説明

ワイヤハーネス及び給電機構

【課題】電線を屈曲自在に支持しつつ容易に組立や分解ができ、効果的にコストの削減を図る。
【解決手段】給電機構1は、車体2とスライドドア3との間に電力を供給し、一端が車体2に固定されると共に他端がスライドドア3に固定され、且つこれらの中間部が屈曲可能な状態で両者間に配されるワイヤハーネス10を備える。ワイヤハーネス10は、可撓性を有する少なくとも一つの電線からなるメインハーネス11と、メインハーネス11の外周側を覆う可撓性のチューブ12と、チューブ12の外周側に配設されこれらメインハーネス11及びチューブ12を車体2及びスライドドア3間で支持するコイルスプリング13とを備える。コイルスプリング13は、ワイヤハーネス10の一端から他端にかけてチューブ12の外周側に巻回されて配設され中間部における少なくとも一箇所でその巻回方向が異なるように配設される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の部材間を電気的に接続しつつ電力を供給するワイヤハーネス及び給電機構に関し、特に自動車のスライドドアに適用され、このスライドドアに搭載された各種の電装部品に電力を供給するワイヤハーネス及び給電機構に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車のスライドドア側へ車体側から電力を供給するための給電機構の一例として、例えば下記特許文献1に開示されているものが知られている。この給電機構は、例えば図5に示すようなワイヤハーネスをスライドドア及び車体間に配することによって実現されている。
【0003】
図5は、従来の給電機構に用いられるワイヤハーネスを示す一部分解斜視図である。図5に示すように、ワイヤハーネス50は、湾曲面を有する帯状に形成された銅板51と、この銅板51の湾曲面上に並設された複数の電線52と、これら銅板51及び複数の電線52を摺接可能な状態で覆うPVC(ポリ塩化ビニル)などの材料からなる熱収縮チューブ53とから構成されている。
【0004】
そして、この給電機構は、このように構成されたワイヤハーネス50の端部を、それぞれスライドドア及び車体に固定し、スライドドアのスライド移動に伴って各端部間の中間部における屈曲部分の内外周に曲率半径の差が生じても、各電線52に対して収縮方向や引張方向のストレスが発生せず、ワイヤハーネスの傷みなどを防止することができる構成とされている。
【0005】
【特許文献1】特開2000−177392号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来の給電機構では、ワイヤハーネス50の被覆として熱収縮チューブ53を用いているため、ワイヤハーネス50の製造工程においては、予め全ての電線52及び銅板51を熱収縮チューブ53内に挿通させる必要がある。このため、ワイヤハーネス50の端部に設けるコネクタの取付作業や各電線52の通電確認作業などは、上述した挿通工程を経た後に行わなければならない。
【0007】
従って、ワイヤハーネス50の最終検品作業などの段階で不具合が生じた場合、ワイヤハーネス50全体を破棄するなどの措置が必要となり、製品の歩留まりが低くなり、製造コストが増加してしまうという問題がある。また、特に熱収縮チューブ53を一旦収縮させた後は、熱収縮チューブ53内の電線52や銅板51の点検あるいは交換などを行うことができない。このため、不具合などが生じた場合は、同様にワイヤハーネス50全体の交換などが必要となり、結果的に材料の無駄が生じ、環境面やコスト面からも好ましくないという問題がある。
【0008】
本発明は、このような点に鑑みてなされたもので、安全且つ確実に電線を屈曲自在に支持すると共に容易に組立且つ分解可能な構造を備え、効果的にコストの削減を図ることができるワイヤハーネス及び給電機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るワイヤハーネスは、相対移動可能な複数の部材間を電気的に接続し電力を供給するために配されるワイヤハーネスであって、端部がそれぞれ前記複数の部材に固定されると共に、これら固定端の中間部が屈曲可能となるような可撓性を有する少なくとも一つの電線からなる通電部と、前記通電部の外周側を覆う可撓性の保護部材と、前記保護部材の外周側に配設され前記通電部と前記保護部材とを支持するための弾性体からなる弾性支持部とを備え、前記弾性支持部は、一の固定端から他の固定端にかけて前記保護部材の外周側に巻回されて配設されると共に、前記中間部における少なくとも一箇所でその巻回方向が異なるように配設されていることを特徴とする。
【0010】
弾性支持部は、例えばコイルスプリングからなるようにすればよい。なお、保護部材は、例えば、コルゲート材からなり、蛇腹状に形成された管状体からなるようにしてもよい。また、弾性支持部は、例えば保護部材の外周側にSZ撚りで巻回されて配設されているものであってもよい。
【0011】
本発明に係る給電機構は、一端が固定側部材に固定されると共に他端が前記固定側部材に対してスライド移動可能な移動側部材に固定され、且つこれらの中間部が屈曲可能な状態で両部材間を電気的に接続し電力を供給するために配されるワイヤハーネスを用いた給電機構であって、前記ワイヤハーネスは、可撓性を有する少なくとも一つの電線からなる通電部と、前記通電部の外周側を覆う可撓性の保護部材と、前記保護部材の外周側に前記一端から前記他端にかけて巻回されて配設されると共に前記中間部における少なくとも一箇所でその巻回方向が異なるように配設され、前記通電部及び前記保護部材を前記固定側部材及び前記移動側部材間で支持するための弾性体からなる弾性支持部とを備えて構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、相対移動可能な固定側部材及び移動側部材などの複数の部材間を電気的に接続する屈曲可能なワイヤハーネスが、通電部を覆う保護部材の外周側に巻回されて配設されると共に中間部における少なくとも一箇所でその巻回方向が異なるように配設された弾性支持部を備える。このため、保護部材として熱収縮チューブを使用した場合と比較して、ワイヤハーネスの製造工程における作業順序の自由度を向上させ、通電部などを確実に保護しながら支持しつつ、これら保護部材や保護部材内の通電部などを、弾性支持部の巻回方向が異なる箇所で容易に取り外したり点検したりすることが可能となる。これにより、安全且つ確実に通電部を屈曲自在に支持すると共に容易に組立且つ分解可能な構造を実現し、環境面に有効でありつつ効果的にコストの削減を図ることができる。
【0013】
また、本発明によれば、ワイヤハーネスの保護部材としてコルゲート材を使用し、弾性支持部としてコイルスプリングを使用することができるため、材料費を抑えコストの増加を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付の図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係るワイヤハーネスを用いた給電機構の概要を示す説明図、図2は、この給電機構におけるワイヤハーネスの動きを説明するための説明図、図3は、このワイヤハーネスの一部を拡大して示す一部拡大図、図4は、このワイヤハーネスの他の一部を拡大して示す一部拡大図である。
【0016】
図1に示すように、給電機構1は、固定側部材としての自動車の車体2と、この車体2に対してスライド移動方向である図1及び図2中矢印PA方向(以下、「PA方向」という)にスライド移動可能な移動側部材としてのスライドドア3との間を電気的に接続して、両者間に電力を供給するワイヤハーネス10を備える。なお、ここでは、スライドドア3は、スライドドア3側に固定され車体2側に移動自在に取り付けられたスライド移動機構6を介して車体2の右側に取り付けられていることとするが、本実施の形態の給電機構1は、スライドドア3が車体2の左側にあっても同様に適用することができる。
【0017】
ワイヤハーネス10は、図1及び図2に示すように、一端が車体2側にコネクタ4を介して車体2側の配線(図示せず)と接続されて固定されると共に、他端がスライドドア3側のパワーウィンドウ装置などの各電装部品(図示せず)とコネクタ5を介して接続されて固定されている。また、ワイヤハーネス10の中間部は、屈曲可能な状態で車体2及びスライドドア3間に配されている。そして、このワイヤハーネス10の中間部は、図1に一部破線Mで示すように、スライドドア3のPA方向へのスライド移動に連動して、屈曲した状態のまま車体2及びスライドドア3間を移動する。
【0018】
ここで、ワイヤハーネス10は、図1及び図2に示すように、車体2及びスライドドア3にそれぞれ端部が固定され、これら端部間の中間部が屈曲可能となるような可撓性を有する少なくとも一つの電線からなる通電部としてのメインハーネス11と、図3及び図4に示すように、このメインハーネス11(図示せず)の外周側を覆う可撓性の保護部材としてのチューブ12と、このチューブ12の外周側に配設されこれらメインハーネス11及びチューブ12を車体2及びスライドドア3間で支持する弾性体からなる弾性支持部としてのコイルスプリング13とを備えて構成されている。
【0019】
なお、チューブ12は、例えばコルゲート材からなり、いわゆる蛇腹状に形成された管状体で内部にメインハーネス11が摺接且つ挿通可能な状態で収容される。また、コイルスプリング13は、ワイヤハーネス10の一端から他端にかけてチューブ12の外周側に巻回されて配設されている。そして、このコイルスプリング13は、ワイヤハーネス10の屈曲自在な中間部にて、少なくとも一箇所でその巻回方向が異なるように配設されている。
【0020】
即ち、具体的には、コイルスプリング13は、図3に示すように、例えばワイヤハーネス10の中間部における巻回方向変化箇所Bで、ワイヤハーネス10の一端から他端にかけて右巻き(あるいは左巻き)から左巻き(あるいは右巻き)へとその巻回方向が変化した状態でチューブ12の外周側に配設されている。そして、このようなコイルスプリング13の巻回方式としては、いわゆるSZ撚りと呼ばれる巻回方式を採用することができる。このSZ撚りについては公知技術であるため、ここでは説明を省略する。
【0021】
また、コイルスプリング13は、図4に示すように、例えばワイヤハーネス10の中間部における複数の巻回方向変化箇所A,B,Cで、ワイヤハーネス10の一端から他端にかけて右巻き(あるいは左巻き)から左巻き(あるいは右巻き)へ、左巻き(あるいは右巻き)から右巻き(あるいは左巻き)へ、更に右巻き(あるいは左巻き)から左巻き(あるいは右巻き)へと、それぞれその巻回方向が変化した状態でチューブ12の外周側に配設されていても良い。
【0022】
このように構成されたワイヤハーネス10によれば、メインハーネス11がチューブ12によって覆われて保護されたうえで、チューブ12がコイルスプリング13によって巻回されている。このため、車体2及びスライドドア3の間で屈曲自在且ついわゆる余長吸収が可能な状態でメインハーネス11を確実に保護しつつ支持することができる。また、チューブ12及びコイルスプリング13によって、スライドドア3のスライド移動に連動して動くメインハーネス11に対して、収縮や引張りによる過度のストレスが加わることもなく、確実に給電を行うことができる。
【0023】
更に、このワイヤハーネス10によれば、コイルスプリング13がチューブ12の外周側の巻回方向変化箇所A〜Cで、その巻回方向が異なるように配設されている。このため、例えばメインハーネス11の点検時などにおいては、巻回方向変化箇所A〜Cにおいてチューブ12の蛇腹部分を割くなどしてメインハーネス11を点検したりすることが可能となる。そして、このワイヤハーネス10では、コイルスプリング13は、これらの巻回方向変化箇所A〜Cにおいて容易にチューブ12から離脱することができる。このため、メインハーネス11やチューブ12の点検・交換などの際に、ワイヤハーネス10全体を車体2やスライドドア3から取り外して作業を行う必要がなく、メンテナンス性を向上させると共に作業コストを削減することができる。
【0024】
また、このワイヤハーネス10によれば、メインハーネス11、チューブ12及びコイルスプリング13を、車体2及びスライドドア3に配した状態のまま各構成部品単位で取り付けたり取り外したりすることができるため、メンテナンス時においては各構成部品単位で継続使用とするか交換とするかなどの判断を行うことが可能となる。これにより、このワイヤハーネス10を用いた給電機構1の敷設作業などの作業効率を向上させると共に、コストの削減を図ることが可能となる。
【0025】
そして、このワイヤハーネス10によれば、各構成部品が自由に取り付け/取り外し可能な構造からなるため、例えば組立工程におけるメインハーネス11、チューブ12及びコイルスプリング13の組立順序やコネクタ4,5の取付順序などに制約がなく、製造工程における組立順序などを考慮した繁雑な作業を簡素化し、製造コストを削減することができる。
【0026】
なお、上述したワイヤハーネス10のメインハーネス11は、丸型断面や矩形断面を有する複数の電線を円柱形や角柱形、あるいは平板形などの所定形状となるように束ねて構成されていても良い。また、チューブ12は、蛇腹状の他に、単なる円筒状であっても良い。更に、コイルスプリング13は、上述したような巻回方向変化箇所A〜Cを備える構造であれば、一本のスプリングからなるものでも、例えば複数本のスプリングを一本のスプリングとなるように同方向に同様の形状で合わせて巻回し構成したものであっても良い。
【0027】
なお、上述した実施の形態におけるワイヤハーネス10を用いた給電機構1は、自動車の車体2とスライドドア3との間に電力を供給するものとして適用した場合について説明したが、その他、列車や航空機などの移動体、あるいは各種アトラクションなどを有する施設などにおいて、固定側部材及び移動側部材などの相対移動可能な複数の部材間に電力を供給する場合においても適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態に係るワイヤハーネスを用いた給電機構の概要を示す説明図である。
【図2】同給電機構におけるワイヤハーネスの動きを説明するための説明図。
【図3】同ワイヤハーネスの一部を拡大して示す一部拡大図である。
【図4】同ワイヤハーネスの他の一部を拡大して示す一部拡大図である。
【図5】従来の給電機構に用いられるワイヤハーネスを示す一部分解斜視図である。
【符号の説明】
【0029】
1…給電機構、2…車体、3…スライドドア、4,5…コネクタ、6…スライド移動機構、10…ワイヤハーネス、11…メインハーネス、12…チューブ、13…コイルスプリング。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対移動可能な複数の部材間を電気的に接続し電力を供給するために配されるワイヤハーネスであって、
端部がそれぞれ前記複数の部材に固定されると共に、これら固定端の中間部が屈曲可能となるような可撓性を有する少なくとも一つの電線からなる通電部と、
前記通電部の外周側を覆う可撓性の保護部材と、
前記保護部材の外周側に配設され前記通電部と前記保護部材とを支持するための弾性体からなる弾性支持部とを備え、
前記弾性支持部は、一の固定端から他の固定端にかけて前記保護部材の外周側に巻回されて配設されると共に、前記中間部における少なくとも一箇所でその巻回方向が異なるように配設されていることを特徴とするワイヤハーネス。
【請求項2】
前記弾性支持部は、コイルスプリングからなることを特徴とする請求項1記載のワイヤハーネス。
【請求項3】
一端が固定側部材に固定されると共に他端が前記固定側部材に対してスライド移動可能な移動側部材に固定され、且つこれらの中間部が屈曲可能な状態で両部材間を電気的に接続し電力を供給するために配されるワイヤハーネスを用いた給電機構であって、
前記ワイヤハーネスは、可撓性を有する少なくとも一つの電線からなる通電部と、前記通電部の外周側を覆う可撓性の保護部材と、前記保護部材の外周側に前記一端から前記他端にかけて巻回されて配設されると共に前記中間部における少なくとも一箇所でその巻回方向が異なるように配設され、前記通電部及び前記保護部材を前記固定側部材及び前記移動側部材間で支持するための弾性体からなる弾性支持部とを備えて構成されていることを特徴とする給電機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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