説明

ロータリコネクタおよびそれを備えたメッキ装置

【課題】有害物質である水銀を使用しない低抵抗のロータリコネクタを提供する。
【解決手段】本発明のロータリコネクタ10は、回転部材に電源供給手段から電気を供給するものであり、回転部材と同期して回転する銅ロール32と、固定して配置されると共に電源供給手段と接続される銅板36と、上面が銅ロール32と摺動可能な状態で接触し、下面が銅板36に接触する滑り軸受16を備えている。係る構成により、電源供給手段から銅板36に供給された電流は、滑り軸受16を経由して銅ロール32に伝導する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転部材と電源供給手段とを接続するロータリコネクタおよびそれを備えたメッキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、回転する部材間で電力線や信号線を接続するためには、回転可能な接続を可能とするロータリコネクタが部材間の経路に介装されている。そして、ロータリコネクタとしては、スリップリング機構(下記特許文献1)と水銀接点を用いたもの(下記特許文献2)がある。
【0003】
特許文献1の図2を参照すると、スリップリング機構は、固定軸の外周部に設けたスリップリングと、回転軸の内周部に設けたブラシから構成されている。この機構により、固定軸の内部に挿入されたケーブルと、回転軸の外部に配置された制御ケーブルとが回転自在に接続される。
【0004】
特許文献2の図2を参照すると、水銀接点を使用したロータリコネクタの場合は、外筒の内部に回転自在な回転軸が備えられている。この回転軸の外周には環状溝が形成され、その底面に導電リングが収納されている。そして、この導電リングと対向する位置には外筒に係合する導電体が配置されており、環状溝に充填された水銀により、導電リングと導電体が接続されている。
【0005】
更に、特許文献3を参照すると、コイル体を接点として使用するロータリジョイントが開示されている。具体的には、この文献の図1および図2を参照して、外側筐体12の第1接続子16と内部筐体14の第2接続子18との間に、コイル接点34が配置される構成となっている。この様に、コイル接点34を介して両接続子を接続することにより、両接続子の接続状態が安定となり、結果的にチャタリングが低減されてノイズが抑制される利点がある。
【0006】
上記したロータリコネクタは、例えば、電解メッキ処理に使用されるメッキ装置に使用される(下記特許文献4)。具外的には、メッキ装置では、回転する給電ロールを使用して被メッキ部材である薄板ワークに給電してメッキ膜を形成している。そして、回転する給電ロールと外部の電源とは、ロータリコネクタを介して接続される。
【特許文献1】特開平05−175716号公報
【特許文献2】特開平10−222100号公報
【特許文献3】特開2007−165184号公報
【特許文献4】特開平10−53899号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記した特許文献1に記載された技術では、使用状況下に於いてリングに当接するブラシが摩耗してしまい、この摩耗により導電性の粉塵が排出されてしまう問題があった。
【0008】
また、特許文献2に記載された水銀を使用したロータリコネクタは、液状である水銀を介して接続が成されるので、摩耗等の問題が発生しないことから、現在一般的に使用されている。しかしながら、水銀はRoHS(特定有害物質の使用制限に関する欧州議会等の指令)で使用が制限されている物質であるので、この様な物質がロータリコネクタに内蔵されることは好ましくない。更に、水銀を内蔵するロータリコネクタが上記したメッキ装置に採用された場合、ロータリコネクタから漏出した水銀がメッキ液に混入すると、製品である被メッキ部材に有害な水銀が付着することとなる。また、回転部の転がり軸受けの磨耗・劣化により、ロータリコネクタを定期的に交換する必要があり、腐食性ガスの存在する環境では、その交換頻度を多くする必要がある。更に、水銀含有部品のため、廃棄時の処理費用が高額である点や、大電流を使用する用途には制約がある等の問題があった。
【0009】
更に、特許文献3に記載された技術であると、上記した特許文献1が有する問題は緩和されるが、構成が複雑であり部品点数が増加するため、ロータリコネクタの製造にかかるコストが増加する問題があった。
【0010】
本発明は上記した問題を鑑みて成されたものであり、本発明の主たる目的は、摩耗による種々の問題を解消すると共に水銀を使用しない低コストのロータリコネクタおよびそれを備えたメッキ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、回転部材に電源供給手段から電気を供給するロータリコネクタであり、前記回転部材と同期して回転する第1導電部材と、固定して配置されると共に前記電源供給手段と接続される第2導電部材と、一主面が前記第1導電部材に摺動自在な状態で接触し、他主面が前記第2導電部材に接触すると共に、導電性の材料から成る滑り軸受と、を備えることを特徴とする。
【0012】
更に本発明のメッキ装置は、上記構成のロータリコネクタを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のロータリコネクタによれば、回転部材と同期して回転する第1導電部材と、固定して配置される第2導電部材との間に、導電性材料から成る滑り軸受を配置している。このことにより、回転自在な滑り軸受を経由して第1導電部材と第2導電部材とが導通されると共に、第1導電部材が回転可能に配置される。従って、長期間に渡りロータリコネクタを使用しても、導電部材の摺動部の摩耗が極めて少ないので、接触抵抗の増加が抑制される。更に、有害な水銀を内蔵していないため、本発明のロータリコネクタは環境に対する悪影響が無い。
【0014】
更にまた、第1導電部材の自重により、その下面を滑り軸受の上面に押圧しているので、第1導電部材に作用する押圧力が長期間に渡り一定となり、両者の接触面の接触抵抗が低い状態で一定となる。更に、第1導電部材と滑り軸受とは面積に接触しているため、両者の接続面の接触抵抗が低く、通電しようとする電流量により、部品の大きさを選択し、前記接触面の面積を十分確保することができ、従来型の水銀を用いたロータリコネクタよりも大電流を流すことができる。
【0015】
更に、本発明のメッキ装置によれば、安定した品質のメッキ処理を低コスト且つ安全に行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の実施形態の一例を、図面に基づいて説明する。
【0017】
図1を参照して、先ず、本実施形態のロータリコネクタ10の構成を説明する。この図はロータリコネクタ10を、回転軸の方向に分解して示した斜視図である。実際の使用状況下に於いては、銅ロール32、滑り軸受16および銅板36は、密着して使用される。
【0018】
図1を参照して、本実施形態のロータリコネクタ10は、回転可能に構成された回転部材を電源供給手段と電気的に接続するものである。具体的には、ロータリコネクタ10は、回転部材と同期して回転する第1導電部材である銅ロール32と、固定して配置されると共に外部に位置する電源供給手段と接続される第2導電部材である銅板36と、上面が銅ロール32と摺動自在な状態で接触し、下面が銅板36に接触して導電性材料から成る滑り軸受16とを備えた構成と成っている。係る構成の本実施形態のロータリコネクタ10により、電源供給手段と回転部材とは、銅板36、滑り軸受16および銅ロール32を経由して接続される。
【0019】
銅ロール32は、モーターなどの駆動手段により回転する回転部材と同期して回転する部位であり、例えば銅または銅合金を円筒状(ロール状)に成形したものである。銅ロール32の下面は滑り軸受16との摩擦抵抗を小さくするために、平滑な平坦面とされている。また、銅ロール32を軸方向に貫通して設けられる略円筒状の空洞部の直径は、この部位に挿入される回転部材の直径よりも大きく設定されている。更に、銅ロール32の内壁を部分的に切り欠いて形成した切欠き部12が設けられており、回転する回転部材の突出部に切欠き部12が嵌合することで、銅ロール32は回転部材と同期して回転する。
【0020】
銅板36は、ロータリコネクタ10が備えられる装置に固定されており、外部の電源装置や制御装置に接続されて電流が供給される。銅板36は、銅を主体とする金属を板状に成形したものである。
【0021】
滑り軸受16は、銅ロール32と銅板36との間に位置して両者を電気的に接続させる接続体であり、真鍮等の金属を円環状に形成したものである。滑り軸受16の上面は摺動可能な状態で銅ロール32に面的に接触し、下面は銅板36の上面に面的に接触している。滑り軸受16を構成する金属の厚み方向に孔部が設けられており、この孔部には固体潤滑材18が埋め込まれている。固体潤滑材18は導電性を備えており、カーボンから成る導電性の粉末が混入されている。また、滑り軸受16は、ネジ止め等の固定手段により銅板36の上面に固着されている。この様にすることで、滑り軸受16の下面は銅板36の上面に接触した状態で固定される。一方、滑り軸受16は銅ロール32に対しては固定されておらず、使用状況下では両者は摺動しつつ接触する。
【0022】
更に、滑り軸受16の材料としては、銅ロール32の材料よりも耐摩耗性が低い材料が好適である。本実施形態では、銅ロール32は銅を主体とする金属から成り、滑り軸受16は銅と亜鉛との合金である真鍮が採用されており、滑り軸受16は銅ロール32よりも耐摩耗性が低い。この様に構成することで、銅ロール32と滑り軸受16とを摺動させると、滑り軸受16の摩耗量が相対的に大きくなる。従って、滑り軸受16を消耗品と見なして定期的に交換することでロータリコネクタ10のメンテナンスを行うことができる。更に、滑り軸受16が摩耗することにより、厚み方向に埋設された固体潤滑材18が滑り軸受16の上面に好適に供給される利点もある。更には、相対的に耐摩耗性に優れた銅ロール32の摩耗を抑止して、自重により滑り軸受16に押圧される銅ロール32の質量の変化が抑止される。
【0023】
上記した銅ロール32の下面は、銅ロール32の自重により、滑り軸受16の上面に接触されている。具体的には、銅ロール32は不図示の回転部材と共に回転するが、重力が作用する上下方向には位置は固定されておらず移動自在な状態とされている。また、銅ロール32は、比重が大きい銅から成るので、大きな重力が作用する。従って、回転する銅ロール32の下面は、常に一定の重力により滑り軸受16の上面に押圧されることとなり、両者の接触抵抗の変化が抑制され、良好な導通が長期間に渡り保証される。一方、押圧力を発生させる押圧手段としてはバネが代表的であるが、バネは長期間の使用により押圧力が劣化する恐れがあるので、銅ロール32と滑り軸受16との接触抵抗が増大する恐れがある。
【0024】
また、上記した銅ロール32、滑り軸受16および銅板36には、重畳した位置に貫通孔が設けられ、これらの貫通孔には回転部材の一部が挿入されて使用される。
【0025】
上記した構成のロータリコネクタ10では、先ず、従来例のようにブラシが使用されず、滑り軸受16の上面と銅ロール32の下面とで摺動面が構成されている。従って、摺動する部材の劣化が抑制される。更には、摺動により滑り軸受16の上面が摩耗したとしても、摩耗後でも滑り軸受16の上面は平坦性が確保されるので、銅ロール32と滑り軸受16との接触部の抵抗値の増大が抑制される。
【0026】
更に、滑り軸受16は銅ロール32よりも耐摩耗性が低い材料から成る。従って、滑り軸受16の上面に載置された銅ロール32が回転すると、銅ロール32よりも滑り軸受16の方が優先的に摩耗する。このことから、ロータリコネクタ10を長期間連続して使用しても、銅ロール32の摩耗は少なく質量の変化が小さいので、銅ロール32に作用する重力は基本的には変化しない。従って、本実施形態では、銅ロール32に作用する重力により、銅ロール32の下面を滑り軸受16の上面に押圧しているので、この押圧力が長期間に渡り一定となり、両者の接触面の接触抵抗が一定となる。
【0027】
更に、ロータリコネクタ10では、従来例の如き水銀等の有害物質を構成要素としていないので、環境規則に適合した構成が実現されている。
【0028】
図2を参照して、上記したロータリコネクタ10が組み込まれたメッキ装置44の構成を説明する。図2(A)はメッキ装置44の一部を示す図であり、図2(B)はメッキ装置に備えられるロータリコネクタ10の取り付け構造を示す図である。
【0029】
図2(A)を参照して、電解メッキを行うメッキ装置44は、貯留されたメッキ液22にワーク24が浸漬されるメッキ槽20と、メッキ槽20の近傍に設けられて回転しつつワーク24に接触する給電ロール28と、メッキ液22と給電ロール28に電流を供給する電源14とを主要に備えた構成と成っている。係る構成のメッキ装置44により、電解メッキ処理が行われ、ワーク24の表面にメッキ膜が被着される。
【0030】
ワーク24は、厚みが数十μm〜数百μm程度の銅等の金属から成る金属箔であり、5cm〜数十cm程度の幅で長さが数千メートル程度である。ワーク24の両端は不図示のリールに巻回して収納される。そして、メッキ処理が行われるときは、ワーク24が一方のリールから送り出され、メッキ処理を行ったワーク24は他方のリールに巻き取られる。ここで、ワーク24は、選択的なメッキ処理を行うために、マスクにより表面が部分的に被覆された状態でも良いし、マスクにより被覆されずに全面的にメッキ処理が施されても良い。
【0031】
メッキ槽20は、ワーク24の進行方向に対して細長い形状の槽であり、その内部にはメッキ液22が貯留されている。更に、メッキ槽20の内部には、ニッケル、銅等の電着用金属が浸漬されており、この電着用金属は電源の陽極と接続される。また、メッキ槽20の側壁を部分的に開口することで、ワーク24が通過可能なスリットが形成されている。更に、メッキ槽20の側面に設けられたスリットとワーク24との間には、メッキ液22の流出を抑制するためのパッキンが介装される。
【0032】
給電ロール28は、メッキ槽20を挟んだワーク24の輸送経路の前後に設けられている。移動するワーク24に給電ロール28が回転しつつ接触することで、両者は摩擦が殆ど無い状態で接触される。給電ロール28の下方には上記した構成のロータリコネクタ10が備えられており、ロータリコネクタ10を経由して電源14の陰極と給電ロール28とが接続される。
【0033】
電源14(電源供給手段)は、メッキ装置に対して直流電流を供給する機能を有し、陽極がメッキ液22に接続され、陰極がロータリコネクタ10を経由して給電ロール28に接続されている。電源14からは、例えば2A〜50A程度の大電流が供給される。
【0034】
給電ロール28は、メッキ槽20の両側に、ワーク24を狭持可能なように3つがそれぞれ設けられている。メッキ槽20の左右それぞれに於いて、2つの給電ロール28が紙面上にて手前側からワーク24の主面に接触し、中央部の1つの給電ロール28は、紙面上にて奥側からワーク24の主面に接触している。ここで、全ての給電ロール28が電源14と接続される必要はなく、例えば中央に位置する給電ロール28を電源と接続せずに単にロールとして使用し、両端の給電ロール28から電流をワーク24に供給しても良い。
【0035】
図2(B)を参照して、円柱状の導電性材料から成る給電ロール28(回転部材)の下端からは、金属を細長い円柱状に形成したシャフト30が下方に延在し、このシャフト30にロータリコネクタ10が接続されている。従って、給電ロール28は、シャフト30およびロータリコネクタ10を経由して、電源14(図2(A)参照)と接続されている。
【0036】
シャフト30は、ロータリコネクタ10を構成する銅ロール32、滑り軸受16および銅板36を貫通して延在している。そして、シャフト30の途中には不図示のギアが介装され、このギアを介してモータの駆動力が伝達されてシャフト30および給電ロール28が所定の回転速度で回転される。シャフト30の外周部には、図1に示す銅ロール32の切欠き部12と嵌合する突出部が設けられているので、シャフト30および給電ロール28が回転すると、それらと共に銅ロール32も同期して回転する。一方、滑り軸受16および銅板36は、シャフト30と共に回転するのではなく、支持板34に固定して配置されている。従って、メッキ装置44を稼働させて給電ロール28およびシャフト30を回転させると、銅ロール32は滑り軸受16の上面に載置された状態で回転する。そして、電源14から供給された電流は、ロータリコネクタ10(銅板36、滑り軸受16、銅ロール32)およびシャフト30を経由して銅ロール32に供給される。
【0037】
ここでは、ロータリコネクタ10の構成要素は、支持板34に組み込まれている。この支持板34は、ベークライト系の樹脂材料等から成り、銅ロール32や滑り軸受16を収容可能な大きさの開口部38が設けられている。そして、銅板36は、開口部38を塞ぐように、支持板34の下面側に固定されている。銅板36の上面に固着された滑り軸受16は、支持板34の開口部38に収納されており、銅ロール32は支持板34の上面から滑り軸受16に接触するように組み込まれている。ここで、支持板34には2つの開口部38が設けられ、各々の開口部38にロータリコネクタ10が備えられている。また、各々の開口部38に対して配置された銅板36は、配線46を介して電気的に接続されている。この様にすることで、2つのロータリコネクタ10を、1つのモジュールとして取り扱うことが可能となり、ロータリコネクタ10のメンテナンス、据え付けおよび交換を容易にすることができる。
【0038】
図3を参照して、ロータリコネクタ10が組み込まれた支持板34の構成を更に説明する。図3(A)は支持板34を部分的に示す平面図であり、図3(B)はその断面図である。
【0039】
図3(A)および図3(B)を参照して、支持板34に設けられる開口部38は、内部に収納される滑り軸受16や銅ロール32よりも直径が大きな円形の形状を備えている。この様に構成することで、回転する銅ロール32が支持板34の開口部38の側壁に接触してしまうことが防止される。更には、銅ロール32の滑り軸受16との接触面から発生した粉塵が開口部38の周辺部に排出され、この粉塵が両者の界面に残留することが防止される。
【0040】
また、銅板36の4隅はビス等の固定手段により支持板34の下面に固定されているが、図3(B)を参照すると、銅板36の上面と支持板34とは密着されるのではなく、両者は離間されている。この様にすることで、銅ロール32と滑り軸受16との摺動面から発生した導電性の粉塵を、銅板36と支持板34の間隙から外部に放出させることができる。
【0041】
更に、銅ロール32には、軸方向に挿入されるシャフト30の側面を押圧して、シャフト30を銅ロール32の内壁に接触させる押圧ピン26(押圧手段)が備えられている。具体的には、図3(B)を参照して、押圧ピン26は、銅ロール32を中心方向(径方向)に対して貫通して設けられた貫通孔に収納されている。そして、押圧ピン26の先端部は、銅ロール32の内壁よりも内側に突出してシャフト30の側面に接触している。押圧ピン26は内蔵されたバネにより付勢されているので、押圧ピン26が接触する部分とは対向する側のシャフト30の側面は、銅ロール32の内壁に接触する。図3(A)を参照すると、切欠き部12に対向するように2つの押圧ピン26が設けられている。従って、押圧ピン26の押圧力によりシャフト30の側面は、銅ロール32の内壁の一部である切欠き部12に押圧される。
【0042】
本実施形態では、銅ロール32の自重により銅ロール32の下面を滑り軸受16の上面に押圧させているので、銅ロール32はシャフト30に対して上下方向に移動自在である必要がある。このことから、シャフト30の直径は、銅ロール32の内壁の直径よりも小さくしてあり、結果的にシャフト30と銅ロール32との間には間隙が生じる。しかしながら、その間隙をそのままの状態にしておくと、シャフト30および銅ロール32の回転時に、両者が接触する面積が狭くなり、スパークが発生する恐れがある。このことを回避するために本実施形態では、銅ロール32に押圧ピン26を設け、この押圧ピン26でシャフト30の側面を銅ロール32の内壁に当接させている。この様にすることで、回転時に於いてもシャフト30と銅ロール32とが接触する面積が一定に保たれ、両者の導通が良好に確保される。
【0043】
上記した構成のメッキ装置44によれば、滑り軸受16を備えたロータリコネクタ10が安定して抵抗値が低いため、電解メッキ処理により成膜されるメッキ膜の品質が向上される。更に、ロータリコネクタ10は、長期間に渡りメンテナンス無しで使用できるため、メッキ装置のメンテナンスの頻度を少なくしてコストを低減させることができる。
【0044】
次に、図4を参照して、上記したロータリコネクタ10を備えた給電ロール28を実際に稼働させた実施例と比較例とを以下に説明する。図4(A)は実施例を示す図であり、図4(B)は第1比較例および第2比較例を示す図であり、図4(C)は第3比較例を示す図であり、図4(D)は第4比較例を示す図である。ここで、使用された銅ロール32は、直径が60mmであり、高さが50mmの円筒状であり、その重量は0.96kgfである。
【0045】
実施例の条件は、図4(A)を参照して、先ず、滑り軸受16を介在させた銅ロール32および銅板36からロータリコネクタ10が構成されている。滑り軸受16としては、高力黄銅合金に固体潤滑剤を埋め込んだ軸受け(株式会社オイレス工業製スラストワッシャーSPW−3005)が使用されている。そして、湿式めっき設備の給電ロール28および銅ロール32を40rpmで回転させ、電流量45.0Aで給電ロール28に給電した。この時の、ロータリコネクタ10の銅板36と、めっき槽中のめっき液間との抵抗値を測定したところ、0.05Ωであった。
【0046】
その後、40rpmで給電ロール28を回転させ、給電ロール28への電流量45.0Aで給電をおこなう運転を、平均16時間/日で運転をおこなった。この運転開始の30日後および180日後に、前記方法で抵抗値を測定したところ、いずれも電流量45.0Aで0.05Ωであり、抵抗値の増加は認められなかった。
【0047】
更に、前記運転開始の180日後に、ロータリコネクタ10を分解して確認したところ、銅ロール32と軸受16の摺動面が黒く変色していたが、磨耗粉体の排出は認められなかった。上記により、本実施の形態のロータリコネクタ10は、抵抗値の増加がなく、磨耗粉体の排出がない状態をメンテナンスなしで6ヶ月間以上保つことが可能であることを確認した。
【0048】
比較例1では、図4(B)を参照して、滑り軸受16が使用されていない。即ち、この図に示すロータリコネクタ10Aは、銅ロール32の下面は直に銅板36の上面に接触している。そして、他の条件は上記した実施例と同様で抵抗値の測定を行ったら、電流量45.0Aで抵抗値は0.05Ωであった。
【0049】
比較例2は、上記比較例1の条件で10時間運転を行った状態である。運転開始時の運転開始の10時間後にロータリコネクタ10Aから異音および振動が発生したために運転を停止した。ロータリコネクタ10Aを分解して確認したところ、銅板36および銅ロール32の表面が削れており、凹凸が生じていた。実施例と同じ方法で測定した抵抗値は、電流量45.0Aで0.18Ω〜∞の間を変動していた。このため、以降の運転を中止した。即ち、図4(B)に示すロータリコネクタ10Aでは、銅ロール32の下面および銅板36の上面が短時間で摩耗して粗面となり、抵抗値の上昇することを確認した。
【0050】
比較例3は、図4(C)を参照して、比較例2に導電性のグリース40を適用させた構成である。即ち、この図に示すロータリコネクタ10Bでは、滑り軸受16を用いずに、銅ロール32と銅板36との間に導電性フッ素から成るグリース40(住鉱潤滑剤株式会社製スミテックF970)1gを塗布している。他は実施例と同じ方法で抵抗値の測定を行った。運転開始時の抵抗値は電流量45.0Aで0.05Ωであり、運転開始の30日後の抵抗値は、電流量45Aで0.05Ωであった。運転開始の35日後にロータリコネクタ10Bから異音がしたために運転を停止し、ロータリコネクタ10Bを分解し、確認したところ、グリースが偏在していた。そして、このときの電流量45.0Aでの抵抗値は0.18Ωと上昇していたため、以降の運転を中止した。結果的に、この方法では、実施例と比較してメンテナンス頻度を多くする必要があった。
【0051】
比較例4は、図4(D)を参照して、水銀を使用したロータリコネクタ42(USAメルコタック社製ロータリーコネクタ1250−SS)を用いている。他の条件は実施例と同じ方法で抵抗値の測定を行った。運転開始時では電流量45.0Aで抵抗値が0.05Ωであり、運転開始の30日後および180日後ともに、電量流45.0Aで抵抗値は0.05Ωであり、抵抗値について、実施例の結果と差は見られなかった。
【0052】
更に、上記した実施例、比較例1、比較例2、比較例3および比較例4のそれぞれに関して、整流器(電源装置)から供給される電流値を、2.4A、3.6A、12.0Aに変化させて、上記抵抗値を測定した。この結果を図5に示す。
【0053】
実施例によれば、ロータリコネクタに供給される電流値を変化させても、抵抗値の増大は見受けられなかった。また、実施例の抵抗値は、水銀接点コネクタを使用した比較例4とほぼ等しい値を示しているので、本実施形態のロータリコネクタは、水銀を使用したコネクタに準じた性能を備えていると判断できる。
【0054】
比較例1によれば、各電流値に於いて実施例と同等の抵抗値が計測されているが、比較例1の装置を稼働させた後の比較例2の結果を見ると、抵抗値は増大している。特に、電流値が12.0Aの際の比較例2の抵抗値は極めて大きくなっている。従って、比較例1に示された構成のロータリコネクタは、実用に耐え得ないと判断される。
【0055】
比較例3によれば、各電流値において実施例と同等の抵抗値を示している。しかしながら、上記したように比較例3によれば、定期的なグリースの塗布が必要とされているので、メンテナンスに必要とされるコストが高くなる問題がある。
【0056】
また、比較例4の結果は実施例と同等の値を示しているが、この例では有害な水銀がコネクタに含まれるため、コネクタ自体が将来的に使用不可となる恐れがある。
【0057】
上記の実験結果から、滑り軸受を採用した本実施形態のロータリコネクタは、水銀接点を備えた一般的なロータリコネクタの代替として使用することが可能なことが明らかとなった。
【0058】
尚、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、ロータリコネクタに要求される性能を備えることができれば以下のように変更可能である。
【0059】
図1を参照すると、滑り軸受16はネジ止めにより銅板36の上面に固定されているが、必ずしも滑り軸受16は銅板36に対して固定される必要はなく、滑り軸受16を銅板36に固定せずに載置するのみでも良い。係る構成によっても、銅ロール32と銅板36の間に介装される滑り軸受16により、両者は回転自在な状態で電気的に接続される。
【0060】
更に、図1に示す滑り軸受16は円環状の形状を呈するが、滑り軸受16を円盤状の形状とすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明のロータリコネクタを分解した状態で示す斜視図である。
【図2】(A)は本発明のロータリコネクタを備えたメッキ装置の概要を示す図であり、(B)はメッキ装置の一部分を示す図である。
【図3】本発明のロータリコネクタが備えられた支持板を示す図であり、(A)は平面図であり、(B)は断面図である。
【図4】(A)は本発明のロータリコネクタの実施例を示す図であり、(B)(C)および(D)は比較例のロータリコネクタを示す図である。
【図5】実施例および比較例に対して行った実験結果を示す表である。
【符号の説明】
【0062】
10、10A、10B ロータリコネクタ
12 切欠き部
14 電源
16 滑り軸受
18 固体潤滑材
20 メッキ槽
22 メッキ液
24 ワーク
26 押圧ピン
28 給電ロール
30 シャフト
32 銅ロール
34 支持板
36 銅板
38 開口部
42 ロータリコネクタ
44 メッキ装置
46 配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転部材に電源供給手段から電気を供給するロータリコネクタであり、
前記回転部材と同期して回転する第1導電部材と、
固定して配置されると共に前記電源供給手段と接続される第2導電部材と、
一主面が前記第1導電部材に摺動自在な状態で接触し、他主面が前記第2導電部材に接触すると共に、導電性の材料から成る滑り軸受と、を備えることを特徴とするロータリコネクタ。
【請求項2】
前記第1導電部材の自重により、前記第1導電部材が前記滑り軸受の一主面に押圧されて面的に接触することを特徴とする請求項1記載のロータリコネクタ。
【請求項3】
前記第1導電部材は、重力が作用する方向に移動可能な状態で、前記回転部材に対してその回転方向に固定されることを特徴とする請求項1記載のロータリコネクタ。
【請求項4】
前記滑り軸受を構成する材料は、前記第1導電部材よりも耐摩耗性が低いことを特徴とする請求項1記載のロータリコネクタ。
【請求項5】
前記第1導電部材は銅または銅合金から成り、前記滑り軸受は真鍮から成ることを特徴とする請求項4記載のロータリコネクタ。
【請求項6】
前記滑り軸受を厚み方向に設けた孔部に潤滑材が埋設されることを特徴とする請求項1記載のロータリコネクタ。
【請求項7】
前記第1導電部材は円筒状の形状を備え、
前記第1導電部材を軸方向に貫通する前記回転部材を径方向に押圧して、前記第1導電部材の側面を前記第1導電部材の内壁に接触させる押圧手段を前記第1導電部材に設けることを特徴とする請求項1記載のロータリコネクタ。
【請求項8】
前記滑り軸受は前記第2導電部材に固定され、
前記第1導電部材が前記滑り軸受の一主面に対して摺動自在であることを特徴とする請求項1記載のロータリコネクタ。
【請求項9】
請求項1に記載のロータリコネクタを備えることを特徴とするメッキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−238473(P2009−238473A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−80951(P2008−80951)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(507027162)DOWAテクノロジー株式会社 (11)