説明

ワーク移送用バランサ装置

【課題】高精度にワークを静止させることができるワーク移送用バランサ装置を提供する。
【解決手段】平衡アーム部材4と回動アーム部材5とが連結する回動連結部8に、回動アーム部材5の回動に従って複動シリンダ装置17の内圧を変更するエアー調圧器20を配設した。このエアー調圧器20は、所定圧の一次圧が印加される一次圧用ポート61と、回動アーム部材5の回動角度αの変化に対応して増減される二次圧を出力する二次圧用ポート62とを具備し、さらに該二次圧用ポート62は複動シリンダ装置17のヘッド側室19に連通されて二次圧が複動シリンダ装置17内に印加されるようにした。そして、回動アーム部材5が回動してワーク側のモーメントが変化すると、二次圧が調圧されて複動シリンダ装置17のピストンロッド18が進退制御され、左右のモーメントが一致する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重量の大きいワークを容易に移送することができるワーク移送用バランサ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、工場の生産ライン又は倉庫内等では、重量の大きいワークの移送が頻繁に行われている。そして、このワークの移送作業には、作業者の労力を軽減して作業効率を向上させることができるワーク移送用バランサ装置(以下、適宜、バランサ装置という。)が使用されている。
【0003】
例えば、自動車工場における自動車用ドア部品を自動車用本体部品に対して脱着する生産ラインにあっては、天井等に取り付けられたバランサ装置を用いてワークとしての前記ドア部品を保持して空中に浮かせ、このドア部品を作業者の手で直接必要な場所へ軽々と移動させることにより、ドア部品の脱着作業を容易かつ迅速に行っている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
ところで、上述するバランサ装置は、種々の構成が提案されているところ、装置本体からほぼ水平状に突出したアームを配設すると共に、そのアームを該支点を中心に傾動させることにより、先端に取り付けた移送対象のワークを持ち上げる構成がよく知られている。このアームを備えた構成にあっては、アームの末端に複動シリンダ装置のピストンロッドを接続し、複動シリンダ装置を内圧制御して前記支点の両側でモーメントを釣り合わせることにより作業者による移送作業を容易としている。
【0005】
ここでさらに、前記アームを、二部材を回動可能に相互連結させた構成として、移送時の利便性を向上させた構成が提案される。具体的には、前記支点を中心に上下方向で傾動する平衡アーム部材と、この平衡アーム部材の先端に回動可能に連結される回動アーム部材とでアームを構成し、回動アーム部材が平衡アーム部材に対して所定回転角度で水平方向に旋回可能としたものである。かかる構成とすることにより、微細にワークを移動させることができるため、ワークを所望位置へ精度良く移送できる。
【特許文献1】特開2007−91439号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のように回動アーム部材が回動する構成であると、回動アーム部材が回動した際に支点とワークとの離間距離が変化し、ワーク側で生じるモーメントが増減することとなる。このため、左右のモーメントバランスが崩れ、複動シリンダ装置の推力が不適となって移送中のワークが意図せず上昇又は下降してしまうことがあり、取り扱い難く、作業効率を低下させる問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題を解決して、回動アーム部材が回動した場合でもワークを所望位置に適正に静止させておくことができる高精度なワーク移送用バランサ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、支点を中心にして傾動する平衡アーム部材の一端に、内圧制御されることによりピストンロッドが進退制御される複動シリンダ装置の、そのピストンロッドの先端が接続され、他端に、ワークが先端に取り付けられる回動アーム部材の末端が回動可能に連結されてなり、前記ピストンロッドが進退制御されて前記支点の両側で生ずる左右のモーメントを釣り合せることにより、前記ワークを持ち上げて当該ワークの移送作業を容易とするワーク移送用バランサ装置において、平衡アーム部材と回動アーム部材とが連結する回動連結部に、回動アーム部材の回動に従って前記複動シリンダ装置の内圧を変更する流動体調圧器が配設された構成であって、前記流動体調圧器は、所定圧の一次圧が印加される一次圧用ポートと、平衡アーム部材に対する回動アーム部材の回動角度の変化に対応して増減される二次圧を出力する二次圧用ポートとを具備し、さらに該二次圧用ポートが前記複動シリンダ装置の内部と連通されて二次圧が複動シリンダ装置内に印加されるようにしたものであり、回動アーム部材が回動してワーク側のモーメントが変化すると、回動アーム部材の回動に伴い二次圧が所要の圧力に調圧され、かつ該二次圧の変化に伴い複動シリンダ装置の内圧が変更されてピストンロッドが進退制御されることにより、左右のモーメントを一致させるようにしたものであることを特徴とするワーク移送用バランサ装置である。
【0009】
かかる構成は、回動アーム部材が回動連結部を中心に回動することによりワーク側のモーメントが変化する構成を前提とするものであって、この回動連結部に、ワーク側のモーメントの変化に基づき複動シリンダ装置を内圧制御する流動体調圧器を設けて左右のモーメントを再度釣り合わせるようにしたことを特徴としている。例えば、回動アーム部材が回動してワーク側のモーメントが減少した場合、当該回動アーム部材の回動に伴い二次圧が所要圧に変更される。この二次圧は、減少したワーク側のモーメントと釣り合うモーメントを発生させるピストンロッドの推力を生成すべく適正圧に調圧される。そうすると、回動アーム部材が回動してワーク側のモーメントが減少しても、複動シリンダ装置のロッド側室又はヘッド側室に適正な二次圧が印加されて、改めて左右のモーメントが釣り合うようにピストンロッドが進退制御されることとなる。すなわち、ワーク側のモーメントが変化しても、これに対応して複動シリンダ装置側のモーメントも釣り合うように適正に変化するため、移送中のワークが意図せず上昇又は下降してしまうことがない。
【0010】
上記構成にあって、前記流動体調圧器は、回動アーム部材に連動して進退動作する進退部材を備え、二次圧が前記進退部材の移動量に対応して増減されるものであると共に、回動アーム部材が回動してワーク側のモーメントが変化すると、回動アーム部材の回動角度に比例して進退部材が進退し、かつ当該進退部材の進退動作に基づき二次圧が所要の圧力に調圧されるものである構成が提案される。
【0011】
かかる構成は、回動アーム部材の回動に伴い進退する進退部材を回動連結部に設け、その進退部材の挙動と当該調圧器に係る二次圧の調圧とを対応させると共に、該二次圧を二次圧用ポートを介して複動シリンダ装置に印加するようにしたものである。なお、進退部材は、回動アーム部材の回動軸に沿って進退するように構成することができる。
【0012】
さらに、上記の構成にあって、回動アーム部材には、カムが配設されていると共に、流動体調圧器の進退部材が、前記カムと当接し、回動アーム部材の回動に伴うカムの回転により連動する構成が提案される。
【0013】
かかる構成とすることにより、公知技術を用いた簡易かつコンパクトな構造で回動アーム部材の回動を進退部材に正確に伝達させて、回動アーム部材と進退部材とを連動させることが可能となる。なお、進退部材の進退動作は、前記カムのカム曲線を適宜規定することにより制御することができる。
【0014】
さらに、流動体調圧器は、可撓性ダイヤフラムにより内部が二つの空室に区画され、一側の空室に第一空部と第二空部とが配置され、他側の空室に第三空部が配置されてなり、かつ、前記第一空部に連通す一次圧用ポートと、前記第二空部に連通する二次圧用ポートと、前記第三空部に連通する排出用ポートとを備えた装置外筐体を具備し、かつ、進退部材が杆材で構成されてその先端が回動アーム部材のカムと当接し、末端が前記可撓性ダイヤフラムと連結されたものであると共に、可撓性ダイヤフラムに隣接して配置され、前記第一空部と第二空部とを非連通とする第一動作位置と、第一空部と第二空部とを連通する第二動作位置とに選択的に位置変換され、かつ前記可撓性ダイヤフラムに貫通状に形成された連通孔に臨ませてなる遮閉用突部を具備する移動弁を備え、回動アーム部材が回動してワーク側のモーメントが変化すると、当該回動アーム部材の回動に基づき流動体調圧器の進退部材が進退し、該進退部材に連動して可撓性ダイヤフラムが一側へ撓んで移動弁に近接し、可撓性ダイヤフラムの連通孔に移動弁の遮蔽用突部が挿通して連通孔が遮閉され、かつ当該移動弁が第二動作位置とされて第一空部と第二空部のみが連通することにより二次圧が増大する二次圧上昇状態、又は、可撓性ダイヤフラムが他側へ撓んで移動弁と離間することにより連通孔が開放され、かつ当該移動弁が第一動作位置とされて第二空部と排出用ポートを介して外界と連通する第三空部のみが連通することにより二次圧が減少する二次圧下降状態となって、二次圧が変化するようにした構成が提案される。
【0015】
かかる構成とすることにより、公知技術を用いた簡易かつコンパクトな構造で複動シリンダ装置に印加する二次圧を変更することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るワーク移送用バランサ装置は、二次圧が複動シリンダ装置内に印加されるようにした流動体調圧器を回動連結部に配設したため、回動アーム部材が回動してワーク側のモーメントが変化した場合でも、当該回動アーム部材の回動に伴い複動シリンダ装置の内圧を変更して新たに左右のモーメントを釣り合いの状態とすることができる。これにより、移送中のワークが意図せず上昇又は下降してしまうことが回避され、ワークの停止精度が向上する優れた効果を奏する。
【0017】
また、回動アーム部材に連動して進退動作する進退部材を備えた構成とした場合は、進退部材の移動量と二次圧の変化量とを対応させることにより、正確に二次圧を調圧して精度の高い複動シリンダ装置の内圧制御が可能となる効果がある。
【0018】
また、上記構成にあって、回動アーム部材にカムを設け、カムの回転によって進退部材を進退させる構成とした場合は、公知技術を用いた簡易かつコンパクトな構造でコストを抑えつつ回動アーム部材と進退部材とを正確に連動させることができる利点がある。
【0019】
さらに、流動体調圧器を可撓性ダイヤフラム等を具備する構成とした場合は、公知技術を用いた簡易かつコンパクトな構造でコストを抑えつつ二次圧を変化させることができる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明に係るワーク移送用バランサ装置1(以下、適宜、バランサ装置1という。)の実施例を添付図面に従って説明する。なお、本実施例のバランサ装置1は、工場の生産ラインに設置されるものであり、これを用いることにより、作業者が小さな操作力を発揮するだけで重量の大きいワークWを所望位置に移動させることができる。
【0021】
図1に示すように、バランサ装置1は工場内の天井や梁に取り付けられるものであり、具体的には、後述の複動シリンダ装置17が縦向きに収納された装置本体3が公知の固定手段により天井等から吊り下げられている。さらに、装置本体3の側部には、ほぼ水平状に平衡アーム部材4が連結され、さらにこの平衡アーム部材4には、回動連結部8を介して回動アーム部材5が連結されている。ここで、この回動アーム部材5は、回動連結部8を中心にして水平方向で回動可能となっている。
【0022】
また、回動アーム部材5の先端には、連結部9が配設されていると共に、該連結部9に鉛直方向の棒状ワーク保持部材6が配設されている。なお、このワーク保持部材6の先端には、公知の保持治具10が装着されており、この保持治具10により移送対象のワークWが保持される。なお、本実施例の平衡アーム部材4は、平行クランク機構を採用した二部材構成となっている。かかる構成の詳細は公知技術であるため説明を省略する。
【0023】
次に、バランサ装置1の作動原理について、簡単に説明する。
図2aに示すように、装置本体3には、エアーにより内圧制御される複動シリンダ装置17が縦向きに収納されている。この複動シリンダ装置17は、公知のものが採用され、進退動作するピストンロッド18が鉛直下向きに配置されている。また、装置本体3は、支点15を備え、この支点15で平衡アーム部材4を傾動可能に支持している。そしてさらに、前記ピストンロッド18の先端と平衡アーム部材4の末端4aとが連結されている。
【0024】
かかる構成にあって、複動シリンダ装置17のヘッド側室19に空気圧が印加されると、ピストンロッド18が下降して平衡アーム部材4が支点15を中心にして図2において右側に傾動する。そうすると、平衡アーム部材4に連結された回動アーム部材5が持ち上げられ、その先端で保持されるワークWの重量が見かけ上軽減されることとなる。これにより、ワークWの移送が容易となる。
【0025】
ところで、回動アーム部材5は、回動連結部8に設定された回動軸kを中心にして水平方向で回動するため、この回動アーム部材5が回動するとワークWと支点15との離間距離が変化し、ワークW側に生じるモーメントが変化する。例えば、図2a及び図3aに示すように、平衡アーム部材4と回動アーム部材5とが一直線(回動角度α=0)となっている状態と、図2b及び図3bに示すように、回動アーム部材5が平衡アーム部材4に対して回動角度α(≠0)となるように位置した状態とでは、左右のモーメントバランスが異なってくる。
【0026】
具体的に、図2a及び図3aに示す場合(回動角度α=0)は、次式が成立することにより、左右のモーメントが釣り合う。
W(La+Lb)=Ls・F1
W:ワークWの質量
La:回動アーム部材5の長さ
Lb:平衡アーム部材4の先端から支点15までの長さ
Ls:支点15から平衡アーム部材4の末端4aまでの長さ
F1:ピストンロッド18の押圧力
【0027】
これに対し、図2b及び図3bに示す場合(回動角度α≠0)は、次式が成立することにより、左右のモーメントが釣り合う。
W(La’+Lb)=Ls・F2
W:ワークWの質量
La’:回動アーム部材5の有効長さ(=La・cosα)
La:回動アーム部材5の長さ
Lb:平衡アーム部材4の先端から支点15までの距離
Ls:支点15から平衡アーム部材4の末端4aまでの距離
F2:ピストンロッド18の押圧力
【0028】
ここで、本発明に係るバランサ装置1は、回動角度αが変化してワークW側のモーメントが変化すると、それに伴ってピストンロッド18の押圧力を変化させる(F1→F2)ことを特徴としている。このピストンロッド18の押圧力を変化させる構成、すなわち複動シリンダ装置17の内圧制御の内容については、本発明の要部であるため、以下詳述する。
【0029】
まず、回動連結部8の詳細を説明する。
図4、図5に示すように、回動連結部8は、上端が開口した有底容器形状のカバー体13を備えている。なお、このカバー体13の側面(図4,5において右側面)には、平衡アーム部材4の先端が上下に回動可能に取り付けられている。
【0030】
また、カバー体13の上端には、ベアリング機構27によって構成される回転テーブル22が当該カバー体13の開口を覆うようにして配設されている。かかる構成により、円板形状で上面を水平面とした回転テーブル22が、鉛直方向の回動軸k周りに回転する。なお、この回転テーブル22の中心部位には、上下に貫通する貫通口23が開口している。
【0031】
一方、カバー体13内には、エアー調圧器20(流動体調圧器)が収納されている。このエアー調圧器20は、径大の胴部56と、胴部56上に位置した径小の首部57とからなる装置外筐体24を有し、その首部57からは、昇降可能に保持された杆材からなるステム26(進退部材)が上方突出している。このステム26は、後述する調圧スプリングバネ55により上方に付勢されている。
【0032】
さらに、エアー調圧器20の首部57周囲であって回転テーブル22の貫通口23内には、上下に開口した貫通孔47が中央に配されたローラーホルダー30が当該首部57に対して昇降可能に配設されている。さらに詳述すると、このローラーホルダー30は、その下端に内向きの嵌合部36が延出され、かつこの嵌合部36の内周面に上下方向のキー溝(隠れて見えない)が形成され、このキー溝が首部57の外周面に設けられた上下方向の係合溝58と係合することにより昇降可能に保持されている。これにより、ローラーホルダー30は、首部57に対して水平方向への回転が阻止されつつ、上下動が許容されている。
【0033】
また、ローラーホルダー30の頂上面には、一対のカムローラー33,33が回転可能に軸支されている。この対置された両カムローラー33,33は、それぞれ円板形状の車輪により構成され、後述するカム45と当接しながら支軸49を中心に回転する。
【0034】
さらに、ローラーホルダー30とエアー調圧器20の装置外筐体24との間には、スプリングバネ41が装着されている。このスプリングバネ41は、ローラーホルダー30の下半部とエアー調圧器20の首部57とを囲繞するようにして装着されており、これにより、ローラーホルダー30はエアー調圧器20に対して常時上方に付勢されている。
【0035】
また、上記回転テーブル22の上面には、鉛直上方に起立したリニアローラーガイド42(図5参照)が固定されている。さらに詳述すると、このリニアローラーガイド42は、昇降部43と固定具48により回転テーブル22に固結された起立ガイド部44とで構成されており、この起立ガイド部44に沿って昇降部43が昇降するものである。
【0036】
さらに、前記昇降部43には、回動アーム部材5の末端が所定の固定手段(例えばねじ又は接着剤を用いた公知の接合手段)により固定されている。したがって、回動アーム部材5は、回転テーブル22が回転すると、リニアローラーガイド42によって上下動可能に水平支持されてローラーホルダー30上で回動することとなる(図4,5参照)。
【0037】
さらに、回動アーム部材5の根元部の下面であって、回転テーブル22の貫通口23上に臨む位置には、下面が所定のカム曲線により規定された曲面で構成されるカム45が所定の固定手段(例えばねじ又は接着剤を用いた公知の接合手段)により固結されている。換言すれば、カム45は、回動軸kを中心にして回動アーム部材5と一体となって回転する。そして、ワークWの自重がリニアローラーガイド42に伝達されて、前記カム45は、上方付勢されたステム26とカムローラー33,33とに、強く押し付けられて相互に接触している。
【0038】
かかる構成にあって、回動アーム部材5が回動すると、これに伴いカム45も回転し、そのカム曲線に倣ってステム26が上下方向に連動し、昇降動作することとなる。このとき、カムローラー33は、スプリングバネ41の付勢力により、回転するカム45に対して強く接触して支軸49を中心に回転する。また、回動中の回動アーム部材5は、リニアローラーガイド42の昇降機構により、回転テーブル22に対して上下動もする。
【0039】
次に、図6,7に従って、エアー調圧器20について説明する。
エアー調圧器20は、上述のように装置外筐体24を具備し、その首部57には、内周に公知のブッシュ37が装填されて、杆材であるステム26が昇降可能に保持されている。
【0040】
また、この装置外筐体24のほぼ中腹には、内部を上下二つの空室に区画形成する可撓性ダイヤフラム65が配設されている。なお、可撓性ダイヤフラム65によって区画される二つの空室のうち、上側の上側空室66には、外界と連通する排出用ポート63が設けられている。
【0041】
また、この可撓性ダイヤフラム65の中央には、貫通状に固定具71が取り付けられている。この固定具71には、上下方向の連通孔72が形成されていると共に、可撓性ダイヤフラム65の上面に面接触する薄板の支持板73が嵌め込み状に固定されている。さらに、固定具71の外周であって支持板73の上面には、縦方向の調圧スプリングバネ55が外嵌されていると共に、その調圧スプリングバネ55の上端に、傘形状のステム受部材51が乗載されている。具体的には、ステム受部材51の下方突出部53が調圧スプリングバネ55の上端に内嵌されている。また、ステム受部材51の頂部には、受皿状の凹部52が設けられ、この凹部52にステム26の下端が配置されている。これにより、ステム26と可撓性ダイヤフラム65とが連結されて連動することとなる。
【0042】
一方、下側の下側空室67であって可撓性ダイヤフラム65に隣接する位置に、上下動して第一動作位置α(図6参照)と第二動作位置β(図7参照)とに位置変換される移動弁78が配設されている。この移動弁78は、その上端がニードル形の尖頭部83とされた上下方向の基軸79と、基軸79を中心に上下二段で貫通状に固定された、板片形状の上側幅広遮閉板80と、下側幅広遮閉板81とが固定されている。
【0043】
さらに、上側幅広遮閉板80と装置外筐体24の内底壁との間には、複数のスプリングバネ95(弁バネ)が配設され、移動弁78が鉛直上方に付勢されるように構成されている。なお、前記尖頭部83により、いわゆるブリード弁が構成され、本発明に係る遮蔽用突部が構成される。
【0044】
さらに詳述すると、装置外筐体24の下側空室67には、公知の空気圧供給装置21により所定圧の一次圧が印加される一次圧用ポート61と、適宜に調圧される二次圧を出力する二次圧用ポート62とが配設されている。さらに、下側空室67にはいくつかの遮断壁が設けられて空気流通路が形成されている。具体的には、可撓性ダイヤフラム65近傍位置で垂下する環状垂下壁部91と、内底壁から起立した環状起立壁部92とが設けられている。
【0045】
かかる構成にあって、環状起立壁部92によって囲まれた内空隙には移動弁78の下側幅広遮閉板81が昇降可能に内嵌されている。なお、下側幅広遮閉板81は、公知の気密手段(例えばパッキン)により、気流漏れが防止されている。
【0046】
そして、前記の両壁部91,92、及び移動弁78により、下側空室67には、一次圧用ポート61が臨む第一空部86と、二次圧用ポート62が臨む第二空部87とに区分され、さらに、環状垂下壁部91に囲まれた空隙が、第一空部86と第二空部87とを連通する上側流路94とされている。なお、環状起立壁部92に囲まれた内空隙は、装置外筐体24の底部に形成された下側流路93により、第二空部87と連通している。ところで、上側空室66には、排出用ポート63が臨む第三空部88が配置される。
【0047】
これまでに述べた移動弁78について、簡単に動作説明する。
移動弁78は、スプリングバネ95により上方付勢されているところ、上側幅広遮閉部80の上面が環状垂下壁部91と当接する位置で上昇停止する。この位置を移動弁78の第一動作位置αとしている。なお、この第一動作位置αにあっては、上側流路94が不通となるため、第一空部86と第二空部87とが気密的に遮閉状態(非連通)とされる。換言すれば、環状垂下壁部91が移動弁78の弁座として機能している。
【0048】
一方、移動弁78がスプリングバネ95の付勢力に抗して下降すると、上側幅広遮閉部80の上面が環状垂下壁部91と離間する。この位置を移動弁78の第二動作位置βとしている。なお、この第二動作位置βにあっては、上側流路94が開通するため、第一空部86と第二空部87とが連通状態となる。
【0049】
次に、本バランサ装置1の作動態様を説明する。
図2a、図3aに示すような平衡アーム部材4と回動アーム部材5とが一直線状にある状態(すなわち回動角度α=0°)から、図2b,図3bに示すような回動アーム部材5が回動した状態(すなわち回動角度α≠0°)となると、この回動アーム部材5の回動動作に伴いカム45が回転し、そのカム曲面におけるくぼみ部を適正位置に配して、図4に示すように調圧スプリングバネ55の付勢力に従ってステム26を上昇させる。そうすると、図6に示すように、エアー調圧器20の可撓性ダイヤフラム65に作用する下方への押圧力が減少し、可撓性ダイヤフラム65が上方に撓むこととなる。
【0050】
このように可撓性ダイヤフラム65が上方に撓むと、固定具71も連動して上方に偏位し、さらにこの固定具71が退避したスペースに、その直下に配置された移動弁78が、スプリングバネ95の上方付勢に従って上昇し位置される。なお、この移動弁78は、上側幅広遮閉部80の上面が環状垂下壁部91と当接する位置で上昇停止して第一動作位置αに位置変換される。なお、かかる移動弁78の位置にあっては、第一空部86と第二空部87とが気密的に遮閉状態とされると共に、この位置で移動弁78の上端と、上側に偏位した固定具71とが離間するように寸法設計されているため、固定具71の連通孔72が開放され、第二空部87と第三空部88のみが連通状態となる。
【0051】
かかる状態にあっては、第一空部86と第二空部87とが遮断されることにより、一次圧用ポート61から二次圧用ポート62への気流が遮断されると共に、第二空部87と第三空部88とが連通することにより、複動シリンダ装置17のヘッド側室19から二次圧用ポート62を介して第二空部87への気流が形成され、さらに、第二空部87から固定具71の連通孔72を介して第三空部88へ流動し、排出用ポート63を介して外界に排気される(二次圧下降状態)。
【0052】
すなわち、複動シリンダ装置17のヘッド側室19が低圧化してピストンロッド18の下方への押圧力が低減され、複動シリンダ装置17側に生じるモーメントが減少することとなる。ここで、複動シリンダ装置17側で新たに生じるモーメントは、前記カム45の曲線、配設位置、装置外筐体24等の容積等を適宜に設計変更し、回動アーム部材5の回動角度αに比例してステム26の移動量を定め、さらにその移動量に応じて、減少したワークW側のモーメントと新たな複動シリンダ装置17側のモーメントとが等しくなるような二次圧となるように装置設計される。
【0053】
一方、回動アーム部材5が回動してワークW側のモーメントが増大すると、この回動アーム部材5の回動に伴いカム45が連動し、そのカム曲面の出っ張り部を適正位置に配して、図5に示すように、調圧スプリングバネ55の付勢力に抗してステム26を下降させる。そうすると、図7に示すように、エアー調圧器20の可撓性ダイヤフラム65も押し下げられ、下方に撓むこととなる。
【0054】
このように可撓性ダイヤフラム65が下方に撓むと、固定具71の連通孔72に移動弁78の尖頭部83が挿通され、さらに移動弁78もスプリングバネ95の付勢力に抗して下方に押し下げることとなる。そうすると、移動弁78の上側幅広遮閉部80と環状垂下壁部91とが離間して第二動作位置βに位置変換され、上側流路94が開通することにより第一空部86と第二空部87とが連通状態となる。また、前記のように、固定具71の連通孔72が遮閉されるため、第二空部87と第三空部88とが遮断されることとなる。
【0055】
かかる状態にあっては、第一空部86と第二空部87とが連通することにより、一次圧用ポート61から二次圧用ポート62への気流が形成され、二次圧が上昇することとなる(二次圧上昇状態)。すなわち、複動シリンダ装置17のヘッド側室19が高圧化してピストンロッド18の下方への押圧力が増大し、複動シリンダ装置17側のモーメントが増大する。これにより、増大したワークW側のモーメントと釣り合いが保たれることとなる。なお、この二次圧上昇状態にあっても、複動シリンダ装置17側で新たに生じるモーメントは、前記カム45の曲線、配設位置、装置外筐体24等の容積等を適宜に設計変更し、回動アーム部材5の回動角度αに比例してステム26の移動量を定め、さらにその移動量に応じて、増大したワークW側のモーメントと新たな複動シリンダ装置17側のモーメントとが等しくなるような二次圧となるように装置設計される。
【0056】
以下、バランサ装置1の作動原理について、再度説明する。
回動アーム部材5の回動角度αがα=0の場合は、次式が成立している。
W(La+Lb)=Ls・F1 (1)
W:ワークWの質量
La:回動アーム部材5の長さ
Lb:平衡アーム部材4の先端から支点15までの長さ
Ls:支点15から平衡アーム部材4の末端4aまでの長さ
F1:ピストンロッド18の押圧力
【0057】
また、回動アーム部材5の回動角度αがα≠0の場合は、次式が成立している。
W(La’+Lb)=Ls・F2 (2)
La’:回動アーム部材5の有効長さ(=La・cosα)
F2:ピストンロッド18の押圧力
【0058】
したがって、回動アーム部材5の回動により、ピストンロッド18の押圧力がF1からF2に変化する(F1>F2)。
【0059】
ここで、ピストンロッド18の押圧力F(F1,F2)は、次式となる。
F=(π/4)・D2・P2
D:シリンダ受圧径(図2参照)
P2:二次圧
したがって、上記F1とF2について、それぞれ次式が成立する。
F1=(π/4)・D2・P21 (3)
F2=(π/4)・D2・P22 (4)
P21:α=0の場合の二次圧
P22:α≠0の場合の二次圧
【0060】
ここで、F1>F2であるから、P21>P22でなければならない。そこで、複動シリンダ装置17は、二次圧をP21からP22へ減圧して内圧制御されなければならない。
【0061】
また、ステム26について、次のような関係が成立する。
エアー調圧器20のステム26に荷重Wが負荷されたとすると、次式が成立する。
W=k・x (5)
k:調圧スプリングバネ55のバネ定数
x:ステム26の移動量
【0062】
質量Wのとき二次圧P21で釣り合い状態とし、この状態からステム26をΔxだけ上方へ変位させたとすると、調圧スプリングバネ55はk・Δxだけ反力が減ぜられる。そのときにバランスする二次圧をP22とする。また、可撓性ダイヤフラム65の有効受圧径をDpとすると、次式が成立する。
W=k・x=(π/4)・Dp2・P21 (6)
k・x−k・Δx=(π/4)・Dp2・P22 (7)
(4)−(5)
k・Δx=(π/4)・Dp2・P21−(π/4)・Dp2・P22
【0063】
よって、P22について、次式が成立する。
P22=P21−(4/π)・(1/Dp2)・k・Δx (8)
【0064】
次に、カム曲線を特定する。
まず、(1)−(2)より、
W・La(1−cosα)=(F1−F2)・Ls (9)
ここで、(3),(4)より、
F1−F2=(π/4)・D2・(P21−P22) (10)
であるから、
W・La(1−cosα)=(π/4)・D2・(P21−P22)・Ls
よって、
P21−P22={(W(1−cosα))/((π/4)・D2 )}・(La/Ls)
さらに、これに(5)を代入して、
P21−P22={(k・x(1−cosα))/((π/4)・D2 )}・(La/Ls)
【0065】
さらにここで、k、La、Ls、(π/4)・D2 は構造上不変であるから
{k/((π/4)・D2 )}・(La/Ls)=Cとすると、
P21−P22=x(1−cosα)・C (11)
となる。
【0066】
すなわち、カム曲線は、(1−cosα)の形状とすれば良い。
【0067】
なお、前記エアー調圧器20により、本発明に係る流動体調圧器が構成される。
【0068】
ところで、これまでに述べた構成にあっては、便宜上、上下左右方向を規定して順次説明したが、本発明はその構成や作動方向に限定されるものではない。また、本発明は、上記実施例に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない限り、適宜変更可能である。例えば、エアー調圧器20の二次圧をヘッド側室に印加して、適宜シリンダ装置17側のモーメントをワークW側のモーメントと一致させるように当該シリンダ装置17を内圧制御するようにしても良い。また、シリンダ装置17の装置本体3内での配置も適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】バランサ装置1の外観図である。
【図2】バランサ装置1の概念側面図であって、(a)は回動アーム部材5の回動角度αがα=0で、(b)はα≠0の場合を示している。
【図3】支点15を基準にして釣り合う左右のモーメントを示すバランサ装置1の概念平面図であって、(a)は回動アーム部材5の回動角度αがα=0で、(b)はα≠0の場合を示している。
【図4】ステム26が上昇した際の回動連結部8の縦断面図である。
【図5】ステム26が下降した際の回動連結部8の縦断面図である。
【図6】ステム26が上昇した際のエアー調圧器20の縦断面図である。
【図7】ステム26が下降した際のエアー調圧器20の縦断面図である。
【符号の説明】
【0070】
1 ワーク移送用バランサ装置
4 平衡アーム部材
5 回動アーム部材
8 回動連結部
15 支点
17 複動シリンダ装置
18 ピストンロッド
20 エアー調圧器(流動体調圧器)
24 装置外筐体
26 進退部材
45 カム
61 一次圧用ポート
62 二次圧用ポート
63 排出用ポート
65 可撓性ダイヤフラム
66 上側空室
67 下側空室
72 連通孔
78 移動弁
83 尖頭部(遮閉用突部)
86 第一空部
87 第二空部
88 第三空部
W ワーク
α 回動角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支点を中心にして傾動する平衡アーム部材の一端に、内圧制御されることによりピストンロッドが進退制御される複動シリンダ装置の、そのピストンロッドの先端が接続され、他端に、ワークが先端に取り付けられる回動アーム部材の末端が回動可能に連結されてなり、前記ピストンロッドが進退制御されて前記支点の両側で生ずる左右のモーメントを釣り合せることにより、前記ワークを持ち上げて当該ワークの移送作業を容易とするワーク移送用バランサ装置において、
平衡アーム部材と回動アーム部材とが連結する回動連結部に、回動アーム部材の回動に従って前記複動シリンダ装置の内圧を変更する流動体調圧器が配設された構成であって、
前記流動体調圧器は、
所定圧の一次圧が印加される一次圧用ポートと、平衡アーム部材に対する回動アーム部材の回動角度の変化に対応して増減される二次圧を出力する二次圧用ポートとを具備し、さらに該二次圧用ポートが前記複動シリンダ装置の内部と連通されて二次圧が複動シリンダ装置内に印加されるようにしたものであり、
回動アーム部材が回動してワーク側のモーメントが変化すると、回動アーム部材の回動に伴い二次圧が所要の圧力に調圧され、かつ該二次圧の変化に伴い複動シリンダ装置の内圧が変更されてピストンロッドが進退制御されることにより、左右のモーメントを一致させるようにしたものであることを特徴とするワーク移送用バランサ装置。
【請求項2】
前記流動体調圧器は、回動アーム部材に連動して進退動作する進退部材を備え、二次圧が前記進退部材の移動量に対応して増減されるものであると共に、
回動アーム部材が回動してワーク側のモーメントが変化すると、回動アーム部材の回動角度に比例して進退部材が進退し、かつ当該進退部材の進退動作に基づき二次圧が所要の圧力に調圧されるものであることを特徴とする請求項1記載のワーク移送用バランサ装置。
【請求項3】
回動アーム部材には、カムが配設されていると共に、
流動体調圧器の進退部材が、前記カムと当接し、回動アーム部材の回動に伴うカムの回転により連動するものであることを特徴とする請求項2記載のワーク移送用バランサ装置。
【請求項4】
流動体調圧器は、
可撓性ダイヤフラムにより内部が二つの空室に区画され、一側の空室に第一空部と第二空部とが配置され、他側の空室に第三空部が配置されてなり、かつ、前記第一空部に連通す一次圧用ポートと、前記第二空部に連通する二次圧用ポートと、前記第三空部に連通する排出用ポートとを備えた装置外筐体を具備し、かつ、進退部材が杆材で構成されてその先端が回動アーム部材のカムと当接し、末端が前記可撓性ダイヤフラムと連結されたものであると共に、
可撓性ダイヤフラムに隣接して配置され、前記第一空部と第二空部とを非連通とする第一動作位置と、第一空部と第二空部とを連通する第二動作位置とに選択的に位置変換され、かつ前記可撓性ダイヤフラムに貫通状に形成された連通孔に臨ませてなる遮閉用突部を具備する移動弁を備え、
回動アーム部材が回動してワーク側のモーメントが変化すると、
当該回動アーム部材の回動に基づき流動体調圧器の進退部材が進退し、該進退部材に連動して可撓性ダイヤフラムが一側へ撓んで移動弁に近接し、可撓性ダイヤフラムの連通孔に移動弁の遮蔽用突部が挿通して連通孔が遮閉され、かつ当該移動弁が第二動作位置とされて第一空部と第二空部のみが連通することにより二次圧が増大する二次圧上昇状態、又は、可撓性ダイヤフラムが他側へ撓んで移動弁と離間することにより連通孔が開放され、かつ当該移動弁が第一動作位置とされて第二空部と排出用ポートを介して外界と連通する第三空部のみが連通することにより二次圧が減少する二次圧下降状態となって、二次圧が変化するものであることを特徴とする請求項3記載のワーク移送用バランサ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−62186(P2009−62186A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−233718(P2007−233718)
【出願日】平成19年9月10日(2007.9.10)
【出願人】(504192759)株式会社アイ・アンド・ティー (13)
【出願人】(594133456)株式会社アラキ製作所 (8)