説明

不溶化異方性膜、不溶化処理液、不溶化異方性膜の製造方法及び光学素子

【課題】有機色素等の異方性化合物を含む溶液を塗布して得られる異方性膜を不溶化処理液で処理することにより、水に溶解せず、耐久性、品質保持性を十分に有する不溶化異方性膜を提供することを目的とする。また、該不溶化処理液、不溶化異方性膜の製造方法及び光学素子を提供することを目的とする。
【解決手段】水に不溶化された異方性膜であって、リオトロピック液晶性を示す有機色素、カチオン化合物及び脂肪族モノカルボン酸を含有することを特徴とする、不溶化異方性膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不溶化異方性膜、不溶化処理液、不溶化異方性膜の製造方法及び光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ(liquid crystal display:LCD)においては、表示時の旋光性、複屈折性等を制御するために、通常、偏光板、位相差板等が用いられている。有機発光ダイオード(organic light−emitting diode:OLED)においても、外光の反射防止のために、通常円偏光板が使用されている。
【0003】
従来、これらの偏光板として、ヨウ素及び二色性を有する有機色素(二色性色素)をポリビニルアルコール等の高分子材料に溶解又は吸着させ、当該高分子材料からなる膜を一方向にフィルム状に延伸して、二色性色素を配向させることにより得られる偏光板が広く使用されてきた。また、位相差板として、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート等の各種高分子フィルムを一軸又は二軸延伸した位相差板が広く使用されてきた。
【0004】
しかしながら、偏光板、位相差板等の異方性膜を備えて製造される従来の光学素子において、用いる有機色素、高分子材料等の種類により、耐熱性、耐光性等が十分でないことが課題となっていた。また、液晶装置製造時における、膜の貼り合わせの歩留りが悪いことも課題となっていた。
そのため、ガラス、透明フィルム等の基板上に有機色素等の異方性化合物を含む溶液を塗布する際、せん断力等の機械的な力で有機色素分子を当該基板上に配向させることにより、異方性膜を製造する方法が検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
このような方法により得られる異方性膜の配向性を向上させたり、欠陥の無い均一な異方性膜を得るために、アミノ酸類、糖類、グリセリン、尿素等の水溶性化合物を含有する異方性膜用組成物が検討されている(例えば、特許文献2参照)。
また、同様の方法により得られる異方性膜の耐久性向上等のために、乾性油等を含有する異方性膜用組成物も検討されている(例えば、特許文献3、4等参照)。
【0006】
しかしながら、異方性膜に通常用いられる有機色素等の異方性化合物は、溶媒として好適に用いられる水に対して通常可溶であることから、前記の塗布により製造される異方性膜は耐水性や耐湿性に問題があった。
また、従来の方法により得られた異方性膜は、有機色素等の異方性化合物を溶解していた溶媒や、配向性向上、欠陥抑制を目的に添加された水溶性化合物が異方性膜中に多量に残存しているため、有機色素等の異方性化合物分子の配列状態が基板上で十分に安定でなかった。従って、液晶素子等の光学素子に通常使用される偏光板、位相差板等の異方性膜の、耐久性、品質保持性等は実用的に不十分であった。
【0007】
そこで、このような方法により得られた異方性膜を、水に不溶化する処理方法も提案されている(例えば、特許文献5〜7等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−246092号公報
【特許文献2】国際公開第2005/069048号パンフレット
【特許文献3】米国特許第2544659号明細書
【特許文献4】米国特許第2481830号明細書
【特許文献5】特開平11−21538号公報
【特許文献6】特開2001−337225号公報
【特許文献7】特開2009−199075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、従来の方法で不溶化すると、異方性膜内の溶媒と添加されている水溶性化合物が膜外に溶出するため、急激に体積収縮を起こし、亀裂を生じる、配向性を損なうなどの問題があった。
例えば特許文献7では、こうした不溶化時の体積収縮を和らげる為に、モル体積を価数で除した値が比較的大きく、2価以上の価数を有するカチオン化合物を含有する不溶化液を用いることが提案されているが、こうした不溶化液を用いても、前述の問題に対しての効果は不十分であることがわかった。また、耐湿性を向上させるために、不溶化液に含有される該カチオン化合物のモル体積を増やす、例えば、脂肪族ポリアミンの炭素数を増やす等すると、水溶性が低下して不溶化液が不均一となり、異方性膜の不溶化ができなくなるという問題が生じた。すなわち、従来の方法で親水性の異方性膜を親油性に改質するには限界があり、そのため、耐湿性などの耐久性に依然として課題を有していた。
【0010】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、有機色素等の異方性化合物を含む溶液を塗布して得られる異方性膜を不溶化処理液で処理することにより、水に溶解せず、耐久性、品質保持性を十分に有する不溶化異方性膜を提供することを目的とする。また、該不溶化処理液、不溶化異方性膜の製造方法及び光学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、有機色素等の異方性化合物を含有する溶液を塗布して得られる異方性膜において、特定の化合物を当該異方性膜に含有させることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明の要旨は、水に不溶化された異方性膜であって、リオトロピック液晶性を示す有機色素、カチオン化合物及び脂肪族モノカルボン酸を含有することを特徴とする、不溶化異方性膜に存する(請求項1)。
【0012】
また、本発明の別の要旨は、カチオン化合物と脂肪族モノカルボン酸とを含有することを特徴とする、不溶化処理液に存する(請求項5)。
また、本発明の別の要旨は、異方性膜形成用組成物を基板上に塗布して形成した異方性膜を、上記不溶化処理液で処理する工程を有することを特徴とする、不溶化異方性膜の製造方法、及び、該方法により製造された不溶化異方性膜に存する(請求項7、8)。
【0013】
さらに、本発明の別の要旨は、上記不溶化異方性膜を有することを特徴とする、光学素子に存する(請求項9)。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、有機色素等の異方性化合物を含有する溶液を塗布して得られる異方性膜において、水に溶解せず、耐久性、品質保持性等を十分に有する不溶化異方性膜、不溶化処理液、不溶化異方性膜の製造方法及び光学素子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することがで
きる。
【0016】
[I.本発明の不溶化異方性膜]
本発明の不溶化異方性膜は、水に不溶化された異方性膜であって、リオトロピック液晶性を示す有機色素、カチオン化合物及び脂肪族モノカルボン酸を含有することを特徴とする、不溶化異方性膜である。
ここで、水に不溶化された異方性膜とは、蒸留水に浸漬した際に、白濁、溶出、ひび割れ等の外観変化を起こさず、浸漬前後のコントラスト比の低下率が30%未満である異方性膜を意味する。コントラスト比については、後述する。
【0017】
また、本明細書において「異方性膜」とは、膜の厚み方向及び任意の直交する面内2方向の立体座標系における合計3方向から選ばれる任意の2方向における電磁気学的性質に異方性を有する膜である。電磁気学的性質としては、例えば吸収、屈折等の光学的性質、抵抗、容量等の電気的性質等が挙げられる。吸収、屈折等の光学的異方性を有する膜としては、例えば、直線偏光膜、円偏光膜、位相差膜、導電異方性膜等が挙げられる。中でも、本発明の不溶化異方性膜は、偏光膜、位相差膜、導電異方性膜であることが好ましく、偏光膜であることがより好ましい。
【0018】
[I−1.カチオン化合物]
本発明の不溶化異方性膜は、不溶化化合物としてカチオン化合物を含有する。該カチオン化合物は、好ましくは、後述する本発明の不溶化処理液に含有され、該処理液を使用して異方性膜の不溶化処理を行うことにより、処理後の不溶化異性膜に含有されることとなるものである。
【0019】
本明細書において「カチオン化合物」とは、当該化合物分子が溶解した水溶液中において、解離イオンの状態としてカチオン(陽イオン)性を示す化合物を意味する。
本発明において不溶化化合物として用いられるカチオン化合物は、好ましくは、2価以上の価数を有する化合物である。
ここで「価数」とは、当該カチオン化合物がイオンになったときの、当該カチオン化合物1モルが生成する陽イオンの価数の総和を表す。例えば、ビス(ヘキサメチレン)トリアミンは、イオンになったときにアミン部分が解離するため、3価となる。従って、本発明においては、ビス(ヘキサメチレン)トリアミンは3価のカチオン化合物であり、同様に、1,4−シクロヘキサンジアミンは2価、ペンタエチレンヘキサミンは6価である。また、本発明の定義によれば、例えば、塩化バリウム及び塩化バリウム二水和物は2価であり、同様に考えると塩化カルシウムも2価、塩化リチウムは1価である。
【0020】
該カチオン化合物の有する価数が2価以上であると、価数が1価である場合に比べて、異方性膜を水に不溶化する効果が高い。
また、該カチオン化合物の分子量は、通常50以上、好ましくは100以上、通常500以下、好ましくは300以下である。分子量が小さすぎる場合、本発明の効果が得られない可能性がある。分子量が大きすぎる場合、カチオン化合物の溶媒への溶解性が低下するため、後述する本発明の不溶化処理液の成分として用いた場合に該処理液が均一とならなくなったり、また、均一に溶解させるために溶媒のpHを下げなければならない場合がある。その結果、不溶化処理された異方性膜(不溶化異方性膜)に異方性化合物として含有される有機色素中の酸性基が遊離酸型となる等の問題を生じる可能性がある。
【0021】
本発明において用いられるカチオン化合物は、モル体積を価数で除した値(以下、適宜「モル体積/価数の値」ということがある。)が特定の範囲に収まるものであることが好ましい。ここで、モル体積は、カチオン化合物の分子量を、25℃、101kPaにおける比重で除することにより計算される。
具体的には、該カチオン化合物において、モル体積/価数の値は、好ましくは30cm/mol以上、より好ましくは40cm/mol以上、さらに好ましくは60cm/mol以上、好ましくは200cm/mol以下、より好ましくは120cm/mol以下である。
【0022】
モル体積/価数の値が小さすぎる場合、本発明の効果が十分に得られない可能性がある。ただし、後述する脂肪族モノカルボン酸との組合せによって、より小さなモル体積/価数の値を有する化合物であっても用い得ることがある。
また、分子量が大きすぎる場合は、カチオン化合物の溶媒への溶解性が低下するため、後述する本発明の不溶化処理液の成分として用いた場合に該処理液が均一とならなくなったり、また、均一に溶解させるために溶媒のpHを下げなければならない場合がある。その結果、不溶化処理された異方性膜(不溶化異方性膜)に異方性化合物として含有される有機色素中の酸性基が遊離酸型となる等の問題を生じる可能性がある。
【0023】
なお、上記カチオン化合物に好ましいモル体積/価数の値が存在する理由は、該カチオン化合物のモル体積/価数の値と異方性化合物のモル体積/価数の値との比が、異方性膜の不溶化処理前後の体積変化と関係しているためである。
具体的には、異方性膜の不溶化処理においては、異方性膜に通常含まれる1価カチオン(通常は、後述するリオトロピック液晶性を示す有機色素の対イオンである)と、上記カチオン化合物のカチオンとが交換されることにより、当該異方性膜が水に対して不溶化される。従来、カチオン化合物のカチオンとして、例えばバリウム等の小さな体積を有するものが用いられていたが、このような小さな体積を有するものを用いた場合には、十分な効果を得ることができないことがあった。その理由は、以下のように推察される。
【0024】
即ち、異方性膜に通常含まれる1価カチオンと上記カチオン化合物のカチオンとが交換されて異方性膜が不溶化される際に、異方性膜中に通常多量に残存する水等の溶媒も膜中から放出されるため、小さな体積を有する化合物、例えばバリウム等では放出される残存溶媒の体積を補償できず、異方性膜の体積収縮が生じる可能性がある。この体積収縮により、巨視的には膜に亀裂を生じたり、微視的には有機色素等の水溶性アニオン有機化合物分子の配列状態が乱れる等の課題が生じたりする可能性がある。しかし、体積を当量あたりの値(即ち、モル体積/価数の値)で規定し、これが例えば30cm/mol以上であるカチオン化合物を用いることにより、カチオン化合物のカチオンが放出される水の体積を補償できる程度の体積を有するため、十分な効果を得ることができる。
【0025】
ここで、カチオン化合物をモル体積/価数の値で規定する理由は、不溶化処理により通常交換される1価カチオンと2価以上のカチオンである上記カチオン化合物の当量とがおおよそ等しいからである。
さらに、上記カチオン化合物は、本発明の不溶化異方性膜が水に対して不溶であるという観点から、酸性基を有さないカチオン化合物であることが好ましい。ここで、「酸性基」とは、アレニウス酸を有する官能基のことを表す。酸性基の具体例としては、例えば、カルボキシ基、スルホ基、リン酸基等が挙げられる。即ち、カチオン化合物としては、酸性基を有さない化合物が好ましい。
【0026】
該カチオン化合物の沸点は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常50℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは200℃以上である。沸点が低すぎる場合、耐熱性が低くなる可能性がある。
本発明の不溶化異方性膜に含有されるカチオン化合物としては、例えば、ポリアミン系化合物、錯イオン系化合物等が挙げられ、中でもポリアミン系化合物が好ましい。
【0027】
ポリアミン系化合物とは、その分子内に2以上のアミノ基を有する化合物をいう。また
、ポリアミン系化合物一分子が有するアミノ基の数としては、通常2以上、また、その上限は、通常20以下、好ましくは10以下である。アミノ基の数が少なすぎる場合、異方性膜を不溶化できなくなる可能性があり、多すぎる場合、分子量が大きくなるため上記化合物が異方性膜内に拡散せず、やはり不溶化できなくなる可能性がある。
【0028】
ポリアミン系化合物としては、脂肪族ポリアミン系化合物、芳香族ポリアミン系化合物が挙げられる。中でも、脂肪族ポリアミン系化合物が好ましい。
脂肪族ポリアミン系化合物の具体例としては、ジアミノヘキサン、ジアミノデカン等のジアミノアルカン化合物、1,4−シクロヘキサンジアミン等のジアミノシクロヘキサン、4,4’−メチレンビスシクロヘキシルアミン等のジアミノシクロアルカン化合物、ジエチレントリアミン、ペンタエチレンヘキサミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン等のポリエチレンポリアミン化合物等が挙げられる。中でも、ポリエチレンポリアミン化合物が好ましく、ビス(ヘキサメチレン)トリアミンが特に好ましい。
【0029】
芳香族ポリアミン系化合物の具体例としては、ジアミノベンゼン、キシリレンジアミン等が挙げられる。中でも、ジアミノベンゼンが好ましい。
錯イオン系化合物とは、金属イオンに分子中の非共有電子対が配位結合してできた錯イオンの塩である。本発明において用いられる錯イオン系化合物の錯イオンとしては、例えば、テトラアンミン銅(II)イオン、ヘキサアンミンコバルト(III)イオン等が挙げられる。
【0030】
上記カチオン化合物は、本発明の不溶化異方性膜中に1種が単独で含まれていてもよく、2種以上が任意の比率及び組み合わせで含まれていてもよい。
また、不溶化処理における蒸留水による洗浄中の亀裂を抑制するためには、N−(3−アミノプロピル)ジエタノールアミン、N,N,N',N'−テトラキス(2−ヒドロキシエ
チル)エチレンジアミン、N,N,N'−トリメチル−N'−(2−ヒドロキシエチル)ビス(2−アミノエチル)エーテル等の水酸基を有するポリアミンを上記カチオン化合物と組み合わせて使うことが好ましい。
【0031】
本発明の不溶化異方性膜が含有するカチオン化合物の含有量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常5重量%以上、好ましくは10重量%以上、通常40重量%以下、好ましくは30重量%以下である。含有するカチオン化合物の量が少なすぎる場合、異方性膜の不溶化が不十分となる可能性があり、多すぎる場合、異方性膜に亀裂が入ったり、耐熱性が低下したりする可能性がある。
【0032】
[I−2.脂肪族モノカルボン酸]
本発明の不溶化異方性膜は、前記カチオン化合物のほかに脂肪族モノカルボン酸を含有する。該脂肪族モノカルボン酸は、好ましくは、後述する本発明の不溶化処理液に前記カチオン化合物とともに含有され、該処理液を使用して異方性膜の不溶化処理を行うことにより、処理後の不溶化異方性膜に含有されることとなるものである。
【0033】
脂肪族モノカルボン酸は、不溶化化合物として用いられる前記カチオン化合物とともに用いられることにより、該カチオン化合物が安定的に異方性膜に取り込まれることを助ける働きを有すると考えられる。
前記のとおり、本発明の不溶化異方性膜は、後述する不溶化処理液に含有される前記カチオン化合物のカチオンが異方性膜に通常含まれる1価カチオンと交換されることにより、水に対して不溶化され、製造される。このとき、前記カチオン化合物だけでは、異方性膜に生じる急激な体積収縮による亀裂、配向性の低下等を完全には補償できないことがあったが、脂肪族モノカルボン酸を併用することにより体積収縮をさらに抑制することができ、従来の問題を解決できることがわかった。
【0034】
また、耐湿性等を向上させるために、前記カチオン化合物のモル体積を増やす(例えば、脂肪族ポリアミンの炭素数を増やす)等すると、水溶性が低下して不溶化液が不均一となり、異方性膜の不溶化ができなくなるという問題も生じることがあったが、脂肪族モノカルボン酸が両親媒性であることから、この問題をも効果的に解決することができる。
脂肪族モノカルボン酸とは、「大有機化学 4. 脂肪族化合物III」、朝倉書店に記
載されているように、脂肪族炭化水素の水素原子を1個のカルボキシル基で置換した化合物である。炭素鎖が飽和か不飽和かによって、飽和モノカルボン酸または不飽和モノカルボン酸に分類されるが、いずれのモノカルボン酸も用いることができる。
【0035】
いずれのモノカルボン酸の場合も、炭素数が6〜30のものを用いることが好ましい。炭素数がこれより小さいと、不溶化の際に亀裂を生じ易かったり、不溶化異方性膜の耐久性が不十分となることがある。一方、炭素数が大きすぎると、モノカルボン酸自体の水溶性が低下するため、これを後述する本発明の不溶化処理液の成分として用いた場合に該処理液が不均一となり、十分な不溶化ができなくなる可能性がある。
【0036】
また、飽和カルボン酸は、炭素数を増加するとともに融点が高くなり、水溶性の低下が著しいので、不飽和カルボン酸と混合して用いるのが好ましい。
本発明の不溶化異方性膜に含有される脂肪族モノカルボン酸としては、具体的には、例えば、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、9−ヘキサデセン酸(パルミトレイン酸)、9−オクタデセン酸(オレイン酸)、11−オクタデセン酸(バクセン酸)、9,12−オクタデカジエン酸
(リノール酸)、9,12,15−オクタデカントリエン酸((9,12,15)−リノレン酸)、6,9,12−オクタデカトリエン酸((6,9,12)−リノレン酸)、9,11,13−オクタデカトリエン酸(エレオステアリン酸)、8,11−イコサジエン酸、5,8,11
−イコサトリエン酸、5,8,11−イコサテトラエン酸(アラキドン酸)等が好ましく挙げられる。
【0037】
本発明の不溶化異方性膜が含有する脂肪族モノカルボン酸の含有量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1重量%以上、好ましくは5重量%以上、通常30重量%以下、好ましくは20重量%以下である。含有する脂肪族モノカルボン酸の量が少なすぎる場合、異方性膜に亀裂が入ったり、耐熱性が低下したりする可能性があり、多すぎる場合、異方性膜の表面荒れを起こす可能性がある。
【0038】
[I−3.リオトロピック液晶性を示す有機色素]
本発明の不溶化異方性膜は、異方性化合物としてリオトロピック液晶性を示す有機色素を含有する。該有機色素は、好ましくは、後述する異方性膜形成用組成物に含有され、この組成物が基板に塗布されることにより異方性膜中に含有されることとなるものである。さらに、形成された異方性膜が不溶化処理されることにより、該有機色素は本発明の不溶化異方性膜に含有されることとなる。
【0039】
本発明の不溶化異方性膜に含有されるリオトロピック液晶性を示す有機色素は、通常、水溶性であって、かつ、アニオン性を示す有機色素である。すなわち、分子内に水溶性を示す官能基として、カルボキシ基、リン酸基、及びスルホ基等の官能基を有し、かつ、当該色素の分子が溶解した水溶液中において、解離イオンの状態としてアニオン(陰イオン)性を示すものである。
【0040】
前記の通り、異方性膜の不溶化処理においては、異方性膜に通常含まれる1価カチオンと、前記カチオン化合物のカチオンとが交換されることにより、当該異方性膜が水に対し
て不溶化される。通常、この「異方性膜に通常含まれる1価カチオン」は、該リオトロピック液晶性を示す有機色素の対イオンである。
有機色素としては、通常、二色性色素が用いられる。なお、ここで「色素」とは、一般に、可視光波長領域において吸収を有する化合物を意味する。
【0041】
また、本明細書において「液晶性を示す」とは、「液晶の基礎と応用」、松本正一・角田市良著、1991年、1頁〜16頁に記載されている状態のことをいう。特に、色素溶液の状態としては、3頁に記載されているネマティック相が好ましい。
本発明の不溶化異方性膜に含有されるリオトロピック液晶性を示す有機色素は、後述する異方性膜形成用組成物に含有され、基板に塗布することにより異方性膜を形成する方法に適したものであることが好ましい。
【0042】
このような方法に適したリオトロピック液晶性を示す有機色素の具体例としては、アゾ系色素、スチルベン系色素、シアニン系色素、フタロシアニン系色素、縮合多環系色素(ペリレン系、オキサジン系)等が挙げられる。これらの有機色素の中でも、不溶化異方性膜中で高い分子配向性を有するアゾ系色素が好ましい。
アゾ系色素とは、1以上のアゾ基を有する有機色素を表す。アゾ系色素一分子中のアゾ基の数は、色調及び製造面の観点から、2以上が好ましく、また、6以下が好ましく、より好ましくは4以下である。
【0043】
より具体的には、例えば、特開2009−199075号公報等に記載されたアゾ系色素や、下記式(1)及び(2)で表される色素等が挙げられる。
【0044】
【化1】

【0045】
(上記式(1)において、Aは、置換基として非イオン性の電子吸引基を少なくとも一つ有するフェニル基を表す。
、DおよびEは、それぞれ独立に置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい2価の複素環基を表す。
1およびRは、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基
、置換基を有していてもよいフェニル基または置換基を有していてもよいアシル基を表す。
mおよびnは、0または1を表す。)
【0046】
【化2】

【0047】
(上記式(2)において、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキル基または置換基を有していてもよいフェニル基を表し、
Aは、下記式(1−a)または(1−b)を表し、
【0048】
【化3】

【0049】
(上記式(1−a)または(1−b)において、Rは、水素原子、水酸基または置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルコキシ基を表す。)
Cは、置換基として炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基またはアセチルアミノ基を有していてもよい1,4−フェニレン基を表し、
nは、0または1を表す。)
なお、本明細書において「置換基を有していてもよい」とは、置換基を1又は2以上有していてもよいことを意味する。2以上の置換基を有する際、置換基は1種であってもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせて置換してもよい。
【0050】
好ましい置換基の種類は、有機色素の溶解性、色調調節等の観点から適宜決定される。
本発明の不溶化異方性膜に含有されるリオトロピック液晶性を示す有機色素の分子量としては、遊離酸の状態で、好ましくは450以上、また、好ましくは1500以下、更に好ましくは1100以下である。分子量が小さすぎる場合、分子配向性が劣る可能性があり、大きすぎる場合、溶解性が劣る可能性がある。
【0051】
上記したような有機色素は、波長分散性が低く、水等の溶媒中で会合性が高くリオトロピック液晶性を示すものであるので、そのコントラスト比が高い等の優れた光学特性を示す。そのため、上記の有機色素を含有することにより、高い分子配向性を示す不溶化異方性膜が得られる。
【0052】
上記有機色素のさらに好ましい具体例としては、以下に示す構造の有機色素等が挙げられるが、本発明の不溶化異方性膜に含有されるリオトロピック液晶性を示す有機色素は以下の例に限定されるものではない。
なお、以下の構造式は、遊離酸の形を表わしている。なお、「遊離酸の形」とは、その分子中の全ての酸性基が遊離酸型となっているものを表す。
【0053】
【化4】

【0054】
【化5】

【0055】
【化6】

【0056】
有機色素は、何れか1種が単独で本発明の不溶化異方性膜に含まれていてもよく、2種以上が任意の比率及び組み合わせで含まれていてもよい。
更に、本発明の不溶化異方性膜は、分子配向性を低下させない程度にさらに他の有機色素を含むこともでき、これにより各種の色相を有する位相差膜、偏光膜等の異方性膜が得られる。
【0057】
さらに、有機色素以外に、水溶性かつアニオン性の有機化合物として、例えば、リオトロピック液晶性化合物等が含まれていてもよい。これにより各種の吸収特性を有する位相差膜、偏光膜等の不溶化異方性膜が得られる。
このような、前記したリオトロピック液晶性を示す有機色素と組み合わせて用いることのできる他の有機色素やリオトロピック液晶性化合物等としては、例えば、特開2009−199075号公報に記載されたもの等が挙げられる。
【0058】
本発明の不溶化異方性膜中のリオトロピック液晶性を示す有機色素の含有量は、通常20重量%以上、好ましくは50重量%以上であり、また、その上限は、通常90重量%以下、好ましくは80重量%以下であることが望ましい。該有機色素の量が少なすぎる場合、分子配向性が劣る可能性があり、多すぎる場合、異方性膜の不溶化が不十分であったり耐久性が劣ったりする可能性がある。なお、2種以上のリオトロピック液晶性を示す有機色素を含有する場合、その含有量の合計が、上記範囲を満たすことが好ましい。
【0059】
また、本発明の不溶化異方性膜において、リオトロピック液晶性を示す有機色素の含有量を上記カチオン化合物の含有量で除した値は、通常2以上、好ましくは3以上、また、その上限は、通常10以下、好ましくは6以下であることが望ましい。この値が小さすぎる場合、分子配向性が劣る可能性があり、大きすぎる場合、異方性膜の不溶化が不十分であったり、耐久性が劣ったりする可能性がある。
【0060】
[I−4.その他の成分]
本発明の不溶化異方性膜は、上記カチオン化合物、脂肪族モノカルボン酸、及びリオトロピック液晶性を示す有機色素に加え、その他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、例えば、界面活性剤等の添加剤、ポリオールやアミノ酸、タウリン等の分子配向性改良剤等が挙げられる。その他の成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
【0061】
界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、及びノニオン界面活性剤のうち、何れを使用することもできる。ノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコール型、多価アルコール型等が挙げられる。界面活性剤の含有量は、通常0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上、また、その上限は、10重量%以下、好ましくは5重量%以下、より好ましくは1重量%以下である。界面活性剤の量が少なすぎる場合、異方性膜を製膜できなくなる可能性があり、多すぎる場合、相分離する可能性がある。界面活性剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで併用してもよい。
【0062】
更に、上記以外の添加剤として、例えば、”Additives for Coating”, Edited by J. Bieleman, Willey−VCH (2000)等に記載の公知の添加剤を用いることもできる。
なお、本発明の不溶化異方性膜において、その他の成分としてモル体積/価数の値が30cm/molより小さい2価以上の価数を有するカチオン化合物(以下、「その他のカチオン化合物」ということがある)が含有されている場合は、前記カチオン化合物とその他のカチオン化合物との体積平均を算出して求めたモル体積/価数の値が、30cm/mol以上となることが好ましい。さらに、前記カチオン化合物とその他のカチオン化合物との合計量が、前記カチオン化合物の含有量の範囲を満たすことが好ましい。その他のカチオン化合物は、1種が単独で含まれていてもよく、2種以上が任意の比率及び組み合わせで含まれていてもよい。
【0063】
上記の体積平均は、例えば、以下に記載する方法に従って求めることができる。
即ち、まず本発明の不溶化異方性膜の組成分析を行って得られた各化合物の構造及び重量分率を基に、各化合物の比重を用いて体積分率を求める。そして、測定した各化合物の構造から求められる価数を用いて、各化合物のモル体積/価数の値を求める。求めた体積分率とモル体積/価数の値との積を算出することにより、各化合物の体積平均を求めることができる。
【0064】
[I−5.物性]
本発明の不溶化異方性膜の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、乾燥後の膜厚で、好ましくは10nm以上、より好ましくは50nm以上であり、また、その上限は、好ましくは30μm以下、より好ましくは10μm以下であることが望ましい。不溶化異方性膜の膜厚が薄すぎる場合、均一な膜厚とすることが難しくなる可能性があり、厚すぎる場合、不溶化異方性膜を構成する有機色素分子の分子配向性を制御することが難しくなる可能性がある。
【0065】
本発明の不溶化異方性膜のコントラスト比は、通常10以上、好ましくは50以上、より好ましくは100以上である。コントラスト比が小さすぎる場合、不溶化異方性膜として適当でない。なお、コントラスト比は、例えば、グランテーラー型偏光素子を入射光学系に配した分光光度計(島津製作所社製SolidSpec3700)で不溶化異方性膜の透過率を測定した後、JIS(日本規格協会)Z8701(1995)及びZ8722(1994)で規定の透過物体の色測定方法に準拠して、D65標準光源下、2度視野における色彩計算を行ない、次式により計算することができる。
【0066】
【数1】

【0067】
:不溶化異方性膜の偏光軸方向の偏光に対する透過率を基に算出された明度(Y値)
:不溶化異方性膜の吸収軸方向の偏光に対する透過率を基に算出された明度(Y値)
本発明の不溶化異方性膜は、水に不溶化された異方性膜である。水に不溶化された異方性膜は、該異方性膜を蒸留水に浸漬した際に、白濁、溶出、ひび割れ等の外観変化を起こさず、浸漬後に各種光学特性の低下も起こさないという優れた利点を有する。ここで、不溶化の程度を表すために、上記コントラスト比を指標とすることができる。
具体的には、本発明の不溶化異方性膜においては、浸漬前後で比較した場合の浸漬後の
コントラスト比の低下率は、通常30%未満、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下である。
【0068】
[II.本発明の不溶化処理液]
本発明の不溶化処理液は、カチオン化合物と脂肪族モノカルボン酸とを含有することを特徴とする。
[II−1.不溶化処理液に用いられるカチオン化合物]
本発明の不溶化処理液は、カチオン化合物を含有する。好ましくは、モル体積を価数で除した値が30cm/mol以上であり、2価以上の価数を有するカチオン化合物を含有する。
【0069】
本発明の不溶化処理液に含有されるカチオン化合物としては、例えば[I−1.カチオン化合物]で説明した、本発明の不溶化異方性膜に含有されるものと同様のものが用いられる。カチオン化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
本発明の不溶化処理液に含有されるカチオン化合物の量は、異方性膜中に含まれる異方性化合物の不溶化処理液に対する溶解性に基づいて適宜選択されるが、不溶化処理液に対して、通常10重量%以上、好ましくは15重量%以上、また、その上限は、通常40重量%以下、好ましくは30重量%以下であることが望ましい。濃度が低すぎる場合、不溶化処理中に異方性膜が溶解する可能性があり、高すぎる場合、不溶化処理後の異方性膜の洗浄が困難となる可能性がある。
【0070】
[II−2.不溶化処理液に用いられる脂肪族モノカルボン酸]
本発明の不溶化処理液は、前記カチオン化合物とともに脂肪族モノカルボン酸を含有する。本発明の不溶化処理液に含有される脂肪族モノカルボン酸としては、例えば[I−2.脂肪族モノカルボン酸]で説明した、本発明の不溶化異方性膜に含有されるものと同様のものが用いられる。脂肪族モノカルボン酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
【0071】
本発明の不溶化処理液に含有される脂肪族モノカルボン酸の量は、異方性膜中に含まれる異方性化合物の不溶化処理液に対する溶解性、及び、カチオン化合物を中和するに足る量に基づいて適宜選択されるが、不溶化処理液に対して、通常1重量%以上、好ましくは5重量%以上、また、その上限は、通常50重量%以下、好ましくは30重量%以下であることが望ましい。濃度が低すぎる場合、耐久性が不十分となる可能性があり、高すぎる場合、不溶化液の粘度が高すぎて不溶化処理後の洗浄が困難になる可能性がある。
【0072】
なお、このような脂肪族モノカルボン酸の塩は、その両親媒性から、ミセル等のナノメートルオーダーの分子集合体を形成しやすいことが知られている。不溶化処理のし易さと不溶化異方性膜の耐久性の観点から、不溶化液はナノメートルオーダーの分子集合体を形成した透明な溶液であることが好ましい。不溶化液が白濁していると、脂肪族モノカルボン酸が異方性膜内に取り込まれにくくなり、効果を十分発揮できない可能性がある。
【0073】
なお、最終的な不溶化処理液中のカチオン化合物と脂肪族モノカルボン酸の量は、以下の方法に基づいて調整すればよい。即ち、例えば、不溶化処理を行った後に不溶化処理液が着色している等の理由により異方性膜の溶解が観察される場合は、不溶化処理液に含有されるカチオン化合物の量を増やせばよい。一方、異方性膜を偏光顕微鏡等で観察し、処理ムラや部分的に亀裂が生じている場合は、洗浄が不十分である可能性があるので、不溶化処理液に含有されるカチオン化合物の量を減らせばよい。脂肪族モノカルボン酸の量は、不溶化処理液中のカチオン化合物を中和する量とすればよく、カチオン化合物の量にあわせて調整することができる。
【0074】
[II−3.溶媒]
本発明の不溶化処理液は、通常、前記カチオン化合物と脂肪族モノカルボン酸とを溶解し得る溶媒を含有する。
不溶化処理液に用いられる溶媒としては、水、硫酸、酢酸、塩酸等が挙げられる。溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
また、不溶化処理液は、上記の溶媒の他に、カチオン化合物の溶解性を改良したり、異方性膜の溶解を抑制したりする等の目的で水溶性有機溶媒を含んでいてもよい。水溶性有機溶媒としては、水と単層に自由混合する有機溶媒の他、不溶化処理時の溶液温度において、水溶性有機溶媒の濃度が通常5重量%以上、通常100重量%未満の割合で混合(溶解)可能なもの等が挙げられる。
【0075】
水溶性有機溶媒の具体例としては、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、t−ブチルアルコール、t−ペンチルアルコール、3−メチル−2−ブタノール等の炭素数が通常1以上、通常5以下の低級アルコール類;ジメチルケトン(アセトン)、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトニルアセトン、シクロヘキサノン等の炭素数が通常1以上、通常6以下の鎖式又は環式ケトン類;ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジエチルエーテル、ジエチレンオキシド(1,4−ジオキサン)、テトラヒドロフラン等の炭素数が通常1以上、通常4以下の鎖式又は環式エーテル類;エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のグリコール類等が挙げられる。中でも、アルコール類、ケトン類、エーテル類が好ましく、水に対する溶解度が高いという観点から、イソプロピルアルコール、ジメチルケトン、メチルエチルケトン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフランが特に好ましい。なお、これらの水溶性有機溶媒は、何れか1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで併用してもよい。
【0076】
不溶化処理液が水溶性有機溶媒を含有する場合、不溶化処理液中の水溶性有機溶媒の量は、不溶化処理液に用いられる溶媒、含有する水溶性有機溶媒等への本発明のカチオン化合物及び脂肪族モノカルボン酸の溶解度により適宜決定されるが、不溶化処理液に対して、通常3重量%以上、好ましくは5重量%以上、また、その上限は、通常99重量%以下、好ましくは95重量%以下、より好ましくは50重量%以下、更に好ましくは20重量%以下、特に好ましくは10重量%以下である。水溶性有機溶媒の量が少なすぎる場合、水溶性有機溶媒を使用することによる効果が小さい可能性がある。一方、水溶性有機溶媒の量が多すぎる場合、不溶化処理液中のカチオン化合物及び脂肪族モノカルボン酸の溶解度が下がり、カチオン化合物及び脂肪族モノカルボン酸が析出する可能性がある。なお、2種以上の水溶性有機溶媒を併用する場合には、それらの水溶性有機溶媒の合計濃度が上記範囲内に収まるようにすることが好ましい。
【0077】
[II−4.界面活性剤]
不溶化処理液には、カチオン化合物、脂肪族モノカルボン酸及び溶媒の他、界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、及びノニオン界面活性剤のうち、何れを使用することもできるが、ノニオン界面活性剤が好ましい。ノニオン界面活性剤の種類としては、例えば、ポリエチレングリコール型、多価アルコール型等が挙げられる。これらの界面活性剤は、何れか1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで併用してもよい。
【0078】
[II−5.その他の成分]
不溶化処理液には、本発明の効果を著しく損なわない限り、上記以外のその他の成分が含有されていてもよい。例えば、不溶化処理を行う前の異方性膜に、ポリオールやアミノ
酸、タウリン等の分子配向性改良剤が含まれている場合、分子配向性改良剤の溶出を抑制する目的で、不溶化処理液に同じ分子配向性改良剤を含有させてもよい。その他の成分の含有量も、本発明の不溶化異方性膜が得られる限り、任意に決定できる。
【0079】
[II−6.不溶化処理液の調製]
不溶化処理液の調製方法は特に制限されない。例えば、上記カチオン化合物及び脂肪族モノカルボン酸を上記濃度範囲となるように溶媒と混合し、必要に応じて攪拌等を行なって溶媒に溶解させればよい。また、必要に応じて用いられる上記の水溶性有機溶媒、界面活性剤等を、それぞれ上記濃度範囲となるように、溶媒に混合してもよい。なお、混合の時期、順番等も任意であり、本発明の不溶化異方性膜が得られる限り、任意の時期に任意の順番で、上記の各成分を混合すればよい。
【0080】
[III.本発明の不溶化異方性膜の製造方法]
本発明の不溶化異方性膜の製造方法は、異方性膜形成用組成物を基板上に塗布して形成された異方性膜を、前記本発明の不溶化処理液で処理する工程(以下、適宜「不溶化処理工程」ということがある。)を少なくとも有する。本発明の不溶化異方性膜の製造方法は、異方性膜形成用組成物を基板上に塗布して異方性膜を形成する工程(以下、適宜「異方性膜形成工程」ということがある。)と、該不溶化処理工程との、少なくとも2つの工程を有することが好ましい。
【0081】
異方性膜に対して不溶化処理工程を行うことにより、不溶化異方性膜が得られる。
ここで、一般に不溶化処理とは、レーキ顔料の製造同様に、少ない価数のイオンをそれより大きい価数のイオンに置き換える(即ち、例えば、1価のイオンを多価のイオンに置き換える)処理のことである。より具体的には、例えば、「細田豊、『理論製造 染料化学』、技報堂、(1957)、435頁〜437頁 10章.有機顔料と顔料捺染及び原液染色 10.2節 レーキ(Lake)」等に記載されている処理を表わす。
【0082】
以下の記載においては、異方性膜形成工程と不溶化処理工程との2つの工程を有する製造方法を例に、本発明の不溶化異方性膜の製造方法を説明する。ただし、以下に記載する内容は、本発明の不溶化異方性膜の製造方法の一例であり、本発明の要旨を逸脱しない限り、任意に変更して行うことができる。
【0083】
[III−1.異方性膜形成工程]
(基板)
本発明において、異方性膜は、通常、任意の基板上に形成される。
【0084】
基板としては、例えば、ガラス、トリアセテート、アクリル、ポリエステル、トリアセチルセルロース、ノルボン系、環状ポリオレフィン系又はウレタン系のフィルム等の基材を直接用いるほか、これら基材の表面に、例えばコロナ処理、プラズマ処理、紫外線オゾン処理等公知の表面処理を施した基板、基材表面に例えばポリイミド等の公知の液晶配向処理を施した基板等が挙げられる。枚葉基板であってもよいし、フィルム状の基板であってもよい。また、基板の膜厚としては、通常0.01mm以上、好ましくは0.02mm以上、また、通常3mm以下、好ましくは1mm以下である。
【0085】
更に、異方性膜を形成する面又はその裏面には、膜形成前に、例えばマイクロカラーフィルター、アクティブ駆動素子、ITO電極、アンチグレア膜等の液晶素子等の光学素子を構成する各種機能が施されていてもよい。基板は、1種を単独で用いてもよく、2種以上の任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
【0086】
(配向処理)
基板表面には、通常、異方性化合物として用いられるリオトロピック液晶性を示す有機色素の分子配向性を制御するために、「液晶便覧」、丸善株式会社刊、平成12年10月30日発行、226頁〜239頁等に記載の公知の方法により、一方向に配向処理を施す。本発明においては、この配向処理された方向を「配向処理方向」という。具体的な方法としては、例えば基板表面に均一性の薄膜を形成後、方向性を付与する方法、基板表面に方向性を付与しながら薄膜を形成する方法等がある。
【0087】
これらの方法のうち、前者においては、例えば、まず、ポリイミドの前駆体モノマーであるポリアミック酸モノマー、光硬化性樹脂モノマー、ポリエステル等のポリマー等を溶液状にて塗布し、乾燥等の後処理を行なって均一性の薄膜を形成する。その後、この薄膜をレーヨン布等でラビングする、紫外線、電子線等の電磁線を照射する等により薄膜表面の全体又は一部に方向性を付与する、等の方法が挙げられる。ここで、本明細書において「ラビング」とは、日本半導体製造装置協会編「液晶ディスプレイ製造装置用語辞典」、日刊工業新聞社、21頁に記載されているように、植毛布等を円筒ローラに巻き付けたものを薄膜の上で回転させ、こすり、表面層を延伸させ、配向材料の樹脂表面の軸を配向させることを表す。
また、後者においては、例えば、基板表面に酸化ケイ素の斜方蒸着を施す、ポリテトラフルオロエチレン等の樹脂片を基板表面に一方向へ擦って基板表面に樹脂薄膜を転写させる、ポリマー製基板を一軸方向に延伸する、等の方法が挙げられる。
【0088】
より具体的には、例えば、ガラス製基板(例:旭ガラス製AN100、厚さ0.7mm〜1.1mm)上に、下地層として、ポリアミック酸(例:日産化学製サンエバー610等)をシルク印刷、スピンコート法又はスロットダイコート法等により形成した膜(例えば、厚さ500nm〜2000nm)を100℃〜150℃で予備加熱し、200℃〜300℃で脱水縮合反応させてポリイミド膜を得る。下地層としては、他にポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリアセテート等を用いることも可能である。この下地層を備える基板を固定して、当該基板に一定の押し込み量(例えば、0.2mm〜1mm)でラビング布(例:ポリエチレン、レーヨン、コットン等)を巻いたロール(例えば、直径30mm〜100mm)を押し付け、基板を移動させながら(例えば、速度3mm/秒〜500mm/秒)、ロールを回転させる(例えば、回転速度100rpm〜5000rpm)ことにより、ポリイミド膜からなる配向処理膜を得ることができる。他に配向処理膜の作製方法としては、二酸化珪素の斜方蒸着膜又はダイヤモンドライクカーボンを真空蒸着したものにイオンビームを照射したもの等がある。
【0089】
これらの中でも、特に好ましいものとしては、基板の表面又は裏面にマイクロカラーフィルター、アクティブ駆動素子回路等が形成されていても、前記有機色素の分子配向性の制御、液晶素子等の光学素子の電気光学特性等に悪影響が及び難い、ポリアミック酸を250℃以下で焼成してなるポリイミド膜に、レーヨンのラビング布をロールに巻いたものを用いてラビングしたものである。
【0090】
(異方性膜形成用組成物)
本発明の製造方法の異方性膜形成工程においては、通常、一方向(即ち、配向処理方向)に配向処理された基板上に異方性膜形成用組成物を塗布して異方性膜を形成する。本発明において用いられる異方性膜形成用組成物は、少なくともリオトロピック液晶性を示す有機色素含む材料であればよく、溶液であっても、ゲル状の材料であってもよい。異方性膜形成用組成物には、リオトロピック液晶性を示す有機色素1種が単独で含有されていてもよく、2種以上が任意の比率及び組み合わせで含有されていてもよい。
【0091】
該異方性膜形成用組成物は、通常、リオトロピック液晶性を示す有機色素と溶媒とを含有する。
リオトロピック液晶性を示す有機色素としては、本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを用いることができるが、中でも、[I−3.リオトロピック液晶性を示す有機色素]で説明した有機色素を用いることが好ましい。
【0092】
本発明において異方性膜形成用組成物に含有されるリオトロピック液晶性を示す有機色素としては、有機色素が有する全ての酸性基が遊離酸型となっているものを使用してもよく、酸性基の全部/又は一部が塩型を取っているものであってもよい。また、酸性基が塩型の有機色素と酸性基が遊離酸型の有機色素とが混在していてもよい。また、有機色素の製造時に酸性基が塩型で得られた場合は、そのまま使用してもよいし、酸性基を所望の塩型に変換してもよい。酸性基を塩型に変換するための交換方法としては、公知の方法を任意に用いることができるが、例えば以下の方法等が挙げられる。
【0093】
1)塩型で得られた有機色素の水溶液に塩酸等の強酸を加え、有機色素を遊離酸の形で酸析せしめた後、所望の対イオンを有するアルカリ溶液(例えば、水酸化リチウム水溶液等)で有機色素が有する酸性基を中和し塩交換する方法。
2)塩型で得られた有機色素の水溶液に、所望の対イオンを有する大過剰の中性塩(例えば、塩化リチウム等)を加え、塩析ケーキの形で塩交換を行なう方法。
【0094】
3)塩型で得られた有機色素の水溶液を、強酸性陽イオン交換樹脂で処理し、有機色素を遊離酸の形で酸析せしめた後、所望の対イオンを有するアルカリ溶液(例えば、水酸化リチウム水溶液等)で有機色素が有する酸性基を中和し塩交換する方法。
4)予め所望の対イオンを有するアルカリ溶液(例えば、水酸化リチウム水溶液等)で処理した強酸性陽イオン交換樹脂に、塩型で得られた有機色素の水溶液を作用させ、塩交換を行なう方法。
また、上記の有機色素が有する酸性基が遊離酸型を取るか、塩型を取るかは、通常、有機色素のpKaと色素水溶液のpHとに依存する。
【0095】
上記の塩型の例としては、ナトリウム、リチウム、カリウム等のアルカリ金属の塩、アルキル基若しくはヒドロキシアルキル基で置換されていてもよい、アンモニウム若しくは有機アミンの塩が挙げられる。有機アミンの例として、炭素数が通常1以上、通常6以下の低級アルキルアミン、水酸基で置換された炭素数が通常1以上、通常6以下の低級アルキルアミン、カルボキシ基で置換された炭素数が通常1以上、通常6以下の低級アルキルアミン等が挙げられる。これらの塩型の場合、その種類は1種類に限られず、2種以上が任意の比率及び組み合わせで混在していてもよい。
【0096】
なお、本発明において用いられる異方性膜形成用組成物には、前記の有機色素に加えて、分子配向性を低下させない程度にその他の有機色素を含有させることもでき、これにより各種の色相を有する位相差膜、偏光膜等の異方性膜を製造することができる。
その他の有機色素としては、本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを含有することができる。中でも、その他の有機色素は、可視光波長領域に吸収を有する有機色素が好ましい。可視光波長領域に吸収を有する有機色素の具体例としては、[I−3.有機色素]に記載のものと同様のもの等が挙げられる。なお、その他の有機色素は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
【0097】
また、異方性膜形成用組成物に含有されうる他のリオトロピック液晶性化合物も、例えば、[I−3.リオトロピック液晶性を示す有機色素]に記載のものと同様のもの等が挙げられる。
該化合物は、何れか1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。これにより各種の吸収特性を有する位相差膜、偏光膜等の異方性膜を製造することができる。
【0098】
(異方性膜形成用組成物に用いる溶媒)
異方性膜形成用組成物に用いる溶媒としては、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、中でも、水、水混和性のある有機溶媒、又はこれらの混合物が好ましいが、通常は水を用いる。有機溶媒の具体例としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ類等が挙げられる。なお、溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
【0099】
(異方性膜形成用組成物における異方性化合物の濃度)
異方性膜形成用組成物中のリオトロピック液晶性を示す有機色素の濃度としては、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。ただし、例えば、溶媒として水を用いる場合、有機色素の濃度は、通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、また、その上限は、通常50重量%以下、好ましくは30重量%以下である。該有機色素の濃度が低すぎる場合、十分な光透過性、二色性等の光学特性を有する異方性膜を得ることができなくなる可能性があり、高すぎる場合、異方性膜形成用組成物中で有機色素が析出する可能性がある。
【0100】
(異方性膜形成用組成物に用いる添加剤等のその他の成分)
異方性膜形成用組成物には、更に必要に応じて、界面活性剤、pH調整剤等の添加剤等のその他の成分が含有されていてもよい。これらのその他の成分により、異方性膜形成用組成物の濡れ性、塗布性等を向上させることができる。その他の成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
【0101】
界面活性剤としては、例えば、[I−4.その他の成分]に記載の界面活性剤と同様のもの等が挙げられる。界面活性剤の使用量は、異方性膜形成用組成物に対して、通常0.05重量%以上、通常0.5重量%以下が望ましい。界面活性剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで併用してもよい。
また、異方性膜形成用組成物中の異方性化合物の安定性を向上させ、造塩、凝集等の発生を抑制する等の観点から、異方性膜形成用組成物にpH調整剤を混合してpHを調整してもよい。pH調整剤は、通常、公知の酸、アルカリ等の中から任意に選択することが可能である。pH調整剤を加える時期も特に制限されず、異方性膜形成用組成物の構成成分の混合前、混合中、混合後の何れの段階で加えてもよい。
【0102】
(異方性膜形成用組成物の塗布)
異方性膜形成用組成物を基板に塗布する方法としては、例えば、「コーティング工学」、原崎勇次著、株式会社朝倉書店刊、1971年3月20日発行、253頁〜277頁、「分子協調材料の創製と応用」、市村國宏監修、株式会社シーエムシー出版、1998年3月3日発行、118頁〜149頁等に記載の公知の方法が挙げられる。また、例えば、予め配向処理を施した基板上に、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ロールコート法、ブレードコート法、カーテンコート法、ファウンテン法、ディップ法等で塗布する方法等も挙げられる。
【0103】
異方性膜形成用組成物の基板上への塗布時の温度は、通常0℃以上、また、その上限は、通常80℃以下、好ましくは40℃以下である。また、塗布時の湿度は、通常10RH%以上、好ましくは30RH%以上であり、また、その上限は、通常80RH%以下である。なお、RHとはRelative Humidityの略であり、RH%とは相対湿度のことを表す。
【0104】
(異方性膜の膜厚)
上記の工程により製造される不溶化処理前の異方性膜の物性、成分等は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。ただし、不溶化処理前の異方性膜の膜厚は、[I−5.物性]に記載の本発明の不溶化異方性膜の膜厚と、通常は同様となる。
(異方性膜中の異方性化合物の濃度)
また、不溶化処理前の異方性膜が含有するリオトロピック液晶性を示す有機色素の含有量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。ただし、不溶化処理前の異方性膜が含有する該有機色素の含有量は、[I−3.リオトロピック液晶性を示す有機色素]に記載の本発明の不溶化異方性膜における含有量と、通常は同様となる。
【0105】
さらに、不溶化処理前の異方性膜のコントラスト比は、通常10以上、好ましくは50以上、より好ましくは100以上である。コントラスト比が小さすぎる場合、異方性膜として適当ではない。なお、コントラスト比は、例えば、[I−5.物性]において記載した方法と同様の方法を用いて算出することができる。
【0106】
[III−2.不溶化処理工程]
次に、異方性膜形成工程で形成された異方性膜を不溶化処理工程に供することにより、本発明の不溶化異方性膜が得られる。即ち、異方性膜形成工程で得られた異方性膜を、前記本発明の不溶化処理液で処理することにより、本発明の不溶化異方性膜を得ることができる。
【0107】
(不溶化処理方法)
異方性膜の不溶化処理の方法は、前記本発明の不溶化処理液と異方性膜とを接触させることができれば、特に制限されない。不溶化処理の方法の具体例としては、不溶化処理液をバット等の浴中に入れ、異方性膜形成用組成物を基板上に塗布して形成した異方性膜を、当該基板とともに不溶化処理液に浸漬する方法、スプレー、ダイ等の各種コーティング法により、異方性膜に不溶化処理液を接触させる接触方法等が挙げられる。不溶化処理時の温度は、異方性膜中の成分にも依存するが、通常20℃以上、通常25℃以下が望ましい。
【0108】
なお、上記不溶化処理工程は、1回のみ行ってもよく、本発明の不溶化異方性膜が得られる限り、2回以上行ってもよい。また、その順番も、上記の異方性膜形成工程の後であれば、後述するその他の工程と任意に組み合わせて行ってもよい。具体的には、例えば、異方性膜の不溶化処理を一度行った後、その他の工程として不溶化異方性膜を乾燥させ、得られる異方性膜に対して更に不溶化処理を行ってもよい。また、例えば、2回目の不溶化処理後、さらに当該不溶化異方性膜を乾燥させてもよい。
【0109】
[III−3.その他の工程]
本発明の不溶化異方性膜の製造方法においては、本発明の不溶化異方性膜が得られる限り、上記の異方性膜形成工程、及び不溶化処理工程以外の任意の工程を有していてもよい。その他の工程も、1回のみ行ってもよく、本発明の不溶化異方性膜が得られる限り、2回以上行ってもよい。
【0110】
中でも、その他の工程として、不溶化処理後に不溶化異方性膜上に固形分が残析しないように、不溶化異方性膜を水で洗浄(リンス)する工程、エアーナイフ等により不溶化処理液を不溶化異方性膜から除去した後にリンスする工程、リンス後にさらに乾燥する乾燥工程を有することが好ましい。
また、不溶化異方性膜の耐久性を更に高めるために、半乾性油や乾性油など、不飽和カルボン酸を含有する溶液に浸漬したり、膜上に塗布したりした後、乾燥する工程を有することも好ましい。
【0111】
[IV.本発明の不溶化異方性膜の利点]
本発明の不溶化異方性膜は、高度な分子配向性を有するとともに、水に溶解せず(水不溶性)、高湿度下、水蒸気等による色素膜の再溶解(潮解)の防止等の安定性に優れ、且つ、欠陥、剥離等が生じる可能性が少ない(即ち、耐久性、品質保持性等に優れる)ことから、安定に取り扱うことが可能である。
【0112】
より具体的には、本発明の不溶化異方性膜は、温度、湿度、気圧等の外部変化に対して安定であるため、例えば、液晶素子等の光学素子に通常使用される偏光板、位相差板等として、幅広い環境で優れた光学特性を維持することができる。
また、本発明の不溶化異方性膜中においては、不溶化異方性膜に含有されるリオトロピック液晶性を示す有機色素は、前記カチオン化合物及び脂肪族モノカルボン酸の存在により水に対して不溶となる。従って、本発明の不溶化異方性膜は、洗浄工程等の各種工程に対して高い安定性及び耐久性を有する。
【0113】
さらに、本発明の異方性膜を熱処理した際、残存溶媒の揮発がないため、光学特性の劣化、表面荒れ等がない。従って、本発明の不溶化異方性膜に、フィルムを融着させたり、熱硬化性樹脂をオーバーコートさせたりしても、異方性膜としての光学特性等の性質の劣化が少ないといった、品質保持性にも優れるという利点も得られる。
【0114】
[V.本発明の不溶化異方性膜の用途]
(光学素子)
本発明の不溶化異方性膜に、必要に応じて各種の後工程を加えて、光学素子への適用が可能となる。即ち、本発明の光学素子は、本発明の不溶化異方性膜を有するものである。また、例えば、本発明の不溶化異方性膜は、必要に応じ、保護層を設けて使用することができる。この保護層は、例えば、トリアセテート、アクリル、ポリエステル、ポリイミド、トリアセチルセルロース、ノルボン系、環状ポリオレフィン系又はウレタン系のフィルム等の透明な高分子膜によりラミネーションして形成され、光学素子として実用に供することができる。
【0115】
上記本発明の不溶化異方性膜は、ガラス等の高耐熱性基板上に直接形成することが可能である。従って、高耐熱性の偏光素子、位相差素子等の光学素子を得ることができるという観点から、本発明の異方性膜は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等だけでなく、液晶プロジェクタ、車載用表示パネル等、高耐熱性が求められる用途に好適に使用することができる。
【0116】
また、本発明の不溶化異方性膜は、水不溶性等の安定性に優れ、且つ、欠陥や剥離が生じる可能性が少ないことから、多くの水洗浄工程を経て製造される液晶素子のIn−Cell型偏光膜、In−Cell型位相差膜等への適用も期待できる。
中でも、本発明の不溶化異方性膜は、偏光膜、位相差膜、導電異方性膜の用途に用いることが好ましく、位相差膜、偏光膜の用途に用いることがより好ましく、偏光膜の用途に用いることが特に好ましい。特に、不溶化異方性膜のコントラスト比が大きい場合に、具体的には、コントラスト比が通常100以上、中でも500以上、更には1000以上の場合に、本発明の不溶化異方性膜を用いることにより得られる効果が大きくなるため、望ましい。
【0117】
本発明の不溶化異方性膜は、液晶ディスプレイ、有機発光ダイオード等の各種の光学素子(表示素子)において、偏光膜等として用いることができる。この場合、これらの光学素子を構成する電極基板等の表面に配向処理を施した上で直接本発明の不溶化異方性膜を形成したり、本発明の不溶化異方性膜を形成した基板をこれらの光学素子の構成部材とし
て用いたりすればよい。
【0118】
本発明の不溶化異方性膜は、単独又は2種以上を組み合わせることにより、光吸収の異方性(即ち、偏光性)、及び/又は屈折率の異方性(即ち、複屈折性)等を利用し、直線偏光、円偏光、楕円偏光等を得る偏光膜として機能する。さらに、異方性膜形成工程と、基板と、有機色素を含有する異方性膜形成用組成物とを必要に応じて選択することにより、本発明の不溶化異方性膜は、屈折異方性、伝導異方性等の各種異方性膜として機能化が可能となり、様々な種類の、多様な用途に使用可能な光学素子に適用することができる。
【0119】
そして、本発明の光学素子は、このように本発明の不溶化異方性膜を有するものであるが、本発明の不溶化異方性膜を基板上に形成して本発明の光学素子とする場合、形成された不溶化異方性膜そのものを使用してもよく、また上記の保護層のほか、粘着層、反射防止層等、様々な機能を有する層を積層形成し、積層体として使用してもよい。
これらの光学機能を有する層は、例えば以下の様な方法により形成することができる。まず、位相差フィルムとしての機能を有する層は、例えば特開平2−59703号公報、特開平4−230704号公報等に記載の延伸処理を施したり、特開平7−230007号公報などに記載された処理を施したりすることにより形成することができる。
【0120】
また、輝度向上フィルムとしての機能を有する層は、例えば特開2002−169025号公報、特開2003−29030号公報等に記載の微細孔を形成する方法により、及び/又は、選択反射の中心波長が異なる2層以上のコレステリック液晶層を重畳することにより形成することができる。
さらに、反射フィルム又は半透過反射フィルムとしての機能を有する層は、例えば、蒸着、スパッタリング等で得られた金属薄膜を用いて形成することができる。
【0121】
拡散フィルムとしての機能を有する層は、例えば、上記の保護層に微粒子を含む樹脂溶液をコーティングすることにより、形成することができる。
また、位相差フィルム、光学補償フィルムとしての機能を有する層は、例えば、ディスコティック液晶性化合物、ネマティック液晶性化合物等の液晶性化合物を塗布して配向させることにより、形成することができる。
【実施例】
【0122】
以下、本発明について、実施例を用いて更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の記載中、「部」は、特に断らない限り、「重量部」を表わす。
異方性膜及び不溶化異方性膜のコントラスト比(CR)は、グランテーラー型偏光素子を入射光学系に配した分光光度計(島津製作所社製SolidSpec3700)で異方性膜又は不溶化異方性膜の透過率を測定した後、JIS(日本規格協会)Z8701(1995)及びZ8722(1994)で規定の透過物体の色測定方法に準拠して、D65標準光源下、2度視野における色彩計算を行ない、次式により計算した。
【0123】
【数2】

【0124】
:異方性膜又は不溶化異方性膜の偏光軸方向の偏光に対する透過率を基に算出された明度(Y値)
:異方性膜又は不溶化異方性膜の吸収軸方向の偏光に対する透過率を基に算出された明度(Y値)
【0125】
[実施例1]
水79.48部に、下記式(A)で表わされる色素の100%リチウム中和塩12.46部、50%リチウム中和塩0.54部、東京化成社製 グリシルグリシルグリシン 1.08部、東京化成社製 DL−アスパラギン酸 3.07部、東京化成社製 L−(+)−リジン 3.37部を撹拌溶解させることにより、色素溶液を調製した。
【0126】
【化7】

【0127】
ガラス製基材(75mm×150mm、厚さ0.7mm)上に、シルク印刷法によりポリイミドの配向膜(ポリイミド膜厚約80nm)を形成し、予め布で基材の長辺方向にラビング処理を施したものを、基板として用意した。この配向膜の上に、前述した色素溶液をアプリケータ(堀田製作所社製)ギャップ4μmで基板の長辺方向に平行に速度235mm/秒で塗布し、乾燥させることにより、異方性膜を形成した。尚、塗布条件は23℃、40RH%〜60RH%であった。
得られた異方性膜の光学特性を分光光度計で測定した結果、コントラスト比は560であった。
【0128】
一方、水70.4部に、東京化成社製 ビス(ヘキサメチレン)トリアミン(モル体積/価数の値が80cm/molであり、3価の価数を有する化合物(後記表1参照))3.6部、東京化成社製 N−(3−アミノプロピル)ジエタノールアミン(モル体積/価数の値が90cm/molであり、2価の価数を有する化合物(後記表1参照))4.4部、東京化成社製 デカン酸 12.7部、東京化成社製 リノール酸 8.9部を加えて撹拌溶解させ、やや黄味がかった透明な不溶化処理液を得た。この不溶化処理液に、上記の異方性膜を形成した基板を2秒間浸漬した後、蒸留水にて洗浄し、送風乾燥することにより、不溶化処理を行なった。
【0129】
不溶化処理後に得られた不溶化異方性膜は、ひび割れ、膜の脱落等のない均一で良好な膜であった。得られた不溶化異方性膜の不溶化前と同じ箇所の光学特性を分光光度計で測定した結果、コントラスト比は490であり、不溶化処理による光学特性低下率は13%と小さかった。また、不溶化処理後の異方性膜を蒸留水に浸漬させても、蒸留水への色素の溶解は無く、浸漬前後の不溶化異方性膜におけるコントラスト比の低下も観測されなかった。
【0130】
[比較例1]
実施例1において、東京化成社製ビス(ヘキサメチレン)トリアミン 24.4部に6規定の硫酸75.6部を加えて撹拌溶解させた水溶液を不溶化処理液として用いた以外は、実施例1と同様の手順によって異方性膜の形成及び不溶化処理を行なった。異方性膜は、不溶化処理中に塗布膜のひび割れが発生し、蒸留水での洗浄中に完全に剥離した。
【0131】
表1に、上記実施例及び比較例でカチオン化合物として用いた各化合物の、モル体積/価数の値及び該値を求めるために必要な各数値をまとめた。
【0132】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に不溶化された異方性膜であって、リオトロピック液晶性を示す有機色素、カチオン化合物及び脂肪族モノカルボン酸を含有することを特徴とする、不溶化異方性膜。
【請求項2】
カチオン化合物が、モル体積を価数で除した値が30cm/mol以上であり、2価以上の価数を有する化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の不溶化異方性膜。
【請求項3】
カチオン化合物が、ポリアミン系化合物であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の不溶化異方性膜。
【請求項4】
カチオン化合物が、酸性基を有さない化合物であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の不溶化異方性膜。
【請求項5】
カチオン化合物と脂肪族モノカルボン酸とを含有することを特徴とする、不溶化処理液。
【請求項6】
カチオン化合物が、モル体積を価数で除した値が30cm/mol以上であり、2価以上の価数を有する化合物であることを特徴とする、請求項5に記載の不溶化処理液。
【請求項7】
異方性膜形成用組成物を基板上に塗布して形成した異方性膜を、請求項5又は6に記載の不溶化処理液で処理する工程を有することを特徴とする、不溶化異方性膜の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の製造方法により製造された、不溶化異方性膜。
【請求項9】
請求項1〜4又は8のいずれか一項に記載の不溶化異方性膜を有することを特徴とする、光学素子。

【公開番号】特開2011−257489(P2011−257489A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130181(P2010−130181)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】