説明

不溶性の組み換えタンパク質に対して溶解性を付与する新規な融合タグ

本発明は、黄色ブドウ球菌のSdr C遺伝子スーパーファミリーのよく保存された領域のセリン−アスパラギン酸反復を含む融合タグに関する。開始コドンおよびエンテロキナーゼ切断部位をこの反復領域に組み込んで、細菌系中で可溶性のタンパク質を発現することを担う新規な融合タグを作製した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のSdr C遺伝子スーパーファミリーのよく保存された領域のセリン−アスパラギン酸反復(repeat)を含む融合タグに関する。開始(START)コドンおよびエンテロキナーゼ切断部位をこの反復領域に組み込んで、細菌系中で可溶性のタンパク質を発現することを担う新規な融合タグを作製した。本発明はまた、可溶性タンパク質の発現のためのキットを包含する。本発明はまた、このタンパク質がインビボで産生される際のタンパク質の溶解性を向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
組み換えDNA技術の出現およびその適用によって、ヒトにとって多数の組み換え治療薬が利用できるようになった。原核生物または真核生物(酵母および哺乳動物)の発現系が一般に、組み換えタンパク質産生のために用いられる。これらのうちでも、大腸菌(E.coli)が、組み換えタンパク質産生のために広範に用いられている。この系によって、高い生産性、高い成長および産生の速度、使用の容易さ、ならびに経済性がもたらされる。大腸菌は、比較的に単純なためタンパク質の発現を容易にし、安価で、増殖が速く、遺伝的特徴が周知であって、バイオテクノロジーに利用可能な多数の適合性のツールである。特に、種々の利用可能なプラスミド、組み換え融合パートナーおよび変異株がまた、大腸菌系を用いて組み換え治療剤を得る可能性を進展させてきた。しかし、翻訳後の修飾が欠けていること、増殖培地中へ産生されたタンパク質を十分に放出するための適切な分泌系がないこと、アミノ末端メチオニンの切断が不十分であってタンパク質安定性が低下して免疫原性が増大し得ること、過剰なジスフルフィド結合形成を容易にする能力が制限されていること、折り畳みが不適当で封入体形成を生じることといった、いくつかの不利益がある。
【0003】
大腸菌で産生される封入体は、粒子形態の高密度充填変性タンパク質分子から構成され、封入体に存在するタンパク質は不活性である場合が多い。活性なタンパク質を得るために、発現条件の最適化または再折り畳みの研究が必要であるが、これは時間を浪費し、かつ費用がかさむ場合がある。他方では、多くの哺乳動物タンパク質は、大腸菌ではうまく発現できず、そのため研究者らは、バキュロウイルス発現系、グラム陽性の生物体、Pseudomonas発現系および大腸菌宿主などの広範な生物体において、種々の融合タグによって種々の温度で、発現を調査している。
【0004】
大腸菌宿主で発現される不溶性タンパク質には、複雑なインビトロの再生工程を必要とし、かつ実際には低効率のプロセスであって、複数のジスルフィド結合を有するタンパク質には複雑でさえあるので、大腸菌中で可溶性の組み換えタンパク質を産生する必要性は常にある。なぜなら高度に発現された可溶性タンパク質の精製は、安価であり、再折り畳みおよび封入体からの精製に比べて時間を浪費しないからである。大腸菌における可溶性のタンパク質産生は、依然として研究者にとって主要な障害であり、大腸菌で産生される組み換えタンパク質の溶解性または折り畳みを改善するために多くの試みがなされてきた。種々のストラテジーのうちでも、シャペロンタンパク質、例えば、大腸菌のGroEs、GroEl、DnaKおよびDnaJの同時発現、インキュベーション温度の低下、弱いプロモーターの使用、増殖培地へのスクロースおよびベタインの添加、TBのようなリン酸塩緩衝液を含むよりリッチな培地の使用、周辺質への転位、極端なpHでのファーメンテーション、ならびに融合タグの使用がいくつかのアプローチの例である。
【0005】
また、組み換えタンパク質のタンパク質分解性は、異種の宿主における遺伝子産物の産生に関する主な問題である。発現された遺伝子産物の安定性に関してはいくつかの代替的なストラテジーが利用可能であり、その多くは劇的な安定効果をもたらす場合が多い。ファーメンテーション条件または下流のプロセシングスキームの最適化をこれらのストラテジーと一緒にすれば、これらの問題に対する解決となる。組み換えタンパク質の安定性を改善するための種々の遺伝的アプローチとしては、(i)宿主細胞株の選択、(ii)産物の局在化、(iii)遺伝子融合パートナーの使用、および(iv)産物の操作が挙げられる。さらに、この遺伝子産物の溶解性は、増殖温度、プロモーター強度、融合パートナー、および部位指向性の変化などの要因によって影響され得る。全体として、一連のアプローチを用いることによって安定な遺伝子産物を得ることができる。
【0006】
溶解性および安定性に対処するための最良のアプローチの1つは、タンパク質をN末端またはC末端融合物として発現することであった。先行技術では、転写されたmRNAにおける二次構造の形成は、異種遺伝子の発現を減らすことが示されている。これらの二次構造は、mRNAとのリボゾームの結合を妨げ、それによって効率的な転写開始を妨げる。これらの有害な二次構造は、短距離のRNA−RNAの相互作用に起因する可能性が高い。タンパク質のN末端およびC末端の両方での配列決定因子が、プロテアーゼ分解に対するタンパク質の安定性に影響し得る。発現条件を種々変化させてこの問題が解決できる場合もあるが、現在まで最良の利用可能なツールは、発現されたタンパク質の溶解性に影響する融合タグである。しかし、これらの溶解性融合物の実用は、困難であった。なぜなら、多くのタンパク質が異なる溶解性タグの存在に対して反応が異なり、いくつかのタグでは、不正確な折り畳みを生じ、ある場合には、いくつかのタンパク質の不活性を生じるからである。
【0007】
タンパク質は天然では、多様な物理化学的特性のせいで、ハイスループットの分析にはそれ自体は役立たない。結果として、アフィニティタグは、構造的および機能的なプロテオミクス構想に不可欠のツールとなっている。アフィニティタグは、タンパク質精製には極めて効率的なツールである。アフィニティタグによって、どのようなタンパク質の精製も、その生化学的特性の事前知識を必要とすることなく、実質的に可能である。組み換えタンパク質の検出および精製を容易にするためにもともと開発されたが、近年では、融合タグによって、アフィニティタグは、それらの融合パートナーの収率、溶解性および折り畳みにさえ良い影響を有し得ることが明らかになった。しかし、これらのパラメーターの全てに対して最適な単一のアフィニティタグはなく;各々がその長所および短所を有する。従って、コンビナトリアルのタグ化が、ハイスループットの設定でアフィニティタグの完全な能力を生かす唯一の方法であり得る。
【0008】
組み換えタンパク質の容易な発現および精製に利用可能ないくつかの融合タグがあり、利用可能な最小の融合タグはHis−タグである(6〜10アミノ酸)。これには、Hisタグタンパク質の精製の際に用いられるNi2+イオンの漏出という潜在的な問題がある。利用可能な他のタグは、チオレドキシン(109アミノ酸)、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(236アミノ酸)、マルトース結合タンパク質(363アミノ酸)、NusA(435アミノ酸)などである。これらのタグのほとんどが、アフィニティタグであり、サイズが大きく、それらのほとんどが融合タンパク質の精製を容易にする。それらのうちのいくつか(チオレドキシン、NusAなど)は、過剰発現された場合、融合されていないタンパク質と比較して標的タンパク質の溶解性を増大することも報告されている。従って、上述の融合タグの全てが、アフィニティタグであるか、またはそれらのタグは溶解性を付与する。ハイスループットの構造的ゲノミクスプログラムの出現、ならびにクローニングおよび発現技術の進歩によって、我々は、溶解性タグの有効性を比較する新しい方法を得、従って、アフィニティタグの使用は、いくつかの研究領域、例えば、まだ特徴付けされていない多数のタンパク質の生物学的機能を見出すためのハイスループットの発現研究において広まっている。
【0009】
米国特許出願公開第2006/0234222号は、タンパク質の可溶性の生物活性ドメインを産生する方法を開示しており、この方法は、タンパク質の適切な可溶性のサブユニットを選択する工程と、産生されたタンパク質を所望の活性について評価する工程とを含む。この方法は、少なくとも1つの可溶性ドメイン候補をコードするDNAを増幅する工程と、この増幅されたDNAを少なくとも1つの発現ベクター中にクローニングする工程と、DNAがクローニングされたこのベクターの各々を用いて1つ以上の宿主細胞株を各々トランスフェクトまたは形質転換する工程と、1つ以上の宿主細胞株においてこのDNAを発現する工程を、この宿主細胞由来の発現産物を溶解性について分析する工程とを含んでもよい。
【0010】
米国特許第6861403号は、大腸菌のような細菌中で過剰発現された場合、タンパク質の安定性および溶解性を向上するp26またはα結晶型のタンパク質のドメインとの融合キメラとしてタンパク質を発現するための方法を開示している。目的の遺伝子をp26またはα結晶型タンパク質およびトロンビン切断部位のすぐ下流のベクター系のマルチクローニング部位にクローニングする。タンパク質発現は、強力な細菌プロモーター(Tac)によって駆動される。発現は、lacリプレッション(lacI.q)を克服する1mMのIPTGの添加によって誘導される。可溶性の組み換えタンパク質は、融合タグを用いて精製される。
【0011】
米国特許第6613548号は、組み換えDNA手順によって調製される融合タンパク質に関する。この産物は、目的の可溶性タンパク質および不溶性のタンパク質性のタグを含む。
【0012】
従って、タンパク質の溶解性は、細菌系におけるタンパク質の過剰発現に関連する主要な問題の1つであることが公知である。タンパク質の溶解性は、溶解された細胞抽出物の上清およびペレットにおける組み換えタンパク質の量を評価することによって実験的に判定される。一般に、親水性の残基が多いタンパク質は、細菌抽出物の可溶性画分において見出され得る。対照的に、疎水性残基に富んだタンパク質または複雑な二次構造もしくは三次構造を有するタンパク質は、典型的に、不溶性であり、封入体で見出される。一方で、封入体の形態では、タンパク質は、生物学的活性を有さず、かつアフィニティ融合タグを用いて精製することはできない。これらの封入体は、8Mの尿素または6Mのグアニジン塩酸塩などのカオトロピック緩衝液中で再溶解可能であるものの、再折り畳みして、生物学的機能を再獲得するためには、生理学的緩衝液に対して緩徐に透析されなければならない。各々のタンパク質の個々の特徴に起因して、これは、活性であるかまたは有用なタンパク質を決して産生することのない、遅くかつ面倒なプロセスである。従って、大腸菌のような細菌中で迅速に可溶性タンパク質を産生およびスクリーニングする能力は、タンパク質の生化学における大きな前進である。
【0013】
従って、本発明は、融合タグを用いることによって不溶性タンパク質産生の問題を解決することを目指しており、この融合タグは、開始コドンおよびエンテロキナーゼ切断部位を有する、黄色ブドウ球菌のSdrC遺伝子スーパーファミリーのセリン−アスパラギン酸反復領域を含み、これによって、不溶性タンパク質として発現されるそれらのタンパク質の溶解性を向上させる。さらに、本発明のこの融合タグを有するアフィニティタグが存在することによって、精製が容易になる。
【発明の概要】
【0014】
〔発明の目的〕
本発明の目的は、開始コドンおよびエンテロキナーゼ切断部位を有する、黄色ブドウ球菌のSdrC遺伝子スーパーファミリーのセリン−アスパラギン酸反復領域を含む融合タグである。
【0015】
本発明の別の目的は、タンパク質の溶解性を向上させるための、開始コドンおよびエンテロキナーゼ切断部位を有する、黄色ブドウ球菌のSdrC遺伝子スーパーファミリーのセリン−アスパラギン酸反復領域を含む融合タグの使用である。
【0016】
本発明の別の目的は、融合タグを含むベクターであって、前記融合タグが、開始コドンおよびエンテロキナーゼ切断部位を有する、黄色ブドウ球菌のSdrC遺伝子スーパーファミリーのセリン−アスパラギン酸反復領域と、このセリンアスパラギン酸反復単位のN末端領域にある追加のアミノ酸とを含む融合タグを含むベクターである。
【0017】
本発明の別の目的は、融合タグを含むベクターを含む、可溶性のタンパク質の発現のためのキットであって、前記融合タグが、N末端領域にある追加のアミノ酸と、開始コドンおよびエンテロキナーゼ切断部位を有する、黄色ブドウ球菌のSdrC遺伝子スーパーファミリーのSD反復領域とを含み、実際に、目的の遺伝子に溶解因子をもたらす。
【0018】
本発明の別の目的は、可溶性でありかつ活性な組み換えタンパク質を産生するための方法であって、(a)SD反復を含む融合タグをベクター中にクローニングする工程と、(b)工程(a)において追加のアミノ酸配列をクローニングする工程と、(c)工程(b)において目的の遺伝子を導入する工程と、(d)大腸菌中で工程(d)由来のベクターを形質転換する工程と、(e)融合タンパク質が発現する工程と、(f)融合タンパク質から目的のタンパク質を分離する工程と、を含む方法を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】T7フォワードプライマーおよびGMリバースプライマーによるコロニーPCR
【図2】pCGMSD構築物(construct)のXbaI/SnaBI消化
【図3】T7リバースプライマーおよびフォワードプライマーによるコロニーPCR
【図4】GMSD−GCSFのクローンマップ
【図5】発現されたGMSD−hGCSFのSDS−PAGEプロフィール
【図6】GMSD−hIL11のクローンマップ
【図7】GMSD−hIL2のクローンマップ
【図8】GMSD−レテプラーゼのクローンマップ
【図9】発現されたGMSD−hIL11のSDS−PAGEプロフィール
【図10】発現されたGMSD−hIL2、エンテロキナーゼおよびレテプラーゼのSDS−PAGEプロフィール
【発明を実施するための形態】
【0020】
〔発明の詳細な説明〕
本発明は、標的タンパク質が細菌中で産生される際に標的タンパク質の溶解性を向上させるための方法を提供する。
【0021】
本発明の別の実施形態は、融合タグを含むベクターを用いる標的タンパク質を発現させるための方法であって、前記融合タグが、約10〜約300個のアミノ酸である追加のアミノ酸をN末端領域に有する目的の遺伝子とともにSdrCタンパク質ファミリーのセリン−アスパラギン酸(SD)反復領域を含む方法を提供する。この追加のアミノ酸は、MCS由来のベクター配列から誘導されるものであってもよく、この配列が、タンパク質の高発現を補助する外部ポリペプチド由来であってもよい。追加のアミノ酸は、アフィニティ精製、抗体検出のためにも用いられ得る。このベクターは、大腸菌中に導入されると、可溶性タンパク質を発現する。
【0022】
本明細書において用いる場合、「タグ化(する)(tagging)」という用語は、ペプチドタグをコードする1つ以上のヌクレオチド配列を、組み換え法によって、遺伝子をコードするポリペプチド中に導入することを指す。「融合タンパク質」とは、タンパク質のN末端が、ヒトGM CSFのC末端部分とC末端にある非GMペプチドとを含む融合タグによって形成されるタンパク質を指す。
【0023】
この融合タンパク質は、標的タンパク質と連続していなければならない。標的タンパク質の同じオープンリーディングフレームが、融合タグのオープンリーディングフレームに対して維持されなければならない。標的タンパク質と融合パートナーとの間の終止コドンは、省略されなければならない。
【0024】
本発明に用いるのに適切なベクターは、多数あり、前記ベクターのリストは当分野で見出すことができる。前記ベクターは、Stratagene,Promega,CLONTECH,Invitrogen GIBCO Life Sciencesおよび発現ベクターを製造している他の会社から市販されている。細菌プロモーターを有する全てのベクターを用いることができる。
【0025】
特に適切なベクターは、プラスミドベクターであり、これは、原核生物配列、真核生物配列、およびウイルス配列を含む。プラスミドベクターのリストは、Gene Transfer and Gene Expression:A Laboratory Manual,編集.Kriegler,M.,Stockton Press,New York (1990)およびMolecular Cloning,A Laboratory Manual,CSH Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.およびCurrent Protocols in Molecular Biology,第1巻,補遺29,セクション9.66、編集.Asubel,F.M.ら,John Wiley & Sons(2001)に見ることができる。
【0026】
本発明は、グラム陽性菌である黄色ブドウ球菌のSdrCタンパク質ファミリーのセリン−アスパラギン酸反復(SD)領域を含む融合タグに関する。
【0027】
本発明の別の実施形態は、グラム陽性菌である黄色ブドウ球菌のSdrCタンパク質ファミリーのセリン−アスパラギン酸反復(SD)領域を含む融合タグであって、N末端領域に約10〜約300個のアミノ酸である追加のアミノ酸とともにセリン残基およびアスパラギン酸残基を各々55個ずつ含む融合タグに関する。この追加のアミノ酸は、MCS由来のベクター配列から誘導されるものであってもよく、この配列が、タンパク質の高発現を補助する外部ポリペプチド由来であってもよい。追加のアミノ酸は、アフィニティ精製、抗体検出のためにも用いられ得る。追加のアミノ酸配列は、GSTタグ、Hisタグ、T7タグ Trxタグ、MBPタグ、His−GMタグなどのような当分野で公知のものいずれであってもよい。
【0028】
最も好ましいのは、45アミノ酸長のペプチドであり、かつヒト顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(hGMCSF)遺伝子産物のC末端部分である。hGMCSFは、造血前駆細胞の増殖を誘導する糖タンパク質増殖因子である。プロセシングされたhGMCSFポリペプチドは、127アミノ酸長であり、その分子量は14.36kDaである。このタグは小さく、従って発現の際、目的の遺伝子のモル比は、サイズが最小のタグについて最高となる。なぜなら、他の周知のタグはサイズが極めて大きいからである。
【0029】
His−GMタグは、GMタグのN末端に6つのヒスチジンアミノ酸を組み込むことによってGMタグを修飾することによって調製した。
【0030】
表皮ブドウ球菌(S.epidermidis)中のタンパク質の細胞表面結合セリン−アスパラギン酸ファミリーには、3つのメンバー、すなわち、SdrF、SdrG(Fbe)、およびSdrHがあり、それらは、全てが特有のセリン−アスパラギン酸ジペプチド(SD)反復によって特徴付けられる。コード領域の全体構造は、他のSdrファミリータンパク質で観察される一般的パターンに従うことが見出され、かつ、シグナル配列と、Aドメインと、BXと名付けられた反復性ドメインと、SD反復領域と、LPXTGモチーフ配列を有する細胞壁アンカー領域(LPDTG、アミノ酸674〜678)と、疎水性膜貫通領域と、C末端にある一連の正に荷電された残基とを含んでいた。
【0031】
セリン−アスパラギン酸反復は、黄色ブドウ球菌中で高度の識別を可能にすることが過去に示されている。初期の調査によって、sdrG PCRアンプリコンでは最高量のサイズ変動が明らかになり、その遺伝子は調査された全ての株に存在した。
【0032】
分析した48個の株由来のSD反復領域の3つの異なるサイズのPCRアンプリコンがあり(約200bp、約4〜500bp、および約8〜900bp)、PCRフラグメントのサイズと反復カセットの数との間には100%の一致があった。
【0033】
DNA配列によって、1個の21bp、4個の12bp、および64個の異なる18bpの反復から構成される、反復カセットの69個の対立遺伝子が明らかになった。SD反復は、黄色ブドウ球菌のフィブリノーゲン結合クランピング(clumping)因子ClfAおよびClfB中で以前に見出されている。このclfAおよびclfBの遺伝子は、黄色ブドウ球菌の細胞表面に固定された高分子量のフィブリノーゲン結合タンパク質をコードする。
【0034】
タンパク質のSdrCファミリーは、膜結合タンパク質であって、いくつかの機能的ドメインからなる。このC末端は、LPXTGモチーフと、ペプチドグリカンに共有結合で固定された表面タンパク質に特徴的な疎水性アミノ酸セグメントとを含んでいる。黄色ブドウ球菌のフィブリノーゲン結合クランピング因子タンパク質は、セリン−アスパラギン酸(SD)ジペプチド反復領域の存在によって識別される。これらのSd反復は、細胞壁に及び、かつ細菌の表面からリガンド結合領域を伸ばしており、sdrC遺伝子は、いくつかのブドウ球菌株中において表面タンパク質として豊富に存在している。従って、これらのSD−反復領域は、ほぼ確実に、溶解性を向上させ、かつ大腸菌中における融合パートナーの適切な折り畳みを促進する。また、セリンおよびアスパラギン酸の両方が、極性のアミノ酸であり、かつ、高い溶解性を有しており、その高い溶解性により、元来は不溶性であるタンパク質に溶解性を付与する。
【0035】
本発明の実施形態の1つは、可溶性であるタンパク質を産生するための方法であって、(a)ベクター中にSD反復をクローニングする工程と、(b)工程(a)においてSD反復単位のN末端領域に追加のアミノ酸をクローニングする工程と、(c)工程(b)において目的の遺伝子を導入する工程と、(d)大腸菌中で工程(d)由来のベクターを形質転換する工程と、(e)融合タンパク質が発現する工程と、(f)融合タンパク質から目的のタンパク質を分離する工程と、を含む方法も包含する。
【0036】
本発明はまた、セリンアスパラギン酸反復単位を含む融合タグを含むベクターを含むキットを包含する。このキットは、可溶性でありかつ活性な目的のタンパク質を提供するために用いられ得る。
【0037】
〔本発明の好ましい実施形態の説明〕
〔実施例1:融合タグベクターの構築〕
セリン−アスパラギン酸(SD)反復領域を、合成DNAとして合成し、T7プロモーターベースのベクターを利用する市販のベクター、すなわちpET21aベクター中にクローニングした。SD連続フラグメントは、合成DNAからNdeI/EcoRIフラグメントとして遊離され、pET21a中に同じ部位にクローニングされた。エンテロキナーゼ切断部位に対応するヌクレオチド配列を、SD反復中のBamHI部位とEcoRI部位との間に組み込んだ。
【0038】
SD反復単位のN末端領域にある追加のアミノ酸は、GSTタグ、Hisタグ、T7タグ Trxタグ、MBPタグ、His−GMタグなどであってもよい。
【0039】
この例では、GMタグが用いられる。このタグは小さく、従って発現の際、目的の遺伝子のモル比は、サイズが最小のタグについて最高となる。なぜなら、他の周知のタグはサイズが極めて大きいからである。
【0040】
GMタグ(hGMCSFのC末端ドメイン)は、遺伝子特異的なプライマー
配列番号1:
フォワードプライマー:5’ ccg ccg gaa ttc cat atg cac tac aag cag cac tgc cct cca 3’
配列番号2:
リバースプライマー:5’ ccg ccg gaa ttc ttt atc atc atc atc gga tcc gac tgg ctc cca gca gtc 3’
を用いて全長ヒトGM−CSF合成遺伝子から増幅した。
【0041】
PCRは、100pgの合成遺伝子(Gene bankアクセッション番号BC108724)、3UのTaq DNAポリメラーゼ、200μMのdNTP(Bangalore Genei Pvt.Ltd.India)、および10ピコモルの各々のプライマー(Sigma)を含む、総容積250μl中で行った。増幅は、2段階の方式で、94℃5分間に続く、94℃30秒間、50℃30秒間、および72℃30秒間の5サイクルと;94℃30秒間、62℃30秒間、および72℃30秒間の25サイクル、ならびに72℃5分間の最終プライマー伸長とで行った。PCR産物を、NdeIで消化して、pET21aベクター(Novagen)中にNdeIフラグメントとしてクローニングした。構築されたベクターをpCGMSDと命名し、エンテロキナーゼ(EK)切断部位をこのベクターに導入して、N末端に追加のアミノ酸を有さない標的タンパク質を得た。このように、融合タグベクターであるpCGMSDは、GMタグおよびSD反復を大腸菌発現ベクターpET21a中にクローニングすることによって構築した。GMの組み込みは、T7プロモータープライマーおよびGMリバースプライマーを用いるコロニーPCRスクリーニングによって確認した。図1は、GMタグに相当するPCR産物を示すコロニーを示している。GMタグの組み込みはさらに、XbaI/SnaBIでの制限消化によっても確認した(図2)。
【0042】
〔実施例2:pCGMSD中へのヒト顆粒球コロニー刺激因子(hGCSF)のクローニング〕
hGCSFは、遺伝子特異的プライマー
配列番号3:
フォワード:5’ CCG CCG GGA TCC GAT GAT GAT GAT AAA ACG CCA TTA GGC CCG GCC 3’
配列番号4:
リバース:5’ CCG CCG GAA TTC AAG CCT TAA CGG CTC CGC TAA ATG ACG 3’
を用いて合成遺伝子から増幅した。
【0043】
PCRは、100pgの合成遺伝子(Gene bankアクセッション番号DQ914891)、3UのTaq DNAポリメラーゼ、200μMのdNTP、および10ピコモルの各々のプライマーを含む、総容積250μl中で行った。増幅は、2段階の方式で、94℃で5分間に続く、94℃30秒間、63℃30秒間、および72℃30秒間の30サイクルと、72℃5分間の最終プライマー伸長とで行った。PCR産物を、BamHI/EcoRIで消化して、pCGMSD中にBamHI/EcoRIフラグメントとしてクローニングした。クローンをコロニーPCRによってスクリーニングして(図3)、構築物をpCGMSD−hGCSFと命名した(図4)。
【0044】
〔実施例3:大腸菌宿主BL21(DE3)中におけるGMSD−hGCSF融合タンパク質の発現〕
pCGMSD−hGCSF構築物を、形質転換として知られている方法によって大腸菌発現宿主BL21(DE3)中に導入した。細胞を1mMのIPTGで誘導し、誘導を前述のとおり4時間行った。細胞内分画を細胞溶解後に行い、可溶性画分と不溶性画分とを分離し、SDS−PAGEで分析した。図5は、80%を超えるhGCSFタンパク質が可溶性画分に存在することを示しており、このことは、GMSD融合が実際に、hGCSFに対して溶解性を付与することを示している。融合タグと標的タンパク質との間へのエンテロキナーゼ切断部位の導入は、そのアミノ酸末端に追加のアミノ酸を有さない標的タンパク質を得ることに役立つ。
【0045】
〔実施例4:抗hGMCSF抗体を用いたイムノブロット、およびGMSDタグ融合タンパク質の精製〕
GM融合タンパク質は、市販の抗hGMCSF抗体を用いたイムノブロットまたはELISAによって検出および定量され得る。ヒトGCSFを、pCGMSDベクター中にクローニングして、BL21(DE3)大腸菌宿主中で発現させた。イムノブロット分析は、マウス抗hGCSFおよびウサギ抗hGMCSF抗体の両方で行った。GM−GCSF融合タンパク質は、GCSF抗体およびGMCSF抗体の両方によって検出される。予想どおり、タグ化されていないGCSFは、GCSF抗体によってのみ検出され、GMCSF抗体によっては検出されない。
【0046】
融合タグは、ヘパリンに結合する親和性を有し[Sebollelaら、Journal of Biological Chemistry 280 31049−31956;2005]、従って、固定化したヘパリンセファロースマトリクスを用いるアフィニティクロマトグラフィーによって精製され得る。GM融合物として発現されるヒトIL11を、pH5でヘパリンセファロースアフィニティカラムに対して結合可能にし、高塩濃度緩衝液を用いてアルカリのpHで溶出させて、IL11が精製され、かつ完全に生物学的に活性であることを確認した。
【0047】
〔実施例5:融合タンパク質の生物学的活性〕
NFS60細胞増殖アッセイを行って、融合タグを有するhGCSFの生物学的活性を調べ、融合タグを有するhGCSFがタグ化されたタンパク質中で活性であることを確認した。
【0048】
〔実施例6:融合タグベクターの構築、ならびに、pCGMSDベクター中へのヒト組織プラスミノーゲン活性化因子(レテプラーゼ)遺伝子、インターロイキン−2遺伝子、エンテロキナーゼ遺伝子、およびインターロイキン−11遺伝子のクローニング〕
上記の遺伝子産物の全てが、大腸菌系中で不溶性の封入体として生成することが報告された。これらの遺伝子の全てを、pET21aベクターのもとでGM−SDタグを含むベクター中にBamH1/HindIIIとしてクローニングした(図6、7、8)。
【0049】
全ての遺伝子を、遺伝子特異的PCRを用いてスクリーニングし、次いで、誘導因子として1mMのIPTGを用いて、BL21(DE3)細胞中におけるGM−SD−レテプラーゼ、GM−SD−IL−2、GM−SD−IL−11、およびGM−SD−エンテロキナーゼ(EK)の融合タンパク質の発現についてクローンをスクリーニングした。
【0050】
図9および図10から明らかなように、これらの結果は、融合タンパク質の発現を可溶性部分として示している。
【産業上の利用可能性】
【0051】
・溶解性(S)の向上−可溶性融合パートナーのC末端に対する標的タンパク質のN末端の融合は、多くの場合、この標的タンパク質の溶解性を向上させる。
【0052】
・検出(D)の改善−抗体(ウエスタンブロット分析)によって、または生物物理的方法(例えば、蛍光によるGFP)によって認識される、短いペプチド(エピトープタグ)またはタンパク質のいずれかの末端に対する標的タンパク質の融合は、発現中または精製中における得られたタンパク質の検出を容易にする。
【0053】
・精製(P)の改善−親和性樹脂に対して特異的に結合するいずれかの末端で用いられるタンパク質のための簡易な精製スキームが開発された。
【0054】
・局在化(L)−特異的な細胞区画に対してタンパク質を送るためのアドレスとして機能する、標的タンパク質のN末端に通常位置するタグ。
【0055】
・発現(E)の改善−高度に発現された融合パートナーのC末端に対する標的タンパク質のN末端の融合は、その標的タンパク質の高レベルの発現をもたらす。
【0056】
・タグは、それ自体が極めて可溶性であるポリペプチド(例えば、GST、Trx、NusA)に対する融合を提供する。
【0057】
・ジスルフィド結合形成を触媒する酵素(例えば、チオレドキシン、DsbA、DsbC)に対する融合を提供する。
【0058】
・細胞膜周辺腔への転座のためのシグナル配列を提供する。
・高いシステイン含量に起因して不溶性の凝集体となり易いタンパク質を、この新規な融合タグを用いて容易に溶解性にすることができる。
【0059】
・これは、費用効果的かつ時間節約的な可溶性タンパク質の調製方法を提供する。
【0060】
・このタグはまた、大腸菌中で封入体になりやすい幾つかの真核生物タンパク質にも有用であることを証明し得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開始コドンおよびエンテロキナーゼ切断部位を有する、黄色ブドウ球菌のSdrC遺伝子スーパーファミリーのセリン−アスパラギン酸(SD)反復領域を含む融合タグ。
【請求項2】
請求項1に記載の融合タグであって、
黄色ブドウ球菌のSdrC遺伝子スーパーファミリーのセリン−アスパラギン酸反復領域の107個のアミノ酸を含む融合タグ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の融合タグであって、
ヌクレオチド配列番号7
ATGAGCGATTCCGATTCAGACTCGGACTCGGATTCCGATTCCGACAGTGATTCAGATTCTGACTCAGATTCCGATTCTGATTCTGATTCGGATTCCGACTCCGATAGCGACTCAGATAGTGACTCTGACTCGGACAGCGATTCTGATAGCGACTCTGATTCCGATAGCGATAGCGATTCAGATAGCGATTCTGACTCGGATTCTGATTCCGATTCTGACTCTGACAGCGATTCCGATAGCGACAGCGACTCTGATAGTGATTCAGACTCTGATTCTGATAGTGATAGCGATTCGGATAGTGGATCCGATGATGATGATAAA
を含む融合タグ。
【請求項4】
請求項1または2に記載の融合タグであって、
以下のアミノ酸配列番号8:
MSDSDSDSDSDSDSDSDSDSDSDSDSDSDSDSDSDSDSDSDSDSDSDSDSDSDSDSDSDSDSDSDSDSDSDSDSDSDSDSDSDSDSDSDSDSDSDSDSDSGSDDDDK
を含み、DDDDKが、該構築物のカルボキシ末端のエンテロキナーゼ切断部位である融合タグ。
【請求項5】
請求項1に記載の融合タグであって、
T7タグ、GSTタグ、Hisタグ、Trxタグ、MBPタグ、GMタグ、His−GMタグから選択される追加のアミノ酸をさらに含む融合タグ。
【請求項6】
請求項5に記載の融合タグであって、
前記追加のアミノ酸がGMタグである融合タグ。
【請求項7】
タンパク質の溶解性を増大させるように適合された、開始コドンおよびエンテロキナーゼ切断部位を有する、黄色ブドウ球菌のSdrC遺伝子スーパーファミリーのセリン−アスパラギン酸反復領域を含む融合タグ。
【請求項8】
請求項7に記載の融合タグであって、
T7タグ、GSTタグ、Hisタグ、Trxタグ、MBPタグ、GMタグ、His−GMタグから選択される追加のアミノ酸をさらに含む融合タグ。
【請求項9】
請求項8に記載の融合タグであって、
前記追加のアミノ酸がGMタグである融合タグ。
【請求項10】
融合タグを含むベクターであって、
前記融合タグが、開始コドンおよびエンテロキナーゼ切断部位を有する、黄色ブドウ球菌のSdrC遺伝子スーパーファミリーのセリン−アスパラギン酸反復領域を有するベクター。
【請求項11】
請求項10に記載のベクターであって、
前記融合タグが、T7タグ、GSTタグ、Hisタグ、Trxタグ、MBPタグ、GMタグ、His−GMタグから選択される追加のアミノ酸をさらに含むベクター。
【請求項12】
請求項11に記載のベクターであって、
前記融合タグ中の追加のアミノ酸がGMタグであるベクター。
【請求項13】
融合タグを含むベクターを含む、可溶性タンパク質の発現のためのキットであって、
前記融合タグが、開始コドンおよびエンテロキナーゼ切断部位を有する、黄色ブドウ球菌のSdrC遺伝子スーパーファミリーのセリン−アスパラギン酸反復領域と、追加のアミノ酸とを含むキット。
【請求項14】
請求項13に記載のキットであって、
前記融合タグが、T7タグ、GSTタグ、Hisタグ、Trxタグ、MBPタグ、GMタグ、His−GMタグから選択される追加のアミノ酸をさらに含むキット。
【請求項15】
請求項14に記載のキットであって、
前記融合タグ中の追加のアミノ酸がGMタグであるキット。
【請求項16】
可溶性でありかつ活性な組み換えタンパク質を産生するための方法であって、
(a)SD反復を含む融合タグをベクター中にクローニングする工程と、
(b)工程(a)において追加のアミノ酸配列をクローニングする工程と、
(c)工程(b)において目的の遺伝子を導入する工程と、
(d)大腸菌中で工程(d)由来のベクターを形質転換する工程と、
(e)融合タンパク質が発現する工程と、
(f)融合タンパク質から目的のタンパク質を分離する工程と、を含む方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法であって、
SD反復が、目的のタンパク質の溶解性を向上させる能力を有する方法。
【請求項18】
請求項16に記載の方法であって、
前記融合タグが、T7タグ、GSTタグ、Hisタグ、Trxタグ、MBPタグ、GMタグ、His−GMタグから選択される追加のアミノ酸をさらに含む方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法であって、
前記融合タグ中の追加のアミノ酸がGMタグである方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2012−525143(P2012−525143A)
【公表日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−507880(P2012−507880)
【出願日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【国際出願番号】PCT/IN2010/000279
【国際公開番号】WO2010/125588
【国際公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(502425916)ルピン・リミテッド (27)
【氏名又は名称原語表記】LUPIN LIMITED
【Fターム(参考)】