説明

不燃ガラスシートおよびその製造方法

【課 題】光透過性に優れ、柔軟性や可とう性に優れ、さらに、火災時にも大量の煙を発生させることなく、大量の煙による二次災害の恐れもない、不燃性に優れたガラスシートを提供する。
【解決手段】ガラスクロスに、水、コロイダルシリカおよび糖類の酵素処理物を含有するバインダー溶液を含浸し、ついで含浸物を乾燥させてガラスシートを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、煙がほとんど発生しないガラスシートおよびその製造方法ならびに該ガラスシートを用いた成形品の製造方法および該方法により得られた成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ガラスクロスに、無機バインダーや樹脂バインダーを含浸させてなるシート状物が知られている。
しかしながら、ガラスクロスに無機バインダーを含浸させてなるシート状物は、煙の発生は低減されるものの、硬く、脆く、柔軟性や可とう性に乏しいという問題があった。
一方、ガラスクロスに、樹脂バインダーを用いた場合には、シート状物に、柔軟性や可とう性を付与することができるが、火災時に大量の煙を発生させるという性質があり、特に、該シート状物を天井パネルなどに用いる場合には、大量の煙による二次災害をもたらす恐れがあるため、不燃性について満足のいくものではなかった。
【0003】
なお、ガラスクロスに樹脂層を積層して一体化した積層物が知られている。しかしながら、このような積層物は、柔軟性や可とう性に優れることがあっても、やはり大量の煙による二次災害をもたらす恐れがあるため、不燃性についても満足のいくものではなく、また、光透過性に劣り、必ずしも満足のいくものではなかった。
【0004】
特許文献1には、熱硬化性樹脂および多泡質の塩化ビニリデン系樹脂発泡粒子を必須成分とした成形体からなる車両用複合材料が記載されている。特許文献2には、繊維径が6ミクロン以下の極細繊維を含有する特定の不織布と、特定の短繊維不織布とがこれらの繊維の交絡により一体化された複合不織布に、表層材を積層した車両用天井材が記載されている。特許文献3には、光透過性の強化プラスチックスからなる鉄道車両用天井灯カバーが記載されている。しかしながら、このような車両用複合材料、車両用天井材、鉄道車両用天井灯カバーもまた火災時に大量の煙を発生させるという性質があり、該シート状物を天井パネルなどに用いる場合には、大量の煙による二次災害をもたらす恐れがあるため、不燃性について満足のいくものではなかった。
そのため、光透過性に優れ、柔軟性や可とう性に優れ、さらに、火災時にも大量の煙を発生させることなく、不燃性に優れたガラスシートが待ち望まれていた。
【特許文献1】特開平6−155597号公報
【特許文献2】特開2001−277953号公報
【特許文献3】特開2005−222921号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、光透過性に優れ、柔軟性や可とう性に優れ、さらに、火災時にも大量の煙を発生させることなく、不燃性に優れたガラスシートを提供することを目的とし、また、このようなガラスシートを工業的有利に製造する方法を提供することをも目的とする。
また、本発明は、火災時にも大量の煙を発生させることなく、光透過性、柔軟性や可とう性に優れ、不燃性にも優れており、容易に、種々の用途に用いることができる成形品を提供することを目的とし、さらに、該成形品を工業的有利に製造できる方法を提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、ガラスクロスに、水、コロイダルシリカおよび糖類の酵素処理物を含有するバインダー溶液を含浸し、ついで含浸物を乾燥させることにより得たガラスシートが、光透過性に優れ、柔軟性や可とう性に優れ、さらに不燃性に優れていることを見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、
[1] ガラスクロスに、水、コロイダルシリカおよび糖類の酵素処理物を含有するバインダー溶液を含浸し、ついで含浸物を乾燥させてなることを特徴とするガラスシート、
[2] 糖類が多糖類である前記[1]に記載のガラスシート、
[3] 糖類が、シクロデキストリン、キトサン、グアーガム、キサンタンガム、ローカストビーンガムおよびプルランから選択される少なくとも1種である前記[1]に記載のガラスシート、
[4] 酵素が、加水分解酵素、糖転移酵素および異性化酵素から選択される少なくとも1種である前記[1]〜[3]のいずれかに記載のガラスシート、
[5] 酵素が、加水分解酵素および/または糖転移酵素である前記[1]〜[3]のいずれかに記載のガラスシート、
[6] 含浸前に、ガラスクロスをヒートクリーニングする前記[1]〜[5]のいずれかに記載のガラスシート、
[7] ヒートクリーニング後、含浸前に、ヒートクリーニングされたガラスクロスをシランカップリング剤で処理する前記[6]に記載のガラスシート、
[8] シランカップリング剤がエポキシシラン類である前記[7]に記載のガラスシート、
[9] 平成13年国土交通省令第151号の「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」の鉄道車両用材料の燃焼性規格において、不燃性に区分され、かつ耐溶融滴下性がある前記[1]〜[8]のいずれかに記載のガラスシート、
[10] JIS K 7105の測定法Aに従い測定される全光線透過率が20〜90%である前記[1]〜[9]のいずれかに記載のガラスシート、
[11] ガラスクロスに、水、コロイダルシリカおよび糖類の酵素処理物を含有するバインダー溶液を含浸し、ついで含浸物を乾燥させることを特徴とするガラスシートの製造方法、
[12] 前記[1]〜[10]のいずれかに記載のガラスシートを、成形加工することを特徴とする成形品の製造方法、および
[13] 前記[12]に記載の方法により製造された成形品、
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のガラスシートは、光透過性に優れ、柔軟性や可とう性に優れ、さらに火災時にも大量の煙を発生させることなく、そのため、大量の煙による二次災害の恐れもなく、不燃性に優れている。本発明のガラスシートの製造方法は、このようなガラスシートを工業的有利に製造することができる。
また、本発明の成形品は、光透過性、柔軟性や可とう性に優れ、不燃性にも優れており、さらに、用途に適した形状であるので、容易に、種々の用途に用いることができる。本発明の成形品の製造方法は、前記成形品を工業的有利に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のガラスシートは、ガラスクロスに、水、コロイダルシリカおよび糖類の酵素処理物を含有するバインダー溶液を含浸し(含浸工程)、ついで含浸物を乾燥させること(乾燥工程)により得られる。
【0010】
(ガラスクロス)
前記含浸工程に付されるガラスクロスは、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、ガラスクロスの生機、種々の加工処理が施されたガラスクロス、および使用済みガラスクロスのいずれであってもよい。これらの中でもヒートクリーニングされたガラスクロス、またはヒートクリーニングされ、ついでシランカップリング剤処理されたガラスクロスが好ましく、ヒートクリーニング処理され、ついでシランカップリング剤処理されたガラスクロスがより好ましい。
【0011】
前記ガラスクロスに用いられるガラス繊維としては、通常のガラス繊維として使用されるものであれば特に限定されるものではないが、例えばEガラス、Dガラス、Tガラス、Cガラス、ECRガラス、Aガラス、Lガラス、Sガラス、YM31−Aガラス、Hガラス等のガラス繊維が挙げられる。中でも、特に好ましいのは、Eガラス繊維である。これらガラス繊維は、公知の製造方法に従って製造されるものでもよく、市販品を用いてもかまわない。
【0012】
ガラスクロスの織成方法(織り方)としては、常法に従ってよく、例えば、平織、綾織、斜文織、からみ織、朱子織、三軸織又は横縞織などが挙げられる。織成は、例えばジェット織機(例えばエアージェット織機、ウォータージェット織機)、スルザー織機、レピヤー織機などの公知の織機を用いて行うことができる。
【0013】
また、前記ガラス繊維は、長繊維および短繊維のいずれからなっていてもよく、前記ガラス繊維が長繊維の場合は適宜の数だけ引き揃えて固めたものを使用することができるが、短繊維のものは撚りをかけて、つなぎ合わせた糸、すなわち紡績糸として使用することができる。使用されるガラス繊維の番手は、通常、約1〜1000tex、好ましくは約5〜850tex、より好ましくは約5〜200tex、最も好ましくは約5〜150texの範囲である。また、前記ガラス繊維として長繊維を用いる場合には、該ガラス繊維は、撚りがかけられていることが好ましい。撚り数は特に制限がないが、100cm当たり約20〜200回程度のものを使用するとよい。撚り方向として公知の右撚り(S撚り)、左撚り(Z撚り)のいずれであってもよい。また、撚り糸の形態としては、片撚り糸、諸撚り糸、ビッコ諸撚り糸、強ねん糸、壁撚り糸および駒撚り糸のいずれであってもよい。ガラスクロスの密度は、経糸、緯糸共に、約10〜80本/25mm程度であることが好ましく、約40〜60本/25mm程度であることがより好ましい。密度が約10本/25mm程度未満では、ガラスクロスの空隙部が多すぎ、且つ十分な引張強度が得られないおそれがあり、約80本/25mm程度以上であると、ガラスクロスの可とう性、柔軟性が損なわれるおそれがあり、さらに取り扱いが難しくなる恐れがある。
【0014】
本発明では、前記含浸工程に付されるガラスクロスがヒートクリーニングされ、ついでシランカップリング剤処理されたガラスクロスであるのが好ましいので、本発明の好ましい態様としては、ガラスクロスをヒートクリーニングし(ヒートクリーニング工程)、ついで、シランカップリング剤で処理し(シランカップリング剤処理工程)、シランカップリング剤で処理されたガラスクロスを前記含浸工程に付し、含浸工程で得られた含浸物を前記乾燥工程に付すことによりガラスシートを製造することが挙げられる。
以下、本発明の好ましい態様も含めて、本発明の各工程を説明する。
【0015】
(ヒートクリーニング工程)
本工程では、ガラスクロスをヒートクリーニングする。本工程に用いられるガラスクロスは、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されないが、通常、ガラスクロスの生機である。ガラスクロスの生機をヒートクリーニングすることにより、生機に付着した集束剤を除去することができる。
また、前記ヒートクリーニング処理は、通常、約300℃〜400℃程度の加熱炉内にガラスクロスを約24〜120時間、好ましくは約48〜96時間程度放置することにより行われる。
【0016】
(シランカップリング剤処理工程)
本工程では、前記ヒートクリーニングされたガラスクロスをシランカップリング剤処理する。
シランカップリング剤処理は、シランカップリング剤をガラスクロスに固着又は固定化することにより行われる。シランカップリング剤としては、例えばエポキシシラン類、アミノシラン類、クロルシラン類、ビニルシラン類、(メタ)アクリルシラン類などが挙げられ、より具体的には例えば、例えばγ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、イミダゾリンシラン、N−アミノエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩、N−3−(4−(3−アミノプロポキシ)ブトキシ)プロピル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、トリアジンシラン等のアミノシラン類、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン類、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン等のクロルシラン類、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン等の(メタ)アクリルシラン類、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニルシラン類等などが挙げられる。なお、前記シランカップリング剤は、エトキシシラン類であるのが好ましい。
【0017】
本工程では、前記シランカップリング剤は適宜溶媒に溶かして使用される。かかる溶媒としては、特に限定されないが、例えば、水、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコールおよびイソブチルアルコールなどの低級アルコール、およびイソプロピルエーテル、テトラヒドロフランおよびジオキサンなどのエーテルなどが挙げられる。これらは単独もしくは複数混合して使用される。
シランカップリング剤のガラスクロスへの固着もしくは固定化は、通常、シランカップリング剤を溶媒に約0.01〜20重量%程度、好ましくは約0.1〜5重量%程度の濃度に溶解したシランカップリング剤の溶液を、ガラスクロスに含浸することにより行われる。
【0018】
(含浸工程)
前記含浸工程は、前記ガラスクロスに、水、コロイダルシリカおよび糖類の酵素処理物を含有するバインダー溶液を含浸できさえすれば特に限定されない。
前記バインダー溶液は、通常、水に、コロイダルシリカおよび糖類の酵素処理物を溶解もしくは分散させることにより得られる。
【0019】
前記糖類としては、例えば、単糖類や多糖類およびそれらの誘導体などが挙げられるが、好ましい例としては、例えば、シクロデキストリン、キトサン、グアーガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、トラガントガム、アルギン酸、ペクチン、カラギナン、キトサン、キシラン、プルラン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)などが挙げられ、これらは1種または2種以上で用いてもよいが、少なくともシクロデキストリンおよび/またはキトサンを含むのがよく、シクロデキストリンおよびキトサンを含むのが好ましく、シクロデキストリン、キトサンおよびプルランを含むのがより好ましい。
【0020】
前記糖類を処理する酵素としては、例えば、加水分解酵素、糖転移酵素および異性化酵素などが挙げられ、これらの1種または2種以上を用いてもよいが、中でも、加水分解酵素および/または糖転移酵素が好ましく、加水分解酵素、または加水分解酵素および糖転移酵素がより好ましく、加水分解酵素が最も好ましい。これらの酵素は、公知の酵素であってよい。
【0021】
例えば、加水分解酵素としては、例えば、デキストラナーゼ、ヘミセルラーゼ、β−ガラクトマンナナーゼ、(β−ガラクトシダーゼ)ペクチンエステラーゼ、プルラナーゼ、アルギンリアーゼ、キシラナーゼ、ペクチナーゼ、セルラーゼ、アミラーゼなどが挙げられ、転移酵素としては、例えば、シクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼ、シクロデキストリングルコシルトランスフェラーゼ、デキストリンデキストラナーゼ、β−フラクトフラノシダーゼ、β−ガラクトシダーゼなどが挙げられ、異性化酵素としては、ラセマーゼ、グルコーマイソメラーゼなどが挙げられる。
これらの酵素は、使用する多糖類などの糖類に応じて、適宜選択され、例えば、多糖類として、ローカストビーンガム、キサンタンガム、グアーガムなどを用いる場合は、ヘミセルラーゼ、β−ガラクトマンナナーゼなどが用いられ、アルギン酸を用いる場合は、アルギン酸リアーゼが用いられ、キトサンを用いる場合は、キトサナーゼ、ペクチナーゼなどが用いられ、ペクチンを用いる場合は、ペクチナーゼが用いられ、キシランを用いるときはキシラナーゼが用いられ、カルボキシメチルセルロースを用いる場合は、セルラーゼが用いられ、シクロデキストリンを用いるときはシクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼ、シクロデキストリングルコシルトランスフェラーゼ、デキストラナーゼなどを用いることができる。これらの酵素は精製酵素であってもよく、また、粗酵素であってもよく、あるいはこれらの酵素を産生する微生物を酵素源として用いてもよい。
本発明における糖類の処理物は、あらかじめ水に糖類と酵素を添加し酵素反応させて調製してもよく、あるいは水にコロイダルシリカ、糖類および酵素を添加し、コロイダルシリカが存在する系で酵素反応させて調製してもよい。
【0022】
本発明のバインダー溶液における各成分の配合割合は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されないが、通常、水に対して、コロイダルシリカ10〜60重量%、糖類の酵素処理物0を越え5重量%の範囲内であり、好ましくは、コロイダルシリカ20〜50重量%、糖類の酵素処理物0.05〜2重量%である。
【0023】
前記バインダー溶液の調製法の一例を示すと、本発明の目的を阻害しない限り、各種添加剤を配合することができる。前記添加剤としては、例えば、無機充填剤、難燃化剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤などが挙げられる。
【0024】
無機充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、珪砂、タルク、クレー、マイカ、シリカ、ゼオライト、グラファイトなどが挙げられる。
難燃化剤としては、金属水酸化物や含水無機結晶化合物が好ましく、より具体的には例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ハイドロタルク石群(例えば、ハイドロタルク石、スチヒタイト、パイロオーライト等)、二水和石こう、アルミン酸化カルシウムなどが好ましい。
酸化防止剤としては、例えばフェノール系またはアミン系の酸化防止剤等が挙げられる。
帯電防止剤としては、例えば、アニオン系、カチオン系または非イオン系界面活性剤等が挙げられる。
滑剤としては、例えば、炭化水素系、脂肪酸系、脂肪酸アミド系、エステル系、アルコール系または金属石鹸系滑剤等が挙げられる。
前記添加剤のバインダー溶液中の含有量は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、バインダー溶液に対して、通常50重量%以下であり、好ましくは30重量%以下である。
【0025】
なお、前記バインダー溶液は、便宜上、バインダー溶液の固形分濃度が0.1〜50重量%(好ましくは1〜40重量%、より好ましくは5〜40重量%)となり、25℃における粘度が50〜500mPa・s(200〜300mPa・s、より好ましくは230〜270mPa・s)となり、25℃におけるpHが7〜14(好ましくは9〜13、より好ましくは10〜12)となり、比重が1.1〜1.5(好ましくは1.2〜1.4)となるように、水に、コロイダルシリカ、糖類、酵素および所望により添加剤を、それぞれ少量ずつ添加して混合するか、あるいは水に糖類、酵素を添加した場合、撹拌して酵素反応させ、これにコロイダルシリカおよび所望により添加物を添加して混合することにより調製することができる。
【0026】
ガラスクロスへのバインダー溶液の含浸手段としては、特に限定されず、例えば、浸漬手段、塗布手段、スプレー手段などが挙げられる。より具体的には、例えば、巻取機の捲き芯部としてのボビンに巻回させる直前の走行ガラスクロスをバインダー溶液が収容されたバインダー溶液槽中に浸漬させた後、例えばニップロール等で余剰のバインダー溶液を搾り取り、適量のバインダー溶液が付着したガラスクロスを捲き芯部に巻回させるなどの公知の方法、または例えば巻取機の捲き芯部に巻回されたガラスクロスに対して刷毛でバインダー溶液を塗布したり、スプレーでバインダー溶液を吹付けたりするなどの公知の方法が挙げられる。
前記バインダー溶液の付着量は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されないが、採光性に優れたガラスシートを得るという観点から、前記ガラスクロスに対して、固形分換算で、0.001〜50重量%が好ましく、0.01〜30重量%がより好ましく、0.1〜20重量%が最も好ましい。
【0027】
(乾燥工程)
本工程では、前記含浸工程で得られた含浸物を乾燥する。本工程によりガラスシートが得られる。
乾燥手段は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、自然乾燥や乾燥機を用いる手段などの公知の手段であってよく、乾燥温度は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されないが、通常、20℃〜500℃であり、好ましくは25℃〜300℃である。乾燥時間は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されないが、通常、1秒間〜1週間であり、好ましくは30秒間〜3日間であり、より好ましくは1分間〜24時間である。
【0028】
かくして得られたガラスシートは、シート状物であり、光透過性に優れ、柔軟性や可とう性に優れ、さらに火災時にも大量の煙を発生させることなく、不燃性に優れている。なお、前記ガラスシートは、前記添加剤として燃焼性の添加剤を多量に用いずに製造された場合には、通常、平成13年国土交通省令第151号の「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」の鉄道車両用材料の燃焼性規格において、不燃性に区分され、かつ耐溶融滴下性がある。
また、前記ガラスシートは、JIS K 7105の測定法Aに従い測定される全光線透過率が20〜90%であるのが好ましく、40〜70%であるのがより好ましい。前記ガラスシートの全光線透過率は、前記のガラスシートの製造において、例えば、原料のガラスクロスの厚さやバインダー溶液の屈折率(例えばバインダー溶液中の前記添加剤の種類)を常法に従い適宜に設定することにより前記した好ましい範囲内とすることができる。
【0029】
本発明では、前記ガラスシートを、そのまま種々の用途に用いてもよいが、さらに成形加工を施してもよい。例えば、前記ガラスシートを、例えばカッティングなどの成形加工により、所望の形状に成形加工し、成形品として容易に種々の用途に用いることができる。なお、前記成形加工は、常法に従い行ってよく、また、前記ガラスシートの光透過性、柔軟性や可とう性を損なわない範囲で行われるのがよい。
なお、前記ガラスシートや成形品の用途としては、特に限定されず、種々の用途に用いることが可能であるが、好適には例えば、照明カバー、目隠し板、採光窓などの光透過性が要求される用途が挙げられる。
【実施例】
【0030】
(製造例1)
固形分濃度が30重量%となり、25℃における粘度が250mPa・sとなり、pHが11(25℃)となり、比重が1.3(25℃)となるように、水に、コロイダルシリカ、シクロデキストリン、キトサン、プルランおよび酵素(シクロデキストリングルコシルトランスフェラーゼ、キトサナーゼ、プルナラーゼ、アミラーゼ)を少量ずつ添加して混合することによりバインダー溶液(固形分濃度30重量%)を得た。
【0031】
(粘度測定法)
JIS Z 8803に従い上記粘度を測定した。
【0032】
(製造例2)
固形分濃度が10重量%となるようにしたこと以外は、製造例1と同様にしてバインダー溶液(固形分濃度10重量%)を得た。
【0033】
(製造例3)
固形分濃度が37重量%となるようにしたこと以外は、製造例1と同様にしてバインダー溶液(固形分濃度37重量%)を得た。
【0034】
(製造例4)
固形分濃度が5重量%となるようにしたこと以外は、製造例1と同様にしてバインダー溶液(固形分濃度5重量%)を得た。
【0035】
(製造例5)
固形分濃度が30重量%となり、25℃における粘度が250mPa・sとなり、pHが11(25℃)となり、比重が1.3(25℃)となるように、水に、コロイダルシリカ、糖類の酵素処理物(該処理物は、水にシクロデキストリン、アルギン酸および酵素(シクロデキストリングルコシルトランスフェラーゼ、アルギン酸リアーゼ)を加え、37℃で撹拌することにより調製した)を少量ずつ添加して混合することによりバインダー溶液(固形分濃度30重量%)を得た。
【0036】
(実施例1)
ヒートクリーニングされたガラスクロスであるヒートクロス(処理・加工クロス、品番H201、ユニチカグラスファイバー株式会社製、質量204g/m、厚さ0.17、番手:たて67.5texおよびよこ67.5tex、密度:たて42本/25mmおよびよこ32本/25mm、平織、Eガラス繊維)に、製造例1で得られたバインダー溶液(固形分濃度30重量%)を含浸し、ついで含浸物を120℃×2分間の乾燥条件で乾燥させることにより本発明のガラスシートを得た。
【0037】
(実施例2)
乾燥条件を100℃×2分間としたこと以外、実施例1と同様にして本発明のガラスシートを得た。
【0038】
(実施例3)
乾燥条件を80℃×3分間としたこと以外、実施例1と同様にして本発明のガラスシートを得た。
【0039】
(実施例4)
製造例1のバインダー溶液に代えて、製造例2で得られたバインダー溶液(固形分濃度10重量%)を用いたこと以外、実施例1と同様にして本発明のガラスシートを得た。
【0040】
(実施例5)
製造例1のバインダー溶液に代えて、製造例2で得られたバインダー溶液(固形分濃度10重量%)を用いたこと以外、実施例2と同様にして本発明のガラスシートを得た。
【0041】
(実施例6)
製造例1のバインダー溶液に代えて、製造例2で得られたバインダー溶液(固形分濃度10重量%)を用いたこと以外、実施例3と同様にして本発明のガラスシートを得た。
【0042】
(実施例7)
製造例1のバインダー溶液に代えて、製造例3で得られたバインダー溶液(固形分濃度5重量%)を用いたこと以外、実施例1と同様にして本発明のガラスシートを得た。
【0043】
(実施例8)
製造例1のバインダー溶液に代えて、製造例3で得られたバインダー溶液(固形分濃度5重量%)を用いたこと以外、実施例2と同様にして本発明のガラスシートを得た。
【0044】
(実施例9)
製造例1のバインダー溶液に代えて、製造例3で得られたバインダー溶液(固形分濃度5重量%)を用いたこと以外、実施例3と同様にして本発明のガラスシートを得た。
【0045】
(実施例10)
ヒートクリーニングされ、ついでエポキシシランでカップリング剤処理されたガラスクロス(処理・加工クロス、品番H201X、ユニチカグラスファイバー株式会社製、質量207g/m、厚さ0.19、番手:たて67.5texおよびよこ67.5tex、密度:たて42本/25mmおよびよこ32本/25mm、平織、Eガラス繊維)を、製造例4で得られたバインダー溶液に、12秒間浸漬し、マングル機(Nip圧 1.0kg、速度最低速)にて余剰のバインダー溶液を除去し、ついで熱風乾燥機を用いて80℃×1.5分間の乾燥条件にて含浸物を乾燥させることにより本発明のガラスシートを得た。
【0046】
(実施例11)
乾燥条件を80℃×3分間にしたこと以外、実施例10と同様にして本発明のガラスシートを得た。
【0047】
(実施例12)
乾燥条件を90℃×2分間としたこと以外、実施例10と同様にして本発明のガラスシートを得た。
【0048】
(実施例13)
乾燥条件を90℃×3分間としたこと以外、実施例10と同様にして本発明のガラスシートを得た。
【0049】
(実施例14)
乾燥条件を100℃×2分間としたこと以外、実施例10と同様にして本発明のガラスシートを得た。
【0050】
(実施例15)
乾燥条件を110℃×2分間としたこと以外、実施例10と同様にして本発明のガラスシートを得た。
【0051】
(実施例16)
乾燥条件を120℃×2分間としたこと以外、実施例10と同様にして本発明のガラスシートを得た。
【0052】
(実施例17)
乾燥条件を140℃×2分間としたこと以外、実施例10と同様にして本発明のガラスシートを得た。
【0053】
(試験例1)
実施例1〜9で得られたガラスシートについて下記のとおり、燃焼試験を実施した。結果を表1に示す。なお、実施例1〜9のバインダー溶液の付着量についての併せて表1に示す。
【0054】
(燃焼試験)
平成13年国土交通省令第151号の鉄道車両用非金属材料の試験方法Iを参考に、B5判のサンプルを45°傾斜に保持し、サンプルの下面中心の垂直下方25.4mmのところに純エチルアルコール0.5ccの入った容器を置き、ついで着火して、燃料が燃え尽きるまで放置した。ここで、燃焼中の煙の発生状況、燃焼終了後のサンプル状態(変色および変形)を観察した。なお、耐溶融滴下性については、平成13年国土交通省令第151号で規定されているとおり、鉄道車両用非金属材料の試験方法Iにおいて、アルコール燃焼後の材料表面が平滑性を保つか否かで評価した。
【0055】
【表1】

【0056】
なお、実施例1〜9で得られたガラスシートを室内光に照らすと、光が透過し、ガラスシートを隔てても十分に明るいことを確認した。また、手で曲げると、折れることなく曲がり、柔軟性や可とう性に優れていることを確認した。
【0057】
(試験例2)
実施例10〜17で得られたガラスシートのオモテおよびウラの剛軟度(タテ方向)につき、下記のとおり試験・評価した。結果を表2に示す。
【0058】
(剛軟度)
JIS L 1096 A法(45°カンチレバー法)に従い、オモテの剛軟度(タテ方向)、ウラの剛軟度(タテ方向)、およびオモテとウラとの剛軟度(タテ方向)の平均値を評価した。
【0059】
【表2】

【0060】
なお、実施例10〜17で得られたガラスシートを室内光に照らすと、光が透過し、ガラスシートを隔てても十分に明るいことを確認した。
【0061】
(試験例3)
また、実施例2および実施例10と同様にして本発明のガラスシートをそれぞれ実施例2’のガラスシートおよび実施例10’のガラスシートとして作製し、得られたガラスシートの引張強さ、強熱減量、通気度、引裂強さ、剛軟度、耐折れ強さにつき、下記のとおり試験・評価した。結果を表3に示す。なお、付着量が若干異なったので、付着量およびその他の一般的物性についても下記表3に示す。
【0062】
(引張強さ)
JIS R 3420に従い、引張強さを評価した。
【0063】
(強熱減量)
JIS R 3420に従い、強熱減量を評価した。
【0064】
(通気度)
JIS R 3420に従い、通気度を評価した。
【0065】
(引裂強さ)
JIS A 3420 A法(シングルタング法)に従い、引裂強さを評価した。
【0066】
(剛軟度)
JIS L 1096 A法(45°カンチレバー法)に従い、剛軟度を評価した。
【0067】
(耐折れ強さ)
JIS R 3420に従い、耐折れ強さを評価した。
【0068】
【表3】

【0069】
なお、実施例10’のガラスシートについてJIS K 7105の測定法Aに従い測定された全光線透過率は47.3%であった。
【0070】
(試験例4)
実施例10’のガラスシートの燃焼試験を上記試験例1と同様にして行った。なお、燃焼中の着火性、着炎性および煙ならびに燃焼後の炭化および変形について観察した。結果を表4に示す。
【0071】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明のガラスシートおよび成形品は、種々の用途、例えば、照明カバー、目隠し板、採光窓などに有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスクロスに、水、コロイダルシリカおよび糖類の酵素処理物を含有するバインダー溶液を含浸し、ついで含浸物を乾燥させてなることを特徴とするガラスシート。
【請求項2】
糖類が多糖類である請求項1に記載のガラスシート。
【請求項3】
糖類が、シクロデキストリン、キトサン、グアーガム、キサンタンガム、ローカストビーンガムおよびプルランから選択される少なくとも1種である請求項1に記載のガラスシート。
【請求項4】
酵素が、加水分解酵素、糖転移酵素および異性化酵素から選択される少なくとも1種である請求項1〜3のいずれかに記載のガラスシート。
【請求項5】
酵素が、加水分解酵素および/または糖転移酵素である請求項1〜3のいずれかに記載のガラスシート。
【請求項6】
含浸前に、ガラスクロスをヒートクリーニングする請求項1〜5のいずれかに記載のガラスシート。
【請求項7】
ヒートクリーニング後、含浸前に、ヒートクリーニングされたガラスクロスをシランカップリング剤で処理する請求項6に記載のガラスシート。
【請求項8】
シランカップリング剤がエポキシシラン類である請求項7に記載のガラスシート。
【請求項9】
平成13年国土交通省令第151号の「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」の鉄道車両用材料の燃焼性規格において、不燃性に区分され、かつ耐溶融滴下性がある請求項1〜8のいずれかに記載のガラスシート。
【請求項10】
JIS K 7105の測定法Aに従い測定される全光線透過率が20〜90%である請求項1〜9のいずれかに記載のガラスシート。
【請求項11】
ガラスクロスに、水、コロイダルシリカおよび糖類の酵素処理物を含有するバインダー溶液を含浸し、ついで含浸物を乾燥させることを特徴とするガラスシートの製造方法。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれかに記載のガラスシートを、成形加工することを特徴とする成形品の製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法により製造された成形品。

【公開番号】特開2007−197854(P2007−197854A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−15991(P2006−15991)
【出願日】平成18年1月25日(2006.1.25)
【出願人】(506027734)株式会社 A・R・D (3)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】