説明

ローリングダイヤフラムおよび空気圧シリンダ装置

【課題】 良好な作業環境下に簡単な操作で製造することができ、これを備えてなる空気圧シリンダ装置において、コンボリューション部の噛み込み現象の発生を確実に防止することができ、これを備えてなる空気圧シリンダ装置をクリーンルームなどの清浄な環境下においても作動させることができるローリングダイヤフラムを提供すること。
【解決手段】 空気圧シリンダ装置の隔膜を構成するローリングダイヤフラムであって、膜部11とコンボリューション部12と周縁部13とを有し、少なくとも、コンボリューション部12の低圧側における表面がシリコーン系樹脂溶液によって処理されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローリングダイヤフラム、およびこれを備えた空気圧シリンダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空気圧シリンダ装置を構成する変形可能な隔膜として、ローリングダイヤフラムが知られている。ここに、本出願人は、ローリングダイヤフラムを備えた空気圧シリンダ装置を提案している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図2および図3は、それぞれ、空気圧シリンダ装置の内部構造を示す断面図であり、図2はピストンが最下位にある状態を示し、図3はピストンが最上位にある状態を示している。なお、上下の概念は、説明の都合上定めたものであり、実際に使用する際には、上下が逆になったり、ピストンが水平に移動したりすることもある。
【0004】
図2および図3において、20はシリンダ、21および22はシリンダ20を構成する円筒状のケーシング、23は、ケーシング22に設けられた空気導入孔、24はピストン、25はピストンロッド、26はリテーナ、27はバネである。30はローリングダイヤフラムであり、ローリングダイヤフラム30は、膜部31とコンボリューション部32と周縁部33とを有している。ローリングダイヤフラム30の膜部31は、リテーナ26によってピストン24の端面241に固定されている。
【0005】
図2に示した状態において、シリンダ20の内部空間(ローリングダイヤフラム30によって仕切られた上方空間SA および下方空間SB )の圧力は大気圧になっている。
また、ピストン24は、バネ27による下向きの付勢力を受けて下側のケーシング22内(最下位)に位置している。このとき、ローリングダイヤフラム30のコンボリューション部32は、ほぼ全ての表面が、ピストン24の側面242に接触している。
【0006】
図2に示した状態から、ケーシング22の空気導入孔23から圧縮空気を供給すると、シリンダ20およびローリングダイヤフラム30によって区画された下方空間SB が加圧状態(例えば0.1〜1MPa)となり、ピストン24の端面241に上向きの力(バネ27による付勢力よりも大きい力)が作用し、バネ27の付勢力に抗してピストン24(ピストンロッド25)が上昇する。
【0007】
ピストン24の上昇に伴い、ローリングダイヤフラム30のコンボリューション部32の表面は、ピストン24の側面242から徐々に離れてシリンダ20(ケーシング21)の内壁面に接触し、コンボリューション部32の折り返し部分が上昇する。このようにして、ローリングダイヤフラム30が反転することになる。
ピストン24の上昇は、その上端面243がケーシング21の内壁(端面)に当接することによって停止し、図3に示したようにピストン24が最上位に至る。
【0008】
図3に示した状態において、シリンダ20の上方空間SA の圧力は大気圧(低圧)となり、下方空間SB は加圧状態(高圧)となっている。従って、図2および図3に示す空気圧シリンダ装置において、上側が「低圧側」であり、下側が「高圧側」である。
また、ピストン24は、下方空間SB の圧力により上側のケーシング21内(最上位)に位置している。このとき、ローリングダイヤフラム30のコンボリューション部32は、その一部の表面がケーシング21の内壁面と接触し、その他の部分においてピストン24の側面242に接触している。
【0009】
図3に示した状態から、下方空間SB の圧縮空気を抜いて、その圧力を大気圧に戻すと、バネ27の付勢力によりピストン24(ピストンロッド25)が下降する。
【0010】
ピストン24の下降に伴い、ローリングダイヤフラム30のコンボリューション部32の表面は、シリンダ20(ケーシング21)の内壁面にから徐々に離れてピストン24の側面242に接触し、コンボリューション部32の折り返し部分が下降する。このようにして、ローリングダイヤフラム30が再び反転することになる。
ピストン24の下降は、リテーナ26がケーシング22の内壁に当接することによって停止し、図2に示したように、ピストン24が最下位にある状態に戻る。
【特許文献1】特開2001−99109号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のように、空気圧シリンダ装置におけるローリングダイヤフラムの変形(反転)は、シリンダの内壁面とピストンの側面との間隙を、コンボリューシン部の折り返し部分が移動することにより行われる。
しかし、シリンダの内壁面と、ピストンの側面との間隙はきわめて狭いために、空気圧シリンダ装置の作動中に、ローリングダイヤフラムのコンボリューション部が、前記間隙に噛み込まれることがある(以下、これを「コンボリューション部の噛み込み現象」という。)。
【0012】
図4は、コンボリューション部の噛み込み現象が発生したときの空気圧シリンダ装置の内部を示す断面図であり、シリンダ20(ケーシング21およびケーシング22)の内壁面とピストン24の側面242との間隙にコンボリューション部32が噛み込まれ、ピストン24の移動(昇降)が不可能になっている。そして、一度噛み込まれたローリングダイヤフラム30(コンボリューション部32)は元の形状に復元することはできない。
【0013】
特に、ローリングダイヤフラム30が、低圧側(上方空間SA 側)に偏在する補強布を内蔵する場合には、低圧側の表面(上方空間SA に対向し、シリンダ20の内壁面およびピストン24の側面242に接触する表面)に布目があらわれるため潤滑性が損なわれやすく、コンボリューション部の噛み込み現象が発生しやすい。
【0014】
コンボリューション部の噛み込み現象を防止する手段として、シリンダの内壁面およびピストンの側面と接触するコンボリューション部の表面(低圧側の表面)に、モリブデングリスなどのグリスを塗布して潤滑性を付与することが考えられる。
【0015】
しかし、グリスが塗布されているローリングダイヤフラムを備えた空気圧シリンダ装置を作動させると、グリス成分(例えばモリブデン粉末)の飛散が起こり周囲の環境を汚染するという問題があり、そのような空気圧シリンダ装置をクリーンルームなどの清浄な環境下で使用することはできない。
また、グリスの塗布では、潤滑性の付与効果を長期にわたり維持することができず、ローリングダイヤフラムの使用寿命(例えば、摺動回数が往復1000万回以上)に至る前にグリス切れとなり、この状態で作動を継続すると、コンボリューション部の噛み込み現象が発生してしまう。
さらに、グリスの塗布は煩雑であるとともに、作業環境の観点からも好ましくない。
【0016】
本発明は以上のような事情に基いてなされたものである。
本発明の目的は、良好な作業環境下に簡単な操作で製造することができ、これを備えてなる空気圧シリンダ装置において、コンボリューション部の噛み込み現象の発生を確実に防止することができ、これを備えてなる空気圧シリンダ装置をクリーンルームなどの清浄な環境下においても作動させることができるローリングダイヤフラムを提供することにある。
本発明の他の目的は、コンボリューション部の噛み込み現象の発生を確実に防止することができ、クリーンルームなどの清浄な環境下においても作動させることができる空気圧シリンダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のローリングダイヤフラムは、空気圧シリンダ装置の隔膜を構成するローリングダイヤフラムであって、膜部とコンボリューション部と周縁部とを有し、少なくとも、前記コンボリューション部の低圧側における表面がシリコーン系樹脂溶液により処理されていることを特徴とする。
ここに、「低圧側における表面」とは、ローリングダイヤフラムを空気圧シリンダ装置に装着したときに、低圧側の内部空間に対向する表面をいい、具体的には、シリンダの内壁面およびピストンの側面と接触する表面をいう。
【0018】
本発明のローリングダイヤフラムにおいて、前記シリコーン系樹脂溶液が、(A)ポリオルガノシロキサン、ポリオルガノ水素シロキサンおよびシリコーン微粒子を含む主剤と、(B)エポキシ変性シリコーンおよびシランカップリング剤を含む硬化剤と、(C)スズ系触媒を含む触媒溶液と、(D)希釈溶剤とを混合してなることが好ましい。
【0019】
本発明のローリングダイヤフラムは、低圧側に偏在して内蔵された補強布を有するものであることが好ましい。
【0020】
本発明の空気圧シリンダ装置は、本発明のローリングダイヤフラムを備えてなることを特徴とする。
本発明の空気圧シリンダ装置は、クリーンルームまたはクリーンブース内で好適に使用される。
【発明の効果】
【0021】
(1)本発明のローリングダイヤフラムは、良好な作業環境の下に簡単な操作で製造することができる。本発明のローリングダイヤフラムを備えた空気圧シリンダ装置によれば、コンボリューション部の噛み込み現象の発生を確実に防止することができるとともに、クリーンルームなどの清浄な環境下においても作動させることができる。
(2)本発明のローリングダイヤフラムを得るために施される表面処理は、低圧側に偏在して内蔵された補強布を有するローリングダイヤフラムにおいて特に効果的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明について詳細に説明する。
<ローリングダイヤフラムの構造>
図1は、本発明のローリングダイヤフラムの一例を示す断面図である。このローリングダイヤフラム10は、空気圧シリンダ装置の隔膜を構成するものであって、外側に偏在する補強布15を内蔵し、膜部11と、コンボリューション部12と、フランジ状の周縁部13と、ビート部14とが一体的に成形(成型)された帽子状のゴム成型品である。
ここに、寸法としては、例えば、内径が5〜1000mm、高さが10〜200mm、コンボリューション部12の肉厚が0.3〜5mmである。
【0023】
ローリングダイヤフラム10を構成するゴム(原料ゴム)としては特に限定されるものではなく、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、スチレンブタジエンゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、アクリルゴム、エピクロロヒドリンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、フロロシリコーンゴムなどを例示することができる。
【0024】
補強布15は、外側に偏在して内蔵されており、ローリングダイヤフラム10の外表面には補強布15の布目があらわれている。補強布15の材質としては、特に限定されるものではなく、通常のローリングダイヤフラムに使用されている合成繊維(例えばポリエステル、ポリアミド)からなる布などを使用することができる。補強布15の厚さとしては、コンボリューション部12の肉厚の20〜50%であることが好ましい。補強布15が内蔵されていることによって、ローリングダイヤフラム10において所期の耐圧性を確保することができる。
【0025】
図1に示したローリングダイヤフラム10の外表面はシリコーン系樹脂溶液により処理されている。シリコーン系樹脂溶液により処理される「外表面」は、ローリングダイヤフラム10を空気圧シリンダ装置に装着したときに、低圧側の内部空間(図2および図3における上方空間SA )に対向する表面であり、具体的には、シリンダの内壁面およびピストンの側面と接触する表面である。
【0026】
シリコーン系樹脂溶液としては、ローリングダイヤフラム10の外表面に潤滑性を付与することができるものであれば特に限定されるものではないが、硬化性の樹脂溶液であることが好ましい。
【0027】
ここに、好適なシリコーン系樹脂溶液としては、ポリオルガノシロキサン、ポリオルガノ水素シロキサンおよびシリコーン微粒子を含む主剤と、エポキシ変性シリコーンおよびシランカップリング剤を含む硬化剤と、スズ系触媒を含む触媒溶液と、希釈溶剤とを混合してなる二液硬化型の樹脂組成物(以下、「特定のシリコーン系樹脂溶液」という。)を挙げることができる。
【0028】
主剤に含有されて特定のシリコーン系樹脂溶液を構成する「ポリオルガノシロキサン」としては、直鎖状のポリアルキルシロキサンを挙げることができる。
直鎖状のポリアルキルシロキサンとしては、ジメチルポリシロキサン、ジエチルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサンなどを例示することができるが、これらに限定されるものではない。
また、オクタメチルシクロテトラシロキサンなどの環状ポリアルキルシロキサンを使用することもできる。
【0029】
さらに、「ポリオルガノシロキサン」として、シラノール基により両末端が封鎖されているポリオルガノシロキサン、ケイ素原子に結合しているアルケニル基を少なくとも2個有するポリオルガノシロキサンなど、ヒドロシリル基(≡Si−H)との反応性のある基を有するものを挙げることができる。
ここに、「ケイ素原子に結合しているアルケニル基」としては、ビニル基、アリル基、ブチニル基、ヘキセニル基などを例示することができる。
【0030】
主剤に含有される「ポリオルガノ水素シロキサン」としては、ヒドロシリル基(≡Si−H)を1分子中に2個以上有するポリアルキル水素シロキサンを例示することができる。
【0031】
主剤に含有される「シリコーン微粒子」としては、ポリメチルシルセスキオキサンからなる微粒子を例示することができる。
【0032】
上記のポリオルガノシロキサン、ポリオルガノ水素シロキサンおよびシリコーン微粒子は、通常、有機溶剤に溶解された状態で主剤中に含有される。
主剤を構成する有機溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、クロロホルム、酢酸エチル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、シクロヘキサノン、アセトン、メチルエチルケトンなどを例示することができ、これらは単独で、または2種類以上を混合して使用することができる。これらのうち、キシレンおよびエチルベンゼンが好ましい。
【0033】
特定のシリコーン系樹脂溶液を得るために使用する主剤の市販品としては、シリコーン溶液「HS−4」(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)を挙げることができる。
【0034】
硬化剤に含有されて特定のシリコーン系樹脂溶液を構成する「エポキシ変性シリコーン」としては、エポキシ変性ジメチルポリシロキサン、エポキシ変性ジエチルポリシロキサン、エポキシ変性ジフェニルポリシロキサン、エポキシ変性メチルフェニルポリシロキサンなどを例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
硬化剤に含有される「シランカップリング剤」としては、加水分解性基と、有機官能基とを分子中に有する公知の化合物を挙げることができる。
ここに、加水分解性基としては、アルコキシシリル基、アルコキシアルコキシシリル基を例示することができ、有機官能基としては、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、ビニル基などを例示することができる。
【0036】
上記のエポキシ変性シリコーンおよびシランカップリング剤は、通常、有機溶剤に溶解された状態で硬化剤中に含有される。
硬化剤を構成する有機溶剤としては、主剤を構成するものとして例示したものを挙げることができ、それらのうち、イソプロピルアルコールが好ましい。
【0037】
特定のシリコーン系樹脂溶液を得るために使用する硬化剤の市販品としては、シリコーン溶液「XC9603」(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)を挙げることができる。
【0038】
触媒溶液に含有されて特定のシリコーン系樹脂溶液を構成する「スズ系触媒」としては、ジメチルスズジアセテート、ジブチルスズジオクタノエート、ジブチルスズジラウレートなどのジアルキルスズジカルボキシレート類、ジブチルスズジブトキシド、ジオクチルスズジブトキシドなどのジアルキルスズジアルコキシド類、ジブチルスズジ(チオブトキシド)などのジアルキルスズジチオアルコキシド類、ジ(2−エチルヘキシル)スズオキサイド、ジオクチルスズオキサイド、ビス(ブトキシジブチルスズ)オキサイドなどのジアルキルスズ酸化物類、ジブチルスズスルフィドなどのジアルキルスズ硫化物類に代表されるジアルキルスズ化合物を例示することができる。
触媒溶液を構成する有機溶剤としては、主剤を構成するものとして例示したものを挙げることができ、それらのうち、トルエンが好ましい。
【0039】
特定のシリコーン系樹脂溶液を得るために使用する触媒溶液の市販品としては、「YC6831」(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)を挙げることができる。
【0040】
特定のシリコーン系樹脂溶液を得るために使用する希釈溶剤としては、主剤を構成するものとして例示したものを挙げることができ、それらのうち、トルエンおよびメチルエチルケトンが好ましい。
【0041】
特定のシリコーン系樹脂溶液には、その効果が損なわれない限度において、上記の成分以外に各種の成分が含有されていてもよい。
かかる任意成分としては、ジアルコキシシラン、トリアルコキシシラン、テトラアルコキシシランなどの多官能性のアルコキシシラン化合物を挙げることができる。
【0042】
<ローリングダイヤフラムの製造方法>
図1に示したローリングダイヤフラム10を製造するためには、先ず、補強布15の存在下に、ゴム組成物(未加硫ゴムを含むゴム配合物)を成形する。
ここに、好適な成形方法としては、ゴム組成物を半加硫させて得られる帽子状のゴム成形体に、布からなる帽子状の成形体(完成品において補強布15となるもの)を被せて、これを型(凸部を有する下型および凹部を有する上型)で成形(加硫)する方法を挙げることができる。具体的には、特開平7−259992号公報に記載の方法を採用することが好ましい。このような方法によれば、帽子状のゴム成形体を構成する半加硫ゴムの一部が、これに接触する布の織目から滲出し、これにより、補強布の両面が加硫ゴムによって被覆された状態(補強布15が外側に偏在して内蔵された状態)のローリングダイヤフラム(ゴム基材)を得ることができる。
【0043】
次に、ローリングダイヤフラム(ゴム基材)の外表面をシリコーン系樹脂溶液により処理する。具体的には、シリコーン系樹脂溶液を塗布し、形成される塗膜を加熱する。これらの作業は、グリスを塗布する作業と比較して、簡単で、作業環境の点からも有利である。
ここに、塗布方法としては、スプレー法、浸漬法、刷毛やローラなどの塗布手段を使用する方法など特に制限されるものではない。なお、塗布後、塗膜から溶剤を除去するために乾燥処理を行うことが好ましい。
塗膜の加熱方法としては、例えば、オーブンにより加熱する方法を挙げることができる。加熱条件としては、例えば80〜250℃で5〜120分間とされ、好ましくは100〜200℃で10〜60分間とされる。
【0044】
ローリングダイヤフラム(ゴム基材)の外表面に塗布された塗膜(シリコーン系樹脂による塗膜)を加熱することにより、シリコーン系樹脂の硬化反応が進行して硬化被膜(潤滑性を発現する表面処理層)が形成され、この硬化被膜は、ローリングダイヤフラム(ゴム基材)の外表面に対して強固に密着することになり、付与された潤滑性が長期にわたり持続する。
【0045】
このようにして製造されたローリングダイヤフラム10は、空気圧シリンダ装置の隔膜として装着される。このとき、シリコーン系樹脂溶液によって処理された外表面(補強布15の布目があらわれている表面)が、低圧側の表面となる(低圧側の内部空間に対向する)ように、具体的には、シリンダの内壁面およびピストンの側面と接触するように装着する。
【0046】
<空気圧シリンダ装置>
本発明の空気圧シリンダ装置は、本発明のローリングダイヤフラムを備えてなる。
ローリングダイヤフラム以外の具体的構成としては、図2および図3に示したものと同様のものを挙げることができる。
本発明の空気圧シリンダ装置によれば、コンボリューション部の噛み込み現象を長期にわたって確実に防止することができる。
【0047】
すなわち、ローリングダイヤフラム10を備えた空気圧シリンダ装置(本発明の空気圧シリンダ装置)において、ローリングダイヤフラム10の低圧側における表面(図1で示した状態での外表面)がシリコーン系樹脂溶液で処理されていることにより、当該表面には好適な潤滑性が付与される。この結果、シリンダの内壁面とピストンの側面との間のきわめて狭い間隙においても、コンボリューシン部12の折り返し部分をスムーズに移動させること(ローリングダイヤフラム10をスムーズに反転させること)ができるので、コンボリューション部12が当該間隙に噛み込まれることはない。
また、シリコーン系樹脂溶液による表面処理層は、外表面におけるゴム基材に強固に結合されているため、潤滑性を長期にわたり安定的に発現させることができる。また、グリス成分のように作動中に飛散することもないので、クリーンルームなどの清浄な環境下においても適用することができる。
【0048】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものでなく種々の変更が可能である。
例えば、ローリングダイヤフラムの外表面の全域(膜部・コンボリューション部・周縁部)がシリコーン系樹脂溶液により処理されている必要はなく、少なくともコンボリューション部の外表面が処理されていればよい。
また、空気圧シリンダ装置において利用する「空気圧」は、空気の圧力のみでなく、種々のガス(例えば、窒素ガス)による圧力も包含される。
また、空気圧シリンダ装置は、図2および図3に示したような1つのローリングダイヤフラムを備え、バネによる付勢力を利用してピストンを移動(下降)させる「単動式」のものに限定されるものではなく、ピストンを挟むようにして固定された2つのローリングダイヤフラムを備え、各々のローリングダイヤフラムとシリンダとによって区画された2つの空間に圧力差を生じさせることによりピストンを移動させる「複動式」のもの(例えば、特開2001−99111号公報参照)であってもよい。
【実施例】
【0049】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明がこれらに限定されるものではない。
【0050】
<実施例1>
(1)ニトリルゴム組成物(未加硫のニトリルゴムを含むゴム配合物)およびポリエステル布を使用し、特開平7−259992号公報に記載の方法に準拠して、図1に示したような形状を有し、補強布の布目が外表面にあらわれている、内径が50mm、高さが50mm、コンボリューション部の壁厚が0.45mmであるローリングダイヤフラム(ゴム基材)を製造した。
【0051】
(2)得られたローリングダイヤフラム(ゴム基材)の外表面に、ポリアルキルシロキサン、ポリアルキル水素シロキサンおよびポリメチルシルセスキオキサンからなる微粒子を含む主剤「HS−4」(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)1.0質量部と、エポキシ変性シリコーンおよびシランカップリング剤を含む硬化剤「XC9603」(同社製)0.5質量部と、ジアルキルスズ化合物を含む触媒溶液「YC6831」(同社製)0.1質量部と、メチルエチルケトン3.0質量部とを混合してなる特定のシリコーン系樹脂溶液をスプレー塗布した(塗布量=5mL)。次いで、当該ゴム板を室温下に放置して塗膜を乾燥させた後、150℃のオーブン内で10分間加熱処理することにより、本発明のローリングダイヤフラムを得た。
【0052】
(3)次いで、図2および図3に示したような構造の空気圧シリンダ装置の隔膜として、上記により得られた本発明のローリングダイヤフラムを、処理された外表面が低圧側の内部空間(SA )に対向するように装着し、本発明の空気圧シリンダ装置を製造した。
【0053】
<比較例1>
実施例1(1)と同様にしてローリングダイヤフラム(ゴム基材)を製造し、得られたローリングダイヤフラム(ゴム基材)を、実施例1(3)と同様にして、隔膜として装着することにより比較用の空気圧シリンダ装置を製造した。
【0054】
<比較例2>
実施例1(1)と同様にしてローリングダイヤフラム(ゴム基材)を製造し、得られたローリングダイヤフラム(ゴム基材)の外表面に、モリブデングリスを手指により塗布した後、このローリングダイヤフラムを、実施例1(3)と同様にして、隔膜として装着することにより比較用の空気圧シリンダ装置を製造した。
【0055】
<空気圧シリンダの評価>
実施例1および比較例1〜2により得られた空気圧シリンダ装置の各々について、下記の条件にて連続作動試験を行って、コンボリューション部の噛み込み現象の発生状況〔発生するまでの摺動回数(往復)〕およびローリングダイヤフラムの耐久性〔補強布の破損に至るまでの摺動回数(往復)〕を測定した。結果を併せて表1に示す。
【0056】
〔試験条件〕
・試験環境:室温
・内部空間(低圧側SA )の圧力:0MPa
・内部空間(高圧側SB )の圧力:0.3MPa(1秒間)および0MPa(1秒間)を1サイクルとして、これを繰り返した。
【0057】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のローリングダイヤフラムを備えた空気圧シリンダ装置は、空気バネやアクチュエータとして使用され、クリーンルームなどの清浄な環境下においても使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明のローリングダイヤフラムの一例を示す断面図である。
【図2】ピストンが最下位にあるときの空気圧シリンダ装置の内部構造を示す断面図である。
【図3】ピストンが最上位にあるときの空気圧シリンダ装置の内部構造を示す断面図である。
【図4】コンボリューション部の噛み込み現象が発生したときの空気圧シリンダ装置の内部を示す断面図である。
【符号の説明】
【0060】
10 ローリングダイヤフラム
11 膜部
12 コンボリューション部
13 周縁部
14 ビート部
15 補強布
20 シリンダ
21 ケーシング
22 ケーシング
23 空気導入孔
24 ピストン
241 ピストンの端面
242 ピストンの側面
243 ピストンの上端面
25 ピストンロッド
26 リテーナ
27 バネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気圧シリンダ装置の隔膜を構成するローリングダイヤフラムであって、
膜部とコンボリューション部と周縁部とを有し、
少なくとも、前記コンボリューション部の低圧側における表面がシリコーン系樹脂溶液により処理されていることを特徴とするローリングダイヤフラム。
【請求項2】
前記シリコーン系樹脂溶液が、(A)ポリオルガノシロキサン、ポリオルガノ水素シロキサンおよびシリコーン微粒子を含む主剤と、(B)エポキシ変性シリコーンおよびシランカップリング剤を含む硬化剤と、(C)スズ系触媒を含む触媒溶液と、(D)希釈溶剤とを混合してなることを特徴とする請求項1に記載のローリングダイヤフラム。
【請求項3】
低圧側に偏在して内蔵された補強布を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のローリングダイヤフラム。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載のローリングダイヤフラムを備えてなる空気圧シリンダ装置。
【請求項5】
クリーンルームまたはクリーンブース内で使用される請求項4に記載の空気圧シリンダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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