説明

不飽和ポリエステルオリゴマーの製造方法

【構成】 〔I〕(1)(メタ)アクリル酸(2)多塩基酸またはその酸無水物(3)多価アルコールを、トルエンと前記(1),(2)および(3)成分の総重量に対して0.01〜1重量%の硫酸の存在下に、100〜150℃で縮合反応を行って、分子末端に少くとも1個の(メタ)アクリロイル基を有する分子量300〜3,000の不飽和ポリエステルオリゴマーを合成し、〔II〕エステル化終了後に硫酸を中和するに必要なアルカリ土金属の酸化物または水酸化物を加えて水に難溶性の硫酸塩(水に対する溶解度0.5g/100cc)を形成させる。
【効果】 簡便容易に、ゲル化を生じることなく、かつ収率良く水に難溶性の硫酸塩を含むポリエステルアクリレートが得られ、このポリエステルアクリレートを硬化した硬化樹脂は均一であり、物性も優れている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、FRP、塗料、注型、といった各種用途に利用可能な、(メタ)アクリロイル基を有する不飽和ポリエステルオリゴマー(一般にポリエステルアクリレートなる名称で呼ばれている)の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】数平均分子量が数百〜数千の(メタ)アクリロイル基を1個以上有する不飽和オリゴマーを一般にオリゴアクリレートと呼称するが、オリゴアクリレートの中でもエポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸との反応生成物であるビニルエステル樹脂、または(メタ)アクリロイル基を有する不飽和アルコールとジイソシアナート更にはポリオール成分とを反応させて得られるウレタンアクリレートは、FRP、光硬化性レジン、コーティング用レジンとして多量に利用されているが、ポリエステルアクリレートは用途的にも光硬化性レジンの変性剤、またはエポキシ樹脂用硬化剤の変性に利用される程度で、量的にも前2者に比較して格段に少い。
【0003】その理由の一つは、ポリエステルアクリレートの製造方法が他のオリゴアクリレートに比較して面倒であることがあげられる。即ち、ビニルエステル樹脂、ウレタンアクリレートは、いずれも無溶剤、またはモノマー中でモノマーを溶剤として反応し、反応終了後はモノマー存在下でそのまま利用することができ、頗る容易に製造可能であるのに反して、ポリエステルアクリレートの製造は一般に水と共沸可能な有機溶剤(普通はベンゼンないしトルエン)中で、強酸性のエステル化触媒を多量に用い、100℃以下の低温で(メタ)アクリル酸、多塩基酸またはその酸無水物、多価アルコールをエステル化し、生成する水は有機溶剤と共に共沸させて溜去することによって行われている。
【0004】低温でのエステル化は、生成オリゴアクリレートのゲル化を防止する点から必要とされており、この点から実質的に利用される有機溶剤はベンゼンで、エステル化は100℃以下で行われる。また、低温でのエステル化の場合には硫酸、パラトルエンスルホン酸といった強酸を成分の総重量に対して1〜3重量%、必要に応じてはそれ以上をエステル化触媒として使用する。従って、ポリエステルアクリレートを合成する場合、ポリエステルアクリレート合成後に、有機溶剤とエステル化触媒とは除かなければならない。例えば、エステル化触媒として硫酸を使用した場合、硫酸を除くには炭酸ソーダ、重炭酸ソーダなどの弱アルカリで中和し、水洗することが一般的であり、事実多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステルの合成においては全てこのようにしてエステル化触媒を除いている。
【0005】多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステルの場合は、水との分離は容易であるが、ポリエステルアクリレートの場合は理由は必ずしも明らかではないが、洗浄水とエマルジョン状態を形成し、容易には分離しなくなる。従ってポリエステルアクリレートの場合は、加温、長時間の放置、遠心分離などの手段が必要となり著しく工数を要する上、収率も甚しく低下する。しかも、洗浄は生成硫酸塩を実用上十分なレベルに迄除くためには、数回行わなければならない。以上のように、ポリエステルアクリレートの製造は、比較的煩雑であるためか、原料コストは比較的低廉であるのにも拘らず、市販されているポリエステルアクリレートの価格は1,000円/kgを超えており、汎用樹脂としての位置付けではない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、前記従来のポリエステルアクリレートの製造方法の欠点を改良し、簡便容易に、ゲル化なく、しかも収率よくポリエステルアクリレートを製造する方法を提供するにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、ポリエステルアクリレートが他のオリゴアクリレートと異なり、モノマーを併用しなくとも低粘度である点に注目し、その応用範囲の拡大を前提にポリエステルアクリレートの合成方法を検討した結果、製造の最もネックとなっている洗浄工程を避ける意味から、エステル化触媒として硫酸を用い、その使用量をモノマー成分の総重量に対して0.01〜1重量%、望ましくは0.1〜0.5重量%とし、エステル化終了後に水の存在下に硫酸を中和するに必要なアルカリ土金属の酸化物または水酸化物を加え、水に難溶性の硫酸塩を形成させることによって、水洗工程を省略可能なことを見出し、本発明を完成させることができた。
【0008】即ち、本発明は、〔I〕(1)(メタ)アクリル酸(2)多塩基酸またはその酸無水物(3)多価アルコールを、トルエンと前記(1),(2)および(3)成分の総重量に対して0.01〜1重量%の硫酸の存在下に、100〜150℃で縮合反応を行って、分子末端に少くとも1個の(メタ)アクリロイル基を有する分子量300〜3,000の不飽和ポリエステルオリゴマーを合成し、〔II〕エステル化終了後に硫酸を中和するに必要なアルカリ土金属の酸化物または水酸化物を加えて硫酸塩を形成させ、かつ該硫酸塩の水に対する溶解度が0.5g/100cc以下であることを特徴とする、不飽和ポリエステルオリゴマーの製造方法に関する。
【0009】本発明は、形成される硫酸塩が水に難溶、即ち水に対する溶解度が室温(20〜30℃)で0.5g/100cc以下であれば、ポリエステルアクリレート中に残留していても実用的には差支えないことを見出した点に基づいている。水に溶解し易い塩の残留は、溶出による硬化樹脂の不均一化、物性の低下を生じ、望ましくない悪影響を及ぼす。
【0010】本発明の対象となるポリエステルアクリレートを構成する成分は次の3種類である。
【0011】(1)(メタ)アクリル酸アクリル酸およびメタクリル酸があげられ、本発明においてはアクリル酸およびメタクリル酸を含めて(メタ)アクリル酸と呼ぶ。
【0012】(2)多塩基酸またはその酸無水物多塩基酸としては、飽和または不飽和の多塩基酸があげられる。代表例としては、例えば、無水フタル酸、無水マレイン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ヘット酸があげられる。イソフタル酸、テレフタル酸などの高融点で有機溶剤に溶け難い種類の多塩基酸は、そのメチルエステルを所望のグリコールでエステル交換を行い、グリコールエステルとして用いるか、またはグリコールと直接エステル化を行い、次いで(メタ)アクリル酸とのエステル化を行うかによる。
【0013】(3)多価アルコール多価アルコールは2価以上の種類が用いられ、特に制限を加える必要はない。それらの例をあげると、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール−1,3、ブタンジオール−1,4、ネオペンチルグリコール、3−メチルプロパンジオール−1,3、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、3−メチルペンタンジオール−1,5、ノナメチレングリコール、ビスフェノールAエチレンオキシド付加物、ビスフェノールAプロピレンオキシド付加物、水素化ビスフェノールA、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリメチロールプロパンモノアリルエーテル、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリット、などである。モノエポキシドも利用可能である。また、以上の各モノマー成分の相互の併用も可能である。
【0014】(メタ)アクリル酸、多塩基酸またはその酸無水物および多価アルコールの使用割合は、所望の分子量によって相違し、適宜に決められる。
【0015】エステル化は、最初多塩基酸またはその酸無水物と多価アルコールとを所望の段階迄エステル化してからトルエン、(メタ)アクリル酸および硫酸を加えて行っても良く、または(メタ)アクリル酸、多塩基酸またはその酸無水物、多価アルコール、トルエンおよび硫酸の全部の成分を一括して最初に混合しエステル化しても良い。
【0016】本発明でエステル化の際に使用する有機溶剤は、水と共沸する必要があり、硫酸の存在下でも安定なこと、並びに反応温度が100℃以上であることなどを加味すると、トルエンでなければならない。エステル化の際に用いるトルエンの使用量には、特に制限はなく適宜決定すれば良いが、余り多く使用すると反応終了後の共沸分離に長時間を要するので(メタ)アクリル酸、多塩基酸またはその酸無水物および多価アルコールのモノマー成分の総重量に対して50重量%以下が好ましい。
【0017】また、エステル化の際に用いる硫酸の使用量は、モノマー成分の総重量に対して0.01〜1重量%である。硫酸の使用割合が0.01重量%未満では、触媒作用が不十分でエステル化が進行し難く、また1重量%を超えると副反応の生成、中和剤の多量使用による、白濁による外観を損うこと、などの欠点がある。
【0018】エステル化温度は、100〜150℃の範囲である。エステル化温度が100℃未満では、エステル化の進行が不十分であり、また150℃を超えるとゲル化し易くなる欠点がある。エステル化温度は、硫酸の使用量によって上記範囲内で相違し、例えば硫酸の使用量が1重量%以下、望ましくは0.5重量%以下0.1重量%以上ではエステル化温度が120〜130℃となる。
【0019】エステル化の進行は、トルエンと共沸して溜出する水分を分離することでチェックされる。
【0020】エステル化反応終了後に、硫酸をアルカリ土金属の酸化物または水酸化物で中和する時は、系全体で約3重量%以上の水分の存在が必要で、実際にはアルカリ土金属の酸化物または水酸化物の水溶液を用いるのが便利である。中和後、トルエンと水は溜去する。
【0021】本発明に有用な硫酸と反応して難溶性の硫酸塩を生成するアルカリ土金属の酸化物または水酸化物としては、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、などがあげられ、これらの中でも酸化バリウム、水酸化バリウムが生成する硫酸バリウムの難溶性の点で優れており、取扱い性を考慮するならば水酸化バリウムが最も本発明の目的には適している。
【0022】中和して生成する硫酸塩の水に対する溶解度は、室温(20〜30℃)で0.5g/100cc以下である。硫酸塩の水に対する溶解度が0.5g/100ccを超える場合は、硫酸塩の溶出による硬化樹脂の不均一化、物性の低下を生じ、好ましくない悪影響を及ぼす。
【0023】本発明により製造されるポリエステルアクリレートの数平均分子量は300〜3,000である。数平均分子量が300未満では実際問題として多官能モノマーであり、硬化性、物性の点でオルゴアクリレートとは異なる。また、数平均分子量が3,000を超えると、粘度が高くなってポリエステルアクリレートの特長が損われる他、硬化性が遅く不十分となり、硬化樹脂の物性も低下の傾向がみられる。
【0024】本発明により得られるポリエステルアクリレートは、半透明の白濁した低〜高粘度液状であるが、その応用に当ってはモノマー類、ポリマー類、補強材、フィラー、着色剤などを併用できることは勿論である。
【0025】
【実施例】次に本発明の理解を助けるために、以下に実施例を示す。
【0026】実施例1撹拌機、分溜コンデンサー、温度計、ガス導入管を付した1リットルのセパラブルフラスコに、無水フタル酸296g、エチレングリコール260gを仕込み、窒素気流中190〜195℃でエステル化を行い、酸価5.9とした後温度を110℃に下げ、トルエン280g(35重量%)を加えて均一に溶解させた。分溜コンデンサーをDean−Stark型共沸分溜装置に変え、メタクリル酸172g、濃硫酸2g、ハイドロキノン0.05gを加え、115〜125℃にて生成する縮合水をトルエンと共に反応系外に共沸分離した。水の発生が認められなくなった時点で温度を60℃に下げ、水酸化バリウム7.5g(8H2O結晶水付加したものの量)を飽和水溶液として加えた。系は直ちに白濁した。そのままの状態で30分撹拌を続け、80メッシュのナイロン布で濾過した後、最終的には3〜5Torrの減圧下60℃でトルエンと水とを溜去した。
【0027】得られたポリエステルアクリレート(A)は、やや透明感のある白濁で粘度が4.1ポイズであった。硫酸塩の水に対する溶解度は、0.285mg/100cc(30℃)であった。また、ポリエステルアクリレート(A)を下記の分析条件でGPC分析を行った結果、図1にみられるように数種類のオリゴマーの混合体であることが確認された。ポリエステルアクリレート(A)の数平均分子量は約450であった。
GPC分析条件カラム:Shodex GPC KF−80MShodex GPC KF−80I移動相:THF流量 :1ml/min検出器:SHIMAZU RID−6A温度 :室温
【0028】ポリエステルアクリレート(A)100重量部に、硬化剤としてメチルエチルケトンパーオキシド2重量部、ナフテン酸コバルト0.3重量部、ピロリジンアセチルアセトネート〔日本乳化剤(株)ナックスレーターP〕0.2重量部を加えたものは室温中10分でゲル化し、ゆるやかに発熱、硬化した。硬化樹脂のバーコル硬さは53、曲げ強さは12.9〜15.0kg/mm2であった。
【0029】また、ポリエステルアクリレート(A)90重量部にスチレン10重量部、アクリル酸1重量部を混合した樹脂(I)に、前記ポリエステルアクリレート(A)に配合したと同一の硬化剤を同量加えた場合は16分でゲル化した。
【0030】#450のガラスマット3プライに硬化剤(メチルエチルケトンパーオキシド2重量部、ナフテン酸コバルト0.3重量部、ピロリジンアセチルアセトネート0.2重量部)を含む樹脂(I)を含浸、室温で硬化させた後、80℃2時間でアフターキュアを行った。得られたFRPの曲げ強さは、22.4〜24.9kgf/mm2(ガラス含有率29.1%)と良好な値を示した。
【0031】実施例2撹拌機、Dean Stark型共沸分溜装置、ガス導入管、温度計を付した2リットルのセパラブルフラスコに、メチルテトラヒドロ無水フタル酸332g、ジエチレングリコール350g、アクリル酸144g、トルエン445g(35重量%)、硫酸3g、ハイドロキノン0.2gを仕込み、空気気流中115〜125℃で縮合水が溜出しなくなるまでエステル化を行った後、温度を80℃に下げ酸化バリウム4.8g、水100ccを加え、同温度で1時間撹拌を行った。次いで60℃で最終的には約5Torrの減圧下でトルエンと水とを溜去した。得られたポリエステルアクリレート(B)は、やや透明感のある乳白色で室温ではシラップ状となった。ポリエステルアクリレート(B)の数平均分子量は、約760であった。また、硫酸塩の水に対する溶解度は、0.285mg/100cc(30℃)であった。
【0032】ポリエステルアクリレート(B)80重量部、スチレン20重量部、メチルエチルケトンパーオキシド1.5重量部、オクチル酸コバルト(8%Co)0.5重量部を配合した系は30分でゲル化した。
【0033】ボンデライト鋼板上に、上記ポリエステル(B)80重量部、スチレン20重量部、メチルエチルケトンパーオキシド1.5重量部、オクチル酸コバルト(8%Co)0.5重量部からなるコーティング剤を0.2m/m厚に塗装した塗膜は、約60分でゲル化後一夜放置で表面乾燥し、鉛筆硬度F、ゴバン目密着テスト100/100、5m/mφ の180度折曲げでも剥離しなかった。
【0034】
【発明の効果】本発明の製造方法によれば、簡便容易に、かつゲル化を生じることなく、収率良くポリエステルアクリレートを得ることができる。また得られたポリエステルアクリレートは、エステル化触媒を少量使用して合成され、それから形成される硫酸塩は水に難溶性であるため、ポリエステルアクリレート中に残留していても溶出による硬化樹脂の不均一化、物性の低下を生じることはない。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で得られたポリエステルアクリレート(A)のGPC測定結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 〔I〕(1)(メタ)アクリル酸(2)多塩基酸またはその酸無水物(3)多価アルコールを、トルエンと前記(1),(2)および(3)成分の総重量に対して0.01〜1重量%の硫酸の存在下に、100〜150℃で縮合反応を行って、分子末端に少くとも1個の(メタ)アクリロイル基を有する分子量300〜3,000の不飽和ポリエステルオリゴマーを合成し、〔II〕エステル化終了後に硫酸を中和するに必要なアルカリ土金属の酸化物または水酸化物を加えて硫酸塩を形成させ、かつ該硫酸塩の水に対する溶解度が0.5g/100cc以下であることを特徴とする、不飽和ポリエステルオリゴマーの製造方法。

【図1】
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