説明

下水道施設の浸水対策システム

【課題】下水道施設における浸水被害防止(浸水対策)手段を提供すること。
【解決手段】複数の可動堰と、現在の、排水区内における複数地点の降雨量、複数地点の合流管の水位、複数の可動堰の高さ、その複数の可動堰のそれぞれに対応した複数の雨水貯留設備の貯留量、を含む情報を入力し、これらの情報を解析して、将来の、複数の雨水貯留設備の貯留量を予測するとともに、可動堰の高さを変更したときの、将来の、可動堰に対応した雨水貯留設備の貯留量を予測する解析装置と、を備える浸水対策システムの提供による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水道施設の浸水対策手段に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、浸水被害は、下水道施設の管渠(合流管を含む)の流下能力を越える雨量の降雨があったときに雨水が管渠から地上に溢れ出たり、雨水が短い時間で水路や河川に流れ込みそれらが氾濫することによって、生じる。都市化によって雨水が地下に浸透する面積が減少していることが、浸水被害の一因とされている。特に汚水と雨水とが合流した下水を処理する合流式下水道施設においては、浸水被害が生じると、環境汚染、公衆衛生上、大きな問題となり得る。
【0003】
これに対し、下水道施設では、多くの場合、排水区内に大きな雨水貯留設備を造り、併せて管渠に分水堰を設け、管渠の流下能力を越える雨量の降雨があった場合には、分水堰の高さを越えた雨水を一時的に雨水貯留設備に貯めておき、その貯めた雨水を通常時(晴天時)に少量ずつ放流する、といった浸水対策が施されている。
【0004】
尚、関連する先行文献として、例えば、特許文献1〜3を挙げることが出来る。
【特許文献1】特開2002−298063号公報
【特許文献2】特開平11−190056号公報
【特許文献3】特開2007−146423号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の下水道施設では、上記のような雨水貯留設備及び分水堰が備わっていても、浸水被害が防げない場合があった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その課題は、下水道施設における浸水被害防止(浸水対策)手段を提供することである。
【0007】
調査の結果、近年、局地的な豪雨が頻発していることと相まって、雨水貯留設備及び分水堰が、総合的に有効利用されていないことが、浸水被害が防げない原因のひとつであることがわかった。
【0008】
例えば、管渠の上流と下流に、それぞれ雨水貯留設備及び分水堰があった場合に、既述のように近年の豪雨は局地的に発生することが多いため、上流の雨水貯留設備が空であるようなときにも、下流の雨水貯留設備では満水になって雨水が地上に溢れ出て、下流では浸水被害となるケースも発生していた。これは、従来、排水区内に複数の雨水貯留設備及び分水堰が存在していても、それらは固定堰であっても可動堰であっても単独で管理されており、雨が降っていない上流の雨水貯留設備で、下流側の状況を把握し考慮して、雨水を貯めることは出来なかったためである。
【0009】
研究が重ねられた結果、複数地点における降雨情報、管渠の水位情報等を収集し、これらの情報を解析して、任意地点の管渠内の水位や、管渠内を流れる雨水を含む下水の流量を予測し、その予測結果を基に、排水区内の複数の分水堰を総合的に制御して、排水区内の複数の雨水貯留設備能力を最大限に有効利用する手段の提供によって、上記課題が解決されることが見出された。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、本発明によれば、下水道施設の下水管に設けられ、その下水管から、対応する雨水貯留設備へ取り込むべき雨水を主とする下水の流量を調節する、複数の可動堰と、現在の、排水区内における複数地点の降雨量、複数地点の前記下水管の水位、複数の可動堰の高さ、その複数の可動堰のそれぞれに対応した複数の雨水貯留設備の貯留量、を含む情報を入力し、これらの情報を解析して、(可動堰の高さが現状のままであるときの(即ち固定堰と同じであるときの))将来の、複数の雨水貯留設備の貯留量を予測するとともに、可動堰の高さを変更したときの、将来の、可動堰に対応した雨水貯留設備の貯留量を予測する解析装置と、を備える浸水対策システムが提供される。
【0011】
本発明に係る浸水対策システムにおいては、解析装置が、将来に、複数の雨水貯留設備のうちの全て又は何れか2以上の貯留量が最大になるような、複数の可動堰のそれぞれの高さを求める手段を有することが好ましい。
【0012】
本発明に係る浸水対策システムにおいては、解析装置と可動堰とを結ぶ通信手段を備え、解析装置の結果に基づいて、可動堰の高さを制御することが好ましい。
【0013】
本発明に係る浸水対策システムは、複数の可動堰と、解析装置(制御装置)と、好ましくは通信手段と、を備えるものである。複数の可動堰はそれぞれ雨水貯留設備に対応して、下水道施設の下水管に設けられている。下水道施設において、降雨により、下水管の水位が上昇し、可動堰の高さを越えたら、雨水を主とする下水は、その可動堰に対応した雨水貯留設備に貯留される。
【0014】
本明細書における雨水貯留設備は、浸水対策用として、排水区内に複数備わる雨水貯留設備である。浸水対策とは、浸水に至る流量の下水が放流されないように(雨水を主とする下水を)貯留することを意味する。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る浸水対策システムは、複数の可動堰と、(可動堰の高さが現状のままであるときの(即ち固定堰と同じであるときの))将来の雨水貯留設備の貯留量を予測するとともに可動堰の高さを変更したときの将来の雨水貯留設備の貯留量を予測する解析装置と、を備えるので、その予測された雨水貯留設備の貯留量に基づいて、可動堰の高さを調節するという運用をすることが出来る。例えば、局地的に発生した豪雨により、(下水管の)下流側の雨水貯留設備では、将来、満水になって雨水が地上に溢れ出て浸水被害となることが予測される場合に、上流側の可動堰の高さを下げて雨水を主とする下水を上流側の雨水貯留設備へ貯留して、下流側における浸水被害、ひいては環境汚染を防止し又は軽減することが可能である。
【0016】
本発明に係る浸水対策システムは、好ましくは通信手段を備えるので、予測された雨水貯留設備の貯留量に基づいて、可動堰の高さを、遠隔操作によって手動又は半自動で制御するという運用をすることが出来、それによって、下流側における浸水被害を防止し又は軽減することが可能である。
【0017】
本発明に係る浸水対策システムは、好ましくは、解析装置が将来に複数の雨水貯留設備のうちの全て又は何れか2以上の貯留量が最大になるような複数の可動堰のそれぞれの高さを求める手段を有するので、その求められた高さを実現するように動堰を制御することによって、複数の雨水貯留設備の浸水対策能力を最大化することが可能である。
【0018】
本発明に係る浸水対策システムは、好ましくは、通信手段を備え、更に、上記したように解析装置が将来に複数の雨水貯留設備のうちの全て又は何れか2以上の貯留量が最大になるような複数の可動堰のそれぞれの高さを求める手段を有するので、その求められた高さを実現するように、遠隔操作によって自動で複数の可動堰を制御するといった運用をすることが出来、それによって、下流側における浸水被害を防止し又は軽減することが可能である。
【0019】
例えば、合流式下水道施設の合流管が敷設された排水区内に、雨水貯留設備A、B、C、Dが設けられており、それら雨水貯留設備A、B、C、Dへ接続されるように、合流管に可動堰A、B、C、Dが設けられていて、雨水貯留設備A及び可動堰Aが下流側に存在し、それから分岐した上流側に、雨水貯留設備B、C、D及び可動堰B、C、Dが存在する場合において、下流側のみにおいて局地的に豪雨が発生し、雨水貯留設備Aがオーバーフローして浸水被害が発生すると予測される場合には、上流側において降雨がなくても降雨があっても、上流側の可動堰B、C、Dの全て又は何れか1又は2の高さを下げて、雨水貯留設備B、C、Dの全て又は何れか1又は2へ、下水を貯留し、下流側における浸水被害を防止し又は軽減することが可能である。上流側の可動堰B、C、Dの全て又は何れか1又は2の高さを下げることについての選択は、上流側における降雨の状況や、可動堰B、C、Dの高さを下げた場合における雨水貯留設備B、C、Dの将来の貯留量の予測値基に決定すればよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明について、適宜、図面を参酌しながら、実施形態を説明するが、本発明はこれらに限定されて解釈されるべきものではない。本発明に係る要旨を損なわない範囲で、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良、置換を加え得るものである。例えば、図面は、好適な本発明に係る実施形態を表すものであるが、本発明は図面に表される態様や図面に示される情報により制限されない。本発明を実施し又は検証する上では、本明細書中に記述されたものと同様の手段若しくは均等な手段が適用され得るが、好適な手段は、以下に記述される手段である。
【0021】
[浸水対策システム]先ず、本発明に係る浸水対策システムについて、その浸水対策システムが含まれる合流式下水道施設を示しながら、従来の浸水対策手段と対比させて、説明する。
【0022】
図1及び図2は、合流式下水道施設を表す模式図であり、図1は、本発明に係る浸水対策システムが採用された合流式下水道施設であり、それによって浸水被害が発生していない様子が表され、図2には、従来の浸水対策手段によって下流側で浸水被害が発生した様子が表されている。
【0023】
図2に示される従来の浸水対策手段による合流式下水道施設は、下水処理場と、その下水処理場が受け持つ排水区内に敷設された合流管と、その合流管に設けられた固定堰A、B、C、Dと、それら固定堰に対応して設けられた雨水貯留設備A、B、C、Dと、を有する。
【0024】
雨水貯留設備A及び固定堰Aは下流側に存在し、それから分岐した各上流側に、雨水貯留設備B、C、D及び固定堰B、C、Dが存在する。汚水と雨水とが合流した下水は、上流側から、順次、合流管に入り、合流管を流下して下水処理場へ流れ込み、そこで、放流可能な水質に処理される。降雨等によって下水の量が増加して合流管の流下能力を越えたら、下水は何れかの固定堰を越えて対応する雨水貯留設備へ流入して貯留され、通常時(晴天時)に下水の量が低下した際に、ポンプ等によって合流管に戻され、流下して下水処理場で処理される。
【0025】
通常、固定堰は、それが備わる合流管部分の流下能力を越えたら、対応する雨水貯留設備へ下水が流入するように高さが設定されている。上流側の固定堰B、C、Dの高さは一定であるから、下流側の降雨状況や雨水貯留設備Aの貯留状態によらず、合流管の流下能力以内であれば、下水は合流管を流下し、下水処理場へ向かう。そのため、例えば、前回の降雨のために雨水貯留設備Aの貯留量が満水である状態で、下流側で局地的な豪雨が発生したり、上流側で発生した降雨による多量の雨水が下流に集まったり、あるいはそれらの両方が生じた場合には、合流管から固定堰Aを越えた下水が行き場をなくし、地上に溢れ出て、下流において浸水を引き起こす。上流側では、合流管の流下能力以内であれば、下水は合流管を流下しているから、下流側で浸水被害が生じていても、上流側の雨水貯留設備B、C、Dの貯留量には余裕がある場合がある。尚、固定堰A、B、C、Dが可動堰であっても、下流側の降雨状況や雨水貯留設備Aの貯留状態を考慮せずに高さを調節すれば、同様な問題は起こり得る。
【0026】
本発明に係る浸水対策システムを備える合流式下水道施設であれば、このような問題は生じない。図1に示される合流式下水道施設は、下水処理場と、その下水処理場が受け持つ排水区内に敷設された合流管と、雨水貯留設備A、B、C、Dと、本発明に係る浸水対策システムと、を有する。本発明に係る浸水対策システムは、合流管に設けられた可動堰A、B、C、Dと、解析装置と、その解析装置と可動堰A、B、C、Dとを結ぶ(例えば有線の)通信装置を備える。可動堰A、B、C、Dと雨水貯留設備A、B、C、Dとは対応して設けられている。解析装置は、情報処理装置(コンピュータ)で構成され、下水処理場内の制御盤内や、下水処理場外の管理室に設置される。
【0027】
雨水貯留設備A及び可動堰Aは下流側に存在し、それから分岐した各上流側に、雨水貯留設備B、C、D及び可動堰B、C、Dが存在する。汚水と雨水とが合流した下水は、上流側から、順次、合流管に入り、合流管を流下して下水処理場へ流れ込み、そこで、放流可能な水質に処理される。降雨等によって下水の量が増加して合流管の流下能力を越えたら、下水は何れかの可動堰を越えて対応する雨水貯留設備へ流入して貯留され、通常時(晴天時)に下水の量が低下した際に、ポンプ等によって合流管に戻され、流下して下水処理場で処理される。この点は、従来の浸水対策手段による合流式下水道施設と同じである。
【0028】
可動堰A、B、C、Dは、対応する雨水貯留設備A、B、C、Dへ取り込むべき下水の流量を調節する堰であり、好ましくは外部からの信号によって、電気式に又は機械式に、高さが調整可能なものである。解析装置は、排水区内における複数地点の降雨量、複数地点の合流管の水位、複数の可動堰の高さ、その複数の可動堰のそれぞれに対応した複数の雨水貯留設備の貯留量を含む情報を入力し、これらの情報を解析して将来の複数の雨水貯留設備の貯留量を予測するとともに、可動堰の高さを変更したときの将来の可動堰に対応した雨水貯留設備の貯留量を予測することが出来る。更に、解析装置は、将来に雨水貯留設備A、B、C、Dのうちの全て又は何れか2以上の貯留量が最大になるような可動堰A、B、C、Dのそれぞれの高さを求めることが出来、例えば、この求めた高さとなるような制御信号を、通信装置を介して、可動堰A、B、C、Dへ送信すれば、解析装置の結果に基づき可動堰A、B、C、Dの高さを自動制御することが出来る。
【0029】
図1に示される合流式下水道施設は、本発明に係る浸水対策システムを備えるので、下流側の降雨状況や、雨水貯留設備Aの現在の貯留状態、及び予測された雨水貯留設備Aの将来の貯留量の増加状況に基づいて、例えば、上流側において降雨がなく、上流側における下水の量が合流管の流下能力以内であっても、前回の降雨のために雨水貯留設備Aの貯留量が満水であったり、下流側で局地的な豪雨が発生したり、あるいはそれらの両方が生じている場合には、可動堰B、C、Dの高さを下げ、下水を合流管で下流側へ流下させずに、上流側の雨水貯留設備B、C、Dに貯留させる選択を採り得る。そのため、下流において、下水が行き場をなくして地上に溢れ出て浸水を引き起こすおそれは小さい。本発明に係る浸水対策システムを備えていれば、仮に最終的に、何れかの場所で浸水が発生するとしても、全ての雨水貯留設備A、B、C、Dが概ね満水になって能力を最大限に、ないしはそれに近い能力を、発揮した後のことである。
【0030】
[解析装置]次に、本発明に係る浸水対策システムの解析装置について説明する。
【0031】
本発明に係る浸水対策システムを運用する上では、現在の、排水区内における雨水貯留設備A、B、C、D及び可動堰A、B、C、Dがそれぞれ備わる区域毎の各地点の降雨量、同じく区域毎の各地点の合流管の水位、可動堰A、B、C、Dの高さ、雨水貯留設備A、B、C、Dの貯留量、を含む情報の授受と、これらの情報の解析が重要であり、それを担うのが解析装置である。又、浸水対策にかかる情報は、市民へ公開することが必要であるから、本発明に係る浸水対策システムにおいては、必要に応じ、気象情報や解析結果を含む浸水に関するデータを公開する手段を備えることが好ましい。
【0032】
本発明に係る浸水対策システムにおける情報の授受及び解析は、例えば、下水処理場の管理室に配設される制御盤内のコンピュータや、下水処理場内又は外部に配設される情報収集サーバ、情報提供サーバ(解析装置を含む)、及び一般公開用サーバで構成されるネットワークシステムにおいて、以下のように行なわれる。
【0033】
図5は、本発明に係る浸水対策システムにおける情報処理を表す図であり、情報の流れが上から下へ示されたフロー図である。本発明に係る浸水対策システムを適切に運用するために必要な情報として、例えば、気象データ(地点毎の天気予報等)、降雨データ(地点毎の降雨量等)、水位データ(地点毎の合流管内の水位、放流先(河川、海域等)の水位等)、施設運転データ(各種ポンプ(汚水ポンプ、雨水ポンプ等)の運転状況、可動堰の高さ等)を挙げることが出来る。これらの情報は、例えば制御盤内のコンピュータを経て、情報収集サーバに入力される。気象データは、時差をなくすため、直接、情報収集サーバへ入力することが好ましい。これらの気象データや降雨データは、例えば、気象庁、民間気象会社、(直接に)レーダ等より集められる。水位データや施設運転データは、それぞれの場所に設けられた検出器や、制御用コンピュータ、ポンプ動力盤等より集められる。
【0034】
具体的な入力データとしては、降雨データは、例えば、雨水貯留設備A、B、C、D及び可動堰A、B、C、Dがそれぞれ備わる区域毎の各地点における10分毎の降雨量(mm/10分間)であり、水位データは、例えば、同じく区域毎の各地点における10分毎の水位(m、TP(東京湾平均海面))であり、施設運転データは、可動堰A、B、C、Dの高さである。
【0035】
各種データは、情報収集サーバから、情報提供サーバへ送られ、そこで、種々の解析がなされる。そして、必要な情報が関係各部署へ送られるとともに、住民へ開示すべき情報は一般公開用サーバを介して公開される。関係各部署へ送られる情報としては、流量データ(合流管内の任意地点の流量、下水処理場における沈砂池(ポンプ場)の流量等)、(例えば)雨水貯留設備の貯留量データ(現在及び将来の貯留量)を挙げることが出来る。又、住民へ開示すべき情報は、例えば浸水位データである。
【0036】
具体的な出力データとしては、雨水貯留設備の貯留量データは、例えば、貯槽の10分間毎の貯留量(m)であり、流量データは、例えば、雨水貯留設備A、B、C、D及び可動堰A、B、C、Dがそれぞれ備わる区域毎の各地点における10分毎の瞬時の合流管内流量(m/秒)であり、浸水位データは、例えば、同じく区域毎の各地点における10分毎の浸水位(m)である。
【0037】
関係各部署へ送られる情報及び住民へ開示すべき情報は、送られた降雨データ、水位データ、施設運転データを基に、解析装置において、降雨量予測モデル、地表面流出モデル、管内水理モデル、地表面氾濫モデル等によって解析され、出力すべき流量データ、雨水貯留設備の貯留量データ、浸水位データとなる。尚、図5には示されていないが、既述のように、将来に雨水貯留設備A、B、C、Dのうちの全て又は何れか2以上の貯留量が最大になるような可動堰A、B、C、Dのそれぞれの高さを、逆算して、求め、これを関係各部署へ送り、あるいは、直接に、可動堰を制御するための信号として出力することが出来る。
【0038】
図6は、解析装置において用いられる降雨量予測モデルの一例(簡易式)の概要を示すグラフである。実測された過去の雨量データから降雨量の上昇率を算出し、その上昇率に時間を乗じることで、予測雨量を求めることが出来る。例えば、グラフ上において、2分前から現在値までを直線で結び、これを15分先まで伸ばし、15分先からは30分先に降雨量が0(零)となるように直線を引けば、30分先までの合計の雨量を予測することが出来る。
【0039】
図7A〜図11は、解析装置において用いられる地表面流出モデルの一例の概要を示す図である。この地表面流出モデルは、降雨損失要素を組み込んだ有効降雨モデルと、有効降雨を流入マンホール地点でのハイドログラフに変換する地表面流下モデルと、の2つから構成される。
【0040】
図7A〜図7Cは、有効降雨モデルの一例の概念を示す説明図であり、図8A〜図8Dは、有効降雨モデルの一例の概念を示すグラフである。図7A〜図7C及び図8A〜図8Cに示されるように、有効降雨(降雨量)は、実降雨のあった場所が、浸透域、半浸透域、不浸透域の何れであるかによって異なり、又、有効降雨(降雨量)を求めるに際しては、凹地貯留(損失)分が除外される。例えば、100mmの実降雨があったとして、不浸透面積率が50%である不浸透域(図7A及び図8Aを参照)では、浸透損失がないので、50mm(=100mm×50%)から、凹地貯留損失3.00mmを減じた47.00mmが有効降雨となり、有効降雨は多い。しかし、例えば、不浸透面積率が30%である浸透域(図7C及び図8Cを参照)では、30mm(=100mm×30%)のうち凹地貯留損失1.80mmを減じた28.20mm全てが浸透し、(地域全体としての)有効降雨は少ない。又、不浸透面積率が20%である半浸透域(図7B及び図8Bを参照)では有効降雨もその中間になる。即ち、20mm(=100mm×20%)のうち凹地貯留損失1.20mmを減じた18.80mmの半分である9.40mmが浸透する。
【0041】
尚、図7Aと図8Aは、不浸透域における有効降雨を説明するための図であるが、概念を説明するための図であり、図7Aと図8Aは同じ状況を示しているわけではない。図7Bと図8B(半浸透域)、図7Cと図8C(浸透域)についても、同様である。又、図8Dは、浸透域、半浸透域、不浸透域を合わせた、流域全体の有効降雨モデルを表している。
【0042】
具体的には、有効降雨モデルにおける有効降雨R(t)は、実降雨Rr(t)から初期損失Qiniである凹地貯留(損失)を差し引き、浸透損失を考慮した不浸透面積率を乗じて算定することが出来る。有効降雨R(t)は、実降雨Rr(t)が初期損失Qini以下であるときは0(零)であり、実降雨Rr(t)が初期損失Qini超えたときに、次の(1)式で求められる。(1)式において、実流域で観測された流出率と、不浸透面積率と、の比を低減係数と定義すると、(2)式が求められる。換言すれば、低減係数は、流出率と、地図等から推定した不浸透面積率と、を整合させるための補正係数である。又、(2)式における不浸透面積率は、(3)式で求められる。
【0043】
有効降雨R(t) = 実降雨Rr(t)×流出率 ・・・(1)
【0044】
有効降雨R(t) = 実降雨Rr(t)×不浸透面積率Imp×低減係数Qred
・・・(2)
【0045】
【数1】

【0046】
図9及び図11は、地表面流下モデルの一例の概念を示すグラフであり、図10は、地表面流下モデルの一例の概念を示す説明図である。地表面流下モデルでは、先に算定された有効降雨に基づいて、流域形状、流入時間を考慮した時間/面積曲線により、流入ハイドロの算定を行なう。流域は、流入マンホールを中心点とする同心円状の多くのセルに分割される。図9には、流入時間を区分した単位時間(シミュレーション時間間隔Δt)あたりの有効降雨(降雨量)が表されており、図10には、流入マンホールまでの到達時間が等しい時間(上記の単位時間(シミュレーション時間間隔Δt))毎の流域が表されており(即ち、図10は等到達時間域図であり)、図11には、流入ハイドロの算定が表されている。
【0047】
具体的には、セル数nは、次の(4)式から算定され、流入ハイドロは、(5)式で求められる。
【0048】
【数2】

【0049】
【数3】

【0050】
合流管内の流れを計算する管内水理モデルは、サンブナン式(Dynamic wave法)を用いて構築することが出来る、サンブナン式は、質量と運動量の保存則から、次の(6)式(連続の式)、(7)式(運動方程式)で表される。
【0051】
【数4】

【0052】
【数5】

【0053】
図12及び図13は、地表面氾濫モデルの一例の概念を示す説明図である。地表面氾濫モデルによれば、降雨量が多いために、合流管から溢れた下水(主に初期汚濁水)が地表面を流下し移動する態様(流路、流量)を求めることが出来る。合流管から溢れた下水は、地盤の高低差によって、流下、移動するが、地表面氾濫モデルでは、流域の地形をデータ(標高を持った2次元の地表面データ)として備え、その流域の地形を考慮して、浸水の移動を表現(再現)することが出来る。地表面氾濫モデルは、質量保存式(連続式)、運動方程式(X方向及びY方向)によって表現することが可能である。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を、シミュレーション(本明細書における実施例とする)により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0055】
(比較例1)図2に示される下水道施設において、排水区内の雨水貯留設備Aが受け持つ流域の面積を100ha、その流域における流出率(不浸透面積率×低減係数)を0.5、初期損失を0(零)、雨水貯留設備Aの容量を10000m、合流管の流下能力を40mm/hとした。同様に、雨水貯留設備Bが受け持つ流域の面積を120ha、その流域における流出率(不浸透面積率×低減係数)を0.5、初期損失を0(零)、雨水貯留設備Bの容量を12000m、合流管の流下能力を40mm/hとし、雨水貯留設備Cが受け持つ流域の面積を150ha、その流域における流出率(不浸透面積率×低減係数)を0.5、初期損失を0(零)、雨水貯留設備Cの容量を15000m、合流管の流下能力を40mm/hとし、雨水貯留設備Dが受け持つ流域の面積を200ha、その流域における流出率(不浸透面積率×低減係数)を0.5、初期損失を0(零)、雨水貯留設備Dの容量を20000m、合流管の流下能力を40mm/hとした。
【0056】
上記条件において、午前8:00から、雨水貯留設備A及び固定堰Aが備わる区域に合流管の流下能力を25mm/h越える雨量の降雨があり、同様に、雨水貯留設備B及び固定堰Bが備わる区域に合流管の流下能力を20mm/h越える雨量の降雨があり、雨水貯留設備C及び固定堰Cが備わる区域に合流管の流下能力を15mm/h越える雨量の降雨があり、雨水貯留設備D及び固定堰Dが備わる区域に合流管の流下能力を10mm/h越える雨量の降雨があった場合の、合流管内の流量の推移、及び、雨水貯留設備の貯留量の推移を求めた。結果を、図3A〜図3D及び図4A〜図4D並びに表1に示す。図3Aは、固定堰Aの近傍の合流管内の流量の推移を表すグラフであり、図4Aは、雨水貯留設備Aの貯留量の推移を表すグラフである。同様に、図3Bは、固定堰Bの近傍の合流管内の流量の推移を表すグラフであり、図4Bは、雨水貯留設備Bの貯留量の推移を表すグラフである。図3Cは、固定堰Cの近傍の合流管内の流量の推移を表すグラフであり、図4Cは、雨水貯留設備Cの貯留量の推移を表すグラフである。図3Dは、固定堰Dの近傍の合流管内の流量の推移を表すグラフであり、図4Dは、雨水貯留設備Dの貯留量の推移を表すグラフである。
【0057】
図3A〜図3D及び図4A〜図4Dに示されるように、排水区内全てにおいて合流管の流下能力を越える雨量の降雨があったため、固定堰A、B、C、Dにおいて、何れも午前10:00頃には、雨水を主とする下水を流下させるのに必要な流速は、合流管の流下能力を越えてしまった。即ち、下水は、固定堰A、B、C、Dを越えて、雨水貯留設備A、B、C、Dに流入した。そして、合流管の流下能力を越える雨量が最も大きかった区域に備わる雨水貯留設備Aでは、約40分後に満水となり、その後オーバーフローして、当該区域(下流)に、浸水量2500mの浸水被害が発生した。
【0058】
【表1】

【0059】
(実施例1)図1に示される下水道施設において、比較例1に準じて、排水区内の雨水貯留設備Aが受け持つ流域の面積を100ha、その流域における流出率(不浸透面積率×低減係数)を0.5、初期損失を0(零)、雨水貯留設備Aの容量を10000m、合流管の流下能力を40mm/hとした。同様に、雨水貯留設備Bが受け持つ流域の面積を120ha、その流域における流出率(不浸透面積率×低減係数)を0.5、初期損失を0(零)、雨水貯留設備Bの容量を12000m、合流管の流下能力を40mm/hとし、雨水貯留設備Cが受け持つ流域の面積を150ha、その流域における流出率(不浸透面積率×低減係数)を0.5、初期損失を0(零)、雨水貯留設備Cの容量を15000m、合流管の流下能力を40mm/hとし、雨水貯留設備Dが受け持つ流域の面積を200ha、その流域における流出率(不浸透面積率×低減係数)を0.5、初期損失を0(零)、雨水貯留設備Dの容量を20000m、合流管の流下能力を40mm/hとした。
【0060】
上記条件において、午前8:00から、雨水貯留設備A及び可動堰Aが備わる区域に合流管の流下能力を25mm/h越える雨量の降雨があり、同様に、雨水貯留設備B及び可動堰Bが備わる区域に合流管の流下能力を20mm/h越える雨量の降雨があり、雨水貯留設備C及び可動堰Cが備わる区域に合流管の流下能力を15mm/h越える雨量の降雨があり、雨水貯留設備D及び可動堰Dが備わる区域に合流管の流下能力を10mm/h越える雨量の降雨があった場合の、合流管内の流量の推移、及び、雨水貯留設備の貯留量の推移を求めた。但し、実施例1においては、雨水貯留設備A及び可動堰Aが備わる区域において合流管の流下能力を越える雨量が最も大きかったことから、下水が可動堰Aを越えて、雨水貯留設備Aに流入し始めた時点(午前10:00頃)から、最も貯留量に余裕があった雨水貯留設備Dに対応する可動堰Dの高さを下げて、より多量の下水が、上流側である雨水貯留設備Dに貯留されるようにした。結果を、図3A〜図3D及び図4A〜図4Dに比較例1の結果と重ねて示すとともに、表1に示す。図3Aは、可動堰Aの近傍の合流管内の流量(流速)の推移を表すグラフであり、図4Aは、雨水貯留設備Aの貯留量の推移を表すグラフである。同様に、図3Bは、可動堰Bの近傍の合流管内の流量の推移を表すグラフであり、図4Bは、雨水貯留設備Bの貯留量の推移を表すグラフである。図3Cは、可動堰Cの近傍の合流管内の流量の推移を表すグラフであり、図4Cは、雨水貯留設備Cの貯留量の推移を表すグラフである。図3Dは、可動堰Dの近傍の合流管内の流量の推移を表すグラフであり、図4Dは、雨水貯留設備Dの貯留量の推移を表すグラフである。図3A、図3D、図4A、及び図4Dにおいて太線の部分が、比較例1と異なるところであり、それ以外は比較例1と同じである。
【0061】
図3A、図3D、図4A、及び図4Dに示されるように、上流側の雨水貯留設備Dで雨水を主とする下水を貯留した(吸収した)ので、下流側の雨水貯留設備Aがオーバーフローするまでには至らず、合流管の流下能力を越える雨量が最も大きかった区域における浸水被害の発生を防止することが出来た。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明に係る浸水対策システムは、合流式下水道施設における浸水対策手段として、好適に利用される。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明に係る浸水対策システムが採用された合流式下水道施設を示す模式図である。
【図2】従来の浸水対策手段による合流式下水道施設を示す模式図である。
【図3A】実施例の結果を示す図であり、合流管内の流量の推移を表すグラフである。
【図3B】実施例の結果を示す図であり、合流管内の流量の推移を表すグラフである。
【図3C】実施例の結果を示す図であり、合流管内の流量の推移を表すグラフである。
【図3D】実施例の結果を示す図であり、合流管内の流量の推移を表すグラフである。
【図4A】実施例の結果を示す図であり、雨水貯留設備の貯留量の推移を表すグラフである。
【図4B】実施例の結果を示す図であり、雨水貯留設備の貯留量の推移を表すグラフである。
【図4C】実施例の結果を示す図であり、雨水貯留設備の貯留量の推移を表すグラフである。
【図4D】実施例の結果を示す図であり、雨水貯留設備の貯留量の推移を表すグラフである。
【図5】本発明に係る浸水対策システムにおける情報処理を表すフロー図である。
【図6】本発明に係る浸水対策システムにおける解析装置で用いられる降雨量予測モデルの一例(簡易式)の概要を示すグラフである。
【図7A】本発明に係る浸水対策システムにおける解析装置で用いられる有効降雨モデルの一例の概念を示す説明図であり、不浸透域における損失(凹地貯留、浸透)をイメージで表した図である。
【図7B】本発明に係る浸水対策システムにおける解析装置で用いられる有効降雨モデルの一例の概念を示す説明図であり、半浸透域における損失(凹地貯留、浸透)をイメージで表した図である。
【図7C】本発明に係る浸水対策システムにおける解析装置で用いられる有効降雨モデルの一例の概念を示す説明図であり、浸透域における損失(凹地貯留、浸透)をイメージで表した図である。
【図8A】本発明に係る浸水対策システムにおける解析装置で用いられる有効降雨モデルの一例の概念を示すグラフ図であり、不浸透域における損失(凹地貯留、浸透)を時間経過毎の降雨量で表したグラフである。
【図8B】本発明に係る浸水対策システムにおける解析装置で用いられる有効降雨モデルの一例の概念を示すグラフ図であり、半浸透域における損失(凹地貯留、浸透)を時間経過毎の降雨量で表したグラフである。
【図8C】本発明に係る浸水対策システムにおける解析装置で用いられる有効降雨モデルの一例の概念を示すグラフ図であり、浸透域における損失(凹地貯留、浸透)を時間経過毎の降雨量で表したグラフである。
【図8D】本発明に係る浸水対策システムにおける解析装置で用いられる有効降雨モデルの一例の概念を示すグラフ図であり、全域(流域全体)における損失(凹地貯留、浸透)を時間経過毎の降雨量で表したグラフである。
【図9】本発明に係る浸水対策システムにおける解析装置で用いられる地表面流下モデルの一例の概念を示すグラフである。
【図10】本発明に係る浸水対策システムにおける解析装置で用いられる地表面流下モデルの一例の概念を示す説明図である。
【図11】本発明に係る浸水対策システムにおける解析装置で用いられる地表面流下モデルの一例の概念を示すグラフである。
【図12】本発明に係る浸水対策システムにおける解析装置で用いられる地表面氾濫モデルの一例の概念を示す説明図である。
【図13】本発明に係る浸水対策システムにおける解析装置で用いられる地表面氾濫モデルの一例の概念を示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下水道施設の下水管に設けられ、その下水管から、対応する雨水貯留設備へ取り込むべき雨水を主とする下水の流量を調節する、複数の可動堰と、
現在の、排水区内における複数地点の降雨量、複数地点の前記下水管の水位、前記複数の可動堰の高さ、その複数の可動堰のそれぞれに対応した複数の雨水貯留設備の貯留量、を含む情報を入力し、これらの情報を解析して、将来の、前記複数の雨水貯留設備の貯留量を予測するとともに、前記可動堰の高さを変更したときの、将来の、前記可動堰に対応した雨水貯留設備の貯留量を予測する解析装置と、
を備える浸水対策システム。
【請求項2】
前記解析装置が、将来に、前記複数の雨水貯留設備のうちの全て又は何れか2以上の貯留量が最大になるような、前記複数の可動堰のそれぞれの高さを求める手段を有する請求項1に記載の浸水対策システム。
【請求項3】
前記解析装置と前記可動堰とを結ぶ通信手段を備え、前記解析装置の結果に基づいて、前記可動堰の高さを制御する請求項1又は2に記載の浸水対策システム。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−133191(P2010−133191A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−312146(P2008−312146)
【出願日】平成20年12月8日(2008.12.8)
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)
【Fターム(参考)】