両親媒性分子層の形成法
2種類の体積の水溶液を分離する層(11)、とりわけ二重層脂質膜(BLM)を形成するために、チャンバー(7)を画定し、非導電材料の本体(2)を含む要素を備え、本体の中には、チャンバーに開口している少なくとも1つの凹部(5)が形成され、凹部は電極(21)を収容する器具が用いられる。本体には凹部の端から端まで、疎水性流体の前処理コーティングが適用される。両親媒性分子が添加されている水溶液が、本体の端から端まで凹部を覆うように流され、その結果、水溶液がチャンバーから凹部の中に導入され、かつ両親媒性分子層が凹部の端から端まで形成され、それによって、凹部の中に導入されたある体積の水溶液を残りの体積の水溶液から分離する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1つの局面において、本発明は、脂質二重層などの両親媒性分子層の形成に関する。特に、本発明は、高感度での電気信号の測定を必要とする用途、例えば、バイオセンサまたは薬物スクリーニング用途の単一チャネルレコーディングおよび確率的センシング(stochastic sensing)に適した高品質層の形成に関する。1つの特定の局面において、本発明は、両親媒性分子層、例えば、脂質二重層のアレイを用いた用途に関する。別の局面において、本発明は、凹部の中に設けられた電極、例えば、電気生理学的測定を行うための電極の性能に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオセンシングおよび創薬用途に細胞タンパク質を使用する可能性が長い間評価されてきた。しかしながら、この可能性を余すところなく現実のものとするために、この技術の開発において克服すべき技術課題が数多くある。蛍光手法および光学手法の使用については多くの文献があるが、この文書の焦点は、バイオセンシングにおいて分析物を認識するために電気信号を測定することにある。
【0003】
1つのタイプの技法において、2種類の体積の水溶液を分離する層として両親媒性分子層が用いられることがある。この層は体積間の電流に対する抵抗となる。選択的にイオンが層を通過するように、この層には膜タンパク質が挿入されており、2種類の体積の水溶液中にある電極によって電気信号が検出されると、イオンの通過が記録される。標的分析物の存在はイオンの流れを調節し、結果として生じた電気信号変化を観察することによって検出される。従って、このような技法によると、この層は、分析物を検出するバイオセンサとして使用することが可能になる。層は、示された単一分子バイオセンサの必須の成分であり、その目的は2つに分けられる。第1に、この層は、センシング要素として働くタンパク質の土台となる。第2に、この層は体積間のイオンの流れを隔離し、この層の電気抵抗のために、このシステムにおいてイオンの流れが中心となって寄与するのは関心対象の膜タンパク質によるものになり、二重層を通る流れはごくわずかしかなく、従って、単一のタンパク質チャネルを検出することが可能になる。
【0004】
具体的な用途の1つは確率的センシングである。この場合、膜タンパク質の数は少なく、典型的には1〜100個に保たれ、その結果、単一タンパク質分子の挙動をモニタリングすることができる。この方法により、それぞれの特異的な分子相互作用に関する情報が得られ、従って、バルク測定より多くの情報が得られる。しかしながら、小さな電流、典型的には数pAが関与するために、この手法の要件は、非常に高い、典型的には少なくとも1GΩ、用途によっては1桁または2桁高い抵抗シールと、電流を測定するのに十分な電気感度である。確率的センシングの要件は研究室では満たされてきたが、必要な条件および専門技術はその用途を制限する。さらに、研究室での方法は手間と時間がかかり、市販のバイオセンサに望ましい高密度アレイに容易に拡張することができない。さらに、単一二重層膜の脆弱性は、しばしば、防振テーブルが研究室において用いられるという結果をもたらす。
【0005】
背景として、脂質二重層などの両親媒性分子層を形成する既存の技法を概説する。
【0006】
平面人工脂質二重層を形成するいくつかの方法が当技術分野において公知であり、最も注目すべきは、張り合わせ二重層(folded bilayer)形成(例えば、Montal & Mueller法)、ティップ-ディップ法(tip-dipping)、刷毛塗り法(painting)、パッチクランプ法、および油中水型小滴界面を含む。
【0007】
現在、研究室におけるルーチンな単一イオンチャネルの特徴付けの大半は、張り合わせ二重層、刷毛塗り二重層、またはティップ-ディップ法を用いて行われる。これらの方法は、二重層形成を容易にするために、または形成可能な高抵抗シール(例えば、10〜100GΩ)のために用いられる。ティップ-ディップ二重層および巨大な単層リポソームのパッチクランプ法による二重層もまた、無溶媒様式で形成することができるので研究されている。無溶媒は、一部のタンパク質チャネルの活性に重要であると考えられている。
【0008】
Montal & Mueller (Proc. Natl. Acad. Sci. USA. (1972), 69, 3561-3566)(非特許文献1)の方法は、タンパク質ポア挿入に適した品質のよい張り合わせ脂質二重層を形成する、費用対効果の大きく、比較的簡単明瞭な方法として人気がある。この方法では、脂質単層を気液界面上に運び、気液界面に対して垂直な膜の中の穴の両側を通過させる。典型的には、最初に脂質を有機溶媒に溶解することによって、脂質を電解質水溶液の表面に添加し、次いで、この液滴を、水溶液の表面にある穴の両側から蒸発させる。有機溶媒が蒸発したら、二重層が形成されるまで、気液界面を物理的に上下に動かして、穴の両側を通過させる。この技法には、前処理コーティングとして穴表面に適用された疎水性油が存在することが必要である。疎水性油の主な機能は二重層と穴フィルムとの間に、環状領域を形成することであり、ここで、脂質単層は典型的には1〜25μmの距離にわたって一緒にならなければならない。
【0009】
ティップ-ディップ法による二重層形成は、穴表面(例えば、ピペット先端)を、脂質単層を運んでいる試験溶液表面に接触させることを必要とする。これもまた、最初に、溶液表面に適用された、脂質が溶解している有機溶媒の液滴を蒸発させることによって、脂質単層を気液界面で作製する。次いで、穴を溶液表面から出し入れする機械的作用によって、二重層を形成する。
【0010】
刷毛塗り法による二重層の場合、脂質が溶解している有機溶媒の液滴を、試験水溶液中に浸漬されている穴に直接に適用する。脂質溶液を、刷毛または同等品を用いて穴の上で薄く広げる。溶媒を薄めると脂質二重層が形成されるが、二重層から溶媒を完全に取り除くことは難しくなり、結果として、形成された二重層は安定性が低く、測定中にノイズを起こしやすくなる。
【0011】
生物細胞膜の研究にはパッチクランプ法が一般的に用いられる。この方法では、細胞膜を吸引することによってピペット末端に固定し、膜パッチが穴の上に付着するようになる。この方法は、リポソームを固定し、次いで、ピペット穴の上に脂質二重層シールを残すように破裂させることによって人工二重層研究に合わせられてきた。これには、安定した巨大な単層リポソームと、ガラス表面材料に小さな穴を製作することが必要とされる。
【0012】
油中水型小滴界面はつい最近の発明であり、ここでは、脂質を含有する炭化水素油のリザーバーの中に、2種類の水性試料が浸漬される。2種類の試料が接触すると、2種類の試料の間にある界面で二重層が形成されるように、脂質は油/水界面にある単層に蓄積する。
【0013】
これらの技法のいずれも、二重層が形成されたら、例えば、寒天が先端部にあるロッドなどのプローブ装置の末端上で、水溶液からランダムに衝突させるか、タンパク質を含有する小胞を融合させるか、またはタンパク質を二重層に機械的に移すことによって、二重層にタンパク質が導入される。
【0014】
最近、超微細加工を用いて二重層をより形成されやすくしようと、多大な努力が払われてきた。技法の中には、張り合わせ脂質二重層のために、本質的には、標準的なシステムを小型化することを試みたものもあった。共有結合または物理的吸着によって、固体基板上に、または直接、電極表面上に、二重層を形成することを含む技法もあった。
【0015】
確率的センシングを行うことができる装置の大部分は、張り合わせ脂質二重層法または刷毛塗り二重層法の変形を用いることによって二重層を形成する。今日まで、大部分が、装置を小型化するために、または複数のアドレス指定可能なセンサを作り出すために新規の穴形成法または新しく浮上しつつある超微細加工技術に集中していた。
【0016】
一例は、Suzuki et al.,「Planar lipid bilayer reconstitution with a micro-fluidic system」, Lab Chip, (4), 502-505, 2004(非特許文献2)である。ここでは、シリコン基板にエッチングをし、その後に、二重層形成プロセスを促す表面処理を行うことによって、穴アレイが作り出されるが、開示された二重層形成の成功率は非常に低い(2割)。
【0017】
つい最近の例が、Sandison, et al.,「Air exposure technique for the formation of artificial lipid bilayers in microsystems」, Langmuir, (23), 8277-8284, 2007(非特許文献3)に開示されている。ここでは、ポリメチルメタクリレートから製造された装置は、2つの別個の水溶液チャンバー(aqueous chamber)を収容する。二重層形成の再現性の問題は、穴から過剰な疎水性材料を除去することが難しいことに起因しており、前処理を薄くするために、二重層形成プロセスを助ける空気曝露期間を用いることによって対処された。
【0018】
Sandison et al.(非特許文献3)およびSuzuki et al.(非特許文献2)の装置は両方とも、2つの別個の流体チャンバーが、二重層が形成される穴を含む隔壁によって分けられている、標準的な刷毛塗り二重層法の小型化バージョンであり、一方のチャンバーは他方のチャンバーの前に充填される。これは、水溶液チャンバーの少なくとも1つは、他のいずれのチャンバーとも電気結合性またはイオン結合性の無い別個のチャンバーでなければならないので、システムを、多数の個々にアドレス指定可能な二重層にスケールアップするのに、多大な問題を提示する。Sandison et al.(非特許文献3)は、3つの流体チャンバーを有し、それぞれが別々の流体を含む装置を作り出した。これは、多数の二重層にスケール変更しにくい手法である。Suzuki et al.(非特許文献2)は、疎水性フォトレジスト層を用いて、穴を含む基板の上部に、小さな水溶液チャンバーを作り出すことによって、この問題に対処しようと試みた。この場合、界面を含む穴を横断する溶液の流れを制御することは難しく、空気に曝露した小さな体積を用いると、器具は蒸発作用を受けやすくなる。2つの引用例とも、二重層一つごとに水溶液チャンバーが個別に必要なことは、チャンバー全てを充填するために、多くの試料体積を使用しなければならないことを意味している。
【0019】
支持された脂質二重層を用いるバイオセンサ装置の一例は、米国特許第5,234,566号(特許文献1)に開示されている。この装置は容量性である。ゲート開閉するイオンチャネルが分析物に反応する。この分析物が結合すると、イオンチャネルのゲート開閉挙動が変化し、これは、膜キャパシタンスの電気反応を介して測定される。脂質二重層を支持するために、金電極上のアルカン-チオール分子単層が用いられ、これは、脂質単層が自己組織化するための土台となる。この単層は、装置のセンシング要素として用いられる、グラミシジンなどのイオンチャネルを組み込むことができる。電極表面上に繋ぎ止められた脂質二重層を作り出して、他の膜タンパク質を組み込むために、この方法のバリエーションが用いられてきた。しかしながら、この手法には多くの欠点がある。第1の欠点は、典型的には約1nm〜10nm厚の脂質二重層の下に存在する水溶液の少ない体積には、直流測定を有効な期間、実施するのに十分なイオンが含まれないことである。これは、固体支持体上にある、ほぼ全ての繋ぎ止められた二重層によく見られる作用である。意味のある期間の記録のために、電極でのイオン枯渇を克服するためには交流測定を使用しなければならないが、これは装置の感度を制限する。
【0020】
支持された脂質二重層を用いるバイオセンサ装置の一例は、Urisu et al., 「Formation of high-resistance supported lipid bilayer on the surface of a silicon substrate with microelectrodes」, Nanomedicine, 2005, (1), 317-322(非特許文献4)に開示されている。この装置は、支持された二重層を形成するために、リン脂質分子とSiO2表面との間の強い表面接着を利用する。小さなチャネルを電極表面に曝露するために、シリコンチップ製造においてよく見られるエッチング法を用いて、酸化ケイ素表面が修飾される。次いで、酸化ケイ素表面上に二重層が形成され、これによって、数MΩの電気抵抗が生じる。このシステムでは、このプロセスによって作り出されたウェルは、個々にアドレス指定される。
【0021】
支持された脂質二重層を用いる引用例では2つとも、これらの方法を用いて高抵抗シールを形成することは常に難しい。多数のイオンチャネルから生じる変化を観察するには十分であるかもしれないが、単一チャネルまたは確率的測定は本質的にさらに感度が高く、この方法論を使用しても非常に困難である。
【0022】
これらの文書にある、支持された二重層法には多くの問題があり、このために、一般的に、このシステムは不適切になっている。第1の問題は、典型的には約100MΩの二重層膜の抵抗にある。これは、高いタンパク質濃度でタンパク質挙動を調べるのに適しているかもしれないが、典型的には、少なくとも1GΩの抵抗、用途によっては1桁または2桁高い抵抗を必要とする単一分子センシングに基づく高忠実度アッセイには十分でない。第2の問題は、典型的には約1nmの、二重層と固体支持体との間の短い距離にトラップされる溶液の体積が少ないことである。この少ない体積は多くのイオンを含有せず、二重層全体にわたる電位の安定性に影響を及ぼし、記録の期間を制限する。
【0023】
支持された固体二重層の問題を克服するために、多くの方法が提案されている。選択肢の1つは、二重層と表面との間に化学的結合を組み込むことであり、小さなポリエチレングリコール層が導入されるか(ポリマークッション二重層)、小さな親水性結合を含有するように脂質が化学修飾され、小胞が付着するための土台となる表面と反応される(繋ぎ止められた二重層)。これらの方法は脂質二重層の真下にあるイオンリザーバーを増やしたが、実施するには不便であり、二重層全体にわたる電流漏れを少なくすることはほとんどなかった。
【0024】
シリコンチップ産業において用いられる技法は、バイオセンサ用途において使用可能な多数の電極を作り出す魅力的な技術を提供する。この手法は、関連出願である米国特許第7,144,486号(特許文献2)および米国特許第7,169,272号(特許文献3)に開示されている。米国特許第7,144,486号(特許文献2)は、絶縁体材料層にエッチングされたマイクロキャビティを含む微小電極装置を製造する方法を開示している。この装置には、キャビティ内の電極が電気信号を測定する広範囲の電気化学的用途があると言われている。キャビティの端から端まで薄いフィルムを吊すことができると述べられている。脂質二重層を含む、いくつかのタイプのフィルムが言及されている。しかしながら、これは単なる案であり、脂質二重層を形成する技法も、この実験報告も全く開示されていない。実際に、関連出願である米国特許第7,169,272号(特許文献3)は、同じタイプの装置における脂質二重層の実験形成を報告し、支持された脂質二重層が、電極の上に直接、化学的に取り付けられたことを開示している。これは、前記で引用されたOsman et al.(非特許文献5)において提示された類似技法を使用し、確率的測定のための十分に高い抵抗シールの欠如、および二重層システムを横断するイオンの流れを記録するためのイオンリザーバーの欠如に関連する同じ欠点を被っている。
【0025】
要約すると、前記でまとめた公知の技術は、再現性よく高抵抗を実現できないか、または低イオンリザーバーを被り、長期間、直接、直流を測定できないか、またはそれぞれのアレイ要素について別々の流体チャンバーを必要とするために、装置を高密度アレイにスケールアップすることが限定されている二重層形成法である。これらの問題を軽減することが望ましいと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【特許文献1】米国特許第5,234,566号
【特許文献2】米国特許第7,144,486号
【特許文献3】米国特許第7,169,272号
【非特許文献】
【0027】
【非特許文献1】Montal & Mueller (Proc. Natl. Acad. Sci. USA. (1972), 69, 3561-3566)
【非特許文献2】Suzuki et al.,「Planar lipid bilayer reconstitution with a micro-fluidic system」, Lab Chip, (4), 502-505, 2004
【非特許文献3】Sandison, et al.,「Air exposure technique for the formation of artificial lipid bilayers in microsystems」, Langmuir, (23), 8277-8284, 2007
【非特許文献4】Urisu et al., 「Formation of high-resistance supported lipid bilayer on the surface of a silicon substrate with microelectrodes」, Nanomedicine, 2005, (1), 317-322
【非特許文献5】Osman et al.
【発明の概要】
【0028】
本発明の第1の局面によれば、2種類の体積の水溶液を分離する層を形成する方法が提供される。この方法は、
(a)チャンバーを画定し、非導電材料の本体を含む要素を備える器具であって、本体の中には、チャンバーに開口している少なくとも1つの凹部が形成され、凹部は電極を収容する、器具を提供する工程;
(b)本体に凹部の端から端まで疎水性流体の前処理コーティングを適用する工程;
(c)本体の端から端まで凹部を覆うように、両親媒性分子が添加されている水溶液を流し、その結果、水溶液がチャンバーから凹部の中に導入され、両親媒性分子層が凹部の端から端まで形成され、それによって、凹部の中に導入された、ある体積の水溶液を残りの体積の水溶液から分離する工程を含む。
【0029】
このような方法を用いることで、実施するのに簡単明瞭な器具および技法を使用すると同時に、確率的センシングなどの高感度技法のために十分に品質の高い両親媒性分子層を形成することができる。
【0030】
使用される器具は比較的単純であり、最も重要なことには、イオン非伝導性材料の本体を含み、本体の中には、少なくとも1つの凹部が形成されている。驚いたことに、単に、本体の端から端まで凹部を覆うように水溶液を流すことによって、このような凹部の端から端まで両親媒性分子層を形成できることが証明された。これを達成するために、疎水性流体の前処理コーティングが、本体に凹部の端から端まで適用される。前処理コーティングは層の形成の助けとなる。層は、隔壁によって分けられた2つのチャンバーを伴う複雑な器具を必要とせず、別々の充填を実現するために複雑な流体配置を必要とせずに形成される。これは、この方法が、水溶液を前記のチャンバーに導入する前に凹部が予め充填されることを必要としないからである。その代わりに、水溶液はチャンバーから凹部の中に導入される。これにもかかわらず、依然として、単に、チャンバーへの水溶液の流れを制御することによって、層を形成することができる。このような流れの制御は、簡単明瞭で現実的な技法である。
【0031】
重要なことに、この方法を用いることで、確率的センシングおよび単一チャネル記録などの高感度バイオセンサ用途に適した両親媒性分子層を形成することができる。高抵抗電気シールを提供し、1GΩまたはそれ以上、典型的には、少なくとも100GΩの電気抵抗を有する高抵抗層を形成できることが証明された。これにより、例えば、単一タンパク質ポアから高忠実度の確率的記録が可能になる。これは、凹部の中の、層と電極との間に、ある体積の水溶液をトラップすると同時に達成される。これは、かなりの電解質供給を維持する。例えば、水溶液の体積は、層に挿入された膜タンパク質を介して、安定して連続的にdc電流を測定するのに十分である。これは、支持された脂質二重層を用いる前記の公知の技法とは大きく異なる。
【0032】
さらに、器具の簡単な構造は、複数の凹部からなるアレイを有し、それぞれの凹部全体にわたる層を電気的に隔離し、それ自身の電極を用いて個々にアドレス指定するのを可能にする小型化器具の形成を可能にする。小型化されたアレイは、試験試料から並列に測定する多くの個々のセンサと同等である。凹部は比較的高密度に詰めることができるので、所定の体積の試験試料について多数の層を使用することができる。個々のアドレス指定は、それぞれの電極と別々に接触させることによって達成することができ、これは、現代の超微細加工法、例えば、リソグラフィを用いれば簡単である。
【0033】
さらに、この方法を用いると、非常に簡単明瞭な技法を使用して、単一の器具の中にある、列になった複数の凹部の端から端まで複数の両親媒性分子層を形成することができる。
【0034】
ほとんどの用途では、その後に、1つまたは複数の膜タンパク質が層に挿入される。本発明に従って使用することができる、ある特定の膜タンパク質を、以下でさらに詳細に議論する。
【0035】
本発明のさらなる局面によれば、このような両親媒性分子層を形成する方法を実行するのに適した器具が提供される。
【0036】
本発明のさらなる詳細および好ましい特徴を今から説明する。
【0037】
両親媒性分子は典型的には脂質である。この場合、層は、2つの相対する脂質単層から形成された二重層である。脂質は1種類または複数の種類の脂質を含んでもよい。脂質二重層はまた、二重層の特性に影響を及ぼす添加物を含有してもよい。本発明によって使用することができる、ある特定の脂質および他の両親媒性分子ならびに添加物を、下記でさらに詳細に議論する。
【0038】
水溶液に両親媒性分子を添加するために様々な技法を適用することができる。
【0039】
第1の技法は、単に、水溶液をチャンバーに導入する前に、器具の外側で水溶液に両親媒性分子を添加する技法である。
【0040】
特に有利な第2の技法は、水溶液をチャンバーに導入する前に、両親媒性分子をチャンバーの内面、または水溶液の流路、例えば、入口と接続している流体入口パイプにある他の場所に付着させる技法である。この場合、工程(c)の間に水溶液は内面を覆い、これによって、両親媒性分子は水溶液に添加される。このように、水溶液は内面から両親媒性分子を集めるのに用いられる。このような両親媒性分子の付着にはいくつかの利点がある。これにより、両親媒性分子が水溶液に直接添加されれば、典型的に存在するような多量の有機溶媒の非存在下で、両親媒性分子層を形成することが可能になる。このことは、層を形成することができる前に、有機溶媒の蒸発を待つ必要はないことを意味している。さらに、このことは、器具が、有機溶媒の影響を受けない材料から作られる必要は無いことを意味している。例えば、有機ベースの接着剤が使用されてもよく、電極を構築するためにスクリーン印刷された導電性の銀/塩化銀ペーストが使用されてもよい。
【0041】
有利なことに、付着された両親媒性分子を乾燥させることができる。この場合、両親媒性分子を再水和するために、水溶液が用いられる。これにより、使用前に、両親媒性分子を器具の中に安定して保管することが可能になる。これにより、両親媒性分子の湿式保管の必要も無くなる。このような両親媒性分子の乾式保管は器具の貯蔵寿命を長くする。
【0042】
両親媒性分子層に膜タンパク質を挿入するために、いくつかの技法を使用することができる。
【0043】
第1の技法は、単に、水溶液に膜タンパク質を添加し、これによって、膜タンパク質が両親媒性分子層に自発的に挿入される技法である。水溶液をチャンバーに導入する前に、膜タンパク質は器具の外側で水溶液に添加されてもよい。または、水溶液をチャンバーに導入する前に、膜タンパク質はチャンバー内面に付着されてもよい。この場合、工程(c)の間に水溶液は内面を覆い、これによって、膜タンパク質は水溶液に添加される。
【0044】
第2の技法は、水溶液に、膜タンパク質を含有する小胞を添加し、これによって、小胞と両親媒性分子層が融合すると、膜タンパク質が挿入される技法である。
【0045】
第3の技法は、膜タンパク質を、寒天が先端部にあるロッドなどのプローブに載せて層に運ぶことによって、膜タンパク質を挿入する技法である。
【0046】
両親媒性分子層を形成するために、水溶液は、本体の端から端まで凹部を覆うように流される。形成は、水溶液が凹部を最後に覆う前に、凹部を少なくとも1回、覆ったり露出したりするマルチパス(multi-pass)法が適用された場合に改善される。これは、次の通過の際に層の形成を助ける、少なくともいくらかの水溶液が凹部の中に残るためであると考えられている。
【0047】
前処理コーティングは、凹部の周囲の本体表面に対する両親媒性分子の親和性を高めることによって、層の形成を助ける疎水性流体である。一般的に、脂質に対する親和性を高めるために、穴の周囲にある表面の表面を修飾する任意の前処理を使用することができる。本発明に従って使用することができる、前処理コーティング用のある特定の材料を、以下でさらに詳細に議論する。
【0048】
前処理コーティングが広がるのを助けるために、(a)凹部の周囲の本体の最外面、および(b)少なくとも、凹部の縁から延びる凹部の内面の外側部分の、一方または好ましくは両方を含む表面が、疎水性でもよい。これは、疎水性材料で形成された最外層を有する本体を作ることによって達成されてもよい。
【0049】
これを達成する別の手法は、器具製造中に、表面を、フッ素種、例えば、フッ素ラジカル、例えば、フッ素プラズマ処理によって処理する技法である。
【0050】
前処理コーティングを適用すると、凹部の中に収容された電極を覆う過剰な疎水性流体が残ることがある。これは、イオンの流れを少なくすることによって電極を潜在的に絶縁し、それによって、電気信号測定における器具の感度が小さくなる。しかしながら、この問題を最小限にするために、様々な異なる技法を適用することができる。
【0051】
第1の技法は、凹部の中の電極とチャンバー内のさらなる電極の間に、凹部の中に収容された電極を覆っている過剰な疎水性流体の量を減らすのに十分な電圧を印加する技法である。これにより、エレクトロ-ウェッティングに似た効果が得られる。水溶液が凹部に流入するように、本体の端から端まで凹部を覆うように水溶液を流した後に、電圧が印加される。電圧が、凹部の端から端まで形成された層を破裂させるので、その後に、水溶液は凹部を露出するように流され、次いで、両親媒性分子が添加されている水溶液が、凹部を再び覆うように本体の端から端まで流され、その結果、両親媒性分子層が凹部の端から端まで形成される。
【0052】
第2の技法は、凹部の内面の内側部分を親水性にする技法である。典型的には、これは、凹部の内面の外側部分を疎水性にすることと組み合わせて適用される。これは、親水性材料で形成された内層および疎水性材料で形成された最外層を有する本体を作ることによって達成されてもよい。
【0053】
第3の技法は、電極の上に、工程(c)において適用された、疎水性流体をはじくが、水溶液から電極へのイオン伝導を可能にする親水性表面、例えば、保護材料を設ける技法である。保護材料は、導電性ポリマー、例えば、ポリピロール/ポリスチレンスルホン酸でもよい。または、保護材料は、共有結合された親水性種、例えば、チオール-PEGでもよい。
【0054】
一般的に、非導電材料の本体、本体の中に形成された少なくとも1つの凹部、およびチャンバーを画定する他の要素を形成するために、器具には広範囲の構成特徴を使用することができる。例を以下でさらに詳細に説明する。
【0055】
本発明の第2の局面によれば、電気生理学的測定を行う際の、凹部の中にある電極の性能を改善する方法であって、電極の上に導電性ポリマーを付着させる工程を含む、方法が提供される。
【0056】
さらに、本発明の第2の局面によれば、凹部を有する本体を備え、凹部の中には電極が配置され、電極の上に導電性ポリマーが設けられている、電気生理学的測定を行うための器具が提供される。
【0057】
凹部の中にある電極の上に導電性ポリマーが設けることによって、電気生理学的測定を行う際の電極の性能を改善できることが発見されている。利点の1つは、電気生理学的測定を行うのに安定した電極として電極の性能を改善することである。さらなる利点は、凹部に収容された水溶液の体積を増やすことなく、凹部の中にある電極が利用可能な電荷リザーバー(charge reservoir)を増やすことである。
【0058】
さらに深く理解するために、添付の図面に関連する非例示的な例によって、本発明の態様を今から説明する。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】器具の透視図である。
【図2】図1の線II-IIに沿った、水溶液の導入を示す、図1の器具の断面図である。
【図3】図2と類似するが、水溶液で満たされた器具を示す、器具の断面図である。
【図4】電気化学的な電極修飾プロセスにわたる、一続きの、器具の中にある凹部の部分断面図である。
【図5】CO2レーザードリリングによって形成された凹部のSEM画像である。
【図6】光リソグラフを用いて形成された凹部のOM画像である。
【図7】図7aおよび7bは、光リソグラフを用いて形成された凹部の3Dおよび2D LPプロファイルである。
【図8】図8aおよび8bは、電気めっき後に、光リソグラフを用いて形成された凹部の3Dおよび2D LPプロファイルである。
【図9】前処理コーティングが適用された器具の中の凹部の部分断面図である。
【図10a】過剰な前処理コーティングを除去する方法の間の、一続きの、器具の中の凹部の部分断面図である。
【図10b】過剰な前処理コーティングを除去する方法の間の、一続きの、器具の中の凹部の部分断面図である。
【図10c】過剰な前処理コーティングを除去する方法の間の、一続きの、器具の中の凹部の部分断面図である。
【図10d】過剰な前処理コーティングを除去する方法の間の、一続きの、器具の中の凹部の部分断面図である。
【図10e】過剰な前処理コーティングを除去する方法の間の、一続きの、器具の中の凹部の部分断面図である。
【図11】本体の中に複数のさらなる層を有する、器具の中の凹部の部分断面図である。
【図12】電気回路の流れ図である。
【図13】プリント回路基板上に実装された器具および電気回路の透視図である。
【図14】複数の信号を並列に得るための電気回路の流れ図である。
【図15】乾燥した器具についての、印加された電位および電流反応のグラフである。
【図16】湿った器具についての、印加された電位および電流反応のグラフである。
【図17】器具をエレクトロ-ウェッティングした際の、印加された電位および電流反応のグラフである。
【図18】両親媒性分子層が形成された際の、印加された電位および電流反応のグラフである。
【図19】様々な異なる器具についての、印加された電位および電流反応のグラフである。
【図20】様々な異なる器具についての、印加された電位および電流反応のグラフである。
【図21】様々な異なる器具についての、印加された電位および電流反応のグラフである。
【図22】様々な異なる器具についての、印加された電位および電流反応のグラフである。
【図23】複数の凹部を有する改変された器具の中にある、さらなる層の平面図である。
【図24】複数の凹部を有する改変された器具の中にある、さらなる層の平面図である。
【図25】複数の凹部を有する改変された器具の中にある、さらなる層の平面図である。
【図26】複数の凹部を有する改変された器具の中にある基板の平面図である。
【図27】複数の凹部を有する改変された器具の中にある基板の平面図である。
【図28】複数の凹部を有する改変された器具の中にある基板の平面図である。
【図29】複数の凹部を有する器具の電流反応のグラフである。
【図30】複数の凹部を有する器具の電流反応のグラフである。
【図31】改変された器具の一部の断面図である。
【図32】改変された別の器具の断面図である。
【図33】器具製造方法のフローチャートである。
【図34】図34aおよび34bは、プロフィロメトリーによって測定された、ポリピロール電気重合によって修飾された電極を有する凹部の3Dおよび2D表面プロファイルである。
【図35】ポリピロール電気重合によって修飾された電極を有する凹部アレイの上で記録された電流のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0060】
両親媒性分子層を形成するのに使用することができる器具1を、図1に示した。
【0061】
図2および3に示したように、器具1は、非導電材料からなる基板3が、これも非導電材料からなるさらなる層4を支持している層状構成を有する本体2を含む。一般的な場合では、以下でさらに説明するように、複数のさらなる層4があってもよい。
【0062】
さらなる層4の中には、凹部5が、特に、さらなる層4から基板3まで延びる穴として形成される。一般的な場合では、以下でさらに説明するように、複数の凹部5があってもよい。
【0063】
器具1は、本体2の上を延びるカバー6をさらに含む。カバー6は空洞になっており、入口8および出口9のほかは閉じているチャンバー7を画定する。入口8および出口9はそれぞれ、カバー6を貫通する開口部によって形成される。チャンバー7の最下壁は、図2では、さらなる層4によって形成されるが、代わりのものとして、さらなる層4は側壁となるように成形されてもよい。
【0064】
以下でさらに説明するように、使用中に、チャンバー7に水溶液10が導入され、凹部5の端から端まで両親媒性分子層11が形成されて、凹部5の中の水溶液10とチャンバー7の中の残りの体積の水溶液が分離する。器具は、両親媒性分子層11を横切る電気信号の測定を可能にする以下の電極配置を含む。
【0065】
閉鎖型のチャンバー7を使用すると、水溶液10をチャンバー7に流入および流出させることが非常に容易になる。これは、図3に示したようにチャンバー7が一杯になるまで、図2に示したように、単に、入口8を通して水溶液10を流すことによって行われる。このプロセスの間に、チャンバー7の中の気体(典型的には、空気)は水溶液10によって押しのけられ、出口9を通して吐き出される。例えば、入口8に取り付けられた簡単な流体システムを使用することができる。これはプランジャーと同程度に簡単であり得るが、制御を改善するために、より複雑なシステムを使用することができる。しかしながら、チャンバー7は必ずしも閉鎖型とは限らず、例えば、本体2をカップとして形成することによって開放型になってよい。
【0066】
基板3は、基板3の上面に付着され、さらなる層4の下で凹部5まで延びる第1の導電層20を有する。凹部5の下にある第1の導電層20の部分は電極21を構成し、電極21は凹部5の最下面も形成する。第1の導電層20の一部が曝露し、接点22を構成するように、第1の導電層20はさらなる層4の外側に延びている。
【0067】
さらなる層4の上には第2の導電層23が付着され、カバー6の下でチャンバー7の中に延びており、チャンバー7の内側にある第2の導電層23の部分は電極24を構成する。第2の導電層23の一部が曝露し、接点25を構成するように、第2の導電層23はカバー6の外側に延びている。
【0068】
電極21および24は、凹部5およびチャンバー7の中にある水溶液と電気的に接触している。これは、電気回路26を接点22および25に接続することによって、両親媒性分子層11を横切る電気信号の測定を可能にする。電気回路26は、基本的には、Montal & Mueller法によって従来の小室の中に形成された脂質二重層を横断して確率的センシングを行う従来の回路と同じ構造を有し得る。
【0069】
電気回路26の例示的なデザインを図12に示した。電気回路26の主な機能は、意味のある出力を使用者に提供するために、電極21と24との間に発生した電流信号を測定することである。これは、単に、測定された信号の出力でもよいが、原則的には、信号のさらなる分析も伴ってもよい。電気回路26は、典型的には非常に低い電流を検出および分析するのに十分な感度がある必要がある。例として、開口した膜タンパク質は、典型的には、1M塩溶液で100pA〜200pAの電流を通電し得る。
【0070】
この実施において、チャンバー7の中の電極24は参照電極として用いられ、凹部5の中にある電極21は作用電極として用いられる。従って、電気回路26は、それ自体は仮の大地電位であり、電流信号を電気回路26供給する電極21に対するバイアス電圧電位を、電極24に提供する。
【0071】
電気回路26には、チャンバー7の中の電極24に接続し、2つの電極21と24との間に効果的に生じるバイアス電圧を印加するように整列されたバイアス回路40がある。
【0072】
電気回路26にはまた、2つの電極21と24との間に生じる電流信号を増幅するために、凹部5の中にある電極21に接続している増幅器回路41がある。典型的には、増幅器回路41は2つの増幅器段42および43からなる。
【0073】
電極21に接続している入力増幅器段42は、電流信号を電圧信号に変換する。
【0074】
入力増幅器段42は、典型的には約数十〜数百ピコアンペアの大きさを有する電流信号を増幅するのに必要なゲインを得るために、トランスインピーダンス増幅器、例えば、高インピーダンスフィードバック抵抗器、例えば、500MΩの高インピーダンスフィードバック抵抗器を有する反転増幅器として構成されているエレクトロメーターオペレーショナル(electrometer operational)増幅器を備えてもよい。
【0075】
または、入力増幅器段42は、スイッチ積分増幅器(switched integrator amplifier)を備えてもよい。これは、フィードバック要素がキャパシタであり、実質的にノイズがないので、非常に小さな信号の場合に好ましい。さらに、スイッチ積分増幅器の帯域幅は広い。しかしながら、出力飽和が起こる前に積分器をリセットする必要があるために、この積分器には不感時間がある。この不感時間は約1マイクロ秒まで短くすることができるので、必要とされるサンプリングレートが高ければ、あまり重要でない。必要とされる帯域幅が小さければ、トランスインピーダンス増幅器の方が簡単である。一般的に、スイッチ積分増幅器出力は、それぞれのサンプリング期間の終わりにサンプリングされ、その後に、リセットパルスが発生する。このシステムにおける、小さなエラーを無くす積分の開始をサンプリングするために、さらなる技法を使用することができる。
【0076】
第2の増幅器段43は、第1の増幅器段42による電圧信号出力を増幅し、フィルタリングする。第2の増幅器段43は、信号を、データ取得ユニット44における処理に十分なレベルまで高めるのに十分なゲインを提供する。例えば、第1の増幅器段42において500MΩフィードバック抵抗がある場合、約100pAの典型的な電流信号であれば、第2の増幅器段43への入力電圧は約50mVであり、この場合、第2の増幅器段43は50のゲインを提供して、50mV信号範囲を2.5Vまで高めるはずである。
【0077】
電気回路26はデータ取得ユニット44を含み、データ取得ユニット44は適切なプログラムを走らせるマイクロプロセッサでもよく、専用のハードウェアを含んでもよい。データ取得ユニット44は、デスクトップまたはラップトップなどのコンピュータ45に差し込まれるカードでもよい。この場合、バイアス回路40は、単に、デジタルアナログ変換器46から信号が供給される反転増幅器によって形成される。デジタルアナログ変換器46は、専用装置またはデータ取得ユニット44の一部でもよく、ソフトウェアからデータ取得ユニット44にロードされたコードに依存して電圧出力を提供する。同様に、増幅器回路41からの信号は、アナログデジタル変換器47に通してデータ取得カード40に供給される。
【0078】
電気回路26の様々な成分は別々の成分によって形成されてもよく、いずれの成分も一般的な半導体チップに組み込まれてよい。電気回路26の成分は、プリント回路基板上に整列された成分によって形成されてもよい。この一例を図13に示した。図13には、接点22および25からプリント回路基板上にあるトラック52に接続するアルミニウムワイヤ51を用いて、器具1がプリント回路基板50に結合されている。電気回路26を組み込んでいるチップ53もプリント回路基板50に結合されている。または、器具1および電気回路26は別々のプリント回路基板上に実装されてもよい。
【0079】
器具1が、それぞれ各自の電極21を有する複数の凹部5を備える場合、電気回路26は、それぞれの凹部5からの信号を並列に取得できるように、本質的には、それぞれの電極21について増幅器回路41およびA/D変換器47を複製することによって改変される。入力増幅器段42がスイッチ積分器を備える場合、デジタル制御システムがサンプル-アンド-ホールド信号を処理し、積分器信号をリセットすることを必要とする。このデジタル制御システムは、最も好都合には、フィールド-プログラマブル-ゲート-アレイ(field-programmable-gate-array)装置(FPGA)上に構成される。さらに、FPGAは、プロセッサに似た機能、および標準的なコミュニケーションプロトコル、すなわち、USBおよびEthernetと接続するのに必要なロジックを組み込むことができる。
【0080】
図14は、電気回路26の可能性のあるアーキテクチャを示し、以下の通りに整列される。器具1の各自の電極21は、相互接続55、例えば、図13の配置ではアルミニウムワイヤ51とプリント回路基板との相互接続によって電気回路26に接続される。電気回路26において、増幅器回路41は、複数のチャネルを有する1つまたは複数の増幅器チップ56の中に形成されてもよい。異なる電極21からの信号は別々のチャネルにあってもよく、同じチャネルにおいて一緒に多重化されてもよい。1つまたは複数の増幅器チップ56の出力は、A/D変換器47を介して、それぞれのチャネルで信号を受信するために、プログラム可能な論理デバイス57に供給される。例えば、1024個の凹部を有する器具からの信号を処理するために、プログラム可能な論理デバイス57は、約10Mbits/sの速度で動作してもよい。信号をコンピュータ59に供給して、保管、表示、およびさらに分析するために、プログラム可能な論理デバイス57は、インターフェース58、例えば、USBインターフェースを介してコンピュータ59に接続される。
【0081】
使用中に、干渉を少なくするために、器具1はファラデー箱に入れられてもよい。
【0082】
器具1の成分の様々な材料を今から議論する。器具1のそれぞれの成分の材料は、成分が動作中に正しく機能するのに必要な特性によって決まるが、コストおよび製造量も考慮される。荒っぽい取り扱いが可能な十分な機械的強度、および次の層との接着に適合する表面を提供する、全ての材料を選択すべきである。
【0083】
基板3の材料は、器具1の残りに剛性支持体を提供するように選択される。材料はまた、複数の凹部5がある場合には、隣接する電極21の間に高抵抗および低キャパシタンスの電気絶縁をもたらすように選択される。可能性のある材料には、ポリエステル(例えば、Mylar)もしくは別のポリマー;またはシリコン、窒化ケイ素、もしくは酸化ケイ素が含まれるが、それに限定されるわけではない。例えば、基板は、熱成長酸化物表面層を有するシリコンウェーハを含んでもよい。
【0084】
さらなる層4(または一般的な場合では、複数の層)の材料は、電極21と24との間に、複数の凹部5がある場合には、隣接する凹部5の電極21と24との間にも、高抵抗および低キャパシタンスの電気絶縁をもたらすように選択される。また、さらなる層4の表面は、(以下で議論するように)動作前に適用される前処理コーティングに対して、および水溶液10に対して化学的に安定していなければならない。最後に、さらなる層4は、その構造完全性および第1の導電層20の被覆率を維持するために機械的に頑丈でなければならず、後で、カバー6を取り付けるのに適していなければならない。
【0085】
以下は、首尾よく実験的に用いられている、さらなる層4の可能性のある材料と厚みのリストであるが、これらの厚みは制限するものではない。様々な厚みを有するフォトレジスト(例えば、SU8フォトレジストまたはCyclotene);ポリカーボネート、6μm厚フィルム;PVC、7μm厚フィルム;ポリエステル、50μm厚フィルム;裏面に接着剤が付いたポリエステル、25μmおよび50μm厚フィルム;熱積層フィルム、例えば、Magicard 15μm厚およびMurodigital 35μm;またはスクリーン印刷用誘電体インク。
【0086】
有利なことに、(a)凹部の周囲の本体2の最外面、および(b)凹部5の縁から延びる凹部5の内面の外側部分を含む表面は、疎水性である。これは、前処理コーティングが広がる助けとなり、従って、脂質二重層が形成される助けとなる。これを達成する特定の手法の1つは、これらの表面をフッ素種によって修飾する手法である。このようなフッ素種は、フッ素含有層を設けるように表面を修飾することができる任意の物質である。フッ素種は、好ましくは、フッ素ラジカルを含有するものである。例えば、修飾は、製造中に、本体2をCF4などのフッ素プラズマで処理することによって達成されてもよい。
【0087】
導電層20および23を今からさらに議論する。
【0088】
電極21および24の材料は、水溶液10と接触する電気化学的電極を提供することによって低電流の測定を可能にし、前処理コーティングおよび水溶液10に対して安定でなければならない。導電層の残り20および23の材料(通常、電極21および24と同じであるが、そうであるとは限らない)もまた、電極から接点22および25に電気コンダクタンスを提供する。第1の導電層20はまた、さらなる層4の接着も受け入れる。導電層20および23は、複数の重複する層および/または適切な表面処理を用いて構築することができる。可能性のある材料の1つは白金であり、試験溶液に曝露する領域で銀がコーティングされ、次いで、銀の上部に塩化銀が形成される。第1の導電層20の可能性のある材料には、銀/塩化銀電極インク;塩素化によって形成された塩化銀、もしくはフッ素化によって形成されたフッ化銀などの表面層を有する銀、もしくは表面層の無い銀;溶解状態で酸化還元共役のある金、もしくは酸化還元共役の無い金;溶解状態で酸化還元共役のある白金、もしくは酸化還元共役の無い白金;溶解状態で酸化還元共役のあるITO、もしくは酸化還元共役の無いITO;導電性ポリマー電解質で電気化学的にコーティングされた金;または導電性ポリマー電解質で電気化学的にコーティングされた白金が含まれるが、それに限定されるわけではない。第2の導電層23の可能性のある材料には、銀/塩化銀電極インク;銀ワイヤ;または塩化銀ワイヤが含まれるが、それに限定されるわけではない。
【0089】
いくつかの具体例には、基板3がシリコンであり、導電層20 が、(例えば、典型的な半導体製造技術を用いて)酸化ケイ素絶縁層の中に埋め込まれた金属導体であること (拡散またはポリシリコンワイヤは劣った方法である);基板3がガラスであり、導電層20が金属導体であること (例えば、典型的なLCDディスプレイ技術を用いる);または基板3がポリマー基板であり、導電層20が、アブレートされた金属または印刷された導体であること (例えば、典型的なグルコースバイオセンサ技術を用いる)が含まれる。
【0090】
カバー6の材料の要件は、チャンバー7を密封するように容易に取り付けられ、前処理コーティングおよび水溶液10の両方と適合することである。以下は、実験的に首尾よく用いられてきた可能性のある材料と厚みであるが、これらの厚みは制限するものではない:シリコーンゴム、厚み0.5mm、1.0mm、2.0mm;ポリエステル、厚み0.5mm;またはPMMA(アクリル)厚み0.5mm〜2mm。
【0091】
器具1の様々な製造方法を今から議論する。大まかに言うと、器具1の層状構造は、様々な方法によって形成するのに簡単かつ容易である。実際に適用されてきた3種類の製造技術は、ポリマーフィルム積層;高分解能ソルダーマスク形成を用いたプリント回路基板製造、およびシリコンウェーハまたはガラスを用いた光リソグラフィである。
【0092】
積層プロセスの一例は、以下の通りである。
【0093】
基板3は、厚さ250μmのポリエステルシート(Mylar)であり、第1の導電層20は、銀/塩化銀電極インクのスクリーン印刷;金属箔の接着;または蒸着(スパッタリングまたは蒸発)のいずれかによって付着させる。次いで、積層の前に誘電体の上に直接、接着剤を印刷する時には(「印刷された電極」と呼ばれる)、感圧接着剤;熱活性化接着剤;または湿った銀/塩化銀インクの使用のいずれかによって、さらなる層4を基板3の上に積層する。放電(火花);またはレーザードリリング、例えば、エキシマーレーザー、固体レーザー、もしくはCO2レーザーによるレーザードリリングのいずれかによって、基板3の積層前または積層後に、凹部5を形成する直径5〜100μmの穴をさらなる層4の中に作り出す。ポリマーフィルムの積層によって作り出された器具は、時として、使用前に電極を活性化するために、さらなる火花工程を必要とする。さらなる層4の上部に、スクリーン印刷によって第2の導電層23を形成する。感圧接着を用いて、カバー6を上部に積層する。
【0094】
シリコンウェーハを用いて光リソグラフィを使用するプロセスの一例は、以下の通りである。
【0095】
基板3は、酸化物表面層を有するシリコンウェーハである。第1の導電層20は、基板3の上に付着された金、銀、塩化銀、白金またはITOによって形成される。次いで、フォトレジスト(例えば、SU8)を基板3の上でスピンコーティングして、さらなる層4を形成する。凹部5の形状を画定するマスクを用いてUV露光した後に、フォトレジストを除去することによって、直径5〜100μmの凹部5を形成する。さらなる層4の上部に、例えば、スクリーン印刷によって、第2の導電層23を形成する。感圧接着を用いて、上部にカバー6を積層する。
【0096】
このタイプのプロセスを使用できることは、標準的なシリコンウェーハ処理の技術および材料を用いてシリコンチップ上で器具を形成できるようになるので重要である。
【0097】
電極21および24を今からさらに議論する。
【0098】
安定して、確実に動作するために、電極21および24は、必要とされる低電流レベルと低い過電圧で動作し、測定の間に、その電極電位値を維持しなければならない。さらに、電極21および24は、最小量のノイズを電流信号に導入することが望ましい。電極21および24の可能性のある材料には、銀/塩化銀電極インク;塩素化によって形成された塩化銀、もしくはフッ素化によって形成されたフッ化銀などの表面層を有する銀、もしくは表面層の無い銀;溶解状態で酸化還元共役のある金、もしくは酸化還元共役の無い金;溶解状態で酸化還元共役のある白金、もしくは酸化還元共役の無い白金;溶解状態で酸化還元共役のあるITO、もしくは酸化還元共役の無いITO;パラジウム水素化物、導電性ポリマー電解質で電気化学的にコーティングされた金;または導電性ポリマー電解質で電気化学的にコーティングされた白金が含まれるが、それに限定されるわけではない。
【0099】
銀は、電極21および24の材料に優れた選択肢であるが、光、空気、および高温に曝露されると酸化する傾向があるのでシリコンウェーハ製造プロセスに取り入れにくい。この問題を回避するために、凹部の中に不活性な導電性材料(例えば、PtまたはAu)を有する器具を製造し、次いで、電気めっき、電気重合、無電解めっき、プラズマ修飾、化学反応、および当技術分野において公知の他のコーティングを含むが、これに限定されない方法を用いて、不活性な導電性材料の表面型または特性を変えることが可能である。
【0100】
銀の電気めっきは、例えば、Polk et al., 「Ag/AgCl microelectrodes with improved stability for microfluidics」, Sensors and Actuators B 114 (2006) 239-247の方法の改良版を用いて達成することができる。めっき溶液は、硝酸銀0.41gを1M水酸化アンモニウム溶液20mlに添加することによって調製される。不溶性の銀酸化物が沈殿しないようにし、ジアンミン銀複合体の形成を促進するために、これを迅速に振盪する。めっき効率が落ちないようにするために、この溶液は常に新鮮である。従来の設備を用いて、めっきを行う。陰極として電極21を接続し、陽極として白金電極を使用する。例えば、Pt電極にめっきをする場合、-0.58Vの電位を陰極に印加し、陽極を大地電位に保つのに対して、Au電極にめっきをする場合、電位を、大地に対して-0.48Vに保つ。5.1x103C/m2のターゲット電荷は、直径100μmの電極の場合、典型的には約60秒かけて、1μm〜2μmの銀を付着させることが経験的に分かっている。
【0101】
このようなめっきを行う際に、凹部5の底部に、めっき水溶液を均一に浸透させることが望ましい。天然で疎水性の材料(例えば、SU8フォトレジスト)から層4が形成される場合、凹部の均一なぬれを確実にするために、望ましくは、親水性の程度を高めることができる。これを達成するための3つの方法は以下の通りである。第1の方法は、脂質が界面活性剤として作用して、めっき溶液が進入するのが容易になるように、層4の表面に脂質を適用する方法である。第2の方法は、層の材料を活性化する酸素プラズマに層4を曝露し、親水性官能基を生成する方法である。これにより、よく画定された親水性でかつきれいな表面が得られる。第3の方法は、エタノールをめっき溶液に添加する方法である。
【0102】
電極21が銀(または実際には他の金属)で作られている場合、安定した基準電圧を提供するものとして電極21が効率的に機能するようにするために、電極の外面は望ましくはハライドに変換される。一般的な使用法では、例えば、塩酸溶液中で電気分解することによって、銀から塩化銀への変換が比較的達成しやすいので、使用されるハライドは塩化物である。層4の表面状態に影響を及ぼし得る、潜在的に腐食性の酸の使用を回避する別の化学的方法には、a)3M塩化ナトリウム溶液中でのスウィーピングボルタンメトリー(sweeping voltammetry)、およびb)50mM塩化第二鉄溶液に電極21を浸漬することによる化学的エッチングが含まれる。
【0103】
ハライド化のための別のハロゲンはフッ素である。フッ素の選択には、前記で議論したように、本体2の表面(a)および(b)を疎水性するように修飾するのと同じ工程でフッ化銀層を形成できるという大きな利点がある。例えば、これは、器具1の製造中に、本体2をフッ素プラズマ、例えば、CF4プラズマによって処理することによって達成することができる。これは、特に、層4が、安定した脂質二重層を支持するのに十分な程度の疎水性を実現するフォトレジスト、例えば、SU8である場合に、本体2の表面を修飾するのに有効である。同時に、電極21の金属をフッ素プラズマに曝露すると、フッ化金属の外層に変わる。
【0104】
今から、前記で議論したフッ素プラズマを用いる代わりとして、凹部5の中にある電極21の可能性のあるいくつかの改造を議論する。
【0105】
電極21は、表面型を変えるように電気化学的に修飾することができる。これにより、バルク特性が良好であるが、表面特性が劣っている、さらなる材料、例えば、金を使用することが可能になる。可能性のある電気化学的な表面修飾には、銀の電気めっき;銀の電気化学的塩素化;ポリマー/高分子電解質の電気重合が含まれるが、それに限定されるわけではない。
【0106】
さらなる例として、可能性のある一続きの修飾を図4に示した。図4では、電気化学的付着によって、金または白金で形成された電極21の上に、銀のコーティング37を形成する。電気めっきは、典型的には、0.2M AgNO2、2M KI、0.5mM Na2S2O3の中で、-0.48Vで、標準的な単一の液絡Ag/AgCl参照電極および白金対電極を用いて行うことができる。コーティング37の典型的な厚さは、約50秒の付着時間および約50μCの通過電荷で、750nmと推定される。その後に、典型的には、0.1M HCl中で、+150mV、30秒間の塩素化によって、塩素化層38を形成する。
【0107】
可能性のある別の表面修飾は導電性ポリマーの適用である。導電性ポリマーは、導電性の任意のポリマーでよい。適切な導電性ポリマーは、移動性の電荷担体を有する。典型的には、このような導電性ポリマーは、電荷担体として働くことができる非局在電子のある骨格を有するので、ポリマーは伝導することができる。導電性ポリマーは、導電性を高めるために、例えば、酸化還元プロセスまたは電気化学的ドーピングによってドープされてもよい。適切な導電性ポリマーには、ポリピロール、ポリアセチレン、ポリチオフェン、ポリフェニレン、ポリアニリン、ポリフルオレン、ポリ(3-アルキルチオフェン)、ポリテトラチアフルバレン、ポリナフタレン、ポリ(p-フェニレンスルフィド)、ポリインドール、ポリチオニン、ポリエチレンジオキシチオフェン、およびポリ(para-フェニレンビニレン)が含まれるが、それに限定されるわけではない。
【0108】
可能性のある導電性ポリマーの1つはポリピロールであり、ポリピロールは、例えば、ポリスチレンスルホン酸を用いてドープすることができる。これは、例えば、Ag/AgCl参照電極に対して+0.80Vで、0.1M KClに溶解した0.1Mピロール+90mMポリスチレンスルホン酸の水溶液を電解酸化することによって、金電極21の上に付着することができる。40mC/cm2の電荷によって約0.1μmの厚さのフィルムが生じると仮定して、付着されたポリマーの推定の厚さは、30μCで1μmである。重合プロセスは、以下のように表すことができる。式中、PEはポリスチレンスルホン酸を意味する。
【0109】
導電性ポリマーを不活性電極の上に付着させる、例えば、ポリスチレンがドープされたポリピロールを金または白金の上で電気重合する利点の1つは、電気生理学的測定を行うための安定した電極として電極の性能を改善することである。さらなる利点は、凹部に収容された水溶液の体積を増やすことなく、凹部の中にある電極が利用可能な電荷リザーバーを増やすことである。これらの利点は、一般的に、凹部の中の電極、例えば、器具1の中の電極21を用いて電気生理学的測定を行う時に適用することができる。
【0110】
器具1の凹部5の中にある電極21の上に導電性ポリマーを使用する他の利点には、緩衝水溶液による電極表面のぬれを助ける電極表面親水性の制御、同様に、二重層形成前の化学的前処理による電極のブロッキング(blocking)の阻止が含まれるが、これに限定されない。
【0111】
図34aおよび34bは、プロフィロメトリーによって測定された、ポリピロールの電気重合によって修飾された例示的な電極の3Dおよび2D表面プロファイルである。この例において、電気化学的に付着されたポリマーフィルムの厚さは、約2μmである。図35は、ポリピロールの電気重合によって修飾された凹部のアレイの上で記録された電流を示す。このことから、脂質二重層が安定しており、挿入されたタンパク質ポアからシクロデキストリンが単一分子検出されたことが分かる。
【0112】
全ての態様において、第2の導電層23に代わるものは、単に、カバー6を通して、導電性部材、例えば、塩化銀ワイヤを挿入することによって、チャンバー7の中に電極を形成することである。
【0113】
電極21を特徴付けるために、本体2の中に形成された凹部5を、光学顕微鏡(OM)、走査型電子顕微鏡(SEM)、およびレーザープロフィロメトリー(LP)を用いて視覚化した。
【0114】
図5は、ポリマー層を積層することによって形成された器具1に、CO2レーザーによって穴を開け、その後に、放電を用いて電極21を活性化することによって形成された凹部5のSEM画像である。この画像は、この形成方法を用いて、凹部5の形状が十分に画定されておらず、かなりの表面損傷と直径のばらつきがあることを示しているが、これは、レーザー特性を最適化することによって改善し得ると期待されている。
【0115】
図6は、シリコン基板3の上に蒸着された金からなる電極21の上で、SU8フォトレジストからなるさらなる層4の光リソグラフィを用いて形成された凹部5のOM画像を示す。同様に、図7aおよび7bは、同様に製造された凹部5の3Dおよび2D LPプロファイルである。図8aおよび8bは、銀のコーティング38を形成するために電気めっきした後の、同じ凹部5の3Dおよび2D LPプロファイルである。これらの画像は、光リソグラフィによって、凹部の形状および直径が高度に制御されることを示している。
【0116】
エキシマーレーザー方法でも、光リソグラフィに似た、制御された形状が得られる。
【0117】
図33に示したように、器具1の製造方法の一例について今から説明する。この方法の理由は、ハイスループット製造を提供することである。これは、複数の器具1の基板3を形成するシリコンウェーハを処理し、その後に、シリコンウェーハをダイシングすることによって達成される。ウェーハは、絶縁層、例えば、熱成長酸化ケイ素を用いて調製される。
【0118】
最初に、ウェーハを調製する。工程S1において、ウェーハを洗浄する。工程S2において、金属およびレジストの接着を改善するために、ウェーハをHF浸漬に供する。典型的な条件は、10:1緩衝酸化物エッチング(buffered oxide etch)への3分間の浸漬である。S3において、ウェーハを脱水工程としてベーキングに供する。典型的な条件は、オーブン内で200℃、1時間のベーキングである。
【0119】
次に、それぞれの器具1の第1の導電層20を得るために、ウェーハを金属化する。工程S4において、フォトレジストをウェーハ上にスピンアウトし、次いで、望ましいパターンを形成するようにUV光に供する。工程S5において、導電層20を付着させる。これは、例えば、CrおよびAuの連続層、典型的には、それぞれ、厚みが50nmおよび300nmの連続層からなる。工程S6において、例えば、アセトンに浸漬することによって、レジストを除去する。
【0120】
次に、層4および凹部5を形成する。工程S7において、フォトレジスト接着は、O2プラズマおよび脱水ベーキング、例えば、オーブン内での脱水ベーキングを用いることによって改善される。工程S8において、ウェーハにはフォトレジストが適用され、次いで、層4および凹部、例えば、厚さ20mのSU8-10を形成するように、ウェーハをUV露光に供する。工程S9において、凹部の検査および測定を行う。
【0121】
次に、電極21にめっきをする。工程S10において、O2プラズマデスカム(descum)を行うことによって、表面にめっきの準備をする。工程S11において、前記のように、例えば、1.5μmのめっき厚さを形成するように、電極の銀めっきを行う。
【0122】
工程S12において、ウェーハをダイシングして、別々の器具1の本体2を形成する。
【0123】
最後に、前記で議論したように、本体2および電極21の表面を修飾するCF4プラズマによって、本体2を処理する。典型的な曝露は、70Wおよび160mTorrで12分である。
【0124】
実際に、この方法を用いて製造された器具1を用いると、二重層形成およびポア電流安定性の結果は、湿式の化学的手段によって、めっきされ、塩化物にされた本体を用いて得られる結果に匹敵するものであった。
【0125】
器具1を用いて、両親媒性分子層11を形成する方法を今から説明する。最初に、使用され得る両親媒性分子の性質を考察する。
【0126】
両親媒性分子は典型的には脂質である。この場合、層は、2つの相対する脂質単層から形成された二重層である。2つの脂質単層は、疎水性尾部基が互いに面と向かって疎水性内部を形成するように配置されている。脂質の親水性頭部基は、二重層の両側で水性環境に向いている。二重層は、液体の無秩序な相(流体ラメラ)、液体の秩序だった相、固体の秩序だった相(ラメラゲル相、インターディジテイテッド(interdigitated)ゲル相)、および平面二重層結晶(ラメラサブゲル相、ラメラ結晶相)を含むが、これに限定されない多数の脂質相で存在してもよい。
【0127】
脂質二重層を形成する任意の脂質を使用することができる。表面電荷、膜タンパク質を支持する能力、集積密度、または機械的特性などの必要な特性を有する脂質二重層が形成されるように、脂質は選択される。脂質は、1種類または複数の種類の脂質を含んでもよい。例えば、脂質は、100種類までの脂質を含有してもよい。脂質は、好ましくは、1〜10種類の脂質を含有する。脂質は天然の脂質および/または人工脂質を含んでもよい。
【0128】
脂質は、典型的には、頭部基、境界面部分、および同じでも異なってもよい2つの疎水性の尾部基を含む。適切な頭部基には、中性頭部基、例えば、ジアシルグリセリド(DG)およびセラミド(CM);双性イオン頭部基、例えば、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、およびスフィンゴミエリン(SM);負に荷電した頭部基、例えば、ホスファチジルグリセロール(PG);ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルイノシトール(PI)、リン酸(PA)、およびカルジオリピン(CA);ならびに正に荷電した頭部基、例えば、トリメチルアンモニウム-プロパン(TAP)が含まれるが、これに限定されない。適切な境界面部分には、天然の境界面部分、例えば、グリセロールベースまたはセラミドベースの部分が含まれるが、これに限定されない。適切な疎水性尾部基には、飽和炭化水素鎖、例えば、ラウリン酸(n-ドデカン酸)、ミリスチン酸(n-テトラデカン酸)、パルミチン酸(n-ヘキサデカン酸)、ステアリン酸(n-オクタデカン酸)、およびアラキジン酸(n-エイコサン酸);不飽和炭化水素鎖、例えば、オレイン酸(cis-9-オクタデカン酸);および分枝炭化水素鎖、例えば、フィタノイルが含まれるが、これに限定されない。不飽和炭化水素鎖における鎖の長さならびに二重結合の位置および数は異なってもよい。分枝炭化水素鎖における鎖の長さならびにメチル基などの枝の位置および数は異なってもよい。疎水性尾部基は、エーテルまたはエステルとして境界面部分に連結されてもよい。
【0129】
脂質はまた化学修飾されてもよい。脂質の頭部基または尾部基は化学修飾されてもよい。頭部基が化学修飾されている適切な脂質には、PEG修飾脂質、例えば、1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000];官能化PEG脂質、例えば、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3ホスホエタノールアミン-N-[ビオチニル(ポリエチレングリコール)2000];および結合のために修飾された脂質、例えば、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-(スクシニル)、および1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-(ビオチニル)が含まれるが、これに限定されない。尾部基が化学修飾されている適切な脂質には、重合可能な脂質、例えば、1,2-bis(10,12-トリコサジノイル)-sn-グリセロ-3-ホスホコリン;フッ化脂質、例えば、1-パルミトイル-2-(16-フルオロパルミトイル)-sn-グリセロ-3-ホスホコリン;重水素化脂質、例えば、1,2-ジパルミトイル-D62-sn-グリセロ-3-ホスホコリン;およびエーテル結合脂質、例えば、1,2-ジ-O-フィタニル-sn-グリセロ-3-ホスホコリンが含まれるが、これに限定されない。
【0130】
脂質は、典型的には、脂質二重層の特性に影響を及ぼす1つまたは複数の添加物を含む。適切な添加物には、脂肪酸、例えば、パルミチン酸、ミリスチン酸、およびオレイン酸;脂肪アルコール、例えば、パルミチン酸アルコール、ミリスチン酸アルコール、およびオレイン酸アルコール;ステロール、例えば、コレステロール、エルゴステロール、ラノステロール、シトステロール、およびスチグマステロール;リゾリン脂質、例えば、1-アシル-2-ヒドロキシ-sn-グリセロ-3-ホスホコリン;ならびにセラミドが含まれるが、これに限定されない。膜タンパク質を脂質二重層に挿入しようとする場合には、脂質は、好ましくは、コレステロールおよび/またはエルゴステロールを含む。
【0131】
しかしながら、二重層を形成するには脂質が一般的に用いられるが、この方法は、一般的には、層を形成し得る任意の両親媒性分子に適用可能であると予想される。
【0132】
水溶液10に関して、一般的には、両親媒性分子層11の形成と適合する広範囲の水溶液10を使用することができる。水溶液10は、典型的には、生理学的に許容可能な溶液である。生理学的に許容可能な溶液は、典型的には、pH3〜11に緩衝化されている。水溶液10のpHは、使用される両親媒性分子および層11の最終用途に依存する。適切な緩衝液には、リン酸緩衝食塩水(PBS);N-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N'-2-エタンスルホン酸(HEPES)緩衝食塩水;ピペラジン-1,4-Bis-2-エタンスルホン酸(PIPES)緩衝食塩水;3-(n-モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)緩衝食塩水;およびTris(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)緩衝食塩水が含まれるが、それに限定されるわけではない。例として、1つの実施では、水溶液10は、1.0M塩化ナトリウム(NaCl)を含有し、pH6.9の10mM PBSでもよい。
【0133】
器具1を使用する方法は、以下の通りである。
【0134】
最初に、図9に示したように、前処理コーティング30は、本体2に凹部5の端から端まで適用される。前処理コーティング30は、両親媒性分子に対する親和性を高めるために、凹部5を取り囲む本体2の表面を修飾する疎水性流体である。
【0135】
前処理コーティング30は、典型的には、有機溶媒に溶解した、有機物質、通常、長鎖分子を有する有機物質である。適切な有機物質には、n-デカン、ヘキサデカン、イソエコイサン(isoecoisane)、スクアレン、フッ素化油(フッ化脂質との使用に適する)、アルキル-シラン(ガラス膜との使用に適する)、およびアルキル-チオール(金属膜との使用に適する)が含まれるが、それに限定されるわけではない。適切な溶媒には、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、およびトルエンが含まれるが、これに限定されない。材料は、典型的には、ペンタンまたは別の溶媒に溶解した0.1%〜50%(v/v)ヘキサデカン0.1μl〜10μl、例えば、ペンタンまたは別の溶媒に溶解した1%(v/v)ヘキサデカン2μlでよい。この場合、例えば、ジファンチタノイル(diphantytanoyl)-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPhPC)などの脂質を0.6mg/mlの濃度で含めることができる。
【0136】
前処理コーティング30のための具体的ないくつかの材料を、例として表1に示したが、それに限定されるわけではない。
【0137】
【表1】
【0138】
前処理コーティング30は、任意の適切なやり方で、例えば、単に、キャピラリーピペットによって適用することができる。前処理コーティング30は、カバー6が器具1に取り付けられる前または取り付けられた後に適用されてもよい。
【0139】
必要とされる前処理コーティング30の材料の正確な体積は、凹部5のサイズ、材料の配合、ならびに前処理コーティング30が穴の周りで乾燥する時の量および分布によって決まる。一般的には、(体積および/または濃度によって)量が増えると有効性が改善するが、以下で議論するように、過剰な材料が電極21を覆う可能性がある。凹部5の直径を小さくすると、必要とされる前処理コーティング30の材料の量も変化する。前処理コーティング30の分布もまた有効性に影響を及ぼす可能性があり、これは、付着法および膜表面化学の適合性に依存する。前処理コーティング30と層形成の容易さおよび安定性との関係は複雑であるが、ルーチンな試行錯誤によって量を最適化することは簡単である。別の方法では、チャンバー7は、溶媒による前処理によって完全に充填された後に、過剰な溶媒を取り除き、気体を流すことによって乾燥させてもよい。
【0140】
前処理コーティング30は凹部5の端から端まで適用される。結果として、図9に示したように、前処理コーティング30は、凹部5の周囲にある本体2の表面を覆う。前処理コーティング30はまた凹部5の縁の上を延び、望ましくは、少なくとも凹部5の側壁の最外側部分を覆う。これは、凹部5の端から端までの両親媒性分子層11の形成の助けとなる。
【0141】
しかしながら、前処理コーティング30はまた、適用中に、電極21を覆うという天然の傾向も有する。これは、前処理コーティング30が電極21への電流を小さくし、従って、電気信号測定の感度を低くし、最悪の場合には、測定が全くできなくなるので望ましくない。この問題を軽減または回避するために、多くの異なる技法を使用することができ、両親媒性分子層11の形成を説明した後に議論する。
【0142】
前処理コーティング30を適用した後に、図3に示したように、水溶液10は、本体2の端から端まで凹部5を覆うように流される。この工程は、水溶液10に添加された両親媒性分子を用いて行われる。適切な前処理コーティング30を用いると、これにより、凹部5の端から端まで両親媒性分子層11を形成できることが証明されている。水溶液10が凹部5を最後に覆う前に、凹部5を少なくとも1回、覆ったり露出したりする、マルチパス法が適用されれば、形成は改善される。これは、次の通過の際に層11の形成を助ける、少なくともいくらかの水溶液が凹部5の中に残るためだと考えられている。これにもかかわらず、層11の形成は確実であり、かつ再現可能であることに注目すべきである。これは、水溶液10を、本体2の端から端までチャンバー7を通して流すという現実的な技法が、非常に実行しやすいという事実にもかかわらずである。層11の形成は、下記のように、電極21と24との間で、結果として生じた電気信号をモニタリングすることによって観察することができる。層11が形成されていなくても、水溶液10をもう1回通過させるのは簡単なことである。簡単な方法および比較的簡単な器具1を用いた、このように両親媒性分子層11を確実に形成することは、本発明の特有の利点である。
【0143】
さらに、両親媒性分子層11は高品質であり、特に、高感度バイオセンサ用途、例えば、確率的センシングおよび単一チャネル記録に適していることが証明されている。層11は、高抵抗電気シールをもたらし、1GΩまたはそれ以上、典型的には、少なくとも100GΩの電気抵抗を有する高抵抗を有する。これにより、例えば、単一タンパク質ポアから高忠実度の確率的記録が可能になる。
【0144】
これは、凹部5の中の、層11と電極21との間に、ある体積の水溶液10をトラップすると同時に達成される。これは、かなりの電解質供給を維持する。例えば、水溶液10の体積は、層に挿入された膜タンパク質を介して、安定して連続的にdc電流を測定するのに十分である。
【0145】
この利点を証明する実験結果を以下に示す。
【0146】
両親媒性分子を水溶液10に添加するには以下の通り様々な技法がある。
【0147】
第1の技法は、単に、水溶液10をチャンバー7に導入する前に、器具1の外側で水溶液10に両親媒性分子を添加する技法である。
【0148】
特に有利な第2の技法は、水溶液10をチャンバー7に導入する前に、両親媒性分子をチャンバー7の内面、またはチャンバー7に入る水溶液10の流路、例えば、入口と接続している流体入口パイプにある他の場所の内面に付着させる技法である。両親媒性分子は、さらなる層4の表面またはカバー6の表面を含む、チャンバー7のいずれか1つまたは複数の内面に付着されてもよい。水溶液10は、水溶液10が導入されている間に内面を覆い、これによって、両親媒性分子は水溶液10に添加される。このように、内面から両親媒性分子を集めるために水溶液10が用いられる。水溶液10は、両親媒性分子および凹部5を任意の順番で覆ってもよいが、好ましくは、最初に両親媒性分子を覆う。両親媒性分子が最初に覆われるのであれば、入口8と凹部5の間の流路に沿って付着される。
【0149】
任意の方法を用いて、チャンバー7の内面に脂質を付着させることができる。適切な方法には、担体溶媒の蒸発または昇華、溶液からのリポソームまたは小胞の自発的付着、および別の表面からの乾燥脂質の直接移動が含まれるが、これに限定されない。脂質が内面上に付着された器具1は、ドロップコーティング、様々な印刷法、スピンコーティング、ペインティング、ディップコーティングおよびエアロゾル適用を含むが、これに限定されない方法を用いて製造することができる。
【0150】
好ましくは、付着された両親媒性分子は乾燥される。この場合、両親媒性分子を再水和するために、水溶液10が用いられる。これにより、使用前に、両親媒性分子を器具1の中に安定して保管することが可能になる。これにより、両親媒性分子の湿式保管の必要も無くなる。このような両親媒性分子の乾式保管は器具の貯蔵寿命を長くする。固体状態まで乾燥させた場合でも、両親媒性分子は、典型的には、微量の残留溶媒を含有する。乾燥された脂質は、好ましくは、50wt%未満の溶媒、例えば、40wt%未満、30wt%未満、20wt%未満、15wt%未満、10wt%未満、または5wt%未満の溶媒を含む脂質である。
【0151】
ほとんどの実際の用途では、膜タンパク質が両親媒性分子層11に挿入される。これを達成するには、いくつかの技法がある。
【0152】
第1の技法は、単に、水溶液10に膜タンパク質を添加し、これによって、ある期間の後に、膜タンパク質が両親媒性分子層11に自発的に挿入される技法である。水溶液10をチャンバー7に導入する前に、膜タンパク質は器具1の外側で水溶液10に添加されてもよい。または、膜タンパク質は、層11が形成された後に添加されてもよい。
【0153】
膜タンパク質を水溶液10に添加する別の手法は、水溶液10をチャンバー7に導入する前に、膜タンパク質をチャンバー7の内面に付着させる技法である。この場合、水溶液10は、水溶液が導入されている間に内面を覆い、これによって、膜タンパク質は水溶液10に添加され、その後に、層11に自発的に挿入する。膜タンパク質は、さらなる層4の表面またはカバー6の表面を含む、チャンバー7のいずれか1つまたは複数の内面に付着されてもよい。膜タンパク質は、(両親媒性分子も付着していれば)両親媒性分子と同じまたは異なる内面に付着されてもよい。両親媒性分子および膜タンパク質は共に混合されてもよい。
【0154】
任意の方法を用いて、チャンバー7の内面に膜タンパク質を付着させることができる。適切な方法には、ドロップコーティング、様々な印刷法、スピンコーティング、ペインティング、ディップコーティング、およびエアロゾル適用が含まれるが、これに限定されない。
【0155】
好ましくは、膜タンパク質は乾燥される。この場合、膜タンパク質を再水和するために、水溶液10が用いられる。固体状態まで乾燥させた場合でも、膜タンパク質は、典型的には、微量の残留溶媒を含有する。乾燥された膜タンパク質は、好ましくは、20wt%未満の溶媒、例えば、15wt%未満、10wt%未満、または5wt%未満の溶媒を含む膜タンパク質である。
【0156】
第2の技法は、水溶液10に、膜タンパク質を含有する小胞を添加し、これによって、小胞と両親媒性分子層11が融合すると、膜タンパク質が挿入される技法である。
【0157】
第3の技法は、WO2006/100484に開示される技法を用いて、膜タンパク質を、寒天が先端部にあるロッドなどのプローブに載せて層11に運ぶことによって、膜タンパク質を挿入する技法である。プローブの使用は、器具に凹部のアレイがある場合、異なる膜タンパク質を異なる層11に選択的に挿入する助けとなり得る。しかしながら、これには、プローブを収容するように器具1を改変する必要がある。
【0158】
脂質二重層に入り込む任意の膜タンパク質を付着させることができる。膜タンパク質は、天然タンパク質および/または人工タンパク質でもよい。適切な膜タンパク質には、βバレル膜タンパク質、例えば、毒素、ポーリンおよび関連物、ならびにオートトランスポーター(autotransporter);膜チャネル、例えば、イオンチャネルおよびアクアポリン;細菌ロドプシン;Gタンパク質共役受容体;ならびに抗体が含まれるが、これに限定されない。非構成的な毒素の例には、ヘモリジンおよびロイコシジン、例えば、ブドウ球菌ロイコシジンが含まれる。ポーリンの例には、炭疽菌防御抗原、マルトポリン、OmpG、OmpA、およびOmpFが含まれる。オートトランスポーターの例には、Na1PおよびHia輸送体が含まれる。イオンチャネルの例には、NMDA受容体、ストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)に由来するカリウムチャネル(KcsA)、大コンダクタンス細菌機械感受性膜チャネル(MscL)、小コンダクタンス細菌機械感受性膜チャネル(MscS)、およびグラミシジンが含まれる。Gタンパク質共役受容体の例には、代謝型グルタミン酸受容体が含まれる。膜タンパク質は炭疽菌防御抗原でもよい。
【0159】
膜タンパク質は、好ましくは、α-ヘモリジンまたはその変異体を含む。α-ヘモリジンポアは7つの同じサブユニットから形成される(七量体)。α-ヘモリジンのサブユニットの1つをコードするポリヌクレオチド配列を、SEQ ID NO:1に示した。α-ヘモリジンのサブユニットの1つの完全長アミノ酸配列を、SEQ ID NO:2に示した。SEQ ID NO:2の最初の26アミノ酸はシグナルペプチドに相当する。シグナルペプチドを有さない、α-ヘモリジンの成熟サブユニットの1つのアミノ酸配列を、SEQ ID NO:3に示した。SEQ ID NO:3には、SEQ ID NO:2に存在する26のアミノ酸シグナルペプチドの代わりに、位置1にメチオニン残基がある。
【0160】
変異体は、7つのサブユニットの1つまたは複数が、SEQ ID NO:2または3のアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列を有するが、ポア活性を保持している七量体ポアである。変異体α-ヘモリジンにあるサブユニットの1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、または7つに、SEQ ID NO:2または3のアミノ酸配列と異なるアミノ酸配列があってもよい。変異体ポアの中の7つのサブユニットは典型的には同一であるが、異なってもよい。
【0161】
変異体は、ブドウ球菌属細菌などの生物によって発現される天然変異体でもよい。変異体はまた組換え技術によって生成された非天然変異体を含んでもよい。SEQ ID NO:2または3のアミノ酸配列の全長にわたって、変異体は、好ましくは、アミノ酸同一性に基づいて、その配列と少なくとも50%相同である。より好ましくは、サブユニットポリペプチドは全配列にわたって、SEQ ID NO:2または3のアミノ酸配列とのアミノ酸同一性に基づいて、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%相同である。
【0162】
SEQ ID NO:2または3のアミノ酸配列には、アミノ酸置換が加えられてもよい。例えば、1つのアミノ酸置換が加えられてもよく、2つまたはそれ以上の置換が加えられてもよい。例えば、以下の表に従って、保存的置換が加えられてもよい。2列目の同じブロックにあるアミノ酸、好ましくは3列目の同じ行にあるアミノ酸は互いに置換することができる。
【0163】
SEQ ID NO:2または3の中の1つまたは複数の位置に、非保存的置換が加えられてもよい。ここで、置換される残基は、化学的特徴および/または物理的サイズが著しく異なるアミノ酸で置換される。加えられ得る非保存的置換の一例は、SEQ ID NO:2の位置34およびSEQ ID NO:3の位置9にあるリジンをシステインで置換することである(すなわち、K34CまたはK9C)。加えられ得る非保存的置換の別の例は、SEQ ID NO:2の位置43またはSEQ ID NO:3の位置18にあるアスパラギン残基をシステインで置換することである(すなわち、N43CまたはN17C)。SEQ ID NO:2または3に、これらのシステイン残基を含めると、関連する位置にチオール付着点が設けられる。他の全ての位置に、および同じサブユニットにある複数の位置に、類似の変化を加えることができる。
【0164】
または、もしくはさらに、SEQ ID NO:2または3のアミノ酸配列の1つまたは複数のアミノ酸残基は欠失されてもよい。連続領域またはアミノ酸鎖全体に分布している複数のさらに小さな領域として、50%までの残基が欠失されてもよい。
【0165】
変異体は、SEQ ID NO:2または3の断片で作られたサブユニットを含んでもよい。このような断片は、脂質二重層に入り込む能力を保持している。断片は、長さが少なくとも100、例えば、150、200、または250のアミノ酸でもよい。このような断片は、キメラポアを作製するのに使用することができる。好ましくは、断片は、SEQ ID NO:2または3のβバレルドメインを含む。
【0166】
変異体には、SEQ ID NO:2または3の断片または一部を備えるキメラタンパク質が含まれる。キメラタンパク質は、それぞれSEQ ID NO:2または3の断片または一部を備えるサブユニットから形成される。キメラタンパク質のβバレル部分は、典型的には、SEQ ID NO:2または3の断片または一部によって形成される。
【0167】
または、もしくはさらに、アミノ酸配列SEQ ID NO:2または3の一方の末端もしくは他方の末端または両端に、1つまたは複数のアミノ酸残基が挿入されてもよい。ペプチド配列のC末端に1個、2個、またはさらなるアミノ酸が挿入されると、タンパク質の構造および/または機能を乱す可能性が低くなり、これらの付加は重要な場合があるが、好ましくは、10個まで、20個まで、50個まで、100個まで、もしくは500個までのアミノ酸またはそれ以上からなるペプチド配列を使用することができる。単量体のN末端での付加もまた重要な場合があり、1個、2個、またはそれ以上のさらなる残基が付加されるが、より好ましくは、10個、20個、50個、500個、またはそれ以上の残基が付加される。タンパク質のSEQ ID NO:3のアミノ酸残基119〜139にある膜貫通領域に、さらなる配列も付加することができる。さらに正確には、残基128および129を除去した後に、SEQ ID NO:3の残基127と130との間に、さらなる配列を付加することができる。SEQ ID NO:2の等価な位置に付加を加えることができる。担体タンパク質と、本発明によるアミノ酸配列とが融合されてもよい。
【0168】
当技術分野において標準的な方法を用いて、相同性を決定することができる。例えば、UWGCGパッケージは、相同性の計算に使用することができるBESTFITプログラムを提供し、例えば、デフォルト設定の際に用いられる(Devereux et al (1984) Nucleic Acids Research 12, p387-395)。PILEUPおよびBLAST アルゴリズムは、例えば、Altschul S. F. (1993) J Mol Evol 36:290-300; Altschul, S.F et al (1990) J Mol Biol 215:403-10に記載のように、相同性の計算または配列の整列(例えば、(典型的には、デフォルト設定での)等価な残基または対応する配列の同定)に使用することができる。BLAST分析を行うためのソフトウェアは、National Center for Biotechnology Informationを通じて公的に利用可能である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)。
【0169】
膜タンパク質は、顕示的標識(revealing label)を用いて標識することができる。顕示的標識は、タンパク質を検出可能にする任意の適切な標識でよい。適切な標識には、蛍光分子、放射性同位体、例えば、125I、35S、酵素、抗体、ポリヌクレオチド、およびビオチンなどのリンカーが含まれるが、これに限定されない。
【0170】
膜タンパク質は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)などの生物から単離されてもよく、合成または組換え手段によって作られてもよい。例えば、タンパク質はインビトロ転写翻訳によって合成されてもよい。タンパク質のアミノ酸配列は、非天然アミノ酸を含むように、またはタンパク質の安定性を高めるように修飾されてもよい。タンパク質が合成手段によって生成される場合、このようなアミノ酸は生成中に導入されてもよい。タンパク質はまた、合成または組換え生成の後にも修飾されてもよい。
【0171】
タンパク質はまた、D-アミノ酸を用いて生成されてもよい。このような場合、アミノ酸は、CからNの方向に逆方向で連結される。これは、このようなタンパク質を生成するために当技術分野において従来よりある。
【0172】
多数の側鎖修飾が当技術分野において公知であり、膜タンパク質の側鎖に加えることができる。このような修飾には、例えば、アルデヒドと反応させた後に、NaBH4による還元が続く還元的アルキル化、メチルアセチミデート(methylacetimidate)によるアミジン化、または無水酢酸によるアシル化によるアミノ酸修飾が含まれる。
【0173】
組換え膜タンパク質は、当技術分野において公知の標準的な方法を用いて生成することができる。当技術分野において標準的な方法を用いて、タンパク質をコードする核酸配列を単離および複製することができる。当技術分野において標準的な技法を用いて、タンパク質をコードする核酸配列を細菌宿主細胞内で発現させることができる。このタンパク質は、組換え発現ベクターからポリペプチドをインサイチュー発現させることによって細胞に導入することができる。発現ベクターは、任意で、ポリペプチド発現を制御するために誘導性プロモーターを有する。
【0174】
従って、器具1は広範囲の用途に使用することができる。典型的には、膜タンパク質が層11に挿入される。電気信号、典型的には、凹部5の中にある電極21とチャンバー7の中のさらなる電極24との間で発生した電流信号が、電気回路26を用いてモニタリングされる。多くの場合、電極21と電極24との間に電圧も印加されると同時に、電気信号がモニタリングされる。電気信号の形、特に、電気信号の変化から、層11および層11に挿入された膜タンパク質についての情報が得られる。
【0175】
非制限的ないくつかの使用例を今から説明する。使用の1つは、単一チャネル記録による膜タンパク質のインビトロ研究である。重要な商業的使用の1つが、広範囲の物質の存在を検出するバイオセンサである。器具1は、確率的センシングを用いて、分析分子または他の刺激物質の存在を示す電流変化を検出することによって、挿入された膜タンパク質と結合する分析分子または別の刺激物質を検出するのに使用することができる。同様に、器具1は、試料中の膜ポアまたはチャネルの存在または非存在を検出するのに使用することができる。これは、ポアまたはチャネルが挿入された時の電流の変化を検出することによって行われる。脂質二重層は、ある範囲の他の目的のために、例えば、存在することが分かっている分子の特性を研究するために(例えば、DNA配列決定もしくは薬物スクリーニングのために)、または反応のために成分を分離するために用いられてもよい。
【0176】
電極21を覆う前処理コーティング30の問題を軽減するまたは回避する、いくつかの技法を今から議論する。
【0177】
第1の技法は、前処理コーティング30を適用した後に、凹部5の中にある電極21とチャンバー7の中のさらなる電極24の間に、凹部5の中にある電極21を覆っている過剰な疎水性流体の量を減らすのに十分な電圧を印加する技法である。これにより、エレクトロ-ウェッティングに似た効果が得られる。
【0178】
この技法を図10a〜10eに図示した。最初に、図10aに示したように、前処理コーティング30を、図10aに示したように適用する。ここで、前処理コーティング30は電極21を覆う。次に、図10bに示したように、水溶液10が本体2の端から端まで凹部5を覆うように流され、その結果、水溶液10は凹部5に流入する。次に、図10cに示したように、電圧が印加され、これにより、電極21を覆っている前処理コーティング30が除去される。この電圧は、凹部5の端から端まで形成された両親媒性分子層を破裂させる。従って、次に、図10dに示したように、水溶液10は、凹部5を露出するようにチャンバー7から流出する。典型的には、ある量の水溶液10が凹部5に残る。最後に、図10eに示したように、両親媒性分子が添加されている水溶液10は、凹部5を再び覆うように本体2の端から端まで流され、その結果、両親媒性分子層11が形成される。
【0179】
これは、同じ水溶液10をチャンバー7に流入させ、チャンバー7から流出させることによって最も簡単に行われる。しかしながら、原則的に、凹部5を再び覆うようにチャンバー7に流入される水溶液10(図10e)は、電圧を印加する前に、最初に凹部5を覆うようにチャンバー7に流入される水溶液10(図10b)と異なってもよい。同様に、電圧を印加する前に、最初に凹部5を覆うようにチャンバー7に流入される水溶液10(図10b)には両親媒性分子が添加されなくてもよい。
【0180】
第2の技法は、凹部5の内面の内側部分を親水性にすることである。これは、図11に示したように、2つの(または一般的にはそれ以上の)さらなる層4aおよび4bを有する本体2を作ることによって達成されてもよく、このうち最内側のさらなる層4a(または複数の層)は、親水性材料、例えば、SiO2で形成される。典型的には、最内側のさらなる層4aの厚さは2μmでもよいが、それに限定されるわけではない。
【0181】
最外側のさらなる層4b(または複数の層)は疎水性材料で形成され、結果として、(a)凹部の周囲の本体2の最外面、および(b)凹部5の縁から延びる凹部5の内面の外側部分の両方が、疎水性である。これは、前処理コーティングが広がる助けとなる。実際には、親水性材料で形成された内側のさらなる層4aがなくても、本体2のこれらの表面のこの特性は望ましい。典型的には、最外側のさらなる層4bの厚さは1μm、3μm、5μm、10μm、20μm、または30μmでもよいが、それに限定されるわけではない。
【0182】
第3の技法は、電極21の上に、適用された前処理コーティング30をはじくが、水溶液10から電極2へのイオン伝導を可能にする親水性表面を設ける技法である。これは、電極21の上に保護材料を付着させることによって達成されてもよい。広範囲の保護材料を使用することができる。可能性のあるものの1つが、前記で議論した導電性ポリマー、例えば、ポリピロール/ポリスチレンスルホン酸である。可能性のある別のものは、共有結合された親水性種、例えば、チオール-PEGである。
【0183】
層11、特に、脂質二重層の形成、および膜タンパク質、特に、α-ヘモリジンの挿入を証明するために、前記の器具1が実験的に作られ、使用された。器具1を製造した後に、以下の手順に従った。
1)前処理コーティング30を本体2に適用する;
2)凹部5を覆うように、水溶液10をチャンバー7に導入する;
3)電極21をエレクトロ-ウェッティングする;
4)凹部5を露出するように水溶液10を除去し、凹部5を覆うように水溶液10をチャンバー7に再導入し、層11を形成する;
5)α-ヘモリジンを水溶液10に添加し、層11への挿入をモニタリングする。
【0184】
工程1)において、前処理コーティング30は、ペンタンに溶解したヘキサデカンであった。層11を形成するのに最適な条件を得るために、それぞれの試験について前処理コーティング30の量および体積を変えた。前処理コーティング30が不十分であると層11の形成が阻止されるのに対して、前処理コーティング30が過剰であると、凹部がブロッキングされた。しかしながら、量をルーチンに変更することによって最適化することができた。
【0185】
両親媒性分子は、脂質、特に1,2-ジフィタノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリンであった。脂質をペンタンに溶解し、次いで、チャンバー7の内面を画定するカバー6の表面上で乾燥させた後に、カバー6を本体2の上部に取り付けた。工程2)では、水溶液10が脂質を集めた。
【0186】
工程3)は、電極21と24の間に大きな電位を印加することによって行った。これにより、電極21から過剰な前処理コーティング30が除去された。すべての場合においては必要とされないが、この段階が行われると、層11を形成するように凹部5を適応させるのに役立ち、後の電気信号測定の助けとなった。
【0187】
工程4)および5)において、電極21と24の間に発生した電気信号をモニタリングすることによって、層11の形成および膜タンパク質の挿入が観察された。
【0188】
ポリマー基板3の上に積層することによって形成された前記の型の器具1について、この手順は首尾よく行われた。様々な程度の再現性および信号の質があったが、前記の全ての製造変数を用いて、層11の形成および膜タンパク質の挿入が観察された。
【0189】
典型的な器具1について、例を今から説明する。ここでは、基板3の上に熱積層された銀箔細片(厚さ25μm, Goodfellowより)によって第1の導電層20が形成され、厚さ15μm積層フィルム(Magicard)を用いて、さらなる層4が形成された。エキシマーレーザーを用いて、さらなる層4の中に直径100μmの環状の凹部5を作り出して、直径100μmの環状の銀電極21を曝露した。以前に述べたように、曝露した銀を電気化学的に塩素化した。第2の導電層23は、本体2の上部に印刷された、スクリーン印刷用の銀/塩化銀インクであった。
【0190】
次いで、1%ヘキサデカン+0.6mg/ml DPhPC が溶解したペンタンに0.5μlを含む前処理コーティング30を本体2に適用し、室温で乾燥させた。
【0191】
カバー6は、厚さ1mmのシリコーンゴム本体と厚さ250μmのMylar蓋を備えた。脂質(10mg/ml DPhPCが溶解したペンタン4μl)をカバー6の内側に適用し、本体2にくっつく前に室温で乾燥させた。
【0192】
典型的な首尾よい試験は以下の通りに進行した。
【0193】
乾燥した接点22および25を、ファラデー箱に入っている電気回路26に取り付け、20mV 50 Hzの三角電位波形を印加した。図15は、印加された波形および結果として生じた電流信号を示し、これは、予想された容量反応を示している。
【0194】
水溶液10を添加すると、電極間に「開回路」接続が作り出され、印加された電位波形に対する電流反応が大きくなり、典型的には、電流増幅器が飽和する。典型的なトレースを図16に示した。これは、20mV電位まで20,000pA超の電流反応が関与している。これは1MΩ未満の抵抗に相当し、この抵抗は、二重層形成およびポア電流測定と併用するのに十分小さい。
【0195】
最初に、電極21が水溶液10と適切な電気接続を形成しない事象では、-1V DC電位を印加すると、利用可能な活性電極領域を増やすことができる。これを図17に示した。図17では、電極は部分的に活性化した状態で開始し、次いで、約4秒の印加された電位の後に完全に活性化される。
【0196】
水溶液10と電極21との間で開回路接続した後に、水溶液10をチャンバー7から除去し、再導入する。再導入の際に、チャンバー7の内面から集められた脂質の層11が、凹部5の端から端まで形成される。この形成は、例えば、図18に示したように、500pA弱まで容量性方形波電流反応が増大することによって観察される。この値は、約100μmの直径の環状脂質二重層について予想されたキャパシタンスと一致し、異なる形状の場合は予想通りに変化する。
【0197】
次いで、α-ヘモリジンを水溶液10に添加することによって、100mVの印加された電位の下で、ポアの挿入に特有の電流反応が生じた。例えば、図19は、水溶液10にシクロデキストリンが存在する典型例であり、結合事象による予想された電流反応を示し、これにより電流がポアを通過することが確かめられた。
【0198】
前記の例は、熱積層された器具1のデータを示しているが、調べられた他のシステムもまた、層11の形成およびポアの挿入が成功した。例えば、これは、さらなる層4の感圧接着を用いた積層によって形成された器具1についても首尾よく証明された。しかしながら、接着層は、結果として生じるアスペクト比および電極21の全体にわたる接着剤の広がりの点で、凹部5の形成を複雑にすることが見出された。この問題は、電極21を「活性化する」電気火花によって克服した。
【0199】
図20および図21に示したように、CO2レーザーによって形成された凹部およびエキシマーレーザーによって形成された凹部からの結果を比較することによって、凹部5の質の影響は明らかである。両方の場合とも、層11の形成およびポアの挿入は成功し、反応にはっきり表われていたが、エキシマーレーザーを用いると、より再現性のある穴が作製された。CO2レーザーによって形成された凹部5は、比較的漏れやすく、ポア信号にノイズのある層11を形成する傾向があり、ブロッキングも受けやすかった。エキシマーレーザーによって形成された凹部5は、ポア信号が良好な、しっかりと密封された層11を生じた。
【0200】
前記のように、高精細プリント回路基板製造を用いて形成された器具1を用いて、層11の形成およびポアの挿入も同様に観察された。この場合、器具1を形成するために、第1の導電層20は、典型的には、プリント回路基板製造において用いられるFR4基板の上にある銅箔をエッチングすることによって形成された。次いで、基板に、Ronascreen SPSR(商標)光画像形成ソルダーマスクを深さ25μmまでスクリーン印刷し、Orbotech Paragon 9000レーザーダイレクトイメージング機械によってUV光に露光し、KaCO3溶液を用いて現像して、電極21の上に100μmの環状の穴を作り出した。
【0201】
層11の形成およびポアの挿入は、光リソグラフィを用いて前記のように形成された器具1を用いて同様に観察された。この場合、器具1を形成するために、クリーンルーム施設を用いて、第1の導電層20が、基板3の上に蒸着された金によって形成され、厚さ12.5μmのSU8フォトレジストからなるさらなる層4を上部にスピンコーティングした。マスキングしながらUV露光することによってフォトレジストを硬化させ、その後に、硬化しなかったフォトレジストを除去することによって、凹部5が形成された。凹部5の直径は100μmであるので、直径100μmの電極21が曝露された。フォトレジストを固定するためにベーキングした後に、ウェーハをダイシングして、それぞれ単一の凹部5を有する別々の基板が形成された。電極21を銀で電気めっきし、次いで、以前に述べたように電気化学的に塩素化した。第2の電極24は、本体2の上部に印刷された、スクリーン印刷された銀/塩化銀インクであった。
【0202】
次いで、0.75%ヘキサデカンが溶解したペンタン0.5μlを含む前処理コーティング30を本体2に適用し、室温で乾燥させた。
【0203】
カバー6は、厚さ250μmのMylar蓋を有する厚さ1mmのシリコーンゴム本体からなった。脂質10mg/ml DPhPCが溶解したペンタン4μl)をカバー6の内側に適用し、本体2にくっつく前に室温で乾燥させた。
【0204】
試験を前記のように行い、層11の形成およびポアの挿入が成功したことが観察された。例えば、図22は、野生型α-ヘモリジンポアを用いたシクロデキストリン結合事象を示す典型的な電流トレースを示す。
【0205】
これらの結果は、層11の形成方法が容易に実施できることを大まかに示している。特に、層11の形成は、広範囲の器具1の材料、凹部5の寸法(幅および深さ)、ならびに製造方法を用いて達成される。成功率にいくらかばらつきがあることは明らかであるが、一般的には、これは、様々な器具1をルーチンに試験することによって最適化することができる。特に、層11の形成は、凹部5の幅に過度に依存しない。5μm〜100μmの幅にわたって形成が証明され、形成が容易なことを考慮すると、200μm、500μmまたはそれ以上のさらに広い幅で形成できると予想される。また、このように層11の形成が容易なことを考慮すると、凹部5の形状のばらつきも対処できると予想される。
【0206】
一般的に凹部5のアレイと呼ばれる複数の凹部5を含むように器具1を改変することについて今から議論する。単一の器具1の中に、凹部5のアレイの端から端まで層11のアレイを容易に形成できることは、本発明の特有の利点である。従来の脂質二重層形成法とは対照的に、器具1は単一のチャンバー7を有するが、試験中にインサイチューで層11を作り出し、層11に挿入されたタンパク質ポアを通過する電流を連続して安定に測定するのを可能にする、層11の下にある凹部5の中の電解質リザーバーを取り込んでいる。さらに、形成された層11は高品質であり、膜タンパク質ポアを用いた高忠実度の電流測定に理想的な、凹部5の領域に局在している。これらの利点は、層11のアレイを形成する器具1によって大きなものとなる。なぜなら、これは、全ての層11の全体にわたる並列測定を可能にし、これにより、電流信号を組み合わせて感度を高めるか、または電流信号を別々にモニタリングして、それぞれの層11の全体にわたって独立して測定を行うことができるからである。
【0207】
凹部5のアレイを有する器具が試験されており、層11のアレイが首尾よく形成されたことを証明した。このことは、試験試料から並列に電流信号を記録する、緊密に詰められた個々にアドレス指定可能な層からなる小型化アレイを作り出す可能性があることを示している。
【0208】
本質的には、凹部5のアレイを有する器具1は、単に前記の製造法を用いるが、代わりに複数の凹部5を形成することによって形成することができる。この場合、第1の導電層20は、それぞれの凹部5に関して、別々の電極21、接点22、および中間導電性トラック27を形成するように分けられる。器具1には、全ての凹部5に共通する、単一の電極24を有する単一のチャンバー7がある。
【0209】
図23〜25は第1〜第3のデザインを示し、それぞれ、さらなる層4に、4個、9個、および128個の凹部5を設けることによって器具1が改変されている。第1〜第3のデザインそれぞれにおいて、第1の導電層20は、それぞれ、基板3の平面図である図26〜28に示したように分けられる。第1の導電層20は、それぞれの凹部5に関して、凹部5の下にある電極21;外部回路26を接続するために曝露された接点22、および電極21と接点22の間にあるトラック27を提供する。従って、それぞれの電極21ならびにその関連するトラック27および接点22は互いに電気的に絶縁されているので、それぞれの凹部5からの電流信号を別々に測定することができる。
【0210】
器具1の製造は、ポリマーフィルムの積層を用いた前記の技法またはシリコンウェーハを用いた光リソグラフィを用いて行われてもよい。
【0211】
層11、特に、脂質二重層の形成、および膜タンパク質、特に、α-ヘモリジンの挿入を証明するために、複数の凹部5を有する器具1が実験的に作られ、使用された。この実験手順は、複数の凹部5において層の形成5および膜タンパク質の挿入が観察された以外は、単一の凹部5を有する器具1について前述されたものと同じであった。いくつかの例は、以下の通りである。
【0212】
4個の凹部5を有する第1のデザインの器具を、ポリマー基板3の上に積層する前記の技法によって製造した。第1の導電層20は、ポリエステルシート基板3の上に蒸着された銀であった。さらなる層4は、上部に熱積層された厚さ15μmの積層フィルムであった。直径100μmの4個の凹部5が、エキシマーレーザーによって300μmのピッチで形成された。
【0213】
それぞれの凹部5から同時に並列に記録するために、全てのチャネルに共通してある接地電極であるチャンバー7の中の単一の銀/塩化銀電極24と同時に、複数のAxon電流増幅器装置を動かした。複数の凹部5における層11の形成および膜タンパク質の挿入は首尾よく並列に記録された。多くの場合、これは、それぞれの凹部5において起こるが、時として、1つまたは複数の凹部5において層11は形成されなかった。例えば、典型的な電流トレースを図29に示した。図29は、シクロデキストリン結合事象を用いて、それぞれ1個または2個のα-ヘモリジンポアが挿入されている4個の層11が自発的に形成されたことを証明している。特に、信号間のクロストークがない。このことから、層11は独立して動作し、個々にアドレス指定され、共通の第2の電極24を用いると同時に、意味のある測定を並列に行うことができることが確かめられた。
【0214】
9個の凹部5を有する第2のデザインの器具を、前記の光リソグラフィ法によって、シリコンウェーハ基板2を用いて製造した。さらなる層4は、厚さ5μm のSU8フォトレジストであった。9個の環状の凹部5が、光リソグラフィによって、300μmのピッチで形成された。この場合、凹部9は、異なる直径、特に、5μm、10μm、15μm、20μm、20μm、30μm、40μm、50μm、および100μmの直径を有した。基板3は、別々のトラックがそれぞれの接点22および25と接続するプリント回路基板に接着される。保護のために接点22および25の全体にわたってエポキシが添加される。
【0215】
印加された電位を制御し、並列に電流反応を記録するために、対応するソフトウェアを用いて、多チャネル電気回路26を作り出した。試験は、水溶液10を繰り返して使用および除去するように流体制御する注射器ポンプを用いて、コンピュータにより自動化された。
【0216】
複数の凹部5における層11の形成および膜タンパク質の挿入は、首尾よく並列に記録された。多くの場合、これは、それぞれの凹部5において起こったが、時として、1つまたは複数の凹部5において層11は形成されなかった。例えば、金電極を用いて構築され、溶解状態での酸化還元共役なしで動作する凹部5の典型的な電流トレースを図30に示した。図30は、シクロデキストリン結合事象を用いて、それぞれ1個または2個のα-ヘモリジンポアが挿入されている8個の層11が自発的に形成されたことを証明している。これもまたクロストークがなく、このことから、層11は独立して動作し、意味のある測定を並列に行うことができると確かめられた。
【0217】
さらに、器具1は、5μm〜100μmの範囲で、それぞれの直径の凹部5の端から端まで層11が首尾よく形成されたことを証明する。従って、器具1は、3種類の濃度の前処理コーティング30、すなわち、0.5%、1.0%、および2.0%ヘキサデカンが溶解したペンタンを用いて層5を形成する成功率パーセントを実験的に試験することによって、凹部5の直径の役割および適用された前処理コーティングの量を調べるのに用いられた。結果から、前処理コーティング30が少なすぎる場合には、凹部5の直径範囲の端から端まで層11を形成することは不可能であることが分かった。さらに、前処理コーティング30が多すぎる場合、電極21を湿らせるのは不可能であり、層11の形成は観察できなかった。この特定の構成において、層11の形成率は、直径15μm〜100μmの範囲については60%超であった。層形成に影響を及ぼす要因には、前処理コーティング30、凹部5の直径、凹部5の深さ、凹部5のアスペクト比、凹部5の表面特性、凹部の周囲の表面の表面特性、チャンバー7の中の流体の流れ、層形成において用いられた両親媒性分子、ならびに凹部5の中の電極21の物理的特性および電気的特性が含まれるが、これに限定されず、この中のいくつかを本実験において調べた。後の実験から、層11の形成率は、図28の装置の、それぞれ直径100μmの128個の凹部を用いた場合、70%超であることを証明され、これは、挿入された膜チャネルの確率的結合信号によって確認された。
【0218】
前記の器具1において、さらなる層の下にある基板3の表面に、電極21から接点22への導電性トラック27が形成される。これは、導電性トラック27の平面エスケープルート(escape route)と呼ばれることがある。以前に述べたように、別々の導電性トラック27があると、ノイズおよび帯域幅の減少による信号劣化を最小限にしながら、それぞれの電極21を、回路26にある専用の低ノイズ高入力インピーダンスピコアンメーターに個々に接続することができる。このような平面導電性トラック27は、少数の凹部5、およびトラック27と水溶液10との間に薄い層を有する器具1に理想的である。
【0219】
しかしながら、高感度が求められる使用の場合、望ましくは、電極21と増幅器回路との間の電気接続の寄生キャパシタンスは低く、周囲への漏電が少ない。寄生キャパシタンスはノイズを引き起こし、従って、信号劣化および帯域幅の減少を引き起こす。漏電もノイズを増やして、オフセット電流を導入する。器具1において、導電性トラック27は、トラック27間、およびトラックと水溶液10との間に、ある程度の寄生キャパシタンスおよび漏電に遭遇する。アレイの中の凹部の数が増えるにつれて、エスケープへの電気接続の数は増え、平面エスケープルートにより、実用限界に達する。この場合、導電性トラック27の密度が、トラック間に大きすぎる寄生キャパシタンスおよび/または漏電を生じさせる。さらに、層4の厚さが薄くなるにつれて、トラック27と水溶液10との間のキャパシタンスおよび/または漏電が増加する。
【0220】
例として、単位面積あたりのキャパシタンスが0.8μF/cm2の典型的な値を用いて、容量素子として脂質二重層をモデリングすることによって、典型的な図を得ることができる。トラック27と水溶液10との間の寄生キャパシタンスは、トラック27の領域が層を通って水溶液に曝露している容量素子として粗くモデリングすることができる。トラック27の典型的な値は、幅50μm、曝露2mm、層の比誘電率(relative permittivity)(比誘電率(dielectric constant))約3でもよい。直径の100μm二重層および深さ20μmの凹部の場合、キャパシタンスは63pFであり、トラック-溶液寄生キャパシタンスは0.13pFである。しかしながら、直径5μmおよび深さ1μmのさらに小さい二重層に縮小すると、キャパシタンスは0.16pFであり、寄生キャパシタンスは0.53pFである。二重層がさらに小さく、層がさらに薄くなると、寄生キャパシタンスは優勢になる。
【0221】
この問題を軽減するために、図31に示した改変は、導電性トラック27を、本体2を通って、電極21から本体2の反対側にある接点29まで延びる導電性経路28で置換している。特に、導電性経路28は基板3を横断する。この基板3は、導電性経路28の間に、平面導電性経路27間で可能なものより厚い誘電体を提供するので、非常に低い寄生キャパシタンスが達成される。また、基板3のこの厚さおよび誘電特性のために、漏電は少ない。結果として、導電性経路28を用いると、寄生キャパシタンスおよび/または漏電によって課せられる実用限界に達する前に、本体2の中に収容され得る凹部5の数が効果的に増える。この型の相互接続は低キャパシタンス多層基板61に取り付けることができる。これにより、層の数および材料の低比誘電率によって、電気エスケープルートの数を大幅に増やすのを可能にする。さらに、ハンダバンプ技術(「フリップチップ」技術とも知られる)および適切なコネクタを使用すると、基板61を除く、図31に示した器具1を、低コストの使い捨て部分として作ることが可能になる。
【0222】
導電性経路28は、公知のスルー-ウェーハ相互接続技術を用いて形成することができる。導電性経路を形成するために適用され得るスルー-ウェーハ相互接続の型には、以下が含まれるが、それに限定されるわけではない:
シリコン基板3の上に、シリコンウェーハに貫通してバイアを設け、バイアの内面を隔離し、バイアに導電性材料を充填することによってスルー-ウェーハ相互接続技術が形成されるか、またはシリコン基板に貫通する円筒状バイアの形で半導体PN接合を作製することによって導電性経路28が形成される;
ガラス基板3の上での、レーザードリリング、ウェットエッチング、および金属またはドープ半導体材料によるバイアの充填を含む方法によって形成されたスルー-ウェーハ相互接続;ならびに
ポリマーで作られた基板3の上での、レーザードリリング、レーザーアブレーション、スクリーン印刷された導体、および公知のプリント回路基板法を含む方法によって形成されたスルー-ウェーハ相互接続。
【0223】
電極21からの本体2の反対側は乾燥しているので、電気点接触アレイを用いて、電気回路26と接続することができる。例として、図31は、ハンダバンプ接続の使用を示す。特に、それぞれの接点29には、各自のハンダバンプ60が付着されており、ハンダバンプ60が回路要素61の上にあるトラック62と電気的に接触するように、回路要素61が実装されている。
【0224】
例えば、図13に示したように、回路要素61はプリント回路基板でもよい。
【0225】
または、回路要素61は、集積回路チップまたは積層物、例えば、低温硬化セラミックパッケージでもよい。このような集積回路チップまたは積層物は、接続を拡大し、集積回路チップまたは積層物の反対側にある、ピッチがさらに広い、さらなるハンダバンプアレイに接続する方法として使用することができる。この一例を図32に示した。図32では、回路要素61は集積回路チップまたは積層物であり、本体2の上に付着されたハンダバンプ60から、さらに広いピッチで整列され、さらなる回路要素64、例えば、プリント回路基板に接続するのに用いられる、さらなるハンダバンプ63への接続を提供する。集積回路チップまたは積層物である回路要素61は、多層形式で接続を横方向へ逃すのにも使用することができる。
【0226】
シリコンなどの半導体材料の基板3の場合、導電性経路28を作るために適用され得る2つの型のスルー-ウェーハ相互接続(through-wafer interconnect)は、金属-絶縁体-半導体(MIS)およびPN接合型である。MISでは、深掘り反応性イオンエッチング(Deep Reactive Ion Etching) (DRIE)プロセスによってシリコンチップに貫通してホールが開けられ、導電性経路28を形成するために、この穴に絶縁体がコーティングされ、次いで、金属が充填される。PN接合型のスルー-ウェーハ相互接続は、シリコンチップに貫通して円筒状バイアの中に形成された半導体接合である。ホールの作製においてDRIE処理時間を節約するために、0.3mm未満まで薄くしたシリコンウェーハ上に、それぞれの型のスルー-ウェーハ相互接続が形成される。PN接合型スルー-ウェーハ相互接続の重要な特徴は、MIS型相互接続と比較して大きな空乏領域を有することによって生じる低キャパシタンスである。これは、接合の逆バイアスを高めることによって部分的に改善する。
【技術分野】
【0001】
1つの局面において、本発明は、脂質二重層などの両親媒性分子層の形成に関する。特に、本発明は、高感度での電気信号の測定を必要とする用途、例えば、バイオセンサまたは薬物スクリーニング用途の単一チャネルレコーディングおよび確率的センシング(stochastic sensing)に適した高品質層の形成に関する。1つの特定の局面において、本発明は、両親媒性分子層、例えば、脂質二重層のアレイを用いた用途に関する。別の局面において、本発明は、凹部の中に設けられた電極、例えば、電気生理学的測定を行うための電極の性能に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオセンシングおよび創薬用途に細胞タンパク質を使用する可能性が長い間評価されてきた。しかしながら、この可能性を余すところなく現実のものとするために、この技術の開発において克服すべき技術課題が数多くある。蛍光手法および光学手法の使用については多くの文献があるが、この文書の焦点は、バイオセンシングにおいて分析物を認識するために電気信号を測定することにある。
【0003】
1つのタイプの技法において、2種類の体積の水溶液を分離する層として両親媒性分子層が用いられることがある。この層は体積間の電流に対する抵抗となる。選択的にイオンが層を通過するように、この層には膜タンパク質が挿入されており、2種類の体積の水溶液中にある電極によって電気信号が検出されると、イオンの通過が記録される。標的分析物の存在はイオンの流れを調節し、結果として生じた電気信号変化を観察することによって検出される。従って、このような技法によると、この層は、分析物を検出するバイオセンサとして使用することが可能になる。層は、示された単一分子バイオセンサの必須の成分であり、その目的は2つに分けられる。第1に、この層は、センシング要素として働くタンパク質の土台となる。第2に、この層は体積間のイオンの流れを隔離し、この層の電気抵抗のために、このシステムにおいてイオンの流れが中心となって寄与するのは関心対象の膜タンパク質によるものになり、二重層を通る流れはごくわずかしかなく、従って、単一のタンパク質チャネルを検出することが可能になる。
【0004】
具体的な用途の1つは確率的センシングである。この場合、膜タンパク質の数は少なく、典型的には1〜100個に保たれ、その結果、単一タンパク質分子の挙動をモニタリングすることができる。この方法により、それぞれの特異的な分子相互作用に関する情報が得られ、従って、バルク測定より多くの情報が得られる。しかしながら、小さな電流、典型的には数pAが関与するために、この手法の要件は、非常に高い、典型的には少なくとも1GΩ、用途によっては1桁または2桁高い抵抗シールと、電流を測定するのに十分な電気感度である。確率的センシングの要件は研究室では満たされてきたが、必要な条件および専門技術はその用途を制限する。さらに、研究室での方法は手間と時間がかかり、市販のバイオセンサに望ましい高密度アレイに容易に拡張することができない。さらに、単一二重層膜の脆弱性は、しばしば、防振テーブルが研究室において用いられるという結果をもたらす。
【0005】
背景として、脂質二重層などの両親媒性分子層を形成する既存の技法を概説する。
【0006】
平面人工脂質二重層を形成するいくつかの方法が当技術分野において公知であり、最も注目すべきは、張り合わせ二重層(folded bilayer)形成(例えば、Montal & Mueller法)、ティップ-ディップ法(tip-dipping)、刷毛塗り法(painting)、パッチクランプ法、および油中水型小滴界面を含む。
【0007】
現在、研究室におけるルーチンな単一イオンチャネルの特徴付けの大半は、張り合わせ二重層、刷毛塗り二重層、またはティップ-ディップ法を用いて行われる。これらの方法は、二重層形成を容易にするために、または形成可能な高抵抗シール(例えば、10〜100GΩ)のために用いられる。ティップ-ディップ二重層および巨大な単層リポソームのパッチクランプ法による二重層もまた、無溶媒様式で形成することができるので研究されている。無溶媒は、一部のタンパク質チャネルの活性に重要であると考えられている。
【0008】
Montal & Mueller (Proc. Natl. Acad. Sci. USA. (1972), 69, 3561-3566)(非特許文献1)の方法は、タンパク質ポア挿入に適した品質のよい張り合わせ脂質二重層を形成する、費用対効果の大きく、比較的簡単明瞭な方法として人気がある。この方法では、脂質単層を気液界面上に運び、気液界面に対して垂直な膜の中の穴の両側を通過させる。典型的には、最初に脂質を有機溶媒に溶解することによって、脂質を電解質水溶液の表面に添加し、次いで、この液滴を、水溶液の表面にある穴の両側から蒸発させる。有機溶媒が蒸発したら、二重層が形成されるまで、気液界面を物理的に上下に動かして、穴の両側を通過させる。この技法には、前処理コーティングとして穴表面に適用された疎水性油が存在することが必要である。疎水性油の主な機能は二重層と穴フィルムとの間に、環状領域を形成することであり、ここで、脂質単層は典型的には1〜25μmの距離にわたって一緒にならなければならない。
【0009】
ティップ-ディップ法による二重層形成は、穴表面(例えば、ピペット先端)を、脂質単層を運んでいる試験溶液表面に接触させることを必要とする。これもまた、最初に、溶液表面に適用された、脂質が溶解している有機溶媒の液滴を蒸発させることによって、脂質単層を気液界面で作製する。次いで、穴を溶液表面から出し入れする機械的作用によって、二重層を形成する。
【0010】
刷毛塗り法による二重層の場合、脂質が溶解している有機溶媒の液滴を、試験水溶液中に浸漬されている穴に直接に適用する。脂質溶液を、刷毛または同等品を用いて穴の上で薄く広げる。溶媒を薄めると脂質二重層が形成されるが、二重層から溶媒を完全に取り除くことは難しくなり、結果として、形成された二重層は安定性が低く、測定中にノイズを起こしやすくなる。
【0011】
生物細胞膜の研究にはパッチクランプ法が一般的に用いられる。この方法では、細胞膜を吸引することによってピペット末端に固定し、膜パッチが穴の上に付着するようになる。この方法は、リポソームを固定し、次いで、ピペット穴の上に脂質二重層シールを残すように破裂させることによって人工二重層研究に合わせられてきた。これには、安定した巨大な単層リポソームと、ガラス表面材料に小さな穴を製作することが必要とされる。
【0012】
油中水型小滴界面はつい最近の発明であり、ここでは、脂質を含有する炭化水素油のリザーバーの中に、2種類の水性試料が浸漬される。2種類の試料が接触すると、2種類の試料の間にある界面で二重層が形成されるように、脂質は油/水界面にある単層に蓄積する。
【0013】
これらの技法のいずれも、二重層が形成されたら、例えば、寒天が先端部にあるロッドなどのプローブ装置の末端上で、水溶液からランダムに衝突させるか、タンパク質を含有する小胞を融合させるか、またはタンパク質を二重層に機械的に移すことによって、二重層にタンパク質が導入される。
【0014】
最近、超微細加工を用いて二重層をより形成されやすくしようと、多大な努力が払われてきた。技法の中には、張り合わせ脂質二重層のために、本質的には、標準的なシステムを小型化することを試みたものもあった。共有結合または物理的吸着によって、固体基板上に、または直接、電極表面上に、二重層を形成することを含む技法もあった。
【0015】
確率的センシングを行うことができる装置の大部分は、張り合わせ脂質二重層法または刷毛塗り二重層法の変形を用いることによって二重層を形成する。今日まで、大部分が、装置を小型化するために、または複数のアドレス指定可能なセンサを作り出すために新規の穴形成法または新しく浮上しつつある超微細加工技術に集中していた。
【0016】
一例は、Suzuki et al.,「Planar lipid bilayer reconstitution with a micro-fluidic system」, Lab Chip, (4), 502-505, 2004(非特許文献2)である。ここでは、シリコン基板にエッチングをし、その後に、二重層形成プロセスを促す表面処理を行うことによって、穴アレイが作り出されるが、開示された二重層形成の成功率は非常に低い(2割)。
【0017】
つい最近の例が、Sandison, et al.,「Air exposure technique for the formation of artificial lipid bilayers in microsystems」, Langmuir, (23), 8277-8284, 2007(非特許文献3)に開示されている。ここでは、ポリメチルメタクリレートから製造された装置は、2つの別個の水溶液チャンバー(aqueous chamber)を収容する。二重層形成の再現性の問題は、穴から過剰な疎水性材料を除去することが難しいことに起因しており、前処理を薄くするために、二重層形成プロセスを助ける空気曝露期間を用いることによって対処された。
【0018】
Sandison et al.(非特許文献3)およびSuzuki et al.(非特許文献2)の装置は両方とも、2つの別個の流体チャンバーが、二重層が形成される穴を含む隔壁によって分けられている、標準的な刷毛塗り二重層法の小型化バージョンであり、一方のチャンバーは他方のチャンバーの前に充填される。これは、水溶液チャンバーの少なくとも1つは、他のいずれのチャンバーとも電気結合性またはイオン結合性の無い別個のチャンバーでなければならないので、システムを、多数の個々にアドレス指定可能な二重層にスケールアップするのに、多大な問題を提示する。Sandison et al.(非特許文献3)は、3つの流体チャンバーを有し、それぞれが別々の流体を含む装置を作り出した。これは、多数の二重層にスケール変更しにくい手法である。Suzuki et al.(非特許文献2)は、疎水性フォトレジスト層を用いて、穴を含む基板の上部に、小さな水溶液チャンバーを作り出すことによって、この問題に対処しようと試みた。この場合、界面を含む穴を横断する溶液の流れを制御することは難しく、空気に曝露した小さな体積を用いると、器具は蒸発作用を受けやすくなる。2つの引用例とも、二重層一つごとに水溶液チャンバーが個別に必要なことは、チャンバー全てを充填するために、多くの試料体積を使用しなければならないことを意味している。
【0019】
支持された脂質二重層を用いるバイオセンサ装置の一例は、米国特許第5,234,566号(特許文献1)に開示されている。この装置は容量性である。ゲート開閉するイオンチャネルが分析物に反応する。この分析物が結合すると、イオンチャネルのゲート開閉挙動が変化し、これは、膜キャパシタンスの電気反応を介して測定される。脂質二重層を支持するために、金電極上のアルカン-チオール分子単層が用いられ、これは、脂質単層が自己組織化するための土台となる。この単層は、装置のセンシング要素として用いられる、グラミシジンなどのイオンチャネルを組み込むことができる。電極表面上に繋ぎ止められた脂質二重層を作り出して、他の膜タンパク質を組み込むために、この方法のバリエーションが用いられてきた。しかしながら、この手法には多くの欠点がある。第1の欠点は、典型的には約1nm〜10nm厚の脂質二重層の下に存在する水溶液の少ない体積には、直流測定を有効な期間、実施するのに十分なイオンが含まれないことである。これは、固体支持体上にある、ほぼ全ての繋ぎ止められた二重層によく見られる作用である。意味のある期間の記録のために、電極でのイオン枯渇を克服するためには交流測定を使用しなければならないが、これは装置の感度を制限する。
【0020】
支持された脂質二重層を用いるバイオセンサ装置の一例は、Urisu et al., 「Formation of high-resistance supported lipid bilayer on the surface of a silicon substrate with microelectrodes」, Nanomedicine, 2005, (1), 317-322(非特許文献4)に開示されている。この装置は、支持された二重層を形成するために、リン脂質分子とSiO2表面との間の強い表面接着を利用する。小さなチャネルを電極表面に曝露するために、シリコンチップ製造においてよく見られるエッチング法を用いて、酸化ケイ素表面が修飾される。次いで、酸化ケイ素表面上に二重層が形成され、これによって、数MΩの電気抵抗が生じる。このシステムでは、このプロセスによって作り出されたウェルは、個々にアドレス指定される。
【0021】
支持された脂質二重層を用いる引用例では2つとも、これらの方法を用いて高抵抗シールを形成することは常に難しい。多数のイオンチャネルから生じる変化を観察するには十分であるかもしれないが、単一チャネルまたは確率的測定は本質的にさらに感度が高く、この方法論を使用しても非常に困難である。
【0022】
これらの文書にある、支持された二重層法には多くの問題があり、このために、一般的に、このシステムは不適切になっている。第1の問題は、典型的には約100MΩの二重層膜の抵抗にある。これは、高いタンパク質濃度でタンパク質挙動を調べるのに適しているかもしれないが、典型的には、少なくとも1GΩの抵抗、用途によっては1桁または2桁高い抵抗を必要とする単一分子センシングに基づく高忠実度アッセイには十分でない。第2の問題は、典型的には約1nmの、二重層と固体支持体との間の短い距離にトラップされる溶液の体積が少ないことである。この少ない体積は多くのイオンを含有せず、二重層全体にわたる電位の安定性に影響を及ぼし、記録の期間を制限する。
【0023】
支持された固体二重層の問題を克服するために、多くの方法が提案されている。選択肢の1つは、二重層と表面との間に化学的結合を組み込むことであり、小さなポリエチレングリコール層が導入されるか(ポリマークッション二重層)、小さな親水性結合を含有するように脂質が化学修飾され、小胞が付着するための土台となる表面と反応される(繋ぎ止められた二重層)。これらの方法は脂質二重層の真下にあるイオンリザーバーを増やしたが、実施するには不便であり、二重層全体にわたる電流漏れを少なくすることはほとんどなかった。
【0024】
シリコンチップ産業において用いられる技法は、バイオセンサ用途において使用可能な多数の電極を作り出す魅力的な技術を提供する。この手法は、関連出願である米国特許第7,144,486号(特許文献2)および米国特許第7,169,272号(特許文献3)に開示されている。米国特許第7,144,486号(特許文献2)は、絶縁体材料層にエッチングされたマイクロキャビティを含む微小電極装置を製造する方法を開示している。この装置には、キャビティ内の電極が電気信号を測定する広範囲の電気化学的用途があると言われている。キャビティの端から端まで薄いフィルムを吊すことができると述べられている。脂質二重層を含む、いくつかのタイプのフィルムが言及されている。しかしながら、これは単なる案であり、脂質二重層を形成する技法も、この実験報告も全く開示されていない。実際に、関連出願である米国特許第7,169,272号(特許文献3)は、同じタイプの装置における脂質二重層の実験形成を報告し、支持された脂質二重層が、電極の上に直接、化学的に取り付けられたことを開示している。これは、前記で引用されたOsman et al.(非特許文献5)において提示された類似技法を使用し、確率的測定のための十分に高い抵抗シールの欠如、および二重層システムを横断するイオンの流れを記録するためのイオンリザーバーの欠如に関連する同じ欠点を被っている。
【0025】
要約すると、前記でまとめた公知の技術は、再現性よく高抵抗を実現できないか、または低イオンリザーバーを被り、長期間、直接、直流を測定できないか、またはそれぞれのアレイ要素について別々の流体チャンバーを必要とするために、装置を高密度アレイにスケールアップすることが限定されている二重層形成法である。これらの問題を軽減することが望ましいと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【特許文献1】米国特許第5,234,566号
【特許文献2】米国特許第7,144,486号
【特許文献3】米国特許第7,169,272号
【非特許文献】
【0027】
【非特許文献1】Montal & Mueller (Proc. Natl. Acad. Sci. USA. (1972), 69, 3561-3566)
【非特許文献2】Suzuki et al.,「Planar lipid bilayer reconstitution with a micro-fluidic system」, Lab Chip, (4), 502-505, 2004
【非特許文献3】Sandison, et al.,「Air exposure technique for the formation of artificial lipid bilayers in microsystems」, Langmuir, (23), 8277-8284, 2007
【非特許文献4】Urisu et al., 「Formation of high-resistance supported lipid bilayer on the surface of a silicon substrate with microelectrodes」, Nanomedicine, 2005, (1), 317-322
【非特許文献5】Osman et al.
【発明の概要】
【0028】
本発明の第1の局面によれば、2種類の体積の水溶液を分離する層を形成する方法が提供される。この方法は、
(a)チャンバーを画定し、非導電材料の本体を含む要素を備える器具であって、本体の中には、チャンバーに開口している少なくとも1つの凹部が形成され、凹部は電極を収容する、器具を提供する工程;
(b)本体に凹部の端から端まで疎水性流体の前処理コーティングを適用する工程;
(c)本体の端から端まで凹部を覆うように、両親媒性分子が添加されている水溶液を流し、その結果、水溶液がチャンバーから凹部の中に導入され、両親媒性分子層が凹部の端から端まで形成され、それによって、凹部の中に導入された、ある体積の水溶液を残りの体積の水溶液から分離する工程を含む。
【0029】
このような方法を用いることで、実施するのに簡単明瞭な器具および技法を使用すると同時に、確率的センシングなどの高感度技法のために十分に品質の高い両親媒性分子層を形成することができる。
【0030】
使用される器具は比較的単純であり、最も重要なことには、イオン非伝導性材料の本体を含み、本体の中には、少なくとも1つの凹部が形成されている。驚いたことに、単に、本体の端から端まで凹部を覆うように水溶液を流すことによって、このような凹部の端から端まで両親媒性分子層を形成できることが証明された。これを達成するために、疎水性流体の前処理コーティングが、本体に凹部の端から端まで適用される。前処理コーティングは層の形成の助けとなる。層は、隔壁によって分けられた2つのチャンバーを伴う複雑な器具を必要とせず、別々の充填を実現するために複雑な流体配置を必要とせずに形成される。これは、この方法が、水溶液を前記のチャンバーに導入する前に凹部が予め充填されることを必要としないからである。その代わりに、水溶液はチャンバーから凹部の中に導入される。これにもかかわらず、依然として、単に、チャンバーへの水溶液の流れを制御することによって、層を形成することができる。このような流れの制御は、簡単明瞭で現実的な技法である。
【0031】
重要なことに、この方法を用いることで、確率的センシングおよび単一チャネル記録などの高感度バイオセンサ用途に適した両親媒性分子層を形成することができる。高抵抗電気シールを提供し、1GΩまたはそれ以上、典型的には、少なくとも100GΩの電気抵抗を有する高抵抗層を形成できることが証明された。これにより、例えば、単一タンパク質ポアから高忠実度の確率的記録が可能になる。これは、凹部の中の、層と電極との間に、ある体積の水溶液をトラップすると同時に達成される。これは、かなりの電解質供給を維持する。例えば、水溶液の体積は、層に挿入された膜タンパク質を介して、安定して連続的にdc電流を測定するのに十分である。これは、支持された脂質二重層を用いる前記の公知の技法とは大きく異なる。
【0032】
さらに、器具の簡単な構造は、複数の凹部からなるアレイを有し、それぞれの凹部全体にわたる層を電気的に隔離し、それ自身の電極を用いて個々にアドレス指定するのを可能にする小型化器具の形成を可能にする。小型化されたアレイは、試験試料から並列に測定する多くの個々のセンサと同等である。凹部は比較的高密度に詰めることができるので、所定の体積の試験試料について多数の層を使用することができる。個々のアドレス指定は、それぞれの電極と別々に接触させることによって達成することができ、これは、現代の超微細加工法、例えば、リソグラフィを用いれば簡単である。
【0033】
さらに、この方法を用いると、非常に簡単明瞭な技法を使用して、単一の器具の中にある、列になった複数の凹部の端から端まで複数の両親媒性分子層を形成することができる。
【0034】
ほとんどの用途では、その後に、1つまたは複数の膜タンパク質が層に挿入される。本発明に従って使用することができる、ある特定の膜タンパク質を、以下でさらに詳細に議論する。
【0035】
本発明のさらなる局面によれば、このような両親媒性分子層を形成する方法を実行するのに適した器具が提供される。
【0036】
本発明のさらなる詳細および好ましい特徴を今から説明する。
【0037】
両親媒性分子は典型的には脂質である。この場合、層は、2つの相対する脂質単層から形成された二重層である。脂質は1種類または複数の種類の脂質を含んでもよい。脂質二重層はまた、二重層の特性に影響を及ぼす添加物を含有してもよい。本発明によって使用することができる、ある特定の脂質および他の両親媒性分子ならびに添加物を、下記でさらに詳細に議論する。
【0038】
水溶液に両親媒性分子を添加するために様々な技法を適用することができる。
【0039】
第1の技法は、単に、水溶液をチャンバーに導入する前に、器具の外側で水溶液に両親媒性分子を添加する技法である。
【0040】
特に有利な第2の技法は、水溶液をチャンバーに導入する前に、両親媒性分子をチャンバーの内面、または水溶液の流路、例えば、入口と接続している流体入口パイプにある他の場所に付着させる技法である。この場合、工程(c)の間に水溶液は内面を覆い、これによって、両親媒性分子は水溶液に添加される。このように、水溶液は内面から両親媒性分子を集めるのに用いられる。このような両親媒性分子の付着にはいくつかの利点がある。これにより、両親媒性分子が水溶液に直接添加されれば、典型的に存在するような多量の有機溶媒の非存在下で、両親媒性分子層を形成することが可能になる。このことは、層を形成することができる前に、有機溶媒の蒸発を待つ必要はないことを意味している。さらに、このことは、器具が、有機溶媒の影響を受けない材料から作られる必要は無いことを意味している。例えば、有機ベースの接着剤が使用されてもよく、電極を構築するためにスクリーン印刷された導電性の銀/塩化銀ペーストが使用されてもよい。
【0041】
有利なことに、付着された両親媒性分子を乾燥させることができる。この場合、両親媒性分子を再水和するために、水溶液が用いられる。これにより、使用前に、両親媒性分子を器具の中に安定して保管することが可能になる。これにより、両親媒性分子の湿式保管の必要も無くなる。このような両親媒性分子の乾式保管は器具の貯蔵寿命を長くする。
【0042】
両親媒性分子層に膜タンパク質を挿入するために、いくつかの技法を使用することができる。
【0043】
第1の技法は、単に、水溶液に膜タンパク質を添加し、これによって、膜タンパク質が両親媒性分子層に自発的に挿入される技法である。水溶液をチャンバーに導入する前に、膜タンパク質は器具の外側で水溶液に添加されてもよい。または、水溶液をチャンバーに導入する前に、膜タンパク質はチャンバー内面に付着されてもよい。この場合、工程(c)の間に水溶液は内面を覆い、これによって、膜タンパク質は水溶液に添加される。
【0044】
第2の技法は、水溶液に、膜タンパク質を含有する小胞を添加し、これによって、小胞と両親媒性分子層が融合すると、膜タンパク質が挿入される技法である。
【0045】
第3の技法は、膜タンパク質を、寒天が先端部にあるロッドなどのプローブに載せて層に運ぶことによって、膜タンパク質を挿入する技法である。
【0046】
両親媒性分子層を形成するために、水溶液は、本体の端から端まで凹部を覆うように流される。形成は、水溶液が凹部を最後に覆う前に、凹部を少なくとも1回、覆ったり露出したりするマルチパス(multi-pass)法が適用された場合に改善される。これは、次の通過の際に層の形成を助ける、少なくともいくらかの水溶液が凹部の中に残るためであると考えられている。
【0047】
前処理コーティングは、凹部の周囲の本体表面に対する両親媒性分子の親和性を高めることによって、層の形成を助ける疎水性流体である。一般的に、脂質に対する親和性を高めるために、穴の周囲にある表面の表面を修飾する任意の前処理を使用することができる。本発明に従って使用することができる、前処理コーティング用のある特定の材料を、以下でさらに詳細に議論する。
【0048】
前処理コーティングが広がるのを助けるために、(a)凹部の周囲の本体の最外面、および(b)少なくとも、凹部の縁から延びる凹部の内面の外側部分の、一方または好ましくは両方を含む表面が、疎水性でもよい。これは、疎水性材料で形成された最外層を有する本体を作ることによって達成されてもよい。
【0049】
これを達成する別の手法は、器具製造中に、表面を、フッ素種、例えば、フッ素ラジカル、例えば、フッ素プラズマ処理によって処理する技法である。
【0050】
前処理コーティングを適用すると、凹部の中に収容された電極を覆う過剰な疎水性流体が残ることがある。これは、イオンの流れを少なくすることによって電極を潜在的に絶縁し、それによって、電気信号測定における器具の感度が小さくなる。しかしながら、この問題を最小限にするために、様々な異なる技法を適用することができる。
【0051】
第1の技法は、凹部の中の電極とチャンバー内のさらなる電極の間に、凹部の中に収容された電極を覆っている過剰な疎水性流体の量を減らすのに十分な電圧を印加する技法である。これにより、エレクトロ-ウェッティングに似た効果が得られる。水溶液が凹部に流入するように、本体の端から端まで凹部を覆うように水溶液を流した後に、電圧が印加される。電圧が、凹部の端から端まで形成された層を破裂させるので、その後に、水溶液は凹部を露出するように流され、次いで、両親媒性分子が添加されている水溶液が、凹部を再び覆うように本体の端から端まで流され、その結果、両親媒性分子層が凹部の端から端まで形成される。
【0052】
第2の技法は、凹部の内面の内側部分を親水性にする技法である。典型的には、これは、凹部の内面の外側部分を疎水性にすることと組み合わせて適用される。これは、親水性材料で形成された内層および疎水性材料で形成された最外層を有する本体を作ることによって達成されてもよい。
【0053】
第3の技法は、電極の上に、工程(c)において適用された、疎水性流体をはじくが、水溶液から電極へのイオン伝導を可能にする親水性表面、例えば、保護材料を設ける技法である。保護材料は、導電性ポリマー、例えば、ポリピロール/ポリスチレンスルホン酸でもよい。または、保護材料は、共有結合された親水性種、例えば、チオール-PEGでもよい。
【0054】
一般的に、非導電材料の本体、本体の中に形成された少なくとも1つの凹部、およびチャンバーを画定する他の要素を形成するために、器具には広範囲の構成特徴を使用することができる。例を以下でさらに詳細に説明する。
【0055】
本発明の第2の局面によれば、電気生理学的測定を行う際の、凹部の中にある電極の性能を改善する方法であって、電極の上に導電性ポリマーを付着させる工程を含む、方法が提供される。
【0056】
さらに、本発明の第2の局面によれば、凹部を有する本体を備え、凹部の中には電極が配置され、電極の上に導電性ポリマーが設けられている、電気生理学的測定を行うための器具が提供される。
【0057】
凹部の中にある電極の上に導電性ポリマーが設けることによって、電気生理学的測定を行う際の電極の性能を改善できることが発見されている。利点の1つは、電気生理学的測定を行うのに安定した電極として電極の性能を改善することである。さらなる利点は、凹部に収容された水溶液の体積を増やすことなく、凹部の中にある電極が利用可能な電荷リザーバー(charge reservoir)を増やすことである。
【0058】
さらに深く理解するために、添付の図面に関連する非例示的な例によって、本発明の態様を今から説明する。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】器具の透視図である。
【図2】図1の線II-IIに沿った、水溶液の導入を示す、図1の器具の断面図である。
【図3】図2と類似するが、水溶液で満たされた器具を示す、器具の断面図である。
【図4】電気化学的な電極修飾プロセスにわたる、一続きの、器具の中にある凹部の部分断面図である。
【図5】CO2レーザードリリングによって形成された凹部のSEM画像である。
【図6】光リソグラフを用いて形成された凹部のOM画像である。
【図7】図7aおよび7bは、光リソグラフを用いて形成された凹部の3Dおよび2D LPプロファイルである。
【図8】図8aおよび8bは、電気めっき後に、光リソグラフを用いて形成された凹部の3Dおよび2D LPプロファイルである。
【図9】前処理コーティングが適用された器具の中の凹部の部分断面図である。
【図10a】過剰な前処理コーティングを除去する方法の間の、一続きの、器具の中の凹部の部分断面図である。
【図10b】過剰な前処理コーティングを除去する方法の間の、一続きの、器具の中の凹部の部分断面図である。
【図10c】過剰な前処理コーティングを除去する方法の間の、一続きの、器具の中の凹部の部分断面図である。
【図10d】過剰な前処理コーティングを除去する方法の間の、一続きの、器具の中の凹部の部分断面図である。
【図10e】過剰な前処理コーティングを除去する方法の間の、一続きの、器具の中の凹部の部分断面図である。
【図11】本体の中に複数のさらなる層を有する、器具の中の凹部の部分断面図である。
【図12】電気回路の流れ図である。
【図13】プリント回路基板上に実装された器具および電気回路の透視図である。
【図14】複数の信号を並列に得るための電気回路の流れ図である。
【図15】乾燥した器具についての、印加された電位および電流反応のグラフである。
【図16】湿った器具についての、印加された電位および電流反応のグラフである。
【図17】器具をエレクトロ-ウェッティングした際の、印加された電位および電流反応のグラフである。
【図18】両親媒性分子層が形成された際の、印加された電位および電流反応のグラフである。
【図19】様々な異なる器具についての、印加された電位および電流反応のグラフである。
【図20】様々な異なる器具についての、印加された電位および電流反応のグラフである。
【図21】様々な異なる器具についての、印加された電位および電流反応のグラフである。
【図22】様々な異なる器具についての、印加された電位および電流反応のグラフである。
【図23】複数の凹部を有する改変された器具の中にある、さらなる層の平面図である。
【図24】複数の凹部を有する改変された器具の中にある、さらなる層の平面図である。
【図25】複数の凹部を有する改変された器具の中にある、さらなる層の平面図である。
【図26】複数の凹部を有する改変された器具の中にある基板の平面図である。
【図27】複数の凹部を有する改変された器具の中にある基板の平面図である。
【図28】複数の凹部を有する改変された器具の中にある基板の平面図である。
【図29】複数の凹部を有する器具の電流反応のグラフである。
【図30】複数の凹部を有する器具の電流反応のグラフである。
【図31】改変された器具の一部の断面図である。
【図32】改変された別の器具の断面図である。
【図33】器具製造方法のフローチャートである。
【図34】図34aおよび34bは、プロフィロメトリーによって測定された、ポリピロール電気重合によって修飾された電極を有する凹部の3Dおよび2D表面プロファイルである。
【図35】ポリピロール電気重合によって修飾された電極を有する凹部アレイの上で記録された電流のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0060】
両親媒性分子層を形成するのに使用することができる器具1を、図1に示した。
【0061】
図2および3に示したように、器具1は、非導電材料からなる基板3が、これも非導電材料からなるさらなる層4を支持している層状構成を有する本体2を含む。一般的な場合では、以下でさらに説明するように、複数のさらなる層4があってもよい。
【0062】
さらなる層4の中には、凹部5が、特に、さらなる層4から基板3まで延びる穴として形成される。一般的な場合では、以下でさらに説明するように、複数の凹部5があってもよい。
【0063】
器具1は、本体2の上を延びるカバー6をさらに含む。カバー6は空洞になっており、入口8および出口9のほかは閉じているチャンバー7を画定する。入口8および出口9はそれぞれ、カバー6を貫通する開口部によって形成される。チャンバー7の最下壁は、図2では、さらなる層4によって形成されるが、代わりのものとして、さらなる層4は側壁となるように成形されてもよい。
【0064】
以下でさらに説明するように、使用中に、チャンバー7に水溶液10が導入され、凹部5の端から端まで両親媒性分子層11が形成されて、凹部5の中の水溶液10とチャンバー7の中の残りの体積の水溶液が分離する。器具は、両親媒性分子層11を横切る電気信号の測定を可能にする以下の電極配置を含む。
【0065】
閉鎖型のチャンバー7を使用すると、水溶液10をチャンバー7に流入および流出させることが非常に容易になる。これは、図3に示したようにチャンバー7が一杯になるまで、図2に示したように、単に、入口8を通して水溶液10を流すことによって行われる。このプロセスの間に、チャンバー7の中の気体(典型的には、空気)は水溶液10によって押しのけられ、出口9を通して吐き出される。例えば、入口8に取り付けられた簡単な流体システムを使用することができる。これはプランジャーと同程度に簡単であり得るが、制御を改善するために、より複雑なシステムを使用することができる。しかしながら、チャンバー7は必ずしも閉鎖型とは限らず、例えば、本体2をカップとして形成することによって開放型になってよい。
【0066】
基板3は、基板3の上面に付着され、さらなる層4の下で凹部5まで延びる第1の導電層20を有する。凹部5の下にある第1の導電層20の部分は電極21を構成し、電極21は凹部5の最下面も形成する。第1の導電層20の一部が曝露し、接点22を構成するように、第1の導電層20はさらなる層4の外側に延びている。
【0067】
さらなる層4の上には第2の導電層23が付着され、カバー6の下でチャンバー7の中に延びており、チャンバー7の内側にある第2の導電層23の部分は電極24を構成する。第2の導電層23の一部が曝露し、接点25を構成するように、第2の導電層23はカバー6の外側に延びている。
【0068】
電極21および24は、凹部5およびチャンバー7の中にある水溶液と電気的に接触している。これは、電気回路26を接点22および25に接続することによって、両親媒性分子層11を横切る電気信号の測定を可能にする。電気回路26は、基本的には、Montal & Mueller法によって従来の小室の中に形成された脂質二重層を横断して確率的センシングを行う従来の回路と同じ構造を有し得る。
【0069】
電気回路26の例示的なデザインを図12に示した。電気回路26の主な機能は、意味のある出力を使用者に提供するために、電極21と24との間に発生した電流信号を測定することである。これは、単に、測定された信号の出力でもよいが、原則的には、信号のさらなる分析も伴ってもよい。電気回路26は、典型的には非常に低い電流を検出および分析するのに十分な感度がある必要がある。例として、開口した膜タンパク質は、典型的には、1M塩溶液で100pA〜200pAの電流を通電し得る。
【0070】
この実施において、チャンバー7の中の電極24は参照電極として用いられ、凹部5の中にある電極21は作用電極として用いられる。従って、電気回路26は、それ自体は仮の大地電位であり、電流信号を電気回路26供給する電極21に対するバイアス電圧電位を、電極24に提供する。
【0071】
電気回路26には、チャンバー7の中の電極24に接続し、2つの電極21と24との間に効果的に生じるバイアス電圧を印加するように整列されたバイアス回路40がある。
【0072】
電気回路26にはまた、2つの電極21と24との間に生じる電流信号を増幅するために、凹部5の中にある電極21に接続している増幅器回路41がある。典型的には、増幅器回路41は2つの増幅器段42および43からなる。
【0073】
電極21に接続している入力増幅器段42は、電流信号を電圧信号に変換する。
【0074】
入力増幅器段42は、典型的には約数十〜数百ピコアンペアの大きさを有する電流信号を増幅するのに必要なゲインを得るために、トランスインピーダンス増幅器、例えば、高インピーダンスフィードバック抵抗器、例えば、500MΩの高インピーダンスフィードバック抵抗器を有する反転増幅器として構成されているエレクトロメーターオペレーショナル(electrometer operational)増幅器を備えてもよい。
【0075】
または、入力増幅器段42は、スイッチ積分増幅器(switched integrator amplifier)を備えてもよい。これは、フィードバック要素がキャパシタであり、実質的にノイズがないので、非常に小さな信号の場合に好ましい。さらに、スイッチ積分増幅器の帯域幅は広い。しかしながら、出力飽和が起こる前に積分器をリセットする必要があるために、この積分器には不感時間がある。この不感時間は約1マイクロ秒まで短くすることができるので、必要とされるサンプリングレートが高ければ、あまり重要でない。必要とされる帯域幅が小さければ、トランスインピーダンス増幅器の方が簡単である。一般的に、スイッチ積分増幅器出力は、それぞれのサンプリング期間の終わりにサンプリングされ、その後に、リセットパルスが発生する。このシステムにおける、小さなエラーを無くす積分の開始をサンプリングするために、さらなる技法を使用することができる。
【0076】
第2の増幅器段43は、第1の増幅器段42による電圧信号出力を増幅し、フィルタリングする。第2の増幅器段43は、信号を、データ取得ユニット44における処理に十分なレベルまで高めるのに十分なゲインを提供する。例えば、第1の増幅器段42において500MΩフィードバック抵抗がある場合、約100pAの典型的な電流信号であれば、第2の増幅器段43への入力電圧は約50mVであり、この場合、第2の増幅器段43は50のゲインを提供して、50mV信号範囲を2.5Vまで高めるはずである。
【0077】
電気回路26はデータ取得ユニット44を含み、データ取得ユニット44は適切なプログラムを走らせるマイクロプロセッサでもよく、専用のハードウェアを含んでもよい。データ取得ユニット44は、デスクトップまたはラップトップなどのコンピュータ45に差し込まれるカードでもよい。この場合、バイアス回路40は、単に、デジタルアナログ変換器46から信号が供給される反転増幅器によって形成される。デジタルアナログ変換器46は、専用装置またはデータ取得ユニット44の一部でもよく、ソフトウェアからデータ取得ユニット44にロードされたコードに依存して電圧出力を提供する。同様に、増幅器回路41からの信号は、アナログデジタル変換器47に通してデータ取得カード40に供給される。
【0078】
電気回路26の様々な成分は別々の成分によって形成されてもよく、いずれの成分も一般的な半導体チップに組み込まれてよい。電気回路26の成分は、プリント回路基板上に整列された成分によって形成されてもよい。この一例を図13に示した。図13には、接点22および25からプリント回路基板上にあるトラック52に接続するアルミニウムワイヤ51を用いて、器具1がプリント回路基板50に結合されている。電気回路26を組み込んでいるチップ53もプリント回路基板50に結合されている。または、器具1および電気回路26は別々のプリント回路基板上に実装されてもよい。
【0079】
器具1が、それぞれ各自の電極21を有する複数の凹部5を備える場合、電気回路26は、それぞれの凹部5からの信号を並列に取得できるように、本質的には、それぞれの電極21について増幅器回路41およびA/D変換器47を複製することによって改変される。入力増幅器段42がスイッチ積分器を備える場合、デジタル制御システムがサンプル-アンド-ホールド信号を処理し、積分器信号をリセットすることを必要とする。このデジタル制御システムは、最も好都合には、フィールド-プログラマブル-ゲート-アレイ(field-programmable-gate-array)装置(FPGA)上に構成される。さらに、FPGAは、プロセッサに似た機能、および標準的なコミュニケーションプロトコル、すなわち、USBおよびEthernetと接続するのに必要なロジックを組み込むことができる。
【0080】
図14は、電気回路26の可能性のあるアーキテクチャを示し、以下の通りに整列される。器具1の各自の電極21は、相互接続55、例えば、図13の配置ではアルミニウムワイヤ51とプリント回路基板との相互接続によって電気回路26に接続される。電気回路26において、増幅器回路41は、複数のチャネルを有する1つまたは複数の増幅器チップ56の中に形成されてもよい。異なる電極21からの信号は別々のチャネルにあってもよく、同じチャネルにおいて一緒に多重化されてもよい。1つまたは複数の増幅器チップ56の出力は、A/D変換器47を介して、それぞれのチャネルで信号を受信するために、プログラム可能な論理デバイス57に供給される。例えば、1024個の凹部を有する器具からの信号を処理するために、プログラム可能な論理デバイス57は、約10Mbits/sの速度で動作してもよい。信号をコンピュータ59に供給して、保管、表示、およびさらに分析するために、プログラム可能な論理デバイス57は、インターフェース58、例えば、USBインターフェースを介してコンピュータ59に接続される。
【0081】
使用中に、干渉を少なくするために、器具1はファラデー箱に入れられてもよい。
【0082】
器具1の成分の様々な材料を今から議論する。器具1のそれぞれの成分の材料は、成分が動作中に正しく機能するのに必要な特性によって決まるが、コストおよび製造量も考慮される。荒っぽい取り扱いが可能な十分な機械的強度、および次の層との接着に適合する表面を提供する、全ての材料を選択すべきである。
【0083】
基板3の材料は、器具1の残りに剛性支持体を提供するように選択される。材料はまた、複数の凹部5がある場合には、隣接する電極21の間に高抵抗および低キャパシタンスの電気絶縁をもたらすように選択される。可能性のある材料には、ポリエステル(例えば、Mylar)もしくは別のポリマー;またはシリコン、窒化ケイ素、もしくは酸化ケイ素が含まれるが、それに限定されるわけではない。例えば、基板は、熱成長酸化物表面層を有するシリコンウェーハを含んでもよい。
【0084】
さらなる層4(または一般的な場合では、複数の層)の材料は、電極21と24との間に、複数の凹部5がある場合には、隣接する凹部5の電極21と24との間にも、高抵抗および低キャパシタンスの電気絶縁をもたらすように選択される。また、さらなる層4の表面は、(以下で議論するように)動作前に適用される前処理コーティングに対して、および水溶液10に対して化学的に安定していなければならない。最後に、さらなる層4は、その構造完全性および第1の導電層20の被覆率を維持するために機械的に頑丈でなければならず、後で、カバー6を取り付けるのに適していなければならない。
【0085】
以下は、首尾よく実験的に用いられている、さらなる層4の可能性のある材料と厚みのリストであるが、これらの厚みは制限するものではない。様々な厚みを有するフォトレジスト(例えば、SU8フォトレジストまたはCyclotene);ポリカーボネート、6μm厚フィルム;PVC、7μm厚フィルム;ポリエステル、50μm厚フィルム;裏面に接着剤が付いたポリエステル、25μmおよび50μm厚フィルム;熱積層フィルム、例えば、Magicard 15μm厚およびMurodigital 35μm;またはスクリーン印刷用誘電体インク。
【0086】
有利なことに、(a)凹部の周囲の本体2の最外面、および(b)凹部5の縁から延びる凹部5の内面の外側部分を含む表面は、疎水性である。これは、前処理コーティングが広がる助けとなり、従って、脂質二重層が形成される助けとなる。これを達成する特定の手法の1つは、これらの表面をフッ素種によって修飾する手法である。このようなフッ素種は、フッ素含有層を設けるように表面を修飾することができる任意の物質である。フッ素種は、好ましくは、フッ素ラジカルを含有するものである。例えば、修飾は、製造中に、本体2をCF4などのフッ素プラズマで処理することによって達成されてもよい。
【0087】
導電層20および23を今からさらに議論する。
【0088】
電極21および24の材料は、水溶液10と接触する電気化学的電極を提供することによって低電流の測定を可能にし、前処理コーティングおよび水溶液10に対して安定でなければならない。導電層の残り20および23の材料(通常、電極21および24と同じであるが、そうであるとは限らない)もまた、電極から接点22および25に電気コンダクタンスを提供する。第1の導電層20はまた、さらなる層4の接着も受け入れる。導電層20および23は、複数の重複する層および/または適切な表面処理を用いて構築することができる。可能性のある材料の1つは白金であり、試験溶液に曝露する領域で銀がコーティングされ、次いで、銀の上部に塩化銀が形成される。第1の導電層20の可能性のある材料には、銀/塩化銀電極インク;塩素化によって形成された塩化銀、もしくはフッ素化によって形成されたフッ化銀などの表面層を有する銀、もしくは表面層の無い銀;溶解状態で酸化還元共役のある金、もしくは酸化還元共役の無い金;溶解状態で酸化還元共役のある白金、もしくは酸化還元共役の無い白金;溶解状態で酸化還元共役のあるITO、もしくは酸化還元共役の無いITO;導電性ポリマー電解質で電気化学的にコーティングされた金;または導電性ポリマー電解質で電気化学的にコーティングされた白金が含まれるが、それに限定されるわけではない。第2の導電層23の可能性のある材料には、銀/塩化銀電極インク;銀ワイヤ;または塩化銀ワイヤが含まれるが、それに限定されるわけではない。
【0089】
いくつかの具体例には、基板3がシリコンであり、導電層20 が、(例えば、典型的な半導体製造技術を用いて)酸化ケイ素絶縁層の中に埋め込まれた金属導体であること (拡散またはポリシリコンワイヤは劣った方法である);基板3がガラスであり、導電層20が金属導体であること (例えば、典型的なLCDディスプレイ技術を用いる);または基板3がポリマー基板であり、導電層20が、アブレートされた金属または印刷された導体であること (例えば、典型的なグルコースバイオセンサ技術を用いる)が含まれる。
【0090】
カバー6の材料の要件は、チャンバー7を密封するように容易に取り付けられ、前処理コーティングおよび水溶液10の両方と適合することである。以下は、実験的に首尾よく用いられてきた可能性のある材料と厚みであるが、これらの厚みは制限するものではない:シリコーンゴム、厚み0.5mm、1.0mm、2.0mm;ポリエステル、厚み0.5mm;またはPMMA(アクリル)厚み0.5mm〜2mm。
【0091】
器具1の様々な製造方法を今から議論する。大まかに言うと、器具1の層状構造は、様々な方法によって形成するのに簡単かつ容易である。実際に適用されてきた3種類の製造技術は、ポリマーフィルム積層;高分解能ソルダーマスク形成を用いたプリント回路基板製造、およびシリコンウェーハまたはガラスを用いた光リソグラフィである。
【0092】
積層プロセスの一例は、以下の通りである。
【0093】
基板3は、厚さ250μmのポリエステルシート(Mylar)であり、第1の導電層20は、銀/塩化銀電極インクのスクリーン印刷;金属箔の接着;または蒸着(スパッタリングまたは蒸発)のいずれかによって付着させる。次いで、積層の前に誘電体の上に直接、接着剤を印刷する時には(「印刷された電極」と呼ばれる)、感圧接着剤;熱活性化接着剤;または湿った銀/塩化銀インクの使用のいずれかによって、さらなる層4を基板3の上に積層する。放電(火花);またはレーザードリリング、例えば、エキシマーレーザー、固体レーザー、もしくはCO2レーザーによるレーザードリリングのいずれかによって、基板3の積層前または積層後に、凹部5を形成する直径5〜100μmの穴をさらなる層4の中に作り出す。ポリマーフィルムの積層によって作り出された器具は、時として、使用前に電極を活性化するために、さらなる火花工程を必要とする。さらなる層4の上部に、スクリーン印刷によって第2の導電層23を形成する。感圧接着を用いて、カバー6を上部に積層する。
【0094】
シリコンウェーハを用いて光リソグラフィを使用するプロセスの一例は、以下の通りである。
【0095】
基板3は、酸化物表面層を有するシリコンウェーハである。第1の導電層20は、基板3の上に付着された金、銀、塩化銀、白金またはITOによって形成される。次いで、フォトレジスト(例えば、SU8)を基板3の上でスピンコーティングして、さらなる層4を形成する。凹部5の形状を画定するマスクを用いてUV露光した後に、フォトレジストを除去することによって、直径5〜100μmの凹部5を形成する。さらなる層4の上部に、例えば、スクリーン印刷によって、第2の導電層23を形成する。感圧接着を用いて、上部にカバー6を積層する。
【0096】
このタイプのプロセスを使用できることは、標準的なシリコンウェーハ処理の技術および材料を用いてシリコンチップ上で器具を形成できるようになるので重要である。
【0097】
電極21および24を今からさらに議論する。
【0098】
安定して、確実に動作するために、電極21および24は、必要とされる低電流レベルと低い過電圧で動作し、測定の間に、その電極電位値を維持しなければならない。さらに、電極21および24は、最小量のノイズを電流信号に導入することが望ましい。電極21および24の可能性のある材料には、銀/塩化銀電極インク;塩素化によって形成された塩化銀、もしくはフッ素化によって形成されたフッ化銀などの表面層を有する銀、もしくは表面層の無い銀;溶解状態で酸化還元共役のある金、もしくは酸化還元共役の無い金;溶解状態で酸化還元共役のある白金、もしくは酸化還元共役の無い白金;溶解状態で酸化還元共役のあるITO、もしくは酸化還元共役の無いITO;パラジウム水素化物、導電性ポリマー電解質で電気化学的にコーティングされた金;または導電性ポリマー電解質で電気化学的にコーティングされた白金が含まれるが、それに限定されるわけではない。
【0099】
銀は、電極21および24の材料に優れた選択肢であるが、光、空気、および高温に曝露されると酸化する傾向があるのでシリコンウェーハ製造プロセスに取り入れにくい。この問題を回避するために、凹部の中に不活性な導電性材料(例えば、PtまたはAu)を有する器具を製造し、次いで、電気めっき、電気重合、無電解めっき、プラズマ修飾、化学反応、および当技術分野において公知の他のコーティングを含むが、これに限定されない方法を用いて、不活性な導電性材料の表面型または特性を変えることが可能である。
【0100】
銀の電気めっきは、例えば、Polk et al., 「Ag/AgCl microelectrodes with improved stability for microfluidics」, Sensors and Actuators B 114 (2006) 239-247の方法の改良版を用いて達成することができる。めっき溶液は、硝酸銀0.41gを1M水酸化アンモニウム溶液20mlに添加することによって調製される。不溶性の銀酸化物が沈殿しないようにし、ジアンミン銀複合体の形成を促進するために、これを迅速に振盪する。めっき効率が落ちないようにするために、この溶液は常に新鮮である。従来の設備を用いて、めっきを行う。陰極として電極21を接続し、陽極として白金電極を使用する。例えば、Pt電極にめっきをする場合、-0.58Vの電位を陰極に印加し、陽極を大地電位に保つのに対して、Au電極にめっきをする場合、電位を、大地に対して-0.48Vに保つ。5.1x103C/m2のターゲット電荷は、直径100μmの電極の場合、典型的には約60秒かけて、1μm〜2μmの銀を付着させることが経験的に分かっている。
【0101】
このようなめっきを行う際に、凹部5の底部に、めっき水溶液を均一に浸透させることが望ましい。天然で疎水性の材料(例えば、SU8フォトレジスト)から層4が形成される場合、凹部の均一なぬれを確実にするために、望ましくは、親水性の程度を高めることができる。これを達成するための3つの方法は以下の通りである。第1の方法は、脂質が界面活性剤として作用して、めっき溶液が進入するのが容易になるように、層4の表面に脂質を適用する方法である。第2の方法は、層の材料を活性化する酸素プラズマに層4を曝露し、親水性官能基を生成する方法である。これにより、よく画定された親水性でかつきれいな表面が得られる。第3の方法は、エタノールをめっき溶液に添加する方法である。
【0102】
電極21が銀(または実際には他の金属)で作られている場合、安定した基準電圧を提供するものとして電極21が効率的に機能するようにするために、電極の外面は望ましくはハライドに変換される。一般的な使用法では、例えば、塩酸溶液中で電気分解することによって、銀から塩化銀への変換が比較的達成しやすいので、使用されるハライドは塩化物である。層4の表面状態に影響を及ぼし得る、潜在的に腐食性の酸の使用を回避する別の化学的方法には、a)3M塩化ナトリウム溶液中でのスウィーピングボルタンメトリー(sweeping voltammetry)、およびb)50mM塩化第二鉄溶液に電極21を浸漬することによる化学的エッチングが含まれる。
【0103】
ハライド化のための別のハロゲンはフッ素である。フッ素の選択には、前記で議論したように、本体2の表面(a)および(b)を疎水性するように修飾するのと同じ工程でフッ化銀層を形成できるという大きな利点がある。例えば、これは、器具1の製造中に、本体2をフッ素プラズマ、例えば、CF4プラズマによって処理することによって達成することができる。これは、特に、層4が、安定した脂質二重層を支持するのに十分な程度の疎水性を実現するフォトレジスト、例えば、SU8である場合に、本体2の表面を修飾するのに有効である。同時に、電極21の金属をフッ素プラズマに曝露すると、フッ化金属の外層に変わる。
【0104】
今から、前記で議論したフッ素プラズマを用いる代わりとして、凹部5の中にある電極21の可能性のあるいくつかの改造を議論する。
【0105】
電極21は、表面型を変えるように電気化学的に修飾することができる。これにより、バルク特性が良好であるが、表面特性が劣っている、さらなる材料、例えば、金を使用することが可能になる。可能性のある電気化学的な表面修飾には、銀の電気めっき;銀の電気化学的塩素化;ポリマー/高分子電解質の電気重合が含まれるが、それに限定されるわけではない。
【0106】
さらなる例として、可能性のある一続きの修飾を図4に示した。図4では、電気化学的付着によって、金または白金で形成された電極21の上に、銀のコーティング37を形成する。電気めっきは、典型的には、0.2M AgNO2、2M KI、0.5mM Na2S2O3の中で、-0.48Vで、標準的な単一の液絡Ag/AgCl参照電極および白金対電極を用いて行うことができる。コーティング37の典型的な厚さは、約50秒の付着時間および約50μCの通過電荷で、750nmと推定される。その後に、典型的には、0.1M HCl中で、+150mV、30秒間の塩素化によって、塩素化層38を形成する。
【0107】
可能性のある別の表面修飾は導電性ポリマーの適用である。導電性ポリマーは、導電性の任意のポリマーでよい。適切な導電性ポリマーは、移動性の電荷担体を有する。典型的には、このような導電性ポリマーは、電荷担体として働くことができる非局在電子のある骨格を有するので、ポリマーは伝導することができる。導電性ポリマーは、導電性を高めるために、例えば、酸化還元プロセスまたは電気化学的ドーピングによってドープされてもよい。適切な導電性ポリマーには、ポリピロール、ポリアセチレン、ポリチオフェン、ポリフェニレン、ポリアニリン、ポリフルオレン、ポリ(3-アルキルチオフェン)、ポリテトラチアフルバレン、ポリナフタレン、ポリ(p-フェニレンスルフィド)、ポリインドール、ポリチオニン、ポリエチレンジオキシチオフェン、およびポリ(para-フェニレンビニレン)が含まれるが、それに限定されるわけではない。
【0108】
可能性のある導電性ポリマーの1つはポリピロールであり、ポリピロールは、例えば、ポリスチレンスルホン酸を用いてドープすることができる。これは、例えば、Ag/AgCl参照電極に対して+0.80Vで、0.1M KClに溶解した0.1Mピロール+90mMポリスチレンスルホン酸の水溶液を電解酸化することによって、金電極21の上に付着することができる。40mC/cm2の電荷によって約0.1μmの厚さのフィルムが生じると仮定して、付着されたポリマーの推定の厚さは、30μCで1μmである。重合プロセスは、以下のように表すことができる。式中、PEはポリスチレンスルホン酸を意味する。
【0109】
導電性ポリマーを不活性電極の上に付着させる、例えば、ポリスチレンがドープされたポリピロールを金または白金の上で電気重合する利点の1つは、電気生理学的測定を行うための安定した電極として電極の性能を改善することである。さらなる利点は、凹部に収容された水溶液の体積を増やすことなく、凹部の中にある電極が利用可能な電荷リザーバーを増やすことである。これらの利点は、一般的に、凹部の中の電極、例えば、器具1の中の電極21を用いて電気生理学的測定を行う時に適用することができる。
【0110】
器具1の凹部5の中にある電極21の上に導電性ポリマーを使用する他の利点には、緩衝水溶液による電極表面のぬれを助ける電極表面親水性の制御、同様に、二重層形成前の化学的前処理による電極のブロッキング(blocking)の阻止が含まれるが、これに限定されない。
【0111】
図34aおよび34bは、プロフィロメトリーによって測定された、ポリピロールの電気重合によって修飾された例示的な電極の3Dおよび2D表面プロファイルである。この例において、電気化学的に付着されたポリマーフィルムの厚さは、約2μmである。図35は、ポリピロールの電気重合によって修飾された凹部のアレイの上で記録された電流を示す。このことから、脂質二重層が安定しており、挿入されたタンパク質ポアからシクロデキストリンが単一分子検出されたことが分かる。
【0112】
全ての態様において、第2の導電層23に代わるものは、単に、カバー6を通して、導電性部材、例えば、塩化銀ワイヤを挿入することによって、チャンバー7の中に電極を形成することである。
【0113】
電極21を特徴付けるために、本体2の中に形成された凹部5を、光学顕微鏡(OM)、走査型電子顕微鏡(SEM)、およびレーザープロフィロメトリー(LP)を用いて視覚化した。
【0114】
図5は、ポリマー層を積層することによって形成された器具1に、CO2レーザーによって穴を開け、その後に、放電を用いて電極21を活性化することによって形成された凹部5のSEM画像である。この画像は、この形成方法を用いて、凹部5の形状が十分に画定されておらず、かなりの表面損傷と直径のばらつきがあることを示しているが、これは、レーザー特性を最適化することによって改善し得ると期待されている。
【0115】
図6は、シリコン基板3の上に蒸着された金からなる電極21の上で、SU8フォトレジストからなるさらなる層4の光リソグラフィを用いて形成された凹部5のOM画像を示す。同様に、図7aおよび7bは、同様に製造された凹部5の3Dおよび2D LPプロファイルである。図8aおよび8bは、銀のコーティング38を形成するために電気めっきした後の、同じ凹部5の3Dおよび2D LPプロファイルである。これらの画像は、光リソグラフィによって、凹部の形状および直径が高度に制御されることを示している。
【0116】
エキシマーレーザー方法でも、光リソグラフィに似た、制御された形状が得られる。
【0117】
図33に示したように、器具1の製造方法の一例について今から説明する。この方法の理由は、ハイスループット製造を提供することである。これは、複数の器具1の基板3を形成するシリコンウェーハを処理し、その後に、シリコンウェーハをダイシングすることによって達成される。ウェーハは、絶縁層、例えば、熱成長酸化ケイ素を用いて調製される。
【0118】
最初に、ウェーハを調製する。工程S1において、ウェーハを洗浄する。工程S2において、金属およびレジストの接着を改善するために、ウェーハをHF浸漬に供する。典型的な条件は、10:1緩衝酸化物エッチング(buffered oxide etch)への3分間の浸漬である。S3において、ウェーハを脱水工程としてベーキングに供する。典型的な条件は、オーブン内で200℃、1時間のベーキングである。
【0119】
次に、それぞれの器具1の第1の導電層20を得るために、ウェーハを金属化する。工程S4において、フォトレジストをウェーハ上にスピンアウトし、次いで、望ましいパターンを形成するようにUV光に供する。工程S5において、導電層20を付着させる。これは、例えば、CrおよびAuの連続層、典型的には、それぞれ、厚みが50nmおよび300nmの連続層からなる。工程S6において、例えば、アセトンに浸漬することによって、レジストを除去する。
【0120】
次に、層4および凹部5を形成する。工程S7において、フォトレジスト接着は、O2プラズマおよび脱水ベーキング、例えば、オーブン内での脱水ベーキングを用いることによって改善される。工程S8において、ウェーハにはフォトレジストが適用され、次いで、層4および凹部、例えば、厚さ20mのSU8-10を形成するように、ウェーハをUV露光に供する。工程S9において、凹部の検査および測定を行う。
【0121】
次に、電極21にめっきをする。工程S10において、O2プラズマデスカム(descum)を行うことによって、表面にめっきの準備をする。工程S11において、前記のように、例えば、1.5μmのめっき厚さを形成するように、電極の銀めっきを行う。
【0122】
工程S12において、ウェーハをダイシングして、別々の器具1の本体2を形成する。
【0123】
最後に、前記で議論したように、本体2および電極21の表面を修飾するCF4プラズマによって、本体2を処理する。典型的な曝露は、70Wおよび160mTorrで12分である。
【0124】
実際に、この方法を用いて製造された器具1を用いると、二重層形成およびポア電流安定性の結果は、湿式の化学的手段によって、めっきされ、塩化物にされた本体を用いて得られる結果に匹敵するものであった。
【0125】
器具1を用いて、両親媒性分子層11を形成する方法を今から説明する。最初に、使用され得る両親媒性分子の性質を考察する。
【0126】
両親媒性分子は典型的には脂質である。この場合、層は、2つの相対する脂質単層から形成された二重層である。2つの脂質単層は、疎水性尾部基が互いに面と向かって疎水性内部を形成するように配置されている。脂質の親水性頭部基は、二重層の両側で水性環境に向いている。二重層は、液体の無秩序な相(流体ラメラ)、液体の秩序だった相、固体の秩序だった相(ラメラゲル相、インターディジテイテッド(interdigitated)ゲル相)、および平面二重層結晶(ラメラサブゲル相、ラメラ結晶相)を含むが、これに限定されない多数の脂質相で存在してもよい。
【0127】
脂質二重層を形成する任意の脂質を使用することができる。表面電荷、膜タンパク質を支持する能力、集積密度、または機械的特性などの必要な特性を有する脂質二重層が形成されるように、脂質は選択される。脂質は、1種類または複数の種類の脂質を含んでもよい。例えば、脂質は、100種類までの脂質を含有してもよい。脂質は、好ましくは、1〜10種類の脂質を含有する。脂質は天然の脂質および/または人工脂質を含んでもよい。
【0128】
脂質は、典型的には、頭部基、境界面部分、および同じでも異なってもよい2つの疎水性の尾部基を含む。適切な頭部基には、中性頭部基、例えば、ジアシルグリセリド(DG)およびセラミド(CM);双性イオン頭部基、例えば、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、およびスフィンゴミエリン(SM);負に荷電した頭部基、例えば、ホスファチジルグリセロール(PG);ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルイノシトール(PI)、リン酸(PA)、およびカルジオリピン(CA);ならびに正に荷電した頭部基、例えば、トリメチルアンモニウム-プロパン(TAP)が含まれるが、これに限定されない。適切な境界面部分には、天然の境界面部分、例えば、グリセロールベースまたはセラミドベースの部分が含まれるが、これに限定されない。適切な疎水性尾部基には、飽和炭化水素鎖、例えば、ラウリン酸(n-ドデカン酸)、ミリスチン酸(n-テトラデカン酸)、パルミチン酸(n-ヘキサデカン酸)、ステアリン酸(n-オクタデカン酸)、およびアラキジン酸(n-エイコサン酸);不飽和炭化水素鎖、例えば、オレイン酸(cis-9-オクタデカン酸);および分枝炭化水素鎖、例えば、フィタノイルが含まれるが、これに限定されない。不飽和炭化水素鎖における鎖の長さならびに二重結合の位置および数は異なってもよい。分枝炭化水素鎖における鎖の長さならびにメチル基などの枝の位置および数は異なってもよい。疎水性尾部基は、エーテルまたはエステルとして境界面部分に連結されてもよい。
【0129】
脂質はまた化学修飾されてもよい。脂質の頭部基または尾部基は化学修飾されてもよい。頭部基が化学修飾されている適切な脂質には、PEG修飾脂質、例えば、1,2-ジアシル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000];官能化PEG脂質、例えば、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3ホスホエタノールアミン-N-[ビオチニル(ポリエチレングリコール)2000];および結合のために修飾された脂質、例えば、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-(スクシニル)、および1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-(ビオチニル)が含まれるが、これに限定されない。尾部基が化学修飾されている適切な脂質には、重合可能な脂質、例えば、1,2-bis(10,12-トリコサジノイル)-sn-グリセロ-3-ホスホコリン;フッ化脂質、例えば、1-パルミトイル-2-(16-フルオロパルミトイル)-sn-グリセロ-3-ホスホコリン;重水素化脂質、例えば、1,2-ジパルミトイル-D62-sn-グリセロ-3-ホスホコリン;およびエーテル結合脂質、例えば、1,2-ジ-O-フィタニル-sn-グリセロ-3-ホスホコリンが含まれるが、これに限定されない。
【0130】
脂質は、典型的には、脂質二重層の特性に影響を及ぼす1つまたは複数の添加物を含む。適切な添加物には、脂肪酸、例えば、パルミチン酸、ミリスチン酸、およびオレイン酸;脂肪アルコール、例えば、パルミチン酸アルコール、ミリスチン酸アルコール、およびオレイン酸アルコール;ステロール、例えば、コレステロール、エルゴステロール、ラノステロール、シトステロール、およびスチグマステロール;リゾリン脂質、例えば、1-アシル-2-ヒドロキシ-sn-グリセロ-3-ホスホコリン;ならびにセラミドが含まれるが、これに限定されない。膜タンパク質を脂質二重層に挿入しようとする場合には、脂質は、好ましくは、コレステロールおよび/またはエルゴステロールを含む。
【0131】
しかしながら、二重層を形成するには脂質が一般的に用いられるが、この方法は、一般的には、層を形成し得る任意の両親媒性分子に適用可能であると予想される。
【0132】
水溶液10に関して、一般的には、両親媒性分子層11の形成と適合する広範囲の水溶液10を使用することができる。水溶液10は、典型的には、生理学的に許容可能な溶液である。生理学的に許容可能な溶液は、典型的には、pH3〜11に緩衝化されている。水溶液10のpHは、使用される両親媒性分子および層11の最終用途に依存する。適切な緩衝液には、リン酸緩衝食塩水(PBS);N-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N'-2-エタンスルホン酸(HEPES)緩衝食塩水;ピペラジン-1,4-Bis-2-エタンスルホン酸(PIPES)緩衝食塩水;3-(n-モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)緩衝食塩水;およびTris(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)緩衝食塩水が含まれるが、それに限定されるわけではない。例として、1つの実施では、水溶液10は、1.0M塩化ナトリウム(NaCl)を含有し、pH6.9の10mM PBSでもよい。
【0133】
器具1を使用する方法は、以下の通りである。
【0134】
最初に、図9に示したように、前処理コーティング30は、本体2に凹部5の端から端まで適用される。前処理コーティング30は、両親媒性分子に対する親和性を高めるために、凹部5を取り囲む本体2の表面を修飾する疎水性流体である。
【0135】
前処理コーティング30は、典型的には、有機溶媒に溶解した、有機物質、通常、長鎖分子を有する有機物質である。適切な有機物質には、n-デカン、ヘキサデカン、イソエコイサン(isoecoisane)、スクアレン、フッ素化油(フッ化脂質との使用に適する)、アルキル-シラン(ガラス膜との使用に適する)、およびアルキル-チオール(金属膜との使用に適する)が含まれるが、それに限定されるわけではない。適切な溶媒には、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、およびトルエンが含まれるが、これに限定されない。材料は、典型的には、ペンタンまたは別の溶媒に溶解した0.1%〜50%(v/v)ヘキサデカン0.1μl〜10μl、例えば、ペンタンまたは別の溶媒に溶解した1%(v/v)ヘキサデカン2μlでよい。この場合、例えば、ジファンチタノイル(diphantytanoyl)-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPhPC)などの脂質を0.6mg/mlの濃度で含めることができる。
【0136】
前処理コーティング30のための具体的ないくつかの材料を、例として表1に示したが、それに限定されるわけではない。
【0137】
【表1】
【0138】
前処理コーティング30は、任意の適切なやり方で、例えば、単に、キャピラリーピペットによって適用することができる。前処理コーティング30は、カバー6が器具1に取り付けられる前または取り付けられた後に適用されてもよい。
【0139】
必要とされる前処理コーティング30の材料の正確な体積は、凹部5のサイズ、材料の配合、ならびに前処理コーティング30が穴の周りで乾燥する時の量および分布によって決まる。一般的には、(体積および/または濃度によって)量が増えると有効性が改善するが、以下で議論するように、過剰な材料が電極21を覆う可能性がある。凹部5の直径を小さくすると、必要とされる前処理コーティング30の材料の量も変化する。前処理コーティング30の分布もまた有効性に影響を及ぼす可能性があり、これは、付着法および膜表面化学の適合性に依存する。前処理コーティング30と層形成の容易さおよび安定性との関係は複雑であるが、ルーチンな試行錯誤によって量を最適化することは簡単である。別の方法では、チャンバー7は、溶媒による前処理によって完全に充填された後に、過剰な溶媒を取り除き、気体を流すことによって乾燥させてもよい。
【0140】
前処理コーティング30は凹部5の端から端まで適用される。結果として、図9に示したように、前処理コーティング30は、凹部5の周囲にある本体2の表面を覆う。前処理コーティング30はまた凹部5の縁の上を延び、望ましくは、少なくとも凹部5の側壁の最外側部分を覆う。これは、凹部5の端から端までの両親媒性分子層11の形成の助けとなる。
【0141】
しかしながら、前処理コーティング30はまた、適用中に、電極21を覆うという天然の傾向も有する。これは、前処理コーティング30が電極21への電流を小さくし、従って、電気信号測定の感度を低くし、最悪の場合には、測定が全くできなくなるので望ましくない。この問題を軽減または回避するために、多くの異なる技法を使用することができ、両親媒性分子層11の形成を説明した後に議論する。
【0142】
前処理コーティング30を適用した後に、図3に示したように、水溶液10は、本体2の端から端まで凹部5を覆うように流される。この工程は、水溶液10に添加された両親媒性分子を用いて行われる。適切な前処理コーティング30を用いると、これにより、凹部5の端から端まで両親媒性分子層11を形成できることが証明されている。水溶液10が凹部5を最後に覆う前に、凹部5を少なくとも1回、覆ったり露出したりする、マルチパス法が適用されれば、形成は改善される。これは、次の通過の際に層11の形成を助ける、少なくともいくらかの水溶液が凹部5の中に残るためだと考えられている。これにもかかわらず、層11の形成は確実であり、かつ再現可能であることに注目すべきである。これは、水溶液10を、本体2の端から端までチャンバー7を通して流すという現実的な技法が、非常に実行しやすいという事実にもかかわらずである。層11の形成は、下記のように、電極21と24との間で、結果として生じた電気信号をモニタリングすることによって観察することができる。層11が形成されていなくても、水溶液10をもう1回通過させるのは簡単なことである。簡単な方法および比較的簡単な器具1を用いた、このように両親媒性分子層11を確実に形成することは、本発明の特有の利点である。
【0143】
さらに、両親媒性分子層11は高品質であり、特に、高感度バイオセンサ用途、例えば、確率的センシングおよび単一チャネル記録に適していることが証明されている。層11は、高抵抗電気シールをもたらし、1GΩまたはそれ以上、典型的には、少なくとも100GΩの電気抵抗を有する高抵抗を有する。これにより、例えば、単一タンパク質ポアから高忠実度の確率的記録が可能になる。
【0144】
これは、凹部5の中の、層11と電極21との間に、ある体積の水溶液10をトラップすると同時に達成される。これは、かなりの電解質供給を維持する。例えば、水溶液10の体積は、層に挿入された膜タンパク質を介して、安定して連続的にdc電流を測定するのに十分である。
【0145】
この利点を証明する実験結果を以下に示す。
【0146】
両親媒性分子を水溶液10に添加するには以下の通り様々な技法がある。
【0147】
第1の技法は、単に、水溶液10をチャンバー7に導入する前に、器具1の外側で水溶液10に両親媒性分子を添加する技法である。
【0148】
特に有利な第2の技法は、水溶液10をチャンバー7に導入する前に、両親媒性分子をチャンバー7の内面、またはチャンバー7に入る水溶液10の流路、例えば、入口と接続している流体入口パイプにある他の場所の内面に付着させる技法である。両親媒性分子は、さらなる層4の表面またはカバー6の表面を含む、チャンバー7のいずれか1つまたは複数の内面に付着されてもよい。水溶液10は、水溶液10が導入されている間に内面を覆い、これによって、両親媒性分子は水溶液10に添加される。このように、内面から両親媒性分子を集めるために水溶液10が用いられる。水溶液10は、両親媒性分子および凹部5を任意の順番で覆ってもよいが、好ましくは、最初に両親媒性分子を覆う。両親媒性分子が最初に覆われるのであれば、入口8と凹部5の間の流路に沿って付着される。
【0149】
任意の方法を用いて、チャンバー7の内面に脂質を付着させることができる。適切な方法には、担体溶媒の蒸発または昇華、溶液からのリポソームまたは小胞の自発的付着、および別の表面からの乾燥脂質の直接移動が含まれるが、これに限定されない。脂質が内面上に付着された器具1は、ドロップコーティング、様々な印刷法、スピンコーティング、ペインティング、ディップコーティングおよびエアロゾル適用を含むが、これに限定されない方法を用いて製造することができる。
【0150】
好ましくは、付着された両親媒性分子は乾燥される。この場合、両親媒性分子を再水和するために、水溶液10が用いられる。これにより、使用前に、両親媒性分子を器具1の中に安定して保管することが可能になる。これにより、両親媒性分子の湿式保管の必要も無くなる。このような両親媒性分子の乾式保管は器具の貯蔵寿命を長くする。固体状態まで乾燥させた場合でも、両親媒性分子は、典型的には、微量の残留溶媒を含有する。乾燥された脂質は、好ましくは、50wt%未満の溶媒、例えば、40wt%未満、30wt%未満、20wt%未満、15wt%未満、10wt%未満、または5wt%未満の溶媒を含む脂質である。
【0151】
ほとんどの実際の用途では、膜タンパク質が両親媒性分子層11に挿入される。これを達成するには、いくつかの技法がある。
【0152】
第1の技法は、単に、水溶液10に膜タンパク質を添加し、これによって、ある期間の後に、膜タンパク質が両親媒性分子層11に自発的に挿入される技法である。水溶液10をチャンバー7に導入する前に、膜タンパク質は器具1の外側で水溶液10に添加されてもよい。または、膜タンパク質は、層11が形成された後に添加されてもよい。
【0153】
膜タンパク質を水溶液10に添加する別の手法は、水溶液10をチャンバー7に導入する前に、膜タンパク質をチャンバー7の内面に付着させる技法である。この場合、水溶液10は、水溶液が導入されている間に内面を覆い、これによって、膜タンパク質は水溶液10に添加され、その後に、層11に自発的に挿入する。膜タンパク質は、さらなる層4の表面またはカバー6の表面を含む、チャンバー7のいずれか1つまたは複数の内面に付着されてもよい。膜タンパク質は、(両親媒性分子も付着していれば)両親媒性分子と同じまたは異なる内面に付着されてもよい。両親媒性分子および膜タンパク質は共に混合されてもよい。
【0154】
任意の方法を用いて、チャンバー7の内面に膜タンパク質を付着させることができる。適切な方法には、ドロップコーティング、様々な印刷法、スピンコーティング、ペインティング、ディップコーティング、およびエアロゾル適用が含まれるが、これに限定されない。
【0155】
好ましくは、膜タンパク質は乾燥される。この場合、膜タンパク質を再水和するために、水溶液10が用いられる。固体状態まで乾燥させた場合でも、膜タンパク質は、典型的には、微量の残留溶媒を含有する。乾燥された膜タンパク質は、好ましくは、20wt%未満の溶媒、例えば、15wt%未満、10wt%未満、または5wt%未満の溶媒を含む膜タンパク質である。
【0156】
第2の技法は、水溶液10に、膜タンパク質を含有する小胞を添加し、これによって、小胞と両親媒性分子層11が融合すると、膜タンパク質が挿入される技法である。
【0157】
第3の技法は、WO2006/100484に開示される技法を用いて、膜タンパク質を、寒天が先端部にあるロッドなどのプローブに載せて層11に運ぶことによって、膜タンパク質を挿入する技法である。プローブの使用は、器具に凹部のアレイがある場合、異なる膜タンパク質を異なる層11に選択的に挿入する助けとなり得る。しかしながら、これには、プローブを収容するように器具1を改変する必要がある。
【0158】
脂質二重層に入り込む任意の膜タンパク質を付着させることができる。膜タンパク質は、天然タンパク質および/または人工タンパク質でもよい。適切な膜タンパク質には、βバレル膜タンパク質、例えば、毒素、ポーリンおよび関連物、ならびにオートトランスポーター(autotransporter);膜チャネル、例えば、イオンチャネルおよびアクアポリン;細菌ロドプシン;Gタンパク質共役受容体;ならびに抗体が含まれるが、これに限定されない。非構成的な毒素の例には、ヘモリジンおよびロイコシジン、例えば、ブドウ球菌ロイコシジンが含まれる。ポーリンの例には、炭疽菌防御抗原、マルトポリン、OmpG、OmpA、およびOmpFが含まれる。オートトランスポーターの例には、Na1PおよびHia輸送体が含まれる。イオンチャネルの例には、NMDA受容体、ストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)に由来するカリウムチャネル(KcsA)、大コンダクタンス細菌機械感受性膜チャネル(MscL)、小コンダクタンス細菌機械感受性膜チャネル(MscS)、およびグラミシジンが含まれる。Gタンパク質共役受容体の例には、代謝型グルタミン酸受容体が含まれる。膜タンパク質は炭疽菌防御抗原でもよい。
【0159】
膜タンパク質は、好ましくは、α-ヘモリジンまたはその変異体を含む。α-ヘモリジンポアは7つの同じサブユニットから形成される(七量体)。α-ヘモリジンのサブユニットの1つをコードするポリヌクレオチド配列を、SEQ ID NO:1に示した。α-ヘモリジンのサブユニットの1つの完全長アミノ酸配列を、SEQ ID NO:2に示した。SEQ ID NO:2の最初の26アミノ酸はシグナルペプチドに相当する。シグナルペプチドを有さない、α-ヘモリジンの成熟サブユニットの1つのアミノ酸配列を、SEQ ID NO:3に示した。SEQ ID NO:3には、SEQ ID NO:2に存在する26のアミノ酸シグナルペプチドの代わりに、位置1にメチオニン残基がある。
【0160】
変異体は、7つのサブユニットの1つまたは複数が、SEQ ID NO:2または3のアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列を有するが、ポア活性を保持している七量体ポアである。変異体α-ヘモリジンにあるサブユニットの1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、または7つに、SEQ ID NO:2または3のアミノ酸配列と異なるアミノ酸配列があってもよい。変異体ポアの中の7つのサブユニットは典型的には同一であるが、異なってもよい。
【0161】
変異体は、ブドウ球菌属細菌などの生物によって発現される天然変異体でもよい。変異体はまた組換え技術によって生成された非天然変異体を含んでもよい。SEQ ID NO:2または3のアミノ酸配列の全長にわたって、変異体は、好ましくは、アミノ酸同一性に基づいて、その配列と少なくとも50%相同である。より好ましくは、サブユニットポリペプチドは全配列にわたって、SEQ ID NO:2または3のアミノ酸配列とのアミノ酸同一性に基づいて、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%相同である。
【0162】
SEQ ID NO:2または3のアミノ酸配列には、アミノ酸置換が加えられてもよい。例えば、1つのアミノ酸置換が加えられてもよく、2つまたはそれ以上の置換が加えられてもよい。例えば、以下の表に従って、保存的置換が加えられてもよい。2列目の同じブロックにあるアミノ酸、好ましくは3列目の同じ行にあるアミノ酸は互いに置換することができる。
【0163】
SEQ ID NO:2または3の中の1つまたは複数の位置に、非保存的置換が加えられてもよい。ここで、置換される残基は、化学的特徴および/または物理的サイズが著しく異なるアミノ酸で置換される。加えられ得る非保存的置換の一例は、SEQ ID NO:2の位置34およびSEQ ID NO:3の位置9にあるリジンをシステインで置換することである(すなわち、K34CまたはK9C)。加えられ得る非保存的置換の別の例は、SEQ ID NO:2の位置43またはSEQ ID NO:3の位置18にあるアスパラギン残基をシステインで置換することである(すなわち、N43CまたはN17C)。SEQ ID NO:2または3に、これらのシステイン残基を含めると、関連する位置にチオール付着点が設けられる。他の全ての位置に、および同じサブユニットにある複数の位置に、類似の変化を加えることができる。
【0164】
または、もしくはさらに、SEQ ID NO:2または3のアミノ酸配列の1つまたは複数のアミノ酸残基は欠失されてもよい。連続領域またはアミノ酸鎖全体に分布している複数のさらに小さな領域として、50%までの残基が欠失されてもよい。
【0165】
変異体は、SEQ ID NO:2または3の断片で作られたサブユニットを含んでもよい。このような断片は、脂質二重層に入り込む能力を保持している。断片は、長さが少なくとも100、例えば、150、200、または250のアミノ酸でもよい。このような断片は、キメラポアを作製するのに使用することができる。好ましくは、断片は、SEQ ID NO:2または3のβバレルドメインを含む。
【0166】
変異体には、SEQ ID NO:2または3の断片または一部を備えるキメラタンパク質が含まれる。キメラタンパク質は、それぞれSEQ ID NO:2または3の断片または一部を備えるサブユニットから形成される。キメラタンパク質のβバレル部分は、典型的には、SEQ ID NO:2または3の断片または一部によって形成される。
【0167】
または、もしくはさらに、アミノ酸配列SEQ ID NO:2または3の一方の末端もしくは他方の末端または両端に、1つまたは複数のアミノ酸残基が挿入されてもよい。ペプチド配列のC末端に1個、2個、またはさらなるアミノ酸が挿入されると、タンパク質の構造および/または機能を乱す可能性が低くなり、これらの付加は重要な場合があるが、好ましくは、10個まで、20個まで、50個まで、100個まで、もしくは500個までのアミノ酸またはそれ以上からなるペプチド配列を使用することができる。単量体のN末端での付加もまた重要な場合があり、1個、2個、またはそれ以上のさらなる残基が付加されるが、より好ましくは、10個、20個、50個、500個、またはそれ以上の残基が付加される。タンパク質のSEQ ID NO:3のアミノ酸残基119〜139にある膜貫通領域に、さらなる配列も付加することができる。さらに正確には、残基128および129を除去した後に、SEQ ID NO:3の残基127と130との間に、さらなる配列を付加することができる。SEQ ID NO:2の等価な位置に付加を加えることができる。担体タンパク質と、本発明によるアミノ酸配列とが融合されてもよい。
【0168】
当技術分野において標準的な方法を用いて、相同性を決定することができる。例えば、UWGCGパッケージは、相同性の計算に使用することができるBESTFITプログラムを提供し、例えば、デフォルト設定の際に用いられる(Devereux et al (1984) Nucleic Acids Research 12, p387-395)。PILEUPおよびBLAST アルゴリズムは、例えば、Altschul S. F. (1993) J Mol Evol 36:290-300; Altschul, S.F et al (1990) J Mol Biol 215:403-10に記載のように、相同性の計算または配列の整列(例えば、(典型的には、デフォルト設定での)等価な残基または対応する配列の同定)に使用することができる。BLAST分析を行うためのソフトウェアは、National Center for Biotechnology Informationを通じて公的に利用可能である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)。
【0169】
膜タンパク質は、顕示的標識(revealing label)を用いて標識することができる。顕示的標識は、タンパク質を検出可能にする任意の適切な標識でよい。適切な標識には、蛍光分子、放射性同位体、例えば、125I、35S、酵素、抗体、ポリヌクレオチド、およびビオチンなどのリンカーが含まれるが、これに限定されない。
【0170】
膜タンパク質は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)などの生物から単離されてもよく、合成または組換え手段によって作られてもよい。例えば、タンパク質はインビトロ転写翻訳によって合成されてもよい。タンパク質のアミノ酸配列は、非天然アミノ酸を含むように、またはタンパク質の安定性を高めるように修飾されてもよい。タンパク質が合成手段によって生成される場合、このようなアミノ酸は生成中に導入されてもよい。タンパク質はまた、合成または組換え生成の後にも修飾されてもよい。
【0171】
タンパク質はまた、D-アミノ酸を用いて生成されてもよい。このような場合、アミノ酸は、CからNの方向に逆方向で連結される。これは、このようなタンパク質を生成するために当技術分野において従来よりある。
【0172】
多数の側鎖修飾が当技術分野において公知であり、膜タンパク質の側鎖に加えることができる。このような修飾には、例えば、アルデヒドと反応させた後に、NaBH4による還元が続く還元的アルキル化、メチルアセチミデート(methylacetimidate)によるアミジン化、または無水酢酸によるアシル化によるアミノ酸修飾が含まれる。
【0173】
組換え膜タンパク質は、当技術分野において公知の標準的な方法を用いて生成することができる。当技術分野において標準的な方法を用いて、タンパク質をコードする核酸配列を単離および複製することができる。当技術分野において標準的な技法を用いて、タンパク質をコードする核酸配列を細菌宿主細胞内で発現させることができる。このタンパク質は、組換え発現ベクターからポリペプチドをインサイチュー発現させることによって細胞に導入することができる。発現ベクターは、任意で、ポリペプチド発現を制御するために誘導性プロモーターを有する。
【0174】
従って、器具1は広範囲の用途に使用することができる。典型的には、膜タンパク質が層11に挿入される。電気信号、典型的には、凹部5の中にある電極21とチャンバー7の中のさらなる電極24との間で発生した電流信号が、電気回路26を用いてモニタリングされる。多くの場合、電極21と電極24との間に電圧も印加されると同時に、電気信号がモニタリングされる。電気信号の形、特に、電気信号の変化から、層11および層11に挿入された膜タンパク質についての情報が得られる。
【0175】
非制限的ないくつかの使用例を今から説明する。使用の1つは、単一チャネル記録による膜タンパク質のインビトロ研究である。重要な商業的使用の1つが、広範囲の物質の存在を検出するバイオセンサである。器具1は、確率的センシングを用いて、分析分子または他の刺激物質の存在を示す電流変化を検出することによって、挿入された膜タンパク質と結合する分析分子または別の刺激物質を検出するのに使用することができる。同様に、器具1は、試料中の膜ポアまたはチャネルの存在または非存在を検出するのに使用することができる。これは、ポアまたはチャネルが挿入された時の電流の変化を検出することによって行われる。脂質二重層は、ある範囲の他の目的のために、例えば、存在することが分かっている分子の特性を研究するために(例えば、DNA配列決定もしくは薬物スクリーニングのために)、または反応のために成分を分離するために用いられてもよい。
【0176】
電極21を覆う前処理コーティング30の問題を軽減するまたは回避する、いくつかの技法を今から議論する。
【0177】
第1の技法は、前処理コーティング30を適用した後に、凹部5の中にある電極21とチャンバー7の中のさらなる電極24の間に、凹部5の中にある電極21を覆っている過剰な疎水性流体の量を減らすのに十分な電圧を印加する技法である。これにより、エレクトロ-ウェッティングに似た効果が得られる。
【0178】
この技法を図10a〜10eに図示した。最初に、図10aに示したように、前処理コーティング30を、図10aに示したように適用する。ここで、前処理コーティング30は電極21を覆う。次に、図10bに示したように、水溶液10が本体2の端から端まで凹部5を覆うように流され、その結果、水溶液10は凹部5に流入する。次に、図10cに示したように、電圧が印加され、これにより、電極21を覆っている前処理コーティング30が除去される。この電圧は、凹部5の端から端まで形成された両親媒性分子層を破裂させる。従って、次に、図10dに示したように、水溶液10は、凹部5を露出するようにチャンバー7から流出する。典型的には、ある量の水溶液10が凹部5に残る。最後に、図10eに示したように、両親媒性分子が添加されている水溶液10は、凹部5を再び覆うように本体2の端から端まで流され、その結果、両親媒性分子層11が形成される。
【0179】
これは、同じ水溶液10をチャンバー7に流入させ、チャンバー7から流出させることによって最も簡単に行われる。しかしながら、原則的に、凹部5を再び覆うようにチャンバー7に流入される水溶液10(図10e)は、電圧を印加する前に、最初に凹部5を覆うようにチャンバー7に流入される水溶液10(図10b)と異なってもよい。同様に、電圧を印加する前に、最初に凹部5を覆うようにチャンバー7に流入される水溶液10(図10b)には両親媒性分子が添加されなくてもよい。
【0180】
第2の技法は、凹部5の内面の内側部分を親水性にすることである。これは、図11に示したように、2つの(または一般的にはそれ以上の)さらなる層4aおよび4bを有する本体2を作ることによって達成されてもよく、このうち最内側のさらなる層4a(または複数の層)は、親水性材料、例えば、SiO2で形成される。典型的には、最内側のさらなる層4aの厚さは2μmでもよいが、それに限定されるわけではない。
【0181】
最外側のさらなる層4b(または複数の層)は疎水性材料で形成され、結果として、(a)凹部の周囲の本体2の最外面、および(b)凹部5の縁から延びる凹部5の内面の外側部分の両方が、疎水性である。これは、前処理コーティングが広がる助けとなる。実際には、親水性材料で形成された内側のさらなる層4aがなくても、本体2のこれらの表面のこの特性は望ましい。典型的には、最外側のさらなる層4bの厚さは1μm、3μm、5μm、10μm、20μm、または30μmでもよいが、それに限定されるわけではない。
【0182】
第3の技法は、電極21の上に、適用された前処理コーティング30をはじくが、水溶液10から電極2へのイオン伝導を可能にする親水性表面を設ける技法である。これは、電極21の上に保護材料を付着させることによって達成されてもよい。広範囲の保護材料を使用することができる。可能性のあるものの1つが、前記で議論した導電性ポリマー、例えば、ポリピロール/ポリスチレンスルホン酸である。可能性のある別のものは、共有結合された親水性種、例えば、チオール-PEGである。
【0183】
層11、特に、脂質二重層の形成、および膜タンパク質、特に、α-ヘモリジンの挿入を証明するために、前記の器具1が実験的に作られ、使用された。器具1を製造した後に、以下の手順に従った。
1)前処理コーティング30を本体2に適用する;
2)凹部5を覆うように、水溶液10をチャンバー7に導入する;
3)電極21をエレクトロ-ウェッティングする;
4)凹部5を露出するように水溶液10を除去し、凹部5を覆うように水溶液10をチャンバー7に再導入し、層11を形成する;
5)α-ヘモリジンを水溶液10に添加し、層11への挿入をモニタリングする。
【0184】
工程1)において、前処理コーティング30は、ペンタンに溶解したヘキサデカンであった。層11を形成するのに最適な条件を得るために、それぞれの試験について前処理コーティング30の量および体積を変えた。前処理コーティング30が不十分であると層11の形成が阻止されるのに対して、前処理コーティング30が過剰であると、凹部がブロッキングされた。しかしながら、量をルーチンに変更することによって最適化することができた。
【0185】
両親媒性分子は、脂質、特に1,2-ジフィタノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリンであった。脂質をペンタンに溶解し、次いで、チャンバー7の内面を画定するカバー6の表面上で乾燥させた後に、カバー6を本体2の上部に取り付けた。工程2)では、水溶液10が脂質を集めた。
【0186】
工程3)は、電極21と24の間に大きな電位を印加することによって行った。これにより、電極21から過剰な前処理コーティング30が除去された。すべての場合においては必要とされないが、この段階が行われると、層11を形成するように凹部5を適応させるのに役立ち、後の電気信号測定の助けとなった。
【0187】
工程4)および5)において、電極21と24の間に発生した電気信号をモニタリングすることによって、層11の形成および膜タンパク質の挿入が観察された。
【0188】
ポリマー基板3の上に積層することによって形成された前記の型の器具1について、この手順は首尾よく行われた。様々な程度の再現性および信号の質があったが、前記の全ての製造変数を用いて、層11の形成および膜タンパク質の挿入が観察された。
【0189】
典型的な器具1について、例を今から説明する。ここでは、基板3の上に熱積層された銀箔細片(厚さ25μm, Goodfellowより)によって第1の導電層20が形成され、厚さ15μm積層フィルム(Magicard)を用いて、さらなる層4が形成された。エキシマーレーザーを用いて、さらなる層4の中に直径100μmの環状の凹部5を作り出して、直径100μmの環状の銀電極21を曝露した。以前に述べたように、曝露した銀を電気化学的に塩素化した。第2の導電層23は、本体2の上部に印刷された、スクリーン印刷用の銀/塩化銀インクであった。
【0190】
次いで、1%ヘキサデカン+0.6mg/ml DPhPC が溶解したペンタンに0.5μlを含む前処理コーティング30を本体2に適用し、室温で乾燥させた。
【0191】
カバー6は、厚さ1mmのシリコーンゴム本体と厚さ250μmのMylar蓋を備えた。脂質(10mg/ml DPhPCが溶解したペンタン4μl)をカバー6の内側に適用し、本体2にくっつく前に室温で乾燥させた。
【0192】
典型的な首尾よい試験は以下の通りに進行した。
【0193】
乾燥した接点22および25を、ファラデー箱に入っている電気回路26に取り付け、20mV 50 Hzの三角電位波形を印加した。図15は、印加された波形および結果として生じた電流信号を示し、これは、予想された容量反応を示している。
【0194】
水溶液10を添加すると、電極間に「開回路」接続が作り出され、印加された電位波形に対する電流反応が大きくなり、典型的には、電流増幅器が飽和する。典型的なトレースを図16に示した。これは、20mV電位まで20,000pA超の電流反応が関与している。これは1MΩ未満の抵抗に相当し、この抵抗は、二重層形成およびポア電流測定と併用するのに十分小さい。
【0195】
最初に、電極21が水溶液10と適切な電気接続を形成しない事象では、-1V DC電位を印加すると、利用可能な活性電極領域を増やすことができる。これを図17に示した。図17では、電極は部分的に活性化した状態で開始し、次いで、約4秒の印加された電位の後に完全に活性化される。
【0196】
水溶液10と電極21との間で開回路接続した後に、水溶液10をチャンバー7から除去し、再導入する。再導入の際に、チャンバー7の内面から集められた脂質の層11が、凹部5の端から端まで形成される。この形成は、例えば、図18に示したように、500pA弱まで容量性方形波電流反応が増大することによって観察される。この値は、約100μmの直径の環状脂質二重層について予想されたキャパシタンスと一致し、異なる形状の場合は予想通りに変化する。
【0197】
次いで、α-ヘモリジンを水溶液10に添加することによって、100mVの印加された電位の下で、ポアの挿入に特有の電流反応が生じた。例えば、図19は、水溶液10にシクロデキストリンが存在する典型例であり、結合事象による予想された電流反応を示し、これにより電流がポアを通過することが確かめられた。
【0198】
前記の例は、熱積層された器具1のデータを示しているが、調べられた他のシステムもまた、層11の形成およびポアの挿入が成功した。例えば、これは、さらなる層4の感圧接着を用いた積層によって形成された器具1についても首尾よく証明された。しかしながら、接着層は、結果として生じるアスペクト比および電極21の全体にわたる接着剤の広がりの点で、凹部5の形成を複雑にすることが見出された。この問題は、電極21を「活性化する」電気火花によって克服した。
【0199】
図20および図21に示したように、CO2レーザーによって形成された凹部およびエキシマーレーザーによって形成された凹部からの結果を比較することによって、凹部5の質の影響は明らかである。両方の場合とも、層11の形成およびポアの挿入は成功し、反応にはっきり表われていたが、エキシマーレーザーを用いると、より再現性のある穴が作製された。CO2レーザーによって形成された凹部5は、比較的漏れやすく、ポア信号にノイズのある層11を形成する傾向があり、ブロッキングも受けやすかった。エキシマーレーザーによって形成された凹部5は、ポア信号が良好な、しっかりと密封された層11を生じた。
【0200】
前記のように、高精細プリント回路基板製造を用いて形成された器具1を用いて、層11の形成およびポアの挿入も同様に観察された。この場合、器具1を形成するために、第1の導電層20は、典型的には、プリント回路基板製造において用いられるFR4基板の上にある銅箔をエッチングすることによって形成された。次いで、基板に、Ronascreen SPSR(商標)光画像形成ソルダーマスクを深さ25μmまでスクリーン印刷し、Orbotech Paragon 9000レーザーダイレクトイメージング機械によってUV光に露光し、KaCO3溶液を用いて現像して、電極21の上に100μmの環状の穴を作り出した。
【0201】
層11の形成およびポアの挿入は、光リソグラフィを用いて前記のように形成された器具1を用いて同様に観察された。この場合、器具1を形成するために、クリーンルーム施設を用いて、第1の導電層20が、基板3の上に蒸着された金によって形成され、厚さ12.5μmのSU8フォトレジストからなるさらなる層4を上部にスピンコーティングした。マスキングしながらUV露光することによってフォトレジストを硬化させ、その後に、硬化しなかったフォトレジストを除去することによって、凹部5が形成された。凹部5の直径は100μmであるので、直径100μmの電極21が曝露された。フォトレジストを固定するためにベーキングした後に、ウェーハをダイシングして、それぞれ単一の凹部5を有する別々の基板が形成された。電極21を銀で電気めっきし、次いで、以前に述べたように電気化学的に塩素化した。第2の電極24は、本体2の上部に印刷された、スクリーン印刷された銀/塩化銀インクであった。
【0202】
次いで、0.75%ヘキサデカンが溶解したペンタン0.5μlを含む前処理コーティング30を本体2に適用し、室温で乾燥させた。
【0203】
カバー6は、厚さ250μmのMylar蓋を有する厚さ1mmのシリコーンゴム本体からなった。脂質10mg/ml DPhPCが溶解したペンタン4μl)をカバー6の内側に適用し、本体2にくっつく前に室温で乾燥させた。
【0204】
試験を前記のように行い、層11の形成およびポアの挿入が成功したことが観察された。例えば、図22は、野生型α-ヘモリジンポアを用いたシクロデキストリン結合事象を示す典型的な電流トレースを示す。
【0205】
これらの結果は、層11の形成方法が容易に実施できることを大まかに示している。特に、層11の形成は、広範囲の器具1の材料、凹部5の寸法(幅および深さ)、ならびに製造方法を用いて達成される。成功率にいくらかばらつきがあることは明らかであるが、一般的には、これは、様々な器具1をルーチンに試験することによって最適化することができる。特に、層11の形成は、凹部5の幅に過度に依存しない。5μm〜100μmの幅にわたって形成が証明され、形成が容易なことを考慮すると、200μm、500μmまたはそれ以上のさらに広い幅で形成できると予想される。また、このように層11の形成が容易なことを考慮すると、凹部5の形状のばらつきも対処できると予想される。
【0206】
一般的に凹部5のアレイと呼ばれる複数の凹部5を含むように器具1を改変することについて今から議論する。単一の器具1の中に、凹部5のアレイの端から端まで層11のアレイを容易に形成できることは、本発明の特有の利点である。従来の脂質二重層形成法とは対照的に、器具1は単一のチャンバー7を有するが、試験中にインサイチューで層11を作り出し、層11に挿入されたタンパク質ポアを通過する電流を連続して安定に測定するのを可能にする、層11の下にある凹部5の中の電解質リザーバーを取り込んでいる。さらに、形成された層11は高品質であり、膜タンパク質ポアを用いた高忠実度の電流測定に理想的な、凹部5の領域に局在している。これらの利点は、層11のアレイを形成する器具1によって大きなものとなる。なぜなら、これは、全ての層11の全体にわたる並列測定を可能にし、これにより、電流信号を組み合わせて感度を高めるか、または電流信号を別々にモニタリングして、それぞれの層11の全体にわたって独立して測定を行うことができるからである。
【0207】
凹部5のアレイを有する器具が試験されており、層11のアレイが首尾よく形成されたことを証明した。このことは、試験試料から並列に電流信号を記録する、緊密に詰められた個々にアドレス指定可能な層からなる小型化アレイを作り出す可能性があることを示している。
【0208】
本質的には、凹部5のアレイを有する器具1は、単に前記の製造法を用いるが、代わりに複数の凹部5を形成することによって形成することができる。この場合、第1の導電層20は、それぞれの凹部5に関して、別々の電極21、接点22、および中間導電性トラック27を形成するように分けられる。器具1には、全ての凹部5に共通する、単一の電極24を有する単一のチャンバー7がある。
【0209】
図23〜25は第1〜第3のデザインを示し、それぞれ、さらなる層4に、4個、9個、および128個の凹部5を設けることによって器具1が改変されている。第1〜第3のデザインそれぞれにおいて、第1の導電層20は、それぞれ、基板3の平面図である図26〜28に示したように分けられる。第1の導電層20は、それぞれの凹部5に関して、凹部5の下にある電極21;外部回路26を接続するために曝露された接点22、および電極21と接点22の間にあるトラック27を提供する。従って、それぞれの電極21ならびにその関連するトラック27および接点22は互いに電気的に絶縁されているので、それぞれの凹部5からの電流信号を別々に測定することができる。
【0210】
器具1の製造は、ポリマーフィルムの積層を用いた前記の技法またはシリコンウェーハを用いた光リソグラフィを用いて行われてもよい。
【0211】
層11、特に、脂質二重層の形成、および膜タンパク質、特に、α-ヘモリジンの挿入を証明するために、複数の凹部5を有する器具1が実験的に作られ、使用された。この実験手順は、複数の凹部5において層の形成5および膜タンパク質の挿入が観察された以外は、単一の凹部5を有する器具1について前述されたものと同じであった。いくつかの例は、以下の通りである。
【0212】
4個の凹部5を有する第1のデザインの器具を、ポリマー基板3の上に積層する前記の技法によって製造した。第1の導電層20は、ポリエステルシート基板3の上に蒸着された銀であった。さらなる層4は、上部に熱積層された厚さ15μmの積層フィルムであった。直径100μmの4個の凹部5が、エキシマーレーザーによって300μmのピッチで形成された。
【0213】
それぞれの凹部5から同時に並列に記録するために、全てのチャネルに共通してある接地電極であるチャンバー7の中の単一の銀/塩化銀電極24と同時に、複数のAxon電流増幅器装置を動かした。複数の凹部5における層11の形成および膜タンパク質の挿入は首尾よく並列に記録された。多くの場合、これは、それぞれの凹部5において起こるが、時として、1つまたは複数の凹部5において層11は形成されなかった。例えば、典型的な電流トレースを図29に示した。図29は、シクロデキストリン結合事象を用いて、それぞれ1個または2個のα-ヘモリジンポアが挿入されている4個の層11が自発的に形成されたことを証明している。特に、信号間のクロストークがない。このことから、層11は独立して動作し、個々にアドレス指定され、共通の第2の電極24を用いると同時に、意味のある測定を並列に行うことができることが確かめられた。
【0214】
9個の凹部5を有する第2のデザインの器具を、前記の光リソグラフィ法によって、シリコンウェーハ基板2を用いて製造した。さらなる層4は、厚さ5μm のSU8フォトレジストであった。9個の環状の凹部5が、光リソグラフィによって、300μmのピッチで形成された。この場合、凹部9は、異なる直径、特に、5μm、10μm、15μm、20μm、20μm、30μm、40μm、50μm、および100μmの直径を有した。基板3は、別々のトラックがそれぞれの接点22および25と接続するプリント回路基板に接着される。保護のために接点22および25の全体にわたってエポキシが添加される。
【0215】
印加された電位を制御し、並列に電流反応を記録するために、対応するソフトウェアを用いて、多チャネル電気回路26を作り出した。試験は、水溶液10を繰り返して使用および除去するように流体制御する注射器ポンプを用いて、コンピュータにより自動化された。
【0216】
複数の凹部5における層11の形成および膜タンパク質の挿入は、首尾よく並列に記録された。多くの場合、これは、それぞれの凹部5において起こったが、時として、1つまたは複数の凹部5において層11は形成されなかった。例えば、金電極を用いて構築され、溶解状態での酸化還元共役なしで動作する凹部5の典型的な電流トレースを図30に示した。図30は、シクロデキストリン結合事象を用いて、それぞれ1個または2個のα-ヘモリジンポアが挿入されている8個の層11が自発的に形成されたことを証明している。これもまたクロストークがなく、このことから、層11は独立して動作し、意味のある測定を並列に行うことができると確かめられた。
【0217】
さらに、器具1は、5μm〜100μmの範囲で、それぞれの直径の凹部5の端から端まで層11が首尾よく形成されたことを証明する。従って、器具1は、3種類の濃度の前処理コーティング30、すなわち、0.5%、1.0%、および2.0%ヘキサデカンが溶解したペンタンを用いて層5を形成する成功率パーセントを実験的に試験することによって、凹部5の直径の役割および適用された前処理コーティングの量を調べるのに用いられた。結果から、前処理コーティング30が少なすぎる場合には、凹部5の直径範囲の端から端まで層11を形成することは不可能であることが分かった。さらに、前処理コーティング30が多すぎる場合、電極21を湿らせるのは不可能であり、層11の形成は観察できなかった。この特定の構成において、層11の形成率は、直径15μm〜100μmの範囲については60%超であった。層形成に影響を及ぼす要因には、前処理コーティング30、凹部5の直径、凹部5の深さ、凹部5のアスペクト比、凹部5の表面特性、凹部の周囲の表面の表面特性、チャンバー7の中の流体の流れ、層形成において用いられた両親媒性分子、ならびに凹部5の中の電極21の物理的特性および電気的特性が含まれるが、これに限定されず、この中のいくつかを本実験において調べた。後の実験から、層11の形成率は、図28の装置の、それぞれ直径100μmの128個の凹部を用いた場合、70%超であることを証明され、これは、挿入された膜チャネルの確率的結合信号によって確認された。
【0218】
前記の器具1において、さらなる層の下にある基板3の表面に、電極21から接点22への導電性トラック27が形成される。これは、導電性トラック27の平面エスケープルート(escape route)と呼ばれることがある。以前に述べたように、別々の導電性トラック27があると、ノイズおよび帯域幅の減少による信号劣化を最小限にしながら、それぞれの電極21を、回路26にある専用の低ノイズ高入力インピーダンスピコアンメーターに個々に接続することができる。このような平面導電性トラック27は、少数の凹部5、およびトラック27と水溶液10との間に薄い層を有する器具1に理想的である。
【0219】
しかしながら、高感度が求められる使用の場合、望ましくは、電極21と増幅器回路との間の電気接続の寄生キャパシタンスは低く、周囲への漏電が少ない。寄生キャパシタンスはノイズを引き起こし、従って、信号劣化および帯域幅の減少を引き起こす。漏電もノイズを増やして、オフセット電流を導入する。器具1において、導電性トラック27は、トラック27間、およびトラックと水溶液10との間に、ある程度の寄生キャパシタンスおよび漏電に遭遇する。アレイの中の凹部の数が増えるにつれて、エスケープへの電気接続の数は増え、平面エスケープルートにより、実用限界に達する。この場合、導電性トラック27の密度が、トラック間に大きすぎる寄生キャパシタンスおよび/または漏電を生じさせる。さらに、層4の厚さが薄くなるにつれて、トラック27と水溶液10との間のキャパシタンスおよび/または漏電が増加する。
【0220】
例として、単位面積あたりのキャパシタンスが0.8μF/cm2の典型的な値を用いて、容量素子として脂質二重層をモデリングすることによって、典型的な図を得ることができる。トラック27と水溶液10との間の寄生キャパシタンスは、トラック27の領域が層を通って水溶液に曝露している容量素子として粗くモデリングすることができる。トラック27の典型的な値は、幅50μm、曝露2mm、層の比誘電率(relative permittivity)(比誘電率(dielectric constant))約3でもよい。直径の100μm二重層および深さ20μmの凹部の場合、キャパシタンスは63pFであり、トラック-溶液寄生キャパシタンスは0.13pFである。しかしながら、直径5μmおよび深さ1μmのさらに小さい二重層に縮小すると、キャパシタンスは0.16pFであり、寄生キャパシタンスは0.53pFである。二重層がさらに小さく、層がさらに薄くなると、寄生キャパシタンスは優勢になる。
【0221】
この問題を軽減するために、図31に示した改変は、導電性トラック27を、本体2を通って、電極21から本体2の反対側にある接点29まで延びる導電性経路28で置換している。特に、導電性経路28は基板3を横断する。この基板3は、導電性経路28の間に、平面導電性経路27間で可能なものより厚い誘電体を提供するので、非常に低い寄生キャパシタンスが達成される。また、基板3のこの厚さおよび誘電特性のために、漏電は少ない。結果として、導電性経路28を用いると、寄生キャパシタンスおよび/または漏電によって課せられる実用限界に達する前に、本体2の中に収容され得る凹部5の数が効果的に増える。この型の相互接続は低キャパシタンス多層基板61に取り付けることができる。これにより、層の数および材料の低比誘電率によって、電気エスケープルートの数を大幅に増やすのを可能にする。さらに、ハンダバンプ技術(「フリップチップ」技術とも知られる)および適切なコネクタを使用すると、基板61を除く、図31に示した器具1を、低コストの使い捨て部分として作ることが可能になる。
【0222】
導電性経路28は、公知のスルー-ウェーハ相互接続技術を用いて形成することができる。導電性経路を形成するために適用され得るスルー-ウェーハ相互接続の型には、以下が含まれるが、それに限定されるわけではない:
シリコン基板3の上に、シリコンウェーハに貫通してバイアを設け、バイアの内面を隔離し、バイアに導電性材料を充填することによってスルー-ウェーハ相互接続技術が形成されるか、またはシリコン基板に貫通する円筒状バイアの形で半導体PN接合を作製することによって導電性経路28が形成される;
ガラス基板3の上での、レーザードリリング、ウェットエッチング、および金属またはドープ半導体材料によるバイアの充填を含む方法によって形成されたスルー-ウェーハ相互接続;ならびに
ポリマーで作られた基板3の上での、レーザードリリング、レーザーアブレーション、スクリーン印刷された導体、および公知のプリント回路基板法を含む方法によって形成されたスルー-ウェーハ相互接続。
【0223】
電極21からの本体2の反対側は乾燥しているので、電気点接触アレイを用いて、電気回路26と接続することができる。例として、図31は、ハンダバンプ接続の使用を示す。特に、それぞれの接点29には、各自のハンダバンプ60が付着されており、ハンダバンプ60が回路要素61の上にあるトラック62と電気的に接触するように、回路要素61が実装されている。
【0224】
例えば、図13に示したように、回路要素61はプリント回路基板でもよい。
【0225】
または、回路要素61は、集積回路チップまたは積層物、例えば、低温硬化セラミックパッケージでもよい。このような集積回路チップまたは積層物は、接続を拡大し、集積回路チップまたは積層物の反対側にある、ピッチがさらに広い、さらなるハンダバンプアレイに接続する方法として使用することができる。この一例を図32に示した。図32では、回路要素61は集積回路チップまたは積層物であり、本体2の上に付着されたハンダバンプ60から、さらに広いピッチで整列され、さらなる回路要素64、例えば、プリント回路基板に接続するのに用いられる、さらなるハンダバンプ63への接続を提供する。集積回路チップまたは積層物である回路要素61は、多層形式で接続を横方向へ逃すのにも使用することができる。
【0226】
シリコンなどの半導体材料の基板3の場合、導電性経路28を作るために適用され得る2つの型のスルー-ウェーハ相互接続(through-wafer interconnect)は、金属-絶縁体-半導体(MIS)およびPN接合型である。MISでは、深掘り反応性イオンエッチング(Deep Reactive Ion Etching) (DRIE)プロセスによってシリコンチップに貫通してホールが開けられ、導電性経路28を形成するために、この穴に絶縁体がコーティングされ、次いで、金属が充填される。PN接合型のスルー-ウェーハ相互接続は、シリコンチップに貫通して円筒状バイアの中に形成された半導体接合である。ホールの作製においてDRIE処理時間を節約するために、0.3mm未満まで薄くしたシリコンウェーハ上に、それぞれの型のスルー-ウェーハ相互接続が形成される。PN接合型スルー-ウェーハ相互接続の重要な特徴は、MIS型相互接続と比較して大きな空乏領域を有することによって生じる低キャパシタンスである。これは、接合の逆バイアスを高めることによって部分的に改善する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種類の体積の水溶液を分離する層を形成する方法であって、以下の工程を含む方法:
(a)チャンバーを画定し、非導電材料の本体を含む要素を備える器具であって、本体の中には、チャンバーに開口している少なくとも1つの凹部が形成され、凹部は電極を収容する、器具を提供する工程;
(b)本体に凹部の端から端まで疎水性流体の前処理コーティングを適用する工程;
(c)両親媒性分子が添加されている水溶液を、本体の端から端まで凹部を覆うように流し、その結果、水溶液がチャンバーから凹部の中に導入され、両親媒性分子層が凹部の端から端まで形成され、それによって、凹部の中に導入された、ある体積の水溶液を残りの体積の水溶液から分離する工程。
【請求項2】
工程(c)が、
(c1)本体の端から端まで凹部を覆うように水溶液を流し、その結果、水溶液が凹部に流入する工程;
(c2)凹部の中にいくらかの水溶液を残しながら、凹部を露出するように水溶液を流す工程;および
(c3)本体の端から端まで凹部を再度覆うように、両親媒性分子が添加されている水溶液を流し、その結果、両親媒性分子層が凹部の端から端まで形成され、これにより、凹部の内部にある、ある体積の水溶液を、残りの体積の水溶液から分離する工程
を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
器具には、凹部の外側のチャンバーの中にさらなる電極が設けられ、工程(c1)では、水溶液がさらなる電極とも接触するように流され、
工程(c)は、工程(c1)と(c2)との間に、
(c4)凹部の中に収容された電極と該さらなる電極の間に、該凹部の中に収容された電極を覆う過剰な疎水性流体の量を減らすのに十分な電圧を印加する工程
をさらに含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
工程(c1)および(c2)において流される水溶液が同じ水溶液である、請求項2または3記載の方法。
【請求項5】
(a)凹部の周囲の本体の最外面、および
(b)少なくとも、凹部の縁から延びる凹部の内面の外側部分
の一方または両方を含む表面が、疎水性である、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
本体が、疎水性材料で形成された最外層を備え、凹部が最外層を通って延び、かつ凹部の内面の外側部分が最外層の表面である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
外側部分の内側にある、凹部の内面の内側部分が親水性である、請求項5記載の方法。
【請求項8】
本体が、疎水性材料で形成された最外層および親水性材料で形成された内層を備え、凹部が最外層および内層を通って延び、凹部の内面の外側部分が最外層の表面であり、かつ凹部の内面の内側部分が内層の表面である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
表面がフッ素種により修飾される、請求項5記載の方法。
【請求項10】
表面がフッ素プラズマ処理によってフッ素種により修飾される、請求項9記載の方法。
【請求項11】
凹部の中に収容された電極が、凹部の基部の上に設けられている、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
本体が、基板および基板に取り付けられた少なくとも1つのさらなる層を含み、凹部が、該少なくとも1つのさらなる層を通って延びている、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
電極の上に、工程(c)において適用される、疎水性流体をはじくが、水溶液から電極へのイオン伝導を可能にする親水性表面が設けられている、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
親水性表面が、電極の上に設けられた保護材料の表面である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
保護材料が、共有結合された親水性種または導電性ポリマーである、請求項14記載の器具。
【請求項16】
電極の上に導電性ポリマーが設けられている、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
チャンバーが閉鎖型チャンバーになるように、チャンバーを画定する要素が、本体の上に延びるカバーをさらに備える、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項18】
カバーが少なくとも1つの入口および少なくとも1つの出口を備え、工程(c)では、入口を通ってチャンバーに水溶液が導入され、かつこのように導入された水溶液によって押し出された流体が出口から出る、請求項17記載の方法。
【請求項19】
凹部の内面には、流体連通可能な開口部が無い、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項20】
少なくとも1つの凹部が複数の凹部を含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
両親媒性分子層が両親媒性分子の二重層である、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項22】
両親媒性分子が脂質である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
両親媒性分子層が少なくとも1GΩの電気抵抗を有する、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項24】
工程(c)の前に、両親媒性分子をチャンバーの内面または水溶液のチャンバーへの流路の内面に付着させる工程をさらに含み、工程(c)の間に、水溶液が内面を覆い、それによって、両親媒性分子が水溶液に添加される、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項25】
膜タンパク質を両親媒性分子層に挿入する工程をさらに含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項26】
水溶液には膜タンパク質が添加されており、それによって、膜タンパク質が両親媒性分子層に自発的に挿入される、請求項25記載の方法。
【請求項27】
工程(c)の前に、膜タンパク質をチャンバーの内面に付着させる工程をさらに含み、工程(c)の間に、水溶液が内面を覆い、それによって、膜タンパク質が水溶液に添加される、請求項25記載の方法。
【請求項28】
少なくとも1つの凹部が複数の凹部を含み、かつ方法が、異なる凹部の中に形成された両親媒性分子層に異なる膜タンパク質を挿入する工程を含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項29】
器具には、凹部の外側のチャンバーの中にさらなる電極が設けられ、かつ方法が、凹部の中の電極と該さらなる電極の間に電位を印加する工程、および該凹部の中の電極と該さらなる電極との間で発生した電気信号をモニタリングする工程をさらに含む、請求項25〜28のいずれか一項記載の方法。
【請求項30】
チャンバーを画定し、非導電材料の本体を含む要素であって、本体の中には、チャンバーに開口している少なくとも1つの凹部が形成されている、要素と、
凹部の中に収容された電極
とを備える、2種類の体積の水溶液を分離する層を支持する器具。
【請求項31】
(a)凹部の周囲の本体の最外面、および
(b)少なくとも、凹部の縁から延びる凹部の内面の外側部分
の一方または両方を含む表面が、疎水性である、請求項30記載の器具。
【請求項32】
本体が、疎水性材料で形成された最外層を備え、凹部が最外層を通って延び、かつ凹部の内面の外側部分が最外層の表面である、請求項31記載の器具。
【請求項33】
外側部分の内側にある、凹部の内面の内側部分が親水性である、請求項31記載の器具。
【請求項34】
本体が、疎水性材料で形成された最外層および親水性材料で形成された内層を備え、凹部が最外層および内層を通って延び、凹部の内面の外側部分が最外層の表面であり、かつ凹部の内面の内側部分が内層の表面である、請求項33記載の器具。
【請求項35】
表面がフッ素種により修飾される、請求項31記載の器具。
【請求項36】
表面がフッ素プラズマ処理によってフッ素種により修飾される、請求項35記載の器具。
【請求項37】
凹部の中に収容された電極が、凹部の基部の上に設けられている、請求項30〜36のいずれか一項記載の器具。
【請求項38】
本体が、基板および基板に取り付けられた少なくとも1つのさらなる層を含み、凹部が、該少なくとも1つのさらなる層を通って延びている、請求項30〜37のいずれか一項記載の器具。
【請求項39】
少なくとも1つのさらなる層が、ポリカーボネート;ポリ塩化ビニル;ポリエステル;熱積層フィルム;フォトレジスト;またはインクである、請求項38記載の器具。
【請求項40】
基板が、シリコン、酸化ケイ素、窒化ケイ素、またはポリマーの少なくとも1つを含む、請求項38または39記載の器具。
【請求項41】
本体が、チャンバーの中の電極から、電気回路との接続を可能にする接点まで延びる導電性経路を有する、請求項30〜40のいずれか一項記載の器具。
【請求項42】
導電性経路が、凹部から本体の反対側に配置された接点まで、本体を通って延びる、請求項41記載の器具。
【請求項43】
導電性経路が、少なくとも1つのさらなる層の下にある基板表面を横断して延びる、請求項41記載の器具。
【請求項44】
電極の上に、工程(c)において適用される、疎水性流体をはじくが、水溶液から電極へのイオン伝導を可能にする親水性表面が設けられている、請求項30〜43のいずれか一項記載の器具。
【請求項45】
親水性表面が、電極の上に設けられた保護材料の表面である、請求項44記載の器具。
【請求項46】
保護材料が、共有結合された親水性種または導電性ポリマーである、請求項45記載の器具。
【請求項47】
電極の上に導電性ポリマーが設けられている、請求項30〜46のいずれか一項記載の器具。
【請求項48】
凹部の外側のチャンバーの中にさらなる電極をさらに備える、請求項30〜47のいずれか一項記載の器具。
【請求項49】
チャンバーが閉鎖型チャンバーになるように、チャンバーを画定する要素が、本体の上に延びるカバーをさらに備える、請求項30〜48のいずれか一項記載の器具。
【請求項50】
カバーが少なくとも1つの入口および少なくとも1つの出口を備え、工程(c)では、入口を通ってチャンバーに水溶液が導入され、かつこのように導入された水溶液によって押し出された流体が出口から出る、請求項49記載の器具。
【請求項51】
凹部の内面には、流体連通可能な開口部が無い、請求項30〜50のいずれか一項記載の器具。
【請求項52】
凹部が最大で500μmの幅を有する、請求項30〜51のいずれか一項記載の器具。
【請求項53】
少なくとも1つの凹部が複数の凹部である、請求項30〜52のいずれか一項記載の器具。
【請求項54】
チャンバーの内面に付着された両親媒性分子をさらに備える、請求項30〜53のいずれか一項記載の器具。
【請求項55】
両親媒性分子が脂質である、請求項54記載の器具。
【請求項56】
チャンバーの内面に付着された膜タンパク質をさらに備える、請求項30〜55のいずれか一項記載の器具。
【請求項57】
本体に凹部の端から端まで適用された、疎水性流体の前処理コーティングをさらに備える、請求項30〜56のいずれか一項記載の器具。
【請求項58】
凹部およびチャンバーが水溶液を含有する、請求項57記載の器具。
【請求項59】
凹部の開口部の端から端まで延びる両親媒性分子層をさらに備える、請求項58記載の器具。
【請求項60】
両親媒性分子層が少なくとも1GΩの電気抵抗を有する、請求項59記載の器具。
【請求項61】
両親媒性分子が脂質である、請求項59または60記載の器具。
【請求項62】
両親媒性分子層の中に膜タンパク質が挿入されている、請求項59〜61のいずれか一項記載の器具。
【請求項63】
器具には、凹部の外側のチャンバーの中にさらなる電極が設けられ、かつ方法が、凹部の中の電極と該さらなる電極の間に電位を印加する工程、および該凹部の中の電極と該さらなる電極との間で発生した電気信号をモニタリングする工程を含む、請求項59〜62のいずれか一項記載の器具を使用する方法。
【請求項64】
電気生理学的測定を行う際の、凹部の中にある電極の性能を改善する方法であって、電極の上に導電性ポリマーを付着させる工程を含む、方法。
【請求項65】
電極が金属で作られている、請求項64記載の方法。
【請求項66】
電極が、銀、金、または白金で作られている、請求項65記載の方法。
【請求項67】
導電性ポリマーがポリピロールである、請求項64〜66のいずれか一項記載の方法。
【請求項68】
凹部を有する本体を備え、該凹部の中には電極が配置され、該電極の上に導電性ポリマーが付着されている、電気生理学的測定を行うための器具。
【請求項69】
電極が金属で作られている、請求項68記載の方法。
【請求項70】
電極が、銀、金、または白金で作られている、請求項69記載の方法。
【請求項71】
導電性ポリマーがポリピロールである、請求項68〜70のいずれか一項記載の方法。
【請求項1】
2種類の体積の水溶液を分離する層を形成する方法であって、以下の工程を含む方法:
(a)チャンバーを画定し、非導電材料の本体を含む要素を備える器具であって、本体の中には、チャンバーに開口している少なくとも1つの凹部が形成され、凹部は電極を収容する、器具を提供する工程;
(b)本体に凹部の端から端まで疎水性流体の前処理コーティングを適用する工程;
(c)両親媒性分子が添加されている水溶液を、本体の端から端まで凹部を覆うように流し、その結果、水溶液がチャンバーから凹部の中に導入され、両親媒性分子層が凹部の端から端まで形成され、それによって、凹部の中に導入された、ある体積の水溶液を残りの体積の水溶液から分離する工程。
【請求項2】
工程(c)が、
(c1)本体の端から端まで凹部を覆うように水溶液を流し、その結果、水溶液が凹部に流入する工程;
(c2)凹部の中にいくらかの水溶液を残しながら、凹部を露出するように水溶液を流す工程;および
(c3)本体の端から端まで凹部を再度覆うように、両親媒性分子が添加されている水溶液を流し、その結果、両親媒性分子層が凹部の端から端まで形成され、これにより、凹部の内部にある、ある体積の水溶液を、残りの体積の水溶液から分離する工程
を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
器具には、凹部の外側のチャンバーの中にさらなる電極が設けられ、工程(c1)では、水溶液がさらなる電極とも接触するように流され、
工程(c)は、工程(c1)と(c2)との間に、
(c4)凹部の中に収容された電極と該さらなる電極の間に、該凹部の中に収容された電極を覆う過剰な疎水性流体の量を減らすのに十分な電圧を印加する工程
をさらに含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
工程(c1)および(c2)において流される水溶液が同じ水溶液である、請求項2または3記載の方法。
【請求項5】
(a)凹部の周囲の本体の最外面、および
(b)少なくとも、凹部の縁から延びる凹部の内面の外側部分
の一方または両方を含む表面が、疎水性である、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
本体が、疎水性材料で形成された最外層を備え、凹部が最外層を通って延び、かつ凹部の内面の外側部分が最外層の表面である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
外側部分の内側にある、凹部の内面の内側部分が親水性である、請求項5記載の方法。
【請求項8】
本体が、疎水性材料で形成された最外層および親水性材料で形成された内層を備え、凹部が最外層および内層を通って延び、凹部の内面の外側部分が最外層の表面であり、かつ凹部の内面の内側部分が内層の表面である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
表面がフッ素種により修飾される、請求項5記載の方法。
【請求項10】
表面がフッ素プラズマ処理によってフッ素種により修飾される、請求項9記載の方法。
【請求項11】
凹部の中に収容された電極が、凹部の基部の上に設けられている、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
本体が、基板および基板に取り付けられた少なくとも1つのさらなる層を含み、凹部が、該少なくとも1つのさらなる層を通って延びている、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
電極の上に、工程(c)において適用される、疎水性流体をはじくが、水溶液から電極へのイオン伝導を可能にする親水性表面が設けられている、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
親水性表面が、電極の上に設けられた保護材料の表面である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
保護材料が、共有結合された親水性種または導電性ポリマーである、請求項14記載の器具。
【請求項16】
電極の上に導電性ポリマーが設けられている、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項17】
チャンバーが閉鎖型チャンバーになるように、チャンバーを画定する要素が、本体の上に延びるカバーをさらに備える、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項18】
カバーが少なくとも1つの入口および少なくとも1つの出口を備え、工程(c)では、入口を通ってチャンバーに水溶液が導入され、かつこのように導入された水溶液によって押し出された流体が出口から出る、請求項17記載の方法。
【請求項19】
凹部の内面には、流体連通可能な開口部が無い、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項20】
少なくとも1つの凹部が複数の凹部を含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
両親媒性分子層が両親媒性分子の二重層である、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項22】
両親媒性分子が脂質である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
両親媒性分子層が少なくとも1GΩの電気抵抗を有する、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項24】
工程(c)の前に、両親媒性分子をチャンバーの内面または水溶液のチャンバーへの流路の内面に付着させる工程をさらに含み、工程(c)の間に、水溶液が内面を覆い、それによって、両親媒性分子が水溶液に添加される、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項25】
膜タンパク質を両親媒性分子層に挿入する工程をさらに含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項26】
水溶液には膜タンパク質が添加されており、それによって、膜タンパク質が両親媒性分子層に自発的に挿入される、請求項25記載の方法。
【請求項27】
工程(c)の前に、膜タンパク質をチャンバーの内面に付着させる工程をさらに含み、工程(c)の間に、水溶液が内面を覆い、それによって、膜タンパク質が水溶液に添加される、請求項25記載の方法。
【請求項28】
少なくとも1つの凹部が複数の凹部を含み、かつ方法が、異なる凹部の中に形成された両親媒性分子層に異なる膜タンパク質を挿入する工程を含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項29】
器具には、凹部の外側のチャンバーの中にさらなる電極が設けられ、かつ方法が、凹部の中の電極と該さらなる電極の間に電位を印加する工程、および該凹部の中の電極と該さらなる電極との間で発生した電気信号をモニタリングする工程をさらに含む、請求項25〜28のいずれか一項記載の方法。
【請求項30】
チャンバーを画定し、非導電材料の本体を含む要素であって、本体の中には、チャンバーに開口している少なくとも1つの凹部が形成されている、要素と、
凹部の中に収容された電極
とを備える、2種類の体積の水溶液を分離する層を支持する器具。
【請求項31】
(a)凹部の周囲の本体の最外面、および
(b)少なくとも、凹部の縁から延びる凹部の内面の外側部分
の一方または両方を含む表面が、疎水性である、請求項30記載の器具。
【請求項32】
本体が、疎水性材料で形成された最外層を備え、凹部が最外層を通って延び、かつ凹部の内面の外側部分が最外層の表面である、請求項31記載の器具。
【請求項33】
外側部分の内側にある、凹部の内面の内側部分が親水性である、請求項31記載の器具。
【請求項34】
本体が、疎水性材料で形成された最外層および親水性材料で形成された内層を備え、凹部が最外層および内層を通って延び、凹部の内面の外側部分が最外層の表面であり、かつ凹部の内面の内側部分が内層の表面である、請求項33記載の器具。
【請求項35】
表面がフッ素種により修飾される、請求項31記載の器具。
【請求項36】
表面がフッ素プラズマ処理によってフッ素種により修飾される、請求項35記載の器具。
【請求項37】
凹部の中に収容された電極が、凹部の基部の上に設けられている、請求項30〜36のいずれか一項記載の器具。
【請求項38】
本体が、基板および基板に取り付けられた少なくとも1つのさらなる層を含み、凹部が、該少なくとも1つのさらなる層を通って延びている、請求項30〜37のいずれか一項記載の器具。
【請求項39】
少なくとも1つのさらなる層が、ポリカーボネート;ポリ塩化ビニル;ポリエステル;熱積層フィルム;フォトレジスト;またはインクである、請求項38記載の器具。
【請求項40】
基板が、シリコン、酸化ケイ素、窒化ケイ素、またはポリマーの少なくとも1つを含む、請求項38または39記載の器具。
【請求項41】
本体が、チャンバーの中の電極から、電気回路との接続を可能にする接点まで延びる導電性経路を有する、請求項30〜40のいずれか一項記載の器具。
【請求項42】
導電性経路が、凹部から本体の反対側に配置された接点まで、本体を通って延びる、請求項41記載の器具。
【請求項43】
導電性経路が、少なくとも1つのさらなる層の下にある基板表面を横断して延びる、請求項41記載の器具。
【請求項44】
電極の上に、工程(c)において適用される、疎水性流体をはじくが、水溶液から電極へのイオン伝導を可能にする親水性表面が設けられている、請求項30〜43のいずれか一項記載の器具。
【請求項45】
親水性表面が、電極の上に設けられた保護材料の表面である、請求項44記載の器具。
【請求項46】
保護材料が、共有結合された親水性種または導電性ポリマーである、請求項45記載の器具。
【請求項47】
電極の上に導電性ポリマーが設けられている、請求項30〜46のいずれか一項記載の器具。
【請求項48】
凹部の外側のチャンバーの中にさらなる電極をさらに備える、請求項30〜47のいずれか一項記載の器具。
【請求項49】
チャンバーが閉鎖型チャンバーになるように、チャンバーを画定する要素が、本体の上に延びるカバーをさらに備える、請求項30〜48のいずれか一項記載の器具。
【請求項50】
カバーが少なくとも1つの入口および少なくとも1つの出口を備え、工程(c)では、入口を通ってチャンバーに水溶液が導入され、かつこのように導入された水溶液によって押し出された流体が出口から出る、請求項49記載の器具。
【請求項51】
凹部の内面には、流体連通可能な開口部が無い、請求項30〜50のいずれか一項記載の器具。
【請求項52】
凹部が最大で500μmの幅を有する、請求項30〜51のいずれか一項記載の器具。
【請求項53】
少なくとも1つの凹部が複数の凹部である、請求項30〜52のいずれか一項記載の器具。
【請求項54】
チャンバーの内面に付着された両親媒性分子をさらに備える、請求項30〜53のいずれか一項記載の器具。
【請求項55】
両親媒性分子が脂質である、請求項54記載の器具。
【請求項56】
チャンバーの内面に付着された膜タンパク質をさらに備える、請求項30〜55のいずれか一項記載の器具。
【請求項57】
本体に凹部の端から端まで適用された、疎水性流体の前処理コーティングをさらに備える、請求項30〜56のいずれか一項記載の器具。
【請求項58】
凹部およびチャンバーが水溶液を含有する、請求項57記載の器具。
【請求項59】
凹部の開口部の端から端まで延びる両親媒性分子層をさらに備える、請求項58記載の器具。
【請求項60】
両親媒性分子層が少なくとも1GΩの電気抵抗を有する、請求項59記載の器具。
【請求項61】
両親媒性分子が脂質である、請求項59または60記載の器具。
【請求項62】
両親媒性分子層の中に膜タンパク質が挿入されている、請求項59〜61のいずれか一項記載の器具。
【請求項63】
器具には、凹部の外側のチャンバーの中にさらなる電極が設けられ、かつ方法が、凹部の中の電極と該さらなる電極の間に電位を印加する工程、および該凹部の中の電極と該さらなる電極との間で発生した電気信号をモニタリングする工程を含む、請求項59〜62のいずれか一項記載の器具を使用する方法。
【請求項64】
電気生理学的測定を行う際の、凹部の中にある電極の性能を改善する方法であって、電極の上に導電性ポリマーを付着させる工程を含む、方法。
【請求項65】
電極が金属で作られている、請求項64記載の方法。
【請求項66】
電極が、銀、金、または白金で作られている、請求項65記載の方法。
【請求項67】
導電性ポリマーがポリピロールである、請求項64〜66のいずれか一項記載の方法。
【請求項68】
凹部を有する本体を備え、該凹部の中には電極が配置され、該電極の上に導電性ポリマーが付着されている、電気生理学的測定を行うための器具。
【請求項69】
電極が金属で作られている、請求項68記載の方法。
【請求項70】
電極が、銀、金、または白金で作られている、請求項69記載の方法。
【請求項71】
導電性ポリマーがポリピロールである、請求項68〜70のいずれか一項記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10a】
【図10b】
【図10c】
【図10d】
【図10e】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図2】
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【図4】
【図5】
【図6】
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【図9】
【図10a】
【図10b】
【図10c】
【図10d】
【図10e】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
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【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
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【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【公表番号】特表2011−506994(P2011−506994A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538883(P2010−538883)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【国際出願番号】PCT/GB2008/004127
【国際公開番号】WO2009/077734
【国際公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(510170796)オックスフォード ナノポア テクノロジーズ リミテッド (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【国際出願番号】PCT/GB2008/004127
【国際公開番号】WO2009/077734
【国際公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(510170796)オックスフォード ナノポア テクノロジーズ リミテッド (1)
【Fターム(参考)】
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