説明

ロールイン用フィリング材

【課題】 本発明は、ロールインパン、デニッシュ、クロワッサン等の層状小麦粉膨化食品に折り込んだ際に折り込み作業性が良好でかつ、風味および食感の良好なロールイン用フィリング材を提供すること。
【解決手段】 必須成分として乳由来の蛋白質、15℃の時の固体脂指数(SFC)が10%以上である油脂、増粘剤及び水を含有する水中油型乳化組成物であって、油脂の含有量がロールイン用フィリング材全体中15〜50重量%あることを特徴とするロールイン用フィリング材をロールインパン、デニッシュ、クロワッサン等の層状小麦粉膨化食品に折り込むこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規なロールイン用フィリング材に関する。更に詳しくはロールインパン、デニッシュ、クロワッサン等の層状小麦粉膨化食品に折り込んだ際に折り込み作業性が良好でかつ、風味および食感の良好なロールイン用フィリング材に関する。
【背景技術】
【0002】
ロールインパン、デニッシュ、クロワッサン等の層状小麦粉膨化食品は、独特の風味や食感があり非常に人気の高い食品の一つである。一般にこれらの食品の製造にはロールインマーガリン、或いはフラワーシート等のロールイン用の組成物が用いられるが、生地と共に伸展と折り込みを繰り返される為、使用温度域での好ましい硬さと広い温度域での良好な伸展性、及び溶けて流れ出さない保型性が同時に求められる。即ち、ロールイン用の組成物の伸展が不十分であると均一な層が得られず、ロールインマーガリンに関しては油脂が融解してしまうと生地に練り込まれた状態となって生地同士の結着が起こり、焼成時に十分なボリュームを得ることができない。また油中水型乳化のロールインマーガリンでは油相部への油溶性呈味成分は比較的多く添加できるものの、乳化破壊等の制約により水相部への水溶性呈味成分を多く添加できない欠点があり、バター風味以外の様々な風味付けを行なうに当たって制約があった。
【0003】
フラワーシートに関しては、特許文献1、特許文献2、特許文献3などにおいて、澱粉を多く配合することで折り込み作業性を改良する工夫がなされているが、澱粉によるパンのねちゃつき感や本来の味が出にくくなる欠点があった。また折り込み作業性についても、折り込む回数が多くなるとフラワーシートそのものの保型性が不足し、生地に練り込まれた状態となって味・食感のコントラストがはっきりしないパンになってしまうことから、折り込む回数に制限があり、結果的にパンの成型に制約が出るなどの欠点もあった。また澱粉による風味・食感の悪さを改良するため、乳タンパク、油脂および溶融塩を主体とした配合による工夫がなされているが(特許文献4)、大量の乳タンパクにより焼成時に褐変が起き易く、フラワーシート同様にパンのねちゃつき感が出る欠点があった。
【特許文献1】特開平07−184528号公報
【特許文献2】特開昭63−192341号公報
【特許文献3】特開平07−117236号公報
【特許文献4】特開平02−174629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ロールインパン、デニッシュ、クロワッサン等の層状小麦粉膨化食品に折り込んだ際に折り込み作業性が良好でかつ、風味および食感の良好なロールイン用フィリング材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ロールイン用フィリング材において乳由来の蛋白質、油脂、増粘剤及び水を特定量含有させることで、層状小麦粉膨化食品に折り込んだ際に折り込み作業性が良好でかつ、風味および食感が良好であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明の第一は、必須成分として乳由来の蛋白質、15℃の時の固体脂指数(SFC)が10%以上である油脂、増粘剤及び水を含有する水中油型乳化組成物であって、油脂の含有量がロールイン用フィリング材全体中15〜50重量%あることを特徴とするロールイン用フィリング材に関する。好ましい実施態様は、増粘剤がペクチン、ジェランガム、ゼラチン、ローカストビーンガム、タマリンド種子多糖類、カラギーナン、グアーガム、キサンタンガムからなる群より選ばれる少なくとも1種である上記記載のロールイン用フィリング材に関する。より好ましくは、増粘剤の添加量が、ロールイン用フィリング材全体中0.05〜5重量%であることを特徴とする上記記載のロールイン用フィリング材に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明のロールイン用フィリング材は、ロールインパン、デニッシュ、クロワッサン等の層状小麦粉膨化食品用生地に折り込んだ際に折り込み作業性が良好で、且つ、風味および食感が良好な層状小麦粉膨化食品を作製できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。本発明のロールイン用フィリング材は、食用油脂を主に含有し、必要に応じて油溶性乳化剤等を含有する油相部と、水、乳由来の蛋白質、増粘剤を主に含有し、必要に応じてデキストリン、澱粉類、その他乳製品、呈味剤、糖類等を含有する水相部からなる水中油型乳化組成物である。
【0009】
本発明で使用できる油脂は、食用であれば特にその種類に限定はないが、菜種油、コーン油、オリーブ油、パーム油、ひまわり油、サフラワー油、大豆油、カノーラ油などの植物油、牛脂、ラード、魚油、カカオ脂、乳脂などの動物油、これらを水素添加した硬化油、エステル交換したウムエス油、分別精製した分別油等の各種加工油脂が例示でき、それらを少なくとも1種使用できる。また、乳由来の蛋白質として添加される生クリーム、全脂粉乳等にも乳脂が含有されるが、油相部の油脂には含めない。前記油脂の15℃の固体脂指数(SFC)が10%〜80%であることが好ましい。10%より少ないと折り込み作業に必要な硬さが得られにくく作業性に悪影響が出る場合がある。また、80%より多いと折り込み時に伸展性が悪くなったり、パンの食感がもたつくなど悪影響が出る場合がある。なおここで、固体脂指数(SFC)の測定は、通常のパルスNMRによる一般的な方法に準じて行なった。
【0010】
前記油脂の含有量は、ロールイン用フィリング材全体中15〜50重量%の範囲であることが好ましい。含有量が15重量%より少ないと滑らかな食感や折り込み作業性に悪影響が出る場合がある。また、含有量が50重量%より多いと、製造時に著しく粘度が上がったり、油分離した状態となり、製造できない等の悪影響を生じる場合がある。
【0011】
本発明で使用できる乳由来の蛋白質は特に限定はないが、牛乳、山羊乳、羊乳等の乳類から得られた全脂粉乳、脱脂粉乳、カゼインナトリウム、レンネットカゼイン、酸カゼイン、バターミルクパウダー、トータルミルクプロテイン、ホエー蛋白(WPC、WPI)等に含有される蛋白質、および山羊乳、羊乳、牛乳などの乳類から作製される濃縮乳、脱脂濃縮乳、生クリーム、クリームチーズ等に含有される蛋白質が例示でき、これらを少なくとも1種用いることができる。乳由来の蛋白質の添加量は使用する乳由来の蛋白質の種類により当然異なるが、ロールイン用フィリング材全体中0.3重量%〜10重量%が好ましい。添加量が0.3重量%よりも少ないと、乳化が不安定になったり、風味を損ねる場合がある。10重量%より多いと食感のもたつき等の悪影響が生じる場合がある。
【0012】
本発明で使用できる増粘剤としては、特にその種類に限定はないが、カラギーナン、ペクチン、寒天、ジェランガム、ゼラチン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、グアーガム、アラビアガム、ネイティブジェランガム、グルコマンナン、タラガム、プルラン、タマリンド種子多糖類、トラガントガム、カラヤガムなどが例示でき、これらを少なくとも1種使用することができる。増粘剤の含有量は使用する増粘剤の種類により当然異なるが、ロールイン用フィリング材全体中、0.02重量%〜10重量%の範囲が好ましい。含有量が0.02重量%より少ないと保型性が悪くなり折り込み作業性に悪影響が出る場合がある。また、含有量が10重量%より多いと、製造時に著しく粘度が上がったり、増粘剤特有の風味が出て悪影響を生じる場合がある。より好ましくは、増粘剤としてペクチン、ジェランガム、ゼラチン、ローカストビーンガム、タマリンド種子多糖類、カラギーナン、グアーガム、キサンタンガムから選ばれる少なくとも1種であり、それらの含有量はロールイン用フィリング材全体中0.05重量%〜5重量%の範囲であることがさらに好ましい。
【0013】
また、本発明のロールイン用フィリング材の水相部に任意で使用できる原料として、デキストリン、澱粉類、糖類、乳製品、各種呈味材、フレーバー類、洋酒、各種天然或いは合成着色料などが挙げられ、それらを加えても差し支えない。風味が大きく低下する程でなければ、乳化剤を添加することも特に支障はなく、また日持ち向上のために各種保存料、抗菌剤を併用してもかまわない。
【0014】
本発明のロールイン用フィリング材の製造例を以下に例示する。まず水、乳由来の蛋白質、増粘剤、必要に応じてデキストリン、澱粉類、その他乳製品、呈味剤、糖類等の原料をこれに添加し混合した後、油脂類を添加して充分に撹拌し、予備乳化する。油脂類の添加に際しては、予め固体脂が溶けた状態とするために温調しておくことが好ましい。常法によりホモジナイザー等で均質化した後、加熱冷却装置等を用いて一般的な条件で殺菌冷却を行う。その後、シート状にするために何らかの成型機にて成型したり、所定の厚さでノズルより押し出したりすることで本発明のロールイン用フィリング材を得ることができる。
【0015】
また本発明のロールイン用フィリング材の用途は特に限定はされないが、ロールインパン、デニッシュ、クロワッサン等の層状小麦粉膨化食品等への折り込み用途に用いられる。
【実施例】
【0016】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において「部」や「%」は重量基準である。
【0017】
<デニッシュ製法によるパンの作製>
表1のデニッシュ配合に従って、ミキサーボールにショートニング以外の全材料を入れ、低速2分、中高速3分ミキシングした。これにショートニングを加え低速2分、中高速5分ミキシングした。生地の捏ね上げ温度は25℃とした。フロアタイムを30分取った後、1℃の恒温槽に生地を入れ、4時間リタードを取った。生地100部に対し、実施例・比較例で得たロールイン用フィリング材を25部使用し、重ねて、四つ折りを一回行い、1℃の恒温槽で一晩寝かせて中間リタードを取った。中間リタード後四つ折りを一回行い、シーターで伸ばしてスネーク状に成型した。35℃のホイロに50分間入れた後、200℃のオーブンで10分間焼成してデニッシュを得た。
【0018】
【表1】

【0019】
<折り込んだパンの食感評価方法>
上記方法で作製したデニッシュパンを熟練した5人のパネラーに試食させ、以下の4段階の基準により評価し、その結果を集約した。評価基準は次の通りである。◎:滑らかで口溶けが良く極めて良好、○:まずまず滑らかさで口溶けが良く良好、△:滑らかさ或いは口溶けがやや悪い、×:滑らかさ及び口溶けが悪い。
【0020】
<折り込んだパンの風味評価方法>
上記方法で作製したデニッシュパンを熟練した5人のパネラーに試食させ、以下の4段階の基準により評価し、その結果を集約した。評価基準は次の通りである。◎:風味が極めて良好,○:風味がまずまず良好、△:風味がかすかでやや悪い、×;風味が悪い。
【0021】
<折り込み作業性評価方法>
上記方法でデニッシュパンを作製する際に、4つ折り成型し問題なく作業できるか評価した。評価基準は次の通りである。○;問題なく折り込みできる、△:ややフィリング材がはみ出し折り込みしにくい、×;フィリング材がはみ出し折り込みできない。なお使用した生地配合は表1の通りである。
【0022】
(実施例1)
表2の配合に従って、以下のようにしてロールイン用フィリング材を得た。
水相部の原料が均一になるよう攪拌・混合しながら50℃に昇温し、油相部を添加し攪拌した。その後、ホモゲナイザー(株式会社イズミフードマシナリ製)を用い5MPaの圧力で均質化した。得られた乳化液をコンサーム掻き取り式熱交換機(アルファラバル社製)で加熱温度110℃、加熱時間2分間、の条件で殺菌した後、80℃まで冷却しシート状に充填包装した。その後、5℃の冷水で冷却し、ロールイン用フィリング材を得た。得られたロールイン用フィリング材を折り込んだパンを作製し、その際の折り込み作業性、パンの風味及び食感を評価し、評価結果を表2にまとめた。
【0023】
【表2】

【0024】
(実施例2)
表2の配合に従って、ローカストビーンガム0.1部をネイティブジェランガム0.08部に、水分量を50.92部に変更した以外は、実施例1と同様にしてロールイン用フィリング材を得た。得られたロールイン用フィリング材を折り込んだパンを作製し、その際の折り込み作業性、パンの風味及び食感を評価し、評価結果を表2にまとめた。
【0025】
(実施例3)
表2の配合に従って、ローカストビーンガム0.1部をゼラチン4部に、水分量を47部に変更した以外は、実施例1と同様にしてロールイン用フィリング材を得た。得られたロールイン用フィリング材を折り込んだパンを作製し、その際の折り込み作業性、パンの風味及び食感を評価し、評価結果を表2にまとめた。
【0026】
(実施例4)
表2の配合に従って、ローカストビーンガム0.1部をグアーガム1部及びネイティブジェランガム0.05部に、水分量を49.95部に変更した以外は、実施例1と同様にしてロールイン用フィリング材を得た。得られたロールイン用フィリング材を折り込んだパンを作製し、その際の折り込み作業性、パンの風味及び食感を評価し、評価結果を表2にまとめた。
【0027】
(実施例5)
表2の配合に従って、菜種油量を14部に、硬化大豆油10部を硬化コーン油6部に変更した以外は、実施例1と同様にしてロールイン用フィリング材を得た。得られたロールイン用フィリング材を折り込んだパンを作製し、その際の折り込み作業性、パンの風味及び食感を評価し、評価結果を表2にまとめた。
【0028】
(実施例6)
表2の配合に従って、菜種油量を22.5部に、硬化大豆油量を22.5部に、グラニュー糖量を12部に、水分量を38.9部に変更した以外は、実施例1と同様にしてロールイン用フィリング材を得た。得られたロールイン用フィリング材を折り込んだパンを作製し、その際の折り込み作業性、パンの風味及び食感を評価し、評価結果を表2にまとめた。
【0029】
(実施例7)
表2の配合に従って、菜種油を添加せず、硬化大豆油量を30部に、グラニュー糖量を20部に、水分量を40部に、ローカストビーンガム0.1部の変わりにゼラチン2部及びグアーガム1部に変更し、さらにココアパウダー3部を添加した以外は、実施例1と同様にしてロールイン用フィリング材を得た。得られたロールイン用フィリング材を折り込んだパンを作製し、その際の折り込み作業性、パンの風味及び食感を評価し、評価結果を表2にまとめた。
【0030】
(実施例8)
表2の配合に従って、菜種油量を14部に、硬化大豆油の変わりに硬化コーン油4部に、ローストビーンガムの代わりにネイティブジェランガムを0.2部に、水分量を49.8部に変更し、さらにココアパウダー3部を添加した以外は、実施例1と同様にしてロールイン用フィリング材を得た。得られたロールイン用フィリング材を折り込んだパンを作製し、その際の折り込み作業性、パンの風味及び食感を評価し、評価結果を表2にまとめた。
【0031】
(実施例9)
表2の配合に従って、菜種油量を2部に、硬化大豆油の変わりに硬化パーム核油を18部に変更した以外は、実施例1と同様にしてロールイン用フィリング材を得た。得られたロールイン用フィリング材を折り込んだパンを作製し、その際の折り込み作業性、パンの風味及び食感を評価し、評価結果を表2にまとめた。
【0032】
(比較例1)
表2の配合に従って、菜種油量を5部に、硬化大豆油量を5部に、水分量を60.9部に変更した以外は、実施例1と同様にしてロールイン用フィリング材を得た。得られたロールイン用フィリング材を折り込んだパンを作製し、その際の折り込み作業性、パンの風味及び食感を評価し、評価結果を表2にまとめた。
【0033】
(比較例2)
表2の配合に従って、菜種油量を30部に、硬化大豆油量を25部に、グラニュー糖量を12部に、水分量を28.9部に変更した以外は、実施例1と同様にしてロールイン用フィリング材の作製を試みたが、加熱殺菌時に乳化が壊れて油分離したため、評価に供するロールイン用フィリング材を得られなかった。
【0034】
(比較例3)
表2の配合に従って、硬化大豆油10部をパーム分別油U部10部に変更した以外は、実施例1と同様にしてロールイン用フィリング材を得た。得られたロールイン用フィリング材を折り込んだパンを作製し、その際の折り込み作業性、パンの風味及び食感を評価し、評価結果を表2にまとめた。
【0035】
(比較例4)
表2の配合に従って、ローカストビーンガムを添加せず、水分量を51部に変更した以外は、実施例1と同様にしてロールイン用フィリング材を得た。得られたロールイン用フィリング材を折り込んだパンを作製し、その際の折り込み作業性、パンの風味及び食感を評価し、評価結果を表2にまとめた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
必須成分として乳由来の蛋白質、15℃の時の固体脂指数(SFC)が10%以上である油脂、増粘剤及び水を含有する水中油型乳化組成物であって、油脂の含有量がロールイン用フィリング材全体中15〜50重量%あることを特徴とするロールイン用フィリング材。
【請求項2】
増粘剤がペクチン、ジェランガム、ゼラチン、ローカストビーンガム、タマリンド種子多糖類、カラギーナン、グアーガム、キサンタンガムからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1記載のロールイン用フィリング材。
【請求項3】
増粘剤の添加量が、ロールイン用フィリング材全体中0.05〜5重量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載のロールイン用フィリング材。

【公開番号】特開2007−209254(P2007−209254A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−32718(P2006−32718)
【出願日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】