説明

上向きろ過装置

【課題】 狭い設置スペースでも複数個のろ過装置を配置することができ、洗浄も容易で、浄水を大量に得ることができる上向きろ過装置を提供する。
【解決手段】ろ砂、砂利等からなるろ過材(3)と、被処理水を供給する供給管(11)と、ろ過材(3)中の被処理水を排水するための排水管(14)とから上向きろ過装置(1)を構成する。ろ過材(3)は、下層から上層に向かって粒径が小さくなるように積層する。複数個の上向きの穴(12)が明けられた供給管(11)と、複数個の下向きの穴(15)が明けられた排水管(14)とをろ過材(3)に埋める。被処理水を供給管(11)から供給すると、ろ過材(3)中を上向きに流れ、ろ過材(3)の上方から浄水が得られる。ろ過材(3)が目詰まりしたら排水管(12)に設けられている弁(16)を開く。そうすると、ろ過材(3)中の被処理水が、懸濁物質と共に排水され目詰まりが解消する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川、湖沼等から取水された水、汲み上げられた地下水等の原水がろ砂を含むろ過材によってろ過されるとき、該ろ過材中を上向きに流れるようになっている上向きろ過装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生活用水、飲用水等に利用される水道水、いわゆる浄水は、河川、湖沼、ダム等から取水された水、あるいは地下から汲み上げられた地下水等の原水を浄化処理して得られる。原水には、微生物やごみがコロイド状に浮遊する懸濁物質が含まれているのでそのままでは飲用には不適である。そこで、原水は、所定のろ過方法によって懸濁物質が取り除かれ、有効塩素換算濃度が約1ppmになるように塩素が注入され、家庭、工場、学校等に水道水として配水される。原水から懸濁物質を取り除く設備として、ろ砂を含んだろ過材が設けられたろ過池が周知である。ろ過池には、ろ過された水を集水するろ床が設けられており、ろ床の上に下層から上層に向かって粒径が小さくなるようにろ過材が設けられている。従って、ろ過池に原水を導くと、原水がろ過材中を下向きに流れてろ過され、ろ過水がろ床にて集水されることになる。このようなろ過池として、緩速ろ過池と急速ろ過池が周知である。
【0003】
緩速ろ過池は、平均粒径0.3〜0.45mmのろ砂の層が設けられているろ過池であり、殺菌用の次亜塩素酸ナトリウムが注入されないで、原水がろ過されるようになっている。緩速ろ過池に、沈砂池等で水中に浮遊している砂やごみが沈められた原水を導く。そうすると、原水には殺菌用の薬剤が注入されていないので、緩速ろ過池で微生物は死滅しない。従って、ろ砂の層にはろ砂と該ろ砂に付着して繁殖したバクテリアとからなる所定の厚さの生物層が形成されることになる。このような生物層は層の厚さが薄いので生物膜とも呼ばれている。原水が生物層を通るとき、水中の有機物が分解されるので、カビ臭が除去されて美味しい水を得ることができる。緩速ろ過池においては生物層は1〜2cmの厚さにしか形成されないので、水を生物層で十分に処理するためには、生物層を通る水の速度、すなわちろ過速度を制限しなければならない。従って、緩速ろ過池においてはろ過速度は最大でも8m/日程度である。
【0004】
急速ろ過池は、平均粒径0.45〜0.7mmのろ砂の層が設けられたろ過池であり、沈殿池の下流に設けられている。原水に凝集剤が注入されて懸濁物質の大部分が沈殿池で凝集沈殿した後、上澄み水に次亜塩素酸ナトリウムが注入されて殺菌される。このような塩素が溶存している上澄み水が急速ろ過池に導かれる。そうすると、急速ろ過池のろ砂でろ過され、残存していた懸濁物質が除去されることになる。ろ砂には生物層はほとんど形成されないので、ろ過速度を120〜150m/日にすることができ、比較的効率よく大量の浄水を得ることができる。
【0005】
緩速ろ過池も急速ろ過池も原水がろ砂からなるろ過材でろ過されて浄水が得られるようになっているが、ろ過材全体を十分に活用できていないという問題がある。すなわち、これらの池においてはろ過材は、ろ床の上に下層から上層に向かって粒径が小さくなるように設けられているので、最上層のろ砂が最も目が細かい。そうすると、原水中に浮遊している懸濁物質が最上層のろ砂だけで濾し取られることになってしまい、ろ過材全体がろ過に活用されていない。このため、最上層のろ砂に懸濁物質が堆積して、ろ過閉塞が発生し易いという問題が生じてしまう。このようなろ過閉塞を解消するために、これらの池では運転を停止して格別にメンテナンスする必要がある。すなわち、緩速ろ過池においては、ろ過池から水を抜いた後にろ過閉塞してしまったろ砂表面だけを人力で掻き出す必要がある。また、急速ろ過池においては、ろ過材の下方から浄水を噴出させてろ砂を含むろ過材を洗浄する、いわゆる逆洗を実施する必要がある。この洗浄後の洗浄排水には、凝集剤や次亜塩素酸が含まれているので河川に放流することができず、沈殿池の上流に戻して再処理する必要がある。従って、緩速ろ過池においては、人件費が嵩んでしまうし、急速ろ過池においては、浄水を要したり洗浄排水を廃棄できないのでコストが嵩んでしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平04−27882号公報
【0007】
特許文献1には、ろ砂を含んだろ過材中を上向きにろ過させて浄水を得る、上向きろ過装置50が記載されている。特許文献1に記載の上向きろ過装置50は、図3に示されているように、内部が3槽に仕切られている。すなわち、原水が最初に流入する槽であって原水中の粒径の大きな懸濁物質が除去される予備ろ過槽51と、予備ろ過槽51の下方に設けられ処理後の原水が滞留して比重が大きな懸濁物質が沈殿する沈殿槽52と、予備ろ過槽51の隣でかつ沈殿槽52の上方に設けられている本ろ過槽53と、に仕切られている。予備ろ過槽51は、多数の穴が明けられた第1の底板55と、この底板55の上に下層から上層に向かって粒径が小さくなるように積層されたろ過材56とからなる槽であり、ろ過材56の最上層は、比較的目の粗い砂利層57になっている。このような予備ろ過槽51には、原水が流入する流入管58が設けられている。沈殿槽52は、予備ろ過槽51から流入した水が滞留する槽であり、底面59が一方に傾斜している。沈殿槽52の天井は、第1の底板55と、本ろ過槽53の底板であり多数の穴が明けられた第2の底板61とから構成されている。このような沈殿槽52には、底面59に沈殿した懸濁物質を排出する排泥管62が設けられている。本ろ過槽53は、沈殿槽52で処理された水をろ過する槽であり、第2の底板61と、この第2の底板61の上に下層から上層に向かって粒径が小さくなるように積層されたろ過材63とから構成されている。このろ過材63の最上層は比較的目の細かいろ砂層64になっている。本ろ過槽53の上部には、ろ過された浄水が流出する浄水管66が設けられており、中央部にはろ過材63を洗浄する浄水を外部から供給するための洗浄管67が設けられ、洗浄管67はろ過材63内に埋められている。また、本ろ過槽53の側壁にはろ過材63を洗浄したときに排出される泥を外部に排出する排泥溝68が設けられている。
【0008】
上向きろ過装置50において、懸濁物質が含まれている原水が流入管58から予備ろ過槽51に流入すると、砂利層57において粒径の大きな懸濁物質が除去され、矢印71で示されているように、第1の底板55の穴から沈殿槽52に流れる。その後原水は沈殿槽52で所定時間滞留して、比重の大きな懸濁物質72が底面59に沈殿する。沈殿槽52で滞留した原水は、矢印73で示されているように、第2の底板61を経由してろ過材63中を上向きに流れてろ過される。従って、ろ過材63の中を、粒径の大きなろ過材の層から粒径の小さなろ過材の層に流れていくので、各層において粒径の異なる懸濁物質が補足されることになる。つまり、ろ過材63全体が活用される。ろ過後の浄水は浄水管66から外部に送水される。このような上向きろ過装置50においても、ろ過材63は懸濁物質によって目詰まりしてろ過閉塞してしまうので、適宜ろ過材63を洗浄してろ過閉塞を解消する必要がある。ろ過材63の洗浄は次のようにする。まず、流入管58に設けられている弁を閉じて原水の流入を止め、排泥管62を開けて沈殿槽52内の原水を沈殿した懸濁物質72と共に排出する。排泥管62を閉じる。そうすると本ろ過槽53内の水も第2の底板62から下方に流れる。洗浄管67から洗浄水、すなわち浄水を供給する。そうすると洗浄水はまず、矢印74で示されているようにろ過材63中を下方に流れて、粒径の大きなろ過材が洗浄される。沈殿槽52が洗浄水で満たされると、矢印75で示されているように洗浄水はろ過材63中を上方に流れ、ろ砂層64のろ砂を巻き上げる。そうすると、ろ過材63中の懸濁物質が洗浄水と共に巻き上げられてろ過材63が洗浄される。洗浄後の水は排泥溝68で集水されて、外部に排出される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の上向きろ過装置50によれば、原水はろ過材中を上向きに流れるので、ろ過材の粒径が小さくなる方向に流れることになる。従って、粒径の大きな懸濁物質は粒径の大きなろ過材でろ過され、粒径の小さな懸濁物質は粒径の小さなろ過材でろ過されることになり、ろ過材全体で効率よくろ過されることになる。従って、緩速ろ過池や急速ろ過池と比較して、ろ過材が効率よく活用されて、ろ過材が目詰まりしにくい。しかしながら、解決すべき問題点も見受けられる。たとえば、特許文献1に記載の上向きろ過装置50によれば、本ろ過槽53の下方に沈殿槽52を設ける必要があるので、上向きろ過装置50の高さが高くなってしまう問題がある。装置の高さが高いので、上向きろ過装置50を設置する工事費用が嵩んでしまう。また、沈殿槽52には原水を滞留させる必要があるので、ある程度の容量が必要になる。そうすると原水が貯められた沈殿槽52の重量は大きくなる。上向きろ過装置50を複数個設置したい場合に、このように高さが高く重量が大きいと、複数個垂直方向に重ねることが困難になってしまう。そうすると、複数個の上向きろ過装置50を水平方向に並べて配置しなければならず、設置のために広大な敷地が必要になる。そうすると、大都市近郊に設置することが難しい。また、洗浄の問題もある。特許文献1に記載の上向きろ過装置50においては、ろ過材63を洗浄するときに格別に浄水を必要とするので費用が嵩む。また、ろ過材63を洗浄した水は排泥溝68から外部に排出されるが、懸濁物質で汚れた水の一部がろ砂層64の表面に残ってしまうので、上向きろ過装置50の運転再開後に得られる浄水には、懸濁物質が混入してしまう恐れがある。さらには、洗浄中は上向きろ過装置50を停止しなければならないので、浄水を得ることができなくなるという問題もある。
【0010】
特許文献1に記載の上向きろ過装置50においては、原水中に格別に凝集剤や次亜塩素酸が注入されないので、生物が死滅することがないという利点が認められる。そうすると、緩速ろ過池のようにろ過材63中に生物層が形成され、美味しい浄水が得られると考えられる。しかしながら、原水の状態によっては、どの程度生物層が形成されるかが不明であるので、十分に生物処理される保証はない。生物層が効率よく形成されるための工夫の余地が認められる。
【0011】
本発明は、上記したような問題点に鑑みてなされた上向きろ過装置を提供することを目的としており、具体的には、装置の高さが低く重量が小さく、従って複数個の装置を設置する場合に、垂直方向に配置することができて格別に広い設置スペースを要することがなく、ろ過材を洗浄するときには、浄水を必要としないだけでなく、洗浄中でもろ過装置を運転することが可能であり、さらには洗浄後の排水が浄水に混入する恐れもない上向きろ過装置を提供することを目的としている。さらには、ろ過材に生物層が効率よく形成されて、原水が生物処理されて美味しい水が得られるような上向きろ過装置を提供することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記目的を達成するために、上向きろ過装置を、ろ砂、砂利等からなるろ過材と、河川、湖沼から取水された原水や地下水等の被処理水を供給する供給管と、ろ過材中に存在している被処理水を排水するための排水管とから構成する。ろ過材は、下層から上層に向かって粒径が小さくなるように積層する。供給管と排水管とをろ過材に埋め、供給管には複数の上向きの穴が、排水管には複数の下向きの穴がそれぞれ明けられている。排水管には開閉可能な弁を設ける。被処理水を供給管から供給すると、被処理水はろ過材を上向きに流れてろ過され、ろ過材の上方から浄水が得られる。ろ過材が目詰まりしたら排水管に設けられている弁を開く。そうすると、ろ過材中に存在している被処理水が、懸濁物質と共に排水管を介して外部に排出され、ろ過材の目詰まりが解消する。また、他の発明においては、このような上向きろ過装置を複数台垂直方向に配置する。そして、それぞれの供給管の上流に微細気泡発生装置を設け、ろ過材に供給される被処理水に80μm以下の径の空気の気泡が混入されるようにする。また、供給管の上流にミネラル注入装置を設け、必要に応じて被処理水にミネラル水を注入するようにする。
【0013】
かくして、請求項1記載の発明は、上記目的を達成するために、ろ砂、砂利等からなるろ過材に被処理水を上向きに流してろ過するようになっている上向きろ過装置であって、前記ろ過材は、下層から上層に向かって粒径が小さくなるように積層され、前記ろ過材中には、前記被処理水が供給される供給管と、所定の弁を備えた排水用の排水管とが埋められており、前記供給管を介して外部から被処理水が供給されると前記ろ過材の上方からろ過水が得られ、前記弁を開くと前記ろ過材中の被処理水が前記排水管を介して外部に排出されるように構成される。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のろ過装置において、前記供給管の前記ろ過材に埋められている部分には複数個の穴が上向きに明けられており、前記排水管の前記ろ過材に埋められている部分には複数個の穴が下向きに明けられるように構成される。
そして、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のろ過装置において、前記供給管の上流には微細気泡発生装置が設けられ、前記ろ過材に供給される被処理水に80μm以下の径の空気の気泡が混入されるように構成される。
また、請求項1〜3のいずれかの項に記載のろ過装置において、前期供給管の上流にはミネラル水注入装置が設けられ、粉砕された雲母系鉱物と無機酸とから調製され希釈されたミネラル水が、必要に応じて前期被処理水に注入されるように構成される。
さらには、請求項5に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかの項に記載のろ過装置が、複数個垂直方向に並べられて配置されるように構成される。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によると、ろ砂、砂利等からなるろ過材に被処理水を上向きに流してろ過するようになっている上向きろ過装置であって、ろ過材は、下層から上層に向かって粒径が小さくなるように積層されているので、懸濁物質を含んだ被処理水は、粒径の大きなろ過材の層でろ過された後に、粒径の小さなろ過材の層でろ過されることになり、ろ過材全体が効率よく利用されることになる。従って、ろ過材の最上層だけが目詰まりしてしまう緩速ろ過池や急速ろ過池と比べて、ろ過材が目詰まりし難く長時間ろ過することができる。そして、ろ過材中には、被処理水が供給される供給管が埋められており、供給管を介して外部から被処理水が供給されるとろ過材の上方からろ過水が得られるようになっているので、構造がシンプルであり、格別にろ過装置の下方に沈殿槽を設ける必要がない。従って、ろ過装置の高さを低くすることが可能であり、ろ過装置全体の重量も小さくなる。そうすると、複数台の上向きろ過装置を垂直方向に並べて配置することも可能になるという本発明に特有の効果が得られる。また、ろ過材中には、所定の弁を備えた排水用の排水管が埋められており、弁を開くとろ過材中の被処理水が排水管を介して外部に排出されるようになっているので、ろ過材の目詰まりを容易に解消することができるし、上向きろ過装置を運転中であってもろ過材の洗浄を平行して実施することもできる。さらには、ろ過材を洗浄するために格別に浄水を必要としないのでメンテナンス費用も安価であるし、洗浄後の排水がろ過材の上方に漏れることがないので、運転再開後に排水が浄水に混入する恐れもない。また、この上向きろ過装置においては、格別に凝集剤や次亜塩素酸が注入されないので、排水管から排水される懸濁物質を含んだ被処理水はそのまま河川に放流することも可能である。
【0015】
他の発明によると、供給管のろ過材に埋められている部分には複数個の穴が上向きに明けられており、排水管のろ過材に埋められている部分には複数個の穴が下向きに明けられているので、被処理水は上向きに流れて効率よくろ過され、下方に沈殿しやすい懸濁物質は排水管から外部に排出されやすい。また、他の発明によると、供給管の上流には微細気泡発生装置が設けられ、ろ過材に供給される被処理水に80μm以下の径の空気の気泡が混入されるようになっているので、被処理水には大量の空気が溶解すると共に、微細な気泡が含まれることになる。ろ過材には、このような被処理水が供給されるので、ろ過材中に水処理に適した好気性の微生物が効率よく繁殖して生物層の厚さが厚くなる。このような厚い生物層で被処理水をろ過することができるので、ろ過速度を高速にしても十分に被処理水を処理することができるし、被処理水中に含まれている有機物を分解でき、美味しくて安全な浄水を大量に得ることができる。そして、供給管の上流にミネラル水注入装置が設けられている発明によると、必要に応じてミネラル水が被処理水に注入されるので、微生物の活性を高めることができる。そうすると、ろ過砂が新しい場合であっても速やかに生物層が形成されるし、形成される生物層の厚さを確実に厚くすることができる。従って、十分に生物処理できるので美味しい浄水を大量に得ることができる。複数台の上向きろ過装置が垂直方向に配置されている発明によると、広大なスペースの確保が難しい都市部においても設置が容易になるという本発明に特有の効果が得られる。従って、狭い設置スペースであっても大量の浄水を効率よく得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態に係る上向きろ過装置を模式的に示す側面断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る上向きろ過設備が複数台垂直方向に配列され、原水の流入管の上流に微細気泡発生装置が設けられているろ過装置を模式的に示す側面図である。
【図3】従来例に係る上向きろ過装置を模式的に示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図1によって、本実施の形態に係る上向きろ過装置1を説明する。本実施の形態に係る上向きろ過装置1は、高さが約60cm程度の単一のろ過槽2から構成されている。ろ過槽2は内部が格別に分割されておらず、比較的シンプルな密閉構造を呈しており、図1には示されていないが、上部にメンテナンス用の蓋が設けられている。ろ過槽2にはろ過材3が入れられており、ろ過材3は最下層から小石の層4、粒径の大きい砂利層5、粒径の小さな砂利層6、粒径の大きなろ砂層7、粒径が中程度のろ砂層8、粒径の小さなろ砂層9のように、粒径が上に向かって小さくなるように積層され、最上層のろ砂層9は、粒径が0.3〜0.45mmのろ砂から約15〜20cmの厚さに形成されている。また、ろ過材3の全体の層の厚さは、約40cmに形成されている。
【0018】
このようなろ過材3の小石の層4には、ろ過する水、すなわち被処理水を供給する供給管11が、ろ過槽2の外部から引き入れられて所定の長さだけ埋められている。供給管11の埋められた部分には上方に開口する多数の穴12、12、…が明けられている。同様に、ろ過材3中の被処理水を外部に排出するための排水管14が所定長さだけろ過材3に埋められてろ過槽2の外部に引き出されている。排水管14の埋められた部分には下方に開口する多数の穴15、15、…が明けられており、排水管14の所定の部分には開閉可能な弁16が設けられている。そして、ろ過槽2の上部には、ろ過材3の上方に開口する浄水管18が設けられ、ろ過水、すなわち浄水を外部に送水できるようになっている。
【0019】
本実施の形態に係る上向きろ過装置1の作用を説明する。河川、湖沼、ダム等から原水を取水する。または地下水を汲み上げる。原水または地下水を沈砂池や沈殿池等で滞留させ、砂や泥、比較的大きな懸濁物質を沈殿させる。このような水を被処理水として供給管11から供給する。あるいは、原水または地下水をそのまま被処理水として供給管11から供給する。供給された被処理水は供給管11の穴12、12、…から噴出して、ろ過材3中に満たされると共に、矢印20で示されているように、ろ過材3を上向きに流れてろ過される。ろ過された水、すなわち浄水は最上層のろ砂層9の上に貯まり、浄水管18から外部に送水される。本実施の形態においては、ろ過速度は例えば25〜50m/日にすることができ、効率よく浄水を得ることができる。
【0020】
上向きろ過装置1の運転を継続していると、ろ過材3中に懸濁物質が蓄積されてろ過材3が目詰まりする、いわゆるろ過閉塞が発生する。次のようにしてろ過閉塞を解消する。排水管14に設けられている弁16を開く。そうすると、ろ過材3の中に滞留している被処理水が、矢印21、21、…で示されているように、穴15、15、…から排水管14に入り、排水管14を経由して外部に排出される。このとき、ろ過材3中に蓄積されていた懸濁物質も被処理水と一緒に排水管14から外部に排出される。ろ過閉塞が解消する。排水中には薬品が含まれておらず、懸濁物質は元々原水や地下水に含まれていたものであるので、そのまま河川等に排水することができる。弁16を閉じる。このようなろ過閉塞を解消するメンテナンスにおいては、ろ砂を洗浄水によって巻き上げる、いわゆる逆洗は実施されないので、メンテナンス後に濁質を含んだ洗浄排水が浄水に混入する恐れがない。従って、安全が確保されている。また、メンテナンスは上向きろ過装置1を停止して実施することもできるし、運転して浄水を得ながら実施することもできる。従って、メンテナンスによる効率の低下は最小限に抑えることができる。
【0021】
次に、第2の実施の形態に係るろ過装置25を説明する。第2の実施の形態に係るろ過装置25は、被処理水に微細な空気の気泡を混入する微細気泡混入装置26と、複数台の第1の実施の形態に係る上向きろ過装置1、1、…とから構成されている。微細気泡混入装置26は、被処理水が所定量滞留する微細気泡混入槽28と、槽内に設けられ微細気泡を発生させる微細気泡発生装置29と、槽内に設けられ被処理水を送水する送水ポンプ30とから構成され、微細気泡混入槽28には、被処理水が供給される供給本管31が設けられている。
【0022】
微細気泡発生装置29は、キャビテーションによって気泡を発生させる方式のもの、所定の容器内で水を旋回させて空気の渦を形成して気泡を発生させる方式のもの等、色々な方式の装置が周知であり、例えば、特許第3397154号公報に記載されている旋回式微細気泡発生装置を採用することができる。微細気泡発生装置29を稼動すると、被処理水中に数μm〜500μmの微細な空気の気泡を発生させることができる。このような微細な気泡のうち小径の気泡、例えば数〜10μmの気泡は、数秒〜10数秒で被処理水に溶解して消滅してしまったり、径が小さくなって視認することができなくなる。一方、比較的大きな気泡、例えば400μm以上の気泡は互いに融合して大きな泡となって水面に浮かんでしまう。比較的小径の気泡、例えば10〜80μmの気泡は、一部が被処理水に溶解してしまうが、所定の割合の気泡はしばらく被処理水中に残存する。このような気泡には浮力が作用するが、水の粘性抵抗が大きいので数〜10μm/秒の速度でしか浮上せず、特に65μm以下の気泡は浮上し難く、10〜40μmの気泡は沈降することもある。従って、このような微細な径の気泡は、少しずつ被処理水に溶解しながら所定の時間水中を漂って被処理水の流れと共に流動することになる。
【0023】
本実施の形態においては、微細気泡混入装置26の微細気泡混入槽28には、必要に応じて被処理水にミネラル水を注入するミネラル注入装置35も設けられている。このミネラル水は、各種の金属が溶解した酸性水からなり、微生物の活性を高める目的で所定濃度に希釈されて注入される。注入されると、後段に設けられている上向きろ過装置1、1、…のろ砂層9、9、…において生物層が厚く形成されることになる。このようなミネラル水は、概略的には、雲母系鉱物に無機酸を作用させて得られる。雲母系鉱物には、黒雲母、金雲母、鉄雲母、チンワルド雲母等の黒雲母系列雲母もあるし、白雲母、紅雲母、ソーダ雲母、セリサイト、イライト等の白雲母系列雲母もあり、いずれの雲母からもミネラル水を得ることができる。また、雲母を含有する鉱物、例えば花崗岩、長石等の鉱物およびこれが風化してできる鉱物も利用することができる。しかしながら、これらの雲母が風化してできるバーミキュライト、すなわち蛭石が特にミネラル水を得るのに適している。バーミキュライトには鉱物中のミネラル成分が多く、かつ溶解しやすいからである。このような雲母系鉱物を粉砕する。粉砕された雲母系鉱物に対して、硫酸、塩酸等の無機酸を所定の割合で添加するが、本実施の形態においては25%濃度の硫酸水溶液を、重量比で4:3〜4となるように添加する。これを常温で数日間放置した後、所定のフィルタで不溶物を除去すると、各種金属が高濃度で溶解した酸性液、すなわち含金属酸性溶液が得られる。粉砕された雲母系鉱物に対して無機酸を添加後、例えば100℃に加熱すると数時間で含金属酸性溶液を得ることもできる。この含金属酸性溶液を所定の割合、例えば100〜10000倍に希釈してミネラル水を得る。このようにして得られるミネラル水、すなわち含金属酸性溶液には、Si、Al、Mg、Fe、K、Na等が多量に含まれ、微量成分としてLi、Zr、V、Ni、Co、P、Ba、S等も含まれている。一方で、Hg、As、Pb、Cd、Cr等の有害物は検出されないので、安全に被処理水に注入することができる。
【0024】
このような微細気泡混入装置26の下流には、本実施の形態に係る上向きろ過装置1、1、…が複数台設けられている。具体的には、複数台の上向きろ過装置1、1、…が所定の支持構造によって垂直方向に並べられている。従って、狭い設置場所に効率よく複数台のろ過装置が配置されていることになる。このような上向きろ過装置1、1、…の供給管11、11、…には、微細気泡混入装置26の送水ポンプ30が接続され、送水ポンプ30を駆動すると被処理水が各上向きろ過装置1、1、…に供給されるようになっている。上向きろ過装置1、1、…の浄水管18、18、…は合流して、浄水本管32に接続されている。また、排水管14、14、…も合流して、排水本管33に接続されている。
【0025】
本実施の第2の形態に係るろ過装置25の作用を説明する。河川、湖沼、ダム等から取水した原水、または汲み上げられた地下水を、沈砂池に導いて所定時間滞留させてごみや砂を沈殿させ、被処理水として微細気泡混入装置26に導く。あるいは、取水した原水や汲み上げられた地下水を、そのまま微細気泡混入装置26に導く。微細気泡発生装置29を起動して被処理水に微細な空気の気泡を混入する。このような気泡は、例えば、10〜80μmの気泡が200個〜数千個/mlになるように被処理水に混入することになるが、前記したように所定の割合の気泡は短時間に被処理水に溶解し、所定の割合の気泡が残存する。このように微細な気泡が混入した被処理水を、送水ポンプ30によって所定の水圧に加圧して、供給管11、11、…を経由して各上向きろ過装置1、1、…に供給する。
【0026】
上向きろ過装置1、1、…に供給された被処理水は、大量の空気が溶解していると共に微細な空気の気泡を含んだ状態で、ろ過材3、3、…中を流れる。そうすると、ろ過材3、3、…中で好気性のバクテリアが効率的に繁殖する。従って、ろ砂層9、9、…には、ろ砂と該ろ砂に付着して繁殖したバクテリアからなる層、すなわち生物層が厚く形成されることになる。このように厚く形成された生物層によってろ過するので、ろ過速度を高速にしても被処理水中の有機物を十分に分解でき、懸濁物質を捕捉することがことができる。ところで、被処理水の水質によっては生物層が十分に厚く形成されない場合もある。または、上向きろ過装置1、1、…のろ過砂が新しい場合には、生物層の形成が遅い。このような場合には、ミネラル注入装置35によって被処理水にミネラル水を所定の割合で注入する。例えば被処理水に対してミネラル水を注入するとき、ミネラル水の希釈前の含金属酸性溶液が、被処理水に対して0.5〜10ppm、好ましくは1〜5ppmになるように注入する。そうすると、微生物の活性が高くなり、上向きろ過装置1、1、…のろ過材3、3、…中で好気性のバクテリアが効率的に繁殖する。バクテリアの繁殖が十分でないときには、短期的に10〜100ppmになるように注入してもよい。そうすると、バクテリアが活性化してろ砂層9、9、…において生物層が厚く形成される。生物層の厚さが十分な厚さに形成されたらミネラル水の注入を停止する。以後、十分に厚く形成された生物層によって効率よく被処理水をろ過することができる。すなわち、大量の浄水を効率よく得ることができる。ろ過材3、3、…をろ過した浄水は、浄水管18、18、…を経由して集水され、浄水本管32によって送水される。
【0027】
ろ過材3、3、…のろ過閉塞が発生しても、前実施の形態において説明したように、弁16、16、…を開いて懸濁物質を含んだ被処理水を排水して、ろ過閉塞を解消することができる。本実施の形態においては、複数台の上向きろ過装置1、1、…が設けられているので、1装置毎に、ろ過閉塞を解消するメンテナンスを実施することができる。そうすると、メンテナンス中の上向きろ過装置1を停止したとしても、他の上向きろ過装置1、1、…では運転を継続することができるので、ろ過装置25全体の浄水の生産効率低下は抑制されることになる。
【0028】
本実施の形態に係る上向きろ過装置は色々な変形が可能である。例えば、原水には格別に薬品が注入されるようには説明されていないが、原水中に懸濁物質が大量に含まれている場合には、原水にポリ塩化アルミニウム、硫酸バンド等の凝集剤を添加して、原水中の懸濁物質を凝集させて沈殿池で沈殿させることも可能である。このように処理した水を被処理水として上向きろ過装置に供給すると、ろ過材3がさらにろ過閉塞し難くなる効果が得られる。また、原水を砂利、粒径の大きい砂等のフィルタに通してから、微細気泡混入装置26や上向きろ過装置1に導いても良い。このようにしても原水中の懸濁物質をある程度除去することができるので、ろ過材3はろ過閉塞し難くなる。供給管11、排水管14についても変形が可能であり、これらは1本ずつ設けられて、ろ過材3に埋められているように説明されているが、複数本設けられて所定の間隔でろ過材3に埋められていてもよい。また、供給管11や排水管14は、直管に形成されている必要はなく、ろ過材3中で蛇行するような形状に形成されていてもよい。なお、本実施の形態において、ろ過槽2の大きさやろ過材3、ろ砂層9の厚さについて説明されているが、これらは例であり大きさや厚さが異なっていても実施できるのは明らかである。
【符号の説明】
【0029】
1 上向きろ過装置 2 ろ過槽
3 ろ過材 9 ろ砂層
11 供給管 12 穴
14 排水管 15 穴
18 浄水管 25 ろ過装置
26 微細気泡混入装置 28 微細気泡混入槽
29 微細気泡発生装置 30 送水ポンプ
35 ミネラル注入装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ろ砂、砂利等からなるろ過材に被処理水を上向きに流してろ過するようになっている上向きろ過装置であって、
前記ろ過材は、下層から上層に向かって粒径が小さくなるように積層され、前記ろ過材中には、前記被処理水が供給される供給管と、所定の弁を備えた排水用の排水管とが埋められており、前記供給管を介して外部から被処理水が供給されると前記ろ過材の上方からろ過水が得られ、前記弁を開くと前記ろ過材中の被処理水が前記排水管を介して外部に排出されるようになっていることを特徴とする上向きろ過装置。
【請求項2】
請求項1に記載のろ過装置において、前記供給管の前記ろ過材に埋められている部分には複数個の穴が上向きに明けられており、前記排水管の前記ろ過材に埋められている部分には複数個の穴が下向きに明けられていることを特徴とする上向きろ過装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のろ過装置において、前記供給管の上流には微細気泡発生装置が設けられ、前記ろ過材に供給される被処理水に80μm以下の径の空気の気泡が混入されるようになっていることを特徴とする上向きろ過装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかの項に記載のろ過装置において、前期供給管の上流にはミネラル水注入装置が設けられ、粉砕された雲母系鉱物と無機酸とから調製され希釈されたミネラル水が、必要に応じて前期被処理水に注入されるようになっていることを特徴とする上向きろ過装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかの項に記載のろ過装置が、複数個垂直方向に並べられて配置されていることを特徴とする上向きろ過装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−110533(P2011−110533A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−271959(P2009−271959)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(509071127)
【Fターム(参考)】