説明

不均一系反応用触媒、及びそれを用いた有機化合物合成法

【課題】 本発明の課題は、有機低分子化合物、及び高分子化合物の合成において、高収率で、生成物の着色が無く、分子量、分子量分布、化学構造等が精密にコントロールされることにより、脱色精製工程等を設ける必要がなく、廃棄物の発生が少ない有機低分子化合物及び高分子化合物の合成に用いられる不均一系反応用触媒を提供し、この触媒を用いた有機化合物の合成方法を提供することである。
【解決手段】 少なくとも長期周期表第4〜12族元素からなる群より選ばれる金属元素を含む金属化合物(A)と、前記金属元素に配位可能な配位子を担持した高分子ゲル(B)とを含有することを特徴とする不均一系反応用触媒、及び当該触媒を用いた有機化合物の合成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の配位子を担持した高分子ゲルからなる不均一系反応用触媒、及び該不均一系反応用触媒の存在下での化合物合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、グリーンケミストリーと呼ばれる環境、資源に対して負荷の少ない化学物質の製造方法が注目を集めている。
特に、従来多く使用されていた金属化合物を触媒として用いた化学反応において、使用されている金属触媒の再生、再利用は大きな課題とされていた。
この課題を解決する方法として、低分子有機化合物の合成においては、Wittig反応等に使用する触媒として、高分子担持体上にトリフェニルホスフィン錯体を担持させた不均一固体触媒が報告されている(例えば、非特許文献1参照。)。
さらにまた、高分子合成用触媒としては、触媒の分離を容易にするために、樹脂に担持された錯体を一般のラジカル重合触媒として利用する多くの技術が知られている(例えば、非特許文献2参照。)。また、金属触媒を、ポリシラン型のデンドリマーや、ポリシロキサン型の重合体へ担持、グラフトさせることによって、均一触媒の長所と、不均一触媒の長所とを同時に発現させた固体触媒を用い、リビングラジカル重合法によって重合体を製造する技術が示唆されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
特に近年においては、重合体の分子量、分子量分布、化学構造などを精密にコントロールすることができ、多次元のブロック重合体を容易に製造できるという点、あるいは末端修飾が容易である点などから、他の重合法では得られない効用、効果等を有するリビング重合法が着目され、具体的には、アニオン重合法、カチオン重合法、グループトランスファー重合法等が知られ、例えば、1)有機ハロゲン化合物と、RuCl2(PPh33(Ph:フェニル基)と、ルイス酸とを重合触媒に用いる重合法(例えば、非特許文献3参照。)、2)有機ハロゲン化合物と塩化銅(I)/2,2’−ビピリジン錯体とを重合触媒に用いる重合法(例えば、非特許文献3参照。)などが開示されている。
さらに、近年コビナトリアルケミストリーと呼ばれる分野においても、創薬における効率的な探索のために、有機重合体粒子に官能基を持たせ、不均一系での反応により薬理効果を有する部位を反応させていく技術も注目されつつある。
【0004】
しかし、これらの有機低分子反応や高分子反応においては、多くのの場合、生成物の収率はあまり高くなく、反応系の濃度が希薄であり、また反応に使用した触媒は反応により変化してしまうため、再使用が困難であった。
【0005】
また、金属触媒をポリシラン型のデンドリマー、あるいはポリシロキサン型の重合体へ担持、グラフトさせる前記技術においては、製造上必要な工程が多く、得られる重合体の収率も低い上に、該重合体を反応系から分離回収するのが困難であるため、前記技術は実用的な技術とはいえなかった。
以上のように、従来、固体触媒等の基質を用いた有機低分子反応や高分子合成反応では、他の方法では得られない、優れた効用、効果を有するものの、前述の諸問題を有するため、根本的な解決とはなり得なかった。
【特許文献1】特開平10−7720号公報
【非特許文献1】J.Org.Chem.Vol.48,p.326‐332(1983)
【非特許文献2】高分子錯体触媒、学会出版センター(1982)、p.167‐193
【非特許文献3】M.Sawamoto,et al.,Macromolecules,28,1721(1995)
【非特許文献4】Matyjaszewski,PureAppl.Chem.,A34(10),1785(1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、有機低分子または高分子合成における炭素‐炭素結合を生成するための触媒であって、高収率で、かつ回収及び再生が極めて容易な不均一系反応用触媒を提供し、該不均一系反応用触媒を用いた有機化合物の合成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。即ち、
(1) 少なくとも長期周期表第4〜12族元素からなる群より選ばれる金属元素を含む金属化合物と、該金属元素に配位可能な配位子を担持した高分子ゲルとを含有する不均一系反応用触媒である。
【0008】
(2) 前記高分子ゲルが、アクリルアミド誘導体を主成分とするモノマーを重合して得られる高分子ゲルであることを特徴とする請求項1に記載の不均一系反応用触媒である。
【0009】
(3) 前記(1)又は(2)に記載の不均一系反応用触媒を用いる有機化合物の合成方法である。
【0010】
(4) 有機化合物の間に炭素−炭素結合を導入することを特徴とする前記(3)に記載の有機化合物の合成方法である。
【0011】
(5) 前記(4)に記載の有機化合物が、少なくとも、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルを含むモノマーであって、該モノマーを重合させてアクリル系重合体を合成することを特徴とする前記(4)に記載の有機化合物の合成方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、有機低分子化合物、及び高分子化合物の合成において、高収率で、かつ回収及び再生が極めて容易な不均一系反応用触媒を提供でき、該不均一系反応用触媒を用いた有機化合物の合成方法についても提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
初めに、本発明の不均一系反応用触媒について説明し、続いて、当該触媒を用いる合成方法について説明を行う。
【0014】
1.不均一系反応用触媒
本発明における不均一系反応用触媒は、少なくとも長期周期表第4〜12族元素からなる群より選ばれる金属元素を含む金属化合物と、該金属元素に配位可能な配位子を担持した高分子ゲルとを含有する。必要に応じてその他の成分を含有してなる。
【0015】
1−1.金属化合物
本発明にかかる金属化合物は、長期周期表第4〜12族元素からなる群より選ばれる金属元素を含む。8〜12族の遷移金属を含むことがより好ましい。金属元素として具体的には、鉄、ニッケル、コバルト、銅、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、チタン等が好ましく、より好ましくは、 鉄、ニッケル、コバルトであり、特に好ましくは、鉄、ニッケルである。
これらの金属は1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
金属化合物は、これらの金属と、ハロゲン元素、硫酸、硝酸、過塩素酸、燐酸、カルボン酸、スルホン酸、テトラフルオロ硼酸、等とを含む化合物である。好ましくは、ハロゲン化金属、硫酸金属であり、より好ましくは、ハロゲン化金属、である。
ハロゲン元素として好ましくは、塩素、臭素、ヨウ素であり、ハロゲン1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、得られる重合体の分子量、及び分子量分布の制御性の点で、塩素が好ましい。
好ましいハロゲン化金属としては、塩化鉄(II)、塩化ニッケル(II)、塩化コバルト(II)、塩化銅(I)、塩化パラジウム(II)、等が挙げられ、より好ましくは、塩化鉄(II)、塩化ニッケル(II)、塩化コバルト(II)であり、更に好ましくは、塩化鉄(II)、塩化ニッケル(II)である。
【0017】
1−2.配位子を担持した高分子ゲル
本発明においては、上記金属化合物に配位可能な配位子(以下、単に「配位子」と称することがある。)を高分子ゲルに担持させることが必要である。理由は、以下の通りであると考えられる。
前記配位子を、高分子ゲルに担持させない場合には、前記配位子は、通常、親油性の高い低分子物質であるため、反応系に溶解して存在する。このため、反応中に生成物の中に混在し反応効率が低下したり、着色が強く精製に手間がかかるなどの二次的弊害が生ずる可能性がある。
【0018】
一方、配位子を高分子ゲルに担持させれば、該配位子は高分子ゲルに固定化されているため、反応物質と混在せず表面が常に活性な状況を保つことが可能と考えられる。それゆえ、前記配位子を高分子ゲルに担持させることにより、後述のように、有機低分子の合成や高分子重合体の製造方法において、簡便な精製工程で目的物を収率良く得ることが可能となる。
【0019】
そのため、高分子ゲルとしては、前記配位子が、得られた反応生成物の間に入り込むことがないように、該配位子を担持可能であることが必要である。このため、高分子ゲルは、反応溶剤や、有機低分子原料などの他の成分に対し、非溶解性であるのが好ましい。
【0020】
配位子を担持した高分子ゲルは、その分子構造中に、配位子部位を有するユニットと、それらが反応可能なユニットとを有するのが好ましい。
配位子を担持した高分子ゲル(B)は、前記配位子を、化学結合又はイオン結合で担持していることが好ましく、形状は特に限定されるものではないが反応の効率等を考えた場合、粒子状であることが望ましい。高分子ゲルの形状が、粒子形状である場合、その平均粒径(D50)は、1〜100μmが好ましい。さらに表面積を増加させる必要があればポーラス(D50)で、0.1〜500μmが好ましく、1〜100μmがより好ましい。
前記平均粒径(D50)が、0.1μmより小さい場合には、反応液からの分離が困難となり、又、前記配位子が得られた生成物等に容易に入り込み、取り込まれてしまうため、得られた生成物が着色してしまうことがある一方、500μmを超える場合には、得られる生成物の収率や高分子合成における分子量制御性に劣ることがある。
【0021】
高分子ゲルとしては、前述の条件を満たせば特に制限はないが、アクリルアミド誘導体、メタクリルアミド誘導体、アクリル酸、メタクリル酸、酢酸ビニルなどのモノマーを1種又は2種以上適宜選択して重合させた架橋性重合体を用いることができる。これらの中でも、例えば、アクリルアミド誘導体、アクリル酸等を含むモノマーを架橋重合させた架橋性重合体が好適に挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
架橋構造を得るためには、架橋剤を用いることが好ましい。該架橋剤としては、特に制限はないが、例えば、高分子ゲルが、アクリルアミド誘導体の重合体である場合には、共重合の容易さ等の点で、N,N’−メチレンビス(アクリルアミド)等が好ましい。
【0023】
配位子としては、前記金属元素に配位可能な配位子であれば特に制限はないが、例えば、ジフェニルホスフィノ基、トリフェニルホスフィノ基、アルキルホスフィノ基などを有するホスフィン類や、シクロペンタジエニル基を有する化合物、2,2’−ビピリジル基を有する化合物等が好ましい。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、合成反応への適用性や、高分子重合体の製造における分子量制御性等の点から、ホスフィン類が特に好ましい。
【0024】
配位子として具体的には、シクロペンタジエン、アミン、エチレンジアミン、2,2’−ビピリジン、イミダゾール、ポリフィリン、フタロシアニン、ビス(サリチルアルデヒド)エチレンジイミン、ホスフィン等の誘導体等を挙げることができる。
【0025】
高分子ゲル中における前記配位子の割合としては、0.1〜3.0mmol/gが好ましい。より好ましくは、高分子ゲル中における前記配位子の割合は、0.1〜0.3mmol/gである。前記割合が、0.1mmol/g未満の場合には、得られる反応生成物の収率が低下することがある一方、3.0mmol/gを超える場合には、高分子ゲル中に容易に担持させることができないことがある。
【0026】
配位子を担持した担体(B)は、例えば、以下の方法により作製することができる。
1) 配位子を有するモノマーと、高分子ゲルを構成するモノマーとを共重合させる方法。
2) 反応性基を有する高分子ゲル(B)を予め合成した後、高分子反応によって配位子を導入する方法。
【0027】
1−3.不均一系反応用触媒
本発明の不均一系反応用触媒においては、金属化合物と、配位子を担持した高分子ゲルとを別々に添加して合成触媒として用いても、あるいは、配位子を担持した高分子ゲルに金属化合物を予め配位結合させておいてもよい。
【0028】
さらに、本発明の不均一系反応用触媒を高分子合成反応に適用する場合、金属化合物及び配位子を担持した高分子ゲル以外に、その他の成分を加えることも可能である。例えば、得られる重合体の分子量制御性の向上を目的として、各種のルイス酸等を添加することができる。
【0029】
前記ルイス酸としては、特に制限はないが、トリエトキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム等のルイス酸が好適に挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
配位子を担持した高分子ゲルに対するルイス酸の添加量としては、質量比で、0.01〜10が好ましい。
なお、ルイス酸の添加は、M.Sawamoto,et al.,Macromolecules,28,1721(1995)において開示されている方法を用いることができる。
【0030】
本発明の不均一系反応用触媒を用いた場合、従来の反応用触媒等で問題とされている生成物中への配位子の取り込みがないため、高収率で、かつ生成物の着色が発生しない。したがって、生成物の製造方法においては、脱色精製工程を設ける必要がないか、あるいは簡単な脱色精製工程で脱色することが可能となる。また、反応終了後、濾別することにより触媒を回収でき、回収された触媒は簡単な洗浄により再使用が可能である。
【0031】
2.有機化合物の合成
本発明の不均一系反応用触媒を用いて、有機化合物を高収率で合成することができる。当該触媒を用いた有機化合物の合成は、有機化合物間に炭素−炭素結合を導入するものである。例えば、有機低分子化合物−有機低分子化合物間、有機高分子化合物−有機高分子化合物間、又は、有機高分子化合物−有機低分子化合物間に前記炭素−炭素結合を導入することができる。尚、本発明において、有機高分子化合物とは、重量平均分子量(Mw)が1000以上である有機化合物を指し、有機低分子化合物とは重量平均分子量(Mw)が1000未満である有機化合物を指す。
【0032】
本発明の有機化合物合成方法は、無溶媒で行われてもよく、有機溶媒を用いて行われてもよい。前記有機溶媒としては、特に制限はないが、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、クロロホルム、テトラヒドロフラン、等の公知の有機溶媒が挙げられる。
これらの中でも、使用される反応の種類の点で、テトラヒドロフラン、トルエン、キシレンが好ましい。これらの有機溶媒は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
合成反応終了後、得られた反応液から、高分子ゲル(B)を、公知の濾過・遠心分離などの方法で分離することができる。分離された高分子ゲル(B)は、再び反応に利用することができる。
【0034】
有機化合物間に炭素−炭素結合を導入する具体的な反応としては、(1)有機ハロゲン化物とGrignard試薬との反応、(2)ラジカル発生剤を含む(メタ)アクリル系化合物の重合等を挙げることができる。
【0035】
2−1.有機ハロゲン化物とGrignard試薬との反応
有機ハロゲン化物として、例えば、ハロゲン化アルキル、ハロゲン化アリール、ハロゲン化アリールアルキル類等を用いることができる。
【0036】
ハロゲン化アルキルとしては、例えば、1−ブロモヘキサン、2−ブロモオクタン、1−ブロモデカン、ヨードエタン、2−ヨードブタン等を挙げることができる。
ハロゲン化アリール誘導体としては、例えば、ブロモベンゼン、クロロベンゼン、ヨードベンゼン、o−ブロモトルエン、p−ブロモトルエン、m−クロロトルエン、p−ヨードトルエン、4−ブロモ−m−キシレン等が挙げられる。
その他の有機ハロゲン化物としては、例えば、α−ブロモトルエン、(2−ブロモエチルベンゼン、α,α‘−ジブロモ−p−キシレン等を挙げることができる。
【0037】
Grignard試薬は、マグネシウムハライド化合物であり、アルキルマグネシウムハライド、アリルマグネシウムハライド、アリールマグネシウムハライド等を用いることができる。例えば、メチルマグネシウムブロミド、ビニルマグネシウムブロミド、フェニルマグネシウムブロミド等を挙げることができる。
【0038】
本発明の不均一系反応用触媒の存在下で、有機ハロゲン化物とGrignard試薬との間のクロスカップリング反応により、炭素−炭素結合が生成する。このようなクロスカップリング反応において、不均一系反応用触媒の使用量は、目的とする生成物によって異なるため一概に規定することはできないが、配合比(不均一系反応用触媒/原料有機化合物のモル比)で、一般に0.0001〜0.5が好ましく、0.001〜0.22がより好ましい。
【0039】
2−2.ラジカル発生剤を含む(メタ)アクリル系化合物の重合
本発明の不均一系反応用触媒の存在下で、ラジカル発生剤を含有させることにより、(メタ)アクリル系モノマーの重合を高収率で行うことが可能である。
ラジカル発生剤としては、分子中に1以上の炭素−ハロゲン元素間結合を有するハロゲン含有有機化合物、又は、アゾ化合物(アゾ系重合開始剤)を用いることができる。
【0040】
分子中に1以上の炭素−ハロゲン元素間結合を有するハロゲン含有有機化合物としては特に制限はないが、反応性の高い炭素−ハロゲン元素間結合を有する有機ハロゲン化物(例えば、α位にハロゲンを有するエステル化合物や、ベンジル位にハロゲンを有する化合物等)や、ハロゲン化スルホニル化合物等が好適に使用できる。
【0041】
前記ハロゲン含有有機化合物としては、例えば、XCH2−C65、CH3CH(X)−C65、(CH32C(X)−C65、RO2C−CH(X)−(CH2)n−CH3、RO2C−C(CH3)等が好適に使用できる。ここで、C65はフェニル基を表わす。該フェニル基の水素は、他の官能基で置換されていてもよい。Xは、ハロゲン元素を表わす。Rは、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、又は、アラルキル基を表わす。nは、0〜20の整数を表わす。
これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
前記ハロゲン含有有機化合物における炭素−ハロゲン元素間結合の数としては、1以上が一般的であり、1〜2が好ましい。
また、前記ハロゲン含有有機化合物としては、前記炭素−ハロゲン元素間結合を、有機基を介して2以上有する有機ハロゲン化物や、ハロゲン化スルホニル化合物も好適である。
【0043】
前記アゾ化合物としては、特に制限はないが、一般的には、分子中に1以上のアゾ基を有する脂肪族系炭化水素化合物で、熱または光によって分解してラジカルを生成する、いわゆるアゾ系重合開始剤として知られている化合物が好適に使用できる。
【0044】
前記アゾ化合物としては、例えば、2,2’−アゾビス(イソ酪酸)ジメチル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2、4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
重合の原料となるモノマーは、特に制限がなく、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレン等を挙げることができるが、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステル(以下、適宜「(メタ)アクリル酸エステル」と称することがある。)を含むことが好ましく、必要に応じてその他のモノマーを含めることができる。その他のモノマーとしては、特に制限はないが、スチレン等のビニル系モノマーが好ましい。
【0046】
当該重合反応は、例えば、目的の重合体が、ブロック共重合体の場合には、第1のモノマーを重合させた後に、第2のモノマーを重合させて行う。
この場合、第1のモノマーの重合が終了し、得られた重合体を単離した後、再び、ラジカル発生物質以外の本発明の不均一系反応用触媒成分を添加して、新たに重合反応をさせる多段階の重合反応でもよい。また、第1のモノマーの重合が終了した後、そのまま第2のモノマーを添加して重合させる1段階方式でもよい。製造効率の点では、後者の方式がより好ましい。後者の場合、第2のモノマーとともに、ラジカル発生物質以外の不均一系反応用触媒成分を追加してもよい。
【0047】
当該重合反応における「金属化合物/高分子ゲル上の配位子」の配合比としては、0.1〜5が好ましい。この配合比の数値範囲から外れる場合には、重合の速度が極端に低下したり、得られる重合体の分子量制御性が低下することがある。
【0048】
また、当該重合反応において、「金属化合物/配位子を担持した高分子ゲル」の配合比は、モル比で、(0.1〜10)/(0.1〜40)が好ましく、(0.5〜8)/(0.5〜20)がより好ましい。
【0049】
「ラジカル発生物質/金属化合物/高分子ゲル上の配位子」の配合比は、モル比で、1/(1〜10)/(1〜40)が好ましく、1/(1〜8)/(1〜20)がより好ましい。この配合比が、数値範囲外である場合には、得られる重合体の分子量制御性が低下することがある。
【0050】
前記重合において、本発明の不均一系反応用触媒を、前記モノマーに配合する際の、各成分(ラジカル発生物質、金属化合物、配位子を担持した高分子ゲル)の配合の順序としては、特に制限はなく、例えば、金属化合物と配位子を担持した高分子ゲルとを配合した後、ラジカル発生物質と前記モノマーとを配合してもよいし、モノマーを含む総ての成分を同時に配合してもよい。
【0051】
前記重合の温度としては、特に制限はないが、通常は、−78〜130℃であり、0〜100℃が好ましい。また、重合の時間としては、特に制限はないが、通常は、1〜360時間であり、10〜100時間が好ましい。
【0052】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0053】
−不均一系反応用触媒の調製−
ジフェニル−(4−ビニルフェニル)ホスフィン5.0g、N,N−ジメチルアクリルアミド20.0g、N,N’−メチレンビス(アクリルアミド)0.10gをエタノール100mlに溶解し、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)塩酸塩0.20gを加え、窒素気流を10分間通じて溶存酸素を除去した後に、窒素雰囲気下で攪拌しながら、水浴の温度を60℃まで徐々に昇温させ、同温度で10時間保持した。
反応終了後、生じた沈殿物を濾別、エタノールついでアセトンで洗浄し、水を加えて膨潤させ、水で繰り返し洗浄した後に、凍結真空乾燥して、乾燥高分子ゲルの粉末を得た。
塩化ニッケル(II)六水和物0.1g(0.4mmol)と、上記で得られた乾燥高分子ゲル0.50gを、テトラヒドロフラン20g中に浸漬、攪拌して、本発明の不均一系反応用触媒−1を合成した。
【0054】
−4−メチルビフェニルの製造−
合成した不均一系反応用触媒−1に、4−ブロモトルエン8.6g(0.05mol;東京化成工業製)を加え氷水浴で約5℃まで冷却し、ここにフェニルマグネシウムブロミドの32質量%テトラヒドロフラン溶液31.2g(フェニルマグネシウムブロミドとして10.0g(0.055mol)相当;東京化成工業製)を滴下し、室温で5時間攪拌した。ガスクロマトグラフィーにより、原料成分が消失したことが確認された後、吸引濾過により高分子ゲルを除去し、溶媒を減圧下留去した。
得られた残渣は、着色は全くなく、ガスクロマトグラフィーでほとんど不純物は検出できなかった
得られた残渣を減圧蒸留し、H1‐NMRで4−メチルビフェニルと同定される化合物7.3g(収率87%)を得た。
【実施例2】
【0055】
−不均一系反応用触媒の調製−
ジフェニル−(4−ビニルフェニル)ホスフィン5.0g、N−イソプロピルアクリルアミド20.0g、N,N’−メチレンビス(アクリルアミド)0.10gをエタノール100mlに溶解し、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)塩酸塩0.20gを加え、窒素気流を10分間通じて溶存酸素を除去した後に、窒素雰囲気下で攪拌しながら、水浴の温度を60℃まで徐々に昇温させ、同温度で10時間保持した。
反応終了後、生じた沈殿物を濾別、エタノールついでアセトンで洗浄し、水を加え膨潤させ、水で繰り返し洗浄した後に、凍結真空乾燥して、乾燥高分子ゲルの粉末を得た。
塩化ニッケル(II)六水和物0.1g(0.4mmol)と、上記で得られた乾燥高分子ゲル0.50gを、テトラヒドロフラン20ml中に浸漬、攪拌し、本発明の不均一系反応用触媒−2を得た。
【0056】
−3−エチル−m−キシレンの合成−
実施例1のフェニルマグネシウムブロミドの32質量%テトラヒドロフラン溶液の代わりに、エチルマグネシウムブロミド39質量%のエチルエーテル溶液18.8g(エチルマグネシウムブロミドとして7.3g(0.055mol)相当;東京化成工業製)を使用し、4−ブロモトルエンの代わりに4−ブロモ−m−キシレン9.3g(0.05mol)を使用し、不均一系反応用触媒−2を用いて実施例1と同様に反応を行った。反応終了後、吸引濾過により高分子ゲルを除去した後、溶剤を減圧下留去した。得られた残渣には着色は全くなく、ガスクロマトグラフィーで不純物はほとんど検出できなかった。この残渣を減圧蒸留して、H1‐NMRで3−エチル−m−キシレンと同定される化合物5.5g(収率82%)を得た。
【実施例3】
【0057】
−不均一系反応用触媒の調製−
塩化鉄(II)四水和物0.10g(0.5mmol)と、実施例1で合成した乾燥高分子ゲル0.50gを、トルエン10ml中に浸漬、攪拌し、本発明の不均一系反応用触媒−3を得た。
【0058】
−メタクリル酸メチル重合体の合成−
合成した不均一系反応用触媒−3を、減圧下、脱泡処理した後に窒素ガスを導入した。この操作を3回繰り返して、系内を窒素で置換した後、2,2−ジクロロアセトフェノン0.05g(0.26mmol)と、メタクリル酸メチル8.0g(0.08mol)との混合物を加え、80℃に加温して24時間反応させた。
反応終了後、混合物にトルエンを加え、希釈した後、これを吸引濾過して高分子ゲルを取り除いた。得られた濾液をメタノール中に投入し、析出した沈殿物を吸引濾過し、50℃で15時間減圧乾燥して、メタクリル酸メチル重合体を得た(収率:65%)。
得られたメタクリル酸メチル重合体の数平均分子量(Mn)は2.9×104、分子量分布(Mw/Mn)は1.33であった。得られたメタクリル酸メチル重合体は無色であり、脱色精製処理を全く必要としない着色レベルであった。
【実施例4】
【0059】
−触媒の再使用−
実施例1で回収された本発明の不均一系反応用触媒粉末をアセトン約100ml中で攪拌洗浄した後、真空乾燥した。
上記で回収された不均一系反応用触媒を用いて、以下、実施例(1)と同様に反応を行った。得られた生成物の収率は75%で、純度は同等であり、本発明の不均一系反応用触媒が再使用可能であることが確認された。
【0060】
(比較例1)
実施例1において、不均一系反応用触媒−1に代えて、トリフェニルホスフィン0.10g(0.38mmol)と塩化ニッケル(II)六水和物0.15g(0.2mmol)を用いて均一系の触媒を調製した後、以下、実施例1と同様に反応を行った。
反応後の残渣は、ニッケルイオンの緑色の着色が顕著で、ガスクロマトグラフィーで不純物のピークが多く認められた。単離精製後の4−メチルビフェニルの収率は45%と、実施例1と比較して大幅に低下した。
【0061】
(比較例2)
実施例3において、不均一系反応用触媒−3に代えて、トリフェニルホスフィン(和光純薬社製)0.10g(0.15mmol)と塩化鉄(II)四水和物0.10g(0.5mmol)を用いて均一系の触媒を調製した後、以下、実施例3と同様にして、メタクリル酸メチル重合体を合成した。
得られたメタクリル酸メチル重合体の収率は26%、分子量(数平均分子量(Mn))は、2.2×104、分子量分布(Mw/Mn)は、1.29であった。得られたメタクリル酸メチル重合体は、茶褐色に着色しており、脱色精製処理を必要とする着色レベルであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも長期周期表第4〜12族元素からなる群より選ばれる金属元素を含む金属化合物と、該金属元素に配位可能な配位子を担持した高分子ゲルとを含有する不均一系反応用触媒。
【請求項2】
前記高分子ゲルが、アクリルアミド誘導体を主成分とするモノマーを重合して得られる高分子ゲルであることを特徴とする請求項1に記載の不均一系反応用触媒。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の不均一系反応用触媒を用いる有機化合物の合成方法。
【請求項4】
有機化合物の間に炭素−炭素結合を導入することを特徴とする請求項3に記載の有機化合物の合成方法。
【請求項5】
前記有機化合物が、少なくとも、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルを含むモノマーであって、
該モノマーを重合させてアクリル系重合体を合成することを特徴とする請求項4に記載の有機化合物の合成方法。

【公開番号】特開2006−55730(P2006−55730A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−239343(P2004−239343)
【出願日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】