説明

一酸化窒素ガスの回収方法

【課題】 NOガスをHNOとして高い回収率で回収する一酸化窒素ガスの回収方法を
提供する。
【解決手段】 充填塔11からなるNO回収装置10により、一酸化窒素ガスを硝酸水溶
液として回収する一酸化窒素ガスの回収方法において、充填塔11の下部の温度を50〜
70℃に制御するとともに、充填塔11の上部の温度を25℃以下に制御する。充填塔1
1の下部とは、充填塔11の塔底部から塔頂部方向に略3分の2までの部分であり、充填
塔11の上部は、充填塔11の塔頂部から塔底部方向に略3分の1までの部分である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一酸化窒素と硝酸との化学交換法により重窒素15Nを濃縮製造する装置等
から発生する一酸化窒素ガスの回収方法に関し、特に充填塔形式の回収装置により回収す
る一酸化窒素ガスの回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一酸化窒素(NO)ガスと硝酸(HNO)水溶液との化学交換法により重窒素15
を濃縮製造する重窒素濃縮製造装置からは、化学交換反応終了後にNOガスが排出される
が、この排出されたNOガスにおける窒素中の15N濃度は、天然の窒素中の15N濃度
0.366%より極わずかに低くなる程度である。したがって、この排出されたNOガス
を酸化して水に吸収させ、HNO水溶液として回収すれば、回収したHNO水溶液の
大部分を、再度、重窒素濃縮の原料として利用することができ、排出されたNOガスは廃
棄物とされることなく再利用されることとなり、環境保全の面からも好ましい。
【0003】
NOガスをHNOとして回収する方法としては、現在、工業的な硝酸製造法として行
われているようにNOガスを酸化してNOガスにし、これを若干の加圧下で水に吸収さ
せる方法がある(例えば、特許文献1参照。)。具体的には、下記の化学式(I)及び(
II)の反応により、NOガスをHNOとして回収する。
【0004】
【化1】

【0005】
しかしながら、上述した重窒素濃縮製造装置に硝酸製造設備を付帯させる場合には、重
窒素濃縮製造装置は常圧での運転が基本となっているため、その硝酸製造設備の装置構成
が複雑になったり、装置の規模が大きくなったりしてしまい、また設備コスト面でも負担
が大きくなるといった問題が生じる。
【0006】
このため、重窒素濃縮製造装置に付帯させる設備としては、重窒素濃縮製造装置の化学
交換反応塔と同様の充填塔形式の装置が用いられ、常圧下において充填塔下部からNOガ
ス及びNO酸化用の空気を導入し、塔上部からNO吸収用の水を供給してHNOとし
て回収し、インラインで再利用する方法が行われている。
【0007】
ところが、充填塔方式にした場合は、充填塔内の構造が単純であるため、圧力損失は少
ないものの、一方で処理能力が小さく、HNO水溶液という形態で回収されるNOガス
の回収率は低くなってしまうという問題が生じ、この回収率を上げるために、充填塔の高
さを十分に高くする、あるいはNO吸収用の水を大量に供給するなどが必要となる。し
かしながら、このように充填塔の高さを高くした場合には、設備コストの上昇につながっ
てしまうという問題がある。また、吸収用の水を大量に供給すると、必要とされるNOガ
ス濃度よりも低い濃度のHNOができてしまうため、回収した硝酸をそのままインライ
ンで再利用する場合、新たに濃度調整の機構を追加する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−029809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、上記した問題点に鑑みてなされたものであり、装置の構成を複雑化
したり、装置の規模を大型化することなく、高いNOガス濃度のHNO水溶液を得るこ
とができる、すなわちNOガスをHNO水溶液として高い回収率で回収することができ
る一酸化窒素ガスの回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、NO回収装置を構成する充填塔の内部を所定の
温度に制御することによって、一酸化窒素ガスを硝酸水溶液として回収する効率を高めら
れることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明に係る一酸化窒素ガスの回収方法は、充填塔からなる回収装置により
、一酸化窒素ガスを硝酸水溶液として回収する一酸化窒素ガスの回収方法において、上記
充填塔の下部の温度を50〜70℃に制御するとともに、上記充填塔の上部の温度を25
℃以下に制御する。
【0012】
ここで、上記充填塔の下部とは、該充填塔の塔底部から塔頂部方向に該充填塔の略3分
の2のまでの部分を示し、上記充填塔の上部とは、該充填塔の塔頂部から塔底部方向に該
充填塔の略3分の1までの部分を示す。
【0013】
また、上記充填塔の周囲には、外部ジャケットが設けられており、さらにこの充填塔に
は、保護管を介して熱電対が挿入されている。本発明に係る一酸化窒素ガスの回収方法に
おいては、これらにより、充填塔内の温度を的確に制御することができるので、一酸化窒
素を硝酸として高い回収率で回収することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る一酸化窒素ガスの回収方法によれば、充填塔により構成されるNO回収装
置において、充填塔の下部の温度を50〜70℃に制御するとともに、上記充填塔の上部
の温度を25℃以下に制御するようにしているので、装置構成の複雑化や装置規模の大型
化を要することなく、一酸化窒素ガスを高い回収率で回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】NO回収装置に重窒素濃縮製造装置を付帯した状態を示す概略断面図である。
【図2】重窒素濃縮製造装置の概略断面図である。
【図3】NO回収装置の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明
する。
【0017】
本実施の形態に係る一酸化窒素(NO)ガスの回収方法は、例えば、図1に示すように
、NOガスと硝酸(HNO)水溶液との化学交換法により重窒素(15N)を濃縮製造
する重窒素濃縮製造装置20を付帯し、その重窒素濃縮製造装置20と同様の充填塔形式
のNO回収装置10を用いて行われる。以下では、重窒素濃縮製造装置20を付帯したN
O回収装置10を一例として示しながら、本発明に係るNOガスの回収方法について説明
する。
【0018】
図1は、NO回収装置10に重窒素濃縮製造装置20を付帯させた状態を示す概略断面
図である。この図1に示すように、本実施の形態に係るNOガスの回収方法に用いられる
NO回収装置10は、重窒素濃縮製造装置20から発生するNOガスを取り込み、取り込
んだNOガスをHNO水溶液として回収する。さらに、このようにして回収したHNO
水溶液は、その大部分が、図1に示すように、再度15N濃縮の原料として重窒素濃縮
製造装置20に供給され、15Nの製造に利用されることとなる。
【0019】
このNOガスの回収方法に用いられるNO回収装置10は、上述したように、重窒素濃
縮製造装置20と同様の充填塔形式の装置を用いて行われる。そこで先ず、NO回収装置
10の説明に先立ち、NO回収装置10にNOガスを供給する(送り出す)重窒素濃縮製
造装置20について、NO回収装置10に供給するNOガスの発生プロセスを含めて説明
する。
【0020】
図2は、NOガスとHNO水溶液との化学交換法により重窒素15Nを濃縮製造する
重窒素濃縮製造装置20の概略断面図である。この図2に示す重窒素濃縮製造装置20は
、HNO水溶液と二酸化硫黄(SO)ガスからNOガスを生成する還流塔20bと、
還流塔20bで生成したNOガスとHNO水溶液との窒素同位体化学交換反応により重
窒素15NをHNOに濃縮する交換塔20aとを備えている。
【0021】
重窒素濃縮製造装置20を構成する交換塔20aは、その塔頂部にHNO供給口を備
え、また塔底部にHNO流出口を備えている。交換塔20aでは、HNO供給口から
HNO水溶液が供給され、供給されたHNO水溶液は交換塔20a内を下降し、HN
流出口を通って交換塔20aから流出する。交換塔20aから流出したHNO水溶
液は、交換塔20aの下方に設けられた還流塔20b内に流入する。
【0022】
なお、上述したように、重窒素濃縮製造装置20の交換塔20aに供給するHNO
溶液として、後述するNO回収装置10においてNOガスを回収して生成されたHNO
水溶液を再利用することができる。
【0023】
交換塔20aの内部には、充填材として、例えばヘリパック等が充填されており、供給
されたHNO水溶液は充填材の間隙を通って還流塔20b内に流入する。
【0024】
また、交換塔20aには、その塔底部にHNO水溶液の一部が取り出される15N取
出口が設けられている。15N取出口では、HNO水溶液と後述する還流塔20b内で
生成されるNOガスとの化学交換反応によって交換塔20a内において濃縮製造され、所
定の15N濃度となったHNOが還流比に従って抜き取られる。
【0025】
上述した構成の交換塔20aでは、具体的には、下記の化学式(III)の反応が生じる
。すなわち、交換塔20aでは、交換塔20aのHNO供給口より供給されたHNO
水溶液と、後述する還流塔20b内において生成されたNOガスとが接触し、HNO
NO化学交換反応が起こる。そして、この化学式(III)の化学交換反応が重畳されるこ
とにより、HNO中に15Nが濃縮製造される。
【0026】
【化2】

【0027】
なお、交換塔20aを構成する材質は、特に限定されるものではなく、HNO等に対
して耐食性のあるものであればよい。
【0028】
このように、交換塔20aにおいては、上記化学式(III)の反応によってHNO
15Nが濃縮製造されるが、それとともに、14NOガスが発生する。この重窒素濃縮
製造装置20において発生したNOガスは、後述するNO回収装置10に取り込まれる(
供給される)。そして、NO回収装置10は、この重窒素濃縮製造装置20より供給され
たNOガスをHNO水溶液として回収する。詳しくは後述する。
【0029】
次に、重窒素濃縮製造装置20の還流塔20bについて説明する。還流塔20bは、図
2に示したように、交換塔20aの下方に設けられている。この還流塔20b内に、交換
塔20a内を下降してその塔底部から流出したHNO水溶液が流入し、還流塔20bの
下部から供給されたSOガスと気液接触することによってNOガスとHSOが生成
される。
【0030】
なお、還流塔20bを構成する材質は特に制限されるものではなく、還流塔20b内に
存在するHSO、HNO、SOに対して耐食性を有するものであればよく、例え
ばガラス製とすることができる。
【0031】
還流塔20bの内部には、充填材として、例えばガラス製のヘリックス等が充填されて
おり、還流塔20b内の下部には充填材の落下を防止するための目皿等が設けられている

【0032】
また、還流塔20bは、その上端部にHNO供給口を備えるとともに、その下端部に
SO供給口を備えている。還流塔20bでは、交換塔20a内を下降して交換塔20a
のHNO流出口を通って流出されたHNO水溶液が、還流塔20bのHNO供給口
から供給される。そして、供給されたHNO水溶液の下降流は、SO供給口から供給
されたSOガスの上昇流と気液接触して、NOガスが生成される。また、この気液接触
反応においては、HSOが副生され、副生されたHSOは還流塔20bの塔底部
に接続されたHSO流出口を介して排出される。
【0033】
上述した構成の還流塔20bでは、具体的には、下記の化学式(IV)の反応が生じる。
【0034】
【化3】

【0035】
このように、還流塔20bにおいては、上記化学式(IV)のHNO水溶液とSO
スとの気液接触反応により、NOガスが生成され、またHSOが副生される。そして
、生成されたNOガスは、上昇流となって交換塔20aに戻り、上記した化学式(III)
のHNO−NO化学交換反応に用いられる。
【0036】
以上のような構成を有する交換塔20aと還流塔20bとからなる重窒素濃縮製造装置
20では、上述のように、交換塔20a内においてNOガスとHNO水溶液との化学交
換反応により15Nが濃縮製造される。そして一方で、上記化学式(III)に示されるよ
うに、15N濃度の低いNOガスが発生する。本実施の形態に係るNOガスの回収方法に
おいて用いられるNO回収装置10には、上述した重窒素濃縮製造装置20が付帯されて
おり、この重窒素濃縮製造装置20から発生したNOガスを取り込んで、HNO水溶液
として回収する。
【0037】
次に、本実施の形態に係るNOガスの回収方法及びこの方法において用いられるNO回
収装置10について説明する。図1に示したように、NO回収装置10は、付帯する重窒
素濃縮製造装置20の上方に設けられている。このNO回収装置10内に、重窒素濃縮製
造装置20の交換塔20aにおいて発生したNOガスが取り込まれ、そのNOガスがNO
回収装置10の下部より供給されるNOガス酸化用空気によって酸化された後、NO回収
装置10の上部より供給される水(HO)に吸収されることによって、HNO水溶液
が生成される。
【0038】
図3は、本実施の形態に係るNOガスの回収方法に用いられるNO回収装置10の概略
断面図である。この図3に示すように、NO回収装置10は充填塔11で構成されており
、その充填塔11の内部には、例えばマクマホンパッキング等の充填材12が充填されて
いる。NO回収装置10を構成する充填塔11の材質は特に制限されるものではなく、N
O回収装置10内に存在するHNO、NO、NO等に対して耐食性を有するものであ
ればよく、例えばガラス製とすることができる。
【0039】
NO回収装置10は、その下端部にNO供給口(NO取込口)13を備えるとともに、
下端部にNO酸化用の空気を供給する空気供給口14を備えている。NO回収装置10で
は、NO供給口13を介して、付帯されている重窒素濃縮製造装置20において発生した
NOガスを取り込む。そして、取り込まれたNOガスは、空気供給口14から供給された
空気によって酸化され、NOガスとなる。また、NO回収装置10は、その上端部にN
吸収用の水(HO)を供給するHO供給口15を備えている。NO回収装置10
では、発生したNOガスの上昇流がHO供給口15から供給されたNO吸収用のH
Oと気液接触し、HNO水溶液が生成される。
【0040】
具体的に、上述した構成のNO回収装置10内では、下記化学式(I)及び(II)の反
応が生じる。
【0041】
【化4】

【0042】
このようにして、本実施の形態に係るNOガスの回収方法は、充填塔形式のNO回収装
置10を用いて、取り込んだNOガスをHNO水溶液として回収する。そして、このよ
うに充填塔形式のNO回収装置10を用いることによって、装置を複雑化させることなく
、常圧で運転される重窒素濃縮製造装置20等を付帯させることが可能となる。しかしな
がら、NO回収装置10を充填塔形式とした場合、HNO水溶液として回収できるNO
ガスの回収率は低くなってしまうという問題がある。
【0043】
そこで、本実施の形態に係るNOガスの回収方法では、用いるNO回収装置10を構成
する充填塔11の内部を所定の温度に制御するようにしている。具体的には、本実施の形
態に係るNOガスの回収方法は、充填塔11からなるNO回収装置10により、NOガス
をHNO水溶液として回収するNOガスの回収方法において、充填塔11の下部の温度
を50〜70℃に制御するとともに、充填塔11の上部の温度を25℃以下に制御する。
より具体的には、NO回収装置10を構成する充填塔11の塔底部から塔頂部方向に略3
分の2のまでの部分の温度を50〜70℃に制御し、充填塔11の塔頂部から塔底部方向
に略3分の1までの部分の温度を25℃以下に制御する。
【0044】
本実施の形態に係るNOガスの回収方法では、このように、用いるNO回収装置10を
構成する充填塔11の下部の温度を50〜70℃に制御するとともに、充填塔11の上部
の温度を25℃以下に制御することによって、高い回収率で、NOガスをHNOとして
回収することができる。そして、これにより、装置構成を大きくする必要がなくなり、設
備コストを抑えて、効率的にNOガスを回収することができる。さらに、回収率を高くす
るために吸収用の水を大量供給するなどの処理を行う必要もなくなり、必要なHNO
度よりも低いHNO水溶液ができてしまうことを防止することができる。
【0045】
上述したように、本実施の形態に係るNOガスの回収方法は、NO回収装置10を構成
する充填塔11の下部、すなわち充填塔11の塔底部から塔頂部方向に略3分の2までの
部分の温度を50〜70℃に制御するものである。充填塔11内において起こる上記化学
式(II)の反応、すなわちNOガスのHOへの吸収反応は温度が高いほど促進される
が、充填塔11下部の温度を50℃よりも低くした場合には、高い吸収率でNOガスを
Oに吸収させることができない。一方、70℃よりも高くした場合には、NOガス
のHOへの吸収反応は加速されるものの、上述のように充填塔11上部の温度を25℃
以下に制御することができなくなり、充填塔11内に発生したHNO水溶液がミストと
なって抜け出てしまう。
【0046】
したがって、充填塔11の下部の温度を50〜70℃に制御することによって、高い吸
収率でNOガスをHOに吸収させることができ、また充填塔11上部の温度制御に影
響を与えることなく、高い回収率でNOガスをHNOとして回収することができる。
【0047】
また、本実施の形態に係るNOガスの回収方法は、NO回収装置10を構成する充填塔
11の上部、すなわち充填塔11の塔頂部から塔底部方向に略3分の1までの部分の温度
を25℃以下に制御するものである。充填塔11上部の温度を25℃よりも高くした場合
には、充填塔11内に発生したHNO水溶液がミストとなって抜け出てしまい、回収率
が低下してしまう。
【0048】
したがって、充填塔11の上部の温度を25℃以下に制御することによって、充填塔1
1内において生成されたHNO水溶液がミストとなって抜け出てしまうことを防止し、
高い回収率でNOガスをHNOとして回収することができる。
【0049】
また、NO回収装置10には、NO回収装置10における充填塔11内を所定の温度と
するため、温度制御機構が設けられている。このように、NO回収装置10に温度制御機
構を備えることによって、NO回収装置10内を所定の温度に制御することを可能にして
いる。そして、その所定の温度条件下で、充填塔11内において上記化学式(I)及び(
II)の反応を生じさせることによって、NOガスを高い回収率で回収することができる。
【0050】
具体的には、温度制御機構として、NO回収装置10を構成する充填塔11の上部から
下部に亘って周囲を覆うように外部ジャケット16を設け、充填塔11内の所定部位の温
度を均一に制御している。
【0051】
また、本実施の形態においては、図3に示すように、この外部ジャケット16は、NO
回収装置10の上部から下部に亘って3分割(16A,16B,16C)されており、こ
れにより充填塔11の各部分において異なった温度に制御することを可能にしている。
【0052】
さらに、各外部ジャケット16(16A,16B,16C)には、その下端部に設けら
れた温度制御水供給口16Ain,16Bin,16Cinから温水又は冷水が供給され、その
内部において温水又は冷水を下部から上部方向に流すことによって、充填塔11内の温度
を制御する。なお、供給された温水又は冷水は、各外部ジャケット16の内部を上昇した
後、その上端部にそれぞれ設けられた温度制御水排出口16Aout,16Bout,16Cou
tから排出される。
【0053】
本実施の形態に係るNOガスの回収方法では、このように、NO回収装置10を構成す
る充填塔11内の温度を制御する機構として、外部ジャケット16等の温度制御機構を設
けることにより、充填塔11内の各部を所定温度に保持している。具体的には、例えば外
部ジャケット16に供給される温水又は冷水の温度や流量を変化させることによって、充
填塔11内の温度を制御するようにしている。
【0054】
なお、充填塔11内部の温度制御機構である外部ジャケット16は、充填塔11の上部
から下部に亘って3分割して設けられることに限られるものではない。例えば、外部ジャ
ケット16を充填塔11の上部から下部に亘って4分割して設けるようにしてもよく、こ
のような場合においては、特にNOガスのHOによる吸収反応が起こる、充填塔11
の塔底部から塔頂部方向に略4分の3までの部分の温度を50〜70℃に制御し、充填塔
11の塔頂部から塔底部方向に略4分の1までの部分の温度を25℃以下に制御する。
【0055】
あるいは、充填塔11の塔底部から塔頂部方向に略3分の2のまでの部分と、充填塔1
1の塔頂部から塔底部方向に略3分の1までの部分との2部位に、それぞれ外部ジャケッ
ト16を設けるようにしてもよい。
【0056】
さらに、充填塔11内の温度を制御する温度制御機構としては、上述した外部ジャケッ
トに限られるものではなく、例えば充填塔11内部に加温/冷却管を備えて温度制御して
もよく、またこれらの機構を常時または随時併用してもよい。
【0057】
また、NO回収装置10を構成する充填塔11には、熱電対等の温度検出手段17が備
えられている。本実施の形態においては、図3に示すように、熱電対等の温度検出手段1
7を充填塔11内に挿入し、充填塔11内の温度を検出している。このように、熱電対等
の温度検出手段17を充填塔11内に挿入することによって、的確に充填塔11内の温度
を検出することができ、その検出結果に基づいて上述した温度制御機構による温度の制御
を容易に行うことができる。
【0058】
なお、熱電対等の温度検出手段17は、充填塔11の内部に設けられた保護管18に挿
入される。保護管18は、有底筒状に形成された、例えばガラス製の細管であり、充填塔
11の上端部から充填塔11内に挿通され、外部ジャケット16と同様に充填塔11の上
端部から下端部に亘って配設されている。ここで、この保護管18内の温度は、充填塔1
1内と同様の温度にまで上昇しているため、保護管18内部に挿入される熱電対等の温度
検出手段17によって、充填塔11の内部の温度の検出が可能となる。さらに、この保護
管18により、充填塔11内における気液接触反応等よって熱電対等の温度検出手段17
が損傷等したり、温度検出手段17によって気液接触反応が阻害されることを防止するこ
とができる。
【0059】
また、温度検出手段17は、このように、充填塔11の上端部から下端部に亘って配設
された保護管18内に挿入されているため、その位置を調整することによって、充填塔1
1の各部位の温度を検出することができる。
【0060】
ここで、温度検出手段17として、例えば熱電対を用いる場合、熱電対は、反応熱を吸
収した保護管18内の温度を電気信号に変換し、テフロン(登録商標)等で被覆された信
号線を介して図示しない制御部に電気信号を出力して、充填塔11内の温度を計測する。
その熱電対としては、温度を計測することができる周知のものであればよく、例えばK型
熱電対素線等を用いることができる。
【0061】
以上詳述したように、本実施の形態に係るNOガスの回収方法によれば、NO回収装置
10を構成する充填塔11を所定の温度に制御するようにしているので、装置構成を大き
くしなくても、高い回収率で、NOガスをHNO水溶液として回収することができる。
また、回収率を高くするために吸収用の水を大量供給するなどの処理を要しないので、低
い濃度のHNO水溶液が生成されることによって、必要なHNO濃度を保持できなく
なることもなく、生成されたHNO水溶液を有効に再利用することができる。
【0062】
なお、本発明は上述した実施の形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸
脱しない範囲において種々の変更が可能であることは勿論である。
【0063】
例えば、上述した実施の形態において説明したNO回収装置10に重窒素濃縮製造装置
20を付帯させ、重窒素濃縮製造装置20から発生したNOガスを回収する例についても
同様であり、NO回収装置10に付帯させる装置はこれに限られるものではなく、NOガ
スを発生する装置であれば本発明に係るNOガスの回収方法を適用することができる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。なお、下記のいずれかの実施例に本
発明の範囲が限定されるものではない。
【0065】
本実施例においては、充填塔11を所定の温度に制御して、一酸化窒素(NO)ガスの
硝酸(HNO)水溶液としての回収率について検討した。
【0066】
本実施例では、内径40mm×長さ700mmで外部ジャケットを備えたパイレックス
管3本を直列につなげて作製したものを充填塔11として用いた。パイレックス管からな
るこの充填塔11の内部には、充填材12として6mmマクマホンパッキングを充填した

【0067】
上述した充填塔11の下部には、NO供給口13を設け、このNO供給口13からNO
ガスを1.2L/minで供給し、同様に充填塔11下部に設けた充填塔空気供給口14
からNO酸化用の空気を5.0L/minで供給した。また、充填塔11の塔頂部に設け
たHO供給口15から二酸化窒素(NO)ガス吸収用の水を4.0ml/minで供
給した。
【0068】
本実施例では、この条件のもと、充填塔11に3分割して設けた外部ジャケット16内
に温水又は冷水を供給して充填塔11の各部分の温度を所定の温度に制御し、そのときの
NOガスの回収率を測定した。
【0069】
(サンプル1)
サンプル1として、充填塔11の全塔高の下部3分の2の温度を50℃に、上部3分の
1の温度を25℃に制御し、HNO水溶液として回収したNOガスの回収率を測定した

【0070】
(サンプル2)
サンプル2として、充填塔11の全塔高の下部3分の2の温度を59℃に、上部3分の
1の温度を25℃に制御し、HNO水溶液として回収したNOガスの回収率を測定した

【0071】
(サンプル3)
サンプル3として、充填塔11の全塔高の下部3分の2の温度を68℃に、上部3分の
1の温度を25℃に制御し、HNO水溶液として回収したNOガスの回収率を測定した

【0072】
(サンプル4)
サンプル4として、充填塔11の全塔高の下部3分の2の温度を45℃に、上部3分の
1の温度を25℃に制御し、HNO水溶液として回収したNOガスの回収率を測定した

【0073】
(サンプル5)
サンプル5として、充填塔11の全塔高の下部3分の2の温度を25℃に、上部3分の
1の温度を25℃に制御し、HNO水溶液として回収したNOガスの回収率を測定した

【0074】
(サンプル6)
サンプル6として、充填塔11の全塔高の下部3分の2の温度を60℃に、上部3分の
1の温度を30℃に制御し、HNO水溶液として回収したNOガスの回収率を測定した

【0075】
下記の表1に、上述した各サンプルの測定結果を示す。
【0076】
【表1】

【0077】
表1の結果から判るように、充填塔11の全塔高の下部3分の2の温度を50℃、59
℃、68℃にそれぞれ制御し、また充填塔11の全塔高の上部3分の1の温度を25℃に
制御したサンプル1〜3では、NOガスの回収率は98%以上となり、高い回収率を示し
た。
【0078】
一方で、充填塔11の全塔高の上部3分の1の温度をサンプル1〜3と同様に25℃に
制御し、充填塔11の全塔高の下部3分の2の温度については、50℃よりも低い45℃
に制御したサンプル4では、回収率が92.1%となり、サンプル1〜3に比べて低かっ
た。
【0079】
また、充填塔11の全塔高の上部3分の1の温度をサンプル1〜3と同様に25℃に制
御し、充填塔11の全塔高の上部3分の2の温度については、45℃よりもさらに低い2
5℃に制御したサンプル5では、回収率が85.6%となり、極めて低い回収率となった

【0080】
また、充填塔11の全塔高の下部3分の2の温度をサンプル2と略同様の60℃に制御
し、充填塔11の全塔高の上部3分の1の温度を25℃よりも高い30℃に制御したサン
プル6では、回収率が92.3%となり、サンプル1〜3に比べて低かった。
【0081】
上述したように、NOガスをHOに吸収させてHNO水溶液とするにあたっては
、反応温度を高くすることによって、HOのNOガス吸収率が向上する。このことは
、サンプル1〜3における回収率に比べて、サンプル4及び5における回収率が低かった
ことからも明確に判る。
【0082】
しかしながら、充填塔11の温度を高くし過ぎると、充填塔11上部からHNO水溶
液がミストとなって抜け出てしまい、回収率が低下する。このことは、サンプル6の結果
からも明確に判る。また、充填塔11の全塔高の下部3分の2の温度を70℃よりも高く
した場合においても、充填塔11の全塔高の上部3分の1の温度を制御することが困難と
なり、結果として充填塔11上部からHNOがミストとなって抜け出てしまうこととな
る。
【0083】
以上のことから、NOガスをHNO水溶液として回収するために用いる充填塔11の
下部の温度を50〜70℃に制御し、充填塔11の上部の温度を25℃以下とすることに
よって、NOガスをHNOとして高い回収率で回収することができることが判った。
【符号の説明】
【0084】
10 NO回収装置、11 充填塔、12 充填材、13 NO供給口(NO取込口)
、14 空気供給口、15 HO供給口、16,16A,16B,16C 外部ジャケ
ット、16Ain,16Bin,16Cin 温度制御水供給口、16Aout,16Bout,16
Cout 温度制御水排出口、17 温度検出手段、18 保護管、20 重窒素濃縮製造
装置、20a 交換塔、20b 還流塔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
充填塔からなる回収装置により、一酸化窒素ガスを硝酸水溶液として回収する一酸化窒
素ガスの回収方法において、
上記充填塔の下部の温度を50〜70℃に制御するとともに、上記充填塔の上部の温度
を25℃以下に制御することを特徴とする一酸化窒素ガスの回収方法。
【請求項2】
上記充填塔の下部は、該充填塔の塔底部から塔頂部方向に略3分の2までの部分であり
、上記充填塔の上部は、該充填塔の塔頂部から塔底部方向に略3分の1までの部分である
ことを特徴とする請求項1記載の一酸化窒素ガスの回収方法。
【請求項3】
上記充填塔には、外部ジャケットが設けられていることを特徴とする請求項1又は2記
載の一酸化窒素ガスの回収方法。
【請求項4】
上記充填塔には、保護管に挿入された熱電対が設けられていることを特徴とする請求項
1乃至3の何れか1項記載の一酸化窒素ガスの回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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