説明

ワイヤ放電加工用電極線

【目的】 この発明は、ワイヤ放電加工に使用する電極線に関する。
【構成】 Znを34重量%以上45重量%以下と、添加元素として、Bi、Fe、Mg、Mn、Te、P、Inからなる群より選択される少なくとも1種の元素を、添加元素の合計として、0.005重量%以上1.5重量%以下の範囲を満足するように含有し、残部が銅および不可避不純物からなる、ワイヤ放電加工用電極線である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、ワイヤ放電加工に使用する電極線に関するものである。
【0002】
【従来の技術】ワイヤ放電加工は、ワイヤ放電加工用電極線と称される線状の加工電極と被加工物との間に、水または油等の加工液を介し間欠的な放電を起こさせながら、被加工物をワイヤ放電加工電極線に対して相対的に移動させることにより、被加工物を所望の形状に溶融し切断する方法である。この方法は、各種の金型の製造等に利用されている。このようなワイヤ放電加工においては、被加工物の仕上がり、加工精度および仕上がり表面状態が良好なこと、電極線が被加工物に付着しないこと、および放電加工時間が短いこと、といった放電加工特性が要求されている。そして、このようなワイヤ放電加工に使用する放電加工用電極線としては、電極線として優れた伸線加工性および強度を有することから、従来より黄銅線が用いられている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】最近では、加工電源の改良進歩に伴い、放電加工速度を向上させることが出来る電極線が望まれている。特に、高電圧でかつ短時間のパルス電圧を付与するようなワイヤ放電加工機の電源を使用するような場合において、放電加工速度を高めることの出来る電極線が望まれている。しかしながら、従来の黄銅線を使用した放電加工電極線では十分に速い放電加工速度を得ることが出来なかった。また被加工物への電極線の付着量も多く、また高速で放電加工をしようとすると断線しやすいという欠点もあった。この発明の目的は、放電加工時間を短くすることができ、かつ電極線が被加工物に付着しにくいワイヤ放電加工用電極線を提供することにある。
【0004】
【発明の構成】この発明は、Znの含有量が34〜45重量%の黄銅を主成分とするワイヤ放電加工用電極線であって、前記黄銅がBi、Fe、Mg、Mn、Te、P、Inからなる群より選択される少なくとも1種の元素を、添加元素の合計として、0.005重量%以上1.5重量%以下の範囲を満足するように含有することを特徴としている。望ましくはBi、Fe、Mg、Mn、Te、P、Inからなる群より選択される少なくとも1種の元素の添加量Xが次式で示される範囲内であると良い。
(100−Y)2/200000≦X≦(100−Y)2/10000(ただし、Y=ワイヤ放電加工用電極線のCuの含有重量%)
【0005】さらに、Zn含有量を35〜43重量%の黄銅を主成分とすると良い。この発明において200℃における強度比((200℃における引張強さ)/(室温における引張強さ)×100(%))
が40%以上90%未満であることが好ましい。また、ワイヤ放電加工用電極線を製造する最終行程の冷間加工度が75%以上、99. 9%未満であるワイヤ放電加工用電極線が好ましい。さらに、本発明では線径が0. 1mm未満のワイヤ放電加工用電極線も優れた性能を示す。
【0006】
【作用】Znの含有量が34重量%より少ない黄銅を用いると従来材と比較して画期的な放電加工速度の向上がみられなく、一方Znの含有量が45重量%を超える黄銅を用いるとワイヤーへの加工が困難になる。そこで本発明者らはZnの含有量が34〜45重量%の黄銅を用いて、これに種々の元素を添加して添加元素とワイヤーへの加工性および放電加工特性(加工速度、表面性状および自動結線性など)の関係を調査した。その結果、Znの含有量が34〜45重量%の黄銅のとき、Bi、Fe、Mg、Mn、Te、P、Inからなるグループより選ばれる少なくとも1種の元素を合計で0.05〜1.5重量%添加した場合、ワイヤーへの加工が可能であるばかりでなく、放電加工速度も添加していない場合と比較して向上し表面性状も平滑になることを見い出した。ここで合計の添加量を0. 05〜1.5重量%としたのは0.05%未満では放電加工特性を向上させる効果が少なく1. 5重量%を超えるとワイヤーへの加工性に悪影響を与えるためである。Bi、Fe、Mg、Mn、Te、P、Inからなる群より選択される少なくとも1種の元素の添加量が(100−Y)2/200000以上(100−Y)2/10000以下(ただし、Y=ワイヤ放電加工用電極線のCuの含有重量%)としたのは、添加量が(100−Y)2/200000未満の場合、放電加工特性を向上させる効果が少なく、(100−Y)2/10000を超えると、その効果が飽和するためである。また、より好ましくはZnの含有量が35〜43重量%の黄銅を主成分にするとよい。
【0007】ここでZnの含有量を35〜43重量%としたのは、放電加工特性の向上度とワイヤーへの加工のしやすさがバランスしているためであり、35重量%未満では放電加工特性の向上がやや少なく、43重量%を超えるとワイヤーへの加工がやや困難になるためである。また、前記ワイヤー放電加工用電極線において、200℃における強度比 ((200℃における引張強さ)/(室温における引張強さ)×100(%))が40%以上90%未満の場合、特に放電加工特性の向上が著しいことを見い出した。40%未満の場合、放電加工特性の著しい向上がみられず、90%以上のものは前記ワイヤ放電加工用電極線では存在しなかった。
【0008】また、ワイヤ放電加工用電極線を製造する最終行程の冷間加工度と放電加工特性の関係を調査したところ、ワイヤ放電加工用電極線を製造する最終行程の冷間加工度が75%以上、99. 9%未満である場合特に放電加工特性の向上が著しいことを見い出した。最終行程の冷間加工度が75%以上、99. 9%未満としたのは、75%未満および99. 9%以上では放電加工特性の著しい向上が見られないためである。さらに、ワイヤ放電加工用電極線において、その線径は細いほうが被加工面に対して良好な表面性状をもたらす。しかし、従来の材料では線径0. 1mm未満での放電加工特性は十分とは言えなかった。一方、本発明の電極線においては、線径が0. 1mm未満でも優れた放電加工特性を示した。この発明に従う電極線は、高い速度で放電加工を行うことができ、かつ被加工物への付着物量が少ない等、優れた放電加工特性を発揮する。特に、この電極線は、高電圧でかつ短時間のパルス電圧を付与する放電加工において優れた放電加工特性を示す。
【0009】
【実施例】通常のCu地金を溶解したものにZnおよびGe,Sb,Ti,Mn,Al,Si,Mg,In,P,Fe,B,Ni,Snからなるグループより選ばれる少なくとも1種の元素を添加し連続的に鋳造することにより、表1に示す組成の合金材を得た。なお、表1中の組成は、重量%を示す。
【0010】
【表1】


【0011】このCu合金材を熱間押出しにより直径8mmΦの粗引き線にし、皮剥ぎを行った後、伸線加工と熱処理を繰り返し行い所望の線径の電極線を製造した。また、線癖をなくすため伸線工程の最終段階で軽く通電熱処理を行った。なお、この所望の線径までの加工の際、必要な熱処理の回数を加工性として示した。熱処理の回数が少ないほど加工性が良いということになる。このようにして得られた電極線において、この発明による電極線は強度も高く、線癖のない伸直性に優れたものであった。
【0012】得られた電極線をワイヤ放電加工機に取り付けて同一条件で放電加工を行い、放電加工速度、被加工物への付着量、被加工物の表面性状、電極線の断線状況および自動結線性について調査した。その結果を上述の加工性および200℃における比強度((200℃における引張強さ)/(室温における引張強さ)×100(%))とともに第2表に示す。また、比較のため従来の電極線についても同様に調査を行い表2に併記した。なお、放電加工速度は単位時間当たりの加工断面積(加工送り速度と被加工物厚さの積)で求めた後、従来素材のワイヤ放電加工速度を1. 0としてそれぞれの比を求め表2に示した。被加工物の付着量も従来素材のワイヤを100として相対的な比率で示した。
【0013】
【表2】


【0014】表2中の放電加工特性および加工性表面性状は次のとおりである。
A:表面が非常に滑らかで厚さ方向での寸法差なく非常に良好であった。
B:表面が滑らかで厚さ方向での寸法差がほとんどなく良好であった。
C:表面がやや荒く厚さ方向で寸法差がややみられた。
D:表面が荒く厚さ方向の中央部でタイコ状の形状を示した。
【0015】
【発明の効果】以上説明したように、本発明に従う電極線は、従来よりも放電加工特性(加工速度、表面性状等)が著しく向上し、自動結線性にも優れているということができる。また、表2に示す実施例と比較例とを対比すると、この発明の範囲外では、加工性、放電特性、および自動結線性をすべて同時に満足させることは困難であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 Znを34重量%以上45重量%以下と、添加元素として、Bi、Fe、Mg、Mn、Te、P、Inからなる群より選択される少なくとも1種の元素を、添加元素の合計として、0.005重量%以上1.5重量%以下の範囲を満足するように含有し、残部が銅および不可避不純物からなる、ワイヤ放電加工用電極線。
【請求項2】 Bi、Fe、Mg、Mn、Te、P、Inからなる群より選択される少なくとも1種の元素の添加量X(重量%)が次式で示される範囲内である請求項1に記載のワイヤ放電加工用電極線。ただし、ワイヤ放電加工用電曲線のCuの含有量をY重量%とした場合、(100−Y)2/200000≦X≦(100−Y)2/10000
【請求項3】 Znの含有量が35〜43重量%の黄銅を主成分とすることを特徴とする請求項1ないし2に記載のワイヤ放電加工用電極線。
【請求項4】 200℃における強度比((200℃における引張強さ)/(室温における引張強さ)×100(%))が40%以上90%未満である請求項1ないし3に記載のワイヤ放電加工用電極線。
【請求項5】 最終行程の冷間加工度が75%以上、 99.9%未満である請求項1ないし3に記載のワイヤ放電加工用電極線。
【請求項6】 線径が0.1mm未満である請求項1ないし3に記載のワイヤ放電加工用電極線。