説明

下部尿路疾患治療剤及び下部尿路症状改善剤

本発明は、難治性疾患とされている膀胱炎、間質性膀胱炎、前立腺炎、前立腺肥大症などの下部尿路疾患治療剤及びこれらの疾患に伴う下部尿路症状改善剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トロンビン様酵素を含んでなる、下部尿路疾患治療剤及びこれらの疾患に伴う下部尿路症状改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
膀胱と尿道で構成される下部尿路には、膀胱に尿を溜める蓄尿機能と、溜まった尿を排出する排尿機能が備わっている。2002年の国際禁制学会(International Continence Society)において、下部尿路の異常を下部尿路機能障害(lower urinary tract dysfunction)、下部尿路機能障害に起因して起こる種々の症状を下部尿路症状(lower urinary tract symptoms)と称することが提案された。下部尿路症状は、蓄尿症状(storage symptoms)、排尿症状(voiding symptoms)及び排尿後症状(post micturition symptoms)の3種類に大別される(Abrams P et al.: The Standardisation of Terminology of Lower Urinary Tract Function. Neurourology and Urodynamics 21:167-178,2002)。
【0003】
蓄尿症状は、膀胱に尿を溜められない、いわゆる頻尿や尿失禁などを指している。具体的には下記のような症状が含まれる。
1)昼間頻尿:日中の排尿回数が多すぎること;
2)夜間頻尿:夜間に1回以上排尿のために起きること;
3)尿意切迫感:急に起こる、抑えられないような強い尿意で、我慢することが困難であること;
4) 尿失禁:尿が不随意に漏れること;
5)切迫性尿失禁:尿意切迫感と同時に、あるいはその直後に不随意な尿漏れが生じること;
6)腹圧性尿失禁:咳やくしゃみなど腹圧のかかった時に不随意な尿漏れが生じること;7)混合性尿失禁:切迫性尿失禁と腹圧性尿失禁がともに見られること;
【0004】
排尿症状は排尿相に見られる、いわゆる排尿困難のような症状を指している。具体的には下記のような症状が含まれる。
1)尿勢低下:尿の勢いが弱いこと;
2)尿線分割:尿線が割れること;
3)尿線途絶:尿線が排尿中に1回以上途切れること;
4)排尿遅延:排尿準備ができてから尿の開始までに時間がかかること;
5)腹圧排尿:排尿の開始、尿線の維持または改善のために腹圧を要すること;
6)終末滴下:排尿の終了が延長し、尿が滴下するまで尿流が低下すること;
【0005】
排尿後症状は排尿直後に見られる症状であり、具体的には下記のような症状が含まれる。1)残尿感:排尿後に完全に膀胱が空になっていない感じがすること;
2)排尿後尿滴下:排尿直後、男性では便器から離れた後、女性では立ち上がった後に不随意的に尿が出てくること;
【0006】
また、生殖器・下部尿路痛が下部尿路症状の項目の下に上記の蓄尿症状、排尿症状及び排尿後症状と並列に記載されている(Abrams P et al.: The Standardisation of Terminology of Lower Urinary Tract Function. Neurourology and Urodynamics 21:167-178,2002)。このうち、下部尿路痛としては具体的に下記のような症状が含まれる。
1)膀胱痛:恥骨上部または恥骨後部に感じられる痛み。通常膀胱充満につれて増強し、排尿後に持続することもある;
2)尿道痛:尿道に感じられる痛み;
【0007】
下部尿路疾患とは、一般に下部尿路症状を引き起こす全ての疾患をいい、膀胱、前立腺及び尿道における種々の機能障害や疾患を含んでいる。具体的には、女性の場合には膀胱及び尿道における疾患、男性の場合には膀胱及び尿道における疾患に加え、更に前立腺における疾患をも含んでいる。
膀胱においては、例えば単純性膀胱炎、出血性膀胱炎、間質性膀胱炎、膀胱頸部硬化症、神経因性膀胱、萎縮膀胱、過活動膀胱及び低活動膀胱などの膀胱関連疾患が挙げられ、前立腺においては、例えば急性又は慢性細菌性前立腺炎、慢性非細菌性前立腺炎及び前立腺肥大症(良性前立腺肥大症)などの前立腺関連疾患が挙げられ、尿道においては、例えば尿道炎や尿道狭窄などの尿道関連疾患が挙げられる。
【0008】
膀胱炎は、主に膀胱粘膜や粘膜下組織内の感染性又は非感染性の炎症のことであり、臨床上、蓄尿症状、排尿症状、排尿後症状及び下部尿路痛が見られる。通常、膀胱炎は、臨床経過により急性膀胱炎と慢性膀胱炎に分類され、下部尿路の閉塞性疾患などの有無により単純性膀胱炎と複雑性膀胱炎に分類される。一般に、単純性膀胱炎は急性的な経過を呈し、抗菌剤によく反応するが、複雑性膀胱炎は慢性的な経過を呈し、抗菌剤に対して反応しがたいことが多く、難治性膀胱炎と呼ばれることがある。難治性膀胱炎としては、出血性膀胱炎、間質性膀胱炎、細菌性難治性膀胱炎及び好酸球性膀胱炎などがある(Schaeffer AJ et al.: Chapter8 Infections of the Urinary Tract, Bladder Infections Uncomplicated Cystitis, in Campbell-Walsh Urology, 9th ed.: Elsevier, Philadelphia 254-259,2007)。
【0009】
出血性膀胱炎は、膀胱炎の症状もあるが、強い血尿を主訴とする膀胱炎のことでその原因は種々であり単一の疾患ではない。主な原因としては、
(1)アデノウイルス、インフルエンザウイルスなどのウイルス;
(2)大腸菌、プロテウス、緑膿菌などの細菌及びその他の微生物;
(3)cyclophosphamideのような抗癌剤投与などの化学的刺激;
(4)放射線照射などの物理的刺激;
などが挙げられる。
【0010】
間質性膀胱炎は、尿意切迫感、頻尿及び下腹部の痛みを主訴に、排尿不全、倦怠感及び不安感などをともなう膀胱の疾病である。その原因としては、リンパ系の障害、慢性感染症、神経系の障害、精神的障害、自己免疫疾患、膀胱の防御機構の破壊及び肥満細胞などが挙げられているが、未だ明確ではない(Hanno PM et al.: Chapter10 Painful Bladder Syndrome/Interstitial Cystitis and Related Disorders, in Campbell-Walsh Urology, 9th ed. Elsevier, Philadelphia 330-349,2007)。
【0011】
細菌性難治性膀胱炎としては、膀胱結核が代表的である。膀胱結核は強い膀胱炎症状と膿尿を呈するが、通常の抗菌剤は無効である。抗酸菌染色や結核菌培養で尿路結核の診断がつき、膀胱鏡検査で特徴的な黄色の丘状結節が見られれば、膀胱結核の診断がつく。治療は抗結核剤の投与が有効である。
【0012】
好酸球性膀胱炎は、急性細菌性膀胱炎と全く同じ症状を呈し、膿尿も典型的である。しかし、尿培養は陰性で、抗菌剤は効かない。この病態は、抗アレルギー作用を有する薬剤に対するアレルギー反応で、代表的薬剤はトラニラストであるが、他の抗アレルギー剤も同様な膀胱炎を起こし得る。膿尿の主体は好酸球であるが、時期によっては好酸球が見られず、多核白血球やリンパ球が見られることがある。原因となる薬剤の投与中止により容易に軽快することが多いが、なかなか軽快しないときはステロイド投与が行われている。
【0013】
急性前立腺炎は、そのほとんどが細菌性炎症であり、起因菌としてはグラム陰性桿菌、特に大腸菌が多い。尿路感染症の既往のある場合では、いわゆる複雑性尿路感染症と同様に緑膿菌やセラチアなどのグラム陰性桿菌が起因菌となる。また、頻度は高くはないが、腸球菌と黄色ブドウ球菌も起因菌となる。一般的に、悪寒、戦慄を伴う高熱及び下部尿路痛といった症状がみられる。前立腺の腫脹と圧痛ならびに尿所見から容易に診断が可能な病態である(Nickel JC et al.: Chapter 23 Prostatitis, Orchitis, and Epididymitis: Prostatitis, in Diseases of the Kidney and Urinary Tract, 8th ed. Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, 634-649, 2007)。
【0014】
慢性前立腺炎は、慢性細菌性前立腺炎と慢性非細菌性前立腺炎に分けられ、臨床上、排尿症状、排尿後症状及び下部尿路痛が主に見られるが、重症の場合には蓄尿機能に影響し、蓄尿症状も見られる。慢性細菌性前立腺炎の感染経路は急性前立腺炎と同じと考えられており、急性前立腺炎から慢性化する場合と、初めから慢性炎症として経過するものとがある。症状としては、頻尿、残尿感及び下部尿路痛など排尿時の刺激症状を伴うが、急性期のそれより程度は軽い。慢性非細菌性前立腺炎は最も頻度が高いものであるが、その原因ははっきり分かっていない。症状や前立腺触診などでは細菌性前立腺炎と全く区別がつかないが、先行する尿路感染もなく、検尿や前立腺マッサージ液などに細菌が証明されないが、白血球が証明される場合、慢性非細菌性前立腺炎と診断される(Nickel JC et al.: Chapter 23 Prostatitis, Orchitis, and Epididymitis: Prostatitis, in Diseases of the Kidney and Urinary Tract, 8th ed. Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, 634-649, 2007)。
【0015】
前立腺肥大症は、加齢による前立腺の機能低下により尿道周囲の腺に線維筋性又は腺性の小結節が出現し、しだいに大きな結節を生じるようになり、前立腺が全体として大きくなることをいう。前立腺肥大症そのものは良性の疾患であるが、進行して増大すると、これによる尿路の閉塞により下部尿路機能障害及び腎機能障害をきたす。前立腺肥大症では、臨床上、排尿症状、排尿後症状及び下部尿路痛が主に見られるが、重症の場合には蓄尿機能に影響し、蓄尿症状も見られる。
【0016】
近年、高齢化社会に伴い、下部尿路症状や下部尿路痛が介護あるいは臨床医療において大きな問題となっている。その要因の一つとして下部尿路症状及び下部尿路痛が下部尿路疾患だけでなく、脳血管障害や神経変性疾患などの要因とが複雑に絡み合って発症にいたっていると考えられている。
既にこれまでにいくつかの下部尿路疾患治療剤が報告されている。例えば、排尿の機能低下や前立腺肥大症の治療剤としてα1遮断薬であるタムスロシン、ナフトピジルなど、頻尿や尿失禁などの治療剤としては抗コリン剤である塩酸オキシブチニン、塩酸プロピベリンなど、頻尿や尿意切迫などの治療剤としては平滑筋弛緩薬である塩酸フラボキサートなど、がある(Zermann DH et al.: Chapter 22, Disorders of Micturition: Treatment of Lower Urinary Tract Dysfunction, in Diseases of the Kidney and Urinary Tract, 8th ed., Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, 621-625, 2007)。
さらに近年、下部尿路疾患の治療・予防に有効であるとして5-HT1A受容体に親和性を有する化合物が報告されている(米国特許第5990114号明細書)。また、テトラヒドロイソキノリン誘導体がカプサイシン感受性知覚神経抑制作用を有し、間質性膀胱炎、下部尿路における知覚過敏症、非細菌性前立腺炎に有効であるとの報告もなされている(米国特許第7335668号明細書)。
しかしながら、依然として、有効性、安全性などの観点から新しい下部尿路疾患治療剤及び下部尿路症状改善剤の開発が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
したがって、本発明は、有効性及び安全性に優れる新しい下部尿路疾患治療剤及び下部尿路症状改善剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、種々の薬剤について下部尿路疾患に対する治療効果を検討してきたが、まったく意外にもトロンビン様酵素が下部尿路疾患に対して優れた治療効果があり、これらの下部尿路疾患に伴う下部尿路症状に改善効果があることを見出して本発明を完成するに至った。
【0019】
すなわち、本発明は、トロンビン様酵素を含んでなる、下部尿路疾患治療剤及びこれらの下部尿路疾患に伴う下部尿路症状改善剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明のトロンビン様酵素を含んでなる、下部尿路疾患治療剤は、後述する実施例で示されるように、膀胱炎、前立腺炎及び前立腺肥大症などの種々の下部尿路疾患を治療し、及び、これらの疾患に伴う下部尿路症状を改善することができる。したがって、本発明により、介護及び臨床医療における下部尿路症状に関する問題を克服することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、慢性非細菌性前立腺炎の実施例における偽手術群の顕微鏡写真(×40倍)である。
【図2】図2(A)は、慢性非細菌性前立腺炎の実施例におけるモデル群の顕微鏡写真(×40倍)である。右向きの矢印は腺腔内の好中球の浸潤を示す。図2(B)は、慢性非細菌性前立腺炎の実施例におけるモデル群の顕微鏡写真(×40倍)である。左向きの矢印は間質内のリンパ球と形質細胞の浸潤を示す。
【図3】図3は、慢性非細菌性前立腺炎の実施例におけるDF-521 30BU/kg群の顕微鏡写真(×40倍)である。右向きの矢印は腺腔内の好中球の浸潤の減少を示す。左向きの矢印は間質内のリンパ球と形質細胞の浸潤の減少を示す。
【図4】図4は、前立腺肥大症の実施例における偽手術群の顕微鏡写真(×40倍)である。
【図5】図5(A)は、前立腺肥大症の実施例におけるモデル群の顕微鏡写真(×40倍)である。右向きの矢印は腺上皮の乳頭様な肥厚を示す。図5(B)は、前立腺肥大症の実施例におけるモデル群の顕微鏡写真(×40倍)である。左向きの矢印は間質の肥大と繊維化を示す。
【図6】図6は、前立腺肥大症の実施例におけるDF-521 30BU/kg群の顕微鏡写真(×40倍)である。右向きの矢印は腺上皮の乳頭様な肥厚の軽減を示す。左向きの矢印は間質の肥大及び繊維化の軽減を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について詳細に説明する。
本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常に用いられる意味で用いられていると理解すべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての専門用語及び科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。これと矛盾する場合は、定義を含めて本明細書が優先するものである。
【0023】
以下に本明細書において使用される用語の定義を列挙する。
本明細書において使用される「トロンビン様酵素」とは、フィブリノーゲンを凝固させる性質を有するトロンビン以外のプロテアーゼをいう。具体例としては、バトロキソビン(batroxobin)、アンクロッド(ancrod)、クロタラーゼ(crotalase)、フラボキソビン(flavoxobin)、アスペラーゼ(asperase)、アクチン(acutin)、ボトロパーゼ(botropase)、クロターゼ(clotase)、ガボナーゼ(gabonase)、ベンザイム(venzyme)などが挙げられる。
【0024】
トロンビン様酵素は基質であるフィブリノーゲン分子上の作用部位により、(i)フィブリノペプチドA(fibrinopeptide A)のみを遊離させてフィブリンIを生成するプロテアーゼ(バトロキソビン、アンクロッド、クロタラーゼなど)、(ii)フィブリノペプチドAとフィブリノペプチドBを遊離させてフィブリンII(フィブリンともいう)を生成するプロテアーゼ(ガボナーゼなど)、及び(iii)主にフィブリノペプチドBを遊離させるプロテアーゼ(ベンザイムなど)、の3種類に分けられる。
【0025】
本明細書において、「フィブリンI」とは、フィブリノーゲンからフィブリノペプチドAのみを遊離して生成したモノマー(monomer)をいう。このフィブリンIはDes Aフィブリンともいう。また、「フィブリノペプチドA」とは、フィブリノーゲンのAα鎖のNH2末端より16個のアミノ酸残基を有するペプチドをいう。
また、本明細書において「フィブリノーゲンからフィブリンIを生成するプロテアーゼ」の具体例としては、バトロキソビン、アンクロッド、クロタラーゼ、フラボキソビン、アスペラーゼ及びアクチンなどが挙げられる。
【0026】
本発明の好ましいトロンビン様酵素には、バトロキソビン、アンクロッド及びクロタラーゼなどが含まれる(Stocker KF: Snake venom proteins affecting hemostasis and fibrinolysis, in Medical Use of Snake Venom Proteins, Stocker KF, ed., CRC Press, Boston, p130-131;1990)。
【0027】
バトロキソビンは、Bothrops atrox moojeniの毒液に由来するトロンビン様酵素であり、分子量が約36,000Daの糖タンパク質である。バトロキソビンは、フィブリノーゲンからフィブリノペプチドAのみを遊離して、フィブリンIを生成する(Aronson DL: Comparison of the actions of thrombin and the thrombin-like venom enzymes Ancrod and Batroxobin. Thrombos Haemostas (stuttg) 36:9-13,1976)。また、バトロキソビンの一次構造は既に決定されており、バトロキソビンは231個のアミノ酸からなる単鎖の糖タンパク質である(Itoh N et al: Molecular cloning and sequence analysis of cDNA for batroxobin, a thrombin-like snake venom enzyme. J Biol Chem 262:3132-3135,1987)。
バトロキソビンとトロンビンは糖タンパク質の構造を有する点では、類似する酵素であるが、フィブリノーゲン上の作用部位において相違する。バトロキソビンは、フィブリノーゲンからフィブリノペプチドAのみを遊離してフィブリンIを生成するのに対し、トロンビンはフィブリノーゲンからフィブリノペプチドAだけでなく、フィブリノペプチドBをも遊離して、フィブリン(フィブリンIIともいう)を生成する点で、バトロキソビンとは相違する。また、バトロキソビンはフィブリノーゲン以外の血液凝固因子に作用しないが、トロンビンは他の血液凝固因子に作用する点でも相違する。
バトロキソビンは、それ自体公知物質であり、例えば、米国特許第4137127号明細書に記載の方法に従って調製可能であるが、その製品は東菱薬品工業株式会社(東京、日本)及びその子会社である北京托畢西薬業有限公司(Beijing Tobishi Pharmaceutical Co., Ltd., China)より容易に入手可能である。
【0028】
アンクロッドはAgkistrodon rhodostomaの毒液に由来するトロンビン様酵素であり、分子量が約35,400Daの糖タンパク質である。アンクロッドはバトロキソビンと同様にフィブリノーゲンからフィブリノペプチドAのみを遊離してフィブリンIを生成するトロンビン様酵素である(Stocker KF: Snake venom proteins affecting hemostasis and fibrinolysis, in Medical Use of Snake Venom Proteins, Stocker KF, ed., CRC Press, Boston, p134-135;1990)。
【0029】
クロタラーゼはCrotalus adamanteusの毒液に由来するトロンビン様酵素であり、分子量が約32,700Daの糖タンパク質である。クロタラーゼはバトロキソビンと同様にフィブリノーゲンからフィブリノペプチドAのみを遊離し、フィブリンIを生成するトロンビン様酵素である(Stocker KF: Snake venom proteins affecting hemostasis and fibrinolysis, in Medical Use of Snake Venom Proteins, Stocker KF, ed., CRC Press, Boston, p140-141;1990)。
これらのなかで、バトロキソビンは、本発明の有効成分として最も好ましいトロンビン様酵素である。また、これらのバトロキソビン、アンクロッド及びクロタラーゼなどのトロンビン様酵素は天然物であってもよく、遺伝子組み換え製品であってもよい。
【0030】
本発明の対象となる「下部尿路疾患」とは、下部尿路症状を引き起こす全ての疾患をいう。具体例としては膀胱、前立腺及び尿道における疾患や機能障害などが挙げられる。
膀胱における疾患としては、膀胱炎、膀胱頸部硬化症、神経因性膀胱、萎縮膀胱、過活動膀胱及び低活動膀胱などが挙げられる。膀胱炎の具体例としては、単純性膀胱炎、出血性膀胱炎及び間質性膀胱炎などが挙げられる。
前立腺における疾患としては、前立腺炎や前立腺肥大症などが挙げられる。前立腺炎の具体例としては、急性又は慢性細菌性前立腺炎や慢性非細菌性前立腺炎などが挙げられる。
尿道における疾患としては、尿道炎や尿道狭窄などが挙げられる。
このうち、好ましくは、膀胱炎、前立腺炎及び前立腺肥大症である。さらにより好ましくは、出血性膀胱炎、間質性膀胱炎、慢性非細菌性前立腺炎及び前立腺肥大症である。
【0031】
本発明は下部尿路疾患を治療することができる。ここでいう「治療」には、疾患を治すことだけでなく、疾患の進行を抑制することや発症を予防することなども含まれる。
【0032】
本発明の対象となる「下部尿路疾患に伴う下部尿路症状」とは、下部尿路疾患を原因とする症状をいう。具体例としては、蓄尿症状、排尿症状、排尿後症状及び下部尿路痛などが挙げられる。
蓄尿症状としては昼間頻尿、夜間頻尿、尿意切迫感、尿失禁、切迫性尿失禁、腹圧性尿失禁及び混合性尿失禁などが挙げられる。
排尿症状としては尿勢低下、尿線分割、尿線途絶、排尿遅延、腹圧排尿及び終末滴下などが挙げられる。
排尿後症状としては残尿感や排尿後尿滴下などが挙げられる。
また、下部尿路痛としては膀胱痛や尿道痛などが挙げられる。
【0033】
本発明は下部尿路疾患に伴う下部尿路症状を改善することができる。ここでいう「改善」には、症状の完全な寛解だけでなく、症状の緩和、症状悪化の抑制、症状発生の予防及び生活の質(QOL)の改善なども含まれる。
【0034】
本発明の医薬の剤型としては、日局製剤総則にある剤型を適用できる。例えば直接体内に適用する注射剤(懸濁剤、乳剤を含む);軟膏剤(油脂性軟膏、乳剤性軟膏(クリーム)、水溶性軟膏などを含む)、吸入剤、液剤(点眼剤、点鼻剤などを含む)、坐剤、貼付剤、パップ剤、ローション剤などの外用剤;又は、錠剤(糖衣、フィルム、膠衣を含む)、液剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤(細粒を含む)丸剤、シロップ剤、トローチ剤などの内用剤が挙げられる。これらの製剤は、日局製剤総則などに記載された方法で製剤化することができる。
【0035】
また、本発明の医薬は、剤型に応じて医薬的に許容しうる固体状若しくは液体状の担体又は介入治療基材を含んでいてもよい。医薬的に許容しうる固体状若しくは液体状の担体としては、溶剤、安定化剤、保存剤、溶解補助剤、乳化剤、懸濁化剤、緩衝剤、等張化剤、着色剤、増粘剤、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、コーティング剤、矯味剤などが挙げられる。
具体例としては、水及び、乳糖、白糖、果糖、ブドウ糖、マンニトール、ソルビトールなどの糖・糖アルコール類、結晶セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロースなどのセルロース及びその関連誘導体、トウモロコシデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、バレイショデンプン、デキストリン、アルファー化デンプン、部分アルファー化デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム、シクロデキストリン、プルランなどのデンプン及びその関連誘導体、カンテン、アルギン酸ナトリウム、アラビアゴム、ゼラチン、コラーゲン、セラック、トラガント、キサンタンガム(天然)などの天然高分子(海草類、植物粘質物、タンパク質など)、ポリビニルピロリドン、アミノアルキルメタアクリレートコポリマー、メタアクリル酸コポリマー、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール、ジメチルポリシロキサンなどの合成高分子、オリーブ油、カカオ脂、カルナウバロウ、牛脂、硬化油、ダイズ油、ゴマ油、ツバキ油、パラフィン、流動パラフィン、ミツロウ、白色ワセリン、ヤシ油、マイクロクリスタリンワックスなどの油脂類、ステアリン酸、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、クエン酸トリエチル、トリアセチン、中鎖脂肪酸トリグリセリド、ハードファット、ミリスチン酸イソプロピルなどの脂肪酸及びその誘導体、グリセリン、ステアリルアルコール、セタノール、プロピレングリコール、マクロゴールなどのアルコール及び多価アルコール、酸化亜鉛、リン酸水素カルシウム、沈降炭酸カルシウム、合成ケイ酸アルミニウム、無水ケイ酸、カオリン、乾燥水酸化アルミニウムゲル、合成ヒドロタルサイト、酸化チタン、タルク、ベントナイト、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、硫酸アルミニウムカリウム、次没食子酸ビスマス、次サリチル酸ビスマス、乳酸カルシウム、重炭酸ナトリウムなどの無機性物質及び金属塩化合物、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸ポリオキシル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、セスキオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、モノラウリン酸ソルビタン、ポリソルベート、モノステアリン酸グリセリン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウロマクロゴールなどの界面活性物質、色素、香料などが挙げられる。
介入治療基材としてはステント、人工血管、カテーテル、バルーンなどが挙げられる。
【0036】
本発明の医薬の投与量及び投与回数は、通常、トロンビン様酵素の種類、患者の体重、疾患の性質及び状態に依存して変化するが、例えば、トロンビン様酵素としてバトロキソビンを成人に1日1回投与する場合、その投与量は0.1〜50バトロキソビン単位(Batroxobin Unit、略してBU)であり、さらに好ましい投与量は成人に1回1〜20 BUを隔日投与するものである。外用剤の場合は1gあたり0.01〜500mgである。
なお、バトロキソビン単位は、バトロキソビンの酵素活性量を示す単位であり、37℃で、標準ヒトクエン酸加血漿0.3mlにバトロキソビン溶液0.1mlを加えるとき、19.0±0.2秒で凝固する活性量を2BU とするものである。
また、トロンビン様酵素としてアンクロッドを成人に1日1回投与する場合、その通常の投与量は0.01〜10 IU/kgであり、さらに好ましい投与量は0.5IU/kgである。
本発明の医薬の投与は、例えば、トロンビン様酵素を適宜希釈して、次いで静脈内点滴投与、静脈内注射、動脈内注射、筋肉内注射、皮下注射、皮内注射、心臓内注射、腹腔内注射、くも膜下注射、又は、直腸内投与、舌下投与、鼻粘膜投与、経皮投与、吸入、或いは下部尿路疾患を起こしている臓器及び/又は組織への局所投与により行うことができる。好ましくは100ml以上の生理食塩水でトロンビン様酵素を希釈して、1時間以上静脈内点滴することである。
【0037】
バトロキソビンのマウス、ラット、ウサギ及びイヌに対する急性毒性(LD50 (BU/kg))は以下の表1の通りである。急性毒性試験は、バトロキソビンの静脈内投与により評価した。
【0038】
表1 バトロキソビンの急性毒性(i.v.)

【0039】
以下に製剤例及び実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0040】
[製剤例1]
下記の組成を有するバトロキソビン組成物を注射剤として製造した。
バトロキソビン(活性成分) 10BU
クロロブタノール(保存剤) 3mg
ゼラチン加水分解物(安定化剤) 0.1mg
塩化ナトリウム(等張化剤) 9mg
塩酸(pH調節剤) 適量
注射用蒸留水 1mlまで
全量 1ml
【0041】
[実施例1] 出血性膀胱炎に対するバトロキソビンの作用
Cyclophosphamide(CYP)は抗悪性腫瘍剤の一種であり、その主な臨床副作用として出血性膀胱炎が知られている。このCYPは体内で4-hydroxy体に代謝され、抗腫瘍活性を発揮するが、4-hydroxy体がさらに代謝され、尿中にacroleinという代謝産物が存在するが、このacroleinが直接的な起炎物質となり、膀胱内壁を刺激して出血性膀胱炎を引き起こすと報告されている。
【0042】
1.実験方法
バトロキソビン(DF-521)は東菱薬品工業(株)(日本)製(Tobishi Pharmaceutical Co., Ltd.)、Cyclophosphamide monohydrate(CYP)及びFormamideはSigma社(USA)製、Evans blue(EB)は東京化成工業(株)製を使用した。動物は体重25〜30g前後のddY系雄性マウス(Jla:ddY,日本医科学動物資材研究所)を使用した。
【0043】
(1)動物の群わけ、出血性膀胱炎モデルの作製及び投薬方法
マウスを正常群(6匹)、モデル群(12匹)、DF-521 10BU/kg 静脈投与(i.v.)群(11匹)及びDF-521 40BU/kg腹腔内投与(i.p.)群(11匹)に分けた。DF-521 10BU/kg静脈投与(i.v.)群では、DF-521 10BU/kgをマウスの尾静脈内投与し、DF-521 40BU/kg腹腔内投与(i.p.)群ではDF-521 40BU/kgを腹腔内投与した。DF-521の投与30分後にCYP 200mg/kgを腹腔内投与し、出血性膀胱炎モデルを作製した。膀胱の相対重量と膀胱内血漿蛋白漏出の測定は、CYP投与の2.5時間後にEB 30 mg/kgを尾静脈内投与し、その30分後動物を頚椎脱臼により致死せしめ、下記の方法を用いて行った。なお、モデル群にはDF-521の代わりに同容量(10ml/kg)の生理食塩水を投与し、その30分後にCYP 200mg/kgを腹腔内投与した。その後はそれぞれの測定項目のタイムスケジュールに従って、同様な処置を行った。また正常群は無処置の正常マウスとした。
【0044】
(2)膀胱の相対重量及び膀胱内への血漿蛋白漏出の測定
Evans blue(EB)法は、石川ら(Drug interaction effects on antitumour drugs (XV) : Disulfiram as protective agent cyclophosphamide induced urotoxicity without compromising antitumour activity in mice.Pharmacology and Toxicology 74:255-261,1994)及びRouleauら(Anti-inflammatory and Antinociceptive properties of BP 2-94, a histamine H3-receptor agonist prodrug.J Pharmacol Exp Ther. 295(1):219-225, 2000) の方法を参考にして測定した。すなわち、マウスにCYP 200mg/kgを腹腔内投与した後、測定時刻の30分前にEB溶液 30mg/kgを尾静脈より静脈内投与した。EB溶液の投与30分後に動物を頚椎脱臼により致死させた後、正中線にて開腹した。丁寧に剥離し膀胱組織を摘出して、尿道側より縦方向に切り開き、異物(結晶様物質)や尿などがあった場合はこれを取り除いてから膀胱の湿重量を測定し、体重100g当たりの相対重量(bladder weight mg / 100g body weight)として表した。その後直ちに0.5mlのformamide液を入れたサンプルチューブ内に膀胱を投入した。サンプルチューブを45℃、18時間インキュベーションして膀胱組織内に漏出した色素をformamide液にて抽出し、その抽出液を波長620 nm(イムノリーダー)にて吸光度測定した。あらかじめ、EBの標準濃度液(0.1〜100μg/ml)の吸光度を波長620 nmにて測定して、検量線を作成した。検量線から各抽出液のEB濃度を算出し、膀胱内EB含量(μg EB/bladder)として表し、膀胱内への血漿蛋白漏出の指標とした。
【0045】
(3)統計処理
結果は、平均値±標準偏差で表わした。モデル群と薬物投与群間の検定を、Bartlett法により分析を行った後に、不等分散の補正のため、ノンパラメトリックのDunnett法を用いた。また、正常群とモデル群との2群間の検定について、F検定を用いて分析を行い、分散分析が不等であったため、Welchの検定を用いて不等分散を補正した。なお、いずれの検定においても危険率5%未満(p<0.05)を有意とした。
【0046】
2.結果
DF-521 10BU/kg静脈内投与とDF-521 40BU/kg腹腔内投与による出血性膀胱炎に対するバトロキソビンの作用についての結果を表2に示した。
【0047】
表2

#p<0.01 正常群との比較;*p<0.01 モデル群との比較
【0048】
表2に示したように、モデル群の膀胱相対重量は正常群に比べて約2.1倍の有意な増加を示した。これに対し、DF-521 10BU/kg静脈内投与群は48.7%の有意(p<0.01)な抑制作用を示した。一方、DF-521 40BU/kg腹腔内投与群は53.5%の有意(p<0.01)な抑制作用を示した。また、膀胱内Evans blue含量は、正常群に比べモデル群で約43倍の有意(p<0.01)な亢進を示した。これに対し、DF-521 10BU/kg静脈内投与群は38.1%の有意(p<0.01)な抑制作用を示した。またDF-521 40BU/kg腹腔内投与群では44.4%の有意(p<0.01)な抑制作用を示した。すなわち、DF-521 10BU/kg静脈内投与群とDF-521 40BU/kg腹腔内投与群の出血性膀胱炎における膀胱相対重量増加と膀胱内血漿蛋白漏出亢進に対する作用はほぼ同程度であった。また、肉眼的所見では、モデル群は、膀胱壁の浮腫による肥厚の程度が強く、全ての動物で膀胱粘膜出血が見られた。また、その殆どの動物では、出血部位の面積が膀胱粘膜の総面積の25%以上を占めた。これに対して、DF-521 40BU/kg腹腔内投与群では、膀胱壁の浮腫による肥厚はモデル群に比べると薄く、程度がやや弱かった。
これらの結果より、バトロキソビンは静脈内又は腹腔内のいずれの投与経路でも出血性膀胱炎における膀胱相対重量の増加及び膀胱内血漿蛋白漏出亢進に明らかな抑制作用を有することが判明した。膀胱相対重量増加及び血漿蛋白漏出亢進はいずれも出血性膀胱炎の指標である。したがって、本実施例の結果よりバトロキソビンは膀胱炎の治療に有効であることが理解される。更に、本実施例の結果より、膀胱炎に伴う蓄尿症状、排尿症状、排尿後症状及び下部尿路痛の改善においてもバトロキソビンは有効であると考えられる。
【0049】
[実施例2] 慢性非細菌性前立腺炎に対するバトロキソビンの作用
1.実験方法
バトロキソビン(DF-521)は北京托畢西薬業有限公司(Beijing Tobishi Pharmaceutical Co., Ltd., China)、Sesame oilと17β-Estradiol(E2)はSigma社(USA)の製品を使用した。なお、E2は、慢性非細菌性前立腺炎モデル作製に用いた物質である。
【0050】
(1)使用動物及び群分け
体重330〜420gの13週齢雄性Wistarラットを北京維通利華実験動物技術有限公司(Beijing Vital River Laboratory Animal Co., Ltd., China)より購入した。ラットを温度20〜25℃、相対湿度40〜70%、明暗(12h/12h)交替のSPFクラス動物室にて飼育し、60Coで滅菌した固形飼料(SPFクラス、北京科澳協力飼料有限公司(Beijing Science Au Corporate Feed Co., Ltd, China))と滅菌水を自由に摂取させて、一週間の検疫、馴化を行った後に実験に供した。
13週齢雄性Wistarラットを偽手術群、モデル群及びDF-521 30BU/kg群の3群に振り分け、各群の動物数を11匹にした。
【0051】
(2)慢性非細菌性前立腺炎モデルの作製及び投薬方法
偽手術群のラットはエーテル麻酔下の陰嚢切開だけを行い(実験1日目)、翌日より1ml/kgのSesame oilを1日1回、連続31日間に亘り背部の皮下に注射した。他の2群のラットをエーテル麻酔下に去勢術(実験1日目)を行った後、翌日にSesame oil に溶かした0.25mg/ml/kgのE2を、1日1回、連続31日間に亘り背部の皮下に注射して、慢性非細菌性前立腺炎モデルを作製した。
実験の17日目から偽手術群とモデル群には5ml/kg生食水を隔日1回腹腔内投与した。DF-521 30BU/kg群には30BU/5ml/kgの DF-521を隔日1回腹腔内投与した。投与を全15日間に亘って行い、その間にDF-521を8回投与した。
【0052】
(3)前立腺重量測定、prolactin濃度の測定及び病理組織学的検査
実験32日目にエーテル麻酔下で腹大動脈よりEDTA抗凝固剤を用いて採血した。血漿を分離後に血漿中のprolactinを市販のELISAキットで測定した。また、前立腺を摘出し、前立腺重量を測定し、さらに体重100g当たりの前立腺重量(prostate mg/100g body weight)(前立腺指数)として表した。さらに前立腺の片側の側葉を取り、ホルマリン溶液で固定後に定法に従い、パラフィン切片を作製し、hematoxylin-eosin(HE)染色後に、顕微鏡下で病理組織学的検査を行った
【0053】
2.結果
(1)ラット前立腺重量及び前立腺指数
各群のラット前立腺重量及び前立腺指数の結果を表3に示した。
【0054】
表3

【0055】
表3に示したように、偽手術群の前立腺重量(mg)及び前立腺指数(prostate mg/100g body weight)がそれぞれ938.4及び194.7に対し、モデル群の前立腺重量及び前立腺指数はそれぞれ195.2及び55.5であり、明らかに低下した。一方、DF-521 30BU/kg群ではこれらの指標においてモデル群に比べてわずかな改善が見られた。前立腺重量及び前立腺指数は慢性非細菌性前立腺炎の指標である。したがって、本実施例の結果よりバトロキソビンは慢性非細菌性前立腺炎の治療に有効であることが理解される。
【0056】
(2)ラット血漿中のprolactinに対するバトロキソビンの作用
各群のラット血漿中のprolactin濃度を表4に示した。
【0057】
表4

【0058】
表4に示したように、モデル群の血漿中のprolactin含量は偽手術群に比べて明らかに増加していた。一方、DF-521 30BU/kg群でのprolactin含量はモデル群に比べて約1/2に減少していた。prolactinは乳汁分泌の促進作用を有する脳の下垂体前葉から分泌されるホルモンであるが、近年に下垂体以外の臓器や組織からも分泌され、多様な生理活性をもつことが報告され、前立腺炎との関与が指摘されている(Yu-Lee Ly: Prolactin modulation of immune and inflammatory responses. Recent Prog Horm Res. 57:435-455, 2002)。したがって、本実施例の結果より、バトロキソビンの血漿中prolactin濃度の低下作用は、おそらく前立腺炎を抑制する一つの作用機序ではないかと示唆された。
【0059】
(3)ラット前立腺の病理組織学的所見
図1に偽手術群の顕微鏡像を示すが、偽手術群では全体的に前立腺が大きく、個々の腺は丸みをなした構造を示し、腺腔の中にはHE染色で染色される豊富な内容液が観察された。図2にはモデル群の顕微鏡像を示すが、モデル群では前立腺が不整形を示し、腺腔の中には大量な好中球の浸潤((A)の矢印)があり、間質にはび漫性、巣状又は散在的なリンパ球と形質細胞の浸潤が見られ((B)の矢印)、一部分の腺上皮が壊死して脱落していた。一方、図3にDF-521 30BU/kg群の顕微鏡像を示すが、モデル群と比較して腺腔内の好中球の浸潤(右向きの矢印)及び間質内のリンパ球と形質細胞の浸潤(左向きの矢印)が減少しており、腺腔及び間質の炎症反応が明らかに軽減されていた。これらの結果より、バトロキソビンは慢性非細菌性前立腺炎の治療に有効であると理解される。
【0060】
(4)病理組織学的所見に基づく半定量評価
各ラットの前立腺組織標本における腺腔内の好中球浸潤及び間質のリンパ球と形質細胞の浸潤の程度を下記に示す評価基準でスコア化して、バトロキソビンの前立腺炎に対する作用を評価した。なお、結果を、表5に示した。表5において、各群の値(%)は、当該群のラットの総数に対する各スコアを有するラット数の百分率を意味する。
1)腺腔内の好中球浸潤についての評価基準
0:腺腔内に好中球の浸潤なし
1:浸潤好中球が腺腔面積の1/3以上を占める腺体が腺体総数の24.9%以下
2:浸潤好中球が腺腔面積の1/3以上を占める腺体が腺体総数の25〜49.9%
3:浸潤好中球が腺腔面積の1/3以上を占める腺体が腺体総数の50〜74.9%
4:浸潤好中球が腺腔面積の1/3以上を占める腺体が腺体総数の75%以上
【0061】
2)間質におけるリンパ球と形質細胞の浸潤についての評価基準
0:間質にリンパ球と形質細胞の浸潤なし
1:間質に散在しているリンパ球と形質細胞の浸潤あり
2:間質に巣状なリンパ球と形質細胞の浸潤あり
3:間質にリンパ球と形質細胞のび漫性浸潤あり
【0062】
表5

【0063】
好中球浸潤について、スコア2〜4のラット数の割合がモデル群及びDF-521 30BU/kg群では、それぞれ100.0%及び36.4%であった。腺腔内における好中球浸潤は非細菌性前立腺炎の指標である。この結果より、バトロキソビンは慢性非細菌性前立腺炎の治療に有効であると理解される。
一方、リンパ球と形質細胞の浸潤については、スコア2と3(巣状浸潤以上)のラット数の割合がモデル群及びDF-521 30BU/kg群では、それぞれ45.5%及び18.2%であった。間質におけるリンパ球と形質細胞の浸潤は慢性非細菌性前立腺炎の指標である。この結果より、バトロキソビンは慢性非細菌性前立腺炎の治療に有効であると理解される。
以上の結果より、バトロキソビンは慢性非細菌性前立腺炎を治療できることが確認された。更に、本実施例の結果より、臨床上の慢性非細菌性前立腺炎に伴う、排尿症状、排尿後症状及び下部尿路痛の改善についてもバトロキソビンは有効であると考えられる。
【0064】
[実施例3]前立腺肥大症に対するバトロキソビンの作用
1.実験方法
バトロキソビン(DF-521)は北京托畢西薬業有限公司(Beijing Tobishi Pharmaceutical Co., Ltd., China)、Sesame oilと17β-Estradiol(E2)はSigma社(USA)、Testosterone (T)は

の製品を使用した。なお、E2及びTは、前立腺肥大症モデル作製に用いた物質である。
【0065】
(1)実験動物及び群わけ
体重340〜420gの13週齢雄性Wistarラットを北京維通利華実験動物技術有限公司(Beijing Vital River Laboratory Animal Co., Ltd., China)より購入した。動物を温度20〜25℃、相対湿度40〜70%、明暗(12h/12h)交替のSPFクラス動物室にて飼育し、60Coで滅菌した固形飼料(SPFクラス、北京科澳協力飼料有限公司)と滅菌水を自由に摂取させた。一週間の検疫、馴化を行った後に実験に使用した。
13週齢雄性Wistarラットを偽手術群、モデル群、DF-521 30BU/kg群の3群に振り分け、各群の動物数を10〜11匹とした。
【0066】
(2)前立腺肥大症モデルの作製
偽手術群のラットはエーテル麻酔下の陰嚢切開のみをし(実験1日目)、翌日より1ml/kgのSesame oilを1日1回、連続32日間に亘り背部の皮下に注射した。他の2群のラットをエーテル麻酔下に去勢術(実験1日目)を行った後、翌日にSesame oil に溶かした50μg/5000μg/ml/kgのE2/Tを、1日1回、連続32日間に亘り背部の皮下に注射して、前立腺肥大症モデルを作製した。
【0067】
(3)投与方法
実験の14日目から生食水又は薬剤の投与を始めた。偽手術群とモデル群には5ml/kg生食水を隔日1回腹腔内投与した。DF-521 30BU/kg群には30BU/5ml/kgの DF-521を隔日1回腹腔内投与した。投与を全19日間に亘って行い、その間にDF-521を10回投与した。実験33日目に実験を終了させた。
【0068】
(4)病理組織学的検査
実験33日目にエーテル麻酔下で腹大動脈よりEDTA抗凝固剤を用いて採血した後に、前立腺を摘出して、前立腺の片側の腹側葉を取り、ホルマリン溶液で固定後に定法に準じて、パラフィン切片を作製して、hematoxylin-eosin(HE)染色後に、顕微鏡下で病理組織学的検査を行った。
【0069】
2.結果
(1)ラット前立腺の病理組織学的所見
図4に偽手術群の顕微鏡像を示すが、前立腺の構造が綺麗に観察され、腺体がきちんと配列され、腺上皮及び間質には肥大や浮腫が見られなかった。図5の(A)及び(B)にはモデル群の顕微鏡像を示すが、モデル群では腺腔の拡張及び腺上皮の乳頭様な肥厚((A)の矢印)が見られ、間質には巣状な繊維化及び軽度な浮腫が観察され((B)の矢印)、明らかな肥大が見られた。図6にDF-521 30BU/kg群の顕微鏡像を示すが、モデル群に比べ腺上皮の肥厚(右向きの矢印)並びに間質の肥大及び繊維化(左向きの矢印)が軽減されていた。これらの結果より、バトロキソビンは前立腺肥大症の治療に有効であると理解できる。
【0070】
(2)病理組織学的所見に基づく半定量評価
各ラットの前立腺組織標本における間質肥大及び腺体肥大の程度を下記に示す評価基準でスコア化して、バトロキソビンの前立腺肥大症に対する作用を評価した。なお、結果を表6に示した。表6において、各群の値(%)は、当該群のラットの総数に対する各スコアを有するラット数の百分率を意味する。
1)間質肥大の評価基準
0:間質肥大なし。即ち、偽手術群と比べ間質肥大が見られなかった。
1:軽度な間質肥大。即ち、腺体総数の10%以下の腺体が間質に存在する1〜2層の平滑筋細胞繊維に巻き込まれていた。
2:中度な間質肥大。即ち、腺体総数の10%以下の腺体が間質に存在する多層の同心円様な平滑筋細胞繊維に巻き込まれていた。
3:重度な間質肥大。即ち、腺体総数の10〜20%の腺体が間質に存在する多層の同心円様な平滑筋細胞繊維に巻き込まれていた。
【0071】
2)腺体肥大(腺体拡張、又は腺上皮の肥大)の評価基準
0:腺体の肥大なし。
1:腺体総数の24.9%以下の腺体に肥大あり。
2:腺体総数の25〜49.9%の腺体に肥大あり。
3:腺体総数の50〜74.9%の腺体に肥大あり。
4:腺体総数の75%以上の腺体に肥大あり。
【0072】
表6

【0073】
この結果から、モデル群では50%のラットに間質に中度以上の肥大が観察されたが、DF-521 30BU/kg群では33%のラットに中度な肥大が観察された。したがって、バトロキソビンは前立腺肥大症の間質肥大を抑制できることが示された。
腺体肥大については、スコア3以上(50%以上の腺体に肥大あり)のラット数の割合がモデル群及びDF-521 30BU/kg群では、それぞれ20.0%及び0%であった。したがって、バトロキソビンは前立腺肥大症の腺体肥大を抑制できることが示された。
以上の結果より、バトロキソビンは前立腺肥大症の治療に有効であることが理解される。更に、本実施例の結果より、前立腺肥大症に伴う排尿症状、排尿後症状、排尿後症状及び下部尿路痛の改善においてもバトロキソビンは有効であると考えられる。
【0074】
[実施例4] 間質性膀胱炎に対するバトロキソビンの臨床効果
1.試験方法
バトロキソビン(DF-521)は北京托畢西薬業有限公司製(Beijing Tobishi Pharmaceutical Co., Ltd., China)のDong Ling Di Fu(商品名)を使用した。試験対象者は間質性膀胱炎と明確に診断された10例の患者であるが、1例(No.01)の女性患者が治療の途中で脱落したので、最終的には9例の患者のデータをまとめた。
【0075】
(1)投与方法
薬剤は初回にDF-521 10BUを100ml 生理食塩水に希釈し、1時間以上をかけて静脈点滴した。その後、隔日1回、DF-521 5BUを100ml生理食塩水に希釈し、1時間以上をかけて静脈点滴し、合計14回投与した。
【0076】
(2)選択基準
間質性膀胱炎における診断基準が未だに確立されていない。NIDDK(National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases)は研究用の基準として発表しているが、それは臨床の診断基準として厳しすぎて、60%以上の間質性膀胱炎患者がこの基準から外れてしまうと言われている。そこで、本実施例では現在最も妥当であり、客観的な観察結果と認識される膀胱鏡の検査結果を臨床診断基準とし、以下の1)〜3)の三つの症状の全て適合すれば、間質性膀胱炎と診断した。
1)頻尿、尿意亢進、尿意切迫感、膀胱の不快感、膀胱痛等の症状がある;
2)膀胱内でHunner’s潰瘍或いは膀胱水圧拡張後の出血が見られる;
3)上述症状或いは観察結果が、他の疾病或いは状態で説明できない時。
【0077】
(3)除外基準
下記1)〜7)のいずれかに該当する患者は試験対象から除外した。
1)心臓、肝臓、腎臓の合併症がある者。
2)治療二週間前以内に、ヘパリン、低分子ヘパリン及びジクマロール類の薬物を既に使用した者。
3)重篤な出血傾向、或いは既に頭蓋内出血又は広範囲の脳梗塞を起こしている者。
4)活動性潰瘍、痔核のある者。
5)血圧が180/100mmHgより高い者。
6)妊娠中或いは授乳期の女性。
7)バトロキソビンにアレルギーがある者。
【0078】
(4)臨床評価指標
1)昼間と夜間の頻尿症状:治療前の連続3日、及び最終投薬後の連続3日に測定した(表7)。
2)間質性膀胱炎の症状スコア(O'Leary-Santスコア):治療前後に1回ずつ集計した(表8)。
なお、O'Leary-Santスコアは、間質性膀胱炎における4つの症状質問と4つの問題質問に対する回答を評価したスコアの合計点であった(O’Leary MP, Sant GR, Fowler FJ Jr, Whitmore KE, Spolarich-Kroll J., The interstitial cystitis symptom index and problem index, Urology 49(Suppl5A):58-63,1997のTABLE IV)。
3)QOLスコア:治療前後に1回ずつ集計した(表8)。
質問「現在の尿の状況がこのまま変わらずに続くとしたら、どう思いますか」に対する回答を評価したスコアであった。
【0079】
(5)臨床検査
投与前と治療終了後(最終回の投与後48時間)に血漿フィブリノーゲン(FBG)、プロトロンビン時間(PT)及び活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)を1回ずつ検査した。
(6)統計処理
SPSS13.0ソフトを使用し、治療前後の平均排尿量、24時間以内の排尿回数、O'Leary-Santスコア、QOLスコアについて比較分析を行った。正規分布に適合する場合にはt検定を、正規分布に適合していない場合には順位和検定を用いた。
【0080】
2.結果
登録患者は合計10例であり、内訳は男性1例、女性9例であった。全て、間質性膀胱炎の選択基準に適合していた。1例の女性患者(患者 No.01)は、7回の治療後に自主的に辞退したため、評価対象とはしなかった。
その他の9例の患者(患者 No.02〜No.10)は14回の投与を受けたので、これらの9例の患者に対して統計処理を行った。
【0081】
(1)バトロキソビンによる治療前後における平均排尿量と24時間以内の排尿回数(24時間の間に起きた排尿回数)
14回のバトロキソビン投与を受けた9例の患者のバトロキソビンによる治療前後における平均排尿量と24時間以内の排尿回数を測定した。その結果は表7の通りである。
【0082】
表7 平均排尿量と排尿回数(平均値±標準偏差, n=9)

*p<0.05、治療前との比較
【0083】
表7に示すように、治療後の平均排尿量は、治療前の135.70±73.27mlから145.85±72.00mlに増加し、治療前と比較して12.70%と有意に増加した(p<0.05)。平均排尿量の増加は、間質性膀胱炎患者の膀胱の蓄尿機能がバトロキソビンにより改善されたためであると考えられる。
治療後の24時間以内の排尿回数は、治療前の18.22±8.94回から17.33±8.97回に減少し、治療前と比較して3.82%とわずかながら減少した(p=0.33)。排尿回数の減少(昼間頻尿及び夜間頻尿の改善)は、前述の平均排尿量の増加(バトロキソビンによる膀胱の蓄尿機能の改善に起因)によるものと考えられる。
以上の結果より、バトロキソビンは間質性膀胱炎に伴う下部尿路症状(蓄尿症状)の改善に有効であることが理解できる。
【0084】
(2)バトロキソビンによる治療前後の間質性膀胱炎症状(O’Leary-Sant)スコア及びQOLスコア
14回のバトロキソビン投与を受けた9例の患者のバトロキソビンによる治療前後におけるO’Leary-Santスコア及びQOLスコアを評価し改善の程度を比較した。
【0085】
表8 間質性膀胱炎症状(O’ Leary-Sant)スコア及びQOLスコア(平均値±標準偏差, n=9)

* p<0.05 治療前との比較
【0086】
O’Leary-Santスコア:0〜15=軽度 16〜23=中度 24〜35=重度
QOLスコア: 0=最高 1=満足 2=ほぼ満足 3=まあまあ 4=あまり満足ではない 5=辛い 6=最悪
【0087】
表8に示すように、治療後のO'Leary-Santスコアは治療前の23.00±4.12から19.11±4.96に低下し、治療前と比較して17.17%と有意に低下した(p<0.05 )。これは、バトロキソビンが、頻尿、尿意亢進、尿意切迫感及び膀胱痛などの間質性膀胱炎に伴う臨床症状を評価するスコアであるO’Leary-Santスコアを有意に改善したことを示している。
また、治療後のQOLスコアは治療前の5.33±0.71から4.00±0.87に低下し、治療前と比較して24.44%と有意に低下した(p<0.05 )。
以上の結果より、バトロキソビンは間質性膀胱炎に伴う下部尿路症状の改善及び患者のQOL改善に有効であることが理解できる。
【0088】
(3)バトロキソビン治療前後の臨床検査値
14回のバトロキソビン投与を受けた9名の患者のバトロキソビンによる治療前後(最終回の投与後48時間)における、血漿フィブリノーゲン(FBG)、プロトロンビン時間(PT)及び活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)を測定した。その結果、FBGは治療前の3.24±1.04g/Lに対して、治療後は2.33±0.76g/Lと有意に減少していた(p<0.05 )。一方、PTは治療前の12.18±1.01秒に対して、治療後は12.57±1.04秒であり、APTTは治療前の31.48±5.41秒に対して、治療後は34.21±4.74秒であり、治療前後で有意差は見られず、p 値はPT及びAPTTでそれぞれ0.397、0.085であった。
以上の結果より、間質性膀胱炎患者においては、バトロキソビンの脱フィブリノーゲン作用による出血の副作用を引き起こす可能性がないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、膀胱炎、前立腺炎及び前立腺肥大症のような種々の下部尿路疾患の治療及び当該疾患に伴う下部尿路症状の改善に利用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トロンビン様酵素を含んでなる、下部尿路疾患治療剤。
【請求項2】
トロンビン様酵素がバトロキソビン、アンクロッド及びクロタラーゼからなる群より選ばれる、請求項1に記載の下部尿路疾患治療剤。
【請求項3】
トロンビン様酵素がバトロキソビンである、請求項1に記載の下部尿路疾患治療剤。
【請求項4】
下部尿路疾患が膀胱炎、前立腺炎及び前立腺肥大症からなる群より選ばれる、請求項1〜3のいずれかに記載の下部尿路疾患治療剤。
【請求項5】
下部尿路疾患が出血性膀胱炎、間質性膀胱炎、慢性非細菌性前立腺炎及び前立腺肥大症からなる群より選ばれる、請求項1〜3のいずれかに記載の下部尿路疾患治療剤。
【請求項6】
トロンビン様酵素を含んでなる、下部尿路疾患に伴う下部尿路症状改善剤。
【請求項7】
トロンビン様酵素がバトロキソビン、アンクロッド及びクロタラーゼからなる群より選ばれる、請求項6に記載の下部尿路疾患に伴う下部尿路症状改善剤。
【請求項8】
トロンビン様酵素がバトロキソビンである、請求項6に記載の下部尿路疾患に伴う下部尿路症状改善剤。
【請求項9】
下部尿路疾患が膀胱炎、前立腺炎及び前立腺肥大症からなる群より選ばれる、請求項6〜8のいずれかに記載の下部尿路疾患に伴う下部尿路症状改善剤。
【請求項10】
下部尿路疾患が出血性膀胱炎、間質性膀胱炎、慢性非細菌性前立腺炎及び前立腺肥大症からなる群より選ばれる、請求項6〜8のいずれかに記載の下部尿路疾患に伴う下部尿路症状改善剤。
【請求項11】
下部尿路症状が蓄尿症状、排尿症状及び排尿後症状からなる群より選ばれる、請求項6〜8のいずれかに記載の下部尿路疾患に伴う下部尿路症状改善剤。
【請求項12】
トロンビン様酵素を含んでなる、下部尿路疾患に伴う下部尿路痛改善剤。
【請求項13】
トロンビン様酵素がバトロキソビン、アンクロッド及びクロタラーゼからなる群より選ばれる、請求項12に記載の下部尿路疾患に伴う下部尿路痛改善剤。
【請求項14】
トロンビン様酵素がバトロキソビンである、請求項12に記載の下部尿路疾患に伴う下部尿路痛改善剤。
【請求項15】
下部尿路疾患が膀胱炎、前立腺炎及び前立腺肥大症からなる群より選ばれる、請求項12〜14のいずれかに記載の下部尿路疾患に伴う下部尿路痛改善剤。
【請求項16】
下部尿路疾患が出血性膀胱炎、間質性膀胱炎、慢性非細菌性前立腺炎及び前立腺肥大症からなる群より選ばれる、請求項12〜14のいずれかに記載の下部尿路疾患に伴う下部尿路痛改善剤。
【請求項17】
下部尿路痛が膀胱痛又は尿道痛から選ばれる、請求項12〜14のいずれかに記載の下部尿路疾患に伴う下部尿路痛改善剤。
【請求項18】
下部尿路疾患患者へ有効量のトロンビン様酵素を投与する、下部尿路疾患の治療方法。
【請求項19】
下部尿路疾患治療剤を製造するための、トロンビン様酵素の使用。
【請求項20】
下部尿路疾患に伴う下部尿路症状を示す患者へ有効量のトロンビン様酵素を投与する、下部尿路疾患に伴う下部尿路症状の改善方法。
【請求項21】
下部尿路疾患に伴う下部尿路症状改善剤を製造するための、トロンビン様酵素の使用。
【請求項22】
下部尿路痛を示す患者へ有効量のトロンビン様酵素を投与する、下部尿路痛の改善方法。
【請求項23】
下部尿路痛改善剤を製造するための、トロンビン様酵素の使用。

【図1】
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【図2(A)】
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【図2(B)】
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【図3】
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【図4】
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【図5(A)】
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【図5(B)】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−526581(P2011−526581A)
【公表日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−545294(P2010−545294)
【出願日】平成21年7月1日(2009.7.1)
【国際出願番号】PCT/JP2009/062402
【国際公開番号】WO2010/002035
【国際公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(000221650)東菱薬品工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】