説明

万年筆

【課題】ペン体2が小型で、ペン体2がペン芯3を抱き込むように挟持して固定するペン体2の取付構造である万年筆1においても、ペン体2の形状に対してペン芯3の形状を馴染ませる加工が行いやすく、且つペン体2がペン芯3から外れにくい構造の万年筆1を得る。
【解決手段】ペン体2の軸心部2aの裏面側及び両側に形成した曲折部2bの裏面側とでペン芯3を抱き込むように挟持して固定し、ペン芯3の後方部3bを軸筒4の前端開口部4aに挿着して固定させる構造の万年筆1であって、ペン芯3をABS樹脂とアクリル樹脂とのポリマーアロイにより成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は万年筆に関し、特にペン体が小型で、ペン体をペン芯に挟持させて固定する万年筆に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、一般的な万年筆の構造は、軸筒内部に設けたインキ収容部内のインキが、軸筒の前方に形成した開口部に挿着したペン芯によってペン体へ供給され、ペン体の筆記端にて筆記を行うことができる構造になっている。この構造では、ペン芯に設けたインキ流通溝の毛細管力によりインキがペン芯の前方へ流動し、インキ流通溝の開口と隣接したペン体に形成してある切り割りの毛細管力によって、インキがペン体の前方にある筆記端まで流動して筆記が可能となる。したがって、ペン体の切り割りが適切な毛細管力を得られるように、ペン体にスリットを形成した後に、スリットにより分れた筆記端を互いに近づける寄せ加工を行っており、ペン体をペン芯及び軸筒に装着した状態で、樹脂材からなるペン芯を加熱して軟らかくし、筆記端の寄せ加工を行った金属からなるペン体の形状に対してペン芯の形状を馴染ませる加工を行っている。したがって、加熱することで樹脂材が軟らかくなり、ペン芯をペン体の形状に馴染みやすくするために、ペン芯を形成する材料としてはABS樹脂のような比較的軟化温度の低い樹脂材を用いることが多い。また、多くの万年筆では、特開2001−138685号公報にあるように、ペン体の取り付けにおいて、ペン体の後方を長く延長した延設部をペン芯と軸筒の開口部との間で挟み込んで固定するという取付方法が採用されている。
【0003】
ところで、特開2002−347389号公報にあるようにペン体が小型である万年筆では、ペン体の軸心部の裏側及び本体部の両側に形成した曲折部とでペン芯を抱き込むようし挟持して固定するというペン体の取付構造を用いており、このような万年筆の形態でも、ペン体をペン芯及び軸筒に装着した状態で、熱可塑性の樹脂材からなるペン芯を加熱して軟らかくし、筆記端の寄せ加工を行った金属からなるペン体の形状に対してペン芯の形状を馴染ませる加工が必要であり、ペン体をABS樹脂のような軟化温度の低い樹脂材で成形する方が、ペン芯がペン体の形状に馴染みやすいという点ではよい。しかしながら、ペン体でペン芯を抱き込むように挟持して固定する構造では、ペン芯が軟化温度の低い樹脂材であった場合、ペン体の挟持力をペン芯が支えきれなくなって、使用している内にペン体がペン芯から外れてしまう場合があった。尚、ペン体がペン芯から外れにくくするために、ペン芯の材料としてAS樹脂のように比較的軟化温度の高い樹脂材を使用した場合には、ペン芯をペン体の形状に馴染ませる加熱温度を高めに設定する必要があり、加工性が悪くなり、また高い加熱温度により目的としないペン芯の局所的な変形が生じてしまう虞があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−138685号公報
【特許文献2】特開2002−347389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ペン体が小型で、ペン体がペン芯を抱き込むように挟持して固定するペン体の取付構造である万年筆においても、ペン体の形状に対してペン芯の形状を馴染ませる加工が行いやすく、且つペン体がペン芯から外れにくい構造の万年筆を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
「ペン体の軸心部の裏面側及び両側に形成した曲折部の裏面側とでペン芯を抱き込むように挟持して固定し、前記ペン芯の後方部を軸筒の前端開口部に挿着して固定させる構造の万年筆であって、前記ペン芯をABS樹脂とアクリル樹脂とのポリマーアロイにより成形した万年筆。」である。
【0007】
本発明では、ペン芯をポリマーアロイで成形することが特徴であり、本発明におけるポリマーアロイとしては、性質の異なる複数の合成樹脂を混合して構成してなる合成樹脂材を用いることが肝要であり、たとえば形状を保持する強度を高める合成樹脂と加熱によって軟化しやすい合成樹脂とを混合した合成樹脂材などがあげられる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の万年筆によれば、ペン体が小型で、ペン体がペン芯を抱き込むように挟持して固定するというペン体の取付構造の万年筆であっても、筆記端の寄せ加工を行った金属からなるペン体の形状に対してペン芯の形状を馴染ませる加工が行いやすく、且つペン体がペン芯から外れにくい構造の万年筆を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の万年筆の要部を示す斜視図である。
【図2】図2は、図1の分解図である。
【図3】図3は、ペン体の加工工程を示す図である。
【図4】図4は、図3の次工程を示す図である。
【図5】図5は、ペン体をペン芯に装着する状態を示す図である。
【図6】図6は、ペン体をペン芯に装着した状態を示す側面図である。
【図7】図7は、図6を正面から見た図である。
【図8】図8は、筆記端をお湯の中に浸け加熱した状態を示す図である。
【図9】図9は、筆記端をお湯の中に浸けて加熱し、ペン芯をペン体の形状に馴染ませた状態を示す側面図である。
【図10】図10は、図9を正面から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、図面を参照しながら説明を行うが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また図中の同じ部材、同じ部品については、同じ符号としてある。
【0011】
図1は本実施例の万年筆における要部の斜視図であり、図2はその分解図である。
図1に示す万年筆1は、ペン体2をペン芯3に装着してあり、櫛溝3aを設けたペン芯3の後方部3bを軸筒4の前端開口部4aに挿着してある。図2を用いて本実施例のペン体2とペン芯3との固定構造について詳述すると、ペン体2の軸心部2aの裏側をペン芯3の前方表面に当接させ、ペン体2の両側に形成した曲折部2bの裏側をペン芯3の前方両側に形成した段部3cに当接させ、ペン体2がペン芯3を抱き込むように挟持して固定される。また、ペン体2の軸心部2aには切り割り2cを設け、図1のように組立てた状態において、ペン芯3に形成したインキ流通溝(図示せず)の開口がペン体2の切り割り2cと隣接するようにしてあり、軸筒4内に収容したインキ(図示せず)が、ペン芯3のインキ流通溝の毛細管力で前方へ移動し、ペン体2の切り割り2cの毛細管力で前方へ引っぱられ、筆記端2dで筆記を行うことが可能となる。
【0012】
次に、図を用いてペン体の加工について説明を行う。図3は、ペン体2の軸心部2aに、筆記端2d側から丸孔20側へ向かって回転砥石10でスリットを形成する工程である。図4は、ペン体2に形成したスリット21を左右から中心方向へ寄せることで、毛細管力でインキを流動できる切り割りを形成する工程である。図5は、ペン体2をペン芯3に取り付ける工程であり、ペン体2に形成した切り割り2cがペン芯3のインキ流通溝3dの位置と一致するよう、ペン芯3の前方からペン体2を装着させる工程である。尚、ペン体2とペン芯3とは、ペン芯3のインキ流通溝3dに流れてきたインキをペン体2の切り割り2cに毛細管力で確実に流動させるために、ペン体2をペン芯3に装着した状態で、ペン芯3の表面に対してペン体2の裏面を強く押し当てて双方の間に隙間ができないように、つまりペン芯3の表面に対しペン体2の裏面が当該ペン体2の弾発力で当接するようにしてある。この結果、ペン体2をペン芯3に装着しただけの状態では、図6に示すようにペン芯3の表面によって、ペン体2に矢印L方向への力が働き、結果、図7に示すようにペン体2の筆記端2dが矢印Mの方向へ押し開かれてしまい、切り割り2cの毛細管力の働きが鈍くなる。
【0013】
図7で示した状態のペン体2を、図5に示した筆記端2dを寄せた状態に戻すには、図8に示すように、ペン芯3をペン体2と共に容器11に入ったお湯12の中に浸けて加熱することで、ペン芯3を軟らかくし、ペン芯3の形状をペン体2の形状に馴染ませる作業を行う。本実施例では、ペン体2をステンレス材で形成し、ペン芯3をABS樹脂とアクリル樹脂とのポリマーアロイ(旭化成社製スタイラックAT−15)で形成してあり、ABS樹脂の有する軟らかさからペン体2の形状にペン芯3が馴染みやすく、図8に示した加熱処理を行うことで、図9に示すようにペン芯3の先端部が矢印Nの方向に塑性変形され、図10に示すようにペン体2の切り割り2cが、図5で示した切り割り2cと同じ状態に戻って、毛細管力を働かせることができ、且つアクリル樹脂の有する硬さからペン芯3がペン体2の挟持力を支えることができ、ペン体2がペン芯3から外れにくい構造となった。
【産業上の利用可能性】
【0014】
本発明は、ペン体が小型で、ペン体がペン芯を抱き抱えるように挟持して固定するペン体の取付構造の万年筆に好適である。
【符号の説明】
【0015】
1…万年筆、
2…ペン体、2a…軸心部、2b…曲折部、2c…切り割り、2d…筆記端、
20…丸孔、21…スリット、
3…ペン芯、3a…櫛溝、3b…後方部、3c…段部、3d…インキ流通溝、
4…軸筒、4a…前端開口部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペン体の軸心部の裏面側及び両側に形成した曲折部の裏面側とでペン芯を抱き込むように挟持して固定し、前記ペン芯の後方部を軸筒の前端開口部に挿着して固定させる構造の万年筆であって、前記ペン芯をABS樹脂とアクリル樹脂とのポリマーアロイにより成形した万年筆。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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