説明

不織布

【課題】 揮発性有機化合物(VOC)や環境負荷物質を削減した、不織布の重量を増加させたり、不織布表面における意匠性を損なうことなく、容易に表面と裏面とを識別することのできる不織布を提供すること。
【解決手段】 表面と裏面とを有する不織布において、不織布の裏面側から先の尖った金属などの鋭利な先端を有する材料で引っ掻くことによって、不織布の裏面側に繊維の毛羽立ちによる模様を形成した不織布により解決することができる。本発明の不織布は自動車内装表皮材として好適に使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は不織布、特には、自動車内装表皮材として好適に使用できる不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車シートの底面又は左右側面を被覆するマチ材や、自動車シートの背面側側面を被覆するシートバック材として、ニードルパンチ不織布の裏面にバインダー加工した表皮材が使われていた。このバインダー加工は、難燃性を付与すると同時にマチ材やシートバック材としての強度を付与するために行われていた。なお、マチ材やシートバック材は互いに縫製して使用する。
【0003】
近年、環境問題から自動車室内における揮発性有機化合物(VOC)の低減や、環境負荷物質削減の必要性から、バインダー加工に替えて、融着繊維を融着させることで十分な強度を確保するとともに、難燃繊維を配合することで難燃性を付与した不織布が、マチ材やシートバック材として使用されている。このようなマチ材やシートバック材は強度、難燃性に優れているばかりでなく、VOCを低減できるものであった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このマチ材やシートバック材として使用される不織布は表裏面の区別がつきにくいため、縫製作業現場において、左側面を被覆するマチ材と右側面を被覆するマチ材とを間違えて使用するなど、作業性の新たな問題が発生した。
【0005】
そこで、不織布の表裏面を識別できるように、不織布の裏面に対してバインダー加工を線状に行い、表面と裏面の意匠性に差をつけることも検討されているが、揮発性有機化合物(VOC)の低減や環境負荷物質削減という流れに逆行するばかりでなく、不織布の重量が増加し、自動車の燃費悪化につながるという問題、更には、バインダーの手配やバインダー加工工程が必要になるという、問題があった。
【0006】
また、本発明者は不織布の裏面のみにヒートロールを接触させ、裏面のみを平滑とし、表面と裏面の意匠性に差異をつけることも試みたが、容易に表面と裏面の識別を行うことは困難であった。
【0007】
更に、不織布の表裏面に色の異なる繊維を配合する、又は裏面のみ着色する、という色による識別方法も考えられるが、裏面の色が表面側から認識することができ、意匠性を損なうという問題があった。
【0008】
このような問題はマチ材やシートバック材として使用する不織布に限らず、プリント加工する不織布や裁断して加工する不織布、例えば、自動車天井表皮材、リヤパッケージ材などの自動車内装表皮材、布団、枕などの寝具、衣服、下着、ブラジャーカップ、肩パッド、帽子などの被服、クッション、座布団、畳、壁紙などのインテリア用品、買い物袋、手袋などの袋類、マスクなどの衛生用品、土嚢などの土木用品、フィルタなどの分離材、靴の中敷、ブックカバーとして使用する不織布においても同様の問題が懸念された。
【0009】
本発明はこのような状況下においてなされたものであり、揮発性有機化合物(VOC)や環境負荷物質を削減した、不織布の重量を増加させたり、不織布表面における意匠性を損なうことなく、容易に表面と裏面とを識別することのできる不織布を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1にかかる発明は、「表面と裏面とを有する不織布において、前記不織布の裏面側に繊維の毛羽立ちによる模様を有することを特徴とする不織布。」である。
【0011】
本発明の請求項2にかかる発明は、「自動車内装表皮材として使用する、請求項1に記載の不織布。」である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の請求項1にかかる発明は、不織布の裏面側に繊維の毛羽立ちによる模様を有するため、揮発性有機化合物(VOC)や環境負荷物質を削減した、不織布の重量を増加させたり、不織布表面における意匠性を損なうことなく、容易に表面と裏面とを識別することのできる、作業性良く使用できる不織布である。つまり、繊維が毛羽立っているだけで、バインダー等を付与したものではないため、揮発性有機化合物(VOC)や環境負荷物質が削減されるとともに、不織布の重量は増加しない。また、繊維が毛羽立っているだけで、着色している訳ではないので、不織布表面における意匠性を損なうこともないし、毛羽立ちは裏面にあり、不織布使用時に、視覚上認識することができないため、意匠性を損なうことがない。
【0013】
本発明の請求項2にかかる発明は、自動車内装表皮材、特には、マチ材やシートバック材として作業性良く使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の不織布は裏面に繊維の毛羽立ちによる模様を有するため、不織布の重量を増加させたり、不織布表面における意匠性を損なうことなく、容易に表面と裏面とを識別することのでき、作業性良く使用できる不織布である。また、バインダー等を付与したものではないため、揮発性有機化合物(VOC)や環境負荷物質を削減したものである。
【0015】
本発明の模様は表裏面を識別できる限り、特に限定するものではないが、例えば、点状、線状、格子状、文字、図形、記号、絵、或いはこれらの組み合わせを挙げることができる。これらの中でも、線状であると、識別しやすいばかりでなく、加工性にも優れているため好適である。
【0016】
点状の場合、規則正しく分散していても良いし、不規則に分散していても良い。また、点状の場合、外形は多角形でも、円形でも良く、特に限定するものではない。なお、点状の場合、1つあたりの面積は表裏面を識別できる面積であれば良く、特に限定するものではない。
【0017】
線状の場合、直線状であっても、曲線状であっても、これらを組み合わせても良い。線状模様は1つである必要はなく、表裏面を識別しやすいように、2つ以上の線状模様が分散しているのが好ましい。なお、隣接している線状模様は等ピッチであっても等ピッチでなくても良い。また、そのピッチも不織布の使用用途によって適宜設定すれば良く、特に限定するものではない。
【0018】
格子状の場合、直線及び/又は曲線が交差して形成されていれば良く、その交差角度、隣接する線の間隔等は、表裏面を識別できる限り、特に限定するものではない。
【0019】
文字の場合、日本語に限らず、英語、ドイツ語、フランス語等の外国語であっても良く、表裏面を識別できる限り、特に限定するものではない。
【0020】
図形、記号又は絵の場合も同様に、表裏面を識別できる限り、特に限定するものではない。
【0021】
このような本発明の不織布の「毛羽立ち」は、例えば、不織布の裏面側から先の尖った金属(例えば、ニードルなど)などの鋭利な先端を有する材料で引っ掻くことによって形成することができる。
【0022】
なお、本発明の不織布は表面と裏面とを有するものであるが、「表面」とは不織布の面の中で最も面積が広く、しかも不織布使用時に視覚上認識できる面であり、「裏面」は前記表面に対向する面であり、不織布使用時に視覚上認識できない面である。
【0023】
本発明の不織布は裏面側に繊維の毛羽立ちによる模様を有するものであり、基本的に表面側に繊維の毛羽立ちによる模様を有しないものであるが、表面側に裏面とは異なる繊維の毛羽立ちによる模様を有していても良い。また、表面側に繊維の毛羽立ち以外の模様(例えば、プリントした模様)を有していても良い。
【0024】
本発明の不織布を構成する繊維は特に限定するものではないが、例えば、ナイロン繊維、ビニロン繊維、ビニリデン繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリオレフィン繊維(ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維等)、ポリウレタン繊維などの合成繊維を1種類、又は2種類以上使用することができる。また、上記のような繊維構成樹脂を2種類以上含む、繊維横断面が芯鞘型、貼合わせ型、海島型、オレンジ型、多層積層型の複合繊維を使用することもできる。特に、ポリエステル原着繊維は変色しにくいため好適に使用することができる。また、繊維横断面が芯鞘型の熱融着性繊維は融着力に優れ、不織布の耐摩耗性や強度を高めることができるため好適に使用できる。特に、熱融着性繊維が顔料で着色されていると、不織布表面の意匠性に優れているため好適である。
【0025】
なお、不織布を自動車用途に使用する場合のように、難燃性を必要とする場合には、難燃性繊維を使用するのが好ましい。このような難燃性繊維としては、例えば、アクリロニトリルと塩化ビニルを共重合したモダクリル繊維、ビニリデン繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリフッ化ビニリデン繊維、ノボロイド繊維、ポリクラール繊維、リン化合物を共重合したポリエステル繊維、ハロゲン含有モノマーを共重合したアクリル繊維、アラミド繊維などの繊維構成ポリマー自体を難燃性にした繊維、又はハロゲン系、リン系又は金属化合物系の難燃剤を練り込み、又は後加工により付与した難燃性繊維を挙げることができる。これらの中でも、揮発性有機化合物(VOC)の低減や環境負荷物質削減に寄与しやすい、繊維構成ポリマー自体を難燃性にした繊維が好ましい。なお、難燃性繊維も熱融着性繊維と同様に、顔料で着色されていると、不織布表面の意匠性に優れているため好適である。
【0026】
このような不織布構成繊維の繊度、繊維長は特に限定するものではないが、繊度は1〜20dtexであるのが好ましく、1.4〜20dtexであるのがより好ましい。また、繊維長は38〜152mmであるのが好ましい。
【0027】
本発明の不織布は前述のような繊維を使用して繊維ウエブを形成し、繊維同士を結合した後に、片面(裏面)の繊維を毛羽立たせることによって製造できる。
【0028】
なお、繊維の配合は任意であるが、熱融着性繊維と難燃性繊維を配合することによりVOCを低減させることができるため、自動車内装用途に使用する場合に好適である。なお、熱融着性繊維と難燃性繊維を配合する場合、熱融着性繊維と難燃性繊維の質量比率は特に限定するものではないが、難燃性及び強度に優れているように、(難燃性繊維):(熱融着性繊維)=10〜95:90〜5であるのが好ましい。
【0029】
より具体的には、繊維ウエブの形成方法として、例えば、カード機やエアレイによる乾式法、湿式法、スパンボンド法などを挙げることができる。
【0030】
続く繊維ウエブ構成繊維同士の結合方法として、例えば、エマルジョン接着剤を繊維ウエブに付与し、乾燥して繊維の交点を接着するケミカルボンド法、繊維ウエブ構成繊維として熱融着性繊維を含ませておき、熱の作用により熱融着性繊維の融着力を発現させるサーマルボンド法、ニードルを突き刺して繊維を絡ませるニードルパンチ法、水流を噴射して繊維を絡ませる水流絡合法、などを挙げることができ、これらの方法を単独で、又は組み合わせて結合できる。特に、ニードル又は水流により絡合させた後に熱融着性繊維の融着力を発現させる方法によると、繊維同士の接点が多い状態で熱融着性繊維を融着することになるため、耐久性に優れた不織布を製造できる。
【0031】
次いで、結合した繊維ウエブの片面(裏面)の繊維を毛羽立たせて、本発明の不織布を製造できる。この繊維を毛羽立たせる方法は特に限定するものではないが、例えば、不織布の片面側(裏面側)を、先の尖った金属(例えば、ニードルなど)などの鋭利な先端を有する材料で引っ掻く方法を例示できる。当然、結合した繊維ウエブの他面(表面)の繊維も毛羽立たせると表裏面の識別ができないため、鋭利な材料は結合した繊維ウエブを貫通することなく、裏面側から引っ掻く。例えば、点状の場合には、間欠的に鋭利な材料で引っ掻くことにより形成でき、線状の場合には、連続して鋭利な材料で引っ掻くことにより形成でき、格子状の場合には、少なくとも二方向から連続して鋭利な材料で引っ掻くことにより形成でき、文字、図形、記号又は絵の場合には、適宜、鋭利な材料で引っ掻くことにより形成できる。
【0032】
本発明の不織布は前述の方法により製造することができるが、繊維ウエブの結合手段としてニードル又は水流の絡合手段を採用した場合には、両面ともに比較的毛羽立った状態となりやすく、このような状態の表面を鋭利な材料で引っ掻いたとしても、明確に認識できる程度に毛羽立ちによる模様を形成できない場合がある。そのような場合には、繊維を毛羽立たせる前に、結合した繊維ウエブを加圧又は加熱加圧して、不織布表面の繊維の毛羽を押さえて平滑化した後に、繊維を毛羽立たせるのが好ましい。このような平滑化する方法として、例えば、カレンダー処理を挙げることができる。なお、カレンダーにより加圧する場合には、加圧し過ぎて、不織布が本来有する意匠、風合いを損なわないように、スチールロールとコットンロールを用い、コットンロールが不織布表面と当接するように加圧するのが好ましく、加熱もする場合には、不織布表面は加熱せず、裏面のみ加熱するのが好ましい。
【0033】
本発明の不織布の目付は特に限定するものではないが、25g/m以上であるのが好ましい。25g/m未満であると、厚さが薄くなり、裏面のみに毛羽立ちによる模様を有するのが困難になる傾向があるためである。なお、目付の上限は特に限定するものではないが、4000g/m以下であるのが現実的である。
【0034】
また、厚さは1mm以上であるのが好ましい。厚さが1mm未満であると、裏面のみに毛羽立ちによる模様を有するのが困難になる傾向があるためである。なお、厚さの上限は特に限定するものではないが、50mm以下であるのが現実的である。この「厚さ」は前田式圧縮弾性測定器を用い、圧接子5cm、圧接荷重100g/cmで測定した値をいう。
【0035】
本発明の不織布は目付が低く、厚さが薄い場合であっても、不織布加工後に、軽く加圧するだけで繊維の毛羽立ちを押さえて平滑化することができるため、裏面における繊維の毛羽立ち模様による不織布表面における意匠性を低下させるということもない。
【0036】
本発明の不織布は上述の通り、不織布の裏面側に繊維の毛羽立ちによる模様を有するため、不織布を加工する際に、表面と裏面を間違うことなく加工することができる。そのため、不織布の表面と裏面とを識別して加工する用途に対して好適に使用できる。例えば、模様をプリントする前の不織布として、又は縫製加工前の不織布として好適に使用できる。
【0037】
特に、自動車内装表皮材においては、表面側で意匠性を付与するため、表裏面の間違いは重大であるが、本発明の不織布によれば、そのような間違いを起すことなく、不織布を加工して自動車内装材を製造することができる。自動車内装表皮材としては、例えば、マチ材、シートバック材、天井表皮材、リヤパッケージ材として好適に使用することができる。特に、マチ材やシートバック材として使用する場合には、不織布を所望形状に裁断した後に縫製するため、所望形状に裁断した際に表裏面の識別が困難になる傾向があるが、本発明の不織布は毛羽立ちによる模様を有するため、表裏面を確実に識別することができる。
【実施例】
【0038】
以下に、本発明の不織布の具体的態様について記載するが、本発明は以下の態様に限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
繊度6.6dtex、繊維長76mmの難燃ポリエステルグレー原着色繊維80mass%と、4.4detx、繊維長51mmの芯鞘型熱融着性ポリエステルグレー原着色繊維(芯成分:ポリエチレンテレフタレート、鞘成分:変性ポリエステル樹脂、融点:110℃)20mass%を均一に混合した。
【0040】
次いで、カード機により開繊して繊維ウエブを形成した後、針密度300本/cmにてニードルパンチをしてニードルパンチウエブを得た。
【0041】
次いで、前記ニードルパンチウエブを温度160℃に設定したドライヤーにより芯鞘型熱融着性ポリエステルグレー原着色繊維を溶融させて繊維の結合を行い、融着絡合ウエブを製造した。
【0042】
次いで、前記の融着絡合ウエブを、融着絡合ウエブの裏面側が温度150℃のスチールロールと当接し、融着絡合ウエブの表面側が常温のスチールロールと当接させて加圧(スリット:0.5mm)するカレンダー加工により裏面を平滑化した、平滑化融着絡合ウエブを得た。
【0043】
他方、60本の先の尖った金属ピンを3cm間隔で、木の棒に、木の棒の長さ方向に対して直角方向に突出させて固定し、引っ掻き具を準備した。
【0044】
そして、前記平滑化融着絡合ウエブの裏面(150℃のスチールロールに当接した面)に、前記引っ掻き具の金属ピンの先端が当接するように固定した状態で、平滑化融着絡合ウエブを移動させることにより裏面構成繊維を引っ掻き、裏面側に3cm間隔で等ピッチの直線状の繊維の毛羽立ち模様を60本有する、本発明の不織布(目付:220g/m、厚さ:2.3mm)を製造した。この不織布は裁断しても、繊維の毛羽立ちによる直線を有するものであった。そのため、表面と裏面を間違えることなく、次の加工に供することができるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の不織布は、プリント加工する不織布や裁断して加工する不織布、例えば、自動車天井表皮材、リヤパッケージ材などの自動車内装表皮材、布団、枕などの寝具、衣服、下着、ブラジャーカップ、肩パッド、帽子などの被服、クッション、座布団、畳、壁紙などのインテリア用品、買い物袋、手袋などの袋類、マスクなどの衛生用品、土嚢などの土木用品、フィルタなどの分離材、靴の中敷、ブックカバーとして使用する不織布として使用することができ、特に、自動車内装表皮材として好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面と裏面とを有する不織布において、前記不織布の裏面側に繊維の毛羽立ちによる模様を有することを特徴とする不織布。
【請求項2】
自動車内装表皮材として使用する、請求項1に記載の不織布。

【公開番号】特開2011−168909(P2011−168909A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−33166(P2010−33166)
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】