説明

中性pH長寿命プレキャスト電気泳動ゲルのためのシステム

【課題】分離が中性pHで行われ、そしてタンパク質が完全に還元されたままである、ゲルおよびバッファーシステムを提供すること。
【解決手段】ゲル電気泳動のためのシステムであって、以下を包含する、システム:
2つの端部を有する電気泳動ゲル;該ゲルは、ゲルバッファー溶液で飽和されており;
該ゲルの一端は、アノードバッファー溶液と接触しており;
該ゲルの他端は、カソードバッファー溶液と接触しており;
該ゲルバッファー溶液は、pKが中性付近の一価有機アミンまたは置換アミンを含有し、約6と約7との間のpHにHClで滴定されており;
該カソードバッファーは、MOPS、MES、ACES、MOPSO、TES、HEPES、またはTAPSOからなる群から選択される両性イオンバッファーの溶液を含み、水酸化ナトリウムまたは有機塩基で約7のpHに滴定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル電気泳動のための技術に関する。より詳細には、本発明は、ほぼ中性pHでのゲル電気泳動のための新規なシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
ゲル電気泳動は、DNA、RNA、ポリペプチド、およびタンパク質のような生体分子を分離するための通常の手段である。ゲル電気泳動において、この分子は、かけられた電場により分子がフィルタリングゲル中を移動する割合によって、バンドに分離される。
【0003】
この技術を用いる基本的な装置は、ガラスチューブに封入された、あるいはガラスまたはプラスチックプレート間にスラブとして挟まれたゲルからなる。このゲルは、オープンモレキュラーネットワーク構造を有し、電気伝導性の緩衝化された塩の溶液で飽和されている細孔を規定している。ゲル中のこれらの細孔は、移動するマクロ分子が通過し得るのに十分に大きい。
【0004】
ゲルは、チャンバー中にバッファー溶液と接触するように置かれ、ゲルと電力供給源のカソードまたはアノードとの間を電気的に接触させる。マクロ分子および追跡用色素を含有するサンプルが、ゲルの一番上に置かれる。電位をゲルにかけると、サンプルのマクロ分子および追跡用色素は、ゲルの底に向かって移動する。電気泳動は、追跡用色素がゲルの末端に到達する直前に停止される。次いで、分離されたマクロ分子のバンドの位置が測定される。移動度が既知の追跡用色素およびマクロ分子と比べて、特定のバンドが移動した距離を比較することによって、他のマクロ分子の移動度が測定され得る。次いで、マクロ分子のサイズが計算され得る。
【0005】
ゲル中のマクロ分子の移動速度は、3つの主要なファクターに依存している:ゲルの多孔度;マクロ分子のサイズおよび形;そしてマクロ分子の電荷密度である。これらの3つのファクターが精密に制御され、ゲルごとならびにサンプルごとに再現性があるということが、効果的な電気泳動システムにとって重要である。しかし、ゲル間の均一性を維持することは困難である。なぜなら、これらのファクターのそれぞれは、ゲルシステムの化学における多くの変数に対して敏感であるからである。
【0006】
ポリアクリルアミドゲルが、通常、電気泳動に使用される。ポリアクリルアミドゲル電気泳動、言い換えればPAGEが一般的である。なぜなら、このゲルは、光学的に透明で、電気的に中性であり、そして孔径の範囲に応じて作製され得るからである。ポリアクリルアミドゲルの多孔度は、ゲルに含まれるアクリルアミドモノマーと架橋剤モノマーとの全パーセント(「%T」)によって、ある程度規定される。濃度が高ければ高いほど、ポリアクリルアミドマトリックスの鎖の間にある空間は小さくなり、従ってゲル中の細孔は小さくなる。8%ポリアクリルアミドゲルは、12%ポリアクリルアミドゲルよりも大きな細孔を有する。従って、8%ポリアクリルアミドゲルでは、所定の形状、サイズ、および電荷密度を有するマクロ分子は、より早く移動し得る。より小さいマクロ分子を分離する場合には、一般に、より小さな孔径を有するゲル(例えば、20%ゲル)を使用するのが好ましい。反対に、より大きなマクロ分子を分離するには、より大きな孔径を有するゲル(例えば、8%ゲル)がしばしば使用される。
【0007】
孔径はまた、ゲルを重合するために使用される架橋剤の量に依存する。任意の所定の全モノマー濃度における、ポリアクリルアミドゲルについての最小孔径は、全モノマーの架橋剤に対する比が約20:1である場合に得られる(この比は、通常「5%C」と表現さ
れる)。
【0008】
いくつかのファクターにより、ゲルの孔径において望ましくない変化が起こり得る。孔径は、製造の際の不完全なゲル重合により増大され得る。重合後のポリアクリルアミドゲルの加水分解は、固定負電荷を作りだし、そしてゲル中の架橋が分解され得る。これにより、分離能が低下し、そして孔径は増大する。理想のゲルシステムは、再現性のある孔径を有し、固定電荷を有しない(または、少なくとも一定量を有する)べきであり、そして化学的な特性の変化または加水分解に起因する孔径の変化に対して抵抗力があるべきである。
【0009】
マクロ分子のサイズは、種々のマクロ分子間で異なる;より小さく、よりコンパクトなマクロ分子であればあるほど、マクロ分子は所定のゲルの細孔中をより容易に移動することになる。一定の電荷密度ならば、マクロ分子の移動の速度は、そのサイズの対数に反比例する。
【0010】
正確で再現性のある電気泳動のためには、好ましくは一定のタイプのマクロ分子が、ゲルの単一の型について選択されるべきである。ゲル電気泳動の際にタンパク質の形の均一性の維持が困難であることの1つは、ジスルフィド結合が1対のシステインアミノ酸の酸化により形成され得るということである。タンパク質の異なる酸化形態は、次いで、異なる形状を有することとなり、それゆえ、ゲル中の移動は、わずかに異なる移動度を有する泳動となる(通常、完全に還元されたタンパク質よりも早くなる。なぜなら、最大ストークス半径および最小移動度が、完全に折りたたまれていない形態で起こるはずだからである)。不均一混合物の形態では、明らかにバンドはブロードになる。ジスルフィド結合の形成を防ぐためには、ジチオトレイトール(DTT)のような還元剤が、通常、泳動のためのサンプルに加えられる。
【0011】
移動する分子の電荷密度は、ゲル中の移動の速度に影響を及ぼす第3のファクターである。電荷密度が高ければ高いほど、より強い力が電場によってマクロ分子にかけられ、そしてサイズおよび形状の制限を条件とすると、移動速度がより早くなる。SDS−PAGE電気泳動において、マクロ分子の電荷密度は、ドデシル硫酸ナトリウム(「SDS」)を系に添加することによって制御される。SDS分子は、マクロ分子と会合し、そして均一の電荷密度を、分子固有の(innate)電荷の影響を実質的になくするようにマクロ分子に与える。
【0012】
SDS PAGEゲルは、通常、塩基性pHで注がれ、そして泳動される。タンパク質を分離するために使用される最も一般的なPAGEバッファーシステムは、Ornstein(1)によって開発されたもの、およびLaemmli(2)によってSDSとの使用のために改変されたものである。Laemmli,U.K.(1970)Nature
227,680−686。このLaemmliバッファーシステムは、分離ゲル中の、HClでpH8.8に滴定された0.375M Tris(トリス(ヒドロキシメチル)アミノ−メタン)からなる。スタッキングゲル(stacking gel)は、pH 6.8に滴定された、0.125M Trisからなる。アノードおよびカソード泳動バッファーは、0.024M Tris、0.192M グリシン、0.1% SDSを含む。別のバッファーシステムが、Schaeggerおよびvon Jagowによって開示されている。Schagger,H.およびvon Jagow,G.,Anal.Biochem.1987,166,368−379。スタッキングゲルは、HClでpH 8.45に滴定された、0.75M Trisを含む。分離ゲルは、HClでpH8.45に滴定された0.9M Trisを含む。カソードバッファーは、0.1M Tris、0.1M トリシン(Tricine)、0.1% SDSを含む。アノードバッファーは、HClでpH 8.9に滴定された、0.2M Trisを含む。これらのシステムの両方とも、Trisは、「共通イオン」であり、ゲル中およびアノードおよびカソードバッファー中に存在する。
【0013】
Laemmliシステムにおいて、スタッキングゲル中のトレーリング相(trailing phase)のpHは、約8.9である。分離ゲル中において、トレーリング相のpHは、約9.7である。このpHでは、中性pHにおいてよりも、タンパク質の第1級アミノ基は、未重合アクリルアミドと容易に反応し、チオール基はより酸化を受けて、ジスルフィドとなりやすく、あるいは未重合のポリアクリルアミドとの反応をより多く受け、そしてアクリルアミド自身は加水分解を受ける。
【0014】
均一性および予測性の必要性は、プレキャスト電気泳動ゲル(外部の業者によって製造され、次いで電気泳動が行われる研究室に輸送される)においては大きくなる。プレキャストゲルは、上述した特性をコントロールしなければならず、そしてこれらは、輸送および貯蔵を通じてこのコントロールが保持され得なければならない。多くのプレキャストゲルの寿命は、ゲルバッファーの高pHで保存される間のアクリルアミドの加水分解についての可能性によって制限される。
【0015】
ポリアクリルアミドゲルが加水分解により分解を受け、そして寿命が制限されるということが、高pHゲルの欠点である。
【0016】
タンパク質が、未重合アクリルアミドと容易に反応し、そのことによりペプチド配列決定のようなタンパク質の次の分析の妨げとなり得ることも、高pHゲルのさらなる欠点である。
【0017】
チオール基が、ジスルフィドまで酸化を受け、そのことにより分離したマクロ分子の分離能を低下させることも、高pHゲルのさらなる欠点である。
【非特許文献1】Laemmli,U.K.(1970)Nature 227,680−686
【非特許文献2】Schagger,H.およびvon Jagow,G.,Anal.Biochem.1987,166,368−379
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、未重合アクリルアミドとのタンパク質の反応を減らし、それにより収率および分離能を高める、中性ゲルシステムを作製することである。
【0019】
本発明のさらなる目的は、遊離チオール基からのジスルフィドの形成を防ぎ、それにより収率および分離能を高める、中性ゲルシステムを作製することである。
【0020】
本発明のさらなる目的は、加水分解によるポリアクリルアミドゲルの分解を減少し、それによりプレキャストゲルの有用である寿命を増加させる、中性ゲルシステムを作製することである。
【0021】
本発明に従って、出願人は、分離が中性pHで行われ、そしてタンパク質が完全に還元されたままである、ゲルおよびバッファーシステムを記載する。本発明の上記および他の目的ならびに利点は、以下の詳細な説明を考慮することにより明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0022】
(発明の要旨)
1つの局面において、本発明は、ゲル電気泳動のためのシステムを提供する。このシステムは、以下を包含する:
2つの端部を有する電気泳動ゲル;該ゲルは、ゲルバッファー溶液で飽和されており;
該ゲルの一端は、アノードバッファー溶液と接触しており;
該ゲルの他端は、カソードバッファー溶液と接触しており;
該ゲルバッファー溶液は、pKが中性付近の一価有機アミンまたは置換アミンを含有し、約6と約7との間のpHにHClで滴定されており;
該カソードバッファーは、MOPS、MES、ACES、MOPSO、TES、HEPES、またはTAPSOからなる群から選択される両性イオンバッファーの溶液を含み、水酸化ナトリウムまたは有機塩基で約7のpHに滴定されている。
【0023】
1つの実施形態において、上記一価有機アミンは、Bis−Trisである。
【0024】
好ましい実施形態において、上記ゲルは、ポリアクリルアミドゲルである。
【0025】
より好ましい実施形態において、上記カソードバッファー溶液は、亜硫酸塩を含む。
【0026】
より好ましい実施形態において、上記カソードバッファー溶液は、負に荷電したチオールを含む。
【0027】
より好ましい実施形態において、上前記カソードバッファー溶液は、TGAを含む。
【0028】
より好ましい実施形態において、上前記アノードバッファーは、TRISを含む。
【0029】
別の局面において、本発明は、ゲル電気泳動のためのシステムを提供する。このシステムは、以下を包含する:
2つの端部を有するプレキャストポリアクリルアミド電気泳動ゲル;
該ゲルは、ゲルバッファー溶液で飽和されており;
該ゲルの一端は、アノードバッファー溶液と接触しており;
該ゲルの他端は、カソードバッファー溶液と接触しており;
該ゲルバッファー溶液は、約6と約7との間のpHにHClで滴定されたBis−Trisを含み;
該カソードバッファーは、MOPS、MES、ACES、MOPSO、TES、HEPES、またはTAPSOからなる群から選択される両性イオンバッファーの溶液を含み、水酸化ナトリウムまたは有機塩基で約7のpHに滴定されている。
【0030】
1つの実施形態において、上記アノードバッファーは、TRISを含む。
【0031】
別の実施形態において、上記カソードバッファーは、亜硫酸塩を含む。
【0032】
別の実施形態において、上記カソードバッファーは、負に荷電したチオールを含む。
【0033】
別の実施形態において、上記カソードバッファーは、TGAを含む。
【0034】
別の局面において、本発明は、ゲル電気泳動のためのシステムを提供する。このシステムは、以下を包含する:
2つの端部を有するプレキャストポリアクリルアミド電気泳動ゲル;
ここで、該ゲルは、ゲルバッファー溶液で飽和されており;
該ゲルの一端は、アノードバッファー溶液と接触しており;
該ゲルの他端は、カソードバッファー溶液と接触しており;
該ゲルバッファー溶液は、一価有機アミンまたは置換アミンを含有し、そして 該カソードバッファーは、亜硫酸塩を含む。
【0035】
(発明の詳細な説明)
出願人は、分離が中性pHで行われそしてタンパク質が完全に還元されたままである、ゲルおよびバッファーシステムを記載する。好都合なことに、この中性pHでは、タンパク質の第1級アミノ基は、未重合アクリルアミドと容易に反応することがより少ない。なぜなら、タンパク質のアミノ基のプロトン化は、アクリルアミドまたは他の関連したブロッキング剤に対する、これらの反応性を非常に減少させるためである。さらに、この中性pHにおいて、チオール基は、より高いpHにおいてよりも酸化を受けにくく、そしてポリアクリルアミド自身も、より加水分解を受けにくい。
【0036】
その結果、ゲルマトリックスおよびストック溶液の改良された安定性を有するゲルシステムとなる。このシステムに従って調製されるゲルは、冷却下で1年を越える期間、アクリルアミドの加水分解に起因する性能の損失なしに、貯蔵され得る。また、還元剤を有していないストックバッファー、および重合開始剤を有していないストックゲル溶液は、少なくとも数週間、室温で、性能の損失なく貯蔵され得る。さらなる利益は、単一のゲルの手法(スタッキングおよび分離ゲルのために同じバッファーを使用する)が、2つの異なるランニングバッファーを用いて使用され、2つの分離システムが提供され得ることである。この特徴を用いると、例えば、8%ゲルで、2〜200kDaの範囲のタンパク質の分離をカバーし得る。
【0037】
本発明の1つの実施態様において、約3%と約25%(%T)との間のアクリルアミドのポリアクリルアミドゲルは、ゲルバッファーを用いて、約1%〜約6%の架橋剤(%C)を用いて重合される。このゲルバッファーは、中性近くのpKを有する第1級有機アミンまたは置換アミンを含み、約半分(モル基準で)のHClで滴定されており、その結果、該バッファーのpHがほぼ中性である。好ましい実施態様において、このゲルは、HClで滴定された、ビス−トリス[ビス−(2−ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン]を含むゲルバッファーを用いて、約2%〜約5%の架橋剤(%C)を用いて重合される。異なる分離特性が、MOPS(3−[N−モルホリノ]プロパンスルホン酸)またはMES(2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸)バッファーのいずれかを用いて、ゲルを泳動することによって得られ得る。2mM〜10mM TGAまたは2mM〜10mM 重亜硫酸ナトリウムが、ランニングバッファーに添加され、電気泳動の際のゲルにおける還元環境を保持する。この実施態様および他の実施態様は、以下の例示および比較の実施例を参照することによって理解され得る。
【実施例】
【0038】
(実施例)
Bis−Tris、MES、およびMOPSを、Sigma(St.Louis,MO)またはResearch Organics(Cleveland,Ohio)から購入した。チオグリコール酸(TGA)、DTT、およびメルカプトエタノール(BME)をSigmaから購入した。全ての他の薬品は、標準的な供給元からの「極めて純粋な(ultra pure)」または「電気泳動用」の試薬であった。ゲルを、Novex(San Diego CA)製の1mm厚のミニゲルカセットにキャストし、そしてNovexミニセルで流した(run)。
【0039】
Bis−Tris分離ゲルおよびスタッキングゲルを、30%T/2.5%Cアクリルアミド/BISストック溶液および7X Bis−Trisストック溶液(2.5M Bis−Tris,1.5M HCl、pH 6.5)から調製した。分離ゲルを調製するために、ストック溶液を超純水とブレンドして、最終濃度を8%T、0.357M Bis−Trisにし、これに0.2μl/ml テメド(temed)を添加した。脱気後、2.0μl/mlのAPSの10%溶液を添加し、ゲルをすぐにカセットに注ぎ、次いで水でオーバーレイした。重合を室温で少なくとも30分間続け、水を除去し、4%スタッキングゲルをのせた。このスタッキングゲルは、得られる最終濃度が4%Tであり、temed濃度を0.4μl/mlまで増加させ、そしてAPSを5.0μl/mlまで増加させたことを除いて、分離ゲルと同じ様式で調製した。
【0040】
MOPSランニングバッファーは、50mM MOPS、50mM Bis−Tris(またはTRIS)、0.1% SDS、1mM EDTAからなっていた。MESランニングバッファーは、50mM MES、50mM Bis−Tris(またはTRIS)、0.1% SDS、1mM EDTAからなっていた。サンプルバッファー(2X)は、0.25M Bis−Tris、0.15M HCl、10%(w/v)グリセロール、2% SDS、1mM EDTA、0.03% Serva Blue G、および200mM DTTからなっていた。タンパク質標準のセットを含有するサンプルを、適用前に15分間70度で加熱した。ウシ血清アルブミン(BSA)、鶏卵オバルブミン、アルキル化インシュリンAおよびB鎖、大豆トリプシンインヒビター、およびウシ赤血球炭酸脱水酵素が、この標準に含まれていた。サンプル容量は、全ての場合において5μlであった。
【0041】
(実施例1)
タンパク質標準を、還元剤の非存在下でMOPSランニングバッファーを用いて8% Bis−Trisゲル上で分離した。得られた分離パターンは、追跡用色素とともにスタック(stack)中に残っているタンパク質20,000およびそれより小さい残存物について、8% TRIS/グリシンゲル(Laemmli)上で得られたものと非常に類似していた。BSAバンドはいくぶん拡散し、そしてアノードの方にシフトした。オバルブミンのバンドもまた、いくぶん拡散した。
【0042】
(実施例2)
タンパク質標準を、カソードバッファー中のTGAの存在下、MOPSランニングバッファーを用いて8% Bis−Trisゲル上で分離した。これについても、分離パターンは、追跡用色素とともにスタック中に残っているタンパク質20,000およびそれより小さな残存物について、8% TRIS/グリシンゲル(Laemmli)上で得られたものと非常に類似していた。カソードバッファー中、還元剤である5mM TGAの存在により、タンパク質BSAおよびオバルブミンのより良好な分離が、TGAなしのゲル泳動と比較して提供された。
【0043】
(実施例3)
タンパク質標準を、カソードバッファー中の重亜硫酸ナトリウムの存在下、MOPSランニングバッファーを用いて8% Bis−Trisゲル上で分離した。これについても、分離パターンは、追跡用色素とともにスタック中に残っているタンパク質20,000およびそれより小さな残存物について、8% TRIS/グリシンゲル(Laemmli)上で得られたものと非常に類似していた。カソードバッファー中、還元剤である5mM 重亜硫酸ナトリウムの存在により、タンパク質BSAおよびオバルブミンのより良好な分離が、重亜硫酸ナトリウムなしのゲル泳動と比較して提供された。
【0044】
(実施例4)
タンパク質標準を、還元剤の非存在下でMESランニングバッファーを用いて8% Bis−Trisゲル上で分離した。タンパク質の分離は、12% TRIS/トリシン(Schaegger)ゲルから得られたものと非常に類似していた。全てのタンパク質は、インシュリンAおよびB鎖(それぞれ、3500および2500ダルトン)を含むスタックから分かれた。ゲルをTGAなしで泳動する場合には、大豆トリプシンインヒビターは、より目立ったダブレットを有していた。
【0045】
(実施例5)
タンパク質標準を、カソードバッファー中のTGAの存在下で、Bis−Tris/MESランニングバッファーを用いて8% Bis−Tris/Clゲル上で分離した。これについても、全てのタンパク質は、インシュリンAおよびB鎖(それぞれ、3500および2500ダルトン)を含むスタックから分かれた。カソードバッファー中の還元剤である5mM TGAの存在により、タンパク質大豆トリプシンインヒビターのより良好な分離が提供された。炭酸脱水酵素は、試験された全ての条件下で、引き締まって鋭いバンドとして泳動した。
【0046】
(実施例6)
タンパク質標準を、カソードバッファー中の重亜硫酸ナトリウムの存在下で、Bis−Tris/MESランニングバッファーを用いて8% Bis−Tris/Clゲル上で分離した。これについても、全てのタンパク質は、インシュリンAおよびB鎖(それぞれ、3500および2500ダルトン)を含むスタックから分かれた。カソードバッファー中の還元剤である5mM 重亜硫酸ナトリウムの存在により、タンパク質大豆トリプシンインヒビターのより良好な分離が提供された。炭酸脱水酵素は、試験された全ての条件下で、引き締まって鋭いバンドとして泳動した。
【0047】
得られるシステムは通常使用されるLaemmliおよびSchaeggerゲルシステムに類似した分離特性を有しているので、MESおよびMOPSが望ましいランニングバッファーとして選択されるが、所定の範囲のバッファーは、このシステムの使用に適切であるこということが見出された。良好な結果を提供するさらなるバッファーには、ACES([N−(2−アセトアミド)]−2−アミノエタンスルホン酸)、MOPSO(2−[N−モルホリノ]−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸)、TES(N−トリス−(ヒドロキシメチル)−2−エタンスルホン酸)、BES(N,N−ビス−(ヒドロキシエチル)−2−アミノエタンスルホン酸)、HEPES(N−2−ヒドロキシエチル−ピペラジン−n−2−エタンスルホン酸)、TAPSO(3−(N−トリス−(ヒドロキシメチル)メチルアミノ)−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸)がある。
【0048】
TGAも重亜硫酸ナトリウムも存在しない泳動の場合にバンドのブローディングおよび/または移動度のシフトをいくらか示す全てのタンパク質は、共通して、複数のシステイン(例えば、BSAは35個のシステインを有する)を含む組成を有する。一方、いつもきれいに泳動する炭酸脱水酵素は、システインを有していない。さらに、還元されたタンパク質が泳動前にアルキル化される場合にも、これらは、還元剤の非存在下でさえ鋭い均一なバンドとして泳動する。
【0049】
システイン含有タンパク質は、サンプルバッファー中に100mM メルカプトエタノールまたはDTTを含むがランニングバッファー中にTGAを含まないものを用いて泳動した場合には、一般に中性のシステムよりもLaemmliシステムにおいて、より鋭いバンドとなるようである。pHが増加するにつれてチオールがより酸化されやすくなるので、pHのより高いLaemmliシステムでは、少なくとも中性pHシステムにおいて言われているのと同じぐらいにはジスルフィドの酸化が起こることが予測され得る。しかし、DTTおよび類似の「中性」チオール還元剤は、弱酸(pKaは約pH8〜9)である。従って、塩基性pHでは、これらの還元剤はゲル中に移動し、そして十分な濃度で存在する場合には、スルフヒドリルの酸化に対していくらかの保護を提供する。中性の分離pHにおいては、サンプルバッファーからのDTTは荷電していない形態であり、そしてサンプルウェル中に残る。従って、還元剤はゲル中に移動しない。
【0050】
中性pHでの電気泳動の際にタンパク質の還元形態を保持するためには、中性pHでゲル中に移動する還元剤を使用することが有利であることが見出された。重亜硫酸ナトリウム(2〜10mM)が、電気泳動の際にゲル中の還元環境を保持することが見出された。十分に還元されたTGA(または同様に負に荷電したチオール)も、同様の濃度で同様の結果を与える。しかし、部分酸化されたTGAは、タンパク質チオールの部分酸化を促進する。タンパク質チオールの還元(酸化)はジスルフィド交換により起こるので、該タンパク質中における還元チオールの酸化チオールに対する比は、実質的に、TGA中の還元チオールの酸化チオールに対する比を反映する。反対に、スルファイトは、スルフェートまで酸化し、ゲルにおいて見られる条件下での酸化還元反応には参加しない。それゆえ、スルファイトの部分酸化生成体におけるスルファイト/スルフェート比にかかわらず、十分なスルファイトが残存する限り、タンパク質はチオール酸化に対して保護される。
【0051】
TRISが、分離の品質において明らかな影響を及ぼすことなく、ランニングバッファー中のBis−Trisの代わりとなり得ることがまた見出された。タンパク質を意図的に分離後に改変する場合には、Bis−Trisが好適であり得る。Bis−Trisは第3級アミンであり、そして第1級アミンと反応するタンパク質改変剤とは干渉しない。しかし、TRISが、ルーチンの使用には好ましい選択である。なぜなら、Bis−Trisよりも明らかに低い費用で入手可能であるからである。
【0052】
本発明を好ましい実施態様について説明してきたが、それらの種々の改変は当業者にとっては明らかであることが理解されるべきである。上記の開示は、本発明を限定するようには意図または解釈されず、またはそうでなくとも、あらゆる上記の他の実施態様、適用、変形、および等価の改変を排除するようにも意図または解釈されず、本発明は、ここに添付した請求の範囲およびそれらの等価のものによってのみに限定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実施例に記載の方法。

【公開番号】特開2006−177986(P2006−177986A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−89526(P2006−89526)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【分割の表示】特願2004−66437(P2004−66437)の分割
【原出願日】平成7年3月29日(1995.3.29)
【出願人】(502221282)インヴィトロジェン コーポレーション (113)