説明

両性リポソーム及びその使用

【課題】有効成分の効率の良い封入を可能にし、これらの活性成分を生体細胞へ運搬することができ、生体内条件下での使用に適合でき、簡単にかつ安価に製造することができる、リポソーム構造を提供する。
【解決手段】正電荷担体と、該正電荷担体と異なる負電荷担体とを含む。リポソームが4〜8に等電点を有し、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、コレステロール、テトラエーテル脂質、セラミド、スフィンゴ脂質及び/又はジアクリルグリセロールからなる群より選ばれた中性脂質を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜固定型又は膜形成型の正電荷担体と負電荷担体を同時に含む両性リポソーム及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
脂質の概念は、3種類の天然産物を含み、リン脂質、スフィンゴ脂質、コレステロールをその誘導体とともに生体膜から分離することができる。しかしながら、同様の特性をもつ合成的に生産された物質も含んでいる。代表例として、ジアシルグリセロール、ジアルキルグリセロール、3-アミノ-1,2-ジヒドロキシプロパンエステル又はエーテル、又はN,N-ジアルキルアミンが挙げられる。
これらの物質は、リポソームの調製に技術的に興味深いものである。リポソームの使用の一つは、医薬製剤における有効成分の容器としてのものである。このためには、カーゴの効率の良い安定な内包、体液との適合性、中身の制御可能な、場合によっては部位特異的な放出が望ましい。
欠点は、2つの要求を組み合わせることが難しいことである。内包が強固で安定になるほど、封入された有効成分をもう一度放出させることが難しくなる。このために、外部刺激に対する反応において性質を変化させるリポソームが開発された。熱感受性リポソームやpH感受性リポソームが既知である。pH感受性リポソームは、このパラメータが細胞内でリポソームをエンドサイトーシス吸収する間又は胃腸間を通過する間のように生理的環境によって変化することができるので特に興味深いものである。当該技術の状況によれば、pH感受性リポソームは、特に、コレステロールヘミスクシネート(CHEMS)を含んでいる。
コレステロールヘミスクシネートは、pH感受性リポソームを調製するためにホスファチジルエタノールアミンと混合して用いられる(Tachibana et al.(1998); BBRC 251:538-544, 米国特許第4,891,208号)。そのようなリポソームは多くの細胞によってエンドサイトーシスすることができ、このようにしてカーゴ分子を細胞の内部へ細胞膜の多能性を損傷させずに運搬することができる。
CHEMSの陰イオンの性質は、非常に不利である。それにより調製されたリボザイムは全体が負電荷であり、低効率でしか細胞によって吸収されない。それ故、上記運搬メカニズムにもかかわらず、高分子を細胞へ運搬するのにほとんど適しない。
【0003】
最も起こり得る一定の表面電荷をもつ陽イオンリポソームは、有効成分を細胞へ運搬するために用いられる(トランスフェクション)。そのような粒子の全体の正電荷により、細胞に対する静電的接着が生じ、結果として、細胞へ効率良く運搬される。しかしながら、これらの化合物とリポソームの使用は、そのような正に荷電したリポソームが血清成分と制御されない凝集体を形成するので試験管内又は試験管外の使用に制限される。
非常にわずかなpK値、一般的にはコレステロールヘミスクシネート中のカルボキシル基のpK値(約4.5)に対する制限は、当該技術の状況に従って用いうるpH感受性リポソームの欠点である。該化合物の欠点は、更に、負電荷担体に対する制限である。これらは、核酸を結合するのに適さず、しばしばタンパク質を効率良く結合するのにも適さない。
陽イオンリポソームは核酸やタンパク質の結合が良好であり、有効成分を細胞へ運ぶ位置にある。生体内適用に用いることができないことが欠点である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
それ故、
i)有効成分の効率の良い封入を可能にする、
ii)これらの活性成分を生体細胞へ運搬することができる、
iii)生体内条件下での使用と適合できる、
iv)簡単にかつ安価に製造することができる、
リポソーム構造を作製することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の目的は、等電点が4〜8の間にある、少なくとも1種の正電荷担体と少なくとも1種の負電荷担体とを含む両性リポソームによって達成される。本目的は、リポソームがpH依存性の変化する電荷により調製される事実に基づいて達成される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1A】ヒーラー細胞(3×105)をリポソーム(POPC/DOTAP/CHEMS 60/30/10)でトランスフェクションした時の電子顕微鏡写真を示す。
【図1B】CHO細胞(3×105)をリポソーム(POPC/DOTAP/CHEMS 60/30/10)でトランスフェクションした時の電子顕微鏡写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
所望の性質をもつリポソーム構造は、例えば、膜形成型又は膜固定型陽イオン電荷担体の量が低pHの陰イオン電荷担体の量を超えるとともに割合が高いpHにおいては逆転する場合に形成される。このことは、イオン性成分のpKa値が4〜9の間にある場合に常にあてはまる。媒体のpHが下がるにつれて、カチオン電荷担体はすべて更に荷電され、陰イオン電荷担体はすべてその電荷を消失する。
【0008】
本発明とともに次の略号が用いられる。
CHEMS コレステロールヘミスクシネート
PC ホスファチジルコリン
PE ホスファチジルエタノールアミン
PS ホスファチジルセリン
PG ホスファチジルグリセロール
Hist-Chol ヒスチジニルコレステロールヘミスクシネート
【0009】
膜形成型又は膜固定型電荷担体は、下記の両親媒性の一般構造を有する。
電荷基−膜固定因子
天然に知られるシステム又はその技術的に修飾された形態は、膜固定因子としてみなされる。特に、ジアシルグリセロール、ジアシルホスホグリセロール(リン脂質)又はステロール、また、ジアルキルグリセロール、ジアルキル-又はジアシル-1-アミノ-2,3-ジヒドロキシプロパン、炭素原子8〜25個を有する長鎖アルキル又はアシル、スフィンゴ脂質、セラミド等が含まれる。これらの膜固定因子は、当該技術において既知である。これらの固定因子と組合わせる電荷基は、下記の6群に分類することができる。
強陽イオン、pKa>9、実効正電荷:化学的性質に基づいて、例えば、アンモニウム基、アミジニウム基、グアニジウム基又はピリジニウム基又は適切には第二又は第三アミノ官能基。
【0010】
弱陽イオン、pKa<9、実効正電荷:化学的性質に基づいて、特に、窒素塩基、例えば、ピペラジン、イミダゾール又はモルホリン、プリン又はピリミジンである。生物系に存在するそのような分子断片は、例えば、4-イミダゾール(ヒスタミン)、2-、6-、又は9-プリン(アデニン、グアニン、アデノシン又はグアノシン)、1-、2-又は4-ピリミジン(ウラシル、チミン、シトシン、ウリジン、チミジン、シチジン)又はピリジン-3-カルボン酸(ニコチン酸エステル又はアミド)であることが好ましい。
【0011】
好ましいpKa値をもつ窒素塩基は、窒素原子を低分子量アルカンヒドロキシル、例えば、ヒドロキシメチル基又はヒドロキシエチル基で一度以上置換することにより形成される。例えば、アミノジヒドロキシプロパン、トリエタノールアミン、トリス-(ヒドロキシメチル)メチルアミン、ビス-(ヒドロキシメチル)メチルアミン、トリス-(ヒドロキシエチル)メチルアミン、ビス-(ヒドロキシエチル)メチルアミン又は対応する置換エチルアミン。
中性又は両性イオン、pH4〜9:化学的性質に基づいて、中性基、例えば、ヒドロキシル、アミド、チオール、又は強陽イオン基と強陰イオン基の両性イオン基、例えば、ホスホコリン又はアミノカルボン酸、アミノスルホン酸、ベタイン又は他の構造である。
【0012】
弱陰イオン、pKa>4、実効負電荷:化学的性質に基づいて、特に、カルボン酸である。炭素原子12個までとエチレン系不飽和結合0個、1個又は2個を有する脂肪族、直鎖又は分枝鎖モノ、ジ又はトリカルボン酸が含まれる。適切な振る舞いのカルボン酸は、芳香族系の代替品としても見出されている。
他の陰イオン基はヒドロキシル又はチオールであり、これらは解離することができ、アスコルビン酸、N置換アロキサン、N置換バルビツール酸、ベロナール、フェノールに又はチオール基として存在することができる。
強陽イオン、pKa<4、実効負電荷:化学的性質に基づいて、スルホン酸エステル又はリン酸エステルのような官能基である。
両性電荷担体、pI4.5〜8.5、pIより小さい実効正電荷、pIより大きい実効負電荷:化学的性質に基づいて、これらの電荷担体は上で示された群の2つ以上の断片から構成される。本発明を実施する場合、始めには、荷電基が同一の膜固定因子上にあっても異なる固定因子上にあっても重要でない。本発明を実施する場合、pI5〜7の両性電荷担体が特に好ましい。
【0013】
強陽イオン化合物は、例えば、次のものである。
DC−Chol 3-β-[N-(N',N'-ジメチルエタン)カルバモイル]コレステロール、
TC−Chol 3-β-[N-(N',N',N'-トリメチルアミノエタン)カルバモイルコレステロール
BGSC ビスグアニジニウム−スペルミジン−コレステロール
BGTC ビス−グアジニウム−トレン−コレステロール、
DOTAP (1,2-ジオレオイルオキシプロピル)‐N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド
DOSPER (1,3-ジオレオイルオキシ-2-(6-カルボキシ-スペルミル)プロピルアミド
DOTMA (1,2-ジオレオイルオキシプロピル)-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド)(Lipofectin(登録商標))
DORIE (1,2-ジオレオイルオキシプロピル)-3-ジメチルヒドロキシエチルアンモニウムブロミド
DOSC (1,2-ジオレオイル-3-スクシニル-sn-グリセリルエステル)
DOGSDSO (1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-スクシニル-2-ヒドロキシエチルジスルフィドオルニチン)
DDAB ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド
DOGS ((C18)2GlySper3+) N,N-ジオクタデシルアミド-グリコール-スペルミン(Transfectam(登録商標))
【0014】
(C18)2Gly+ N,N-ジオクタデシルアミド-グリシン
CTAB セチルトリメチルアンモニウムブロミド
CpyC セチルピリジニウムクロリド
DOEPC 1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-エチルホスホコリン又は他のO-アルキル-ホスファチジルコリン又はエタノールアミン
アミド リシン、アルギニン又はオルニチン又はホスファチジルエタノールアミンからのもの。
【0015】
弱陰イオン化合物の例は、His-Chol ヒスタミニル-コレステロールヘミスクシネート、Mo-Chol モルホリン-N-エチルアミノ-コレステロールヘキスクシネート又はヒスチジニル-PEである。
中性化合物の例は、コレステロール、セラミド、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、テトラエーテル脂質又はジアシルグリセロールである。
弱陰イオン化合物の例は、CHEMSコレステロールヘミスクシネート、炭素原子8〜25個を有するアルキルカルボン酸又はヘミコハク酸ジアシルグリセロールである。追加の弱陰イオン化合物は、アスパラギン酸、又はグルタミン酸とPE又はPS又はそのアミドのグリシン、アラニン、グルタミン、アスパラギン、セリン、システイン、トレオニン、チロシン、グルタミン酸、アスパラギン酸又は他のアミノ酸又はアミノジカルボン酸によるアミドである。同じ原理に従って、ヒドロキシカルボン酸又はヒドロキシジカルボン酸とPSのエステルも弱陰イオン化合物である。
【0016】
強陰イオン化合物は、例えば、SDSドデシル硫酸ナトリウム、硫酸コレステロール、リン酸コレステロール、コレステリルホスホコリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチド酸、ホスファチジルイノシトール、リン酸ジアシルグリセロール、硫酸ジアシルグリセロール、リン酸セチル又はライオソリン脂質である。
両性化合物は、例えば、
Hist-Chol Nα-ヒスチジニル-コレステロールヘミスクシネート、
EDTA-Chol エチレンジアミン四酢酸のコレステロールエステル
Hist-PS Nα-ヒスチジニル-ホスファチジルセリン又はN-アルキルカルノシン
である。
本発明のリポソームは、両性の性質をもつように可変量の膜形成型又は膜固定型両親媒性物質を含有する。このことは、リポソームが電荷の記号を完全に変え得ることを意味する。媒体の一定のpHで存在するリポソームの電荷担体の量は、下記式を用いて計算することができる。
z=Σni((qi−1)+10(pK-pH)/(1+10(pK-pH))
(式中、qiは個々のイオン基のpKより小さい絶対電荷(例えば、カルボキシル=0、簡単な窒素塩基=1、第2解離段階のリン酸基=-1等)であり、
niはリポソーム中のこれらの基の数である。)
【0017】
等電点におけるリポソームの実効電荷は、0である。等電点がおおむね選択可能な構造は、陰イオン部分と陽イオン部分を混合することにより作製し得る。
その構造は、特に、pHが下がるにつれて、分子の電荷が全体として実際には負から正に変化するように作ることができる。そのような電荷の逆反応は、その構造により製造されたリポソームが生理的相互関係で用いられる場合に特に有利である。全体が負電荷のリポソームのみが血液成分や血清成分と適合できる。正電荷により凝集を生じる。しかしながら、正電荷をもつリポソームは、融合誘導的に非常に良好であり、有効成分を細胞へ運搬することができる。それ故、電荷のpH依存性逆反応は、化合物が負電荷をもつことから血清と適合できる化合物を作ることを可能にする。しかしながら、エンドサイトーシス吸収後、それらの電荷は逆転し、細胞内でのみ融合誘導する。
本発明の実施態様の好適実施態様においては、両性リポソームの等電点は5〜7の間にある。
【0018】
本発明は、また、等電点が4〜8の間にある少なくとも1種の両性電荷担体を含む両性リポソームに関する。
好適態様においては、リポソームの両性電荷担体の等電点は5〜7の間にある。
本発明は、また、少なくとも1種の両性電荷担体と陰イオン及び/又は陽イオン電荷担体とを含む、両性リポソームに関する。
好適態様においては、両性リポソームの等電点は5〜7である。
本発明の特別の態様においては、本発明のリポソームは、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ジアシルグリセロール、コレステロール、テトラエーテル脂質、セラミド、スフィンゴ脂質、及び/又はジアシルグリセロールを含んでいる。しかしながら、リポソームの調製は、本発明の教示の多くの脂質を組合わせて行うことができることは当然のことである。例えば、リポソームは多量のCHEMS(約40%)と少量のDOTAP(約30%)を用いて合成することができる。CHEMSのカルボキシル基のpKにおけるこの成分の負電荷はこれまですでに抑えられ、正電荷担体が全体を支配している。代替的製剤は、CHEMSとHis-Cholとの混合であり、正電荷担体HistCholの強い荷電が負のCHEMSの放電と相乗作用的に進む。
【0019】
それ自体では両性であるHis-Cholが、例えば、ホスファチジルコリンの中性膜内に組込まれる場合には、His-Cholにおおむね相当する等電点をもつ両性リポソームが結果として生じる。
本発明の教示の多数の態様によって下記の重要なパラメータがどのように適合し得るかは当業者に既知である。
(i)用いられる電荷担体の量やpKa値による電荷逆反応の終点におけるリポソームの電荷密度、
(ii)絶対量や2種の相補的pH感受性脂質の最適相乗作用による、2種の電荷担体比からの電荷逆反応曲線の勾配、
(iii)2種の電荷担体の比又は1つ又は複数のpK値の位置に基づくゼータ電位のゼロ通過。
【0020】
本発明の態様においては、更に、リポソームの平均サイズは50〜1000nm、好ましくは70〜250nm、特に60〜130nmである。両性リポソームは、既知の方法によって、例えば、エタノールを水性緩衝液中の脂質溶液によって、乾燥脂質膜を水和することによって又はデタージェント透析によって合成される。リポソームのサイズは、通常は50nm〜10,000nmに変動し得る。高圧ホモジネーション又は押出しによって均一な集団を作製することができる。
本発明の好適態様においては、リポソームは有効成分を含んでいる。
好適実施態様においては、有効成分は、タンパク質、ぺプチド、DNA、RNA、アンチセンスヌクレオチド及び/又はデコイヌクレオチドであることが当を得ている。
本発明の好適態様においては、更に、有効成分の少なくとも80%がリポソームの内部にある。
本発明は、また、リポソームに有効成分を充填する方法であって、決められたpHが封入に用いられ、該pHが結合していない物質を分離するための第二値に調整される、前記方法に関する。
【0021】
本発明は、更に、リポソームに有効成分を充填する方法であって、決められたpHでリポソームが透過化処理され密閉される、前記方法に関する。
本発明は、また、脂質層上にポリマー又は高分子電解質を付着させることによりナノカプセルを調製するためのリポソームの使用に関する。そのような物質は、表面上に1回以上沈殿させることができる。架橋剤の存在しないときに行われてもよい反復付着においては、国際出願第00/28972号又は国際出願第01/64330号に記載される種類のリポソームナノカプセルが形成される。ここに記載される物質が用いられる場合に高分子電解質との静電的相互作用が中断されることは有利である。高分子電解質とリポソーム膜の荷電担体との相互作用により膜成分の脱混合や脂質集合体の形成をまねき得ることは既知である。多くの場合、この脱混合はリポソームの透過化処理と関連がある。本発明の物質は、コーティングプロセス後にこの相互作用のスイッチを切ることを可能にする。このときにpHが上がり、膜と高分子電解質間の相互作用がもはやない場合には、リポソームがナノカプセル内に立体的にのみ封入される。従って、脂質の集合体形成と、それと関連がある膜の透過化処理を避けることができる。
【0022】
本発明は、また、有効成分を内包させ放出させるための本発明のリポソームの使用に関する。この態様においては、リポソームにより、特に、核酸のような有効成分の効率の良い内包がもたらされる。核酸を前記脂質と、特に低pH(約3〜6)でインキュベートする。リポソームの形成後、外側に付着した核酸を候pH(約7〜9)に変えることにより洗い流すことができる。
タンパク質を内包させるために類似の手順を使用し得る。有利には、媒体のpHは、リポソームのpIとタンパク質のpI間にある値に調整される。2つのpI値が1単位より多く離れている場合には特に有利であることがわかった。
本発明の態様においては、更に、リポソームは診断のための放出システムを調製するために用いられる。
本発明の好適態様においては、リポソームはトランスフェクションシステムとして、即ち、有効成分を細胞へ移入するために用いられる。
【0023】
本発明の態様においては、更に、リポソームは膜の融合又は透過化処理による内容物の制御放出のために用いられる。例えば、それ自体では膜形成しない脂質のリポソームをPEのような電荷担体の組込みによって安定化することができる。電荷担体を中性状態、非荷電状態又は両性イオン状態へ変換する場合には、膜の透過性を上げる。当該技術の状況の既知のリポソーム(PE/CHEMS、Tachibana et al.)は、エンドソームの内部で又は胃の通過中の生理条件下でのみ得られる低pH値でそのような透過化処理を可能にする。両性リポソームは、中和点が好ましい4〜9にあるような方法で上記基準によって作製し得る。これらの条件下、リポソームは透過性であり、カーゴを媒体に送達し得る。
【0024】
しかしながら、リポソーム製剤は、透過性の小さい条件下で作製、処理、貯蔵し得る。本発明の好適実施態様においては、リポソームは生理的pHの条件下でカーゴを放出するが、低pHでしっかりとカーゴを封入するように製造される。そのようなリポソームは、放出速度論が緩慢な製剤の調製に特に適し、放出は体液との接触によってのみ開始され、貯蔵又は運搬中には開始されない。
それ故、本発明の教示の好適実施態様は、治療のためのリポソームの使用、特にリポソームの特定のターゲッティングを用いるそのような使用からなる。わずかな非特異的結合は、リポソームを標的場所に運搬するのに必要条件である。これと対照的に、高非特異的結合は標的場所にリポソームを運搬することを防止する。特異的結合は、当該技術の状態の基準によって、即ち、リポソームのサイズを選択することにより、又は細胞表面の標的受容体に結合するリポソーム表面にリガンドを結合することにより得ることができる。リガンドは、例えば、抗体又はその断片、糖、ホルモン、ビタミン、ぺプチド、例えば、arg-gly-asp (RGD)、成長因子、ビリルビン又は他の成分であってもよい。
【0025】
本発明の教示の好適態様は、生体内条件下で治療適用又は診断適用のためのリポソームの使用に関する。好ましくは、そのようなリポソームは、非特異的結合がわずかであり、それにより、生理的条件下で融合する傾向がわずかであるが、変化した条件下で強くかつ高融合コンピテンスで結合するものである。そのようなリポソームは、生理的条件下で全体の粒子が陰イオン電荷であり、pH6.5で著しく陽イオン電荷である、両性リポソームである。そのようなpH値は、リポソームの細胞へのエンドサイトーシス中に起こる。そのようなpH値は、また、腫瘍内部や皮膚の外層で起こる。低pH値は、また、生体外器官をある時間潅流することにより得ることができる。それ故、高結合強度と融合コンピテンスは、細胞又は特殊な組織によってすでに吸収されたリポソームに限定される。結合強度と増加する融合コンピテンスは、リポソーム膜と細胞膜との融合を支持する。この事象により、エンドソームの溶解の成分を放出させずに、それにより、カーゴ又は細胞成分を危うくすることなく、カーゴが細胞の内部へ直接放出させることになる。
更に、徐放性製剤及び/又は循環デポとしてのリポソームの使用も適する。リポソームは、また、静脈内適用又は腹腔適用に有利に使用し得る。本発明の特に好ましい態様においては、リポソームは細胞の生体内、試験管内、生体外トランスフェクションのベクターとして用いられる。
【0026】
本発明のリポソームは、いくつかの利点がある。40%のHisCholとPCの陽イオン的に再電荷可能なリポソームは、中性pHの条件下でさえもDNAのような核酸を膜に結合する。驚くべきことに、上記リポソームが5%のPGを更に用いて製造され、その後、両性の性質をもつ場合には、この結合は完全に抑えられる。しかしながら、膜への核酸の結合は、pHを下げることにより再び回復し得る。それ故、本発明のリポソームは、核酸のpH依存性結合に特に良く適している。
【0027】
更に、驚くべきことに、一連のタンパク質が核酸について記載された方法の振る舞いをすることがわかった。例えば、抗体は中性pHで結合せず、わずかに酸性の条件下で本発明のリポソームの膜に結合する。そのような振る舞いは、中性脂質とCHEMSからのpH感受性リポソームの場合にも中性脂質とHisCholからのそのようなリポソームからも見出すことができない。それ故、両性リポソームの特別な性質である。驚くべきことに、既知の構成陽イオンリポソームと対照的に本発明のリポソームは血清と適合できることもわかった。それ故、本発明の教示の適切な実施態様は、治療的性質としてのリポソームの使用からなる。リポソームの利点は、既知の構成陽イオンリポソームと比べて、細胞に対する非特異的結合が著しく少ないことである。
【0028】
しかしながら、本発明のリポソームの融合コンピテンスが媒体のpHに左右されることは驚くべきことである。細胞の生体膜に比べて、融合コンピテンスは選定される脂質やリポソームの荷電によって求められる。通常、結合ステップは実際の融合の前にある。しかしながら、細胞膜へのリポソームの強い結合は、必ずしも好ましいとは限らず、具体的な細胞又は組織内で制御された条件下でのみ上記のように行われなければならない。
それ故、リポソームは、有効成分を細胞へ運搬するためのリポソームベクターを作るために使用し得る。ミセルを形成しない物質はすべて有効成分とみなされる。水溶性物質は、有効成分として特に適している。多くのタンパク質やぺプチド、特に抗体又は酵素又は抗原、独立した分子量とRNA又はDNA由来のすべての核酸が含まれる。しかしながら、他の生物学的高分子、例えば、複合糖、天然産物又は他の化合物、又はバリヤとして細胞膜を透過することができない合成又は天然由来の低分子量有効成分も含まれる。ベクターの援助により、そのような物質は、次に細胞の内部へ運搬することができ、その運搬を含まずに起こりえない作用を開始する。
従って、本発明の教示の援助により、融合と結合の性質が種々のpH値で異なるリポソームを調製することができる。それ故、多量の有効成分を積みかつ細胞内部へ運搬する血清適合性リポソームをこのようにして製造することができる。当業者は、本発明の教示の要素を相互に組合わせることができ、それにより、具体的な目的に最適なリポソームを作製することができる。
【0029】
次の実施例によって本発明を更に詳細に記載するが、これらの実施例に限定されない。
【実施例1】
【0030】
正に荷電することができかつ連続的に負に荷電する、電荷担体を含む両性リポソームの調製と電荷特性
His-Chol(5mg)と7.8 mgのPOPCと2mgのDPPGをクロロホルムとメタノールの4 mlの1:1(v/v)混合物に溶解し、回転蒸発器で完全に乾燥する。脂質膜を、4.3 mlの適切な緩衝液(10 mM KAc、10 mM HEPES、150 mM NaCl、pH7.5)で超音波で5分間処理することにより5mMの脂質濃度に水和する。次に、懸濁液を凍結させ、解凍後に数回押出す(アベスチン リポソファースト、細孔幅200 nmのポリカーボネートフィルタ)。ゼータ電位を測定するために、リポソームの最終濃度を0.2 mMに調整する。希釈のために、上で示した緩衝系をpH7.5又は4.2で用いる。測定したゼータ電位は−18 mV(pH7.5)〜+35 mV(pH4.2)にある。
【実施例2】
【0031】
正電荷担体が一定で負電荷担体が可変の両性リポソームの調製と電荷特性
POPC、DOTAP、CHEMSをクロロホルムとメタノールの4 mlの1:1(v/v)混合物に下記に示されるモル比で溶解し、回転蒸発器で完全に蒸発させる。脂質膜を、4.3 mlの適切な緩衝液(10 mM KAc、10 mM HEPES、150 mM NaCl、pH7.5)で超音波で5分間処理することにより5 mMの脂質濃度に水和する。次に、懸濁液を凍結させ、解凍後に繰返し押出す(アベスチン リポソファースト、細孔幅200 nmのポリカーボネートフィルタ)。下記の表は、pHを関数としたゼータ電位を示すものである。
【0032】
リポソームの組成/モル%
リポソーム1 POPC 50 DOTAP 40 Chems 10
リポソーム2 POPC 50 DOTAP 30 Chems 20
リポソーム3 POPC 50 DOTAP 25 Chems 25
リポソーム4 POPC 50 DOTAP 20 Chems 30
リポソーム5 POPC 50 DOTAP 40 Chems 10
【0033】
表1:ゼータ電位/mV

【0034】
ゼータ電位の高さとその勾配は、適切な組成によって制限する理由の範囲内で選定し得る。
【実施例3】
【0035】
一化合物におけるスイッチ能の完全な両性リポソームの調製と電荷特性
His-Chol(5mg)と9.8 mgのPOPCをクロロホルムとメタノールの4mlの1:1(v/v)混合物に溶解し、回転蒸発器で完全に乾燥する。脂質膜を、4.3 mlの適切な緩衝液(10 mM KAc、10 mM HEPES、150 mM NaCl、pH7.5)で超音波で5分間処理することにより5 mMの脂質濃度に水和する。次に、懸濁液を凍結させ、解凍後に数回押出す(アベスチン リポソファースト、細孔幅200 nmのポリカーボネートフィルタ)。種々のpH値とイオン強度におけるゼータ電位の過程を次の表に示す。
【0036】
表2

【実施例4】
【0037】
血清凝集
実施例1のように脂質膜を調製する。DPPGを含有しない脂質混合物を比較例として用いた。脂質膜を緩衝液(10 mMのリン酸塩、150 mMの塩化ナトリウム、pH7.4)中で水和し、上記のように押出した。ヒト血清を同量の緩衝液(10 mMのリン酸塩、150 mMの塩化ナトリウム、pH7.4)で希釈し、特定の成分と脂肪を遠心分離(20分、13,000 rpm)により取り除いた。透明な血清を細孔幅が0.2μmのフィルタで滅菌ろ過する。
上で調製したリポソームを血清に1mMの濃度で添加し、37℃で15分間インキュベートする。インキュベートした後、DPPG含有リポソームの懸濁液は一様に濁っている。しかしながら、フロキュレーションは見つけることができない。リポソームの直径を動的光散乱によって求め、開始試料からの変化は10%未満である。DPPGを含まないリポソームの懸濁液は明らかにフロキュレーションを示す。
【実施例5】
【0038】
膜の血清安定性
血清凝集だけでなく、ヒト血清の存在下に有効成分(カルボキシフルオレセイン、CF)の沈殿を調べた。このために、異なる組成のPOPC/DOTAP/CHEMSリポソームを実施例2の方法によって調製した。POPC 100%(対照として)、POPC/DOTAP/CHEMS 60:30:10、60:20:20、60:10:30(モル%)。封入されないCFはゲルろ過で除去した。測定のために、リポソームを血清に0.1 mMまで希釈し、37℃でインキュベートした。30μlの試料をある一定の回で取り出し、pHが8.2の100 mMのトリス緩衝液で300μlに希釈し、蛍光を測定した。リポソームを10μlのトリトンX-100(10%/水)で溶解することにより100%値を得た。時間の関数として封入CFを下記表に示す。
リポソームは、4時間の測定中わずかな量しかCFが血清へ消失しない。POPC/DOTAP/CHEMS 60:30:10と60:20:20はもとのCF含量の約75%含有し、POPC/DOTAP/CHEMS 60:10:30は100%も含有する(表3参照のこと)。
【0039】
表3

【実施例6】
【0040】
DNAの結合
次の組成(モル%)のリポソームを実施例1のように調製する(データはすべてモル%である)。
A: 60 POPC 40 HisChol
B: 55 POPC 40 HisChol 5 CHEMS
C: 60 POPC 20 HisChol 20 CHEMS
リポソームを緩衝液(10 mMの酢酸カリウム、10 mMのHEPES、pH4.2又は7.5)に0.2 mMの濃度で懸濁させる。DNA溶液(45μl、1mgのDNA(ヘーリング精子、SIGMA D3159)/1mlの水)をそれぞれの場合に1mlの種々のリポソーム試料に添加し、急速に混合する。15分間インキュベートした後、試料を6mlの適切な緩衝液で充填し、リポソームのゼータ電位を測定する(表4)。
【0041】
表4

【0042】
過剰量の陽イオン電荷(pH4.2)の条件下で、粒子の電荷の強い逆反応がある。中性pH7.5で、高濃度のCHEMS(リポソームC)はHisCholの電荷を過剰補償することができ、粒子は負のゼータ電位を有する。わずかな量のDNAしかそのような粒子に結合しない。
【実施例7】
【0043】
DNAの結合と脱離
POPC/DOTAP/CHEMS 60:15:25比とPOPC/DCChol/CHEMS 60:15:25比(モル%)の組成を有するリポソームを実施例2の方法で調製した。DNAの結合を上記実施例の方法によりpH4.2で行い、ゼータ電位を求めた。次に、試料のpHを7.5の値に調整し、ゼータ電位を再び測定した。
【0044】

【0045】
DNAの存在下に負のゼータ電位を低pHで測定する。しかしながら、もとの粒子を正に荷電した。中性pHに変えた後、DNAに基づいているこの電荷は低下した。ゼータ電位は未処理リポソームに近い(pH7.5で-11 mV)。
【実施例8】
【0046】
DNA封入と封入されない物質の脱離
組成がそれぞれPOPC60/DOTAP15/CHEMS25、POPC85/DOTAP15である2種のリポソーム製剤を上記のように乾燥脂質膜として調製する。それぞれの例において、全量の脂質は4μモルであった。水和のために、ヘーリングDNAを10 mMの酢酸カリウム、10 mMのHEPES、100 mMの塩化ナトリウムにpH4.0に溶解した。DNA(4 mg)を直接脂質膜に添加した。得られたリポソームを凍結と解凍を繰返し、次に200nmのフィルタによって押出した。
各々500μlの粒子を2.5 mlのスクロース溶液(0.8Mスクロース/上記緩衝液、pH4.0又は7.5)と混合した。この上に1.5 mlの0.5Mスクロース溶液と0.5 mlの緩衝液を入れた。
次にリポソームをフロテーションによって非結合DNAから分離した。フロテーション後、緩衝液/0.5Mスクロース界面からリポソームを取り出した。結合DNA量をヨウ化プロピジウムの挿入によって求めた。スチュワート分析を用いて脂質量を求めた。用いられたPCのみがスチュワート分析に応答する。他の脂質はこの値によって計算されなかった。結果を次の表に示す(表5)。
【0047】
表5

【0048】
両性リポソームにおいては、pHが7.5に変化した後に約半量の結合DNAのみが浮かぶ。この物質は、実際に封入された物質である。DNAアーゼで消化することにより同様の結果が得られる。
pHを変えることにより又はイオン強度を更に上げることにより構成的陽イオンリポソームからDNAを再び脱離させることはできず、外側に保たれている。
【実施例9】
【0049】
融合特性
次の組成を有するリポソームを実施例1のように調製する(データはすべてモル%)。
A)POPC 60 HisChol 40
B)POPC 55 HisChol 40 CHEMS 5
X)POPC 100
Y)POPC 60 DPPG 40
任意の陽イオンリポソームA又はBを緩衝液(10 mM HEPES、10 mM酢酸カリウム、pH4.2又は7.2)中の中性リポソームX又は陰イオンリポソームYとインキュベートする。リポソームの起こり得る融合物を動的光散乱によってサイズを測定することにより分析する(表6)。
【0050】
表6

【0051】
リポソームの開始サイズは161.8nm、pH4.2と165.9nm、pH7.5であった。
A)183.2nm
X)195.2nm
Y)183.2nm
相補的電荷をもつ対のサイズ(YAとYB)は、中性リポソームXとの混合懸濁液のサイズと明らかに異なる。任意の陽イオンリポソームの電荷の大きさによって相互作用の程度を求める。大きな単位に対する融合の程度は、融合誘導脂質PEに左右されない。
【実施例10】
【0052】
高分子に対する透過性
DOPE(13.75μモル)、2.5μモルのCHEMS、10μモルのHisCholをイソプロパノールに溶解し、溶媒を減圧下で除去する。緩衝液(1mg/mlのプロテイナーゼK、10 mMの酢酸カリウム、10 mM HEPES、150 mMの塩化ナトリウム、pH4.2)中のプロテイナーゼKの溶液(2.5 ml)を乾燥した脂質膜に添加する。膜を水和した後、形成したリポソームを400nm膜によって押し出す。封入されていないプロテイナーゼを浮上分離によりスクロース勾配で除去する。そのように製造されたリポソームをpH4.2とpH7.2の7.5 mlの緩衝液(上記のような緩衝液、開始pH4.2と8.0)とインキュベートする。合わせた後、0.1μm膜を用いて放出されたプロテイナーゼKを除去する。次にフィルタに残っているリポソームを緩衝液(上記の通り、pH8.0)中の7.5 mlのトリトンX-100の溶液で処理する。
すべてのろ液についてプロテイナーゼKの存在を試験する。このために、アゾカゼイン(1Mの尿素中の6mg/mlのアゾカゼイン、200 mMのトリス硫酸塩、pH8.5)の溶液を用いる。この溶液(500μl)を100μlのろ液又は緩衝液と混合し、37℃で30分間インキュベートする。10%トリクロロ酢酸を添加することにより反応を停止させる。沈殿したタンパク質を遠心分離により取り出す。390nmにおける着色を測定する(表7)。
【0053】
表7

【0054】
リポソームのインキュベーションを約4.2のpHで行う場合には、プロテイナーゼKはあったにしてもほとんど放出されない。リポソームをトリトンX-100で溶解することによってのみ酵素の放出が生じる。リポソームをpH7.2でインキュベートする場合には、トリトンを添加していなくても酵素の大部分を放出し、第一ろ液中に見られる。その後、酵素はトリトンの添加によりリポソームから更に溶けない。
【実施例11】
【0055】
タンパク質の結合
組成がPOPC50/DOTAP10/CHEMS40(データはすべてモル%)のリポソームを前の実施例のように調製する。緩衝液(pH5.0又はpH6.0の10 mM MES又はpH7.0又はpH8.0の10 mM HEPES)中の0.26 mg/mlのリポソームの溶液を用いて脂質膜を水和する。水和した後、すべての試料を繰返し凍結解凍した。次に、リポソームを超音波でホモジナイズし、200nmによって押出した。
そのように調製されたリポソーム懸濁液を、酢酸を添加することによりpH4.0に調製する。次に、リポソームを組込まれていないタンパク質からフロテーションにより分離する。封入タンパク質の割合を次の表に示す(表8)。
【0056】
表8

【0057】
用いられる組成のリポソームのpIは5である。リポソームはpIが11.5の塩基性タンパク質である。それ故、2つのパートナーはpH6〜8の反対の電荷を有する。リポソーム中の効率の良い封入は、静電引力によってもたらされる。封入されないタンパク質をpH4で除去した。パートナー間の相互作用はこのpHで相殺される。
【実施例12】
【0058】
細胞へのトランスフェクション
ヒーラー細胞又はCHO細胞(3×105)を6ウェルタイタープレートの各空洞へ播種した。リポソーム(POPC/DOTAP/CHEMS 60/30/10)をフルオレセイン標識デキストラン(水和緩衝液中TRITCデキストラン10 mg/ml)の存在下に調製した。組込まれなかったTRITCデキストランをゲルろ過により除去した。そのように調製したリポソームを細胞に添加し、37℃で6時間インキュベートした。次に、細胞を緩衝液で2回洗浄した。デキストランの吸収を顕微鏡画像で行った。結果を図1に示す。
【実施例13】
【0059】
リガンド結合とトランスフェクション
組成がPOPC/DOTAP/Chems/N-グルタリル-DPPE(50:10:30:10(モル%))のリポソームを実施例2のように調製する。同時に、10 mM HEPESと150 mMの塩化ナトリウム、pH7.5中の3 mg/mlのTRITC-デキストラン(分子量約4,400)の溶液で水和する。封入されないTRITC-デキストランを、セファデックスG-75カラムによるゲルろ過により除去する。N-グルタリルDEPPをEDC(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピルカルボジイミド)で活性化し、次に暗所で5時間撹拌することにより、環状ぺプチドRCDCRGDCFCがリポソーム表面に結合する。次にRGDぺプチド(150μlの緩衝液中250μg)を添加し、攪拌を一晩続けた。リポソームをゲルろ過により結合されていないぺプチドから分離した。
ヒト内皮細胞(HUVEC)を特殊な培養液で培養した。リガンドで修飾したリポソームと、RGDリガンドを含まない対照リポソームを細胞の0.5 mM懸濁液として添加した。2時間後、リポソームを除去し、細胞チャンバをPBS緩衝液で3回すすぎ、蛍光顕微鏡によって見た。RDGリポソームで処理した細胞のTRITC蛍光は、対照リポソームより明らかに赤かった。
【実施例14】
【0060】
薬物速度論(pHスイッチ可能なリポソームの血中濃度と臓器分布)
POPC/Chol(60:40)、POPC/Hist-Chol/Chol(60:20:20)、POPC/DOTAP/Chems(60:10:30)(500μl)のリポソームを雄ウィスターラットの尾静脈に注入した。
リポソーム懸濁液(50 mM)を、対応する製剤(0.03モルの[14]C-DPPCを添加)の脂質膜をHEPES 10 mM、塩化ナトリウム150 mM、pH7.5)中の1mgの[3]H-イヌリンの2ml溶液で水和することにより調製した。3回の凍結解凍サイクル後、懸濁液を400nm膜(リポソファースト、アベスチン)によって繰返し押出した。封入されない[3]H-イヌリンを、G-75セファデックス-カラムによるゲルろ過と、次にCENTRIPREP(ミリポア)遠心分離ユニットによる濃縮により除去した。
リポソーム懸濁液(0.5 ml)を4匹の実験動物/製剤に投与し、5分後、15分後、60文後、3時間後、12時間後、24時間後に血液試料を採取した。膜画分と可溶性カーゴの放射能をシンチレーションにより測定し、次の値を得た。
血液からの脱離半減期
POPC/Chol 120分より長い
POPC/DOTAP/Chems 120分より長い
POPC/Hist-Chol 120分より長い
血液中の比較的長い半減期において、本発明のリポソームはベクター系として基本的な必要条件を満たしている。実際に毒性がなく、細網内皮系によってすぐには吸収されない。実験の終わりまで、血液試料の3[H]放射能と14[C]放射能の比は一定であった。それ故、補体溶解によるカーゴの放出は、いずれの場合にも起こらない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の正電荷担体と、該正電荷担体と異なる少なくとも1種の負電荷担体とを含む両性リポソームであって、該リポソームが4〜8の間に等電点を有し、該リポソームが、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、コレステロール、テトラエーテル脂質、セラミド、スフィンゴ脂質及び/又はジアクリルグリセロールからなる群より選ばれた中性脂質を含むことを特徴とする、両性リポソーム。
【請求項2】
前記リポソームが、5〜7の間に等電点を有する、請求項1記載の両性リポソーム。
【請求項3】
少なくとも1種の両性電荷担体を含む両性リポソームであって、該両性電荷担体が4〜8のpH範囲内で可逆的に再荷電可能であり、該リポソームが、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、コレステロール、テトラエーテル脂質、セラミド、スフィンゴ脂質及び/又はジアクリルグリセロールからなる群より選ばれた中性脂質を含むことを特徴とする、両性リポソーム。
【請求項4】
前記両性荷電担体が、5〜7の間に等電点を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の両性リポソーム。
【請求項5】
少なくとも1種の両性電荷担体と、少なくとも1種の陰イオン及び/又は陽イオン電荷担体とを含む両性リポソームであって、前記両性荷電担体が4〜8のpH範囲内で可逆的に再充填可能であり、前記リポソームが、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、コレステロール、テトラエーテル脂質、セラミド、スフィンゴ脂質及び/又はジアクリルグリセロールからなる群より選ばれた中性脂質を含むことを特徴とする、両性リポソーム。
【請求項6】
前記リポソームが、5〜7の間に等電点を有する、請求項5記載の両性リポソーム。
【請求項7】
前記リポソームが、50〜1000nmの平均サイズを有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の両性リポソーム。
【請求項8】
有効成分を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の両性リポソーム。
【請求項9】
前記有効成分がタンパク質、ぺプチド、DNA、RNA、アンチセンスヌクレオチド及び/又はデコイヌクレオチドである、請求項8に記載の両性リポソーム。
【請求項10】
有効成分の少なくとも80%が前記リポソームの内部にある、請求項8又は9に記載の両性リポソーム。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれか1項に記載の有効成分をリポソームに充填する方法であって、封入するために決められたpHが用いられ、結合していない物質を分離するために第二pHが用いられることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項8〜10のいずれか1項に記載の有効成分をリポソームに充填する方法であって、該リポソームが決められたpHで透過化処理され閉鎖されることを特徴とする方法。
【請求項13】
ナノカプセルを製造するための請求項1〜10のいずれか1項に記載のリポソームの使用。
【請求項14】
診断における放出システムを製造するための請求項1〜10のいずれか1項に記載のリポソームの使用。
【請求項15】
請求項1〜10のいずれか1項に記載のリポソームを含む、有効成分を運搬及び/又は放出するための医薬製剤。
【請求項16】
請求項1〜10のいずれか1項に記載のリポソームを含む、徐放性製剤。
【請求項17】
請求項1〜10のいずれか1項に記載のリポソームを含む、循環デポ。
【請求項18】
請求項1〜10のいずれか1項に記載のリポソームを含む、ベクター。
【請求項19】
ヒトに使用することを除く、有効成分を運搬及び/又は放出するための請求項1〜10のいずれか1項に記載のリポソームの使用。
【請求項20】
ヒトに使用することを除く、徐放性製剤及び/又は循環デポとしての請求項1〜10のいずれか1項に記載のリポソームの使用。
【請求項21】
ヒトに使用することを除く、ベクターとしての請求項1〜10のいずれか1項に記載のリポソームの使用。

【図1A】
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【図1B】
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【公開番号】特開2011−21026(P2011−21026A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−211089(P2010−211089)
【出願日】平成22年9月21日(2010.9.21)
【分割の表示】特願2002−565572(P2002−565572)の分割
【原出願日】平成14年2月21日(2002.2.21)
【出願人】(503300306)ノヴォソム アクチェンゲゼルシャフト (8)
【Fターム(参考)】