説明

不揮発機能メモリ装置

【課題】 コンパクト性及び低消費電力性を保ちつつ、完全並列動作を可能にした不揮発TCAMセル及び不揮発TCAMワード回路を得ることを課題とする。
【解決方法】 第1の接続点に一端を接続されるとともにそれぞれのゲートが第1及び第2のサーチラインに接続された選択用の第1MOSトランジスタ及び第2MOSトランジスタと、該第1MOSトランジスタ及び該第2MOSトランジスタの他端にそれぞれその一端が接続され、その他端がビットライン又はGNDに接続されている第2の接続点に接続されたスピン注入型の第1のMTJ素子及び第2のMTJ素子と、該第1のMTJ素子及び該第2のMTJ素子のそれぞれの一端に接続されるとともにそのゲートがそれぞれワードラインに接続された、MTJ素子への書き込みを行う第3MOSトランジスタ及び第4MOSトランジスタと、該第1の接続点に接続された電流源トランジスタと、該第1の接続点とマッチラインとの間に配置されたダイオードとを備えた不揮発TCAMセル及び不揮発TCAMワード回路。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不揮発機能メモリ装置、特にMTJ素子を用いた完全並列形の不揮発TCAMセル及び不揮発TCAMワード回路に関する。
【背景技術】
【0002】
現代のネットワーク社会を支える重要な技術の1つであるパターンマッチング技術を実現する専用ハードウェアエンジンとして、機能メモリ装置を活用する方法が知られている。この機能メモリ装置の代表例として、Ternary Content−Addressable Memory (TCAM:三値連想メモリ)が注目されている。
TCAMは、記憶されているデータと入力されたデータを並列に検索できるため、非常に高速な検索が可能である。また、通常の“0”、“1”に加え、“Don’t−care(X)”の3つの記憶状態を定義することにより、マスク検索機能を実現している。このように検索の高速性・柔軟性を兼ね備えたTCAMは、ネットワークルータ、ウイルス検索、画像・音声認識など様々な分野への応用が可能である(特許文献1〜3、非特許文献1〜2参照)。
【0003】
TCAMは、優れた特長を持つ一方で、面積及び消費電力の点で問題がある。従来のCMOS構成によるTCAMセルは、2つのSRAMセル回路と比較回路から構成されており、1セル当たり少なくとも12トランジスタが必要となるため(非特許文献3参照)、TCAMの高密度化が困難である。さらに、近年の半導体プロセスの微細化に伴い、リーク電流による静的消費電力の増大がTCAMにおいても問題となっており(非特許文献4参照)、TCAMの高密度化と静的消費電力の削減を達成しうる回路技術の確立が重要である。
【0004】
本発明者らは、不揮発記憶素子の1つであるMagnetic Tunnel Junction(MTJ)素子の特性を活用した2T−2MTJ形不揮発TCAMセルに基づくビットシリアル形TCAMを提案している(非特許文献5〜6参照)。
MTJ素子は、CMOSプロセスと同程度の微細加工が可能であることに加え、トランジスタ上層に積層配置が可能である点や、記憶機能と論理演算機能を一体化できる点で、ハードウェアのコンパクト化に有効な素子である(非特許文献7〜8参照)。また、素子の不揮発記憶機能を活用することで、記憶情報を保持したまま非稼働時の電源供給を遮断することができ、リーク電流に伴う静的消費電力を完全にカットすることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−272386号公報
【特許文献2】特開2007−317342号公報
【特許文献3】特開2008−192218号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】C.-C. Wang、 C.-J. Cheng、 T.-F. Chen、 and J.-S. Wang、 “An Adaptively Dividable Dual-Port BiTCAM for Virus-Detection Processors in Mobile Devices”、 IEEE Journal of Solid-State Circuits、 vol. 44、 no. 5、 pp. 1571-1581、 May 2009.
【非特許文献2】K. Pagiamtzis、 and A. Sheikholeslami、 “Content-Addressable Memory (CAM) Circuits and Architectures: A Tutorial and Survey、” IEEE Journal of Solid-State Circuits、 vol. 41、 no. 3、 Mar. 2006.
【非特許文献3】I. Arsovski、 T. Chandler、 and A. Sheikholeslami、 “A Ternary Content-Addressable Memory (TCAM) Based on 4T Static Storage and Including a Current-Race Sensing Scheme、” IEEE Journal of Solid-State Circuits、 vol. 38、 no. 1、 Jan. 2003.
【非特許文献4】D. Kudithipudi、 and E. John、 “On Estimation of Static Power-Performance in TCAM、” Midwest Symposium on Circuits and Systems、 pp. 783-786、 Aug. 2008.
【非特許文献5】S. Matsunaga、 K. Hiyama、 A. Matsumoto、 S. Ikeda、 H. Hasegawa、 K. Miura、 J. Hayakawa、 T. Endoh、 H. Ohno、 and T. Hanyu、 “Standby-Power-Free Compact Ternary Content-Addressable Memory Cell Chip Using Magnetic Tunnel Junction Devices、” Applied Physics Express、 vol. 2、 no. 2、 pp. 023004-1〜023004-3、 Feb. 2009.
【非特許文献6】S. Matsunaga、 M. Natsui、 K. Hiyama、 T. Endoh、 H. Ohno、 and T. Hanyu、 “Fine-Grained Power-Gating Scheme of a Metal-Oxide-Semiconductor and Magnetic-Tunnel-Junction-Hybrid Bit-Serial Ternary Content-Addressable Memory、” Japanese Journal of Applied Physics、 vol. 49、 no. 4、 pp. 04DM05-1〜04DM05-5、 Apr. 2010.
【非特許文献7】S.Ikeda、 J.Hayakawa、 Young Min Lee、 F.Matsukura、 Y.Ohno、 T.Hanyu、 and H.Ohno、 “Magnetic Tunnel Junctions for Spintronic Memories and Beyond、” IEEE Trans. Electron Devices、 vol. 54、 no. 5、 pp. 991-1002、 May 2007.
【非特許文献8】S. Ikeda、 K. Miura、 H. Yamamoto、 K. Mizunuma、 H. D. Gan、 M. Endo、 S. Kanai、 J. Hayakawa、 F. Matsukura、 and H. Ohno、 “A perpendicular-anisotropy CoFeB-MgO magnetic tunnel junction、” NATURE MATERIALS、 Jul. 11、 2010 (Published online).
【非特許文献9】S. Matsunaga、 J. Hayakawa、 S. Ikeda、 K. Miura、 H. Hasegawa、 T. Endoh、 H. Ohno、 and T. Hanyu、 “Fabrication of a Nonvolatile Full Adder Based on Logic-in-Memory Architecture Using Magnetic Tunnel Junctions、” Applied Physics Express、 vol. 1、 no. 9、 pp. 091301-1〜091301-3、 Aug. 2008.
【非特許文献10】D. Suzuki、 M. Natsui、 S. Ikeda、 H. Hasegawa、 K. Miura、 J. Hayakawa、 T. Endoh、 H. Ohno、 and T. Hanyu、 “Fabrication of a Nonvolatile Lookup-Table Circuit Chip Using Magneto/Semiconductor-Hybrid Structure for an Immediate-Power-Up Field Programmable Gate Array、” IEEE Symp. VLSI Circuits、 Dig. Tech. Papers、 pp. 80-81、 Jun. 2009.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
MTJ素子の特長を利用することにより、非常にコンパクトかつ低消費電力な不揮発TCAMセルが得られているが、既提案の不揮発TCAMセルはその動作原理により多ビット並列動作が困難であった。
本発明は、既提案の不揮発TCAMセルのコンパクト性及び低消費電力を保ちつつ、完全並列動作を可能にした不揮発TCAMセル及び不揮発TCAMワード回路を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
課題を解決するための手段は、次のとおりである。
(1)直列接続されたスピン注入型のMTJ素子と選択用のMOSトランジスタとが並列に接続されている不揮発性記憶部と検索用演算部とが一体化した比較演算回路部と、該比較演算回路部における各MTJ素子への書き込みを行うトランジスタと、該比較演算回路部に電流を供給する電流源トランジスタと、該比較演算回路部の出力とマッチラインとの間に配置されたダイオードとを備えた不揮発TCAMセル。
(2)第1の接続点に一端を接続されるとともにそれぞれのゲートが第1及び第2のサーチラインに接続された選択用の第1MOSトランジスタ及び第2MOSトランジスタと、該第1MOSトランジスタ及び該第2MOSトランジスタの他端にそれぞれその一端が接続され、その他端がビットライン又はGNDに接続されている第2の接続点に接続されたスピン注入型の第1のMTJ素子及び第2のMTJ素子と、該第1のMTJ素子及び該第2のMTJ素子のそれぞれの一端に接続されるとともにそのゲートがそれぞれワードラインに接続された、MTJ素子への書き込みを行う第3MOSトランジスタ及び第4MOSトランジスタと、該第1の接続点に接続された電流源トランジスタと、該第1の接続点とマッチラインとの間に配置されたダイオードとを備えた不揮発TCAMセル。
(3)上記各選択用のMOSトランジスタは、各MTJ素子への書き込みを行うトランジスタをそれぞれ兼用していることを特徴とする(1)に記載の不揮発TCAMセル。
(4)第1の接続点に一端を接続されるとともにそれぞれのゲートが第1及び第2のサーチラインに接続された選択用の第1MOSトランジスタ及び第2MOSトランジスタと、該第1MOSトランジスタ及び該第2MOSトランジスタの他端にそれぞれその一端が接続され、その他端がビットライン又はGNDに接続されている第2の接続点に接続されたスピン注入型の第1のMTJ素子及び第2のMTJ素子と、該第1の接続点に接続された電流源トランジスタと、該第1の接続点とマッチラインとの間に配置されたダイオードとを備えた不揮発TCAMセルであって、
上記各選択用の第1MOSトランジスタ及び第2MOSトランジスタは、各MTJ素子への書き込みを行うトランジスタをそれぞれ兼用していることを特徴とする不揮発TCAMセル。
(5)上記ダイオードは、ドレインとゲートがマッチラインに接続されたnチャンネルMOSトランジスタであることを特徴とする(1)ないし(4)のいずれかに記載の不揮発TCAMセル。
(6)上記電流源トランジスタは、VDDと第1の接続点との間に配置されたpチャンネルMOSトランジスタであることを特徴とする(1)ないし(5)のいずれかに記載の不揮発TCAMセル。
(7)マッチラインに並列接続した複数個の(1)ないし(6)のいずれかに記載のTCAMセルと、マッチラインの充電・放電を制御するPrecharge/Evaluateコントローラと、センスアンプと、書込みコントローラとを備えた不揮発TCAMワード回路。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、既提案の不揮発TCAMセルに最小限の素子追加を行うことで、回路のコンパクト性及び低消費電力性を保ちつつ、完全並列動作を可能にした不揮発TCAMセルを得ることができる。
すなわち、本発明によれば、不揮発TCAMセルを並列に複数動作させた際の振幅の減衰を抑え、不揮発TCAMセルの出力振幅をそのままマッチラインに伝達することが可能である。
さらに、本発明によれば、磁気抵抗比の小さなMTJ素子を多数並列に接続しても、電圧振幅の減少を抑制し、1024ビット以上の並列検索を可能とする不揮発TCAMワード回路を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】完全並列形TCAMの全体構造
【図2】MTJ素子:(a)素子構造、(b)断面図、(c)R−I特性、(d)回路記号
【図3】6T−2MTJ形不揮発TCAMセル:(a)セル回路図、(b)真理値表
【図4】TCAMワード回路
【図5】ワード回路の動作:(a)Prechargeフェーズ、(b)Evaluateフェーズ、(c)マッチライン波形
【図6】ダイオード接続MOSトランジスタの特性
【図7】マッチラインの動作波形
【図8】ワード長−マッチライン振幅特性
【図9】ワード回路におけるダイオード接続MOSトランジスタの等価回路モデル:(a)トランジスタ回路図、(b)線形抵抗モデルによる表現
【図10】4T−2MTJ形不揮発TCAMセル
【発明を実施するための形態】
【0011】
(完全並列形不揮発TCAM)
完全並列形の不揮発TCAMの全体構造を図1に示す。
不揮発TCAMは、比較演算を行う不揮発TCAMセルをアレイ状に配置し、これらをマッチラインで接続することでワード回路を構成し、記憶されているワードと入力されたワードとの比較演算を行うものである。
【0012】
完全並列形の不揮発TCAMでは入力ワードをすべてのワード回路に一斉に入力し、並列に動作させることで記憶データと入力データとの一致・不一致の結果を出力する。ワード回路を構成するすべての不揮発TCAMセルも並列に動作し、ワード内の全ビットが一斉に比較演算を行う。このように、完全並列形の不揮発TCAMは、ビット並列・ワード並列で比較演算を行うことが可能であるため、非常に高速な検索機能を実現できる。
【0013】
(MTJ素子)
不揮発TCAMに用いるMTJ素子の構造を、図2(a)に示す。
MTJ素子は、自由層、固定層と呼ばれる2つの磁性体層と、これらに挟まれたトンネル障壁によって構成される。記憶データは自由層の磁化方向が固定層の磁化方向に対して平行であるか、反平行であるかによって定義される。互いの磁化方向が平行である場合、MTJ素子の電気抵抗は低くなり(R)、磁化方向が反平行である場合、MTJ素子は高抵抗(RAP)となる。
これらの状態は電源を遮断しても保存されるため、記憶データは不揮発である。
【0014】
さらに、MTJ素子は、図2(b)に示すようにトランジスタの上部に積層することが可能であり、記憶素子の面積オーバーヘッドを大幅に削減することができる。また、従来の不揮発記憶素子と比較して、高い書換え耐性、低電力書込み、CMOSプロセスとの親和性などの優れた特長を持っており、次世代の不揮発記憶素子として非常に有用である。
【0015】
MTJ素子へのデータの書込みは、素子に一定値以上の電流を流すことで自由層の磁化を反転させるスピン注入磁化反転現象により行われる。MTJ素子の自由層側から固定層側へ電流を流すことで、自由層の磁化は固定層と同じ向き(平行)になり、MTJ素子は低抵抗となる。
【0016】
一方、電流を固定層側から自由層側に流すことで、自由層の磁化方向は固定層と反対の向き(反平行)になり、MTJ素子は高抵抗となる。図2(c)に示すように、MTJ素子のR−I特性はヒステリシスを有しているため、電流の印加が無くなっても磁化方向はそのまま保持される。
【0017】
MTJ素子は、磁化の状態によって電気抵抗が変化するという特徴を有するため、その抵抗の変化を利用した擬似的なスイッチング素子として用いることができる。MTJ素子は低抵抗状態(R)と高抵抗状態(RAP)の2つの状態をとるが、それぞれを論理値の“1”と“0”が記憶された状態と定義することで、図2(d)のように、記憶状態によって電気抵抗が変化する可変抵抗素子とみなすことができる。
【0018】
MOSトランジスタが、ゲート端子の電位によってオン・オフ(抵抗値が変化)するスイッチング素子であるのに対し、MTJ素子も記憶データによって抵抗が変化する擬似的なスイッチング素子と考えられ、不揮発TCAMセルのように記憶データと入力データ間の論理演算を行うような回路では、スイッチング素子とそれを制御する記憶素子をMTJ素子単体で置き換えることが可能となる(非特許文献9〜10参照)。したがって、MTJ素子を用いて不揮発TCAMセルを構成することで、記憶機能のみならず、比較演算回路の一部も置き換えることが可能となり、高密度な不揮発TCAMが実現できる。
【0019】
(本発明に係る不揮発TCAMセル)
図3に、本発明に係る6T−2MTJ形の不揮発TCAMセルの回路図とその真理値表を示す。
図3中に点線で囲んだ不揮発TCAMセルの比較演算回路部は、既提案の2T−2MTJ形の不揮発TCAMセルのものと同じ構成である。2T−2MTJ構成の不揮発TCAMセルでは、前述のMTJ素子の特性を活用し比較演算回路と記憶機能を一体化することにより、不揮発化とコンパクト化が達成されていた。その反面、複数のセルを並列に動作させるとマッチライン(ML)の振幅が大きく減衰してしまうため、多ビット並列動作が困難であった。
【0020】
したがって、コンパクトかつ完全並列動作が可能な不揮発TCAMを実現するためには、マッチラインの電圧振幅を確保する機構を、最小限の素子追加で実現する必要がある。本発明に係る不揮発TCAMセルは、pチャンネルMOS電流源による負荷とダイオード(ダイオード接続nチャンネルMOSトランジスタ)をセル内部に組み込むことで、多ビット並列動作の実現を図っている。
【0021】
TCAMセルは、“0”、“1”、“X(Don’t−care)”の3つの記憶状態を持っているため、図3(b)のように、“b”と“b”の2ビットの2値データとして表される。各MTJ素子へのデータ書込みは、書込みトランジスタMW1及びMW2によって制御される。該当するワードライン(WL_A又はWL_B)によってこれらの書込みトランジスタを駆動し、ビットライン(BL及び_BL)からMTJ素子に電流を流すことで、書込みを行う。
【0022】
TCAMセルにおける検索結果に対応するVResultの電位は、比較演算回路部の抵抗値によって決定される。記憶データと入力データが一致している場合、もしくは“X”が記憶されている場合、比較演算回路部は高抵抗状態となる。一方、記憶データと入力データが不一致である場合は、比較演算回路部は低抵抗状態となる。この抵抗値をpチャンネルMOS電流源MCSの電流によってVResultの電位に変換する。
【0023】
すなわち、一致の場合、VResultは高電位(VResult−high)となり、不一致の場合は低電位(VResult−low)となる。TCAMワード回路はこのセルをマッチラインに並列に複数接続して、全ビット一斉に動作させることで、入力ワードと記憶ワードが完全に一致しているか、そうでないかを検出する。
【0024】
(本発明に係る不揮発TCAMワード回路)
図4に、本発明に係る不揮発TCAMワード回路の構成を示す。
本発明に係る完全並列形不揮発TCAMワード回路は、マッチラインに並列接続した1次元セルアレイ、マッチラインの充電・放電を制御するPrecharge/Evaluateコントローラ、センスアンプ(SA)、書込みコントローラによって構成される。
【0025】
セルアレイにおけるMTJ素子への書込みは、クロック信号とサーチライン信号を遮断し、書込みイネーブル信号WEを与えた状態で、MTJ素子ごとにワードラインとビットラインを駆動し逐次的に書込みを行う。本ワード回路は、マッチラインに電荷を充電するPrechargeフェーズと、マッチラインの電荷を放電しながら入力データと記憶データの比較演算を行うEvaluateフェーズの2つのフェーズで動作する。
【0026】
図5にそれぞれのフェーズにおけるワード回路の動作とマッチラインの電位の変化を示す。Prechargeフェーズでは、各セルの比較演算回路部におけるトランジスタMC1、MC2、及びPrecharge/Evaluateコントローラ部のトランジスタMDCをカットオフ状態にして、マッチラインを電源電圧VDDのレベルにまで充電する。Evaluateフェーズでは、サーチライン(SL及び_SL)に入力を与えることで、各セルにおけるMC1又はMC2のどちらか一方をオン状態にして、比較演算回路の電流パスを選択し、セルを通じてマッチラインの電荷をGNDへ放電することで比較演算を行う。
【0027】
マッチラインの放電は、TCAMセルのダイオード接続nチャンネルMOSトランジスタMによって制御され、マッチラインの電位とセルの比較演算回路部の出力電圧VResultの間の大小関係により、セルごとに独立して自動的に放電・遮断の切り替えが行われる。
図5(c)に示すように、Evaluateフェーズにおけるマッチラインの電位は入力データと記憶データが完全に一致している場合VResult−highにまで放電される。
【0028】
一方、不一致の場合、すなわちワード回路中に入力データと記憶データが不一致となったセルが存在する場合、マッチラインの電位がVResult−highに等しくなっても放電は停止せず、不一致セルを通じてVResult−lowまで放電される。これは、全セルの中で最も低いVResultになるまで各々のセル中のMを介してマッチラインの電荷が放電され、最終的に遮断されるためである。
【0029】
ダイオード接続nチャンネルMOSトランジスタの特性を図6に示す。ダイオード接続されたトランジスタは、図6のようにゲート端子とドレイン端子を短絡したもので、ダイオードのように動作する。例えば、マッチラインの電位、すなわちドレイン端とゲート端の電位がセル中の比較演算回路の出力VResultよりも高い場合、トランジスタはオン状態となり、電流が流れる。
【0030】
一方、マッチラインの電位がVResult以下になると、微弱な逆方向電流が存在するものの、ほぼカットオフ状態となり、マッチラインからの放電パスは遮断される。この特性により、マッチラインの電位は不一致となったセルが存在するか否かによって変化する。入力ワードと記憶ワードが完全に一致していると、マッチラインの電位が比較演算回路部の出力電位VResult−highと等しくなったときに全てのダイオード接続nチャンネルMOSトランジスタが一斉にカットオフ状態となり、マッチラインの電位が保持される。
【0031】
一方、不一致となったセルが1つでも存在すると、不一致セル中のダイオード接続nチャンネルMOSトランジスタはマッチラインの電位が不一致セルの比較演算回路部の出力電位VResult−lowと等しくなるまで遮断されないため、マッチラインの電位は完全一致の時よりも下がることになる。この結果、マッチラインの電位は比較演算結果の一致・不一致によって異なり、この電位差をセンスアンプで検出する事で、入力ワードと記憶ワードの比較演算が可能である。このようにして、本発明に係る不揮発TCAMセルは、セルを並列に複数動作させた際の振幅の減衰を抑え、セルの出力振幅をそのままマッチラインに伝達することが可能である。
【0032】
(本発明に係る不揮発TCAMワード回路の評価と考察)
図7は、従来のビットシリアル形不揮発TCAMセル(2T−2MTJ)と本発明に係る完全並列形の不揮発TCAMセル(6T−2MTJ)に基づくワード回路のマッチライン波形を示すものである。従来の2T−2MTJ形セルは、完全一致時と1ビット不一致時のセル抵抗変化が小さく、ワード回路の多ビット化とともに、セル抵抗を並列接続することになり、ワード回路の抵抗値が減少する。このため、完全一致と1ビット不一致状態を判別する際のワード回路の抵抗値変化が非常に小さく、検索結果の検出が困難になる。(図7の上3図参照)
一方、本発明に係る6T−2MTJ形の不揮発TCAMセルでは、ワード長の増大に伴うマッチライン電圧振幅の減衰は抑えられている。(図7の下3図参照)
【0033】
図8は、それぞれの不揮発TCAMワード回路のワード長とマッチライン振幅の特性を示している。2T−2MTJ形の不揮発TCAMワード回路では、セルを並列に接続するとマッチラインの電圧振幅が著しく減衰し、ワード長が4ビット以上になると、マッチラインの振幅は0.1Vを下回る。一方、本発明に係る不揮発TCAMワード回路ではマッチライン振幅の減衰が大幅に改善され、1024ビット以上の並列動作が実現されている。
【0034】
なお、2T−2MTJ形の不揮発TCAMセルを用いて構成した場合と比較して、緩やかではあるがマッチラインの電圧振幅が減少していることがわかる。
この理由として、ダイオード接続トランジスタの逆方向電流による、不一致時のマッチライン電位の上昇が考えられる。マッチラインの電位が低下し、VResult−highを下回るようになると図9(a)に示すように、一致セルからマッチラインに向かってダイオード接続nチャンネルMOSトランジスタの逆方向電流が生じ、マッチラインがわずかに充電されることになる。
【0035】
特に、多ビットの不揮発TCAMワード回路における1ビット不一致の場合は、一致セルからの逆方向電流量が増加するため、不一致時のマッチライン電位が下がりづらくなり、一致時と不一致時のマッチライン電位差が減少する。
【0036】
図9(b)は、不揮発TCAMワード回路における1ビット不一致時のダイオード接続MOSトランジスタ回路網を線形抵抗モデルで示したもので、一致セルのダイオード接続MOSトランジスタ抵抗をRHigh、不一致セルのダイオード接続MOSトランジスタ抵抗をRLowに置き換えている。nビットワード回路における1ビット不一致時のマッチライン電位差ΔVMLをこのモデルに基づいて求めると、以下の式(1)で表される。
【0037】
【数1】

【0038】
(1)式より、RLowに対してRHighが大きいほど大きなマッチライン電圧振幅が得られることがわかる。したがって、ワード回路の多ビット化に当たって、優れた特性をもつスイッチング素子を利用する他、セルの出力電圧振幅をより大きくすることが、動作マージンの増大に効果的である。
【0039】
本発明に係る6T−2MTJ構成の不揮発TCAMセルを用いた完全並列形の不揮発TCAMワード回路によれば、図8からも分かるように1024ビット以上の並列動作が可能である。
【0040】
(本発明に係る他の不揮発TCAMセル)
図10に、本発明に係る他の不揮発TCAMセルとして、4T−2MTJ形の不揮発TCAMセルの回路図を示す。
図10中に点線で囲んだ不揮発TCAMセルの比較演算回路部、電流源トランジスタ、及びダイオードは、本発明に係る6T−2MTJ形の不揮発TCAMセルのものと同じ構成である。
【0041】
この4T−2MTJ形の不揮発TCAMセルでは、図3に示す6T−2MTJ形の不揮発TCAMセルにおける書込みトランジスタMW1及びMW2が削除されており、比較演算回路部の各トランジスタがその機能を兼用している。
MTJ素子への書き込みは、比較演算回路部のトランジスタと電流源トランジスタとを選択して、ビットライン(BLと_BL)からMTJ素子に電流を流すことによって行う。
【0042】
この4T−2MTJ形の不揮発TCAMセルでは、書込み専用のトランジスタを削除し、他のトランジスタを書込みトランジスタとしても兼用させることで素子数の削減がなされている。さらに、これに伴いワードライン(WL_A又はWL_B)とビットライン(_BL)も削除され、それぞれサーチライン(_SL又はSL)と電源供給ライン(VDD)で兼用されるため、セル中の配線数も削減されている。この結果、6T−2MTJ構成の不揮発TCAMセルに比べて更なるセルの小型化が実現される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列接続されたスピン注入型のMTJ素子と選択用のMOSトランジスタとが並列に接続されている不揮発性記憶部と検索用演算部とが一体化した比較演算回路部と、該比較演算回路部における各MTJ素子への書き込みを行うトランジスタと、該比較演算回路部に電流を供給する電流源トランジスタと、該比較演算回路部の出力とマッチラインとの間に配置されたダイオードとを備えた不揮発TCAMセル。
【請求項2】
第1の接続点に一端を接続されるとともにそれぞれのゲートが第1及び第2のサーチラインに接続された選択用の第1MOSトランジスタ及び第2MOSトランジスタと、該第1MOSトランジスタ及び該第2MOSトランジスタの他端にそれぞれその一端が接続され、その他端がビットライン又はGNDに接続されている第2の接続点に接続されたスピン注入型の第1のMTJ素子及び第2のMTJ素子と、該第1のMTJ素子及び該第2のMTJ素子のそれぞれの一端に接続されるとともにそのゲートがそれぞれワードラインに接続された、MTJ素子への書き込みを行う第3MOSトランジスタ及び第4MOSトランジスタと、該第1の接続点に接続された電流源トランジスタと、該第1の接続点とマッチラインとの間に配置されたダイオードとを備えた不揮発TCAMセル。
【請求項3】
上記各選択用のMOSトランジスタは、各MTJ素子への書き込みを行うトランジスタをそれぞれ兼用していることを特徴とする請求項1に記載の不揮発TCAMセル。
【請求項4】
第1の接続点に一端を接続されるとともにそれぞれのゲートが第1及び第2のサーチラインに接続された選択用の第1MOSトランジスタ及び第2MOSトランジスタと、該第1MOSトランジスタ及び該第2MOSトランジスタの他端にそれぞれその一端が接続され、その他端がビットライン又はGNDに接続されている第2の接続点に接続されたスピン注入型の第1のMTJ素子及び第2のMTJ素子と、該第1の接続点に接続された電流源トランジスタと、該第1の接続点とマッチラインとの間に配置されたダイオードとを備えた不揮発TCAMセルであって、
上記各選択用の第1MOSトランジスタ及び第2MOSトランジスタは、各MTJ素子への書き込みを行うトランジスタをそれぞれ兼用していることを特徴とする不揮発TCAMセル。
【請求項5】
上記ダイオードは、ドレインとゲートがマッチラインに接続されたnチャンネルMOSトランジスタであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の不揮発TCAMセル。
【請求項6】
上記電流源トランジスタは、VDDと第1の接続点との間に配置されたpチャンネルMOSトランジスタであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の不揮発TCAMセル。
【請求項7】
マッチラインに並列接続した複数個の請求項1ないし6のいずれか1項に記載の不揮発TCAMセルと、マッチラインの充電・放電を制御するPrecharge/Evaluateコントローラと、センスアンプ及び書込みコントローラとを備えた不揮発TCAMワード回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−190530(P2012−190530A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−7375(P2012−7375)
【出願日】平成24年1月17日(2012.1.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年8月26日 平成22年度電気関係学会東北支部 連合大会実行委員会発行の「平成22年度電気関係学会東北支部連合大会講演論文集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年1月8日 研究会座長 羽生貴弘(東北大学) 研究会幹事 夏井雅典(東北大学)発行の「多値論理とその応用研究会技術研究報告 多値技報 Vol.MVL−11,No.1」に発表
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)