説明

ワイヤ切断装置

【課題】ノズルから延出するワイヤの切断後の長さを高精度に調節するとともに、ロウ付けを行うのに適正なワイヤ長さが変動した場合でも、前記ワイヤの切断後の長さを適正に変更可能なワイヤ切断装置を提供する。
【解決手段】ワイヤ切断装置1は、ノズル112をガイドして位置決めする位置決め部材10と、ノズル112から延出するワイヤ111を支持するワイヤ支持部24およびワイヤ支持部24により支持されたワイヤ111を切断する切断刃25を有する刃台20と、例えば位置決め部材10が固定されるとともに、刃台20が位置決め部材10に対する近接離間方向へ移動可能に取り付けられる基台30と、基台30に固定され、刃台20の位置決め部材10に対する近接離間方向の位置を調整する調整機構40とを備え、位置決め部材10は、ワイヤ111のノズル112からの延出方向が、刃台20の他方の移動方向となるようにノズル112を位置決めする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロウ付け装置のノズルから突出するロウ材であるワイヤを切断するワイヤ切断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車ボディのアウターパネル同士の継ぎ目部分をロウ付けにより接合することが行われている。このロウ付けは、例えば比較的高融点の銅材をロウ材として用い、レーザー光の照射により前記ロウ材を溶融させることで行われている。
具体的には、例えば図10、図11に示すように、第一アウターパネル121および第二アウターパネル122をワークとし、この第一アウターパネル121と第二アウターパネル122との継ぎ目部分123をロウ付けする場合、ロボットアーム101の先端部に取り付けたロウ付け装置110により継ぎ目部分123のロウ付けが行われる。
ロウ付け装置110は、ロウ材となるワイヤ111をノズル112から継ぎ目部分123へ供給するとともに、レーザートーチ113から継ぎ目部分123へレーザー光を照射してワイヤ111を溶融することにより、ロウ付けを行う。
なお、ロウ付け装置110およびロボットアーム101の動作は制御装置130により制御されている。
【0003】
ロウ付けを行った後のワイヤ111の先端には、図12に示すように、溶接玉111aが形成される。溶接玉111aはワイヤ111の先端に形成される球状の部分であり、溶接玉111aの直径d2はワイヤ111の直径d1よりも大きく形成されている。また、ノズル112からは、長さLのワイヤ111(溶接玉111a含む)が延出している。
【0004】
前述のように、ロウ付け後のワイヤ111の先端には溶接玉111aが形成されるが、形成される溶接玉111aの直径d2や、ノズル112から延出するワイヤ111の長さLは、ロウ付け作業毎にばらつく。
例えば、図13に示すように、形成された溶接玉111aの直径d2が大きかったり、図14に示すようにノズル112から延出するワイヤ111の長さLが長かったりするが、溶接玉111aの直径d2が大きかったり、ワイヤ111の長さLが長かったりした場合に、そのままの状態でロウ付けを行うと、図15に示すように、ロウ付けにより継ぎ目部分123に形成されたビード部131の端部に盛り上がり部131aが生じる、ビード盛り上がりの欠陥が発生することとなる。
また、図16に示すようにノズル112から延出するワイヤ111の長さLが短かった場合には、そのままの状態でロウ付けを行うと、図17に示すように、ロウ付けにより継ぎ目部分123に形成されたビード部131の端部が短く形成される、ビード引けの欠陥が発生することとなる。
【0005】
このように、溶接玉111aの直径d2の大きさやワイヤ111の長さLがばらつくと、ロウ付け状態が変動して欠陥が発生することがあることから、ロウ付け状態を安定させて欠陥のない高品質なロウ付けを行うためには、ロウ付けを行う際のワイヤ111の長さや直径を一定の値に調節することが重要である。
従って、従来では、ロウ付け作業が終了する毎に、ノズル112から延出するワイヤ111を作業者がニッパーなどで所定の長さに切断して溶接玉111aを切り落とし、ノズル112から延出するワイヤ111の長さやワイヤ111の先端部の径の大きさを揃えることが行われていた。
また、ノズルから延出するワイヤの先端部を切断する技術として、溶接ロボットの動作と連動して溶接ワイヤの先端部を自動的に切断する技術が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−335818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、前述のように、ロウ付け作業が終了した後に、作業者がニッパーなどでワイヤの先端部を切断する場合、ノズルから延出するワイヤの切断後の長さが一定せずばらつくとともに、切断したワイヤの先端形状が平面形状となったり先細形状となったりするなど様々な形状になるため、ノズルから延出するワイヤの長さやワイヤの先端部の径の大きさを高精度に揃えることが困難であった。また、ロウ付け作業が終了する毎に作業者によるワイヤの切断作業を行う必要があるため、作業が煩雑であり量産性が悪かった。
【0008】
一方、特許文献1に記載されるように、溶接ロボットの動作と連動してワイヤの先端部を自動的に切断するように構成した場合、ある程度の精度で切断後のワイヤの長さを揃えることが可能であるが、切断後のワイヤ長さの精度が必ずしも十分ではなかった。また、ノズルから延出するワイヤが一定の長さに切断されるように構成されていたので、ワイヤの切断長さを所定の値に設定して一旦切断装置を組み上げた後は、ロウ付けを行うワークやロウ付け条件などが変更されて、ロウ付けを行うのに適正なワイヤ長さが変動した場合に対応することができなかった。
【0009】
そこで、本発明においては、ロウ付け装置におけるノズルから延出するワイヤの切断後の長さを高精度に調節するとともに、ロウ付けを行うのに適正なワイヤ長さが変動した場合でも、前記ワイヤの切断後の長さを適正に変更可能なワイヤ切断装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するワイヤ切断装置は、以下の特徴を有する。
即ち、請求項1記載のごとく、ロウ付け装置のノズルから突出するロウ材であるワイヤを切断するワイヤ切断装置であって、前記ノズルをガイドして位置決めする位置決め部材と、前記ノズルから延出するワイヤを支持するワイヤ支持部およびワイヤ支持部により支持されたワイヤを切断する切断刃を有する刃台と、前記位置決め部材および刃台の一方が固定されるとともに、前記位置決め部材および刃台の他方が前記位置決め部材および刃台の一方に対する近接離間方向へ移動可能に取り付けられる基台と、前記基台に固定され、前記位置決め部材および刃台の他方の、前記位置決め部材および刃台の一方に対する近接離間方向の位置を調整する調整機構とを備え、前記位置決め部材は、前記ワイヤのノズルからの延出方向が、前記位置決め部材および刃台の他方の移動方向となるように、前記ノズルを位置決めする。
これにより、ノズルから延出するワイヤの延出寸法を調整することが可能であり、ロウ付けを行うのに適正なワイヤの延出寸法を高精度に設定することができるので、ロウ付け状態を安定させて欠陥のない高品質なロウ付けを行うことが可能となる。
また、ロウ付けする対象物やロウ付け条件が変更して、ロウ付けを行うのに適正なワイヤ長さが変動した場合でも、前記調整機構により前記位置決め部材および刃台の他方をスライドさせてワイヤの延出寸法を調整することで、ワイヤを同じワイヤ切断装置にて適正なワイヤ長さに切断することが可能となる。
【0011】
また、請求項2記載のごとく、前記位置決め部材は、前記基台に固定されまたは移動可能に取り付けられる位置決め用支持部と、前記位置決め用支持部に、該位置決め用支持部に対する相対位置を変動可能に支持されるとともに、前記ノズルを挿入することによりガイドするガイド部とを備え、前記ガイド部が前記ノズルをガイドした状態で、前記ワイヤのノズルからの延出方向における前記ガイド部の前記位置決め用支持部に対する位置を一定位置に固定可能である。
これにより、ノズルをガイド部へ挿入する際の姿勢が位置ずれや角度ずれを生じていた場合でも、前記位置ずれや角度ずれを吸収することができ、前記ノズルをガイド部により適正にガイドすることが可能となる。
【0012】
また、請求項3記載のごとく、前記刃台のワイヤ支持部は、所定の間隔を隔てて配置され、それぞれワイヤを支持する一対の支持部材を備え、前記刃台の切断刃は、前記一対の支持部材の間に配置される。
これにより、前記一対の支持部材によりワイヤを両持ち支持することができ、両持ち支持されたワイヤを切断刃により切断することとなるので、切断部にダレを生じさせることなくワイヤの切断を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、以下の効果を奏する。
つまり、本発明によれば、ノズルから延出するワイヤの延出寸法を調整することが可能であり、ロウ付けを行うのに適正なワイヤの延出寸法を高精度に設定することができるので、ロウ付け状態を安定させて欠陥のない高品質なロウ付けを行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ワイヤ切断装置を示す斜視図である。
【図2】ワイヤ切断装置を示す側面図である。
【図3】位置決め部材の位置決め用支持部およびガイド部を示す斜視図である。
【図4】位置決め部材を示す側面断面図である。
【図5】ノズルをガイド部に係合した状態の位置決め部材を示す側面断面図である。
【図6】ノズルの径の違いによるノズルの位置決め用壁からの突出寸法の変化を示す側面断面図であり、(a)はノズルの径が細い場合の突出寸法を示す図、(b)はノズルの径が太い場合の突出寸法を示す図である。
【図7】切断刃が上方回動した状態の刃台を示す図であり、(a)は正面図、(b)は側面断面図である。
【図8】切断刃が下方回動してワイヤを切断した状態の刃台を示す図であり、(a)は正面図、(b)は側面断面図である。
【図9】切断刃の刃部における傾斜面の傾斜角度を示す側面図である。
【図10】ロボットアームの先端部に取り付けたロウ付け装置によりワークの継ぎ目部分のロウ付けを行う様子を示す斜視図である。
【図11】ワークの継ぎ目部分のロウ付けを行うロウ付け装置を示す斜視図である。
【図12】ノズルから延出するワイヤの先端部に形成される溶接玉を示す側面図である。
【図13】先端部に大きな溶接玉が形成されたワイヤを示す側面図である。
【図14】ノズルからの延出長さが長いワイヤを示す側面図である。
【図15】形成された溶接玉が大きい、またはノズルからの延出長さが長いワイヤによりロウ付けを行った場合のビードを示す斜視図である。
【図16】ノズルからの延出長さが短いワイヤを示す側面図である。
【図17】ノズルからの延出長さが短いワイヤによりロウ付けを行った場合のビードを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明を実施するための形態を、添付の図面を用いて説明する。
【0016】
図1、図2に示すワイヤ切断装置1は、図10に示したようなロウ付け装置110のノズル112から突出するロウ材であるワイヤ111を切断するための装置であり、前記ノズル112をガイドして位置決めする位置決め部材10と、前記ノズル112から延出するワイヤ111を支持するワイヤ支持部24およびワイヤ支持部24により支持されたワイヤ111を切断する切断刃25を有する刃台20と、前記位置決め部材10が固定されるとともに、前記刃台20が前記位置決め部材10に対する近接離間方向へ移動可能に取り付けられる基台30と、前記基台30に固定され、前記刃台20の、前記位置決め部材10に対する近接離間方向の位置を調整する調整機構40とを備えている。
また、ワイヤ切断装置1は載置台50上に載置されており、固定具51・51により載置台50に取り付けられている。
【0017】
前記刃台20のワイヤ支持部24は一対の支持部材22・23を備えており、一対の支持部材22・23は所定の間隔を隔てた状態で支持板21に立設されている。
支持部材22・23には、それぞれワイヤ111が通過可能な支持孔22a・23aが、支持部材22・23の離間方向へ形成されており、支持孔22a・23aへワイヤ111を貫通させることで、支持部材22・23によりワイヤ111を支持するように構成している。
前記切断刃25は、支持部材22と支持部材23との間に配置され、該支持部材22・23により回動中心25bを中心にして回動可能に支持されている。
また、切断刃25の回動中心25bは、該切断刃25の一端部に配置されており、前記切断刃25の他端部は、前記載置台50の支持片55により支持されたバネなどの弾性部材56により上方に付勢されている。
【0018】
前記切断刃25の下面には刃部25aが形成されており、前記支持孔22a・23aへワイヤ111を貫通させて支持部材22・23によりワイヤ111を支持した状態で、前記切断刃25を上方から下方へ回動することで、前記ワイヤ111を切断することができるように構成されている。
つまり、刃台20においては、支持部材22・23により両持ち支持されたワイヤ111を、上方から下方へ向けて回動する切断刃25により切断するように構成されている。
【0019】
また、前記支持板21は、固定具31・31により、基台30に対して支持部材22・23の離間方向(支持部材22・23における支持孔22a・23aの形成方向)へスライド可能に取り付けられている。
前記固定具31・31は、前記支持板21における、支持部材22・23の離間方向と直交する方向の両端部に配置されており、支持板21の前記両端部を基台30との間で挟持することにより、支持板21を基台30に対してスライド可能に支持している。
これにより、支持板21に支持部材22・23を立設し、切断刃25を支持部材22・23により回転可能に支持して構成される刃台20が、基台30に対してスライド可能に取り付けられている。
【0020】
前記位置決め部材10は、基台30における前記刃台20のスライド方向の一端部に固設されている。
図3、図4に示すように、位置決め部材10は、前記基台30に固定された位置決め用支持部11と、位置決め用支持部11に、該位置決め用支持部11に対する相対位置を変動可能に支持されるとともに、前記ノズル112をガイドするガイド部12とを備えている。
位置決め用支持部11は、例えば、有底の円筒状凹部が形成されたブロック状部材にて構成されており、前記円筒状凹部が位置決め用支持部11の内部空間11aとして構成されている。前記内部空間11aに構成される円筒状凹部の底部は位置決め用壁11bとして構成され、前記位置決め用支持部11は、位置決め用壁11bが内部空間11aの刃台20側に位置するように配置されている。位置決め用壁11bには、刃台20のスライド方向に貫通する貫通孔11cが形成されている。
【0021】
前記位置決め用支持部11の内部空間11aには略円柱形状に形成された前記ガイド部12が嵌装されている。
前記ガイド部12の外径寸法および厚み寸法は、それぞれ前記内部空間11aの内径寸法および深さ寸法よりも小さく形成されており、ガイド部12は、内部空間11aの内周面および位置決め用壁11bとの間に隙間を有した状態で、該内部空間11aに収納されている。
【0022】
また、内部空間11aの内周面とガイド部12の外周面との間には、ばねなどの弾性部材にて構成されるフロート支持材13・13・・・が介装され、内部空間11aの位置決め用壁11bとガイド部12における位置決め用壁11b側の面との間にはばねなどの弾性部材にて構成されるフロート支持材14・14・・・が介装されており、ガイド部12は前記フロート支持材13・13・・・およびフロート支持材14・14・・・により位置決め用支持部11に支持されている。
この場合、前記フロート支持材13・13・・・およびフロート支持材14・14・・・は弾性部材にて構成されているので、ガイド部12は位置決め用支持部11に対して、刃台20のスライド方向および刃台20のスライド方向と直交する方向への移動が許容された状態で支持されている。
【0023】
また、位置決め用支持部11の位置決め用壁11bとガイド部12の間には球状部材15・15・・・が介在している。本例の場合、各球状部材15・15・・・は、それぞれフロート支持材14・14・・・に内包されている。
【0024】
前記ガイド部12には、刃台20のスライド方向に貫通するガイド孔12aが形成されている。前記ガイド孔12aは、位置決め用壁11b側へいくに従って縮径するテーパー状の円筒形状に形成されており、該ガイド孔12aの反位置決め用壁11b側から前記ノズル112が挿入可能に構成されている。
図5に示すように、ワイヤ切断装置1の前記ノズル112は、先端へいくに従って縮径するテーパー形状を有した、先端を切り落とした状態の円錐形状に形成されている。
【0025】
そして、ノズル112を前記ガイド孔12aに反位置決め用壁11b側から挿入すると、ノズル112がガイド孔12aから位置決め用壁11b側へ所定寸法だけ突出した状態で、ノズル112とガイド孔12aとが係合し、ガイド孔12aによりノズル112がガイドされるように構成されている。
このように、ノズル112とガイド孔12aとが係合して、ガイド孔12aによりノズル112がガイドされた状態では、ノズル112のガイド孔12aからの突出寸法aは一定となっている。
【0026】
また、ノズル112をガイド孔12aに反位置決め用壁11b側から挿入して、ガイド孔12aによりノズル112をガイドする場合には、ノズル112がガイド孔12aに係合することで、ガイド部12が位置決め用壁11b側へ押圧されるが、ガイド部12が位置決め用壁11b側へ押圧されると、ガイド部12が球状部材15・15・・・を介して位置決め用壁11bの内側面に当接し、刃台20のスライド方向において球状部材15・15・・・の外径寸法分だけ位置決め用壁11bから離間した位置に位置決めされることとなる。
つまり、球状部材15・15・・・を介して位置決め用壁11bに当接したガイド部12は、位置決め用壁11bから反位置決め用壁11b側へ、球状部材15・15・・・の外径寸法となる離間寸法bだけ離間した位置に位置決めされることとなる。
【0027】
このように、ノズル112がガイド部12にガイドされ、かつガイド部12が位置決め用支持部11の位置決め用壁11bに対して位置決めされている状態では、ノズル112の位置決め用壁11bの内側面から刃台20側への突出寸法cは、ノズル112のガイド孔12aからの突出寸法aから、ガイド部12の位置決め用壁11bからの離間寸法bを減じた寸法となり、一定となる。
つまり、ノズル112の先端位置は、前記位置決め用支持部11により、位置決め用壁11bの内側面から刃台20側へ突出寸法cだけ突出した位置に位置決めされることとなり、位置決め用支持部11により位置決めされたノズル112から延出するワイヤ111は、刃台20のスライド方向へ延出することとなる。
また、位置決め用支持部11により位置決めされたノズル112から延出するワイヤ111は、前記支持部材22・23の支持孔22a・23aに挿通された状態となり、該支持部材22・23により両持ち支持されることとなる。
【0028】
また、位置決め部材10のガイド部12は、前述のように、弾性部材にて構成されるフロート支持材13・13・・・およびフロート支持材14・14・・・を介して位置決め用支持部11に支持されており、該位置決め用支持部11に対する相対位置を移動可能に構成されている。
従って、ノズル112をガイド部12のガイド孔12aへ挿入する際に、ノズル112のガイド孔12aに対する位置が上下左右方向(刃台20のスライド方向と直交する方向)にずれていたり、ノズル112の姿勢が刃台20のスライド方向に対して傾斜していて角度ずれを生じていたりした場合でも、ガイド部12がノズル112の位置ずれや角度ずれに応じて位置決め用支持部11に対して移動することで、前記位置ずれや角度ずれを吸収することができ、前記ノズル112をガイド孔12aに適正に係合することが可能となっている。
【0029】
前記調整機構40は、前記基台30に固定される調整具であるマイクロメーター41を備えている。
図2に示すように、前記マイクロメーター41は、その本体部41aが基台30に固設される基台側取付片43に取付固定されており、本体部41aから延出するスピンドル41bが該本体部41aに対して伸縮するように構成されている。
前記スピンドル41bの本体部41aに対する伸縮は、本体部41aのスピーダー部またはシンブル部を回転操作することにより行われる。
また、スピンドル41bの先端部は、前記刃台20の支持板21に固設された刃台側取付片42に接続されている。
そして、基台30に固定したマイクロメーター41の本体部41aを操作して、該本体部41aに対してスピンドル41bを伸縮させることで、前記刃台20が基台30に対してスライドするように構成している。
前記調整機構40は、マイクロメーター41、刃台側取付片42、および基台側取付片43にて構成されている。
【0030】
本ワイヤ切断装置1においては、ノズル112を位置決め用支持部11によりガイドするとともに、前記ノズル112から延出するワイヤ111を前記刃台20のワイヤ支持部24にて支持した状態で、前記切断刃25を上方から下方へ回動することで、前記ワイヤ111を切断するように構成されている。
この場合、ノズル112から延出するワイヤ111は、ノズル112からの延出寸法がyとなる箇所(ワイヤ支持部24における位置決め部材10側の支持部材23と切断刃25との境界部)で切断されることとなるが(図2参照)、このワイヤ111の延出寸法yは、前記マイクロメーター41により前記刃台20をスライドさせることで調整することが可能となっている。
【0031】
つまり、調整機構40のマイクロメーター41および位置決め部材10は基台30に固定されていて、該マイクロメーター41の本体部41aを基台30に固設している基台側取付片43と位置決め部材10における位置決め用壁11bとの間隔dは一定で不変となっており、位置決め用支持部11にガイドされたノズル112の位置決め用壁11bからの突出寸法cも一定であるため、マイクロメーター41により前記刃台20をスライドさせて、基台側取付片43とワイヤ111の切断箇所との間の寸法xを変化させることで、前記ワイヤ111の延出寸法yを調整することが可能となる。
【0032】
このように、ワイヤ切断装置1においては、調整機構40のマイクロメーター41と位置決め部材10とは共に基台30に固定されていて互いの位置関係が一定であり、この位置関係を基準として調整機構40によりワイヤ111の延出寸法yを調整することが可能であるので、ロウ付けを行うのに適正なワイヤ111の延出寸法yを高精度に設定することができ、ロウ付け状態を安定させて欠陥のない高品質なロウ付けを行うことが可能となっている。
また、ロウ付けする対象物やロウ付け条件が変更して、ロウ付けを行うのに適正なワイヤ長さが変動した場合でも、前記調整機構40により前記刃台20をスライドさせてワイヤ111の延出寸法yを調整することで、ワイヤ111を同じワイヤ切断装置1にて適正なワイヤ長さに切断することが可能となる。
【0033】
また、前記ガイド部12のガイド孔12aに係合するノズル112の径が異なった場合、ノズル112の位置決め用壁11bからの突出寸法cが変化するが、例えば図6に示すように、ノズル112の径rが小さい(ノズル112が細い)場合は前記突出寸法cが大きくなり(図6(a)参照)、ノズル112の径rが大きい(ノズル112が太い)場合は前記突出寸法cが小さくなるが、このようにノズル112の径によりノズル112の位置決め用壁11bからの突出寸法cが変化した場合でも、前記調整機構40により前記刃台20をスライドさせて、ワイヤ111の延出寸法yを高精度に調整することが可能である。
【0034】
ワイヤ切断装置1では、前述のように、支持部材22・23により両持ち支持されたワイヤ111を切断刃25にて切断するように構成されているが、その切断機構について具体的に説明する。
図7(a)、図7(b)に示すように、切断刃25は回動中心25bを中心にして回動可能に構成されるとともに、弾性部材56により上方に付勢されている。切断刃25は、弾性部材56により上方に付勢された状態では、支持部材22・23により支持されたワイヤ111の上方に位置している。
また、切断刃25の近傍にはサーボモータ26が配設されており、サーボモータ26の駆動軸26aにはカム部材27が一体的に回転可能に取り付けられている。サーボモータ26の動作は、ロウ付け装置110やロボットアーム101の動作を制御するための制御装置130により制御するように構成している。
なお、図7(a)に示す状態では、カム部材27は切断刃25に当接していない。
【0035】
このように、切断刃25の回動位置がワイヤ111の上方にある状態から、制御装置130の制御によりサーボモータ26を回転駆動してカム部材27を回転させると、図8(a)、図8(b)に示すように、カム部材27が切断刃25に当接して、該切断刃25を弾性部材56の付勢力に抗して下方へ押圧する。カム部材27により押圧された切断刃25は下方へ回動して、ワイヤ111を切断する。
この場合、ノズル112から延出するワイヤ111は、ワイヤ支持部24における位置決め部材10側に配置される支持部材23と切断刃25との境界部にて切断され、切断後におけるノズル112から延出するワイヤ111の長さは、ノズル112の先端部から前記支持部材23と切断刃25との境界部までの長さ(図2における延出寸法y)となる。
【0036】
また、ワイヤ支持部24における支持部材22と支持部材23との間隔は、切断刃25の厚み寸法と略同じに構成されており、上下回動により支持部材22と支持部材23との間を摺動する切断刃25と支持部材22および支持部材23との間には、切断刃25の摺動動作を許容するだけの極僅かな隙間が設けられているのみである。
このように、ワイヤ111を支持部材22・23により両持ち支持することで、切断部にダレを生じさせることなく、ワイヤ111の切断を行うことが可能となっている。
また、切断刃25と支持部材22・23との隙間を極僅かな大きさに設定することで、ワイヤ111を高精度で切断することが可能となっている。
【0037】
また、図9に示すように、切断刃25の下面に形成される刃部25aは、厚み方向における両端部から中央部へ向かうに従って凹んでいく谷溝形状に形成されている。つまり、刃部25aは、厚み方向における両端部が最も下方に突出し、中央部が最も上方に位置していて、両端部から中央部へいくに従って上方へ傾斜する傾斜面を有している。
前記刃部25aの傾斜面の傾斜角度θは、例えば水平方向(切断刃25の厚み方向)に対して1°となるように設定されている。
この傾斜面の傾斜角度θは、旋盤バイトの刃部における逃げ角と同様の機能を有するものであり、前記刃部25aを、所定の傾斜角度θを有する傾斜面にて構成される谷溝形状に形成することで、ワイヤ111を切断した際の切断面を凹凸がない滑らかな平面にすることが可能となる。
また、前記傾斜面の傾斜角度θを1°程度に設定した場合、ワイヤ111の切断面を滑らかな平面にするとともに、切断刃25の耐久性を向上させることが可能となる。
【0038】
また、固定具51・51により載置台50に取り付けられるワイヤ切断装置1は、刃台20のスライド方向と同じ方向(ノズル112のガイド孔12aへの挿入方向)にスライド可能に構成されている。
載置台50におけるワイヤ切断装置1の載置面には支持部材52が固設されており、前記支持部材52と、ワイヤ切断装置1における基台30の反位置決め用支持部11側の端面との間にばねなどの弾性部材53・53が介装されている。
ワイヤ切断装置1にスライド方向の力が加わっていない場合には、ワイヤ切断装置1は弾性部材53・53の付勢力がかからない位置に停止している。
【0039】
一方、ノズル112をガイド部12のガイド孔12aに挿入して両者が係合した際には、ワイヤ切断装置1にはノズル112の挿入方向(ワイヤ切断装置1のスライド方向)への力がかかるが、この場合、ワイヤ切断装置1はノズル112の挿入方向へスライドする。ワイヤ切断装置1がノズル112の挿入方向へスライドすると、弾性部材53・53が圧縮されて、ワイヤ切断装置1には弾性部材53・53によるノズル112の挿入方向とは反対方向への力がかかるようになる。
そして、ノズル112がガイド孔12aに係合したことにより生じるノズル112の挿入方向への力と、弾性部材53・53によるノズル112の挿入方向とは反対方向への力とが釣り合った箇所でワイヤ切断装置1の移動が停止する。
このように、ワイヤ切断装置1は、ノズル112をガイド孔12aに挿入して係合する際に、その力を弾性部材53・53により受けて緩和するように構成しており、ノズル112がガイド孔12aに係合した際の衝撃を和らげることができ、ワイヤ切断装置1の寿命を向上することが可能となっている。
【0040】
また、本例のワイヤ切断装置1では、位置決め部材10を基台30に固定するとともに、刃台20を基台30に対してスライド可能とし、基台30に固定した調整機構40により前記刃台20の位置決め部材10に対する近接離間方向の位置を調整するように構成しているが、刃台20を基台30に固定するとともに、位置決め部材10を基台30に対してスライド可能とし、基台30に固定した調整機構40により前記位置決め部材10の刃台20に対する近接離間方向の位置を調整するように構成することも可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 ワイヤ切断装置
10 位置決め部材
11 位置決め用支持部
12 ガイド部
12a ガイド孔
20 刃台
21 支持板
22・23 支持部材
24 ワイヤ支持部
25 切断刃
25a 刃部
30 基台
40 調整機構
41 マイクロメーター
41a 本体部
41b スピンドル
50 載置台
110 ロウ付け装置
111 ワイヤ
111a 溶接玉
112 ノズル



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロウ付け装置のノズルから突出するロウ材であるワイヤを切断するワイヤ切断装置であって、
前記ノズルをガイドして位置決めする位置決め部材と、
前記ノズルから延出するワイヤを支持するワイヤ支持部およびワイヤ支持部により支持されたワイヤを切断する切断刃を有する刃台と、
前記位置決め部材および刃台の一方が固定されるとともに、前記位置決め部材および刃台の他方が前記位置決め部材および刃台の一方に対する近接離間方向へ移動可能に取り付けられる基台と、
前記基台に固定され、前記位置決め部材および刃台の他方の、前記位置決め部材および刃台の一方に対する近接離間方向の位置を調整する調整機構とを備え、
前記位置決め部材は、前記ワイヤのノズルからの延出方向が、前記位置決め部材および刃台の他方の移動方向となるように、前記ノズルを位置決めする、
ことを特徴とするワイヤ切断装置。
【請求項2】
前記位置決め部材は、前記基台に固定されまたは移動可能に取り付けられる位置決め用支持部と、前記位置決め用支持部に、該位置決め用支持部に対する相対位置を変動可能に支持されるとともに、前記ノズルを挿入することによりガイドするガイド部とを備え、
前記ガイド部が前記ノズルをガイドした状態で、前記ワイヤのノズルからの延出方向における前記ガイド部の前記位置決め用支持部に対する位置を一定位置に固定可能である、
ことを特徴とする請求項1に記載のワイヤ切断装置。
【請求項3】
前記刃台のワイヤ支持部は、所定の間隔を隔てて配置され、それぞれワイヤを支持する一対の支持部材を備え、
前記刃台の切断刃は、前記一対の支持部材の間に配置される、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のワイヤ切断装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2010−172939(P2010−172939A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−18748(P2009−18748)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)