説明

両親媒性ポリマーとBMPファミリーに属する骨形成タンパク質との複合体

【課題】物理的及び化学的に安定であり且つ水溶性である両親媒性ポリマー−BMP複合体を提供する。
【解決手段】本発明は、物理的及び化学的に安定であり且つ水溶性である両親媒性ポリマー−BMP複合体であって、前記両親媒性ポリマーは、疎水性置換基及び親水基により官能化された親水性多糖類骨格を含有し;前記BMPは、治療上有効なBMP(骨形成タンパク質)の群より選択され;前記ポリマー/BMP質量比は700以下であることを特徴とする複合体に関する。本発明はまた、水性溶媒中にてタンパク質を変性し得るいかなる有機溶媒も存在しない両親媒性ポリマー−BMP複合体の製造方法にも関する。本発明はさらに、本発明の両親媒性ポリマー−BMP複合体の治療用組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両親媒性ポリマーと骨形成タンパク質(BMP)ファミリーに属する骨形成タンパク質との水溶性の新規な複合体に関するものであって、該複合体は、物理的及び化学的に安定であり、そしてそれ故、生体外及び生体内の両方におけるBMPの物理的及び化学的安定性を改良するものである。
【背景技術】
【0002】
骨形成タンパク質(BMP)は、骨形成誘発の機構に含まれる成長因子である。BMPは骨形成タンパク質(OP)としても知られており、1965年にUristにより最初に特定された(非特許文献1)。皮質骨から単離されるこれらタンパク質は、非常に種々の動物の骨形成を誘発し得る(非特許文献1)。
【0003】
BMPは、翻訳後成熟の後に104ないし139残基の長さを有するプロペプチドの形態で発現する。それらの配列は非常に一致しており、且つ類似の三次元構造を有している。特に、それらは、所謂“システイン集団(cysteine knot)”を形成する分子内ジスルフィド結合に包含される6個のシステイン残基を有している(非特許文献2及び3)。それらのうちの数種は、ダイマーの形成を導く分子内ジスルフィド結合に包含される7番目のシステインを有している(非特許文献2)。
【0004】
それらの活性形態において、BMPは、Israel等により記載されるように、ホモダイマーとして及びヘテロダイマーとしてさえ会合する(非特許文献4)。ダイマー状BMPは、BMPR型の膜透過受容体と相互作用する(非特許文献5)。この認識は、特にSmadタンパク質を含有する一連の細胞内シグナル伝達を引き起こし、このことが標的遺伝子の活性化又は抑制化を誘発する。
【0005】
BMP1及び3を除いて、BMPは、間葉細胞(mesenchymatous cell)を分化させるのに直接的な且つ間接的な役割を果しており、このことが骨芽細胞へのその分化を誘発する(非特許文献6)。それらはまた、走化性の特性を有し、且つ増殖、分化及び血管形成を誘発する。
【0006】
幾種かのヒト組換体BMP、特にrhBMP−2及びrhBMP−7は、ヒトの生体内での骨形成を誘発する能力を明らかに示しており、そして幾つかの医療用途のため承認されている。このように、ヒト組換体BMP−2、即ち国際的な一般名に従うとジボテルミンα(dibotermin alfa)は、米国ではインフーズ(InFuse)(登録商標)、そして欧州ではインダクトOs(InductOs)(登録商標)の名称で販売される製品中に配合されている。この製品は、腰椎融合に対して、及び非結合骨折として既知であるもののための脛骨の骨再生に対して処方される。腰椎の融合のためのインフーズの場合、外科的処置はまず第一に、rhBMP−2溶液中にコラーゲンスポンジを浸し、その後、腰椎間に前もって移植された中空ケージ(LTケージ)にそのスポンジを置く。
【0007】
ヒト組換体BMP−7、即ち国際的な一般名に従うとエプトテルミンα(eptotermin alfa)は、BMP−2と同じ治療指標を有し、2つの製品、即ち脛骨の開裂骨折に対するOP−1インプラント(OP−1Implant)及び腰椎融合に対するOP−1パテ(OP−1Putty)の基盤を形成している。OP−1インプラントは、rhBMP−7及び0.9%生理的食塩水が吸収されたコラーゲンを含有する粉末からなる。得られたペーストはその後、外科的処置中に骨折部に適用される。OP−1パテは、一方がrhBMP−7及びコラーゲンを含み、他方がカルボキシメチルセルロース(CMC)を含む、2種類の粉末の形態で存在する。外科的処置中に、CMCは0.9%生理的食塩水によって再構成され、そしてrhBMP−7及びコラーゲンと混合される。こうして得られたペーストは、治療部位に適用される。
【0008】
現在市販されているすべてのタンパク質のうち、BMPは、それらの高い疎水性及び生理的pHでの非常に低い溶解度を導くそれらの凝集性によって卓越している。BMP−2の場合には、これらの特性は臨床学的にBMP−2を改良するための研究の範囲内で立証されており、生理学的条件においてはそれほど溶解性でなく、且つ凝集する傾向にある(非特許文献7、8、9)。こうして、Abbatiello及びPorter(非特許文献10)は、低イオン強度の緩衝液中で、pHが4.5よりも高くなった場合に、BMP−2がますます不溶性となることを示した。タンパク質の沈澱は6.5よりも高いpHにて観察されるが、Friessにより示されているように、塩化物イオン及び/又は硫酸イオンの存在下で低pH(50mMのNaClとpH5.8、及び5mMのNaSOとpH5.5)においても観察される(非特許文献8)。生理学的条件におけるBMP−2の処方はそれ故、それ自体で問題である。
【0009】
BMPのこの物理的不安定性の問題の別の例は、特許文献1において、Biopharmにより、BMP−14のサブクラス由来のタンパク質である、またMP−52としても既知である、成長及び分化因子のGDF−5を用いて明らかにされている。GDF−5の特性は、BMP−2のそれと非常に似通って、凍結乾燥物の不安定性にあり、溶液の再形成の間に凝縮しそして完全に再溶解され得ない傾向にあることが観察されている。これら2つの現象は、タンパク質の不可逆的な凝集と関連している。この問題を解決するために、凍結乾燥前にマンニトールが添加され、そしてこのことがこれら固体状態での問題の防止を可能にする。しかしながら、マンニトールは単に、生体外にて低水準の安定性を与えるに過ぎず、生体内での物理的不安定性を防止していない。
【0010】
これら成長因子の物理的特性により負わされる制約を考慮すると、製品インフーズは、rhBMP−2の溶解度及び物理的安定性を確実にするために、酸性pHにおいて(酢酸緩衝液、pH4)且つ界面活性剤(ポリソルベート80)の存在下において配合されなければならない。
【0011】
治療用のタンパク質ベースの薬物の製造業者は、タンパク質の物理的安定性の問題に非常に大きく影響されている。実際に、BMP凝集物の形成は、
・生物学的活性種の数の減少、
・生物活性又は吸収速度の変化、
・前記凝集物に対する潜在的な免疫学的応答、
・製品のオパール色による望ましくない外観、
・濾過装置及び注射器の閉塞
をもたらす可能性がある。
【0012】
所望の治療効果を得るために、生理学的投与量よりも10,000因子も大きい非常に実質的な治療のためのBMP投与量を使用することが必要とされる。このことは、数ミリグラムのrhBMP−2が投与されるので特に、インフーズのような製品を用いた脊椎融合の治療の場合である。投与されるこの多量のBMPは、溶液中の高濃度のBMP、およそ1.5mg/mLで処理しなければならないことを意味する。この濃度において、BMPはたやすく凝集し、それ故物理的に不安定となる。供給される溶液は酸性緩衝液及び界面活性剤を使用する。しかしながら、治療用途に関して、酸性であり且つ界面活性剤を含有する溶液を使用することは問題である。
【0013】
これら物理的及び化学的安定性の問題を解決するために、幾つかの解決法が開発されている。
【0014】
第一に、ヘパリン及びヘパランスルフェートが内因性の安定分子であるため、これら多糖類がBMPを包含する成長因子を安定化させるために既知である(非特許文献11)。しかしながら、ヘパリン及びヘパランスルフェートは、かなりの抗凝固性及び抗補体活性を有しているため、医薬組成物には使用され得ない。
【0015】
Hubbellは、フィブリン型のマトリックス内のタンパク質を安定化するために、前記タンパク質とベクターとの間に化学結合を形成することを包含する、タンパク質をグラフト化する方法を記載している。前記結合は、酵素により分解され得る融合タンパク質を用いて作られる。刊行物の非特許文献12に報告されているこの方法は、実際に、凝集を防止することによってタンパク質を物理的に安定化させることを可能にしている。しかしながら、前記方法は、いずれ治療効果及び安全性が示されなければならないBMP−2類似体の使用を必要とする。
【0016】
特許文献2において、Stupp他は、成長因子のベクトル化、特にBMP−2のベクトル化のための両親媒性ペプチドを記載している。前記両親媒性ペプチドは、末端アルキル鎖、親水性ペプチド配列及びBMP−2の結合を付与するエピトープから形成されている。前記ペプチドは、疎水基が凝集する中心部において、ロッド型の巨大分子構造を形成するように溶液中で配列される。アミノ酸は周辺において、水との親和性及びタンパク質の結合を可能にする。しかしながら、前記ペプチドは、その複合初期構造により免疫学的な危険を与える。
【0017】
特許文献3において、Takaoka他は、骨再生用途のためのBMPのベクトル化を取り扱った。著者は、前記タンパク質の放出を制御することを可能にする新規乳酸及び/又はグリコール酸ベースの、p−ジオキサノンベースの及びポリエチレングリコールベースのポリマーを改良した。しかしながら、著者は、物理的又は化学的安定性の点で前記成長因子に関連したいずれの問題をも示していない。さらには、前記ポリマーは水溶性でなく、水を吸収してゲルを形成する。他方、前記ポリマーは有機溶媒に溶解性であり、アセトンに溶解される。従ってポリマー−BMP−2製剤の形成は、タンパク質を変性させる危険がある有機溶剤の使用を必要とする(非特許文献13)。
【0018】
特許文献4において、Wyethは、BMPのベクトル化のために疎水基(ベンジルアルコール)により修飾されたヒアルロン酸を記載している。このポリマーにおいて、疎水基の含量は50ないし100%であるため、ポリマーは水に溶解されず、水を吸収し得る。この場合、前記吸湿性ポリマーはタンパク質と水溶性複合体を形成し得ず、そのためBMPの安定性の問題を解決する。この型の製剤がまた、Fidia et Genetics Instituteの名称で特許文献5に開示されているが、開示されている製剤は複合体を形成しておらず、例示されている多糖類は水に不溶であり、50%を越える疎水性エステル基を含有している。
【0019】
特許文献6において、Brodbeck他は、BMPのベクトル化のためにPLAGAを使用している。前記ポリマーは水に不溶であり、そのためタンパク質との水溶性複合体を形成し得ない。本願出願人とは対照的に、著者の目的は、PLAGAから形成された固体中のBMPを水性溶媒中で不溶化することであり、タンパク質を変性させる危険のある有機溶媒の使用をさらに必要とする。
【0020】
例として、“Effects of heparin−like polymers associated with growth factors on osteoblast proliferation and phenotype expression”(非特許文献14)という題名の下で発行されたBlanquaert他及びBarritault他による研究は、種々の成長因子と相互作用すると信じられているベンジルアミンにより修飾されたデキストランの使用を記載している。該ポリマーは治療活性を有するものと記載されている。著者はまた、これらデキストランの幾つか、そしてより特に、カルボキシメチル基(CM)、ベンジルアミド基(B)及びスルホネート基(S)により置換されたデキストラン(CMDBS化合物)が、成長因子の添加なしに骨再構成の刺激を可能にすることを主張している(非特許文献15)。
【0021】
同様の方法に従うと、特許文献7において、Blachant他は、トリメチルホスフェートを用いてポリマー鎖を架橋することにより不溶化されたベンジルアミン及びスルフェートにより修飾されたデキストランを記載している。水性媒質中のこのスポンジは、このタンパク質に保持され得るためにBMPリザーバとして作用する。架橋前に、両親媒性ポリマーは、ゲル電気泳動による相互作用試験に示されるように、BMP−2と複合体を形成する。しかしながら、用いられるポリマー/BMP質量比は非常に高く、5,000を超える。溶液中での複合体の解離を導くかなり弱いポリマー/タンパク質相互作用のため、この高い比率が用いられる。また、BMPの化学的又は物理的安定化が記載されていない。この型の比率は、医薬品の開発において許容され得ない。
【0022】
ベンジルアミンは特に毒性を有するおそれがあり、上記2つの特許文献で記載されているポリマーの生体適合性を損なうおそれがあることは知られている。
【0023】
骨再構成のためのこの型のタンパク質の生薬製剤は、賦形剤の安全要件を必然的に満たさなければならず、そしてこの要件を満たすために、生体適合性のある化合物を用いることだけでなく、有効成分に関しその量を制限することもまた必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】米国特許第2004132653号明細書
【特許文献2】米国特許第20050209145号明細書
【特許文献3】米国特許第6258382号明細書
【特許文献4】米国特許第2005/0287135号明細書
【特許文献5】欧州特許第1454640号明細書
【特許文献6】ニュージーランド国特許第530701号明細書
【特許文献7】フランス国特許第2794649号明細書
【非特許文献】
【0025】
【非特許文献1】Urist MR.Science 1965;150,893
【非特許文献2】Scheufler C.2004 J.Mol.Biol.1999;287,103
【非特許文献3】Schlunegger MP,Mol.Biol.1993;231,445
【非特許文献4】Israel DI,Growth Factors,1996,13(3−4),291
【非特許文献5】Mundy他 Growth Factors, 2004,22(4),233
【非特許文献6】Cheng H.,J.Bone and Joint Surgery,2003,85A 1544−1552
【非特許文献7】Schmoekel,2004 J.Orthop.Res.2004;22(2),376
【非特許文献8】Friess,W.,Drug Delivery Systems Based on Collagen,Shaker Verlag,Thesis Aachen Germany 1999
【非特許文献9】Schwartz DH,Thesis Munchen Germany 2005
【非特許文献10】Protein Sci.1997,6,Suppl 299
【非特許文献11】Ruppet他,Eur.J.Biochem.1996,237,295
【非特許文献12】Biotechno.Bioeng.2005,89,3,253
【非特許文献13】Nature Biotechnology,2001,19,332
【非特許文献14】1998,J.Biomed.Mater.Res.,第44巻,第63頁ないし第72頁
【非特許文献15】1999,Bone,17,6,499−506
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
従って、BMP−2(ジボテルミンα(dibotermin−alfa))、BMP−4、BMP−7(エプトテルミンα(eptotermin−alfa))、BMP−14及びGDF−5からなる群より選択されるBMPのような骨形成タンパク質の溶解化及び安定化を可能とする注射製剤を開発するという問題は、満足できる手法では解決されていない。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明は、700よりも低いポリマー/BMP質量比にて生体適合性である骨形成タンパク質と両親媒性ポリマーとの安定な水溶性複合体の形成を可能にする。この複合体は、
・生体外及び生体内における生理的pHでのその疎水性により生じるBMPの凝集を防止すること、
・37℃にて細胞の存在下でBMPを安定化させること、
を可能にする。
【0028】
前記水溶性複合体は、有機溶媒を使用する必要なしに完全に水性媒質中で形成される。
【0029】
従って本発明は、物理的及び化学的に安定且つ水溶性である両親媒性ポリマー−BMP複合体であって、
前記両親媒性ポリマーは、下記の一般式:
【化1】

[式中、
R、Rは、同一又は異なっていてもよく、結合部又は1ないし18個の炭素原子を含有する連鎖を表し、前記連鎖は、場合によっては、枝分れし及び/又は不飽和であっても、且つ、1個以上のヘテロ原子、例えばO、N又は/及びSを含有していてもよく、
F、Fは、同一又は異なっていてもよく、エステル、チオエステル、アミド、炭酸塩、カルバミン酸塩、エーテル、チオエーテル又はアミンを表し、
Xは、カルボキシレート、スルフェート、スルホネート、ホスフェート及びホスホネートからなる群より選択された親水基を表し、
Yは、スルフェート、スルホネート、ホスフェート及びホスホネートからなる群より選択された親水基を表し、
Hyは、下記の群:
・不飽和であってもよく、及び/又は1個以上のヘテロ原子、例えばO、N又はSを含有していてもよい直鎖状の又は枝分れ状の炭素原子数8ないし30のアルキル基、
・不飽和であってもよく、及び/又は1個以上のヘテロ原子、例えばO、N又はSを含有していてもよい直鎖状の又は枝分れ状の炭素原子数8ないし18のアルキルアリール基、或いは直鎖状の又は枝分れ状の炭素原子数8ないし18のアリールアルキル基、及び
・不飽和であってもよく、及び/又は1個以上のヘテロ原子、例えばO、N又はSを含有していてもよい炭素原子数8ないし30の多環式基
からなる群より選択される疎水基を表すが、但し、Hyはベンジルアミンを表すものではなく、
n及びoは1ないし3の数であり、
hは、モノマー単位に関する疎水性パターンのモル分率を表すものであって、0.01ないし0.5であり、
xは、モノマー単位に関する親水基のモル分率を表すものであって、0ないし2.0であり、
yは、モノマー単位に関する親水基のモル分率を表すものであって、0ないし0.5である。]
で表される疎水性置換基と親水基により官能化された親水性多糖類骨格により形成されており、
前記BMPは、治療上有効なBMP(骨形成タンパク質)の群より選択され、
前記ポリマー/BMP質量比は700以下であることを特徴とする、複合体に関する。
【0030】
1つの態様において、本発明に従う複合体にあっては、前記多糖類が、上記定義されたように、式中、y=0である一般式Iで表される多糖類より選択される。
【0031】
1つの態様において、本発明に従う複合体にあっては、前記多糖類が、上記定義されたように、式中、Xがカルボキシレートを表す一般式Iで表される多糖類より選択される。
【0032】
1つの態様において、本発明に従う複合体にあっては、本発明に従う多糖類が、基Rが以下の群:
【化2】

より選択されることを特徴とする。
【0033】
1つの態様において、本発明は、前記ポリマー/BMP質量比が600以下であることを特徴とする複合体に関する。
【0034】
1つの態様において、本発明は、前記ポリマー/BMP質量比が500以下であることを特徴とする複合体に関する。
【0035】
治療上の使用のためのBMP濃度は、溶液中におよそ1.5mg/mLである。比率が700を超えると、1.0g/mLの両親媒性ポリマーを含有する組成物が得られる。前記ポリマー濃度に基づくと、製剤は、例えば粘度に関して、治療用途としてもはや適していない物理化学的な挙動を有する。
【0036】
本発明は、BMPが、BMP−2(ジボテルミンα(dibotermin−alfa))、BMP−4、BMP−7(エプトテルミンα(eptotermin−alfa))、BMP−14及びGDF−5からなる群より選択されることを特徴とする複合体に関する。
【0037】
両親媒性ポリマーの置換基は、制御されたか又は統計的な手法で分布されている。ブロックコポリマー及び交互コポリマーが、制御された置換基の分布を有するポリマー例である。
ランダムコポリマー
★−モノマー−モノマー−モノマー−モノマー−モノマー−モノマー−★
| | |
疎水基 疎水基 疎水基
ブロックコポリマー
★−モノマー−モノマー−モノマー−モノマー−モノマー−モノマー−★
| | |
疎水基 疎水基 疎水基
交互コポリマー
★−モノマー−モノマー−モノマー−モノマー−モノマー−モノマー−★
| | |
疎水基 疎水基 疎水基
【0038】
従って、1つの態様において、本発明はまた、前記ポリマーが、置換基が任意の手法で分布したポリマーより選択されることを特徴とする両親媒性ポリマー−BMP複合体に関する。
【0039】
1つの態様において、前記多糖類は、ヒアルロン酸、アルギン酸、キトサン、ガラクツロン酸、コンドロイチン硫酸、デキストラン及びセルロースからなる群より選択される。
【0040】
前記セルロースの群は、酸により官能化されたセルロース、例えばカルボキシメチルセルロースからなる。
【0041】
前記デキストランの群は、酸により官能化されたデキストラン、例えばカルボキシメチルデキストランからなる。
【0042】
1つの態様において、前記多糖類は、ヒアルロン酸、アルギン酸及びキトサンからなる群より選択される。
【0043】
これら種々の多糖類は、以下:
【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

として表され得る。
【0044】
前記多糖類は、10ないし10000の平均重合度mを有し得る。
【0045】
1つの態様において、多糖類は、10ないし1000の平均重合度mを有する。
【0046】
1つの態様において、多糖類は、10ないし500の平均重合度mを有する。
【0047】
1つの態様において、本発明はまた、前記疎水基Hyが、トリプトファン、チロシン、フェニルアラニン、ロイシン及びイソロイシンからなる群より選択される疎水性の天然アミノ酸、或いはそれらのアルコール誘導体、脱カルボン酸誘導体、エステル誘導体又はアミド誘導体であることを特徴とする、両親媒性ポリマー−BMP複合体に関する。
【0048】
1つの態様において、本発明はまた、前記疎水基Hyが、トリプトファン或いはトリプトファンのエステル誘導体又はアミド誘導体であることを特徴とする、両親媒性ポリマー−BMP複合体に関する。
【0049】
トリプトファノール、トリプトファンアミド及び2−インドールエチルアミンがトリプトファン誘導体の例である。
【0050】
1つの態様において、本発明に従う両親媒性ポリマー−BMP複合体は可逆的である。
【0051】
使用されるポリマーは、当業者に既知の方法に従い合成されるか、或いはシグマ−アルドリッヒ社(Sigma−Aldrich)、NOF社(NOF Corp.)又はカルボメル社(CarboMer Inc.)のような供給者から入手される。
【0052】
BMPは、当業者に既知の方法に従い得られるヒト組み替え体BMPより選択されるか、或いはリサーチダイアグノスチック社(Research Diagnostic Inc.)(USA)のような供給者から入手される。
【0053】
BMPは高い疎水性の成長因子である。生理的pHにて、該タンパク質の疎水性は凝集そしてその後の沈澱をもたらす。本発明に従う両親媒性ポリマー−BMP複合体は、生理的pHの溶液中での前記タンパク質の物理的安定化を可能にする。
【0054】
物理的又は化学的分解とは、タンパク質の生物学的活性を低下させる、凝集のような物理的事象を意味するか、或いはタンパク質分解のような化学的事象を意味する。
【0055】
同時に、タンパク質の物理的又は化学的安定化とは、タンパク質の生物学的活性を維持する作用を意味する。
【0056】
複合体の安定性は、BMPの安定性を測定することにより観察される。
【0057】
両親媒性ポリマーを用いたタンパク質の安定化は従って、特に以下の試験:
・ゲル電気泳動を用いた両親媒性ポリマー−BMP複合体を明らかにするための試験
・37℃及び中性pHにて行われる両親媒性ポリマー−BMP複合体中の細胞の存在下でのBMPの熱安定性の試験
・生理的pHでの前記複合体中のBMPの物理的安定性についての試験
を行うことにより証明され得る。
【0058】
電気泳動を用いた両親媒性ポリマー−BMP複合体を明らかにするための試験は、電界を用いてイオンを置換することに基づいている。アニオン複合体はアノードに向かって泳動し、そしてカチオン複合体はカソードに向かって泳動する。泳動後、タンパク質は、毛管現象によってPVDFメンブランに転移され、そしてペルオキシダーゼと結合した第二抗体により認知される前記タンパク質の特定の抗体により明らかとされる。単独では泳動しないタンパク質;即ち両親媒性ポリマーと結合されたタンパク質は、複合体の全電荷に応じてアノード又はカソードに向かって泳動する。
【0059】
細胞の存在下でのBMPの熱安定性の試験は、37℃にて且つ中性pHにて行われ、そしてC2C12筋芽細胞を含有する培地中にBMP溶液を沈積させることを包含する。溶液中のBMP濃度は、沈積が行われた後(2日目)及び5日間の培養の後(7日目)のELISA法により決定される。BMPの生物学的活性は、骨芽細胞への筋芽細胞の分化中の2日目ないし7日目に生成されたアルカリホスファターゼの活性をアッセイすることにより評価される。
【0060】
生理的pHでのBMPの物理的安定性についての試験は、一般的に酸性pHにあるタンパク質のもとの緩衝液を、7.4のpHを有するPBS溶液に交換することによって、タンパク質溶液を生理的pHにすることに基づいている。交換の最後においてBMPを一定濃度に維持する一方で、3回の交換が行われる。該プロセスの最後における溶液中のBMP濃度は、遠心分離後のELISA法により決定される。この試験は、濃縮されたBMP−2溶液を、pH7.4に固定された緩衝液を用いて希釈することによっても行われ得る。
【0061】
本発明に従う両親媒性ポリマー−BMP複合体は、タンパク質を変性させるおそれのあるいかなる有機溶媒も存在させずに、BMP及び両親媒性ポリマーを生理的pHの水性溶液中に入れることにより形成される。両親媒性ポリマー−BMP複合体の形成は自発であり、BMPと両親媒性ポリマーとの間に共有結合は含有されていない。この会合は、実質的に疎水性且つイオン相互作用である弱小な結合により形成される。複合体の形成は有機溶媒を必要としない。
【0062】
本発明に従う両親媒性ポリマー−BMP複合体の形成の証拠を高めるために、所望によりその他の試験が行われ得る。
・円偏光二色性により決定されるBMPの三次元構造を維持するための試験。
・ストレス下、生理的pHでの本発明に従う両親媒性ポリマー−BMP複合体中のBMPの安定性の試験。ストレスは、塩等の存在下での特定の攪拌法であり得る。
・サーモリシンのようなタンパク質分解酵素に対する耐性の試験。
【0063】
本発明により解決される問題の1つは、タンパク質の改良された安定性であり、それ故生体外及び生体内での維持された生物学的活性である。前記生物学的活性は、骨芽細胞への筋芽細胞の分化についてのBMPの性能を示す分化試験により評価され得る。前記分化は、
・細胞培地中で生成されたアルカリホスファターゼの活性のアッセイ、
・アルカリホスファターゼを生成する細胞の染色、
・細胞培地中に生成されたオステオカルシンのRNAのRT−PCR
を用いて測定され得る。
【0064】
本発明はまた、本発明に従う両親媒性ポリマー−BMP複合体を含有することを特徴とする、治療用組成物にも関する。
【0065】
治療用組成物とは、ヒト用又は動物用薬物に用いられ得る組成物を意味する。
【0066】
本発明に従う治療用組成物は、好ましくは局所的に適用され、且つ溶質、ゲル、クリーム、凍結乾燥物、粉体又はペーストの形態で存在し得る組成物である。
【0067】
本発明に従う両親媒性ポリマー−BMP複合体とともに配合され得る賦形剤の性質は、当業者の一般知識に従い、その投与形態に応じて選択される。
【0068】
従って、本発明に従う組成物がペーストの形態にある場合、前記ペーストは、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)、リン酸三カルシウム及びコラーゲンのような製品から得られる。
【0069】
製剤のパラメータを調節するために、pHを調節するための緩衝液、等張性の調節を可能にする薬剤、パラヒドロキシ安息香酸メチル、パラヒドロキシ安息香酸プロピル、m−クレゾール又はフェノールのような防腐剤、或いはまたL−塩酸リジンのような抗酸化剤として、他の賦形剤が本発明において用いられ得る。
【0070】
本発明に従うと、治療用組成物は、およそ1.5mg/mLのBMP投与を可能とすることを特徴とする。
【0071】
本発明はまた、生体内で骨形成を誘発する治療用組成物の製造のための、本発明に従う両親媒性ポリマー−BMP複合体の使用にも関する。
【0072】
本発明はまた、本発明に従う両親媒性ポリマー−BMP複合体を含有する治療用組成物を治療部位に適用することからなることを特徴とする、ヒト又は動物用の治療方法にも関する。
【発明を実施するための形態】
【0073】
両親媒性ポリマーの合成
実施例1:トリプトファンエチルエステルにより修飾されたカルボキシメチルデキストラン(AP−1)
この両親媒性ポリマーを、糖単位当りのカルボキシメチル置換度が1.0、及び60kg/モルの平均モル質量を有するカルボキシメチルデキストランから合成した。クロロギ酸エチル及びN−メチルモルホリンを用いた有機溶媒中での慣用のカップリング法に従い、トリプトファンエチルエステルをポリマーの酸にグラフトした。反応媒体を水中に希釈し、そして1NのNaOHを添加してpHを7に調節した後、ポリマーを限外濾過により精製した。最終ポリマーは、
・DO/NaODにおけるRMNHにより決定された、糖単位当りのTrpOEt置換度が0.45、
・電位差測定解析により決定された、糖単位当りのカルボキシレート(メチルカルボキシレート)置換度が0.55
を特徴としていた。
【0074】
実施例2:トリプトファンにより修飾されたカルボキシメチルデキストランナトリウム塩(AP2)
AP−1の塩基性加水分解により両親媒性ポリマーを得た。両親媒性ポリマー1の水溶液(31mg/mLで64mL)に水酸化ナトリウム1N(3.79mL)を添加して、pH12.7とした。得られた溶液を周囲温度にて一晩攪拌した。水(NaCl 0.9%及びHO)に対する透析により、ポリマーを精製した。最終ポリマーは、
・DO/NaODにおけるRMNHにより決定された、糖単位当りのTrpONa置換度が0.45、
・電位差測定解析により決定された、糖単位当りのカルボキシレート(メチルカルボキシレート、トリプトファンカルボキシレート)置換度が1
を特徴としていた。
【0075】
実施例3:フェニルアラニンエチルエステルにより修飾されたカルボキシメチルデキストラン(AP3)
この両親媒性ポリマーを、実施例1に従い、糖単位当りのカルボキシメチル置換度が1.0及び60kg/モルの平均モル質量を有するカルボキシメチルデキストランから合成した。最終ポリマーは、
・DO/NaODにおけるRMNHにより決定された、糖単位当りのPheOEt置換度が0.45、
・電位差測定解析により決定された、糖単位当りのカルボキシレート(メチルカルボキシレート)置換度が0.55、
を特徴としていた。
【0076】
実施例4:チロシンメチルエステルにより修飾されたカルボキシメチルデキストラン(AP4)
この両親媒性ポリマーを、実施例1に従い、糖単位当りのカルボキシメチル置換度が1.0及び60kg/モルの平均モル質量を有するカルボキシメチルデキストランから合成した。最終ポリマーは、
・DO/NaODにおけるRMNHにより決定された、糖単位当りのTyrOMe置換度が0.45、
・電位差測定解析により決定された、糖単位当りのカルボキシレート(メチルカルボキシレート)置換度が0.55、
を特徴としていた。
【0077】
実施例5:トリプトファンエチルエステルにより修飾されたデキストランコハク酸(AP5)
この両親媒性ポリマーを、文献(Sanchez−Chaves,Manuel他,polymer 1998,39(13),2751−2757)に従い得られた、糖単位当りのコハク酸置換度が1.0及び70kg/モルの平均モル質量を有するデキストランコハク酸から合成した。クロロギ酸エチル及びN−メチルモルホリンを用いた有機溶媒中での慣用のカップリング法に従い、トリプトファンエチルエステルをポリマーの酸にグラフトした。反応媒体を水中に希釈し、そして1NのNaOHを添加してpHを7に調節した後、ポリマーを限外濾過により精製した。最終ポリマーは、
・DO/NaODにおけるRMNHにより決定された、糖単位当りのTrpOEt置換度が0.45、
・電位差測定解析により決定された、糖単位当りのカルボキシレート(コハク酸カルボキシレート)置換度が0.55、
を特徴としていた。
【0078】
比較例1:ドデシルアミンにより修飾されたカルボキシメチルデキストラン(AP6)
この両親媒性ポリマーを、実施例1に従い、糖単位当りのカルボキシメチル置換度が1.0及び60kg/モルの平均モル質量を有するカルボキシメチルデキストランから合成した。最終ポリマーは、
・DO/NaODにおけるRMNHにより決定された、糖単位当りのドデシルアミン置換度が0.10、
・電位差測定解析により決定された、糖単位当りのカルボキシレート(メチルカルボキシレート)置換度が0.90
を特徴としていた。
【0079】
比較例2:ベンジルアミンにより修飾されたカルボキシメチルデキストラン(AP7)
この両親媒性ポリマーは、特許文献7に記載されており、
・糖単位当りのベンジルアミン置換度が0.45、
・糖単位当りのカルボキシレート(メチルカルボキシレート)置換度が0.55、
を特徴としていた。
【0080】
電気泳動による両親媒性ポリマーに対するBMP−2の親和性
BMP−2/両親媒性ポリマー複合体の製造
O/AcN/TFA(64.9/35/0.1%)緩衝液中の0.28mg/mLBMP−2溶液の5μLを、pH7.4によって緩衝化された100mg/mLのAP溶液の7μLに添加した。この溶液を0.9%NaCl溶液を用いて14μLとした。この溶液は、0.1mg/mLのBMP−2濃度、及び1:500のBMP−2/AP比を有していた。この溶液を、周囲温度にて30分間素早く攪拌した。
【0081】
BMP−2/両親媒性ポリマー複合体の証明
BMP−2/AP溶液を泳動用緩衝液(pH7を有するトリスアセテート溶液)で20倍に希釈した。希釈溶液の2μLをその後、水8μL及びローディング用緩衝液7μL(水中のグリセロール、トリスアセテート及びブロモフェノールブルー)に添加した。このBMP−2を10ng及びAPを5μL含有する17μLを、0.8%アガロースゲルのウェルに沈積した。電気泳動チャンバを閉じ、そしてジェネレータを30Vに設定した。泳動を1時間継続した。
【0082】
泳動後、ゲルを、電界の下でアノードに置いたPVDFメンブランに転移させた(20分間,15V,バイオラッド社(BioRad)からのトランス−ブロットSD(Trans−Blot SD))。メンブランを、周囲温度にて1時間、脱脂粉乳を用いて飽和させ、そしてその後、BMP−2の第一抗体とともにインキュベートし(4℃にて一晩)、そして最後に、第二抗体であるウサギ抗ヤギHRPとともにインキュベートした(周囲温度にて1時間)。Opti−4CNに対してHRPを反応させることにより、現像を行った。反応生成物が可視光を吸収するので、染色が十分となったときに現像を停止させた。
【0083】
BMP−2がAPと複合体を形成すると、該複合体は沈積位置から0.7cmの単一スポットの形態で検出される(アノードへの泳動)。BMP−2が単独であるか又はAPと複合体を形成していない場合には、泳動されていないため、沈積位置にてそれが検出される。
【0084】
5種のポリマーについての結果を下記表に示す。
【表1】

【0085】
生理的pHにおける両親媒性ポリマーの存在下でのBMP−2の安定性
BMP−2/両親媒性ポリマー複合体の製造
O/AcN/TFA(64.9/35/0.1%)緩衝液中の0.28mg/mLのBMP−2溶液から出発して、種々の溶液を製造した。
1.水中に希釈することにより得られた0.084mg/mLBMP−2溶液
2.14mg/mLのAP溶液を用いてBMP−2を希釈することにより得られた、0.084/9.8mg/mLのBMP−2/両親媒性ポリマー溶液。
各々の溶液をその後、pH7.4及び300mOsmを有するPBS10mM溶液を用いて1:10に希釈し、そしてその後、マイクロコン細胞遠心分離(Microcon cell centrifugation)を用いて再濃縮した(YM10,10kD,500μL)。この操作を2回繰り返した。3回の洗浄後、各々の溶液を遠心分離し、そして上澄み中のBMP−2の濃度を、ELISA法により決定した。
【0086】
対照とするために、0.084mg/mLのBMP−2溶液の一部について、いかなる洗浄もしなかった。0.084mg/mLのBMP−2溶液の別の一部を、1mMのHCl溶液(pH3)を用いて3回洗浄した。この緩衝液は、BMP−2を安定化させるのに既知であるが、医薬用途には適合しない。
【0087】
いかなる洗浄も受けなかったBMP−2溶液のELISAアッセイは、83.4μLのBMP−2濃度を与えた。この数値は100%BMP−2に相当する。PBSを用いた3回の洗浄の最後におけるその他の溶液のELISAにより決定された濃度が、未洗浄のBMP−2の上記数値に加えられた。得られたBMP−2のパーセンテージを下記の表に示す。
【表2】

【0088】
BMP−2と複合体を形成し得るAPは、生理的pHにおいてBMP−2を安定にさせた。APが存在しない場合においては、BMP−2は、生理的pHの溶液中にもはや存在しなかった。同様に、BMP−2と複合体を形成しなかったAPの存在下においても、タンパク質は溶液中にもはや存在しなかった。
【0089】
37℃の且つ生理的pHの培地中での両親媒性ポリマーの存在下でのBMP−2の安定性及び生物学的活性
0日目に、C2C12細胞(マウスの筋肉細胞)を、10%FVS及び1%TBAを含有するDMEMを含有する96ウェルの培養プレートに播種し(ウェル当り7000細胞)、そしてその後、オーブン中に24時間置いた。1日目に、細胞の付着後に、培地を、2%FVS及び1%TBAを含有するDMEMで24時間置き換えた。2日目に、培地を、BMP−2のみの溶液(0.3μg/mL)又はBMP−2/AP1複合体の溶液(0.3/150μg/mL,1:500の比)を補った2%FVS及び1%TBAを含有するDMEMで置き換えた。複合体を、2%FVS及び1%TBAを含有するDMEM中にBMP−2及びAPを別々に希釈することにより製造した。沈積させる前に、タンパク質/AP1混合物を1時間静置させた。7日目に、即ち沈積して5日後に、残存するBMP−2をELISAによりアッセイするために上澄みを採取した。
【表3】

細胞を接触させて5日後に、単独であったBMP−2の5%未満が残存したが、AP1とともに混合された場合には、40%を超えるBMP−2が残存した。
【0090】
同様の実験の7日目に、細胞をPBSを用いて2回洗浄し、その後50μLの溶解緩衝液を用いて溶解させ、そして、凍結(−80℃)/解凍(37℃)のサイクルを3回行った。アルカリホスファターゼの酵素活性を、405nmにて吸収する基質であるp−ニトロフェニルホスフェートに対する溶解質において測定した。この活性は、マイクロBCAにより測定されたタンパク質の量まで低下し、そしてそれ故タンパク質のnmol pnP/分.μgで表した。
【表4】

BMP−2は、複合体によって、生存条件下で5日間よりも長く安定化されたが、それ自体単独では、そのような期間安定ではなかった。
BMP−2活性は、細胞分化のゆっくりとした進行によって明らかであり、BMP−2複合体は、BMP−2単独よりも生体外においてより高い活性であった。
【0091】
酵素分解に対するBMP−2ポリマーを用いた保護
BMP−2/ポリマー複合体の製造
TFAアセトニトリル緩衝液中の0.315mg/mL BMP−2溶液の19μLを、66mg/mLポリマー(PA2)溶液の4.6μLに、7.5のpHを有するトリス50mMの50μLに、25μg/mLサーモリシンの60μLに、そしてHO366.4μLに添加した。いずれのポリマーも含有しない同様の溶液を対照として製造した。これら2種の溶液において、サーモリシンはタンパク質の25%である(質量/質量)。
【0092】
消化動態:
サーモリシンを含有するBMP−2単独の溶液及び複合体の溶液を60℃にて6時間インキュベートした。T=0.20分、1時間、2時間及び6時間にて20μLの試料を採取した。各々の試料を採取したとき、酵素反応を阻害するために250mM EDTAの5μLを直ちに添加し、即ち、50mMの最終濃度であった。その後、試料を−20℃にて凍結させた。
【0093】
現像:
15%SDS−Pageゲルから形成したウエスタンブロットを使用して、現像を行った。各々の試料の7μL(BMP−2の65ngを含有する)を、SDSを含有するLaemmliローディング用緩衝液の7μLと混合した。その後、試料を95℃にて10分間変性し、その後、15%SDS−Pageゲルに沈積した。対照として、等量のBMP−2(65ng)及びサーモリシン(16.25ng)をもゲルに沈積した。電気泳動チャンバを閉じ、そしてジェネレータを125Vに設定した。泳動を1時間15分間継続した。
【0094】
泳動後、バイオラッド転移系を用いて、100ボルトにて1時間、ゲルをPVDFメンブランに転移させた。メンブランをその後、周囲温度にて1時間、脱脂粉乳を用いて飽和させ、そしてその後、BMP−2の第一抗体とともにインキュベートし(4℃にて一晩)、そして最終的に、HRPと結合する第二抗体とともにインキュベートした(周囲温度にて1時間)。Opti−4CNにおいてHRPを反応させることにより現像を行った。反応生成物が可視光を吸収するので、染色が十分となったときに現像を停止させた。
【0095】
BMP−2が単独であると、20分後により低分子量のバンドの出現が観察され、このことは、サーモリシンによるタンパク質の分解であると解釈される。ポリマーの存在下においては、このバンドは存在せず、このことは、ポリマーが分解に対してタンパク質を保護していることを示している。
ポリマーがサーモリシンの作用を阻害していないことをチェックした後には、得られた結果が、ポリマーPA2が酵素分解に対してBMP−2を有効に保護していることを示すものと結論され得る。
【0096】
生理的pHの水中において複合体の形態にあるBMP−2の可溶化
生理的pHでのBMP−2の溶解度
BMP−2は8.5の等電点を有しており、このことは生理的pHにおいて、BMP−2がその低い溶解度と関連していることを意味している。このことは、BMP−2を用いた酸溶液を中和するための実験によって示され得る。
【0097】
生理的pHでのBMP−2/PA2複合体の溶解度
清澄な1.5mg/mL BMP−2溶液を、酸性緩衝液(インフーズ緩衝液,pH4.5)中で製造した。75mg/mLの濃度のPA2を得るために、凍結乾燥したPA2を前記溶液に添加した。このBMP−2/PA2複合溶液をその後、ホスフェート緩衝液を添加することによって中和して、7.4のpHを得た(1.2mg/mLの最終BMP−2濃度及び60mg/mLの最終PA2濃度)。pH7.4にてBMP−2は完全に溶解し、凝集体は見られなかった。BMP−2/PA2複合体の形態における、生理的pHでのBMP−2の溶解度は、それ故大きく高められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物理的及び化学的に安定であり且つ水溶性である両親媒性ポリマー−BMP複合体であって、前記両親媒性ポリマーは、下記の一般式:
【化1】

[式中、
R、Rは、同一又は異なっていてもよく、結合部又は1ないし18個の炭素原子を含有する連鎖を表し、前記連鎖は、場合によっては、枝分れし及び/又は不飽和であっても、且つ、1個以上のヘテロ原子、例えばO、N又は/及びSを含有していてもよく、
F、Fは、同一又は異なっていてもよく、エステル、チオエステル、アミド、炭酸塩、カルバミン酸塩、エーテル、チオエーテル又はアミンを表し、
Xは、カルボキシレート、スルフェート、スルホネート、ホスフェート及びホスホネートからなる群より選択された親水基を表し、
Yは、スルフェート、スルホネート、ホスフェート及びホスホネートからなる群より選択された親水基を表し、
Hyは、下記の群:
・不飽和であってもよく、及び/又は1個以上のヘテロ原子、例えばO、N又はSを含有していてもよい直鎖状の又は枝分れ状の炭素原子数8ないし30のアルキル基、
・不飽和であってもよく、及び/又は1個以上のヘテロ原子、例えばO、N又はSを含有していてもよい直鎖状の又は枝分れ状の炭素原子数8ないし18のアルキルアリール基、或いは直鎖状の又は枝分れ状の炭素原子数8ないし18のアリールアルキル基、及び
・不飽和であってもよく、及び/又は1個以上のヘテロ原子、例えばO、N又はSを含有していてもよい炭素原子数8ないし30の多環式基
からなる群より選択される疎水基を表すが、但し、Hyはベンジルアミンを表すものではなく、
n及びoは1ないし3の数であり、
hは、モノマー単位に関する疎水性パターンのモル分率を表すものであって、0.01ないし0.5であり、
xは、モノマー単位に関する親水基のモル分率を表すものであって、0ないし2.0であり、
yは、モノマー単位に関する親水基のモル分率を表すものであって、0ないし0.5である。]
で表される疎水性置換基と親水基により官能化された親水性多糖類骨格により形成されており、
前記BMPは、治療上有効なBMP(骨形成タンパク質)の群より選択され、
前記ポリマー/BMP質量比は700以下であることを特徴とする、複合体。
【請求項2】
前記多糖類は、式中、y=0である一般式Iで表される多糖類より選択されることを特徴とする、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
前記多糖類は、式中、Xがカルボキシレートを表す一般式Iで表される多糖類より選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の複合体。
【請求項4】
前記ポリマー/BMP質量比は、600以下であることを特徴とする、請求項1ないし3のうちいずれか1項に記載の複合体。
【請求項5】
前記ポリマー/BMP質量比は、500以下であることを特徴とする、請求項1ないし3のうちいずれか1項に記載の複合体。
【請求項6】
前記BMPは、BMP−2(ジボテルミンα(dibotermin−alfa))、BMP−4、BMP−7(エプトテルミンα(eptotermin−alfa))、BMP−14及びGDF−5からなる群より選択されることを特徴とする、請求項1ないし5のうちいずれか1項に記載の複合体。
【請求項7】
前記ポリマーは、置換基が任意の手法で分布したポリマーより選択されることを特徴とする、請求項1ないし6のうちいずれか1項に記載の複合体。
【請求項8】
前記多糖類は、ヒアルロン酸(hyaluronanes)、アルギン酸、キトサン、ガラクツロン酸、コンドロイチン硫酸、デキストラン及びセルロースからなる群より選択されることを特徴とする、請求項1ないし7のうちいずれか1項に記載の複合体。
【請求項9】
前記セルロースの群は、酸により官能化されたセルロース、例えばカルボキシメチルセルロースからなることを特徴とする、請求項1ないし8のうちいずれか1項に記載の複合体。
【請求項10】
前記デキストランの群は、酸により官能化されたデキストラン、例えばカルボキシメチルデキストランからなることを特徴とする、請求項1ないし6のうちいずれか1項に記載の複合体。
【請求項11】
前記多糖類は、ヒアルロン酸、アルギン酸及びキトサンからなる群より選択されることを特徴とする、請求項1ないし6のうちいずれか1項に記載の複合体。
【請求項12】
前記疎水基Hyは、トリプトファン、チロシン、フェニルアラニン、ロイシン及びイソロイシンからなる群より選択される疎水性の天然アミノ酸、或いはそれらのアルコール誘導体、脱カルボン酸誘導体、エステル誘導体又はアミド誘導体であることを特徴とする、請求項1ないし11のうちいずれか1項に記載の複合体。
【請求項13】
前記疎水基Hyは、トリプトファン或いはトリプトファンのエステル誘導体又はアミド誘導体であることを特徴とする、請求項1ないし12のうちいずれか1項に記載の複合体。
【請求項14】
前記両親媒性ポリマー−BMP複合体の形成は、可逆的であることを特徴とする、請求項1ないし13のうちいずれか1項に記載の複合体。
【請求項15】
前記BMPは、生理的pHにて安定であることを特徴とする、請求項1ないし14のうちいずれか1項に記載の複合体。
【請求項16】
前記BMPは、37℃及び中性pHにて生物学的活性を示すことを特徴とする、請求項1ないし15のうちいずれか1項に記載の複合体。
【請求項17】
前記ポリマー/BMP複合体は、水性溶媒中にて且つタンパク質を変性し得る有機溶媒なしに製造されることを特徴とする、請求項1ないし16のうちいずれか1項に記載の両親媒性ポリマー−BMP複合体の製造方法。
【請求項18】
請求項1ないし16のうちいずれか1項に記載の両親媒性ポリマー−BMP複合体を含有することを特徴とする、治療用組成物。
【請求項19】
およそ1.5mg/mLのBMP投与を可能とすることを特徴とする、請求項18に記載の治療用組成物。
【請求項20】
生体内で骨形成を誘発する治療用組成物の製造のための、請求項1ないし16のうちいずれか1項に記載の両親媒性ポリマー−BMP複合体の使用。

【公表番号】特表2010−534708(P2010−534708A)
【公表日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−518637(P2010−518637)
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【国際出願番号】PCT/EP2008/059832
【国際公開番号】WO2009/016131
【国際公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(508090088)
【Fターム(参考)】