説明

ロールコーターを用いた塗布方法

【課題】高速で連続的に走行する帯状体に対して、ローピングを発生させることなく、塗膜の外観を損なうことのないロールによる塗布方法を提供する。
【解決手段】コーターパン2に充填された塗布液3をくみ上げるピックアップロール4と、ピックアップロール4によってくみ上げられた塗布液3を帯状体Sに転写するアプリケーターロール6と、塗布液3が塗布された後の帯状体Sの表面を加熱する第1のヒーター12aとを有し、塗布液3が塗布された後の帯状体Sの表面の温度を35℃以上、70℃以下とし、アプリケーターロール6の周速Vaと帯状体Sの走行速度Vsとの速度比Va/Vsを0.7以上、1.4以下とし、ピックアップロール4の周速Vpとアプリケーターロール6の周速Vaとの速度比Vp/Vaを0.5以上とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロールコーターを用いて鋼板等の長尺の帯状体に連続して塗布処理を行う塗布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、連続して走行する鋼板等の帯状体の表面に、様々な物性を有する塗布液を塗布して塗膜を形成し、耐食性、加工性、美観性、絶縁性等の性能を帯状体に付与する処理が行われている。この処理方法を施すコーティング装置としては、ロールコーターが一般的に用いられている。ロールコーターの種類としては、ロールを2本備えた2ロールコーターや、ロールを3本備えた3ロールコーターが挙げられる。特に、3ロールコーターは、塗膜の膜厚の制御性に優れることと、塗布対象物の表面の外観を比較的美麗に仕上げることができることから、主流のコーティング装置として用いられている。
【0003】
図7は、従来の3ロールコーターの構成を示す概略図である。図7に示すように、従来のロールコーター1は、塗布液3が満たされているコーターパン2と、ピックアップロール4と、ミタリングロール5と、アプリケーターロール6と、乾燥炉11とを有する。ピックアップロール4によって、コーターパン2からくみ上げられた塗布液3は、ミタリングロール5によって液量が調整され、アプリケーターロール6の周面に塗布される。そして、アプリケーターロール6の周面に塗布された塗布液3は、アプリケーターロール6によって、所定方向に走行する帯状体Sに転写される。帯状体Sの表面に塗布された塗膜は、帯状体Sの走行方向においてアプリケーターロール6の下流側に設置された乾燥炉11によって、所定の温度で焼き付け、乾燥させて定着される。
各ロール4,5,6,8の回転方向は、各ロール4,5,6,8間の近接点、あるいは密接点において同方向に回転するナチュラル回転の場合と逆方向に回転するリバース回転の場合がある。これらの回転方向のうち、一般的には、リバース回転の方が被塗布面の凹凸に沿った膜厚均一な塗膜面が得られやすいということから、被塗布材表面に凹凸があり、表面凹凸に沿った均一な膜厚を得たい場合には、特に、アプリケーターロール6と帯状体Sとの間ではリパ−ス回転にする場合が多い。また、アプリケーターロール6は帯状体Sの表面に傷を付けないように鋼ロールにゴムをライニングしたゴムロールが用いられることが多い。
【0004】
しかしながら、3ロールコーターによる塗布方法の代表的な塗布欠陥として、アプリケーターロール6の周方向に沿って生じる筋模様(以下、ローピングと呼ぶ。)が、帯状体Sに転写され、外観劣化となる場合がある。ローピングは、塗布液の粘度が高いほど発生しやすい傾向にある。また、ローピングは、ロールの周速が高速ほど発生しやすい傾向にある。特に、帯状体Sの走行速度(以下、ライン速度と呼ぶ。)が速くなると各ロールの周速も速くなるために、ローピングの発生は防ぎ難い。
【0005】
そこで、ローピングの発生を防止する技術として、特許文献1〜3に記載の技術が開示されている。
特許文献1には、ライン速度、アプリケーターロールの周速、及びピックアップロールの周速の比率を特定の範囲に制御する技術が開示されている。
また、特許文献2には、塗料(塗布液)の温度を、その塗料の粘度が最小となる温度近傍に保持する技術が開示されている。
【0006】
さらに、特許文献3には、ライン速度200mpm以上の鋼板に対する高速塗布においてローピングの発生を低減させる技術が開示されている。具体的には、ピックアップロールの周速を20〜80mpm、かつアプリケーターロールの周速をライン速度以上の200〜1000mpmとして塗布を行う技術である。
【特許文献1】特開2000−254580号公報
【特許文献2】特開平9−47716号公報
【特許文献3】特開平10−309512号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に開示された技術では、ライン速度が低速であればローピングの発生を防止できるが、ライン速度が高速になるとローピングの発生を防止することが困難となる。従って、ローピングの発生がない均一な外観を得ることができるライン速度が200mpm未満に制限されるため、歩留まりが低下する。
また、特許文献3に開示された技術では、アプリケーターロールの周速を上げていくとアプリケーターロール上のローピングのピッチが細かくなり、鋼板上もローピングが目立ちにくくなる。
【0008】
しかし、アプリケーターロールの周速をライン速度に対して上げすぎるとアプリケーターロールと鋼板間とが接触する位置において、塗布液の流れが乱れ、幅方向で局所的に塗布液の界面が振動し、鋼板上の塗膜にまだら模様が形成される。したがって、アプリケーターロールの周速を速くすることは、ローピングの発生を防ぐためには有効な手段であるが、平滑性の低下等、塗膜の外観を損なう要因を新たに作り出す問題があった。
従って、本発明は上述の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、高速で連続的に走行する帯状体に対して、ローピングを発生させることなく、塗膜の外観を損なうことのないロールによる塗布方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題を解決するため、本発明のうち請求項1に係るロールコーターを用いた塗布方法は、コーターパンに充填された塗布液を、回転するピックアップロールの周面に付着させてくみ上げ、前記ピックアップロールに近接し、回転するアプリケーターロールの周面に付着させることによって所定の方向に連続的に走行する帯状体に前記塗布液を転写するロールコーターを用いた塗布方法において、
前記塗布液が塗布された後の前記帯状体の表面の温度を35℃以上、70℃以下とし、前記アプリケーターロールの周速Vaと前記帯状体の走行速度Vsとの速度比Va/Vsを0.7以上、1.4以下とし、前記ピックアップロールの周速Vpと前記アプリケーターロールの周速Vaとの速度比Vp/Vaを0.5以上としたことを特徴としている。
【0010】
また、本発明のうち請求項2に係るロールコーターを用いた塗布方法は、請求項1に記載のロールコーターを用いた塗布方法において、前記帯状体の走行方向の上流側に設けられた少なくとも1つのロールを有するプレコート装置によって、前記塗布液と同一成分の塗布液を塗布し、塗布された塗布液が乾燥する前に前記アプリケーターロールによって前記塗布液が塗布されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明のうち請求項1に係るロールコーターを用いた塗布方法によれば、塗布液が塗布された後の前記帯状体の表面の温度を制御することにより、塗布液の粘度を低下させることができる。また、速度比Va/Vs、及び速度比Vp/Vaを規定することにより、ローピングの間隔を示すローピングピッチが微細化される。アプリケーターロール6とピックアップロール4との間で発生するローピングのピッチを微細化させることで、帯状体Sに塗布された塗布液3が、塗布後から乾燥までの間にレベリングされ、均一な表面の塗膜が形成される。従って、帯状体に塗布液を塗布してから、短時間でレベリングされるので、ローピングを発生させることなく、塗膜の外観を損なうことのないロールによる塗布方法を提供することができる。なお、速度比Va/Vsは、0.7以上、1.4以下に規定される。速度比Va/Vsが0.7未満であると、鋼板から巻き込まれる空気の影響により、アプリケーターロールと鋼板間のメニスカス部の流動が不安定となり、スジ状の模様が発生するといった問題が生じ、1.4を超えると、アプリケーターロールと帯状体との間を塗布液が架橋してなるメニスカスにおける流動が乱れ、幅方向で局所的に塗布液の界面が振動してまだら模様が形成されるといった問題が生じる。また、速度比Vp/Vaは0.5以上に規定される。速度比Vp/Vaが0.5未満であると、ピックアップロールとアプリケーターロール間のローピング発生が顕著となるといった問題が生じる。
【0012】
また、本発明のうち請求項2に係るロールコーターを用いた塗布方法によれば、アプリケーターロールによって帯状体に塗布液を転写する前に、プレコート装置を用いて前記塗布液によって前記帯状体の表面の凹凸を平滑化(レベリング)するプレコート層を予め形成するので、塗膜を薄膜とする場合においてもカスレのない良好な外観を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係るロールコーターを用いた塗布方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。図1は、本発明に係るロールコーターを用いた塗布方法の一実施形態において用いられる塗布装置の構成を示す概略図である。図1に示すように、塗布装置としてのロールコーター1は、塗布液3が満たされているコーターパン2と、コーターパン2から塗布液3をくみ上げるピックアップロール4、ピックアップロール4上の塗布液3の液量を調整するミタリングロール5、及び調整されたピックアップロール4上の塗布液3を帯状体Sに転写するアプリケーターロール6からなる3つの回転体(ロール)と、乾燥炉11と、ヒーター12と、温度計13と、温度制御装置14とを有する。
ピックアップロール4の表面状態は、特に規定されるものではないが、胴部表面に多数の凹部が形成されたグラビアロールを用いている。帯状体Sは、帯状体Sを介してアプリケーターロール6の反対側に設置されたバックアップロール8に巻きつくようにして走行している。
【0014】
各ロールの回転方向は、特に規定するものではないが、各ロール間、及びアプリケーターロール6と帯状体Sとの間において全て逆(リバース)方向の場合を図示している。ミタリングロール5上には、塗布液3をかきとるブレード7が設置されている。帯状体Sが鋼板等の金属板の場合は、被塗布面を傷つけないために、アプリケーターロール6として、ゴムがライニングされたゴムロールを用いるとよい。帯状体Sはアプリケーターロール6とバックアップロール8とに挟まれて、アプリケーターロール6によって片面に塗布液3が塗布されるが、バックアップロール8を第二のアプリケーターロールとして、帯状体Sの両面に同時に塗布液3を塗布する構成を採用してもよい。
また、アプリケーターロール6における帯状体Sの走行方向の下流側には、帯状体Sの表面に塗布された塗布液を所定の温度で焼き付け、乾燥させて定着させる乾燥炉11が設けられている。
【0015】
また、ヒーター12は、アプリケーターロール6における帯状体Sの下流側に設置された第1のヒーター12aと、アプリケーターロール6における帯状体Sの上流側に設置された第2のヒーター12bとを有する。ヒーター12a,bの例としては誘導加熱装置が挙げられる。また、温度計13は、第1のヒーター12aによって加熱された帯状体Sの表面の温度を検出する第1の温度計13aと、第2のヒーター12bによって加熱された帯状体Sの表面の温度を検出する第2の温度計13bとを有する。温度制御装置14は、第1の温度計13a及び第2の温度計13bによって検出された帯状体Sの表面の温度に基づいて、少なくとも第1の温度計13aが検出する帯状体Sの表面の温度が35℃以上、70℃以下となるように第1のヒーター12a及び第2のヒーター12bの少なくともいずれかをフィードバック制御する。ここで、温度制御装置14及びヒーター12によって制御される帯状体Sの表面の温度は、該帯状体Sに塗布液が塗布されてから、乾燥炉11までの間に設置された第1の温度計13aが検出する温度であることが好ましい。従って、温度制御装置14は、少なくとも第1の温度計13aが検出する帯状体Sの表面の温度に基づいて、第1のヒーター12a及び第2のヒーター12bの少なくともいずれかをフィードバック制御することが好ましい。
【0016】
ここで、帯状体Sに塗布された塗布液3において塗布時に発生したローピングのレベリングについて以下に説明する。
図2は、帯状体S上に塗布された直後にローピングが発生した塗布液3の状態を模式的に示す断面図である。図2に示すように、塗布液3の凹凸形状は、塗布液3の流動と表面張力により時間の経過とともに平滑になろうとする。塗布液3がニュートン流体で、ローピングが正弦波と考えた場合の初期の振幅aとt秒後の振幅aの解析解は以下の数式(1)で表される。
【0017】
【数1】

【0018】
上記数式(1)において、λはローピングピッチ(m)、ηは粘度(Pa・s)、γは表面張力(N/m)、hは平均塗膜厚(m)を表す。
上記数式(1)によると、塗布液3を塗布した直後から乾燥までの塗膜の振幅比は、塗布液3の粘度ηに反比例し、塗布時における塗布液3のローピングピッチλの4乗に反比例していることがわかる。
【0019】
従って、塗布液3を塗布してから、レベリングまでの時間を短縮させるためには、塗布液3の粘度ηを低下させること、及び塗布時における塗布液3のローピングピッチλの微細化が非常に有効である。
ここで、塗布液3の粘度を低下させるために、塗布液3を希釈する方策が考えられる。しかし、希釈には限界があり、塗布液3を希釈しすぎた場合には、塗布液3の濃度の下限は塗布液3の種類や界面活性剤等の添加剤により差はあるものの塗布液3の表面張力が高くなり、帯状体Sへの濡れ性が悪化し、結果として、塗膜の表面にピンポイントに形成される窪み(ハジキ)の発生といった新たな問題が生じるため、好ましくない。
【0020】
そこで、本発明者らは、塗布液3の粘度ηに影響を及ぼす温度変化と、ロールコーターを構成する各ロールの周速を変更させたときのローピングピッチの変化とについて考察した。
図3は、帯状体の表面の温度と塗布液の粘度との関係を示すグラフである。なお、塗布液3としては、リン酸系の水系塗料(リン酸化合物と、Mg化合物、シリカ、及び4価のバナジウム化合物とを含有、乾燥後膜比重1.0、濃度3.3%(20℃)のときの粘度が3.7mPa・s、表面張力40dyn/cm)を用いた。
【0021】
図3に示すように、塗布液3の液温が上昇すると共に、塗布液3の粘度が低下している。そこで、塗布液3の温度を10℃〜80℃まで変化させて図1に示すロールコーター1にて塗布試験を実施し、塗膜を乾燥させた後の塗膜の膜厚分布について考察した。帯状体Sのライン速度Vsを100mpmとし、帯状体Sには板厚0.6mmの亜鉛メッキ鋼板を用いた。また、塗膜の液膜厚は、2.4μmとなるようにそれぞれのロールの周速を設定した。また、乾燥後膜厚が0.08μmとなるように液濃度も3.3%に調整した。コーターパン2に充填された塗布液3の温度は30℃であった。
【0022】
図4は、帯状体Sの温度と、塗膜を乾燥させた後の膜厚分布の関係を示すグラフである。ここで、帯状体Sの温度は、アプリケーターロール6と乾燥炉11との間に設置された第1の温度計13aによる測定値である。また、膜厚分布(μm)は、塗布後の帯状体における幅方向3mm、走行方向10μmからなる領域内のEPMA(Electron Probe(X-ray) Micro Analyzer)を測定して予め作成した検量線により膜厚に換算し、最大値と、最小値の差により算出した。
【0023】
図4に示すように、膜厚分布は、帯状体Sの温度を35℃〜70℃の範囲に制御したときに、前記目標膜厚の5%未満となり、略均一となることが明らかとなった。一方、帯状体Sの温度が35℃未満の場合には、塗布液3の温度が十分に上がらず、塗布液3の粘度が高いままとなってしまい、乾燥までに十分レベリングがされなかったため、膜厚のバラツキが発生してしまったと思われる。また、帯状体Sの温度が70℃を超えた場合には、塗布時の塗液膜厚が2.4μmと非常に薄いため、塗布直後に乾燥してしまい、塗膜がレベリングされることなく、塗布ムラが形成されてしまったと思われる。
【0024】
従って、本発明では、塗布液3の粘度を低下させ、レベリングを向上させるために、帯状体Sの温度を35℃〜70℃とするヒーター12を設けた。帯状体Sに塗布された塗布液3の粘度を低下させるためには、塗布液3が塗布された帯状体Sに対して加熱する方法と、帯状体Sに塗布液3が塗布される前に帯状体Sを予め加熱する方法とがある。本発明では、塗布液3が塗布された帯状体Sに対して加熱する方法として、アプリケーターロール6と乾燥炉11との間に第1のヒーター12aを設置した。また、帯状体Sに塗布液3が塗布される前に帯状体Sを予め加熱する方法として、アプリケーターロール6における帯状体Sの走行方向の上流側に第2のヒーター12bを設置した。なお、ヒーター12は、第1の温度計13aによって検出される帯状体Sの表面の温度に基づいて上記所定の温度範囲に制御することができれば、アプリケーターロール6における帯状体Sの走行方向の上流側及び下流側の少なくともいずれか一方に設置されればよく、設置位置及び数量は目的に応じて適宜選択される。
【0025】
次に、塗布後のローピングピッチλが微細となる各ロールの周速条件について考察する。
ローピングは、塗布液3の粘度が高いほど発生しやすい。また、ロール、特にアプリケーターロール6の周速が高速ほどローピングは発生しやすい傾向にある。ローピングが発生する原因は、帯状体Sに随伴される空気の流れが帯状体Sとアプリケーターロール6との間に架橋するメニスカスに乱れを与えるためである。すなわち、ローピングの発生条件は、主に各ロールの周速、複数のロール間の押し付け圧、塗布液3の物性値(粘度、表面張力)に依存する。特に、ライン速度Vsを高速にした塗布工程(以下、高速塗布と呼ぶ。)では、ライン速度Vsに合わせてアプリケーターロール6の周速Vaも速くなり、必然的に各ロールの周速が速くなるために、ローピングの発生は避け難くなる。
【0026】
ローピングは、ミタリングロール5とピックアップロール4との間における塗布液3の転写、及びピックアップロール4とアプリケーターロール6との間における塗布液3の転写で発生する可能性がある。そして、高速塗布を行った場合では、後者において必ず発生する。また、後者でローピングが発生する場合には、前者で発生するローピングはキャンセルされるため、ピックアップロール4とアプリケーターロール6との間における塗布液3の転写のみに着目すればよい。
【0027】
これらについて、発明者らが種々の実験を行った結果、ピックアップロール4の周速Vpを上げていくと、アプリケーターロール6上のローピングピッチλが小さくなっていき、ピックアップロール4の周速Vpがアプリケーターロール6の周速Vaに対して、0.5倍以上では非常に細かい波数のローピングが得られた。ローピングピッチλが小さくなると、塗布ムラが目立ち難くなることもあるが、塗布後から乾燥までの間にレベリング効果が高まることから、乾燥後における塗膜の表面の外観が向上する。ここで、ピックアップロール4の周速Vpとアプリケーターロール6の周速Vaとの比(Vp/Va)の上限としては、2.0以下が好ましい。Vp/Vaが2.0を超えると、ピックアップロール4からの塗布液3の供給が過剰となり、アプリケーターロール6とピックアップ口―ル4との間に架橋するメニスカスでさざ波状欠陥と呼ばれる塗布欠陥が新たに発生しやすくなる。
【0028】
また、アプリケーターロール6の周速Vaは、帯状体Sのライン速度Vsに対して0.7倍以上1.4倍以下とする。アプリケーターロール6の周速Vaと帯状体Sのライン速度Vsとの関係においても、ピックアップロール6の周速Vpとアプリケーターロール6の周速Vaとの関係と同様である。ライン速度Vsに対してアプリケーターロール6の周速Vaが遅いほど、鋼板から持ち込まれる空気の影響によりメニスカス部の流動が不安定となるため、ローピングが顕著に現れる。そして、アプリケーターロール6の周速Vaが速くなり、ライン速度Vsに対するアプリケーターロール6の周速Vaの周速比(Va/Vs)が、0.7以上になると、ローピングが軽減し、良好な外観が得られる。
【0029】
しかし、アプリケーターロール6の周速Vaを過度に速くしすぎると、外観が損なわれる。この理由は、アプリケーターロール6の周速Vaを速くしすぎた場合、ピックアップロール4とアプリケーターロール6との間における塗布液の転写で発生するローピングが避けられなくなるからである。つまり、アプリケーターロール6と帯状体Sとの間だけを考えた場合、アプリケーターロール6の周速Vaは速い方が良好な外観の塗膜が得られるが、ピックアップロール4とアプリケーターロール6との間ではローピングが発生しやすくなり、アプリケーターロール6に発生したローピングが帯状体Sにそのまま転写されてしまう。
【0030】
ピックアップロール4とアプリケーターロール6との間で発生するローピングを避けるためには、前述したように、ピックアップロール4の周速Vpを速くすればよいが、アプリケーターロール6の周速Vaが過度に速すぎると、ピックアップロール4の周速Vpも非常に速くしなければならない。
しかし、ピックアップロール4の周速Vpを速くしすぎると、コーターパン2から塗布液3をくみ上げる際に塗布液3の飛散が顕著となったり、ミタリングロール5、あるいはアプリケーターロール6の磨耗の進行が速くなり、実際の操業には好ましくない。
以上の問題点を鑑みて、本発明では、アプリケーターロール6の周速Vaをライン速度Vsの1.4倍以下とした。ライン速度Vsに対するアプリケーターロール6の周速Vaの周速比(Va/Vs)が1.4倍を超えると、帯状体Sとアプリケーターロール6との間の塗布液3の液溜りが振動を起こしやすく、塗布ムラとなりやすいためである。
【0031】
一方、近年、機能性向上の観点から、塗膜の乾燥後における膜厚(ドライ膜厚)を0.1μm未満とする塗膜の薄膜化が求められている。薄膜塗布するためには、塗液を希釈する方法が考えられる。しかしながら、塗布液3が、水系溶媒による塗布液の場合、塗布液3を希釈した場合には、表面張力の上昇に伴い、鋼板等の帯状体Sへの濡れ性が悪化し、ハジキが発生してしまう。すなわち、塗布液の濃度が1%以下の場合には表面張力がほぼ水と等しくなってしまい、ハジキが発生する。従って、鋼板等の帯状体Sへの濡れ性を確保するためには、塗布液3の濃度を3%以上とするのが好ましい。
従って、液膜厚を低下させる必要がある。しかしながら、上述の塗布方法では、液膜状態での膜厚(ウェット膜厚)が3μm未満の場合には、カスレが発生しやすくなる。
【0032】
そこで、発明者らはさらに鋭意検討し、図1におけるアプリケーターロール6によって帯状体Sに塗布液3を転写する前に、同じ成分の塗布液3を予め塗布することが、塗布時の膜厚を3μm未満とした場合においてもカスレのない良好な外観を得ることを知見した。
カスレが発生する原因としては、塗布する膜厚が3μm未満と薄い場合に、帯状体Sの表面の凹凸の影響により、凸部へ転写される液量が極端に薄くなってしまい、液切れが発生しやすくなることによる。
【0033】
したがって、ローピング及びカスレの発生しない、均一な性状の塗膜を得るためには、帯状体に随伴されるエアーがアプリケーターロール6と帯状体Sとを架橋するメニスカスに影響を及ぼさないようにすればよい。
具体的には、ロールコーター1の上流側の位置に、帯状体Sに塗布液3を予め塗布するプレコート装置を設置し、そのプレコート装置によって塗布された塗布液が乾燥する前にアプリケーターロール6によって塗布液3を転写する。
【0034】
図5は、本発明に係る塗布方法の他の実施形態に用いられる塗布装置の構成を示す概略図である。
本実施形態の塗布装置1は、上述のロールコーター1にプレコート装置20を加えてなる。プレコート装置20は、アプリケーターロール6によって帯状体Sに塗布液3を転写する前に、帯状体Sに塗布液3を予め塗布し、帯状体Sの表面にプレコート層を形成する装置である。なお、プレコート装置以外の構成については、上述の通りであるので、その説明を省略し、プレコート装置について、図面を参照して以下に説明する。
【0035】
図5に示すように、プレコート装置20は、塗布液3が満たされているコーターパン21と、ピックアップロール22、及びアプリケーターロール23からなる2つの回転体(ロール)とを有する。塗布液3は、回転するピックアップロール22の周面に塗布されることによって、コーターパン21からくみ上げられる。ピックアップロール22の周面と、アプリケーターロール23の周面とは、所定の間隙を有して近接している。ピックアップロール22の周面に塗布された塗布液3は、アプリケーターロール23の周面に転写される。そして、アプリケーターロール23の周面に転写された塗布液3は、アプリケーターロール23の周面が帯状体Sの表面に押圧されることによって帯状体Sに転写され、プレコート層が形成される。なお、帯状体Sが鋼板等の金属板の場合は、アプリケーターロール23として、ゴムがライニングされたゴムロールを用いるとよい。ピックアップロール22としては、金属製のロールが用いられている。コーターパン21に充填された塗布液3は、コーターパン2に充填された塗布液3と同じ種類の塗布液である。プレコート装置20における帯状体Sの走行方向は、水平方向でも垂直方向でも何れでもよい。また、プレコート装置20において塗布液3を供給する機構は、コーターパン21からピックアップロール22によってくみ上げる機構でなくてもよく、ノズル(図示せず)から塗布液3を吐出し、帯状体Sに塗布する機構を採用してもよい。
【0036】
次に、図5に示す塗布装置を用いて、まず、プレコート装置20で塗布するプレコート層の膜厚と3ロールコーターによる塗布液3の塗布後の塗液膜厚との関係について考察した。帯状体Sとしては、板厚0.6mmの亜鉛メッキ鋼板を用いた。帯状体Sのライン速度Vsは、100mpmとした。また、塗布液3としては、図3で用いた塗布液3と同一の液を液温40℃、(粘度1.8(mPa・s))として用いた。各ロールの周速条件は、プレコート装置を有しない図1に示す塗布装置1を用いた場合において塗膜厚が2.6μmとなるように調節した。
【0037】
図6は、上記のようにして得られたプレコート層の膜厚と、3ロールコーターによる塗膜厚との関係を示すグラフである。
図6に示すように、プレコート層の膜厚が厚い場合には、アプリケーターロール6と帯状体Sとの接触部分において、プレコート装置20から供給された塗布液3がすり抜けてしまうため、3ロール塗布後の膜厚がプレコートを実施しない場合に比べ厚くなってしまう。従って、3μm未満の薄膜塗布でカスレの改善を実現させるためには、プレコート層の膜厚を5.0μm未満とすればよいことが明らかとなった。
【0038】
以上説明したように、プレコート装置20を設置することによって、帯状体Sの表面の凹凸をレベリングするプレコート層が予め形成されるので、アプリケーターロール6により塗膜が転写された際にカスレの発生もなくなる。
ここで、第2のヒーター12bを設置し、上述した帯状体Sの表面の温度と塗膜を乾燥させた後の膜厚分布との関係について実験した内容と同様に実験した。この実験によれば、プレコート装置20によって塗布液3が帯状体Sに塗布されたとき、帯状体Sの表面の温度が低下してしまうため、ロールコーター1によって塗布される塗布液3の温度が上昇せず、十分なレベリングが得られず、塗布ムラが確認された。従って、プレコート装置20を有する塗布装置1における第2のヒーター12bの設置範囲としては、帯状体Sの走行方向において、プレコート装置20のアプリケーターロール23からアプリケーターロール6までの間に設けられることが好ましい。
【0039】
プレコート装置20においては、ピックアップロール4及びアプリケーターロール6を用いた2本ロールの構成について説明したが、塗膜の膜厚を制御することが可能な供給装置を備えた場合には、ピックアップロールの機能を兼ね備えたアプリケーターロールが1本設けられた構成でもよい。2本のロールを有する2ロールコーターよりも3本のロールを有する3ロールコーターの方がさらに膜厚の制御性も高いため好ましいが、コスト高となる。プレコート層の膜厚は5μm未満であれば、最終的な塗膜の膜厚への影響は小さく、ローピング程度の膜厚不均一性があっても次の本コートが適切な条件であれば外観は改善するため、ロールが1本のロールコーターでも目的を達成することが十分可能である。
【0040】
本実施形態では、リン酸系の水系塗料を塗布液として用いたが、成分については特に規制するものではない。塗布液として、例えば、エマルジョン樹脂を含む水系塗料を用いることもできる。この場合、エマルジョン樹脂のガラス転移点を大幅に超えてしまうと、エマルジョン樹脂がロールにまきつくなどの問題が発生する場合がある。従って、エマルジョン樹脂系の水溶液を塗布液として用いる場合には、塗布液の制御温度を、ガラス転移点に応じてエマルジョン樹脂が凝集しない温度に選択すればよい。また、塗布液の溶媒が水だけでなく、沸点の低い有機溶剤などを含む場合では、塗膜の形成と共にレベリング効果が消滅してしまうため、粘度の低減によるレベリング性を確保するために、帯状体Sに対してヒーター12が加熱する際の加熱温度は、塗膜を形成する温度未満とする必要がある。
【0041】
(実施例)
本発明に係る塗布方法の実施例、及び比較例について、詳細に説明する。
板厚0.6mm、板幅1200mmの亜鉛メッキ鋼板の帯状体Sに対して、図1または図5に示した塗布装置1を用いて、表1に記載した塗布条件で塗布を行い、実施例1〜26及び比較例1〜12の塗布済の帯状体Sを得た。この塗布済の帯状体Sについて、乾燥後の塗布外観の評価、塗布時の塗膜の膜厚、及び乾燥後の塗膜の膜厚の測定を行った。
なお、本実施例及び比較例では、図1または図5に示す塗布装置1において、アプリケーターロール6として、ゴムをライニングしたゴムロールを用いた。また、ピックアップロール4として、表面に多数の凹部が形成されたグラビアロールを用いた。また、ミタリングロ−ル5として、ゴムをライニングしたゴムロ−ルを用いた。アプリケーターロール6及びピックアップロール4のロール径は、300mmのものを用いた。ミタリングロール5のロール径は、200mmのものを用いた。ミタリングロール5の周速Vmは、塗膜厚が一定になるように10〜90mpmの範囲で調整した。プレコート装置20の塗布液膜厚は、ロールの周速及びニップ圧力を調整することで所定の膜厚になるように調整した。プレコート装置20のロールは、ロール径が250mm、帯状体Sと接触するアプリケーターロール6はゴムロールを用い、コーターパン2から塗布液3をくみ上げるピックアップロール4には金属ロールを用いた。塗布液3は、前述のリン酸系の水系塗料を適宜水で濃度調整して用いた。コーターパン2に充填された塗布液3の温度は30℃であった。また、表1中、帯状体(鋼板)Sの温度は、第1の温度計13aにおける温度である。
【0042】
塗布後の外観の評価は、十分に明るい蛍光灯の下で目視により、下記評価基準に基づいてローピング、及びカスレを評価した。また、塗布時の塗膜の液膜厚、及び乾燥後の塗膜の膜厚を測定した。評価結果及び測定結果を表1に示す。
[ローピングの評価基準]
◎:ローピングがない
○:ローピングがほとんどない
△:ローピングが若干ある
×:ローピングが多い
[カスレの評価基準]
◎:カスレがない
○:カスレがほとんどない
△:カスレが若干ある
×:カスレが多い
【表1】

【0043】
表1に示すように、実施例1〜26では、鋼板Sの表面の温度を35℃以上、70℃以下とし、ロールの周速条件として、0.7≦Va/Vs≦1.4、及び0.5≦Vp/Vaとすることで、塗膜を均一に塗布することが可能となった。
また、塗布時の膜厚を3.0μm未満とするために、図5に示すプレコート装置20を用いた実施例14〜18は、カスレの発生を防止することが可能となり、塗膜を均一に塗布することが可能となった。特に、実施例9〜13,17〜18,22〜24においては、ライン速度Vsを200mpm以上としても良好な性状の塗膜を形成することができた。
【0044】
一方、鋼板Sの表面の温度が35℃未満の比較例1〜3,6,8〜10では、塗布後のレベリングが不十分となり、ローピングの発生が顕著となっていた。鋼板Sの表面の温度が70℃を超える比較例4では、塗布直後に乾燥してしまい、塗布時のローピングがそのまま鋼板S上に残存し、塗布ムラが発生した。
また、比較例5,12では、Va/Vsが0.7未満であるため、カスレは低減されているものの、ローピングの発生が顕著であった。
【0045】
また、比較例11では、Va/Vsが1.4を超えたため、アプリケーターロールと鋼板との間を塗布液が架橋してなるメニスカスにおける流動が乱れ、幅方向で局所的に塗布液の界面が振動して形成されたまだら模様が確認された。
また、比較例1〜5,7,9では、Vp/Vaが0.5未満であるため、ローピングの発生が顕著であった。
【0046】
以上説明したように、本発明に係るロールコーターを用いた塗布方法によれば、帯状体の表面の温度を制御することにより、塗布液の粘度を低下させることができる。また、速度比Va/Vs、及び速度比Vp/Vaを規定することにより、ローピングの波長を示すローピングピッチが微細化される。このように、塗布液の粘度を低下させ、塗布時における塗布液のローピングピッチを微細化することにより、帯状体に塗布液を塗布してから、短時間でレベリングされ、均一な塗膜が形成される。
【0047】
また、プレコート装置を用いて、同一の組成の塗布液により予めプレコートすることによって、カスレの発生を防止することができ、塗膜をさらに均一に塗布することができる。
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、前記実施例では帯状体として冷延鋼板を用いたが、特に鋼板に限定されることなく、アルミ等の他の金属板を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係る塗布方法の一実施形態に用いられる塗布装置の構成を示す概略図である。
【図2】本発明に係る塗布方法の一実施形態におけるローピングを説明する概略図である。
【図3】本発明に係る塗布方法の一実施形態における帯状体の表面の温度と塗布液の粘度との関係を示すグラフである。
【図4】本発明に係る塗布方法の一実施形態における帯状体の表面の温度と塗布液を乾燥した後の膜厚分布との関係を示すグラフである。
【図5】本発明に係る塗布方法の他の実施形態に用いられる塗布装置の構成を示す概略図である。
【図6】本発明に係る塗布方法の他の実施形態におけるプレコート層の液膜厚と、3ロールコーターによる塗液膜厚との関係を示すグラフである。
【図7】従来の塗布装置の構成を示す概略図である。
【符号の説明】
【0049】
1 ロールコーター
2 コーターパン
3 塗布液
4 ピックアップロール
5 ミタリングロール
6 アプリケーターロール
7 ブレード
8 バックアップロール
11 乾燥炉
12 ヒーター
13 温度計
14 温度制御装置
20 プレコート装置
21 コーターパン
22 ピックアップロール
23 アプリケーターロール
S 帯状体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーターパンに充填された塗布液を、回転するピックアップロールの周面に付着させてくみ上げ、前記ピックアップロールに近接し、回転するアプリケーターロールの周面に付着させることによって所定の方向に連続的に走行する帯状体に前記塗布液を転写するロールコーターを用いた塗布方法において、
前記塗布液が塗布された後の前記帯状体の表面の温度を35℃以上、70℃以下とし、前記アプリケーターロールの周速Vaと前記帯状体の走行速度Vsとの速度比Va/Vsを0.7以上、1.4以下とし、前記ピックアップロールの周速Vpと前記アプリケーターロールの周速Vaとの速度比Vp/Vaを0.5以上としたことを特徴とするロールコーターを用いた塗布方法。
【請求項2】
前記帯状体の走行方向の上流側に設けられた少なくとも1つのロールを有するプレコート装置によって、前記塗布液と同一成分の塗布液を塗布し、塗布された塗布液が乾燥する前に前記アプリケーターロールによって前記塗布液が塗布されることを特徴とする請求項1に記載のロールコーターを用いた塗布方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−268967(P2009−268967A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−121412(P2008−121412)
【出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】