc.,69(2004)pp.843−854
【発明の概要】
【0020】
発明の概要
本発明の実施形態は、ロフェンタニルまたはカルフェンタニルの経皮的電気輸送送達のためのシステム、方法および装置を提供する。従って、本発明の実施形態に従うと、ロフェンタニルまたはカルフェンタニルの電気輸送送達をするようになっている装置が提供され、同時に、他のアヘン薬によりこれまで達成されてきたものより、疼痛管理において患者の安全性および快適性のより大きい手段を提供する。1種又は複数の実施形態において、ロフェンタニルまたはカルフェンタニルは、少なくとも一部はロフェンタニルまたはカルフェンタニル塩の水溶液を含む陽極の供与体レザボアを有する電気輸送装置により、体表(例えば、そのままの皮膚)を通して送達される。適切な鎮痛効果を達成するために、より少量の薬剤が必要であるので、ロフェンタニルを送達するためには、他のアヘン剤を送達するためにこれまで使用されていたものより小さい電気輸送装置を使用することができる。
【0021】
本発明の実施形態は更に、急性の、慢性のおよび/または押さえ切れない疼痛を処置するために経皮的電気輸送によりロフェンタニルまたはカルフェンタニルを投与するための装置、システムおよび方法に関する。約20分までの送達期間にわたり送達される、約0.5〜5μgのロフェンタニルまたはカルフェンタニルの経皮的電気輸送用量が、約35kgを超える体重をもつヒトの患者における急性の術後疼痛を処置するために治療的に有効である。好適には、送達されるロフェンタニルまたはカルフェンタニルの量は、約5〜15分の送達期間にわたり約1μg〜約3μgであり、そしてもっとも好適には、送達されるロフェンタニルまたはカルフェンタニルの量は、約10分の送達期間にわたり、約2μgである。
【0022】
約7日間までの送達期間にわたり送達される、約0.3μg/時間〜約10μg/時間のロフェンタニルまたはカルフェンタニルの経皮的電気輸送量が、約35kgを超える体重をもつヒトの患者における慢性の基底線疼痛を処置するのに治療的に有効である。好適には、送達されるロフェンタニルまたはカルフェンタニルの量は、約1〜7日間の送達期間にわたり、約1μg/時間〜約5μg/時間であり、もっとも好適には、送達されるロフェンタニルまたはカルフェンタニルの量は、約3日間の送達期間にわたり、約2〜4μg/時間である。
【0023】
約20分までの送達期間にわたり送達される、約3μg〜40μgのロフェンタニルまたはカルフェンタニルの経皮的電気輸送量が、約35kgを超える体重をもつヒトの患者における押さえ切れない疼痛を処置するのに治療的に有効である。好適には、送達されるロフェンタニルまたはカルフェンタニルの量は、約5〜15分間の送達期間にわたり、約10μg〜20μgであり、そしてもっとも好適には、送達されるロフェンタニルまたはカルフェンタニルの量は、約10分間の送達期間にわたり、約15μgである。
【0024】
電気輸送によりロフェンタニルまたはカルフェンタニルを経皮的に送達する装置は更に、約24時間にわたり、その後の同様な、1回または数回の送達期間に、少なくとも1の更なる、そしてより好適には、約10〜100の更なる同様な、1または複数の用量を送達する手段を含むことができる。例えば、急性の術後疼痛を処理するために、約100までの更なる同様量のロフェンタニルまたはカルフェンタニルを使用することができる。同様に、押さえ切れない疼痛を処置するためには、1日に約10までの更なる同様な用量を使用することができる。経皮的電気輸送ロフェンタニルまたはカルフェンタニル送達装置から複数の同一量を送達する能力は、また、異なる患者が彼らの疼痛を抑制するために異なる量のロフェンタニルまたはカルフェンタニルを必要とする、より広範な患者集団に対
する疼痛管理の可能性を提供する。複数の少量の経皮的電気輸送ロフェンタニルまたはカルフェンタニル量を投与する可能性を提供することにより、患者は彼らの疼痛を抑制するために必要な、そしてそれを超えないロフェンタニルまたはカルフェンタニルの量のみを投与するために自身でそれらを滴下することができる。
【0025】
本発明のその他の利点および特定の改良物、組成の変更物および物理的特性のより完全な認識は、以下の図面、詳細な説明、実施例および添付請求項の検討から学ぶことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
本発明は添付の図面と関連して以下に説明される。
【図1】本発明に従う電気輸送薬剤送達装置の斜視分解図である。
【発明の詳細な説明】
【0027】
本発明の実施形態は、ロフェンタニルまたはカルフェンタニル塩の電気輸送送達装置並びに全身鎮痛効果を達成するための同の使用法を提供する。本発明の1つの実施形態は、鎮痛効果を達成するために、体表、例えば皮膚を通してロフェンタニルまたはカルフェンタニルを送達するための電気輸送送達装置を提供する。ロフェンタニルまたはカルフェンタニル塩は、好適には塩水溶液として電気輸送送達装置の供与体レザボア中に提供される。
【0028】
1つの実施形態において、急性術後疼痛を処置するために経皮的電気輸送により送達されるロフェンタニルまたはカルフェンタニルの量は、約20分間までの期間にわたり送達される約0.5μg〜約5μgである。約5〜約15分間の期間にわたり送達される約1μg〜約3μgの量が好適であり、そして約10分間の送達期間にわたり約2μgの用量がもっとも好適である。
【0029】
他の実施形態において、慢性の基底線疼痛を処置するために経皮的電気輸送により送達されるロフェンタニルまたはカルフェンタニルの量は、約7日間までの期間にわたり送達される、約0.3μg/時間〜約10μg/時間である。送達期間中、約1μg/時間〜約5μg/時間が好適であり、そして約2μg/時間〜4μg/時間の投与範囲がもっとも好適である。
【0030】
他の実施形態に従うと、押さえ切れない疼痛を処置するために経皮的電気輸送により送達されるロフェンタニルまたはカルフェンタニルの量は、約20分間までの期間にわたり送達される、約3μg〜約40μgである。約5〜15分間にわたり投与される、約10μg〜約20μgの用量が好適であり、そして約10分間の送達期間にわたり約15μgの用量がもっとも好適である。
【0031】
本発明の1種又は複数の実施形態に従うと、装置は更に、好適には、急性の術後疼痛を処置するための鎮痛効果を達成し、維持するために、24時間にわたり約10〜100の更なる同様な用量を送達するための手段を含む。例えば、約100までの更なる同様な用量のロフェンタニルまたはカルフェンタニルを使用して、急性の術後疼痛を、他方約10までの更なる同様な用量を使用して押さえ切れない疼痛を処置することができる。
【0032】
電気輸送によるロフェンタニルまたはカルフェンタニルの前記用量を経皮的に送達するためのロフェンタニルまたはカルフェンタニル塩含有の陽極のレザボア調合物は、好適には、HCl、蓚酸塩またはクエン酸塩のような水溶性ロフェンタニルまたはカルフェンタニル塩の水溶液からなる。ロフェンタニルまたはカルフェンタニルおよびその製薬学的に許容され得る付加塩の製法は当該技術分野で周知である(例えば、Janssen et
al.,米国特許第3,998,834号明細書参照)。もっとも好適には、水溶液はヒドロゲルマトリックスのような親水性ポリマーマトリックス内に含まれる。ロフェンタニルまたはカルフェンタニル塩は、以下に更に説明されるように、所望の鎮痛効果を達成するために、一定の送達期間にわたり、電気輸送により経皮的に前記の用量を送達するために十分な量で存在する。
【0033】
陽極のロフェンタニルまたはカルフェンタニル塩含有ヒドロゲルは適当には、多数の物質で製造されてもよいが、好適には、親水性ポリマー物質、好適には薬剤安定性を高めるために極性の性質をもつものからなる。ヒドロゲルマトリックスに適する極性ポリマーは種々の合成および天然に存在するポリマー物質を含んでなる。好適なヒドロゲル調合物は、適当な親水性ポリマー、バッファー、湿潤剤、増粘剤、水および水溶性ロフェンタニルまたはカルフェンタニル塩(例えば、HCl塩)を含む。好適な親水性ポリマーマトリックスは、洗浄され、完全に加水分解されたポリビニルアルコール(PVOH)のようなポリビニルアルコール、例えば、Hoechst Aktiengesellschaftから市販されているMowiol 66−100である。適当なバッファーは、酸および塩双方の形態のメタクリル酸とジビニルベンゼンのコポリマーであるイオン交換樹脂である。このようなバッファーの1例はPolacrilin(Rohm & Haas,Philadelphia,Paから入手可能なメタクリル酸とジビニルベンゼンのコポリマー)とそのカリウム塩の混合物である。Polacrlinの酸とカリウム塩形態の混合物は、pH約4〜pH約6の間にヒドロゲルのpHを調整するためのポリマーバッファーとして働く。ヒドロゲル調合物中への湿潤剤の使用は、ヒドロゲルからの水分の喪失を妨げるために有益である。適当な湿潤剤の1例はグアガムである。増粘剤もまた、ヒドロゲル調合物中で有益である。例えば、ヒドロキシプロピル・メチルセルロース(例えば、Dow Chemical,Midland,Mich.から入手可能なMethocel K100MP)のようなポリビニルアルコール増粘剤は、それが型または空洞中に分散される時の熱いポリマー溶液のレオロジーを修正する助けになる。ヒドロキシプロピル・メチルセルロースは冷却時に粘度を増加し、冷却されたポリマー溶液の、型または空洞を過剰充填する傾向を有意に軽減する。
【0034】
1つの好適な実施形態において、陽極のロフェンタニルまたはカルフェンタニル塩含有ヒドロゲル調合物は、約15〜20重量%のポリビニルアルコールおよび約1〜2.5重量%のロフェンタニルまたはカルフェンタニル塩、好適には塩酸塩を含んでなる。残りは水および、湿潤剤、増粘剤、等のような成分である。ポリビニルアルコール(PVOH)基剤のヒドロゲル調合物は、少なくとも約0.5時間、約90℃〜95℃の高温の単一容器中にロフェンタニルまたはカルフェンタニル塩を含むすべての物質を混合することにより調製される。次に、熱い混合物を発泡体の型中に注入し、PVOHを架橋させるために−35℃の冷凍温度で1晩貯蔵する。外界温度に暖めると、ロフェンタニルまたはカルフェンタニル電気輸送に適した固いエラストマーゲルが得られる。
【0035】
当該技術分野で知られるように、貯蔵のような、前以て充填された装置に関する幾つかの心配が存在する。多数の薬剤は溶液中にあると低い安定性を有する。従って、前以て充填されたイオン導入薬剤送達装置の保存寿命は、許容され得ないほど短いかも知れない。電極および他の電気部品の腐食も前充填装置の可能な問題である。例えば、帰路(return)電極アセンブリーは通常、経時的に金属の腐食を誘発する可能性がある塩化ナトリウムのような電解質塩および、電極アセンブリー中の他の電気伝導性物質を含むであろう。漏洩が、前充填イオン導入薬剤送達装置による他の重大な問題である。電極の容器からの薬剤または電解質の漏洩は、操作不能なまたは欠陥的状態をもたらす可能性がある。
【0036】
従って、水和可能な乾燥した電極を有する電気輸送システムを提供することが所望されるかも知れない。このような乾燥状態の電極装置の例は、これらの特許それぞれの内容全
体が参照により本明細書中に引用されていることになる、同一出願人による、米国特許第6,374,136号、第5,582,587号、第5,533,972号、第5,385,543号、第5,320,598号、第5,310,404号、第5,288,289号および第5,158,537号明細書に開示されている。
【0037】
ヒドロゲル調合物は、以下に説明されるような電気輸送装置に使用される。適当な電気輸送装置は、好適には銀からなる陽極の供与電極、および好適には塩化銀からなる陰極の対極を含む。供与電極はロフェンタニルまたはカルフェンタニル塩の水溶液を含む供与体レザボアと電気接触している。前記のように、供与体レザボアは好適には、ヒドロゲル調合物である。対レザボアも好適には、クエン酸バッファー生理食塩水のような生物学的適合性の電解質の溶液(例えば水溶液)を含むヒドロゲル調合物を含んでなる。陽極および陰極のヒドロゲルレザボアは好適には、それぞれ、約0.1〜約20cm、そしてより好適には約0.2〜10cmの皮膚接触面積を有する。陽極および陰極のヒドロゲルレザボアは好適には、約0.01〜0.4cmの、そしてより好適には、約0.05cmの厚さ(thickness)を有する。
【0038】
皮膚接触面積およびゲルの厚さは、装置の特定の適用、すなわち装置が急性疼痛を処置するために使用されるか、慢性疼痛を処置するために使用されるかまたは押さえ切れない疼痛の適用を処置するために使用されるかに左右されることは認められるであろう。これらの適用はそれぞれ、異なる用量および投与速度を必要とし、そして、電気輸送送達の当業者により知られる、効率(μg/μA/時間で測定され、実験的に決定される)、電流、接触面積、電流密度、ゲルの厚さ、薬剤利用比、薬剤濃度および受動的束密度、を含む因子が薬剤の所望の送達速度を決定するであろう。従って、当該技術分野で知られた計算法および種々の装置の特性の標的範囲を使用することにより、装置のパラメーターを決定することができる。効率に対して所望される標的範囲は、約0.1〜1.4μg/μA/時間の間であり、実験的に決定することができる。送達期間は特定の適用に左右されるであろう。急性のおよび押さえ切れない疼痛の適用のためには、望ましい送達期間は約1分〜20分間であり、そして慢性の疼痛に対して、望ましい送達期間は約1日〜7日以上の間である。望ましい接触面積は約0.3〜10cmの間である。望ましい電流密度は約10〜200μA/cmの間であり、望ましいゲルの厚さは約0.02〜0.5cmの間である。薬剤利用の望ましい範囲は実験的に決定することができ、典型的には約0.1〜0.7の間でなければならない。薬剤濃度は典型的には、約10〜25mg/mlの間であることが望ましい。
【0039】
適用される電気輸送電流は、所望の鎮痛効果に応じて約0.1μA〜約2400μAである。もっとも好適には、適用される電気輸送電流は、投与期間中実質的に一定のDC電流である。適当な電流は当該技術分野で知られた計算法を使用して決定することができる。
【0040】
薬剤の受動的束密度は実験的に決定することができる。受動的束密度は約0.5〜3μg/時間/cmの間であることが期待されるので、薬剤の受動的束密度の速度を最小にするために1種又は複数の束密度制御膜を使用することが望ましいかも知れない。例えば、Theeuwes et al.,米国特許第5,080,646号、第5,147,296号、第5,169,382号、第5,169,383号、第5,322,502号および第6,163,720号明細書に開示されたもののような、束密度制御膜は、体表に対する物質の、受動的、すなわち電気に補助されない束密度の量を制約または制御するために、供与体レザボアと患者の体表の間、そして対レザボアと患者の体表の間、それぞれに配置することができる。束密度制御物質を開示しているこれらの特許はそれぞれ、それらの全体を参照により本明細書に引用されているものとする。膜は疎水性ポリマーおよび親水性ポリマーのような種々の物質から製造することができる。典型的な疎水性ポリマ
ーは、ポリカーボネート、ポリイソブチレン、ポリエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソプレン、ポリアルケン、ゴム、ポリビニルアセテート、エチレンビニルアセテートコポリマー、ポリアミド、ナイロン、ポリウレタン、ポリビニルクロリド:n−ブタノール、1−メチルペンタノ−ル、2−メチルペンタノール、3−メチルペンタノール、2−エチルブタノール、イソ−オクタノール、n−デカノールのようなアルコールの、アクリルまたはメタクリル酸エステル、およびそれらの組み合わせ物:アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、n−アルコキシメチルアクリルアミド、n−アルコキシメチルメタクリルアミド、n−tert−ブチルアクリルアミド、イタコン酸、アルキル基中に10〜24個の炭素原子をもつn−分枝アルキルマレアミド酸、グリコールジアクリレートのような、1種又は複数のエチレン様不飽和モノマーと共重合されたアルコールのアクリル酸またはメタクリル酸エステルおよびそれらの混合物および組み合わせ物を含む。更に、低いおよび/または高い多孔性の膜を製造するために使用される疎水性または親水性ポリマーは熱可融性であることが好適である。親水性ポリマーの例は、コポリエステル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリエチレンオキシドまたはポリエチレングリコールのポリアクリル酸とのブレンド、ポリアクリルアミド、架橋デキストラン、デンプングラフトポリ(ナトリウムアクリレート−コ−アクリルアミド)、セルロース誘導体(ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、低置換ヒドロキシプロピルセルロースおよび、Philadelphia,PaのFMC Corp.からのAc−Di−Solのような架橋ナトリウムカルボキシメチルセルロースのような)、ヒドロゲル(National Patent Development Corp.から利用可能なポリヒドロキシエチエルメタクリレートのような)、天然ガム、キトサン、ペクチン、デンプン、グアガム、イナゴマメガム、それらのブレンドおよび組み合わせ物、並びにそれらの同等物を含む。
【0041】
ここで本発明に従って使用することができる典型的電気輸送装置を表す図1を参照する。図1は、押しボタンスイッチ12の形態の起動スイッチおよび発光ダイオード(LED)14の形態のディスプレイを有する、電気輸送装置10の斜視分解図を示す。装置10は、上部ハウジング16、回路基板アセンブリー18、下部ハウジング20、陽極電極22、陰極電極24、陽極レザボア26、陰極レザボア28および皮膚適合性接着体30を含んでなる。上部ハウジング16は患者の皮膚上に装置10を保持する助けをする側翼15を有する。上部ハウジング16は好適には、射出成形可能なエラストマー(例えば、エチレンビニルアセテート)からなる。印刷回路基板アセンブリー18は分離した電気部品40および電池32に接続された集積回路19を含んでなる。回路基板アセンブリー18は開口部13aおよび13bを通る柱(図1には示されていない)によりハウジング16に取り付けられ、その柱の両端はハウジング16に回路基板アセンブリー18を熱固定する(heat stake)ために加熱/融解される。下部ハウジング20は接着体30により上部ハウジング16に取り付けられ、そこで接着体30の上面34が下部ハウジング20および、翼15の下面を含む上部ハウジング16双方に取り付けられる。回路基板アセンブリー18の裏面上に(一部)、好適にはボタン電池であり、もっとも好適にはリチウム電池である電池32が示されている。他のタイプの電池も装置10を起動するために使用することができる。
【0042】
回路基板アセンブリー18の回路出力装置(図1には示されていない)は、電気伝導性接着片42、42’により下部ハウジング20に形成された凹み25,25’中の開口部23、23’を通って、電極24および22と電気接触をする。電極22および24は順次、レザボア26および28の上面44’、44と直接の機械的および電気的接触にある。レザボア26、28の下面46’、46は接着体30中の開口部29’、29を通して患者の皮膚と接触する。押しボタンスイッチ12を押すと、回路基板アセンブリー18上の電気回路が、前以て決められた長さの送達期間中、例えば約10分間、電極/レザボア22、26および24、28に前以て決められたDC電流を送達する。好適には、装置は
、点灯されるLED14および/または、例えば「ビーパー」からの可聴音信号により、薬剤送達の開始またはボーラス、期間の視覚的および/または聴覚的確認を使用者に伝達する。次にロフェンタニルまたはカルフェンタニルを、前以て決定された送達期間中(例えば、10分間)、患者の皮膚、例えば腕上の皮膚を通して送達する。実際、使用者は視覚的(LED14が点灯される)および/または聴覚的信号(「ビーパー」からの音)により薬剤送達の開始についてのフィードバックを受ける。
【0043】
陽極電極22は好適には銀からなり、陰極電極24は好適には塩化銀からなる。双方のレザボア26および28は好適には、本明細書に記載されたポリマーのヒドロゲル物質よりなる。電極22、24およびレザボア26、28は下部ハウジング20により保持される。ロフェンタニルまたはカルフェンタニル塩に対して、陽極レザボア26は薬剤を含む「供与体」レザボアであり、そして陰極レザボア28は生物学的適合性の電解質を含む。
【0044】
押しボタンスイッチ12、回路基板アセンブリー18上の電気回路および電池22は、上部ハウジング16と下部ハウジング20の間に接着性に「シール」されている。上部ハウジング16は好適には、ゴムまたは他のエラストマー物質からなる。下部ハウジング20は好適には、容易に成形されて凹み25,25’を形成し、切り込まれて開口部23、23’を形成することができるプラスチックまたはエラストマーシート材料(例えば、ポリエチレン)からなる。集成された装置10は好適には、耐水性(すなわち撥水性)であり、もっとも好適には防水性である。システムは身体に容易に適合し、それにより装着部位およびその周囲の動きの自由を許す、低いプロファイルを有する。陽極/薬剤レザボア26および陰極/塩レザボア28は装置10の皮膚接触側に配置され、通常の取り扱いおよび使用中の事故的電気短絡を防止するために十分に離されている。
【0045】
装置10は上面34および身体接触面36を有する末端接着体30により患者の体表(例えば皮膚)に接着する。接着面36は、装置10が使用者の日常の活動期間中、身体上のその場に留まり、そして更に前以て決められた装着期間(例えば、24時間)後に適当な取り外しを可能にすることを確保する接着性を有する。接着体の上面34は下部ハウジング20に接着し、ハウジングの凹み25、25’内に電極および薬剤レザボアを保有し、並びに上部ハウジング16に取り付けられた下部ハウジング20を保持する。
【0046】
押しボタンスイッチ12は装置10の上面上に配置され、衣類を通して容易に起動される。短時間、例えば、3秒以内の押しボタンスイッチ12の二重圧迫が好適には、薬剤の送達のために装置10を起動するために使用され、それにより、装置10のうっかりした起動の可能性を最小にする。
【0047】
スイッチ起動時に、耳に聞こえる警報が薬剤送達の開始を知らせ、その時点で、回路が、前以て決められた送達期間中(例えば、10分間)電極/レザボアへの前以て決められたレベルのDC電流を供給する。LED14は送達期間中ずっと「オン」のままであり、装置10が能動的薬剤送達モードにあることを示す。電池は好適には、全装着期間中(例えば、24時間)、前以て決められたレベルのDC電流で装置10に連続的に動力を送る十分な容量を有する。
【0048】
ロフェンタニルまたはカルフェンタニルは塩基であるので、ロフェンタニルまたはカルフェンタニルの塩は典型的には酸付加塩、例えばクエン酸塩、塩酸塩、蓚酸塩、等である。これらの塩が溶液中に(例えば、水溶液)に入れられると、塩は溶解し、プロトン化ロフェンタニルまたはカルフェンタニルカチオンおよび対(例えば、クエン酸塩、塩化物、蓚酸塩)アニオンを形成する。従って、ロフェンタニルまたはカルフェンタニルカチオンは電気輸送送達装置の陽極電極から送達される。陽極レザボア中にpH安定性を維持する方法として、経皮的電気輸送送達のために銀の陽極電極が提唱されてきた。例えば、Un
tereker et al.米国特許第5,135,477号およびPetelenz
et al.米国特許第4,752,285号明細書を参照されたい。これらの特許はまた、電気輸送送達装置に銀の陽極電極を使用する欠点の1つ、すなわち銀陽極を通る電流の適用が銀を酸化させ(Ag→Ag+e)、それにより電気輸送による皮膚中への送達のためのカチオン薬剤と競合する銀カチオンを形成することを認めている。皮膚中への銀イオンの移動は皮膚の一過性の表皮の変色(TED)をもたらす。これらの特許における教示に従うと、カチオンロフェンタニルまたはカルフェンタニルは好適には、どんな電気化学的に生成された銀イオンも薬剤の対イオン(すなわち、ハロゲン化物イオン)と反応して、実質的に不溶性の銀ハロゲン化物を生成する(Ag+X→AgX)ように、ハロゲン化物塩(例えば、塩酸塩)として調合される。これらの特許の他に、Phipps et al.国際公開出願第95/27530号パンフレットは、経皮的電気輸送送達装置の供与体レザボア中の高分子塩化物樹脂の形態の補助的塩化物イオン源の使用を教示している。これらの樹脂は、銀イオン移動および、銀の陽極電極を使用する電気輸送によりロフェンタニルまたはカルフェンタニルを送達する時の、付随する皮膚の変色を防止するために十分な塩化物を提供することに著しく有効である。
【0049】
要するに、本発明の実施形態は、好適には、銀の陽極の供与電極およびヒドロゲル基剤の供与体レザボアを有する電気輸送装置から送達される、ロフェンタニルまたはカルフェンタニルの水溶性の塩の経皮的電気輸送の器具、装置、システムおよび方法を提供する。電気輸送装置は好適には患者に制御される装置である。ヒドロゲル調合物は、前以て決められた電流レベルに経皮的電気輸送薬剤束密度を維持し、電気輸送装置の装着者の皮膚への銀イオンの移動をさまたげ、そしてそれにより一過性の表皮の変色を防止し、そして鎮痛の許容されうるレベルを提供するために十分な薬剤濃度を含む。
【0050】
本明細書においては、本発明は特定の実施形態に関して説明されてきたが、これらの実施形態は本発明の原理および適用を単に説明するものであることは理解できる。従って、説明的実施形態に多数の修正を実施することができ、そして以下の請求項により規定される本発明の精神および範囲から逸脱せずに、他の装置(arrangements)を工夫することができることは理解される。
【0051】
本明細書、特許刊行物および非特許刊行物双方中に引用されたすべての刊行物は、本発明が関与する当業者の技術レベルを示すものである。これらすべての刊行物は、あたかもそれら個々の刊行物が特別に、個々に参照により引用されているものとして示されたと同程度に、参照により本明細書に完全に引用されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
約20分までの前以て決められた送達期間にわたり、電気輸送装置から、約0.5μg〜約5μgの用量のロフェンタニルまたはカルフェンタニルを電気輸送のみにより経皮的に送達し、前記送達期間の最後に前記送達を終結し、そしてその後、24時間にわたり、約100までの更なる前記用量のこのような経皮的投与を反復する方法、よりなる、疼痛に苦しむヒトの患者における鎮痛作用を得る方法。
【請求項2】
送達期間が約10分である、請求項1の方法。
【請求項3】
ロフェンタニルまたはカルフェンタニルがロフェンタニルまたはカルフェンタニル塩を含んでなる、請求項1の方法。
【請求項4】
電気輸送装置が供与体レザボアのヒドロゲル調合物を含んでなる、請求項1の方法。
【請求項5】
供与体レザボアのヒドロゲル調合物が約1〜約2.5重量%のロフェンタニルまたはカルフェンタニル塩を含んでなる、請求項4の方法。
【請求項6】
約7日までの送達期間にわたり電気輸送装置から約0.3μg/時間〜約10μg/時間のロフェンタニルまたはカルフェンタニルの用量を電気輸送のみにより経皮的に送達する方法よりなる、疼痛に苦しんでいるヒトの患者における鎮痛作用を得る方法。
【請求項7】
ロフェンタニルまたはカルフェンタニルがロフェンタニルまたはカルフェンタニル塩を含んでなる、請求項6の方法。
【請求項8】
電気輸送装置が供与体レザボアのヒドロゲル調合物を含んでなる、請求項1の方法。
【請求項9】
供与体レザボアのヒドロゲル調合物が約1〜約2.5重量%のロフェンタニルまたはカルフェンタニル塩を含んでなる、請求項4の方法。
【請求項10】
約20分までの前以て決められた送達期間にわたり、電気輸送装置から、約3μg〜約40μgの用量のロフェンタニルまたはカルフェンタニルを電気輸送のみにより経皮的に送達し、前記送達期間の最後に前記送達を終結し、そしてその後、24時間にわたり、約10までの更なる前記用量のこのような経皮的投与を反復する方法、よりなる、疼痛に苦しんでいるヒトの患者における鎮痛作用を得る方法。
【請求項11】
送達期間が約10分である、請求項10の方法。
【請求項12】
ロフェンタニルまたはカルフェンタニルがロフェンタニルまたはカルフェンタニル塩を含んでなる、請求項10の方法。
【請求項13】
電気輸送装置が供与体レザボアのヒドロゲル調合物を含んでなる、請求項10の方法。
【請求項14】
供与体レザボアのヒドロゲル調合物が約1〜約2.5重量%のロフェンタニルまたはカルフェンタニル塩を含んでなる、請求項13の方法。
【請求項15】
電気輸送装置から、疼痛を緩和するのに十分な用量のロフェンタニルまたはカルフェンタニルを、電気輸送のみによって経皮的に送達する方法よりなる、疼痛に苦しんでいるヒトの患者における鎮痛作用を得る方法。
【請求項16】
電気輸送のみにより送達され得る形態のロフェンタニルまたはカルフェンタニルを含む供与体レザボア、対レザボア、前記レザボアに電気的に接続された電力源並びに適用される電気輸送電流の規模およびタイミングを調整するための制御回路、を含んでなる、電気輸送によりロフェンタニルまたはカルフェンタニルを経皮的に送達するための装置。
【請求項17】
レザボア、電源および制御回路が、約20分までの送達期間にわたり、約0.5μg〜約20μgのロフェンタニルまたはカルフェンタニルを電気輸送により送達するようになっている、請求項16の装置。
【請求項18】
ロフェンタニルまたはカルフェンタニルがロフェンタニルまたはカルフェンタニル塩を含んでなる、請求項16の装置。
【請求項19】
供与体レザボアがヒドロゲル調合物を含んでなる、請求項16の装置。
【請求項20】
更に、装置の、体表末端面上に配置された膜を含んでなる、請求項19の装置。
【請求項21】
疼痛で苦しんでいる患者において鎮痛を得るためのロフェンタニルまたはカルフェンタニルの使用であって、ロフェンタニルまたはカルフェンタニルが約20分までの前以て決められた送達期間にわたり、電気輸送装置から、約0.5μg〜約5μgのロフェンタニルまたはカルフェンタニルの用量で、電気輸送のみにより経皮的に送達され、送達が前記送達期間の最後に終結され、そしてその後、前記経皮的投与が24時間にわたり約100までの更なる前記用量の送達を反復される、使用。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2010−531202(P2010−531202A)
【公表日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−514727(P2010−514727)
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【国際出願番号】PCT/US2007/072208
【国際公開番号】WO2009/002337
【国際公開日】平成20年12月31日(2008.12.31)
【出願人】(503073787)アルザ・コーポレーシヨン (113)
【Fターム(参考)】