説明

上下線連結型高速気流循環トンネル

【課題】 高速通過列車に対して追い風を発生させ、エネルギー及び騒音振動を抑制することができる上下線連結型高速気流循環トンネルを提供する。
【解決手段】 上下線連結型高速気流循環トンネルであって、長大トンネル2,7を有する上下線1,5の2箇所に連通される送風路4,9と、この送風路4,9に配置される送風機6,10と、前記長大トンネル2,7の出口2B,7Bに配置される開閉装置3,8と、高速列車の走行位置に応じて前記開閉装置3,8を制御する制御手段を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上下線連結型高速気流循環トンネルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道において、例えば、500km/hを越える超高速での列車の走行には、空気の存在が大きな障害となる。これに対する一つの解決策として、地下トンネル内を減圧して超高速列車を通す、いわゆる減圧トンネル方式が検討されている(下記非特許文献1参照)。
【非特許文献1】古屋 卓稔,阿部和久,「減圧トンネル超高速鉄道における地盤振動応答特性」,日本機械学会第13回鉄道技術連合シンポジウム講演論文集 No.06−52,pp.493〜496(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記したように、超高速鉄道では、空気がその走行に影響を与える。この時、空気抵抗は列車速度の2乗に比例し、空力騒音は列車速度の6乗に比例して大きくなり、エネルギー的にも騒音振動的にも問題である。
【0004】
本発明は、上記状況に鑑みて、高速通過列車に対して追い風を発生させ、エネルギー及び騒音振動を抑制することができる上下線連結型高速気流循環トンネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕上下線連結型高速気流循環トンネルであって、長大トンネルを有する上下線の2箇所に連通される送風路と、この送風路に配置される送風機と、前記長大トンネルの出口に配置される開閉装置と、高速列車の走行位置に応じて前記開閉装置を制御する制御手段を具備することを特徴とする。
【0006】
〔2〕上記〔1〕記載の上下線連結型高速気流循環トンネルにおいて、前記送風路を前記長大トンネルの出入口の近傍に設けることを特徴とする。
【0007】
〔3〕上記〔1〕記載の上下線連結型高速気流循環トンネルにおいて、前記送風機を前記2箇所の送風路にそれぞれ配置することを特徴とする。
【0008】
〔4〕上記〔3〕記載の上下線連結型高速気流循環トンネルにおいて、前記開閉装置の制御手段は、前記高速列車の走行位置に対応して稼働制御を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、上下線連結型高速気流循環トンネルにおいて、高速列車に対して追い風を発生させることで、エネルギー的にも騒音振動的にも抑制した走行を行うことができる。また、送風路を長大トンネルの出入口の近傍に設けるようにしたので、トンネル微気圧波対策にも有効である。
【0010】
さらに、列車のトンネル内走行により発生する気流を上下線連結型高速気流循環トンネル内に循環させることにより、列車への追い風として有効に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の上下線連結型高速気流循環トンネルは、長大トンネルを有する上下線の2箇所に連通される送風路と、この送風路に配置される送風機と、前記長大トンネルの出口に配置される開閉装置と、高速列車の走行位置に応じて前記開閉装置を制御する制御手段を具備する。
【実施例】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0013】
図1は本発明の実施例を示す上下線連結型高速気流循環トンネルの模式図、図2は本発明の実施例を示す上下線連結型高速気流循環トンネルの制御システムの構成図である。
【0014】
図1において、1は上線、2は上線1の長大トンネル、2Aは上線1の長大トンネル2の入口、2Bは上線1の長大トンネル2の出口、3は上線1の開閉装置、4は上線1と下線5とを連通する第1の送風路、6は第1の送風路4に設置される第1の送風機、7は下線5の長大トンネル、7Aは下線5の長大トンネル7の入口、7Bは下線5の長大トンネル7の出口、8は下線5の開閉装置、9は下線5と上線1とを連通する第2の送風路、10は第2の送風路9に配置される第2の送風機である。また、12は上線1の列車進行方向、13は下線5の列車進行方向、14は上線1と下線5とを連通する第1の送風路4の送風方向、15は下線5と上線1とを連通する第2の送風路9の送風方向である。
【0015】
上線1の開閉装置3及び下線5の開閉装置8は、トンネルにそれぞれ閉じられた空間を得るための機械的開閉器であり、それらの開閉装置3,8にはそれぞれ制御装置11A,11Bが配置されている。
【0016】
また、第1の送風路4と第2の送風路9は長大トンネル2,7の出口2B,7Bの近傍に設けることにより、トンネル微気圧波を抑制することができるようにしている。これらの送風路4,9に配置される第1の送風機6と第2の送風機10は常時駆動している。なお、この第1の送風路4及び第2の送風路9に設置される第1の送風機6及び第2の送風機10は、何れか一方のみに配置するようにしてもよい。
【0017】
上線1の長大トンネル2の出口2B及び下線5の長大トンネル7の出口7Bの近傍に配置される開閉装置3,8は、両開きのカーテン状の開閉装置であり、高速列車の走行がない時は閉じられており、常時送風されるトンネル内の風の流れをトンネルの出口から外に逃がさないようにする。上線1の長大トンネル2の入口2A及び下線5の長大トンネル7の入口7Aは、開放された状態でも風の循環に影響がないので、基本的には開閉装置を設ける必要がない。
【0018】
また、図2に示すように、上線1の長大トンネル2の入口2Aには第1の車両検知センサ21、出口2Bには第2の車両検知センサ22を、下線5の長大トンネル7の入口7Aには第3の車両検知センサ23、出口7Bには第4の車両検知センサ24を配置する。
【0019】
ここで、軌道に配置されているセンサと開閉装置の制御について図2を参照して説明する。
【0020】
高速列車が上線1の長大トンネル2の入口2Aに入ると、それを検知した第1の車両検知センサ21の出力信号により、閉じられている上線1の開閉装置3が開かれて高速列車を通過させる。高速列車が第2の車両検知センサ22で検知されると、再び上線1の開閉装置3は閉じられる。
【0021】
下線5においても同様であり、高速列車が下線5の長大トンネル7の入口7Aに入ると、それを検知した第3の車両検知センサ23の出力信号により、閉じられている下線5の開閉装置8が開かれて、高速列車を通過させる。高速列車が第4の車両検知センサ24で検知されると、下線5の開閉装置8は再び閉じられる。
【0022】
なお、第1の車両検知センサ21は、微気圧波が音速で伝播することを考慮して、微気圧波到達後に上線1の開閉装置3が開かれるように位置を決定する。
【0023】
同様に第3の車両検知センサ23は、微気圧波が音速で伝播することを考慮して、微気圧波到達後に下線5の開閉装置8が開かれるように位置を決定する。
【0024】
次に、本発明の実施例を示す上下線連結型高速気流循環トンネルの上線の動作について図3のフローチャートを参照しながら説明する。
【0025】
(1)上下線連結型高速気流循環トンネルは、開閉装置3,8が閉じられており、第1の送風路4に設置される第1の送風機6及び第2の送風路9に設置される第2の送風機10が駆動している状態にある(ステップS1)。
【0026】
(2)上線1を走行し、長大トンネル2内に進入した高速列車が第1の車両検知センサ21で検知されたか否かをチェックする(ステップS2)。
【0027】
(3)高速列車が第1の車両検知センサ21で検知されると、この第1の車両検知センサ21の出力信号により上線1の開閉装置3の制御装置11Aが動作し、閉じられていた開閉装置3が開かれて高速列車が通過する(ステップS3)。
【0028】
(4)次に、高速列車が第2の車両検知センサ22で検知されたか否かをチェックする(ステップS4)。
【0029】
(5)高速列車が第2の車両検知センサ22で検知されると、第2の車両検知センサ22からの出力信号により制御装置11Aが作動し、開かれていた開閉装置3が再び閉じられる(ステップS5)。
【0030】
同様に、上下線連結型高速気流循環トンネルの下線の動作について、図4のフローチャートを参照しながら説明する。
【0031】
(1)上下線連結型高速気流循環トンネルは、開閉装置3,8が閉じられており、第1の送風路4に設置される第1の送風機6及び第2の送風路9に配置される第2の送風機10が駆動している状態である(ステップS11)。
【0032】
(2)下線5を走行し、長大トンネル7内に進入した高速列車が第3の車両検知センサ23で検知されたか否かをチェックする(ステップS12)。
【0033】
(3)高速列車が第3の車両検知センサ23で検知されると、この第3の車両検知センサ23の出力信号により下線5の開閉装置8の制御装置11Bが動作し、閉じられていた開閉装置8が開かれて高速列車が通過する(ステップS13)。
【0034】
(4)次に、高速列車が第4の車両検知センサ24で検知されたか否かをチェックする(ステップS14)。
【0035】
(5)高速列車が第4の車両検知センサ24で検知されると、第4の車両検知センサ24からの出力信号により制御装置11Bが作動し、開かれていた開閉装置8が再び閉じられる(ステップS25)。
【0036】
なお、上記した動作フローでは、一定の風速を維持するために送風機を常時駆動するようにしているが、高速列車が走行しない夜間などは必要に応じて送風機を動作させないようにすることができる。
【0037】
また、上記した実施例では、高速列車の走行位置に応じて開閉装置3,8を制御しているが、通常の踏切の開閉のように、列車が所定の閉そく区間にいる間だけ開閉装置3,8を開き、閉そく区間にいないときは閉じておくようにしてもよい。なお、本発明では、長大トンネルの出入口の開閉装置を機械的なものとしたが、機械的な開閉装置に代えて、エアーカーテンを配置するようにしてもよい。
【0038】
この上下線連結型高速気流循環トンネルでは、例えば、30m/sの風を送風機によって循環させる場合、走行する高速列車は108km/hの追い風を受けることになり、前方空気抵抗、周面空気摩擦の低減を図ることができる。よって、高速列車の走行エネルギーを抑えられるとともに、騒音振動も抑制することができる。
【0039】
また、長大トンネルの出口の近くに上線1と下線5又は下線5と上線1とを連通する送風路4,9が形成されるため、トンネルの出口でのトンネル微気圧波を抑えることができる。
【0040】
また、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の上下線連結型高速気流循環トンネルは、高速通過列車に対して追い風を発生させることで、エネルギー的にも騒音振動的にも抑制される鉄道用トンネルとして利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施例を示す上下線連結型高速気流循環トンネルの模式図である。
【図2】本発明の実施例を示す上下線連結型高速気流循環トンネルの制御システムの構成図である。
【図3】本発明の実施例を示す上下線連結型高速気流循環トンネルの上線の動作フローチャートである。
【図4】本発明の実施例を示す上下線連結型高速気流循環トンネルの下線の動作フローチャートである。
【符号の説明】
【0043】
1 上線
2 上線の長大トンネル
2A 上線の長大トンネルの入口
2B 上線の長大トンネルの出口
3 上線の開閉装置
4 第1の送風路
5 下線
6 第1の送風機
7 下線の長大トンネル
7A 下線の長大トンネルの入口
7B 下線の長大トンネルの出口
8 下線の開閉装置
9 第2の送風路
10 第2の送風機
12 上線の列車進行方向
13 下線の列車進行方向
14 第1の送風路の送風方向
15 第2の送風路の送風方向
11A,11B 制御装置
21 第1の車両検知センサ
22 第2の車両検知センサ
23 第3の車両検知センサ
24 第4の車両検知センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)長大トンネルを有する上下線の2箇所に連通される送風路と、
(b)該送風路に配置される送風機と、
(c)前記長大トンネルの出口に配置される開閉装置と、
(d)高速列車の走行位置に応じて前記開閉装置を制御する制御手段を具備することを特徴とする上下線連結型高速気流循環トンネル。
【請求項2】
請求項1記載の上下線連結型高速気流循環トンネルにおいて、前記送風路を前記長大トンネルの出入口の近傍に設けることを特徴とする上下線連結型高速気流循環トンネル。
【請求項3】
請求項1記載の上下線連結型高速気流循環トンネルにおいて、前記送風機を前記2箇所の送風路にそれぞれ配置することを特徴とする上下線連結型高速気流循環トンネル。
【請求項4】
請求項3記載の上下線連結型高速気流循環トンネルにおいて、前記開閉装置の制御手段は、前記高速列車の走行位置に対応して稼働制御を行うことを特徴とする上下線連結型高速気流循環トンネル。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−116734(P2010−116734A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−291190(P2008−291190)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)