説明

ワイパー用ゴム組成物、およびその製造方法

【課題】 優れた振動吸収性と形状維持性を有し、かつワイパー作動時にほとんど騒音、振動が発生しない、ワイパーゴム組成物を提供する。
【解決手段】 (A)天然ゴム、補強剤、架橋剤、および促進剤を含む混合物、と、(B)クロロプレンゴム、補強剤、架橋剤、および促進剤を含む混合物、とを混合した後、架橋成形することを特徴とする、ワイパーゴム組成物の製造方法、およびこの製造方法により製造されたワイパーゴム組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や電車の車両、船舶、航空機等に採用されているガラス製窓の拭き取り装置の払拭子であるワイパーに使用されるワイパーゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイパーゴム組成物は、自動車や電車の車両、船舶、航空機等(以下、車両等という)の窓ガラスに付着した雨水、塵埃等の視界遮へい物を拭き取り、視界確保を図る為の車両等の窓拭き取り装置に装着される払拭子となるワイパーに使用される。従来、ワイパーゴム組成物としては、天然ゴム単体を始めとして、天然ゴムと同じ結晶融解性を持つクロロプレンゴムと天然ゴムとのブレンドゴム(特許文献1)、およびシリコーンゴム(特許文献2)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−319375号公報
【特許文献2】特開2007−131734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、車両等の窓拭き取り装置は、モーターの回転力を、各伝達装置を経由して、車両等のウインドウ上をワイパーがガラス面を摺動するように連続で往復作動させる。このとき、モーターの回転振動、各伝達装置の摺動振動、ワイパーブレードゴムのガラス面での摺動振動等が発生しており、従来のワイパーブレードゴムは、高反撥特性であるために、これらの振動を吸収できず、ワイパーブレードゴムがガラス面で振動(スティックスリップ)して不快な騒音を発生させている。この振動に対して、ワイパーブレードゴムの表面を減摩処理して、振動防止を試みているが、亀裂の発生、減摩処理剤の脱落等が発生しており、寿命が十分でなく、ワイパーゴムの組成を変更することによるこのような不具合の改良が求められている。最近の車両等のガラス面は、撥水処理されているものも多く、上記の問題がさらに大きくなっている。
【0005】
上記自動車用窓拭き取り装置から発生する振動を、ワイパーゴムが積極的に低減するには、ゴムが優れた振動吸収性や高潤滑特性を有することが必要である。しかし、市場にみられる各社製品は、天然ゴム、天然ゴムとクロロプレンゴムとのブレンドゴムのいずれも振動吸収性および高潤滑性に関する配慮がみられない。従って、低反撥性や潤滑性の観点でゴム材料を選定している事例の無いことがわかった。
【0006】
天然ゴムを代表とするゴムは、形状を素早く元に戻し、摺動時の摩耗性にも優れている特徴があり、そのような観点で天然ゴム等が選択されてきた、と考えられる。しかし、実際に、ワイパーブレードには、それほど素早い動きは要求されておらず、摩耗性についても、タイヤで想定されるものほど過酷ではない。むしろ、ワイパーゴムはゆっくりとした払拭速度で長いフレーム全体が均等に動き、フレームの上下、中央で多少の摩擦抵抗の違いによる遅れで振動することがあっても、ガラス面上を摺動するゴムに摩擦力を抑える高潤滑性の機能が有し、ワイパーの振動を軽減または吸収するような振動吸収性が有利な特性であると、本発明者らは考えた。
【0007】
この考えに基づき、本発明者らは鋭意研究を行い、天然ゴムにクロロプレンゴムを特定の方法で混合することにより、払拭時に音鳴きしないワイパーゴム組成物を得られる事がわかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下に示す構成によって上記課題を解決したワイパー用ゴム組成物の製造方法、およびワイパー用ゴムに関する。
〔1〕 (A)天然ゴム、補強剤、架橋剤、および促進剤を含む混合物、と、
(B)クロロプレンゴム、補強剤、架橋剤、および促進剤を含む混合物、とを
混合した後、架橋成形することを特徴とする、ワイパーゴム組成物の製造方法。
〔2〕 上記〔1〕の製造方法で製造されたワイパーゴム組成物。
〔3〕 JIS K6253に定めるショアーA硬さが、50〜70ポイントである、上記〔2〕記載のワイパーゴム組成物。
〔4〕 上記〔2〕または〔3〕記載のワイパーゴム組成物を含む、ワイパーブレード。
【発明の効果】
【0009】
本発明(1)によれば、優れた高潤滑性と形状維持性を有し、かつワイパー作動時にほとんど騒音、振動が発生しない、ワイパー用ゴム組成物を容易に提供することができる。また、本発明(2)のワイパーゴム組成物は、ワイパー作動時にほとんど騒音、振動が発生しない、ウィパーブレードに非常に適している。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】ワイパーブレードの断面の一例である。
【図2】反撥弾性試験機および試料の写真である。
【図3】定応力試験機の写真である。
【図4】定応力試験の結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。なお、%は特に示さない限り、また数値固有の場合を除いて質量%である。
【0012】
本発明のワイパーゴム組成物の製造方法は、
(A)天然ゴム、補強剤、架橋剤および促進剤を含む混合物、と、
(B)クロロプレンゴム、補強剤、架橋剤および促進剤を含む混合物、とを
混合した後、架橋成形することを特徴とする。
【0013】
予め混合された(A)成分と、予め混合された(B)成分とを、混合した後、架橋成形することにより、(A)成分からなるマトリックス中に、(B)成分が分散する、いわゆる海島構造になる、と考えられる。天然ゴムにクロロプレンゴムを最初に混合した場合、天然ゴムが白く濁り、島状にクロロプレンゴムが天然ゴム中に分散してゆくのがわかる。しかる後、補強剤、架橋剤、助剤および促進剤を混合すると、島状のクロロプレンゴムに必要な補強剤、架橋剤、助剤が定量的に混合されずに、海状を形成する天然ゴムに含有されてしまい、天然ゴムの適正量より多くなっている、と推測される。これに対して、(A)成分、(B)成分、それぞれを予め混合すると、それぞれに入った補強剤、架橋剤、および促進剤は、大部分が他成分へは移動せず、(A)成分、(B)成分、それぞれに適正な量を含有させることができる。また、(A)成分と(B)成分に異なる種類の補強剤、架橋剤、および促進剤を含有させることができる。本発明では、(A)成分の量が、(B)成分より多い方が好ましいため、(A)成分が「海」、(B)成分が「島」となる海島構造となる場合が多い、と考えられる。ここで、天然ゴムの主成分は、cis−1,4−ポリイソプレンであり、天然ゴムの1部を合成イソプレンゴムで置換することができ、置換すると天然ゴムの加工性が安定になるため、好ましい。
【0014】
天然ゴムは、ゴムの木から採取されるラテックスを凝固・乾燥して得られるゴムであり、公知の産地の天然ゴムを使用することができる。天然ゴムとしては、汎用なゴム(グレードL、3L、CV50、CV60)が好ましい。市販製品としては、ベトナム製リブドスモークドシート(RSS)の型番:CV60等が挙げられる。
【0015】
クロロプレンゴムは、クロロプレン(CH=C(Cl)CH=CH)を重合させて得られるゴムで、公知のものを使用することができる。クロロプレンゴムとしては、非硫黄変成タイプ(メルカプタン変性)なゴムが好ましい。市販製品としては、ランクセス製の型番:バイプレン126等が挙げられる。
【0016】
補強剤は、ワイパーゴム組成物中でポリマーとカーボンゲルを構成し、ミクロ構造を強化するために添加され、カーボンブラックでは、ファーネスカーボン、アセチレンカーボン、ホワイトカーボンでは、乾式シリカ、湿式シリカ等が挙げられ、カーボンブラックのグレードとしては、HAF、FEF、SRF、MAF等が挙げられる。カーボンブラックの分散性、補強性の観点から、HAF、FEF、SRFが好ましく、FEFがより好ましい。また、カーボンブラックの表面活性の指標としては、DBP(ジブチフタレート)吸油量が用いられるが、その値は70〜140cm/gであると好ましく、70〜90cm/gであると、より好ましい。DBP吸油量が70cm/100g未満であるカーボンブラックを用いた場合には、ゴムの補強性が小さく、補強性が損なわれるおそれがある。一方、上記DBP吸油量が140cm/100gよりも多いカーボンブラックを用いた場合には、分散性が悪くなる一方で補強性が強すぎて、ミクロ構造が不均一になり易く柔軟性が失われ荷重による永久歪が大きくなる。柔軟性の要求される、窓拭き取り機作動時の騒音、異音が発生し易くなるおそれがある。なお、ミクロ構造とは、ワイパーゴム組成物のマトリックスの構造・組織をいい、後述する非補強剤を含む場合には、非補強剤以外のワイパーゴム組成物のマトリックスの構造・組織をいう。
【0017】
架橋剤は、天然ゴムやクロロプレンゴムを架橋させるために加えられ、硫黄、チオウレア等が挙げられる。天然ゴムには、硫黄が好ましく、クロロプレンゴムには、酸化亜鉛、酸化マグネシウムを助剤として配合し、チオウレアが好ましい。市販製品としては、細井化学工業製硫黄(型番:微粉硫黄200)、三新化学工業製チオウレア(型番:サンセラー22−C)、正同化学工業製酸化亜鉛(型番:亜鉛華3号)、協和化学工業製酸化マグネシウム(型番:キョウワマグ150)等が挙げられる。
【0018】
促進剤は、架橋反応時間を短縮するために加えられ、加硫反応等の架橋反応を促進させる。(A)成分の促進剤としては、スルフェンアミド系、チウラム系、ジチオカルバミン酸塩系、チアゾール系等が挙げられ、スルフェンアミド系、チウラム系が好ましい。市販製品としては、三新化学工業製N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジル・スルフェンアミド(型番:サンセラーCZ−G)、三新化学工業製テトラメチルチウラムジスルフィド(型番:サンセラーTT―G)等が挙げられる。一方、(B)成分の促進剤としては、チウラム系が挙げられ市販製品としては、三新化学工業製テトラメチルチウラムジスルフィド(型番:サンセラーTT―G)等が挙げられる。
【0019】
補強剤は、ワイパーゴム組成物:100質量部に対して、20〜40質量部であると好ましく、25〜35質量部であると、より好ましい。20質量部より少ないと、添加の効果が少なく、40質量部より多いと、ワイパーブレードの柔軟性が損なわれ、ワイパーブレードの使用時に異音・振動が発生するおそれがある。
【0020】
(A)成分では、補強剤は、天然ゴム:100質量部に対して、好ましくは25〜45質量部であり、より好ましくは30〜40質量部である。(B)成分では、補強剤は、クロロプレンゴム:100質量部に対して、好ましくは10〜30質量部であり、より好ましくは15〜25質量部である。
【0021】
架橋剤については、ワイパーゴム組成物:100質量部に対して、(A)成分の架橋剤が硫黄の場合は0.2〜1.0質量部であると好ましく、0.2〜0.5質量部であると、より好ましい。(B)成分の架橋剤がチオウレアの場合は0.5〜1.5質量部であると好ましく、0.8〜1.2質量部であると、より好ましい。硫黄が0.2質量部またはチオウレアが0.5質量部であれば、架橋反応に十分であり、硫黄が0.2質量部未満またはチオウレアが0.5質量部未満であると、ワイパーゴム組成物が十分な架橋密度に達せずに伸び、応力に対して永久歪が大きくなる。一方、イオウが1.0質量部より多いと、ポリサルファイド結合の架橋反応が生じて永久歪特性が悪くなり、また、チオウレアが1.5質量部より多いと、スコーチし易く成型不良が生じるおそれがある。
【0022】
促進剤については、ワイパーゴム組成物:100質量部に対して、(A)成分の促進剤がチウラム系及びスルフェンアミド系の場合はそれぞれ1.5〜4.0質量部であると好ましく、2.0〜3.5質量部であると、より好ましい。1.5質量部以上であれば、架橋反応を十分促進させ、4.0質量部より多いと、余剰になり促進に寄与しない。1.5質量部未満であると、ワイパーゴム組成物の架橋反応が遅く成型時間が掛り過ぎる。また、(B)成分の促進剤がチウラム系の場合には、0.3〜1.5質量部であると好ましく、0.3〜0.5質量部であると、より好ましい。0.3質量部以上であれば、ポリサルファイド結合の架橋反応を十分促進させ、1.5質量部より多いと、余剰になり促進に寄与しない。0.3質量部未満であると、ワイパーゴム組成物の架橋反応が遅く、成型時間がかかり過ぎる。
【0023】
(A)成分、(B)成分、それぞれの混合、および(A)成分と(B)成分の混合は、当業者に公知の方法で行えばよく、バンバリー型ミキサー、ニーダ等の密閉式混合機、2本ロール等を使用することができ、2種以上を使用することも好ましい。
【0024】
架橋成形も当業者に公知の圧縮加熱成形方法で行えばよく、金型成形機、押出成形機等を使用することができる。加熱温度は、160〜200℃が好ましく、圧力は、5〜15MPaが好ましい。
【0025】
以上により、ワイパーゴム組成物を製造することができる。(A)成分と(B)成分を混合した後、架橋成形する前に、非補強剤や、さらなる架橋剤を加えることも好ましい。なお、非補強剤や、さらなる架橋剤は、(A)成分と(B)成分に均一に混合することができるので、製造工程を簡便にするため、(A)成分と(B)成分を混合した後に加える方が好ましいが、当然、(A)成分、(B)成分、それぞれに独立して混合することもできる。
【0026】
非補強剤は、ワイパーゴム組成物のマクロ構造を構成し、ワイパーゴム組成物の形状維持性を向上させ、かつワイパーゴム組成物にガラス面との潤滑剤の機能を付与するために添加される。非補強剤は、固体潤滑性、形状維持性の機能を有する粉末または繊維化合物であると、より好ましい。非補強剤としては、ケイ酸塩(タルク粉末(例えば、商品名:ミストロンペーパー)等のケイ酸マグネシウム粉末、ケイ酸アルミニウム粉末等)、珪藻土、グラファイト粉末、変性フェノール樹脂粉末、フッ素樹脂粉末、セルロース粉末、ケイ酸カルシウム繊維(ウォラストナイト(例えば、商品名:ナイアド(NYAD)等)、チタン酸カリウム繊維(ウイスカー等)、カーボン繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、PVA(ポリビニルアルコール)繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維、セルロース繊維、フッ素樹脂繊維等が挙げられ、ケイ酸カルシウム繊維、セルロース繊維、アクリル繊維、ケイ酸マグネシウム粉末、グラファイト粉末、珪藻土、変性フェノール樹脂粉末が、好ましい。非補強剤は、ゴムに対して、不活性で化学反応を伴わないので、いずれも容易に添加することができ、同時にシランカップリング剤を添加すると好ましい。これらの非補強剤は、ゴム架橋成型時に、シランカップリングアクリルとの反応で、ゴムと接合するからである。また、変性フェノール樹脂粉末は、成形温度で溶融して、ゴムと融合し、成型後、室温に戻ると同時に固化してゴムと接合する。これにより、ゴムのミクロ構造の動き易さが抑制されて、ゴムのマクロ構造が低反撥化され、振動吸収機能が得られる。さらに、繊維等の化学繊維は、鉱物系の化学繊維よりモース硬度が低いため、ゴムに近い剛性であり、ゴム添加物としては、より適正な場合がある。非補強剤の平均粒径は、ミクロン単位であると、好ましい。なお、マクロ構造とは、ワイパーゴム組成物の全体の構造をいう。
【0027】
現在、一般に市販されている天然ゴムにカーボンを添加したワイパーゴム組成物は、そのままでは反撥弾性が大きいので、表面に固体潤滑剤であるグラファイトをコーティングしているが、摺動時の脱落・摩擦によりグラファイトコーティングが欠損してしまい、ワイパーブレードが摺動時の振動を拾って、音鳴きやびびりの一因となっている。これに対して、本発明のワイパーゴム組成物では、潤滑剤としても機能する非補強剤が、ワイパーゴムに均一に分散されて、更にゴムを低反撥化しているので、仮に表面部が欠損しても、内層にある非補強剤による潤滑機能と振動を吸収する機能を発揮して、ワイパーブレードが正常な作動を続けることができる。
【0028】
また、非補強剤は、アスペクト比が3以上30以下の繊維であると、ワイパーゴム組成物のマクロ構造の強化効果の観点から好ましい。ここで、アスペクト比は、走査型電子顕微鏡で観察したときの(繊維長)/(繊維直径)をいう。なお、繊維長は、0.5mm以下であると、ハンドリングの観点から好ましい。
【0029】
非補強剤は、ワイパーゴム組成物:100質量部に対して、10〜50質量部であると好ましく、20〜40質量部であると、より好ましい。10質量部より少ないと、添加の効果が少なく、50質量部より多いと、ワイパーゴム組成物の成形時のゴム流動性が損なわれ、製品を成形できないおそれがあるためである。詳細には、非補強剤の過度の添加は必要なゴム材料特性を損ない、またその質によってはゴムの伸び変形時の応力集中で、切れを発生させ、繰返しによりそれが成長して破断に至るものがあり、ワイパーブレードに適した粉末状及び繊維状添加剤の質と量の設定が求められる。通常、非補強剤の含有量の増加に伴い、ワイパーゴム組成物の硬度が増加する。なお、上記は、補強剤FEFグレードが35質量部の場合の好ましい範囲であり、一例として、補強剤が25部の場合には、非補強剤が10〜50質量部で、補強剤が35質量部の場合のゴム硬度と同程度になり、また、補強剤が45質量部の場合には、非補強剤が15〜25質量部で、補強剤が35質量部の場合のゴム硬度と同程度になる。このように、補強剤の含有量や、求めるゴム硬度等に応じて、非補強剤の好ましい量を適宜選択することができる。
【0030】
また、ワイパーゴム組成物:100質量部に対して、補強剤と非補強剤の合計が、好ましくは45〜150質量部であり、より好ましくは55〜90質量部である。45質量部未満では、添加の効果が少なく、150質量部を超える場合には、ゴム中のポリマー分率が過少となり、繰返し伸長疲労性が損なわれるおそれがある。補強剤と非補強剤の合計が少ない40質量部のときには、補強剤として表面活性の多いHAFグレードを30質量部、残りの非補強剤を10質量部の割合で含有させることによりワイパーゴム組成物を作製することができるが、モジュラスが小さく、ゴム自体は硬いもののコシがあまりないものになる。すわなち、JIS(JIS K6253に定めるショアーA)で測定する硬度はあるものの、ワイパーゴムが摺動時にガラス面方向に寝てしまう傾向になる。最も好ましい例としては、補強剤としてFEFグレードのカーボンブラック:45質量部、繊維状及び粉末状のウォラストナイト、グラファイト等の非補強剤を50質量部である。ここで、ワイパーゴム組成物の硬度、100%モジュラスの観点からは、補強剤と非補強剤の合計が、45〜60質量部であると特に好ましいが、昆虫の死骸や鳥の糞等の落ちにくい汚れに対処する場合には、補強剤と非補強剤の合計が、75〜90質量部程度の硬いワイパーゴム組成物の使用も可能である。
【0031】
上記のさらなる架橋剤は、(A)成分と(B)成分に均一に混合可能であると好ましく、このようなさらなる架橋剤としては、パーオキサイド、ビス−tert−ブチルペルオキシヘキサン等が挙げられ、パーオキサイドが好ましい。
【0032】
さらなる架橋剤は、ワイパーゴム組成物:100質量部に対して、0.5〜2.0質量部であると好ましく、1.0〜1.5質量部であると、より好ましい。0.5質量部以上であれば、添加の効果があり、2.0質量部以下であれば、ワイパーゴム組成物が硬くなり過ぎない、破断伸びの著しい低下を招かないからである。
【0033】
ワイパーゴム組成物は、さらに水性剤を含むと、ガラス面との摺動時に、ワイパーゴム組成物自体から、水性剤をワイパーゴムリップとガラス面との界面に介在させ、摺動状態を滑らかにし得るので、好ましい。ここで、水性剤としては、ポリエチレングリコール;アニオン、カチオンおよび中性界面活性剤等が挙げられ、ポリエチレングリコールの#600(液体)〜#4000(固体)が、潤滑膜切れし難い粘性の観点から好ましい。撥水化されたガラス面では、ガラス面が疎水化し、ガラスに均一な水潤滑膜を発生させるのは難しい為に、ワイパーゴムに内添する水性化剤で、ワイパーゴムリップとガラス面との間に、視界を遮らない程度の水主体の潤滑膜を介在させ、ワイパーゴムリップの直接接触を抑制してゴムリップ先端の磨滅を防ぐと同時に、接触抵抗を均一化させ、スムーズな水の払拭面を実現させるものである。
【0034】
また、ワイパーゴム組成物は、長期屋外暴露される雰囲気を考慮し、補強剤、非補強剤に加え、劣化防止剤(老防剤)を含有すると好ましい。促進助剤、加工助剤等を含有することも好ましい。例えば、ワイパーゴム組成物:100質量部に対して、劣化防止剤はジフェニルアミン誘導体:2質量部を添加すると好ましい。なお。クロロプレンゴムを用いることにより、劣化防止剤の含有量を、天然ゴムに通常必要とされる量より減少させることができる。必要により、非粘着防止剤として、マイクロクリスタリンワックスを加えても好ましい。
【0035】
次に、ワイパーゴム組成物は、反撥弾性試験における反撥力が18%以下であると好ましく、10%以下であると、より好ましい。経験的にこの範囲であると、ワイパーゴム組成物を、車両等の窓に取り付け、往復動作を繰り返しても異音、振動は発生しない。また、天然ゴムにクロロプレンゴムをブレンドする事で天然ゴムの反撥弾性試験における反撥力を半減し、異音、振動も減少するが、表面に固体潤滑剤をコーティングしないと十分とはいえない。ここで、反撥弾性試験は、後述する試験(c)で説明する。
【0036】
ワイパーゴム組成物の特性の一例としては、ゴム硬度(JIS K6253に定めるショアーA):50〜70ポイント、100%モジュラス(JIS K6251に定めるM100):1.5〜3.5Mpaであり、図1に示す形状のワイパーゴム組成物のワイパーの往復作動による50万回の繰り返し屈曲後でも、亀裂がなく、異音の発生がない。また、図1のリップ部14は、高潤滑性、低反撥性であり、撥水ガラスのように水による潤滑が得られ難い、厳しい環境条件下の要求でも、拭き残しがなく、異音の発生がない。図1については、後述する。
【0037】
また、ワイパーゴム組成物は、低温弾性回復試験におけるTR10が、−20℃以下であると好ましい。ここで、低温弾性回復試験は、JISK 6261の「7.低温弾性回復試験(TR試験)に準拠して行い、TR10は、温度−収縮曲線から、収縮率が10になる温度を読み取った値である。TR10の値が−20℃より高いと、寒冷地等でワイパーブレードの柔軟性が損なわれ、使用中に、異音が発生するおそれが生じる。
【0038】
本発明のワイパーゴム組成物に、定荷重の力(自動車に繰り込まれた時に常時ワパーブレードに掛けられる平均的な一定付加荷重、ワイパー長10cm当たり200g)を付加した状態で、70時間100℃、経時させた後、定荷重を取り除いた時の復元性試験による永久変形率は、天然ゴム単独のときと比べて低く、形状復元性に優れている。ここで、自動車用窓拭き取り装置の未作動時は、ワイパーブレードに定荷重の力が付加された状態で格納されており、次の使用時までに著しい永久変形無く保持される機能が求められており、ワイパーブレードのリップ先端が曲がって変形すると払拭機能が失われてしまう。この形状復元性の観点からは、ワイパーゴム組成物の硬度は、JIS K6253によるショアーA値が、60±5ポイントであると好ましく、JIS K6251による100%モジュラスが2.0±0.5MPaであると好ましい。また、本発明のワイパーゴム組成物は、80℃で24時間、暴露されてもほとんど物性に変化がないのに対して、天然ゴム単独では硬化が進み、ゴム状弾性が維持されるものの、物性変化が大きくなる。このように、物性の保持機能について、本発明のワイパーゴム組成物は、天然ゴムより優れている。
【0039】
本発明のワイパーゴム組成物は、補強剤の一部を非補強剤に替えて添加しているときには、ゴム中のカーボンゲル分率が少なくなり、ミクロ的なゴム弾性率が下がり、柔らかくなって撥水膜等の特殊処理したソフトなガラス面に対しても、傷めが抑えられる。ゴムのミクロ的な弾性率が低くなると、ワイパーブレードを抑え付けているスプリングの押し付けにより、ワイパーブレードのリップが過度に倒れて、いわゆるベタ当たりという接触巾が異常に大きくなることが危惧されるが、非補強剤でアスペクト比が3以上の繊維状のものを適性に添加することで、マクロ的な弾性率が大きくなり、各種窓拭き取り機のスプリングによる押し付け荷重に対しても、適度な倒れ角を維持できるワイパーゴム組成物を得ることができる。
【0040】
本発明のワイパーゴム組成物を採用することで、自動車用窓拭き取り装置の払拭子が振動することが無く、ガラスと接触するゴム表面に対して柔らかく、殆ど騒音、異音を生じない払拭状態の提供が可能となった。
【0041】
図1に、ワイパーブレードの断面の一例を示す。ワイパーブレード1は、肉厚の基部11と、略三角形状の揺動部13と、基部11と揺動部13を接続する柔軟性のあるネック部12と、揺動部13の先端に設けられる薄い板状のリップ部14を備えており、一般に一体成形されている。
【0042】
ワイパーブレード1は、リップ部14の先端のエッジを、ガラス面上で摺動させ、ガラス面上の雨水、塵埃を払拭して取り除く。このとき、柔軟なリップ部14は、ワイパーブレード1の進行方向と反対方向に傾いている。また、往復作動の反転毎にネック部12が揺動し、柔軟なリップ部14は、ワイパーブレード1の進行方向と反対方向に傾く。ここで、ネック部12は、反転毎に振り子のように左右に屈曲して、疲労を受けており、さらに、ガラス面の上部サイドでは、摺動速度が速くなるため、屈曲量が大きくなり、ネック部12からの切れが起こり易くなる。格納時には、ワイパーブレード1に定荷重がかかり、ネック部12とリップ部14は定応力歪を受ける。一般的なリップ部14の倒れ角の仕様は、45°であり、市販品では、揺動部13の厚さを、従来品より半減させることにより、硬度のショアーA値が高いゴムを使用しているものがある。このように、揺動部13の厚さを半減させることにより、ショアー値が75ポイント程度の硬いワイパーゴム組成物組成物でも使用することができる。ワイパーゴム組成物組成物の硬度が高くなると、リップ14先端のニップ幅(ガラスとの接触幅)が小さくなり、摺動抵抗を減少させることができる。
【0043】
本発明のワイパーブレードは、屈曲疲労試験を50万回繰り返しても、亀裂の発生はなく、ガラスの拭き残しもなく、異音も発生しない。非補強剤を添加しているが、ワイパーブレードに与える製品機能上の不具合は、観察されていない。
【0044】
さらに、ワイパーゴム組成物に、表面処理やコーティング材を接合すると、水潤滑が得られ難い、厳しい環境条件下の要求でも、図1のリップ部14が、高潤滑性、低摩擦性になり、拭き残しおよび音鳴きを、より改良することができる。
【0045】
以下に、ワイパーブレードの性能評価を行うための試験(a)〜(d)について説明する。
【0046】
〔試験(a)〕
試験(a)は、JIS D5710に記載されている払拭試験機を用いて、ワイパーブレードの初期の払拭時おける柔軟性と拭き取り状態を評価するために行う。この試験(a)は、各試料をワイパーに取り付け、窓ガラスに少量の水を注ぎつつ40回/分の速度でワイパーを作動させ、その時の拭き残しラインの有無を目視で確認し、また摺動時の騒音・異音の有無を耳で確認する。往復の作動毎に10回確認を行い、拭き残しラインの有無、騒音・異音の有無を確認し、その数の少ないほど払拭性が優れているといえる。
【0047】
《払拭条件》
ワイパーブレード長:450mmと525mm、2本形
ワイパーに加える荷重:150〜200g/10cm、
散水量:無し及び150〜400cc/min.
ワイパーブレードの往復速度:40回/min.(空運転時)
撥水処理:CIC社製品、商品名:アネットBの処方による撥水処理
ガラス面の油分、塵埃をCIC社製アネットBに付属の布でふき取った後、乾いた布で拭き残しを取り除く。その後、ガラス面をドライヤーの高温熱風で満遍なく処理し、ガラス表面の吸着水分を取り除く。それから素早く撥水処理液を付属のスポンジでガラス表面に均一塗布する。30分間風乾後、ガラス表面に白く残った塗膜を乾いた布で拭き取る。30°に傾けたガラスの表面に一滴の水滴を落とすと、濡れずに転がり落ちるように仕上がる。
摺動音の発生:耳で確認
拭き残し:目視で確認
【0048】
本発明のワイパーブレードは、摺動音の発生数、および拭き残し数は「0」であり、優れているといえる。上記払拭時における柔軟性と拭き取り性は、以下の事情に関連する。即ち、車両等のフロントガラスは、通常緩やかな曲面により構成され、さらにその曲率も場所によって異なる。しかし、窓拭き取り機は、上述の形状のフロントガラスにおいて、表面に付着した水滴、ゴミ等を拭き取らねばならない。そのためには、ワイパーブレードがガラス表面と完全密着し、その形状を少しずつ変形させながら、ガラス表面を摺動しなくてはならない。したがって、ワイパーブレードには、高い柔軟性が要求される。また、強固に付着したゴミ等を払拭するときには、ワイパーブレードがゴミ等に負けて、窓拭き取り機の軌跡において、水滴やゴミが拭き残ってしまう。これを防止するためには、上記ワイパーブレードが剛性と復元性を持つ必要がある。上記剛性と復元性を持つことによって、ゴミ等によりワイパーブレードへの圧迫に負けない剛性と、即座にワイパーブレードの形状が元に戻ることができるからである。このように、強固に付着したゴミ等があっても、摺動音の発生、拭き残しが無ければ、柔軟性及び復元性に優れているといえる。
【0049】
〔試験(b)〕
試験(b)は、試験(a)と同じ払拭試験機を用いて、ワイパーブレードに往復運動を50万回繰り返した後の、キ裂発生の有無を観察するものであり、「無」である場合には、市場で使用可能であると見込まれる。本発明のワイパーゴム組成物では、「無」である。
【0050】
〔試験(c)〕
試験(c)は、ワイパーブレードの反撥試験での反撥力を評価するために行う。まず、ワイパーブレードから厚さ4mmで5mm角の平らな試片を切り出して、そのゴム試片表面に3mmφで0.1gの鋼球を50cmの高さから自由落下させて、鋼球がゴム試片に落ち、跳ね返る高さを測定し、50cm高さを100%として表示する。図2に、反撥弾性試験機および試料の写真を示す。図2(A)は、反撥弾性試験機の写真であり、内径:4mm、長さ:50cmのガラス管を鉛直方向に立て、2箇所でクランプ保持している。ガラス管の上部から鋼球を自然落下させて、跳ね返る高さを測定する。図2(B)は、ワイパーブレードから切り出した試料であり、図2(C)は、試料をガラス管の下部に載置した状態を示す。本発明のワイパーゴム組成物の反撥弾性率の一例は、10%であり、優れた低反撥性を示す。なお、シリコーンゴム製の市販品では40%、天然ゴム製の市販品Aでは38%、市販品Bでは42%である。
【0051】
車両のフロントガラスに設置した窓拭き取り機に、各ワイパーゴム組成物を取付ける。その後、上記窓拭き取り機を、少量の水をフロントガラスに注ぎつつ、1分当たり45往復の速度で、合計10往復、作動させる。このとき、試験(c)は、窓拭き取り機作動終了後、フロントガラスに残った窓拭き取り機の軌跡である筋を数えるという方法(10点法)にて採点することにより行う。この点数が高い場合には、払拭性に優れたワイパーゴム組成物であるといえ、4点以上で合格である。表1に、10点法の評価基準を示す。
【0052】
【表1】

【0053】
上記試験(c)において、各試料及び比較試料(市販の天然ゴム製ワイパー)の採点結果は、一般にいずれも往/復で8/8程度である。これにより、各試料共、実機での十分な払拭性を有することがわかる。なお、拭き残し試験の前に、ワイパーブレード試験片の表面にコーティングを行うことも好ましい。具体的な例としては、黒鉛とウレタンバインダーと溶剤を含むコーティング液を、ワイパーブレード試験片にスプレー塗布した後、室温で、溶剤を揮発させた後、80℃で30分熱処理をし、数ミクロンのコーティング層を形成する。ここで、黒鉛は、ダイノーミルで、数百ナノメートルに粉砕し、ワイパー作動時にこの黒鉛の脱落によりワイパーのリップの欠損を小さくすると好ましい。コーティング液には、極性溶媒のメチルエチルケトン(MEK)を用い、天然ゴムに容易に浸透しないようにし、スプレー塗布により過剰量のコーティング液の塗布を防ぐと好ましい。ウレタンバインダーは、熱処理によりウレタン結合し、ワーパーゴム組成物と結合するとともに、黒鉛を含むゴム状弾性の膜となる。黒鉛の含有量は、ウレタンバインダーとの体積比で、1:1程度であることが好ましい。また、ウレタンバインダーの破断伸びは、300%以上として、ワイパーゴム組成物の変形に十分追従するように架橋密度を設定すると好ましい。ウレタン樹脂の含有量は、溶剤の5質量%程度であると、数ミクロンのコーティング層を形成しやすく好ましい。さらに、上記コーティングとワイパーゴム組成物の密着性がよくない場合には、ワイパーゴムに予め塩素化処理を行うと、より好ましい。この塩素化処理は、ワイパーゴム組成物を成型して数日以内に、0.1%の次亜塩素酸塩を加えた塩酸酸性(PH2.5)水溶液に、ワイパーゴム組成物を1分〜1分30秒間浸漬し、その後、十分に水洗し、乾燥させことにより行うことができる。
【0054】
〔試験(d)〕
試験(d)は、低温でのワイパーブレードの復元性を評価するために行う。車両等は寒冷地において使用される機会も多いため、ワイパーブレードには、柔軟性及び復元性を、−20℃程度の低温においても失わないことが、要求される。ワイパーブレードのリップ部を巾:2mm、長さ:100mmで切り出し、これを長さ:150mmに伸長させた状態で保持して、−70℃で10分凍結させる。この保持を解除した後、直ちに1℃/1分で昇温させて2分間隔で、ゴムの戻り量を観測する。本発明のワイパーブレードは、10%戻った時の温度が−20℃以下であり、低温でも十分な復元性がみられる。低温特性はポリマーの選択で決まり、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、アクリルゴム、EPDMゴムのいずれも−20℃では柔軟性を失う事はない。なお、外気温が氷点下では、払拭する対象の水が液体から固体に遷移するため、ワイパーブレードとしては、温度の低下と共に、適度に硬化するのが良い。
【実施例】
【0055】
以下に、実施例により、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0056】
〔実施例1〕
まず、下記表2に示される配合剤名称を混合した。ここで、カーボンブラックは、補強剤として、酸化亜鉛、ステアリン酸、および酸化マグネシウムは助剤、チオウレアは架橋剤として、配合した。密閉混合機(ニーダー)に、混合機の全容積の70%となるように入れ、混合し、(B)成分を作製した。
【0057】
【表2】

【0058】
次に、表3に示される実施例は、配合剤を、記載した配合部(質量部で記載)、配合順で混合した。ここで、硫黄は、架橋剤として混合した。また、メタケイ酸マグネシウム、変性フェノール樹脂粉末、珪藻土は、非補強剤として配合した。密閉混合機(ニーダー)に、混合機の全容積の70%となるように、配合順に入れた。配合順が同じ数字の配合剤は、同時に入れた。配合順2では、全てをプレミックスした後、2等分して、密閉混合機に2回に分けて投与した。2回目分を入れる時間は、1回目分投入から5分位した後、タイミングとしては混合が始まり、密閉混合機の消費電力が大きく跳ね上がる直前とした。配合順3では、投与後1分で密閉混合機から排出して、出てきたゴム生地をすばやく2本ロールに巻き付け、冷却し、排出し、配合順3及び成分B(表1に示す)を配合順4として連続の更なる追加の混合を行った。2本ロールでは、成形形状の大きさである約5mmに厚みだしを行い、成形用の生地形状を得た。
【0059】
ワイパーゴム組成物には、長期屋外暴露される雰囲気を考慮し、カーボンブラック及び非補強非剤に加え、老化防止剤として置換ジフェニルアミンを添加し、天然ゴムに対しては、さらに耐オゾン性を付与させるオゾン劣化剤(パラジフェニルアミン系)とマイクロワックスを1:2で混合したもので添加した。また、架橋剤としては、天然ゴムについてはモノサルファイド結合を優先させる促進剤との組み合わせで、硫黄少量を添加し、クロロプレンゴムの架橋剤は三新化学工業のサンセラー22−C/サンセラーTTを添加した。
【0060】
【表3】

【0061】
得られた生地を、金型に仕込み、100kg/cmの圧縮成形を170℃で15分間行い、加硫成形ゴム板を得た。この加硫成形ゴム板を用いて、試験片を作製し、得られたゴム硬度は、ショアーA:63ポイント、100%モジュラス:2.0MPa、反撥弾性率:10%であった。破断時伸びは、580%であった。ここで、ゴム硬度はJIS K6253に、100%モジュラスはJIS K6251に、反撥弾性率は、上記試験(c)に準じて、試験を行った。ここで、ショアーA値は、50〜70であると好ましい。100%モジュラスは、2.0〜3.5であると好ましい。破断時伸びは、JIS K6251に基づき、JISダンベル状3号形を用い、ダンベルの両端チャック部をクランプして、500mm/分の引張速度で、強制的に引張り歪を与え、破断時の伸び歪率を、破断時伸びとして計測した。
【0062】
次に、ワイパーブレード試験片を作製して評価を行った。上記試験(b)に準じた屈曲疲労は50万回後でも、亀裂無し、音無しであり、上記試験(c)に準じた初期の拭き残し試験の結果は、通常ガラス、撥水処理ガラスともに10点であった。ここで、初期とは、ワイパーブレード試験片を拭き取り試験機に取り付け、作動確認をした直後に、測定した場合である。表7に、これらの結果を示す。また、定応力試験機で、10cm当たりに200gの定荷重を100℃で24時間掛けた時の永久変形は、天然ゴム品の約半分であった。図3に、この定応力試験機の写真を示す。図3(A)は、定応力試験機の外観であり、(B)は、試験片の拡大写真である。図3(A)からわかるように、2本の試験片を1組にして試験を行った。まず、長さ:70mmに切断した2本の試験片21を、それぞれ隣接する支持台22の上に載置した。各試験片21に均一に荷重がかかるように、75mm×25mmのガラス板23(厚さ:1mm)を載せ、さらに280gの荷重おもり24を載せた。このようにして、ワイパーブレード試験片10cm当たりに200gの定加重を掛けた。この状態の定応力試験機を、100℃で48時間保持した後、室温に戻し、試験片を取り出して、ネック部の戻り量を測定した。図4に、定応力試験の結果を示す。なお、図4には、天然ゴムを使用した市販品の結果も示す。
【0063】
〔実施例2〕
表4に示す配合にしたこと以外は、実施例1と同様にして、試験片を作成した。ただし、試験(c)に準じた初期の拭き残し試験の前に、ワイパーブレード試験片の表面にコーティングを行った。黒鉛:10gとウレタンバインダー:5gと溶剤(MEK):90gを含むコーティング液を、ワイパーブレード試験片にスプレー塗布した後、室温で、溶剤を揮発させた後、80℃で30分熱処理をし、数ミクロンのコーティング層を形成した。
【0064】
【表4】

【0065】
〔比較例1〕
表5に示される配合剤名称を、表5に示す配合順に混合したこと、配合順3で密閉混合機から出して、2本ロールを用いて均一に混合したこと以外は、実施例1の表3に係る工程以降と同様に行い、加硫成形ゴム板を得た。ただし、試験(c)に準じた初期の拭き残し試験の前に、実施例2と同様に、ワイパーブレード試験片の表面にコーティングを行った。本比較例1は、天然ゴム単独配合の事例である。得られたゴム硬度は、ショアーA値:68ポイント、100%モジュラス:3.6MPa、反撥弾性率:30%であった。破断時伸びは、460%であった。また、ワイパーブレード試験片を作製しての屈曲疲労は50万回後に亀裂無しであり、10cm当たりに200gの定荷重を100℃で48時間掛けた時の永久変形試験では、変形して戻りが無かった。
【0066】
【表5】

【0067】
〔比較例2〕
表2の配合で作製した(B)成分の生地を、金型に仕込み、100kg/cmの圧縮成形を170℃で15分間行い、加硫成形ゴム板を得た。ただし、試験(c)に準じた初期の拭き残し試験の前に、実施例2と同様に、ワイパーブレード試験片の表面にコーティングを行った。本比較例2は、クロロプレンゴム単独配合の事例である。この加硫成形ゴム板を用いて、試験片を作製し、得られたゴムの硬度は、ショアーA:63ポイント、100%モジュラス:1.8Mpa、反撥弾性率:14%であった。破断時伸びは、540%であった。また、ワイパーブレード試験片を作製しての払拭試験の結果は異音、振動あり、表面に固体潤滑剤をコーティングしないと十分とはいえない。10cm当たりに200gの定荷重を100℃で24時間掛けた時の永久変形は、天然ゴム品の約半分であった。
【0068】
〔比較例3〕
表6に示される配合剤名称を、表6に示す配合順に混合したこと、配合順3で密閉混合機から出して、2本ロールを用いて均一に混合したこと以外は、実施例1の表3に係る工程以降と同様に行い、加硫成形ゴム板を得た。ただし、試験(c)に準じた初期の拭き残し試験の前に、実施例2と同様に、ワイパーブレード試験片の表面にコーティングを行った。本比較例3は、天然ゴムとクロロプレンゴムの同時配合の事例である。
【0069】
【表6】

【0070】
得られたゴム硬度は、ショアーA値:67ポイント、100%モジュラス:2.7MPa、反撥弾性率:16%であった。破断時伸びは、480%であった。また、ワイパーブレード試験片を作製しての屈曲疲労は50万回後に亀裂無しであり、10cm当たりに200gの定荷重を100℃で48時間掛けた時の永久変形試験では、変形して戻りが無かった。比較例2と比較して、ゴム硬度が4ポイントも高く、本来クロロプレンゴム層に入るべき補強剤が天然ゴムの層に入りマクロ構造が硬くなっている。また、ワイパーブレード試験片を作製しての払拭試験の結果は異音、振動あり、表面に固体潤滑剤をコーティングしないと十分とはいえない。上記の試験(c)に、異音の有無は、上記の試験(a)の「摺動音の発生」に、拭き残しについては、上記の試験(c)のとおり、行った。表7に、これらの結果を示す。
【0071】
【表7】

【0072】
表5からわかるように、実施例1、2は、いずれも、硬さショアーA、100%モジュラスが所望の範囲内であり、反撥弾性率が低く、破断時伸びが大きかった。また、拭残試験の結果も良好であった。これに対して、天然ゴムを用いた比較例1は、硬さショアーA、100%モジュラス、反撥弾性率が高く、破断時伸びは小さかった。比較例2は、硬さショアーAが所望の範囲内であるが、100%モジュラスが低く、ワイパーリップの倒れ込みが大きかった。天然ゴムとクロロプレンゴムを同時に配合した比較例3は、硬さショアーA、100%モジュラスが高かった。また、比較例1〜3は、いずれも初期の拭残試験で微音が発生し、4〜5点であった。
【0073】
このように、本発明のワイパーゴム組成物は、優れた振動吸収性と形状維持性を有し、かつワイパー作動時にほとんど騒音、振動が発生せず、大変有用であることがわかった。
【符号の説明】
【0074】
1 ワイパーブレード
11 基部
12 ネック部
13 揺動部
14 リップ部
21 試験片
22 支持台
23 ガラス板
24 荷重おもり

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)天然ゴム、補強剤、架橋剤、および促進剤を含む混合物、と、
(B)クロロプレンゴム、補強剤、架橋剤、および促進剤を含む混合物、とを
混合した後、架橋成形することを特徴とする、ワイパーゴム組成物の製造方法。
【請求項2】
請求項1の製造方法で製造されたワイパーゴム組成物。
【請求項3】
JIS K6253に定めるショアーA硬さが、50〜70ポイントである、請求項2記載のワイパーゴム組成物。
【請求項4】
請求項2または3記載のワイパーゴム組成物を含む、ワイパーブレード。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−131844(P2012−131844A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282485(P2010−282485)
【出願日】平成22年12月19日(2010.12.19)
【出願人】(305047856)中島ゴム工業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】