説明

ワイヤロープ走行装置

【課題】 小さなバネ力で大きなクランプ力を発揮できる小型低コストのワイヤロープ走行装置を提供する。
【解決手段】 上側のローラ20を付勢方向へ案内するためのガイド40をワイヤロープWに対して斜めに設ける。上側のローラ20をガイド40に沿ってバネ41で付勢すると、ガイド40は斜めに定位置に固定されているから、くさび作用により前記のバネ力にガイド40が受ける力が合成されてバネ力以上のクランプ力を生じる。したがって、同じバネを用いて直角方向に付勢する構造と比較してクランプ力が増加するから、その分バネを小さくするかバネの線径を細くするなどして装置を小型低コスト化できる。また、ガイド40を斜めに設けるから、装置の高さが減少して更に小型化できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空中に架設されたワイヤロープに沿って自走するワイヤロープ走行装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のワイヤロープ走行装置が特許文献1に開示されている。この技術は、ワイヤロープを挟むように対向して設けた複数組の一対のローラと、一方のローラをワイヤロープへ付勢させるバネと、各ローラを駆動させる駆動手段とで構成している。この技術によれば、ワイヤロープの外径が異なっても、ローラがバネでワイヤロープに常に押し当てられるから、ローラ間の間隔の調整作業を省略できるというものである。
【0003】
ところで、前記の技術をワイヤロープにグリースを塗布する塗油装置として用いる場合は、スリップを防止するために大きなクランプ力を必要とする。しかしながら、ローラはワイヤロープに対して直角方向に付勢する構造であるから、クランプ力と等しいバネ力を要し、大型のバネを用いたりバネの線径を太くするなどして高コストとなっていた。また、直角方向に付勢する構造では装置が高さ方向に大型化する問題もあった。
【特許文献1】特開平10−17266号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、従来のこれらの問題点を解消し、くさび作用により小さなバネ力で大きなクランプ力を発揮できる小型低コストのワイヤロープ走行装置を提供することにある。また、このワイヤロープ走行装置によって、ワイヤロープ径が異なったり、同径のワイヤロープに於いてもストランド数が小さい3ストランドや4ストランドのワイヤロープはワイヤロープの位置によってワイヤロープ外径の差が大きくなるが、これらのワイヤロープにも適用できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる課題を解決した本発明の構成は、
1) ワイヤロープを挟むように対向して設けた複数組の一対のローラと、ワイヤロープに対して斜めに設けたガイドに沿って一方のローラをワイヤロープへ付勢させる付勢手段と、各ローラを回転させる駆動手段とで構成した、ワイヤロープ走行装置
2) ガイドを一対のローラの軸間距離が一定となるように湾曲させて配置し、駆動手段が、各ローラに歯車を軸着して歯合し、1つのモータで全ローラを駆動する構造としたものである、前記1)記載のワイヤロープ走行装置
3) ローラの外周面をワイヤロープの表面の凹凸と嵌合できる形状に形成した、前記1)又は2)記載のワイヤロープ走行装置
4) 前記1)〜3)いずれか記載のワイヤロープ走行装置を2分割式のケースでワイヤロープを上下から連通可能に挟むようにして収容し、ケース内にグリースを充填し、同グリースをワイヤロープに塗布する一対のブラシローラをケース内に設けた、自走式ワイヤロープ塗油装置
5) ブラシローラを前後いずれかの片隅部に設け、同ブラシローラ直下の近接位置にグリースを充填する空間と駆動手段を収容する空間とを仕切る仕切り板を斜めに設けた、前記4)記載の自走式ワイヤロープ塗油装置
にある。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ローラを斜めのガイドに沿ってバネ等で付勢すると、ガイドは斜めに定位置に固定されているから、くさび作用により前記のバネ力にガイドが受ける力が合成されてバネ力以上のクランプ力を生じる。したがって、同じバネを用いて直角方向に付勢する構造と比較してクランプ力が増加するから、その分バネを小さくするかバネの線径を細くするなどして装置を小型低コスト化できる。また、ガイドを斜めに設けるから、装置の高さが減少して更に小型化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明では、ガイドを一対のローラの軸間距離が一定となるように湾曲させて配置させると、一対のローラに歯車を軸着して歯合した際にローラがガイドに沿って動いても歯合が維持され、1つの駆動手段で全ローラを同時に回転でき、構造を簡素化できる。また、ローラの外周面をワイヤロープの表面の凹凸と嵌合できる形状に形成すると、クランプ力が不足する場合でもスリップを低減できる。以下、本発明の実施例を図面に基づいて具体的に説明する。
【実施例1】
【0008】
図1〜5に示す実施例は、本発明のワイヤロープ走行装置をデッキクレーンのワイヤロープの表面にグリースを塗布する用途に適用した自走式ワイヤロープ塗油装置の例である。図1は実施例の自走式ワイヤロープ塗油装置の側面図、図2は実施例の自走式ワイヤロープ塗油装置の縦断面図、図3は図1のA−A断面図、図4は実施例の自走式ワイヤロープ塗油装置の使用状態を示す説明図、図5は実施例と従来例のクランプ力の比較図である。
【0009】
図中、10はケース、10aは上部ケース、10bは下部ケース、10cは注入口、10dは仕切り板、11は固定用蝶ボルト、12はシール材、13は蓋、14は丁番、15はクリップ、20はローラ、21は軸、22は歯車、30はブラシローラ、31は歯車、32は中間歯車、40はガイド、41はバネ、50はモータ、51は歯車、60はバッテリ、70は障害物センサ、80はデッキクレーン、81はシーブ、Aは自走式ワイヤロープ塗油装置、Wはワイヤロープである。
【0010】
図1〜3に示すように、ケース10は上部ケース10aと下部ケース10bとを固定用蝶ボルト11で分離可能に固定する2分割式で、内部空間をグリースを充填するための油室とし、ワイヤロープWを連通させる前後の部分にはシール材12を取り付け、上部ケース10aの上面はグリースの注入口10cを開口し、その注入口10cに蓋13を丁番14で取り付けてクリップ15で開閉自在に閉塞している。シール材12は、ワイヤロープWに塗布された必要以上のグリースをケース10外に出さないようにする為のものである。
【0011】
ローラ20はプラスチックウォームホイールで、上部ケース10aと下部ケース10bにそれぞれ対向して2組軸支し、ブラシローラ30は上部ケース10aと下部ケース10bの片隅部に対向して軸支している。ローラ20とブラシローラ30には歯車22,31を軸着し、上下の歯車22,31同士を歯合するとともに、前後に隣接する下側の歯車22,31を中間歯車32を介して歯合している。
【0012】
ガイド40は湾曲した略楕円状で、下方のローラ20の軸21から一定距離の円弧に沿うように配置し、上側のローラ20の軸21をガイド40内で摺動できるように軸支している。バネ41はコイルスプリングで、上部ケース10aの側面にガイド40に沿って斜めに取り付け、上部ケース10a外に突出させた軸21に当接している。
【0013】
下部ケース10bのブラシローラ30直下の近接位置には仕切り板10dを斜めに設け、仕切り板10dで区画された下側空間にモータ50を取り付け、その出力軸に歯車51を軸着し、前後に隣接する下側の歯車21を前記の歯車51を介して歯合し、さらにモータ50に給電するバッテリ60を取り付けている。下部ケース10bの前面には障害物センサ70を設け、前方に障害物を検知するとモータ50が自動的に逆転するようにしている。
【0014】
図4に示すように、上部ケース10aを取り外してローラ20上とブラシローラ30上にデッキクレーン80のワイヤロープWをブラシローラ30が下向きとなるように配置し、上部ケース10aを閉めて固定用蝶ボルト11で固定し、注入口10cからグリースを充填する。上側のローラ20はバネ41のバネ力でワイヤロープWを付勢する。
【0015】
モータ50を作動させると、ローラ20とブラシローラ30が回転してワイヤロープWに沿って走行し、上下のブラシローラ30でワイヤロープWの表面にグリースを付着し、シール材12で余剰のグリースが掻き取られる。ワイヤロープWの終端まで走行すると、デッキクレーン80のシーブ81を検知して逆走し、これを数回往復してグリースが塗り込まれる。作業中にグリースが減少しても、グリースが仕切り板10dでブラシローラ30側へ流れて作業を継続でき、グリースの補充回数を低減できる。
【0016】
本実施例は、図5(a)に示すように、バネ41のバネ力Fにガイド40が受ける力Fが合成されてバネ力F以上のクランプ力Fを生じている。これに対し、従来技術の直角方向に付勢する構造では、図5(b)に示すようにクランプ力Fと等しいバネ力Fを必要としている。このように、同じバネを用いて直角方向に付勢する構造と比較してクランプ力が増加するから、その分バネ41を小さくするかバネ41の線径を細くするなどして小さいバネ力のバネ41を使用することができ、装置を小型低コスト化できる。また、ガイド40を斜めに設けたから、ケース10の高さが減少して更に小型化できる。
【0017】
図6に示すのは、実施例のバネの他の例である。図6は実施例の他の例のバネの説明図である。図6(a)に示すバネ41はトーションスプリングで、一端を上部ケース10aに固定するとともに、他端を軸21に圧接している。図6(b)に示すバネ41はコイルスプリングで、ガイド40内に配置して軸21に圧接している。図中、41aはナイロン樹脂製の圧接部材、41bは受座である。その他、符号、構成、作用効果は実施例と同じである。
【0018】
図7に示すのは、実施例のローラの他の例である。図7は実施例の他の例のローラの説明図である。図中、23は溝である。図7に示すローラ20は、その外周面をワイヤロープWの表面の凹凸(ねじられたストランド)と嵌合できる形状となるように連続した溝23を形成しており、走行時にローラ20の溝23がワイヤロープWの表面に密接して嵌合され、クランプ力が不足する場合でもスリップを低減できるようにしている。その他、符号、構成、作用効果は実施例と同じである。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明のワイヤロープ走行装置は、ワイヤロープの表面にグリスを塗布する用途の他、小物運搬用やワイヤロープ劣化診断などに好適に用いられる。小物運搬は同装置に運搬用の箱(空間)を設ければ良いし、ワイヤロープ劣化診断は小型ビデオカメラ等を数個搭載すればワイヤロープの素線断線有無の確認などが可能となり劣化診断ができる。この場合は無線操縦装置等を備えさせ、駆動電動機の発停操作や逆転操作を行えば異状箇所の詳細チェックができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例の自走式ワイヤロープ塗油装置の側面図である。
【図2】実施例の自走式ワイヤロープ塗油装置の縦断面図である。
【図3】図1のA−A断面図である。
【図4】実施例の自走式ワイヤロープ塗油装置の使用状態を示す説明図である。
【図5】実施例と従来例のクランプ力の比較図である。
【図6】実施例の他の例のバネの説明図である。
【図7】実施例の他の例のローラの説明図である。
【符号の説明】
【0021】
10 ケース
10a 上部ケース
10b 下部ケース
10c 注入口
10d 仕切り板
11 固定用蝶ボルト
12 シール材
13 蓋
14 丁番
15 クリップ
20 ローラ
21 軸
22 歯車
23 溝
30 ブラシローラ
31 歯車
32 中間歯車
40 ガイド
41 バネ
41a 圧接部材
41b 受座
50 モータ
51 歯車
60 バッテリ
70 障害物センサ
80 デッキクレーン
81 シーブ
A 自走式ワイヤロープ塗油装置
W ワイヤロープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤロープを挟むように対向して設けた複数組の一対のローラと、ワイヤロープに対して斜めに設けたガイドに沿って一方のローラをワイヤロープへ付勢させる付勢手段と、各ローラを回転させる駆動手段とで構成した、ワイヤロープ走行装置。
【請求項2】
ガイドを一対のローラの軸間距離が一定となるように湾曲させて配置し、駆動手段が、各ローラに歯車を軸着して歯合し、1つのモータで全ローラを駆動する構造としたものである、請求項1記載のワイヤロープ走行装置。
【請求項3】
ローラの外周面をワイヤロープの表面の凹凸と嵌合できる形状に形成した、請求項1又は2記載のワイヤロープ走行装置。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか記載のワイヤロープ走行装置を2分割式のケースでワイヤロープを上下から連通可能に挟むようにして収容し、ケース内にグリースを充填し、同グリースをワイヤロープに塗布する一対のブラシローラをケース内に設けた、自走式ワイヤロープ塗油装置。
【請求項5】
ブラシローラを前後いずれかの片隅部に設け、同ブラシローラ直下の近接位置にグリースを充填する空間と駆動手段を収容する空間とを仕切る仕切り板を斜めに設けた、請求項4記載の自走式ワイヤロープ塗油装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−52467(P2010−52467A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−216721(P2008−216721)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【出願人】(591052284)下関菱重エンジニアリング株式会社 (5)