説明

ワイヤーライン掘削装置

【課題】ワイヤライン掘削装置において、アウター部からインナー部への回転駆動力の伝動部を、インナー部の投下時に一度の試行で確実に嵌合させる。
【解決手段】ワイヤライン掘削装置1において、アウター部4は、内周面にアウターチューブの回転をインナー部5に伝達する回転伝動部4Dを備え、インナー部5は、アウターチューブ4Bの回転伝動部4Dによりアウターチューブの回転を伝達される回転従動部5Dを備え、回転伝動部4Dは、大径の嵌合上部4D1と小径の嵌合下部4D2とを具備する一方、回転従動部5Dの外周面は、回転伝動部4Dの嵌合上部4D1及び嵌合下部4D2とそれぞれ嵌合する嵌合上部5D1と嵌合下部5D2とを具備し、互いに当接する嵌合面は、3つの螺旋状嵌合面(4D31、5D31)と3つの鉛直嵌合面(4D32,5D32)とを交互に配置して形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試錐(ボーリング)工法の一つであるワイヤーライン工法に用いる掘削装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤーライン掘削装置は、下端に掘削ビットをもつアウターチューブと、コアを採取するインナーチューブとを備える。その掘削工法は、アウターチューブにより回転掘削を行い、コアを採取したインナーチューブだけを、ワイヤロープで孔底から吊りあげてコアを除いた後、空になったインナーチューブを再び、孔底に戻すことを繰り返しながら掘進する工法である。掘削効率およびコア採取率は、それ以前の工法に比べて格段に優れている。
【0003】
図5及び図6は、特許文献1に開示されたワイヤーライン掘削装置の概略構成図である。図5は全体図であり、図6(a)は要部の斜視展開図であり、図6(b)は要部の断面図である。なお、図5においては、網掛け部分は断面を、それ以外は側面を示している(後述する各図においても同様)。特許文献1のワイヤーライン掘削装置は、軟弱地層からもコアを確実に回収するべくそれ以前の技術を改良したものである。
【0004】
ワイヤライン掘削装置101は、装置本体部102とワイヤライン部103とから構成されている。装置本体部102は、アウター部104とインナー部105とを有する。円筒状のアウター部104は、掘削孔のほぼ全長に亘って設置され試錐力(回転駆動力)の伝動鋼管であるロッド(図示せず)と、ロッドの下方に連結されたアウターチューブ104Bと、アウターチューブ104Bの下端に装着された掘削ビット104cとを備えている。ロッドとアウターチューブ104Bは、ロッキングカップリング104Aにより連結されている。アウターチューブ104Bの上端部に設けたアダプターカップリング104Gは、インナー部105のラッチ部105Bが開いたときの固定装置である。アウターチューブ104Bの中間部には、回転伝動部104Dが形成されている。
【0005】
一方、インナー部105は、アウターチューブ104B内に配置され、上端の吊り金具105Aと、吊り金具の下端に連結されたラッチ部105Bと、ラッチ部105Bの下端に連結された送水ジョイント105Gと、送水ジョイント105Gの下端に連結された、回転従動部105Dと、回転従動部の下端に連結された円筒状のインナーコアチューブ105Cと、インナーコアチューブの下端に装着された掘削ビット105Eとを備えている。ラッチ部105Bが、アウターチューブ104Bに形成された切り欠きに係合することにより、インナー部105がアウター部104内で所定の位置に支持される。
【0006】
さらに、ワイヤーライン部103は、ワイヤライン103Aと、ワイヤラインの下端に連結されたオーバーショットアッセンブリ103Bと、オーバーショットアッセンブリの下端に連結されたリフティングドック103Cとから構成されている。リフティングドック103Cは、インナー部105の吊り金具105Aと係合する。ワイヤライン部103を上方に引き上げることにより、インナー部105のラッチ部105Bがアウターチューブ104Bから離脱し、インナー部105を地表まで吊り上げるよう構成されている。
【0007】
アウター部104とインナー部105との間には、通水用間隙が設けられている。図6(a)に示すように、送水ジョイント105Gの外周面には間隙調整用又は振れ止め用のランディング105が装着されている。この部分では通水用間隙が遮断されている。従って、通水を確保するために、送水ジョイント105においてランディング105Fより上方に設けた入水口105G1から水を入水させ、送水ジョイント105の内部に設けた通水路105G2を経由して、ランディング105Fの下方に設けた出水口105G3から再び間隙へ出水するよう構成されている。ワイヤライン掘削装置における水の流れを、黒矢印で示している(後述する各図においても同様)。
【0008】
特許文献1のワイヤライン掘削装置は、アウター部の回転駆動力をインナー部へ伝動するように構成されている。アウターチューブ104Bの一部に形成された回転伝動部104Dは、図6(a)の下部(アウターチューブの背面側の半部のみを示す)に示すように、回転伝動部104Dの内周面には、周方向に複数(偶数個)の伝動突条104D1が所定の幅及び間隔で配置されている。各伝動突条104D1は軸方向に所定の長さで延在しており、隣り合う伝動突条104D1の間には、スプライン嵌合溝104D2とスプライン通水溝104D3が交互に形成されている。一方、インナー部の回転従動部105Dの外周面には、周方向に複数(伝動突条104D1の半数)の従動突条105D1が所定の幅及び間隔で配置されている。従動突条105D1は、アウターチューブのスプライン嵌合溝104D2内に嵌合する。図6(b)の断面図に示すように、スプライン嵌合溝104D2と従動突条105D1が嵌合することにより試錐力がアウター部からインナー部へ伝動する。同時に、スプライン通水溝104D3により通水路が確保されている。
【0009】
特許文献1のワイヤライン掘削装置は、図5に示すように、インナーコアチューブ105Cの下端がアウターチューブ104Bの下端より突出しており、掘削ビット105Qを装着している。ロッドの回転駆動力は、アウター部104の掘削ビット104Cに作用すると同時に、アウター部104からインナー部105へ回転駆動力が伝動することにより、インナー部105の掘削ビット105Qにも作用する。インナー部の掘削ビット105Qは、アウター部の掘削ビット104Cよりも先行するため、インナーコアチューブ105Cに収容可能な大きさのコアをコアリフター105Iにより確実に採取することができる。また、チューブ間隙を通過してアウターチューブ104Bの下端から噴出する水によりコアが吹き飛ばされることなく採取できる。これは特に軟弱地層において有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−196266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1のワイヤライン掘削装置には、以下のように改善すべき点がある。
図6に示したアウター部からインナー部への回転駆動力の伝動部は、双方の突条(伝動突条104D1と従動突条105D1)の噛み合いによる。しかしながら、これらの突条は、鉛直方向に平行な長方形の板状であるので、ワイヤーライン部103により吊られたインナー部105をアウター部104内に投下したとき、インナー部の従動突条105D1が、アウター部の隣り合う2つの伝動突条104D1の間のスプライン嵌合溝104D2に、一度の試行で確実に入るとは限らない。このため、双方を嵌合させるまでに何度か試行を繰り返さなければならない場合もある。何度も試行を繰り返すことは、作業を遅延させることになる。また、従動突条105D1の下端が伝動突条104D1の上端に衝突する回数が増すため、損傷し易くなる。
【0012】
以上の現状に鑑み、本発明は、ワイヤライン掘削装置において、アウター部からインナー部への回転駆動力の伝動部を、インナー部の投下時に一度の試行で確実に嵌合させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するべく本発明は、以下の構成を提供する。括弧内の数字は、後述する図面中の符号であり、参考のために付する。
【0014】
本発明によるワイヤライン掘削装置は、装置本体部(2)とワイヤライン部(3)とから構成され、前記装置本体部(2)は、下端に掘削ビット(4C)を具備する円筒状のアウター部(4)と、該ワイヤライン部(3)により該アウター部(4)内に投下設置されかつ吊り上げられ下方部分にコア回収用チューブ(5C)を具備するインナー部(5)とを有する。
(a)前記アウター部(4)は、回転駆動されるロッドと、ロッドの下端に連結され該ロッドと共に回転するアウターチューブ(4B)と、前記アウターチューブ(4B)の内周面に形成され該アウターチューブの回転を前記インナー部(5)に伝達する回転伝動部(4D)と、を備える。
(b)前記インナー部(5)は、その外周面に前記アウターチューブ(4B)の回転伝動部(4D)から回転を伝達される回転従動部(5D)と、を備える。
(c)前記回転伝動部(4D)は、相対的に大きい内径の円筒部分をもつ嵌合上部(4D1)と相対的に小さい内径の円筒部分をもつ嵌合下部(4D2)とを具備し、前記回転従動部(5D)は、前記回転伝動部(4D)の嵌合上部(4D1)及び嵌合下部(4D2)とそれぞれ嵌合可能な嵌合上部(5D1)と嵌合下部(5D2)とを具備し、かつ、前記回転伝動部(4D)の嵌合下部(4D2)と前記回転従動部(5D)の嵌合上部(5D1)とが互いに当接する嵌合面は、3つの螺旋状嵌合面(4D31、5D31)と3つの鉛直嵌合面(4D32,5D32)とを周方向に交互に配置して形成されている。
【0015】
上記ワイヤライン掘削装置の好適な形態においては、前記回転従動部(5D)の前記3つの螺旋状嵌合面(5D31)の最下点のうち1つの最下点には、他の2つの最下点よりも下方に突出する案内凸部(5D33)が形成されている一方、前記回転伝動部(4D)の前記3つの螺旋状嵌合面(4D31)の最下点の全てに、該案内凸部(5D33)を受容可能な案内凹部(4D33)が形成されている。
【0016】
上記ワイヤライン掘削装置の好適な形態においては、前記回転伝動部(4D)及び前記回転従動部(5D)の各々の前記螺旋状嵌合面(4D31、5D31)は、径方向外側が高く径方向内側が低くなるように傾斜している。
【0017】
上記ワイヤライン掘削装置の好適な形態においては、前記インナー部(5)の前記回転従動部(5D)の上方にて、前記アウター部との間の通水用間隙(6)から前記インナー部(5)の内部へと水を入水させるために形成された入水口(5G21,5G22)と、前記入水口(5G21,5G22)と連通して前記回転従動部(5D)を軸方向に貫通して下方へ送水するための通水路(5D5)とを備えている。
【発明の効果】
【0018】
本発明によるワイヤライン掘削装置は、アウター部からインナー部へ回転駆動力を伝達するための回転伝動部と回転従動部とを備えている。回転伝動部と回転従動部は、互いに嵌合する大径の嵌合上部と小径の嵌合下部とをそれぞれ具備する。さらに、回転伝動部の嵌合下部と回転従動部の嵌合上部とが互いに当接する嵌合面は、3つの螺旋状嵌合面と3つの鉛直嵌合面とを周方向に交互に配置して形成されている。アウター部が回転するとき、回転伝動部の鉛直嵌合面が、回転従動部の鉛直嵌合面を押すことにより、インナー部の回転従動部が回転する。
【0019】
好適な形態においては、回転従動部の3つの螺旋状嵌合面の最下点のうち1つの最下点には、他の2つの最下点よりも下方に突出する案内凸部が形成されている。一方、回転伝動部の3つの螺旋状嵌合面の最下点の全てに、案内凹部が形成されている。これにより、インナー部をアウター部内に投下したとき、先ず、回転従動部の案内凸部が、回転伝動部の3つの螺旋状嵌合面のうちの1つにおける任意の位置に衝突する。衝突後、案内凸部は、衝突した螺旋状嵌合面の傾斜に沿って下方に移動する。この案内凸部の移動に伴ってインナー部は軸周りに回転しつつ下降する。案内凸部は、最終的にその最下点に位置する案内凹部内に受容される。このようにして、インナー部をアウター部内に投下したとき、アウター部の回転伝動部とインナー部の回転従動部とが、一度の投下で確実に正しい位置に嵌合することができる。
【0020】
回転伝動部及び回転従動部の各々の螺旋状嵌合面は、径方向外側が高く、径方向内側が低くなるように傾斜していることが好ましい。これにより、インナー部を投下したときの衝撃に対して縁部が破損し難くなる。
【0021】
回転従動部の上方には、通水用間隙からインナー部の内部に水を入水させる入水口が形成され、この入水口と連通する通水路が、回転従動部を軸方向に貫通している。回転伝動部と回転従動部の嵌合部分においては、アウター部とインナー部の間の通水用間隙が閉塞されている。そこで、この嵌合部分の上方において水をインナー部内に入水させ、回転従動部の内部の通過させることで、上方から送られる水を下方へ送ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明によるワイヤライン掘削装置1の一実施例を示す全体構成図である。
【図2】図1に示したワイヤライン掘削装置の主要部を詳細に示す図である。
【図3】回転伝動部4Dと回転従動部5Dの嵌合部分の正面(a)及び背面(b)を詳細に示した図である。
【図4】(a1)は、送水ジョイント部5Hの斜視図であり、(a2)は(a1)のA断面図であり、(b1)は、チェックバルブ部5Jの斜視図であり、(b2)は(b1)の断面図である。(c)は、送水ジョイント部5Hとチェックバルブ部5Jの連結後の斜視図である。
【図5】従来のワイヤーライン掘削装置の概略全体構成図である。
【図6】従来のワイヤーライン掘削装置の要部構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、実施例を示した図面を参照しつつ本発明の実施の形態を説明する。本発明によるワイヤライン掘削装置は、地質調査等のために地層からコアを採取する試錐すなわちボーリングを行うための装置である。
【0024】
図1は、本発明によるワイヤライン掘削装置1の一実施例を概略的に示す全体構成図である。図1の実施例は、従来技術の図5と同様に比較的軟弱な地層に適用される装置である。
【0025】
図1を参照して、概略構成を説明する。ワイヤライン掘削装置1は、装置本体部2とワイヤライン部3とから構成されている。装置本体部2は、円筒状のアウター部4と、アウター部の内部空間に設置されるインナー部5とから構成されている。ワイヤライン部3は、アウター部4内にインナー部5を投下設置し、そして吊り上げるために用いられ、従来技術の図5のものと同様である。
【0026】
アウター部4は、地上から掘削位置の近傍まで延在するロッド(図示せず)と、ロッドの下端に連結され掘削機能を有するアウターチューブ4Bとを備える。ロッドとアウターチューブの間にはロッキングカップリング4Aが設けられる。ロッドは、地上に設置された駆動装置により回転駆動され、アウターチューブ4Bもロッドと共に回転する。アウターチューブ4Bの下端には、掘削ビット4Cが装着されている。これらの構成要素については、従来技術の図5のものと同様である。
【0027】
アウターチューブ4Bの内周面の一部には、アウターチューブ4Bの回転をインナー部5に伝達するための回転伝動部4Dが形成されている。
【0028】
インナー部5は、最上部の吊り金具5A及びラッチ部5Bを具備し、これらの構成要素は、従来技術の図5のものと同様である。アウターチューブ4Bの上端部に設けたアダプターカップリング4Gは、インナー部5のラッチ部5Bが開いたときの固定装置である。
【0029】
インナー部5のラッチ部5Bの下方には、アウターチューブ4Bの回転伝動部4Dと嵌合する回転従動部5Dが連結されている。これにより、アウター部4からインナー部5へ回転駆動力が伝達される。回転伝動部4Dと回転従動部5Dが嵌合することにより、この部分における通水用間隙は閉塞されている。これらの回転伝動部4D及び回転従動部5Dは、本発明の特徴的な構成である。
【0030】
回転従動部5Dよりも下方には、送水ジョイント部5H、チェックバルブ部J及びインナーコアチューブ5Cが連結されている。インナーコアチューブ5Cの下端には、掘削ビット5Qが装着され、下端近傍にはコアリフター5Iが装着されている。インナーコアチューブ5Cの下端は、アウター部4の掘削ビット4Cよりも下方に突出している。
【0031】
インナー部5の回転従動部5Dに伝達された回転は、送水ジョイント部5H及びチェックバルブ部5Jを介してインナーコアチューブ5Cに伝達される。インナーコアチューブ5Cは、アウターチューブ4Bと共に回転し、掘削ビット5Qにより地層を掘削してコアを回収する。この場合、アウター部4の掘削ビット4Cは、補助的な掘削機能を担う。
【0032】
図1の実施例のワイヤライン掘削装置1において、回転従動部5Dより下方部分に連結された送水ジョイント部5、チェックバルブ部J及びインナーコアチューブ5Cについては、一例であり、適用する地層に応じてこれら以外の構成としてもよい。例えば、インナーコアチューブ5Cとは異なるタイプのコア回収用チューブを連結してもよい。
【0033】
図2は、図1に示したワイヤライン掘削装置における本発明の主要部であり、アウター部からインナー部へ回転を伝達する部分を詳細に示す図である。
【0034】
アウターチューブ4B内にインナー部が設置されたとき、アウターチューブ4Bとの間に所定の通水用間隙6が設けられる。掘削時にはアウター部の上端からポンプにより内部空間に水が送り込まれ、その水は通水用間隙6を通過する。
【0035】
インナー部において軸方向に配置された各部品同士は、基本的に螺合により連結されており、螺合された部品同士は、軸周りの回転を伝達可能である。インナー部のラッチ部5Bの下端には、ランディング部5Fが連結されている。ランディング部5Fは、略円柱状であり外周に間隙調整用又は振れ止め用のランディング5F2を装着されている。ランディング部5Fは、通水用間隙6を確保するために縦方向に複数の通水溝5F1を形成されている。上方からの水は、ランディング5F2の内側の通水溝5F1を通り、下方へ流れる。
【0036】
ランディング部5Fの下端には、入水部5Gが連結されている。入水部5Gの下端に回転従動部5Dが配置される。この実施例では、入水部5Gと回転従動部5Dが一体部品として形成されている。図示しないが、別の実施例として、入水部5Gと回転従動部5Dを別個の部品として螺合させてもよい。入水部5Gの外径は、回転従動部5Dの外径よりも小さい。入水部5Gに形成された複数の入水口5G21、5G22は、回転従動部5Dの内部空間である通水路5D5に連通している。通水路5D5は、回転従動部5Dを軸方向に貫通している。上方からの水は、入水口5G21、5G22からインナー部の内部に入り、回転従動部5Dの通水路5D5を通過して下方へ流れる。入水口5G22は、長時間掘削を行った場合にこの周囲の通水用間隙6に溜まった沈殿物を水とともに取込むことにより、沈殿物を取り除く働きがある。
【0037】
円筒状のアウターチューブ4Bの内周面には、回転伝動部4Dが形成されている。回転伝動部4Dは、相対的に大きい内径の円筒部分をもつ嵌合上部4D1と、相対的に小さい内径の円筒部分をもつ嵌合下部4D2とを具備する。一方、回転伝動部4Dと同じ高さ位置において、円筒状のインナー部の外周面には、回転従動部5Dが形成されている。回転従動部5Dもまた、相対的に大きい外径d1の円筒部分をもつ嵌合上部5D1と、相対的に小さい外径d2の円筒部分をもつ嵌合下部5D2とを具備する。回転伝動部4Dの嵌合上部4D1及び嵌合下部4D2は、回転従動部5Dの嵌合上部5D1及び嵌合下部5D2とそれぞれ嵌合可能である。すなわち、嵌合状態においては、嵌合上部4D1の内周面と嵌合上部5D1の外周面が当接し、嵌合下部4D2の内周面と嵌合下部5D2の外周面とが当接する。また、嵌合状態においては、回転伝動部4Dの嵌合下部4D2の上向きの螺旋状嵌合面4D31の上に、回転従動部5Dの嵌合上部5D1の下向きの螺旋状嵌合面5D31が載置される。
【0038】
一実施例として、回転従動部5Dの嵌合上部5D1の円筒部分の外径d1は100mmであり、一方、この部分に嵌合する回転伝動部4Dの嵌合上部4D1の円筒部分の内径は103.2mmである。また、回転従動部5Dの嵌合下部5D2の円筒部分の外径d2は88.9mmであり、一方、この部分に嵌合する回転伝動部4Dの嵌合下部4D2の円筒部分の内径は91mmである。このように、回転伝動部4Dの内周面と回転従動部5Dの外周面の径寸法には、インナー部が円滑に入り込みかつ抜け出すための適度な遊びを設けている。
【0039】
回転伝動部4Dと回転従動部5Dとが嵌合する箇所では、通水用間隙6が閉塞されるため、通水用間隙6を水が流れることができない。従って、回転従動部5Dの通水路5D5は、上方からの水を下方へ通過させる迂回路となっている。
【0040】
回転従動部5Dの下端には、送水ジョイント部5Hが連結される。送水ジョイント部5Hは、円筒状であり、内部空間である通水路5H3は、回転従動部5Dの通水路5D5と連通している。送水ジョイント部5Hの下端にチェックバルブ部5Jが連結されることにより、送水ジョイント部5Hの底面開口は閉鎖される。通水路5H3から複数の出水口5H2が円筒壁を貫通して通水用間隙6へ開口している。上方からの水は、通水路5D5及び通水路5H3を経由して、出水口5H2から再び通水用間隙6へと出る。
【0041】
図3は、アウター部の回転伝動部4Dとインナー部の回転従動部5Dの嵌合部分を詳細に示した図である。(a)の上図は、回転従動部5Dの正面側から視た斜視図であり、下図は、回転伝動部4Dの背面側の半部の斜視図である。(b)の上図は、回転従動部5Dの背面側から視た斜視図であり、下図は、回転伝動部4Dの正面側の半部の斜視図である。白抜き矢印は、回転従動部5Dが回転伝動部4Dに対して上方から嵌合する動きを示している。
【0042】
回転伝動部4Dにおける嵌合上部4D1と嵌合下部4D2との境界を形成する嵌合面は、3つの螺旋状嵌合面4D31と、隣り合う螺旋状嵌合面4D31の最上点と最下点を接続する3つの鉛直嵌合面4D32とを、周方向に交互に配置して形成されている。一方、回転従動部5Dにおける嵌合上部5D1と嵌合下部5D2との境界を形成する嵌合面は、3つの螺旋状嵌合面5D31と、隣り合う螺旋状嵌合面5D31の最上点と最下点を接続する3つの鉛直嵌合面5D32とを、周方向に交互に配置して形成されている。
【0043】
図3中には、回転方向が矢印で示されている。回転伝動部4Dの鉛直嵌合面4D32は回転方向を向いており、回転従動部5Dの鉛直嵌合面5D32は回転方向と逆方向を向いている。斯かる構成において、回転伝動部4Dが矢印のように回転すると、回転伝動部4Dの鉛直嵌合面4D32が、回転従動部5Dの鉛直嵌合面5D32を押すことにより、回転従動部5Dが回転する。
【0044】
なお、双方の螺旋状嵌合面4D31、5D31は、径方向外側が高く、径方向内側が低くなるように傾斜していることが好ましい。これは、インナー部を投下したときの衝撃に対して縁部を破損し難くするためである。
【0045】
さらに、回転従動部5Dの3つの螺旋状嵌合面5D31の最下点のうち1つの最下点には、他の2つの最下点よりも下方に突出する案内凸部5D33が形成されている。一方、回転伝動部4Dの3つの螺旋状嵌合面4D31の最下点の全てに、案内凹部4D33が形成されている。ここで、図3(a)下図の白矢印を参照する。インナー部をアウター部内に投下したとき、先ず、回転従動部5Dの案内凸部5D33が、回転伝動部4Dの3つの螺旋状嵌合面4D31うちの1つにおける任意の位置に衝突する。衝突後、案内凸部5D33は、衝突した螺旋状嵌合面4D31の傾斜に沿って下方に移動する。この案内凸部5D33の移動に伴ってインナー部は軸周りに回転しつつ下降する。案内凸部5D33は、最終的にその最下点に位置する案内凹部4D33内に受容される。このようにして、インナー部をアウター部内に投下したとき、アウター部の回転伝動部4Dとインナー部の回転従動部5Dとが、一度の投下で確実に正しい位置に嵌合することができる。
【0046】
このように、アウター部からインナー部への回転伝達においては、螺旋状嵌合面と鉛直嵌合面とを組み合わせることが、最適である。例えば、螺旋状嵌合面のみで構成すると、アウター部の回転力が鉛直方向の過大な力に変換され、インナー部が浮き上がるように働くため、好ましくない。また、鉛直嵌合面のみで構成すると、上述の従来技術で述べたように、インナー部を投下したときに一度で正しい位置に嵌合させることが困難である。
【0047】
図4(a1)は、送水ジョイント部5Hの斜視図であり、(a2)は(a1)のA断面図である。図4(b1)は、チェックバルブ部5Jの斜視図であり、(b2)は(b1)の断面図である。図4(c)は、送水ジョイント部5Hとチェックバルブ部5Jの連結後の斜視図である。
【0048】
チェックバルブ部5Jは、図1のインナーコアチューブ5Cの内部空間の上端に開口した入水口5J2と、この入水口5J2に設置されたボール弁5J1を具備する。チェックバルブ部5Jの内部には、入水口5J2と連通して水平方向に延びる通水路5J3が形成され、通水路5J3は、通水用間隙に開口している。チェックバルブ部5Jは、インナーコアチューブ5Cの内部空間から水を入水させ通水用間隙へと水を誘導し、出水させる。これにより、インナーコアチューブ5Cにコアを円滑に収容できる。チェックバルブ部5Jの下部外周の螺子部5J4にインナーコアチューブ5Cが連結される。
【符号の説明】
【0049】
1:ワイヤライン掘削装置
2:装置本体部
3:ワイヤライン部
3A:ワイヤライン
3B:オーバーショットアッセンブリ
3C:リフティングドック
4:アウター部
4A:ロッキングカップリング
4B:アウターチューブ
4C:掘削ビット
4D:回転伝動部
4G:アダプターカップリング
5:インナー部
5A:吊り金具
5B:ラッチ部
5C:インナーコアチューブ
5D:回転従動部
5F:ランディング部
5G:入水部
5H:送水ジョイント部
5J:チェックバルブ部
5I:コアリフター
5Q:掘削ビット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置本体部(2)とワイヤライン部(3)とから構成され、前記装置本体部(2)は、下端に掘削ビット(4C)を具備する円筒状のアウター部(4)と、該ワイヤライン部(3)により該アウター部(4)内に投下設置されかつ吊り上げられ下方部分にコア回収用チューブ(5C)を具備するインナー部(5)とを有するワイヤライン掘削装置(1)において、
(a)前記アウター部(4)は、回転駆動されるロッドと、ロッドの下端に連結され該ロッドと共に回転するアウターチューブ(4B)と、前記アウターチューブ(4B)の内周面に形成され該アウターチューブの回転を前記インナー部(5)に伝達する回転伝動部(4D)と、を備え、
(b)前記インナー部(5)は、その外周面に前記アウターチューブ(4B)の回転伝動部(4D)から回転を伝達される回転従動部(5D)と、を備え、
(c)前記回転伝動部(4D)は、相対的に大きい内径の円筒部分をもつ嵌合上部(4D1)と相対的に小さい内径の円筒部分をもつ嵌合下部(4D2)とを具備し、前記回転従動部(5D)は、前記回転伝動部(4D)の嵌合上部(4D1)及び嵌合下部(4D2)とそれぞれ嵌合可能な嵌合上部(5D1)と嵌合下部(5D2)とを具備し、かつ、前記回転伝動部(4D)の嵌合下部(4D2)と前記回転従動部(5D)の嵌合上部(5D1)とが互いに当接する嵌合面は、3つの螺旋状嵌合面(4D31、5D31)と3つの鉛直嵌合面(4D32,5D32)とを周方向に交互に配置して形成されていることを特徴とするワイヤライン掘削装置。
【請求項2】
前記回転従動部(5D)の前記3つの螺旋状嵌合面(5D31)の最下点のうち1つの最下点には、他の2つの最下点よりも下方に突出する案内凸部(5D33)が形成されている一方、前記回転伝動部(4D)の前記3つの螺旋状嵌合面(4D31)の最下点の全てに、該案内凸部(5D33)を受容可能な案内凹部(4D33)が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のワイヤライン掘削装置。
【請求項3】
前記回転伝動部(4D)及び前記回転従動部(5D)の各々の前記螺旋状嵌合面(4D31、5D31)は、径方向外側が高く径方向内側が低くなるように傾斜していることを特徴とする請求項1又は2に記載のワイヤライン掘削装置。
【請求項4】
前記インナー部(5)の前記回転従動部(5D)の上方にて、前記アウター部との間の通水用間隙(6)から前記インナー部(5)の内部へと水を入水させるために形成された入水口(5G21,5G22)と、
前記入水口(5G21,5G22)と連通して前記回転従動部(5D)を軸方向に貫通して下方へ送水するための通水路(5D5)とを備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のワイヤライン掘削装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−190632(P2011−190632A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−58721(P2010−58721)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(509044095)アーストラストエンジニアリング株式会社 (4)