説明

不耕起栽培方法

【課題】発芽、生育に適した土壌環境で栽培でき、しかも、省力化が図れる不耕起栽培方法を提供する。
【解決手段】乾田に残る前作の切り株1の株間2を踏圧し、前記切り株1に穴開け具3で上から穴4を開け、この穴4に種5を落とし込むことにより、切り株1によって得られた根圏培地中に直接播種する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、前作の切り株を利用して水稲等の植物を直播によって栽培するための不耕起栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圃場を用いた直播による栽培は、通常、耕耘や溝切りなどで天地返し等を施して、土壌の三相構造、即ち、空気(気層)、水分(液層)、土壌(固層)を発芽に適した環境にしている。
【0003】
例えば、水稲の直播による従来の栽培方法は、湛水直播と乾田耕起直播及び乾田不耕起直播に大きく分けられる。
【0004】
先ず、湛水直播の栽培方法は、乾田に対する耕耘と砕土の後に、代かき、入水、播種、覆土の工程を順次行うようにしている。
【0005】
次に、乾田耕起直播の栽培方法は、耕耘、砕土、代かき、水抜き、播種、覆土あるいは、耕耘、砕土、播種、覆土の工程によって行われる。
【0006】
更に、従来の乾田不耕起直播の栽培方法は、前作の切り株が残る乾田に部分耕耘を施した後、この耕耘部分に直播する方法と、乾田に対する溝切り後に溝切り部分に直播する方法があるが、上記した部分耕耘及び溝切りは、何れも、図5で示すように、前作の切り株1を避けて株間2(条間)で行われる(特許文献1参照)。
【0007】
ところで、これらの栽培方法の中で、乾田不耕起直播栽培方法は最も作業工程が少なく、大幅に省力化できると共に、耕耘、砕土、代かきに関る機械などが要らないため、コスト低減も図れる方法である。
【特許文献1】特開平2−200125号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の乾田不耕起直播方法は、作業工程が少ないといっても、株間での部分耕耘や溝切りといった手間の係る作業工程が必要になるだけでなく、このような部分耕耘や溝切りでは、大掛かりで十分な天地返しが行えないため、土壌に発芽に適した条件を得るのは困難であり、発芽率や苗の生育率が低いという点で問題がある。
【0009】
また、乾田不耕起直播方法は、部分耕耘や溝切りした部分の上に直播するため、この直播によって種の存在が露見するので鳥害を受け易いと共に、部分耕耘や溝切りの上に直播すると、発芽による根付き性が悪く苗が倒伏し易いという問題がある。
【0010】
更に、株間での部分耕耘や溝切りは、株間を耕すことで雑草の発芽、生育を助けることになり、しかも、株間での流水性が悪くなり、多量の水が入った場合に株間で水が滞り、株間に入る水量を調節できない。
【0011】
そこで、この発明の課題は、乾田不耕起直播方法の更なる省力化が図れ、しかも、落水した潤土田面にも同様に適用が可能となり、発芽、生育に適した土壌環境で栽培でき、株間での雑草の発芽、生育を妨げ、流水性を良くして株間に入る水量の調節ができる不耕起栽培方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記のような課題を解決するため、請求項1の発明は、乾田に残る前作の切り株の株間を踏圧し、前記切り株に上から穴を開けて根圏培地中に直接播種する方法を採用したものである。
【0013】
請求項2の発明は、落水した潤土田面に残る前作の切り株の株間を踏圧し、前記切り株に上から播種する方法を採用したものである。
【0014】
上記潤土田面に残る切り株は、水分と空気を十分に含んでいるので生育に適した環境であり、この切り株の中に播種するだけで、発芽から苗立ちが得られることになる。
【0015】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、上記切り株に上から穴を開けて根圏培地中に播種する方法を採用したものである。
【0016】
ここで、前作の切り株に穴を開けることによって得られる根圏培地の土壌は、根系による水分の保持と空気の確保によって三相構造における発芽、生育に適した環境であり、切り株の根が土壌を耕耘しているので別途耕耘の必要がなく、切り株に穴を開けてそこに種を落とすだけでよいので、作業の省力化が図れる。
【発明の効果】
【0017】
この発明によると、乾田に残る前作の切り株に穴を開けてそこに播種するようにしたので、切り株の穴によって得られる根圏培地の土壌が、切り株の根系による水分の保持と空気の確保によって、三相構造における発芽、生育に適した環境となり、栽培効果の優れた不耕起栽培方法となる。
【0018】
また、落水した潤土田面に残る前作の切り株の株間を踏圧し、前記切り株に上から播種するようにしたので、前作の切り株は潤土による水分の保持と空気の確保によって発芽、生育に適した環境となり、単に切り株に上から播種するだけでよいので作業工程が少なくてすみ、栽培効果の優れた不耕起栽培方法となる。
【0019】
更に、乾田又は潤土田面の切り株に穴を開けてそこに種を落とすようにしたので、株間での部分耕耘や溝切り作業が不要になり、不耕起栽培の一段の省力化が図れる。
【0020】
また、前作の切り株の株間を踏圧することにより、雑草の発芽、生育を妨げると同時に、多量の水が入った場合に、表面流水で株間に入る水の調整ができる。
【0021】
更にまた、切り株の穴に播種することにより、種の存在が鳥類に見つかることがなく、発芽後の種皮も見つからないので、鳥害の発生がなく、しかも、切り株の直根に沿って根が伸びることで発芽後の根付き性がよくなり、切り株の直根がしっかりしているので苗が倒伏しない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0023】
図1は、この発明の第1の実施の形態である乾田不耕起栽培方法を示し、前作の切り株1が残る乾田において、切り株の株間2(条間)を踏圧すると共に、図1(a)と(b)のように、前記切り株1の略中心位置に軸状の穴開け具3を用いて上から根圏に達する深さの穴4を開け、図1(c)のように、この穴4内に所要数の種5と必要ならば肥料を落とすことによって、根圏培地中に直接播種するものである。
【0024】
図2は、この発明の第2の実施の形態である潤土不耕起栽培方法を示し、図2(a)と(b)のように、潤土田面に残る前作の切り株の株間2(条間)を踏圧すると共に、切り株1の略中心位置に軸状の穴開け具3を用いて上から根圏に達する深さの穴4を開け、図2(c)のように、この穴4内に所要数の種5と必要ならば肥料を落とすことによって、根圏培地中に直接播種するものである。
【0025】
図3は、この発明の第2の実施の形態である潤土不耕起栽培方法の他の例を示し、前作の切り株1が残る落水した潤土田面において、切り株の株間2(条間)を踏圧すると共に、前記切り株1に上から直接播種するものである。
【0026】
ここで、前作の切り株1の穴4によって得られた根圏培地における土壌は、乾田及び潤土田面の何れにおいても、空気(気相)、水分(液相)、土壌(固相)の三相構造における発芽、生育に適した環境である。
【0027】
また、上記潤土田面に残る切り株は、水分と空気を十分に含んでいるので生育に適した環境であり、この切り株の中に播種するだけで、発芽から苗立ちが得られることになる。
【0028】
特に、切り株1の根系1aにおける空隙は、地下水を毛管水として水分(液相)を保持することができ、また、切り株1は踏圧を受けても、根系1aが持つ力学的特性から構造の変化を受けることがなく、空隙が少なくなることもなく、空気(気相)の確保ができる。
【0029】
従って、根系1aによる水分の保持と空気の確保による三相構造は、播種後における発芽、生育に適した環境であり、植物を効率よく栽培できることになる。
【0030】
上記切り株1の穴4によって得られた根圏培地は、切り株1の根系1aが土壌を耕耘した状態となっているので、新たな耕耘の必要がなく、穴4を開けてそこに種5を落とすだけなので、乾田不耕起栽培の一段の省力化が図れる。
【0031】
また、切り株1の穴4に播種することにより、切り株1の地面に突出する部分で種の存在が見つかることがなく、発芽後の種皮も見つからないので、鳥害の発生がなく、しかも、切り株1の直根がしっかりしているので、切り株1の直根に沿って根が伸びることで発芽後の根付き性がよくなり、切り株1の直根がしっかりしているので苗が倒伏しないので、図4のように、植物の順調な生育が得られることになる。
【0032】
上記のように、切り株1の株間2(条間)を踏圧することにより、株間2での雑草の発芽、生育を防ぐことができ、雑草の除草作業及び雑草による植物の生育の妨げを少なくすることができ、また、切り株1の株間2の流水性を向上させ、多量の水が入った場合に、表面流水で株間2に入る水量を調整できる。
【0033】
なお、この発明の不耕起栽培方法は、水稲の栽培に限定されるものではなく、各種植物の栽培に適用することができ、水稲を栽培する場合は、発芽後に入水すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】この発明の第1の実施の形態である乾田不耕起栽培方法の工程を示し、(a)は乾田に残る前作の切り株を示す縦断面図、(b)は切り株に穴を開ける状態の縦断面図、(c)は切り株に開けた穴に播種した状態の縦断面図
【図2】この発明の第2の実施の形態である潤土不耕起栽培方法の工程を示し、(a)は潤土に残る前作の切り株を示す縦断面図、(b)は切り株に穴を開ける状態の縦断面図、(c)は切り株に開けた穴に播種した状態の縦断面図
【図3】この発明の第2の実施の形態である潤土不耕起栽培方法の他の例を示す播種した状態の縦断面図
【図4】この発明の不耕起栽培方法による水稲の生育状態を示す縦断面図
【図5】従来の乾田不耕起栽培方法による水稲の生育状態を示す縦断面図
【符号の説明】
【0035】
1 切り株
2 株間
3 穴開け具
4 穴
5 種

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾田に残る前作の切り株の株間を踏圧し、前記切り株に上から穴を開けて根圏培地中に播種する不耕起栽培方法。
【請求項2】
落水した潤土田面に残る前作の切り株の株間を踏圧し、前記切り株に上から播種する不耕起栽培方法。
【請求項3】
上記切り株に上から穴を開けて根圏培地中に播種する請求項2に記載の不耕起栽培方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−35857(P2008−35857A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−177331(P2007−177331)
【出願日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(000250007)有光工業株式会社 (30)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】