説明

一成分自己エッチング接着材

簡単な1回塗りの施用で、別途の酸エッチング、下塗り事前処理、または接着工程を必要とせずに、接着性能などの向上した性能を有する、単一要素自己エッチング歯科用接着材。本発明は、酸安定性光開始系と合わせた系のpHバランス機能によって、かかる向上を提供する。より詳細には、この性能およびpHバランスは、加水分解安定性で酸性の高強度接着材モノマー(PENTAなど)を、より多くの架橋結合をもたらす、安定で二官能性の親水性モノマー(AHPMAなど)と共に採用することによって達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2004年10月14日出願の米国仮出願第60/618649号の利益を主張するものである。
【0002】
簡単な1回塗り施用で、別途の酸エッチング、下塗り事前処理、または接着工程を必要とせずに、接着性能などの向上した性能を有する、単一要素自己エッチング歯科用接着材。本発明は、酸安定性光開始系と合わせた系のpHバランス機能によって、そのような向上を提供する。より詳細には、この性能およびpHバランスは、加水分解安定性で酸性の高強度接着材モノマー(PENTAなど)を、より多くの架橋結合をもたらす、安定で二官能性の親水性モノマー(AHPMAなど)と共に採用することによって達成される。
【背景技術】
【0003】
通常、全体エッチ接着材を使用する歯科用コンポジット修復の手順は、リン酸を使用して歯を酸エッチングすることに続く水リンスおよび乾燥を必要とする。続いて、プライマーを塗布し乾燥し、続いて接着材を塗布し、これを光硬化させる。最後に、コンポジット修復を施し、硬化し、研磨する。全体として、歯科修復を完了するためには多くの工程がある。残念ながら、工程が追加されるごとに工程はより難しくなり、失敗のリスクが増える。全体として、このプロジェクトの主要な目標は、歯科用接着材の塗布に付随する工程の数を減らすことである。
【0004】
この目標を完遂するために、下塗りおよび接着のために使用するいくつかの成分が合わせられて、Prime & Bond(登録商標)ブランドの接着材(Dentsply)に例示されるように、1つのボトルに入れられた。しかし、エッチングは、依然としてこの単一成分下塗りの応用および硬化の前に行わなければならない。このプロセスは、下塗りとエッチングを合わせて一成分自己エッチング系にすることによってさらに簡単になる。たとえば、ClearFil SE Bond(クラレ)は、2成分の系であり、自己エッチング・プライマーおよび接着液からなる。この2工程の系においては、自己エッチング・プライマーを塗布し、続いて接着材を塗布する。
【0005】
ClearFil SE Bondは、直接光硬化コンポジット修復接着用のみに指示されている。間接修復接着のために、クラレはClearFil Liner Bond 2Vを推奨しており、これは多成分(プライマーAおよびB、接着液AおよびB)であり、自己エッチング接着材系のためには複数工程の塗布が必要である。
【0006】
同様に、Adper Prompt L−Pop(3M ESPE)、2成分/1パック/1工程の自己エッチング・下塗り接着材は、2つの液体AおよびBのための2つの事前投与区画からなる、単位付与量ブリスター・パッケージで供給される。Prompt L−Popは、直接光硬化コンポジット修復接着用にのみ指示されている。
【0007】
L.D.Caulkで開発された1P−SEA製品は、エッチング、下塗りおよび接着成分を、単一成分ボトルまたは単位付与量パッケージに組み込むことによって歯科用接着材施用の技法をさらに簡略化している。より詳細には、施用の技法が、先に記載した一連の複雑な事象から、塗布、乾燥および硬化に縮小されている。Caulkの1P−SEAは、現在販売されている唯一の単一成分自己エッチング接着材(i−Bond Heraeus Kulzer)とは、化学(好ましい配合および原料範囲については表1を参照されたい)および性能(表2〜7を参照されたい)によって差別化されている。これは、i−Bondに優り、歯科市場で入手可能な主要な2成分系に匹敵する性能(微小な漏洩およびせん断接着強度)を示す。
【0008】
K.Hinoの米国特許第6387979号(クラレ、日本)、2002年5月14日発行を参照。
【0009】
要約:酸基を有する重合可能な化合物、水溶性のフィルム形成剤、水、および硬化剤の混合物(前記酸のカルシウム塩は水に不溶であり、フィルム形成剤は生理食塩水と混和性で重合可能な化合物である)を含み、高い初期接着強度および良好な接着耐久性を有する接着組成物を用いて処理された歯は、酸エッチングまたは下塗り処理などの事前処理を必要としない。
【特許文献1】米国仮出願第60/618649号
【特許文献2】米国特許第6387979号
【特許文献3】米国特許第6372816号
【特許文献4】米国特許出願第10/668946号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本特許は、単一包装中の組成物の有効成分が、貯蔵の間に分解または重合することがあることを述べるものである。これを防止するためには、組成物の構成成分を2つ以上の要素に分ければよい。複数の要素は、別々に包装し、異なる包装中で貯蔵する。これらの使用のためには、個々の包装から取り出した複数の要素を、1つの同じ対象に次々と施用することができ、あるいはこれらは使用の直前にブレンドして1つの混合物にすることができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による1P−SEA材料は、簡単な1回塗りの施用で、歯科用リン酸ゲルを使用する必要なく、良好な接着性能を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明による一成分可視光硬化自己エッチング接着材(1P−SEA)については、別途に酸エッチングまたは下塗り前処理歯接着工程の必要なく、VLCコンポジット/コンポマー直接修復材をヒト歯基材(エナメル質および象牙質)に接着することが指示されている。別の自己硬化活性化剤成分と共に使用されると、この1P−SEAは、セメントで固定された間接修復物(あらかじめ加工された金属/磁器/コンポジットのインレー/オンレー/ベニア/クラウン/ブリッジ)に対しても別途の酸エッチングまたは下塗りの事前処理工程なしでヒト歯基材(エナメル質および象牙質)に接着することができる。加えて、1P−SEAは窩洞ワニスとしても使用することができる。
【0013】
【表1】

【0014】
物理的性質および特徴
ボトル入りおよび単位付与量パッケージ入りの真の一成分自己エッチング接着材
施用前の混合またはリンス不要
1回塗り/1工程、簡単かつ健全な技法
VLC直接接着強度はXeno IIIおよび他の2成分競合品と同等またはそれ以上
間接接着強度(別々のSCA成分と共に使用した場合)はP&B NT/SCA Dual Cure接着材の強度と同等
薄いフィルム(<15μm)
フッ化物放出性
微小な漏洩、少なくとも現用のP&B NTの系およびXeno IIIの系と同様に良好
競合製品との比較
1P−SEAおよび他の歯科用接着材について、熱サイクル前後のIn Vitroのせん断接着強度を試験した。データは、表2、3、4および7に示す。7種類の歯科用接着材を選択した。1P−SEA(Dentsply)、Xeno III(Dentsply)、Prime & Bond NT(P&B NT、Dentsply)、Prompt L−Pop(L−Pop、3M ESPE)、ClearFil SE Bond(SE、クラレ)、One−up Bond F(OBF、Tokuyama)、i−Bond(1B、Heraeus Kulzer)。
【0015】
【表2】

【0016】
【表3】

【0017】
【表4】

【0018】
一般に、先の接着データおよびグラフは、この1P−SEA試作品が、現在市販されている主要な2成分の自己エッチング接着材製品に匹敵する性能を示すことを表している。
【0019】
この単一成分の自己エッチング接着材(1P−SEA)試作品は、既存の市販自己エッチング接着材製品に対する改良を実証している。この新規の自己エッチング接着材料は、簡単な1回塗りの施用で良好な接着性能を達成し、別途の酸エッチング、下塗り前処理、または接着工程は必要がない。
【0020】
1P−SEAは、単一包装(ボトルまたは単一単位付与量)中に収容されている光硬化自己エッチング接着材であり、象牙質および/またはエナメル質の表面に施用して直接光硬化コンポジット修復物を接着する。この1P−SEAは、組成物の分解または重合を避けるために組成物の有効成分を2つ以上の要素に分けている(異なる包装中に)先行技術から容易に区別することができる。この1P−SEAは、競争力のある自己エッチング接着性能を提供するために配合を最適化することによって、単一包装の貯蔵安定性問題を克服するように設計されており、単一包装に収容されている他の自己エッチング接着材に通常付随する、安定性問題をもたらすことはない。
【0021】
この1P−SEAにおいて先に確認された他の特徴/利点に関連する向上した性能は、酸安定性光開始系と合わせた系のpHバランスの機能である。より詳細には、この性能およびpHバランスは、主として、加水分解安定性で酸性の高強度接着材モノマー(PENTA)を、より多くの架橋結合をもたらす安定で二官能性の親水性モノマー(AHPMA)と共に採用することによって達成される。
【0022】
最適には、エッチングを促進させるために、水混和性の極性で非プロトン性の有機溶媒、たとえばアセトン、中に、最小限の量の水が配合された。加えて、この1P−SEA組成物中には、性能を向上させ、またフッ化物の放出を通じて二次齲蝕を防止するために、ミクロ充填剤またはナノ充填剤およびフッ化物放出剤も配合することが可能である。
【0023】
場合によっては、この製品の間接自己硬化用途(あらかじめ加工された金属/磁器/コンポジットのインレー/オンレー/ベニア/クラウン/ブリッジ)に対する使用を容易にするために、この1P−SEAと共に、別の自己硬化活性化剤成分を使用することができる。この1P−SEAは、他の単一成分自己エッチング(先行技術)製品を超える優れた接着性能を示す。より詳細には、この1P−SEAは、高い初期接着性能および持続的長期接着性能をもたらす(エナメル質接着強度≧20MPaおよび象牙質接着強度≧15MPa)。先に論じたように、この新規の1P−SEA製品は、簡単な「1回塗り」の1工程施用技法によって、別途の酸エッチングまたは下塗りなしで、良好な接着を達成する。
【0024】
この1P−SEAの接着性能は、過度の熱応力(55℃で5000サイクル)の後も維持される。加えて、この製品は、50℃で3週間を顕著な性能低下なく耐える優れた貯蔵安定性を実証しており、一方、市販されている唯一の単一成分SEAである−Bond(Kulzer)は、50〜248℃において1週間貯蔵後にゲル化した。現在市販されている自己エッチング接着材製品と比較して、この1P−SEAは、同等またはより優れた接着性能、貯蔵安定性および貯蔵寿命を示す。
【0025】
表5は、さまざまな温度においてさまざまな継続時間の貯蔵後の、1P−SEAの24時間象牙質せん断接着強度を示す。表6は、芳香族アミンだけが異なる3種の異なる実験用1P−SEAの接着強度を比較している。DHEPTおよびEDABは、CQの代わりに最も一般的に使用される2つの共開始剤である。DHEPTまたはEDABのいずれかを含有している配合は、許容しうるバランスの取れた性質には至らなかった。DMABNを組み入れた配合だけが、接着強度、貯蔵安定性およびさまざまな硬化光、たとえばQTH光およびLED光との適合性の優れたバランスを示した。DMABNは、いかなる歯科用接着材においても使用されるのは初めてである。
【0026】
【表5】

【0027】
【表6】

【0028】
SEAは、樹脂セメント(すなわちCalibra)を接着するために自己硬化活性化剤と共に使用する場合は、象牙質およびエナメル質の両方に対する優れたせん断接着強度を示す。表7は、SEAが、Prime & Bond NTと比較して、Calibraを歯基材に接着するための向上した接着性能を有することを例示している。
【0029】
【表7】

【0030】
包装補遺
SEAのための最低限の設計仕様は、現在Prime & Bond(登録商標)NTに使用されているシステムに類似の単位付与量パッケージフォーマットを必要とする。Dentsply Internationalは、米国特許第6372816号でこのシステム(パッケージ)の特許を取得している(Waltzら、2002年4月16日現在)。包装に対する理想的な要件は、「一体式ブラシ単位付与量」(IB単位付与量)と規定される。2003年9月23日出願のPiersonらの米国特許出願第10/668946号は、IB単位付与量包装に関してケース番号LDC−922−Eで提出されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加水分解安定性で酸性の高強度接着材モノマーおよび安定で二官能性の親水性モノマーを含む単一要素自己エッチング歯科用接着材。
【請求項2】
前記酸性モノマーがPENTAである、請求項1に記載の接着材。
【請求項3】
前記二官能性の親水性モノマーがAHPMAである、請求項1に記載の接着材。

【公表番号】特表2008−516951(P2008−516951A)
【公表日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−536738(P2007−536738)
【出願日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【国際出願番号】PCT/US2005/035991
【国際公開番号】WO2006/044223
【国際公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(590004464)デンツプライ インターナショナル インコーポレーテッド (85)
【Fターム(参考)】