説明

下水処理場およびその制御装置

【課題】降雨状況に応じて下水処理場へ流入する汚水および雨水からなる下水に含まれる固形物量をより正確に予測できる下水処理場およびその制御装置を提供する。
【解決手段】下水処理場1は、固形物流入量予測・演算装置60により管理され、固形物流入量演算部65は、プラント情報保存部64に保存された下水流入量および汚泥処理量に基づいて、現在までの所定期間内に流入した下水中の固形物流入量を演算する。降雨情報取得部61は、対象区域10内の降雨情報を取得する。固形物流入量予測部67は、プラント情報保存部64に保存された汚泥処理量とを関連づけた時系列値ならびに固形物流入量演算部65によって演算された固形物流入量およびその変化率を参照し、降雨情報取得部61によって取得された現在までの所定期間内の降雨情報を基に、現在より後の所定期間内に流入する下水に含まれる固形物量を演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、降雨状況に応じて下水処理場へ流入する汚水および雨水からなる下水に含まれる固形物量をより正確に予測できる下水処理場およびその制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
汚濁物質は、晴天時には、屋根、道路、ます、管渠などに次第に蓄積し、雨天時には、雨水とともに流出する。このため、長期間の無降雨の後に強度の降雨があると、合流式の排水方式の地域では、下水処理場の流入水量のみならず処理負荷も増大し、分流式の下水道設備においては、蓄積されていた汚濁物質が河川、湖沼、海域などの公共水域へ直接放流され、汚染の原因となる。
【0003】
従来、降雨による初期の雨水の増加が急激な場合、浸水事故の発生や極端に汚濁された雨水が河川放流されないために、合流式下水管を流れる雨水および下水の一部を雨水貯留管に流入させる雨水貯留施設において、過去の降雨強度データ、無降雨時間データなどから、現在の降雨状態に最も近い類似降雨パターンを取り出し、これに基づき、雨水貯留管の水位や排水ポンプの流量を制御する「雨水貯留施設の運転制御システム」が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
従来、降雨強度およびその発生時間から、降雨が流達する時刻における流入水中の大腸菌群を予測し、塩素注入量を制御する「下水道設備の水質制御装置」が知られている(例えば、特許文献2参照)。また、この「下水道設備の水質制御装置」では、大腸菌群と同様に、SS(浮遊物質)を予測できるとしている。
【0005】
【特許文献1】特開2000−87433号公報(段落[0002]−[0004],[0027]、図1、図18)
【0006】
【特許文献2】特開2004−249200号公報(段落[0020]−[0023],[0051]、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の「雨水貯留施設の運転制御システム」(特許文献1記載)は、流入する雨水および下水の量を予測して、横溢などが生じないように雨水貯留管への流量を制御しようとするものであり、降雨によって増大する処理負荷、すなわち、雨水および下水に含まれる固形物量を知ることはできない問題点があった。
【0008】
また、従来の「下水道設備の水質制御装置」(特許文献2記載)は、雨水吐き室の越流側から放流される越流水の汚濁物質除去を行うため、その水質に応じて塩素注入量などを制御するものであって、下水道設備へ流入水に含まれて流入する汚濁物質を示す量、すなわち固形物量を知ることはできない問題点があった。
【0009】
そこで、本発明は、降雨状況に応じて下水処理場へ流入する汚水および雨水からなる下水に含まれる固形物量をより正確に予測できる下水処理場およびその制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による下水処理場およびその制御装置は、これまでの下水流入量と汚泥処理量とを関連づけた時系列値を参照して、降雨の影響を考慮して増減した下水中の固形物量を演算し、演算した固形物流入量とその変化率を考慮して、所定期間内に流入する下水中の固形物量を演算するものであって、その具体的手段については、後記する実施形態を通じて、詳細に例示する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、降雨状況に応じて下水処理場へ流入する汚水および雨水からなる下水に含まれる固形物量をより正確に予測できる下水処理場およびその制御装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、添付した図面を参照し、本発明の実施形態について詳細に説明する。
(第1実施形態)
まず、図1を参照し、本発明の第1実施形態による下水処理場1の構成および動作について説明する。
図1は、本発明による第1実施形態の下水処理場1を示す全体概念図である。
下水処理場1は、対象区域10から排出された下水に所定の処理(下水処理)を施して汚濁物質を取り除き、流出水となる清澄な処理水を得るための処理場であって、汚水貯留施設20と、沈殿処理施設30と、汚泥処理施設40と、運転制御装置50とを具備し、固形物流入量予測・演算装置60により管理される。
【0013】
対象区域10内には、対象区域10内に所在する一般家庭や事業所(いずれも図示せず)などから排出された汚水を排除するための管路11と、対象区域10内の降雨により生じた雨水を排除するための排水設備12と、管路11および排水設備12の下流側に接続され汚水および雨水を下水処理場1まで流出する下水管渠13と、が布設されている。
【0014】
対象区域10において、地勢が大きく変化したり、管路11などが延長されて実質的に対象区域10の範囲が広がったり、大事業所や集合住宅が建設されたりするなど、対象区域10内の汚濁物質の発生量が変化する要因がなければ、対象区域10から発生する汚濁物質量は、おおよそ一定とみなせる。したがって、下水処理場1へ流入する汚濁物質量は、天候などの要因を考慮して、過去の処理実績を当てはめることにより、求めることができる。さらに、下水処理場1へ流入する汚濁物質量から、下水処理場1における汚泥処理量を求めることができる。
【0015】
なお、本説明において、下水とは、汚水および排除すべき雨水の総称、または、汚水に雨水が混入したものを意味する。
【0016】
また、対象区域10における排除方式が、汚水および雨水で同一の下水管渠13を共用する合流式である場合について説明するが、対象区域10の全部または一部における排除方式が、汚水および雨水で別個の下水管渠13,13を使用する分流式であってもよい。分流式においても、汚水を流す下水管渠13へ、雨水が多少なりとも混入するため、本実施形態の効果を享受できる。
【0017】
汚水貯留施設20は、下水管渠13を通じて下水処理場1へ流入する下水の量を測定する流量計27と、下水管渠13の下流端に接続された流入渠21と、粗大なごみを取り除くスクリーン22と、比較的速い流速で下水中の砂分を沈殿させて取り除く沈砂池23と、下水の流入量が大きく増減したとき下水の流出量の変化が少なくなるように貯留している下水の量によって調整を行うための汚水調整池24と、汚水調整池24から下水を汲み上げるためのポンプ井25と、ポンプ井25から下水を汲み上げる汚水ポンプ26と、を具備している。汚水ポンプ26によって汲み上げられた下水は、沈殿処理施設30へ流出する。
【0018】
沈殿処理施設30は、最初沈殿池31と、曝気槽32と、最終沈殿池33とを具備している。
最初沈殿池31は、汚水貯留施設20から流入した下水を、汚濁物質である浮遊物質のうち比較的沈殿しやすいものを沈殿させ、上澄み水を曝気槽32へ流出させる。最初沈殿池31で沈殿した浮遊物質は、初沈汚泥として、池底から引抜かれる。最初沈殿池31は、スカム分離装置を具備していることが好ましい。
【0019】
曝気槽32(エアレーションタンク)は、最初沈殿池31の上澄み水に細かい気泡からなる空気を吹き込み、好気性の微生物を作用させる。微生物の作用により、汚濁物質が吸着されて沈殿しやすい活性汚泥となり、その一部が分解される。曝気槽32で生成された混合水は、最終沈殿池33へ流出する。
【0020】
最終沈殿池33は、曝気槽32から流出した混合水を静置し、上澄み水と活性汚泥とに分離する。上澄み水は、塩素などの消毒剤によって消毒処理を施した後、処理水として公共水域に放流したり、再利用したりする。沈殿した活性汚泥は池底から引抜かれ、その一部が返送汚泥として再び曝気槽32へ流入し、残りは余剰汚泥となる。
【0021】
最初沈殿池31から引抜かれた初沈汚泥と、最終沈殿池33から引抜かれた余剰汚泥とは、合わせて混合汚泥として、汚泥処理施設40へ送られる。
混合汚泥の排出量は、汚泥処理施設40での汚泥処理量の基準のひとつを示すが、引抜かれた混合汚泥の成分は、ほとんどが水で占められ、また、含水率は処理ごとに一定ではない。そこで、この混合汚泥から水分を取り除いたものの量、すなわち混合汚泥中の固形物量を、汚泥処理施設40における汚泥処理量の基準とする。また、沈殿処理施設30において分解された分を補正することにより、下水処理場1へ流入した固形物量、すなわち、汚濁物質の量を求めることができる。
【0022】
汚泥処理施設40は、汚泥を減容し、処分しやすくなるように処理する施設であって、濃縮槽41と、消化槽42と、脱水機43と、焼却炉44とを具備している。
【0023】
濃縮槽41は、最終沈殿池33からの余剰汚泥と最初沈殿池31からの初沈汚泥を含む混合汚泥を沈殿処理し、水分を減らして固形物分を濃縮する。このように濃縮された汚泥(濃縮汚泥)は、濃縮槽41の底部から引抜かれ、消化槽42へ送られる。また、濃縮槽41の上澄み水は、最初沈殿池31へ戻される。
【0024】
消化槽42は、濃縮槽41からの濃縮汚泥を腐敗発酵させ、濃縮汚泥中の有機物を分解し、病原菌を死滅させる。処理期間は、例えば、30日間である。消化処理により、濃縮汚泥中の有機物が減少するため、含まれる固形物が減少し、また、容積も少なくなる。
【0025】
脱水機43は、消化槽42で処理された汚泥から水分を除いて、固形状の脱水ケーキにする。これにより、焼却や埋め立てなどの最終処分や再利用が容易になる。脱水機43は、ろ過膜により水分をろ過し、あるいは、圧力や遠心力を加えて水分を分離するなどにより、機械的に汚泥の脱水を行う。
【0026】
焼却炉44は、脱水機43からの脱水ケーキを焼却処理する。焼却処理された脱水ケーキは、有機物分が燃焼して焼却灰となり、下水処理場1外の最終処分場(図示せず)へ搬出される。
【0027】
運転制御装置50は、下水処理場1へ流入する下水に含まれる汚濁物質の量(固形物量)に応じて、汚水ポンプ26および脱水機43の運転台数および回転速度、濃縮槽41の運転、および、引抜弁34の開度を制御するものであり、汚水ポンプ制御部51と、濃縮槽制御部52と、脱水機制御部53と、引抜弁制御部55と、これらに目標制御値を与える目標制御値演算部54とを具備している。
【0028】
固形物流入量予測・演算装置60は、降雨情報取得部61と、プラント情報保存部64と、固形物流入量演算部65と、固形物流入量予測部67と、を具備している。
【0029】
プラント情報保存部64は、汚水貯留施設20内の汚水流入量および汚泥処理量の各時系列値を保存する。
【0030】
固形物流入量演算部65は、プラント情報保存部64に保存された汚水流入量および汚泥処理量に基づいて、過去のある時点から現在までに下水処理場1へ流入した固形物量(固形物流入量)を演算する。
【0031】
固形物流入量予測部67は、プラント情報保存部64に保存された時系列値と固形物流入量および固形物流入量の変化率とに基づいて、現在、下水処理場1の対象区域10に存在し、雨天時に下水とともに流入する汚泥の元となる汚濁物質の量を決定できるという前提で、降雨強度を、無降雨、降雨、および少降雨の3段階以上に分類した現在までの降雨状況から、現在より先の所定時間内に下水処理場1へ流入する下水中に含まれる固形物流入量を予測する。
【0032】
目標制御値演算部54は、固形物流入量予測部67により得られた固形物流入量および所定の目標処理固形物流入量から固形物流入量の偏差を求める。そして、目標制御値演算部54は、これらの値を基に、下水処理場1の汚泥処理量が所定範囲内に収まり、汚泥処理量の変動が少なくなるように、汚水ポンプ26、脱水機43、濃縮槽41、および引抜弁34の制御値を演算する。
【0033】
運転制御装置50は、目標制御値演算部54で決定された制御値となるように、汚水ポンプ26、脱水機43、および濃縮槽41の運転台数または回転速度、ならびに引抜弁34の開度の少なくとも1つを制御する。
【0034】
ここで、図2から図4までを参照し、本実施形態の原理について説明する。
図2は、対象区域10の天候と、単位時間あたりに処理される汚泥中の固形物量との関係の一例を示す説明図である。図2において、時間順に、図2(a)から図2(f)までを示す。
【0035】
天候にかかわらず、対象区域10では、降雨があると下水処理場1へ流入する汚濁物質となる固形物が常に発生している。晴天のとき、この汚濁物質は、対象区域10に徐々に蓄積され、雨天のとき、降雨により対象区域10から下水処理場1へ流入し、下水処理場1の汚泥処理量の増加原因となる。
【0036】
具体的には、まず、図2(a)に示すように、降雨が続いた後の晴天時は、対象区域10の固形物量は小さく、単位時間あたりに処理される汚泥中の固形物量も小さい。
次に、図2(a)から図2(d)までに順に示すように、晴天が続くあいだ、対象区域10の固形物は蓄積されていくが、単位時間あたりに処理される汚泥中の固形物量は小さいままである。
【0037】
しかし、図2(e)に示すように、雨天になると、降雨により、対象区域10に蓄積されていた固形物量は減少し、これに対応して、単位時間あたりに処理される汚泥中の固形物量は大きくなる。
そして、図2(f)に示すように、雨天が続くと、降雨により、対象区域10に蓄積されていた固形物量はさらに減少し、これに対応して、単位時間あたりに処理される汚泥中の固形物量は減少していく。
【0038】
図3は、対象区域10の固形物蓄積量の変化の第1例を模式的に示すグラフである。固形物蓄積量とは、図2に示したように、対象区域10の降雨によって流出しうる固形物量を意味し、降雨時に増加する下水中の汚濁物質となる。
【0039】
まず、対象区域10における固形物蓄積量が最小になる程度に、充分な降雨強度のある降雨時間があったものとする。これは、下水処理場1において、単位時間あたりの汚泥処理量(固形物換算値)が、降雨強度によって影響されないことをもって確認できる。その降雨期間の終期(すなわち、無降雨期間の始期)を起点とし、無降雨が継続されている時間をNRTとする。
【0040】
その後、降雨により、対象区域10から下水処理場1へ汚濁物質が流入すると、対象区域10に存在し、やがて処理対象となる汚濁物質は減少する。
【0041】
これを用い、晴天時、対象区域10に蓄積される対象区域10内の固形物蓄積量を予測する。
【0042】
図4は、対象区域10の固形物蓄積量の変化の第2例を模式的に示すグラフである。
対象区域10の固形物蓄積量をもとに、少降雨を定義する。少降雨は、無降雨ではないが、晴天時間NRTは、少降雨の終了後からは起算しない。
【0043】
図3に示す連続した晴天時間NRTの後に、連続した降雨時間RTがあった場合の固形物蓄積量の変化と、図4に示す少降雨時間NNRTを挟んだ晴天時間NRTの後に、連続した降雨時間RTがあった場合の固形物蓄積量の変化とを比較することにより、少降雨の影響を知ることができる。
【0044】
また、対象区域10内の降雨によって流出しうる固形物量が、少降雨により減少する場合について図示したが、地勢などの条件によっては、対象区域10内の降雨によって流出しうる固形物量が、少降雨により増加する場合があり得ることを考慮に入れることが好ましい。
【0045】
次に、固形物量に関する演算について、詳細に説明する。
対象区域10から下水処理場1へ、降雨によって流入する可能性のある汚濁物質の量は、対象区域10の範囲に従って決定される。対象区域10は、雨水管や汚水管など管路11や排水設備12が布設された範囲によって画定される。
【0046】
対象区域10から下水処理場1へ降雨によって流出しうる汚濁物質は、対象区域10が無降雨である期間、蓄積され、降雨によって下水処理場1へ流入する。このように、対象区域10において、無降雨による蓄積によって増加し、降雨による流出によって減少する汚濁物質の総量を、固形物蓄積量とする。固形物蓄積量は、下水処理によって下水から取り出した脱水ケーキの質量にほぼ等しく、より正確には、脱水ケーキの質量に対し、微生物の作用による汚泥中の有機物の減容分と、含有水分とを補正した量に等しい。
【0047】
また、この固形物蓄積量は、降雨時間が長く降雨量が多い降雨があった場合、1回の降雨によって実質的にゼロとなる。しかし、短時間の降雨であるか、降雨量が少ないなど、降雨状態によっては、対象区域10に固形物が残存する。この場合、対象区域10に残存する固形物蓄積量を、以後の降雨の際に考慮する必要がある。
【0048】
単位時間あたりに対象区域10内に蓄積される汚濁物質の量、すなわち、固形物蓄積率ΔCは、次式で概算できる。ただし、算出される固形物蓄積率ΔCの値は、対象区域10内の年ごとの総雨量や降雨状況などにより大きく影響される。このため、複数年に渡って平均値を算出してこれを用いたり、季節変動を考慮して補正を施したり、天候の長期予報に従って補正を行ったりしてもよい。
【0049】
固形物蓄積率ΔC
=(1年間に蓄積される汚濁物質の量)/(1年間に相当する処理対象時間)
【0050】
ただし、算出される値は、対象区域10内の年間総雨量や降雨状況により大きく影響されると考えられる。
【0051】
ここで、固形物蓄積量を求める方法の一例について説明する。
まず、無降雨時間が長期間ゼロであっても、すなわち、長期間降雨が続いている場合であっても、無降雨のときと同様に汚濁物質が発生し、この汚濁物質が降雨によって下水に含まれて流入する。これにより、対象区域10に蓄積されている固形物蓄積量が実質的にゼロであるときの降雨による固形物流入量を求める。
【0052】
現在までに、充分な降雨強度で連続して降雨があり、その間、無降雨時間および少降雨時間が挟まれていない場合、降雨量、降雨時間中の固形物流入量から、対象区域10内の固形物蓄積量がゼロである値として、NSR(x):対象区域10内の固形物蓄積量がゼロであるときの連続降雨中の固形物流入量を、次式により求めることができる。
【0053】
NSR(x) =(連続降雨中の汚泥処理量)/(汚泥処理時間×降雨量)
【0054】
次に、降雨量と固形物流入量とを関連づけた時系列値を基に、無降雨時間を経た後の降雨による固形物流入量を求める。この時系列値に降雨状況(降雨強度および降雨時間)を当てはめれば、無降雨時間が経過した後の降雨による固形物流入量を予測できる。
ここで、SR(x):無降雨時間を考慮した固形物蓄積量に基づく固形物流入量とする。
【0055】
上記により得られた無降雨時間を考慮した対象区域10の固形物蓄積量に基づく固形物流入量と少降雨のあった後の降雨による固形物流入量とを比較し、また、少降雨時の固形物流入量をさらに考慮して、少降雨時間がどのように固形物流入量に影響するかを演算できる。
【0056】
この少降雨時間による固形物流入量の変化値を、NNSR(x):少降雨時間を考慮した対象区域10の固形物蓄積量に基づく固形物流入量とする。
【0057】
したがって、次式により、降雨の影響を考慮した単位時間あたりの固形物流入量を予測できる。
【0058】
単位時間あたりの固形物流入量
=(SR(x)+NNSR(x)−NSR(x))×現在の降雨量
【0059】
(第2実施形態)
第2実施形態の下水処理場は、第1実施形態の下水処理場1において、処理学習部をさらに具備した構成である。
【0060】
処理学習部は、プラント情報保存部64に保存された時系列値と固形物流入量演算部65で求められた固形物流入量および固形物流入量の変化率を用い、バックプロパゲーション法によりニューラルネットワークの重み係数を決定する。
【0061】
固形物流入量予測部67は、プラント情報保存部64に保存された時系列値と固形物流入量演算部65によって演算された固形物流入量および固形物流入量の変化率を入力とし、重み係数をもとに、現在より先の所定時間内に汚水貯留施設20に流入する固形物流入量を予測する。
【0062】
(第3実施形態)
第3実施形態の下水処理場は、第1実施形態の下水処理場1または第2実施形態の下水処理場において、汚水貯留施設20内の流入渠21の水位と下水流入量とが同一の挙動を示すように構成し、流入渠21の水位が処理学習部(図示せず)または固形物流入量予測部67へ入力されるようにした。
処理学習部および固形物流入量予測部67は、流入渠21の水位を基に、下水流入量を求めて、この下水流入量を基に、演算を行う。
【0063】
(第4実施形態)
第4実施形態の下水処理場は、第1実施形態の下水処理場1または第2実施形態の下水処理場において、メンバーシップ関数・推論ルール変更部(図示せず)をさらに具備した構成である。
【0064】
メンバーシップ関数・推論ルール変更部(図示せず)は、プラント情報保存部64に保存されたポンプ井25の水位とポンプ処理量、ポンプ井25の所定の目標水位および固形物流入量予測部67で得られた予測固形物流入量を用い、ファジィ推論において、固形物流入量の変動が所定範囲内に収まるよう、メンバーシップ関数および推論方法(推論ルール)を選択する。
【0065】
目標制御値演算部54は、プラント情報保存部64に保存された固形物流入量とポンプ処理量、ポンプ井25の所定の目標水位および固形物流入量予測部67で得られた予測固形物流入量を入力とし、メンバーシップ関数と推論ルールとに従い、ファジィ推論により、汚水ポンプ26、脱水機43、濃縮槽41、および、引抜弁34の目標制御値を演算する。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明による第1実施形態の下水処理場を示す全体概念図である。
【図2】対象区域の天候と、単位時間あたりに処理される汚泥中の固形物量との関係の一例を示す説明図である。
【図3】対象区域の固形物蓄積量の変化の第1例を模式的に示すグラフである。
【図4】対象区域の固形物蓄積量の変化の第2例を模式的に示すグラフである。
【符号の説明】
【0067】
1 下水処理場
10 対象区域
11 管路
12 排水設備
13 下水管渠
20 汚水貯留施設
21 流入渠
22 スクリーン
23 沈砂池
24 汚水調整池
25 ポンプ井
26 汚水ポンプ
27 流量計
30 沈殿処理施設
31 最初沈殿池
32 曝気槽
33 最終沈殿池
34 引抜弁
40 汚泥処理施設
41 濃縮槽
42 消化槽
43 脱水機
44 焼却炉
50 運転制御装置
51 汚水ポンプ制御部
52 濃縮槽制御部
53 脱水機制御部
54 目標制御値演算部
55 引抜弁制御部
60 固形物流入量予測・演算装置
61 降雨情報取得部
64 プラント情報保存部
65 固形物流入量演算部
67 固形物流入量予測部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象区域から排除された汚水および雨水からなる下水が流入する流入渠と、前記流入渠を経て流入した前記下水を一時貯留する汚水調整池および前記汚水調整池に貯留された前記下水をポンプ井を経て汲み出す汚水ポンプを含む汚水貯留施設と、前記汚水貯留施設からの前記下水から汚泥分を分離し引抜弁を経て引抜く沈殿処理施設と、前記沈殿処理施設から引抜かれた前記汚泥を処理する汚泥処理施設とを具備し、固形物流入量予測・演算装置により管理される下水処理場であって、
前記固形物流入量予測・演算装置は、
当該下水処理場へ流入した下水流入量と前記汚泥処理施設によって処理された汚泥処理量とを関連づけた時系列値を保存したプラント情報保存部と、
前記プラント情報保存部に保存された前記下水流入量および前記汚泥処理量に基づいて、現在までの所定期間内に当該下水処理場へ流入した前記下水中の固形物量を示す固形物流入量を演算する固形物流入量演算部と、
前記対象区域内の降雨状況を示す降雨情報を取得する降雨情報取得部と、
前記プラント情報保存部に保存された前記時系列値ならびに前記固形物流入量演算部によって演算された前記固形物流入量および当該固形物流入量の変化率を参照し、前記降雨情報取得部によって取得された前記現在までの所定期間内の前記降雨情報を基に、現在より後の所定期間内に前記下水処理場へ流入する前記下水に含まれる固形物量を示す予測固形物流入量を演算する固形物流入量予測部と、
を具備したことを特徴とする下水処理場。
【請求項2】
当該下水処理場は、運転制御装置によりさらに管理され、
前記汚泥処理施設は、前記汚泥から水分を減らして前記固形物を濃縮した濃縮汚泥とする濃縮槽と、前記濃縮汚泥を脱水して脱水ケーキとする脱水機と、を含み、
前記運転制御装置は、
前記固形物流入量予測部によって演算された前記予測固形物流入量と所定の目標処理固形物量との偏差を示す固形物流入量偏差を演算し、当該固形物流入量偏差を基に前記汚泥処理施設による前記汚泥処理量が所定の範囲内に安定するように前記汚水ポンプ、前記脱水機、前記濃縮槽および前記引抜弁の少なくとも1つの制御値を演算する目標制御値演算部と、
前記目標制御値演算部で演算された制御値を用いて前記汚水ポンプ、前記脱水機、前記濃縮槽および前記引抜弁の少なくとも1つを制御する運転制御部と、
を具備したことを特徴とする請求項1に記載の下水処理場。
【請求項3】
前記固形物流入量予測・演算装置は、
前記プラント情報保存部に保存された前記時系列値と前記固形物流入量演算部で演算された前記固形物流入量および当該固形物流入量の変化率とを用い、バックプロパゲーション法によりニューラルネットワークの重み係数を決定する学習部をさらに具備し、
前記固形物流入量予測部は、前記プラント情報保存部に保存された前記時系列値と前記固形物流入量演算部で演算された前記固形物流入量および前記固形物流入量の変化率、ならびに、前記学習部で決定された前記重み係数を基に、現在より先の所定期間内に当該下水処理場へ流入する固形物流入量を予測する、
ことを特徴とする請求項1に記載の下水処理場。
【請求項4】
前記流入渠の水位は、前記下水流入量と同一の挙動を示すように構築され、
前記固形物流入量演算部は、前記流入渠の水位から求めた前記下水流入量を用いて演算を行うことを特徴とする請求項1に記載の下水処理場。
【請求項5】
前記流入渠の水位は、前記下水流入量と同一の挙動を示すように構築され、
前記学習部は、前記流入渠の水位から求めた前記下水流入量をさらに用いて前記重み係数の決定を行うことを特徴とする請求項3に記載の下水処理場。
【請求項6】
前記プラント情報保存部は、前記ポンプ井の水位および前記汚水ポンプの吐出量をさらに保存し、
前記固形物流入量予測・演算装置は、
前記プラント情報保存部に保存された前記ポンプ井の水位および前記汚水ポンプの吐出量、前記ポンプ井の所定の目標水位、ならびに、前記固形物流入量演算部によって演算された予測固形物流入量を基に、ファジィ推論において、前記固形物流入量の変動が小さくなるようにメンバーシップ関数および推論方法を選択する推測部をさらに具備し、
前記目標制御値演算部は、前記推測部によって選択された前記メンバーシップ関数および前記推論方法によりファジィ推論を用いて前記制御値を演算することを特徴とする請求項2に記載の下水処理場。
【請求項7】
対象区域から排除された汚水および雨水からなる下水が流入する流入渠と、前記流入渠を経て流入した前記下水を一時貯留する汚水調整池および前記汚水調整池に貯留された前記下水をポンプ井を経て汲み出す汚水ポンプを含む汚水貯留施設と、前記汚水貯留施設からの前記下水から汚泥分を分離し引抜弁を経て引抜く沈殿処理施設と、前記沈殿処理施設から引抜かれた前記汚泥を処理する汚泥処理施設と、を具備した下水処理場に用いられる下水処理場の制御装置であって、
当該下水処理場の制御装置は、固形物流入量予測・演算装置を具備し、
前記固形物流入量予測・演算装置は、
当該下水処理場へ流入した下水流入量と前記汚泥処理施設によって処理された汚泥処理量とを関連づけた時系列値を保存したプラント情報保存部と、
前記プラント情報保存部に保存された前記下水流入量および前記汚泥処理量に基づいて、現在までの所定期間内に当該下水処理場へ流入した前記下水中の固形物量を示す固形物流入量を演算する固形物流入量演算部と、
前記対象区域内の降雨状況を示す降雨情報を取得する降雨情報取得部と、
前記プラント情報保存部に保存された前記時系列値ならびに前記固形物流入量演算部によって演算された前記固形物流入量および当該固形物流入量の変化率を参照し、前記降雨情報取得部によって取得された前記現在までの所定期間内の前記降雨情報を基に、現在より後の所定期間内に前記下水処理場へ流入する前記下水に含まれる固形物量を示す予測固形物流入量を演算する固形物流入量予測部と、
を具備したことを特徴とする下水処理場の制御装置。
【請求項8】
当該下水処理場の制御装置は、前記目標制御値演算部で演算された制御値を用いて前記汚水ポンプ、前記脱水機、前記濃縮槽および前記引抜弁の少なくとも1つを制御する運転制御装置をさらに具備し、
前記汚泥処理施設は、前記汚泥から水分を減らして前記固形物を濃縮した濃縮汚泥とする濃縮槽と、前記濃縮汚泥を脱水して脱水ケーキとする脱水機と、を含み、
前記運転制御装置は、
前記固形物流入量予測部によって演算された前記予測固形物流入量と所定の目標処理固形物量との偏差を示す固形物流入量偏差を演算し、当該固形物流入量偏差を基に前記汚泥処理施設による前記汚泥処理量が所定の範囲内に安定するように前記汚水ポンプ、前記脱水機、前記濃縮槽および前記引抜弁の少なくとも1つの制御値を演算する目標制御値演算部、
をさらに具備したことを特徴とする請求項7に記載の下水処理場の制御装置。
【請求項9】
前記固形物流入量予測・演算装置は、
前記プラント情報保存部に保存された前記時系列値と前記固形物流入量演算部で演算された前記固形物流入量および当該固形物流入量の変化率とを用い、バックプロパゲーション法によりニューラルネットワークの重み係数を決定する学習部をさらに具備し、
前記固形物流入量予測部は、前記プラント情報保存部に保存された前記時系列値と前記固形物流入量演算部で演算された前記固形物流入量および前記固形物流入量の変化率、ならびに、前記学習部で決定された前記重み係数を基に、現在より先の所定期間内に当該下水処理場へ流入する固形物流入量を予測する、
ことを特徴とする請求項7に記載の下水処理場の制御装置。
【請求項10】
前記流入渠の水位は、前記下水流入量と同一の挙動を示すように構築され、
前記固形物流入量演算部は、前記流入渠の水位から求めた前記下水流入量を用いて演算を行うことを特徴とする請求項7に記載の下水処理場の制御装置。
【請求項11】
前記流入渠の水位は、前記下水流入量と同一の挙動を示すように構築され、
前記学習部は、前記流入渠の水位から求めた前記下水流入量をさらに用いて前記重み係数の決定を行うことを特徴とする請求項9に記載の下水処理場の制御装置。
【請求項12】
前記プラント情報保存部は、前記ポンプ井の水位および前記汚水ポンプの吐出量をさらに保存し、
前記固形物流入量予測・演算装置は、
前記プラント情報保存部に保存された前記ポンプ井の水位および前記汚水ポンプの吐出量、前記ポンプ井の所定の目標水位、ならびに、前記固形物流入量演算部によって演算された予測固形物流入量を基に、ファジィ推論において、前記固形物流入量の変動が小さくなるようにメンバーシップ関数および推論方法を選択する推測部をさらに具備し、
前記目標制御値演算部は、前記推測部によって選択された前記メンバーシップ関数および前記推論方法によりファジィ推論を用いて前記制御値を演算することを特徴とする請求項8に記載の下水処理場の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−283274(P2007−283274A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−116598(P2006−116598)
【出願日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】