説明

ワクチンのアジュバントとしてリン酸鉄を含むワクチン組成物

本発明は、製薬補助剤としてリン酸鉄を含むワクチン組成物に関する。該リン酸鉄は、粒度が0.01μm〜300μmの範囲である粒子の形態で存在する;それは、鉄塩およびリン酸塩溶液を混合することによって得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、ワクチンの分野、特に、アジュバントを含むワクチン組成物の分野に関する。さらに詳しくは、本発明は、アジュバントがリン酸鉄を含むワクチンに関する。
【0002】
抗原が投与された場合に誘発される免疫反応を増大させるかまたは質的に変更することが意図されるアジュバントを含むワクチン組成物は従来知られている。実際、ワクチン産業において実現されている開発は、ますます開発されていく精製方法を用いてウイルスまたは細菌から得られる抗原の使用、およびバオテクノロジーに由来する抗原の使用に至っている。これらの抗原は、従来使用されてきたいくつかの抗原よりも一般的に純粋であるという利点を有するが、その代わり、それらはしばしば免疫原性が低く、したがって、アジュバントの使用を必要とする。
多くのアジュバントが既に記載されてきた:サポニン、エマルジョン、陽イオン性脂質など。
【0003】
しかしながら、今日までのところ、市販品において一般的に使用されている唯一のアジュバントは、アルミニウムをベースとしたアジュバントである。現在、他のアジュバントが望まれている。
【0004】
アジュバントに関する従来技術のうち、特に、アジュバントとして、吸着能力が以前に記載されているゲルの形態の水酸化鉄と比べて改良されていると考えられるコロイド溶液の形態の水酸化鉄化合物を記載している米国特許第5,895,653号が挙げられる。
【0005】
しかしながら、かかるアジュバントは、現在使用されているアルミニウムをベースとするアジュバントの代替品を提示するが、常に有効にそれらに取って代わることができるわけではなく、したがって、投与される生物に関して良好な許容度を示すと同時に製薬産業の制約に適合する条件下で製造することができ、特に、少なくとも現在使用されているアルミニウムをベースとした化合物と同様に有効であるようにワクチン抗原に対する免疫応答を増大させるかまたは変更することを可能にする、他の化合物が望まれている。
【0006】
このために、本発明の主題は、少なくとも1つのワクチン抗原および少なくとも1つのアジュバントを含むワクチン組成物であって、アジュバントがリン酸鉄を含むことを特徴とするワクチン組成物である。
【0007】
特定の特徴によると、該リン酸鉄は、粒度が0.01μm〜300μm、特に、1〜40μm、特に、粒子の大部分の粒度が約7μmである粒子の懸濁液の形態で存在する。
【0008】
本発明の特定の実施態様によると、リン酸鉄は、鉄塩およびリン酸塩の溶液から調製される。
【0009】
かかる調製は、一般的に良好な健康状態のヒトに投与するのに必要とされる安全な条件を全てもたらす白っぽい非結晶性生成物を得ることを可能にする。
【0010】
本発明の多くの利点は、実施例3に記載する試験において得られる結果を説明する図を参照して以下の説明の過程で明らかになるであろう;図1は1回目の免疫化の後のIgG1結果を表し、図2は2回目の免疫化の後に得られた結果を表す;図3は1回目の免疫化の後に得られたIgG2a結果を表し、図4は2回目の免疫化の後に得られた結果を表す。
【0011】
本発明の目的のために、「ワクチン組成物」なる用語は、免疫系応答を誘発するためにヒトまたは動物に投与することができる組成物を意味するものとする;この免疫系応答は、抗体の生産を引き起こすことができるか、または単純にある種の細胞、特に、抗原提示細胞、Tリンパ球およびBリンパ球の活性化を引き起こすことができる。該ワクチン組成物は、予防目的もしくは治療目的またはそれらの両方のための組成物であり得る。
【0012】
本発明の目的のために、「抗原」なる用語は、微生物全体であるかサブユニットであるかに関係なく、その性質が何であれ(ペプチド、タンパク質、糖タンパク質、多糖、糖脂質、リポペプチドなど)、ワクチンにおいて使用することができるいずれもの抗原を意味するものとする。それらは、ウイルス抗原、細菌抗原または同様のものであり得る;「抗原」なる用語はまた、DNA免疫化と称される免疫化技術の場合、ポリヌクレオチドが投与される個体による発現が望ましい抗原をコードするように配列が選択されるポリヌクレオチドを含む。特にいくつかの疾患に対抗して保護する能力を有する抗原を含んでおり、そこで一般にワクチンコンビネーションと称される多価ワクチン組成物の場合、または、例えば百日咳またはインフルエンザに対するある種のワクチンの場合のように単一の疾患に対抗して保護するためにいくつかの異なる抗原を含む組成物の場合、それらは1組の抗原であってもよい。
【0013】
特に、ジフテリア、破傷風および灰白髄炎に対する抗原を含むワクチン組成物について特に良好な結果が得られた。
【0014】
本発明の目的のために、リン酸鉄は、非晶質、結晶性または偽結晶性のリン酸鉄をベースとする不活性の無機化合物である。非晶質リン酸鉄について非常に満足のいく試験が達成された。
【0015】
かかる化合物は、鉄塩およびリン酸塩の溶液から調製される。
【0016】
鉄塩としては、特に、クエン酸鉄、または、特に有利には、塩化鉄が挙げられる。
【0017】
リン酸塩としては、特にリン酸ナトリウムが使用され得る。
【0018】
リン酸鉄は、2つの出発成分を同時にまたは逐次的に混合することによって調製することができる。混合の順序は、塩化鉄のリン酸ナトリウムへの添加、または反対に、リン酸ナトリウムの塩化鉄への添加のいずれかであり得る。添加速度は、非常に迅速であり得るか、または反対に、滴下的であり得る。
【0019】
本発明の要求に適したリン酸鉄を得るためには、鉄塩がリン酸塩の2倍である割合が満足できるものであることに留意した。
【0020】
別法として、リン酸鉄は、噴霧器を使用して調製することができる。この場合、リン酸ナトリウムを塩化鉄の溶液に噴霧することができるか、または反対に、塩化鉄をリン酸ナトリウムに噴霧することができる。
【0021】
本発明のワクチン組成物の調製の際、リン酸鉄は、処方の非常に初期にワクチン組成物に導入することができる。次いで、リン酸鉄をある濃度に希釈し、次いで、目的の抗原を添加する。
【0022】
別法として、目的の抗原を含有するワクチン組成物の部分を既に含んでいる凍結乾燥品にリン酸鉄を添加することも可能である。
【0023】
本発明によると、リン酸鉄は、アジュバント作用を発揮するのに十分な量でワクチン組成物中に存在する。
【0024】
それが使用される唯一のアジュバントである場合、投与されるワクチン組成物の用量は、リン酸鉄0.2〜1.4mgを含むことができる。
【0025】
別のアジュバントと組み合わせる場合は、所望のアジュバント効果および存在する他のアジュバントの効力に応じて、存在する量を減少させることができる。
【0026】
ウサギについての局所および全身毒性試験は、リン酸鉄が水酸化アルミニウムと同様に許容されることを示した。
【0027】
以下の実施例によって本発明の特定の実施態様を説明する。
【0028】
実施例1: リン酸鉄および水酸化鉄の調製
リン酸鉄は、0.25MのNa2HPO4・2H2O(バッチ照会FA004911の下にMerckによって供給される)の溶液中にて0.5MのFeCl3・6H2O(バッチ照会55H 1251の下にSIGMAによって供給される)を混合することによって調製する。これら2つの製品は以下の割合で混合する:Na2HPO4・2H2O 44.5gを含む限外濾過した水1リットルを、FeCl3・6H2O 108.12gを含む限外濾過したH2O 800mlの溶液と合わせる。該混合は周囲温度で行われる。
【0029】
ロッド−スターラーによって撹拌を15分間行い、次いで、沈澱物を水で洗浄しながら連続遠心分離を行う。毎回の洗浄の後に、硝酸銀を用いて塩化物イオンをアッセイすることによって塩化物イオンの存在を検出する。塩化物イオンがもはや全く存在しなくなった時、すなわち、10回洗浄した後、沈澱物を水に溶解し、その無菌性を確保するために118℃で1時間オートクレーブ処理する。
【0030】
このようにして得られた溶液は、1リットル当たりFe 16gを含有するリン酸鉄溶液である。
【0031】
水酸化鉄は、0.5Mのクエン酸鉄および2MのNaOHを周囲温度で混合することによって調製する。pHが8になるまでクエン酸鉄100mlにNaOHを滴下する。リン酸鉄の調製についてと同様に、撹拌を15分間行い、次いで、沈澱物を水で洗浄しながら連続遠心分離を行い、硝酸銀を用いて塩化物イオンをアッセイする。塩化物イオンがもはや検出されなくなった時、沈澱物を水に溶解し、滅菌するために118℃で1時間オートクレーブ処理する。得られた溶液は、1リットル当たりFe 6.3gを含有する水酸化鉄溶液である。
【0032】
実施例2: ワクチン組成物の調製
上記したように調製した溶液、1リットル当たりAl 10.8gを含む水酸化アルミニウム(Reheisによって供給される)の水性懸濁液、および330フロキュレーションまたはLf単位/mlの濃度(すなわち、0.9125g/lのタンパク質濃度)のPTP(精製破傷風タンパク質)の調製物を使用して、以下の組成物を調製する。
PTP単独: H2O 840μl + 9%NaCl 120μl + 100Lf/mlの240 PTP、
PTPおよびAlOOH: H2O 618μl + 1リットル当たりAl 10.8gのAlOOH 222μl +9%NaCl 120μl + 100Lf/mlの240 PTP、
PTPおよびFePO4: H2O 690μl + 16g/lのFePO4 150μl + 10倍濃縮PBS緩衝液(すなわち、95mM Na2HPO4・2H2O)120μl + 100Lf/mlの240 PTP、
PTPおよびFeOOH: H2O 458μl + 1リットル当たりFe 6.3gのFeOOH 382μl + 10倍濃縮PBS緩衝液120μl + 100Lf/mlの240 PTP。
【0033】
実施例3: 抗破傷風抗体のアッセイ
6週齢の雌性OF1マウス6匹ずつからなる4つのグループを使用する。
実施例2において調製した製剤の1つを各グループのマウスに投与する。投与は、1日目および22日目に、50μlの注射を2回の割合で麻酔下にて大腿四頭筋において筋肉内に行う。したがって、投与された量は、アジュバントを含む製剤の場合、2フロキュレーションまたはLf単位のPTPおよび無機物質(アルミニウムまたは鉄のいずれか)0.2mgである。
15日目に、各マウスの眼窩後洞から血液試料約300μlを採取する。
36日目に、麻酔下にて頚動脈の切断によってマウスから全採血する。
回収した血液に対応する血清のそれぞれについてELISA法によってPTP特異的IgG1およびIgG2をアッセイする。
得られた結果を図1〜4に示す。これらの結果はリン酸鉄が良好なアジュバントであることを示している;IgG1に関しては、得られた結果は、たとえそれらが水酸化アルミニウムを用いて得られる結果ほど良好ではなくても、抗原が単独で投与された場合に得られる結果よりも明らかに優れている;IgG2aに関しては、得られた力価は、水酸化アルミニウムを用いて得られるものと同様に高い。
【0034】
実施例4: 抗破傷風活性の検査
本発明の組成物の抗破傷風活性は、マウスにおいて皮下投与された致死量の毒素に関するこれらの化合物の活性を評価することからなる試験によって検査される。
試験された組成物の活性は、毒素の作用から動物の50%を保護するのに必要な用量(ED50)をIU/mlで検量された参照ワクチンのものと比較することによって決定される。
試験された製剤は、アジュバント(0.6mg/用量)と水、30LfのPDT(ジフテリア毒素)および10LfのPTT(破傷風毒素)を混合し、次いで、20μg/用量のメルチオレートおよび生理食塩水(90g/lのNaClおよび5mM Na2HPO4・2H2Oを含有する溶液)を添加することによって得られる。
試験されるワクチン組成物は、水酸化アルミニウムまたはリン酸鉄または水酸化鉄のいずれかを含む。
試験されるアジュバントのそれぞれを用いて得られた結果を下記表に報告する。これらの結果は、リン酸鉄が良好なアジュバントであり、同一条件下にて水酸化鉄よりも明らかに良好であることを示す。
【0035】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0036】
(原文に記載なし)

【図1】

【図2】

【図3】

【図4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのワクチン抗原および少なくとも1つのアジュバントを含むワクチン組成物であって、アジュバントがリン酸鉄を含むことを特徴とするワクチン組成物。
【請求項2】
リン酸鉄が、粒度が0.01μm〜300μmである粒子の懸濁液の形態で存在することを特徴とする上記請求項記載のワクチン組成物。
【請求項3】
粒度が1〜40μmであることを特徴とする上記請求項記載のワクチン組成物。
【請求項4】
粒度が7μmの値を中心とすることを特徴とする、上記請求項のいずれか1項記載のワクチン組成物。
【請求項5】
リン酸鉄が鉄塩およびリン酸塩の溶液から調製されることを特徴とする上記請求項のいずれか1項記載のワクチン組成物。
【請求項6】
少なくとも破傷風抗原を含むことを特徴とする上記請求項のいずれか1項記載のワクチン組成物。
【請求項7】
少なくともジフテリア抗原を含むことを特徴とする上記請求項のいずれか1項記載のワクチン組成物。
【請求項8】
少なくとも1つの灰白髄炎抗原を含むことを特徴とする上記請求項のいずれか1項記載のワクチン組成物。


【公表番号】特表2006−528958(P2006−528958A)
【公表日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−530351(P2006−530351)
【出願日】平成16年5月14日(2004.5.14)
【国際出願番号】PCT/FR2004/001175
【国際公開番号】WO2004/103408
【国際公開日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(592055820)サノフィ・パスツール (20)
【氏名又は名称原語表記】SANOFI PASTEUR
【Fターム(参考)】