説明

両面印刷用シート

【課題】表側印刷用の画像データと裏側印刷用の画像データとの間で濃度調整を行わない場合であっても、反射光で見た濃度と透過光で見た画像との濃度を同じにすることができ、いずれの場合も適切な濃度で適切なコントラストで見ることを可能にすること。
【解決手段】透明または半透明な支持層11と、支持層の一方の表面に形成された、インクに対する浸透性を有する第1の受像層12と、支持層の他方の表面に形成された、インクに対する浸透性を有する第2の受像層13と、を有し、第1の受像層12と第2の受像層13とは、インクの最大浸透量が異なるように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリンタなどによって画像を印刷するための両面印刷用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、駅の構内、ホテルやデパートの室内壁面、または建物の外壁などに、宣伝広告のための種々のサイズの画像パネルがしばしば取り付けられる。
【0003】
通常、このような画像パネルは、画像印刷用シートの表面にインクジェットプリンタなどで画像を印刷した画像シートを、適当なパネル枠に取り付けて作成する。反射タイプの画像シートである場合には、自然光や照明光などの環境光による反射光によって、観察者は、画像を鮮明に観察することができる。
【0004】
なお、透過タイプの画像シートの場合には、画像シートの背面から蛍光灯やEL(エレクトリックルミネッセンスライト)またはLEDなどによって照明を行い、透過光によって観察者は画像を鮮明に観察することができる。
【0005】
従来において、このような透過光反射光両用の画像シートの例が示されている(特許文献1〜2)。
【0006】
すなわち、特許文献1には、フィルム状の支持体の一方の表面に拡散層を設けたものが示されている。特許文献2には、インクジェットプリンタのための反射光用および透過光用の記録用紙として、インク受理層がシリカ粒子を含み全体の不透明度が70〜90%のシートが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2005−132090
【特許文献2】特開2003−312131
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、従来の画像印刷用シートに画像を印刷して作成された画像シートによる場合に、画像を必ずしも最適の状態で観察できるとは限らなかった。
【0009】
すなわち、例えば特許文献2に記載された画像シートにおいて、両面に形成された受像層(インク受理層)の層の厚さを互いに同じとした場合に、画像を透過光で見たときに画像の濃度が濃くなり過ぎてしまうという問題がある。
【0010】
すなわち、観察者が画像シートを反射光で見た場合には、表側の受像層に形成された画像のみによる反射画像を見ることになり、観察者が画像シートを透過光で見た場合には、裏側の受像層に形成された画像および表側の受像層に形成された画像の両方を透過した光による透過画像を見ることになる。
【0011】
その場合に、表側と裏側の受像層の画像が同じ濃度であれば、透過光で見た画像の濃度が濃くなったりコントラストがつき過ぎてしまうことがある。全体の濃度を下げた場合には反射光で見た場合の濃度が薄くなってコントラストが弱くなってしまう。
【0012】
この問題を解消するためには、表側と裏側の印刷時のインクの濃度を変える必要がある。つまり、表側は濃く印刷し裏側は薄く印刷する。
【0013】
そのためには、例えば、表側印刷用の画像データと裏側印刷用の画像データとを作成するときに、それらの画像データの濃度が異なるように、データ変換などにより濃度調整を行っておく必要がある。そうした場合には、画像データのデータ変換のための処理に時間を要するなど、処理が面倒である。
【0014】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたもので、表側印刷用の画像データと裏側印刷用の画像データとの間で濃度調整を行わない場合であっても、反射光で見た濃度と透過光で見た画像との濃度を同じにすることができ、いずれの場合も適切な濃度で適切なコントラストで見ることの可能な両面印刷用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る両面印刷用シートは、透明または半透明な支持層と、前記支持層の一方の表面に形成された、インクに対する浸透性を有する第1の受像層と、前記支持層の他方の表面に形成された、インクに対する浸透性を有する第2の受像層と、を有し、前記第1の受像層と前記第2の受像層とは、インクの最大浸透量が異なるように形成されている。
【0016】
また、前記第1の受像層と前記第2の受像層とは、それぞれの層の厚さが互いに異なっていてもよい。
【0017】
また、前記第2の受像層の層の厚さは、前記第1の受像層の層の厚さの3分の2乃至3分の1であってもよい。
【0018】
前記第2の受像層の層の厚さは、前記第1の受像層の層の厚さの2分の1であってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、表側印刷用の画像データと裏側印刷用の画像データとの間で濃度調整を行わない場合であっても、反射光で見た濃度と透過光で見た画像との濃度を同じにすることができ、いずれの場合も適切な濃度で適切なコントラストで見ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施形態の両面印刷用シートの一部を断面して示す図である。
【図2】本実施形態の両面印刷用シートに印刷された画像シートの例を示す図である。
【図3】裏面側の受像層のインク量と画像濃度との関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1において、本実施形態の両面印刷用シート1は、透明または半透明な支持層11、支持層11の一方の表面に形成された第1の受像層12、支持層11の他方の表面に形成された第2の受像層13を有する。
【0022】
支持層11は、透明または半透明のフィルムからなる。支持層11は、例えば、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの合成樹脂を材料として形成される。支持層11は、伸縮性の少ないもの、耐熱性を有するものなどが望ましい。
【0023】
第1の受像層12および第2の受像層13は、それぞれ、支持層11の表面または裏面に形成されており、インクに対する浸透性を有する。
【0024】
第1の受像層12および第2の受像層13の材料として、例えば、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール共重合体(PVA)など、またはこれらの混合物を用いることができる。また、これらの材料にシリカを添加したものを用いてもよい。つまり、シリカを添加しなくてもよいが、添加するシリカの粒径を調整することで、表面の光沢性を調整することができる。
【0025】
第1の受像層12および第2の受像層13は、例えばコーティングなどによって設けられる。それらの層を吹き付けて形成してもよい。また、そのような層を支持層11に貼り付けてもよい。また、貼り付けた層の上に更にスプレーによって吹き付けてもよい。
【0026】
第1の受像層12と第2の受像層13とは、インクの最大浸透量が異なるように形成されている。
【0027】
つまり、本実施形態においては、第1の受像層12と第2の受像層13とは、それぞれの層の厚さが互いに異なっている。裏面側に形成された第2の受像層13の層の厚さは、表面側に形成された第1の受像層12の層の厚さの2分の1である。
【0028】
しかし、第2の受像層13の層の厚さを、第1の受像層12の層の厚さの3分の2乃至3分の1の範囲としてもよい。また、第2の受像層13の層の厚さを、第1の受像層12の層の厚さよりも薄く、3分の2以上としてもよい。第2の受像層13の層の厚さおよび第1の受像層12の層の厚さは、それぞれ調整することができる。
【0029】
例えば、第1の受像層12の層の厚さを30μm以上とし、第2の受像層13の層の厚さを20μm以下とすることができる。
【0030】
具体的には、第1の受像層12の層の厚さを例えば40μmとし、第2の受像層13の層の厚さを例えば20μmとする。また、第1の受像層12の層の厚さを例えば30μmとし、第2の受像層13の層の厚さを例えば15μmとする。また、第1の受像層12の層の厚さを例えば45μmとし、第2の受像層13の層の厚さを例えば15μmとする。
【0031】
また、例えば、第1の受像層12の層の厚さを例えば45μmとし、第2の受像層13の層の厚さを例えば30μmとすることも可能である。
【0032】
両面印刷用シート1の表面に公知のインクジェットプリンタにより印刷することにより、インクが第1の受像層12または第2の受像層13にしみ込む。受像層それ自体の機能は公知である。
【0033】
第1の受像層12および第2の受像層13には、上に述べたように、適当なポリマーにチタンホワイトまたはシリカが無機充填剤として含まれていてもよい。無機充填剤の粒径は適当な大きさとすることができる。粒径が細かくなると受像層の仕上がりがより光沢性を有するものとなる。光沢性を有することによってよりグロッシー(glossy) となり、艶が増す。また、粒径が粗くなることによって、受像層の仕上がりはよりつや消しのマット(mat)調のものとなる。
【0034】
なお、第1の受像層12および第2の受像層13をコーティングするに際して、コート材は既存のコート材を利用することが可能である。無機充填剤の材料として、シリカやチタンホワイトなどの他に多種多様の材料を用いることができる。
【0035】
本実施形態の両面印刷用シート1では、上に述べたように第1の受像層12と第2の受像層13との層の厚さとを互いに異なるように調整することにより、印刷した場合のインクの最大浸透量を異ならせることができ、これにより、表裏の濃度およびコントラストを調整することができる。
【0036】
つまり、例えば、表面側および裏面側にそれぞれのコーティングする層の厚さの変化によって、インクジェットプリンタによるインクの浸透量、すなわち画像濃度が変化することとなる。
【0037】
すなわち、第2の受像層13の層の厚さを第1の受像層12の層の厚さの2分の1とした場合には、図3に実線で示す曲線CV1のように、インクの量(画像データの濃度)が大きくなっても、印刷された画像の濃度はある値以上には大きくならない。図に示す例では、インクの量が最大の2分の1になるまではインクの量にほぼ比例して印刷画像の濃度が上がるが、それ以降は印刷画像の濃度は飽和して上がらない。
【0038】
また、第2の受像層13の層の厚さを第1の受像層12の層の厚さの3分の1とした場合には、図3の曲線CV2のように、インクの量が最大の3分の1になった後は印刷画像の濃度は飽和して上がらない。
【0039】
また、第2の受像層13の層の厚さを第1の受像層12の層の厚さの3分の2とした場合には、図3の曲線CV3のように、インクの量が最大の3分の2になった後は印刷画像の濃度は飽和して上がらない。
【0040】
このように、両面印刷用シート1を用いると、コーティング層の薄い面またはコーティング層の厚い面に印刷するときに、コンピュータ上の画像データの濃度またはコントラストが同じであっても、印刷された画像の濃度またはコントラストを異ならせることができる。例えば、コーティング層の薄い面はフラットになり、コーティング層が厚くしたがってインクの浸透量の深いものは自然とコントラストが強くなる。
【0041】
つまり、両面印刷用シート1では、これらのコーティング層の厚みを利用して適切な濃度およびコントラストの画像を得ることができるので、例えばコンピュータに記憶した表裏両面用のそれぞれの画像データについて、コントラスト調整および濃度調整を前もって行う必要がない。
【0042】
因みに、表裏に同じ厚さのコーティング層を有する両面印刷用シートの両面に同じ画像を印刷した場合には、その画像を透過光で観察した場合に、一方の面のみに印刷した場合と比較して画像の濃度が倍になる。そうすると、透過光で観察した場合に、反射光で観察した場合と比較して画像の濃度が濃くなってコントラストが大きくなり過ぎることがある。そのため、画像が本来持っているデテールを観察できなくなることがある。
【0043】
濃度の調整は画像データを出力する前のコンピュータの画像調整機能によって可能であるが、本実施形態の両面印刷用シート1では、表裏のコーティング層の厚みの変化によってインクの浸透量を異ならせ、コーティング層の薄い面ではコントラストおよび濃度を弱くし、厚い面ではコントラストおよび濃度を強くする。このように、コーティング層の厚さの変化によって、画像濃度とコントラストとを調整することができる。
【0044】
また、第1の受像層12および第2の受像層13の層の厚さについて、それぞれ種々異なる両面印刷用シート1を作成しておくことによって、画像の印刷時にそれらの種類の中から適切な両面印刷用シート1を選択することが可能である。
【0045】
第2の受像層13の層の厚さを薄くすることにより、使用する材料を低減できるので、コストが低減されるという効果もある。
【0046】
画像の印刷に際しては、両面印刷用シート1に対し、画像データに基づく表示画像を、第1の受像層12の側および第2の受像層13の側の両面に印刷する。そのときに、第1の受像層12に印刷する画像GZAと第2の受像層13に印刷する画像GZBとは、同じ画像を反転して表裏一致する状態で印刷する。
【0047】
これにより、インクが第1の受像層12および第2の受像層13にしみ込みむ。しみ込んだインクは、その量および層の性質などに応じて拡散する。これによって、第1の受像層12に画像(表示画像)GZAが形成され、第2の受像層13に画像(表示画像)GZBが形成される。これにより画像シート1Sが作成される。
【0048】
画像シート1Sでは、反射光および透過光のいずれによる場合であっても、観察者は適切な濃度およびコントラストで画像を観察することができる。
【0049】
インクとして、顔料インクを用いることが好ましい。画像の内容としては、カラーまたはモノクロの、写真、イラスト、線画、文字などを用い、印刷された画像シート1Sの使用目的に応じた種々の内容のものを形成すればよい。また、表側から見て正規の画像となるように表裏を設定しておけばよい。
【0050】
なお、印刷の際にインクが飽和すると、コーティング材とインクの質の相性によっては受像層にプリントむらが発生して画像が不鮮明になることがある。例えば、コーティング層が過度に厚い場合は、その層の中に空気が密閉され、そこに含まれた微細な水や空気の密閉粒がプリントの際にでてきて点状のむらが発生する。したがって、コーティング層の厚みには限界がある。チタンホワイトやシリカゲルなどのコーティング層を利用して画像の受像層を形成する場合には、45μm以上の厚さになると上に述べた現象が発生する可能性がある。したがって、第1の受像層12および第2の受像層13の厚さは、45μm程度以下が好ましい。例えば、第1の受像層12の層の厚さは30〜45μm程度の範囲から選定することが好ましい。
【0051】
また、支持層11が、例えば半透明の透過用ベースである場合には、不透明な反射用ベースのように骨白の白さがなく光透過性を有するので、その両面に印刷を行うと、表側から画像を見た場合にその反対側の画像が少し透けて見える。その場合の画像が透けて見える度合いは、支持層11に無機充填材として混入されるシリカの量および粒度に応じて調整することが可能である。例えば、シリカを適量混入することによって、支持層11を半透明の乳白とすることが可能である。
【0052】
このように、表側の画像を反射光で鑑賞するときに、透けて見える反対側の画像が表側の画像の濃度に加算されて濃く見えるので、表側の画像(例えば第2の画像)の濃度をその反対側の画像(例えば第1の画像)の濃度ほど濃くする必要がない。
【0053】
なお、印刷を行った後で、その表面に保護層を形成しておいてもよい。保護層は、適当な樹脂コーティングによって形成してもよく、また、光触媒を塗布した透明または半透明なフィルムを貼り付けることにより形成してもよい。保護層としてインクの透過性を有するものを用いる場合には、印刷の前の両面印刷用シートに保護層を形成しておくことも可能である。
【0054】
なお、インクジェットプリンタによる印刷時のインクの濃度(画像の濃度)および印刷回数は、環境光の強さまたは使用目的などに応じて、印刷された画像ができるだけ鮮明に見えるように調整すればよい。
【0055】
上に述べた実施形態において、支持層11、第1の受像層12、第2の受像層13、両面印刷用シート1、または画像シート1Sの全体または各部の構造、形状、寸法、個数、材質、組成、および画像の内容などは、本発明の趣旨に沿って適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 両面印刷用シート
11 支持層
12 第1の受像層
13 第2の受像層
GZA,GZB 画像
1S 画像シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明または半透明な支持層と、
前記支持層の一方の表面に形成された、インクに対する浸透性を有する第1の受像層と、
前記支持層の他方の表面に形成された、インクに対する浸透性を有する第2の受像層と、
を有し、
前記第1の受像層と前記第2の受像層とは、インクの最大浸透量が異なるように形成されている、
ことを特徴とする両面印刷用シート。
【請求項2】
前記第1の受像層と前記第2の受像層とは、それぞれの層の厚さが互いに異なっている、
請求項1記載の両面印刷用シート。
【請求項3】
前記第2の受像層の層の厚さは、前記第1の受像層の層の厚さの3分の2乃至3分の1である、
請求項2記載の両面印刷用シート。
【請求項4】
前記第2の受像層の層の厚さは、前記第1の受像層の層の厚さの2分の1である、
請求項3記載の両面印刷用シート。
【請求項5】
前記第1の受像層の厚さは30μm以上であり、前記第2の受像層の層の厚さは20μm以下である、
請求項2記載の両面印刷用シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−235535(P2011−235535A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108928(P2010−108928)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(591243893)株式会社フオトクラフト社 (26)
【Fターム(参考)】