中性子遮蔽体
【課題】加速器室あるいは測定室における室内の低エネルギー中性子束を下げるため低エネルギー中性子束の反射が極めて少ない中性子遮蔽体を提供すること。
【解決手段】中性子遮蔽体12は、コンクリート壁14と、コンクリート壁14にモルタルが塗られて形成されたモルタル壁16とを含んで構成されている。床、天井、壁に対応した複数の中性子遮蔽体12により加速器室あるいは測定室18が形成され、加速器室あるいは測定室18の床面全域、天井面全域、壁面全域にモルタル壁16が臨んでいる。モルタルは、B4Cをボロン換算量で5×1020/ccから5×1022/cc含有している。
【解決手段】中性子遮蔽体12は、コンクリート壁14と、コンクリート壁14にモルタルが塗られて形成されたモルタル壁16とを含んで構成されている。床、天井、壁に対応した複数の中性子遮蔽体12により加速器室あるいは測定室18が形成され、加速器室あるいは測定室18の床面全域、天井面全域、壁面全域にモルタル壁16が臨んでいる。モルタルは、B4Cをボロン換算量で5×1020/ccから5×1022/cc含有している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加速器施設内の冷中性子束や熱中性子束などの低エネルギー中性子束が支配的な室、すなわちPET製剤製造用のサイクロトロン室および線形加速器室、BNCT照射室、中性子測定(透過、散乱、回折)室などを施工する際に、室内の低エネルギー中性子束を著しく低減させるために好適な中性子遮蔽体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、PET製剤製造用のサイクロトロン室および線形加速器室、BNCT照射室、中性子測定(透過、散乱、回折)室などを施工する際には、室内における壁から反射される低エネルギー中性子束に関してはほとんど考慮されていない。中性子線源からの熱中性子束、熱外中性子束、高速中性子束などが外部に漏洩しないよう、特許文献1および特許文献2にみられるように、単に中性子発生源を遮蔽する層やコンクリート壁を設けている。つまり遮蔽する機能だけを目的として、壁で反射されて室内空間に漂う低エネルギー中性子束を下げるということに関心が払われてこなかった。従来は、外部に漏洩する中性子束を効率的に遮蔽できれば、室内の冷中性子束や熱中性子束などの低エネルギー中性子束が高くても、特段に不具合が生じなかったからである。
【特許文献1】特開2002−311190
【特許文献2】特開2006−58209
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、微弱な冷中性子束や熱中性子束などの低エネルギー中性子束を測定することを目的とする中性子測定(透過、散乱、回折)室では、壁および床および天井から反射される低エネルギー中性子束が高いと測定器の検出下限値が上昇して、分解能が悪くなる不利があった。これを解決するには低エネルギー中性子束の反射が極めて少ない材料、つまり測定の際雑音となるバックグランドを下げるような遮蔽体の適用が必要である。
また、低エネルギー中性子束の反射が多い場合、低エネルギー中性子と室内空気物質との核反応によって室内空気中に生成する放射性物質(41Arなど)が多くなり、作業員がこの空気を吸引することにより内部被ばくの危険性が生まれ、作業員の室内への入室が制限される。従来では、運転終了後、この室内空気中の放射性物質の減衰を待って入室する必要があり、メンテナンス時間を短縮する上で不利があった。これを解決するには低エネルギー中性子束の反射が極めて少ない遮蔽体の適用が必要である。
本発明は前記事情に鑑み案出されたものであって、本発明の目的は、壁および床および天井から反射される低エネルギー中性子束を低減させる上で有利な中性子遮蔽体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記目的を達成するため本発明の中性子遮蔽体は、コンクリート壁と、前記コンクリート壁にモルタルが塗られて形成されたモルタル壁とを含み、前記モルタルは、B4Cをボロン換算量で5×1020/ccから5×1022/cc含有していることを特徴とする。
また、本発明の中性子遮蔽体は、コンクリート壁と、前記コンクリート壁にタイルが貼られて形成されたタイル壁とを含み、前記タイルは、B4Cをボロン換算量で5×1020/ccから5×1022/cc含有していることを特徴とする。
また、本発明の中性子遮蔽体は、鋼板からなる鋼板壁と、前記鋼板壁にモルタルが塗られて形成されたモルタル壁とを含み、前記モルタルは、B4Cをボロン換算量で5×1020/ccから5×1022/cc含有していることを特徴とする。
また、本発明の中性子遮蔽体は、コンクリート壁と、前記コンクリート壁に合わされた鋼板からなる鋼板壁と、前記鋼板壁にモルタルが塗られて形成されたモルタル壁とを含み、前記モルタルは、B4Cをボロン換算量で5×1020/ccから5×1022/cc含有していることを特徴とする。
また、本発明の中性子遮蔽体は、鋼板からなる鋼板壁と、前記鋼板壁にタイルが貼られて形成されたタイル壁とを含み、前記タイルは、B4Cをボロン換算量で5×1020/ccから5×1022/cc含有していることを特徴とする。
また、本発明の中性子遮蔽体は、コンクリート壁と、前記コンクリート壁に合わされた鋼板からなる鋼板壁と、前記鋼板壁にタイルが貼られて形成されたタイル壁とを含み、前記タイルは、B4Cをボロン換算量で5×1020/ccから5×1022/cc含有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、反射による低エネルギー中性子束がほとんどなくなり、室内で中性子測定(透過、散乱、回折)装置を使用する場合、バックグランド(室内の低エネルギー中性子束)を低減すると検出器の検出限界が下がるので、結果的に測定装置の分解能の向上効果により高い分解能が得られる。
また、反射による低エネルギー中性子束がほとんどなくなれば、低エネルギー中性子との核反応によって室内空気中に生成する放射性物質も著しく(1/10以下)低減し、この被ばく低減効果により、運転終了後、短い時間で入室でき、結果的にメンテナンス時間の大幅な短縮が可能になる。
また、反射による低エネルギー中性子束がほとんどなくなれば、遮蔽体の厚さを薄くでき、室内空間が大きく確保できる。また、設置空間を小さくできる。
また、遮蔽体の厚さを薄くできることで、遮蔽体設置時の揚重機を小さくでき、遮蔽体の設置を簡単に短時間で行うことが可能となる。
また、遮蔽体の厚さを薄くできることで、放射性物質の生成を低減でき、運転終了時の解体量、処分量を削減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の実施の形態を図面にしたがって説明する。
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態に係る中性子遮蔽体を用いて施工された加速器室あるいは測定室の断面図を示す。
第1の実施の形態に係る中性子遮蔽体12は、コンクリート壁14と、コンクリート壁14にモルタルが塗られて形成されたモルタル壁16とを含んで構成されている。
床、天井、壁に対応した複数の中性子遮蔽体12により加速器室あるいは測定室18が形成され、加速器室あるいは測定室18の床面全域、天井面全域、壁面全域にモルタル壁16が臨んでいる。
コンクリート壁14の厚さは、10cm〜200cmである。
モルタルは、B4Cをボロン換算量で5×1020/ccから5×1022/cc含有している。
モルタル壁16の厚さは、0.5cm〜10cmである。
モルタル壁16は、モルタルが1層の厚さを0.5cmから2cm程度として多層に塗ることで所定の厚さに仕上げられている。
なお、たとえば、測定器などの機器の構造や設置の態様によっては、床においてモルタル壁16を省略する場合があり、また、壁面においてもモルタル壁16を一部省略する場合がある。
また、コンクリート壁14とモルタル壁16からなる中性子遮蔽体12は、予め工場で一体に製造してもよく、または設置場所で一体としてもよい。
【0007】
【表1】
【0008】
モルタル壁16を形成するモルタルの好ましい調合の一例を表1に示す。
水は上水道水とする。
セメントは普通ポルトランドセメント、高炉セメント、中庸熱セメント等を使用する。
細骨材は川砂、山砂、陸砂、砕砂を単独または混合して使用する。
B4Cのボロン換算量はモルタル壁16の厚さによりモルタル1m3当たり10〜1000kg(B4Cをボロン換算量で5×1020/ccから5×1022/ccに相当)とする。
必要に応じて、乾燥収縮防止材として膨張材をモルタル1m3当たり0〜60kg、ひび割れ防止材として鋼繊維等の無機系繊維またはビニロン繊維等の有機系繊維を体積比で0〜3%使用する。
水セメント比(W/C)は30〜65%とする。なお、水セメント比(W/C)は石灰微粉末等の混和材、高性能AE減水剤等の混和剤を使用する場合はこの限りではない。
【0009】
第1の実施の形態による室内における低エネルギー中性子束の壁からの反射による低減率を検証すると次の通りである。
一次元輸送計算により、中心に線源があり、100cmの空気層+5cm厚のボロン入りモルタル+1mの普通コンクリートの円体系で計算を行った。5cm厚のボロン入りコンクリートは、ボロンの含有量が原子数密度で1.4×1022/cc、1.4×1021/cc、1.4×1020/cc、そして普通コンクリートだけの場合の4ケースを検討した。その結果、室内における低エネルギー中性子束の壁からの反射による低減率は、普通コンクリートだけの場合に比べて、1.4×1022/ccで約1/20000、1.4×1021/ccで約1/600、1.4×1020/ccで約1/10の低減率であった。
したがって、第1の実施の形態に係る中性子遮蔽体12で加速器室あるいは測定室18を形成した場合、室内における低エネルギー中性子束を著しく低減できるので、低エネルギー中性子測定器の検出限界を著しく下げることができ、また低エネルギー中性子との核反応によって室内空気中に生成する放射性物質も著しく低減させることができる。
【0010】
(第2の実施の形態)
図2は、第2の実施の形態に係る中性子遮蔽体を用いて施工された加速器室あるいは測定室の断面図、図11(A)はタイル壁の正面図、(B)、(C)はそれぞれタイル壁の断面図、図12(A)はタイル壁の断面図、(B)はタイル壁の平面図を示す。
第2の実施の形態に係る中性子遮蔽体22は、コンクリート壁14と、コンクリート壁14にタイル26が貼り付けられることで形成されたタイル壁24とを含んで構成されている。
床、天井、壁に対応した複数の中性子遮蔽体22により加速器室あるいは測定室18が形成され、加速器室あるいは測定室18の床面全域、天井面全域、壁面全域にタイル壁24が臨んでいる。
コンクリート壁14の構成は、第1の実施の形態と同様である。
図11に示すように、タイル壁24は、複数のタイル26と、それらタイル26の間に設けられた目地28を含んで構成されている。
タイル26は、B4Cをボロン換算量で5×1020/ccから5×1022/cc含有している。
タイル26の厚さは、1cm〜10cmであり、辺の長さは、10cm〜200cmである。
目地28は、B4Cをボロン換算量で5×1020/ccから5×1022/cc含有している。
【0011】
タイル26はボルトBを用いてコンクリート壁14に取着されている。
より詳細には、図11(B)に示すように、タイル26の複数箇所にボルト挿通孔2602が形成され、このボルト挿通孔2602に対応するコンクリート壁14の箇所にインサート金物Kが埋め込まれている。
そして、タイル26は、ボルト挿通孔2602に挿通されインサート金物Kに結合されたボルトBによりコンクリート壁14に取着されている。
あるいは、図11(C)に示すように、タイル26の複数箇所にボルト挿通孔2602およびボルト挿通孔2602と同軸上にボルトBの頭部を収容する凹部2604が形成されている。
そして、タイル26は、凹部2604に頭部が収容され軸部がボルト挿通孔2602に挿通されインサート金物Kに結合されたボルトBによりコンクリート壁14に取着されている。
なお、床にタイル壁24を設ける場合には、図12に示すように、モルタルMを用いてタイルを貼るようにしてもよい。この場合、モルタルMは、B4Cをボロン換算量で5×1020/ccから5×1022/cc含有している場合と、B4Cを含まない場合がある。
【0012】
なお、コンクリート壁14とタイル壁24からなる中性子遮蔽体22は、予め工場で一体に製造してもよく、または設置場所で一体としてもよい。
【0013】
タイル26の調合については上述のモルタルの場合と同様である。
【0014】
目地28には、公知のB4C樹脂(B4C含有量がボロン換算で5×1020/ccから5×1022/cc含むシリコン樹脂など)を用いる。
【0015】
第2の実施の形態による室内における低エネルギー中性子束の壁からの反射による低減率を検証すると次の通りである。
一次元輸送計算により、中心に線源があり、100cmの空気層+5cm厚のボロン入りタイル+1mの普通コンクリートの円体系で計算を行った。5cm厚のボロン入りタイルは、ボロンの含有量が原子数密度で1.4×1022/cc、1.4×1021/cc、1.4×1020/cc、そして普通コンクリートだけの場合の4ケースを検討した。その結果、室内における低エネルギー中性子束の壁からの反射による低減率は、普通コンクリートだけの場合に比べて、1.4×1022/ccで約1/20000、1.4×1021/ccで約1/600、1.4×1020/ccで約1/10の低減率であった。
したがって、第2の実施の形態に係る中性子遮蔽体24で加速器室あるいは測定室18を形成した場合、室内における低エネルギー中性子束を著しく低減できるので、低エネルギー中性子測定器の検出限界を著しく下げることができ、また低エネルギー中性子との核反応によって室内空気中に生成する放射性物質も著しく低減させることができる。
【0016】
(第3の実施の形態)
図3は、第3の実施の形態に係る中性子遮蔽体を用いて施工された加速器室あるいは測定室の断面図を示す。
第3の実施の形態に係る中性子遮蔽体32は、鋼板からなる鋼板壁34と、鋼板壁34にモルタルが塗られて形成されたモルタル壁16とを含んで構成されている。
床、天井、壁に対応した複数の中性子遮蔽体32により加速器室あるいは測定室18が形成され、加速器室あるいは測定室18の床面全域、天井面全域、壁面全域にモルタル壁16が臨んでいる。
鋼板壁34の厚さは、0.23cm〜23cmである。
鋼板壁34は一枚の鋼板で形成してもよく、あるいは複数枚の鋼板を重ねて形成してもよい。
鋼板として、例えば、一般構造用圧延鋼材(SS材)や溶接構造用圧延鋼材(SM材)などを用いることができる。
モルタル壁16およびこのモルタル壁16をなすモルタルの構成は、第1の実施の形態と同様である。
なお、鋼板壁34とモルタル壁16からなる中性子遮蔽体32は、予め工場で一体に製造してもよく、または設置場所で一体としてもよい。
【0017】
モルタルの調合は、第1の実施の形態と同様である。
【0018】
第3の実施の形態による室内における低エネルギー中性子束の壁からの反射による低減率を検証すると次の通りである。
一次元輸送計算により、中心に線源があり、100cmの空気層+5cm厚のボロン入りモルタル+1m厚の鋼板の円体系で計算を行った。5cm厚のボロン入りコンクリートは、ボロンの含有量が原子数密度で1.4×1022/cc、1.4×1021/cc、1.4×1020/cc、そして鋼板だけの場合の4ケースを検討した。その結果、室内における低エネルギー中性子束の壁からの反射による低減率は、鋼板だけの場合に比べて、1.4×1022/ccで約1/20000、1.4×1021/ccで約1/600、1.4×1020/ccで約1/10の低減率であった。
したがって、第3の実施の形態に係る中性子遮蔽体16で加速器室あるいは測定室18を形成した場合、室内における低エネルギー中性子束を著しく低減できるので、低エネルギー中性子測定器の検出限界を著しく下げることができ、また低エネルギー中性子との核反応によって室内空気中に生成する放射性物質も著しく低減させることができる。
【0019】
(第4の実施の形態)
図4は、第4の実施の形態に係る中性子遮蔽体を用いて施工された加速器室あるいは測定室の断面図を示す。
第4の実施の形態に係る中性子遮蔽体42は、鋼板からなる鋼板壁34と、鋼板壁34にタイル26がモルタルにより貼り付けられることで形成されたタイル壁24とを含んで構成されている。
床、天井、壁に対応した複数の中性子遮蔽体42により加速器室あるいは測定室18が形成され、加速器室あるいは測定室18の床面全域、天井面全域、壁面全域にタイル壁24が臨んでいる。
鋼板壁34の構成は第3の実施の形態と同様である。
タイル壁24およびタイル26の構成は、第2の実施の形態と同様である。
なお、鋼板壁34とタイル壁24からなる中性子遮蔽体42は、予め工場で一体に製造してもよく、または設置場所で一体としてもよい。
【0020】
タイル26の取り付けや調合あるいは目地28の調合は、第2の実施の形態と同様である。
【0021】
第4の実施の形態による室内における低エネルギー中性子束の壁からの反射による低減率を検証すると次の通りである。
一次元輸送計算により、中心に線源があり、100cmの空気層+5cm厚のボロン入りタイル+1mの鋼板の円体系で計算を行った。5cm厚のボロン入りタイルは、ボロンの含有量が原子数密度で1.4×1022/cc、1.4×1021/cc、1.4×1020/cc、そして鋼板だけの場合の4ケースを検討した。その結果、室内における低エネルギー中性子束の壁からの反射による低減率は、鋼板だけの場合に比べて、1.4×1022/ccで約1/20000、1.4×1021/ccで約1/600、1.4×1020/ccで約1/10の低減率であった。
したがって、第4の実施の形態に係る中性子遮蔽体24で加速器室あるいは測定室18を形成した場合、室内における低エネルギー中性子束を著しく低減できるので、低エネルギー中性子測定器の検出限界を著しく下げることができ、また低エネルギー中性子との核反応によって室内空気中に生成する放射性物質も著しく低減させることができる。
【0022】
次に、モルタル壁16やタイル壁24の内側にステンレス鋼板44を介在させた変形例について説明する。
(変形例1)
図5は、変形例1に係る中性子遮蔽体を用いて施工された加速器室あるいは測定室の断面図を示す。
変形例1に係る遮蔽体12Aは第1の実施の形態の中性子遮蔽体12のコンクリート壁14とモルタル壁16との間にステンレス鋼板44を介在させたものである。
すなわち、中性子遮蔽体12Aは、コンクリート壁14と、ステンレス鋼板44と、モルタル壁16とを含んで構成されている。
【0023】
(変形例2)
図6は、変形例2に係る中性子遮蔽体を用いて施工された加速器室あるいは測定室の断面図を示す。
変形例2に係る中性子遮蔽体22Aは、第2の実施の形態の中性子遮蔽体22のコンクリート壁14とタイル壁24との間にステンレス鋼板44を介在させたものである。
すなわち、中性子遮蔽体12Aは、コンクリート壁14と、ステンレス鋼板44と、タイル壁24とを含んで構成されている。
【0024】
(変形例3)
図7は、変形例3に係る中性子遮蔽体を用いて施工された加速器室あるいは測定室の断面図を示す。
変形例3に係る中性子遮蔽体32Aは、第3の実施の形態の中性子遮蔽体32の鋼板壁34とモルタル壁16との間にステンレス鋼板44を介在させたものである。
すなわち、中性子遮蔽体12Aは、鋼板壁34と、ステンレス鋼板44と、モルタル壁16とを含んで構成されている。この場合、鋼板壁34はステンレス鋼板以外の鋼板で構成されている。
【0025】
(変形例4)
図8は、変形例4に係る中性子遮蔽体を用いて施工された加速器室あるいは測定室の断面図を示す。
変形例4に係る中性子遮蔽体42Aは、第4の実施の形態の中性子遮蔽体42の鋼板壁34とタイル壁24との間にステンレス鋼板44を介在させたものである。
すなわち、中性子遮蔽体42Aは、鋼板壁34と、ステンレス鋼板44と、タイル壁24とを含んで構成されている。この場合、鋼板壁34はステンレス鋼板以外の鋼板で構成されている。
なお、変形例1乃至4において、ステンレス鋼板44の厚さは、0.3cm〜2.5cmである。
このようにステンレス鋼板44を介在させることで、定着安定性の点で有利となる。
また、変形例1乃至4の中性子遮蔽体12A、22A、32A、42Aは、予め工場で一体に製造してもよく、または設置場所で一体としてもよい。
【0026】
(変形例5)
図9は、変形例5に係る中性子遮蔽体を用いて施工された加速器室あるいは測定室の断面図を示す。
変形例5に係る中性子遮蔽体32Bは、図7に示した変形例3の鋼板壁34の外側にコンクリート壁14を加えたものである。
すなわち、中性子遮蔽体32Bは、コンクリート壁14と、鋼板壁34と、ステンレス鋼板44と、モルタル壁16とを含んで構成されている。
【0027】
(変形例6)
図10は、変形例6に係る中性子遮蔽体を用いて施工された加速器室あるいは測定室の断面図を示す。
変形例6に係る中性子遮蔽体42Bは、図8に示した変形例4の鋼板壁34の外側にコンクリート壁14を加えたものである。
すなわち、中性子遮蔽体42Bは、コンクリート壁14と、鋼板壁34と、ステンレス鋼板44と、タイル壁24とを含んで構成されている。
なお、変形例5、6において、コンクリート壁14の厚さは、10cm〜200cmであり、鋼板壁34の厚さは、0.23cm〜23cmであり、モルタル壁16の厚さやタイル壁24の厚さは実施の形態1乃至4と同様である。
変形例6、7の中性子遮蔽体32B、42Bも、予め工場で一体に製造してもよく、または設置場所で一体としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】第1の実施の形態に係る中性子遮蔽体を用いて施工された加速器室あるいは測定室の断面図である。
【図2】第2の実施の形態に係る中性子遮蔽体を用いて施工された加速器室あるいは測定室の断面図である。
【図3】第3の実施の形態に係る中性子遮蔽体を用いて施工された加速器室あるいは測定室の断面図である。
【図4】第4の実施の形態に係る中性子遮蔽体を用いて施工された加速器室あるいは測定室の断面図である。
【図5】変形例1に係る中性子遮蔽体を用いて施工された加速器室あるいは測定室の断面図である。
【図6】変形例2に係る中性子遮蔽体を用いて施工された加速器室あるいは測定室の断面図である。
【図7】変形例3に係る中性子遮蔽体を用いて施工された加速器室あるいは測定室の断面図である。
【図8】変形例4に係る中性子遮蔽体を用いて施工された加速器室あるいは測定室の断面図である。
【図9】変形例5に係る中性子遮蔽体を用いて施工された加速器室あるいは測定室の断面図である。
【図10】変形例6に係る中性子遮蔽体を用いて施工された加速器室あるいは測定室の断面図である。
【図11】(A)はタイル壁の正面図、(B)、(C)はそれぞれタイル壁の断面図である。
【図12】(A)はタイル壁の断面図、(B)はタイル壁の平面図である。
【符号の説明】
【0029】
12、22、32、42、12A、22A、32A、42A、32B、42B……中性子遮蔽体、14……コンクリート壁、16……モルタル壁、18……加速器室あるいは測定室、24……タイル壁、34……鋼板壁、44……ステンレス鋼板。
【技術分野】
【0001】
本発明は、加速器施設内の冷中性子束や熱中性子束などの低エネルギー中性子束が支配的な室、すなわちPET製剤製造用のサイクロトロン室および線形加速器室、BNCT照射室、中性子測定(透過、散乱、回折)室などを施工する際に、室内の低エネルギー中性子束を著しく低減させるために好適な中性子遮蔽体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、PET製剤製造用のサイクロトロン室および線形加速器室、BNCT照射室、中性子測定(透過、散乱、回折)室などを施工する際には、室内における壁から反射される低エネルギー中性子束に関してはほとんど考慮されていない。中性子線源からの熱中性子束、熱外中性子束、高速中性子束などが外部に漏洩しないよう、特許文献1および特許文献2にみられるように、単に中性子発生源を遮蔽する層やコンクリート壁を設けている。つまり遮蔽する機能だけを目的として、壁で反射されて室内空間に漂う低エネルギー中性子束を下げるということに関心が払われてこなかった。従来は、外部に漏洩する中性子束を効率的に遮蔽できれば、室内の冷中性子束や熱中性子束などの低エネルギー中性子束が高くても、特段に不具合が生じなかったからである。
【特許文献1】特開2002−311190
【特許文献2】特開2006−58209
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、微弱な冷中性子束や熱中性子束などの低エネルギー中性子束を測定することを目的とする中性子測定(透過、散乱、回折)室では、壁および床および天井から反射される低エネルギー中性子束が高いと測定器の検出下限値が上昇して、分解能が悪くなる不利があった。これを解決するには低エネルギー中性子束の反射が極めて少ない材料、つまり測定の際雑音となるバックグランドを下げるような遮蔽体の適用が必要である。
また、低エネルギー中性子束の反射が多い場合、低エネルギー中性子と室内空気物質との核反応によって室内空気中に生成する放射性物質(41Arなど)が多くなり、作業員がこの空気を吸引することにより内部被ばくの危険性が生まれ、作業員の室内への入室が制限される。従来では、運転終了後、この室内空気中の放射性物質の減衰を待って入室する必要があり、メンテナンス時間を短縮する上で不利があった。これを解決するには低エネルギー中性子束の反射が極めて少ない遮蔽体の適用が必要である。
本発明は前記事情に鑑み案出されたものであって、本発明の目的は、壁および床および天井から反射される低エネルギー中性子束を低減させる上で有利な中性子遮蔽体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記目的を達成するため本発明の中性子遮蔽体は、コンクリート壁と、前記コンクリート壁にモルタルが塗られて形成されたモルタル壁とを含み、前記モルタルは、B4Cをボロン換算量で5×1020/ccから5×1022/cc含有していることを特徴とする。
また、本発明の中性子遮蔽体は、コンクリート壁と、前記コンクリート壁にタイルが貼られて形成されたタイル壁とを含み、前記タイルは、B4Cをボロン換算量で5×1020/ccから5×1022/cc含有していることを特徴とする。
また、本発明の中性子遮蔽体は、鋼板からなる鋼板壁と、前記鋼板壁にモルタルが塗られて形成されたモルタル壁とを含み、前記モルタルは、B4Cをボロン換算量で5×1020/ccから5×1022/cc含有していることを特徴とする。
また、本発明の中性子遮蔽体は、コンクリート壁と、前記コンクリート壁に合わされた鋼板からなる鋼板壁と、前記鋼板壁にモルタルが塗られて形成されたモルタル壁とを含み、前記モルタルは、B4Cをボロン換算量で5×1020/ccから5×1022/cc含有していることを特徴とする。
また、本発明の中性子遮蔽体は、鋼板からなる鋼板壁と、前記鋼板壁にタイルが貼られて形成されたタイル壁とを含み、前記タイルは、B4Cをボロン換算量で5×1020/ccから5×1022/cc含有していることを特徴とする。
また、本発明の中性子遮蔽体は、コンクリート壁と、前記コンクリート壁に合わされた鋼板からなる鋼板壁と、前記鋼板壁にタイルが貼られて形成されたタイル壁とを含み、前記タイルは、B4Cをボロン換算量で5×1020/ccから5×1022/cc含有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、反射による低エネルギー中性子束がほとんどなくなり、室内で中性子測定(透過、散乱、回折)装置を使用する場合、バックグランド(室内の低エネルギー中性子束)を低減すると検出器の検出限界が下がるので、結果的に測定装置の分解能の向上効果により高い分解能が得られる。
また、反射による低エネルギー中性子束がほとんどなくなれば、低エネルギー中性子との核反応によって室内空気中に生成する放射性物質も著しく(1/10以下)低減し、この被ばく低減効果により、運転終了後、短い時間で入室でき、結果的にメンテナンス時間の大幅な短縮が可能になる。
また、反射による低エネルギー中性子束がほとんどなくなれば、遮蔽体の厚さを薄くでき、室内空間が大きく確保できる。また、設置空間を小さくできる。
また、遮蔽体の厚さを薄くできることで、遮蔽体設置時の揚重機を小さくでき、遮蔽体の設置を簡単に短時間で行うことが可能となる。
また、遮蔽体の厚さを薄くできることで、放射性物質の生成を低減でき、運転終了時の解体量、処分量を削減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の実施の形態を図面にしたがって説明する。
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態に係る中性子遮蔽体を用いて施工された加速器室あるいは測定室の断面図を示す。
第1の実施の形態に係る中性子遮蔽体12は、コンクリート壁14と、コンクリート壁14にモルタルが塗られて形成されたモルタル壁16とを含んで構成されている。
床、天井、壁に対応した複数の中性子遮蔽体12により加速器室あるいは測定室18が形成され、加速器室あるいは測定室18の床面全域、天井面全域、壁面全域にモルタル壁16が臨んでいる。
コンクリート壁14の厚さは、10cm〜200cmである。
モルタルは、B4Cをボロン換算量で5×1020/ccから5×1022/cc含有している。
モルタル壁16の厚さは、0.5cm〜10cmである。
モルタル壁16は、モルタルが1層の厚さを0.5cmから2cm程度として多層に塗ることで所定の厚さに仕上げられている。
なお、たとえば、測定器などの機器の構造や設置の態様によっては、床においてモルタル壁16を省略する場合があり、また、壁面においてもモルタル壁16を一部省略する場合がある。
また、コンクリート壁14とモルタル壁16からなる中性子遮蔽体12は、予め工場で一体に製造してもよく、または設置場所で一体としてもよい。
【0007】
【表1】
【0008】
モルタル壁16を形成するモルタルの好ましい調合の一例を表1に示す。
水は上水道水とする。
セメントは普通ポルトランドセメント、高炉セメント、中庸熱セメント等を使用する。
細骨材は川砂、山砂、陸砂、砕砂を単独または混合して使用する。
B4Cのボロン換算量はモルタル壁16の厚さによりモルタル1m3当たり10〜1000kg(B4Cをボロン換算量で5×1020/ccから5×1022/ccに相当)とする。
必要に応じて、乾燥収縮防止材として膨張材をモルタル1m3当たり0〜60kg、ひび割れ防止材として鋼繊維等の無機系繊維またはビニロン繊維等の有機系繊維を体積比で0〜3%使用する。
水セメント比(W/C)は30〜65%とする。なお、水セメント比(W/C)は石灰微粉末等の混和材、高性能AE減水剤等の混和剤を使用する場合はこの限りではない。
【0009】
第1の実施の形態による室内における低エネルギー中性子束の壁からの反射による低減率を検証すると次の通りである。
一次元輸送計算により、中心に線源があり、100cmの空気層+5cm厚のボロン入りモルタル+1mの普通コンクリートの円体系で計算を行った。5cm厚のボロン入りコンクリートは、ボロンの含有量が原子数密度で1.4×1022/cc、1.4×1021/cc、1.4×1020/cc、そして普通コンクリートだけの場合の4ケースを検討した。その結果、室内における低エネルギー中性子束の壁からの反射による低減率は、普通コンクリートだけの場合に比べて、1.4×1022/ccで約1/20000、1.4×1021/ccで約1/600、1.4×1020/ccで約1/10の低減率であった。
したがって、第1の実施の形態に係る中性子遮蔽体12で加速器室あるいは測定室18を形成した場合、室内における低エネルギー中性子束を著しく低減できるので、低エネルギー中性子測定器の検出限界を著しく下げることができ、また低エネルギー中性子との核反応によって室内空気中に生成する放射性物質も著しく低減させることができる。
【0010】
(第2の実施の形態)
図2は、第2の実施の形態に係る中性子遮蔽体を用いて施工された加速器室あるいは測定室の断面図、図11(A)はタイル壁の正面図、(B)、(C)はそれぞれタイル壁の断面図、図12(A)はタイル壁の断面図、(B)はタイル壁の平面図を示す。
第2の実施の形態に係る中性子遮蔽体22は、コンクリート壁14と、コンクリート壁14にタイル26が貼り付けられることで形成されたタイル壁24とを含んで構成されている。
床、天井、壁に対応した複数の中性子遮蔽体22により加速器室あるいは測定室18が形成され、加速器室あるいは測定室18の床面全域、天井面全域、壁面全域にタイル壁24が臨んでいる。
コンクリート壁14の構成は、第1の実施の形態と同様である。
図11に示すように、タイル壁24は、複数のタイル26と、それらタイル26の間に設けられた目地28を含んで構成されている。
タイル26は、B4Cをボロン換算量で5×1020/ccから5×1022/cc含有している。
タイル26の厚さは、1cm〜10cmであり、辺の長さは、10cm〜200cmである。
目地28は、B4Cをボロン換算量で5×1020/ccから5×1022/cc含有している。
【0011】
タイル26はボルトBを用いてコンクリート壁14に取着されている。
より詳細には、図11(B)に示すように、タイル26の複数箇所にボルト挿通孔2602が形成され、このボルト挿通孔2602に対応するコンクリート壁14の箇所にインサート金物Kが埋め込まれている。
そして、タイル26は、ボルト挿通孔2602に挿通されインサート金物Kに結合されたボルトBによりコンクリート壁14に取着されている。
あるいは、図11(C)に示すように、タイル26の複数箇所にボルト挿通孔2602およびボルト挿通孔2602と同軸上にボルトBの頭部を収容する凹部2604が形成されている。
そして、タイル26は、凹部2604に頭部が収容され軸部がボルト挿通孔2602に挿通されインサート金物Kに結合されたボルトBによりコンクリート壁14に取着されている。
なお、床にタイル壁24を設ける場合には、図12に示すように、モルタルMを用いてタイルを貼るようにしてもよい。この場合、モルタルMは、B4Cをボロン換算量で5×1020/ccから5×1022/cc含有している場合と、B4Cを含まない場合がある。
【0012】
なお、コンクリート壁14とタイル壁24からなる中性子遮蔽体22は、予め工場で一体に製造してもよく、または設置場所で一体としてもよい。
【0013】
タイル26の調合については上述のモルタルの場合と同様である。
【0014】
目地28には、公知のB4C樹脂(B4C含有量がボロン換算で5×1020/ccから5×1022/cc含むシリコン樹脂など)を用いる。
【0015】
第2の実施の形態による室内における低エネルギー中性子束の壁からの反射による低減率を検証すると次の通りである。
一次元輸送計算により、中心に線源があり、100cmの空気層+5cm厚のボロン入りタイル+1mの普通コンクリートの円体系で計算を行った。5cm厚のボロン入りタイルは、ボロンの含有量が原子数密度で1.4×1022/cc、1.4×1021/cc、1.4×1020/cc、そして普通コンクリートだけの場合の4ケースを検討した。その結果、室内における低エネルギー中性子束の壁からの反射による低減率は、普通コンクリートだけの場合に比べて、1.4×1022/ccで約1/20000、1.4×1021/ccで約1/600、1.4×1020/ccで約1/10の低減率であった。
したがって、第2の実施の形態に係る中性子遮蔽体24で加速器室あるいは測定室18を形成した場合、室内における低エネルギー中性子束を著しく低減できるので、低エネルギー中性子測定器の検出限界を著しく下げることができ、また低エネルギー中性子との核反応によって室内空気中に生成する放射性物質も著しく低減させることができる。
【0016】
(第3の実施の形態)
図3は、第3の実施の形態に係る中性子遮蔽体を用いて施工された加速器室あるいは測定室の断面図を示す。
第3の実施の形態に係る中性子遮蔽体32は、鋼板からなる鋼板壁34と、鋼板壁34にモルタルが塗られて形成されたモルタル壁16とを含んで構成されている。
床、天井、壁に対応した複数の中性子遮蔽体32により加速器室あるいは測定室18が形成され、加速器室あるいは測定室18の床面全域、天井面全域、壁面全域にモルタル壁16が臨んでいる。
鋼板壁34の厚さは、0.23cm〜23cmである。
鋼板壁34は一枚の鋼板で形成してもよく、あるいは複数枚の鋼板を重ねて形成してもよい。
鋼板として、例えば、一般構造用圧延鋼材(SS材)や溶接構造用圧延鋼材(SM材)などを用いることができる。
モルタル壁16およびこのモルタル壁16をなすモルタルの構成は、第1の実施の形態と同様である。
なお、鋼板壁34とモルタル壁16からなる中性子遮蔽体32は、予め工場で一体に製造してもよく、または設置場所で一体としてもよい。
【0017】
モルタルの調合は、第1の実施の形態と同様である。
【0018】
第3の実施の形態による室内における低エネルギー中性子束の壁からの反射による低減率を検証すると次の通りである。
一次元輸送計算により、中心に線源があり、100cmの空気層+5cm厚のボロン入りモルタル+1m厚の鋼板の円体系で計算を行った。5cm厚のボロン入りコンクリートは、ボロンの含有量が原子数密度で1.4×1022/cc、1.4×1021/cc、1.4×1020/cc、そして鋼板だけの場合の4ケースを検討した。その結果、室内における低エネルギー中性子束の壁からの反射による低減率は、鋼板だけの場合に比べて、1.4×1022/ccで約1/20000、1.4×1021/ccで約1/600、1.4×1020/ccで約1/10の低減率であった。
したがって、第3の実施の形態に係る中性子遮蔽体16で加速器室あるいは測定室18を形成した場合、室内における低エネルギー中性子束を著しく低減できるので、低エネルギー中性子測定器の検出限界を著しく下げることができ、また低エネルギー中性子との核反応によって室内空気中に生成する放射性物質も著しく低減させることができる。
【0019】
(第4の実施の形態)
図4は、第4の実施の形態に係る中性子遮蔽体を用いて施工された加速器室あるいは測定室の断面図を示す。
第4の実施の形態に係る中性子遮蔽体42は、鋼板からなる鋼板壁34と、鋼板壁34にタイル26がモルタルにより貼り付けられることで形成されたタイル壁24とを含んで構成されている。
床、天井、壁に対応した複数の中性子遮蔽体42により加速器室あるいは測定室18が形成され、加速器室あるいは測定室18の床面全域、天井面全域、壁面全域にタイル壁24が臨んでいる。
鋼板壁34の構成は第3の実施の形態と同様である。
タイル壁24およびタイル26の構成は、第2の実施の形態と同様である。
なお、鋼板壁34とタイル壁24からなる中性子遮蔽体42は、予め工場で一体に製造してもよく、または設置場所で一体としてもよい。
【0020】
タイル26の取り付けや調合あるいは目地28の調合は、第2の実施の形態と同様である。
【0021】
第4の実施の形態による室内における低エネルギー中性子束の壁からの反射による低減率を検証すると次の通りである。
一次元輸送計算により、中心に線源があり、100cmの空気層+5cm厚のボロン入りタイル+1mの鋼板の円体系で計算を行った。5cm厚のボロン入りタイルは、ボロンの含有量が原子数密度で1.4×1022/cc、1.4×1021/cc、1.4×1020/cc、そして鋼板だけの場合の4ケースを検討した。その結果、室内における低エネルギー中性子束の壁からの反射による低減率は、鋼板だけの場合に比べて、1.4×1022/ccで約1/20000、1.4×1021/ccで約1/600、1.4×1020/ccで約1/10の低減率であった。
したがって、第4の実施の形態に係る中性子遮蔽体24で加速器室あるいは測定室18を形成した場合、室内における低エネルギー中性子束を著しく低減できるので、低エネルギー中性子測定器の検出限界を著しく下げることができ、また低エネルギー中性子との核反応によって室内空気中に生成する放射性物質も著しく低減させることができる。
【0022】
次に、モルタル壁16やタイル壁24の内側にステンレス鋼板44を介在させた変形例について説明する。
(変形例1)
図5は、変形例1に係る中性子遮蔽体を用いて施工された加速器室あるいは測定室の断面図を示す。
変形例1に係る遮蔽体12Aは第1の実施の形態の中性子遮蔽体12のコンクリート壁14とモルタル壁16との間にステンレス鋼板44を介在させたものである。
すなわち、中性子遮蔽体12Aは、コンクリート壁14と、ステンレス鋼板44と、モルタル壁16とを含んで構成されている。
【0023】
(変形例2)
図6は、変形例2に係る中性子遮蔽体を用いて施工された加速器室あるいは測定室の断面図を示す。
変形例2に係る中性子遮蔽体22Aは、第2の実施の形態の中性子遮蔽体22のコンクリート壁14とタイル壁24との間にステンレス鋼板44を介在させたものである。
すなわち、中性子遮蔽体12Aは、コンクリート壁14と、ステンレス鋼板44と、タイル壁24とを含んで構成されている。
【0024】
(変形例3)
図7は、変形例3に係る中性子遮蔽体を用いて施工された加速器室あるいは測定室の断面図を示す。
変形例3に係る中性子遮蔽体32Aは、第3の実施の形態の中性子遮蔽体32の鋼板壁34とモルタル壁16との間にステンレス鋼板44を介在させたものである。
すなわち、中性子遮蔽体12Aは、鋼板壁34と、ステンレス鋼板44と、モルタル壁16とを含んで構成されている。この場合、鋼板壁34はステンレス鋼板以外の鋼板で構成されている。
【0025】
(変形例4)
図8は、変形例4に係る中性子遮蔽体を用いて施工された加速器室あるいは測定室の断面図を示す。
変形例4に係る中性子遮蔽体42Aは、第4の実施の形態の中性子遮蔽体42の鋼板壁34とタイル壁24との間にステンレス鋼板44を介在させたものである。
すなわち、中性子遮蔽体42Aは、鋼板壁34と、ステンレス鋼板44と、タイル壁24とを含んで構成されている。この場合、鋼板壁34はステンレス鋼板以外の鋼板で構成されている。
なお、変形例1乃至4において、ステンレス鋼板44の厚さは、0.3cm〜2.5cmである。
このようにステンレス鋼板44を介在させることで、定着安定性の点で有利となる。
また、変形例1乃至4の中性子遮蔽体12A、22A、32A、42Aは、予め工場で一体に製造してもよく、または設置場所で一体としてもよい。
【0026】
(変形例5)
図9は、変形例5に係る中性子遮蔽体を用いて施工された加速器室あるいは測定室の断面図を示す。
変形例5に係る中性子遮蔽体32Bは、図7に示した変形例3の鋼板壁34の外側にコンクリート壁14を加えたものである。
すなわち、中性子遮蔽体32Bは、コンクリート壁14と、鋼板壁34と、ステンレス鋼板44と、モルタル壁16とを含んで構成されている。
【0027】
(変形例6)
図10は、変形例6に係る中性子遮蔽体を用いて施工された加速器室あるいは測定室の断面図を示す。
変形例6に係る中性子遮蔽体42Bは、図8に示した変形例4の鋼板壁34の外側にコンクリート壁14を加えたものである。
すなわち、中性子遮蔽体42Bは、コンクリート壁14と、鋼板壁34と、ステンレス鋼板44と、タイル壁24とを含んで構成されている。
なお、変形例5、6において、コンクリート壁14の厚さは、10cm〜200cmであり、鋼板壁34の厚さは、0.23cm〜23cmであり、モルタル壁16の厚さやタイル壁24の厚さは実施の形態1乃至4と同様である。
変形例6、7の中性子遮蔽体32B、42Bも、予め工場で一体に製造してもよく、または設置場所で一体としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】第1の実施の形態に係る中性子遮蔽体を用いて施工された加速器室あるいは測定室の断面図である。
【図2】第2の実施の形態に係る中性子遮蔽体を用いて施工された加速器室あるいは測定室の断面図である。
【図3】第3の実施の形態に係る中性子遮蔽体を用いて施工された加速器室あるいは測定室の断面図である。
【図4】第4の実施の形態に係る中性子遮蔽体を用いて施工された加速器室あるいは測定室の断面図である。
【図5】変形例1に係る中性子遮蔽体を用いて施工された加速器室あるいは測定室の断面図である。
【図6】変形例2に係る中性子遮蔽体を用いて施工された加速器室あるいは測定室の断面図である。
【図7】変形例3に係る中性子遮蔽体を用いて施工された加速器室あるいは測定室の断面図である。
【図8】変形例4に係る中性子遮蔽体を用いて施工された加速器室あるいは測定室の断面図である。
【図9】変形例5に係る中性子遮蔽体を用いて施工された加速器室あるいは測定室の断面図である。
【図10】変形例6に係る中性子遮蔽体を用いて施工された加速器室あるいは測定室の断面図である。
【図11】(A)はタイル壁の正面図、(B)、(C)はそれぞれタイル壁の断面図である。
【図12】(A)はタイル壁の断面図、(B)はタイル壁の平面図である。
【符号の説明】
【0029】
12、22、32、42、12A、22A、32A、42A、32B、42B……中性子遮蔽体、14……コンクリート壁、16……モルタル壁、18……加速器室あるいは測定室、24……タイル壁、34……鋼板壁、44……ステンレス鋼板。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート壁と、
前記コンクリート壁にモルタルが塗られて形成されたモルタル壁とを含み、
前記モルタルは、B4Cをボロン換算量で5×1020/ccから5×1022/cc含有している、
ことを特徴とする中性子遮蔽体。
【請求項2】
コンクリート壁と、
前記コンクリート壁にタイルが貼られて形成されたタイル壁とを含み、
前記タイルは、B4Cをボロン換算量で5×1020/ccから5×1022/cc含有している、
ことを特徴とする中性子遮蔽体。
【請求項3】
前記タイルの複数箇所にボルト挿通孔が形成され、
前記タイルは、前記ボルト挿通孔に挿通されたボルトによりコンクリート壁に取着されている、
ことを特徴とする請求項2記載の中性子遮蔽体。
【請求項4】
前記タイルの複数箇所にボルト挿通孔および前記ボルト挿通孔と同軸上にボルトの頭部を収容する凹部が形成され、
前記タイルは、前記凹部に頭部が収容され前記ボルト挿通孔に軸部が挿通されたボルトによりコンクリート壁に取着されている、
ことを特徴とする請求項2記載の中性子遮蔽体。
【請求項5】
前記タイル壁は、複数のタイルと、それらタイルの間に設けられた目地を含んで構成され、
前記目地は、B4Cをボロン換算量で5×1020/ccから5×1022/cc含有している、
ことを特徴とする請求項2記載の中性子遮蔽体。
【請求項6】
前記コンクリート壁と前記モルタル壁との間にステンレス鋼板が介在している、
ことを特徴とする請求項1記載の中性子遮蔽体。
【請求項7】
前記コンクリート壁と前記タイル壁との間にステンレス鋼板が介在している、
ことを特徴とする請求項2記載の中性子遮蔽体。
【請求項8】
鋼板からなる鋼板壁と、
前記鋼板壁にモルタルが塗られて形成されたモルタル壁とを含み、
前記モルタルは、B4Cをボロン換算量で5×1020/ccから5×1022/cc含有している、
ことを特徴とする中性子遮蔽体。
【請求項9】
コンクリート壁と、
前記コンクリート壁に合わされた鋼板からなる鋼板壁と、
前記鋼板壁にモルタルが塗られて形成されたモルタル壁とを含み、
前記モルタルは、B4Cをボロン換算量で5×1020/ccから5×1022/cc含有している、
ことを特徴とする中性子遮蔽体。
【請求項10】
鋼板からなる鋼板壁と、
前記鋼板壁にタイルが貼られて形成されたタイル壁とを含み、
前記タイルは、B4Cをボロン換算量で5×1020/ccから5×1022/cc含有している、
ことを特徴とする中性子遮蔽体。
【請求項11】
コンクリート壁と、
前記コンクリート壁に合わされた鋼板からなる鋼板壁と、
前記鋼板壁にタイルが貼られて形成されたタイル壁とを含み、
前記タイルは、B4Cをボロン換算量で5×1020/ccから5×1022/cc含有している、
ことを特徴とする中性子遮蔽体。
【請求項12】
前記タイルの複数箇所にボルト挿通孔が形成され、
前記タイルは、前記ボルト挿通孔に挿通されたボルトにより鋼板壁に取着されている、
ことを特徴とする請求項10または11記載の中性子遮蔽体。
【請求項13】
前記タイルの複数箇所にボルト挿通孔および前記ボルト挿通孔と同軸上にボルトの頭部を収容する凹部が形成され、
前記タイルは、前記凹部に頭部が収容され前記ボルト挿通孔に軸部が挿通されたボルトにより鋼板壁に取着されている、
ことを特徴とする請求項10または11記載の中性子遮蔽体。
【請求項14】
前記タイル壁は、複数のタイルと、それらタイルの間に設けられた目地を含んで構成され、
前記目地は、B4Cをボロン換算量で5×1020/ccから5×1022/cc含有している、
ことを特徴とする請求項10または11記載の中性子遮蔽体。
【請求項15】
前記鋼板壁はステンレス鋼板以外の鋼板で構成され、
前記鋼板壁と前記モルタル壁との間にステンレス鋼板が介在している、
ことを特徴とする請求項8または9記載の中性子遮蔽体。
【請求項16】
前記鋼板壁はステンレス鋼板以外の鋼板で構成され、
前記鋼板壁と前記タイル壁との間にステンレス鋼板が介在している、
ことを特徴とする請求項10または11記載の中性子遮蔽体。
【請求項17】
請求項1乃至16に何れかに記載の中性子遮蔽体により形成された加速器室あるいは測定室。
【請求項1】
コンクリート壁と、
前記コンクリート壁にモルタルが塗られて形成されたモルタル壁とを含み、
前記モルタルは、B4Cをボロン換算量で5×1020/ccから5×1022/cc含有している、
ことを特徴とする中性子遮蔽体。
【請求項2】
コンクリート壁と、
前記コンクリート壁にタイルが貼られて形成されたタイル壁とを含み、
前記タイルは、B4Cをボロン換算量で5×1020/ccから5×1022/cc含有している、
ことを特徴とする中性子遮蔽体。
【請求項3】
前記タイルの複数箇所にボルト挿通孔が形成され、
前記タイルは、前記ボルト挿通孔に挿通されたボルトによりコンクリート壁に取着されている、
ことを特徴とする請求項2記載の中性子遮蔽体。
【請求項4】
前記タイルの複数箇所にボルト挿通孔および前記ボルト挿通孔と同軸上にボルトの頭部を収容する凹部が形成され、
前記タイルは、前記凹部に頭部が収容され前記ボルト挿通孔に軸部が挿通されたボルトによりコンクリート壁に取着されている、
ことを特徴とする請求項2記載の中性子遮蔽体。
【請求項5】
前記タイル壁は、複数のタイルと、それらタイルの間に設けられた目地を含んで構成され、
前記目地は、B4Cをボロン換算量で5×1020/ccから5×1022/cc含有している、
ことを特徴とする請求項2記載の中性子遮蔽体。
【請求項6】
前記コンクリート壁と前記モルタル壁との間にステンレス鋼板が介在している、
ことを特徴とする請求項1記載の中性子遮蔽体。
【請求項7】
前記コンクリート壁と前記タイル壁との間にステンレス鋼板が介在している、
ことを特徴とする請求項2記載の中性子遮蔽体。
【請求項8】
鋼板からなる鋼板壁と、
前記鋼板壁にモルタルが塗られて形成されたモルタル壁とを含み、
前記モルタルは、B4Cをボロン換算量で5×1020/ccから5×1022/cc含有している、
ことを特徴とする中性子遮蔽体。
【請求項9】
コンクリート壁と、
前記コンクリート壁に合わされた鋼板からなる鋼板壁と、
前記鋼板壁にモルタルが塗られて形成されたモルタル壁とを含み、
前記モルタルは、B4Cをボロン換算量で5×1020/ccから5×1022/cc含有している、
ことを特徴とする中性子遮蔽体。
【請求項10】
鋼板からなる鋼板壁と、
前記鋼板壁にタイルが貼られて形成されたタイル壁とを含み、
前記タイルは、B4Cをボロン換算量で5×1020/ccから5×1022/cc含有している、
ことを特徴とする中性子遮蔽体。
【請求項11】
コンクリート壁と、
前記コンクリート壁に合わされた鋼板からなる鋼板壁と、
前記鋼板壁にタイルが貼られて形成されたタイル壁とを含み、
前記タイルは、B4Cをボロン換算量で5×1020/ccから5×1022/cc含有している、
ことを特徴とする中性子遮蔽体。
【請求項12】
前記タイルの複数箇所にボルト挿通孔が形成され、
前記タイルは、前記ボルト挿通孔に挿通されたボルトにより鋼板壁に取着されている、
ことを特徴とする請求項10または11記載の中性子遮蔽体。
【請求項13】
前記タイルの複数箇所にボルト挿通孔および前記ボルト挿通孔と同軸上にボルトの頭部を収容する凹部が形成され、
前記タイルは、前記凹部に頭部が収容され前記ボルト挿通孔に軸部が挿通されたボルトにより鋼板壁に取着されている、
ことを特徴とする請求項10または11記載の中性子遮蔽体。
【請求項14】
前記タイル壁は、複数のタイルと、それらタイルの間に設けられた目地を含んで構成され、
前記目地は、B4Cをボロン換算量で5×1020/ccから5×1022/cc含有している、
ことを特徴とする請求項10または11記載の中性子遮蔽体。
【請求項15】
前記鋼板壁はステンレス鋼板以外の鋼板で構成され、
前記鋼板壁と前記モルタル壁との間にステンレス鋼板が介在している、
ことを特徴とする請求項8または9記載の中性子遮蔽体。
【請求項16】
前記鋼板壁はステンレス鋼板以外の鋼板で構成され、
前記鋼板壁と前記タイル壁との間にステンレス鋼板が介在している、
ことを特徴とする請求項10または11記載の中性子遮蔽体。
【請求項17】
請求項1乃至16に何れかに記載の中性子遮蔽体により形成された加速器室あるいは測定室。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−304303(P2008−304303A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−151399(P2007−151399)
【出願日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【出願人】(302060926)株式会社フジタ (285)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【出願人】(302060926)株式会社フジタ (285)
【Fターム(参考)】
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