説明

上顎側人工歯列及び下顎側人工歯列

【課題】顎関節を支点とした3次元的な下顎運動を阻害することなく機能的に良好な入れ歯を容易に作ることのできる上顎側人工歯列及び下顎側人工歯列を提供することである。
【解決手段】本発明に係る上顎側人工歯列10は、複数の人工歯(10L1〜10L7、10R1〜10R7)が、人の上顎側の全歯に対応するように連なるとともに、該複数の人工歯(10L1〜10L7、10R1〜10R7)の先端部が所定の球状凹面Cに沿って配列された構成である。また、本発明に係る下顎側人工歯列20は、複数の人工歯(20L1〜20L7、20R1〜20R7)が、前記上顎側人口歯列10に咬合するように配列され、人の下顎側の全歯に対応するように連なった構成となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入れ歯を作るために用いられる上顎側人工歯列及び下顎側人工歯列に関する。
【背景技術】
【0002】
上顎側の総入れ歯(全部床義歯)を作成する場合、一般的に、無歯顎模型にろう提を形成し、このろう提を加熱によって軟化させながら人工歯を1本ずつ配列するという作業が行なわれる。この人工歯の配列は、患者の顎運動に適合するものでなければならず、その配列作業には熟練が必要であり、また、多大な時間を要する。
【0003】
そこで、複数の人工歯を連結した連結歯(人工歯列)が提案されている(特許文献1参照)。このような連結歯を用いれば、人工歯を1本ずつ配列する場合に比べて、その配列作業における作業工数を低減することができる。
【特許文献1】特開平6−261917号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、図1(a)に示すように、人の上顎MXと下顎MNとは、前歯部から臼歯部がある種の彎曲面C1(Spee彎曲のような彎曲)に沿って配列されるものであり、また、左右方向についても、図1(b)に示すように、ある種の彎曲面C2(Wilson彎曲のような彎曲)に沿って配列されるものである。相互に咬合すべき上顎MXの歯列及び下顎MNの歯列において前述したような彎曲状態が維持されていないと、顎関節を支点とした下顎MNの運動において臼歯部等に有害な側方圧がかかるおそれがある。
【0005】
前述したような従来の連結歯における人工歯の配列は、単に2次元的な基準となる標準的な歯列弓に沿って配列されたものであり、前述したような3次元的な下顎運動を何ら考慮したものとはなっていない。そのため、有害な側方圧がかからない等の機能的に良好な入れ歯を作るには、実際の患者に装着して種々の調整作業が必要となるなど、それ相応の熟練が必要であることに変わりがない。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、顎関節を支点とした3次元的な下顎運動を阻害することなく機能的に良好な入れ歯を容易に作ることのできる上顎側人工歯列及び下顎側人工歯列を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る上顎側人工歯列は、複数の人工歯が、人の上顎側の全歯に対応するように連なるとともに、該複数の人工歯の先端部が所定の球状凹面に沿って配列された構成となる。
【0008】
このような構成により、複数の人工歯が上顎側の全歯に対応するように連なっているので、入れ歯を作るに際して人工歯を1本ずつ配列する作業を行なう必要がなく、その配列作業が極めて容易になる。また、前記複数の人工歯の先端部が所定の球状凹面に沿って配列されているので、上顎側の入れ歯において、顎関節を支点とした下顎の3次元的な運動を考慮した構造を容易に実現することが可能となる。
【0009】
また、本発明に係る上顎側人工歯列において、前記球状凹面の中心は、前記複数の人工歯における左側第2大臼歯と右側第1小臼歯とを結ぶ直線と左側第1小臼歯と右側第2大臼歯とを結ぶ直線の交点から鉛直上方向に延びる線上に設定されている構成とすることができる。
【0010】
このような構成により、左側第2大臼歯と右側第1小臼歯とを結ぶ直線と、左側第1小臼歯と右側第2大臼歯とを結ぶ直線との交点は正中線上の点となり得、その交点から鉛直方向に延びる線上にある点を中心とした球状凹面は、多くの歯科患者の上顎歯列の先端部が沿うべき彎曲面により近いものとなり得た。
【0011】
また、本発明に係る上顎側人工歯列において、前記複数の人工歯は一体構造となる構成とすることができる。
【0012】
このような構成により、複数の人工歯が一体構造となっているので、そのような人工歯列を作るに際して個々の人工歯を結合させる作業が必要なく、より簡易に作ることができるようになる。
【0013】
前記一体構造は、所定材料の一体成形により実現することができる。例えば、硬質レジンを材料とした射出成形による複数の人工歯の一体成形により上顎側人工歯列を形成することができる。また、前記一体構造は、所定素材からの切り出しによって実現することもできる。例えば、硬質レジン等の素材からの切り出しによる複数の人工歯の一体形成により上顎側人工歯列を形成することができる。
【0014】
本発明に係る下顎側人工歯列は、複数の人工歯が、前述したいずれかにの上顎側人口歯列に咬合するように配列され、人の下顎側の全歯に対応するように連なってなる構成となる。
【0015】
このような構成により、複数の人工歯が下顎側の全歯に対応するように連なっているので、入れ歯を作るに際して人工歯を1本ずつ配列する作業を行なう必要がなく、その配列作業が極めて容易になる。また、複数の人工歯の先端部が所定の球状凹面に沿って配列された上顎側人工歯列に咬合するように前記複数の人工歯列が配列されているので、下顎側の入れ歯において、顎関節を支点にした下顎の3次元的な運動を考慮した構造を容易に実現することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る上顎側人工歯列及び下顎側人工歯列によれば、入れ歯を作るに際して人工歯の配列作業が極めて容易になり、また、各入れ歯において、顎関節を支点とした下顎の3次元的な運動を考慮した構造が容易に実現するようになるので、その顎関節を支点とした3次元的な下顎運動を阻害することなく機能的に良好な入れ歯を容易に作ることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
【0018】
本発明の実施の一形態に係る上顎側人工歯列は、図2及び図3に示すように構成される。なお、図2は上顎側人工歯列の正面から見た状態(a)と、その右側方から見た状態(b)とを示し、図3は上顎側人工歯列の咬合面側から見た状態を示している。
【0019】
図2及び図3において、この上顎側人工歯列10は、複数の人工歯10L1〜10L7及び10R1〜10R7が人の上顎側の全歯、具体的には、左中切歯(10L1)、左側切歯(10L2)、左犬歯(10L3)、左第1小臼歯(10L4)、左第2小臼歯(10L5)、左第1大臼歯(10L6)及び第2大臼歯(10L7)と、右中切歯(10R1)、右側切歯(10R2)、右犬歯(10R3)、右第1小臼歯(10R4)、右第2小臼歯(10R5)、第1大臼歯(10R6)及び第2大臼歯(10R7)に対応するように標準的な歯列弓Q(図3参照)に沿って連なっている。以下、各人工歯10L1〜10L7及び10R1〜10R7を対応する人の歯と同じ名称で呼ぶものとする。
【0020】
前記人の全歯に対応した複数の人工歯10L1〜10L7及び10R1〜10R7の先端部は、所定の球状凹面C(図2参照)に沿って配列されている。この球状凹面Cは、次のようにして決められている。
【0021】
図4に示すように、左第2大臼歯10L7と右第1小臼歯10R4とを結ぶ直線L1と、左第1小臼歯10L4と右第2大臼歯10R7とを結ぶ直線L2との交点Pは、正中線Lc上にあり、犬歯誘導などの下顎運動の合理的な基準点とみなし得る。このことから、図5及び図6に示すように、前記直線L1とL2との交点Pから鉛直上方に伸びる直線Lo上に当該球状凹面Cの中心Oが存在するものとした。この中心Oの設定された直線Lo上に最下点Poがくるように球状凹面Cが決められた。そして、球状凹面Cの半径SRが124mmとなるように、当該球状凹面Cの中心Oが最終的に決定された。このような球状凹面Cは、本願発明者が多数の歯科患者の歯列を採取して調べた結果から、その上顎歯列が沿うべき彎曲面(図1参照)をより良く代表するものであった。ただし、球状凹面Cの半径SRは、年齢、性別、顎構造(顎の大きさ等)に応じて適宜設定することができる。一般的な成人の場合、前記球状凹面Cの半径SRは、124mm±5%の範囲内で設定することが好ましいものであった。
【0022】
また、上顎側人工歯列10を構成する人工歯10L1〜10L7及び10R1〜10RLのそれぞれは、前記球状凹面Cの各点からその中心Oに向けて伸びる直線(各破線参照)に沿って起立した状態となっている。
【0023】
なお、前述したように左第2大臼歯10L7と右第1小臼歯10R4とを結ぶ直線L1と、左第1小臼歯10L4と右第2大臼歯10R7とを結ぶ直線L2との交点Pを通る垂直線Lo上で前記球状凹面Cに設定された点Poは、下顎運動の合理的な基準点とみなし得る点であり、この点Poを「咬合原点」と称することとする。
【0024】
前述したように複数の人工歯10L1〜10L7及び10R1〜10R7が、人の上顎側の全歯に対応するように連なるとともに、その複数の人工歯10L1〜10L7及び10R1〜10R7の先端部が球状凹面Cに沿って配列されてなる上顎側人工歯列10は、別々の人工歯が連結されるものではなく、一体構造となっている。この上顎側人工歯列10は、例えば、一般的な人工歯の材料となる硬質レジンを射出成形することにより一体的に形成することが可能であり、また、硬質レジンの素材からNC機器等にて切り出すことにより形成することも可能である。
【0025】
このように一体構造となる上顎側人工歯列10は、その製作に際して、各人工歯を連結するという作業を行なうことなく、射出成形機等の成形機やNC機器等を用いて容易に、かつ、精度良く作ることができる。
【0026】
前述した上顎人工歯列10を用いて入れ歯を作る場合、ろう提に上顎側人工歯列10を埋め込む作業を行なうだけで、従来のように人工歯を1本ずつ配列する作業を行なう必要がない。そして、図7及び図8に示すように、上顎側入れ歯100は、その上顎側人工歯列10がアクリル樹脂等の樹脂材料やコバルトクロムや金合金等の金属材料で形成された義歯床15に固定されて完成する。なお、図7(a)は、上顎側入れ歯100の正面から見た状態を示す図であり、図7(b)は、上顎側入れ歯100の右側方から見た状態を示す図であり、図8は、上顎側入れ歯100の咬合面側から見た状態を示す図である。
【0027】
前述したような上顎側人工歯列10を用いた入れ歯100は、その人工歯列10の各人工歯の先端部が実際の上顎歯列が沿うべき彎曲面(図1参照)をより良く代表する球状凹面Cに沿って配列された構造となる。従って、その入れ歯00は、顎関節を支点とした3次元的な下顎運動を考慮した構造となり、その下顎運動を阻害することのない機能的に良好なものとなり得る。
【0028】
次に、図9を参照して、下顎側人工歯列について説明する。なお、図9(a)は、前記上顎側人工歯列に咬合した下顎側人工歯列の正面から見た状態を示す図であり、図9(b)は、前記上顎側人工歯列に咬合した下顎側人工歯列の右側方から見た状態を示す図である。
【0029】
図9(a)、(b)において、この下顎側人工歯列20は、複数の人工歯20L1〜20L7及び20R1〜20R7が、前述したように各人工歯の先端部が球状凹面Cに沿って配列された構造となる上顎側人工歯列10に適正に咬合するように配列され、人の下顎側の全歯に対応するように連なった構造となっている。また、この下顎人工歯列20は、上顎側人工歯列10と同様に、別々の人工歯が連結されるものではなく、一体構造となり、例えば、硬質レジン等の材料を射出成形により、あるいは、硬質レジン等の素材からNC機器等にて切り出すことにより形成されている。
【0030】
前述した下顎人工歯列20を用いて入れ歯を作る場合、ろう提に下顎側人工歯列20を埋め込む作業を行なうだけで、従来のように人工歯を1本ずつ配列する作業を行なう必要がない。そして、図10(a)、(b)に示すように、下顎側入れ歯200は、その下顎側人工歯列20が義歯床25に固定されて完成する。なお、図10(a)は、上顎側入れ歯100に咬合する下顎側入れ歯200の正面から見た状態を示す図であり、図10(b)は、上顎側入れ歯100に咬合する下顎側入れ歯200の右側方から見た状態を示す図である。
【0031】
前述したような入れ歯200は、実際の上顎歯列が沿うべき彎曲面(図1参照)をより良く代表する球状凹面Cに沿って配列された複数の人工歯が連なってできる上顎側人工歯列10に下顎側人工歯列20が適正に咬合するような構造となるので、その入れ歯200は、顎関節を支点とした3次元的な下顎運動を考慮した構造となり、上顎歯列によってその下顎運動自体が阻害されることのない機能的に良好なものとなり得る。
【0032】
前述した例では、人の上顎側の全歯に対応するように連なった上顎側人工歯列10と、人の下顎側の全歯に対応するように連なった下顎側人工歯列20とをそのまま上顎側の総入れ歯(全部床義歯)100及び下顎側の総入れ歯(全部床義歯)200に用いるものとして説明したが、前述した上顎側人工歯列10及び下顎側人工歯列20を用いて部分入れ歯(部分床義歯)を作ることもできる。この場合、射出成形等により一体構造となる上顎側人工歯列10または下顎側人工歯列20から必要となる人工歯列部分を切り出して、その切り出された人工歯列部分を用いて入れ歯が造られる。例えば、図11(a)、(b)に示すように、上顎側人工歯列10から人工歯10L1〜10L7の部分となる上顎側左人工歯列部分10Lを切り出して用いることにより、上顎側の左部分床義歯を作ることができる。また、例えば、図12(a)、(b)に示すように、上顎側人工歯列10から人工歯10R1〜10R7の部分となる上顎側右人工歯列部分10Rを切り出して用いることにより、上顎側の右部分床義歯を作ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
以上、説明したように、本発明に係る上顎側人工歯列及び下顎側人工歯列は、顎関節を支点とした3次元的な下顎運動を阻害することなく機能的に良好な入れ歯を容易に作ることができるという効果を有し、歯科用の上顎側人工歯列及び下顎側人工歯列として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】咬合する人の上顎及び下顎の左側方から見た状態(a)及びその正面から見た状態(b)を示す図である。
【図2】本発明の実施の一形態に係る上顎側人工歯列の正面から見た状態(a)及びその右側方から見た状態(b)を示す図である。
【図3】本発明の実施の一形態に係る上顎側人工歯列の咬合面側から見た状態を示す図である。
【図4】上顎側人工歯列における各人工歯の配列状態を示す図である。
【図5】上顎側人工歯列を構成する各人工歯の先端部が沿う球状凹面を示す側面図である。
【図6】上顎側人工歯列を構成する各人工歯の先端部が沿う球状凹面を示す正面図である。
【図7】上顎側人工歯列を用いて作られた入れ歯(上顎側入れ歯)の正面から見た状態(a)及びその右側方から見た状態(b)を示す図である。
【図8】上顎側人工歯列を用いて作られた入れ歯(上顎側入れ歯)の咬合面側から見た状態を示す図である。
【図9】上顎側人工歯列に適正に咬合する下顎側人工歯列の正面から見た状態(a)及びその右側方から見た状態(b)を示す図である。
【図10】上顎側入れ歯に咬合する下顎側入れ歯の正面から見た状態(a)及びと、その右側方から見た状態(b)を示す図である。
【図11】上顎側人工歯列から切り出された上顎側左人工歯列部分の正面から見た状態(a)及びその咬合面側から見た状態(b)を示す図である。
【図12】上顎側人工歯列から切り出された上顎側右人工歯列部分の正目から見た状態(a)及びその咬合面側から見た状態(b)を示す図である。
【符号の説明】
【0035】
10 上顎側人工歯列
10R 上顎側右人工歯列部分
10L 上顎側左人工歯列部分
15 義歯床
20 下顎側人工歯列
25 義歯床

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の人工歯が、人の上顎側の全歯に対応するように連なるとともに、該複数の人工歯の先端部が所定の球状凹面に沿って配列されてなることを特徴とする上顎側人工歯列。
【請求項2】
前記球状凹面の中心は、前記複数の人工歯における左側第2大臼歯と右側第1小臼歯とを結ぶ直線と左側第1小臼歯と右側第2大臼歯とを結ぶ直線の交点から鉛直上方向に延びる線上に設定されていることを特徴とする請求項1記載の人工歯列。
【請求項3】
前記複数の人工歯は一体構造となることを特徴とする請求項1または2記載の人工歯列。
【請求項4】
所定材料の一体成形によりなる請求項3記載の上顎側人工歯列。
【請求項5】
所定素材からの切り出しによりなる請求項3記載の上顎側人工歯列。
【請求項6】
複数の人工歯が、請求項1乃至7のいずれかに記載の上顎側人口歯列に咬合するように配列され、人の下顎側の全歯に対応するように連なってなることを特徴とする下顎側人工歯列。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−154927(P2008−154927A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−349708(P2006−349708)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(505227065)有限会社MSデンタルリサーチ (2)
【出願人】(505226840)